シリコン基板の加工方法および液体噴射ヘッドの製造方法
【課題】簡易な工程で、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することのできるシリコン基板の加工方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるシリコン基板の加工方法は、シリコン基板10の主面をスパッタリングする表面処理工程と、シリコン基板10の主面にマスク層20を形成するマスク層形成工程と、マスク層20をパターニングしてマスクパターン22を形成するパターニング工程と、マスクパターン22の形状に従ってシリコン基板10をウエットエッチングするエッチング工程と、を含み、マスク層20は、クロムを含有し、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一のチャンバーC内で行われる。
【解決手段】本発明にかかるシリコン基板の加工方法は、シリコン基板10の主面をスパッタリングする表面処理工程と、シリコン基板10の主面にマスク層20を形成するマスク層形成工程と、マスク層20をパターニングしてマスクパターン22を形成するパターニング工程と、マスクパターン22の形状に従ってシリコン基板10をウエットエッチングするエッチング工程と、を含み、マスク層20は、クロムを含有し、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一のチャンバーC内で行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板の加工方法およびこれを用いた液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板を加工して、同基板に孔や溝を形成することは、半導体をはじめとする電子部品の広範な分野で一般的に行われている。このような加工は、所与の製造プロセスに適した様々な方法で行われているが、典型的な方法としては、エッチングによって孔や溝に対応する部分のシリコンを除去して行うものが挙げられる。
【0003】
エッチングによってシリコンを除去する態様としては、エッチング液にシリコン基板を浸漬し、シリコンを化学変化させるなどしてエッチング液に溶解させて除去するウエットエッチングや、気体分子やイオンをシリコン基板に衝突させてシリコンを物理的に研削して除去するドライエッチングなどがある。
【0004】
これらのうち、ウエットエッチングは、一般にシリコン基板の加工速度がドライエッチングよりも大きくできるため、シリコン基板の加工量が多いときに用いられることが多い。また、ウエットエッチングは、シリコン基板が単結晶である場合には、加工速度が結晶の方位によって異なることがあり、このような性質(異方性)を利用した加工も行われている。
【0005】
ウエットエッチングでは、シリコン基板の所望の位置を加工するために、加工しない位置をマスクで覆って、所望の位置だけをエッチング液に接触させることが一般的である。このようなマスクとしては、レジスト等の有機物の層や、酸化物、窒化物等の無機物の層が用いられる。例えば、特許文献1には、このようなマスクとしてTEOS(ケイ酸エチル)膜、SiN膜を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−088508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリコン基板の表面に単にマスクを形成するだけであると、シリコン基板とマスクとが接触している領域のシリコンのエッチング速度が、他の部位のシリコンのエッチング速度と異なる場合があり、所望の形状とは異なる加工形状となってしまうことがあった。また、シリコン基板とマスクとが接触している領域内でも、エッチング速度が異なる場合があり、不均一なマスクのエッジ部分でエッチング量が一定しない場合があった。さらに、上記特許文献1に記載されている方法のように、シリコン基板の表面を特殊な洗浄方法によって洗浄してからマスクを形成する場合には、このようなシリコンのエッチング速度の不均一は抑制される傾向にあるものの、当該シリコン基板の表面の洗浄工程は極めて慎重に行われる必要があった。すなわちこの洗浄工程には、例えば、精密な温度、時間の管理や、正確な洗浄液の純度の管理が必要であった。そのため、シリコン基板の表面にマスクを形成する工程は、特に洗浄工程において、工数が多く非常に手間のかかる工程となっていた。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、簡易な工程で、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することのできるシリコン基板の加工方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、簡易な工程で、寸法精度の良好な液体の流路を形成することのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかるシリコン基板の加工方法の一態様は、
シリコン基板の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の主面にマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板をウエットエッチングするエッチング工程と、を含み、
前記マスク層は、クロムを含有し、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一のチャンバー内で行われる。
【0011】
このようにすれば、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することができる。すなわち、シリコン基板とマスクパターンとの密着性が均一かつ良好となる結果、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板を良好な寸法精度で再現性よくエッチング加工することができる。これにより、例えば、加工する寸法の設計において、不確定な要素を考慮する必要を低減することができるとともに、設計した寸法に近い寸法で加工することができる。
【0012】
さらに、本適用例のシリコン基板の加工方法によれば、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板とマスクパターンとの密着性を十分に得ることができ、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0013】
[適用例2]
適用例1において、
前記マスク層形成工程は、スパッタ法により行われる、シリコン基板の加工方法。
【0014】
このようにすれば、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、より簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記マスク層は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層、およびクロムを主成分とする第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【0016】
このようにすれば、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。また、本適用例のようにすれば、マスク層の耐久性を高めることができるとともに、マスク層の厚みを十分に小さくすることができる。
【0017】
[適用例4]
適用例3において、
前記マスク層は、前記シリコン基板側に前記第1マスク層を有し、前記第1マスク層の前記シリコン基板とは反対側に前記第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【0018】
このようにすれば、マスク層の耐久性をさらに高めることができ、マスク層の厚みを小さくすることができる。
【0019】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記エッチング工程は、水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により行われる、シリコン基板の加工方法。
【0020】
このようにすれば、シリコン基板の加工速度をより高めることができる。これにより、シリコン基板の加工工程全体の所要時間を短縮することができる。
【0021】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、シリコン基板の加工方法。
【0022】
このようにすれば、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0023】
[適用例7]
本発明にかかる液体噴射ヘッドの製造方法の一態様は、
シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の前記シリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、
前記シリコン基板の他方の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面に、クロムを含有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層を前記圧電素子に対応させてパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板を水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により異方性エッチングして、液体の流路を形成するエッチング工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面にノズル板を設ける工程と、
を含み、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。
【0024】
このようにすれば、簡易な工程で、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することができ、シリコン基板に液体噴射ヘッドの流路を寸法精度良く形成することができる。これにより、例えば、液体噴射ヘッドから噴射される液体の量を精密に制御することができる。また、シリコン基板の加工速度も大きく、高いスループットで液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0025】
[適用例8]
適用例7において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、液体噴射ヘッドの製造方法。
【0026】
このようにすれば、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、簡易な工程で、シリコン基板をさらに良好な寸法精度で加工することができ、液体噴射ヘッドの流路をさらに精度良く形成することができる。これにより、例えば、液体噴射ヘッドから噴射される液体の量をさらに精密に制御することができる。
【0027】
[適用例9]
液体の流路が形成されたシリコン基板と、
前記シリコン基板の一方の主面に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成された圧電素子と、
前記シリコン基板の他方の主面に形成されたクロム含有層と、
前記クロム含有層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成されたノズル板と、
を有する、液体噴射ヘッド。
【0028】
このような液体噴射ヘッドは、クロム含有層を有することにより、シリコン基板に形成された流路の寸法精度が高く、液体の噴射量の制御を精密に行うことができるとともに、シリコン基板およびノズル板との接着性が高い。そのため、本適用例の液体噴射ヘッドは、例えば、制御性や信頼性が高まっている。また、本適用例の液体噴射ヘッドは、クロム含有層をハードマスクとして加工され、当該ハードマスクを除去する工程が不要なため、他のマスクパターンを用いて製造する場合よりも少ない工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態で用いられるスパッタ装置の一例の模式図。
【図2】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図3】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図4】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図5】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図6】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図7】変形例のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図8】実施形態のシリコン基板の加工形状の一例を示す模式図。
【図9】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図10】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図11】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図12】参考例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図13】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図14】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図15】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図16】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図17】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図18】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図19】実施形態の液体噴射ヘッド200の断面を示す模式図。
【図20】実施形態の液体噴射ヘッド201の断面を示す模式図。
【図21】実施形態の液体噴射装置700の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0031】
1.シリコン基板の加工方法
図1は、本実施形態の加工方法で使用されるスパッタ装置の一例を模式的に示す図である。図2ないし図6は、本実施形態のシリコン基板の加工方法の各工程の模式図である。図7は、実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されたシリコン基板の要部の模式図である。
【0032】
本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、表面処理工程と、マスク層形成工程と、パターニング工程と、エッチング工程と、を含む。
【0033】
1.1.シリコン基板
本実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されるシリコン基板10は、シリコンの単結晶によって形成された基板である。シリコン基板10としては、例えば、市販のシリコンウエハーや、シリコンの単結晶にさらにエピタキシャル成長によってシリコンの単結晶を成長させたものでもよい。また、シリコン基板10は、被加工面がシリコンで形成されていれば、他の面は他の材質で形成されていてもよく、例えば、シリコンウエハーの2つの主面のうち、一方の主面には、酸化シリコンや窒化物などのシリコンとは異なる材料の部材が形成されていてもよい。また、両面に酸化シリコンや窒化物などのシリコンとは異なる材料の部材を形成し、後に、一方の主面を研削または研磨してシリコンの表面が形成されてもよい。そしてこの場合は、本実施形態の加工方法によって、他方の主面側から加工される。また、シリコン基板10は、SOI(silicon on insulator)基板のように、絶縁層の上に薄膜の単結晶のシリコン層が形成されているものであってもよい。この場合は、該薄膜の単結晶のシリコン層が加工の対象となる。
【0034】
加工されるシリコン基板10の形状は特に限定されず、例えばウエハー形状、チップ形状などとすることができる。また、シリコン基板10の厚みにも制限はなく、例えば、0.1μm以上、1mm以下とすることができる。さらに、シリコン基板10を構成するシリコンの結晶の方位についても特に制限がない。例えば、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向が、シリコンの結晶の<110>、<100>、<111>等の低次の方向に沿っていることができる。また、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向に対してこれら低次の方向が傾いて、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向が、より高次の方向に沿っていてもよい。
【0035】
1.2.表面処理工程
表面処理工程は、シリコン基板10の主面をスパッタリングする工程である。シリコン基板10には2つの主面が存在するが、本工程は、少なくとも一方の主面に対して行われる。本明細書では、スパッタリングするとは、減圧空間中に不活性ガス(アルゴン(Ar)、窒素、酸素等)を導入しながらシリコン基板10とスパッタリング材の間に高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスを、固体表面に衝突させることによって、当該固体から当該固体を構成する物質を飛び出させることをいう。そして、これらは、2極または多極に構成された極板に印加された直流(DC)、高周波(RF)およびバイアスされたRF等のエネルギーによって加速されて、固体表面に衝突させられる。
