説明

光半導体装置及びその製造方法

【課題】光−電気変換の量子効率が高く、受光素子及び発光素子として、優れた実用性が得られる鉄シリサイド半導体薄膜を有する光半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板1上に、スパッタ法、蒸着法又はレーザアブレーション法により粒径が10乃至100nmの微細多結晶からなる第1のβ−FeSi層2を初期層として形成する。次いで、化学気相成長法又は気相エピタキシ法により初期層の結晶粒の横方向成長を促進しつつ第1のβ−FeSi層2上に粒径が10乃至100μmの第2のβ−FeSi層3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄シリサイド(β−FeSi)半導体薄膜を受光層又は発光層とする光半導体装置に関し、近赤外領域までの受光センサ、太陽電池、特に、光ファイバ通信帯域等に適用することができる光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄シリサイド半導体薄膜は、光が入射したときに、キャリアを発生する受光素子として、また電流を注入したときに光を出射する発光素子として、知られており(特許文献1,2)、太陽電池又は光ファイバ通信帯域に適用可能な発光素子及び受光素子として注目されている。
【0003】
特に、鉄シリサイド半導体は、禁制帯幅が0.78eVと光ファイバ通信帯域の波長帯との整合性が良いため、この光ファイバ通信帯域の受光素子及び発光素子として有望である。また、鉄シリサイド半導体は、光吸収係数が1eVで10cm−1を超え、その波長領域での高感度受光センサ材料であるゲルマニウム(Ge)の10倍以上と極めて大きな光吸収係数を有している。
【0004】
一方,インジウム・ガリウム砒素(InGaAs)化合物を使用した受光センサが一部で実用化されているものの、所謂、シリコン(Si)テクノロジー、即ち、シリコン基板を基本として、その上に層構成を積み上げて半導体装置を製造する技術分野において、インジウム・ガリウム砒素(InGaAs)化合物を使用した受光センサは導入しにくい。
【0005】
しかし、FeSi半導体薄膜は、Si基板上にエピタキシャル成長させることが可能であり、このため、駆動回路等の電子デバイスとの融合性が高く、シリコンテクノロジーの中で、種々のデバイスと組み合わせることが可能である。
【0006】
ところで、半導体薄膜の光−電気変換デバイスへの応用及び半導体薄膜を使用したデバイスの開発に際しては、半導体薄膜に対して電気伝導キャリアを効率よく注入すること、及び半導体薄膜から電気伝導キャリアを効率よく抽出することが、重要であり、この観点にたって、光半導体装置の層構成及び材料を設計することが必要である。
【0007】
化学気相輸送方法で育成したバルク単結晶のβ−FeSi半導体を使用したショットキー接合型の受光センサの分光感度は、1.3μmの波長に対し、0.2A/Wであり、量子効率としては約20%となり、実用レベルに近い量子効率が得られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−47569号公報
【特許文献2】特開2003−86515号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】APL91(2007)142114
【非特許文献2】APL92(2008)192114
【非特許文献3】JJAP39(2000)L1013,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、β−FeSi半導体層を、スパッタ法又は蒸着法等の通常の薄膜形成方法で形成すると、それにより得られた光デバイスの光−電気変換の量子効率は、0.1%以下であり(非特許文献3)、極めて低い量子効率しか得られないという問題点がある。