説明

基板支持装置およびこれを備えるプラズマ処理装置

【課題】 プラズマ処理室内に配置され、下方側に管構造を備える基板支持装置において、装置構成の大規模化や複雑化を招くことなく、管構造内部での結露を有効に防止する。
【解決手段】 基板支持電極を構成する基板ベース11と基板支持電極を支持する支持管14とは、絶縁フランジ15で互いに絶縁され、また、基板ベース11の下面111に接続される冷却水配管等は、支持管14の内部で絶縁カラー16により保持される。また絶縁カラー部16は絶縁フランジの中空に嵌合している。ここで、基板ベース11の下面111、絶縁フランジ15の内周面152、および絶縁カラー部16の外周面161により形成される下面露出空間Sを、防水透湿性材料からなるOリング17で水密に封止する。Oリングは透湿性を有するので、冷却により生じた水滴Dを水蒸気として、下面露出空間Sから揮発させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理の対象である基板を支持する基板支持装置と、これを備えるプラズマ処理装置とに関し、特に、前記支持台が冷却されるよう構成され、かつ、冷却に伴う結露の原因となる水分が水蒸気として放散するよう構成される基板支持装置と、これを備えるプラズマ処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置の代表的な一例として、対向する上下一対の平板型電極を備える構成が挙げられる。通常、下方側の電極は、プラズマ処理の対象となる基板を支持する基板支持台とともに一体化され基板支持装置となる。そして下方側の電極に高周波電力を印加することで、上方側の電極との間に高周波電界が形成され、これによりプラズマが発生する。
【0003】
前記基板支持装置には、通常、支持する基板を下方側から冷却する冷却部がさらに設けられる。プラズマ処理に際しては、基板はプラズマからの熱を受けるため、基板の温度が上昇する。この温度上昇は、プラズマ処理そのものに影響を与えるため、前記冷却部により基板支持台を冷却することで、支持される基板の温度を一定に保持する。ここで、前記冷却部により基板支持台を冷却すると、基板支持台やその周辺で外気にさらされる部位に結露が生じる。そこで、この結露の発生を防止する技術が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、下端側が高周波電源に電気的に接続され、プラズマ処理を行う処理室の下方側から下部電極まで設けられた内部導体棒と、下端側が接地され上端側が前記処理室の底部に接続された外部導体管とよりなる二重管構造の高周波給電棒とを備えるプラズマ処理装置であって、さらに、前記高周波給電棒を加熱するための加熱手段を備える構成が開示されている。
【0005】
前記プラズマ処理装置では、前記処理室内に下部電極をなすサセプタ(基板支持台)を冷却すると、前記高周波給電棒も相当低い温度になるため、前記内部導体棒と外部導体管との表面に結露し、短絡するおそれがある。そこで、前記高周波給電棒を加熱手段により加熱することで、前記高周波給電棒の結露が抑えられるとされる。この文献では、高周波給電棒の下部側に、当該高周波給電棒内の水滴を受けるための絶縁材よりなる受け皿を設ける構成もさらに開示されている。これにより、高周波給電棒に結露し、高周波給電棒を伝って水滴が垂れてきても受け皿に溜まるため、短絡が防止できるとされる。また、この文献では、内部導体棒と外部導体管との間を低露点ガス雰囲気としておくことも開示され、これによっても、前記高周波給電棒の結露が抑えられるとされる。
【0006】
また、特許文献2では、プラズマエッチング装置等のウェーハ処理装置において、冷却槽に液化窒素を給排する冷媒給排管路について、乾燥ガス室内で絶縁部材を介してそれ自体の導入側と導出側とを絶縁する構成が開示されている。この構成によれば、冷媒給排管路の結露が防止でき、高周波電圧が系外に漏電することを確実に防止できるとされる。
【0007】
また、特許文献3では、プラズマ処理装置において、冷却手段による冷却部の外側の少なくとも一部を、表面に導体層を形成した樹脂製のカバーによって覆う構成が開示されている。この構成によれば、金属等に較べて熱伝導率の低い樹脂製のカバーによって冷却部の外側を覆うことにより、冷却に伴う結露を防止することができるとともに、高周波のリークが生じることを防止することができるとされる。
【特許文献1】特開平06−252101号公報
【特許文献2】特開平04−030427号公報
【特許文献3】特開平05−121333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術では、結露の発生を防止する構成を備えることで基板支持装置の大規模化等を招いたり、基板支持装置の構成によっては結露を有効に防止できなかったりするおそれがあるという問題点を生ずる。
【0009】
すなわち、前記特許文献1では、プラズマ処理装置が、高周波給電棒専用の加熱手段を別途備えるため、その装置構成が大規模化したり複雑化したりする。同様に、低露点ガスを導入する構成であっても、当該ガスを導入するための配管等、のように当該ガス雰囲気を維持するための構成をプラズマ処理装置が別途備えるため、やはり装置構成が大規模化や複雑化を招く。このような大規模化や複雑化は、プラズマ処理装置の製造コストや維持コストの増大を招く。
【0010】
また、前記特許文献2および3は、前記特許文献1のように、プラズマ処理装置に別途加熱手段を設けずに、樹脂製部材を利用して結露を防止する構成を開示する。ただし、特許文献2に開示されるウェーハ処理装置は、下部電極に相当する電極プレートの下方全体が冷却槽となる構成であることから、特許文献1のように、下部電極の下方側に高周波を給電する管構造を備える構成とは異なる。それゆえ、特許文献2に開示の技術は、下方全体が冷却槽となる構成では有効であっても、特許文献1に開示する構成のプラズマ処理装置にそのまま適用することはできない。
【0011】
