説明

電動車両の電気システムおよびその制御方法

【課題】電動機の温度上昇の抑制と、車両駆動力の確保とを両立するように、コンバータの出力電圧を適切に設定する。
【解決手段】
コンバータ15の出力電圧VHは、モータジェネレータMG1を駆動制御するインバータ20およびモータジェネレータMG2を駆動制御するインバータ30に対して共通に与えられる。制御装置50は、モータジェネレータMG1,MG2の動作状態に応じて、出力電圧VHの指令値を設定する。出力電圧VHの電圧指令値は、走行制御に基づいて決められたモータジェネレータMG1,MG2の動作点に従った出力を確保するためのVH下限値と、モータジェネレータMG1,MG2の当該動作点でのモータ損失を最小とするためのVH候補電圧とのうちの最大値に従って設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電動車両の電気システムおよびその制御方法に関し、より特定的には、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流電動機を駆動する電動機制御システムの一形式として、コンバータによって可変制御された直流電圧を、インバータによって交流電動機を駆動制御する交流電圧に変換する構成が、たとえば特開2007−325351号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
特開2007−325351号公報(特許文献1)では、システムの全体効率を向上させるように、コンバータ出力電圧の電圧指令値を決定する制御システムが記載されている。
【0004】
同様に、特開2007−325397号公報(特許文献2)には、特許文献1と同様の構成において、複数の電動機のそれぞれの損失を推定するとともに、損失の推定値が最大となる電動機の端子間電圧の合成ベクトルである相電圧と、コンバータの出力電圧に応じて設定される目標電圧との差を減少させるように、コンバータによりインバータに供給される直流電力の電圧を変更する制御装置が記載されている。
【0005】
また、ハイブリッド車両の電動機制御において、電動機の過熱を防止するための技術として、特開2009−196415号公報(特許文献3)には、電動機温度が所定の基準温度を変えた場合に、トルク指令値を走行制御のために算出された値よりも低減することが記載されている。同様に、特開2009−124877号公報(特許文献4)には、電動機温度が高いときには、コンバータからインバータに供給される直流電圧を低くするように補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−325351号公報
【特許文献2】特開2007−325397号公報
【特許文献3】特開2009−196415号公報
【特許文献4】特開2009−124877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載されるように、システム全体の電力損失を低減するようにコンバータ出力電圧を決定すれば、車両全体でのエネルギ効率、すなわち燃費向上を図ることができる。
【0008】
しかしながら、電気システムの全体効率を向上させるために設定したコンバータ出力電圧が、電動機(モータジェネレータ)単体での損失を最小にするための電圧とは一致しない場合がある。一例として、電動機の損失が最小とはならない電圧において、インバータおよびコンバータ等でのスイッチング損失が低下することによって、全体効率が最小となる場合があるからである。
【0009】
一方、電動車両に搭載される電動機は小型化の要求が高い。ただし、電動機を小型化すると、熱容量が小さくなるため、損失に対する温度上昇の感度が高くなる。したがって、特許文献1,2に記載された直流電圧の設定をそのまま適用すると、燃費が抑制される一方で、電動機の温度上昇が問題となる虞がある。
【0010】
また、特許文献3によれば、電動機の温度上昇時には、電動機のトルク制限によって過熱を防止するので、電動機の出力トルクは、走行制御によって設定されたトルクよりも低減される。特許文献3には、エンジントルクを高めることによって、電動機でのトルク制限による車両全体での駆動力不足を回避することが記載されている。しかしながら、電動機のトルク応答速度と比較すると、エンジンのトルク応答速度は緩やかであるため、電動機のトルク制限が発生すると、瞬間的に車両全体での駆動力の確保が困難となり、運転性に影響を与える可能性がある。このため、電動機のトルク制限が必要となる前段階で、電動機の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0011】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムにおいて、電動機の温度上昇の抑制と、車両駆動力の確保とを両立するように、コンバータの出力電圧を適切に設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面では、車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、直流電源と、コンバータと、第1のインバータと、第2のインバータと、制御装置とを備える。コンバータは、直流電源配線と直流電源との間で、直流電源配線の直流電圧を電圧指令値に制御するように双方向の直流電圧変換を実行する。第1のインバータは、第1の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により直流電源配線上の直流電力と第1の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なうように構成される。第2のインバータは、第2の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により直流電源配線上の直流電力と第2の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なうように構成される。制御装置は、第1および第2の電動機の動作状態に応じて、コンバータの電圧指令値を設定するように構成される。特に、制御装置は、電動車両の必要駆動力に従って設定された第1および第2の電動機の指令動作点に従った出力を確保するための直流電圧の第1および第2の下限値(VH1min,VH2min)を算出するとともに、各電動機の動作点と当該動作点において当該電動機の損失が最小となる直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、第1および第2の電動機の指令動作点にそれぞれ対応した第1および第2の電圧候補値(VH1ml,VH2ml)を算出し、算出された第1の下限値、第2の下限値、第1の電圧候補値および第2の電圧候補値のうちの最大値に従って電圧指令値を設定する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、第1および第2の電動機の各々の温度が判定温度(Tth)より低いときには、各電動機の動作点と当該動作点において電気システム全体の損失が最小となる直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、第1および第2の電動機の指令動作点にそれぞれ対応した第3および第4の電圧候補値を算出するとともに、第1の下限値(VH1min)、第2の下限値(VH2min)、第3の電圧候補値(VH1tl)および第4の電圧候補値(VH2tl)のうちの最大値に従って電圧指令値を設定する。
【0014】
