説明

光位相測定装置、光位相測定方法およびプログラム

【課題】参照光の位相設定精度に限界がある場合でも、測定対象物による位相シフト量を用いた計測する光位相測定装置を提供する。
【解決手段】コヒーレント光源81、光源よりの光波を2分岐する光分岐手段82、光波のうちの参照光波89を周波数ωmで位相変調する位相変調手段83a、分岐された後に被測定対象物85を透過又は反射した信号光波と位相変調された参照光波89とを合成する光合成手段97と、合成された干渉光の強度を測定する光強度測定手段88を有する光干渉計を備えた光位相測定装置で、干渉光の強度を一定の時間に亘って取得し、取得した時系列の強度信号をフーリエ変換し、位相変調の周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分の光強度を演算して、位相変調手段の変調指数mを同定して、該変調指数mに基づいて前記被測定対象物85による信号光波の位相変化量φを算出する演算手段95を備えた光位相測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光応用計測に関し、物体の形状や屈折率分布を計測する光位相シフト干渉計を備えた光位相測定装置、光位相測定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
透明な物体の屈折率分布や物体の3次元形状の計測は、光学や生物科学などの分野で重要である。このような計測には、位相シフト干渉法と呼ばれる計測方法が有力な手段として用いられている。非特許文献1に開示されている位相シフト干渉法は2分岐させた光波に位相シフトを与えたときの干渉縞の強度分布から被検の位相分布を算出する方法であり、可動式のミラーを光軸方向にステップ状に移動させて、光軸の方向の3次元形状や屈折率分布を観測する手法である。
【0003】
図1は非特許文献1に開示されている位相シフト干渉法の概略を示す図である。図1において、レーザ光源1より出力された光波は、第1のハーフミラー2により参照光9および信号光10に2分岐される。参照光9は可動ミラー3aにより反射され、ビームエキスパンダ5によりそのビームサイズが拡大され、第2のハーフミラー7へと伝搬される。一方、信号光10は、ミラー4により反射され、同じく、ビームエキスパンダ6および透明な測定対象物11を経由して第2のハーフミラー7へと伝搬する。参照光9および信号光10は、第2のハーフミラー7により合成され、カメラ8によりその干渉縞が空間的に計測される。ここで、ミラー3aは微小量可動な移動ステージ3b上に設置されており、光波の波長以下の距離精度で矢印12の方向に移動する。
【0004】
図1に示す構成を用いた従来の位相シフト干渉法では、図2を用いて説明される原理に基づいて、測定対象物による位相シフト量を計測する。図2(a)は参照光の位相が時間的に変化する様子を示し、図2(b)は参照光の位相に対する干渉光強度を示したものである。図1の構成において参照光9には一定の速さで移動するミラー3aにより位相シフト21が与えられる。この位相シフト21に応じて、信号光10と参照光9による位相軸方向の干渉縞22は変化する。ここで、本明細書においていう「位相軸方向の干渉縞」とは、参照光の位相シフト量を経時的に変化させて観測したときに発生する信号光10と参照光9による干渉縞22であって、上述したカメラ8上に空間的に観測される干渉縞とは異なる。
【0005】
従来型の位相シフト干渉法では、この干渉縞22の1周期をM分割して、ミラー3aにより位相シフト2π/Mを与え、干渉縞強度をサンプリングする。ミラー3aがm番目の位相(0≦m<M)のとき、干渉縞の強度Imはカメラのピクセル(x、y)について下記(式1)で表せる。
【0006】
【数1】

【0007】
ここでa(x,y)は背景強度分布であり、b(x,y)はコントラストむらであり、ψ(x,y)は求めたい位相分布である。Brunningらによる手法では,これらの縞画像を用いてカメラのピクセル(x、y)ごとに(式2)を計算することで位相分布を求めている。
【0008】
【数2】

