説明

感染の予防または治療のためのチロシンキナーゼ阻害剤

本発明は、病原性感染を予防及び/又は治療するための組成物及びその使用方法を提供する。特に、本発明は、病原性感染と関連する又は病原性感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼを阻害し、したがって効果的に病原性感染を予防及び/又は治療し、従来の抗生物質及び抗ウイルス薬と比較して耐性を生じさせる可能性が遥かに少ないキナーゼ阻害剤の使用を提供する。本発明は、急性病原性感染の治療のためのキナーゼ阻害剤の短期間の使用をさらに提供し、これらのキナーゼ阻害剤の長期間使用により引き起こされ得る毒性を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、2006年9月5日に出願された米国仮特許出願第60/824,540号の利益を主張する。米国仮特許出願第60/824,540号は参考とし本明細書中に援用される。
連邦政府の研究補助の確認
本願発明は、少なくとも部分において、国立衛生研究所からの資金(NIH補助金番号R01A105667−01)によりなされた。したがって、米国政府は、本願発明における一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、病原性感染を予防及び/又は治療するための組成物及びその使用方法を提供する。特に、本発明は、これらの病原体による疾患の原因を阻止又は局限し、宿主免疫系が病原体を取り除くことを可能にするために、多様な細菌性病原体及びウイルス性病原体が宿主と相互作用する方法を変化させる化合物の開発及び同定に関する。
【背景技術】
【0003】
過去数十年間に、致死的な細菌性病原体及びウイルス性病原体の猛襲が世界中で目撃されてきた。多岐にわたるヒト病原体が存在し、それらには細菌、原虫、ウイルス、藻類、及び真菌等の種々の微生物が含まれる。選択圧に対処する生得の能力は、微生物進化の原動力となり、微生物が複雑かつ変動する環境に順応することを可能にしてきた。その後、伝染性微生物が、合成抗微生物化合物又は天然抗微生物化合物を用いて微生物を破壊しようとする人類の試みを回避するための機序をただちに進化させたことは、恐らく驚きではない。
【0004】
微生物が新しい治療法の開発を遥かに凌ぐ速さで耐性を生じるという事実は、発展途上国及び先進国の両方において、ほぼ間違いなく、今世紀の最も重大な単一の公衆衛生的脅威を提起する。抗菌戦略が前世紀にわたって目覚ましい成果を上げたことは否定しない。
【0005】
例えば、病原体内の標的に向けられた抗菌薬及び抗ウイルス薬が使用され、無数の命を救ってきた。しかし、そのような成功が持続可能ではないことはますます明白になっている。これらの薬物に対抗するために、細菌性病原体及びウイルス性病原体は、これらの化合物を不活性化するために精巧な機序を進化させた。細菌では、スタフィロコッカス・アウレウス、クレブシエラ・ニューモニエ、シュードモナス・エルギノーサ、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(TB)、及びウイルスでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の汎薬物耐性株が、例として含まれる。
【0006】
製薬会社側に(大企業であろうとも又は小企業であろうとも)、新しい抗菌剤の開発を追求しようとする努力が不足していることもまた、より厄介である。増殖を阻害する化学ライブラリーを大規模にスクリーニングすることで、新しい抗生物質を開発しようとする医薬産業界の努力はほとんど失敗し、新しいテトラサイクリン及びスルファニルアミド類似体は、恐らくは耐性を生じさせ、直ぐに役に立たなくなろう。耐性問題は、疾患負荷を低減するための遵守規準又は公衆衛生政策がないままに、抗生物質及び抗ウイルス性化合物を無差別及び不適切に使用することによりさらに悪化する。臨床試験にかかる驚異的なコスト、ジェネリック販売の管理失敗、及び慢性疾患用医薬品から相当量の収入を生み出す能力を考えると、大手製薬会社が新しい抗生物質を開発することに任意の金銭的誘因はあったとしてもきわめて少なく、小さなバイオ企業は単に財源を有していない。
【0007】
現在のレベルの努力でさえ、懸念する要因がある。全てではないにしても、開発中の新薬の大部分は、恐らくは発売後直ぐに耐性を生じさせよう(例えば、葉酸生合成阻害剤であるイクラプリム)。新規の抗ウイルス性化合物の探索は多少より成功しており、大部分はHIVの世界的流行により動機づけられているが、薬物は主にウイルス標的に対して開発され、ウイルスの突然変異率は未だに新しい開発を上回る速さである。一つの有望な開発はワクチンであり、幾つかの細菌性及びウイルス性疾患には有望である。しかし、ワクチンは全ての場合で成功しているわけではなく(例えば低年齢児)、適切な手段が利用可能ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、病原性感染の予防及び治療に有効な化合物及び方法を早急に開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多様な細菌性病原体及びウイルス性病原体が宿主と相互作用する方法を変化させる化合物を提供する。本発明により提供される化合物は、微生物が発症に必要とする宿主タンパク質と相互作用する。したがって、病原体は新規の発症戦略を容易に進化させ得ないため、本発明により提供される化合物は、従来の抗生物質又は抗ウイルス薬と比較して耐性を生じさせる可能性が遥かに少ない。したがって、本発明により提供される化合物は、疾患を局限し、宿主免疫系が病原体を取り除くことを可能にさせる能力を有する。一つの好ましい実施形態において、本発明は、病原性感染と関連する又は病原性感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼを阻害する化合物を提供する。本発明のキナーゼ阻害剤には、下記の表Aに列挙されている化合物が含まれるが、それらに限定されない。さらに別の好ましい実施形態において、本発明のキナーゼ阻害剤は、急性の病原性感染の治療のため、短期間で、好ましくは3週間未満で使用され、毒性の問題を回避する。
【0010】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、多様な細菌性病原体及びウイルス性病原体により引き起こされる感染の予防又は治療に際して、下記の表Aに列挙されたものを含む化合物を含んだ組成物を提供する。細菌性病原体及びウイルス性病原体には、それらに限定されないが、病原性大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、尿路病原性大腸菌(UPEC)、及び腸管組織侵入性大腸菌(EIEC))、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mTB)、シュードモナス・エルギノーサ、クラミジア・トラコマーティス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含む)、ポリオーマウイルス(JCウイルス及びBKウイルスを含む)、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1)、ヘルペスウイルス(単純疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、及びガンマヘルペスウイルスを含む)、インフルエンザウイルス、シゲラ・フレックスネリ、コクサッキーウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、西ナイルウイルス、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、サイトメガロウイルス(CMV)、及び文献に記載されている他の病原体が含まれる。
【0011】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、病原性感染と関連する又は病原性感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼを阻害する、下記の表Aに列挙されているものを含む化合物を含んだ組成物を提供する。一つの好ましい実施形態において、キナーゼはチロシンキナーゼである。さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、チロシンキナーゼ、好ましくはエーベルソンチロシンキナーゼ(Abl)及び/又はSrcファミリーチロシンキナーゼに対する阻害剤、又はその薬学的に許容される塩、鏡像異性体、類似体、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物、もしくは誘導体を含む組成物を提供する。
【0012】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明は、病原性感染を予防又は治療する方法を提供する。そのような方法は、細菌、原虫、ウイルス、藻類、及び真菌等の微生物病原体を含む多岐にわたる病原体による感染を治療するために、本発明のキナーゼ阻害剤を含む組成物を、治療有効量でそれを必要とする患者に投与することを含む。特に、本発明は、大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、尿路病原性大腸菌(UPEC)、及び腸管組織侵入性大腸菌(EIEC))、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mTB)、シュードモナス・エルギノーサ、クラミジア・トラコマーティス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含む)、ポリオーマウイルス(JCウイルス及びBKウイルスを含む)、ヒト免疫不全ウイルス(例えばHIV−1)、ヘルペスウイルス(単純疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、及びガンマヘルペスウイルスを含む)、インフルエンザウイルス、シゲラ・フレックスネリ、コクサッキーウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、西ナイルウイルス、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、サイトメガロウイルス(CMV)、及び文献に記載されている他の病原体を含む病原体と関連する疾患を治療するために、これらの組成物の使用を提供する。一つの好ましい実施形態において、本発明は、急性の病原性感染を治療するために、短期間で、好ましくは3週間未満でこれらの組成物の使用を提供し、毒性を回避する。病原性感染の治療のため治療有効量が送達される限り、組成物は任意の投与手段により投与できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A乃至図1Cは、プラークアッセイにおける、薬物処理による小さなプラーク形成を例証する図である。図1Aは、3T3細胞中に任意のキナーゼ阻害剤も存在しない、WR株を用いたワクシニアウイルスでのプラーク形成(左:陽性対照)、ウイルス及び任意のキナーゼ阻害剤も存在しないプラーク形成(右:陰性対照)を示し、図1Bは、化合物Eph_2wbz_105、Eph_2wbz_203、Eph_2wbz_206及びLG2−71でのコメットを有する小さなプラークの形成をそれぞれ示し、図1Cは、化合物DM−I−187及びDM−I−196でのコメットを有しない小さなプラークの形成をそれぞれ示す。
【図2】図2A乃至図2Cは、プラークアッセイにおける、薬物処理による点状プラーク形成を例証する図である。図2Aは、化合物Eph_2wbz_100、Apck108、Apck111、Apck26及びApck27による点状プラーク形成をそれぞれ示し、図2Bは、化合物Apck105、LG2−91及びLG2−96では点状プラークが形成されないことをそれぞれ示し、図2Cは、陽性対照(左)及び陰性対照(右)を示す。
【図3】顕微鏡アッセイ及びプラークワクシニアアッセイによる、野生型についてのアクチンタンパク質尾部及びプラーク形成(WT、ウイルスのみ)(最上段列)、並びに化合物STI−F(中段列)及びEph_2wbz_203(最下段列)を用いたアクチンタンパク質尾部及びプラーク形成、並びにそれらの予想されるキナーゼファミリー標的を例証する図である。
【図4】図4A乃至図4Cは、プラークアッセイにおける追加的な薬物表現型を例証する図である。図4Aは、化合物Apck34(左)及びApck32(右)についての小さなプラーク及び大きなコメットを示し、図4Bは、化合物JGAP−13(左)及びブチエオラクトン−1(右)についてのプラーク形成が、野生型(WT、ウイルスに感染したのみ)よりも多いことを示し、図4Cは、化合物Apck101(左)及びYYB21(右)についての損傷した単層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、病原性感染と関連する又は病原性感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼを阻害する化合物を含む組成物、及びそのような組成物の使用方法を提供する。本発明の化合物には、以下の表Aに列挙されているものが含まれるが、それらに限定されない。本明細書において、「化合物」及び「キナーゼ阻害剤」という用語は、交換可能に使用され、病原体感染と関連する又は病原体感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼと相互作用可能な化学物質を指し、以下の表Aに示した構造を有するそれらの化学物質を含むが、それらに限定されない。
【0015】