あるいは好ましくは、制御装置は、第1および第2の電動機の温度の少なくとも一方が判定温度(Tth)より高いときには、第1および第2の電圧候補値(VH1ml,VH2ml)のうちの、第1および第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、第1の下限値(VH1min)と、第2の下限値(VH2min)との最大値に従って電圧指令値を設定する。
【0015】
また好ましくは、第1および第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、第1の下限値(VH1min)と、第2の下限値(VH2min)との最大値に従って電圧指令値を設定する。
【0016】
この発明の他の局面では、車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムの制御方法であって、直流電源と、コンバータと、第1のインバータと、第2のインバータとを含む。コンバータは、直流電源配線と直流電源との間で、直流電源配線の直流電圧を電圧指令値に制御するように双方向の直流電圧変換を実行する。第1のインバータは、第1の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により直流電源配線上の直流電力と第1の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なうように構成される。第2のインバータは、第2の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により直流電源配線上の直流電力と第2の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なうように構成される。制御方法は、電動車両の必要駆動力に従って設定された第1および第2の電動機の指令動作点に従った出力を確保するための直流電圧の第1および第2の下限値(VH1min,VH2min)を算出するステップと、各電動機の動作点と当該動作点において当該電動機の損失が最小となる直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、第1および第2の電動機の指令動作点にそれぞれ対応した直流電圧の第1および第2の電圧候補値(VH1ml,VH2ml)を算出するステップと、算出された第1の下限値、第2の下限値、第1の電圧候補値および第2の電圧候補値のうちの最大値に従って、コンバータの電圧指令値を設定するステップとを備える。
【0017】
好ましくは、制御方法は、第1および第2の電動機の各々の温度と判定温度(Tth)とを比較するステップと、第1および第2の電動機の各々の温度が判定温度より低いときに、各電動機の動作点と当該動作点において電気システム全体の損失が最小となる直流電圧との対応関係に従って、第1および第2の電動機の指令動作点にそれぞれ対応した第3および第4の電圧候補値を算出するステップと、算出された第1の下限値(VH1min)、第2の下限値(VH2min)、第3の電圧候補値(VH1tl)および第4の電圧候補値(VH2tl)のうちの最大値に従って電圧指令値を設定するステップとをさらに備える。
【0018】
あるいは好ましくは、制御方法は、第1および第2の電動機の温度の少なくとも一方が判定温度より高いときに、第1および第2の電圧候補値(VH1ml,VH2ml)のうちの、第1および第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、第1の下限値(VH1min)と、第2の下限値(VH2min)との最大値に従って電圧指令値を設定するステップをさらに備える。
【0019】
さらに好ましくは、判定温度(Tth)は、各電動機の動作点に応じて、デフォルト値から低下される。
【0020】
また好ましくは、制御方法は、第1および第2の電圧候補値(VH1ml,VH2ml)のうちの、第1および第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、第1の下限値(VH1min)と、第2の下限値(VH2min)との最大値に従って電圧指令値を設定するステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムにおいて、電動機の温度上昇の抑制と、車両駆動力の確保とを両立するように、コンバータの出力電圧を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1による電動車両の電気システムを搭載した車両の一例として示されるハイブリッド車の構成を説明するブロック図である。
【図2】電動機駆動制御のためのインバータ制御方式を説明する図である。
【図3】システム電圧とモータジェネレータの動作可能領域との関係を示す概念図である。
【図4】システム電圧に対する電気システムでの損失の特性を説明する概念図である。
【図5】システム電圧に対するモータ損失の特性を説明する概念図である。
【図6】本発明の実施の形態1の電動車両の電気システムにおけるシステム電圧の設定処理を示すフローチャートである。
【図7】システム電圧に対する電気システムの全体損失の特性を説明する概念図である。
【図8】本発明の実施の形態2の電動車両の電気システムにおけるシステム電圧の設定処理を示すフローチャートである。
【図9】モータジェネレータの動作領域と判定温度との対応を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0024】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1による電動車両の電気システムを搭載した車両の一例として示されるハイブリッド車100の構成を説明するブロック図である。
【0025】
図1を参照して、ハイブリッド車100は、エンジン110と、動力分割機構120と、モータジェネレータMG1,MG2と、減速機130と、駆動軸140および車輪(駆動輪)150を備える。ハイブリッド車100は、さらに、モータジェネレータMG1,MG2を駆動制御するための、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ20,30と、制御装置50とを備える。
【0026】
エンジン110は、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関により構成される。エンジン110には、冷却水の温度を検知する冷却水温センサ112が設けられる。冷却水温センサ112の出力は、制御装置50へ送出される。
【0027】
動力分割機構120は、エンジン110の発生する動力を、駆動軸140への経路とモータジェネレータMG1への経路とに分割可能に構成される。動力分割機構120としては、サンギヤ、プラネタリギヤおよびリングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構を用いることができる。たとえば、モータジェネレータMG1のロータを中空としてその中心にエンジン110のクランク軸を通すことで、動力分割機構120にエンジン110とモータジェネレータMG1,MG2とを機械的に接続することができる。具体的には、モータジェネレータMG1のロータをサンギヤに接続し、エンジン110の出力軸をプラネタリギヤに接続し、かつ、出力軸125をリングギヤに接続する。モータジェネレータMG2の回転軸とも接続された出力軸125は、減速機130を介して駆動輪150を回転駆動するための駆動軸140に接続される。なお、モータジェネレータMG2の回転軸に対する減速機をさらに組込んでもよい。
【0028】
モータジェネレータMG1は、エンジン110によって駆動される発電機として動作し、かつ、エンジン110の始動を行なう電動機として動作するものとして、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成される。