【0036】
一般に、スパッタリングに用いられる装置(以下これをスパッタ装置と称することがある。)は、減圧空間を形成しうるチャンバーCと、該減圧空間内に配置された極板Eと、該極板に外部から電気的なエネルギーを供給する電源装置Sを含んで構成される。電源装置Sの構成は、DCによるスパッタリングやRFによるスパッタリング等のスパッタリングの態様によって適宜選択される。そして、チャンバーC内にスパッタリングを受ける被スパッタリング材が配置されるとともに、チャンバーC内に衝突させる粒子(Ar等)を導入して、スパッタリングが行われる。また、チャンバーC内には、複数の被スパッタリング材が配置されることができ、同一の装置でスパッタリングしようとする被スパッタリング材を、電源装置Sの調整や、必要に応じてチャンバーC内に設けられるシャッターの開閉によって選択することができる。
【0037】
図1は、表面処理工程で用いられる装置の一例を概略的に示す模式図である。チャンバーC内には、シリコン基板10およびターゲットTがそれぞれ極板Eに接して配置されている。チャンバーCは、図示しない排気管に接続され、内部を減圧できるようになっている。また、チャンバーCは、図示しない気体導入管に接続され、スパッタリングの際に用いられる各種のガスをチャンバーC内に導入できるようになっている。そして、図1に模式的に示したように、電源装置Sに接続された極板Eによって、後述するスパッタバスを電離して形成されるイオンIに、エネルギーが印加される。
【0038】
そして、運動エネルギーを与えられたイオンIが、ターゲットTまたはシリコン基板10に衝突することによって、ターゲットTまたはシリコン基板10のスパッタリングが行われる。ここで、電源装置Sの構成が、DCやバイアスされたRFを発生する構成である場合は、ターゲットTにイオンIを衝突させる態様(図中矢印A)や、シリコン基板10にイオンIを衝突させる態様(図中矢印B)を、電源装置Sの極性を調節することによって実現することができる。また、電源装置Sが、方向性を有さないRF等を発生する態様では、例えば、チャンバーC内に図示せぬシャッターを設け、該シャッターによって、ターゲットTおよびシリコン基板10のいずれかをイオンIの衝突から遮蔽することで、スパッタリングされる対象を選択することができる。
【0039】
なお、表面処理工程は、チャンバーC内にシリコン基板10を導入して行われるが、次のマスク層形成工程で用いられるターゲットTも同一のチャンバーC内に導入して行われる。このようにすることで、同一のチャンバーC内で表面処理工程とマスク層形成工程と連続的に行うことができる。また、チャンバーC内には、複数のシリコン基板10や、複数のターゲットTを導入してもよく、複数のターゲットTを導入する場合には、それぞれ異なる材質のターゲットTとしてもよい。なお、本明細書では、スパッタリングが同一のチャンバーで行われるという事項は、対象の異なるスパッタリングが一つのチャンバーで行われること、および、あるチャンバーで所望のスパッタリングが行われた後、減圧環境内をスパッタリングの対象物を移動させて、他のチャンバーで他の所望のスパッタリングが行われることを含むものとする。
【0040】
表面処理工程では、シリコン基板10の主面にイオンIを衝突させる。図1に示したような平行平板型の極板Eを有するスパッタ装置を用いて、シリコン基板10をスパッタリングする場合の条件としては、次のようなものが挙げられる。スパッタリングする際の温度は、特に限定されないが、−100℃以上+300℃以下とすることができる。スパッタリングする際の温度は、室温であってもよく、また、必要に応じてシリコン基板10を上記温度範囲で冷却または加熱して設定することができる。スパッタリングする際のチャンバーC内の圧力は、例えば、0.1Pa以上10Pa以下とすることができる。スパッタリングに用いるガスとしては、例えば、Ar、N2、および混合ガスなどを用いることができ、チャンバーC内に1sccm(standard cc/min:at 1atm 0℃)以上50sccm以下の流量で導入されることができる。スパッタリングする際のイオンIに与えられるエネルギーは、極板E間に印加される電力で表したときに10W以上200W以下とすることができる。以上例示した値は、極板Eの大きさやチャンバーCの体積によって異なるため、典型的な値を例示している。そしてスパッタリングの時間は、5分以上15分以下とすることができる。
【0041】
本実施形態では、表面処理工程は、上述のようなスパッタ装置でRF電力を印加して行われる。本実施形態のスパッタ装置は、少なくともターゲットTに、イオンIが衝突しないようにするシャッター(図示省略)を備えており、本実施形態の表面処理工程の間は、ターゲットTの表面が該シャッターによって遮蔽されている。
【0042】
図2は、表面処理工程において、シリコン基板10にイオンIが衝突する様子を概念的に示したシリコン基板10の断面図である。本工程を経てスパッタリングされたシリコン基板10の主面の状態は、スパッタリング前の主面の状態とは相違していると考えられる。より具体的には、スパッタリング後のシリコン基板10の主面では、スパッタリングによって主面を構成する物質の一部がシリコン基板10から飛び出して新しい表面が形成されていること、形状の変化がなくてもシリコン基板10のシリコンの結晶の改質が生じていること、シリコン基板10の主面に付着している水分や有機成分が除去されていること、およびシリコン基板10の主面が活性化していること、の少なくとも一種が生じているものと考えられる。
【0043】
本実施形態のシリコン基板10の加工方法は、このような表面処理工程を有することによって、少なくともマスク層形成工程で形成されるマスク層20とシリコン基板10との間の密着性を高めることができる。そのため、シリコン基板10とマスク層20との界面に、後のエッチング工程のエッチャントが侵入しにくくなり、エッチングの寸法精度を高めることができる。また、マスク層20とシリコン基板10との間の密着性が、均一となるため、マスクパターン22のエッジ全体においてエッチング量のバラツキが抑えられ、再現性のよい加工が可能となる。また、上述したとおり、表面処理工程に使用するスパッタ装置は、チャンバーCを開放することなく、ターゲットTのスパッタリングを行うことが可能である。そのため、上記表面処理工程と次項のマスク層形成工程とが、同一のチャンバーC内で容易に行われることができる。そのため、表面処理工程でスパッタリングされたシリコン基板10の主面をチャンバーC内の雰囲気以外の雰囲気に曝すことなく、マスク層20を形成することができる。
【0044】
1.3.マスク層形成工程
マスク層形成工程は、上述のスパッタリングされたシリコン基板10の主面に対してマスク層20を形成する工程である。マスク層形成工程は、上述の表面処理工程で使用したスパッタ装置の同一のチャンバーC内で行われる。マスク層形成工程は、チャンバーC内でイオンIをターゲットTに衝突させターゲットTを構成する物質を飛び出させて(ターゲットTをスパッタリングして)、ターゲットTを構成する物質を含む物質をシリコン基板10の主面に堆積させる工程である。したがって、マスク層形成工程では、上記「1.2.表面処理工程」で説明したスパッタ装置によって行うことができる。
【0045】
図1に示したような平行平板型の極板Eを有するスパッタ装置を用いて、ターゲットTをスパッタリングする場合の条件としては、次のようなものが挙げられる。スパッタリングする際の温度は、特に限定されないが、−100℃以上+300℃以下とすることができる。スパッタリングする際の温度は、室温であってもよく、また、必要に応じてターゲットTを上記温度範囲で冷却または加熱して設定することができる。スパッタリングする際のチャンバーC内の圧力は、例えば、0.1Pa以上10Pa以下とすることができる。スパッタリングに用いるガスとしては、例えば、Ar、N2、O2、および混合ガスなどを用いることができ、チャンバーC内に1sccm以上100sccm以下の流量で導入されることができる。スパッタリングする際のイオンIに与えられるエネルギーは、極板E間に印加される電力で表したときに10W以上1000W以下とすることができる。以上例示した値は、極板Eの大きさやチャンバーCの体積によって異なるため典型的な値を例示している。そしてスパッタリングの時間は、5分以上300分以下とすることができる。
【0046】
本実施形態では、マスク層形成工程は、上述のようなスパッタ装置でRF電力を印加して行われる。本実施形態のスパッタ装置は、少なくともターゲットTに、イオンIが衝突しないようにするシャッター(図示省略)を備えており、本実施形態のマスク層形成工程の間は、ターゲットTおよびシリコン基板10の表面が共にチャンバーC内に開放され、ターゲットTから飛び出した物質を含む物質がシリコン基板10の主面に堆積するように行われる。
【0047】
図3は、本工程によって、マスク層20が形成された状態を模式的に示している。マスク層20は、シリコン基板10の主面に形成される。マスク層20は、層状または薄膜状に形成される。マスク層20の厚みはマスク層20の材質によって適宜選択されるが、例えば、10nm以上200nm以下とすることができる。マスク層20は、異なる材質で形成された複数の層で構成されてもよい。マスク層20の機能の一つとしては、パターニングされて、シリコン基板10がエッチングされる際のマスクとなることが挙げられる。
【0048】
マスク層20の材質は、シリコン基板10およびマスク層20が同一のエッチングを受けるときに、シリコン基板10のエッチング速度よりもマスク層20のエッチング速度のほうが小さくなるように選択される。すなわち、マスク層20は、特定のエッチングにおいて、シリコン基板10と選択性のある材質で形成される。マスク層20の材質としては、例えば、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)から選択される少なくとも一種、並びにその酸化物、窒化物、および酸化窒化物を挙げることができる。マスク層20の材質は、これらのうち、Crを含有する材質であることがより好ましく、金属クロム、酸化クロムなどであることがより好ましい。マスク層20の材質がCrを含有すると、マスク層20のマスクとしての性能や、マスク層20の化学的安定性を高めることができるとともに、シリコン基板10との密着性をより良好にすることができる。これにより、シリコン基板10をエッチングする際の寸法精度をより高めることができる。
【0049】
マスク層形成工程で、チャンバーC内に導入されるターゲットTの材質としては、上記マスク層20をスパッタ法によって形成できるものが選択される。具体的なターゲットTの材質としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)から選択される少なくとも一種、並びにその酸化物、窒化物、および酸化窒化物を挙げることができる。そして、チャンバーC内には、それぞれ異なる材質のターゲットTを導入することができ、スパッタリングの対象が所望のターゲットTとなるようにチャンバーC内で電気的または機械的に切り替えることができる。
【0050】
これらのうち、上記マスク層20の好ましい材質として挙げたクロムや酸化クロムによってマスク層20を形成する場合には、ターゲットTの材質を金属クロムとすれば、金属クロムのマスク層20を形成することができる。また、チャンバーC内に酸素(O2)を導入してターゲットTをスパッタリングすれば、酸化クロムのマスク層20を形成することができる。
【0051】
本実施形態のシリコン基板10の加工方法は、このような表面処理工程と同一チャンバーC内で行われるマスク層形成工程を有することによって、少なくともマスク層形成工程で形成されるマスク層20とシリコン基板10との間の密着性を高めることができる。また、上述したとおり、表面処理工程およびマスク層形成工程に使用するスパッタ装置は、チャンバーCを開放することなく、ターゲットTのスパッタリングを行うことが可能である。そのため、上記表面処理工程と次項のマスク層形成工程とが、同一のチャンバーC内で容易に行われることができる。そのため、表面処理工程でスパッタリングされたシリコン基板10の主面をチャンバーC内の雰囲気以外の雰囲気に曝すことなく、マスク層20を形成することができる。
【0052】
なお、スパッタ装置において、ターゲットTをスパッタリングして、ターゲットTを構成する物質をターゲットTから飛び出させて、この飛び出した物質を成膜対象物に(上記例ではシリコン基板10)堆積させることは、スパッタリングを利用した物質の堆積方法として一般的であり、スパッタ法、スパッタ堆積法などと称されることがある。これとは逆に、同スパッタ装置において、成膜対象物(上記例ではシリコン基板10)をスパッタリングすることは、逆スパッタと称される場合がある。逆スパッタは、上記の表面処理工程で行われる操作に類似するが、成膜対象物に物質を堆積させる目的は有していない。
【0053】
1.4.パターニング工程
パターニング工程は、マスク層20をパターニングしてマスクパターンを形成する工程である。パターニング工程は、例えば、フォトリソグラフィー法等の方法で行われる。具体的には、まず、マスク層20のシリコン基板10とは反対側の面(図3におけるマスク層20の上面)にレジストを成膜し、所望のパターンに露光、現像する。次にレジストの開口部に露出したマスク層20をエッチングする。そして、レジストを除去することによってパターニングされたマスク層20、すなわちマスクパターン22が形成される(図4参照)。図4には、開口部24を有するマスクパターン22が例示されている。
【0054】
マスク層20のエッチングは、ドライエッチング、ウエットエッチングのいずれで行われてもよい。マスク層20が、クロムを含有する材質で形成されている場合には、マスク層20のエッチングに用いられるエッチャントとしては、例えば、硝酸セリウムを含有する溶液を用いることができる。パターニング工程は、ウエットエッチングを用いて行われると、複数のシリコン基板10を一度に処理することができるため効率が良くなる。なお、本工程のマスク層20をエッチングするエッチャントは、シリコン基板10をエッチングしにくいものがより好ましい。
【0055】
1.5.エッチング工程
エッチング工程は、マスクパターン22の形状に従ってシリコン基板10をウエットエッチングする工程である。エッチング工程は、マスクパターン22によって覆われていないシリコン基板10、すなわち、マスクパターン22の開口部24によって露出しているシリコン基板10をウエットエッチングする。本工程で用いられるエッチャントとしては、マスクパターン22よりもシリコン基板10をエッチングする速度のほうが大きいものであれば特に限定されない。そのようなものとしては、例えば、水酸化カリウム(KOH)を含む溶液を挙げることができる。また、これらのエッチャントには、バッファーや界面活性剤等の各種機能を有する添加剤が含まれていてもよい。
【0056】
マスクパターン22(マスク層20)の材質がクロムを含む場合には、本工程のエッチャントとして、KOHを主成分とする溶液を用いることが特に好ましい。このようなエッチャントを用いると、シリコン基板10のエッチング速度を十分に大きくできるとともに、マスクパターン22のエッチング速度を十分に小さくすることができる。このようにすれば、シリコン基板10の加工速度をさらに高めることができる。これにより、シリコン基板10の加工工程全体の所要時間を短縮することができる。また、このようにすれば、マスク層20の厚みを小さくすることができるため、マスク層形成工程に要する時間、およびパターニング工程に要する時間も短縮することができる。
【0057】
本工程をKOHを主成分とする溶液をエッチャントとして行う場合の条件としては、例えば、KOHの濃度が20質量%以上50質量%以下の水溶液をエッチャントとし、温度範囲を50℃以上90℃以下として行うことができる。
【0058】
エッチング工程におけるシリコン基板10の加工量(エッチングされる体積)は、例えば、エッチャントの種類、濃度、およびエッチャントにシリコン基板10が接触する時間の少なくとも一種によって制御されることができる。また、本工程におけるエッチングストッパーとして、SiO2層やSiN層がシリコン基板10の所望の位置に設けられていてもよい。このようにすれば、エッチャントによるエッチングを時間で制御する手間を軽減することができ、所望の位置でエッチングを停止させることができる。
【0059】
図5および図6は、それぞれエッチング工程によって、シリコン基板10が加工された状態の一例を示す図である。図5の例では、シリコン基板10の厚み方向の途中までマスクパターン22の開口部24に対応した形状の開口12がシリコン基板10に形成されている。図6の例では、シリコン基板10を貫通する孔14がマスクパターン22の開口部24に対応した形状でシリコン基板10に形成されている。
【0060】
1.6.変形例
図7は、シリコン基板の加工方法において、マスク層形成工程の変形例を模式的に示す図である。本実施形態のシリコン基板の製造方法において、マスク層20は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層26、およびクロムを主成分とする第2マスク層28の積層構造とすることができる。第1マスク層26および第2マスク層28の数および積層の順序は特に限定されない。また、第1マスク層26および第2マスク層28は、それぞれ、マスク層形成工程において、クロムを材質とするターゲットTを用いて、スパッタリングするチャンバーC内への酸素の導入の有無を制御することによって、容易に形成することができる。
【0061】
図7の例では、マスク層20は、シリコン基板10の側に酸化クロムを主成分とする第1マスク層26を有し、シリコン基板10とは反対側にクロムを主成分とする第2マスク層28を有している。また、図示の例では、第1マスク層26および第2マスク層28は、互いに接して形成され、マスク層20は、2層構造となっている。
