説明

化合物半導体装置およびその製造方法

【課題】フェルミ準位ピン止めが低減された化合物半導体を用いたMOS型の化合物半導体装置がより容易に製造できるようにする。
【解決手段】化合物半導体からなる第1半導体層101を形成し、次に、第1半導体層101より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層102を、第1半導体層101の上に接して形成し、次に、第2半導体層102の上にアモルファス状態の金属酸化物からなる絶縁層103を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体を用いたMOS型の化合物半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体では、シリコンに対する二酸化炭素のような良好な酸化物絶縁層を得ることが容易ではない。このため、化合物半導体用いた金属−酸化物−半導体(MOS)構造を形成するために、様々な材料および酸化膜(絶縁層)の形成方法が検討されている。
【0003】
例えば、1990年代後半より、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により、良好な酸化膜が形成可能であることが明らかにされはじめた(非特許文献1参照)。ALD法は、当初はシリコン材料に適用されたが、2000年代からは、化合物半導体にも適用され、ALD法による酸化膜は、よい性能を示すことが判明してきた。特に、これまで問題となっていた酸化膜のリークに関しては、ALD法を用いることで満足できる状態にまで改善できるようになっている。
【0004】
しかしながら、MOS構造においては、フェルミ準位ピン止め(Fermi Level Pinning)により、ゲート電極に印加したゲート電圧が、有効に化合物半導体中のキャリア濃度を可変することができない現象が観測されている(非特許文献2参照)。このフェルミ準位ピン止めとは、化合物半導体中または化合物半導体と酸化物との界面において存在する電荷捕捉準位が多いと、加えた電圧が、この準位に電荷を埋めていくために半導体自体のキャリア濃度には作用を及ぼさないことを指している。
【0005】
シリコンにおいても同様な電荷捕捉準位は存在するが、シリコンにおける電荷捕捉準位の密度は3×1011/cm2eV程度であり、III−V族化合物半導体よりも2桁以上小さいためにそれほど大きな問題とならない。しかしながら、化合物半導体では、数ボルトの電圧に対しても無反応となる場合がある。このため、リークを抑えることができても、かなり大きな電圧を加えないと化合物半導体中のキャリア濃度を変調することができず、シリコン素子に比べてゲート変調特性が著しく劣っていた。
【0006】
このようなフェルミ準位ピン止めを低減するためには、酸化膜と化合物半導体表面との間の界面準位の発生を抑える事が重要となる。このために、酸化膜形成の前に化合物半導体表面を清浄化する手段が検討されている。この清浄化の方法としては、大きく分けて3つある。
【0007】
第1は、化合物半導体表面に清浄面が出ている状態で、酸化膜を成長する方法である。ただし、この方法でも、必ずしも界面準位が低減されないという報告もある。酸化膜成長前に、塩酸(HCl)や水酸化アンモニウム(NH4OH)により化合物半導体の表面酸化膜を除去する方法も、この方法の1つである(非特許文献3参照)。
【0008】
第2は、化合物半導体表面と酸化膜との界面に、バッファ層を設ける方法である(非特許文献4参照)。バッファ層としては、数原子層程度のシリコンや、アルミニウムおよびチタンなどの金属膜が用いられている(非特許文献2参照)。
【0009】
第3は、化合物半導体表面に保護膜を設けておき、酸化膜の成長直前にこの保護膜を取り除くというものである。保護膜を形成する方法としては、硫化アンモニウム((NH42x)や硫化ナトリウム(Na2S)などの硫黄化合物で、表面に形成されている酸化膜を硫化膜に置換する方法が有効であることが示されている(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R.L.Puurunen, "Surface chemistry of atomic layer deposition: A case study for the trimethylalu- minum/water process", J.Appl.Phys. , vol.97, no.12, 121301, 2005.
【非特許文献2】長谷川 英機,「化合物半導体界面におけるバンドアラインメントとフェルミ準位ピンニング」,表面科学,Vol.29, No.2, pp.76-83, 2008.