【表A−1】

【0016】
【表A−2】

【0017】
【表A−3】

【0018】
【表A−4】

【0019】
【表A−5】

【0020】
【表A−6】

【0021】
【表A−7】

【0022】
【表A−8】

【0023】
【表A−9】

【0024】
【表A−10】

【0025】
【表A−11】

【0026】
【表A−12】

【0027】
【表A−13】

【0028】
【表A−14】

【0029】
【表A−15】

【0030】
【表A−16】

【0031】
【表A−17】

【0032】
【表A−18】

【0033】
【表A−19】

【0034】
【表A−20】

【0035】
【表A−21】

【0036】
【表A−22】

【0037】
【表A−23】

【0038】
【表A−24】

【0039】
【表A−25】

【0040】
【表A−26】

【0041】
【表A−27】

【0042】
【表A−28】

【0043】
【表A−29】

【0044】
【表A−30】

【0045】
【表A−31】

【0046】
【表A−32】

【0047】
【表A−33】

【0048】
【表A−34】

【0049】
【表A−35】

【0050】
【表A−36】

【0051】
【表A−37】

【0052】
【表A−38】

【0053】
【表A−39】

【0054】
【表A−40】

【0055】
【表A−41】

【0056】
【表A−42】

【0057】
【表A−43】

【0058】
【表A−44】

【0059】
上記で列挙されたキナーゼ阻害剤の一つのタイプは、病原性感染と関連する又は病原体感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するチロシンキナーゼの阻害剤である。多様な病原体が、チロシンキナーゼ、及び特にAblファミリー及びSrcファミリーのメンバーを活性化することが報告されている。Ablファミリーキナーゼ及びSrcファミリーキナーゼは宿主にとって不可欠であるため、宿主に害を与えずに病原体の拡散を最小限に抑えるためには、治療薬を適切に投薬しなければならない。Ablファミリーキナーゼ及びSrcファミリーキナーゼを使用する病原体のメンバーは多様であるため(Reeves et al.,2005,Nat.Med 11:731−738)、複数の病原体に影響を与える「汎用治療薬」の開発が可能である。チロシンキナーゼ阻害剤の投与は、防御免疫(例えばポックスウイルスに対する)の獲得を妨害しないと考えられる。したがって、治療薬の投与は、有効な免疫応答が開始されるまでの間のみ継続する必要がある。癌患者における幾つかのチロシンキナーゼ阻害剤の毒性データは、治療薬が短期間(例えば3週間未満)に投与できる急性感染症が理想的な標的であろうことを示唆する(Kerkela et al.,2006,Nat Med.12(8):908−16)。
【0060】
多様な病原体が、重複した様式でキナーゼを使用する。病原体は、単一のキナーゼ経路を利用するのではなく、恐らくはそれらの宿主範囲を増大させるための手段として、様々なサブファミリー内の幾つかのキナーゼを利用する分子的手段を発達させたと考えられる。重複性により、治療薬の開発には複雑さという要素が加わる。多様な病原体が利用するキナーゼは様々なヒト癌において調節不全になるため、過去20年間にわたり、これらのキナーゼ活性を阻害する化合物の開発に多大の努力がなされてきた。阻害剤は、病原体により使用されるキナーゼ類を阻害するのに十分なほど非特異的であるが、それは限定的でなければならない。現在の努力は、キナーゼによりリン酸化される微生物分子及び宿主分子の同定にも向けられている。そのような分子は、治療の標的としても有効である。幾つかの抗癌剤は様々な病原体に対して有効であると判明したことも分かってきている(Reeves et al.,2005,Nat.Med 11:731−738)。
【0061】
本発明は、病原性感染と関連する又は病原性感染を引き起こす病原体−宿主細胞相互作用に関与するキナーゼを阻害するために、本発明の化合物を含む組成物の使用方法をさらに提供する。特に、本発明は、大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、尿路病原性大腸菌(UPEC)、及び腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mTB)、シュードモナス・エルギノーサ、クラミジア・トラコマーティス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含む)、ポリオーマウイルス(JCウイルス及びBKウイルスを含む)、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1)、ヘルペスウイルス(単純疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、及びガンマヘルペスウイルスを含む)、インフルエンザウイルス、シゲラ・フレックスネリ、コクサッキーウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、西ナイルウイルス、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、サイトメガロウイルス(CMV)、及び文献に記述されている他の病原体等の細菌性病原体及びウイルス性病原体を含む微生物病原体に由来する感染と関連する疾患を治療又は予防するために、これらのキナーゼ阻害剤の使用を提供する。特に、本発明で使用するためのこれらのキナーゼ阻害剤には、上記の表Aに列挙されている化合物、又はその薬学的に許容される塩、鏡像異性体、類似体、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物、もしくは誘導体が含まれる。
【0062】
本明細書に記載のキナーゼ阻害剤は、これらのキナーゼを媒介とする宿主−病原体相互作用と関連する又はそれらにより引き起こされる任意の病原性感染、詳しくは微生物感染、より詳しくはウイルス性感染及び細菌性感染を治療又は予防するために、本発明の方法で使用できる。理論には拘束されないが、本明細書に記載のキナーゼ阻害剤は、宿主細胞タンパク質を標的とし、病原体が宿主細胞の発症に必要とする細胞機序を妨害し、したがって発症効果を予防する。病原体−宿主相互作用を制御する細胞機序は非常によく保存されているため、本明細書に記載のキナーゼ阻害剤を適用すると、広範囲の病原体による感染に対抗できると考えられる。そのような病原体には、細菌、原虫、ウイルス、藻類、及び真菌等の種々の微生物が含まれる。本発明の好ましい実施形態において、病原体は細菌及びウイルスである。有利には、本明細書に記載の治療手法は、抗生物質に見られるように病原体ではなく宿主を標的とし、したがって病原体薬剤耐性の発生可能性を減少させる。
【0063】
一実施形態において、本発明は、細菌性感染を治療又は予防するために本発明のキナーゼ阻害剤の使用を提供する。そのような感染には、以下の属及び種のメンバーにより引き起こされる感染が含まれる:アグロバクテリウム・ツメファシエンス、アクワスピリルム属、バチルス属、バクテロイデス属、ボルデテラ・パータシス、ボレリア・ブルグドルフェリ、ブルセラ属、ブルクホルデリア属、カンピロバクター属、クラミジア属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム・ジフテリエ、コクシエラ・ブルネッティ、ディノコッカス・ラディオデュランス、エンテロコッカス属、エシェリヒア属、フランシセラ・ツラレンシス、ゲオバチルス属、ヘモフィルス・インフルエンザエ、ヘリコバクター・ピロリ、ラクトバチルス属、リステリア・モノサイトゲネス、マイコバクテリウム属、マイコプラズマ属、ナイセリア・メニンギティディス、シュードモナス属、リケッチア属、サルモネラ属、シゲラ属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス・セリカラー、ビブリオ属、及びエルシニア属。好ましい実施形態において、そのような感染には、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、シゲラ・フレックスネリ、及びマイコバクテリウム・ツベルクローシス(TB)により引き起こされるものが含まれる。他の実施形態において、そのような感染には、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、尿路病原性大腸菌(UPEC)、及び腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)を含む病原性大腸菌株及び/又は下痢性大腸菌株により引き起こされるものが含まれる。
