説明

大面積CVDダイヤモンド単結晶の製造方法、及びこれによって得られた大面積CVDダイヤモンド単結晶

【課題】凹部のない大面積で高品質なCVDダイヤモンド単結晶及びこれを実現する製造方法の提供。
【解決手段】主面が{100}であるダイヤモンド単結晶基板の{100}側面同士を近接させて4枚以上配置し、該配置した単結晶基板の主面にダイヤモンドを気相合成により成長させた後、該単結晶基板を除去して1枚の大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法であって、前記ダイヤモンド単結晶基板の配置が、近接する任意の4枚の単結晶基板の、隣接する2枚の単結晶基板A1とA2とからなる単位Aと、他の2枚の単結晶基板B1とB2とからなる単位Bとにおいて、A及びBが対向する側の面がそれぞれ同一平面上にあり、かつA1とA2が対向する側面間の間隔の真中の面と、B1とB2が対向する側面間の間隔の真中の面とが、単位Aと単位Bが対向する面の方向にずれている配置であることを特徴とする大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用基板、光学部品、放熱部材、切削工具、耐摩工具、精密工具などに用いられる大面積なCVDダイヤモンド単結晶基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは高硬度、高熱伝導率の他、高い光透過率、ワイドバンドギャップなどの多くの優れた性質を有することから、各種工具、光学部品、半導体、電子部品の材料として幅広く用いられており、今後さらに重要性が増すものと考えられる。
【0003】
ダイヤモンドの工業応用としては、天然に産出するものに加えて、品質が安定している人工合成されたものが主に使用されている。人工ダイヤモンド単結晶は現在工業的には、そのほとんどがダイヤモンドの安定存在条件である千数百℃から二千数百℃程度の温度かつ数万気圧以上の圧力環境下で合成されている。このような高温高圧を発生する超高圧容器は非常に高価であり、大きさにも制限があるため、高温高圧法による大型単結晶の合成には限界がある。不純物として窒素(N)を含んだ黄色を呈するIb型のダイヤモンドについては1cmφ級のものが高温高圧合成法により製造、販売されているがこの程度の大きさがほぼ限界と考えられている。また、不純物のない無色透明なIIa型のダイヤモンドについては、天然のものを除けば、さらに小さい数mmφ程度以下のものに限られている。
【0004】
一方、高温高圧合成法と並んでダイヤモンドの合成法として確立されている方法として気相合成法がある。この方法によっては6インチφ程度の比較的大面積のものを形成することができるが、通常は多結晶膜である。しかし、ダイヤモンドの用途の中でも特に平滑な面を必要とする超精密工具や光学部品、不純物濃度の精密制御や高いキャリア移動度が求められる半導体などに用いられる場合は、単結晶ダイヤモンドを用いることになる。そこで、従来から気相合成法によりエピタキシャル成長させて単結晶ダイヤモンドを得る方法が検討されている。
【0005】
一般にエピタキシャル成長は、成長する物質を同種の基板上に成長させるホモエピタキシャル成長と、異種基板の上に成長させるヘテロエピタキシャル成長とが考えられる。ヘテロエピタキシャル成長では、ダイヤモンドにおいてはこれまで困難とされてきたが、近年、特許文献1に記載されているように1インチφのヘテロエピタキシャルダイヤモンド自立膜が作製されており、大きな進展があった。しかしながら、得られる単結晶の結晶性はホモエピタキシャルダイヤモンド単結晶と比較すると十分ではなく、ホモエピタキシャル成長による単結晶合成が有力と考えられる。
【0006】
ホモエピタキシャル成長では、高圧合成によるダイヤモンドIb基板の上に高純度のダイヤモンドを気相からエピタキシャル成長させることにより、高圧で得られるIIaダイヤモンドを上回る大きなIIa単結晶ダイヤモンドを得ることができる。しかしながら、ダイヤモンドの気相成長では、面積サイズを下地基板に対して何倍も拡大させることが困難なため、基本的には高圧合成単結晶基板の面積サイズ程度が上限である。従って、例えば半導体デバイスの製造プロセスで使用することができる2インチφサイズを得ることが難しかった。
【0007】
そこで、特許文献2に記載されているように、高圧合成法によって得られたmmオーダーの単結晶ダイヤモンドの結晶方位を揃えて並べ基板とし、その基板表面上に一体の単結晶ダイヤモンドを得る方法がある。また、非特許文献1には、4×4×0.5mmサイズの高圧合成{100}ダイヤモンド単結晶を16枚用意し、16mm正方になるようにモザイク状に種結晶として配置し、ホモエピタキシャル成長により100時間のCVDダイヤモンド単結晶の成長を行い、反応性イオンエッチングにより種結晶を除去して16mm角の大型CVDダイヤモンド単結晶が得られたと報告がある。