【0029】
同様に、モータジェネレータMG2は、出力軸125および減速機130を介して、駆動軸140へ出力が伝達される車両駆動力発生用としてハイブリッド車100に組込まれる。さらに、モータジェネレータMG2は、車輪150の回転方向と反対方向の出力トルクを発生することによって回生発電を行なうように電動機および発電機への機能を併せ持つように構成される。
【0030】
図1の構成から、エンジン110、動力分割機構120、減速機130、駆動軸140および車輪(駆動輪)150を除いた部分によって、ハイブリッド車100の電気システムが構成される。次に、電気システムの構成について説明する。
【0031】
直流電圧発生部10♯は、メインバッテリBと、平滑コンデンサC1と、コンバータ15とを含む。メインバッテリBは本発明における「直流電源」に対応する。
【0032】
メインバッテリBとしては、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池を適用可能である。なお、以下、本実施の形態では、二次電池で構成されたメインバッテリBを「直流電源」とする構成について説明するが、メインバッテリBに代えて、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置を適用することも可能である。
【0033】
メインバッテリBが出力するバッテリ電圧Vbは電圧センサ10によって検知され、メインバッテリBに入出力されるバッテリ電流Ibは電流センサ11によって検知される。さらに、メインバッテリBには、温度センサ12が設けられる。なお、メインバッテリBの温度が局所的に異なる可能性があるため、温度センサ12は、メインバッテリBの複数箇所に設けてもよい。電圧センサ10、電流センサ11および温度センサ12によって検出された、バッテリ電圧Vb、バッテリ電流Ibおよびバッテリ温度Tbは、制御装置50へ出力される。
【0034】
平滑コンデンサC1は、接地線5および電力線6の間に接続される。なお、メインバッテリBの正極端子および電力線6の間、ならびに、メインバッテリBの負極端子および接地線5の間には、車両運転時にオンされ、車両運転停止時にオフされるリレー(図示せず)が設けられる。
【0035】
コンバータ15は、リアクトルL1と、スイッチング制御される電力用半導体素子(以下、「スイッチング素子」と称する)Q1,Q2とを含む。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電力線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電力線7および接地線5の間に接続される。
【0036】
電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、電力線7および接地線5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオンオフは、制御装置50からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
【0037】
この発明の実施の形態において、スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。
【0038】
インバータ20および30の直流電圧側は、共通の接地線5および電力線7を介して、コンバータ15と接続される。すなわち、電力線7は、本発明での「直流電源配線」に対応する。また、モータジェネレータMG1は「第1の電動機」に対応し、モータジェネレータMG2は「第2の電動機」に対応する。さらに、インバータ20は本発明での「第1のインバータ」に対応し、インバータ30は本発明での「第2のインバータ」に対応する。以下では、インバータ20,30の直流側電圧に相当する、電力線7の直流電圧VHをシステム電圧VHとも称する。
【0039】
インバータ20は、電力線7および接地線5の間に並列に設けられる、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とから成る。各相アームは、電力線7および接地線5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相アーム22は、スイッチング素子Q11,Q12から成り、V相アーム24は、スイッチング素子Q13,Q14から成り、W相アーム26は、スイッチング素子Q15,Q16から成る。また、スイッチング素子Q11〜Q16に対して、逆並列ダイオードD11〜D16がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q11〜Q16のオンオフは、制御装置50からのスイッチング制御信号S11〜S16によって制御される。
【0040】
モータジェネレータMG1は、固定子に設けられたU相コイル巻線U1、V相コイル巻線V1およびW相コイル巻線W1と、図示しない回転子とを含む。U相コイル巻線U1、V相コイル巻線V1およびW相コイル巻線W1の一端は、中性点N1で互いに接続され、その他端は、インバータ20のU相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26とそれぞれ接続される。インバータ20は、制御装置50からのスイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング素子Q11〜Q16のオンオフ制御(スイッチング制御)により、直流電圧発生部10♯およびモータジェネレータMG1の間での双方向の電力変換を行なう。
【0041】
具体的には、インバータ20は、制御装置50によるスイッチング制御に従って、システム電圧VHを3相交流電圧に変換し、その変換した3相交流電圧をモータジェネレータMG1へ出力することができる。これにより、モータジェネレータMG1は、指定されたトルクを発生するように駆動される。また、インバータ20は、エンジン110の出力を受けてモータジェネレータMG1が発電した3相交流電圧を制御装置50によるスイッチング制御に従って直流電圧(システム電圧VH)に変換し、その変換した直流電圧を電力線7へ出力することもできる。
【0042】
インバータ30は、インバータ20と同様に構成されて、スイッチング制御信号S21〜S26によってオンオフ制御されるスイッチング素子Q21〜Q26および、逆並列ダイオードD21〜D26を含んで構成される。
【0043】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1と同様に構成されて、固定子に設けられたU相コイル巻線U2、V相コイル巻線V2およびW相コイル巻線W2と、図示しない回転子とを含む。モータジェネレータMG1と同様に、U相コイル巻線U2、V相コイル巻線V2およびW相コイル巻線W2の一端は、中性点N2で互いに接続され、その他端は、インバータ30のU相アーム32、V相アーム34およびW相アーム36とそれぞれ接続される。
【0044】
インバータ30は、制御装置50からのスイッチング制御信号S21〜S26に応答したスイッチング素子Q21〜Q26のオンオフ制御(スイッチング制御)により、直流電圧発生部10♯およびモータジェネレータMG2の間での双方向の電力変換を行なう。
【0045】
具体的には、インバータ30は、制御装置50によるスイッチング制御に従って、システム電圧VHを3相交流電圧に変換し、その変換した3相交流電圧をモータジェネレータMG2へ出力することができる。これにより、モータジェネレータMG2は、指定されたトルクを発生するように駆動される。また、インバータ30は、車両の回生制動時、車輪150からの回転力を受けてモータジェネレータMG2が発電した3相交流電圧を制御装置50によるスイッチング制御に従って直流電圧(システム電圧VH)に変換し、その変換した直流電圧を電力線7へ出力することができる。