このため、従来のβ−FeSi半導体層は、受光素子及び発光素子としての特性が不十分であった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、光−電気変換の量子効率が高く、受光素子及び発光素子として、優れた実用性が得られる鉄シリサイド半導体薄膜を有する光半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光半導体装置は、基板と、この基板上の全面に形成され粒径が10乃至100nmの微細多結晶からなる第1のβ−FeSi層と、この第1のβ−FeSi層を初期層としてその上に結晶粒の横方向成長を促進することにより形成され粒径が10乃至100μmの粗大多結晶からなる第2のβ−FeSi層と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る光半導体装置の製造方法は、基板上の全面に、スパッタ法、蒸着法又はレーザアブレーション法(以下、PLD法)により粒径が10乃至100nmの微細多結晶からなる第1のβ−FeSi層を初期層として形成する工程と、化学気相成長法(以下、CVD法)又は気相エピタキシ法(以下、VPE法)により前記初期層の結晶粒の横方向成長を促進しつつ前記第1のβ−FeSi層上に粒径が10乃至100μmの第2のβ−FeSi層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、結晶粒径が10乃至100nmの第1のβ−FeSi層を初期層として基板の全面に形成することにより、微細で緻密なβ−FeSi初期層を形成した後、化学気相成長法又は気相エピタキシ法により、この初期層の微細な結晶粒の核を横方向に成長させつつ第2のβ−FeSi層を形成するので、前記初期層の上に、結晶粒径が10乃至100μmの粗大結晶粒の第2のβ−FeSi層を形成することができる。即ち、基板上に直接β−FeSi層を形成する場合は、スパッタ法であっても、CVD法であっても、結晶粒径が小さい微細な多結晶しか得られないが、この微細で緻密な第1のβ−FeSi層上に、第2のβ−FeSi層を、例えば、CVD法又はVPE法により形成すると、この第2のβ−FeSi層は、結晶粒径が10乃至100μmと粗大な結晶粒の多結晶層が得られる。この粗大な結晶粒の多結晶層は、キャリアの伝導を阻害しにくく、キャリア移動度が高く、光−電気変換の量子効率が極めて高くなり、実用上十分な光−電気変換効率の光半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る光半導体装置を示す断面図である。
【図2】同じくその他の使用形態を示す断面図である。
【図3】スパッタ法及びMOCVD法により形成されたβ−FeSi層の粒界組織を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、バルク単結晶のβ−FeSi層を使用したショットキー接合型の受光センサにおいては、前述の如く、波長が1.3μmの光に対し、0.2A/Wの分光感度が得られ、20%の量子効率が得られるのに対し、β−FeSi層多結晶薄膜を使用した光デバイスの光−電気変換の量子効率は0.1%以下と極めて小さいことの原因を究明すべく、種々実験研究を行った結果、薄膜を構成する多結晶層の結晶粒の大きさが100nm乃至1μm程度と小さいことが量子効率が低いことの原因であることを見いだした。即ち、結晶の境界(結晶粒界)には、結晶欠陥が発生し、受光素子の場合には、結晶粒界が光生成キャリアの移動を阻害するとともに、生成したキャリアを消滅させる。また、発光素子の場合には、結晶粒界という結晶欠陥が多数存在すると、電流注入量に対する効率的な発光強度の増加を実現することが困難になる。微細結晶粒の場合には、伝導キャリアの移動方向について、このような結晶粒界が多数出現する。このため、微細結晶粒の場合には、光−電気変換の量子効率が低い。
【0017】
そこで、本願発明者等は、結晶粒径が大きな多結晶膜を形成すべく種々実験研究を行った結果、基板上に直接形成したβ−FeSi層は、その形成手段がどのようなものであっても、大きな結晶粒の多結晶層とはならないが、基板上の全面に、先ず、結晶粒径が10乃至100nmと微細な第1のβ−FeSi層を形成した後、この第1のβ−FeSi層を初期層として、化学気相成長法(CVD法)又は気相エピタキシ法(VPE法)により、第2のβ−FeSi層を形成すると、この第2のβ−FeSi層は、結晶粒径が10乃至100μmの粗大な結晶粒となることを見いだした。この場合に、第2のβ−FeSi層は、第1のβ−FeSi層の結晶粒を核として、この核を横方向(基板の表面に平行の方向)に成長させつつ、堆積されていく。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0018】