【0009】
とくに、M=4(90度シフト)の場合を、4ステップ法とよび、(式3)により位相分布を計測する。
【0010】
【数3】

【0011】
この手法では、干渉光強度の計測は3点のみの計測で十分であり高速な計測が可能である。一方で、高い測定精度を実現するにはM=5〜11として高次の誤差を補償して位相解析を行う方法も提案されている。また、連続的に位相を走査し一定位相走査間の干渉縞強度を積分する方法としてbucket法と呼ばれる手法も用いられる(4区間の場合4−bucket法とよぶ)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. H. Bruning, D. R. Herriott, J. E. Gallagher, D. P. Rosenfeld, A. D. White, and D. J. Brangaccio, "Digital Wavefront Measuring Interferometer for Testing Optical Surfaces and Lenses", Applied Optics Vol.13, No.11, 1974.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の解析方法では、測定対象物による位相変化(位相シフト、位相シフト量ともいう)を求めるために参照光の位相を0πから2πの間で線形に変化させている。特に、位相分割数Mが小さい場合には、参照光の位相設定精度が測定精度に直接影響する。高い精度での位相測定のためには可動ミラーも高い精度で位置決めする必要があるため、圧電効果を用いたピエゾステージなどで可動ミラーを位置決めしていた。しかしながら、ピエゾステージを用いた場合でも環境温度の変動やピエゾ素子のヒステリシスにより、位相設定精度に限界があり、位相の測定精度や再現性に限界があった。
【0014】
図3は従来の4ステップ法を用いた場合の位相シフト干渉計の測定精度を計算したものである。横軸は参照光の位相シフト量、すなわち、位相設定が目標値から何%ずれたかを表しており、縦軸は測定対象物による位相シフト量の推定値の誤差であり、実際の位相シフト量に対して何%誤差があるかを示したものである。計算に当たっては、測定対象物による位相シフト量として0.3πを仮定した。図3から明らかなように、参照光の位相シフト量が5%ある場合には、測定される位相シフト量には10%程度の誤差が含まれることになる。とくに、ピエゾステージを用いた場合にはそのヒステリシスにより数%のステージ移動量の誤差が含まれるため、その影響は無視できないものとなる。
【0015】
本発明の課題は、参照光の位相設定精度に限界がある場合でも、高精度に測定対象物による位相シフト量を用いた計測することができる光位相測定装置を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、コヒーレント光を出力する光源と、前記光源より出力された光波を2分岐する光分岐手段と、前記分岐された光波のうちの一方である参照光波を周波数ωmで位相変調する位相変調手段と、前記分岐された光波のうちの他方であって分岐された後に被測定対象物を透過または反射した信号光波と前記位相変調された参照光波とを合成する光合成手段と、前記合成された結果得られる干渉光の強度を測定する光強度測定手段とを有する光干渉計を備えた光位相測定装置であって、前記干渉光の強度を一定の時間に亘って取得し、前記取得した時系列の強度信号をフーリエ変換して、前記位相変調の周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分の光強度を演算することにより、前記位相変調手段の変調指数mを同定して、該変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出する演算手段をさらに備えたことを特徴とする光位相測定装置である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光位相測定装置であって、測定された前記干渉光の強度のスペクトル成分のうち、前記位相変調周波数ωm、2ωm、3ωmの周波数成分の光強度をそれぞれI1、I2、I3、n次の第一種ベッセル関数Jnをとして
【0018】
【数4】

【0019】
を数値的に求解して、前記変調指数mを求めた後、変調指数mを下記式に代入して
【0020】
【数5】

【0021】
、前記被測定対象物による位相変化量φを求めることを特徴とする。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の光位相測定装置であって、前記コヒーレント光を出力する光源は、その出力光波長が可変な波長可変光源であるとともに、前記波長可変光源の出力光波長を変化させつつ、可変されたおのおのの波長において位相変化量φを算出することを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の発明は、コヒーレント光を出力する光源と、前記光源より出力された光波を2分岐する光分岐手段と、前記分岐された光波のうちの一方である参照光波を周波数ωmで位相変調する位相変調手段と、前記分岐された光波のうちの他方であって分岐された後に被測定対象物を透過または反射した信号光波と前記位相変調された参照光波とを合成する光合成手段と、前記合成された結果得られる干渉光の強度を測定する光強度測定手段とを有する光干渉計を備えた光位相測定装置において被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出する方法であって、前記干渉光の強度を一定の時間に亘って取得するステップと、前記取得した時系列の干渉光の強度をフーリエ変換して、前記位相変調の周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分の光強度を特定するステップと、前記特定した少なくとも2つの成分の光強度に基づいて前記位相変調手段の変調指数mを同定するステップと、前記変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出するステップとを含むことを特徴とする光位相測定方法である。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の光位相測定方法であって、前記特定した少なくとも2つの成分の光強度に基づいて前記位相変調手段の変調指数mを同定するステップは、光強度測定手段で測定された前記干渉光の強度のスペクトル成分のうち、前記位相変調周波数ωm、2ωm、3ωmの周波数成分の光強度をそれぞれI1、I2、I3、n次の第一種ベッセル関数Jnをとして
【0025】
【数6】