【0046】
なお、ここでいう回生制動とは、ハイブリッド車を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0047】
モータジェネレータMG1,MG2の各々には電流センサ27、回転角センサ(レゾルバ)28および温度センサ29が設けられる。三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ27は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。回転角センサ28は、モータジェネレータMG1,MG2の図示しない回転子の回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御装置50へ送出する。制御装置50では、回転角θに基づきモータジェネレータMG1,MG2の回転速度(回転角速度ω)を算出することができる。
【0048】
これらのセンサによって検出された、モータジェネレータMG1のモータ電流MCRT(1)、ロータ回転角θ(1)および、モータ温度Tmg1ならびに、モータジェネレータMG2のモータ電流MCRT(2)、ロータ回転角θ(2)およびモータ温度Tmg2は、制御装置50へ入力される。さらに、制御装置50は、モータ指令としての、モータジェネレータMG1のトルク指令値Tqcom(1)およびモータジェネレータMG2のトルク指令値Tqcom(2)の入力を受ける。
【0049】
電子制御ユニット(ECU)で構成される制御装置50は、マイクロコンピュータ(図示せず)、RAM(Random Access Memory)51およびROM(Read Only Memory)52を含んで構成される。制御装置50は、所定のプログラム処理に従って、上位の電子制御ユニット(ECU)から入力されたモータ指令に従ってモータジェネレータMG1,MG2が動作するように、コンバータ15およびインバータ20,30のスイッチング制御のためのスイッチング制御信号S1,S2(コンバータ15)、S11〜S16(インバータ20)、およびS21〜S26(インバータ30)を生成する。
【0050】
さらに、制御装置50には、メインバッテリBに関する、充電率(SOC:State of Charge)や充放電制限を示す入力可能電力Winおよび出力可能電力Wout等の情報が入力される。これにより、制御装置50は、メインバッテリBの過充電あるいは過放電が発生しないように、モータジェネレータMG1,MG2での消費電力および発電電力(回生電力)を必要に応じて制限する機能を有する。
【0051】
また、本実施の形態では、単一の制御装置(ECU)50によってインバータ制御におけるスイッチング周波数を切換える機構について説明したが、複数の制御装置(ECU)の協調動作によって同様の制御構成を実現することも可能である。
【0052】
次に、モータジェネレータMG1,MG2の駆動制御におけるコンバータ15およびインバータ20,30の概略的な動作について説明する。
【0053】
コンバータ15は、基本的には、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1およびQ2が相補的かつ交互にオンオフするように制御される。スイッチング周期に対するスイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)は、電力線7の直流電圧VHが、コンバータ15に対する電圧指令値と一致するように制御される。コンバータ15は、昇圧動作時(メインバッテリBの放電時)には、スイッチング素子Q2のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q1および逆並列ダイオードD1を介して、電力線7へ供給することにより、電力線6の直流電圧VLを昇圧して電力線7へ出力する。
【0054】
コンバータ15は、降圧動作時(メインバッテリBの充電時)には、スイッチング素子Q1のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q2および逆並列ダイオードD2を介して、電力線6へ供給することによって、電力線7の直流電圧VHを降圧して電力線6に出力する。これらの昇圧動作または降圧動作における電圧変換比(VH/VL比)は、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比により制御される。なお、スイッチング素子Q1およびQ2をオンおよびオフにそれぞれ固定すれば、VH=VL(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0055】
平滑コンデンサC0は、コンバータ15からの直流電圧(システム電圧VH)を平滑化する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、システム電圧VHを検出し、その検出値を制御装置50へ出力する。
【0056】
インバータ30は、制御装置50からのスイッチング制御信号S21〜S26に応答したスイッチング素子Q21〜Q26のオンオフ動作(スイッチング動作)により、トルク指令値Tqcom(2)に従ったトルクが出力されるように、モータジェネレータMG2を駆動する。トルク指令値Tqcom(2)は、運転状況に応じたモータジェネレータMG2への出力(トルク×回転数)要求に従って、正値(Tqcom(2)>0)、零(Tqcom(2)=0)、または負値(Tqcom(2)<0)に適宜設定される。
【0057】
特にハイブリッド車100の回生制動時には、モータジェネレータMG2のトルク指令値は負に設定される(Tqcom(2)<0)。この場合には、インバータ30は、スイッチング制御信号S21〜S26に応答したスイッチング動作により、モータジェネレータMG2が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧)を平滑コンデンサC0を介してコンバータ15へ供給する。
【0058】
また、インバータ20は、上記のインバータ30の動作と同様に、制御装置50からのスイッチング制御信号S11〜S16に従ったスイッチング素子Q11〜Q16のオンオフ制御により、モータジェネレータMG1が指令値に従って動作するように電力変換を行なう。
【0059】
このように、制御装置50がトルク指令値Tqcom(1),Tqcom(2)に従ってモータジェネレータMG1,MG2を駆動制御することにより、ハイブリッド車100では、モータジェネレータMG2での電力消費による車両駆動力の発生、モータジェネレータMG1での発電によるメインバッテリBの充電電力またはモータジェネレータMG2の消費電力の発生、および、モータジェネレータMG2での回生制動動作(発電)によるメインバッテリBの充電電力の発生を、車両の運転状態に応じて適宜に実行できる。
【0060】
次に、制御装置50によるインバータ20,30における電力変換制御について詳細に説明する。なお、以下に説明するインバータ制御は、インバータ20および30に共通するものである。
【0061】
図2は、電動機駆動制御のためのインバータ制御方式を説明する図である。
図2に示すように、本発明の実施の形態による電動車両の電気システムでは、インバータ20,30による電動機制御について3つの制御方式を切換えて使用する。
【0062】
正弦波PWM(パルス幅変調)制御は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオンオフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には、三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。周知のように、正弦波PWM制御では、この基本波成分振幅をインバータの直流側電圧(すなわち、システム電圧VH)の0.61倍までしか高めることができない。
