説明

車両用駆動力制御装置

【課題】 電動モータの出力を従駆動輪に伝達するための伝達路に介挿された電磁クラッチを締結する際に、電動モータのモータ軸に生じるトルク変動を低減する。
【解決手段】 スリップが生じたときに電動モータ3を最大トルクで駆動する。このとき、スリップ発生時の後輪速度を予測し、この後輪速度を電動モータ3の回転数相当に変換した後輪速相当値よりも大きな値を目標回転数Vm*とし、電動モータ3をこの目標回転数Vm*まで上昇させた後、電動モータ3への電圧供給を停止しフリーラン状態とする。フリクション等により低下する電動モータ3の回転数と、実際の後輪速相当値とが同等となったとき、電磁クラッチ10を締結させる。フリーラン状態の電動モータ3にはトルクが発生していないから、この状態で電磁クラッチ10を締結させることにより電動モータ3のモータ軸に生じるトルク変動を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主駆動輪をエンジン等の主駆動源で駆動し、4輪駆動状態では従駆動輪をモータ等の副駆動源で駆動するようにした車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪をエンジンで駆動し、後輪をモータで駆動可能とし、モータから後輪軸までのトルク伝達経路にクラッチや減速機が介挿された車両用駆動力制御装置として、例えば特許文献1に記載されているものがある。
この特許文献1に記載される従来技術は、エンジンの回転エネルギにより発電機を駆動し、これによって発電された電力を動力源としてモータにより従駆動輪を駆動するようにした、いわゆる電動式4輪駆動車両であって、4輪駆動車両とするためのスイッチが入力された状態で、前後輪の速度差が発生していない場合等、4輪駆動車両とする必要のない状態では前記スイッチの操作に関わらず2輪駆動状態とすることによって、従駆動輪を駆動するための機構で発生するロスを低減し、エンジン負荷の軽減を図り、発進性能等を向上させるようにしている。
【特許文献1】特開平14−300701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、2輪駆動状態で発進した後4輪駆動状態に移行する場合、2輪駆動状態で発進した後は、従駆動輪は主駆動輪に引きずられて回転を始めているが、このときモータは回転していないため、この状態でクラッチを締結状態に制御して、モータの出力トルクを後輪軸に伝達するようにした場合、その締結方法によっては、締結ショックが発生する場合がある。これを回避するために、一般に、モータ及び従駆動輪それぞれの回転数を合わせて締結するようにしている。
【0004】
しかしながら、回転数一定制御によりモータを駆動させ、単にモータ及び従駆動輪の回転数を合わせて締結しただけでは、締結時にモータの負荷が急に加わることになってモータ軸のトルク変動が発生し、そのショックがドライバに不快感を与えるという問題がある。
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであって、クラッチ締結時の締結ショックをより緩和することの可能な車両用駆動制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用駆動制御装置は、クラッチを締結する際に、クラッチが非締結状態にあるときに電動機を駆動し、このとき、電動機により駆動される従駆動輪の回転速度を前記電動機の回転数相当の値に変換した電動機回転数相当値よりも、電動機の回転数の方が大きくなるように駆動し、電動機の回転数が従駆動輪の電動機回転数相当値よりも大きくなったとき、電動機への電源供給を停止して電動機をフリーラン状態とする。
【0006】
そして、フリクション等により電動機の回転数が減少し、電動機の回転数と前記従駆動輪の電動機回転数相当値とが同等となったとき、前記クラッチを締結させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用駆動制御装置は、クラッチを締結する際に電動機を駆動し、このとき、この電動機を、従駆動輪の回転速度を前記電動機の回転数相当の値に変換した電動機回転数相当値よりも前記電動機の回転数が大きくなるように駆動した後、フリーラン状態にし、その後電動機の回転数と前記従駆動輪の電動機回転数相当値とが同等となったときにクラッチを締結するようにしたから、電動機がフリーラン状態であって電動機にトルクが発生していない状態でクラッチを締結することになり、クラッチ締結に伴い電動機の回転軸に生じるトルク変動を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明による車両用駆動力制御装置が搭載された車両の一例を示す概略構成図であって、前輪1FL、1FRをエンジン2で駆動する主駆動輪とし、後輪1RL、1RRを電動モータ3で駆動可能な従駆動輪とする所謂スタンバイ型の4輪駆動車両である。
エンジン2の出力は、トルクコンバータを有するオートマチックトランスアクスル4を介して前輪1FL、1FRに伝達されると共に、Vベルト6を介してジェネレータ7に伝達される。ジェネレータ7は、Vベルト6を介して伝達された動力によって発電を行い、発電した電力はパワーケーブル8を通じて電動モータ3へ直接供給される。この電動モータ3の出力は、減速機9、電磁クラッチ10、及びディファレンシャルギヤ11を順に介して後輪1RL、1RRに伝達される。
【0009】
ここで、エンジン2の出力は、吸気管路12(例えば、インテークマニホールド)に設けられたスロットルバルブ13の開度を制御するエンジンコントローラ14によって制御される。具体的には、アクセルセンサ15で検出されるアクセルペダル16の操作量に応じて、スロットルバルブ13に連結されたスロットルモータ17の回転角を制御している。
【0010】
また、ジェネレータ7は、図2に示すように、発電電圧Vを調整するトランジスタ式のレギュレータ20を備えており、このレギュレータ20が4WDコントローラ19からの発電制御指令に応じて界磁電流Igを制御することによりジェネレータ7の発電電圧Vが制御される。
また、パワーケーブル8の途中に設けられたジャンクションボックス21には、メインリレー22と電流センサ23とが設けられている。メインリレー22は、4WDコントローラ19からのリレー制御指令に応じて電動モータ3に対する電力供給のON/OFFを行い、電流センサ23は、電動モータ3へ通電される電機子電流Iaを検出し4WDコントローラ19に出力する。さらに、ジャンクションボックス21では、内蔵されたモニタ回路により、ジェネレータ7による発電電圧Vと、モータ誘起電圧Eとが検出され4WDコントローラ19に出力される。