【0062】
本変形例のように、マスク層20を第1マスク層26および第2マスク層28を含んで構成することにより、例えば、マスク層20の全体の厚みを小さくすることができる。すなわち、図7の例では、シリコン基板10との密着性が、第2マスク層28よりも相対的に高い第1マスク層26に、シリコン基板10との密着性を担わせ、エッチングにおける安定性が、第1マスク層よりも相対的に良好な第2マスク層28によって、第1マスク層28を覆う構造となっている。そのため、第1マスク層26のみでマスク層20を構成する場合よりも、マスク層20全体の厚みを小さくすることができる。
【0063】
なお、本変形例は、マスク層20が2層構造である例を示しているが、マスク層20は、3層以上の構造であってもよい。その場合でも、同一チャンバーC内で任意の層構成を容易に形成することができる。
【0064】
1.7.その他の工程
本実施形態のシリコン基板の加工方法は、さらに他の工程を含んでもよい。例えば、表面処理工程の前に、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含むことができる。
【0065】
フッ化水素を含む溶液の具体例としては、5質量%以上30質量%以下のフッ化水素水溶液が挙げられる。また、このようなフッ化水素水溶液には、界面活性剤やpH調整剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0066】
この場合の洗浄方法としては、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液に浸漬する方法が例示でき、その後、純水によって洗浄することを含んでもよい。この場合、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液に浸漬する時間は、1秒以上1分以下とすることができ、典型的には10秒とすることができる。また、これらの工程は、スピンコート法によって行われてもよい。
【0067】
本実施形態のシリコン基板の加工方法は、このような工程を含むことによって、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、チャンバーC内にシリコン基板10を導入する前に、シリコン基板10の主面をより清浄な状態とすることができるため、シリコン基板10の主面に対する表面処理工程(スパッタリング)の効果を高めることができる。そのため、シリコン基板10とマスク層20との密着性がさらに高まり、シリコン基板10とマスク層20との界面付近のエッチング速度が均一化され、シリコン基板10をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0068】
1.8.作用効果
図8は、本実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されたシリコン基板10の断面の要部を拡大して示す模式図である。図8の拡大図において、マスクパターン22に、シリコン基板10に対して張り出した部分である段差22aが生じている。この段差は、マスクパターン22の形状と、シリコン基板10の加工された形状とのズレとなっている。このような段差22aは、小さいほど、マスクパターン22の形状に忠実にシリコン基板10が加工されていることになる。ここでは図示したように段差22aの先端と、シリコン基板10の側面との間の距離を距離eと定義する。
【0069】
シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性が小さいと、距離eが大きくなりやすい。また、シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性に分布があると、孔14の平面的に見た周囲において、距離eの大きさが不均一となりやすい。前者の現象は、シリコン基板10とマスクパターン22との間にエッチング工程のエッチャントが侵入しやすいために生じると考えられる。後者の現象は、密着性の強い部分と弱い部分とで、エッチャントの侵入の程度が異なるために生じると考えられる。これらの現象が生じていると、シリコン基板10の加工における寸法精度が不十分となることがある。
【0070】
本実施形態のシリコン基板の加工方法によれば、シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性が均一かつ良好である。そのため、距離eを小さくできるとともに、孔14の周囲における距離eを一定値に近づけることができる。
【0071】
したがって、本実施形態のシリコン基板の加工方法は、シリコン基板10を良好な寸法精度で、再現性よく加工することができる。すなわち、シリコン基板10とマスクパターン22との密着性が均一かつ良好となる結果、シリコン基板10とマスクパターン22との境界付近におけるエッチング速度が均一となり、また、マスクパターン22の形状により近い形状でシリコン基板10を加工することができ、シリコン基板10を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0072】
また、本実施形態のシリコン基板の加工方法では、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0073】
本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、広範な分野に応用することができる。例えば、本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、液体噴射装置等の製造においてシリコン基板を加工する際に適用することができ、さらに、超音波発振器等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー等、他のデバイスにおいて、シリコン基板を加工する工程を有する場合に適用することができる。
【0074】
2.実験例および参考例
以下に実験例および参考例を示し、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
2.1.実験例
実験例1は、平行平板型のスパッタ装置に、主面の法線方向に結晶の<100>方向が配向した単結晶のシリコン基板10および金属クロムのターゲットTを導入し、表面処理工程およびマスク層形成工程を行って加工した例である。実験例1の試料は、以下のように作成した。
【0076】
表面処理工程は、室温で行い、スパッタリングのチャンバーC内の圧力は、0.4Paとした。また、スパッタリングに用いたガスは、Arであり、チャンバーC内に25sccmの流量で導入して行った。そして、極板E間に印加される電力は、100Wとし、15分間スパッタリングを行った。
【0077】
表面処理工程に引き続き、マスク層形成工程として同一チャンバー内でターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に酸化クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。ターゲットTのスパッタリングに用いるガスは、Ar、およびO2の混合ガスとし、チャンバーC内にそれぞれ、30sccm、20sccmの流量で導入した。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。
【0078】
その後、ウエットエッチングにより、マスク層20をパターニングして、マスクパターン22を形成し、そして、KOHの37質量%の水溶液を用いて120分間エッチングして実験例1の試料を作成した。
【0079】
図9および図10は、実験例1の試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)観察した結果である。図10は、図9の破線で囲んだ部分を拡大して観察した結果である。
【0080】
図9を見ると、シリコン基板10にマスクパターン22に対応する円柱状の開口12が形成されていることが分かった。図10を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ50nmであり、マスクパターン22の端部は、シリコン基板10の側面に対する段差22aが形成され、その張り出した距離eは、およそ50nmとなっていることが判明した。これらの結果から、実験例1の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状に従って極めて忠実に加工されていることが分かった。
【0081】
実験例2は、マスク層20を2層で形成する以外は、実験例1と同様にした例である。実験例2の試料は、以下のように作成した。
【0082】
表面処理工程は、実験例1と同様に行った。表面処理工程に引き続き、マスク層形成工程として同一チャンバー内でターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に、まず、酸化クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。ターゲットTのスパッタリングに用いるガスは、Ar、およびO2の混合ガスとし、チャンバーC内にそれぞれ、30sccm、20sccmの流量で導入した。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。そして、これに引き続き、同一チャンバー内でO2の導入を断ち、ターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に、金属クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。その後、実験例1と同様にパターニング工程、エッチング工程を行い、実験例2の試料を作成した。
【0083】
図11は、実験例2の試料の断面を拡大してSEM観察した結果である。
【0084】
図示しないが、実験例2の試料についても、シリコン基板10にマスクパターン22に対応する円柱状の開口12が形成されている。図11を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ150nmであり、マスクパターン22の端部は、シリコン基板10の側面に対する段差22aが形成され、その張り出した距離eは、およそ500nmとなっていることが判明した。これらの結果から、実験例1の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状に対して忠実に加工されていることが分かる。
【0085】
2.2.参考例
参考例の試料は以下のように作成した。参考例では、表面処理工程を行わずに、マスク層20を形成した例である。参考例の試料は、以下のように作成した。
【0086】
平行平板型のスパッタ装置に、主面の法線方向に結晶の<110>方向が配向した単結晶のシリコン基板10および金属クロムのターゲットTを導入し、表面処理工程を行わずにマスク層形成工程を行った。
【0087】
マスク層形成工程は、実験例1と同様にして行った。その後、実験例1と同様にして、パターニング工程、エッチング工程を行い、参考例の試料を作成した。
【0088】
図12は、参考例の試料の断面を拡大してSEM観察した結果である。
【0089】
図示しないが、参考例の試料についても、シリコン基板10にマスクパターン22におよそ対応する円柱状の開口12が形成されている。図12を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ50nmであり、マスクパターン22の端部付近には、シリコン基板10の側面に対して非常に大きく形成された段差22aが認められ、その張り出した距離eは、およそ1500nmとなっていることが判明した。この結果から、参考例の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状とは大きく異なる形状に加工されていることが判明した。また、図示しないが、参考例の試料に形成された段差は、平面的に見た開口の周囲の位置によって、大きさが不均一となっていた。
【0090】
以上の実験例および参考例の結果から、シリコン基板の加工において、表面処理工程を有する場合は、マスクパターンの形状に近い形状でシリコン基板が加工され、表面処理工程を有さない場合には、マスクパターンの形状から大きくずれることが判明した。
【0091】
3.液体噴射ヘッドの製造方法
以下に本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法を、液体噴射ヘッドの製造において適用した例を述べる。
【0092】
図13ないし図18は、本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の各工程を説明するための模式図である。
【0093】
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法は、シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、絶縁膜のシリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、表面処理工程と、マスク層形成工程と、パターニング工程と、エッチング工程と、シリコン基板の他方の主面にノズル板を設ける工程と、を含む。そして、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。
【0094】
3.1.絶縁膜を形成する工程
まず、シリコン基板10の一方の主面に、絶縁膜30を形成する。絶縁膜30は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン等で形成されることができる。また、絶縁膜30は、これらの材質の膜の積層構造を有していてもよい。絶縁膜30の機能の一つとしては、シリコン基板10の他方の面側からエッチングする(エッチング工程)際のエッチングストッパーとなることが挙げられる。また、絶縁膜30の機能の一つとしては、液体噴射ヘッド200における振動板となることが挙げられる。
【0095】
絶縁膜30は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法などによって形成されることができる。
【0096】
3.2.圧電素子を形成する工程
圧電素子100は、絶縁膜30のシリコン基板10とは反対側の面に形成される。圧電素子100は、複数形成されてもよい。圧電素子100の機能の一つとしては、絶縁膜30を可動部材とする圧電アクチュエーターの駆動部となることが挙げられる。また、圧電素子100の機能の一つとしては、液体噴射ヘッド200の駆動部となることが挙げられる。したがって、圧電素子100は、例えば、後述する液体噴射ヘッド200の流路に対応する位置に形成される。
【0097】
圧電素子100は、例えば、第1電極40と、第2電極50と、圧電体層60と、を含む。
【0098】
図13に示すように、第1電極40は、第2電極50と対向して配置され、第1電極40および第2電極50の間に圧電体層60が配置される。第1電極40は、圧電体層60に接している。第1電極40の形状は、第2電極50と対向できるかぎり限定されず、層状あるいは薄膜状の形状を有する。第1電極40の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下とすることができる。また、第1電極40を、平面的に見たときの形状については、第2電極50が対向して配置されている状態で、両者の間に圧電体層60を配置できる形状であれば、特に限定されず、例えば、矩形、円形等とすることができる。また、圧電素子100を平面的に見たときに、第1電極40および第2電極50は、オーバーラップする領域を有している。第1電極40の機能の一つとしては、圧電体層60に電圧を印加するための一方の電極(例えば、圧電体層60の下方に形成された下部電極)となることが挙げられる。
【0099】
第1電極40は、例えば、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuOx:SRO)、ランタンとニッケルの複合酸化物(LaNiOx:LNO)などを例示することができる。第1電極40は、例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。また、第1電極40と絶縁膜30との間には、さらに他の層、例えばチタン層等が形成されていてもよい。
【0100】
第2電極50は、図13に示すように、第1電極40に対向して配置される。第2電極50は、全体が第1電極40と対向していてもよいし、一部が第1電極40に対向していてもよい。第2電極50の形状は、第1電極40と対向できるかぎり限定されないが、圧電素子100を薄膜状にする場合には、層状あるいは薄膜状の形状が好ましい。この場合の第2電極50の厚みは、例えば、20nm以上300nm以下とすることができる。また、第2電極50の平面的な形状についても、第1電極40に対向して配置されたときに両者の間に圧電体層60を配置できる形状であれば、特に限定されず、例えば、矩形、円形等とすることができる。第2電極50の機能の一つとしては、圧電体層60に電圧を印加するための一方の電極(例えば、圧電体層60の上に形成された上部電極)となることが挙げられる。第2電極50の材質としては、例えば、第1電極40と同様とすることができる。
【0101】
図13は、第1電極40が第2電極50よりも平面的に大きく形成された例を示しているが、第2電極50のほうが第1電極40よりも平面的に大きく形成されてもよい。この場合は、第2電極50は、圧電体層60の側面に形成されてもよく、第2電極50に、水分や水素等から圧電体層60を保護する機能を兼ねさせることができる。なお、第1電極40および第2電極50の一方が他方よりも大きく形成された場合、当該大きく形成された電極を、複数の圧電素子の共通電極としてもよい。
