説明

内燃機関の制御装置

【課題】排気エミッションの悪化を抑制しつつ排気浄化触媒を速やかに暖機することが可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】排気通路4に設けられて通電により昇温可能なEHC10を備えた内燃機関1に適用され、EHC10への通電が行われているときにEHC10に炭化水素が供給されるように内燃機関1の運転状態を制御する制御装置において、EHC10に異常がある場合にはEHC10に異常が無い場合と比較してEHC10への通電が行われているときにEHC10に供給される炭化水素の量が減少するように気筒2a内における燃焼状態が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により昇温可能な排気浄化触媒が排気通路に設けられた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通電により昇温することが可能な排気浄化触媒が排気通路に設けられ、触媒の温度が低い冷間始動時等に触媒を速やかに昇温すべく電源から触媒に電気を供給する内燃機関が知られている。例えば、ヒータと触媒とを有する電気加熱触媒が排気通路に設けられるとともに電圧が異なる2つの電圧系統を有し、高電圧の電圧系統の電源からヒータに電気を供給して触媒を昇温する内燃機関が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−248810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気浄化触媒を昇温する方法として、気筒内における燃料の燃焼状態を変化させて未燃炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を排気浄化触媒に供給し、これらを排気浄化触媒で燃焼させて触媒を昇温する方法が知られている。通電により昇温可能な排気浄化触媒においては通電による昇温方法及び未燃HCやCOの燃焼による昇温方法を併用することにより低温始動時等に迅速に排気浄化触媒を暖機することが可能となる。しかしながら、排気浄化触媒に異常があり通電による昇温が不十分な場合は排気浄化触媒で未燃HCやCOが十分に燃焼せず、排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、排気エミッションの悪化を抑制しつつ排気浄化触媒を速やかに暖機することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の排気通路に設けられて通電により昇温可能な排気浄化触媒と、前記排気浄化触媒への通電及びその停止を制御する加熱制御手段と、前記加熱制御手段が前記排気浄化触媒への通電を行っているときに前記排気浄化触媒に炭化水素が供給されるように前記内燃機関の運転状態を制御する機関制御手段と、を備え、前記機関制御手段は、前記排気浄化触媒の異常の有無を判定する異常判定手段と、前記異常判定手段が前記排気浄化触媒に異常があると判断した場合には前記異常判定手段が前記排気浄化触媒に異常が無いと判断した場合と比較して前記加熱制御手段が前記排気浄化触媒への通電を行っているときに前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量が減少するように前記内燃機関の気筒内における燃焼状態を制御する炭化水素量調整手段と、を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の制御装置によれば、異常判定手段が排気浄化触媒に異常があると判断した場合には異常が無いと判断した場合と比較して排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を減少させるので、排気浄化触媒が通電によって十分に昇温されていない場合でも炭化水素が大気に放出されることを抑制できる。そのため、排気エミッションが悪化することを抑制できる。また、本発明の制御装置によれば、排気浄化触媒への通電が行われているときは排気浄化触媒に炭化水素が供給されるので、通電及び炭化水素の燃焼の両方によって排気浄化触媒を昇温できる。そのため、排気浄化触媒を速やかに暖機することができる。
【0008】
本発明の制御装置の一形態において、前記加熱制御手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記排気浄化触媒への通電を行ってもよい(請求項2)。内燃機関の冷間始動時は、排気浄化触媒の温度も外気温まで低下していると予想される。そのため、このような場合に排気浄化触媒への通電を行うことにより、排気浄化触媒を速やかに暖機できる。また、これにより排気エミッションが悪化することを抑制できる。
