車体傾動制御装置及びその方法
【課題】車体を傾動させる装置が正常でない場合に、車体の姿勢を車両の走行に適合した姿勢にする。
【解決手段】車体傾動制御装置は、車両前後方向に少なくとも2つ配置されそれぞれ、ロール方向に車体を傾動させる車体傾動装置21F,21Rと、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、各車体傾動装置21F,21Rを駆動制御する車体傾動装置駆動部25F,25Rと、各車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する車体傾動装置異常判定部31と、ロール方向の車体の姿勢を固定する車体傾動停止装置26と、を備え、車体傾動装置駆動部25F,25Rが、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの1つが正常でないと判定すると、車体傾動装置異常判定部31が正常と判定した車体傾動装置21F,21Rを駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にし、車体傾動停止装置26が、その中立姿勢に固定する。
【解決手段】車体傾動制御装置は、車両前後方向に少なくとも2つ配置されそれぞれ、ロール方向に車体を傾動させる車体傾動装置21F,21Rと、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、各車体傾動装置21F,21Rを駆動制御する車体傾動装置駆動部25F,25Rと、各車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する車体傾動装置異常判定部31と、ロール方向の車体の姿勢を固定する車体傾動停止装置26と、を備え、車体傾動装置駆動部25F,25Rが、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの1つが正常でないと判定すると、車体傾動装置異常判定部31が正常と判定した車体傾動装置21F,21Rを駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にし、車体傾動停止装置26が、その中立姿勢に固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じてロール方向で車体の傾動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、転舵時に、油圧式傾斜シリンダによって、乗員が乗車する車体(乗車台、キャビン)が車輪接地面に対して傾く車両を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−545577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、車体を傾動させる装置が正常でない場合に、車体が傾斜した状態で停止してしまう恐れがある。
しかし、傾斜した状態で停止した車体の姿勢が、車両の走行に適合した姿勢とならない場合がある。
本発明の課題は、車体を傾動させる装置が正常でない場合に、車体の姿勢を車両の走行に適合した姿勢にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な車体傾動手段を、車両前後方向に離して2以上配置する。また、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、車体傾動手段を駆動制御する。
そして、本発明は、車体傾動手段が正常でないと判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、ロール方向の車体の姿勢を中立姿勢にする。さらに、その中立姿勢で車体の姿勢を固定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車体の姿勢を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢がロール方向で中立姿勢となり、該中立姿勢で固定されるので、車体の姿勢が傾斜した状態で停止してしまうことを回避できる。
このように、本発明によれば、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を車両の走行に適合した姿勢にできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車体傾動制御装置の構成を示す図である。
【図2】車体傾動装置の構成例を示す図である。
【図3】車体傾動停止装置の具体例となる電磁ブレーキの構成を示す図である。
【図4】車体傾動制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】中立姿勢制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】中立姿勢制御指令値の経時変化を示す特性図である。
【図7】輪荷重変動((a))及び旋回横加速度((b))の経時変化を示す特性図である。
【図8】本実施形態の車体傾動制御装置の他の構成を示す図である。
【図9】中立姿勢制御指令値の他の経時変化を示す特性図である。
【図10】中立姿勢制御指令値のさらに他の経時変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(構成)
図1は、本発明を適用した車体傾動制御装置を搭載した車両の構成を示す。
車両は、駆動系として、車輪駆動装置1及び車輪駆動制御部2を有する。車輪駆動制御部2は、運転者のアクセルペダル信号に応じて車輪駆動装置1に指令値を出力する。車輪駆動装置1は、入力された指令値に応じて駆動輪となる後輪3Rを駆動する。
また、車両は、転舵部4を有する。転舵部4は、ステアリングホイール5を介して入力された運転者の操舵操作に応じて、転舵輪となる前輪3Fを転舵する。転舵部4は、例えば、ラック&ピニオン等の構成を有する。
また、車両は、車輪速検出部11、横加速度検出部12及びステアリングホイール角検出部13を有する。
【0009】
車輪速検出部11は、車速を推定するためのものである。車輪速検出部11は、後輪3Rの回転角速度を検出する。車輪速検出部11は、例えば、エンコーダやレゾルバ、ホールセンサ等である。例えば、車輪速検出部11を車輪駆動装置1内に設ける。車輪速検出部11は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
横加速度検出部12は、車両の横加速度を検出する。横加速度検出部12は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
【0010】
ステアリングホイール角検出部13は、ステアリングホイール5のステアリングホイール操舵角を検出する。ステアリングホイール角検出部13は、例えば、エンコーダである。ステアリングホイール角検出部13は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
そして、図1に示すように、車両は、車体傾動装置21F,21R、モータ角検出部22F,22R、モータ電流値検出部23F,23R、車体傾斜角検出部24、車体傾動装置駆動部25F,25R、車体傾動停止装置26F,26R、車体傾動停止装置駆動部27、及び制御演算コントローラ30を有する。
【0011】
車体傾動装置21F,21Rは、車両前後方向軸を中心にして車体(乗車台)50を回動させる。すなわち、車体傾動装置21F,21Rは、車体50をロール方向に傾動させる。本実施形態では、2つの車体傾動装置21F,21Rを、車両の前後それぞれに配置している。この前後の車体傾動装置21F,21Rは、モータを駆動源として有している。
【0012】
図2は、車体傾動装置21(21F,21R)及び懸架部70の構成例を示す。図2に示すように、車両の懸架部70のサスペンションは、ダブルウイッシュボーン式サスペンションとなる。このサスペンションは、上下一対の、V字型のアーム71,72で車輪3を懸架している。ショックアブソーバ73は、その下部マウントをサスペンションの下側アーム72に取り付けている。このショックアブソーバ73は不図示のブラケットを備えている。ブラケットにより、ショックアブソーバ73が挿通されているコイルばね74を該ショックアブソーバ73に取り付けている。そして、ショックアブソーバ73は、上部マウントが車体傾動部21(具体的にはアーム部材82の端部)に取り付けられた状態になっている。
【0013】
車体傾動部21は、回転モータ81及びアーム部材82を有する。アーム部材82は、減速機等を介して回転モータ81の回転軸と連結している。アーム部材82は、回転中心から車両の左右方向にそれぞれ延びる形状となる。アーム部材82は、その延在する端部にショックアブソーバ73の上端部を取り付けている。この図2では、アーム部材82の一方の端部にだけショックアブソーバ73の上端部を取り付けている状態を示すが、実際には、アーム部材82の両方の端部に、左右輪それぞれのショックアブソーバ73の上端部を取り付けている。
【0014】
このような構造において、車体傾動装置駆動部25が回転モータ81を駆動すると、アーム部材82が回動する。この回動により、ショックアブソーバ73には、その軸方向に力が作用する。この結果、ショックアブソーバ73の軸方向に作用する力が該ショックアブソーバ73を縮めるように作用する場合、すなわちアーム部材82の端部が地面に近づく場合、車両幅方向でそのアーム部材82の端部が位置する車体側が上方に持ち上げられるようになる。つまり、車両正面からみた場合にアーム部材82が時計方向に回転するときには、車体50は、その反対の反時計方向に回動し傾くようになる(傾動するようになる)。
【0015】
図1に示すように、モータ角検出部22F,22Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rそれぞれに対応した配置になっている。モータ角検出部22F,22Rは、各車体傾動装置21F,21Rの回転角を検出する。具体的には、モータ角検出部22F,22Rは、車体傾動装置21F,21Rを駆動するモータの回転角を、車体傾動装置21F,21Rの回転角として検出する。モータ角検出部22F,22Rは、例えばエンコーダやレゾルバ等である。モータ角検出部22F,22Rは、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
【0016】
モータ電流値検出部23F,23Rは、車体傾動装置21F,21Rそれぞれ対応した配置となっている。モータ電流値検出部23F,23Rは、各車体傾動装置21F,21Rの駆動電流を検出する。すなわち、モータ電流値検出部23F,23Rは、車体傾動装置21F,21Rの駆動源がモータとなる場合に、そのモータの駆動電流を検出する。モータ電流値検出部23F,23Rは、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
車体傾斜角検出部24は、車体のロール方向の傾斜角を検出する。車体傾斜角検出部24は、例えばエンコーダ等である。車体傾斜角検出部24は、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
【0017】
車体傾動装置駆動部25F,25Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rに対応した配置となっている。車体傾動装置駆動部25F,25Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rを個別に駆動する。これにより、前後の車体傾動装置21F,21Rの駆動は、互いに独立したものとなる。車体傾動装置駆動部25F,25Rは、制御演算コントローラ30(姿勢制御演算部40)からの指令を基に、車体傾動装置21F,21Rを駆動する。
車体傾動停止装置26F,26Rは、ロール方向の所定角度で車体の姿勢を維持するための装置である。
【0018】
図3は、車体傾動停止装置26F,26Rの具体例となる電磁ブレーキの構成を示す。この場合、回転モータ81は、電磁ブレーキ付きモータとなる。
図3に示すように、車体傾動停止装置26F,26Rでは、軸体(回転軸)の軸方向に、取付フランジ91、ブレーキライニング(ロータ)92、可動鉄心(アマチュア)93をその順番で配置した構成となる。取付フランジ91は、モータの筐体等に固定された固定側となる。また、ブレーキライニング92は、ハブ95を介して軸体94の端部94aに固定された構成となる。
【0019】