これに対して、特許文献3に開示されるプラズマ処理装置は、下部電極の下方に電極ロッドと冷媒循環配管とを備える構成であり、特許文献1に開示するプラズマ処理装置に構成上類似する。ところが、この文献では、前記電極ロッドおよび冷媒循環配管を含む、下方電極の下方全体を樹脂製のカバーで覆っているので、前記管構造の内部で発生する結露を防止することはできない。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、プラズマ処理室内に配置され、下方側に基板支持電極を支持する管構造を備える基板支持装置において、装置構成の大規模化や複雑化を招くことなく、管構造内部での結露を有効に防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る基板支持装置は、前記の課題を解決するために、冷媒が流通する冷媒流路が形成され、プラズマ処理の対象となる基板を上面で支持した状態でプラズマ形成用の電力が印加される平板状の基板支持電極と、前記基板支持電極の下方に配置され、上端側開口の周囲に縁部を有する導電性の支持管と、前記基板支持電極の下面と前記支持管の前記縁部との間に設けられ、前記支持管の前記上端側開口の形状に対応した開口部が形成され、前記基板支持電極と前記支持管とを絶縁する絶縁性のフランジ部材と、前記基板支持電極の前記下面から前記冷媒流路につながり、前記冷媒流路に前記冷媒を導入する冷媒流通管と、前記基板支持電極の前記下側に、下端が前記支持管の前記上端側開口の内部に位置するように前記フランジ部材の前記開口部に嵌挿されて配置され、前記冷媒流通管を少なくとも保持する絶縁性のカラー部材と、前記フランジ部材の内周面と前記カラー部材の外周面との間に設けられるシール部材と、を備え、前記シール部材は、少なくとも防水透湿性を有する材料から構成されている。
【0014】
前記構成では、前記フランジ部材の内周面と、前記カラー部材の外周面との間には、わずかながら隙間が生じ、この隙間で基板支持電極の下面がわずかに露出する。それゆえ、基板支持電極が冷却されると、わずかな露出面で結露が生じ、水滴が下方に流れ出すおそれがある。そこで、前記シール部材を設けることにより、前記隙間を水密に封止できるとともに、前記シール部材が透湿性を有しているので、封止された隙間に溜まった水滴を水蒸気として揮発させることができる。その結果、結露による短絡や腐食を防止することができるとともに、結露の発生そのものを抑制することができる。
【0015】
前記基板支持装置においては、前記基板支持電極は、前記基板支持電極の本体であり、かつ、前記冷媒流路が形成されている平板状の基板支持体、および、前記基板を前記基板支持体の上面に静電吸着させるチャック電極を含み、かつ、ガスが流通するガス流路が形成されている静電チャック基板から少なくとも構成され、前記基板支持電極の前記下面から前記静電チャック基板の前記ガス流路につながり、前記ガス流路に前記ガスを導入するガス流通管を、さらに備え、前記カラー部材は、前記冷媒流通管に加えて前記ガス流通管を保持するよう構成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記基板支持装置では、前記シール部材に用いられる前記防水透湿性材料は、シリコーン樹脂またはテトラフルオロエチレン樹脂であることが好ましく、前記防水透湿性材料が多孔質であることがより好ましい。
【0017】
本発明には、前記基板支持装置を備えるプラズマ処理装置も含まれる。当該プラズマ処理装置の具体的な種類は特に限定されず、プラズマ成膜装置、プラズマエッチング装置、プラズマ洗浄装置等に好適に用いることができるが、代表的な例としては、シートプラズマ処理装置を挙げることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明では、プラズマ処理室内に配置され、下方側に基板支持電極を支持する管構造を備える基板支持装置において、装置構成の大規模化や複雑化を招くことなく、管構造内部での結露を有効に防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0020】
(実施の形態1)
[基板支持装置の基本構成]
まず、本実施の形態に係る基板支持装置の基本構成の一例について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る基板支持装置の概略構成を示す模式図である。
【0021】
本実施の形態に係る基板支持装置10は、プラズマ処理装置のプラズマ処理室内に設けられ、図1に示すように、基板ベース11、静電チャック基板12、リフトピン13、支持管14、絶縁フランジ15、絶縁カラー部16、プラズマ発生用電源21、静電チャック用電源22、冷却水循環部(チラー)23、ヘリウムガス供給部24、冷却水配管31、ヘリウムガス配管41を備えている。
【0022】
基板ベース11は、平板状の電極であり、プラズマ発生用電源21に接続され、プラズマを形成するための高周波電力または直流電力が印加される。また、プラズマ発生用電源21は、プラズマ処理室内において、基板ベース11と対向する位置に設けられる図示されない対向電極にも電力を供給するように接続されている。そして、プラズマ処理空間内にプラズマ処理用ガスを供給した上で、基板ベース11および前記対向電極の間に電力を供給すると、これら電極の間に放電が生じ、プラズマ処理用ガスがプラズマ化される。
【0023】
基板ベース11は、プラズマ処理の対象となる基板(処理対象基板)51を支持する基板支持体としても機能し、本実施の形態では、静電チャック基板12を介してその上面で処理対象基板51を支持している。また、基板ベース11は、その内部に冷却水を流通させる冷却水路32が形成され、この冷却水路32は、冷却水配管31を介して冷却水循環部23に接続されている。冷却水循環部23の動作により冷却水配管31から冷却水路32へ冷却水が導入され、冷却水路32中を冷却水が流通することにより、基板ベース11が冷却される。その結果、その上面で支持される処理対象基板51も冷却される。
【0024】
冷却水配管31の具体的な構成は特に限定されないが、冷却水が外気で温められないように周囲を断熱材で覆った断熱材付配管を好ましく用いることができる。また、本実施の形態では、冷却水配管31は、冷却水循環部23に2本接続され、一方が冷却水を冷却水路32に導入し、他方が冷却水路32から冷却水を排出して冷却水循環部23に戻す構成となっているが、これに限定されない。同様に、冷却水路32の具体的な形状も特に限定されないが、基板ベース11の形状に対応した円環状の溝等として形成することができる。基板ベース11の材質は、導電性の材料であれば限定されないが、アルミニウムやステンレス等が好ましく用いられる。
【0025】
静電チャック基板12は、基板ベース11の上面に設けられ、例えばアルミナ等で形成される2つの誘電体層または絶縁層の間に、導電体層であるチャック電極25を挟持する構成である。このチャック電極25に静電チャック用電源22から直流高圧電力を印加することにより、誘電体層の表面に生じるクーロン力を利用して処理対象基板51を静電吸着して固定する。また、静電チャック基板12には、その中央部に、例えば溝状のガス流路42が形成されている。このガス流路42は、ヘリウムガス配管41を介してヘリウムガス供給部24に接続され、当該ヘリウムガス供給部24からヘリウム(He)ガスが供給される。ガス流路42内でヘリウムガスを流通させることにより、処理対象基板51を冷却する。
【0026】