【非特許文献3】Y.Xuan et al. , "Simplified Surface Preparation for GaAs Passivation Using Atomic Layer-Deposited High-κ Dielectrics", IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, vol.54, no.8, pp.1811-1817 ,2007.
【非特許文献4】H.Hasegawa, "MBE growth and applications of silicon interface control layers", Thin Solid Films, vol.367,pp.58-67, 2000.
【非特許文献5】Y.Nannichi et al. , "A Model to Explain the Effective Passivation of the GaAs Surface by (NH4)2Sx Treatment", JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,vol.27, no.12, pp. L2367-L2369, 1988.
【非特許文献6】R.People and J.C.Bean, "Calculation of critical layer thickness versus lattice mismatch for GexSi1-x/Si strained-layer heterostructures",Appl. Phys. Lett. , vol.47, no.3, pp.322-324, 1985.
【非特許文献7】G. Brammertz et al. , "Capacitance-Voltage Characterization of GaAs-Oxide Interfaces", J.Electrochem.Soc. , vol.155, no.12, pp.H945-H950, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した技術では、次に示すような問題がある。
【0012】
まず、第1の清浄表面の維持では、化合物半導体層表面の清浄な状態を維持して酸化膜を形成することが重要であるため、例えば、清浄な表面を形成した後は、大気に曝すことなく酸化膜を形成する必要がある。このように大気に曝すことなく酸化膜を形成するためには、化合物半導体層を形成した装置から、高真空状態を維持した状態で、酸化膜を形成する装置に基板を搬送することになる。化合物半導体層を形成する装置と酸化膜を形成する装置とは、供給する原料や成膜機構が異なるため、同一の装置で両者を形成することができないためである。しかしながら、これらの装置の間を高真空状態を維持した状態で基板を搬送するためには、非常に大がかりな装置が必要となる。
【0013】
次に、第2のバッファ層形成技術では、バッファ層の形成時点では、化合物半導体層表面が清浄であることが重要である点には変わりはないため、上述同様に、非常に大がかりな装置が必要となるなどの問題がある。
【0014】
次に、第3の保護膜を利用する技術では、n型のGaAsの場合にはあまり効果がないなど、必ずしもすべての化合物半導体に対して有効でないという問題がある。また、この技術では、溶液中に試料を浸すなどの手作業が入るために条件のばらつきが大きく再現性が一貫していないなどの問題もある。
【0015】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、フェルミ準位ピン止めが低減された化合物半導体を用いたMOS型の化合物半導体装置がより容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る化合物半導体装置の製造方法は、化合物半導体からなる第1半導体層を形成する第1工程と、第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層を、第1半導体層の上に接して形成する第2工程と、第2半導体層の上に金属酸化物からなる絶縁層を形成する第3工程と、絶縁層の上に電極を形成する第4工程とを少なくとも備える。
【0017】
上記化合物半導体装置の製造方法において、第1半導体層を形成した後、外気に晒すことなく第2半導体層を形成すればよい。これは、第1半導体層および第2半導体層は、同一の成膜装置で形成することで実現できる。
【0018】
上記化合物半導体装置の製造方法において、絶縁層は、アモルファス状態の金属酸化物から構成するとよい。また、絶縁層は、原子層堆積法により形成すればよい。
【0019】