【0011】
前記電動モータ3は、例えば他励式直流モータで構成され、モータコントローラ18からのモータ制御指令に応じて界磁電流Imが制御されることにより、駆動トルクTmが制御される。前記モータコントローラ18は、4WDコントローラ19からの指令に応じて動作するようになっている。そして、電動モータ3は、内蔵されたサーミスタ24によりモータ温度が検出されると共に、モータ回転センサ25によりモータ回転数Nmが検出されており、各検出信号がモータコントローラ18に出力される。
【0012】
また、電磁クラッチ10は、例えば湿式多板型のクラッチで構成され、4WDコントローラ19からのクラッチ制御指令に応じて励磁電流の通電が制御されることにより、動力伝達経路の断続が制御される。
なお、4WDコントローラ19には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ26、スロットルバルブ13のスロットル開度θを検出するスロットルセンサ27及び各車輪速VwFL〜VwRRを検出する車輪速センサ28FL〜28RRの各検出信号も入力される。
【0013】
また、前記エンジンコントローラ14、モータコントローラ18及び4WDコントローラ19は、それぞれ例えば、マイクロコンピュータ等で構成されている。
次に、前記4WDコントローラ19で実行される4WD制御処理を図3のフローチャートに基づいて説明する。
この4WD制御処理は、所定時間(例えば10〔msec〕)毎に実行され、図3に示すように、エンジン2に対するジェネレータ7の目標負荷トルクTg*を演算するステップS1の負荷トルク演算処理と、目標負荷トルクTg*を制限するステップS2の負荷トルク制限処理と、電磁クラッチ10の断続を制御するステップS3のクラッチ制御処理と、目標負荷トルクTg*に基づいてジェネレータ7の発電を制御すると共に、電動モータ3を駆動制御するステップS4のG/M制御処理と、を順次実行する。なお、電動モータ3を駆動する際には、メインリレー22を通じて電動モータ3に電力が供給されているものとする。
【0014】
ここで、上記ステップS1の負荷トルク演算処理では、図4に示すように、まずステップS100で、主駆動輪としての前輪1FL、1FRのスリップ速度ΔVFを算出する。
このスリップ速度ΔVFは、例えば下記(1)式に示すように、前輪1FL、1FRの平均車輪速Vwfから、後輪1RL、1RRの平均車輪速Vwrを減じて算出する。
Vwf=(VwFL+VwFR)/2
Vwr=(VwRL+VwRR)/2
ΔVF=Vwf−Vwr ……(1)
続くステップS101では、スリップ速度ΔVFが予め設定したしきい値ΔVthよりも大きいか否かを判定する。このしきい値ΔVthは零よりも大きな値に設定され、前輪が加速スリップしており、4輪駆動状態で走行させる必要がある状態と判断することの可能な値に設定される。この判定結果がΔVF≦ΔVthであるときには、前輪1FL、1FRは加速スリップしていないと判断し、ステップ102に移行し、エンジン2に対するジェネレータ7の目標負荷トルクTg*を“0”に設定して負荷トルク演算処理を終了する。
【0015】
一方、判定結果がΔVF>ΔVthであるときには、前輪1FL、1FRが加速スリップしていると判断してステップS103に移行する。
このステップS103では、下記(2)式に示すように、前輪1FL、1FRの加速スリップを抑えるために必要なジェネレータ7の負荷トルク増加分ΔTgを、スリップ速度ΔVFから算出する。ここで、K1は係数である。
【0016】
ΔTg=K1・ΔVF ……(2)
続くステップS104では、下記(3)式から、ジェネレータ7の現在の負荷トルクTgを算出する。ここで、Vはジェネレータ7の発電電圧、Iaは電機子電流、Ngはジェネレータ7の回転数、K2は係数、K3は効率である。なお、ジェネレータ7の回転数Ngは、エンジン回転数Neにプーリ比を乗じて算出する。
【0017】
Tg=K2×V×Ia/(K3×Ng) ……(3)
続くステップS105では、下記(4)式に示すように、エンジン2に対するジェネレータ7の目標負荷トルクTg*を算出して負荷トルク演算処理を終了する。
Tg*=Tg+ΔTg ……(4)
次に、前記ステップS2の負荷トルク制限処理では、図5に示すように、まずステップS200で、前記ステップS1で算出した目標負荷トルクTg*がジェネレータ7の容量で定まる最大負荷トルクTgMAXより大きいか否かを判定する。この判定結果がTg*>TgMAXであるときには、ステップS201に移行して目標負荷トルクTg*を最大負荷トルクTgMAXに制限してからステップS202に移行する。一方、判定結果がTg*≦TgMAXであるときには、そのままステップS202に移行する。
【0018】
ステップS202では、図6に示すような制御マップを参照し、エンジン回転数Neをパラメータとしてスロットル開度θから現在のエンジントルクTeを算出する。なお、図6において、横軸は、スロットル開度θ、縦軸はエンジントルクTeであって、スロットル開度θが大きいときほどエンジントルクTeは大きな値に設定され、且つ、エンジン回転数Neが大きいときほどエンジントルクTeは小さな値に設定される。
【0019】
続くステップS203では、下記(5)式に示すように、エンジン2を停止させることなくエンジントルクTeを低減できる低減許容トルクTdropを算出する。ここで、TeMINはエンジン2を運転し続けるのに必要な最低限度のエンジントルクであり、エンジン回転数Ne等から算出してもよいし、所定値としてもよい。
Tdrop=Te−TeMIN ……(5)
続くステップS204では、目標負荷トルクTg*が低減許容トルクTdropより大きいか否かを判定する。この判定結果がTg*>Tdropであるときには、ステップS205に移行して目標負荷トルクTg*を低減許容トルクTdropに制限してからステップS206に移行する。なお、目標負荷トルクTg*を、低減許容トルクTdropから所定値αを減じた値(=Tdrop−α)に制限して余裕を持たせてもよい。一方、判定結果がTg*≦Tdropであるときには、そのままステップS206に移行する。
【0020】
ステップS206では、図7に示すような制御マップを参照し、ベルトスリップが発生するVベルト6の伝動トルク上限値Tslipをエンジン回転数Neに応じて算出する。ここで、図7の制御マップでは、エンジン回転数Neが高くなるにつれて、伝動トルク上限値Tslipが段階的に小さくなるように設定されている。