ヘリウムガス配管41の具体的な構成は特に限定されないが、前記冷却水配管31と同様に断熱材付配管を好ましく用いることができる。また、本実施の形態では、ヘリウムガス配管41には、図1に示すように、バルブ43が設けられ、このバルブ43の開閉によりヘリウムガスの供給を行ったり供給を停止したりする。ガス流路42の具体的な形状も特に限定されず、前記冷却水路32と同様に、静電チャック基板12の形状に対応した円環状の溝等として形成することができる。
【0027】
リフトピン13は、基板ベース11および静電チャック基板12の一部を貫通して、基板ベース11の上面に対して垂直に移動するように設けられており、処理対象基板51の固定支持を解除するために用いられる。処理対象基板51が静電チャック基板12により固定支持されている状態では、図1に示すように、リフトピン13の上端は静電チャック基板12の上面(処理対象基板51の固定面)と段差のない状態で、処理対象基板51の裏側面に当接している。処理対象基板51の固定支持を解除するときには、リフトピン13の上端を上方に移動させ、処理対象基板51の裏側面を静電チャック基板12の固定面から離間させる。リフトピン13は、ピン形状であれば具体的な構成は限定されず、導電性材料で形成されてもよいし絶縁性材料で形成されてもよい。
【0028】
本実施の形態では、前記基板ベース11および前記静電チャック基板12により基板支持電極が構成される。なお、基板支持電極には、基板ベース11および静電チャック基板12以外の部材が含まれもよく、例えば、前記リフトピン13も基板支持電極に含まれてよい。
【0029】
支持管14は、前記基板支持電極をその上端に載置して支持するとともに、その内部に、前記冷却水配管31、ヘリウムガス配管41等を配置する。本実施の形態では、基板ベース11の下面に、冷却水配管31およびヘリウムガス配管41が接続され、さらに模式的に示すが、プラズマ発生用電源21および静電チャック用電源22からの配線も接続されている。それゆえ、支持管14の上端で基板支持電極(基板ベース11および静電チャック電極12)を支持することで、下面につながる各種配管や配線を、上端側開口141から支持管14の内部に収容し、保護することができる。
【0030】
支持管14は、本実施の形態では、基板ベース11の下方に、上下方向に延在するよう配置されている。そして、上端側開口141の周囲に縁部142が形成され、この縁部142の上に基板支持電極を載置して支持する。縁部142の幅は特に限定されず、基板支持電極を安定して支持できる接触面積を確保し、かつ、縁部142から基板ベース11が外れないようにボルト等の固定部材を取り付けることができる固定領域を確保できればよい。
【0031】
支持管14の配置方向は上下方向(鉛直方向)に限定されず、傾斜して延在してもよいし、曲がっていてもよい。また、支持管14のその他の形状も特に限定されず、プラズマ処理室の形状や固定支持する処理対象基板51の種類等に応じて適切な形状を採用することができる。また、支持管14は、基板ベース11と同様にアルミニウムやステンレス等の導電性材料から形成されている。なお、基板支持装置10はプラズマ処理室の内部に設けられるが、このプラズマ処理室の内部は基本的に真空状態である。これに対して、支持管14の内部は外気に通ずるようになっている。
【0032】
前記基板支持電極の本体である基板ベース11と前記支持管14との間には、絶縁フランジ15が設けられる。また、基板ベース11の下面には、前記冷却水配管31およびヘリウムガス配管41等がつながっているが、これら配管は、絶縁カラー部16により支持管14内で保持されている。これら絶縁フランジ15および絶縁カラー部16については、支持管14による基板支持電極の固定支持の状態とともに、以下で詳細に説明する。
【0033】
[支持管による基板支持電極の固定支持]
次に、前記基板支持装置10において、支持管14による基板支持電極(基板ベース11および静電チャック基板12)の固定支持の状態について、図1、図2および図3を参照して説明する。図2は、図1において支持管による基板支持電極の固定支持の具体的構成を示す要部断面図であり、図3は、図2において、支持管14、絶縁フランジ15および絶縁カラー部16の位置関係を示す要部断面図である。
【0034】
前記のとおり、基板ベース11と前記支持管14との間には、絶縁フランジ15が設けられる。具体的には、支持管14の縁部142の上方に絶縁フランジ15が設けられ、さらにその上に基板ベース11が載置される。前記のとおり、基板ベース11および支持管14はいずれも導電性材料からなっているが、基板ベース11には、プラズマ発生用電源21が接続され、プラズマ発生用の高周波電力が印加される。それゆえ、これらを電気的に絶縁するために、絶縁フランジ15が配置される。さらに、本実施の形態では、例えば、図2および図3に示すように、縁部142および絶縁フランジ15を貫通して、基板ベース11の下面111に形成された螺合穴に螺合するように、複数の電極固定ボルト18aが設けられる。この電極固定ボルト18aにより、縁部142の上で、絶縁フランジ15を介して基板ベース11が固定支持される。
【0035】
なお、電極固定ボルト18aの具体的構成は特に限定されないが、通常、各種金属からなり導電性を有するものが用いられる。ただし、電極固定ボルト18aは、絶縁フランジ15を貫通して基板ベース11および支持管14に接触することになるので、図2に示すように、電極固定ボルト18aと縁部142の貫通孔との間には、絶縁ボルトカラー19を設け、基板ベース11と支持管14とが導通しないように構成している。
【0036】
絶縁フランジ15には、図3に示すように、支持管14の上端側開口141の形状に対応する開口部151が形成されている。本実施の形態では、この開口部151の内側に、さらに絶縁カラー部16が設けられる。絶縁カラー部16は、図2に示すように、基板ベース11の下面111につながる冷却水配管31、ヘリウムガス配管41等を、支持管14の上端側開口141内で保持する。その他、プラズマ発生用電源21や静電チャック用電源22からの配線やその他の配管等を保持してもよい。本実施の形態では、絶縁カラー部16は円柱状であり、その外径は支持管14の上端側開口141の内径に対応する大きさとなっている。そして、この円柱状の本体の高さ方向(厚み方向)に冷却水配管31およびヘリウムガス配管41等を貫通させることにより、基板ベース11の下面とこれら配管との接続状態を保持する。
【0037】