【0102】
圧電体層60は、図13に示すように、第1電極40および第2電極50の間に配置される。本実施形態では圧電体層60は、第1電極40に接して設けられている。また、圧電体層60と、第2電極50との間には、他の層が形成されてもよい。この場合の他の層としては、例えばチタン層などが挙げられる。
【0103】
圧電体層60の厚さは、例えば、100nm以上2000nm以下とすることができる。圧電体層60の厚みがこの範囲を外れると、十分な変形(電気機械変換)が得られなくなる場合がある。圧電体層60の厚みとしては、1000nm以上、1500nm以下であることがより好ましい。圧電体層60の厚みが、このような範囲内であると、圧電素子100の変位量を十分大きくとることができるとともに薄膜化に寄与することができる。
【0104】
圧電体層60の材質としては、圧電性を有するものであるかぎり特に限定されないが、例えば、一般式MAMBO3で示される酸化物(例えば、MAは、Pb、K、Ba、Sr、およびBiからなる群より選択される少なくとも1種を含み、MBは、Zr、Ti、Nb、Na、TaおよびLaからなる群より選択される少なくとも1種を含む。)が挙げられる。
【0105】
これらのうち、圧電体層60の材質としては、少なくとも鉛、ジルコニウム、チタンおよび酸素を含む複合酸化物とすることがより好適である。圧電体層60の材質に好適な複合酸化物としては、より具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下これを「PZT」と略記することがある)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下これを「PZTN」と略記することがある。)などが挙げられる。
【0106】
このような複合酸化物は、いずれも式中、MAサイトの酸化物とMBサイトの酸化物の固溶体を形成することができる。そして、このような複合酸化物は、結晶化により、ペロブスカイト型の結晶構造をとることができる。複合酸化物は、結晶化されて、ペロブスカイト型の結晶構造をとることにより、圧電性を呈することができる。これにより、圧電体層60は、第1電極40および第2電極50によって電界が印加されることで変形することができる(電気機械変換)。圧電素子100が圧電体層60の変形によって変形するため、例えば、上述の絶縁層30を含む圧電素子100を含むアクチュエーターを構成すると、可動部(絶縁層30)を変形させたり(たわませたり)、振動させたりすることができる。
【0107】
圧電体層60は、積層構造であってもよい。例えば、互いに異なる組成の圧電体の層や、同一の組成の圧電体の層が、複数層積層していてもよい。また、圧電体層60には、厚みの方向に組成が傾斜していてもよい。さらに積層する層の数も任意である。
【0108】
圧電素子を形成する工程は、例えば、次のように行われる。
【0109】
まず、「3.1.絶縁膜を形成する工程」を経て絶縁層30が形成されたシリコン基板10を準備し、シリコン基板10上に第1電極40を形成する。第1電極40は、例えばスパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。第1電極40は、必要に応じてパターニングされることができる。次に、第1電極40の上に、圧電体層60を形成する。圧電体層60は、例えば、ゾルゲル法、CVD法、MOD法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成されることができる。ここで圧電体層60の材質が、例えば、PZTである場合、酸素雰囲気で650℃ないし750℃程度の焼成を行うことにより、圧電体層60を結晶化することができる。なお、結晶化は、圧電体層60をパターニングした後に行ってもよい。圧電体層60は、上記の操作を少なくとも2回繰り返して形成されてもよい。このようにすることで、圧電体層60の全体の結晶性および結晶の質を向上させることができる。なお、圧電体層60は、第1電極40に接して形成される。次に、圧電体層60の上に第2電極50を形成する。第2電極50は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。そして、所望の形状に第2電極50および圧電体層60をパターニングして、図13に示すような圧電素子100が形成される。
【0110】
3.3.保護膜を形成する工程
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法は、保護膜を形成する工程を、必要に応じて含んでもよい。本実施形態では、圧電素子100を覆うように保護膜70を形成する例を示す。また、本実施形態では保護膜70を形成する例を示すが、圧電素子100を機械的、化学的に保護できる限り、保護膜70に依らなくても、例えば、保護板等によって圧電素子100を覆ってもよい。
【0111】
保護膜70は、例えば、レジスト等の除去することが可能な材質で形成される。保護膜70は、例えば、図13に示すように、シリコン基板10の一方の主面側を圧電素子1000を含んで全体的に覆うように形成される。保護膜70は、例えば、CVD法やスピンコート法によって形成されることができる。
【0112】
本工程を経て、保護膜70が形成された場合、保護膜70によって、例えば、圧電素子100が他の部材と機械的に接触することや、エッチングされることを防止しやすくすることができる。これにより、後の各工程におけるシリコン基板10等の取り扱いを容易化することができる。なお保護膜70は、不要となったときに、除去されることができる。
【0113】
3.4.表面処理工程、マスク層形成工程、パターニング工程およびエッチング工程
次に、図14ないし図17に示すように、シリコン基板10の他方の主面に対して、表面処理工程、マスク層形成工程、パターニング工程およびエッチング工程を行う。これらの工程は、「1.シリコン基板の加工方法」の項で既に述べたとおりであり、同一の部材には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0114】
図14は、シリコン基板10の他方の主面に対して、表面処理工程を行う様子を模式的に示している。図15は、マスク層形成工程を経てマスク層20が形成された状態を示している。図16は、パターニング工程を経て、マスクパターン22が形成された状態を示している。図17は、エッチング工程を経て、シリコン基板10に孔14が形成された状態を示している。そして、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。本実施形態では、マスク層20の材質として、酸化クロムを選択し、マスク層20をクロムを含有する層とした。なお、エッチング工程において、絶縁膜30は、エッチングストッパーとして機能している。また、液体噴射ヘッドの製造方法において、表面処理工程の前に、既に述べたフッ化水素を含む溶液でシリコン基板10の他方の主面を洗浄する工程を有してもよい。
【0115】
これらの工程を経ることにより、図17に示すような構造体が形成される。図17に示すように、シリコン基板10の孔14は、圧電素子100の第1電極40、第2電極50および圧電体層60を一組とした構造体の一つずつに対応して形成されている。そして、この孔14が液体噴射ヘッド200における液体の流路となる。
【0116】
3.5.ノズル板を設ける工程
ノズル板80は、図18に示すように、ノズル孔82を有する。ノズル孔82は、シリコン基板10に形成された液体の流路に連通しており、ノズル孔82からは、液体が吐出されることができる。ノズル板80には、例えば、多数のノズル孔82が一列に設けられている。ノズル板80の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。
【0117】
本工程により、ノズル板80は、シリコン基板10の他方の主面に設けられる。ノズル板80とシリコン基板10との接合は、例えば、接着剤を用いて行われることができる。
【0118】
3.6.液体噴射ヘッド
そして、本実施形態では保護膜7を形成しているため、保護膜70を除去して図19に示すような液体噴射ヘッド200が製造される。なお、ノズル板80を設ける工程の前に、マスクパターン22を除去する工程を有してもよい。マスクパターン22の除去は、例えば、パターニング工程で使用したエッチャントによってマスクパターン22をエッチングして行われることができる。マスクパターン22を除去する工程を含む場合は、ノズル板80を設ける工程を経ることにより、図20に示すような液体噴射ヘッド201が製造される。
【0119】
以上説明した本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法により、製造された液体噴射ヘッド200は、液体の流路が形成されたシリコン基板10と、シリコン基板100の一方の主面に形成された絶縁層30と、絶縁層30のシリコン基板10とは反対側の面に形成された圧電素子100と、シリコン基板10の他方の主面に形成されたマスクパターン22(クロム含有層)と、マスクパターン22(クロム含有層)のシリコン基板10とは反対側の面に形成されたノズル板80と、を有する。なお、シリコン基板10に形成された流路のうち、圧電素子100に対応して形成されている部分は、圧電素子100の動作によって、容積が変化しうる部分であり、圧力発生室としての役割を果たすことができる。
【0120】
このような液体噴射ヘッドは、マスクパターン22(クロム含有層)を有することにより、シリコン基板10に形成された流路の寸法精度が高いとともに、シリコン基板10およびノズル板80との接着性が高い。そのため、本実施形態の液体噴射ヘッド200は、例えば、信頼性が高まっている。また、本実施形態の液体噴射ヘッド200は、マスクパターン22(クロム含有層)を除去する工程が不要なため、少ない工程で製造することができる。
【0121】
液体噴射ヘッド200、液体噴射ヘッド201は、上述したように、寸法精度の高い流路を有しており、液体の噴射量を精密に制御することができる。このような液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることができる。
【0122】
3.7.作用効果
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法によれば、簡易な工程で、シリコン基板10を良好な寸法精度で加工することができ、シリコン基板10に液体噴射ヘッドの流路を寸法精度良く形成することができる。また、シリコン基板10の加工速度も大きく、高いスループットで液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0123】
4.液体噴射装置
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法によって製造された液体噴射ヘッドは、例えば、液体噴射装置に利用することができる。ついて、図面を参照しながら説明する。液体噴射装置は、上述の液体噴射ヘッドを有する。以下では、液体噴射装置が上述の液体噴射ヘッドを有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図21は、本実施形態にかかる液体噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0124】
液体噴射装置700は、図21に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液体噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0125】
ヘッドユニット730は、上述した液体噴射ヘッド200から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッドおよびインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0126】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0127】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0128】
なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0129】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0130】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752aおよび駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0131】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0132】
液体噴射装置700は、寸法精度の高い液体噴射ヘッド200を有する。したがって液体噴射装置700の印刷特性が良好なものとなっている。
【0133】
なお、上記例示した液体噴射装置は、1つの液体噴射ヘッドを有し、この液体噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液体噴射ヘッドを有してもよい。液体噴射装置が複数の液体噴射ヘッドを有する場合には、複数の液体噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液体噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0134】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置700を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0135】
なお、上述した実施形態および各種の変形は、それぞれ一例であって、本発明は、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態および各変形は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0136】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0137】
10…シリコン基板、12…開口、14…孔、20…マスク層、22…マスクパターン、22a…段差、24…開口部、26…第1マスク層、28…第2マスク層、30…絶縁膜、40…第1電極、50…第2電極、60…圧電体層、70…保護膜、80…ノズル板、82…ノズル孔、100…圧電素子、200,201…液体噴射ヘッド、700…液体噴射装置、710…駆動部、720…装置本体、721…トレイ、722…排出口、730…ヘッドユニット、731…インクカートリッジ、732…キャリッジ、741…キャリッジモーター、742…往復動機構、743…タイミングベルト、744…キャリッジガイド軸、750…給紙部、751…給紙モーター、752…給紙ローラー、752a…従動ローラー、752b…駆動ローラー、760…制御部、770…操作パネル、C…チャンバー、S…電源装置、E…極板、I…イオン、T…ターゲット、e…距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板の加工方法およびこれを用いた液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板を加工して、同基板に孔や溝を形成することは、半導体をはじめとする電子部品の広範な分野で一般的に行われている。このような加工は、所与の製造プロセスに適した様々な方法で行われているが、典型的な方法としては、エッチングによって孔や溝に対応する部分のシリコンを除去して行うものが挙げられる。
【0003】
エッチングによってシリコンを除去する態様としては、エッチング液にシリコン基板を浸漬し、シリコンを化学変化させるなどしてエッチング液に溶解させて除去するウエットエッチングや、気体分子やイオンをシリコン基板に衝突させてシリコンを物理的に研削して除去するドライエッチングなどがある。
【0004】
これらのうち、ウエットエッチングは、一般にシリコン基板の加工速度がドライエッチングよりも大きくできるため、シリコン基板の加工量が多いときに用いられることが多い。また、ウエットエッチングは、シリコン基板が単結晶である場合には、加工速度が結晶の方位によって異なることがあり、このような性質(異方性)を利用した加工も行われている。
【0005】
ウエットエッチングでは、シリコン基板の所望の位置を加工するために、加工しない位置をマスクで覆って、所望の位置だけをエッチング液に接触させることが一般的である。このようなマスクとしては、レジスト等の有機物の層や、酸化物、窒化物等の無機物の層が用いられる。例えば、特許文献1には、このようなマスクとしてTEOS(ケイ酸エチル)膜、SiN膜を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−088508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリコン基板の表面に単にマスクを形成するだけであると、シリコン基板とマスクとが接触している領域のシリコンのエッチング速度が、他の部位のシリコンのエッチング速度と異なる場合があり、所望の形状とは異なる加工形状となってしまうことがあった。また、シリコン基板とマスクとが接触している領域内でも、エッチング速度が異なる場合があり、不均一なマスクのエッジ部分でエッチング量が一定しない場合があった。さらに、上記特許文献1に記載されている方法のように、シリコン基板の表面を特殊な洗浄方法によって洗浄してからマスクを形成する場合には、このようなシリコンのエッチング速度の不均一は抑制される傾向にあるものの、当該シリコン基板の表面の洗浄工程は極めて慎重に行われる必要があった。すなわちこの洗浄工程には、例えば、精密な温度、時間の管理や、正確な洗浄液の純度の管理が必要であった。そのため、シリコン基板の表面にマスクを形成する工程は、特に洗浄工程において、工数が多く非常に手間のかかる工程となっていた。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、簡易な工程で、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することのできるシリコン基板の加工方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、簡易な工程で、寸法精度の良好な液体の流路を形成することのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかるシリコン基板の加工方法の一態様は、