続くステップS207では、目標負荷トルクTg*が伝動トルク上限値Tslipよりも大きいか否かを判定する。この判定結果がTg*>Tslipであるときには、ステップS208に移行して目標負荷トルクTg*を伝動トルク上限値Tslipに制限してから負荷トルク制限処理を終了する。一方、判定結果がTg*≦Tslipであるときには、そのまま負荷トルク制限処理を終了する。
【0021】
次に、前記ステップS3のクラッチ制御処理では、図8に示すように、まずステップS300で、電磁クラッチ10が締結状態であるかどうかを表す締結フラグFcが“1”であるか否かを判断する。
なお、この締結フラグFcは、Fc=1のときに電磁クラッチ10が締結状態であることを示し、Fc=0のときに電磁クラッチ10が非締結状態であることを示す。
【0022】
そして、締結フラグFcが“1”でないとき、すなわち、電磁クラッチ10が非締結状態であって2輪駆動状態であるときには、ステップS301に移行し、前輪と後輪との間に回転数差が発生したかどうかを表す前後輪差フラグF0が“1”であるかどうかを判断し、前後輪差フラグF0が“0”であるときにはステップS302に移行し、前輪及び後輪間に回転数差が発生したかどうかを判断する。具体的には、例えば前記図4のステップS100で算出した前輪1FL、1FRのスリップ速度ΔVFの前回値が零であり、且つ今回値が零より大きいかどうかに基づいて判断する。
【0023】
そして、前後輪に車輪速差が発生していない場合には後述のステップS311に移行するが、前後輪に車輪速差が発生している場合にはステップS303に移行する。そして、前後輪差フラグF0を“1”に設定し、この時点における従駆動輪の車輪速度すなわち後輪の車輪速度Vwrを、回転速度差発生時における従駆動輪速度V0として記憶した後ステップS304に移行し、回転速度差発生時から現時点までの経過時間δt及び従駆動輪速度の変化量δVrを算出する。具体的には、前記回転速度差発生時における従駆動輪速度V0と現時点における従駆動輪速度Vwrとの差V0−Vwrを算出し、これを従駆動輪速度の変化量δVrとする。
【0024】
次いで、ステップS305に移行し、前後輪の車輪速差が零となったかどうかを判断する。すなわち、前記ステップS100で算出した前輪1FL、1FRのスリップ速度ΔVFが略零であるかどうかを判断する。
そして、スリップ速度ΔVFが略零であるときにはステップS306に移行し前後輪差フラグF0を“0”に設定した後、後述のステップS311に移行する。一方、ステップS305でスリップ速度ΔVFが略零でないときにはステップS307に移行し、主駆動輪つまり前輪がスリップしているかどうかを判断する。すなわち、前記ステップS100で算出した前輪FL、1FRのスリップ速度ΔVFが、前輪側がスリップしており4輪駆動状態で駆動する必要のある状態であると判断するしきい値ΔVthよりも大きい状態であるかどうかを判断する。
【0025】
そして、前輪がスリップしている状態であると判断されないときには、後述のステップS311に移行するが、ステップS307で前輪がスリップしている状態であると判断されるときには、ステップS308に移行し、後述のクラッチ締結処理を行う。そして、クラッチ締結処理が終了したならば、ステップS309に移行し、前後輪差フラグF0を“0”に設定した後、ステップS310に移行し、締結フラグFcが“1”であるか否かを判断する。そして、締結フラグFcが“1”であるときにはクラッチ制御処理を終了し、締結フラグFcが“1”でない場合には、ステップS311に移行する。
【0026】
このステップS311では、電磁クラッチ10の切断条件が成立しているか否かを判定する。ここで、この車両用駆動制御装置では、基本的には、4輪駆動状態で走行するようになっている。そして、前輪がスリップしておらず、且つドライバに加速する意思があるときに2輪駆動状態に切り換えるようになっている。
前記加速意思の判断は、例えば、アクセル開度の変化量がしきい値以上であり、且つスロットル開度がしきい値以上であるときドライバに加速意思があると判断するようになっている。そして、ドライバに加速意思があり且つ前輪がスリップしていないとき、クラッチ切断条件を成立していると判断する。また、モータ回転速度Nmが所定値Nm1(例えば、車速30〔km/h〕相当の値)以上であるかを判断することにより、燃費や電動モータ3の耐久性などを考慮して、2輪駆動状態に切換えるべきか、それとも4輪駆動状態のままでよいかを判断し、Nm≧Nm1であるときには、クラッチ切断条件が成立していると判断するようになっている。
【0027】
そして、これらの何れかが成立するとき、ステップS312に移行し、公知の手順と同様にして電磁クラッチ10を非締結状態に制御するクラッチ制御指令を電磁クラッチ10に出力し、電磁クラッチ10の締結状態を示す締結フラグFcを“0”にセットしてからクラッチ制御処理を終了する。
一方、ステップS311で、モータ回転速度Nmが、Nm<1であるとき、又は、前輪がスリップしているとき、或いは、ドライバに加速意思がないときには、クラッチ切断条件が成立していないと判断し、ステップS313に移行して公知の手順と同様にして電磁クラッチ10を締結状態に制御するクラッチ制御指令を電磁クラッチ10に出力し、電磁クラッチ10の締結状態を示す締結フラグFcを“1”にセットしてからクラッチ制御処理を終了する。
【0028】
次に、前記ステップS308で実行されるクラッチ締結処理は、図9に示す処理手順で行われる。
まず、ステップS700で、駆動輪がスリップしたときに路面に伝わるエンジン駆動力Fを算出する。具体的には、次式(6)から算出する。なお、式(6)中のK11は車体質量等により設定される係数、“V0−Vwr”は前記図8のステップS304で算出される、前後輪の車輪速差が発生し始めた時点から現時点までの従駆動輪速度の変化量δVr、δtは前後輪の車輪速差が発生し始めた時点から現時点までの経過時間である。
【0029】
F=K11×(V0−Vwr)/δt ……(6)
次いで、ステップS701に移行し、スリップ検知時点の従駆動輪速度、すなわち、ΔVF>ΔVthとなった時点における従駆動輪速度VwrをVr(0)とし、このVr(0)に相当する電動モータ3のモータ回転数を算出する。そして、このモータ回転数を検索モータ回転数Vm(m)(m=0)とする。具体的には、スリップ検知時点における従駆動輪速度Vr(0)に、予め設定した減速比iを乗算して算出する(Vm(m)=Vr(0)×i(m=0))。