【0063】
一方、矩形波電圧制御では、電動機の電気角360度に相当する期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分をインバータが出力する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
【0064】
過変調PWM制御は、搬送波の振幅よりも大きい振幅の電圧指令値(正弦波状)について、その振幅を拡大した上で、上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、基本波成分を歪ませることによって、変調率を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。
【0065】
システム電圧VHが同一、すなわちインバータ20,30によりスイッチングされる直流電圧が同一の下で、同一のモータ電流を供給する場合には、インバータでのスイッチング損失は、単位時間内のスイッチング回数に依存する。したがって、このような同一条件の下では、正弦波PWM制御にてスイッチング損失が大きくなる一方で、矩形波電圧制御ではスイッチング損失が小さくなる。
【0066】
一方で、モータジェネレータMG(MG1,MG2を総括的に表記するもの、以下同じ)を円滑に駆動するためには、モータジェネレータMGの動作点、具体的には、回転速度およびトルクに応じて、コンバータ15の出力電圧(システム電圧VH)を適切に設定する必要がある。この際に、上述したように、それぞれ制御モードについて、実現可能な変調率には限界がある。したがって、システム電圧VHに対して、出力可能な上限トルクが存在することが理解される。上限トルクは、モータジェネレータのMG回転速度およびトルクの積が出力電力に相当することから、回転速度によって変化する。
【0067】
図3は、システム電圧とモータジェネレータの動作可能領域との関係を示す概念図である。
【0068】
図3を参照して、モータジェネレータMGの動作領域および動作点は、回転速度およびトルクの組み合わせによって示される。最大出力線200は、システム電圧VH=Vmax(最大値)であるときの動作可能領域の限界を示すものである。最大出力線200は、トルクT<Tmaxかつ回転速度N<Nmaxであっても、出力電力に相当するT×Nによって制限される部分を有する。システム電圧VHが低下すると、動作可能領域は狭くなっていく。
【0069】
たとえば、動作点210は、システム電圧VH=Vaで実現可能である。しかしながら、動作点210からトルクが増加した動作点220には、システム電圧VHをVb(Vb>Va)へ上昇させなければ対応することができない。
【0070】
図3に示した、システム電圧VHと動作領域の限界線との関係に基づいて、モータジェネレータMG1,MG2に共通の特性として、各動作点(回転速度,トルク)を実現するためのシステム電圧VHの下限値(下限電圧VHmin)を求めることができる。したがって、各モータジェネレータMG1,MG2の動作点に対応させて、当該動作点に従った出力を確保するための下限電圧VHminを算出するためのマップ(以下、下限電圧マップとも称する)を予め作成して、ROM52に記憶させておくことができる。
【0071】
図4は、システム電圧VHに対する電気システムでの損失の特性を説明する概念図である。図4には、モータジェネレータMGの同一の動作点における、システム電圧VHに対する、インバータ20,30でのインバータ損失Pinvと、モータジェネレータMGでの銅損Pmcおよび鉄損Pmiとの変化が示される。
【0072】
銅損Pmcは、モータジェネレータMGを流れる電流の二乗に比例する。したがって、同一動作点では、システム電圧VHが低電圧であるほど銅損Pmcは大きくなる。
【0073】
鉄損Pmiは、モータジェネレータMGを流れる電流のリップル成分(高周波成分)が大きくなると渦電流が大きくなるため増大する。システム電圧VHが高くなると、1回のスイッチング動作に伴う電流変化が大きくなるため電流リップルも増大する。したがって、同一動作点では、システム電圧VHが低電圧であるほど、鉄損Pmiは大きくなる。モータジェネレータMGでの損失(以下、モータ損失とも称する)は、銅損Pmcおよび鉄損Pmiの和である。VH=V4で、モータ損失は最小となっている。
【0074】
図5を参照して、動作点ごとに、モータ損失(銅損Pmcおよび鉄損Pmi)を測定することによって、システム電圧VHに対するモータ損失Pmtの変化を示す特性線250を予め求めることができる。そして、動作点毎の特性線250から、モータジェネレータMG1,MG2に共通の特性として、各動作点(回転速度,トルク)に対応させて、モータ損失Pmtを最小にするための候補電圧VHmlを算出するマップ(以下、モータ損失最小マップとも称する)を予め作成して、ROM52に記憶させておくことができる。
【0075】
再び図4を参照して、インバータ損失Pinvは、主に、インバータ20,30のスイッチング素子のオンオフによるスイッチング損失である。したがって、インバータ損失Pinvは、単位時間当たりのスイッチング回数に依存する。すなわち、図2に示した制御モードのうち、矩形波電圧制御の適用時には、PWM制御の適用時と比較して、インバータ損失Pinvは小さくなる。
【0076】
システム電圧VHが低くなると、PWM制御では変調率が不足するため、矩形波電圧制御が適用される。したがって、同一動作点では、システム電圧VHが低電圧である方がインバータ損失Pinvは小さくなる傾向にある。また、同一動作点では、PWM制御時のスイッチング回数は大きく変わらないので、スイッチングされる電圧および電流の積に応じて、スイッチング損失が決まる。したがって、PWM制御が適用される電圧領域では、システム電圧VHが高電圧であるほど、インバータ損失Pinvは大きくなる。
【0077】
電気システムのトータル損失として、銅損Pmc、鉄損Pmiおよびインバータ損失Pinvの和を考えると、トータル損失は、VH=V3で最小となっている。このように、モータ損失を最小にするシステム電圧VHと、トータル損失を最小にするシステム電圧VHとは、一致しない場合がある。したがって、ハイブリッド車100の全体効率、すなわち燃費を優先してシステム電圧VHを決定すると、モータ損失については最小とならない可能がある。小型化などにより熱容量が小さい場合には、モータ損失に対する温度上昇の感度が高くなる。このため、特許文献1のように、モータ損失よりも燃費を優先してシステム電圧を設定すると、モータジェネレータMGの温度が上昇する虞がある。
【0078】
特許文献3に記載されるように、モータジェネレータMGの温度が上昇すると、過熱保護のために、トルク制限によってモータジェネレータMGの出力を抑制する必要がある。このような制限下では、最適な走行制御のために設定されたモータジェネレータMGのトルク指令値を修正する必要が生じるので、走行性や燃費が悪化することが懸念される。また、モータジェネレータMGのトルク変化に対して、エンジン110のトルク変化は緩やかであるので、モータジェネレータMGでのトルク制限を、エンジン110によって補償する際に、車両全体でのトルクに変動が生じる可能性がある。
【0079】
したがって、本実施の形態による電動機制御では、モータ損失の低減を優先することによって、モータジェネレータMGの温度上昇を抑制するようなシステム電圧VHの決定を指向する。
【0080】
図6は、本発明の実施の形態1の電動車両の電気システムにおけるシステム電圧の設定処理を示すフローチャートである。図6に示す処理は、制御装置50によって所定周期で実行される。なお、図6を始めとするフローチャートに記載される各ステップの処理は、制御装置50によるハードウェアまたはソフトウェア処理によって実行することができる。
