説明

半導体装置

【課題】窒化物半導体を用いた半導体装置のオン抵抗を低減できるようにする。
【解決手段】半導体装置は、アンドープのAlGaN層104と、該AlGaN層104の上に形成され、AlGaN層104とオーミック接触するソース電極107及びドレイン電極108とを有している。AlGaN層104の上部における少なくとも各電極107、108と接触する部分には、不純物拡散層110が形成されている。不純物拡散層110は、AlGaN層104に対しアクセプタ性を示す不純物が拡散し、且つ、AlGaN層104における窒素空孔と不純物とが結合してなる不純物準位が、AlGaN層104の伝導帯端の近傍に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパワートランジスタに適用可能な、窒化物半導体を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を始めとするIII族窒化物半導体は、シリコン(Si)又はガリウムヒ素(GaAs)等と比べて、バンドギャップ、絶縁破壊電界及び電子の飽和ドリフト速度が大きいことから、高耐圧、高温動作、高周波動作、高出力及び高電圧信号の入出力等が可能であり、盛んに研究されている。
【0003】
従来のSiデバイスに対して、III族窒化物半導体は、シリコンの物性限界を上回る特性を得られるため、高周波動作が可能で高性能な電源装置を実現できるという期待が高まっている。特に、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)におけるオン抵抗(Ron)はSi系のFETと比較して2桁以上も低くすることが可能である。従って、GaNを用いた電子デバイスは、インバータ又はコンバータ等のスイッチング装置の損失が従来のSi系の電子デバイスと比べて大幅に低減することにより、冷却部品の小型化及び削減等が可能となる。また、GaN系FETは、高速スイッチング動作化又は高周波動作化によって、スイッチング回路の高効率化が可能となるため、回路の小型化及び高密度化を実現できる。
【0004】
さらに、III族窒化物半導体は、GaNを中心として同一結晶構造の化合物同士では三元又は四元混晶(一般式:AlGaIn1−x−yN)の形成が可能であるという大きな特徴を持つ。多元混晶とすることにより、バンドギャップが窒化アルミニウム(AlN)の6.2eVから窒化インジウム(InN)の0.7eVまでに広範囲に設定でき、また、ヘテロ接合を形成することにより、多種多様なデバイスを構成することができる。
【0005】
特に、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)/窒化ガリウム(GaN)からなるヘテロ接合の形成は、高電流駆動能力及び高耐圧による高出力動作が可能な電子デバイスへの用途に極めて重要である。すなわち、結晶面の面方位における(0001)面を主面とする基板上に形成されたAlGaN/GaNからなるヘテロ界面には、自発分極及びピエゾ分極によって2次元電子ガス層が生じる。この2次元電子ガス層によって、AlGaN/GaNの界面には、不純物をドープしなくても、1×1013cm−2以上のシートキャリア濃度が得られる。この高濃度の2次元電子ガスをキャリアとする高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)を用いた種々のHEMT構造が提案されている。
【0006】
通常のAlGaN/GaNを用いたHEMT構造は、シリコン又はサファイアからなる基板の上に、AlNからなる低温バッファ層、アンドープGaN層及びアンドープAlGaN層が順次形成される。アンドープAlGaN層の上には、ソース電極及びドレイン電極が互いに間隔をおいて形成され、ゲート電極は、アンドープAlGaN層の上のソース電極及びドレイン電極の間の領域に形成される。
【0007】
GaN層とAlGaN層とは、その格子定数の違いから、AlGaN層に生じるピエゾ分極PPEと、AlGaN層が本来有している自発分極PSPとの和、P=PPE+PSPによって分極電荷σが生じる。このうち、AlGaN層のGaN層との界面の近傍に生じた分極電荷を電気的に打ち消すように、GaN層のAlGaN層との界面の近傍に2次元電子ガス層が誘起される。
【0008】
ここで、HEMTのソース−ドレイン間に所定の電圧を印加すると、チャネル内の電子がソース電極からドレイン電極に向かって移動する。このとき、ゲート電極に加える電圧を制御して、AlGaN層におけるゲート電極の直下の領域に生じる空乏層の厚さを変えることにより、ソース電極からドレイン電極へ移動する電子、すなわちドレイン電流を制御することが可能となる。
【0009】