また、本実施の形態では、絶縁フランジ15の開口部151は、支持管14の上端側開口141とほぼ対応する形状となっており、また、絶縁フランジ15の厚みに対して絶縁カラー部16の高さ(厚み)は大きくなっている。それゆえ、図2および図3に示すように、絶縁カラー部16は、支持管14の上端側開口141の内部から絶縁フランジ15の開口部151に渡って位置するように設けられ、絶縁カラー部16の外周面は下側で支持管14の内部に露出している。言い換えれば、絶縁カラー部16の下端は支持管14の上端側開口141の内部に位置するように、絶縁フランジ15の開口部151に嵌挿されて配置されている。
【0038】
なお、図3では、絶縁フランジ15の開口部151に絶縁カラー部16が嵌挿する状態をより明確とするために、絶縁カラー部16を破線で示すとともに、図2と比較して、支持管14の上端側開口141と絶縁カラー部16の外周面との間は、相対的に大きくなるよう図示している。
【0039】
絶縁カラー部16の具体的な構成や形状は特に限定されず、前記配管等を安定して保持でき、かつ、その外周面161が絶縁フランジ15の内周面に当接するようになっていれば、円柱状ではなく円筒状であってもよい。絶縁カラー部16の材質も特に限定されず、前記絶縁フランジ15と同様に、各種プラスチックやセラミック等の絶縁性材料で形成されている。ただし、絶縁フランジ15は、基板ベース11と支持管14との間に介在していることから、その外周がプラズマ処理室の内部に露出する。そのため、絶縁フランジ15には、真空への耐久性が求められる。一方、絶縁カラー部16は、支持管14の内部に位置するため、真空の耐久性は不要である代わりに、各種配管等を貫通させた状態で保持するための形状維持性が求められる。したがって、絶縁フランジ15と絶縁カラー部16とは、同じ絶縁性の部材であっても一体の部材として構成することはできない。
【0040】
絶縁カラー部16は、図2に示すように、基板ベース11の下面に対して、複数のカラー固定ボルト18bにより固定される。カラー固定ボルト18bの具体的構成は特に限定されず、公知のボルトを用いることができる。また、図2では、円柱状の絶縁カラー部16において、基板ベース11との当接面とは反対側となる面(露出面)に、カラー固定ボルト18bのボルト頭部が突出しないよう構成されている。すなわち、絶縁カラー部16には、カラー固定ボルト18bを貫通する貫通孔だけでなく、ボルト頭部を露出面内に収容可能とする座繰り穴も形成されている。なお、図2では、絶縁フランジ15、絶縁カラー部16、および支持管14の縁部142の位置関係を説明する便宜上、冷却水配管31およびヘリウムガス配管41の記載は破線で示している。
【0041】
本実施の形態では、特に図3に示すように、絶縁フランジ15の開口部151に、円柱状の絶縁カラー部16が嵌挿して、その外周面が絶縁フランジ15の内周面に当接しているが、さらにこれら内周面および外周面の間には、図1および図2に示すように、シール部材としてOリング17が設けられている。図1では、絶縁フランジ15、Oリング17、および絶縁カラー部16の位置関係は模式的に示しているが、図2では、例えば、絶縁カラー部16の外周面に、Oリング17を嵌め込む溝が形成され、ここにOリング17を嵌め込んだ上で、絶縁フランジ15の中空部の内側に絶縁カラー部16を嵌め込んでいる。このOリング17を設けることにより、基板支持電極(特に基板ベース11)と支持管14との絶縁性を維持しつつ、冷却に伴って基板ベース11に結露が発生したときでも、この結露を原因とする短絡を防止することができる。
【0042】
[結露による短絡の防止]
次に、前記Oリング17を設けることによる短絡の防止について、図4を参照して説明する。図4は、図2に示す支持管による基板支持電極の固定支持の構成において、破線枠Iで囲んだ領域の拡大図であり、絶縁フランジ15、Oリング17、絶縁カラー部16、および支持管14の上端側開口141の位置関係を模式的に示す拡大断面図である。
【0043】
前記のとおり、基板ベース11には冷却水路32が形成され、冷却水配管31を介して冷却水が導かれる。また、静電チャック基板12には、ガス流路42が形成され、ヘリウムガス配管41を介してヘリウムガスが導かれる。これら冷却水やヘリウムガスは、基板ベース11および静電チャック基板12を冷却する冷媒であるので、基板ベース11および静電チャック基板12により構成される基板支持電極と、この基板支持電極により支持される処理対象基板51も冷却される。
【0044】
ここで、基板支持装置10は、プラズマ処理室の内部に設けられる。前記のとおり、プラズマ処理室の内部が真空であるので、基板支持電極および処理対象基板51が冷却されても、これらに結露は生じない。一方、基板支持電極を固定支持する支持管14の内部は、外気に通じているので、基板支持電極が露点以下に冷却されると、その下面(具体的には、基板ベース11の下面111)には結露が発生し得る。ただし、基板ベース11の下面111は、絶縁カラー部16が当接するため、外気側に露出していない。
【0045】
ところが、図4に示すように、絶縁フランジ15の内周面152と、絶縁カラー部16の外周面161とは、互いに当接しているといっても実際にはわずかな隙間が生じる。それゆえ、実際には、基板ベース11の下面111は、わずかながら外気に露出しているため、ここで結露が発生する。発生した結露が成長して大きな水滴(図4では参照符号Dかつ密なハッチングで示す。)となれば、当該水滴Dは自重で下方に流れ出す。この水滴の流下を放置すると、基板ベース11と支持管14との間に短絡が生じるおそれがあるだけでなく、基板ベース11や支持管14の腐食も招くおそれがある。
【0046】
あるいは、基板支持電極を0℃以下に冷却すれば、結露は凍結して霜となるため、冷却が維持されている状態では、水滴Dの流下そのものは回避できる。しかしながら、冷却した基板支持電極を常温に戻せば、霜は溶け出すので、長期間の冷却に伴い多くの霜が発生すると、常温に戻した時点でより多くの水滴Dが流下することになる。そこで、図4に示すように、Oリング17を設けることにより、基板ベース11の下面111、絶縁フランジ15の内周面152、絶縁カラー部16の外周面161で形成される空間を水密に封止する。なお、説明の便宜上、前記空間を、基板ベース11の下面111が露出していることから「下面露出空間」と称し、図4では、参照符号Sで示す。
【0047】
さらに、本実施の形態では、Oリング17は、防水透湿性材料で形成されている。防水透湿性材料は、液体である水は透過させないが、水蒸気や空気等の気体は透過させることができる。それゆえ、下面露出空間S内に溜まった水滴Dは、水蒸気となって揮発することが可能となり、当該下面露出空間Sから逃げていく(図4の点線矢印)。その結果、結露による短絡や腐食をより一層有効に防止することができるだけでなく、結露が大きな水滴になるまで成長する前に、水蒸気として下面露出空間Sから揮発させることが可能となるので、結露の発生そのものを抑制することができる。
【0048】