【0081】
図6を参照して、制御装置50は、ステップS100により、車両状態(車速、ペダル操作等)に応じて、ハイブリッド車100のトータル駆動力を算出する。さらに、制御装置50は、ステップS110では、ステップS100で算出したトータル駆動力を出力するためのパワー配分を決定する。このパワー配分によって、エンジン110およびモータジェネレータMG1,MG2の出力パワーが決定される。
【0082】
エンジン110の回転速度およびトルク(動作点)は、燃費等を考慮して予め定められた動作ライン上で、決定されたエンジン出力パワーを実現できる動作点に対応して決定される。さらに、このように、走行制御によって決定されたパワー配分が実現されるように、モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令値Tqcom(1),Tqcom(2)が決定される。これにより、トータル駆動力を確保するための、走行制御に基づくモータジェネレータMG1,MG2の動作点(回転速度、トルク)が決定される。この動作点は、「指令動作点」に対応する。
【0083】
制御装置50は、ステップS120では、モータジェネレータMG1のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述の下限電圧マップの参照によって、下限電圧VH1minを算出する。下限電圧VH1minは、走行制御に基づくモータジェネレータMG1の動作点に従った出力を確保するために必要なシステム電圧VHの下限値に相当する。
【0084】
さらに、制御装置50は、ステップS130により、モータジェネレータMG1のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述のモータ損失最小マップの参照によって、候補電圧VH1mlを算出する。候補電圧VH1mlは、モータジェネレータMG1のモータ損失が最小となるシステム電圧VHに相当する。
【0085】
一方、制御装置50は、ステップS125により、モータジェネレータMG2のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述の下限電圧マップの参照によって、下限電圧VH2minを算出する。下限電圧VH2minは、走行制御に基づくモータジェネレータMG2の動作点に従った出力を確保するために必要なシステム電圧VHの下限値に相当する。
【0086】
制御装置50は、ステップS135により、モータジェネレータMG2のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述のモータ損失最小マップの参照によって、候補電圧VH2mlを算出する。候補電圧VH2mlは、モータジェネレータMG2のモータ損失が最小となるシステム電圧VHに相当する。
【0087】
下限電圧VH1minおよび下限電圧VH2minは、「第1の下限電圧」および「第2の下限電圧」にそれぞれ対応する。は、「第2の下限電圧」に対応する。候補電圧VH1mlおよびVH2minは、「第1の候補電圧」および「第2の候補電圧」にそれぞれ対応する。
【0088】
制御装置50は、ステップS140により、下限電圧VH1minおよび候補電圧VH1mlの最大値を、モータジェネレータMG1に対応するシステム電圧Vmg1として設定する。同様に、制御装置50はステップS145により、下限電圧VH2minおよび候補電圧VH2mlの最大値を、モータジェネレータMG2に対応するシステム電圧Vmg2として設定する。
【0089】
さらに、制御装置50は、ステップS150により、ステップS140で求めたVmg1およびステップS145で求めたVmg2の最大値を、システム電圧VHの目標値に設定する。ステップS140〜S150により、下限電圧VH1min,VH2minおよび候補電圧VH1ml,VH2mlのうちの最大値が、システム電圧VHの目標値に設定される。この目標値は、コンバータ15への電圧指令値に相当する。
【0090】
このように、実施の形態1による電動車両の電気システムによれば、走行制御に基づくモータジェネレータMG1,MG2の出力を確保できる範囲内で、モータジェネレータMG1またはMG2の損失を最小とするようなシステム電圧VHを設定することができる。この結果、走行に影響を与えないように車両駆動力を確保した上で、モータジェネレータMG1,MG2の発熱量を抑制するようにシステム電圧VHを適切に設定できる。これにより、たとえば小型化等により熱容量が小さいモータジェネレータが搭載された電動車両においても、モータジェネレータの温度上昇を抑制して、過熱保護を指向することができる。
【0091】
なお、上述のようなシステム電圧の設定を行なっても、実際にモータジェネレータの温度が上昇してしまった場合には、特許文献3と同様に、温度が上昇したモータジェネレータについて、出力制限(たとえば、トルク指令値の制限)によって、さらなる温度上昇を回避するための最終的な過熱保護を行うことができる。しかしながら、通常(たとえば、燃費優先)のシステム電圧設定を行なう場合と比較すると、実施の形態1によるモータ損失の抑制を優先したシステム電圧設定によれば、このような出力制限が実行される頻度を減少させることが期待できる。
【0092】
[実施の形態2]
実施の形態2では、モータジェネレータMG1,MG2の温度状態に応じて、実施の形態1によるモータ過熱保護のためのシステム電圧設定と、燃費優先のシステム電圧設定とを切換える制御構成について説明する。実施の形態2では、システム電圧VHの設定処理以外は、実施の形態1と同様であるので、実施の形態1との相違点について説明する。
【0093】
図7は、システム電圧に対する電気システムの全体損失の特性を説明する概念図である。
【0094】
図7を参照して、トータル損失Ptlは、図4に示した、インバータ損失Pinvおよびモータ損失(Pmc+Pmi)の和に相当する。あるいは、メインバッテリBでの内部抵抗による損失や、コンバータ15での損失(主に、スイッチング損失)についても考慮に入れて、トータル損失Ptlを定義してもよい。
【0095】
図5と同様に、動作点ごとに、トータル損失Ptlを測定することによって、システム電圧VHに対するトータル損失Ptlの変化を示す特性線260を予め求めることができる。同一の動作点に対応したモータ損失の特性線250およびトータル損失の特性線260の間では、損失が最小となるシステム電圧VHが、異なるケースが存在する。
【0096】
動作点毎の特性線260から、モータジェネレータMG1,MG2に共通の特性として、各動作点(回転速度,トルク)に対応させて、トータル損失Ptlを最小にするための候補電圧VHtlを算出するマップ(以下、トータル損失最小マップとも称する)を予め作成して、ROM52に記憶させておくことができる。
【0097】
図8は、本発明の実施の形態2の電動車両の電気システムにおけるシステム電圧の設定処理を示すフローチャートである。
【0098】
図8を参照して、制御装置50は、図6と同様のステップS100およびS110により、ハイブリッド車100のトータル駆動力を算出するとともに、エンジン110、モータジェネレータMG1,MG2間のパワー配分を決定する。そして、走行制御によって決定されたパワー配分が実現されるように、モータジェネレータMG1,MG2のトルク指令値Tqcom(1),Tqcom(2)が決定される。
【0099】
さらに、制御装置50は、図6と同様のステップS120およびS125により、走行制御に基づくモータジェネレータMG1,MG2の動作点(指令動作点)に従った出力を確保するための、下限電圧VH1minおよびVH2minを算出する。