【0009】
本発明の制御装置の一形態においては、前記気筒内における燃焼状態を反映して変化する物理量を検出する燃焼状態検出手段をさらに備え、前記炭化水素量調整手段は、前記燃焼状態検出手段の検出結果に基づいて前記気筒内の燃焼状態を制御することにより前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を調整してもよい(請求項3)。このように燃焼状態検出手段の検出結果に基づいて燃焼状態をフィードバック制御することにより、内燃機関の運転状態に与える影響を抑制しつつ燃焼状態を制御することができる。
【0010】
本発明の制御装置の一形態において、前記内燃機関には、吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、前記EGR通路を介して前記排気通路から前記吸気通路に導かれる排気の流量を調整するEGR弁と、が設けられ、前記炭化水素量調整手段は、前記EGR弁の開度を変更して前記気筒内の燃焼状態を制御することにより前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を調整してもよい(請求項4)。排気通路から吸気通路に還流される排気の流量を調整することによって空燃比や筒内の燃焼温度を制御できる。そのため、EGR弁の開度を変更することにより燃焼状態を制御することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、異常判定手段が排気浄化触媒に異常があると判断した場合には異常が無いと判断した場合と比較して排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を減少させるので、排気エミッションが悪化することを抑制できる。また、本発明の制御装置によれば、排気浄化触媒への通電が行われているときは排気浄化触媒に炭化水素が供給されるので、排気浄化触媒を速やかに暖機することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図2】図1の内燃機関の電気系の一部を示す図。
【図3】図1のECUが実行する触媒診断ルーチンを示すフローチャート。
【図4】検出する電圧及び電流を説明するための図。
【図5】図1のECUが実行する触媒暖機ルーチンを示すフローチャート。
【図6】気筒内における燃焼状態と気筒から排気通路に排出される未燃HCの量との関係の一例を示す図。
【図7】クランク軸の角速度の時間変化の一例を示す図。
【図8】本発明の第2の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関を示す図。
【図9】図8のECUが実行する触媒暖機ルーチンを示すフローチャート。
【図10】EHCが正常な場合にECUが実行する触媒暖機ルーチンを示すフローチャート。
【図11】燃焼時に発生するケミカルイオンを説明するための図。
【図12】燃焼時に発生するサーマルイオンを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る制御装置が組み込まれた内燃機関を示している。図1の内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)1は、車両に走行用動力源として搭載されるディーゼルエンジンであり、複数(図1では4つ)の気筒2aを有する機関本体2と、各気筒2aにそれぞれ接続された吸気通路3及び排気通路4とを備えている。吸気通路3には、吸気の流量を調整するためのスロットルバルブ5と、ターボ過給機6のコンプレッサ6aと、吸気を冷却するためのインタークーラ7とが設けられている。排気通路4には、ターボ過給機6のタービン6bと、排気を浄化するための触媒コンバータ8と、排気通路4を閉じる全閉位置と排気通路4を開ける全開位置との間で開度を変更可能な排気遮断弁9とが設けられている。触媒コンバータ8には、排気流れ上流側から順に通電により昇温可能な触媒、すなわちEHC(Electrically Heated Catalyst)10と、排気中の粒子状物質を捕捉するパティキュレートフィルタ11とが設けられている。EHC10は、電流を流すことにより発熱する担体に排気浄化用の触媒が担持されている周知のものである。なお、担体は通電により発熱する材料であればよく金属製でもよいし、セラミック製でもよい。
【0014】
排気通路4と吸気通路3とは、EGR通路12にて接続されている。EGR通路12には、排気通路4から吸気通路3に導かれる排気(以下、EGRガスと称することがある。)を冷却するためのEGRクーラ13及びEGRガスの流量を調整するためのEGR弁14が設けられている。各気筒2aには、気筒2a内に燃料を噴射するためのインジェクタ15がそれぞれ設けられている。各インジェクタ15は、インジェクタ15に供給される高圧の燃料が蓄えられるコモンレール16に接続されている。
