説明

半導体積層構造及び紫外線センサー

【課題】結晶性に優れたIII族窒化物の受光層を形成することのできる半導体積層構造、及びこれを用いた紫外線センサーを提供する。
【解決手段】所定の基材3上において、III族窒化物下地層4と、少なくともGaを含むIII族窒化物層5とを順次に積層し、その上にInおよびAl、あるいは一方を含むIII族窒化物からなるAlyInxGa1-x-yN受光層6を設けた半導体積層構造1、及びこれを用いて表面にショットキー電極7s、およびオーミック電極7oを形成させて紫外線センサー2を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体積層構造及び紫外線センサーに関し、詳しくは、UV-BやUV-C等の300nmより短波長の紫外線を受光する受光素子を構成する構造として好適に用いることができる半導体積層構造、及び紫外線センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護に対する関心は高まってきており、オゾン層の破壊による地上での紫外線量の増加は、皮膚ガンの発生など健康への被害が懸念されている。特に、UV-Bと呼ばれる315nmから280nmの紫外線、あるいはUV-Cと呼ばれる280nm以下の紫外線はDNAの破壊など皮膚に様々な障害を与えることが知られている。このため、広い範囲での紫外線の測定が必要となっている。
【0003】
また、自然界に存在する太陽光や白熱電灯などの光に存在せず、火炎特有の発光である250〜280nmの光を選択的に受光できれば火炎センサーとして応用が可能となり、火災検知器などへの応用が可能である。現在は、光電管が用いられているが、寿命が短い、高コストなどの問題があり、これを半導体に置き換えることにより、経済的なメリットも生じる。
【0004】
紫外線を測定する従来の装置としては、シリコン(Si)検出器が知られているが、測定波長の選択にフィルターを用いているので、波長254nm以下の領域での受光スペクトルのバンド幅が広いだけでなく、フィルターが紫外線で劣化しやすいという問題があった。
【0005】
また、シリコン以外に光電管タイプのセンサーもこの波長域に感度を有するが、太陽光に含まれる波長帯にも感度を持つ(ソーラーブラインドではない)という問題があった。
【0006】
さらに、短波長域で感度を有するセンサー材料として、窒化物系半導体のAlGaN膜(例えば特許文献1参照)などがある。しかしながら、基板と窒化物半導体との格子定数差に起因する内部応力、あるいは基板と窒化物半導体との熱膨張係数差に起因する熱応力により、窒化物半導体内に多くの欠陥が発生し、受光デバイスを作製した場合に逆耐圧、量子効率などの特性が劣化してしまうなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−249665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、300nm以下の紫外線を安定的に感度良く検出できる高品質な受光層を有する半導体積層構造及びこれを用いた紫外線センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは結晶性の良いIII族窒化物の受光層を形成すべく検討を実施した。その結果、半導体積層構造を構成するIII族窒化物下地層として、基材との格子不整合を緩和するためのAlあるいはGaを含むIII族窒化物層を形成し、さらに前記AlあるいはGaを含むIII族窒化物層上にGaを含むIII族窒化物層を形成した後、受光層として前記Gaを含むIII族窒化物層と格子整合するように、組成xおよびyが選択されたAlyInxGa1-x-yN層を成長させることにより、結晶性の良いAlyInxGa1-x-yN層が形成できる。さらに、この構造を用いて、ショットキー電極、およびオーミック電極を形成し、紫外センサーを作製することにより、紫外線センサーの特性を向上させることができることを見出したものである。
【0010】
なお、「ショットキー電極」と「オーミック電極」とは単独の金属又は複数の金属が複数積層されてなる多層膜構造などを総称したものであり、作製すべきセンサー素子の構造などに応じて適当な構成を採る。また、「ショットキー電極」については、紫外線が透過するような薄い金属で形成する構造を採ることも可能である。
【0011】
本発明は、上記検討を基になされたもので、所定の基材と、前記基材上に形成されたIII族窒化物下地層と、前記III族窒化物下地層上に形成された、少なくともGaを含むIII族窒化物層と、前記Gaを含むIII族窒化物層上に形成され、さらにAlおよびIn、あるいは一方を含むIII族窒化物の受光層を形成してなる半導体積層構造、およびこの構造上にショットキー電極、およびオーミック電極を形成してなるショットキーダイオード型の紫外線センサーを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、結晶性に優れたIII族窒化物の受光層を形成することのできる、半導体積層構造及びこれを用いた紫外線センサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る半導体積層構造および紫外線センサーの構成を示す概要図である。
【図2】実施例における紫外線センサーの電流-電圧特性を示す図である。