取付フランジ91の外周部には、調整ボルト96を配置している。ここで、調整ボルト96の一端を取付フランジ91の外周部に固定している。図示しないが、取付フランジ91の外周部には、一定間隔で複数本の調整ボルト96を配置している。
また、ステータ97が、モータの筐体等に取り付けてある。ステータ97は、電磁コイル98を内蔵している。可動鉄心93が、このステータ97とブレーキライニング92との間に配置された構成になる。
【0020】
可動鉄心93は、外周部に複数の孔を有している。可動鉄心93の複数の孔には、それぞれ調整ボルト96を挿通している。これにより、可動鉄心93は、調整ボルト96に支持されつつ、軸方向で移動可能となる。
各調整ボルト96には、端部にナット99を取り付けている。各調整ボルト96には、そのナット99と可動鉄心との間に、トルクスプリング100を嵌挿している。さらに、各調整ボルト96には、可動鉄心93と取付フランジ91との間に、戻しスプリング101を嵌挿している。
【0021】
このような構成により、車体傾動停止装置26F,26Rは、電磁コイル98に電圧を印加しない状態では、トルクスプリング100の弾性力によって、可動鉄心93をブレーキライニング92に押し付けている。これにより、車体傾動停止装置26F,26Rは、回転モータ81が回転しないようにしている。そして、車体傾動停止装置26F,26Rは、電磁コイル98に電圧を印加することで、トルクスプリング100の弾性力に抗して、可動鉄心93とブレーキライニング92との間に隙間を発生させる(電磁ブレーキを解除する)。これにより、車体傾動停止装置26F,26Rは、回転モータ81を回転可能な状態にしている。
【0022】
車体傾動停止装置駆動部27は、車体傾動停止装置26F,26Rを駆動する。車体傾動停止装置駆動部27は、制御演算コントローラ30(姿勢制御演算部40)からの指令を基に、車体傾動停止装置26F,26Rを駆動する。
制御演算コントローラ30は、車体傾動制御装置のシステム全体の制御を行う。そのため、制御演算コントローラ30は、図1に示すように、車体傾動装置異常判定部31、及び姿勢制御演算部40を有する。さらに、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角演算部41、及び横加速度制限演算部42を有する。
【0023】
車体傾動装置異常判定部31は、モータ角検出部22F,22R、モータ電流値検出部23F,23R及び車体傾斜角検出部24の検出結果を基に、車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する。車体傾動装置異常判定部31は、判定結果を姿勢制御演算部40(特に車体傾斜角演算部41)に出力する。
車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31の判定結果を基に、車体傾動装置駆動部25F,25Rや車体傾動停止装置駆動部27に指令を出す。
【0024】
具体的には、車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの両方が正常であると判定した場合に、ステアリングホイール角検出部13や車輪速検出部11の検出結果を基に、目標とする車体傾斜角(車体傾動角)を算出する。そして、車体傾斜角演算部41は、その算出した車体傾斜角を指令値として、車体傾動装置駆動部25F,25Rに出力する。
【0025】
また、車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの何れかが正常でないと判定した場合、中立姿勢制御を行う。すなわち、車体傾斜角演算部41は、正常でないと判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか一方)への駆動電力の供給を停止するよう、車体傾動停止装置駆動部27に指令を出す。さらに、姿勢制御演算部40は、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか他方)を駆動して車体姿勢を中立姿勢にするよう、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に指令を出す。
横加速度制限演算部42は、車両の横加速度の増加を制限する指令を車輪駆動制御部2に出力する。
【0026】
図4は、車体傾動制御装置の処理手順を示す。図4に沿って、車体傾動制御装置の処理手順を説明するとともに、車体傾動制御装置の各構成の処理についてもさらに詳しく説明する。
先ずステップS1において、車体傾動装置異常判定部31は、前後の車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する。
具体的には、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fに備えるモータ角検出部22Fの検出値と、後側車体傾動装置21Rに備えるモータ角検出部22Rの検出値とを比較する。そして、車体傾動装置異常判定部31は、その比較結果として得たそれら検出値の差分値がしきい値以下の場合、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定する。このしきい値は、該検出値の差分値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0027】
又は、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fに備えるモータ電流値検出部23Fの検出値と、後側車体傾動装置21Rに備えるモータ電流値検出部23Rの検出値とを比較する。そして、車体傾動装置異常判定部31は、その比較結果として得たそれら検出値の差分値がしきい値以下の場合、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定する。このしきい値は、該検出値の差分値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0028】
又は、車体傾動装置異常判定部31は、モータ角検出部の検出値やモータ電流値検出部の検出値が一定の範囲内にあるか否かを判定する。例えば、前側車体傾動装置21Fについて言うと、モータ角検出部22Fの検出値やモータ電流値検出部23Fの検出値を、しきい値と比較して、その比較結果を基に、前側車体傾動装置21Fが正常か否かを判定する。このしきい値は、該検出値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0029】
車体傾動装置異常判定部31は、このステップS1の判定結果として車体傾動装置21F,21Rの何れもが正常であるとの結果を得た場合、ステップS2に進む。また、車体傾動装置異常判定部31は、このステップS1の判定結果が車体傾動装置21F,21Rが正常でないとの結果になった場合(検出値の差分値がしきい値よりも大きい場合)、ステップS4に進む。
ステップS2では、制御演算コントローラ30は、異常検出フラグをクリア(例えば“0”)にする。
【0030】
そして、続くステップS3において、車体傾斜角演算部41は、目標とする車体傾斜角を演算する。車体傾斜角演算部41は、車体傾斜角の演算では、ステアリングホイール角検出部13や車輪速検出部11の検出値を基に、目標とする車体傾斜角を算出する。このとき、車体傾斜角演算部41は、例えば運転者からの入力であるステアリングホイール操舵角に対する一次遅れ特性や、車輪速から推定される車速に応じた定常ゲイン特性を考慮して、車体傾斜角を算出する。
【0031】
例えば、車体傾斜角演算部41は、ステアリングホイール操舵角が大きくなるほど、その舵角方向に傾く車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を大きくする。
また、車体傾斜角演算部41は、車速が大きい状態(中速〜高速程度)で、横加速度が大きく、かつステアリングホイール操舵角が大きいとき(大舵角操舵時)、その舵角方向への車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を大きくする。また、車体傾斜角演算部41は、車速が小さい状態(低速)で、かつステアリングホイール操舵角が小さいとき(小舵角操舵時)、その舵角方向への車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を小さくする。
【0032】
車体傾斜角演算部41は、算出した車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を傾斜角指令値として、車体傾動装置駆動部25F,25Rに出力する。
これにより、車体傾動装置駆動部25F,25Rは、傾斜角指令値に応じた駆動電流により車体傾動装置21F,21Rを駆動し、車体(乗車台)の傾斜角を車体傾斜角演算部41が算出した車体傾斜角にする。このとき、車体傾斜角検出部24の検出値を用いて車体傾斜角の制御(F/B制御)を行う。
【0033】
ステップS4では、制御演算コントローラ30は、異常検出フラグを立てる(例えば“1”にする)。続いてステップS5において、制御演算コントローラ30は、警告灯を点灯させる。
続いてステップS6において、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fが正常か否かを判定する。車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定した場合、ステップS7に進む。また、車体傾動装置異常判定部31は、そうでない場合、すなわち、後側車体傾動装置21Rが正常でないと判定した場合、ステップS13に進む。
【0034】
ステップS7では、姿勢制御演算部40は、前側車体傾動装置駆動部25Fから前側車体傾動装置21Fへの駆動電力の供給を停止する。
続いてステップS8において、姿勢制御演算部40は、中立姿勢制御を行う。なお、後述のステップS14でも、姿勢制御演算部40は、同様な中立姿勢制御を行う。
図5は、中立姿勢制御の処理手順を示す。図5に示すように、先ずステップS21において、姿勢制御演算部40は、横加速度検出部12の検出値(横加速度センサ信号)を取得する。
【0035】
ステップS22では、姿勢制御演算部40は、下記(1)式により中立姿勢に戻しても、車体が遠心力により大きく傾くことがないか否かを判定する。
b/(2・hu)<m・|ay|/(m・g) ・・・(1)
この(1)式は、いわゆるハンドリングロールオーバーの条件式である。ここで、b,huは、予め決められた車両諸元である。具体的には、bは車両のトレッドである。huは車両の重心高である。ayは、前記ステップS21で取得した横加速度である。mは車両重量である。gは重力加速度である。
【0036】
ここで、姿勢制御演算部40は、前記(1)式が成立しない場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いと判定して、ステップS23に進む。また、姿勢制御演算部40は、前記(1)式が成立する場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定して、ステップS25に進む。
横加速度|ay|に着目して言い換えると、姿勢制御演算部40は、横加速度|ay|が予め設定したしきい値(この場合、b・g/(2・hu))以下の場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いと判定し、ステップS23に進む。また、姿勢制御演算部40は、横加速度|ay|が予め設定したしきい値(この場合、b・g/(2・hu))よりも大きい場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定し、ステップS25に進む。
【0037】
ステップS23では、姿勢制御演算部40は、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を算出する。続いてステップS24において、姿勢制御演算部40は、前記ステップS23で算出した中立姿勢制御指令値を、正常であると判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動する車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に出力する。そして、該図5(ステップS8)に示す処理を終了する。
これにより、正常であると判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動して、車体姿勢がロール方向で中立姿勢になる。