【0100】
さらに、制御装置50は、ステップS155により、モータジェネレータMG1のモータ温度Tmg1およびモータジェネレータMG2のモータ温度Tmg2を判定温度Tthと比較する。
【0101】
そして、モータ温度Tmg1,Tmg2の両方が判定温度Tthよりも低いとき(S155のNO判定時)には、制御装置50は、ステップS160に処理を進める。ステップS160では、モータジェネレータMG1のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述のトータル損失最小マップの参照によって、候補電圧VH1tlが算出される。制御装置50は、ステップS170では、モータジェネレータMG2のトルクおよび回転速度(指令動作点)から、上述のトータル損失最小マップの参照によって、候補電圧VH1t2を算出する。
【0102】
候補電圧VH1tlは、モータジェネレータMG1の指令動作点において、トータル損失Ptlが最小となるシステム電圧VHに相当する。候補電圧VH2tlは、モータジェネレータMG2の指令動作点において、トータル損失Ptlが最小となるシステム電圧VHに相当する。すなわち、候補電圧VH1tlおよびVH2tlは、「第3の候補電圧」および「第4の候補電圧」にそれぞれ相当する。
【0103】
制御装置50は、ステップS180により、モータジェネレータMG1,MG2のいずれも高温状態でないときには、下限電圧VH1min,VH2minおよび候補電圧VH1tl,VH2tlの最大値をシステム電圧VHの目標値(コンバータ15の電圧指令値)に設定する。
【0104】
これに対して、モータ温度Tmg1およびTmg2の少なくとも一方が判定温度Tthよりも高いとき(S155のYES判定時)には、制御装置50は、ステップS157に処理を進める。ステップS157では、モータ温度Tmg1およびTmg2に基づいて、モータジェネレータMG1,MG2のいずれを過熱保護の対象とするかが決定される。基本的には、モータ温度が高い方のモータジェネレータが過熱保護の対象に選択される。
【0105】
制御装置50は、モータジェネレータMG1を過熱保護の対象とするとき(S157のYES判定時)には、図6と同様のステップS130により、モータジェネレータMG1での損失を最小とする候補電圧VH1mlを算出する。さらに、制御装置50は、ステップS190により、下限電圧VH1min,VH2minおよび、より高温のモータジェネレータMG1に対応した候補電圧VH1mlのうちの最大値をシステム電圧VHの目標値(コンバータ15の電圧指令値)に設定する。
【0106】
これに対して、モータジェネレータMG2を過熱保護の対象とするとき(S157のNO判定時)には、制御装置50は、図6と同様のステップS135により、モータジェネレータMG2での損失を最小とする候補電圧VH2mlを算出する。さらに、制御装置50は、ステップS190により、下限電圧VH1min,VH2minおよび、より高温のモータジェネレータMG2に対応した候補電圧VH2mlのうちの最大値をシステム電圧VHの目標値(コンバータ15の電圧指令値)に設定する。
【0107】
このように、実施の形態2による電動車両の電気システムによれば、モータ温度Tmg1,Tmg2の少なくとも一方が判定温度Tthよりも高くなったときには、実施の形態1と同様にモータ損失を最小とするためのシステム電圧設定を実行する。一方で、モータジェネレータMG1,MG2のいずれもが高温状態でないときには、トータル損失が最小となるようにシステム電圧VHを設定するので、ハイブリッド車100の燃費を向上することができる。
【0108】
なお、ステップS155での判定温度Tthについては、上述した特許文献3のようなモータジェネレータの出力制限(トルク制限)が必要になるような高温領域よりも低い温度に設定することが好ましい。このようにすると、出力制限が必要となる高温状態の手前で、予めモータ損失を低減することにより温度上昇を抑制することができる。
【0109】
さらに、この判定温度Tthは、モータジェネレータMG1,MG2の動作領域に応じて変化させることが好ましい。
【0110】
図9を参照して、モータジェネレータMG1,MG2の各々について、最大出力線200に沿った、高トルク領域270および高速領域280では、出力電力が大きくなるため、モータ損失も大きくなる。このため、これらの領域では、モータ損失を低減するようなシステム電圧設定を実行しないと、モータジェネレータの温度が上昇することが懸念される。したがって、これらの動作領域では、判定温度Tthを通常領域240での通常値(デフォルト値)よりも低くして、ステップS155の判定を実行する。これにより、モータジェネレータの温度上昇をより効果的に防止することが可能となる。
【0111】
なお、実施の形態1による図5のフローチャートにおいて、ステップS120〜S150の処理に代えて、図8のステップS157,S130,S135,S190,S195の処理を実行するように、システム電圧を設定することも可能である。このようにすると、実施の形態1において、走行制御に基づくモータジェネレータMG1,MG2の出力を確保できる範囲内で、高温側のモータジェネレータを最小とするようなシステム電圧VHを設定することができる。
【0112】
また、本発明の実施の形態1,2では、ハイブリッド車の電気システムについて代表的に例示したが、本発明の適用はこのようなケースに限定されるものではない。すなわち、本発明に従う電動車両の電気システムは、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池自動車等、車輪駆動力発生用の電動機を搭載した電動車両に対して、共通に適用することができる。
【0113】
さらに、電動車両の駆動系についても、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電気システムを採用している限り、図1の構成に限定されることはなく任意の構成とすることができる。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
この発明は、交流電動機を駆動制御するインバータの直流側電圧を可変制御するためのコンバータを含む電動車両の電気システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0116】
5 接地線、6,7 電力線、10 電圧センサ、10♯ 直流電圧発生部、11,27 電流センサ、12 温度センサ、13 電圧センサ、15 コンバータ、20,30 インバータ、22,24,26,32,34,36 各相アーム、28 回転角センサ、50 制御装置(ECU)、51 RAM、52 ROM、100 ハイブリッド車、110 エンジン、112 冷却水温センサ、120 動力分割機構、125 出力軸、130 減速機、140 駆動軸、150 駆動輪(車輪)、200 最大出力線、210,220 動作点、240 通常領域、250 特性線(モータ損失)、260 特性線(トータル損失)、270 高トルク領域、280 高速領域、B メインバッテリ、C0,C1 平滑コンデンサ、D1,D1,D2,D2,D11〜D16,D21〜D26 逆並列ダイオード、Ib バッテリ電流、L1 リアクトル、MCRT モータ電流、MG1,MG2 モータジェネレータ、N 回転速度、N1,N2 中性点、Pinv インバータ損失、Pmc 銅損、Pmi 鉄損、Pmt モータ損失、Ptl トータル損失、Q1,Q2,Q2,Q11,Q12,Q11〜Q16,Q13,Q14,Q15,Q16,Q21〜Q26 電力用半導体スイッチング素子、S1,S2,S11〜S16,S21〜S26 スイッチング制御信号、Tb バッテリ温度、Tmg1,Tmg2 モータ温度、Tqcom(1),Tqcom(2) トルク指令値、Tth 判定温度、U1,U2,V1,V2,W1,W2 コイル巻線、VH 直流電圧(システム電圧)、VH1tl,VH2tl 候補電圧(トータル損失最小)、VH1ml,VH2ml 候補電圧(モータ損失最小)、VH1min,VH2min 下限電圧、VL 直流電圧、Vb バッテリ電圧、Vmg1,Vmg2 システム電圧(モータジェネレータ)、S1,S1,S2,S11〜S16,S21〜S26 スイッチング制御信号、Tb バッテリ温度、Tmg1,Tmg2 モータ温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムであって、