【0026】
を数値的に求解して、前記変調指数mを求めることを含み、前記変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出するステップは、前記変調指数mを下記式に代入して
【0027】
【数7】

【0028】
前記被測定対象物による位相変化量φを求めることを特徴とする。
【0029】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の光位相測定方法であって、前記コヒーレント光を出力する光源は、その出力光波長が可変な波長可変光源であるとともに、前記波長可変光源の出力光波長を変化させつつ、可変されたおのおのの波長において位相変化量φを算出することを特徴とする。
【0030】
請求項7に記載の発明は、コンピュータに請求項4から6のいずれかに記載のステップを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、参照光の位相設定精度に限界がある場合でも、高精度に測定対象物による位相シフト量を用いた計測することができ、これにより、例えば物体の3次元構造あるいは光学長の分布を高精度・高速に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の位相シフト干渉法の概略を示す図である。
【図2】(a)は参照光の位相が時間的に変化する様子を示し、(b)は参照光の位相に対する干渉光強度を示したものである。
【図3】従来の4ステップ法を用いた場合の位相シフト干渉計の測定精度を計算結果を示す図である。
【図4】第1の実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。
【図5】第2の実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。
【図6】(a)は、被観測物である石英系光導波路の走査電子顕微鏡による像を示す図であり、(b)は線分Lに沿って表面形状を観測した結果を示す図である。
【図7】第3の実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。
【図8】第4の実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。なお、各実施形態において同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
本発明の光位相測定装置は、コヒーレント光を出力する光源と、光源より出力された光波を2分岐する光分岐手段と、分岐された光波の一方である参照光波を周波数ωmで位相変調する位相変調手段と、分岐された光波の他方であって分岐された後に被測定対象物を透過もしくは反射した信号光波と位相変調された参照光波とを合成する光合成手段と、光合成された干渉光の強度を測定する光強度測定手段とを有する光干渉計を備えている。これらの手段を有する光干渉計は、測定しようとする対象に応じて様々な構成を採用することができる。
【0035】
本発明の光位相測定装置は、上記光干渉計において測定した時系列の強度信号をフーリエ変換して、位相変調周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分についてのスペクトル強度を求めることにより参照光の位相変調指数mを演算して、この参照光の位相変調指数mに基づいて被測定対象物による信号光波の位相変化量φを算出する演算手段をさらに備えている。この構成により、参照光の変調指数mを同定することができるので、測定対象物による位相シフト量も正確に求めることができる。さらに、正確に求められた位相シフト量に基づいて、屈折率分布や物体の3次元形状、光学長などを正確に求めることができる。
【0036】
(第1の実施形態)
本実施形態は、位相シフト干渉法により透明な物体の屈折率分布を計測する態様である。図4は本実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。図4を用いて本実施形態における透明な物体の屈折率分布の計測について説明する。
【0037】
図4の光位相測定装置において、レーザ81からの光波は、ハーフミラー82により参照光89および信号光90に2分岐される。このうち、参照光89は2枚の反射鏡からなるレトロリフレクタ83aにより反射され、さらに反射ミラー84bを経由してハーフミラー97へと伝搬する。一方、信号光90はミラー84aにより反射された後、測定対象物85を経由して、ハーフミラー97へと伝搬する。
【0038】
ここで、レトロリフレクタ83aおよび測定対象物85は、それぞれ可動ステージ83b、96上に固定的に設置されている。圧電効果を用いたピエゾステージなどで構成される可動ステージ83bを矢符92に示す方向に移動させることでレトロリフレクタ83aを参照光89の入射方向に移動させることにより参照光89に位相変調を与えることができる。また、圧電効果を用いたピエゾステージなどで構成される可動ステージ96を矢符98に示す方向に移動させることで測定対象物85を信号光90の光軸と垂直方向に移動させることにより測定対象物85における測定位置を調整することができる。
【0039】
なお、図4に示す光位相測定装置では、レトロリフレクタ83aが2枚で構成されている例が示されているが、図1に示すように、1枚で構成してもよい。レトロリフレクタ83aを1枚で構成する場合、可動ステージ83bの移動方向は図1に示す方向となり、また、反射ミラー84bは不要である。
【0040】
ハーフミラー97により合波された参照光89と信号光90の干渉光は、受光器88によりその強度に比例した電気信号へと変換される。受光器88より出力された電気信号は、カットオフ周波数fの低域通過フィルタ(LPF)93により、不要な高周波成分が除去されたのち、アナログディジタル変換器94によりディジタル信号に変換され、中央演算処理装置(CPU)95へと送られる。CPU95では、観測された電気信号を処理することにより、測定対象物による位相シフトを求める。
【0041】
光位相測定装置は、測定対象物85の測定対象となる部位が信号光90の光軸に一致する位置に固定した状態で、レトロリフレクタ83aの可動ステージ83bを一定の速さで移動させる。可動ステージ83aを一定の速さで移動させることにより参照光89に対して一定の周期ωmで位相変調が与えられるので、このときCPU95で時系列に観測される電気信号を処理して、測定対象物85の測定部位における位相シフトを求める。
【0042】
ここで、CPU95での観測信号から測定対象物の測定部位による位相シフトが得られる原理について説明する。干渉計の参照アームからの参照光89の強度Er、信号アームからの信号光40の強度Esはそれぞれ、(式4)、(式5)で表される。
【0043】
【数8】