【0030】
次いでステップS702に移行し、電動モータ3を検索モータ回転数Vm(m)で駆動するために必要とする、ジェネレータ7で発生すべき発電機発生出力Wg(m)(=V×Ia)を特定する。なおVはジェネレータ7の発電電圧、Iaはジェネレータ7の発電電流つまり電機子電流である。また、電動モータ3を、この電動モータ3で発生可能な最大出力トルクを発生するよう駆動した場合に、電動モータ3のモータ回転数が、検索モータ回転数Vm(m)となり得るために必要な駆動時間である、最大トルク指令の印加時間Ti(m)を特定する。
【0031】
前記発電機発生出力Wg(m)は、具体的には、図10に示すデータテーブルから特定する。
図10において、横軸は、モータ回転数Vm、縦軸はジェネレータ7で発生すべき発電機発生出力Wgであって、モータ回転数Vmが大きいときほど発電機発生出力Wgは大きな値に設定される。このデータテーブルは予め実験等を行うことにより生成しておく。
【0032】
また、前記最大トルク指令印加時間Ti(m)は、図11に示すデータテーブルから特定する。
図11において、横軸はモータ回転数Vm、縦軸は最大トルク指令印加時間Tiであって、モータ回転数Vmが大きいときほど最大トルク指令印加時間Tiは大きな値に設定される。このデータテーブルは予め実験等を行うことにより生成しておく。
【0033】
なお、ここでは、図10及び図11に示すデータテーブルを、予め生成し保持するようにしているが、これに限るものではなく、例えば、モータ回転数Vmと発電機発生出力Wgとの関係を関数式で表し、この関数式を保持するようにしてもよく、同様に、モータ回転数Vmと前記最大トルク指令印加時間Tiとの関係を関数式で表し、この関数式を保持するようにしてもよい。
【0034】
次いで、ステップS703に移行し、ジェネレータ7からステップS702で検出した発電機発生出力Wg(m)を得るために必要な、ジェネレータ7の駆動トルクFg(m)を、次式(7)から算出する。なお、(7)式において、K12は、エンジン2の出力をジェネレータ7に伝達するためのVベルト6のプーリ比とプーリ径とに応じて設定される係数、Ngは、ジェネレータ7の回転数であって、エンジン回転数Neにプーリ比を乗算して算出される。
【0035】
Fg(m)=K12×Wg(m)/Ng×K13 ……(7)
次いでステップS704に移行し、前記ステップS703で算出した駆動トルクFgでジェネレータ7を駆動したときの従駆動輪速度Vwr(m)を、次式(8)から推測する。なお、(8)式において、Ti(m)は、前記駆動トルクFg(m)を算出したときの、検索モータ回転数Vm(m)に対応する最大トルク指令印加時間、K14は予め設定される係数、Fは前記ステップS700で算出される、前輪がスリップしたときに路面に伝わるエンジン駆動力、Vwrは現時点の従駆動輪速度である。
【0036】
Vwr(m)=−K14×Ti(m)×〔F−Fg(m)〕+Vwr ……(8)
次いで、ステップS705に移行し、ステップS704で得られた、従駆動輪速度Vwr(m)が、次式(9)を満足するか否かを判断する。なお、(9)式中のαは、予め設定した余裕代である。
Vwr(m)×i+α=Vm(m) ……(9)
そして、この(9)式を満足しないときにはステップS706に移行し、mを“1”だけインクリメントし、次いでステップS707に移行し、次式(10)から検索モータ回転数Vm(m)を算出する。なお、式(10)中のΔVmは、予め設定されるモータ回転数の変化量である。
【0037】
Vm(m)=Vm(0)−ΔVm×m ……(10)
次いでステップS702に戻り、この検索モータ回転数Vm(m)に対し、上記と同様に処理を行い、前記(9)式を満足するかどうかを判断する。
そして、前記(9)式を満足するとき、ステップS710に移行し、この時点における検索モータ回転数Vm(m)を、電動モータ3の目標回転数Vm*として設定する。
【0038】
つまり、前記ステップS701からステップS710の処理では、図10及び図11に示すように、前記検索モータ回転数Vm(m)を、スリップ検知時点における従駆動輪速度Vr(0)を初期値として、変化量ΔVmずつ減少させ、前記(9)式を満足するモータ回転数を特定することにより、電動モータ3を最大トルクで駆動した場合に、現在の従駆動輪速度Vwrに相当する回転数よりも大きくなり得る、電動モータ3の目標回転数及び、この目標回転数にするために必要な最大トルク指令印加時間、つまり、電動モータ3の駆動時間を特定している。
【0039】
次いで、ステップS711に移行し、モータコントローラ18に対して、2WD状態から4WD状態への切り換えを行う旨を通知するための2WD−4WD切換通知を送信する。
次いで、ステップS712に移行し、2WD−4WD切換通知に対するモータコントローラ18からの応答として4WD状態への切り換えを行うための準備が完了したことを通知するための準備完了通知を受信するとステップS713に移行し、前記ステップS710で決定した目標回転数Vm*をモータコントローラ18に送信する。次いで、ステップS714に移行し、モータコントローラ18で算出される後述のモータ回転数Nmに応じた目標モータ界磁電流Im*及びモータ回転数Nmを読み込むと共に、電動モータ3で発生可能な最大トルク値を目標モータトルクTm*として設定する。
【0040】
次いで、ステップS715に移行して後述の発電制御処理を実行し、前記目標モータ界磁電流Im*及び目標モータトルクTm*に基づきレギュレータ20に対する界磁電流指令信号を生成し、これをレギュレータ20に対して出力することによりジェネレータ7の発電制御を行う。
次いで、ステップS717でモータコントローラ18からモータ制御終了通知を受信したか否かを判定し、受信していないときにはステップS714に戻り、受信したときにはステップS718に移行し、発電制御処理における前記ジェネレータ7の目標電圧V*を零として設定してジェネレータ7の発電を停止させ前記ステップS714で起動した発電制御処理を終了すると共に、タイムアウトカウンタを起動する。
【0041】
次いでステップS719で、タイムアウトカウンタが規定値に達し、タイムアウトしたかどうかを判断し、タイムアウトしていない場合にはステップS720に移行し、従駆動輪車速Vwrに減速比iを乗算して算出される従駆動輪速相当のモータ回転数Vwr×iとモータコントローラ18から受信した現在のモータ回転数Vmとを比較する。そして、Vm−Vwr×iが予め設定した規定値でないときにはステップS719に戻る。なお、この規定値は、従駆動輪速相当のモータ回転数Vwr×iとモータ回転数Vmとが同等とみなすことが可能な値に設定される。