ところで、III族窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタを、高電圧に対するスイッチング素子として用いる場合には、ノーマリオフ型のトランジスタを実現することが不可欠である。その主な理由は、デバイスのオフ状態を得るために、新たに負電源を用意する必要がないこと、及びデバイスの故障時にソース−ドレイン間に電流が流れないことから、安全性が高まることが挙げられる。
【0010】
ところで、AlGaN/GaN構造を有するHEMTは、パワーデバイスの用途に適している。ゲートリーク電流を減少させるために、ゲート電極の直下に絶縁膜を設けたMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型HEMTが有効とされている。特許文献1においては、MIS−FETにおいて、ゲート電極下の障壁層のみを薄くし、ソース電極及びドレイン電極下の障壁層は厚くすることにより、ノーマリオフ型のトランジスタを実現している。
【0011】
特許文献2には、p型GaN層又はp型AlGaN層をゲート電極に用いることにより、ノーマリオフ動作を実現することができると示されている。
【0012】
一方、特許文献3、特許文献4及び特許文献5には、ゲート電極に強誘電体を用いることにより、ゲート電極の直下のチャネル部分のキャリアを空乏化させて、ノーマリオフ動作を実現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−222414号公報
【特許文献2】特開2007−220895号公報
【特許文献3】特開2006−156816号公報
【特許文献4】特開2006−332593号公報
【特許文献5】特開2007−317729号公報
【特許文献6】特開2008−211172号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】I. Gorczyca, A. Svane, and N. E. Christensen; "Mg-O and Mg-VN defect complexes in cubic GaN", PHYSICAL REVIEW B 15 MARCH 2000-I VOLUME 61, NUMBER 11(2000).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来の構成においては、ノーマリオフ動作とチャネル抵抗の低減とを両立することは困難である。例えば、特許文献6においては、ゲートリセス構造とp型GaN層とを用いることにより、ノーマリオフ動作を実現可能な構造が記載されている。本構造の場合は、Alの濃度を増大するか、又はAlGaN層を厚くすることによって、チャネル抵抗を低減することができる。しかしながら、ノーマリオフ動作を実現するには、ゲートリセスによって、ゲート電極の下側のAlGaN層を残すようにエッチングを行う必要がある。そのAlGaN層の残した厚さ(残し膜厚)によって、トランジスタがオン状態となる閾値を制御するため、ナノメートルレベルでのエッチング深さの制御が必要となる。また、チャネル抵抗の低減のために、Al濃度を大きくする程、空乏化し難くなるため、AlGaN層を選択的エッチングにより薄層化する必要がある。これは原理的には可能であるものの、再現性を確保することは極めて困難である。
【0016】
また、パワーデバイスで重要となる素子の耐圧は、ゲート電極とドレイン電極との距離により決定され、その距離を大きくすることにより耐圧は向上する。一方、ゲート−ドレイン間の距離を拡大すると、該ゲート−ドレイン間の寄生抵抗が増大して、オン抵抗の増大につながる。すなわち、オン抵抗と耐圧とはトレードオフの関係にある。デバイスの耐圧を大きくするために、ゲート−ドレイン間を拡げるとシート抵抗が大きくなり、シート抵抗Rshとコンタクト抵抗Rとの和で表されるオン抵抗が増大してしまう。グラフの傾きはシート抵抗Rshに関連し、y切片はコンタクト抵抗Rとなる。耐圧が小さい領域においては、オン抵抗の線形性が失われてしまい、所定のコンタクト抵抗Rが残ってしまう。従って、オン抵抗の低減には、コンタクト抵抗を減らすことが極めて重要となる。
【0017】
従来のIII族窒化物半導体を用いたFETは、オン抵抗が十分に低いとはいえず、さらなるオン抵抗の低減が求められている。AlGaN/GaN構造を有するHEMTにおいて、オン抵抗は電極から2次元電子ガス層へのコンタクト抵抗(電極と半導体との間及びヘテロ接合とのコンタクト抵抗)、ソースとドレインとの間の抵抗、及びゲート電極下のチャネル抵抗の和で与えられる。AlGaNのバンドギャップは4eV程度であるため、電極との電位障壁が大きく、オーミック電極のコンタクト抵抗が高いことが課題となっている。
【0018】
この課題を解決するためのアプローチとして、AlGaN層の表面にシリコン(Si)を拡散させる手法が挙げられる。電極とIII族窒化物半導体の表面との間を、n型の導電性を示す不純物によって高濃度にドープするという手法である。しかしながら、この場合でも、達成される最高キャリア濃度は不純物の活性化率で規制されるため、得られるコンタクト抵抗の下限もこの値で規制されてしまう。