【0044】
ここで、Aは参照光および信号光の光振幅である。したがって、受光器にて受信される干渉光の強度は下記の式変形により(式6)と表せる。
【0045】
【数9】

【0046】
(式6)において、Jnはn次の第一種ベッセル関数である。上記(式6)は、位相変調された参照光が搬送波(光周波数)のまわりに測帯波を有し、その測帯波と信号光の干渉により位相変調周波数の周波数間隔で複数のビートが現れることを示している。
【0047】
本発明の位相計測方法では、干渉光の時系列の強度をフーリエ解析することによって、被測定物の測定部位により信号光が受けた位相変化を時系列で観察して、参照光の変調指数mを数値的に求める。すなわち、(式6)で表される干渉光の時系列の強度をフーリエ変換することにより周波数解析し、少なくとも2つのビート周波数成分、たとえば、位相変調周波数ωm、2ωmの成分の強度を比較することで、参照光の変調指数mを同定することができる。従来のMステップ法に代表される位相計測手法では、位相設定値からのずれに起因する位相シフト量の誤差、すなわち変調指数mの変動が問題になっていたが、本発明の手法では変調指数mを同定することができるため、ピエゾ素子のヒステリシスや環境温度変動による参照光の位相設定値の擾乱を除去することが可能になる。
【0048】
具体的には、測定対象物による位相シフトは以下に示す手順で求められる。CPU95は、ADC94から得た干渉光の強度を一定時間に亘って取得する(手順1)。次に、取得した干渉光の時系列の強度をフーリエ変換して周波数解析し、ωm、2ωm、3ωmの成分のスペクトル強度I1、I2、I3を求める(手順2)。
【0049】
次にスペクトル強度I1、I2、I3に基づいて変調指数mを求める(手順3)。ここで(式6)をスペクトル強度I1、I2、I3を用いて整理すると、下記(式7)が得られる。
【0050】
【数10】