【0064】
別の実施形態において、本発明は、ウイルス性感染を治療又は予防するために、本発明のキナーゼ阻害剤の使用を提供する。そのような感染には、以下のウイルスファミリーのメンバーにより引き起こされるものが含まれる:アデノウイルス科、アレナウイルス科、アストロウイルス科、バクテリオファージ、バキュロウイルス科、ブンヤウイルス科、カルシウイルス科;コロナウイルス科、デルタウイルス科、フィロウイルス科、フラビウイルス科、ジェミニウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ノダウイルス科、オルソミクソウイルス科、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科、パルボウイルス科、フィコドナウイルス科、ピコルナウイルス科、ポックスウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラプドウイルス科、トバモウイルス科、及びトガウイルス科。好ましい実施形態において、そのような感染には、ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含むポックスウイルス、JCウイルス及びBKウイルスを含むポリオーマウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、及びヒト免疫不全ウイルス(例えばHlV−1)により引き起こされるものが含まれる。
【0065】
本発明の方法によると、本明細書に記載された本発明のキナーゼ阻害剤は、互いに組み合わせて、又は他の化合物、特に抗病原性化合物と組み合わせて投与できる。そのような抗病原性化合物には、従来の抗菌剤が含まれる。他の実施形態において、本明細書に記載された1つ以上の本発明のキナーゼ阻害剤は、例えば天然痘に関係する場合には、シドホビル等の他の化合物と組み合わせて使用でき、これらの作用剤の組み合わせにより、より低用量のシドホビルの投与が提供され、それによりこのヌクレオシド類似体抗ウイルス性化合物の毒性効果を減少させよう。本発明のキナーゼ阻害剤が、病原性感染を治療又は予防するために併用治療の一部として投与される場合、1つ以上の追加的な化合物と同時に、又は逐次的にいずれの順序で投与してもよい。
【0066】
一実施形態において、キナーゼ阻害剤はワクチンをより有効的にするために投与される。例えば、新生児に生ウイルスをワクチン接種しても、母系抗体がワクチンを中和するため獲得免疫に寄与しないことは周知である(Bot and Bona(2002)Microbes Infect.4:511)。一実施形態において、本発明のキナーゼ阻害剤の投与は、安全でより高用量のウイルス投与を可能にし、抗体応答を克服して細胞性免疫の獲得を可能にする。別の実施形態において、本発明のキナーゼ阻害剤は、病原体の免疫異物除去を促進する。幾つかの慢性ウイルス(例えば、HIV及びポリオーマ)の場合、高ウイルス負荷は、T細胞機能を損なうことが判明している(Welsh(2001)J.Exp.Med.193:F19)。したがって、ウイルス負荷を低下させるとT細胞機能の回復がもたらされ、それにより異物除去が促進され得る。別の実施形態において、本発明のキナーゼ阻害剤により、免疫不全個体がワクチン接種を受けることが可能になる。
【0067】
本発明のキナーゼ阻害剤は、実験用のサル又はマウス等の、ヒト又は動物を含む生披検体又は患者への投与用である。本発明が、上述された特定の化合物の使用だけでなく、その任意の薬学的に許容される塩、鏡像異性体、類似体、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物、又はその誘導体の使用も包含することは理解されるべきである。本発明のキナーゼ阻害剤の幾つかは、既に薬剤開発の対象であるか、又はある種の癌治療に使用されているため、長期間(数か月)にわたってでさえ、ヒトに対して十分な耐容性を示し毒性がないことが、データにより確証されている。薬物は、経口で摂取でき、室温で安定しており、単純で、安価に製造できる。
【0068】
本発明の一実施形態において、病原性感染、特に微生物感染を治療又は予防する方法は、生披検体への投与に好適な有効量の医薬組成物をそのような治療を必要とする生披検体に投与することを含み、その医薬組成物は、(a)少なくとも一つの病原体、特に微生物に応答する生披検体の宿主細胞に由来する阻害可能な応答を増大させるのに有効な量の、少なくとも一つの本発明のキナーゼ阻害剤と、(b)生披検体への投与に好適な薬学的に許容される担体とを含む。別の実施形態において、本発明は、(a)少なくとも一つの細菌に応答する生披検体の宿主細胞由来の阻害可能な応答を増大させるのに有効な量の少なくとも一つのキナーゼ阻害剤と、(b)生披検体への投与に好適な薬学的に許容される担体とを含む、生披検体への投与に好適な医薬組成物を提供する。別の実施形態において、本発明は、(a)少なくとも一つのウイルスに応答する生披検体の宿主細胞に由来する阻害可能な応答を増大させるのに有効な量の少なくとも一つのキナーゼ阻害剤と、(b)生披検体への投与に好適な薬学的に許容される担体とを含む、生披検体への投与に好適な医薬組成物を提供する。さらに別の好ましい実施形態において、本発明のキナーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤であり、好ましくはAblファミリーチロシンキナーゼ阻害剤及び/又はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である。
【0069】
治療又は予防しようとする病原性感染に依存して、本明細書に記載された本発明のキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物は、それらに限定されないが、経口、経鼻、口腔内、舌下、静脈内、経粘膜、直腸的、局所的、経皮的、皮下、吸引による、又はクモ膜下腔内を含む任意の好適な経路により投与できる。
【0070】
一つの好ましい実施形態において、これらの医薬組成物は、経口投与用懸濁剤、飲用液剤、もしくは錠剤;鼻内噴霧剤もしくは点鼻剤;又は油性懸濁剤もしくは坐剤の形態であってよい。懸濁剤として経口的に投与される場合、本発明の組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の技法に従って調製され、容積付与用の微結晶性セルロース、懸濁化剤としてのアルギン酸又はアルギン酸ナトリウム、粘性増強剤としてのメチルセルロース、及び当該技術分野で公知の甘味料/香料添加剤を含むことができる。即効性錠剤としては、これらの組成物は、微結晶性セルロース、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウム及びラクトース、並びに/又は当該技術分野で公知の他の賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤及び滑沢剤を含むことができる。口腔洗浄剤又はすすぎ剤の製剤における成分には、当該技術分野で公知の抗菌剤、界面活性剤、補助界面活性剤、油、水、及び甘味料/香料添加剤等の他の添加剤が含まれる。滴下液剤で投与される場合、組成物は、適切にpH調整をして担体と共に水等の飲用液体に溶解された、本明細書に記載された又は1つ以上の本発明のキナーゼ阻害剤を含む。化合物は、1nMオーダー以上の血中濃度を与えるのに十分な量で、好ましくはin vivoで効果的である有効量で飲用液体に溶解される。
【0071】