【0015】
図2は、エンジン1の電気系の一部を示している。この図に示したようにエンジン1には、オルタネータ17と、低電圧バッテリ18と、低電圧バッテリ18よりも電圧が高い高電圧バッテリ19とを備えている。低電圧バッテリ18の電圧は例えば12Vであり、高電圧バッテリ19の電圧は例えば36Vである。オルタネータ17は、ロータ17aと、ステータ17bとを備えている。ロータ17aは、車両の車輪の回転を伝達可能なようにエンジン1と車輪との間の動力伝達経路中に設けられている回転部材と接続されている。すなわち、オルタネータ17は、回生発電が可能なようにエンジン1に設けられている。この図に示したようにオルタネータ17と各バッテリ18、19とは選択スイッチ20を介して接続されている。選択スイッチ20は、オルタネータ17の接続先を低電圧バッテリ18又は高電圧バッテリ19に選択的に切り替える。これによりオルタネータ17で発生した電気の充電先を切り替えることができる。
【0016】
この図に示したようにEHC10は一対の端子10a、10bを備えている。一方の端子10aは高電圧バッテリ19の正極と接続され、他方の端子10bはスイッチ21を介してアースに接続されている。高電圧バッテリ19の負極もアースに接続されているので、スイッチ21をオンの状態に切り替えるとEHC10への通電が行われ、オフの状態に切り替えるとその通電が停止される。
【0017】
スイッチ21の動作は、エンジンコントロールユニット(以下、ECUと呼ぶ。)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットであり、所定の制御プログラムに従ってスロットルバルブ5、排気遮断弁9、及びインジェクタ15等の動作を制御することにより、エンジン1を目標とする運転状態に制御する。ECU30には、エンジン1の運転状態を判別するためにクランク軸の回転速度に対応した信号を出力するクランク角センサ31、エンジン1の冷却水の温度に対応した信号を出力する水温センサ32、吸入空気量に対応した信号を出力するエアフローメータ33、排気遮断弁9よりも上流の排気の圧力に対応した信号を出力する排気圧センサ34、及びEHC10の温度に対応した信号を出力する床温センサ35等が接続されている。また、ECU30には、EHC10の一対の端子10a、10b間の電圧に対応した信号を出力する電圧センサ36、及びEHC10に供給された電流に対応した信号を出力する電流センサ37も接続されている。この他にもECU30には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0018】
ECU30は、EHC10の暖機が必要な場合にはスイッチ21をオンの状態に切り替えてEHC10に電流を供給するとともにEHC10に未燃HCが供給されるようにエンジン1の運転状態を制御してEHC10の昇温を行う。この際、ECU30はEHC10に異常が有るか否かに応じてEHC10に供給する未燃HCの量を変更する。そこで、まずEHC10の異常の有無を診断する方法について説明する。
【0019】
図3は、ECU30がEHC10に異常が有るか否か診断するために実行する触媒診断ルーチンを示している。このルーチンはエンジン1の運転状態に拘わりなくECU30の動作中は所定の周期で繰り返し実行される。このルーチンを実行することによりECU30が本発明の異常判定手段として機能する。
【0020】
このルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でスイッチ21がオンの状態に切り替えられてEHC10への通電が行われているか否かを判定する。通電されていないと判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、通電中と判断した場合はステップS12に進み、ECU30はEHC10の一対の端子10a、10b間の電圧、EHC10に供給されている電流、及びEHC10の温度を検出する。
【0021】
続くステップS13においてECU30は、検出した電圧及び電流に基づいてEHC10の温度を算出する。図4及び以下の式(1)に示したように通電時にEHC10に対して行われた仕事WEHCは、電流IEHCと電圧VEHCの積を時間積分することにより求めることができる。そして、この式(1)に基づいて求めた式(2)によりEHC10の温度を算出することができる。
【0022】
【数1】

【0023】