ここで、前記ステップS6で前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定して、ステップS8にて中立姿勢制御を実施する場合には、正常な車体傾動装置とは、後側車体傾動装置21Rになる。
【0038】
図6は、中立姿勢制御指令値の特性図の一例を示す。図6では、中立姿勢制御指令値の経時変化を示す。図6に示すように、経過時間に比例して、中立姿勢制御指令値が大きくなる。これにより、車両は、目標の変化度合いで車体姿勢が変化し、時間経過にともない徐々に中立姿勢に近付くようになる。すなわち、車両は、ロール方向の車体姿勢の変化度合いが制限されつつ、中立姿勢になる。
【0039】
ステップS25では、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角を変えないようにする姿勢維持指令値を算出する。続いてステップS26において、姿勢制御演算部40は、前記ステップS25で算出した姿勢維持指令値を、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動する車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に出力する。 これにより、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)は、姿勢維持指令値に応じて、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)への駆動信号を停止する。この結果、車体傾斜角を維持することができる。
【0040】
また、車体傾斜角を維持するために、姿勢制御演算部40が、車体傾動停止装置駆動部27を駆動させることもできる。この場合、車体傾動停止装置駆動部27は、姿勢制御演算部40からの姿勢維持指令値に応じて、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)に対応する車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)を駆動制御する。この結果、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)では、電磁コイル98への電圧印加が停止し、ブレーキライニング92に可動鉄心93が押し付けられた状態となる。これにより、回転モータ81は、回転が停止されて、その回転停止状態で固定(維持)されるようになる。このようにすることで、車体傾斜角を維持することができる。
【0041】
前記図5の処理に続いて、図4のステップS9において、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。このとき、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角検出部24の検出値(車体傾斜角)を基に、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢の場合、ステップS10に進む。また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢でない場合、前記ステップS8に進む。
【0042】
以上のステップS8及びステップS9の処理により、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いときには、姿勢維持指令値を後側車体傾動装置駆動部25Rに出力する。
また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いときには、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を後側車体傾動装置駆動部25Rに出力する。
【0043】
ステップS10では、姿勢制御演算部40は、中立姿勢をロックする。具体的には、姿勢制御演算部40は、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)の停止指令を出力する。これにより、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)は、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)の駆動を停止させる。
【0044】
その一方で、姿勢制御演算部40は、車体傾動停止装置駆動部27にロック指令を出力する。これにより、車体傾動停止装置駆動部27は、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)を駆動制御する。この結果、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)では、電磁コイル98への電圧印加が停止し、ブレーキライニング92に可動鉄心93が押し付けられた状態となる。これにより、回転モータ81は、回転が停止されて、その回転停止状態で固定(維持)されるようになる。
【0045】
続いてステップS11において、横加速度制限演算部42は、横加速度制限演算を行う。横加速度制限演算部42は、横加速度制限演算では、横加速度制限指令値を算出する。横加速度制限指令は、車輪駆動装置1を制御する指令値である。横加速度制限指令値は、車両に過剰な横加速度が発生、又は横加速度が増加してしまうのを抑制する指令値となる。例えば、横加速度制限指令値は、車輪駆動装置1を駆動する駆動電流値に上限値を設けたり、駆動電流値の増加割合に制限を設けたりする指令である。
横加速度制限演算部42は、算出した横加速度制限指令値を車輪駆動制御部2に出力する。
【0046】
また、ステップS13及びステップS14では、姿勢制御演算部40は、前記ステップS7及びステップS8とは反対の車体傾動装置に対して、該前記ステップS7及びステップS8の処理と同様な処理を行う。
すなわち、ステップS13では、姿勢制御演算部40は、後側車体傾動装置駆動部25Rから後側車体傾動装置21Rへの駆動電力の供給を停止する。
続いてステップS14において、姿勢制御演算部40は、中立姿勢制御を行う。このとき、姿勢制御演算部40は、正常と判定した前側車体傾動装置21Fを駆動する前側車体傾動装置駆動部25Fに、中立姿勢制御指令値や姿勢維持指令値を出力して、車体姿勢を中立姿勢にする(前記図5参照)。
【0047】
続いてステップS15において、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢の場合、前記ステップS10に進む。また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢でない場合、前記ステップS14に進む。
以上のステップS14及びステップS15の処理により、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いときには、姿勢維持指令値を前側車体傾動装置駆動部25Fに出力する。そして、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いときには、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を前側車体傾動装置駆動部25Fに出力する。
【0048】
(動作及び作用)
車体傾動制御装置は、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定した場合、異常検出フラグをクリアにするとともに、車体傾動装置21F,21Rを駆動する(前記ステップS1〜ステップS3)。これにより、車体50の姿勢は、ステアリングホイール操舵角等に応じた車体傾斜角になる。
また、車体傾動制御装置は、前後の車体傾動装置21F,21Rの何れかが正常でないと判定すると、異常検出フラグを立てるとともに、警告灯を点灯させる(前記ステップS1→ステップS4、ステップS5)。この警告灯の点灯により、運転者は、システム異常(正常動作しない車体傾動装置21F,21R)があることを認識できる。
【0049】
さらに、車体傾動制御装置は、前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定すると、該前側車体傾動装置21Fへの駆動電力の供給を停止する(前記ステップS7)。これにより、前側車体傾動装置21Fは、駆動されていない状態、すなわち、フリーな状態になる。
一方、車体傾動制御装置は、後側車体傾動装置21Rが正常でないと判定すると、該後側車体傾動装置21Rへの駆動電力の供給を停止する(前記ステップS13)。これにより、後側車体傾動装置21Rは、駆動されていない状態、すなわち、フリーな状態になる。
ここで、車体傾動装置が正常でない例としては、モータ等の駆動源が機械的に正常動作しなくなったり、センサが正常動作しなくなったりすることがある。
【0050】
車体傾動制御装置は、このように正常でないとの判定をした車体傾動装置への駆動電力の供給を停止した後、中立姿勢制御を行う(前記ステップS8→ステップS9又はステップS14→ステップS15)。すなわち、車体傾動制御装置は、中立姿勢制御指令値や姿勢維持指令値を適宜、正常と判定した車体傾動装置に出力して、車体姿勢を中立姿勢に変化させる。そして、車体傾動制御装置は、車体姿勢が中立姿勢になったとき、その中立姿勢をロックする(前記ステップS10)。すなわち、車体傾動制御装置は、回転モータ81が回転しないようにする。これにより、車体姿勢は、中立姿勢で固定されるようになる。
【0051】
このように、車体傾動制御装置は、車体傾動装置が正常でないと判定した場合、正常と判定した他の車体傾動装置を駆動制御して車体姿勢を中立姿勢にすることで、走行中の車両状態を良好に保つことができる。
例えば、車体傾動装置が正常動作しなくなり車体姿勢が傾斜した状態で維持されてしまうと、旋回時の横加速度が大きい等の走行条件によっては、車両重心が車幅方向に大きくずれていることで、車両がさらに大きく傾斜してしまう場合もある。
【0052】
このような場合でも、本実施形態では、車体傾動装置が正常でないと判定すると、正常と判定した他の車体傾動装置を駆動制御して車体姿勢を中立姿勢にすることで、車両重心を車両中心側に移動させて、走行中の車両状態を良好に保つことができる。
また、車体傾動制御装置は、車体姿勢を中立姿勢にしたときには、車輪駆動装置1により制御される車輪の駆動力を制限して、車両の横加速度が増加してしまうのを抑制している(前記ステップS11、ステップS12)。
【0053】
図7は、輪荷重変動(図7(a))及び旋回横加速度(図7(b))の経時変化を示す。
図7(a)において、実線は、駆動力を制限して横加速度の増加を抑制した場合の結果を示し、点線は、そのような駆動力制限の対処をしていない場合の結果(比較例の結果)を示す。例えば、点線の結果は、車体を中立姿勢にしたときに車体が大きく傾斜しないことを条件として得た結果である。
【0054】
図7(b)は、図7(a)のそれら結果に対応しており、実線は、駆動力を制限して横加速度の発生を抑制した場合の結果を示し、点線は、そのような駆動力を制限する対処をしていない場合の結果を示す。
図7(a)に示すように、横加速度の増加を抑制することで(実線)、そうでない場合(点線)と比較して、輪荷重の変動を抑制できるのがわかる。このように、輪荷重の変動を抑制できるので、図7(b)に示すように、旋回横加速度(旋回横加速度設定値)を大きい値に設定することが可能になる。
【0055】
なお、この実施形態では、前後の車体傾動装置21F,21Rは車体傾動手段に対応する。また、制御演算コントローラ30及び車体傾動装置駆動部25F,25Rは駆動制御手段に対応する。また、車体傾動装置異常判定部31は判定手段に対応する。また、車体傾動停止装置26F,26Rは車体姿勢ロック手段に対応する。また、取付フランジ91、ブレーキライニング92、及び可動鉄心93はロック手段に対応する。また、電磁コイル98はロック駆動手段に対応する。また、横加速度制限演算部42は横加速度制限手段に対応する。
【0056】
(本実施形態の効果)
(1)互いに車両前後方向に離して配置され、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な2以上の車体傾動手段を備える。駆動制御手段は、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、各車体傾動手段を駆動制御する。さらに、判定手段は、各車体傾動手段が正常か否かを判定する。
そして、駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定すると、判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする。