以下、本発明の好適実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係る鉄シリサイド半導体薄膜を有する光半導体装置を示す断面図である。基板1上に結晶粒径が10乃至100nmの第1のβ−FeSi層2が形成されており、この第1のβ−FeSi層2の上に、結晶粒径が10乃至100μmの第2のβ−FeSi層が形成されている。そして、第2のβ−FeSi層3上には、保護層又は反射防止膜層となるオーバーレイヤ層4が形成されている。
【0019】
基板1の裏面には、例えば、格子状の電極5が形成されており、保護層又は反射防止膜層(オーバーレイヤ層4)の上には、同様に格子状の電極6が形成されている。そして、オーバーレイヤ層4に対して、格子状の電極6の開口部を介して光が入射し、入射光は、このオーバーレイヤ層4を透過して、第2のβ−FeSi層3に入射する。又は、第2のβ−FeSi層3からの出射光は、オーバーレイヤ層4を透過して、格子状の電極6の開口部を介して外部に放射される。
【0020】
基板1は、シリコン基板、炭化シリコン基板、ガラス基板、又は酸化物基板等を使用することができる。また、これらのシリコン基板、炭化シリコン基板、又は酸化物基板は、その上に、鉄シリサイド半導体薄膜がエピタキシャル成長しやすいが、例えば、ガラス基板等のように、エピタキシャル成長しにくい基板の場合は、基板上に、シリコン、炭化シリコン、又はシリコン・ゲルマニウム層等のように、鉄シリサイド半導体薄膜がエピタキシャル成長しやすい層を形成したものを使用することが好ましい。なお、基板1としては、その上に層がエピタキシャル成長しやすいものに限らず、種々の基板を使用することもできる。炭化シリコン基板は、通常、立方晶又は六方晶の結晶構造を有する。
【0021】
更に、基板1として、シリコンがエピタキシャル成長するSTO(チタン酸ストロンチウム基板)、MgO(マグネシア基板)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア基板)、Al(アルミナ基板又はサファイア基板)、又はガラス基板を使用することができる。これらの基板の上に、10μm以下の厚さを有するシリコン層又はシリコン・ゲルマニウム層をエピタキシャル成長させて、これをバッファ層として使用することもできる。このバッファ層には、基板1の半導体と同一導電型となるように、不純物元素を高濃度にドーピングする。また、基板1が半導体ではない場合は、バッファ層に任意の不純物元素を高濃度にドーピングすることにより、バッファ層を含めた基板1の全体として、所定のn型又はp型の導電性を具備させてもよい。
【0022】
この基板1(以下、バッファ層を設けた場合は、基板1上のバッファ層も含めて基板という)上の全面に、結晶粒径が10乃至100nmの第1のβ−FeSi層2を形成する。先ず、基板1を550℃以上に加熱し、スパッタ法、蒸着法又はレーザアブレーション法(PLD法)等により、鉄単独で、又は鉄とシリコンとを同時に、供給することにより、結晶粒径が10乃至100nmの緻密で、微細な結晶粒で構成される鉄シリサイド半導体層(β−FeSi層)2を初期層として、例えば、90乃至200nmの厚さに形成する。第1のβ−FeSi2層2は、基板1上の全面に形成するので、得られた第1のβ−FeSi層2は、微細結晶粒の緻密な層になる。
【0023】
なお、スパッタ法により第1のβ−FeSi層2を形成する場合は、650乃至750℃、例えば、680℃の温度で、FeとSiとを1:2の割合(原子比)で供給し、堆積速度が0.01乃至1nm/min、例えば0.03nm/minとなるようにすることが好ましい。また、蒸着法又はレーザアブレーション法でも、同様にして、緻密で微細結晶粒の第1のβ−FeSi層2を形成することができる。
【0024】
この第1のβ−FeSi層2は、n型の鉄シリサイド層でのみ構成してもよいし、p型の鉄シリサイド層でのみ構成してもよいし、また、n型とp型の鉄シリサイド層を積層した構造のものでもよい。この第1のβ−FeSi層2の電気伝導型を制御するために、任意の不純物元素をドーピングすることができる。例えば、n型の鉄シリサイド層は、n型不純物として、Co、Ni、Pt、Pd、P、As、Sb等を鉄シリサイド層にドーピングすることにより、形成することができる。また、p型の鉄シリサイド層は、p型不純物として、Mn、Cr、V,Ti、Al、Zn、B、In、Ga、Cu等を鉄シリサイド膜にドーピングすることにより、形成することができる。