なお、式(2)においてmはEHC10の質量(EHC mass)であり、αはEHC10の比熱(EHC specific heat)である。また、a、bは定数(constant)であり、tは時間(time)である。
【0024】
図3に戻って触媒診断ルーチンの説明を続ける。次のステップS14においてECU30は、EHC10の温度変化が正常か否か判定する。EHC10が破損したり焼損したりした場合、一対の端子10a、10b間が短絡したりこれらの端子10a、10b間が電気的に切断されたりしてEHC10の電気抵抗が変化し、EHC10が正常な場合の温度変化とは異なる温度変化を示す。そこで、予め実験等により正常なEHC10に通電したときのEHC10の温度の時間変化を求めてECU30のROMにマップとして記憶させておく。そして、このマップと算出した温度とを比較してそれらの間の差が予め設定した許容範囲より大きい場合にEHC10に異常があると判断する。なお、許容範囲は誤診断を回避可能なように適宜に設定すればよい。
【0025】
EHC10の温度変化に異常があると判断した場合はステップS15に進み、ECU30はEHC10に異常があることを示す異常フラグをオンの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。一方、EHC10の温度変化が正常であると判断した場合はステップS16に進み、ECU30は異常フラグをオフの状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0026】
図5は、ECU30がEHC10を暖機するために実行する触媒暖機ルーチンを示している。この触媒暖機ルーチンは、エンジン1の運転状態に拘わりなくECU30の動作中は所定の周期で繰り返し実行される。また、このルーチンはECU30が実行する他のルーチンと並行に実行される。
【0027】
このルーチンにおいてECU30は、まずステップS21でエンジン1の状態を取得する。エンジン1の状態としては冷却水温及びEHC10の温度等が取得される。次のステップS22においてECU30は、所定の始動条件が成立した否かを判定する。始動条件は、例えばイグニッションスイッチがオンの状態に切り替えられた場合に成立する。また、エンジン1の運転中に所定の停止条件が成立するとエンジン1を停止させる、いわゆるアイドルストップ制御が適用されたエンジンでは、このアイドルストップ制御によってエンジン1を停止させているときに運転者によってアクセルペダル又はシフトギアが操作されるなど所定の再始動条件が成立した場合にも始動条件が成立したと判断してもよい。始動条件が不成立と判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
一方、始動条件が成立したと判断した場合はステップS23に進み、ECU30はエンジン1の温度が所定の判定温度より低い状態での始動、すなわち冷間始動か否か判定する。この判定は、例えばエンジン1の冷却水温に基づいて行えばよい。判定温度は、EHC10の暖機の要否を判定する判定基準として設定され、エンジン1の温度が判定温度以上であればEHC10の暖機が不要と判断可能な値が設定される。冷間始動ではないと判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、冷間始動であると判断した場合はステップS24に進み、ECU30はスイッチ21をオンの状態に切り替えてEHC10への通電を開始する。
【0029】
次のステップS25においてECU30は、異常フラグがオンの状態か否か判定する。異常フラグがオフの状態であると判断した場合はステップS26に進み、ECU30は正常時暖機制御を実行する。この正常時暖機制御では、各気筒2aから排気通路4に未燃HCが供給されるように気筒2a内における燃料の燃焼状態が制御される。具体的には、スロットルバルブ5及び排気遮断弁9の開度をそれぞれ制御し、吸入空気量を減少させて気筒2a内の空燃比をリッチ側に変化させるとともに排気通路4から気筒2a内に逆流する排気の流量を増加させる。図6は、気筒2a内における燃焼状態と気筒2aから排気通路4に排出される未燃HCの量との関係の一例を示している。周知のように燃焼状態が悪化すると図示平均有効圧力(IMEP)の変動率が増加するので、この図の横軸はIMEPの変動率でもある。この図に示したように未燃HCは、スロットルバルブ5及び排気遮断弁9をそれぞれ閉じ側に制御して燃焼状態を悪化させるほど増加する。しかしながら、燃焼状態を過度に悪化させると失火が発生し、エンジン1が停止するおそれがある。そこで、この図において破線L以上で失火が発生する場合には、正常時暖機制御ではIMEP変動率が正常時制御範囲A内になるように燃焼状態を制御する。
【0030】