シリコン基板の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の主面にマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板をウエットエッチングするエッチング工程と、を含み、
前記マスク層は、クロムを含有し、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一のチャンバー内で行われる。
【0011】
このようにすれば、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することができる。すなわち、シリコン基板とマスクパターンとの密着性が均一かつ良好となる結果、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板を良好な寸法精度で再現性よくエッチング加工することができる。これにより、例えば、加工する寸法の設計において、不確定な要素を考慮する必要を低減することができるとともに、設計した寸法に近い寸法で加工することができる。
【0012】
さらに、本適用例のシリコン基板の加工方法によれば、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板とマスクパターンとの密着性を十分に得ることができ、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0013】
[適用例2]
適用例1において、
前記マスク層形成工程は、スパッタ法により行われる、シリコン基板の加工方法。
【0014】
このようにすれば、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、より簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記マスク層は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層、およびクロムを主成分とする第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【0016】
このようにすれば、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。また、本適用例のようにすれば、マスク層の耐久性を高めることができるとともに、マスク層の厚みを十分に小さくすることができる。
【0017】
[適用例4]
適用例3において、
前記マスク層は、前記シリコン基板側に前記第1マスク層を有し、前記第1マスク層の前記シリコン基板とは反対側に前記第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【0018】
このようにすれば、マスク層の耐久性をさらに高めることができ、マスク層の厚みを小さくすることができる。
【0019】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記エッチング工程は、水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により行われる、シリコン基板の加工方法。
【0020】
このようにすれば、シリコン基板の加工速度をより高めることができる。これにより、シリコン基板の加工工程全体の所要時間を短縮することができる。
【0021】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、シリコン基板の加工方法。
【0022】
このようにすれば、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、シリコン基板とマスクパターンとの境界付近におけるエッチング速度が、マスクパターンのエッジ部位で均一となり、また、マスクパターンの形状により近い形状でシリコン基板を加工することができ、シリコン基板をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0023】
[適用例7]
本発明にかかる液体噴射ヘッドの製造方法の一態様は、
シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の前記シリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、
前記シリコン基板の他方の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面に、クロムを含有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層を前記圧電素子に対応させてパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板を水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により異方性エッチングして、液体の流路を形成するエッチング工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面にノズル板を設ける工程と、
を含み、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。
【0024】
このようにすれば、簡易な工程で、シリコン基板を良好な寸法精度で加工することができ、シリコン基板に液体噴射ヘッドの流路を寸法精度良く形成することができる。これにより、例えば、液体噴射ヘッドから噴射される液体の量を精密に制御することができる。また、シリコン基板の加工速度も大きく、高いスループットで液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0025】
[適用例8]
適用例7において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、液体噴射ヘッドの製造方法。
【0026】
このようにすれば、シリコン基板とマスク層との密着性がさらに高まり、簡易な工程で、シリコン基板をさらに良好な寸法精度で加工することができ、液体噴射ヘッドの流路をさらに精度良く形成することができる。これにより、例えば、液体噴射ヘッドから噴射される液体の量をさらに精密に制御することができる。
【0027】
[適用例9]
液体の流路が形成されたシリコン基板と、
前記シリコン基板の一方の主面に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成された圧電素子と、
前記シリコン基板の他方の主面に形成されたクロム含有層と、
前記クロム含有層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成されたノズル板と、
を有する、液体噴射ヘッド。
【0028】
このような液体噴射ヘッドは、クロム含有層を有することにより、シリコン基板に形成された流路の寸法精度が高く、液体の噴射量の制御を精密に行うことができるとともに、シリコン基板およびノズル板との接着性が高い。そのため、本適用例の液体噴射ヘッドは、例えば、制御性や信頼性が高まっている。また、本適用例の液体噴射ヘッドは、クロム含有層をハードマスクとして加工され、当該ハードマスクを除去する工程が不要なため、他のマスクパターンを用いて製造する場合よりも少ない工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態で用いられるスパッタ装置の一例の模式図。
【図2】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図3】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図4】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図5】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図6】実施形態のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図7】変形例のシリコン基板の加工方法の一工程の模式図。
【図8】実施形態のシリコン基板の加工形状の一例を示す模式図。
【図9】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図10】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図11】実験例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図12】参考例のシリコン基板の加工形状のSEM観察結果。
【図13】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図14】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図15】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図16】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図17】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図18】実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の一工程の模式図。
【図19】実施形態の液体噴射ヘッド200の断面を示す模式図。
【図20】実施形態の液体噴射ヘッド201の断面を示す模式図。
【図21】実施形態の液体噴射装置700の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0031】
1.シリコン基板の加工方法
図1は、本実施形態の加工方法で使用されるスパッタ装置の一例を模式的に示す図である。図2ないし図6は、本実施形態のシリコン基板の加工方法の各工程の模式図である。図7は、実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されたシリコン基板の要部の模式図である。
【0032】
本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、表面処理工程と、マスク層形成工程と、パターニング工程と、エッチング工程と、を含む。
【0033】
1.1.シリコン基板
本実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されるシリコン基板10は、シリコンの単結晶によって形成された基板である。シリコン基板10としては、例えば、市販のシリコンウエハーや、シリコンの単結晶にさらにエピタキシャル成長によってシリコンの単結晶を成長させたものでもよい。また、シリコン基板10は、被加工面がシリコンで形成されていれば、他の面は他の材質で形成されていてもよく、例えば、シリコンウエハーの2つの主面のうち、一方の主面には、酸化シリコンや窒化物などのシリコンとは異なる材料の部材が形成されていてもよい。また、両面に酸化シリコンや窒化物などのシリコンとは異なる材料の部材を形成し、後に、一方の主面を研削または研磨してシリコンの表面が形成されてもよい。そしてこの場合は、本実施形態の加工方法によって、他方の主面側から加工される。また、シリコン基板10は、SOI(silicon on insulator)基板のように、絶縁層の上に薄膜の単結晶のシリコン層が形成されているものであってもよい。この場合は、該薄膜の単結晶のシリコン層が加工の対象となる。
【0034】
加工されるシリコン基板10の形状は特に限定されず、例えばウエハー形状、チップ形状などとすることができる。また、シリコン基板10の厚みにも制限はなく、例えば、0.1μm以上、1mm以下とすることができる。さらに、シリコン基板10を構成するシリコンの結晶の方位についても特に制限がない。例えば、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向が、シリコンの結晶の<110>、<100>、<111>等の低次の方向に沿っていることができる。また、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向に対してこれら低次の方向が傾いて、加工されるシリコン基板10の主面の法線方向が、より高次の方向に沿っていてもよい。
【0035】
1.2.表面処理工程
表面処理工程は、シリコン基板10の主面をスパッタリングする工程である。シリコン基板10には2つの主面が存在するが、本工程は、少なくとも一方の主面に対して行われる。本明細書では、スパッタリングするとは、減圧空間中に不活性ガス(アルゴン(Ar)、窒素、酸素等)を導入しながらシリコン基板10とスパッタリング材の間に高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスを、固体表面に衝突させることによって、当該固体から当該固体を構成する物質を飛び出させることをいう。そして、これらは、2極または多極に構成された極板に印加された直流(DC)、高周波(RF)およびバイアスされたRF等のエネルギーによって加速されて、固体表面に衝突させられる。
【0036】
一般に、スパッタリングに用いられる装置(以下これをスパッタ装置と称することがある。)は、減圧空間を形成しうるチャンバーCと、該減圧空間内に配置された極板Eと、該極板に外部から電気的なエネルギーを供給する電源装置Sを含んで構成される。電源装置Sの構成は、DCによるスパッタリングやRFによるスパッタリング等のスパッタリングの態様によって適宜選択される。そして、チャンバーC内にスパッタリングを受ける被スパッタリング材が配置されるとともに、チャンバーC内に衝突させる粒子(Ar等)を導入して、スパッタリングが行われる。また、チャンバーC内には、複数の被スパッタリング材が配置されることができ、同一の装置でスパッタリングしようとする被スパッタリング材を、電源装置Sの調整や、必要に応じてチャンバーC内に設けられるシャッターの開閉によって選択することができる。
【0037】
図1は、表面処理工程で用いられる装置の一例を概略的に示す模式図である。チャンバーC内には、シリコン基板10およびターゲットTがそれぞれ極板Eに接して配置されている。チャンバーCは、図示しない排気管に接続され、内部を減圧できるようになっている。また、チャンバーCは、図示しない気体導入管に接続され、スパッタリングの際に用いられる各種のガスをチャンバーC内に導入できるようになっている。そして、図1に模式的に示したように、電源装置Sに接続された極板Eによって、後述するスパッタバスを電離して形成されるイオンIに、エネルギーが印加される。
【0038】
そして、運動エネルギーを与えられたイオンIが、ターゲットTまたはシリコン基板10に衝突することによって、ターゲットTまたはシリコン基板10のスパッタリングが行われる。ここで、電源装置Sの構成が、DCやバイアスされたRFを発生する構成である場合は、ターゲットTにイオンIを衝突させる態様(図中矢印A)や、シリコン基板10にイオンIを衝突させる態様(図中矢印B)を、電源装置Sの極性を調節することによって実現することができる。また、電源装置Sが、方向性を有さないRF等を発生する態様では、例えば、チャンバーC内に図示せぬシャッターを設け、該シャッターによって、ターゲットTおよびシリコン基板10のいずれかをイオンIの衝突から遮蔽することで、スパッタリングされる対象を選択することができる。
【0039】
なお、表面処理工程は、チャンバーC内にシリコン基板10を導入して行われるが、次のマスク層形成工程で用いられるターゲットTも同一のチャンバーC内に導入して行われる。このようにすることで、同一のチャンバーC内で表面処理工程とマスク層形成工程と連続的に行うことができる。また、チャンバーC内には、複数のシリコン基板10や、複数のターゲットTを導入してもよく、複数のターゲットTを導入する場合には、それぞれ異なる材質のターゲットTとしてもよい。なお、本明細書では、スパッタリングが同一のチャンバーで行われるという事項は、対象の異なるスパッタリングが一つのチャンバーで行われること、および、あるチャンバーで所望のスパッタリングが行われた後、減圧環境内をスパッタリングの対象物を移動させて、他のチャンバーで他の所望のスパッタリングが行われることを含むものとする。
【0040】
表面処理工程では、シリコン基板10の主面にイオンIを衝突させる。図1に示したような平行平板型の極板Eを有するスパッタ装置を用いて、シリコン基板10をスパッタリングする場合の条件としては、次のようなものが挙げられる。スパッタリングする際の温度は、特に限定されないが、−100℃以上+300℃以下とすることができる。スパッタリングする際の温度は、室温であってもよく、また、必要に応じてシリコン基板10を上記温度範囲で冷却または加熱して設定することができる。スパッタリングする際のチャンバーC内の圧力は、例えば、0.1Pa以上10Pa以下とすることができる。スパッタリングに用いるガスとしては、例えば、Ar、N2、および混合ガスなどを用いることができ、チャンバーC内に1sccm(standard cc/min:at 1atm 0℃)以上50sccm以下の流量で導入されることができる。スパッタリングする際のイオンIに与えられるエネルギーは、極板E間に印加される電力で表したときに10W以上200W以下とすることができる。以上例示した値は、極板Eの大きさやチャンバーCの体積によって異なるため、典型的な値を例示している。そしてスパッタリングの時間は、5分以上15分以下とすることができる。