【0019】
他のアプローチとして、低抵抗キャップ層を用いたリセス構造があり、本構造は有効とされている。しかし、本構造を実現するには、リセス構造及びゲート電極構造を形成する際に高精度のドライエッチ技術が必要となる。また、ドライエッチ工程におけるプラズマによるダメージの導入は、半導体層に新たなエネルギー準位が形成されるため、デバイスの直流特性及びショットキー特性の劣化を引き起こすなど、問題も多い。
【0020】
パワーデバイスにおいて、高いオン抵抗は動作電圧の上昇を引き起こし、素子の発熱につながる。このため、高いオン抵抗は、デバイスの寿命の観点からも、大きな問題となり、デバイスの信頼性の低下につながる。従って、今後は、FETの高性能化に向けて、さらなるオン抵抗の低減が必要である。
【0021】
本発明は、前記の問題を解決し、窒化物半導体を用いた半導体装置(電界効果トランジスタ)のオン抵抗を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記の目的を達成するため、本発明は、半導体装置を、オーミック電極と接触する窒化物半導体層に、アクセプタ性を示す不純物が拡散し且つ第1の窒化物半導体層における窒素空孔と不純物とが結合してなる不純物準位が窒化物半導体層の伝導帯端の近傍に形成される不純物拡散領域を有する構成とする。
【0023】
具体的に、本発明に係る半導体装置は、第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に形成され、第1の窒化物半導体層とオーミック接触する第1の電極とを備え、第1の窒化物半導体層の上部における少なくとも第1の電極と接触する部分には、不純物拡散領域が形成されており、不純物拡散領域は、第1の窒化物半導体層に対しアクセプタ性を示す不純物が拡散し、且つ、第1の窒化物半導体層における窒素空孔と不純物とが結合してなる不純物準位が、第1の窒化物半導体層の伝導帯端の近傍に形成されている。
【0024】
本発明の半導体装置によると、第1の窒化物半導体層の上部に拡散している不純物が、該第1の窒化物半導体層中に存在する窒素空孔(欠陥)と複合欠陥を形成する。この複合欠陥がドナーライクな性質を示すため、第1の窒化物半導体層の表面のポテンシャルバリアが薄層化してキャリアがトンネル効果により伝播しやすくなる。従って、第1の窒化物半導体層の上に形成した第1の電極とのコンタクト抵抗を低減することが可能となるので、オン抵抗を低減することができる。
【0025】
本発明の半導体装置は、第1の窒化物半導体層の上における第1の電極を除く領域に選択的に形成された、p型の第2の窒化物半導体層をさらに備えていてもよい。
【0026】
このようにすると、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層とがなすpn接合により、空乏層が第1の窒化物半導体層に生じるチャネル層にまで達するので、ノーマリオフ型の電界効果トランジスタを得ることができる。
【0027】
この場合に、本発明の半導体装置は、第2の窒化物半導体層の上に形成され、第2の窒化物半導体層とオーミック接触する第2の電極をさらに備えていてもよい。
【0028】
この場合に、第1の電極は、ソース電極又はドレイン電極であり、第2の電極は、ゲート電極であってもよい。
【0029】
このようにすると、半導体装置を窒化物半導体からなる電界効果トランジスタとすることができる。
【0030】
本発明の半導体装置において、不純物は、第1の窒化物半導体層の上部に欠陥を形成することが好ましい。
【0031】
このようにすると、第1の窒化物半導体層の上部の欠陥と不純物とが結合して不純物準位が容易に形成される。
【0032】
この場合に、不純物は、マグネシウムであってもよい。
【0033】
さらにこの場合に、第1の電極は、層状のマグネシウムと層状のアルミニウムとを含む積層膜、又はマグネシウムとアルミニウムとを含む合金層を含んでいてもよい。
【0034】
このようにすると、第1の窒化物半導体にマグネシウムを選択的且つ高濃度に拡散することが可能となるので、複合欠陥の形成を促進させることができる。
【0035】
この場合に、第1の電極は、マグネシウムの含有量が、第1の窒化物半導体層に近い側で大きく、且つ第1の窒化物半導体から離れるにつれて小さくなっていてもよい。
【0036】
本発明の半導体装置において、第1の窒化物半導体層における組成は、不純物拡散領域においてストイキオメトリからずれていてもよい。
【0037】
このように、ストイキオメトリがずれることにより窒素空孔が形成され、形成された窒素空孔と不純物とが結合して不純物準位が容易に形成される。
【0038】
この場合に、第1の窒化物半導体層は、III族元素が窒素と比べて高い比率で形成されていることが好ましい。
【0039】