また、車体姿勢ロック手段は、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
【0057】
このように、車体傾動制御装置は、車体傾動手段が正常でないと判定すると、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にして、該中立姿勢で固定する。
これにより、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を傾斜した状態で停止してしまうことを回避して、車両の走行に適合した姿勢にできる。
さらに、運転者は、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする動作を介して、駆動制御手段が正常でないことを知ることができる。
【0058】
(2)横加速度制限手段は、車体の姿勢が中立姿勢に固定されているときに、車両の横加速度の増加を制限する。
これにより、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
(3)横加速度制限手段は、車輪の駆動力を制限して車両の横加速度の増加を制限する。
これにより、車輪に駆動力制御を利用して、車両の横加速度の増加を制限できる。この結果、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
【0059】
(4)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下と判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする。
これにより、車両の横加速度がある程度小さくなっていることを条件として、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にできる。この結果、良好な車両状態を確保しながら、車体の姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0060】
(5)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度がしきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限する。
これにより、車両の横加速度がしきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限して、車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下となったときに、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にすることができる。
この結果、車両の横加速度の観点で良好な車両状態を確保した上で、車体姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0061】
(6)車両のトレッドをbとし、車両の重心高をhuとし、重力加速度をgとした場合、しきい値を、
b・g/(2・hu)
としている(前記(1)式)。
これにより、車両のトレッドb及び車両の重心高huを考慮に入れて、横加速度を判定し、中立姿勢にする判定を行うことができる。
この結果、例えば、通常の四輪車に比べてトレッドが小さい車両でも、不用意に横加速度を制限することなく、車両の姿勢を中立姿勢にすることができる。
(7)駆動制御手段は、判定手段が正常と判定した車体傾動手段の駆動信号の変化度合いを制限することでロール方向の車体の姿勢の変化度合いを制限しつつ、中立姿勢にする。
これにより、車体の姿勢を徐々に変化させて中立姿勢にすることができる。
【0062】
(8)車体姿勢ロック手段では、ロック駆動手段が、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、ロック手段を駆動して車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定することで、車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
このように、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったときに、ロック駆動手段がロック手段を駆動して車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
これにより、中立姿勢にした後は、車体傾動手段を駆動させなくとも、車体姿勢ロック手段により中立姿勢を維持できるようになる。この結果、車体傾動手段を駆動電流で駆動しているような場合には、中立姿勢を維持している期間中は、その駆動電流を出力する必要がなくなり、駆動電流の消費を低減できる。
【0063】
(9)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段が正常でないと判定すると、その正常でない判定された車体傾動手段の駆動制御を停止する。
これにより、正常動作する可能性が低い車体傾動手段の動作により中立姿勢にすることを妨げられることもなく、正常な車体傾動手段により円滑に中立姿勢にすることができる。
【0064】
(本実施形態の変形例)
(1)本実施形態では、車輪の駆動力を制限して、車両の横加速度の増加を制限している。これに対して、車輪の転舵を制限して、車両の横加速度の増加を制限することもできる。
図8は、その構成例を示す。図8に示すように、車両は、ステアリングホイール41からの入力角(操舵角)に対する出力角(ステアリングシャフト又はピニオンの出力角)を変更可能なタイヤ転舵装置61を有する。タイヤ転舵装置61は、例えば、可変ギヤ比機構やいわゆるステア・バイ・ワイヤシステムである。さらに、車両は、タイヤ転舵角を検出するタイヤ転舵角検出部62と、タイヤ転舵装置61を駆動制御するタイヤ転舵装置駆動部63とを有する。
【0065】
このような構成により、タイヤ転舵装置駆動部63は、横加速度制限演算部42からの横加速度制限指令値に応じて、タイヤ転舵装置61を駆動制御する。例えば、タイヤ転舵装置61は、ステアリングホイール41からの入力角(操舵角)が大きくなる場合でも、出力角(ステアリングシャフト又はピニオンの出力角)を所定値(上限値)で制限したり、出力角の増加割合を制限したりする。
これにより、車輪の転舵操作を利用して、車両の横加速度の増加を制限できる。この結果、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
【0066】
(2)中立姿勢制御指令値の特性を、図9及び図10に示すような特性にすることもできる。すなわち、図9に示すように、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくすることもできる。また、図10に示すように、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくするとともに、そのときの中立姿勢制御指令値を、緩和曲線等を描くように変化させることもできる。また、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくし、その後、車両の横加速度が小さくなったとき(予め設定したしきい値以下になったとき)、中立姿勢制御指令値を通常の大きさにする(通常の変化割合で増加させる)こともできる。
これにより、車体の姿勢を徐々に変化させて中立姿勢にすることができる。
【0067】
(3)本実施形態では、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限することとして、車体傾斜角を維持している。これに対して、ロール方向の車体姿勢の変化度合いに制限をかけることもできる。例えば、前記図6、図9及び図10に示すような中立姿勢制御指令値により実現される車体姿勢の変化度合いよりも低い変化度合いとすることで、ロール方向の車体姿勢の変化度合いに制限をかけることもできる。
これにより、良好な車両状態を確保しながら、車体の姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0068】
(4)本実施形態では、車両前後方向に2つの車体傾動装置21F,21Rを配置している。これに対して、車両前後方向に3つ以上の車体傾動装置を配置することもできる。
これにより、3つ以上の車体傾動装置を搭載した車両においても、車体傾動手段が正常でないと判定すると、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にして、該中立姿勢で固定できる。
この結果、3つ以上の車体傾動装置を搭載した車両においても、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を傾斜した状態で停止してしまうことを回避して、車両の走行に適合した姿勢にできる。
【符号の説明】
【0069】
21F,21R 車体傾動装置(車体傾動手段)、25F,25R 車体傾動装置駆動部(駆動制御手段)、26 車体傾動停止装置、30 制御演算コントローラ(駆動制御手段)、31 車体傾動装置異常検出部(判定手段)、40 姿勢制御演算部、41 車体傾斜角演算部、42 横加速度制限演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じてロール方向で車体の傾動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、転舵時に、油圧式傾斜シリンダによって、乗員が乗車する車体(乗車台、キャビン)が車輪接地面に対して傾く車両を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−545577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、車体を傾動させる装置が正常でない場合に、車体が傾斜した状態で停止してしまう恐れがある。
しかし、傾斜した状態で停止した車体の姿勢が、車両の走行に適合した姿勢とならない場合がある。
本発明の課題は、車体を傾動させる装置が正常でない場合に、車体の姿勢を車両の走行に適合した姿勢にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な車体傾動手段を、車両前後方向に離して2以上配置する。また、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、車体傾動手段を駆動制御する。
そして、本発明は、車体傾動手段が正常でないと判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、ロール方向の車体の姿勢を中立姿勢にする。さらに、その中立姿勢で車体の姿勢を固定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車体の姿勢を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢がロール方向で中立姿勢となり、該中立姿勢で固定されるので、車体の姿勢が傾斜した状態で停止してしまうことを回避できる。
このように、本発明によれば、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を車両の走行に適合した姿勢にできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車体傾動制御装置の構成を示す図である。
【図2】車体傾動装置の構成例を示す図である。
【図3】車体傾動停止装置の具体例となる電磁ブレーキの構成を示す図である。
【図4】車体傾動制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】中立姿勢制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】中立姿勢制御指令値の経時変化を示す特性図である。
【図7】輪荷重変動((a))及び旋回横加速度((b))の経時変化を示す特性図である。
【図8】本実施形態の車体傾動制御装置の他の構成を示す図である。
【図9】中立姿勢制御指令値の他の経時変化を示す特性図である。
【図10】中立姿勢制御指令値のさらに他の経時変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(構成)