【図3】実施例における(a)10nW/cm2、0.1μW/cm2、1μW/cm2の光強度で測定した光電流スペクトル、(b)光応答のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の紫外線センサーの構成を示す図である。図1に示す半導体積層構造1は、基材3と、この基材3上に形成されたIII族窒化物下地層4及びGaを含むIII族窒化物層5を含んでいる。また、Gaを含むIII族窒化物層5上にはAlyInxGa1-x-yN受光層6が形成されている。さらに、紫外線センサー2はこれらの半導体積層構造1を用いて、ショットキー電極7s、およびオーミック電極7oを形成したものである。
【0015】
III族窒化物下地層4は、基材3とIII族窒化物層5との格子定数差を補完するためのものであり、例えばAlxGayN(0≦x、y≦1、x+y=1)なる組成を有することができる。また、MOCVD法などにより400℃〜600℃の低温で形成することができる(いわゆる低温バッファ層)。また、1000℃以上の高温において高い結晶性を有するように形成することができる。
【0016】
III族窒化物下地層4を有することによって、III族窒化物層5の結晶品質、さらにはIII族窒化物層5上に形成すべきAlyInxGa1-x-yN受光層6の結晶品質を向上させることができる。
【0017】
なお、III族窒化物下地層4は、AlおよびGaなどの他にB、Si、Ge、Zn、Be及びMgなどの添加元素を含むこともできる。さらに、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件などに依存して必然的に取り込まれる微量元素、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含むこともできる。
【0018】
III族窒化物層5はGaを含むことが必要である。Ga含有量については特に限定されるものではないが、全III族元素に対して50原子%以上であることが好ましい。
【0019】
但し、窒化物層5は、Gaの他に、AlおよびInなどのIII族元素、B、Si、Ge、Zn、BeおよびMgなどの添加元素を含むこともできる。さらに、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件などに依存して必然的に取り込まれる微量元素、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含むこともできる。
【0020】
III族窒化物層5は、上記要件を満足する限り公知の成膜手段を用いて形成することができる。例えば、MOCVD法を用い、下地層4と同一バッチあるいは別バッチで形成することができる。
【0021】
AlyInxGa1-x-yN受光層6は窒化物層5よりも低い成膜圧力で作製することが必要であり、具体的には300Torr以下で形成することが好ましい。
【0022】
また、AlyInxGa1-x-yN受光層6はAl及びInを含む場合において、その含有量については特にIII族窒化物層5と格子定数を整合してエピタキシャル成長できるAl及びInを含有することが好ましい。
【0023】
AlyInxGa1-x-yN受光層6はB、Si、Ge、Zn、BeおよびMgなどの添加元素を含むこともできる。さらに、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件などに依存して必然的に取り込まれる微量元素、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含むこともできる。
【0024】
AlyInxGa1-x-yN受光層6はIII族窒化物5上に形成させることが必要であるが、その程度は、III族窒化物層5の厚さをt5とし、受光層6の厚さをt6とした場合において、(t6/t5)が10以上となるようにすることが好ましい。これによって、わずかに格子不整が存在しても受光層6中に発生する欠陥をより効果的に低減できるようになる。
【0025】
III族窒化物層5はμmのオーダの厚さを有するので、具体的にはAlyInxGa1-x-yN受光層6の厚さを100nm〜200nmに設定することが好ましい。
【0026】
さらに、AlyInxGa1-x-yN受光層6がGaを含まないInxAl1-xNの場合においては、その含有量について、特にIII族窒化物層5がGaN単層膜である時、格子定数を整合してエピタキシャル成長できる0.17〜0.20のInを含有することが好ましい。このように単独の窒化物層から構成することもできるし、In含有量の異なる複数の窒化物層を積層させた多層膜構造から構成することができる。後者の例としては、In0.18Al0.82N層とGaN層とを積層させた多層膜構造や、これらの層を周期的に積層してなる周期的多層構造などを例示することができる。
【0027】
AlyInxGa1-x-yN受光層6は、上記要件を満足する限り公知の成膜手段を用いて形成することができる。例えば、MOCVD法を用い、窒化物層5と同一バッチあるいは別バッチで形成することができる。
【0028】
なお、基材3は、サファイア単結晶、ZnO単結晶、LiAlO2単結晶、LiGaO2単結晶、MgAl2O4単結晶、MgOなどの酸化物単結晶、Si単結晶、SiC単結晶などのIV族あるいはIV-IV族単結晶、GaAs単結晶、AlN単結晶、GaN単結晶、及びAlGaN単結晶などのIII-V族単結晶、Zr2Bなどのホウ化物単結晶などの公知の基板材料から構成することができる。
【0029】