このようにすると、III族元素が窒素がと比べて過多であるため、窒素空孔が容易に形成されるので、形成された窒素空孔と不純物とが結合して不純物準位が容易に形成される。
【0040】
本発明の半導体装置は、p型の第2の窒化物半導体層をさらに備えている場合に、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体との間に形成された第3の窒化物半導体層をさらに備え、第3の窒化物半導体層は、不純物の第2の窒化物半導体層への拡散を防ぐことが好ましい。
【0041】
このように、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体との間に第3の窒化物半導体層を形成したことにより、第1の窒化物半導体層における第1の電極(オーミック電極)の形成領域以外の領域への不純物の拡散を抑制できる。従って、第1の半導体層におけるオーミック電極の形成領域以外の領域での表面ポテンシャル障壁の薄化を防ぐことができるので、リーク電流の増大を防ぐことが可能となる。
【0042】
この場合に、第3の窒化物半導体層は、窒化インジウムガリウムからなっていてもよい。
【0043】
本発明の半導体装置は、第1の窒化物半導体層における第1の電極とは反対側の面上に形成され、第1の窒化物半導体層とは組成が異なる第4の窒化物半導体層をさらに備えていてもよい。
【0044】
このようにすると、第4の窒化物半導体層と第1の窒化物半導体層とからなるヘテロ接合を有するHFETを形成することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る半導体装置によると、窒化物半導体を用いた半導体装置におけるオン抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の第2の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【図3】図3は本発明の第3の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は本発明の第3の実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す工程順の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0048】
ここでは、窒化物半導体であるAlGaNとは3元混晶AlGa1−xN(但し、0≦x≦1である。)を表す。従って、3元混晶は、それぞれの構成元素の配列、例えばAlInN又はGaInN等と略記する。また、4元混晶は、例えば、AlGa1−x−yInN(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)はAlGaInNと略記する。
【0049】
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体からなる半導体装置である電界効果トランジスタは、例えば、サファイアからなる基板101の上に、膜厚が100nmのAlNからなるバッファ層102と、膜厚が2μmのアンドープのGaN層103と、膜厚が25nmのアンドープのAlGaN層104と、膜厚が50nmのp型AlGaN層105とが、順次エピタキシャル成長により形成されている。なお、アンドープとは、導電性を示す不純物が意図的に導入されていない状態をいう。AlGaN層104におけるAl組成は25%であり、p型AlGaN層105におけるAl組成は25%であり、そのキャリア濃度は、例えば1×1018cm−3である。
【0050】
p型AlGaN層105の上には、ニッケル(Ni)からなるゲート電極106がp型AlGaN層105とオーミック接触するように形成されている。p型AlGaN層105におけるゲート長方向の両側の領域は選択的にエッチングされて、アンドープのAlGaN層104が露出している。この露出部分の上には、下側からチタン(Ti)/アルミニウム(Al)からなるソース電極107及びドレイン電極108が、AlGaN層104とそれぞれオーミック接触するように形成されている。
【0051】
以下に、第1の実施形態に係る電界効果トランジスタをより詳細に説明する。
【0052】
まず、前述したように、2次元電子ガス層とは、AlGaN/GaN界面に誘起される高密度のキャリア層である。AlGaN中に存在する自発分極及びピエゾ分極と、GaNが持つ自発分極との差を補償するために、AlGaN/GaN界面に電荷が誘起されて、2次元電子ガス層が形成される。自発分極は、窒化物半導体の結晶構造に起因している。また、ピエゾ分極は、AlGaNをGaNの上に成長する際に、GaNとAlGaNとの格子定数の違いから、AlGaN層に引っ張り歪みが生じることにより発生する内部分極である。
【0053】