図1は、本発明を適用した車体傾動制御装置を搭載した車両の構成を示す。
車両は、駆動系として、車輪駆動装置1及び車輪駆動制御部2を有する。車輪駆動制御部2は、運転者のアクセルペダル信号に応じて車輪駆動装置1に指令値を出力する。車輪駆動装置1は、入力された指令値に応じて駆動輪となる後輪3Rを駆動する。
また、車両は、転舵部4を有する。転舵部4は、ステアリングホイール5を介して入力された運転者の操舵操作に応じて、転舵輪となる前輪3Fを転舵する。転舵部4は、例えば、ラック&ピニオン等の構成を有する。
また、車両は、車輪速検出部11、横加速度検出部12及びステアリングホイール角検出部13を有する。
【0009】
車輪速検出部11は、車速を推定するためのものである。車輪速検出部11は、後輪3Rの回転角速度を検出する。車輪速検出部11は、例えば、エンコーダやレゾルバ、ホールセンサ等である。例えば、車輪速検出部11を車輪駆動装置1内に設ける。車輪速検出部11は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
横加速度検出部12は、車両の横加速度を検出する。横加速度検出部12は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
【0010】
ステアリングホイール角検出部13は、ステアリングホイール5のステアリングホイール操舵角を検出する。ステアリングホイール角検出部13は、例えば、エンコーダである。ステアリングホイール角検出部13は、検出値を姿勢制御演算部40に出力する。
そして、図1に示すように、車両は、車体傾動装置21F,21R、モータ角検出部22F,22R、モータ電流値検出部23F,23R、車体傾斜角検出部24、車体傾動装置駆動部25F,25R、車体傾動停止装置26F,26R、車体傾動停止装置駆動部27、及び制御演算コントローラ30を有する。
【0011】
車体傾動装置21F,21Rは、車両前後方向軸を中心にして車体(乗車台)50を回動させる。すなわち、車体傾動装置21F,21Rは、車体50をロール方向に傾動させる。本実施形態では、2つの車体傾動装置21F,21Rを、車両の前後それぞれに配置している。この前後の車体傾動装置21F,21Rは、モータを駆動源として有している。
【0012】
図2は、車体傾動装置21(21F,21R)及び懸架部70の構成例を示す。図2に示すように、車両の懸架部70のサスペンションは、ダブルウイッシュボーン式サスペンションとなる。このサスペンションは、上下一対の、V字型のアーム71,72で車輪3を懸架している。ショックアブソーバ73は、その下部マウントをサスペンションの下側アーム72に取り付けている。このショックアブソーバ73は不図示のブラケットを備えている。ブラケットにより、ショックアブソーバ73が挿通されているコイルばね74を該ショックアブソーバ73に取り付けている。そして、ショックアブソーバ73は、上部マウントが車体傾動部21(具体的にはアーム部材82の端部)に取り付けられた状態になっている。
【0013】
車体傾動部21は、回転モータ81及びアーム部材82を有する。アーム部材82は、減速機等を介して回転モータ81の回転軸と連結している。アーム部材82は、回転中心から車両の左右方向にそれぞれ延びる形状となる。アーム部材82は、その延在する端部にショックアブソーバ73の上端部を取り付けている。この図2では、アーム部材82の一方の端部にだけショックアブソーバ73の上端部を取り付けている状態を示すが、実際には、アーム部材82の両方の端部に、左右輪それぞれのショックアブソーバ73の上端部を取り付けている。
【0014】
このような構造において、車体傾動装置駆動部25が回転モータ81を駆動すると、アーム部材82が回動する。この回動により、ショックアブソーバ73には、その軸方向に力が作用する。この結果、ショックアブソーバ73の軸方向に作用する力が該ショックアブソーバ73を縮めるように作用する場合、すなわちアーム部材82の端部が地面に近づく場合、車両幅方向でそのアーム部材82の端部が位置する車体側が上方に持ち上げられるようになる。つまり、車両正面からみた場合にアーム部材82が時計方向に回転するときには、車体50は、その反対の反時計方向に回動し傾くようになる(傾動するようになる)。
【0015】
図1に示すように、モータ角検出部22F,22Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rそれぞれに対応した配置になっている。モータ角検出部22F,22Rは、各車体傾動装置21F,21Rの回転角を検出する。具体的には、モータ角検出部22F,22Rは、車体傾動装置21F,21Rを駆動するモータの回転角を、車体傾動装置21F,21Rの回転角として検出する。モータ角検出部22F,22Rは、例えばエンコーダやレゾルバ等である。モータ角検出部22F,22Rは、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
【0016】
モータ電流値検出部23F,23Rは、車体傾動装置21F,21Rそれぞれ対応した配置となっている。モータ電流値検出部23F,23Rは、各車体傾動装置21F,21Rの駆動電流を検出する。すなわち、モータ電流値検出部23F,23Rは、車体傾動装置21F,21Rの駆動源がモータとなる場合に、そのモータの駆動電流を検出する。モータ電流値検出部23F,23Rは、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
車体傾斜角検出部24は、車体のロール方向の傾斜角を検出する。車体傾斜角検出部24は、例えばエンコーダ等である。車体傾斜角検出部24は、検出値を制御演算コントローラ30に出力する。
【0017】
車体傾動装置駆動部25F,25Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rに対応した配置となっている。車体傾動装置駆動部25F,25Rは、前後の車体傾動装置21F,21Rを個別に駆動する。これにより、前後の車体傾動装置21F,21Rの駆動は、互いに独立したものとなる。車体傾動装置駆動部25F,25Rは、制御演算コントローラ30(姿勢制御演算部40)からの指令を基に、車体傾動装置21F,21Rを駆動する。
車体傾動停止装置26F,26Rは、ロール方向の所定角度で車体の姿勢を維持するための装置である。
【0018】
図3は、車体傾動停止装置26F,26Rの具体例となる電磁ブレーキの構成を示す。この場合、回転モータ81は、電磁ブレーキ付きモータとなる。
図3に示すように、車体傾動停止装置26F,26Rでは、軸体(回転軸)の軸方向に、取付フランジ91、ブレーキライニング(ロータ)92、可動鉄心(アマチュア)93をその順番で配置した構成となる。取付フランジ91は、モータの筐体等に固定された固定側となる。また、ブレーキライニング92は、ハブ95を介して軸体94の端部94aに固定された構成となる。
【0019】
取付フランジ91の外周部には、調整ボルト96を配置している。ここで、調整ボルト96の一端を取付フランジ91の外周部に固定している。図示しないが、取付フランジ91の外周部には、一定間隔で複数本の調整ボルト96を配置している。
また、ステータ97が、モータの筐体等に取り付けてある。ステータ97は、電磁コイル98を内蔵している。可動鉄心93が、このステータ97とブレーキライニング92との間に配置された構成になる。
【0020】
可動鉄心93は、外周部に複数の孔を有している。可動鉄心93の複数の孔には、それぞれ調整ボルト96を挿通している。これにより、可動鉄心93は、調整ボルト96に支持されつつ、軸方向で移動可能となる。
各調整ボルト96には、端部にナット99を取り付けている。各調整ボルト96には、そのナット99と可動鉄心との間に、トルクスプリング100を嵌挿している。さらに、各調整ボルト96には、可動鉄心93と取付フランジ91との間に、戻しスプリング101を嵌挿している。
【0021】
このような構成により、車体傾動停止装置26F,26Rは、電磁コイル98に電圧を印加しない状態では、トルクスプリング100の弾性力によって、可動鉄心93をブレーキライニング92に押し付けている。これにより、車体傾動停止装置26F,26Rは、回転モータ81が回転しないようにしている。そして、車体傾動停止装置26F,26Rは、電磁コイル98に電圧を印加することで、トルクスプリング100の弾性力に抗して、可動鉄心93とブレーキライニング92との間に隙間を発生させる(電磁ブレーキを解除する)。これにより、車体傾動停止装置26F,26Rは、回転モータ81を回転可能な状態にしている。
【0022】
車体傾動停止装置駆動部27は、車体傾動停止装置26F,26Rを駆動する。車体傾動停止装置駆動部27は、制御演算コントローラ30(姿勢制御演算部40)からの指令を基に、車体傾動停止装置26F,26Rを駆動する。
制御演算コントローラ30は、車体傾動制御装置のシステム全体の制御を行う。そのため、制御演算コントローラ30は、図1に示すように、車体傾動装置異常判定部31、及び姿勢制御演算部40を有する。さらに、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角演算部41、及び横加速度制限演算部42を有する。
【0023】
車体傾動装置異常判定部31は、モータ角検出部22F,22R、モータ電流値検出部23F,23R及び車体傾斜角検出部24の検出結果を基に、車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する。車体傾動装置異常判定部31は、判定結果を姿勢制御演算部40(特に車体傾斜角演算部41)に出力する。
車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31の判定結果を基に、車体傾動装置駆動部25F,25Rや車体傾動停止装置駆動部27に指令を出す。
【0024】
具体的には、車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの両方が正常であると判定した場合に、ステアリングホイール角検出部13や車輪速検出部11の検出結果を基に、目標とする車体傾斜角(車体傾動角)を算出する。そして、車体傾斜角演算部41は、その算出した車体傾斜角を指令値として、車体傾動装置駆動部25F,25Rに出力する。
【0025】
また、車体傾斜角演算部41は、車体傾動装置異常判定部31が車体傾動装置21F,21Rの何れかが正常でないと判定した場合、中立姿勢制御を行う。すなわち、車体傾斜角演算部41は、正常でないと判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか一方)への駆動電力の供給を停止するよう、車体傾動停止装置駆動部27に指令を出す。さらに、姿勢制御演算部40は、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか他方)を駆動して車体姿勢を中立姿勢にするよう、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に指令を出す。
横加速度制限演算部42は、車両の横加速度の増加を制限する指令を車輪駆動制御部2に出力する。
【0026】
図4は、車体傾動制御装置の処理手順を示す。図4に沿って、車体傾動制御装置の処理手順を説明するとともに、車体傾動制御装置の各構成の処理についてもさらに詳しく説明する。
先ずステップS1において、車体傾動装置異常判定部31は、前後の車体傾動装置21F,21Rが正常か否かを判定する。
具体的には、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fに備えるモータ角検出部22Fの検出値と、後側車体傾動装置21Rに備えるモータ角検出部22Rの検出値とを比較する。そして、車体傾動装置異常判定部31は、その比較結果として得たそれら検出値の差分値がしきい値以下の場合、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定する。このしきい値は、該検出値の差分値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0027】
又は、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fに備えるモータ電流値検出部23Fの検出値と、後側車体傾動装置21Rに備えるモータ電流値検出部23Rの検出値とを比較する。そして、車体傾動装置異常判定部31は、その比較結果として得たそれら検出値の差分値がしきい値以下の場合、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定する。このしきい値は、該検出値の差分値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0028】