経鼻的に投与される場合、これらの組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の技法に従って調製され、当該技術分野で公知のベンジルアルコールもしくは他の好適な保存剤、生物学的利用能を増強する吸収促進剤、及び/又は他の可溶化剤もしくは分散剤を使用して、生理食塩水中の液剤として調製できる(Ansel et al.(1999)Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(7th ed.)を参照)。好ましくは、これらの組成物及び製剤は、好適であり毒性のない薬学的に許容される成分で調製される。これらの成分は経鼻剤形の調製において当業者に公知であり、これらに幾つかは、当分野の標準的文献であるRemington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.,Mack Publishing Company,Eaton,PA;1990)に見出すことができる。好適な担体の選択は、所望の経鼻剤形、例えば液剤、懸濁剤、軟膏剤、又はゲル剤の正確な性質に高度に依存する。経鼻剤形は、一般的に、活性成分に加えて大量の水を含む。また、pH調製剤、乳化剤もしくは分散剤、保存剤、界面活性剤、ゲル化剤、又は緩衝剤並びに他の安定化剤及び可溶化剤等の少量の他の成分が存在していてもよい。
【0072】
本発明のキナーゼ阻害剤の製剤は、(1)pHを調整するための他の酸及び塩基、(2)ソルビトール、グリセリン、及びブドウ糖等の他の等張付与剤、(3)他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、ソルベート、安息香酸塩、プロピオン酸塩、クロルブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、及び水銀剤等の他の抗菌性保存剤、(4)カルボキシルメチルセルロースナトリウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び他のゴム等の他の粘性付与剤、(5)好適な吸収促進剤、(6)重硫酸塩及びアスコルビン酸塩のような酸化防止剤等の安定化剤、ナトリウムエデンテート等の金属キレート剤、及びポリエチレングリコール等の薬物溶解促進剤を含むように変動させることができる。
【0073】
上記の経鼻製剤は、滴剤として、噴霧剤として、又は任意の他の鼻腔内剤形で投与できる。場合により、送達システムは、単位用量送達システムであってよい。送達される液剤又は懸濁剤の1用量当たりの容積は、5から500マイクロリットルまでであればいずれでもよく、好ましくは5〜200マイクロリットルである。これらの種々の剤形用の送達システムは、単位用量包装又は複数用量包装のいずれかのスポイト瓶、プラスチック製スクィーズユニット、及び噴霧器等であり得る。ロゼンジは、これらの目的のために参考として本明細書で援用される米国特許第3,439,089号に従って調製できる。
【0074】
坐剤の形態で直腸に投与される場合、これらの組成物は、常温で固体であるが直腸腔で液化及び/又は溶解して薬物を放出する、カカオ脂、合成グリセリドエステル、又はポリエチレングリコール等の好適な非刺激性の賦形剤と、本発明のキナーゼ阻害剤を混合することにより調製できる。
【0075】
1mg/日オーダー以上の用量レベルは、本明細書で上述したように、宿主生物内の病原性感染及び関連疾患の治療又は予防に有用であり得る。本発明の一実施形態において、およそ70kgの体重を有する患者の場合、本明細書に記載された又は1つ以上の本発明のキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物が、約1mg/日から約1000mg/日の有効量で、病原性感染の治療又は予防を必要とする患者に投与される。しかしながら、任意の特定の患者用の特定の投与量及び投与頻度は、変化させることができ、使用された特定の塩又は他の形態の活性、化合物の代謝安定性及び作用期間、年齢、体重、一般的健康、性別、食事、投与方法及び投与時間、排せつ速度、薬物の組み合わせ、特定の状態の重症度、並びに治療を受ける宿主を含む様々な要因に依存することが理解される。一つの好ましい投与計画において、そのような用量は、鼻内噴霧又は経口ロゼンジのいずれかにより、その必要がある披検体に投与できる。
【0076】
特定の病原性感染、特に微生物感染を治療又は予防するために本発明の医薬組成物を使用することの有効性は、例えば、感染因子、感染の段階、感染の重症度、並びに患者の年齢、体重、及び性別等に依存して変動する。
【0077】
本明細書において、「治療」という用語は、本明細書に記載された又は1つ以上の本発明のキナーゼ阻害剤を、披検体に塗布又は投与することであると定義され、披検体は、本明細書の別なところで述べられているような病原性感染、病原性感染に関連する徴候、又は病原性感染を進行させる素因を有し、病原性感染、病原性感染の任意の関連徴候、又は病原性感染を進行させる素因を治療、治癒、緩和、軽減、変化、改善、寛容、好転、又は影響を与えることが目的である。「治療」という用語は、本明細書に記載された又は1つ以上の本発明のキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物を、披検体に意図的に塗布又は投与することであるとも定義され、披検体は、本明細書の別なところで述べられているような病原性感染、病原性感染に関連する症状、又は病原性感染を進行させる素因を有し、病原性感染、病原性感染の任意の関連徴候、又は病原性感染を進行させる素因を治療、治癒、緩和、軽減、変化、改善、寛容、好転、又は影響を与えることが目的である。
【0078】
本明細書に記載された本発明のキナーゼ阻害剤、特にチロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書で上述の病原性感染を治療又は予防するのに有用である。本明細書に示された方法での病原性感染の治療又は予防は、病原体、特に例えばJC及びBK等のポリオーマウイルスの出現、及び病原性感染が、移植器官の機能を損なう場合がある、臓器移植患者、例えば腎臓移植患者にも有用である。同様に、HIV感染は脳の乏突起膠細胞を破壊し、AIDS関連認知症に繋がることがある。したがって、本明細書の他のところで述べられているような病原性感染の治療又は予防に加えて、本明細書に記載された本発明のキナーゼ阻害剤、特にチロシンキナーゼ阻害剤は、HIV陽性患者及びAIDS患者における二次感染、並びに移植を受ける患者、例えば腎移植患者における二次感染を制御し、エイズ関連認知症を制御するために使用できる。さらに、キナーゼ阻害剤、特にチロシンキナーゼ阻害剤を予防的に使用して、HIV陽性患者及びAIDS患者を含む免疫不全個体並びに移植を受ける患者において、例えばワクシニア感染関連の感染性ウイルス粒子の拡散を防止できる。
【0079】
本発明は、細菌性病原体及び/又はウイルス性病原体により引き起こされる微生物感染を治療又は予防するためにキナーゼ阻害剤の使用を提供する。細菌性病原体の1つは、腸管病原性大腸菌(EPEC)及び腸管出血性大腸菌(EHEC)を含む病原性大腸菌であり、上水道及び食糧供給を汚染し、乳幼児下痢症を引き起こす。EPEC及びEHECは、NIAIDによりカテゴリーBの病原体として分類されている。発展途上国において、EPECは、毎年およそ2000万の疾患を引き起こし、500,000人を死亡させている(Goosney et al.(2000)Annul Rev.Cell Dev.Biol.,16:173)。「生ハンバーガー疾患」の原因病原体であるEHECは、食物を汚染し、下痢及び致死的な結果になることが多い溶血尿毒症症候群と関連している。EHECは2つの志賀毒素を有し、溶血尿毒症症候群に関連する徴候を引き起こす(Perna et al.(2001)Nature,409(6819):529−33)。
【0080】