また、Oリング17が透湿性を有するため、通常の空気の流通も可能となる。それゆえ、下面露出空間Sは、外気と空気の流通を確保することができることになり、下面露出空間Sと外気との温度差も生じにくくなる。したがって、結露の発生をより一層有効に抑制することができる。
【0049】
前記Oリング17の具体的構成は特に限定されず、少なくとも防水透湿性を有する材料から構成され、下面露出空間Sを水密に維持でき、かつ、水蒸気を透過できればよい。防水透湿性を有する材料としては、例えば、シリコーン樹脂(SI)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリウレタン樹脂(PU)等の公知の材料を好適に用いることができる。なかでも、シリコーン樹脂またはポリテトラフルオロエチレン樹脂が好ましく用いられる。これは、前記のとおり、基板支持電極の冷却温度が0℃以下になる場合があること、後述するように、基板支持電極が加熱されてもよいことから、Oリング17は、耐寒性、耐熱性を備えていることが好ましいためである。
【0050】
また、前記樹脂材料は、高分子同士が架橋したエラストマー(ゴム)となっていることがより好ましい。これにより、Oリング17の弾性を向上することができるので、下面露出空間Sの水密をより有効に維持することができる。さらに、前記樹脂材料は多孔質であると特に好ましい。前記樹脂材料が多孔質となっていれば、Oリング17の弾性を維持しつつ、その透湿性を一層向上させることができる。したがって、本実施の形態で、特に好ましいOリング17の構成としては、多孔質エラストマーの防水透湿性材料で形成されている構成を挙げることができる。また、必要に応じて、Oリング17は、防水透湿性材料に他の材料を組み合わせた複合材料から形成されてもよい。
【0051】
[変形例]
基板ベース11に形成される冷却水路32には、冷却水に代えて他の冷媒を流通させてもよいし、基板ベース11を加熱する熱媒を流通させてもよい。他の冷媒としては、アンモニア、二酸化炭素、ハロゲン系炭化水素等が上げられる。熱媒としては、湯(すなわち冷水ではなく熱水)、シリコーン油、芳香族炭化水素系油、溶融塩等が挙げられる。冷却水路32に熱媒も流通させるように構成すれば、冷却された基板ベース11を加熱することができるので、Oリング17を介する結露水の蒸発効果を高めることができる。同様に、静電チャック基板12に形成されるガス流路42にも、加熱用ガスを流通させることができる。
【0052】
また、本実施の形態では、絶縁フランジ15と絶縁カラー部16との間には、シール部材としてOリング17を設けたが、本発明はこれに限定されず、Oリング17に代えてガスケットを用いてもよい。つまり、弾性を有し、基板ベース11の下面111、絶縁フランジ15の内周面152、絶縁カラー部16の外周面161で形成される空間を水密に封止でき、かつ、透湿性を発揮できるシール部材であれば、Oリング17に限らず、公知の他のシール部材を用いることができる。
【0053】
また、絶縁カラー部16の外周面161で、Oリング17の位置と基板ベース11の下面111との間となる面に、結露水を集約させる排水溝を設けてもよい。これにより、結露水が漏れにくく、かつ、結露水が蒸発しやすい特定の場所に結露水を集約させることができるので、短絡防止の効果をより一層向上させることができる。
【0054】
(実施の形態2)
本発明に係る基板支持装置は、公知のプラズマ処理装置に広く用いることができる。例えば、前記実施の形態1で説明した基板支持装置10は、シートプラズマ処理装置の基板支持装置として好適に用いることができる。そこで、本実施の形態では、前記基板支持装置10を備えるシートプラズマ処理装置について、図5を参照して説明する。図5は、本実施の形態に係るシートプラズマ処理装置100の概略構成を示す模式図である。
【0055】
[シートプラズマ処理装置の構成]
図5に示すように、シートプラズマ処理装置100は、プラズマガン60と、シートプラズマ成形室71と、プラズマ処理室72とを備えている。プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72は、カソードKからアノードAに向かう方向(所定方向)に沿って、この順で配置し、かつ、互いに気密に接続されている。なお、前記所定方向とはプラズマの輸送方向に相当し、カソードK側が上流、アノードA側が下流となる。
【0056】
プラズマガン60は、円筒状の第一筒部材61とその一端を閉鎖するフランジ62とを備えている。フランジ62は、プラズマガン60の一端で内壁面を構成し、このフランジ62の内壁面から突出するようにカソードKが設けられている。プラズマガン60の他端はシートプラズマ成形室71の一端に接続され、シートプラズマ成形室71の他端はボトルネック部73を介してプラズマ処理室72の一端に接続されている。プラズマ処理室72の他端には、プラズマ通過用の通路74が接続されており、当該通路74の末端にはアノードAが設けられている。
【0057】
そして、プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72、並びにアノードAへつながる通路74は、それぞれ気密で連通している。したがって、プラズマガン60、シートプラズマ成形室71およびプラズマ処理室72によって気密な一つの容器(気密容器)70が構成されることになる。この気密容器70の内部は後述するように減圧可能である。
【0058】
[プラズマガン]
プラズマガン60は、前記第一筒部材61およびフランジ62に加え、カソード部63、第一中間電極64、第二中間電極65を備えており、カソード部63に前記カソードKが含まれる。第一筒部材61は、プラズマガン60の本体となり、その内部は放電空間となっている。第一筒部材61の一端には、前記のとおり放電空間を塞ぐようにフランジ62が配置されている。フランジ62には、カソード部63が当該フランジ62の中心部を貫通して取り付けられている。カソード部63は、一次元方向に長さを有し、プラズマガン60内部(第一筒部材61内部)の気密を維持するように、当該フランジ62の中心部を貫通し、フランジ62の内側面(プラズマガン60の内壁面)から前記所定方向に向かって延伸するように配置されている。
【0059】
カソード部63は、図5では詳細に図示されないが、円筒状の補助陰極および円環状の主陰極、並びにこれらを保護する円筒状の保護部材および窓部材を備えている。補助陰極は例えばタンタル(Ta)で形成され、その一方の端部(後端)はフランジ62に気密を維持するよう固定されるとともに、図示されないアルゴン(Ar)ガスタンクと配管により接続されている。これにより、補助陰極の他方の端部(先端)から気密の放電空間内にArガスが供給される。主陰極は、補助陰極の先端近傍の外周面に配置され(もしくは位置し)、例えば六ホウ化ランタン(LaB6 )で形成される。