又は、車体傾動装置異常判定部31は、モータ角検出部の検出値やモータ電流値検出部の検出値が一定の範囲内にあるか否かを判定する。例えば、前側車体傾動装置21Fについて言うと、モータ角検出部22Fの検出値やモータ電流値検出部23Fの検出値を、しきい値と比較して、その比較結果を基に、前側車体傾動装置21Fが正常か否かを判定する。このしきい値は、該検出値の判定のために予め設定した値であり、例えば、実験値、経験値又は理論値である。
【0029】
車体傾動装置異常判定部31は、このステップS1の判定結果として車体傾動装置21F,21Rの何れもが正常であるとの結果を得た場合、ステップS2に進む。また、車体傾動装置異常判定部31は、このステップS1の判定結果が車体傾動装置21F,21Rが正常でないとの結果になった場合(検出値の差分値がしきい値よりも大きい場合)、ステップS4に進む。
ステップS2では、制御演算コントローラ30は、異常検出フラグをクリア(例えば“0”)にする。
【0030】
そして、続くステップS3において、車体傾斜角演算部41は、目標とする車体傾斜角を演算する。車体傾斜角演算部41は、車体傾斜角の演算では、ステアリングホイール角検出部13や車輪速検出部11の検出値を基に、目標とする車体傾斜角を算出する。このとき、車体傾斜角演算部41は、例えば運転者からの入力であるステアリングホイール操舵角に対する一次遅れ特性や、車輪速から推定される車速に応じた定常ゲイン特性を考慮して、車体傾斜角を算出する。
【0031】
例えば、車体傾斜角演算部41は、ステアリングホイール操舵角が大きくなるほど、その舵角方向に傾く車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を大きくする。
また、車体傾斜角演算部41は、車速が大きい状態(中速〜高速程度)で、横加速度が大きく、かつステアリングホイール操舵角が大きいとき(大舵角操舵時)、その舵角方向への車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を大きくする。また、車体傾斜角演算部41は、車速が小さい状態(低速)で、かつステアリングホイール操舵角が小さいとき(小舵角操舵時)、その舵角方向への車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を小さくする。
【0032】
車体傾斜角演算部41は、算出した車体傾斜角(目標の車体傾斜角)を傾斜角指令値として、車体傾動装置駆動部25F,25Rに出力する。
これにより、車体傾動装置駆動部25F,25Rは、傾斜角指令値に応じた駆動電流により車体傾動装置21F,21Rを駆動し、車体(乗車台)の傾斜角を車体傾斜角演算部41が算出した車体傾斜角にする。このとき、車体傾斜角検出部24の検出値を用いて車体傾斜角の制御(F/B制御)を行う。
【0033】
ステップS4では、制御演算コントローラ30は、異常検出フラグを立てる(例えば“1”にする)。続いてステップS5において、制御演算コントローラ30は、警告灯を点灯させる。
続いてステップS6において、車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fが正常か否かを判定する。車体傾動装置異常判定部31は、前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定した場合、ステップS7に進む。また、車体傾動装置異常判定部31は、そうでない場合、すなわち、後側車体傾動装置21Rが正常でないと判定した場合、ステップS13に進む。
【0034】
ステップS7では、姿勢制御演算部40は、前側車体傾動装置駆動部25Fから前側車体傾動装置21Fへの駆動電力の供給を停止する。
続いてステップS8において、姿勢制御演算部40は、中立姿勢制御を行う。なお、後述のステップS14でも、姿勢制御演算部40は、同様な中立姿勢制御を行う。
図5は、中立姿勢制御の処理手順を示す。図5に示すように、先ずステップS21において、姿勢制御演算部40は、横加速度検出部12の検出値(横加速度センサ信号)を取得する。
【0035】
ステップS22では、姿勢制御演算部40は、下記(1)式により中立姿勢に戻しても、車体が遠心力により大きく傾くことがないか否かを判定する。
b/(2・hu)<m・|ay|/(m・g) ・・・(1)
この(1)式は、いわゆるハンドリングロールオーバーの条件式である。ここで、b,huは、予め決められた車両諸元である。具体的には、bは車両のトレッドである。huは車両の重心高である。ayは、前記ステップS21で取得した横加速度である。mは車両重量である。gは重力加速度である。
【0036】
ここで、姿勢制御演算部40は、前記(1)式が成立しない場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いと判定して、ステップS23に進む。また、姿勢制御演算部40は、前記(1)式が成立する場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定して、ステップS25に進む。
横加速度|ay|に着目して言い換えると、姿勢制御演算部40は、横加速度|ay|が予め設定したしきい値(この場合、b・g/(2・hu))以下の場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いと判定し、ステップS23に進む。また、姿勢制御演算部40は、横加速度|ay|が予め設定したしきい値(この場合、b・g/(2・hu))よりも大きい場合、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定し、ステップS25に進む。
【0037】
ステップS23では、姿勢制御演算部40は、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を算出する。続いてステップS24において、姿勢制御演算部40は、前記ステップS23で算出した中立姿勢制御指令値を、正常であると判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動する車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に出力する。そして、該図5(ステップS8)に示す処理を終了する。
これにより、正常であると判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動して、車体姿勢がロール方向で中立姿勢になる。
ここで、前記ステップS6で前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定して、ステップS8にて中立姿勢制御を実施する場合には、正常な車体傾動装置とは、後側車体傾動装置21Rになる。
【0038】
図6は、中立姿勢制御指令値の特性図の一例を示す。図6では、中立姿勢制御指令値の経時変化を示す。図6に示すように、経過時間に比例して、中立姿勢制御指令値が大きくなる。これにより、車両は、目標の変化度合いで車体姿勢が変化し、時間経過にともない徐々に中立姿勢に近付くようになる。すなわち、車両は、ロール方向の車体姿勢の変化度合いが制限されつつ、中立姿勢になる。
【0039】
ステップS25では、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角を変えないようにする姿勢維持指令値を算出する。続いてステップS26において、姿勢制御演算部40は、前記ステップS25で算出した姿勢維持指令値を、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)を駆動する車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に出力する。 これにより、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)は、姿勢維持指令値に応じて、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)への駆動信号を停止する。この結果、車体傾斜角を維持することができる。
【0040】
また、車体傾斜角を維持するために、姿勢制御演算部40が、車体傾動停止装置駆動部27を駆動させることもできる。この場合、車体傾動停止装置駆動部27は、姿勢制御演算部40からの姿勢維持指令値に応じて、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)に対応する車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)を駆動制御する。この結果、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)では、電磁コイル98への電圧印加が停止し、ブレーキライニング92に可動鉄心93が押し付けられた状態となる。これにより、回転モータ81は、回転が停止されて、その回転停止状態で固定(維持)されるようになる。このようにすることで、車体傾斜角を維持することができる。
【0041】
前記図5の処理に続いて、図4のステップS9において、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。このとき、姿勢制御演算部40は、車体傾斜角検出部24の検出値(車体傾斜角)を基に、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢の場合、ステップS10に進む。また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢でない場合、前記ステップS8に進む。
【0042】
以上のステップS8及びステップS9の処理により、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いときには、姿勢維持指令値を後側車体傾動装置駆動部25Rに出力する。
また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いときには、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を後側車体傾動装置駆動部25Rに出力する。
【0043】
ステップS10では、姿勢制御演算部40は、中立姿勢をロックする。具体的には、姿勢制御演算部40は、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)に、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)の停止指令を出力する。これにより、車体傾動装置駆動部(25F及び25Rの何れか)は、正常と判定した車体傾動装置(21F及び21Rの何れか)の駆動を停止させる。
【0044】
その一方で、姿勢制御演算部40は、車体傾動停止装置駆動部27にロック指令を出力する。これにより、車体傾動停止装置駆動部27は、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)を駆動制御する。この結果、車体傾動停止装置(26F及び26Rの何れか)では、電磁コイル98への電圧印加が停止し、ブレーキライニング92に可動鉄心93が押し付けられた状態となる。これにより、回転モータ81は、回転が停止されて、その回転停止状態で固定(維持)されるようになる。
【0045】
続いてステップS11において、横加速度制限演算部42は、横加速度制限演算を行う。横加速度制限演算部42は、横加速度制限演算では、横加速度制限指令値を算出する。横加速度制限指令は、車輪駆動装置1を制御する指令値である。横加速度制限指令値は、車両に過剰な横加速度が発生、又は横加速度が増加してしまうのを抑制する指令値となる。例えば、横加速度制限指令値は、車輪駆動装置1を駆動する駆動電流値に上限値を設けたり、駆動電流値の増加割合に制限を設けたりする指令である。
横加速度制限演算部42は、算出した横加速度制限指令値を車輪駆動制御部2に出力する。
【0046】
また、ステップS13及びステップS14では、姿勢制御演算部40は、前記ステップS7及びステップS8とは反対の車体傾動装置に対して、該前記ステップS7及びステップS8の処理と同様な処理を行う。
すなわち、ステップS13では、姿勢制御演算部40は、後側車体傾動装置駆動部25Rから後側車体傾動装置21Rへの駆動電力の供給を停止する。