半導体積層基板1を用いて、表面にショットキー電極7s、およびオーミック電極7oを形成することにより、紫外線センサーを作製する。この時、場合によっては一部表面をエッチングして、オーミック電極を形成するリセス構造などにすることも可能である。また、ショットキー電極は紫外線が電極を透過するために、金属を用いた場合には薄く形成する必要があり、例えば、Paなどを用いた場合には10nm以下にすることが望ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0031】
2インチ径の厚さ330μmのサファイア基板をH2SO4+H2O2で前処理した後、MOCVD装置の中に設置した。キャリアガスとして、H2を流速2m/secで流しながら、基板を1170℃まで昇温した後、10分間保持し、基板のサーマルクリーニングを実施した。その後、基板温度を500℃まで低下させ、TMGおよびNH3を平均流速2m/secで流して30nmの厚さのGaNバッファ層を成長させた。
【0032】
次いで、基板温度を1160℃に昇温し、前記GaNバッファ層上にトリメチルガリウム(TMG)及びNH3を平均流速4m/secで流して、前記GaNバッファ層上にGaN層を膜厚2μmに形成した。さらに、基板温度を700℃まで低下させ、100Torrの圧力で、TMG、TMI、およびNH3を平均流速4m/secで流して、前記GaN層上にAl0.83In0.17N層を厚さ100nmに成長し、半導体積層構造を形成した。
【0033】
次いで、前記半導体積層構造を用いて表面にオーミック電極、およびショットキー電極を形成し、紫外線センサーを作製した。電極配置は、図1に示すとおりであり、オーミック電極はTi(15nm)/Al(60nm)/Ni(12nm)/Au(60nm)をEB蒸着により形成した後、N2雰囲気中で30秒間、加熱することで合金化し、作製した。さらに、ショットキー電極は中央に直径100μmで、Pd(10nm)の膜をEB蒸着により形成した。
【0034】
次いで、ショットキー、オーミック電極間に電圧をかけ、電流-電圧特性を調べた。図2に紫外線センサーの電流-電圧特性を示す。逆電流密度は−5Vの時、6.0x10-7 A/cm2であり、−10Vでは、2.1x10-5 A/cm2であった。また、この時のショットキーバリアー高さは1.56eVであった。
【0035】
さらに、前記紫外センサーの光応答を調べた。光源としては、重水素、キセノン、ハロゲンランプからなる200〜500nmの波長領域のものを用いた。図3(a)に10nW/cm2、0.1μW/cm2、1μW/cm2の光強度で測定した光電流スペクトルを示す。光電流は282nmあたりでピーク値の80%に減少するカットオフが見られる。また、図3(b)は光応答のスペクトルを示しており、242nmの時、133mA/Wの値が得られている。これは、外部量子効率でいうと68.5%に相当しており、10nW/cm2という弱い照明でも検知していることが分かる。
【符号の説明】
【0036】
1 半導体積層構造
2 紫外線センサー
3 基材
4 III族窒化物下地層
5 Gaを含むIII族窒化物層
6 AlyInxGa1-x-yN受光層
7o オーミック電極
7s ショットキー電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基材と、前記基材上に形成されたIII族窒化物下地層と、前記III族窒化物下地層上に形成された、少なくともGaを含むIII族窒化物層と、前記Gaを含むIII族窒化物層上に形成され、AlおよびIn、あるいは一方を含むIII族窒化物層を形成してなる半導体積層構造。
【請求項2】
前記AlおよびIn、あるいは一方を含むIII族窒化物層は、0≦x<1、0≦y≦1、0≦x+y≦1の範囲のAlyInxGa1-x-yN層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体積層構造。
【請求項3】
前記Gaを含むIII族窒化物層はGaN層であり、さらに前記AlおよびIn、あるいは一方を含むIII族窒化物層は、0.17≦x≦0.20の値をとるAl1-xInxN層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体積層構造。
【請求項4】
前記AlおよびIn、あるいは一方を含むIII族窒化物層は、300Torr以下の成膜圧力で作製したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体積層構造。
【請求項5】
前記III族窒化物下地層は、0<t≦2μmの膜厚tを有するAlを含むIII族窒化物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の半導体積層構造。
【請求項6】
前記III族窒化物下地層は、50nm≦t≦150nmの膜厚tを有し、400℃≦T≦600℃の温度Tで成長したGaを含むIII族窒化物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の半導体積層構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の半導体積層構造と、前記半導体積層構造上に形成されたショットキー電極、およびオーミック電極を備えることを特徴とする紫外線センサー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−9718(P2012−9718A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145757(P2010−145757)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】