また、本発明に係る化合物半導体装置は、化合物半導体からなる第1半導体層と、第1半導体層の上に接して形成された第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる第2半導体層と、第2半導体層の上に形成された金属酸化物からなる絶縁層と、絶縁層の上に形成された電極とを少なくとも備え、第2半導体層は、臨界膜厚以下とされている。
【0020】
上記化合物半導体装置において、絶縁層は、アモルファス状態であるとよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、化合物半導体からなる第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層を、第1半導体層の上に接して形成するようにしたので、フェルミ準位ピン止めが低減された化合物半導体を用いたMOS型の化合物半導体装置が、より容易に製造できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態における化合物半導体装置の製造方法を説明するための、各工程における化合物半導体装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態における化合物半導体装置の製造方法を説明するための、各工程における化合物半導体装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態における化合物半導体装置の製造方法を説明するための、各工程における化合物半導体装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態における化合物半導体装置の製造方法を説明するための、各工程における化合物半導体装置の状態を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、n型GaAs基板を用いて実際に作製した金属−酸化物−半導体(MOS)キャパシタの構成を示す断面図である。
【図3A】図3Aは、第2半導体層202を形成せずに、n型GaAs基板にAl23からなる絶縁層を形成したMOSキャパシタ(比較試料)のC−V特性を示す特性図である。
【図3B】図3Bは、GaSbからなる膜厚1nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタのC−V特性を示す特性図である。
【図3C】図3Cは、GaSbからなる膜厚3nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタのC−V特性を示す特性図である。
【図4A】図4Aは、第2半導体層202がない場合の比較試料の界面準位密度(Dit)の電圧依存性を示す特性図である。
【図4B】図4Bは、GaSbからなる膜厚1nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタの界面準位密度(Dit)の電圧依存性を示す特性図である。
【図4C】図4Cは、GaSbからなる膜厚3nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタの界面準位密度(Dit)の電圧依存性を示す特性図である。
【図5A】図5Aは、第2半導体層を用いていない比較試料のヒステリシスを示す特性図である。
【図5B】図5Bは、第2半導体層202を膜厚1nmとした試料のヒステリシスを示す特性図である。
【図5C】図5Cは、第2半導体層202を膜厚3nmとした試料のヒステリシスを示す特性図である。
【図6A】図6Aは、本発明の実施の形態における他の化合物半導体装置の構成例を示す一部断面図である。
【図6B】図6Bは、本発明の実施の形態における他の化合物半導体装置の構成例を示す一部断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例1における化合物半導体装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、実施例1の化合物半導体装置の電流−電圧特性を示す特性図である。
【図9】図9は、本発明の実施例2における化合物半導体装置の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1A〜図1Dは、本発明の実施の形態における化合物半導体装置の製造方法を説明するための、各工程における化合物半導体装置の状態を模式的に示す断面図である。
【0024】
まず、図1Aに示すように、化合物半導体からなる第1半導体層101を形成する(第1工程)。次に、図1Bに示すように、第1半導体層101より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層102を、第1半導体層101の上に接して形成する(第2工程)。ここで、「接して形成する」は、自然酸化膜などの汚染による他の層を介することなく、第1半導体層101の表面に、直接、第2半導体層102を形成する状態を示していることは、いうまでもない。
【0025】