【0008】
非特許文献1からわかるように、{100}を主面とする種基板上にCVDダイヤモンドをエピタキシャル成長させるのに適している合成条件では、隣り合う種基板の{100}側面接触部の真上はそれぞれの種基板から成長したCVDダイヤモンドが覆いかぶさって接合する。しかしながら、4枚の種基板の{100}側面を接触させて縦×横を2×2枚に配置した場合に形成される十字部の真上にはCVDダイヤモンドが成長せず凹部が形成される。十字部にもCVDダイヤモンドが覆いかぶさり凹部が形成されないような成長条件もあるが、それは{100}主面に成長させるのには適さない条件で、異常成長部(多結晶)が発生するため適用困難である。この凹部は、例えば上記のようにしてできた大面積CVDダイヤモンド単結晶に半導体製造プロセスを適用する場合、凹部が原因でレジストが均一に塗布されないといったような問題が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−270272号公報
【特許文献2】特開平03−075298号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】目黒他、「大型ダイヤモンド単結晶プロセスの開発」、2003年9月、SEIテクニカルレビュー、第163号p53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、従来の技術により大面積の高品質CVDダイヤモンド単結晶を作製しても、凹部が形成されてしまっていたために、適用範囲が限られていた。そして、この問題が、大面積CVDダイヤモンド単結晶の普及を妨げる一因となっていた。
【0012】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決し、凹部のない大面積で高品質なCVDダイヤモンド単結晶、及び、これを実現する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、主面が{100}であるダイヤモンド単結晶の種基板の{100}側面同士を近接させて、縦×横に2×2枚の4枚を配置することで全体として広い面積の{100}主面を得る場合、各々の種基板の{100}三面交差部の角を4枚とも1か所に集めることで十字状の近接部を形成するのではなく、2枚ずつをそれぞれ1か所に集めて計2か所で近接させることで、T字状の近接部を2か所形成した上で、CVDダイヤモンドをエピタキシャル成長させると、{100}を主面とする種基板上にCVDダイヤモンドをエピタキシャル成長させるのに適している合成条件であっても、凹部が形成されないことを見出した。
【0014】
また、上記のようにして形成された高品質で大面積なCVDダイヤモンド単結晶基板は、それぞれの種基板から拡大成長して接触する際に形成される接合部は、目視、あるいは、フォトルミネッセンス測定、カソードルミネッセンス測定等の評価で確認でき、2つのT字状となっていることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
(1)主面が{100}であるダイヤモンド単結晶基板の、{100}側面同士を同一平面上に近接させてモザイク状に4枚以上配置し、
該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板の主面にダイヤモンドを気相合成によりエピタキシャル成長させた後、該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板を除去することにより、1枚の大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法であって、
前記ダイヤモンド単結晶基板が、
近接する任意の4枚のダイヤモンド単結晶基板の、隣接する2枚の単結晶基板A1とA2とからなる単位Aと、他の隣接する2枚の単結晶基板B1とB2とからなる単位Bとにおいて、
A及びBが対向する側の面が、それぞれ同一平面上にあり、
かつ、
A1とA2が対向する側面間の間隔の真中の面が、B1とB2が対向する側面間の間隔の真中の面に対して、単位Aと単位Bが対向する面の方向にずれて配置されている
ことを特徴とする、大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法。
(2)上記(1)に記載の大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法によって得られたことを特徴とする大面積CVDダイヤモンド単結晶。
【発明の効果】
【0016】
本発明による大面積CVDダイヤモンド単結晶の製造方法、及び大面積CVDダイヤモンド単結晶によって、凹部のない大面積で高品質なCVDダイヤモンドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明における単結晶基板の配置の一例を説明する概略図である。