直流電源と、
直流電源配線と前記直流電源との間で、前記直流電源配線の直流電圧を電圧指令値に制御するように双方向の直流電圧変換を実行するためのコンバータと、
前記第1の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により前記直流電源配線上の直流電力と前記第1の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なう第1のインバータと、
前記第2の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により前記直流電源配線上の直流電力と前記第2の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なう第2のインバータと、
前記第1および第2の電動機の動作状態に応じて、前記コンバータの前記電圧指令値を設定するための制御装置とを備え
前記制御装置は、
前記電動車両の必要駆動力に従って設定された前記第1および第2の電動機の指令動作点に従った出力を確保するための前記直流電圧の第1および第2の下限値を算出するとともに、各前記電動機の動作点と当該動作点において当該電動機の損失が最小となる前記直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、前記第1および第2の電動機の前記指令動作点にそれぞれ対応した第1および第2の電圧候補値を算出し、算出された前記第1の下限値、前記第2の下限値、前記第1の電圧候補値および前記第2の電圧候補値のうちの最大値に従って前記電圧指令値を設定する、電動車両の電気システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1および第2の電動機の各々の温度が判定温度より低いときには、各前記電動機の動作点と当該動作点において前記電気システム全体の損失が最小となる前記直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、前記第1および第2の電動機の前記指令動作点にそれぞれ対応した第3および第4の電圧候補値を算出するとともに、前記第1の下限値、前記第2の下限値、前記第3の電圧候補値および前記第4の電圧候補値のうちの最大値に従って前記電圧指令値を設定する、請求項1記載の電動車両の電気システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1および第2の電動機の温度の少なくとも一方が前記判定温度より高いときには、前記第1および第2の電圧候補値のうちの、前記第1および前記第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、前記第1の下限値と、前記第2の下限値との最大値に従って前記電圧指令値を設定する、請求項2記載の電動車両の電気システム。
【請求項4】
前記判定温度は、各前記電動機の前記動作点に応じて、デフォルト値から低下される、請求項2または3記載の電動車両の電気システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1および第2の電圧候補値のうちの、前記第1および前記第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、前記第1の下限値と、前記第2の下限値との最大値に従って前記電圧指令値を設定する、請求項1記載の電動車両の電気システム。
【請求項6】
車両駆動用の第1の電動機および第2の電動機を搭載した電動車両の電気システムの制御方法であって、
前記電気システムは、
直流電源と、
直流電源配線と前記直流電源との間で前記直流電源配線の直流電圧を電圧指令値に制御するように双方向の直流電圧変換を実行するためのコンバータと、
前記第1の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により前記直流電源配線上の直流電力と前記第1の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なう第1のインバータと、
前記第2の電動機が動作指令に従って作動するように、複数のスイッチング素子により前記直流電源配線上の直流電力と前記第2の電動機を駆動する交流電力との間で電力変換を行なう第2のインバータとを含み、
前記制御方法は、
前記電動車両の必要駆動力に従って設定された前記第1および第2の電動機の指令動作点に従った出力を確保するための前記直流電圧の第1および第2の下限値を算出するステップと、
各前記電動機の動作点と当該動作点において当該電動機の損失が最小となる前記直流電圧との間の予め求められた対応関係に従って、前記第1および第2の電動機の前記指令動作点にそれぞれ対応した前記直流電圧の第1および第2の電圧候補値を算出するステップと、
算出された前記第1の下限値、前記第2の下限値、前記第1の電圧候補値および前記第2の電圧候補値のうちの最大値に従って、前記コンバータの前記電圧指令値を設定するステップとを備える、電動車両の電気システムの制御方法。
【請求項7】
前記第1および第2の電動機の各々の温度と判定温度とを比較するステップと、
前記第1および第2の電動機の各々の温度が判定温度より低いときに、各前記電動機の動作点と当該動作点において前記電気システム全体の損失が最小となる前記直流電圧との対応関係に従って、前記第1および第2の電動機の前記指令動作点にそれぞれ対応した第3および第4の電圧候補値を算出するステップと、
算出された前記第1の下限値、前記第2の下限値、前記第3の電圧候補値および前記第4の電圧候補値のうちの最大値に従って前記電圧指令値を設定するステップとをさらに備える、請求項6記載の電動車両の電気システムの制御方法。
【請求項8】
前記第1および第2の電動機の温度の少なくとも一方が前記判定温度より高いときに、前記第1および第2の電圧候補値のうちの、前記第1および前記第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、前記第1の下限値と、前記第2の下限値との最大値に従って前記電圧指令値を設定するステップをさらに備える、請求項7記載の電動車両の電気システムの制御方法。
【請求項9】
前記判定温度は、各前記電動機の前記動作点に応じて、デフォルト値から低下される、請求項7または8記載の電動車両の電気システムの制御方法。
【請求項10】
前記第1および第2の電圧候補値のうちの、前記第1および前記第2の電動機のうちの温度が高い方の電動機に対応した電圧候補値と、前記第1の下限値と、前記第2の下限値との最大値に従って前記電圧指令値を設定するステップをさらに備える、請求項6記載の電動車両の電気システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−110189(P2012−110189A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258826(P2010−258826)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】