【0051】
この(式7)に、光振幅A、測定対象物による位相シフトφ(ω)、を代入することにより参照光の位相変調指数mを求めることができる。すなわち、(式7)よりn次の第一種ベッセル関数をJnとして下記(式8)が得られる。
【0052】
【数11】

【0053】
上記(式8)を数値的に求解して、前記変調指数mを求めることができる。
【0054】
さらに、求めた変調指数mを下記(式9)に代入して、前記被測定対象物による位相変化φを求める(手順4)。
【0055】
【数12】

【0056】
なお、上記演算において光強度(光振幅)Aが既知であれば、上記のように3つの周波数成分についてスペクトル強度を取得する必要はなく、少なくとも2つの周波数成分としてωmおよび2ωmのスペクトル強度のみを取得すれば、変調指数mおよび位相変化φを演算可能であるのは明らかである。
【0057】
ここで、被測定対象物が光軸方向に一定厚みLであるならば、被測定対象物の測定部位による位相変化φ、レーザ81の出力光の光波長λから、被測定対象物の測定部位における屈折率nは(式10)と表れる。
【0058】
【数13】

【0059】
よって本実施形態では、得られた位相変化φおよびレーザ81の出力光の光波長λを(式10)に代入して、被測定対象物の測定部位における屈折率nを求めることができる。 したがって、測定対象物85が固定された可動ステージ96を矢符98に示す方向に移動させて次に測定しようとする測定対象物85の所定位置が信号光90の光軸上に位置させた後に、レトロリフレクタ83aが固定された可動ステージ83bを矢符92に示す方向に一定の周期で移動させて参照光89に位相変化を与えて得られた干渉光の強度に基づいて逐次上述の計測を行う。この処理を測定対象物85の各位置において行うことで、測定対象物85全体の屈折率分布を測定できる。
【0060】
本実施形態の光位相測定装置によれば、変調指数を同定して位相を求めることができるので、透明な物体の屈折率分布を高精度に測定することができる。
【0061】
以上説明した本実施形態の位相シフト干渉法による測定を行う光位相測定装置としては、マッハツェンダ干渉計を用いているが、これに限定されず、マイケルソン干渉計を用いた方法でも同様の計測が可能である。
【0062】
また、コヒーレント光を出力する光源であるレーザ81として、その出力光の波長を可変できる波長可変光源を用いることによって、被測定対象物の分散特性を計測することが可能である。すなわち、一般に被測定対象物の屈折率は波長に対する依存性を有している。したがって、式(10)は
【0063】
【数14】

【0064】
と波長λ依存性を持つ形に書き直すことができる。波長λを変更しつつ、屈折率n(λ)を逐次測定することで、被測定対象物の屈折率の波長依存性を測定することができる。
【0065】
また、被測定対象物として、光ファイバ、ファイバブラッググレーティング、アレイ導波路格子などの光通信用デバイスを測定する場合は、位相の波長依存性φ(λ)を測定した後に、
【0066】
【数15】

【0067】
を計算すれば、その光デバイスの群遅延GDを求めることができ、通信で一般的に用いられる表記で分散特性を記述することができる。ここで、ωは波長λの光波の各周波数である。
【0068】
このような通信用の光デバイスは一般に光ファイバのピッグテールが設置されているが、このピッグテールのうち入力を光ファイバ104へ、出力を光ファイバ106へ接続すればよいことは明らかである。
【0069】
(第2の実施形態)
本実施形態は、位相シフト干渉法により物体の3次元形状を計測する態様である。図5は本実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。図5を用いて本実施形態における物体の3次元形状の計測について説明する。
【0070】
図5において、レーザ光源61から出射された光波はハーフミラー62により参照光63と信号光64に分岐される。参照光63は移動ステージ73上に設置された可動ミラー65にて反射され、再度ハーフミラー62へと伝搬する。一方、信号光64は測定対象物66にて反射され、再度ハーフミラー62へと伝搬する。ここで、信号光64の位相は測定対象物66での反射表面形状を反映する。図6では、信号光は測定対象物66の一点にのみあたるように図示してあるが、測定対象物66を載せた移動ステージ71を信号光64の光軸と直交する方向71aに移動させることで、測定対象物66の3次元形状を計測することが可能である。また、移動ステージ73は、参照光63の光軸方向73aに移動する。
【0071】
ハーフミラー62にて合波された参照光63と信号光64の干渉光強度はディテクタ67にて、その光信号が電気信号に変換されたのち、カットオフ周波数がf1の低域通過フィルタ(LPF)68、変換周波数f2(f1≦2f2)のアナログディジタル変換器(ADC)69を介して、中央演算処理装置(CPU)70へと入力される。CPU70では、第1の実施形態と同様の信号処理手法により、信号光64の位相φが計測される。信号光64の位相φは移動ステージ71を逐次移動することにより、測定対象物66の各点(x,y)に対して計測され、φ(x,y)が得られる。
【0072】
ここで、計測された位相φ(x,y)と測定対象物66の表面形状は、移動ステージ71の初期位置x=0,y=0において測定された位相をφ(0,0)、位置(x,y)において測定された位相のφ(0,0)からの変化をΔφ(x,y))として
【0073】
【数16】