【0060】
前記補助陰極の外周には、当該補助陰極および先端近傍の主陰極を覆うように保護部材が配置されている。保護部材の形状は、補助陰極と同軸で、かつ、補助陰極よりも径の大きい円筒形状となっている。保護部材は、例えばモリブデン(Mo)またはタングステン(W)により形成される。保護部材の後端はフランジ62に対して気密を維持するよう固定され、その先端には円環状の窓部材が設けられている。前記補助陰極および主陰極によってカソードKが構成され、前記保護部材および窓部材によりカソードKの保護容器が構成される。カソードKは、図示されない直流電源からなる主電源と電気的に接続されている。
【0061】
第一中間電極64および第二中間電極65はいずれも円環状であり、カソード部63の先端側に前記所定方向に沿ってこの順で配置されている。第一中間電極64および第二中間電極65はそれぞれ前記主電源と電気的に接続され、所定の正の電圧が印加される。これにより、カソードKで発生したアーク放電が維持され、放電空間内には荷電粒子(本実施の形態ではAr+ および電子)の集合体としてのプラズマが形成される。なお、本実施の形態では、プラズマガン60は、第一中間電極64および第二中間電極65の2つの中間電極を備えているが、中間電極は少なくとも1つ備えていればよい。
【0062】
プラズマガン60におけるシートプラズマ成形室71側の周囲には、プラズマを円柱状に成形する第一コイル75が設けられている。この第一コイル75は、磁力の強さをコントロールできる環状の電磁コイルであり、これに電流を流すことにより磁場が形成される。以下、このようにコイルにより形成される磁場をコイル磁場と呼ぶ。このコイル磁場と第一中間電極64および第二中間電極65による電界により、プラズマガン60の放電空間内において、前記所定方向に沿って磁束密度の勾配が形成される。プラズマを構成する荷電粒子は、前記磁束密度の勾配により前記所定方向に向かって運動するように、磁力線の回りを旋回しながら前記所定方向に進む。その結果、荷電粒子が円柱形状に略等密度分布してなるソースプラズマ(以下、円柱プラズマという。)CPとして、図示されない通路を介してプラズマガン60からシートプラズマ成形室71へ引き出される。
【0063】
[シートプラズマ成形室]
シートプラズマ成形室71は、プラズマガン60の本体となる第一筒部材61と同一の軸を中心とする円筒状の第二筒部材81を備えており、この第二筒部材81がシートプラズマ成形室71の本体となる。第一筒部材61と第二筒部材81とは、気密を維持し、かつ、電気的に絶縁されて接続されている。第二筒部材81は、導電性材料、半導体材料、絶縁性材料のいずれで形成されてもよいが、強度等を考慮すると導電性金属材料で形成されることが好ましい。第二筒部材81の内部すなわちシートプラズマ成形室71の内部は、プラズマの輸送空間となる。
【0064】
第二筒部材81の適所には、図示されない真空ポンプ接続口が設けられている。当該真空ポンプ接続口はバルブにより開閉可能であり、図示されない真空ポンプ(例えば、ターボポンプ)が接続されている。この真空ポンプによりシートプラズマ成形室71内部を吸引することで、輸送空間内は、円柱プラズマCPを輸送可能なレベルの真空度まで減圧される。
【0065】
シートプラズマ成形室71の周囲には、プラズマガン60側(すなわちカソードK側)に第二コイル76が設けられ、第二コイル76の下流側(すなわちプラズマ処理室72側またはアノードA側)に一対の永久磁石77a,77bが設けられる。第二コイル76は、第二筒部材81の周囲に巻き回される円環状の電磁コイル(空心コイル)であり、カソードK側をS極、アノードA側をN極とする方向に電流が通電される。永久磁石77a(図中上方)および永久磁石77b(図中下方)は、それぞれ角型棒状の永久磁石であり、第二筒部材81(正確には輸送空間)を挟んで互いに同極が対向するように配置されている。各永久磁石77a,77bは、その幅方向(長手方向に直交する方向)に磁化されている。
【0066】
つまり、各永久磁石77a,77bは、その両端部の面がN極およびS極となっているのではなく、角型棒状の一側面がN極、他の側面がS極となるように磁化されている。そして、各永久磁石77a,77bは、その長手方向がシートプラズマ処理装置100の横方向(図5では紙面に対する垂直方向)となり、かつ、互いに同極側が対向するように、シートプラズマ成形室71(第二筒部材81)の上下にそれぞれ配置される。本実施の形態では、永久磁石77a,77bは、互いにN極側が対向するように配置されている。
【0067】
シートプラズマ成形室71では、第二コイル76に電流を流すことにより輸送空間にコイル磁場が形成され、かつ、第二コイル76の下流側に位置する永久磁石77a,77bにより磁石磁場が形成される。これら磁場の相互作用により、前記所定方向へ円柱プラズマCPが移動するとともに、円柱プラズマCPがシートプラズマ処理装置100の横方向に広がる均一なシート状のプラズマ(以下、シートプラズマという。)SPに成形される。成形されたシートプラズマSPはボトルネック部73を通ってプラズマ処理室72へ引き出される。
【0068】
ボトルネック部73は、シートプラズマ成形室71とプラズマ処理室72との間に設けられ、内部にシートプラズマSPを通過させるスリット状の通路が形成されている。スリット状の通路の形状(すなわちボトルネック部73の形状)は、シートプラズマSPを適切に通過させるように設計されればよい。ボトルネック部73を設けることにより、シートプラズマ形成室71の内部(輸送空間)において、シートプラズマSPを形成しない余分なアルゴンイオン(Ar+ )と電子とがプラズマ処理室72に流入することを回避することができる。そのため、プラズマ処理室72内では、シートプラズマSPの密度を高い状態で保持することができる。
【0069】
[プラズマ処理室]
プラズマ処理室72は、シートプラズマ処理装置100の上下方向に沿った軸を中心とした第三筒部材82を備えており、この第三筒部材82がプラズマ処理室72の本体となる。つまり、第三筒部材82の中心軸と第一筒部材61および第二筒部材81の中心軸とは互いに直交している。第三筒部材82の側壁の適所には、スリット穴が形成されており、このスリット穴に前記ボトルネック部73が接続される。これにより、第三筒部材82と第二筒部材81の他端とは前記ボトルネック部73を介して気密を維持するよう接続される。第三筒部材82の側壁で、スリット穴に対向する位置にはアノードAが配置される。第三筒部材は、例えばアルミニウム、ステンレス等の導電性材料で形成されている。
【0070】