【0041】
本実施形態では、表面処理工程は、上述のようなスパッタ装置でRF電力を印加して行われる。本実施形態のスパッタ装置は、少なくともターゲットTに、イオンIが衝突しないようにするシャッター(図示省略)を備えており、本実施形態の表面処理工程の間は、ターゲットTの表面が該シャッターによって遮蔽されている。
【0042】
図2は、表面処理工程において、シリコン基板10にイオンIが衝突する様子を概念的に示したシリコン基板10の断面図である。本工程を経てスパッタリングされたシリコン基板10の主面の状態は、スパッタリング前の主面の状態とは相違していると考えられる。より具体的には、スパッタリング後のシリコン基板10の主面では、スパッタリングによって主面を構成する物質の一部がシリコン基板10から飛び出して新しい表面が形成されていること、形状の変化がなくてもシリコン基板10のシリコンの結晶の改質が生じていること、シリコン基板10の主面に付着している水分や有機成分が除去されていること、およびシリコン基板10の主面が活性化していること、の少なくとも一種が生じているものと考えられる。
【0043】
本実施形態のシリコン基板10の加工方法は、このような表面処理工程を有することによって、少なくともマスク層形成工程で形成されるマスク層20とシリコン基板10との間の密着性を高めることができる。そのため、シリコン基板10とマスク層20との界面に、後のエッチング工程のエッチャントが侵入しにくくなり、エッチングの寸法精度を高めることができる。また、マスク層20とシリコン基板10との間の密着性が、均一となるため、マスクパターン22のエッジ全体においてエッチング量のバラツキが抑えられ、再現性のよい加工が可能となる。また、上述したとおり、表面処理工程に使用するスパッタ装置は、チャンバーCを開放することなく、ターゲットTのスパッタリングを行うことが可能である。そのため、上記表面処理工程と次項のマスク層形成工程とが、同一のチャンバーC内で容易に行われることができる。そのため、表面処理工程でスパッタリングされたシリコン基板10の主面をチャンバーC内の雰囲気以外の雰囲気に曝すことなく、マスク層20を形成することができる。
【0044】
1.3.マスク層形成工程
マスク層形成工程は、上述のスパッタリングされたシリコン基板10の主面に対してマスク層20を形成する工程である。マスク層形成工程は、上述の表面処理工程で使用したスパッタ装置の同一のチャンバーC内で行われる。マスク層形成工程は、チャンバーC内でイオンIをターゲットTに衝突させターゲットTを構成する物質を飛び出させて(ターゲットTをスパッタリングして)、ターゲットTを構成する物質を含む物質をシリコン基板10の主面に堆積させる工程である。したがって、マスク層形成工程では、上記「1.2.表面処理工程」で説明したスパッタ装置によって行うことができる。
【0045】
図1に示したような平行平板型の極板Eを有するスパッタ装置を用いて、ターゲットTをスパッタリングする場合の条件としては、次のようなものが挙げられる。スパッタリングする際の温度は、特に限定されないが、−100℃以上+300℃以下とすることができる。スパッタリングする際の温度は、室温であってもよく、また、必要に応じてターゲットTを上記温度範囲で冷却または加熱して設定することができる。スパッタリングする際のチャンバーC内の圧力は、例えば、0.1Pa以上10Pa以下とすることができる。スパッタリングに用いるガスとしては、例えば、Ar、N2、O2、および混合ガスなどを用いることができ、チャンバーC内に1sccm以上100sccm以下の流量で導入されることができる。スパッタリングする際のイオンIに与えられるエネルギーは、極板E間に印加される電力で表したときに10W以上1000W以下とすることができる。以上例示した値は、極板Eの大きさやチャンバーCの体積によって異なるため典型的な値を例示している。そしてスパッタリングの時間は、5分以上300分以下とすることができる。
【0046】
本実施形態では、マスク層形成工程は、上述のようなスパッタ装置でRF電力を印加して行われる。本実施形態のスパッタ装置は、少なくともターゲットTに、イオンIが衝突しないようにするシャッター(図示省略)を備えており、本実施形態のマスク層形成工程の間は、ターゲットTおよびシリコン基板10の表面が共にチャンバーC内に開放され、ターゲットTから飛び出した物質を含む物質がシリコン基板10の主面に堆積するように行われる。
【0047】
図3は、本工程によって、マスク層20が形成された状態を模式的に示している。マスク層20は、シリコン基板10の主面に形成される。マスク層20は、層状または薄膜状に形成される。マスク層20の厚みはマスク層20の材質によって適宜選択されるが、例えば、10nm以上200nm以下とすることができる。マスク層20は、異なる材質で形成された複数の層で構成されてもよい。マスク層20の機能の一つとしては、パターニングされて、シリコン基板10がエッチングされる際のマスクとなることが挙げられる。
【0048】
マスク層20の材質は、シリコン基板10およびマスク層20が同一のエッチングを受けるときに、シリコン基板10のエッチング速度よりもマスク層20のエッチング速度のほうが小さくなるように選択される。すなわち、マスク層20は、特定のエッチングにおいて、シリコン基板10と選択性のある材質で形成される。マスク層20の材質としては、例えば、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)から選択される少なくとも一種、並びにその酸化物、窒化物、および酸化窒化物を挙げることができる。マスク層20の材質は、これらのうち、Crを含有する材質であることがより好ましく、金属クロム、酸化クロムなどであることがより好ましい。マスク層20の材質がCrを含有すると、マスク層20のマスクとしての性能や、マスク層20の化学的安定性を高めることができるとともに、シリコン基板10との密着性をより良好にすることができる。これにより、シリコン基板10をエッチングする際の寸法精度をより高めることができる。
【0049】
マスク層形成工程で、チャンバーC内に導入されるターゲットTの材質としては、上記マスク層20をスパッタ法によって形成できるものが選択される。具体的なターゲットTの材質としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)から選択される少なくとも一種、並びにその酸化物、窒化物、および酸化窒化物を挙げることができる。そして、チャンバーC内には、それぞれ異なる材質のターゲットTを導入することができ、スパッタリングの対象が所望のターゲットTとなるようにチャンバーC内で電気的または機械的に切り替えることができる。
【0050】
これらのうち、上記マスク層20の好ましい材質として挙げたクロムや酸化クロムによってマスク層20を形成する場合には、ターゲットTの材質を金属クロムとすれば、金属クロムのマスク層20を形成することができる。また、チャンバーC内に酸素(O2)を導入してターゲットTをスパッタリングすれば、酸化クロムのマスク層20を形成することができる。
【0051】
本実施形態のシリコン基板10の加工方法は、このような表面処理工程と同一チャンバーC内で行われるマスク層形成工程を有することによって、少なくともマスク層形成工程で形成されるマスク層20とシリコン基板10との間の密着性を高めることができる。また、上述したとおり、表面処理工程およびマスク層形成工程に使用するスパッタ装置は、チャンバーCを開放することなく、ターゲットTのスパッタリングを行うことが可能である。そのため、上記表面処理工程と次項のマスク層形成工程とが、同一のチャンバーC内で容易に行われることができる。そのため、表面処理工程でスパッタリングされたシリコン基板10の主面をチャンバーC内の雰囲気以外の雰囲気に曝すことなく、マスク層20を形成することができる。
【0052】
なお、スパッタ装置において、ターゲットTをスパッタリングして、ターゲットTを構成する物質をターゲットTから飛び出させて、この飛び出した物質を成膜対象物に(上記例ではシリコン基板10)堆積させることは、スパッタリングを利用した物質の堆積方法として一般的であり、スパッタ法、スパッタ堆積法などと称されることがある。これとは逆に、同スパッタ装置において、成膜対象物(上記例ではシリコン基板10)をスパッタリングすることは、逆スパッタと称される場合がある。逆スパッタは、上記の表面処理工程で行われる操作に類似するが、成膜対象物に物質を堆積させる目的は有していない。
【0053】
1.4.パターニング工程
パターニング工程は、マスク層20をパターニングしてマスクパターンを形成する工程である。パターニング工程は、例えば、フォトリソグラフィー法等の方法で行われる。具体的には、まず、マスク層20のシリコン基板10とは反対側の面(図3におけるマスク層20の上面)にレジストを成膜し、所望のパターンに露光、現像する。次にレジストの開口部に露出したマスク層20をエッチングする。そして、レジストを除去することによってパターニングされたマスク層20、すなわちマスクパターン22が形成される(図4参照)。図4には、開口部24を有するマスクパターン22が例示されている。
【0054】
マスク層20のエッチングは、ドライエッチング、ウエットエッチングのいずれで行われてもよい。マスク層20が、クロムを含有する材質で形成されている場合には、マスク層20のエッチングに用いられるエッチャントとしては、例えば、硝酸セリウムを含有する溶液を用いることができる。パターニング工程は、ウエットエッチングを用いて行われると、複数のシリコン基板10を一度に処理することができるため効率が良くなる。なお、本工程のマスク層20をエッチングするエッチャントは、シリコン基板10をエッチングしにくいものがより好ましい。
【0055】
1.5.エッチング工程
エッチング工程は、マスクパターン22の形状に従ってシリコン基板10をウエットエッチングする工程である。エッチング工程は、マスクパターン22によって覆われていないシリコン基板10、すなわち、マスクパターン22の開口部24によって露出しているシリコン基板10をウエットエッチングする。本工程で用いられるエッチャントとしては、マスクパターン22よりもシリコン基板10をエッチングする速度のほうが大きいものであれば特に限定されない。そのようなものとしては、例えば、水酸化カリウム(KOH)を含む溶液を挙げることができる。また、これらのエッチャントには、バッファーや界面活性剤等の各種機能を有する添加剤が含まれていてもよい。
【0056】
マスクパターン22(マスク層20)の材質がクロムを含む場合には、本工程のエッチャントとして、KOHを主成分とする溶液を用いることが特に好ましい。このようなエッチャントを用いると、シリコン基板10のエッチング速度を十分に大きくできるとともに、マスクパターン22のエッチング速度を十分に小さくすることができる。このようにすれば、シリコン基板10の加工速度をさらに高めることができる。これにより、シリコン基板10の加工工程全体の所要時間を短縮することができる。また、このようにすれば、マスク層20の厚みを小さくすることができるため、マスク層形成工程に要する時間、およびパターニング工程に要する時間も短縮することができる。
【0057】
本工程をKOHを主成分とする溶液をエッチャントとして行う場合の条件としては、例えば、KOHの濃度が20質量%以上50質量%以下の水溶液をエッチャントとし、温度範囲を50℃以上90℃以下として行うことができる。
【0058】
エッチング工程におけるシリコン基板10の加工量(エッチングされる体積)は、例えば、エッチャントの種類、濃度、およびエッチャントにシリコン基板10が接触する時間の少なくとも一種によって制御されることができる。また、本工程におけるエッチングストッパーとして、SiO2層やSiN層がシリコン基板10の所望の位置に設けられていてもよい。このようにすれば、エッチャントによるエッチングを時間で制御する手間を軽減することができ、所望の位置でエッチングを停止させることができる。
【0059】
図5および図6は、それぞれエッチング工程によって、シリコン基板10が加工された状態の一例を示す図である。図5の例では、シリコン基板10の厚み方向の途中までマスクパターン22の開口部24に対応した形状の開口12がシリコン基板10に形成されている。図6の例では、シリコン基板10を貫通する孔14がマスクパターン22の開口部24に対応した形状でシリコン基板10に形成されている。
【0060】
1.6.変形例
図7は、シリコン基板の加工方法において、マスク層形成工程の変形例を模式的に示す図である。本実施形態のシリコン基板の製造方法において、マスク層20は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層26、およびクロムを主成分とする第2マスク層28の積層構造とすることができる。第1マスク層26および第2マスク層28の数および積層の順序は特に限定されない。また、第1マスク層26および第2マスク層28は、それぞれ、マスク層形成工程において、クロムを材質とするターゲットTを用いて、スパッタリングするチャンバーC内への酸素の導入の有無を制御することによって、容易に形成することができる。
【0061】
図7の例では、マスク層20は、シリコン基板10の側に酸化クロムを主成分とする第1マスク層26を有し、シリコン基板10とは反対側にクロムを主成分とする第2マスク層28を有している。また、図示の例では、第1マスク層26および第2マスク層28は、互いに接して形成され、マスク層20は、2層構造となっている。
【0062】
本変形例のように、マスク層20を第1マスク層26および第2マスク層28を含んで構成することにより、例えば、マスク層20の全体の厚みを小さくすることができる。すなわち、図7の例では、シリコン基板10との密着性が、第2マスク層28よりも相対的に高い第1マスク層26に、シリコン基板10との密着性を担わせ、エッチングにおける安定性が、第1マスク層よりも相対的に良好な第2マスク層28によって、第1マスク層28を覆う構造となっている。そのため、第1マスク層26のみでマスク層20を構成する場合よりも、マスク層20全体の厚みを小さくすることができる。
【0063】
なお、本変形例は、マスク層20が2層構造である例を示しているが、マスク層20は、3層以上の構造であってもよい。その場合でも、同一チャンバーC内で任意の層構成を容易に形成することができる。
【0064】
1.7.その他の工程
本実施形態のシリコン基板の加工方法は、さらに他の工程を含んでもよい。例えば、表面処理工程の前に、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含むことができる。
【0065】
フッ化水素を含む溶液の具体例としては、5質量%以上30質量%以下のフッ化水素水溶液が挙げられる。また、このようなフッ化水素水溶液には、界面活性剤やpH調整剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0066】
この場合の洗浄方法としては、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液に浸漬する方法が例示でき、その後、純水によって洗浄することを含んでもよい。この場合、シリコン基板10の主面をフッ化水素を含む溶液に浸漬する時間は、1秒以上1分以下とすることができ、典型的には10秒とすることができる。また、これらの工程は、スピンコート法によって行われてもよい。
【0067】
本実施形態のシリコン基板の加工方法は、このような工程を含むことによって、さらに寸法精度の良い加工を行うことができる。すなわち、チャンバーC内にシリコン基板10を導入する前に、シリコン基板10の主面をより清浄な状態とすることができるため、シリコン基板10の主面に対する表面処理工程(スパッタリング)の効果を高めることができる。そのため、シリコン基板10とマスク層20との密着性がさらに高まり、シリコン基板10とマスク層20との界面付近のエッチング速度が均一化され、シリコン基板10をさらに良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0068】
1.8.作用効果
図8は、本実施形態のシリコン基板の加工方法によって加工されたシリコン基板10の断面の要部を拡大して示す模式図である。図8の拡大図において、マスクパターン22に、シリコン基板10に対して張り出した部分である段差22aが生じている。この段差は、マスクパターン22の形状と、シリコン基板10の加工された形状とのズレとなっている。このような段差22aは、小さいほど、マスクパターン22の形状に忠実にシリコン基板10が加工されていることになる。ここでは図示したように段差22aの先端と、シリコン基板10の側面との間の距離を距離eと定義する。
【0069】
シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性が小さいと、距離eが大きくなりやすい。また、シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性に分布があると、孔14の平面的に見た周囲において、距離eの大きさが不均一となりやすい。前者の現象は、シリコン基板10とマスクパターン22との間にエッチング工程のエッチャントが侵入しやすいために生じると考えられる。後者の現象は、密着性の強い部分と弱い部分とで、エッチャントの侵入の程度が異なるために生じると考えられる。これらの現象が生じていると、シリコン基板10の加工における寸法精度が不十分となることがある。
【0070】