EPEC、EHEC、及びシトロバクター(C)・ローデンチウム(マウスEPEC)は、上皮細胞表面上でアクチン充満膜突起又は「台座」を自己の直下に形成する(Knutton et al.(1989)Lancet 2:218;McDaniel et al.(1997)Mol.Microbiol.,23:399)。台座は食作用を防止して宿主のコロニー形成を可能にし、その後の疾患の進行に必要である(Goosney et al.(1999)Infect.Immun.,67:490;Jerse et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:7839)。台座が生ずる機序は広範に研究されている(Kalman et al.(1999)Nat.Cell Biol.,1:389)。台座及び下痢の発達は、両方とも細菌の直下にある宿主のチロシンキナーゼの活性化に決定的に依存し、活性化は宿主細胞へと分泌されるTirと呼ばれる細菌性タンパク質をリン酸化する(Kenny et al.(1997)Cell,91:511;Kenny(1999)Mol.Microbiol.,31:1229)。細菌性リガンドであるインチミンと結合すると、宿主のシグナル伝達カスケードが開始され、それが台座形成に繋がる。
【0081】
EPEC発病の分岐点となる事象は、EPECのTirのリン酸化である(Kenny(1999)Mol.Microbiol.,31:1229)。いったんリン酸化されると、EPECのTirは、Nck、N−WASP、及びArp2/3複合体を含む宿主細胞タンパク質の補充及び活性化を促進し、それらはアクチン重合化を開始させて台座を構築し強化する(Kalman et al.(1999)Nat.Cell Biol.,1:389;Lommel et al.(2001)EMBO Rep.,2:850;Gruenheid et al.(2001)Nat.Cell Biol,3:85619;Rohatgi et al.(1999)Cell,97:221)。
【0082】
本明細書に記載されたウイルス性病原体の1つは、配列が95%同一であるポックスウイルス科ファミリーのメンバーであるワクシニアウイルス(VV)及び痘瘡ウイルスである(Esposito et al.(1990)Poxviruses,in Fields Virology,D.M.Knipe,Editor,Raven Press:New York.p.2336;Moss(1990)Poxviridae:The Viruses and Their Replication,in Fields Virology,D.M.Knipe,Editor.Raven Press:New York.p.2336)。VVウエスタンリザーブ(WR)株は、天然痘の原因である大痘瘡用のワクチン接種剤としての役割を果たす。VV及び痘瘡は哺乳動物細胞に侵入し、核外複製「工場」を確立し、エンベロープウイルス粒子を産生する(Moss(1990)Poxviridae:The Viruses and Their Replication,in Fields Virology,D.M.Knipe,Editor.Raven Press:New York.p.2336)。これらのウイルス粒子は、微小管モーターを使用して細胞表面に移動し、アクチンを重合化することにより並置細胞に移行する(Ploubidou et al.(2000)EMBO J.,19(15):p.3932−44;Rietdorf et al.(2001)Nat.Cell Biol.,3(11):p.992−1000;Ward and Moss(2001)J.Virol.,75(23):p.11651−63;Ward and Moss(2001)J.Virol.,75(10):p.4802−13;Cudmore et al.(1996)J;Cell Sci.,109(Pt7):p.1739−47;Cudmore et al.(1997)Trends Microbiol.,5(4):p.142−8)。これらのウイルス粒子は、アクチンを重合化させ、宿主細胞の細胞質を通り細胞膜へ向かってウイルス粒子自体を推進させ、細胞を出て並置細胞に侵入する。アクチン「コメット」の形成は、ワクシニアが細胞から細胞へと拡散するのに重要であると考えられる。アクチンに基づく運動性の場合、ワクシニアは、チロシンキナーゼを含む宿主細胞分子の粒子表面への補充に依存する。最終的に、宿主細胞は細胞溶解を起こし、それにより追加的な感染性粒子を放出する。
【0083】
チロシンキナーゼ及びセリン/トレオニンキナーゼは、ウイルス感染の幾つかの局面にとって重要である。正確な機序は十分には理解されていないが、アクチンに基づく運動性は、c−Src及びAblと関係する宿主細胞のチロシンキナーゼの活性に依存し、複製は少なくとも部分的にはウイルスキナーゼに依存する(Frischknecht et al.(1999)Nature 401(6756):926−929;Rempel et al.(1992)J.Virol.66(7):4413−4426;Traktman et al.(1995)J;Virol.69(10):6581−6587;Traktman et al.(1989)J.Biol.Chem.264(36):21458−21461)。
【0084】
ポックスウイルスが宿主細胞に侵入すると、ウイルス粒子は、核近傍の位置に移動し、そこで10までのコンカテマーゲノムを複製する(Moss(1990)Poxviridae:The Viruses and Their Replication,in Fields Virology,D.M.Knipe,Editor.Raven Press:New York,p.2336)。コンカテマーは、最終的に細胞内成熟ウイルス粒子(IMV)と呼ばれる個々のエンベロープ粒子を形成し、その幾つかは追加的な膜に包まれて細胞内エンベロープウイルス粒子(IEVs;Smith et al.(2003)Annul Rev.Microbiol.,pp.323−342)を形成する。細胞溶解により、細胞からIMVが放出される。しかしながら、細胞溶解に先立って、IEVは、キネシン/微小管輸送系を介して宿主細胞周辺に向かって移動する(Carter et al.(2003)J.Gen.Virol.,pp.2443−2458;Hollinshead et al.(2001)J.Cell Biol.,pp.389−402;Rietdorf et al.(2001)Nat.Cell Biol.,pp.992−1000;Ward and Moss(2001)J.Virol.,pp.,11651−11663)。
【0085】
細胞を出て行くために、細胞内エンベロープウイルス(IEV)粒子は、宿主細胞の細胞膜と融合して、細胞会合エンベロープウイルス(CEV)を形成し、その2つの外膜のうちの1つを後に残す(Smith et al.(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,323−342;Smith et al.(2002)J;Gen.Virol.,pp.2915−2931)。CEVは、直接分離するか、又はアクチン重合化を開始させて、アクチン充満膜突起上の粒子を並置細胞に向かって推進させてから分離するかのいずれかである(Smith et al.(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,323−342)。アクチン運動性は、Ablファミリーキナーゼ及びSrcファミリーキナーゼに依存するが、細胞外エンベロープウイルス(EEV)を形成するためのCEVの分離は、Ablファミリーキナーゼに依存する(Smith et al.(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,323−342)。
【0086】
CEVを囲む膜に位置し、VVのA36R遺伝子によりコードされるタンパク質(A36Rと呼ばれる)は、アクチン重合化及び病原性に必要であることが知られている(Wolffe et al.(1998)Virology pp.20−26;Parkinson and Smith(1994)Virology pp.376−390)。アクチン重合化及び細胞間拡散の分岐点となる事象は、宿主細胞のチロシンキナーゼによるA36Rのチロシン残基のリン酸化である(Newsome et al.(2004)Science 306:124−128;Frischknecht et al.(1999)Nature 401(6756):926−929)。上述したEPECのTirタンパク質とVVのタンパク質A36Rとの間には顕著な相同性があり、したがってEPECと類似しているが同一でない宿主細胞のシグナル伝達因子をして使用してアクチンを重合化し、宿主細胞から出て行く(Frischknecht and Way(2001)Trends Cell Biol. 11(1):30−38)。