従来のAlGaN/GaN界面を有するヘテロ電界効果トランジスタ(HFET)は、AlGaN/GaN界面に誘起された2次元電子ガスによる電子走行層が一様に存在している。このため、ゲート電圧が0Vの場合は、該トランジスタは導通状態(オン状態)にある。しかしながら、省エネルギー化及び制御装置の安全性の観点から、スイッチング素子として用いられるパワーデバイスは、ゼロバイアス時には電流を遮断するノーマリオフ特性が不可欠である。AlGaN/GaNを含むHFETをノーマリオフ化するには、ゲート電極直下のキャリア濃度を減少させて閾値電圧値を正側にシフトし、ゼロバイアス時には電流を分断する必要がある。もっとも簡便な方法は、AlGaNの分極効果によるキャリアの発生を抑制することである。これには、AlGaN層の薄膜化又はAl組成の低減という手法を用いることができる。但し、これによりチャネルの抵抗が増し、オン抵抗が増大してしまうという、トレードオフが生じる。
【0054】
第1の実施形態においては、通常のAlGaN/GaNを含むHFET構造に加えて、アンドープのAlGaN層104の上に、p型AlGaN層105を設けている。この構成により、AlGaN層104におけるp型AlGaN層105の下側部分のポテンシャルが持ち上がる。その結果、チャネルが空乏化して、ノーマリオフ特性を得ることができる。また、p型AlGaN層105は、ゲート電極106の下側部分を除く領域を除去しているため、ゲート電極106の下側部分を除く領域のチャネルは維持される。さらに、p型AlGaN層105からは、その下のAlGaN層104にホールが注入されるため、チャネルに伝導度変調が生じる。その結果、ノーマリオフ特性と低オン抵抗とを両立するトランジスタを実現することができる。
【0055】
なお、AlGaN層104におけるソース電極107及びドレイン電極108を除く上面と、p型AlGaN層105におけるゲート電極106を除く上面及び側面には、窒化シリコン(SiN)からなる保護膜109が形成されている。
【0056】
また、ソース電極107及びドレイン電極108のゲート電極106に対して外側の領域には、それぞれ、例えばアルゴン(Ar)イオン等がGaN層103にまで達するようにイオン注入されて、高抵抗化された素子分離領域111が形成されている。
【0057】
第1の実施形態の特徴として、アンドープのAlGaN層104の上部には、p型AlGaN層105に含まれるアクセプタ不純物であるマグネシウム(Mg)が拡散してなる不純物拡散層110が形成されている。不純物拡散層110は、p型AlGaN層105を形成する際のエピタキシャル成長が高温で行われる際に、アクセプタであるp型ドーパントのマグネシウム(Mg)がその下地層であるアンドープのAlGaN層104に拡散することによって形成される。
【0058】
アンドープのAlGaN層104に拡散したMgのうち、Gaサイトに置換されたMg(以下、MgGaと略記する)は、該AlGaN層104中に存在する窒素空孔(以下、Vと略記する)と結合して、MgGa−V複合欠陥(MgGa)を形成する(例えば、非特許文献1を参照)。
【0059】
MgGaは、Vと同様に、ドナー型欠陥の性質を有していると考えられる。このため、AlGaN層104中のMgが拡散してなる不純物拡散層110は、ドナー型欠陥の欠陥濃度が上昇することになる。通常、キャリア濃度が高いほど空乏層は延びにくくなる。従って、AlGaN層104の不純物拡散層110とソース電極107と接する領域、及びドレイン電極108と接する領域においては、各電極107、108とAlGaN層104との界面近傍のエネルギー障壁が薄化する。このため、電極に注入された電流は、この薄い三角ポテンシャルを通過してより流れやすくなる。その結果、ソース電極107及びドレイン電極108と2次元電子ガス層との接触抵抗を低減することができる。
【0060】
すなわち、不純物(MgGa)と窒素空孔(V)とが結合してなる複合欠陥(MgGa)による不純物準位が、アンドープのAlGaN層104の伝導帯端の近傍に形成される。
【0061】
なお、p型AlGaN層105をエピタキシャル成長する際に、AlGaN層104の表面の結晶性を意図的に劣化させる成長条件、又は表面ラフネスが増大する成長条件を採用してもよい。このようにすると、AlGaN層104の表面にVがさらに誘起されて、Mgの拡散が容易となる。但し、これらの成長条件は、p型AlGaN層105が良好な結晶性を維持しながら成長できる範囲である必要がある。
【0062】
AlGaN層104の結晶性を劣化させるに際し、例えばストイキオメトリ(stoichiometry)が通常値からずれた結晶成長条件により結晶成長を行うのが好ましい。ストイキオメトリとは、いわゆる化学量論比のことであり、III族元素と窒素との比のことである。ストイキオメトリがずれるとは、III族と窒素との比が1対1よりずれることである。ストイキオメトリがずれる方向としては、III族元素の窒素に対する比の値が1よりも大きい、すなわちIII族元素が窒素と比べて過多であることが好ましい。なぜなら、III族元素の窒素に対する比の値が1よりも大きければ、窒素空孔(V)が生じやすいからである。