【0042】
そして、Vm−Vwr×iが予め設定した規定値となったとき、つまり、同等となったときには、ステップS721に移行し、電磁クラッチ10を締結状態に制御するクラッチ制御指令を電磁クラッチ10に出力し、電磁クラッチ10の締結状態を示す締結フラグFcを“1”に設定した後、ステップS722に移行する。そして、モータコントローラ18に対して4WD状態に移行したことを通知する4WD切換完了通知を送信し、次いでステップS723でこの4WD切換完了通知に対する応答として、切換完了認識通知を受信した後、クラッチ締結処理を終了する。
【0043】
一方、前記ステップS719で、タイムアウトカウンタが規定値に達した場合、すなわち、規定時間が経過するまでの間に、実際のモータ回転数Vmと、従駆動輪速相当のモータ回転数Vwr×iとが同等とならなかった場合にはステップS730に移行し、タイムアクトカウンタがタイムアウトした旨をモータコントローラ18に通知する。
そして、ステップS731に移行し、モータ回転数が零になったかどうかを判断し、モータ回転数が零になったとき、クラッチ締結処理を終了する。
【0044】
図12は、前記ステップS714で実行される発電制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
この発電制御処理では、まず、ステップS740で、フローチャート内に示すような制御マップを算出し、目標モータトルクTm*をパラメータとして、モータコントローラ18から入力した電動モータ3の目標界磁電流Im*から目標電機子電流Ia*を算出する。すなわち、目標電機子電流Ia*は、目標界磁電流Im*が大きいときほど小さな値に設定され、且つ、目標モータトルクTm*が大きいときほど大きな値に設定される。
【0045】
次いで、ステップS741に移行し、フローチャート内に示すような制御マップを参照し、目標界磁電流Im*をパラメータとしてモータ回転数Nmから電動モータ3の誘起電圧Eを算出する。すなわち、モータ誘起電圧Eは、モータ回転数Nmが大きいときほど大きな値に設定され、且つ、目標界磁電流Im*が大きいときほど大きな値に設定される。
次いで、ステップS742に移行し、次式(11)に示すようにジェネレータ7で発電すべき目標電圧V*を算出する。ここで、Rは電動モータ3のコイルとパワーケーブル9との合成抵抗である。
【0046】
*=Ia*×R+E ……(11)
次いでステップS743に移行し、ジェネレータ7の発電電圧Vを目標電圧V*と一致させるためにジェネレータ7の界磁電流Igを調整する発電制御指令をレギュレータ20に出力し発電制御処理を終了する。
次に、前記ステップS4のG/M制御処理では、図13に示すように、まず、ステップS400で、スリップ速度ΔVFが予め設定したしきい値ΔVthよりも大きいか否かを判定する。この判定結果がΔVF≦0であるときには2輪駆動のままでよいと判断し、その
ままG/M制御処理を終了する。
【0047】
一方、判定結果がΔVF>0であるときには、4輪駆動に切り換えるべきであると判断しステップS401に移行する。なお、本実施形態では、スリップ速度ΔVFに基づいて、2輪駆動のままでよいか、それとも4輪駆動に切り換えるべきかを判断しているが、これに限定されるものではなく、目標負荷トルクTg*に基づいて判断するようにしてもよい。
【0048】
前記ステップS401では、前述したクラッチ制御処理によって締結フラグFcが“1”に設定されているか否かを判定する。この判定結果がFc=0であるときには、電磁クラッチ10が完全に非締結状態にあると判断し、そのままG/M制御処理を終了する。一方、判定結果がFc=0であるときには、電磁クラッチ10が締結状態にあると判断してステップS402に移行する。
【0049】
このステップS402では、モータコントローラ18に対してモータ駆動指令を送信した後、ステップS403に移行し、目標負荷トルクTg*に基づいて目標モータトルクTm*を算出する。次いで、ステップS404に移行し、前記図12に示す発電制御処理を行う。そして、G/M制御処理を終了する。
次に、モータコントローラ18で実行されるモータ制御処理を、図14に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
このモータ制御処理は、所定時間(例えば10〔msec〕)毎に実行される。
そして、モータコントローラ18では、まず、ステップS800で、4WDコントローラ19から、2WD−4WD切換通知を受信したかどうかを判断する。そして、2WD−4WD切換通知を受信した場合にはステップS801に移行し、4WD状態への移行準備が完了した旨を4WDコントローラ19に通知した後、ステップS802に移行し、4WDコントローラ19から目標回転数Vm*を受信する。そして、この目標回転数Vm*に相当する、最大トルク指令印加時間Tiを特定する。
【0051】
この最大トルク指令印加時間Tiの特定は、前記図11に示すモータ回転数Vmと最大トルク指令印加時間Tiとの対応を表すデータテーブルと同等のデータテーブルをモータコントローラ18においても保持しておき、このデータテーブルから、入力した目標回転数Vmに対応する最大トルク指令印加時間を特定することにより特定する。
なお、ここでは、データテーブルから目標回転数Vm*に応じた最大トルク指令印加時間Tiを特定するようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、モータ回転数Vmと最大トルク指令印加時間Tiとの対応を関数式で表し、この関数式を保持するようにしてもよく、また、4WDコントローラ19から、目標回転数Vm*と共に最大トルク指令印加時間Tiを入力するようにしてもよい。
【0052】
次いで、ステップS803に移行し、電動モータ3の駆動時間を計測するための駆動時間計測カウンタを起動した後、ステップS804に移行し、フローチャート内で示すような制御マップを参照して、モータ回転数Nmから目標モータ界磁電流Im*を算出する。
ここで、目標界磁電流Im*は、モータ回転数Nmが高速域に達すると、公知の弱め界磁制御によって小さくされる。すなわち、電動モータ3が高速回転すると誘起電圧が上昇してモータトルクTmが低下するので、界磁電流Imを小さくすることで、誘起電圧の上昇を抑制し、モータトルクTmの低下防止を図る。