【図2】本発明における単結晶基板の配置の一例の別の説明を示す概略図である。
【図3】本発明において使用可能な単結晶基板の一例を示す概略図である。
【図4】本発明において使用可能な単結晶基板の別の一例を示す概略図である。
【図5】従来の方法における単結晶基板の配置の一例を示す概略図である。
【図6】本発明における単結晶基板の配置の一例を説明する概略図である。
【図7】従来の方法における単結晶基板の配置の別の一例を示す図である。
【図8】本発明における単結晶基板の配置の更に別の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の範囲に属さない単結晶基板の配置の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の大面積CVD単結晶の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の大面積CVD単結晶の別の一例を示す概略図である。
【図12】ダイヤモンドの気相成長の説明の一例を示す概略図である。
【図13】ダイヤモンドの気相成長の一例を別の角度から示す概略図である。
【図14】従来の製造方法による大面積CVD単結晶の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る大面積ダイヤモンド単結晶の製造方法においては、主面が{100}であるダイヤモンド単結晶基板の、{100}側面同士を同一平面上に近接させてモザイク状に4枚以上配置し、該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板の主面にダイヤモンドを気相合成によりエピタキシャル成長させた後、該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板を除去することにより、1枚の大面積CVDダイヤモンド単結晶を得る。なお本発明においては主面、側面ともに{100}ジャスト面からのオフ角が7°以内であれば、{100}であると定義する。
そして前記モザイク状の配置は、図1に示すように、近接する任意の4枚のダイヤモンド単結晶基板の、隣接する2枚の単結晶基板A1とA2とからなる単位Aと、他の2枚の単結晶基板B1とB2とからなる単位Bとにおいて、A及びBが対向する側の面が、それぞれ同一平面上にあり、かつ、A1とA2が対向する側面間の間隔の真中の面が、B1とB2が対向する側面間の間隔の真中の面に対して、単位Aと単位Bが対向する面の方向にずれるように配置する。
【0019】
A及びBが対向する側の面がそれぞれ同一平面上にあるとは、単位Aにおいて、単位Bと対向する側のA1及びA2の{100}側面が平行で同一平面上にあり、かつ、単位Bにおいても、単位Aと対向する側のB1及びB2の{100}側面が平行で同一平面上にあることをいう。また、本発明においては、A1及びA2の単位Bと対向する側のそれぞれの側面が{100}ジャスト面ではなくても、{100}ジャスト面からのオフ角が7°以内であれば、お互いの{100}側面が同一平面上にあるという。
【0020】
また、A1とA2が対向する側面間の間隔の真中の面とは、A1の{100}側面と、A2の{100}側面とが平行になるように配置された場合に、両側面間の真中に仮想される面のことをいう。同様に、B1とB2が対向する側面間の間隔の真中の面とは、B1の{100}側面と、B2の{100}側面とが平行になるように配置された場合に、両側面間の真中に仮想される面のことをいう。そして本発明においては、当該A1とA2の{100}側面間の間隔の真中の面と、B1とB2の{100}側面間の間隔の真中の面とが、平行ではあるが同一平面上になく、単位Aと単位Bとが対向する側面の方向にずれるようにそれぞれのダイヤモンド単結晶基板を配置する。
【0021】
上記のようにA1とA2の間の真中の面と、B1とB2の間の真中の面とが、単位Aと単位Bとが対向する側面の方向にずらして配置すると、図2に示すように、A1、A2及びB2の側面により形成されるT字状の近接部と、B1、B2及びA2の側面により形成されるT字状の近接部が形成される。本発明においては、このように2つのT字状の近接部が形成されるように4枚の単結晶基板を配置する。なお、近接部とは、単結晶基板の側面同士により形成された領域(間隙)をいう。
【0022】
以下、図面を参照して、より具体的に本発明に係る大面積なCVDダイヤモンド単結晶基板及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0023】
[ダイヤモンド単結晶種基板準備]
まず、例えば図3に示すようなダイヤモンド単結晶を種基板01として準備する。主面02は{100}であり、表面粗さRaは40nm以下が好ましい。Raが40nmを超えると主面に成長させるCVDダイヤモンドの品質が悪くなる。なお、上述のように本発明においては{100}ジャスト面からのオフ角が7°以内の場合には{100}と定義する。