【0063】
ところで、アンドープのAlGaN層104と、該AlGaN層104の上に形成されるp型AlGaN層105との混晶の組み合わせは、これ以外にも、例えば、以下の[表1]に示す組み合わせを用いることができる。
【0064】
【表1】

【0065】
[表1]において、InGaNは、InGa1−xN(0<x≦1)を表し、InAlGaNは、InAlGa1−xN(0<x<1、0<y<1)を表す。
【0066】
また、基板101は、窒化物半導体をエピタキシャル成長可能な基板であればよく、サファイアの他に、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)又は窒化ガリウム(GaN)等を用いることができる。
【0067】
なお、第1の実施形態において、アンドープのAlGaN層104の上に形成されたp型AlGaN層105は、ノーマリオフ動作を必要としない場合は設ける必要がない。p型AlGaN層105を設けない構成の場合は、GaN層103におけるゲート電極106の下方に生じる2次元電子ガス層が空乏化しないため、トランジスタはノーマリオン動作をすることになる。
【0068】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図2を参照しながら説明する。
【0069】
図2に示すように、第2の実施形態に係る窒化物半導体装置である電界効果トランジスタは、アンドープのAlGaN層104とソース電極107との間、及びAlGaN層104とドレイン電極108との間に、それぞれMgAl層209を形成している。なお、MgAl層209には、MgとAlとが一様に混合された合金を用いることができる。
【0070】
このようにすると、オーミック電極であるソース電極107及びドレイン電極108を形成する際の熱処理によって、AlGaN層104中にMgを選択的に拡散することが可能となる。
【0071】
その上、第2の実施形態においては、AlGaN層104におけるソース電極107及びドレイン電極108の形成部分に、エピタキシャル成長時にp型AlGaN層105から拡散したMgに加えて、MgAl層209からもMgが拡散する。これにより、第1の実施形態で説明したメカニズムにより、AlGaN層104における各電極107、108の下側部分に、さらに多くの窒素空孔(V)が形成される。その結果、AlGaN層104の上部、特にその表面付近におけるキャリア濃度を増大することができるため、AlGaN層104の低抵抗化を図ることができる。
【0072】
また、MgAl層209は、Mgが拡散した後に残るAl層を、ソース電極107及びドレイン電極108の構成材料としてそのまま用いることができる。すなわち、第2の実施形態に係るMgAl層209は、拡散種を高い濃度で供給するという機能と、ソース電極107及びドレイン電極108の構成材料となるという機能との双方を備えており、各電極107、108のコンタクト抵抗の低減にさらに有効である。
【0073】
なお、第2の実施形態においても、アンドープのAlGaN層104の上に形成されたp型AlGaN層105は、ノーマリオフ動作を必要としない場合は設ける必要がない。
【0074】
また、AlGaN層104とその上に形成されるp型AlGaN層105との、他の混晶の組み合わせは、上記の[表1]を適用できる。
【0075】
(第2の実施形態の一変形例)
以下に、本発明の第2の実施形態の一変形例を説明する。
【0076】
本変形例の第2の実施形態と異なる点は、第2の実施形態においては、MgAl層209を、MgとAlと一様に混合された合金を用いているのに対し、本変形例においては、MgAl層209の混合比を、AlGaN層104側からソース電極107及びドレイン電極108側に向けて徐々に変化する構造を採る。
【0077】
MgAl層209は、Mg原子がAlGaN層104により多く拡散し、且つ、Al原子がオーミック電極を構成するAl層の純度を維持する目的で導入されている。従って、AlGaN層104に近い部分では、Mgの割合がより大きい組成とし、ソース電極107及びドレイン電極108に近い部分では、Alの割合がより大きい組成とすることにより、その目的に対する効果がさらに顕著となる。
【0078】
このような組成を持つMgAl層209を形成するには、該MgAl層209の組成を連続的又は層状に段階的に変更可能な成膜方法を用いることができる。例えば、組成を変化させたMgAl層209は、例えば電子ビーム蒸着法により、MgソースとAlソースとの蒸着量を調整することにより形成可能である。
【0079】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について図3を参照しながら説明する。
【0080】