【0074】
より、表面形状L(x,y)が求められる。ただし、λは光源であるレーザ61から出力される光波の真空中での波長である。
【0075】
以上に説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に変調係数mを同定して、同定した変調係数mに基づいて位相φ、表面形状Lを求めることができるので、物体の3次元形状を精度よく計測することができる。
【0076】
また本実施形態でも、コヒーレント光を出力する光源であるレーザ61として、その出力光の波長を可変できる波長可変光源を用いることによって、第1の実施形態と同様に、被測定対象物の分散特性を計測することが可能である。
【0077】
ここで、本実施形態に示す構成において、レーザとして波長1550nmの分布フィードバック半導体レーザ(DFB−LD)を用いて、石英系光導波路の導波路加工直後の断面形状を観測した場合は図6に示す結果が得られる。ここでは、位相変調周波数f(=ω/2π)は10Hz、LPFのカットオフ周波数を100Hz、ADCの変換周波数を250Hzとして計測し、(式6)の周波数解析にあたってのフーリエ変換の積分時間を1sとした。
【0078】
図6(a)は、被観測物である石英系光導波路の走査電子顕微鏡による像であり、図6(b)は矢符Lで示す方向に沿って表面形状を観測した結果である。図6(b)に示されるように、導波路加工後のコアの構造を精度0.1μmにて測定可能である。しかし、表面形状の測定精度は電気信号処理の精度に制限される。すなわち、ここでは位相変調周波数を10Hzと、低周波に設定したため、1/fノイズなどの系の機械的な振動や擾乱により測定精度が制限されている。したがって、以下に説明する第3の実施形態に示すように、導波路型の位相変調器を用いて変調周波数fをより高い周波数に設定し、LPFの積分時間を長く設定すれば、より高精度な3次元形状の測定が可能になる。
【0079】
また、以上説明した本実施形態では、測定対象物上でのビームを絞って、測定対象物を移動させることにより3次元形状を観測する方法を説明したが、以下に説明する第4の実施形態に示すように、測定対象物上にビームを広げて照射して、ラインセンサ、もしくは2次元のカメラを用いて、空間的に並列処理することで3次元形状を測定することも可能である。
【0080】
(第3の実施形態)
この実施形態では、圧電効果を用いたピエゾステージなどで機械的に位相変調を与える以上の実施形態の構成に代えて、導波路型の位相変調器を用いて電気的に位相変調を与える構成を採用している。
【0081】
図7は本実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。位相シフト干渉法により透明な平行平板の光学長(屈折率と物体厚の積)の分布を計測する場合を例に挙げて本実施形態を説明する。なお、本実施形態では、マッハツェンダ干渉計の構成が採用されている。
【0082】
図7において、レーザ光源101からでた光波は、ニオブ酸リチウム(物体の3次元形状を計測する)導波路による位相変調素子102へと入力される。位相変調素子102に導入された光波は、位相変調素子102に内包された光分岐手段102aにより2分岐される。
【0083】
分岐された一方の光波である参照光は、同じく位相変調素子102に内包された光位相変調器102bにより、周波数f、変調度mにて位相変調が与えられる。分岐された他方の光波である信号光は、位相変調素子102から光ファイバ104を経由して、コリメートレンズ105aにより平行光105cに変換される。平行光105cは測定対象物112を透過して、再びコリメートレンズ105bにより集光ビームに変換された後、光ファイバ106へと入力され、光合波器108へと伝搬する。
【0084】
位相変調器102bにより、位相変調を受けた参照光は光ファイバ103を経由して、光合波器108へと伝搬するので、信号光および参照光は光合波器108で合波し、受光器109aにより電気信号へと変換される。
【0085】
受光器109aから出力された光信号はスペクトルアナライザ(RF−SA)109により周波数解析され、その結果が第1の実施形態や第2の実施形態と同様にコンピュータPCにより解析される。ここで、位相変調器102bはRF帯の信号発生器(RF−Gen.)111により正弦波にて、既知の周波数fにて駆動される。
【0086】
ここで、本実施形態では、第1の実施形態および第2の実施形態と異なり、導波路型の位相変調器により参照光を位相変調するため、位相変調周波数をRF領域の周波数に高く設定することができる。さらに、スペクトルアナライザの周波数分解能を粗く設定しても位相変調による高調波を十分識別することが可能になる。これは、第1の実施形態および第2の実施形態においてフーリエ変換の積分時間を短く設定することに相当する。したがって、高速に測定対象物による位相変化を読み出すことが可能になる。