次に、図1Cに示すように、第2半導体層102の上にアモルファス状態の金属酸化物からなる絶縁層103を形成する(第3工程)。この後、図1Dに示すように、絶縁層103の上に電極104を形成する(第4工程)。
【0026】
上述した本実施の形態における製造方法によれば、第2半導体層102を第1半導体層101に接して形成するので、第1半導体層101の表面が汚染されてこの表面に自然酸化膜が形成されるなどのことが抑制されるようになる。この結果、本実施の形態によれば、後述するように、フェルミ準位ピン止めを低減することができる。
【0027】
また、第2半導体層102を化合物半導体から構成したので、第2半導体層102を第1半導体層101の接した状態に形成することが容易となる。このように、接した状態の形成は、例えば、第1半導体層101を形成した後、外気に晒すことなく第2半導体層102を形成することで実現できる。これは、同一の成膜装置で形成すればよい。本実施の形態によれば、第2半導体層102は、第1半導体層101と同様に化合物半導体から構成しているので、例えば、同一の製造装置を用いて形成することが可能になる。よく知られているように、化合物半導体は、組成が異なる複数種類の層を同一の装置で形成することが可能である。このため、大がかりな装置を用いることなく、第1半導体層101を形成した後で、外気に晒すことなく第2半導体層102を形成することが容易に可能となる。
【0028】
また、絶縁層103は、アモルファス状態の金属酸化物から構成されているとよい。アモルファス状態とすることで、多結晶状態や結晶状態に比較して、絶縁層103におけるリーク電流の問題や捕獲準位(界面準位)などの問題を抑制できるようになる。アモルファス状態の金属酸化物からなる絶縁層103は、例えば、原子層堆積(ALD)法により形成すればよい。原子層堆積法によれば、原子層(分子層)レベルの膜厚制御で、アモルファス状態の金属酸化物からなる絶縁層103が形成できる。
【0029】
ここで、ALD法について説明する。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料を基板に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する技術である。原子層堆積法では、例えば、各元素の原料を供給している間に1層だけが表面に吸着し、成長の自己停止作用により、余分な原料が成長に寄与しないことを利用している。
【0030】
金属酸化物のALD法による形成では、有機金属原料(プリカーサ)として、トリメチルアルミニウム(TMA)やトリエチルアルミニウム(TEA)などの金属アルミニウムを含む原料や、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム(TEMAH)などの金属ハフニウムを含む原料を用いている。また、酸化物とするための酸素の原料(酸化剤)としては、水(H2O)を用いている。
【0031】
これらの材料を用いたALD法による金属酸化物薄膜の形成では、窒素ないしはアルゴンなどの希ガスを用いたキャリアガスにより各原料を輸送し、パルス状に交互にチャンバーに供給し、1原子層ずつ成長させる。1原子層ずつ成長する条件として、一般的にはチャンバー温度が80℃から350℃程度までとすると、形成される酸化膜の結晶性はアモルファスとなる。
【0032】
次に、第2半導体層102について、より詳細に説明する。第2半導体層102は、まず、臨界膜厚以下に形成することが重要である。ここで、第2半導体層102は、必ずしも第1半導体層101と格子整合が取れなくとも良い。臨界膜厚とは、第2半導体層102が、第1半導体層101の上に均一に平面的に成長できる最大の膜厚を指す。臨界膜厚を超えて形成した化合物半導体の層には、欠陥が入り結晶中の平面内で均一でなくなる。これに対し、臨界膜厚以下の第2半導体層102では、欠陥がなく均一な薄膜である。
【0033】
臨界膜厚は、下地の材料および成長する材料に依存しており、「People」および「Bean」の式を用いて計算することが可能である(非特許文献6参照)。例えば、第1半導体層101をGaAs基板とし、第2半導体層102をGaSbから構成した場合、第2半導体層102は、5nm以下とすればよい。第2半導体層102として他の材料を用いた場合も同程度である。
【0034】
具体例として、n型GaAs基板を用いて実際に作製した金属−酸化物−半導体(MOS)キャパシタの評価を示す。
【0035】
まず、図2に示すように、n型のGaAsからなる基板(第1半導体層)201の表面に、GaSbからなる第2半導体層202を形成する。第1半導体層201および第2半導体層202は、分子線エピタキシー(MBE)法で形成した。第2半導体層202の形成は、基板201を成長した装置内で、基板201を形成した後で連続的に行う。これにより、基板201の表面に、汚染による自然酸化膜などを介することなく、接した状態で第2半導体層202が形成できる。また、第2半導体層202は、膜厚1nmから3nmの範囲で成長させた。