また、少なくとも2つの側面は{100}であり、主面02と側面03及び側面04の三面交差部05を有する。上記を満たせば、側面は研磨されていなくても、また、図4に示すような種基板06で{110}の側面07や、他の面方位が含まれていても構わない。種基板の厚みは任意であるが、接合する基板同士の厚さの差は100μm以下であることが好ましい。厚さの差が100μmより大きいとCVDダイヤモンド成長時に接合が困難である。なお、種基板の厚さとは基板主面の中心近傍で測定した厚さとする。
【0024】
図3や図4のような種基板を少なくとも4枚準備して、ダイヤモンドのCVD成長炉の基板ホルダ上配置する。4枚準備した場合、主面と側面が{100}である三面交差部を1か所に集めて近接して配置すると、例えば図5のように十字状の近接部08が形成されてCVD成長時の凹部形成の原因となるので、三面交差部を2か所に分けて近接して配置して、例えば図6のような2つのT字状の近接部09が形成されるようにする。
近接させる{100}側面間の距離は200μm以下が好ましい。側面間隔が200μmより広いとCVDダイヤモンド成長時に接合が困難である。互いに隣接する種結晶4枚で形成される2つのT字状の近接部09の間隔とは、1つのT字を構成する縦側面同士の間隔の真ん中の面、横側面同士の間隔の真ん中の面、及び主面の3面が交差する点の間の距離と定義し、その距離は500μm以上が好ましい。500μm未満であると実質的に十字状と同様になるため不適である。
【0025】
種基板を9枚準備した場合は、例えば図7のように配置すると十字状の近接部08が4つ形成されてCVD成長時の凹部形成の原因となるので、図8のように8つのT字状の近接部09が形成されるようにする。このような十字状の近接部08が形成できるが敢えてT字状の近接部09とする場合は、種基板を何枚準備しても本発明の範囲内である。
【0026】
しかしながら、図9のような種基板3枚の構成で、2枚の三面交差部を近接させ、且つ、1枚の種基板の{100}側面に2枚の三面交差部を近接させて広い{100}主面を得ようとする場合は、1つのT字状の近接部10が必然的に形成されるために本発明の範囲外である。
【0027】
[CVDダイヤモンド単結晶成長]
次に、ダイヤモンドのCVD成長炉の基板ホルダ上に配置した種基板上にCVDダイヤモンド単結晶を成長させる。成長方法は、熱フィラメント法、燃焼炎法、アークジェット法等が利用可能であるが、不純物の混入が少ない高品質なダイヤモンドを得るためにマイクロ波プラズマ法が好ましい。
マイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンドのエピタキシャル成長においては、原料ガスとして水素、メタンをメタン/水素ガス流量比0.001%〜30%で合成炉内に導入して、炉内圧力を30Torr〜400Torrに保ち、周波数2.45GHz(±50MHz)、あるいは915MHz(±50MHz)のマイクロ波を電力100W〜60kW投入することによりプラズマを発生させて、プラズマによる加熱で温度を700℃〜1300℃に保った種基板上に活性種が堆積してCVDダイヤモンドを成長させる。
【0028】
CVD成長においてダイヤモンドは{100}と{111}が自形面であり、マイクロ波プラズマによるダイヤモンド成長では、メタン/水素ガス流量比と種基板温度により{100}の成長速度V<100>と{111}の成長速度V<111>が変化する。ここで、α=V<100>/V<111>×√3が2.0以上、好ましくは3.0以上のとき、{100}が優先的に成長するために、種基板の主面である{100}に異常成長(多結晶成長)がほとんど無い成長となるので、このようなαが得られるメタン/水素ガス流量比と種基板温度を選択する。
具体的にはメタン/水素ガス流量比で3%〜15%、基板温度は900℃〜1100℃が典型的であるが、この限りではない。また、原料ガス中に窒素を微量添加することで、αの値が添加しない場合と比べて大きくなり異常成長がより良く抑制されるために好ましい。添加量はメタンに対して0.01%〜5%が典型的であるが、この限りではなく、結晶中に取り込まれる窒素の量を考慮の上で添加量を決定する。
【0029】
複数の成長条件でCVDダイヤモンド層を積み重ねても良く、例えば種基板同士がCVDダイヤモンドで接合するまでは条件A、接合した後は条件Bで成長しても良い。成長時間は目的とするCVDダイヤモンド単結晶の厚さになるまでであるが、例えば成長速度が10μm/hで1mm厚を得る場合には100時間成長させればよい。
【0030】
[種基板除去]