続くステップS27においてECU30は、気筒2a内における燃料の燃焼状態を検出する。周知のように燃焼状態が変化するとエンジン1の運転状態が変化するので、クランク軸の角速度が変化する。図7は、クランク軸の角速度の時間変化の一例を示している。燃焼状態が良好の場合はエンジン1の運転状態が安定しているので、角速度の変動は小さい。一方、燃焼状態が悪化するに従ってエンジン1の運転状態が不安定になるので、角速度の変動が大きくなる。そのため、例えばこの図に破線で囲んで部分のように角速度がそれまでとは異なる変化を示した回数に基づいて燃焼状態を検出できる。上述したように燃焼状態はIMEPの変動率で示すことができる。そこで、角速度の変化した回数に基づいてIMEPの変動率を算出する。これにより燃焼状態が検出される。なお、角速度の変化した回数とIMEPの変動率との関係については予め実験や数値計算などにより求めてECU30のROMに記憶させておけばよい。このように燃焼状態を検出することにより、クランク軸の角速度が本発明の気筒2a内における燃焼状態を反映して変化する物理量に相当し、クランク角センサ31及びECU30が本発明の燃焼状態検出手段に相当する。
【0031】
次のステップS28においてECU30は、検出した燃焼状態が正常時暖機制御において制御すべき目標燃焼状態か否か判断する。すなわち、IMEPの変動率が図6の正常時制御範囲A内か否か判断する。検出した燃焼状態が目標燃焼状態ではないと判断した場合はステップS26に戻り、検出した燃焼状態が目標燃焼状態になるまでステップS26〜S28を繰り返し実行する。一方、検出した燃焼状態が目標燃焼状態であると判断した場合はステップS29に進み、ECU30はEHC10の暖機が完了したか否か判定する。EHC10の暖機は、例えばEHC10の温度がEHC10の活性温度以上になった場合に完了したと判断される。暖機が未完了と判断した場合はステップS26に戻り、暖機が完了するまでステップS26〜S29を繰り返し実行する。
【0032】
一方、ステップS25において異常フラグがオンの状態であると判断した場合はステップS30に進み、ECU30は異常時暖機制御を実行する。上述したようにEHC10に異常がある場合は通電による昇温が正常に実施されていないおそれがある。そこで、異常時暖機制御では、気筒2a内の燃料の燃焼状態すなわちIMEP変動率が図6の異常時制御範囲B内になるように燃焼状態を制御し、EHC10が正常な場合と比較してEHC10に供給する未燃HCの量を減少させる。燃焼状態の制御は、上述した正常時暖機制御と同様にスロットルバルブ5及び排気遮断弁9の開度に変化させることにより行えばよい。
【0033】
続くステップS31においてECU30は、気筒2a内における燃料の燃焼状態を検出する。この処理では上述したステップS27と同様の処理が行われる。次のステップS32においてECU30は、検出した燃焼状態が異常時暖機制御において制御すべき目標燃焼状態か否か判断する。すなわち、IMEPの変動率が図6の異常時制御範囲B内か否か判断する。検出した燃焼状態が目標燃焼状態ではないと判断した場合はステップS30に戻り、検出した燃焼状態が目標燃焼状態になるまでステップS30〜S32を繰り返し実行する。一方、検出した燃焼状態が目標燃焼状態であると判断した場合はステップS33に進み、ECU30はEHC10の暖機が完了したか否か判定する。この処理では上述したステップS29と同様の処理が行われる。暖機が未完了と判断した場合はステップS30に戻り、暖機が完了するまでステップS30〜S33を繰り返し実行する。
【0034】
ステップS29又はS33で暖機が完了したと判断した場合はステップS34に進み、ECU30は暖機終了制御を実行する。この暖機制御終了制御では、スイッチ21がオフの状態に切り替えられてEHC10への通電が停止される。また、気筒2a内における燃料の燃焼状態が良好になるようにスロットルバルブ5及び排気遮断弁9の開度が調整される。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0035】
以上に説明したように第1の形態に係る制御装置によれば、EHC10が正常な場合はEHC10への通電を行うとともに気筒2a内における燃料の燃焼状態を悪化させて未燃HCをEHC10に供給するので、EHC10を迅速に暖機できる。一方、EHC10に異常がある場合はEHC10が正常な場合と比較してEHC10への通電時にEHC10に供給する未燃HCの量を減少させるので、未燃HCが大気に排出されることを十分に抑制できる。そのため、排気エミッションの悪化を抑制できる。なお、図5のステップS25〜S33を実行することにより、ECU30が本発明の機関制御手段及び炭化水素量調整手段として機能する。また、図5のステップS24及びS34を実行することにより、ECU30が本発明の加熱制御手段として機能する。
【0036】