【0025】
次に、上述の微細で緻密な第1のβ−FeSi層2上に、結晶粒径が10乃至100μmの第2のβ−FeSi層3を形成する。この第2のβ−FeSi層3は、化学気相成長法(CVD法)又は気相エピタキシ法(VPE法)により成膜する。例えば、CVD法により第2のβ−FeSi層を形成する場合は、600乃至820℃の温度、例えば、750℃にて、FeとSiとを1:2の割合(原子比)で供給し、堆積速度が0.01乃至10nm/min、例えば1nm/minになるようにして、第1のβ−FeSi層2上に第2のβ−FeSi層3をエピタキシャル成長させる。この第2のβ−FeSi層の膜厚は、50乃至500nm、例えば200nmである。この第2のβ−FeSi層3は、結晶粒径が10乃至100μmと大きいので、層内におけるキャリアの移動経路上の結晶粒界の数が少なく、転位等の結晶欠陥の密度が極めて低い。
【0026】
次に、第2のβ−FeSi層3上に、保護層又は反射防止膜層として、半導体又は絶縁体からなるオーバーレイヤ層4を、CVD法、蒸着法、スパッタ法、パルスレーザ・アブレーション法等により形成する。絶縁体としては、SiO又はSiNがあり、このオーバーレイヤ層4の膜厚は100nm以下とすればよい。但し、このオーバーレイヤ層4は形成しなくてもよい。
【0027】
その後、基板1の裏面に例えば格子状の薄膜電極5を形成し、オーバーレイヤ層4の上に例えば格子状の薄膜電極6を形成する。
【0028】
このように構成された光半導体装置において、図1に示すように、オーバーレイヤ層4に対して、格子状の電極6の開口部を介して光が入射すると、結晶粒径が10乃至100μmの粗大結晶粒の第2のβ−FeSi層3に光が入射して、キャリアが生起され、このキャリアは電極5,6間で電流として取り出される。この場合に、第2のβ−FeSi層3の半導体薄膜内の結晶粒界は少ないので、この半導体薄膜内の伝導キャリアの移動度は、バルク単結晶と同一レベル(5〜20cm/Vsec)となる。このため、光生成キャリアの拡散長はバルク単結晶と同一レベルの数10μmとなり、単結晶鉄シリサイドと同一レベルの数10%の光−電気変換効率が得られる。
【0029】
また、電極5,6間に電圧を印加し、第2のβ−FeSi層3内に電流を注入すると、この第2のβ−FeSi層3から発光し、オーバーレイヤ層4から放射光が出射される。このように、光半導体装置が発光素子として機能する場合も、結晶粒の粗大化によって結晶粒界という欠陥の密度が低減されることになり、電流注入量に対して効率的に発光させることができ、発光強度が増加する。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。例えば、図2に示すように、基板1の裏面側を、発光面及び受光面とすることも可能である。同様に、格子状の電極5の開口部を介して光を入射させ、また発光させることができる。
【0031】
以上のように、本発明により、10乃至100μmという粗大な結晶粒の第2のβ−FeSi2層3を形成することができるので、光−電気変換に際し、実用上、十分なレベルの量子効率(変換効率)が得られる。
【実施例1】
【0032】
次に、本発明の実施例について説明する。SiC基板上に、第1のβ−FeSi層2として、RF(高周波)マグネトロン・スパッタ法によりβ−FeSi層薄膜を成長させ、更に、その後、第2のβ−FeSi層3として、有機金属気相成長法(MOCVD法)により、β−FeSi層薄膜を成長させた。RFマグネトロン・スパッタ法では、アルゴンガス雰囲気下で加熱した基板に、鉄とシリコンとが1:2の原子比になるように原料を供給し、2.6mm/minの堆積速度で、β−FeSi層を成膜した。その際、基板温度と堆積量を変化させることにより、SiC基板上に形成されたβ−FeSi半導体層の初期核の大きさ及び核密度を変化させた。
【0033】
MOCVD法では、モノシランと鉄カルボニルを出発原料に使用して、750℃にて成膜速度を1nm/minにして第2のβ−FeSi層を約250nmの厚さに成膜した。
【0034】