【0053】
次いで、ステップS804aに移行して目標モータ界磁電流Im*及びモータ回転数Nmを4WDコントローラ19に送信し、次いで、ステップS805に移行して、電動モータ3の界磁電流Imを目標モータ界磁電流Im*に制御するモータ制御指令を電動モータ3に出力する。
次いで、ステップS806に移行し、印加時間計測カウンタのカウンタ値をもとに、電動モータ3の駆動を開始してから、前記ステップS802で特定した印加時間が経過したかどうかを判断し、前記印加時間が経過していなければ、ステップS804に戻り、前記印加時間が経過したときステップS807に移行する。
【0054】
このステップS807では、電動モータ3の界磁電流Imを零に制御するモータ制御指令を電動モータ3に出力する。すなわち、電動モータ3をフリーラン状態に制御する。
次いで、ステップS808に移行し、前記電動モータ3を規定の印加時間駆動したことを通知するためのモータ制御終了通知を前記4WDコントローラ19に送信した後ステップS809に移行し、電磁クラッチ10の接続状態への切り換えが終了したことを通知するための4WD切換完了通知を受信したか否かを判断する。そして、4WD切換完了通知を受信したならばステップS810に移行し、この4WD切換完了通知に対する応答として、4WD切換完了認識通知を4WDコントローラ19に送信する。そして、モータ制御処理を終了する。
【0055】
一方、ステップS809で4WD切換完了通知を受信していない場合には、ステップS811に移行し、4WDコントローラ19からタイムアウト通知が行われたかどうかを判断する。そして、タイムアウト通知が行われていない場合には、ステップS808aに戻る。一方、タイムアウト通知を受信したときにはステップS812に移行し、モータ回転数Nmが零となったとき、モータ制御処理を終了する。
【0056】
一方、前記ステップS800で、2WD−4WD切換通知を受信していない場合には、ステップS820に移行し、4WDコントローラ19からモータ駆動指令を受信したかどうかを判断する。そして、モータ駆動指令を受信していない場合にはそのままモータ制御処理を終了し、モータ駆動指令を受信した場合にはステップS821に移行し、前記ステップS804の処理と同様にして、モータ回転数Nmに対応するモータ目標界磁電流Im*を算出し、次いで、ステップS822に移行して、電動モータ3の界磁電流Imを目標界磁電流Im*に制御するモータ制御指令を電動モータ3に出力する。そして、モータ制御処理を終了する。
【0057】
次に、上記実施の形態の動作を、図15に示すタイムチャートに基づいて説明する。なお、図15において、(a)は、前輪及び後輪の回転速度をモータの回転数相当の値に変換した前輪速相当値及び後輪速相当値とモータの回転数とを表し、一点鎖線は前輪速相当値を表し、実線は後輪速相当値を表し、破線はモータの回転数を表す。また、(b)は、前後輪の車輪速度差ΔVFを表す。
【0058】
今、電磁クラッチ10が締結され4輪駆動状態にある状態から、時点t0で発進に伴いドライバがアクセルペダルを踏込み、これによってドライバに加速意思があると判定されると、図8のステップS311でクラッチ切断条件が成立することから、ステップS312に移行し、電磁クラッチ10は非締結状態に制御されて2輪駆動状態に切り換わり、ドライバの加速意思に則したスムーズな発進加速が可能となる。このとき、電磁クラッチ10は非締結状態であることから、レギュレータ7及び電動モータ3は駆動されない。
【0059】
そして、前後輪に回転速度が生じておらず(ステップS300〜ステップS302)、また、加速意思がある間は、クラッチ切断条件が成立することから、引き続き電磁クラッチ10は非締結状態に維持されて2輪駆動状態で加速走行を行うことになる(ステップS311、S312)。
この状態から、時点t0での発進に伴い前輪及び後輪の回転速度が共に増加するが、その後、時点t1で前後輪に速度差が発生すると、図8のステップS302からステップS303に移行し、この時点t1における従駆動輪の車輪速、すなわち後輪の車輪速度Vwrが、前後輪の回転速度差発生時における従駆動輪速度V0として設定される。そして、前後輪の回転速度差、すなわち前輪のスリップ速度ΔVFが大きくなり、これがしきい値ΔVth以上となると、前輪がスリップしていると判断され(時点t2、ステップS307)、ステップS8に移行し図9のクラッチ締結処理が実行され、この時点における従駆動輪速度と前記前後輪の回転速度差発生時における従駆動輪の車輪速度V0との差δVr(=V0−Vwr)と、前後輪の回転速度差が発生した時点からスリップしていると判断されるまでの経過時間δtとに基づいて、駆動輪スリップ時に路面に伝わるエンジン駆動力Fが算出される(ステップS700)。
【0060】
そして、この駆動力Fとスリップ検知時点における従駆動輪速Vr(0)とに基づいて、ジェネレータ7を駆動し、最大トルクを発生するよう電動モータ3を駆動した場合に、予測される従駆動輪速度相当の回転数よりも、電動モータ3の回転数の方が大きくなり得るための、電動モータ3の目標回転数Vm*及び最大トルク指令の印加時間Tiが前記図10及び図11のデータテーブルを参照して特定される(ステップS701からステップS710)。
【0061】
そして、モータコントローラ18に対して4WDへの切り換えを行う旨が通知され、電動モータ3の出力が最大トルクとなるよう、ジェネレータ7の界磁電流Igが制御される(ステップS715)。また、モータコントローラ18では目標回転数Vm*に対応する最大トルク指令印加時間Tiを特定し、最大トルク指令印加時間Tiの間、モータ回転数Nmに応じてモータ界磁電流Imを制御する。これによって、電動モータ3は、最大トルクを発生するよう駆動されることになる。
【0062】
そして、時点t3で、最大トルク指令印加時間Tiが経過すると、この時点t3で、モータ目標界時電流Im*が零に設定されると共に、ジェネレータ7の駆動が停止され、電動モータ3への電圧供給が停止される。
ここで、時点t2で電動モータ3を駆動開始した時点では、電磁クラッチ10は非締結状態であって、電動モータ3は無負荷状態であることから、その回転数は急激に上昇する。
【0063】
そして、最大トルク指令印加時間Tiは、電動モータ3を、最大トルクを発生するよう駆動した場合に、従駆動輪速度相当の回転数よりも、電動モータ3の回転数の方が大きくなり得る時間に設定されているから、最大トルク指令印加時間Tiが経過した時点t3での、電動モータ3の回転数は、時点t3における従駆動輪速度相当の回転数よりも大きくなる。