また、この制御装置では、気筒2a内における燃料の燃焼状態を制御する場合、クランク角の角速度に基づいて燃焼状態を検出し、その検出結果に基づいて燃焼状態をフィードバック制御するので、エンジン1の運転状態に与える影響を抑制しつつ燃焼状態を制御することができる。
【0037】
(第2の形態)
次に図8及び図9を参照して本発明の第2の形態に係る制御装置について説明する。図8は、この形態に係る制御装置が組み込まれたエンジン1を示している。なお、図8において上述した形態と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この図に示したように第2の形態では、排気通路4と吸気通路3とが低圧EGR通路40及び高圧EGR通路41で接続されている点が異なる。低圧EGR通路40は、排気通路4のうち触媒コンバータ8よりも下流の区間と吸気通路3のうちコンプレッサ6aよりも上流の区間とを接続している。高圧EGR通路41は、排気通路4のうちタービン6bよりも上流の区間と吸気通路3のうちインタークーラ7よりも下流の区間とを接続している。低圧EGR通路40には、低圧EGRクーラ42及び低圧EGR弁43が設けられている。高圧EGR通路41には、高圧EGR弁44が設けられている。低圧EGRクーラ42は、上述した形態のEGRクーラ13と同じものである。低圧EGR弁43及び高圧EGR弁44は、上述した形態のEGR弁14と同じものである。
【0038】
また、この形態では触媒コンバータ8に酸化触媒50が設けられている。酸化触媒50は、EHC10とパティキュレートフィルタ11との間に配置されている。触媒コンバータ8には、排気温度に対応した信号を出力する排気温センサ51が設けられている。
【0039】
図9は、この形態においてECU30が実行する触媒暖機ルーチンを示している。この図に示したようにこの形態の触媒暖機ルーチンでは、ステップS26の処理に代えてステップS40の処理が設けられ、ステップS30の処理に代えてステップS41の処理が設けられている点が第1の形態と異なる。それ以外は、第1の形態と同じである。そのため、この図において図5と同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。なお、この形態においても、第1の形態と同様に図3に示した触媒診断ルーチンが所定の周期で繰り返し実行されている。
【0040】
図9に示した触媒暖機ルーチンでは、ステップS25において異常フラグがオフの状態であると判断した場合はステップS40に進み、ECU30は正常時EGR暖機制御を実行する。この正常時EGR暖機制御では、各気筒2aから排気通路4に未燃HCが供給されるように気筒2a内の燃料の燃焼状態が制御されることは同じであるが、この際に低圧EGR弁43の開度を調整して燃焼状態を制御する点が異なる。周知のように燃焼状態はEGRガスの量が多いほど悪化する。そこで、正常時EGR暖機制御では、低圧EGR弁43を開き側に制御して燃焼状態を悪化させ、これにより未燃HCをEHC10に供給する。なお、この正常時EGR暖機制御においてもECU30は、IMEP変動率が図6の正常時制御範囲A内になるように燃焼状態を制御する。その後、ステップS27に進み、以降は図5と同様に処理を進める。
【0041】
一方、ステップS25において異常フラグがオンの状態であると判断した場合はステップS41に進み、ECU30は異常時EGR暖機制御を実行する。この異常時EGR暖機制御では、ECU30は低圧EGR弁43の開度を制御し、これによりIMEP変動率が図6の異常時制御範囲B内になるように燃焼状態を制御する。その後、ステップS31に進み、以降は図5と同様に処理を進める。
【0042】
第2の形態では、低圧EGR弁43の開度を調整し、吸気通路3に還流される排気の量を調整することにより気筒2a内における燃料の燃焼状態を制御する。この場合、第1の形態と比較して制御対象を減らすことができるので、燃焼状態の制御を簡略化することができる。また、この第2の形態においてもEHC10が正常な場合はEHC10への通電を行うとともに気筒2a内における燃料の燃焼状態を悪化させて未燃HCをEHC10に供給するので、EHC10を迅速に暖機できる。一方、EHC10に異常がある場合はEHC10が正常な場合と比較してEHC10に供給する未燃HCの量を減少させる。そのため、排気エミッションの悪化を抑制できる。
【0043】
なお、この形態では、低圧EGR弁43に代えて高圧EGR弁44の開度を調整して気筒2a内における燃料の燃焼状態を制御してもよい。また、低圧EGR弁43及び高圧EGR弁44の両方の開度をそれぞれ制御して燃焼状態を制御してもよい。
【0044】