【0036】
第2半導体層202を形成した後、ALD法により成長させたAl23からなる絶縁層203を形成する。ここで、絶縁層203の形成時点では、第2半導体層202が形成されているので、第1半導体層201の表面は、第2半導体層202で保護された状態となっている。従って、第2半導体層202を形成した後、第2半導体層202までを形成した装置より基板201を搬出し、これとは異なる装置で絶縁層203を形成しても、第1半導体層201の表面が汚染されるなどの特性劣化が抑制できる。このために、成長装置の簡便化、コストの削減を図り、かつ信頼性のある素子作製が可能となる。
【0037】
次に、絶縁層203の上に電極204を形成する。電極204は、絶縁層203側のTi層とこの上に形成したAu層との2層構造としている。これらの金属の層は、蒸着および電子線蒸着により形成した。Ti層を介在させることで、Au層の密着性が向上する。また、MOSキャパシタにするために、基板201の裏面に、AuGeNi合金からなる裏面電極205を、蒸着により形成した。
【0038】
第2半導体層202に対するRHEEDを用いた測定では、膜厚1nmから3nmにおいて、ストリークまたはスポット状であることが確認されている。この測定結果より、得られた第2半導体層202は、単結晶成長に近い状態が実現できているか、多少の多結晶が含まれていることがわかる。
【0039】
図3Aは、第2半導体層202を形成せずに、n型GaAs基板にAl23からなる絶縁層を形成したMOSキャパシタの容量−電圧(C−V)特性を示す特性図である。この測定は、室温(300K)で行い、周波数を10kHzから1MHzまで可変した特性を示している。なお、この比較試料においても、絶縁層はALD法で形成している。また、絶縁層は、ALDのサイクルを150回繰り返して形成しており、膜厚15nm程度である。このC−V特性は、III−V族化合物半導体によるMOSキャパシタで観測される典型的なものである。
【0040】
図3Bは、GaSbからなる膜厚1nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタのC−V特性を示す特性図である。上述した比較試料の場合と同様に、絶縁層203は膜厚15nm程度であり、測定温度は300Kである。この測定結果では、低周波において負の電圧側にキャパシタンス容量の大きな領域が存在する。これは、理想的な低周波でのC−V特性に見られる反転層、すなわち少数キャリアの誘起による現象と考えられ、第2半導体層202を設けたことにより、理想的なC−V特性が得られていることが示されている。
【0041】
このような反転層の挙動は、理想的なMOSキャパシタの振る舞いであるが、例えば荒れた界面を持つSi/SiO2の場合でも観測されており、第2半導体層202自体の欠陥、または界面の問題の可能性がある。このため、低温での測定も行い、これらの比較から、負電圧領域で見られる容量の増加が第2半導体層202自体の荒れた界面の影響ではないことを確認した。
【0042】
同様に3nmの第2半導体層202を備えるMOSキャパシタのC−V特性を図3Cに示す。同じように低周波数領域において負電圧側に反転層が見られる。この結果からも、反転層の存在は、第2半導体層202の存在によるものと考えられる。
【0043】
次に、上述した3例でのG−V特性について説明する。G−V特性結果より界面準位密度(Dit)を見積もることができる(非特許文献7参照)。
【0044】
まず、図4Aは、第2半導体層202がない場合の比較試料の界面準位密度を示す特性図である。図4Aにおいて、白丸は、300Kの場合の界面準位密度の変化を示し、白三角は、250Kの場合の界面準位密度の変化を示し、白四角は、200Kの場合の界面準位密度の変化を示している。室温(300K)において、電圧が−1V(Vg=−1V)付近では、6×1011/cm2eVとなっている。これは、ALD法を用いずに絶縁層を形成した従来の場合に比較して、界面準位密度(Dit)が2桁程度低減している。この値はこれまでの報告されている最低値に匹敵するものである。しかしながら、比較試料では、印加する電圧が0より離れるに従い、界面準位密度が増加している。室温の条件では、特に顕著であり、−2Vから−4Vにかけては急激に増加している。このような増加は、電圧を加えても電圧印加による電界の効果が発現されていないことを示している。
【0045】
これに対し、第2半導体層202を設けると、図4Bおよび図4Cに示すように、界面準位密度の増加が抑制されている。まず、図4Bは、第2半導体層202を膜厚1nmとした場合の結果を示している。上述した比較試料の場合と比較し、電圧を加えない状態での界面準位密度は大きい。しかしながら、図4Bに示す結果では、電圧を加えた状態での界面準位密度の変化が緩やかであることが分かる。特に、低い温度条件でこの効果が明らかとなっている。また、図4Cは、第2半導体層202を膜厚3nmとした場合を示しているが、この場合においても、電圧の高い領域での増加があまり大きくない。