続いてステップS14において、姿勢制御演算部40は、中立姿勢制御を行う。このとき、姿勢制御演算部40は、正常と判定した前側車体傾動装置21Fを駆動する前側車体傾動装置駆動部25Fに、中立姿勢制御指令値や姿勢維持指令値を出力して、車体姿勢を中立姿勢にする(前記図5参照)。
【0047】
続いてステップS15において、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢か否かを判定する。姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢の場合、前記ステップS10に進む。また、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢でない場合、前記ステップS14に進む。
以上のステップS14及びステップS15の処理により、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いときには、姿勢維持指令値を前側車体傾動装置駆動部25Fに出力する。そして、姿勢制御演算部40は、車体姿勢が中立姿勢に至るまでの期間中、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が低いときには、車体姿勢を中立姿勢にするための中立姿勢制御指令値を前側車体傾動装置駆動部25Fに出力する。
【0048】
(動作及び作用)
車体傾動制御装置は、前後の車体傾動装置21F,21Rがともに正常であると判定した場合、異常検出フラグをクリアにするとともに、車体傾動装置21F,21Rを駆動する(前記ステップS1〜ステップS3)。これにより、車体50の姿勢は、ステアリングホイール操舵角等に応じた車体傾斜角になる。
また、車体傾動制御装置は、前後の車体傾動装置21F,21Rの何れかが正常でないと判定すると、異常検出フラグを立てるとともに、警告灯を点灯させる(前記ステップS1→ステップS4、ステップS5)。この警告灯の点灯により、運転者は、システム異常(正常動作しない車体傾動装置21F,21R)があることを認識できる。
【0049】
さらに、車体傾動制御装置は、前側車体傾動装置21Fが正常でないと判定すると、該前側車体傾動装置21Fへの駆動電力の供給を停止する(前記ステップS7)。これにより、前側車体傾動装置21Fは、駆動されていない状態、すなわち、フリーな状態になる。
一方、車体傾動制御装置は、後側車体傾動装置21Rが正常でないと判定すると、該後側車体傾動装置21Rへの駆動電力の供給を停止する(前記ステップS13)。これにより、後側車体傾動装置21Rは、駆動されていない状態、すなわち、フリーな状態になる。
ここで、車体傾動装置が正常でない例としては、モータ等の駆動源が機械的に正常動作しなくなったり、センサが正常動作しなくなったりすることがある。
【0050】
車体傾動制御装置は、このように正常でないとの判定をした車体傾動装置への駆動電力の供給を停止した後、中立姿勢制御を行う(前記ステップS8→ステップS9又はステップS14→ステップS15)。すなわち、車体傾動制御装置は、中立姿勢制御指令値や姿勢維持指令値を適宜、正常と判定した車体傾動装置に出力して、車体姿勢を中立姿勢に変化させる。そして、車体傾動制御装置は、車体姿勢が中立姿勢になったとき、その中立姿勢をロックする(前記ステップS10)。すなわち、車体傾動制御装置は、回転モータ81が回転しないようにする。これにより、車体姿勢は、中立姿勢で固定されるようになる。
【0051】
このように、車体傾動制御装置は、車体傾動装置が正常でないと判定した場合、正常と判定した他の車体傾動装置を駆動制御して車体姿勢を中立姿勢にすることで、走行中の車両状態を良好に保つことができる。
例えば、車体傾動装置が正常動作しなくなり車体姿勢が傾斜した状態で維持されてしまうと、旋回時の横加速度が大きい等の走行条件によっては、車両重心が車幅方向に大きくずれていることで、車両がさらに大きく傾斜してしまう場合もある。
【0052】
このような場合でも、本実施形態では、車体傾動装置が正常でないと判定すると、正常と判定した他の車体傾動装置を駆動制御して車体姿勢を中立姿勢にすることで、車両重心を車両中心側に移動させて、走行中の車両状態を良好に保つことができる。
また、車体傾動制御装置は、車体姿勢を中立姿勢にしたときには、車輪駆動装置1により制御される車輪の駆動力を制限して、車両の横加速度が増加してしまうのを抑制している(前記ステップS11、ステップS12)。
【0053】
図7は、輪荷重変動(図7(a))及び旋回横加速度(図7(b))の経時変化を示す。
図7(a)において、実線は、駆動力を制限して横加速度の増加を抑制した場合の結果を示し、点線は、そのような駆動力制限の対処をしていない場合の結果(比較例の結果)を示す。例えば、点線の結果は、車体を中立姿勢にしたときに車体が大きく傾斜しないことを条件として得た結果である。
【0054】
図7(b)は、図7(a)のそれら結果に対応しており、実線は、駆動力を制限して横加速度の発生を抑制した場合の結果を示し、点線は、そのような駆動力を制限する対処をしていない場合の結果を示す。
図7(a)に示すように、横加速度の増加を抑制することで(実線)、そうでない場合(点線)と比較して、輪荷重の変動を抑制できるのがわかる。このように、輪荷重の変動を抑制できるので、図7(b)に示すように、旋回横加速度(旋回横加速度設定値)を大きい値に設定することが可能になる。
【0055】
なお、この実施形態では、前後の車体傾動装置21F,21Rは車体傾動手段に対応する。また、制御演算コントローラ30及び車体傾動装置駆動部25F,25Rは駆動制御手段に対応する。また、車体傾動装置異常判定部31は判定手段に対応する。また、車体傾動停止装置26F,26Rは車体姿勢ロック手段に対応する。また、取付フランジ91、ブレーキライニング92、及び可動鉄心93はロック手段に対応する。また、電磁コイル98はロック駆動手段に対応する。また、横加速度制限演算部42は横加速度制限手段に対応する。
【0056】
(本実施形態の効果)
(1)互いに車両前後方向に離して配置され、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な2以上の車体傾動手段を備える。駆動制御手段は、車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、各車体傾動手段を駆動制御する。さらに、判定手段は、各車体傾動手段が正常か否かを判定する。
そして、駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定すると、判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする。
また、車体姿勢ロック手段は、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
【0057】
このように、車体傾動制御装置は、車体傾動手段が正常でないと判定すると、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にして、該中立姿勢で固定する。
これにより、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を傾斜した状態で停止してしまうことを回避して、車両の走行に適合した姿勢にできる。
さらに、運転者は、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする動作を介して、駆動制御手段が正常でないことを知ることができる。
【0058】
(2)横加速度制限手段は、車体の姿勢が中立姿勢に固定されているときに、車両の横加速度の増加を制限する。
これにより、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
(3)横加速度制限手段は、車輪の駆動力を制限して車両の横加速度の増加を制限する。
これにより、車輪に駆動力制御を利用して、車両の横加速度の増加を制限できる。この結果、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
【0059】
(4)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下と判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にする。
これにより、車両の横加速度がある程度小さくなっていることを条件として、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にできる。この結果、良好な車両状態を確保しながら、車体の姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0060】
(5)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度がしきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限する。
これにより、車両の横加速度がしきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限して、車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下となったときに、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にすることができる。
この結果、車両の横加速度の観点で良好な車両状態を確保した上で、車体姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0061】
(6)車両のトレッドをbとし、車両の重心高をhuとし、重力加速度をgとした場合、しきい値を、
b・g/(2・hu)
としている(前記(1)式)。
これにより、車両のトレッドb及び車両の重心高huを考慮に入れて、横加速度を判定し、中立姿勢にする判定を行うことができる。
この結果、例えば、通常の四輪車に比べてトレッドが小さい車両でも、不用意に横加速度を制限することなく、車両の姿勢を中立姿勢にすることができる。
(7)駆動制御手段は、判定手段が正常と判定した車体傾動手段の駆動信号の変化度合いを制限することでロール方向の車体の姿勢の変化度合いを制限しつつ、中立姿勢にする。
これにより、車体の姿勢を徐々に変化させて中立姿勢にすることができる。
【0062】
(8)車体姿勢ロック手段では、ロック駆動手段が、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、ロック手段を駆動して車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定することで、車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
このように、駆動制御手段が車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったときに、ロック駆動手段がロック手段を駆動して車体の姿勢を該中立姿勢に固定する。
これにより、中立姿勢にした後は、車体傾動手段を駆動させなくとも、車体姿勢ロック手段により中立姿勢を維持できるようになる。この結果、車体傾動手段を駆動電流で駆動しているような場合には、中立姿勢を維持している期間中は、その駆動電流を出力する必要がなくなり、駆動電流の消費を低減できる。
【0063】
(9)駆動制御手段は、判定手段が車体傾動手段が正常でないと判定すると、その正常でない判定された車体傾動手段の駆動制御を停止する。
これにより、正常動作する可能性が低い車体傾動手段の動作により中立姿勢にすることを妨げられることもなく、正常な車体傾動手段により円滑に中立姿勢にすることができる。
【0064】
(本実施形態の変形例)
(1)本実施形態では、車輪の駆動力を制限して、車両の横加速度の増加を制限している。これに対して、車輪の転舵を制限して、車両の横加速度の増加を制限することもできる。
図8は、その構成例を示す。図8に示すように、車両は、ステアリングホイール41からの入力角(操舵角)に対する出力角(ステアリングシャフト又はピニオンの出力角)を変更可能なタイヤ転舵装置61を有する。タイヤ転舵装置61は、例えば、可変ギヤ比機構やいわゆるステア・バイ・ワイヤシステムである。さらに、車両は、タイヤ転舵角を検出するタイヤ転舵角検出部62と、タイヤ転舵装置61を駆動制御するタイヤ転舵装置駆動部63とを有する。
【0065】