第三筒部材82の両端部は蓋部材83,84により気密を維持するよう閉鎖されている。また、蓋部材84の適所には、図示されないバルブにより開閉可能な図示されない真空ポンプ接続口が設けられている。真空ポンプ接続口には、図示されない真空ポンプ(例えばターボポンプ)が接続されている。この真空ポンプにより第三筒部材82内部(プラズマ処理室72内部)を吸引することにより、第三筒部材82の内部空間は、スパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで減圧される。なお、真空ポンプ接続口は蓋部材83に設けられてもよい。
【0071】
第三筒部材82の内部には、前記実施の形態1で説明した基板支持装置10が下方側に設けられ、上方側にターゲット電極85が設けられる。基板支持装置10の基板支持電極86(基板ベース11および静電チャック基板12)とターゲット電極85とは、シートプラズマ成形室71から引き出されたシートプラズマSPが移動する空間を挟んで、それぞれの表側面が対向するように、第三筒部材82の両端部にそれぞれ位置している。ターゲット電極85は、図5では詳細に図示されないが、膜の材料からなるターゲット52をその表側面で固定するバッキングプレートと、バッキングプレートを前記軸方向に沿って移動可能に支持するプレート支持機構とを備えている。バッキングプレートは、ターゲット電極85の本体であり、その表側面にターゲット52を溶接又はボルト等の固定部材により固定することで、当該ターゲット52を保持するとともに、その背面に給電極が取り付けられている。プレート支持機構は、蓋部材33とは絶縁されている。
【0072】
ターゲット電極85は、図示されないターゲット側プラズマ発生用電源と配線によって電気的に接続され、基板支持電極86は、図示されない基板側プラズマ発生用電源(図1に示すプラズマ発生用電源21に対応)に接続されているため、プラズマ処理のプロセス中には、ターゲット電極85および基板支持電極86にはバイアス電圧が印加される。このように、ターゲット電極85および基板支持電極86の間に形成される空間は、シートプラズマSPが輸送される輸送空間であり、かつ、処理対象基板51にプラズマ処理を施すプラズマ処理空間となる。
【0073】
第三筒部材82の外部には、その外周面を囲む位置に第三コイル78および第四コイル79が設けられる。第三コイル78および第四コイル79は、いずれも磁力の強さを調節できる電磁コイル(空心コイル)であり、互いに異なる極同士が対向する(例えば、第三コイル78がN極、第四コイル79がS極)ように対をなして配置される。これら第三コイル78および第四コイル79に電流を流すことによりコイル磁場が形成される。このコイル磁場は、シートプラズマSPの幅方向(シートプラズマ処理装置100の横方向)の拡散を抑えるミラー磁場となる。すなわち、シートプラズマSPがシートプラズマ成形室71からプラズマ処理室72に引き出され、アノードAに向かって処理空間内を移動する間、前記コイル磁場は、シートプラズマSPの幅方向にプラズマが拡散しないように形状を成形する。
【0074】
アノードAは、第三筒部材82の側壁のうちスリット穴に対向する位置に配置される。アノードAと側壁との間には、前述のとおりプラズマ通過用の通路74が設けられている。この通路74は、前記ボトルネック部73と同様に、シートプラズマSPを適切に通過させるように設計されればよい。アノードAは、主電源の正極と配線により電気的に接続されており、この主電源は、アノードAとカソードKとの間に正の電圧(例えば100V)を印加する。これにより、カソードKおよびアノードAの間に直流のアーク放電が発生し、当該アーク放電が、シートプラズマSP中の荷電粒子(特に電子)を回収する。
【0075】
アノードAの裏側面(カソードKの対向面の反対側となる面)には、永久磁石87が設けられる。この永久磁石87は、アノードA側をS極、大気側をN極とするように配置されている。この永久磁石87のN極からS極に向かって形成される磁力線より、アノードAに向かうシートプラズマSPの幅方向の拡散を抑えることができる。これにより、シートプラズマSPは幅方向に収束されるため、アノードAはシートプラズマSPの荷電粒子をより適切に回収することができる。なお、この永久磁石87は必ずしも設けなくてよい。
【0076】
なお、プラズマガン60、シートプラズマ成形室、ボトルネック部73、通路74、アノードA、永久磁石77a,77b、第一コイル75、第二コイル76、第三コイル77、第四コイル78、および永久磁石87がシートプラズマ形成機構を構成している。
【0077】
前記のとおり、本実施の形態では、シートプラズマ処理装置100を構成するプラズマガン60およびシートプラズマ成形室71は、前記所定方向に沿った軸を同じくする円筒形状であるため、その断面も円形であるが、本発明はこれに限定されず、多角形等の形状であってもよい。同様に、プラズマ処理室72も前記所定方向に直行する方向に沿った軸を有する円筒形状であるため、その断面も円形であるが、多角形等の形状であってもよい。また、前述した各部の配置は、本発明の範囲内で適宜変更することができ、また各部や各部材等の具体的構成は、公知の構成に置き換えることができる。
【0078】
[シートプラズマ処理装置の動作]
次に、本実施の形態に係るシートプラズマ処理装置100の動作について説明する。なお、本実施の形態では、プラズマ処理の一例として、処理対象基板51の表面にターゲット52の膜を形成する成膜処理を挙げる。まず、シートプラズマ処理室72内に、処理対象基板51およびターゲット52が搬入される。そして、図示されない真空ポンプの吸引により、気密容器70内部、すなわち、それぞれ気密に連通されるプラズマガン60、シートプラズマ成形室71、およびプラズマ処理室72内のそれぞれが真空状態となる。
【0079】
次に、図示されないターゲット側プラズマ発生用電源をターゲット電極85に電気的に接続するとともに、図示されない主電源をアノードAに電気的に接続する。次に、プラズマガン60では、カソードKを構成する補助陰極の先端からアルゴン(Ar)ガスが放電空間内に供給され、当該補助陰極でグロー放電が行われる。このグロー放電により補助陰極の先端部分の温度が上昇すると、この熱でカソードKを構成する主陰極が加熱されて高温になり、アーク放電が行われる。
【0080】
これにより、カソードKからプラズマ放電誘発用熱電子が放出され、プラズマが発生する。発生したプラズマは、第一中間電極64および第二中間電極65による電界と第一コイル75によるコイル磁場により、カソードKからアノードA側に引き出され、円柱プラズマCPに成形される。円柱プラズマCPは、第一コイル75によって形成されるコイル磁場の磁力線に沿ってシートプラズマ成形室71に導入される。
【0081】