【0046】
以上の結果より、基板201にGaSb第2半導体層202を接触して設けることで、印加される電圧によるMOS界面制御特性が大きく改善されることが分かる。このように、第2半導体層202を設けることで、印加される電圧変化に対しても界面準位密度の増加が抑制されるので、MOSFET構造ではゲート電圧に追随してキャリア濃度を変えられることになるものと推測される。
【0047】
次に、第2半導体層の効果について考察する。図4Aと図4Bとの比較でも分かるように、第2半導体層を設けると、電圧を印加していない状態における界面準位は、増加につながっている。別に行ったX線光電子分光(XPS)の結果では、GaAs基板に対してGaSb層を設けたGaSb/GaAs界面、および、設けていないAl23/GaAsの界面とを比較すると、界面準位密度は同程度であることが判明している。このため、第2半導体層を設けた方が界面準位密度が大きいというG−V特性の測定結果は、Al23/GaSb界面もしくはGaSb中の不純物準位によるものと考えられる。この点では、第2半導体層があることは欠点となる。
【0048】
ここで、第2半導体層(GaSb層)を設けていない場合は、n型のGaAsからなる基板(第1半導体層)では、電圧を加えて行くに従い深い界面準位の影響が顕著となる。これに対し、第2半導体層を直接接して設けると、準位密度が同程度であっても、この場合はバンドギャップエネルギーが小さいため、準位は浅いものとなり、電圧を加えていっても、測定される準位密度があまり増加しないものと考えられる。
【0049】
また、例えば、同じ装置内で連続して第1半導体層および第2半導体層を形成するなど、第2半導体層が第1半導体層の上に接して形成しても、これらの界面に、準位が存在する場合がある。このように、第1半導体層の界面(表面)に深い準位密度が残存していたとしても、これは少ないものと考えられる。このために、非常に早い緩和時間で準位が埋まり、結果として、影響が出てこないとも考えられる。
【0050】
これらのことは、第2半導体層のバンドギャップエネルギーが、第1半導体層のバンドギャップエネルギーより小さくしているためと考えられる。
【0051】
次に、実際に作製したMOSキャパシタのヒステリシスについて説明する。電極に印加する電圧を負から正の値に掃引し、正から負の値に印加電圧を戻してくると、界面準位などの影響がある場合は、同じ値を取らずにヒステリシスが発生する。従って、ヒステリシスの状態により、界面準位による影響が把握できる。
【0052】
測定では、まず、電極に印加する電圧を負から正の値に掃引し、次に、正から負の値に印加電圧を戻す電圧値を−3V,−2V,−1V,および0Vと変えている。また、図5Aは、第2半導体層を用いていない比較試料の結果であり、図5Bは、第2半導体層202を膜厚1nmとした試料の結果であり、図5Cは、第2半導体層202を膜厚3nmとした試料の結果である。これらの結果から明らか内容に、第2半導体層を用いることで、ヒステリシスが小さくなることがわかる。この中では、第2半導体層202を膜厚3nmとした試料のヒステリシスが最も小さい。
【0053】
このように、第2半導体層を設けることでヒステリシスが小さくなることより、界面準位の影響が減少することがわかる。前述したように、第2半導体層を設けることで、界面準位はやや増加する傾向にあるが、これらのほとんどは電圧掃引に追従するため、実際の素子で問題となるヒステリシスには寄与しないものと考えられる。
【0054】
以上のことより明らかなように、まず、化合物半導体からなる第1半導体層の上に、第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層を接して形成し、第2半導体層の上に金属酸化物からなる絶縁層および電極を順次積層した構成とすることで、電極に電圧を印加しても、界面準位に電荷が捕捉されることが抑制されるようになる。この結果、第2半導体層より下部の第1半導体層の表面近傍のキャリア、または第1半導体層中の二次元電子ガスの濃度を、電極に対する電圧印加により制御性良く可変することが可能となる。また、絶縁層を、例えば、ALD法で形成するなど、アモルファス状態としておくことで、絶縁層との界面準位密度の低減が図れ、より好適である。
【0055】
次に、第1半導体層および第2半導体層を構成する材料について説明する。例えば、第1半導体層を、n型GaAs、p型GaAs、ノンドープGaAsとした場合、第2半導体層は、GaSb,InAs,InSb,InN,Geなどの材料から構成すればよい。GaSb,InAs,InSb,InN,Geは、GaAsよりもバンドギャップエネルギーが小さい材料である。
【0056】