【0087】
過去の報告によると、哺乳類のチロシンキナーゼc−Srcはウイルス粒子に局在化することが示唆されている(Frischknecht et al.(1999)Nature 401(6756):926−929)。さらに、微小管からのウイルス粒子の放出及びアクチン尾部を形成するアクチンの核生成は、Srcキナーゼ又は他のキナーゼによるA36Rのリン酸化に依存する(Newsome et al.(2004)Science 306:124−128;Frischknecht et al.(1999)Nature 401(6756):926−929;Kalman et al.(1999)Nat.Cell.Bio.1:389−391)。いったんリン酸化されると、A36Rは、キネシンの分離、並びにNck、Grb2、N−WASP、及びArp2/3複合体を含む宿主細胞タンパク質の補充及び活性化を促進し、粒子の直下でアクチン重合化を開始させる(Frischknecht and Way(2001)Trends Cell Biol. 11(1):3O−38;Moreau et al.(2000)Nat.Cell Biol,pp.441−448;Scaplehorn et al.(2002)Curr.Biol.,pp.740 745)。実際、ワクシニアは、シゲラ・フレックスネリにより使用されるものに類似する機序を使用して、宿主細胞質を通って自己を推進させる。例えば、シゲラ属及びワクシニアの両方は、アクチンを重合化する手段としてN−WASP及びArp2/3複合体を補充して活性化する(Frischknecht and Way(2001)Trends Cell Biol.11(1):30−38)。
【0088】
当業者であれば、本発明のこれらの並びに他の多くの変化及び実施形態は、添付の説明及び実施例を検討することにより明白である。
【実施例】
【0089】
(実施例1):顕微鏡アッセイを使用した薬物スクリーニング
本発明は、微生物病原体の薬物スクリーニングアッセイを提供する。一つの好ましい実施形態において、本発明は、ウイルス性病原体、好ましくはポックスウイルスの薬物スクリーニングアッセイを提供する。本明細書において、2つの典型的な薬物スクリーニングアッセイ:顕微鏡アッセイ及びプラークアッセイを提供する。顕微鏡アッセイの目的は、感染細胞から放出されるワクシニアウイルスにより引き起こされるアクチンタンパク質充満膜突起(又は「尾部」)の形成に対する組成物の影響について、組成物をハイスループット形式でスクリーニングすることである。顕微鏡アッセイは、間接的にではあるが、複製又はウイルス成熟に対する影響も明らかにする。
【0090】
顕微鏡アッセイを行うために、コラーゲン/PDL被覆のガラス顕微鏡スリップ又は96ウェル光学組織培養プレートに、培養された3T3細胞を低密度で添加した。細胞をこれらのスリップに一晩付着させた。翌日、これらの細胞から培地を取り除き、低血清培地に置換した。およそ10個のワクシニアウイルス粒子を低血清培地に直接添加し、感染を37℃で1時間持続させ、ウイルスを細胞に吸着させた。1時間後、本発明の化合物を1:10希釈で直接感染細胞に添加した。さらに16時間感染を継続させた。この期間後、培地を取り除き、細胞を固定して染色した。アクチンタンパク質は蛍光共役ファロイジンで視覚化し、DNA(ウイルス性又は細胞性)は、記述されているように(Reeves et al.,2005,Nat.Med.11:731−738を参照)、DAPIで染色することにより視覚化した。細胞変性効果、ウイルス感染及びアクチンタンパク質尾部形成の有無について、細胞を多波長蛍光顕微鏡で画像化した。
【0091】
図3は、顕微鏡アッセイによる、野生型(WT、薬物処理をしないウイルス感染)のアクチンタンパク質尾部(最上段列)並びに化合物STI−F(中段列)及びEph_2wbz_203(最下段列)でのアクチンタンパク質尾部、並びにそれらの予想されるキナーゼファミリーの標的を例証する。その結果、化合物STI−Fはアクチン尾部をほとんど誘導しなかったが、化合物Eph_2wbz_203は野生型アクチンタンパク質尾部を誘導したことが示され、これらの化合物がチロシンキナーゼを標的にしてウイルス感染を阻害し得ることが示唆された。
【0092】
(実施例2):プラークアッセイを使用した薬物スクリーニング
プラークアッセイの目的は、ワクシニアウイルスプラークのサイズ、及び大きなプラークに隣接するより小さなプラーク群である「コメット」プラークの形成に対する化合物の影響について、化合物をスクリーニングすることである。大きなプラークは、アクチンタンパク質尾部を用いて感染細胞の出口からのウイルスとして形成し、並置細胞に感染する。感染細胞は、最終的に死滅し単層に穴を残す。コメットプラークは、ある形態のウイルス(EEVと呼ばれる)が上澄みに放出され、大きなプラークに隣接して定着する場合に生じる。コメットは、初感染が、初期接種物ではなく隣接した大きなプラークにより生成されたウイルスに由来するため、一般的に大きなプラークより小さい。大きなプラークのサイズは、わずかな程度であるが、EEVによっても決定される。アクチンタンパク質尾部の形成(したがって大きなプラークのサイズ)は、Srcファミリーキナーゼ及びAblファミリーキナーゼに依存するが(Reeves et al.,2005,Nature Medicine.11:731−738)、EEVの形成(したがってコメット)はAblファミリーキナーゼに依存する。Ablファミリーキナーゼ及びSrcファミリーキナーゼの阻害剤は、「点状」プラークに帰着するが(例えば、PD166326)、Ablファミリーキナーゼの阻害剤は、多少縮小されたプラークサイズ及びコメットの喪失を引き起こす(例えばGleevec(登録商標)又はSTI−571)。Srcファミリーチロシンキナーゼ及びAblファミリーチロシンキナーゼは、痘苗(VV)作用の運動性及び伝染性ウイルス粒子の放出に関与することが判明しており、これらのチロシンキナーゼの阻害剤は、作用尾部の形成を阻止する。国際特許公開第2205/072826号パンフレットを参照されたい。その公報全体は参考として本明細書で援用される。
【0093】
プラークアッセイを行うために、培養されたBSC40細胞を高密度で12ウェル組織培養皿に添加した。これらの細胞を一晩付着させて、密集度に到達させた。単層を覆っている培地を取り除き、低血清培地(2%FBS)に置換した。およそ1x10PFUのワクシニアウイルスを単層に添加し、細胞に1時間吸着させた。吸着後、低血清培地を取り除き、完全培地(10%FBS)に置換した。終濃度が1OOμMになるように、本発明の化合物を完全培地に添加した。単層は、およそ3日間、静置したまま37℃でインキュベートした。この期間後、培地を取り除き、細胞を固定してクリスタルバイオレット溶液で染色し、プラークサイズ又はコメットの存在を数値化した。
【0094】
総括表B(表Bを参照)に開示したように、プラークアッセイに基づいてポックスウイルス及び特にワクシニアウイルス(VV)に対する活性を有する化合物が同定された。例えば、図1は、化合物Eph_2wbz_105、Eph_2wbz_203、Eph_2wbz_206及びLG2−71がコメットを有する小さなプラークを生成する一方で(図1B)、化合物DM−I−187及びDM−I−196はコメットを有しないより小さな(点状)プラークを生成する(図1C)ことを示す。化合物Eph_2wbz_110、Apck108、Apck111、Apck26、及びApck27は、点状プラークを生成するが(図2A)、化合物Apck105、LG2−91及びLG2−96はプラークを生成しない(図2B)。さらに、図4は、化合物Apck34及びApck32により生成された大きなコメットを有する小さなプラーク(図4A);化合物JGAP−13及びブチエオラクトン−1で処理されることにより、WTより多くのプラークが生成されたこと(図4B);及び化合物Apck101及びYYB21で処理されることにより、損傷を受けた単層が生成されたこと(図4C)等の追加的な表現型を例証する。
【0095】