本実施形態のシリコン基板の加工方法によれば、シリコン基板10とマスクパターン22との間の密着性が均一かつ良好である。そのため、距離eを小さくできるとともに、孔14の周囲における距離eを一定値に近づけることができる。
【0071】
したがって、本実施形態のシリコン基板の加工方法は、シリコン基板10を良好な寸法精度で、再現性よく加工することができる。すなわち、シリコン基板10とマスクパターン22との密着性が均一かつ良好となる結果、シリコン基板10とマスクパターン22との境界付近におけるエッチング速度が均一となり、また、マスクパターン22の形状により近い形状でシリコン基板10を加工することができ、シリコン基板10を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0072】
また、本実施形態のシリコン基板の加工方法では、表面処理工程とマスク層形成工程とを、同一のチャンバー内でスパッタリングする対象を変更することのみによって行うことができる。すなわち、表面処理工程で、シリコン基板の主面をスパッタリングし、同一チャンバー内で引き続きマスク層形成工程で形成するマスク層の原料を含むターゲットをスパッタリングし、シリコン基板の主面にターゲット材料を堆積させてマスク層を形成することができる。したがって、簡易な装置構成、簡易な操作によって、シリコン基板を良好な寸法精度でエッチング加工することができる。
【0073】
本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、広範な分野に応用することができる。例えば、本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法は、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、液体噴射装置等の製造においてシリコン基板を加工する際に適用することができ、さらに、超音波発振器等の超音波デバイス、超音波モーター、圧力センサー等、他のデバイスにおいて、シリコン基板を加工する工程を有する場合に適用することができる。
【0074】
2.実験例および参考例
以下に実験例および参考例を示し、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
2.1.実験例
実験例1は、平行平板型のスパッタ装置に、主面の法線方向に結晶の<100>方向が配向した単結晶のシリコン基板10および金属クロムのターゲットTを導入し、表面処理工程およびマスク層形成工程を行って加工した例である。実験例1の試料は、以下のように作成した。
【0076】
表面処理工程は、室温で行い、スパッタリングのチャンバーC内の圧力は、0.4Paとした。また、スパッタリングに用いたガスは、Arであり、チャンバーC内に25sccmの流量で導入して行った。そして、極板E間に印加される電力は、100Wとし、15分間スパッタリングを行った。
【0077】
表面処理工程に引き続き、マスク層形成工程として同一チャンバー内でターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に酸化クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。ターゲットTのスパッタリングに用いるガスは、Ar、およびO2の混合ガスとし、チャンバーC内にそれぞれ、30sccm、20sccmの流量で導入した。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。
【0078】
その後、ウエットエッチングにより、マスク層20をパターニングして、マスクパターン22を形成し、そして、KOHの37質量%の水溶液を用いて120分間エッチングして実験例1の試料を作成した。
【0079】
図9および図10は、実験例1の試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)観察した結果である。図10は、図9の破線で囲んだ部分を拡大して観察した結果である。
【0080】
図9を見ると、シリコン基板10にマスクパターン22に対応する円柱状の開口12が形成されていることが分かった。図10を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ50nmであり、マスクパターン22の端部は、シリコン基板10の側面に対する段差22aが形成され、その張り出した距離eは、およそ50nmとなっていることが判明した。これらの結果から、実験例1の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状に従って極めて忠実に加工されていることが分かった。
【0081】
実験例2は、マスク層20を2層で形成する以外は、実験例1と同様にした例である。実験例2の試料は、以下のように作成した。
【0082】
表面処理工程は、実験例1と同様に行った。表面処理工程に引き続き、マスク層形成工程として同一チャンバー内でターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に、まず、酸化クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。ターゲットTのスパッタリングに用いるガスは、Ar、およびO2の混合ガスとし、チャンバーC内にそれぞれ、30sccm、20sccmの流量で導入した。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。そして、これに引き続き、同一チャンバー内でO2の導入を断ち、ターゲットTをスパッタリングしてシリコン基板10の表面に、金属クロムを堆積させた。この工程の温度は、室温とし、チャンバーC内の圧力は、0.67Paとした。極板E間に印加される電力は、500Wとし、30分間行った。その後、実験例1と同様にパターニング工程、エッチング工程を行い、実験例2の試料を作成した。
【0083】
図11は、実験例2の試料の断面を拡大してSEM観察した結果である。
【0084】
図示しないが、実験例2の試料についても、シリコン基板10にマスクパターン22に対応する円柱状の開口12が形成されている。図11を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ150nmであり、マスクパターン22の端部は、シリコン基板10の側面に対する段差22aが形成され、その張り出した距離eは、およそ500nmとなっていることが判明した。これらの結果から、実験例1の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状に対して忠実に加工されていることが分かる。
【0085】
2.2.参考例
参考例の試料は以下のように作成した。参考例では、表面処理工程を行わずに、マスク層20を形成した例である。参考例の試料は、以下のように作成した。
【0086】
平行平板型のスパッタ装置に、主面の法線方向に結晶の<110>方向が配向した単結晶のシリコン基板10および金属クロムのターゲットTを導入し、表面処理工程を行わずにマスク層形成工程を行った。
【0087】
マスク層形成工程は、実験例1と同様にして行った。その後、実験例1と同様にして、パターニング工程、エッチング工程を行い、参考例の試料を作成した。
【0088】
図12は、参考例の試料の断面を拡大してSEM観察した結果である。
【0089】
図示しないが、参考例の試料についても、シリコン基板10にマスクパターン22におよそ対応する円柱状の開口12が形成されている。図12を見ると、マスクパターン22の厚みは、およそ50nmであり、マスクパターン22の端部付近には、シリコン基板10の側面に対して非常に大きく形成された段差22aが認められ、その張り出した距離eは、およそ1500nmとなっていることが判明した。この結果から、参考例の試料におけるシリコン基板10は、マスクパターン22の形状とは大きく異なる形状に加工されていることが判明した。また、図示しないが、参考例の試料に形成された段差は、平面的に見た開口の周囲の位置によって、大きさが不均一となっていた。
【0090】
以上の実験例および参考例の結果から、シリコン基板の加工において、表面処理工程を有する場合は、マスクパターンの形状に近い形状でシリコン基板が加工され、表面処理工程を有さない場合には、マスクパターンの形状から大きくずれることが判明した。
【0091】
3.液体噴射ヘッドの製造方法
以下に本実施形態にかかるシリコン基板の加工方法を、液体噴射ヘッドの製造において適用した例を述べる。
【0092】
図13ないし図18は、本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法の各工程を説明するための模式図である。
【0093】
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法は、シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、絶縁膜のシリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、表面処理工程と、マスク層形成工程と、パターニング工程と、エッチング工程と、シリコン基板の他方の主面にノズル板を設ける工程と、を含む。そして、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。
【0094】
3.1.絶縁膜を形成する工程
まず、シリコン基板10の一方の主面に、絶縁膜30を形成する。絶縁膜30は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン等で形成されることができる。また、絶縁膜30は、これらの材質の膜の積層構造を有していてもよい。絶縁膜30の機能の一つとしては、シリコン基板10の他方の面側からエッチングする(エッチング工程)際のエッチングストッパーとなることが挙げられる。また、絶縁膜30の機能の一つとしては、液体噴射ヘッド200における振動板となることが挙げられる。
【0095】
絶縁膜30は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法などによって形成されることができる。
【0096】
3.2.圧電素子を形成する工程
圧電素子100は、絶縁膜30のシリコン基板10とは反対側の面に形成される。圧電素子100は、複数形成されてもよい。圧電素子100の機能の一つとしては、絶縁膜30を可動部材とする圧電アクチュエーターの駆動部となることが挙げられる。また、圧電素子100の機能の一つとしては、液体噴射ヘッド200の駆動部となることが挙げられる。したがって、圧電素子100は、例えば、後述する液体噴射ヘッド200の流路に対応する位置に形成される。
【0097】
圧電素子100は、例えば、第1電極40と、第2電極50と、圧電体層60と、を含む。
【0098】
図13に示すように、第1電極40は、第2電極50と対向して配置され、第1電極40および第2電極50の間に圧電体層60が配置される。第1電極40は、圧電体層60に接している。第1電極40の形状は、第2電極50と対向できるかぎり限定されず、層状あるいは薄膜状の形状を有する。第1電極40の厚みは、例えば、50nm以上300nm以下とすることができる。また、第1電極40を、平面的に見たときの形状については、第2電極50が対向して配置されている状態で、両者の間に圧電体層60を配置できる形状であれば、特に限定されず、例えば、矩形、円形等とすることができる。また、圧電素子100を平面的に見たときに、第1電極40および第2電極50は、オーバーラップする領域を有している。第1電極40の機能の一つとしては、圧電体層60に電圧を印加するための一方の電極(例えば、圧電体層60の下方に形成された下部電極)となることが挙げられる。
【0099】
第1電極40は、例えば、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuOx:SRO)、ランタンとニッケルの複合酸化物(LaNiOx:LNO)などを例示することができる。第1電極40は、例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。また、第1電極40と絶縁膜30との間には、さらに他の層、例えばチタン層等が形成されていてもよい。
【0100】
第2電極50は、図13に示すように、第1電極40に対向して配置される。第2電極50は、全体が第1電極40と対向していてもよいし、一部が第1電極40に対向していてもよい。第2電極50の形状は、第1電極40と対向できるかぎり限定されないが、圧電素子100を薄膜状にする場合には、層状あるいは薄膜状の形状が好ましい。この場合の第2電極50の厚みは、例えば、20nm以上300nm以下とすることができる。また、第2電極50の平面的な形状についても、第1電極40に対向して配置されたときに両者の間に圧電体層60を配置できる形状であれば、特に限定されず、例えば、矩形、円形等とすることができる。第2電極50の機能の一つとしては、圧電体層60に電圧を印加するための一方の電極(例えば、圧電体層60の上に形成された上部電極)となることが挙げられる。第2電極50の材質としては、例えば、第1電極40と同様とすることができる。
【0101】
図13は、第1電極40が第2電極50よりも平面的に大きく形成された例を示しているが、第2電極50のほうが第1電極40よりも平面的に大きく形成されてもよい。この場合は、第2電極50は、圧電体層60の側面に形成されてもよく、第2電極50に、水分や水素等から圧電体層60を保護する機能を兼ねさせることができる。なお、第1電極40および第2電極50の一方が他方よりも大きく形成された場合、当該大きく形成された電極を、複数の圧電素子の共通電極としてもよい。
【0102】
圧電体層60は、図13に示すように、第1電極40および第2電極50の間に配置される。本実施形態では圧電体層60は、第1電極40に接して設けられている。また、圧電体層60と、第2電極50との間には、他の層が形成されてもよい。この場合の他の層としては、例えばチタン層などが挙げられる。
【0103】
圧電体層60の厚さは、例えば、100nm以上2000nm以下とすることができる。圧電体層60の厚みがこの範囲を外れると、十分な変形(電気機械変換)が得られなくなる場合がある。圧電体層60の厚みとしては、1000nm以上、1500nm以下であることがより好ましい。圧電体層60の厚みが、このような範囲内であると、圧電素子100の変位量を十分大きくとることができるとともに薄膜化に寄与することができる。
【0104】
圧電体層60の材質としては、圧電性を有するものであるかぎり特に限定されないが、例えば、一般式MAMBO3で示される酸化物(例えば、MAは、Pb、K、Ba、Sr、およびBiからなる群より選択される少なくとも1種を含み、MBは、Zr、Ti、Nb、Na、TaおよびLaからなる群より選択される少なくとも1種を含む。)が挙げられる。
【0105】
これらのうち、圧電体層60の材質としては、少なくとも鉛、ジルコニウム、チタンおよび酸素を含む複合酸化物とすることがより好適である。圧電体層60の材質に好適な複合酸化物としては、より具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下これを「PZT」と略記することがある)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下これを「PZTN」と略記することがある。)などが挙げられる。
【0106】
このような複合酸化物は、いずれも式中、MAサイトの酸化物とMBサイトの酸化物の固溶体を形成することができる。そして、このような複合酸化物は、結晶化により、ペロブスカイト型の結晶構造をとることができる。複合酸化物は、結晶化されて、ペロブスカイト型の結晶構造をとることにより、圧電性を呈することができる。これにより、圧電体層60は、第1電極40および第2電極50によって電界が印加されることで変形することができる(電気機械変換)。圧電素子100が圧電体層60の変形によって変形するため、例えば、上述の絶縁層30を含む圧電素子100を含むアクチュエーターを構成すると、可動部(絶縁層30)を変形させたり(たわませたり)、振動させたりすることができる。
【0107】
圧電体層60は、積層構造であってもよい。例えば、互いに異なる組成の圧電体の層や、同一の組成の圧電体の層が、複数層積層していてもよい。また、圧電体層60には、厚みの方向に組成が傾斜していてもよい。さらに積層する層の数も任意である。
【0108】
圧電素子を形成する工程は、例えば、次のように行われる。
【0109】
まず、「3.1.絶縁膜を形成する工程」を経て絶縁層30が形成されたシリコン基板10を準備し、シリコン基板10上に第1電極40を形成する。第1電極40は、例えばスパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。第1電極40は、必要に応じてパターニングされることができる。次に、第1電極40の上に、圧電体層60を形成する。圧電体層60は、例えば、ゾルゲル法、CVD法、MOD法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成されることができる。ここで圧電体層60の材質が、例えば、PZTである場合、酸素雰囲気で650℃ないし750℃程度の焼成を行うことにより、圧電体層60を結晶化することができる。なお、結晶化は、圧電体層60をパターニングした後に行ってもよい。圧電体層60は、上記の操作を少なくとも2回繰り返して形成されてもよい。このようにすることで、圧電体層60の全体の結晶性および結晶の質を向上させることができる。なお、圧電体層60は、第1電極40に接して形成される。次に、圧電体層60の上に第2電極50を形成する。第2電極50は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成されることができる。そして、所望の形状に第2電極50および圧電体層60をパターニングして、図13に示すような圧電素子100が形成される。