【0064】
そして、時点t3で電動モータ3への電圧供給を停止することにより、電動モータ3はフリーラン状態となることから、図15に示すように、その回転数は時点t3からフリクション等の影響で低下する。そして、電動モータ3の回転数が時点t4で、従駆動輪速度相当の回転数と同等となったとき、ステップS720からステップS721に移行し、電磁クラッチ10が締結状態に制御される。
【0065】
そして、電磁クラッチ10が締結状態に制御されたことから、締結フラグFcは“1”に設定され、以後、図8のステップS300からステップS311を経てステップS313に移行し、クラッチ切断条件が成立するまでの間、電磁クラッチ10は締結状態に制御されることから、前輪のスリップ速度ΔVFに応じて、ジェネレータ7及び電動モータ8が駆動されることになって4輪駆動状態となり、前輪のスリップが低減されることになる。
【0066】
ここで、時点t4で、電磁クラッチ10を締結状態に切り換えるとき、電動モータ3は従駆動輪速度相当の回転数ですでに回転している状態であり、また、フリーラン状態であることからトルクは発生していない。したがって、この状態で、電磁クラッチ10を締結状態に切り換えたとしても、電動モータ3のモータ軸に生じるトルク変動は比較的小さいから、電磁クラッチ10を締結させることに起因してドライバに与えるショックを低減することができる。
【0067】
一方、例えば、前輪スリップが検知され、これに伴い電動モータ3の目標回転数Vm*が決定された後、ドライバが制動操作を行うこと等によって、従駆動輪速度が予測した従駆動輪速度よりも小さくなった場合には、場合によっては、電動モータ3の回転数と従駆動輪速度相当の回転数との差が大きく、これらが一致しないか又は一致するまでに時間がかかる場合がある。
【0068】
しかしながら、電動モータ3の制御を終了した時点からの経過時間を監視し、所定時間が経過してもこれらが同等とならない場合には(図9のステップS719、ステップS730)、電動モータ3の回転数が略零となった時点(ステップS731)で、ステップS310を経てステップS311に移行し、前輪がスリップしていると判断され、クラッチ切断条件が成立しない場合にはステップS313に移行して電磁クラッチ10が締結され、4輪駆動状態となる。したがって、電動モータ3の回転数と、従駆動輪速度相当の回転数とが、一致しないような場合であっても電動モータ3の回転数が略零となった時点で速やかに4輪駆動状態に移行することができる。
【0069】
このように、電磁クラッチ10を締結する際には、電動モータ3の回転数を、従駆動輪速度相当の回転数よりも大きな値まで上昇させた状態でフリーラン状態とし、電動モータ3の回転数と従駆動輪速度相当の回転数とが一致した時点で電磁クラッチ10を締結させるようにしたから、締結に伴いドライバに与えるショックを低減することができる。
また、このとき、電動モータ3が従駆動輪速度相当の回転速度に上昇するまでの間の、従駆動輪速度の低下分を考慮して目標回転数Vm*を設定している。つまり、駆動輪のスリップや、電動モータ3を駆動するためにジェネレータ7を駆動させることによって、従駆動輪速度が低下することが予想される。
【0070】
しかしながら、上述のように、目標回転数Vm*を算出する際に、回転速度差発生時点からの従駆動輪速の速度変化の推移と、ジェネレータ7を駆動するための負荷がエンジン2に加わった場合の、エンジンの駆動力減少分から従駆動輪速の減少分とを予測し、これらを考慮して目標回転数Vm*を算出するようにしているから、従駆動輪速度の低下の影響を受けることを回避し、的確に電動モータ3の回転数の制御を行うことができる。
【0071】
また、このとき、回転速度差発生時点から、従駆動輪の速度変化の推移を逐次検出するようにしているから、スリップが検出された時点で速やかに目標回転数Vm*を算出することができる。
また、このように従駆動輪速度の変化を予測して目標回転数Vm*を設定しているから、電動モータ3の回転数を必要以上に上昇させることを回避し実際の従駆動輪速度に応じた適度な回転数に制御することができ、電動モータ3の回転数と従駆動輪速相当の回転数とが一致するまでの所要時間の短縮を図ることができ、より速やかに4輪駆動状態への移行を図ることができ、4輪駆動が必要とされているときに速やかに4輪駆動状態に移行しその効果を発揮することができる。
【0072】
また、このとき、電動モータ3を、最大トルクを発生するよう駆動して、速やかに高速回転状態となるように駆動し、その印加時間を調整することで回転数を調整するようにしているから、電動モータ3をより短時間で目標回転数Vm*まで上昇させることができ、スリップ検知時点から電磁クラッチ10が締結状態となるまでの所要時間をより短縮することができ、スリップ検知時点から4輪駆動状態への移行までに要する所要時間の短縮を図ることができる。
【0073】
なお、上記実施の形態においては、基本的には4輪駆動状態に制御し、ドライバに加速意思があるときにのみ2輪駆動状態に制御するようにした場合について説明したが、これに限るものではなく、単に、駆動輪がスリップしたときに、2輪駆動状態から4輪駆動状態に切り換えるようにした制御方法であっても適用することができ、2輪及び4輪の切換制御方法はどのような制御方法であっても適用できることはいうまでもない。
【0074】
また、上記実施の形態においては、前輪1FL、1FRをエンジン2で駆動される主駆動輪、後輪1RL、1RRを電動モータ3で駆動される従駆動輪とした場合について説明したが、これに限るものではなく、後輪1RL、1RRをエンジン2で駆動される主駆動輪、前輪1FL、1FRを電動モータ3で駆動される従駆動輪とした場合であっても適用することができる。
【0075】
なお、上記実施の形態において、前輪1FL、1FRが主駆動輪に対応し、後輪1RL、1RRが従駆動輪に対応し、エンジン2が駆動源に対応し、電動モータ3が電動機に対応し、電磁クラッチ10がクラッチに対応し、図9のステップS700からステップS718の処理及び図14のステップS800からステップS810の処理が電動機駆動手段に対応し、図9のステップS720及びステップS720の処理がクラッチ接続手段に対応している。また、図9のステップS700からステップS704の処理が従駆動輪速度推測手段に対応し、ステップS705からステップS710の処理が目標回転数設定手段に対応し、ジェネレータ7が発電手段に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の概略構成図である。