上述した各形態では、EHC10の異常の有無に応じてEHC10の暖機制御の内容を変更したが、EHC10に異常が無いことが判明している場合にはECU30は図10に示した触媒暖機ルーチンを実行してEHC10の暖機を行ってもよい。なお、図10において図5と同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。また、エンジン1については図1が参照される。
【0045】
図10のルーチンにおいてECU30は、ステップS24まで図5と同様に処理を進める。次のステップS50においてECU30は、気筒2a内における燃料の燃焼状態が図6の正常時制御範囲A内に移行するスロットルバルブ5の開度及び排気遮断弁9の開度をそれぞれ求め、これらの開度を目標開度に設定する。このようなスロットルバルブ5の開度及び排気遮断弁9の開度は、予め実験等により各弁5、9の開度を燃焼状態(IMEPの変動率)との関係を求めてECU30のROMにマップとして記憶させておき、そのマップを参照して求めればよい。
【0046】
次のステップS51においてECU30は、スロットルバルブ5の開度及び排気遮断弁9の開度がそれぞれ目標開度になるようにこれらの弁5、9の動作を制御する。続くステップS27においてECU30は、気筒2a内における燃料の燃焼状態を検出する。次のステップS28においてECU30は、検出した燃焼状態が正常時暖機制御において制御すべき目標燃焼状態か否か判断する。検出した燃焼状態が目標燃焼状態ではないと判断した場合はステップS52に進み、ECU30は燃焼状態が目標燃焼状態になるようにスロットルバルブ5の開度及び排気遮断弁9の開度をそれぞれ補正する。具体的には、検出した燃焼状態が目標燃焼状態よりも悪化していた場合はスロットルバルブ5及び排気遮断弁9をそれぞれ開き側に制御する。一方、検出した燃焼状態が目標燃焼状態よりも良好であった場合はスロットルバルブ5及び排気遮断弁9をそれぞれ閉じ側に制御する。その後、ステップS27に進む。
【0047】
一方、検出した燃焼状態が目標燃焼状態であると判断した場合はステップS29に進み、ECU30は暖機が完了したか否か判断する。暖機が完了していないと判断した場合は暖機が完了するまでステップS29の処理を繰り返す。暖機が完了していると判断した場合はステップS34に進み、ECU30は暖機終了制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0048】
EHC10が正常な場合はこの触媒暖機ルーチンを実行することでEHC10への通電を行うとともに未燃HCをEHC10に供給できる。そのため、EHC10を迅速に暖機できる。
【0049】
なお、図10のルーチンでは、スロットルバルブ5の開度及び排気遮断弁9の開度を制御して燃焼状態を制御したが、上述した第2の形態と同様に低圧EGR弁及び高圧EGR弁の少なくともいずれか一方の開度を制御して燃焼状態を制御してもよい。
【0050】
エンジン1の空燃比やEGRガスの量を変更して燃焼状態を制御する場合、エンジン1の空燃比を過度にリッチにしたり、EGRガスの量を過度に増加させると燃焼状態が不安定になる。そこで、空燃比やEGRガスの量の限界値を予め設定し、その限界値以下の範囲内で空燃比やEGRガスの量を制御して燃焼状態を制御してもよい。この場合、燃焼状態が不安定になりエンジン1が停止することを防止できる。
【0051】
エンジン1に吸気弁及び排気弁の開弁タイミングや開弁期間等の動弁特性を変更可能な可変動弁機構が設けられている場合は、EGR弁やスロットルバルブと可変動弁機構とを併用して燃焼状態を制御してもよい。
【0052】
周知のようにEHC10は経年劣化する。また、EHC10を暖機する際の外気の条件やエンジン1の運転条件は一定ではない。そこで、これらEHC10の劣化状態、外気条件、及びエンジン1の運転条件の変化に対応させるべくEHC10の昇温状態に応じてEHC10の暖機時にEHC10に供給する電力及びEHC10に供給する未燃HCの量を変更してもよい。この場合、EHC10の暖機をより適切に行うことができる。
【0053】
なお、空燃比やEGRガスの量の限界値を予め設定し、その限界値以下の範囲内で空燃比やEGRガスの量を制御して燃焼状態を制御すること、可変動弁機構を併用して燃焼状態を制御すること、及びEHC10の昇温状態に応じてEHC10の暖機時にEHC10に供給する電力及びEHC10に供給する未燃HCの量を変更することは、上述した本発明の第1及び第2の形態に適用してもよい。
【0054】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明の制御装置が適用される内燃機関は、ディーゼル機関に限定されない。気筒内の燃料混合気に点火プラグで点火する火花点火式の内燃機関に適用してもよい。
【0055】