Srcファミリーキナーゼ及びAblファミリーキナーゼの阻害剤(例えばPD166326及びBMS354825)での結果に基づいて、発明者らは、感染した単層を、(クラスI)未処理の細胞との差がないこと;(クラスII)Ablファミリーキナーゼ及びEEVの放出を示す、コメットの痕跡のない小さなプラーク;並びに(クラスIII)Srcファミリーキナーゼ及びAblファミリーキナーゼの阻害剤、アクチン尾部の阻止並びにEEVの放出を示す、点状プラーク又はプラークの非存在及びコメットの非存在という3つのカテゴリーに数値化した。クラスIIカテゴリーに属する化合物には、Eph2_wbz107;WBZ−4;Eph2−wbz206;Eph2−wbz211;APcK−107;APcK109;APcK110;YYB41;YYB44;LG2−62;LG2−79;JAK2Fが含まれるが、それらに限定されない(下記の表Bを参照)。クラスIIIカテゴリーに属する化合物には、Eph2_wbz102;Eph2_wbz103;Eph2_wbz104;Eph2_wbz105;Eph2_wbz106;Eph2_wbz110;Eph2−wbz112;Eph2−wbz117;STI−OH;STI−F;STLL3;StiAF3_Ue;STLF2;Eph2_wbz202;Eph2−wbz203;Eph2_wbz216、AS605091;AS604850;AS605240;APcK−102;APcK−103;APcK104;APcK−105;APcK−106;APcK108;APcK111;APcK−26;APcK27;APcK35;APcK40:APcK43;APcK44;APcK48;dm−I−187;dm−I−193;dm−I−196;dm−I−203;PD166326;PD−Br;YYA104;YYA188;YYA194;YYA195;YYB19;YYB31;YYB32;LG2−9;LG2−11;LG2−13;LG2−85;LG2−71;LG2−95;LG2−91;LG2−101;LG2−102;LG2−98;LG2−96が含まれるが、それらに限定されない(下記の表Bを参照)。
【0096】
これらで検査された化合物の幾つか、例えばApCK103、Apck−43、LG2−55、及びLG2−71は、ヘルペスアッセイ及びワクシニアアッセイの両方において効果を示した(下記及び下記の表Bも参照されたい)。他には(例えば先願に記述されているPD166326及び関連化合物)、ワクシニアアッセイ及び病原性大腸菌を用いたアッセイの両方で効果を示したものもあった(Swimm et al.,2004,Molecular Biology of the Cell.2004.15:3520−3529)。幾つかのクラスII及びIII化合物も、上述のように顕微鏡アッセイで検査した。その結果、そのアッセイで検査されたクラスII化合物は、アクチン尾部の数に影響しなかったが、そのアッセイで検査されたクラスIII化合物は、アクチン尾部を低減したか又は除去したことが示された(図3を参照)。上述のように、図3は、顕微鏡アッセイ及びプラークワクシニアアッセイによる、野生型についてのアクチンタンパク質尾部及びプラーク形成(WT、ワクシニアウイルス感染のみ)(最上段列)、並びに化合物STI−F(中段列)及びEph_2wbz_203(最下段列)でのアクチンタンパク質尾部及びプラーク形成、並びにそれらの予想されるキナーゼファミリー標的を例証する。アクチン運動性のキナーゼ依存性の特徴付けに基づくこれらのデータにより、クラスII化合物はAblファミリーキナーゼを阻害する可能性が高く、クラスIII化合物はAblファミリーキナーゼ及びSrcファミリーキナーゼの両方を阻害する可能性が高いことが示されたが、他のキナーゼも阻害される可能性があり得る。
【0097】
これらでもたらされた結果は、ポックスウイルス感染の治療についての含意も提供する。ポックスウイルス感染の治療に使用される阻害剤Gleevec(登録商標)により引き起こされる表現型は、ここで記述されたクラスII及びIIIの化合物により引き起こされる表現型と一致しているため、クラスII及びクラスIIIの化合物の両方がEEVの放出を阻止する可能性が高いことが示唆される。EEVはin vivoでウイルス伝染を媒介するため、これらの化合物は、特定の場所(例えば、肺)に感染を封じ込める可能性が高いであろう。さらに、Gleevec(登録商標)は防御免疫の獲得を妨害しないため、ここで提供されたクラスII又はクラスIIIの化合物の免疫抑制効果は予期されないであろう。
【0098】
(実施例3)ヘルペスウイルスについての薬物スクリーニングアッセイ
全てのヘルペスウイルスは、それらの宿主において生涯にわたる感染を確立するという特性を共有する。特筆すべきは、全てのガンマヘルペスウイルスは、リンパ腫及び他の癌の発生と関連している。チロシンキナーゼがガンマヘルペスウイルス感染に寄与するかどうかを決定するために、3T3細胞のコンフルエントな単層を、光学96ウェル皿において、本明細書に記載された本発明の化合物のライブラリーに1時間接触させプレーティングした。その後、CMVプロモータ支配下でGFPを発現するガンマヘルペス変異体(GHV−Bac−GFP)で細胞を感染させ、10μMの終濃度で本発明の化合物に置換した。
【0099】
7日後、未処理のままだった対照細胞は、著しい細胞変性効果、すなわち単層を介した初感染の拡散、及びそれに続く感染細胞の溶解に起因する効果を示した。化合物で処理した細胞では、3つの表現型が明白だった。(i)化合物で処理した細胞は、対照と同程度に細胞変性効果の痕跡を示した。未感染のままの化合物で処理した細胞が、細胞変性効果の痕跡をほとんど示さなかったため、この表現型は、この表現型を引き起こす化合物がウイルスの侵入、感染細胞からの放出、単層内での拡散、又は細胞溶解に影響を与えなかったことを示す。(ii)このグループの化合物で処理された後でも細胞の単層は無損傷のままであり、GFP蛍光を検査で、蛍光焦点は単層全体にわたっては広がらなかったことが示された。この表現型は、この表現型を引き起こす化合物がウイルスの侵入又は放出を阻止する可能性が高いことを示す。典型的な化合物には、本発明のCGP−2(Gleevec(登録商標))、StiAF3−iAR、及びLG2−71化合物が含まれるが、それらに限定されない(下記の表Bを参照)。(iii)このグループの化合物で処理された後でも細胞の単層はまた無損傷のままであったが、GFP蛍光を検査で、単層全体にわたって蛍光が認められた。この表現型は、この表現型を引き起こす化合物がウイルスの侵入又は放出を阻止しないが、細胞溶解は阻害できることを示す。典型的な化合物には、CGP51148WBZ−4、Apck103、Apck21、APck25、APcK36、ApcK42、APCK50、APCK51、APCK53、LG2−55、LG2−77、及びLG2−81が含まれるが、それらに限定されない(下記の表Bを参照)。これらのデータをまとめると、グループ(ii)及び(iii)の化合物は、ウイルス増殖に影響を与え、新しいウイルスの生成を制限することが示唆され、さらに病原性感染を治療及び予防するのに有用であることが期待される。
【0100】
ここで提供されたこれらの化合物は、チロシンキナーゼを阻害するように設計されているが、ガンマヘルペスの病原性にチロシンキナーゼが関与する証拠は文献にはなく、細胞標的又はウイルス標的に対するこれらの化合物のオフサイト効果は除外されないであろう。それにもかかわらず、ここで同定された化合物は、エプスタインバーウイルス及び単純疱疹ウイルスを含むがそれらに限定されないヘルペスウイルス及び関連ウイルスにより引き起こされる感染を治療するのに有効であると証明され得る。
【0101】
これらの発明に関係する当業者が、先述の説明及び関連する図面中に示された教示の利益を有すれば、本明細書に示された本発明についての多くの改変及び他の実施形態を想起しよう。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、改変及び他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されていると理解されるべきである。特定の用語が本明細書で使用されるが、それらは限定目的ではなく、一般的な記述的な意味でのみ使用されている。さらに、本明細書及び添付の実施形態で使用されているように、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈が明白に指示しない限り、複数の参照が含まれる。
【0102】