また、第1半導体層を、InxAl1-xAs(0≦x≦1)とした場合も、第2半導体層は、GaSb,InAs,InSb,InN,Geなどの材料から構成すればよい。また、第1半導体層を、n型InGaAs、p型InGaAs、ノンドープInGaAsとした場合も、第2半導体層は、GaSb,InAs,InSb,InN,Geなどの材料から構成すればよい。
【0057】
また、第1半導体層は、III−V族窒化半導体化合物であるAlN,GaN,AlGaNから構成してもよい。この場合、第2半導体層は、GaSb,InAs,InSb,Geなどの材料から構成すればよい。
【0058】
また、第1半導体層は、II−VI族化合物半導体であるZnS,ZnO,CdS,ZnSe,CdSe,ZnTe,CdTeから構成してもよい。この場合には、第2半導体層は、GaSb,InAs,InSb,InN,Geなどの材料から構成すればよい。
【0059】
いずれにしても、第1半導体層と第2半導体層との間のバンドギャップエネルギー差が大きいほど、電圧を印加した場合の準位密度の増加抑制効果が、より顕著に得られるようになるものと考えられる。
【0060】
次に、絶縁層の構成例について説明する。絶縁層は、金属酸化物から構成されていればよく、例えば、Al23またはHfO2を用いればよい。また、これらの材料を、ALD法により堆積して形成すればよい。ALD法により形成する場合、複数の原子層から構成すればよい。また、絶縁層は、図6Aに示すように、Al23層603aとHfO2層603bとの2層構造としてもよい。また、図6Bに示すように、Al23層603aおよびHfO2層603bを複数積層した構造の絶縁層603としてもよい。ここで、ALD法により形成される金属酸化物の特徴は、アモルファス状態である点である。これは、リーク電流の低減並びに電圧によるキャリア濃度の制御に本質的な働きをしていると考えられる。
【0061】
次に、実施例を用いて化合物半導体装置の構成例について説明する。
【0062】
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。実施例1では、HEMT構造の化合物半導体装置について図7を用いて説明する。図7は、実施例1における化合物半導体装置の構成を模式的に示す断面図であり、HEMT素子である。
【0063】
この化合物半導体装置は、半絶縁性のGaAsからなる基板701の上に、膜厚200nmのGaAs層702,膜厚3nmのGaAs層と膜厚3nmのAl0.35Ga0.65As層とを20組積層した超格子層703、膜厚1000nmのGaAs層704,膜厚10nmのAl0.35Ga0.65As層705,膜厚0.283nmのGaAs層706,膜厚80nmのシリコンをドープしたAl0.35Ga0.65As層707を備えている。
【0064】
また、膜厚5nmのGaAs層(第1半導体層)708,膜厚1nmのGaSb層(第2半導体層)709,およびALD法により形成したAl23からなる絶縁層710を備えている。また、絶縁層710の上に、GaAs層708とオーミックコンタクトするソース電極711,ドレイン電極712を備える。また、ソース電極711およびドレイン電極712の間の絶縁層710の上に、ゲート電極713を備える。GaSb層709までの各化合物半導体層は、例えば、MBE法による同一装置内で、連続的に成長することで形成している。
【0065】
この化合物半導体装置(HEMT素子)の電流−電圧特性を測定すると、図8に示すように、ゲート電圧が高いほどソース・ドレイン間電流が多く流れているトランジスタ動作が確認される。なお、図8において、(a)は、ゲート電圧(Vg)が−2Vであり、(b)は、ゲート電圧が1Vであり、(c)は、ゲート電圧が3Vであり、(d)は、ゲート電圧が5Vである。
【0066】
このように、実施例1の化合物半導体装置の測定結果より、第2半導体層を用いる効果は、MOS界面に限るものではなく、深い位置にある二次元電子ガスに対しても有用に制御できることを示している。このHEMT素子はプロトタイプであり、ゲート幅200μm、ゲート長300μmと、一般に市販されている通常のHEMTに比較して非常に大きな寸法構造であり、性能的には不利である。しかしながら、トランスコンダクタンス(gm)の値は、92mS/mmと市販品と同程度の非常に良い値が得られている。また、ゲート構造の微細化を行うことで更に良いgmが得られるものと考えられる。なお、電流−電圧特性としては、ノーマリーオフの特性となっている。
【0067】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2では、逆HEMT構造の化合物半導体装置について図9を用いて説明する。図9は、実施例2における化合物半導体装置の構成を模式的に示す断面図であり、HEMT素子である。
【0068】