シートプラズマ成形室71に導入された円柱プラズマCPは、永久磁石77a,77bと第二コイル76から発生する磁場によってシート状に広がり、シートプラズマSPに成形される。シートプラズマSPは、ボトルネック部73(およびスリット穴)を通過してプラズマ処理室72に導入される。
【0082】
プラズマ処理室72に導入されたシートプラズマSPは、第三コイル78および第四コイル79によるコイル磁場によって、幅方向の形状が整えられ、処理対象基板51とターゲット52と間の空間(プラズマ処理空間)に導入される。ターゲット52には、バッキングプレートを介して、シートプラズマSPに対してバイアス電圧が印加される。処理対象基板51には、基板ベースを介して、シートプラズマSPに対してバイアス電圧が印加される。これにより、シートプラズマSP中のアルゴンイオン(Ar+ )がターゲット52に向かって引き付けられ、ターゲット52に衝突する。このときアルゴンイオンとターゲット52との衝突エネルギーにより、ターゲット52を構成する材料の原子(ターゲット原子)が、処理対象基板51に向かってはじき出され、スパッタが生じる。
【0083】
スパッタによりはじき出されたターゲット原子は、直進してシートプラズマSP中を通過する。このとき、ターゲット原子はシートプラズマSPにより電子を剥ぎ取られて電離され、陽イオンにイオン化する。処理対象基板51は負の電圧にバイアスされているため、この陽イオンの進行速度は処理対象基板51に向かって加速する。この加速により、陽イオンは、処理対象基板51表面に対して付着強度を高めて堆積し、堆積に伴って電子を受け取ることで処理対象基板51の表面にターゲット52の材料からなる膜を形成する。その後、シートプラズマSPは、永久磁石49の磁力線により幅方向に収束され、アノードAがシートプラズマSPの荷電粒子を回収する。
【0084】
本実施の形態では、前記構成のシートプラズマ処理装置100において、基板支持装置10の下面露出空間S(図4参照)を水密に封止し、かつ、通気性を有するように、防水透湿性材料のOリング17を設けている。これにより、前記成膜処理のプロセスで処理対象基板51を冷却するときに、下面露出空間Sに結露や霜が発生しても、下面露出空間S内に溜まった水滴Dを支持管14に流下させることがなく、水滴Dを水蒸気として揮発させることができる。それゆえ、本実施の形態によれば、結露による短絡や腐食を防止することができるとともに、結露の発生そのものを抑制することができる。
【0085】
なお、本発明は上記の実施形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
このように、本発明は、プラズマ処理装置の基板支持装置として好適に用いることができるだけでなく、真空環境下で基板等の被処理体を支持する処理装置の分野に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の形態1に係る基板支持装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【図2】図1に示す基板支持装置において、支持管による基板支持電極の固定支持の具体的構成を示す要部断面図である。
【図3】図2に示す基板支持装置において、支持管、絶縁フランジおよび絶縁カラー部の位置関係を示す要部断面図である。
【図4】図2に示す基板支持装置において、絶縁フランジ、Oリング、絶縁カラー部、および支持管の上端側開口の位置関係を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るシートプラズマ処理装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
10 基板支持装置
11 基板ベース(基板支持体)
12 静電チャック基板
14 支持管
15 絶縁フランジ(フランジ部材)
16 絶縁カラー部(カラー部材)
17 Oリング(シール部材)
25 チャック電極
31 冷却水配管(冷媒流通管)
32 冷却水路(冷媒流路)
41 ヘリウムガス配管(ガス流通管)
42 ガス流路
51 処理対象基板
86 基板支持電極
111 基板ベースの下面
141 支持管の上端側開口
142 支持管の縁部
151 絶縁フランジの開口部
152 絶縁フランジの内周面
161 絶縁カラーの外周面
S 下面露出空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が流通する冷媒流路が形成され、プラズマ処理の対象となる基板を上面で支持した状態でプラズマ形成用の電力が印加される平板状の基板支持電極と、
前記基板支持電極の下方に配置され、上端側開口の周囲に縁部を有する導電性の支持管と、
前記基板支持電極の下面と前記支持管の前記縁部との間に設けられ、前記支持管の前記上端側開口の形状に対応した開口部が形成され、前記基板支持電極と前記支持管とを絶縁する絶縁性のフランジ部材と、
前記基板支持電極の前記下面から前記冷媒流路につながり、前記冷媒流路に前記冷媒を導入する冷媒流通管と、
前記基板支持電極の前記下側に、下端が前記支持管の前記上端側開口の内部に位置するように前記フランジ部材の前記開口部に嵌挿されて配置され、前記冷媒流通管を少なくとも保持する絶縁性のカラー部材と、
前記フランジ部材の内周面と前記カラー部材の外周面との間に設けられるシール部材と、を備え、
前記シール部材は、少なくとも防水透湿性を有する材料から構成されている、基板支持装置。
【請求項2】
前記基板支持電極は、前記基板支持電極の本体であり、かつ、前記冷媒流路が形成されている平板状の基板支持体、および、前記基板を前記基板支持体の上面に静電吸着させるチャック電極を含み、かつ、ガスが流通するガス流路が形成されている静電チャック基板から少なくとも構成され、
前記基板支持電極の前記下面から前記静電チャック基板の前記ガス流路につながり、前記ガス流路に前記ガスを導入するガス流通管を、さらに備え、
前記カラー部材は、前記冷媒流通管に加えて前記ガス流通管を保持する、請求項1に記載の基板支持装置。
【請求項3】
前記防水透湿性材料が、シリコーン樹脂またはテトラフルオロエチレン樹脂である、請求項1または2に記載の基板支持装置。
【請求項4】
前記防水透湿性材料が、多孔質である、請求項3に記載の基板支持装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の基板支持装置を備える、プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116596(P2010−116596A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290561(P2008−290561)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】