このような構成により、タイヤ転舵装置駆動部63は、横加速度制限演算部42からの横加速度制限指令値に応じて、タイヤ転舵装置61を駆動制御する。例えば、タイヤ転舵装置61は、ステアリングホイール41からの入力角(操舵角)が大きくなる場合でも、出力角(ステアリングシャフト又はピニオンの出力角)を所定値(上限値)で制限したり、出力角の増加割合を制限したりする。
これにより、車輪の転舵操作を利用して、車両の横加速度の増加を制限できる。この結果、中立姿勢で固定されている車両に過度な横加速度が発生してしまうことを防止でき、中立姿勢での良好な車両状態を確保できる。
【0066】
(2)中立姿勢制御指令値の特性を、図9及び図10に示すような特性にすることもできる。すなわち、図9に示すように、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくすることもできる。また、図10に示すように、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくするとともに、そのときの中立姿勢制御指令値を、緩和曲線等を描くように変化させることもできる。また、中立姿勢に戻し始めた当初において、中立姿勢制御指令値を小さくし、その後、車両の横加速度が小さくなったとき(予め設定したしきい値以下になったとき)、中立姿勢制御指令値を通常の大きさにする(通常の変化割合で増加させる)こともできる。
これにより、車体の姿勢を徐々に変化させて中立姿勢にすることができる。
【0067】
(3)本実施形態では、中立姿勢に戻すことに起因して車体が大きく傾く可能性が高いと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限することとして、車体傾斜角を維持している。これに対して、ロール方向の車体姿勢の変化度合いに制限をかけることもできる。例えば、前記図6、図9及び図10に示すような中立姿勢制御指令値により実現される車体姿勢の変化度合いよりも低い変化度合いとすることで、ロール方向の車体姿勢の変化度合いに制限をかけることもできる。
これにより、良好な車両状態を確保しながら、車体の姿勢を中立姿勢に変化させることができる。
【0068】
(4)本実施形態では、車両前後方向に2つの車体傾動装置21F,21Rを配置している。これに対して、車両前後方向に3つ以上の車体傾動装置を配置することもできる。
これにより、3つ以上の車体傾動装置を搭載した車両においても、車体傾動手段が正常でないと判定すると、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にして、該中立姿勢で固定できる。
この結果、3つ以上の車体傾動装置を搭載した車両においても、車体を傾動させる車体傾動手段が正常でない場合に、車体の姿勢を傾斜した状態で停止してしまうことを回避して、車両の走行に適合した姿勢にできる。
【符号の説明】
【0069】
21F,21R 車体傾動装置(車体傾動手段)、25F,25R 車体傾動装置駆動部(駆動制御手段)、26 車体傾動停止装置、30 制御演算コントローラ(駆動制御手段)、31 車体傾動装置異常検出部(判定手段)、40 姿勢制御演算部、41 車体傾斜角演算部、42 横加速度制限演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに車両前後方向に離して配置され、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な2以上の車体傾動手段と、
車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、前記各車体傾動手段を駆動制御する駆動制御手段と、
前記各車体傾動手段が正常か否かを判定する判定手段と、
ロール方向の車体の姿勢を固定する車体姿勢ロック手段と、を備え、
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定すると、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にし、
前記車体姿勢ロック手段は、前記駆動制御手段が前記車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定すること
を特徴とする車体傾動制御装置。
【請求項2】
前記車体の姿勢が中立姿勢に固定されているときに、車両の横加速度の増加を制限する横加速度制限手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の車体傾動制御装置。
【請求項3】
前記横加速度制限手段は、車輪の駆動力を制限して車両の横加速度の増加を制限することを特徴とする請求項2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項4】
前記横加速度制限手段は、車輪の転舵を制限して車両の横加速度の増加を制限することを特徴とする請求項2又は3に記載の車体傾動制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下と判定すると、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が前記しきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限することを特徴とする請求項5に記載の車体傾動制御装置。
【請求項7】
車両のトレッドをbとし、車両の重心高をhuとし、重力加速度をgとした場合、前記しきい値は、
b・g/(2・hu)
であることを特徴とする請求項5又は6に記載の車体傾動制御装置。
【請求項8】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段の駆動信号の変化度合いを制限することでロール方向の車体の姿勢の変化度合いを制限しつつ、前記中立姿勢にすることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項9】
前記車体姿勢ロック手段は、前記車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定するロック手段と、前記駆動制御手段が前記車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、前記ロック手段を駆動して前記車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定することで、車体の姿勢を該中立姿勢に固定するロック駆動手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項10】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段が正常でないと判定すると、その正常でないと判定された車体傾動手段の駆動制御を停止することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項11】
ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な車体傾動手段を、車両前後方向に離して2以上配置して、
車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、前記各車体傾動手段を駆動制御し、
前記車体傾動手段の何れかが正常でないと判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、ロール方向の車体の姿勢を中立姿勢にし、
車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定すること
を特徴とする車体傾動制御方法。
【請求項1】
互いに車両前後方向に離して配置され、ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な2以上の車体傾動手段と、
車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、前記各車体傾動手段を駆動制御する駆動制御手段と、
前記各車体傾動手段が正常か否かを判定する判定手段と、
ロール方向の車体の姿勢を固定する車体姿勢ロック手段と、を備え、
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定すると、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にし、
前記車体姿勢ロック手段は、前記駆動制御手段が前記車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定すること
を特徴とする車体傾動制御装置。
【請求項2】
前記車体の姿勢が中立姿勢に固定されているときに、車両の横加速度の増加を制限する横加速度制限手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の車体傾動制御装置。
【請求項3】
前記横加速度制限手段は、車輪の駆動力を制限して車両の横加速度の増加を制限することを特徴とする請求項2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項4】
前記横加速度制限手段は、車輪の転舵を制限して車両の横加速度の増加を制限することを特徴とする請求項2又は3に記載の車体傾動制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が予め設定されたしきい値以下と判定すると、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段を駆動制御して、車体の姿勢をロール方向で中立姿勢にすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段の1つが正常でないと判定し、かつ車両の横加速度が前記しきい値よりも大きいと判定すると、ロール方向の車体の姿勢の変化を制限することを特徴とする請求項5に記載の車体傾動制御装置。
【請求項7】
車両のトレッドをbとし、車両の重心高をhuとし、重力加速度をgとした場合、前記しきい値は、
b・g/(2・hu)
であることを特徴とする請求項5又は6に記載の車体傾動制御装置。
【請求項8】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が正常と判定した車体傾動手段の駆動信号の変化度合いを制限することでロール方向の車体の姿勢の変化度合いを制限しつつ、前記中立姿勢にすることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項9】
前記車体姿勢ロック手段は、前記車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定するロック手段と、前記駆動制御手段が前記車体傾動手段を駆動制御したことで車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、前記ロック手段を駆動して前記車体傾動手段の動作を停止させて、停止状態を固定することで、車体の姿勢を該中立姿勢に固定するロック駆動手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項10】
前記駆動制御手段は、前記判定手段が前記車体傾動手段が正常でないと判定すると、その正常でないと判定された車体傾動手段の駆動制御を停止することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項11】
ロール方向に車体の姿勢を傾動可能な車体傾動手段を、車両前後方向に離して2以上配置して、
車輪を転舵させる運転者の運転操作に応じて、前記各車体傾動手段を駆動制御し、
前記車体傾動手段の何れかが正常でないと判定すると、正常な車体傾動手段を駆動制御して、ロール方向の車体の姿勢を中立姿勢にし、
車体の姿勢がロール方向で中立姿勢になったと判定すると、車体の姿勢を該中立姿勢に固定すること
を特徴とする車体傾動制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−11575(P2011−11575A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155245(P2009−155245)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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