図3に示すように、第3の実施形態に係る窒化物半導体装置である電界効果トランジスタは、アンドープのAlGaN層104の上で且つソース電極107とドレイン電極108との間の領域に、厚さが約10nmのアンドープのInGaN層305がエピタキシャル成長により形成されている。従って、p型AlGaN層105は、InGaN層305の上に選択的に形成されている。
【0081】
SiNからなる保護膜109は、アンドープのInGaN層305におけるソース電極107及びドレイン電極108を除く上面と、p型AlGaN層105におけるゲート電極106を除く上面及び側面に形成されている。
【0082】
また、本発明の特徴である、p型AlGaN層105からMgが拡散してなる不純物拡散層110は、AlGaN層104におけるース電極107の直下の領域とドレイン電極108の直下の領域とに選択的に形成されている。
【0083】
以下、前記のように構成された第3の実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法について図4(a)〜図4(d)を参照しながら説明する。
【0084】
まず、図4(a)に示すように、例えば、有機金属化学的気相堆積(MOCVD)法等により、サファイアからなる基板101の主面上に、膜厚が100nmのAlNからなるバッファ層102と、膜厚が2μmのアンドープのGaN層103と、膜厚が25nmのアンドープのAlGaN層104と、膜厚が10nmのアンドープのInGaN層305とを順次エピタキシャル成長する。続いて、形成された半導体積層体にArイオンを選択的にイオン注入することにより、素子分離領域111を形成する。続いて、リソグラフィ法及びエッチング法により、InGaN層305におけるソース電極及びドレイン電極の各形成領域を開口する開口部305aを形成して、その下のAlGaN層104をそれぞれ露出する。
【0085】
次に、図4(b)に示すように、再度、MOCVD法等により、InGaN層305及び該InGaN層305の開口部305aから露出するAlGaN層104の上に、膜厚が50nmのp型AlGaN層105Aをエピタキシャル成長する。
【0086】
次に、図4(c)に示すように、リソグラフィ法及びエッチング法により、p型AlGaN層105Aにおけるゲート電極形成領域をマスクしてエッチングすることにより、ゲート電極形成領域となるp型AlGaN層105を形成する。
【0087】
次に、図4(d)に示すように、リソグラフィ法及びスパッタ法等により、InGaN層305の開口部305aに、Ti/Alからなるソース電極107、108を選択的に形成する。続いて、再度、リソグラフィ法及びスパッタ法等により、p型AlGaN層105の上に、Niからなるゲート電極106を選択的に形成する。
【0088】
次に、CVD法により、SiNからなる保護膜109を、各電極106、107及び108を除くp型AlGaN層105及びInGaN層305の露出部分に形成して、図3に示す電界効果トランジスタを得る。
【0089】
第3の実施形態によると、図4(b)に示すように、AlGaN層104におけるInGaN層305の開口部305aからの露出部分には、p型AlGaN層105AからMgが拡散する。しかしながら、アンドープのAlGaN層104とアンドープのInGaN層305との界面にはMgの拡散が生じない。これは、InGaN層305が、MgのAlGaN層104に対する拡散抑制層として働くためである。
【0090】
このように、p型AlGaN層105Aの成長工程において、Mgの拡散は、AlGaN層104におけるInGaN層305の開口部305aから露出した領域に留まる。すなわち、InGaN層305の下側のAlGaN層104にはMgが拡散しない。このため、AlGaN層104におけるソース電極107及びドレイン電極108の形成領域を除く領域においては、窒素空孔(V)によるドナー型欠陥の濃度の増大を抑制することができる。従って、電子走行領域である2次元電子ガス層の上層に位置するAlGaN層104への不純物(Mg)の導入が抑制されるので、2次元電子ガス層におけるキャリアの移動度の低下を防ぐことが可能となる。その上、アンドープのAlGaN層104のエネルギーバリアの薄層化によるゲートリーク電流を抑制することが可能となる。
【0091】
なお、第3の実施形態においても、アンドープのInGaN層305の上に形成されたp型AlGaN層105は、ノーマリオフ動作を必要としない場合は設ける必要がない。
【0092】
また、AlGaN層104とその上方に形成されるp型AlGaN層105との、他の混晶の組み合わせは、上記の[表1]を適用できる。
【0093】