【0087】
一方で、この位相変調周波数を高く設定する場合においては、第2の実施形態に示したような測定系の1/fノイズや擾乱の影響を受けずに高精度な位相測定が可能になる。たとえば、位相変調周波数fを1GHzに設定する場合、RF−SAの周波数分解能を100MHzとして演算処理を行えば、第2の実施形態と同じ測定精度で100万倍の測定速度を実現できる。これは、RF−SAの周波数分解能を100Hzとすれば1000倍の測定精度で、100倍の測定速度を実現できることを意味する。ただし測定精度はスペクトルアナライザの周波数分解能の平方根に比例する。
【0088】
本実施形態によれば、透明な平行平板の光学長(屈折率と物体厚の積)の分布を計測を、より高精度または高速にすることができる。
【0089】
以上説明した本実施形態では、導波路型の位相変調素子102としてニオブ酸リチウム(LN)によるものを例として挙げたが、KTN、PLZT、石英系光導波路によるものなどを用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0090】
(第4の実施形態)
この実施形態では、測定対象物上でのビームを絞って、測定対象物を移動させることにより3次元形状を観測する以上の実施形態の構成に代えて、測定対象物上にビームを広げて照射して、ラインセンサ、もしくは2次元のカメラを用いて、空間的に並列処理する構成を採用している。
【0091】
図8は本実施形態にかかる光位相測定装置の構成の一例を示している。位相シフト干渉法により透明な測定対象物の光学長(屈折率と物体厚の積)の分布を計測する場合を例に挙げて本実施形態を説明する。なお、本実施形態では、マッハツェンダ干渉計の構成が採用されている。
【0092】
レーザ光源121より出力された光波は、コリメータレンズ122によりビーム径wの平行ビームに変換され、ハーフミラー123により参照光125および信号光124に分岐される。参照光125は方向127cに移動する異動ステージ127b上に設置されたレトロリフレクタ127a、およびミラー126bを経由して、ハーフミラー128へと伝搬する。一方、信号光124はミラー126aを経由して、測定対象物130を透過し、ハーフミラー128へと伝搬する。ハーフミラー128で合波された光波は、その有効領域幅がw以上のカメラ129により、強度が観測される。
【0093】
本実施形態によれば、測定対象物にビームを広げて照射し、複数のピクセル構造を有するカメラにより空間的に並列処理して光信号を処理することにより、第1の実施形態および第2の実施形態に示したように測定対象物を移動して逐次測定する手間を省くことができ、測定の高速化が可能になる。
【0094】
以上に説明した実施形態における測定対象物による位相シフトの算出の各手順をコンピュータに実行させるプログラムとして構成することもできる。
【符号の説明】
【0095】
1、81、61、101、121:レーザ光源
2、82:ハーフミラー
9、89、63、103、125:参照光
10、90、64、104、124:信号光
3a:可動ミラー
5、6:ビームエキスパンダ
7、97:ハーフミラー
4、84a:ミラー
11、85、66、112、130:測定対象物
8:カメラ
88:受光器
93:低域通過フィルタ(LPF)
94:アナログディジタル変換器
95:中央演算処理装置(CPU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を出力する光源と、前記光源より出力された光波を2分岐する光分岐手段と、前記分岐された光波のうちの一方である参照光波を周波数ωmで位相変調する位相変調手段と、前記分岐された光波のうちの他方であって分岐された後に被測定対象物を透過または反射した信号光波と前記位相変調された参照光波とを合成する光合成手段と、前記合成された結果得られる干渉光の強度を測定する光強度測定手段とを有する光干渉計を備えた光位相測定装置であって、
前記干渉光の強度を一定の時間に亘って取得し、前記取得した時系列の強度信号をフーリエ変換して、前記位相変調の周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分の光強度を演算することにより、前記位相変調手段の変調指数mを同定して、該変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出する演算手段をさらに備えたことを特徴とする光位相測定装置。
【請求項2】
測定された前記干渉光の強度のスペクトル成分のうち、前記位相変調周波数ωm、2ωm、3ωmの周波数成分の光強度をそれぞれI1、I2、I3、n次の第一種ベッセル関数Jnをとして
【数1】