RFマグネトロン・スパッタ法による第1のβ−FeSi層と、MOCVD法による第2のβ−FeSi層のいずれも、(100)単一配向したエピタキシャル成長であった。RFマグネトロン・スパッタ法により形成された第1のβ−FeSi層の走査型電子顕微鏡による組織写真を、図3(b)、(c)、(d)に示す。また、その第1のβ−FeSi層の上にMOCVD法により形成された第2のβ−FeSi層の走査型電子顕微鏡による組織写真を、夫々図3(b)´、(c)´、(d)´に示す。図3(a)´は、直接、SiC基板上にMOCVD法によりβ−FeSi層を形成した場合の走査型電子顕微鏡による組織写真である。なお、倍率は、図3(b)、(c)、(d)中に示す線分が200nm、図3(a)´、(b)´、(c)´、(d)´中に示す線分が500nmである。
【0035】
図3(b)、(c)、(d)は夫々基板温度(成膜温度)が750℃、750℃、680℃であり、堆積量(膜厚)が夫々5nm、20nm、100nmである。また、その結晶粒径は、図3(b)が20〜100nm、図3(c)が100〜200nm、図3(d)が10〜30nmであった。そして、図3(a)´に示すように、SiC基板上にMOCVD法で直接β−FeSi層を成長させた場合は、その薄膜は結晶粒径が数100nm(200〜400nm)の微細粒で構成された。これに対し、図1(d)´に示すように、スパッタ法により微細で密度が高い初期核を形成した後、この初期核上にMOCVD法で形成したβ−FeSi薄膜は、10〜30μmの結晶粒径を有していた。
【0036】
これらの第2のβ−FeSi層の伝導キャリアは、いずれもホールであった。しかし、図3(a)´、(b)´、(c)´のβ−FeSi層の移動度は0.1〜0.2cm/V・sであるのに対し、図3(d)´のβ−FeSi層の移動度は、5.5cm/V・sと極めて大きいものであった。これは、図3(d)に示す第1のβ−FeSi層が、結晶粒径が10〜30nmと微細であると共に、基板上の全面に形成されているため、緻密な層であったことにより、その上にMOCVD法により形成された図3(d)´の第2のβ−FeSi層の結晶粒径が10〜30μmと、図3(c)´の第2のβ−FeSi層の粒径100〜600nmに比して著しく大きいものであったためである。なお、図3(b)、(c)に示す第1のβ−FeSi層は基板の全面には形成されていないため、緻密性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、光−電気変換効率が高い受光素子及び発光素子を得ることができ、光ファイバ通信及び太陽電池用の光半導体装置として、極めて有用である。
【符号の説明】
【0038】
1:基板
2:第1のβ−FeSi
3:第2のβ−FeSi
4:オーバーレイヤ層
5,6:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上の全面に形成され粒径が10乃至100nmの微細多結晶からなる第1のβ−FeSi層と、この第1のβ−FeSi層を初期層としてその上に結晶粒の横方向成長を促進することにより形成され粒径が10乃至100μmの粗大多結晶からなる第2のβ−FeSi層と、を有することを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】
基板上の全面に、スパッタ法、蒸着法又はレーザアブレーション法により粒径が10乃至100nmの微細多結晶からなる第1のβ−FeSi層を初期層として形成する工程と、化学気相成長法又は気相エピタキシ法により前記初期層の結晶粒の横方向成長を促進しつつ前記第1のβ−FeSi層上に粒径が10乃至100μmの第2のβ−FeSi層を形成する工程と、を有することを特徴とする光半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−198941(P2011−198941A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62891(P2010−62891)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 応用物理学会、 刊行物名:2010年春季 第57回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、 発行年月日:平成22年3月3日
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】