この化合物半導体装置は、InPからなる基板901の上に、膜厚200nmのアンドープのIn0.52Al0.48As層902、膜厚6nmのn型ドープされたIn0.48Al0.52As層903,膜厚10nmのアンドープのIn0.52Al0.48As層904,膜厚2.5nmのアンドープのIn0.53Ga0.47As層905,膜厚10nmのアンドープのIn0.70Ga0.30As層906,膜厚5nmのアンドープのIn0.53Ga0.47As層907を備えている。
【0069】
また、膜厚20nmのアンドープのIn0.52Al0.48As層(第1半導体層)908,膜厚1nmのGaSb層(第2半導体層)909、およびALD法により形成したAl23からなる絶縁層910を備えている。GaSb層909までの各化合物半導体層は、例えば、MBE法による同一装置内で、連続的に成長することで形成している。
【0070】
また、この化合物半導体装置は、In0.48Al0.52As層903からGaSb層909までの積層部分は、いわゆるリッジ形状に加工され、この積層構造の側部に、Nbからなる超伝導電極911aおよび超伝導電極911bを備えている。これら2つの電極により、上述した積層構造が挟まれた構成となっている。また、絶縁層910の上には、ゲート電極912が形成されている。この化合物半導体装置は、超伝導FETであり、超伝導電極911aおよび超伝導電極911bをソースおよびドレインとし、In0.70Ga0.30As層906に形成される二次元電子ガスを流れる超伝導電流を、ゲート電極912に印加するゲート電圧で制御できる。
【0071】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの組み合わせおよび変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述したHEMT素子では、絶縁層をAl23から構成したが、これに限るものではなく、HfO2などの他の金属酸化物から構成してもよい。また、絶縁層は、Al23層とHfO2とを交互に積層した構造としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
101…第1半導体層、102…第2半導体層、103…絶縁層、104…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体からなる第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる臨界膜厚以下の第2半導体層を、前記第1半導体層の上に接して形成する第2工程と、
前記第2半導体層の上に金属酸化物からなる絶縁層を形成する第3工程と、
前記絶縁層の上に電極を形成する第4工程と
を少なくとも備えることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の化合物半導体装置の製造方法において、
前記第1半導体層を形成した後、外気に晒すことなく前記第2半導体層を形成することを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の化合物半導体装置の製造方法において、
前記第1半導体層および前記第2半導体層は、同一の成膜装置で形成することを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置の製造方法において、
前記絶縁層は、アモルファス状態の金属酸化物から構成することを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の化合物半導体装置の製造方法において、
前記絶縁層は、原子層堆積法により形成することを特徴とする化合津物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
化合物半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に接して形成された前記第1半導体層より小さいバンドギャップエネルギーの化合物半導体からなる第2半導体層と、
前記第2半導体層の上に形成された金属酸化物からなる絶縁層と、
前記絶縁層の上に形成された電極と
を少なくとも備え、
前記第2半導体層は、臨界膜厚以下とされていることを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項7】
請求項6記載の化合物半導体装置において、
前記絶縁層は、アモルファス状態であることを特徴とする化合物半導体装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−134206(P2012−134206A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282714(P2010−282714)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】