また、第3の実施形態においては、InGaN層305は、AlGaN層104におけるソース電極107及びドレイン電極108の各形成領域以外の領域に、Mgが拡散しないようにするために設けている。従って、アンドープのInGaN層305以外の材料であっても、AlGaN層104へのMgの拡散を防止できるIII族窒化物半導体であれば、InGaN層305に代えて適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る半導体装置は、窒化物半導体を用いた半導体装置のオン抵抗を低減でき、例えば民生機器の電源回路等に用いられるパワートランジスタ等に適用可能な半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0095】
101 基板
102 バッファ層
103 GaN層(第4の窒化物半導体層)
104 AlGaN層(第1の窒化物半導体層)
105 p型AlGaN層(第2の窒化物半導体層)
105A p型AlGaN層
106 ゲート電極(第2の電極)
107 ソース電極(第1の電極)
108 ドレイン電極(第1の電極)
109 保護膜
110 不純物拡散層(不純物拡散領域)
111 素子分離領域
209 MgAl層
305 InGaN層(第3の窒化物半導体層)
305a 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の窒化物半導体層と、
前記第1の窒化物半導体層の上に形成され、前記第1の窒化物半導体層とオーミック接触する第1の電極とを備え、
前記第1の窒化物半導体層の上部における少なくとも前記第1の電極と接触する部分には、不純物拡散領域が形成されており、
前記不純物拡散領域は、前記第1の窒化物半導体層に対しアクセプタ性を示す不純物が拡散し、且つ、前記第1の窒化物半導体層における窒素空孔と前記不純物とが結合してなる不純物準位が、前記第1の窒化物半導体層の伝導帯端の近傍に形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第1の窒化物半導体層の上における前記第1の電極を除く領域に選択的に形成された、p型の第2の窒化物半導体層をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2の窒化物半導体層の上に形成され、前記第2の窒化物半導体層とオーミック接触する第2の電極をさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、ソース電極又はドレイン電極であり、
前記第2の電極は、ゲート電極であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記不純物は、前記第1の窒化物半導体層の上部に欠陥を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記不純物は、マグネシウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1の電極は、層状のマグネシウムと層状のアルミニウムとを含む積層膜、又はマグネシウムとアルミニウムとを含む合金層を含むことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1の電極は、マグネシウムの含有量が、前記第1の窒化物半導体層に近い側で大きく、且つ前記第1の窒化物半導体から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1の窒化物半導体層における組成は、前記不純物拡散領域においてストイキオメトリからずれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1の窒化物半導体層は、III族元素が窒素と比べて高い比率で形成されていることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1の窒化物半導体層と前記第2の窒化物半導体との間に形成された第3の窒化物半導体層をさらに備え、
前記第3の窒化物半導体層は、前記不純物の前記第2の窒化物半導体層への拡散を防ぐことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の半導体装置
【請求項12】
前記第3の窒化物半導体層は、窒化インジウムガリウムからなることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第1の窒化物半導体層における前記第1の電極とは反対側の面上に形成され、前記第1の窒化物半導体層とは組成が異なる第4の窒化物半導体層をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−227456(P2012−227456A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95710(P2011−95710)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】