【0110】
3.3.保護膜を形成する工程
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法は、保護膜を形成する工程を、必要に応じて含んでもよい。本実施形態では、圧電素子100を覆うように保護膜70を形成する例を示す。また、本実施形態では保護膜70を形成する例を示すが、圧電素子100を機械的、化学的に保護できる限り、保護膜70に依らなくても、例えば、保護板等によって圧電素子100を覆ってもよい。
【0111】
保護膜70は、例えば、レジスト等の除去することが可能な材質で形成される。保護膜70は、例えば、図13に示すように、シリコン基板10の一方の主面側を圧電素子1000を含んで全体的に覆うように形成される。保護膜70は、例えば、CVD法やスピンコート法によって形成されることができる。
【0112】
本工程を経て、保護膜70が形成された場合、保護膜70によって、例えば、圧電素子100が他の部材と機械的に接触することや、エッチングされることを防止しやすくすることができる。これにより、後の各工程におけるシリコン基板10等の取り扱いを容易化することができる。なお保護膜70は、不要となったときに、除去されることができる。
【0113】
3.4.表面処理工程、マスク層形成工程、パターニング工程およびエッチング工程
次に、図14ないし図17に示すように、シリコン基板10の他方の主面に対して、表面処理工程、マスク層形成工程、パターニング工程およびエッチング工程を行う。これらの工程は、「1.シリコン基板の加工方法」の項で既に述べたとおりであり、同一の部材には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0114】
図14は、シリコン基板10の他方の主面に対して、表面処理工程を行う様子を模式的に示している。図15は、マスク層形成工程を経てマスク層20が形成された状態を示している。図16は、パターニング工程を経て、マスクパターン22が形成された状態を示している。図17は、エッチング工程を経て、シリコン基板10に孔14が形成された状態を示している。そして、表面処理工程およびマスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる。本実施形態では、マスク層20の材質として、酸化クロムを選択し、マスク層20をクロムを含有する層とした。なお、エッチング工程において、絶縁膜30は、エッチングストッパーとして機能している。また、液体噴射ヘッドの製造方法において、表面処理工程の前に、既に述べたフッ化水素を含む溶液でシリコン基板10の他方の主面を洗浄する工程を有してもよい。
【0115】
これらの工程を経ることにより、図17に示すような構造体が形成される。図17に示すように、シリコン基板10の孔14は、圧電素子100の第1電極40、第2電極50および圧電体層60を一組とした構造体の一つずつに対応して形成されている。そして、この孔14が液体噴射ヘッド200における液体の流路となる。
【0116】
3.5.ノズル板を設ける工程
ノズル板80は、図18に示すように、ノズル孔82を有する。ノズル孔82は、シリコン基板10に形成された液体の流路に連通しており、ノズル孔82からは、液体が吐出されることができる。ノズル板80には、例えば、多数のノズル孔82が一列に設けられている。ノズル板80の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。
【0117】
本工程により、ノズル板80は、シリコン基板10の他方の主面に設けられる。ノズル板80とシリコン基板10との接合は、例えば、接着剤を用いて行われることができる。
【0118】
3.6.液体噴射ヘッド
そして、本実施形態では保護膜7を形成しているため、保護膜70を除去して図19に示すような液体噴射ヘッド200が製造される。なお、ノズル板80を設ける工程の前に、マスクパターン22を除去する工程を有してもよい。マスクパターン22の除去は、例えば、パターニング工程で使用したエッチャントによってマスクパターン22をエッチングして行われることができる。マスクパターン22を除去する工程を含む場合は、ノズル板80を設ける工程を経ることにより、図20に示すような液体噴射ヘッド201が製造される。
【0119】
以上説明した本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法により、製造された液体噴射ヘッド200は、液体の流路が形成されたシリコン基板10と、シリコン基板100の一方の主面に形成された絶縁層30と、絶縁層30のシリコン基板10とは反対側の面に形成された圧電素子100と、シリコン基板10の他方の主面に形成されたマスクパターン22(クロム含有層)と、マスクパターン22(クロム含有層)のシリコン基板10とは反対側の面に形成されたノズル板80と、を有する。なお、シリコン基板10に形成された流路のうち、圧電素子100に対応して形成されている部分は、圧電素子100の動作によって、容積が変化しうる部分であり、圧力発生室としての役割を果たすことができる。
【0120】
このような液体噴射ヘッドは、マスクパターン22(クロム含有層)を有することにより、シリコン基板10に形成された流路の寸法精度が高いとともに、シリコン基板10およびノズル板80との接着性が高い。そのため、本実施形態の液体噴射ヘッド200は、例えば、信頼性が高まっている。また、本実施形態の液体噴射ヘッド200は、マスクパターン22(クロム含有層)を除去する工程が不要なため、少ない工程で製造することができる。
【0121】
液体噴射ヘッド200、液体噴射ヘッド201は、上述したように、寸法精度の高い流路を有しており、液体の噴射量を精密に制御することができる。このような液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることができる。
【0122】
3.7.作用効果
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法によれば、簡易な工程で、シリコン基板10を良好な寸法精度で加工することができ、シリコン基板10に液体噴射ヘッドの流路を寸法精度良く形成することができる。また、シリコン基板10の加工速度も大きく、高いスループットで液体噴射ヘッドを製造することができる。
【0123】
4.液体噴射装置
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法によって製造された液体噴射ヘッドは、例えば、液体噴射装置に利用することができる。ついて、図面を参照しながら説明する。液体噴射装置は、上述の液体噴射ヘッドを有する。以下では、液体噴射装置が上述の液体噴射ヘッドを有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図21は、本実施形態にかかる液体噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0124】
液体噴射装置700は、図21に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液体噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0125】
ヘッドユニット730は、上述した液体噴射ヘッド200から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッドおよびインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0126】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0127】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0128】
なお、本実施形態では、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッド200および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液体噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0129】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0130】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752aおよび駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0131】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0132】
液体噴射装置700は、寸法精度の高い液体噴射ヘッド200を有する。したがって液体噴射装置700の印刷特性が良好なものとなっている。
【0133】
なお、上記例示した液体噴射装置は、1つの液体噴射ヘッドを有し、この液体噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液体噴射ヘッドを有してもよい。液体噴射装置が複数の液体噴射ヘッドを有する場合には、複数の液体噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液体噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0134】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置700を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0135】
なお、上述した実施形態および各種の変形は、それぞれ一例であって、本発明は、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態および各変形は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0136】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0137】
10…シリコン基板、12…開口、14…孔、20…マスク層、22…マスクパターン、22a…段差、24…開口部、26…第1マスク層、28…第2マスク層、30…絶縁膜、40…第1電極、50…第2電極、60…圧電体層、70…保護膜、80…ノズル板、82…ノズル孔、100…圧電素子、200,201…液体噴射ヘッド、700…液体噴射装置、710…駆動部、720…装置本体、721…トレイ、722…排出口、730…ヘッドユニット、731…インクカートリッジ、732…キャリッジ、741…キャリッジモーター、742…往復動機構、743…タイミングベルト、744…キャリッジガイド軸、750…給紙部、751…給紙モーター、752…給紙ローラー、752a…従動ローラー、752b…駆動ローラー、760…制御部、770…操作パネル、C…チャンバー、S…電源装置、E…極板、I…イオン、T…ターゲット、e…距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の主面にマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板をウエットエッチングするエッチング工程と、
を含み、
前記マスク層は、クロムを含有し、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記マスク層形成工程は、スパッタ法により行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記マスク層は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層、およびクロムを主成分とする第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記マスク層は、前記シリコン基板側に前記第1マスク層を有し、前記第1マスク層の前記シリコン基板とは反対側に前記第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記エッチング工程は、水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、シリコン基板の加工方法。
【請求項7】
シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の前記シリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、
前記シリコン基板の他方の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面に、クロムを含有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層を前記圧電素子に対応させてパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板を水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により異方性エッチングして、液体の流路を形成するエッチング工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面にノズル板を設ける工程と、
を含み、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項9】
液体の流路が形成されたシリコン基板と、
前記シリコン基板の一方の主面に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成された圧電素子と、
前記シリコン基板の他方の主面に形成されたクロム含有層と、
前記クロム含有層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成されたノズル板と、
を有する、液体噴射ヘッド。
【請求項1】
シリコン基板の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の主面にマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層をパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板をウエットエッチングするエッチング工程と、
を含み、
前記マスク層は、クロムを含有し、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記マスク層形成工程は、スパッタ法により行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記マスク層は、酸化クロムを主成分とする第1マスク層、およびクロムを主成分とする第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記マスク層は、前記シリコン基板側に前記第1マスク層を有し、前記第1マスク層の前記シリコン基板とは反対側に前記第2マスク層を有する、シリコン基板の加工方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記エッチング工程は、水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により行われる、シリコン基板の加工方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、シリコン基板の加工方法。
【請求項7】
シリコン基板の一方の主面に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の前記シリコン基板とは反対側の面に圧電素子を形成する工程と、
前記シリコン基板の他方の主面をスパッタリングする表面処理工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面に、クロムを含有するマスク層を形成するマスク層形成工程と、
前記マスク層を前記圧電素子に対応させてパターニングしてマスクパターンを形成するパターニング工程と、
前記マスクパターンの形状に従って前記シリコン基板を水酸化カリウムを主成分とするエッチング液により異方性エッチングして、液体の流路を形成するエッチング工程と、
前記シリコン基板の前記他方の主面にノズル板を設ける工程と、
を含み、
前記表面処理工程および前記マスク層形成工程は、同一チャンバー内で行われる、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記表面処理工程の前に、前記シリコン基板の主面をフッ化水素を含む溶液で洗浄する工程をさらに含む、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項9】
液体の流路が形成されたシリコン基板と、
前記シリコン基板の一方の主面に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成された圧電素子と、
前記シリコン基板の他方の主面に形成されたクロム含有層と、
前記クロム含有層の前記シリコン基板とは反対側の面に形成されたノズル板と、
を有する、液体噴射ヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−108705(P2011−108705A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259526(P2009−259526)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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