本明細書で言及された刊行物及び特許出願は全て、この発明に関係する当業者のレベルであることを示す。全ての刊行物及び特許出願は、あたかも個々の刊行物又は特許出願が具体的に及び個々に提示されて参考として援用されるのと同程度に、参考として本明細書で援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性感染を予防又は治療するための方法であって、多岐にわたる病原体により引き起こされる感染を予防又は治療するために、表Aに示した1つ以上のキナーゼ阻害剤を含む治療有効量の組成物を、治療有効量の組成物を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記キナーゼ阻害剤がチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チロシンキナーゼ阻害剤がAblファミリーチロシンキナーゼ阻害剤又はSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記病原性感染が細菌性病原体により引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌性病原体が、大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、尿路病原性大腸菌(UPEC)、及び腸管組織侵入性大腸菌(EIEC))、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(mTB)、シュードモナス・エルギノーサ、クラミジア・トラコマーティス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含む)、ポリオーマウイルス(JCウイルス及びBKウイルスを含む)、ヒト免疫不全ウィルス(例えばHIV−1)、ヘルペスウイルス(単純疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、及びガンマヘルペスウイルスを含む)、インフルエンザウイルス、シゲラ・フレックスネリ、コクサッキーウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、西ナイルウイルス、リステリア・モノサイトゲネス、サルモネラ・チフィムリウム、サイトメガロウイルス(CMV)、及び他の病原体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記病原性感染がウイルス性病原体により引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス性病原体が、アデノウイルス科、アレナウイルス科、アストロウイルス科、バクテリオファージ、バキュロウイルス科、ブンヤウイルス科、カリシウイルス科、コロナウイルス科、デルタウイルス、フィロウイルス科、フラビウイルス科、ジェミニウイルス科、ヘパドナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ノダウイルス科、オルソミクソウイルス科、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科、パルボウイルス科、フィコドナウイルス科、ピコルナウイルス科、ポックスウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラブドウイルス科、トバモウイルス科、及びトガウイルス科、ワクシニアウイルス及び痘瘡ウイルスを含むポックスウイルス、JCウイルスおよびBKウイルスを含むポリオーマウイルス、単純性疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス及びガンマヘルペスウイルスを含むヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、並びにヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記病原性感染がポックスウイルスにより引き起こされる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記病原性感染がワクシニアウイルスにより引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
病原性感染が、単純疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、及びガンマヘルペスウイルスを含むヘルペスウイルスにより引き起こされる、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記キナーゼ阻害剤がStiAF3−iAR又はLG2−71である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記キナーゼ阻害剤が、WBZ−6、CGP51148WBZ−4、Eph2_wbz、Apck103、Apck21、APck25、APcK36、APCK50、APCK51、APCK53、LG2−55、LG2−77、又はLG2−81である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記病原性感染が急性感染である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記急性感染が短期間治療される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記短期間が3週間未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記キナーゼ阻害剤が総括表Bに示されている、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−502726(P2010−502726A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527526(P2009−527526)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/077578
【国際公開番号】WO2008/079460
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(598038968)エモリー・ユニバーシティ (19)
【Fターム(参考)】