を数値的に求解して、前記変調指数mを求めた後、変調指数mを下記式に代入して
【数2】

、前記被測定対象物による位相変化量φを求めることを特徴とする請求項1に記載の光位相測定装置。
【請求項3】
前記コヒーレント光を出力する光源は、その出力光波長が可変な波長可変光源であるとともに、前記波長可変光源の出力光波長を変化させつつ、可変されたおのおのの波長において位相変化量φを算出することを特徴とする請求項1または2に記載の光位相測定装置。
【請求項4】
コヒーレント光を出力する光源と、前記光源より出力された光波を2分岐する光分岐手段と、前記分岐された光波のうちの一方である参照光波を周波数ωmで位相変調する位相変調手段と、前記分岐された光波のうちの他方であって分岐された後に被測定対象物を透過または反射した信号光波と前記位相変調された参照光波とを合成する光合成手段と、前記合成された結果得られる干渉光の強度を測定する光強度測定手段とを有する光干渉計を備えた光位相測定装置において被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出する方法であって、
前記干渉光の強度を一定の時間に亘って取得するステップと、
前記取得した時系列の干渉光の強度をフーリエ変換して、前記位相変調の周波数ωmの整数倍の周波数成分のうち少なくとも2つの成分の光強度を特定するステップと、
前記特定した少なくとも2つの成分の光強度に基づいて前記位相変調手段の変調指数mを同定するステップと、
前記変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出するステップとを含むことを特徴とする光位相測定方法。
【請求項5】
前記特定した少なくとも2つの成分の光強度に基づいて前記位相変調手段の変調指数mを同定するステップは、光強度測定手段で測定された前記干渉光の強度のスペクトル成分のうち、前記位相変調周波数ωm、2ωm、3ωmの周波数成分の光強度をそれぞれI1、I2、I3、n次の第一種ベッセル関数Jnをとして
【数3】

を数値的に求解して、前記変調指数mを求めることを含み、
前記変調指数mに基づいて前記被測定対象物による前記信号光波の位相変化量φを算出するステップは、前記変調指数mを下記式に代入して
【数4】

前記被測定対象物による位相変化量φを求めることを特徴とする請求項4に記載の光位相測定方法。
【請求項6】
前記コヒーレント光を出力する光源は、その出力光波長が可変な波長可変光源であるとともに、前記波長可変光源の出力光波長を変化させつつ、可変されたおのおのの波長において位相変化量φを算出することを特徴とする請求項4または5に記載の光位相測定方法。
【請求項7】
コンピュータに請求項4から6のいずれかに記載のステップを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132838(P2012−132838A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286482(P2010−286482)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】