【図2】本発明の概略構成を示す回路図である。
【図3】図1の4WDコントローラで実行される4WD制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3の負荷トルク演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図3の負荷トルク制限処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】エンジントルクTeの算出に用いる制御マップである。
【図7】伝動トルク上限値Tslipの算出に用いる制御マップである。
【図8】図3のクラッチ制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】図8のクラッチ締結処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】発電機発生出力Wgの算出に用いる制御マップである。
【図11】最大トルク指令印加時間Tiの算出に用いる制御マップである。
【図12】図9の発電制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図13】図3のG/M制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図14】図1のモータコントローラで実行されるモータ制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図15】本発明の動作説明に供する、タイムチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1FL、1FR 前輪
1RL、1RR 後輪
2 エンジン
3 電動モータ
4 オートマチックトランスアクスル
6 Vベルト
7 ジェネレータ
8 パワーケーブル
9 減速機
10 電磁クラッチ
11 ディファレンシャルギヤ
12 吸気管路
13 スロットルバルブ
14 エンジンコントローラ
15 アクセルセンサ
16 アクセルペダル
17 スロットルモータ
18 モータコントローラ
19 4WDコントローラ
20 レギュレータ
21 ジャンクションボックス
22 メインリレー
23 電流センサ
24 サーミスタ
25 モータ回転センサ
26 エンジン回転数センサ
27 スロットルセンサ
28FL〜28RR 車輪速センサ
Ig ジェネレータの界磁電流
V 発電電圧(V*は目標値)
Ng ジェネレータ回転数
Ia 電機子電流(Ia*は目標値)
Im 電動モータの界磁電流(Im*は目標値)
E 電動モータの誘起電圧
Nm モータ回転数
Tg ジェネレータの負荷トルク(Tg*は目標値)
Te エンジントルク
Tslip 伝動トルク上限値
Tm モータトルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主駆動輪を駆動する駆動源と、従駆動輪に駆動トルクを伝達可能な電動機と、当該電動機から前記従駆動輪までのトルク伝達経路に介挿されたクラッチとを備え、4輪駆動状態では前記クラッチを締結状態とし、2輪駆動状態では前記クラッチを非締結状態とする車両用駆動力制御装置において、
前記クラッチを締結する際に、前記従駆動輪の回転速度を前記電動機の回転数相当の値に変換した電動機回転数相当値よりも前記電動機の回転数が大きくなるように前記電動機を駆動した後、前記電動機をフリーラン状態にし、
前記電動機の回転数と前記従駆動輪の電動機回転数相当値とが同等となったときに前記クラッチを締結することを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
主駆動輪を駆動する駆動源と、従駆動輪に駆動トルクを伝達可能な電動機と、当該電動機から前記従駆動輪までのトルク伝達経路に介挿されたクラッチとを備え、4輪駆動状態では前記クラッチを締結状態とし、2輪駆動状態では前記クラッチを非締結状態とする車両用駆動力制御装置において、
前記クラッチを締結するとき、前記従駆動輪の回転速度を前記電動機の回転数相当の値に変換した電動機回転数相当値よりも前記電動機の回転数が大きくなるように前記電動機を駆動した後、前記電動機をフリーラン状態にする電動機駆動手段と、
前記電動機がフリーラン状態にある状態で、前記電動機の回転数と前記従駆動輪の電動機回転数相当値とが同等となったときに前記クラッチを締結するクラッチ接続手段と、を備えることを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
前記電動機駆動手段は、前記電動機で発生可能な最大トルクを発生するように前記電動機を駆動することを特徴とする請求項2記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
前記電動機駆動手段は、前記電動機の回転数が前記目標回転数に達したときの前記従駆動輪の回転速度を推測する従駆動輪速度推測手段と、
当該従駆動輪速度推測手段で推測した従駆動輪速度の推測値に基づいて前記電動機の目標回転数を設定する目標回転数設定手段と、を備え、
前記電動機の回転数が前記目標回転数設定手段で設定した目標回転数となるように前記電動機を駆動することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
前記駆動源により駆動され且つ前記電動機に電源供給を行う発電手段を備え、
前記従駆動輪速度推測手段は、前記主駆動輪と前記従駆動輪との回転速度差に差が生じ始めた時点から、前記主駆動輪がスリップしていると判定するためのしきい値を前記回転速度差が超えるまでの間の前記従駆動輪の速度変化の推移と、前記発電手段を駆動することによる前記駆動源の負荷増大に伴う従駆動輪の速度低下分とを考慮して前記目標回転数を設定するようになっていることを特徴とする請求項4記載の車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−69257(P2006−69257A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252083(P2004−252083)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】