気筒内における燃料の燃焼状態を制御するために変更する制御パラメータは、空燃比やEGRガスの流量に限定されない。燃焼状態に影響を与える種々の制御パラメータを操作して燃焼状態を制御してもよい。例えば、火花点火式の内燃機関では点火時期を変化させて燃焼状態を制御してもよい。また、インジェクタから噴射する燃料噴射量を変更して燃焼状態を制御してもよい。この他、各気筒の吸気弁及び排気弁の開弁タイミング等の動弁特性を可変動弁機構で変化させて燃焼状態を制御してもよい。
【0056】
気筒内における燃料の燃焼状態を検出する方法は、上述したクランク軸の角速度に基づいて検出する方法に限定されない。例えば、気筒2a内の圧力を圧力センサで検出し、筒内圧力の変化に基づいて燃焼状態を検出してもよい。この場合、筒内圧が本発明の気筒内における燃焼状態を反映して変化する物理量に相当し、圧力センサが本発明の燃焼状態検出手段に相当する。また、例えば、図11及び図12に示すように燃料の燃焼時に発生するイオンを検出し、これらイオンの量に基づいて燃焼状態を検出してもよい。図11に示すように燃焼時にはC3H3等のイオンが発生する。これらイオンが点火プラグの電極を通過するとイオン電流が発生する。そこで、燃焼火炎面が点火プラグの電極を通過する際に発生するイオン電流に基づいてイオンの量を検出する。そして、そのイオンの量に基づいて燃焼状態を検出してもよい。また、図12に示すように2000°K以上の燃焼ガス中においてはNが熱解離してNO2+が発生する。そこで、上述した方法と同様にイオンによって発生するイオン電流を検出し、このイオン電流に基づいて燃焼状態を検出してもよい。この場合、各イオンが本発明の気筒内における燃焼状態を反映して変化する物理量に相当し、イオン電流を検出するセンサが本発明の燃焼状態検出手段に相当する。
【符号の説明】
【0057】
1 内燃機関
2a 気筒
4 排気通路
10 EHC(排気浄化触媒)
30 エンジンコントロールユニット(加熱制御手段、機関制御手段、異常判定手段、炭化水素量調整手段、燃焼状態検出手段)
31 クランク角センサ(燃焼状態検出手段)
40 低圧EGR通路
43 低圧EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられて通電により昇温可能な排気浄化触媒と、前記排気浄化触媒への通電及びその停止を制御する加熱制御手段と、前記加熱制御手段が前記排気浄化触媒への通電を行っているときに前記排気浄化触媒に炭化水素が供給されるように前記内燃機関の運転状態を制御する機関制御手段と、を備え、
前記機関制御手段は、前記排気浄化触媒の異常の有無を判定する異常判定手段と、前記異常判定手段が前記排気浄化触媒に異常があると判断した場合には前記異常判定手段が前記排気浄化触媒に異常が無いと判断した場合と比較して前記加熱制御手段が前記排気浄化触媒への通電を行っているときに前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量が減少するように前記内燃機関の気筒内における燃焼状態を制御する炭化水素量調整手段と、を備えている内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記加熱制御手段は、前記内燃機関の冷間始動時に前記排気浄化触媒への通電を行う請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気筒内における燃焼状態を反映して変化する物理量を検出する燃焼状態検出手段をさらに備え、
前記炭化水素量調整手段は、前記燃焼状態検出手段の検出結果に基づいて前記気筒内の燃焼状態を制御することにより前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を調整する請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関には、吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、前記EGR通路を介して前記排気通路から前記吸気通路に導かれる排気の流量を調整するEGR弁と、が設けられ、
前記炭化水素量調整手段は、前記EGR弁の開度を変更して前記気筒内の燃焼状態を制御することにより前記排気浄化触媒に供給される炭化水素の量を調整する請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−202607(P2011−202607A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71557(P2010−71557)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】