そして、CVDダイヤモンド単結晶の成長が終了したら、CVD成長炉より取り出して種基板を除去する。得られたCVDダイヤモンド単結晶の主面サイズが10mm角程度であれば、レーザによるスライスで種基板とCVDダイヤモンドを分離して、レーザ切断面を研磨する方法が適用できる。10mm角を越える主面サイズであれば、レーザ切断時に単結晶が割れる可能性が高くなるので、研磨や反応性イオンエッチングといった手法で種基板を除去する。この場合、種基板は消失してしまうので、再利用する場合には、別の手法を適用する必要がある。例えば、CVDダイヤモンド単結晶成長前に全ての種基板にイオン注入して、種基板最表面よりわずかに深い位置にダイヤモンドの結晶構造が破壊されてできるグラファイト層を形成しておけば、成長後にこのグラファイト層を電気化学エッチングすることで、CVDダイヤモンドと種結晶を分離することができる。イオン注入条件は、典型的には、注入イオン種が炭素イオンで、注入エネルギー3MeV、ドーズ量1×1016cm-2〜1×1017cm-2が利用できる。
【0031】
このようにして得られたCVDダイヤモンド単結晶は、各々の種結晶から拡大成長したCVDダイヤモンドが種結晶同士の近接部近傍で重なり合って形成されたT字状の接合部を少なくとも2つ以上有する。接合部は、種結晶の上に成長した部分よりも結晶欠陥が多く含まれるために、目視、あるいは、フォトルミネッセンス測定、カソードルミネッセンス測定等の評価で確認することができる。互いに隣接する種結晶4つから成長したCVDダイヤモンドで構成される2つのT字状の接合部の間隔は、T字を構成する縦筋と横筋が交差する部分の中心点間と定義し、その距離は種基板の配置で制約を受けるが500μm以上が好ましい。500μm未満であれば凹部が形成される。
【0032】
例えば、図10は、図6の配置の種結晶を用いて得られたCVDダイヤモンド単結晶11である。接合部12がT字状に交差しているT字状の接合部13が2つ存在する。また、図11は図8の配置の種結晶を用いて得られたCVDダイヤモンド単結晶14である。接合部12がT字状に交差しているT字状の接合部13が8つ存在する。
【0033】
CVD成長においてダイヤモンドは{100}と{111}が自形面である。従って、種基板の主面はどちらかを選択することになるが、{111}上の成長は結晶構造から多結晶化する起点となる双晶が発生し易く、発生しにくい条件では成長速度が1μm/h以下と遅いので、{100}を選択することが好ましい。{100}上の成長で異常成長が発生しにくい成長条件は、上述の通りαが2.0以上、好ましくは3.0以上であるが、これはすなわち<100>方向の成長速度よりも<111>方向の成長速度が相対的に遅いことを意味し、このような条件では、種結晶の{100}主面と2つの{100}側面で構成される3面交差部では、図12及び図12を{100}主面の真上から見た図13の点線ように成長速度が遅いことから現れる{111}を含むCVDダイヤモンドが成長する。従って、図5のような種基板配置では、CVDダイヤモンド単結晶に図14に示すように凹部15が形成されてしまっていた。
【0034】
上記問題を解決するために、本発明者らによる鋭意研究の結果、どうしても形成される凹部を図13に示すような<100>横方向に拡大成長する部分で埋めることに想到して、本発明が実現するに至った。こうして、凹部がない大面積で高品質なCVDダイヤモンドが比較的容易に得られるようになった。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、種基板として表1に示すA〜Dを用意して、マイクロ波プラズマCVD装置のホルダに図6のように配置した。近接する{100}側面同士の間隔を50μm、2つのT字状の近接部の間隔を1mmとした。次に、種基板の上にCVDダイヤモンド単結晶を成長した。成長条件は、水素流量500sccm、メタン流量30sccmでメタン/水素流量比6%、合成圧力100Torr、マイクロ波電力4kWで、成長中の種基板温度は950℃〜1000℃に保った。成長速度は8μm/hで、100時間成長することで、種基板上に厚さ約800μmのCVDダイヤモンド単結晶が得られた。そして、種基板を研磨で除去して図10に示す自立したCVDダイヤモンド単結晶板を得た。
肉眼で接合部12が見られ、2つのT字状の接合部13があったが、凹部はなく、倍率1,000倍の光学顕微鏡でも凹部は観察されなかった。T字状の接合部13の間隔は1mmであった。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例2]
近接する{100}側面同士の間隔を変えた以外は実施例1と同様の実験を試みた。近接する{100}側面同士の間隔として10μm、100μm、150μm、200μmの4通りを試みたが、実施例1と同様の結果が得られた。
【0038】
[実施例3]
2つのT字状の近接部の間隔を変えた以外は実施例1と同様の実験を試みた。2つのT字状の近接部の間隔として500μm、1.5mm、2mmの3通りを試みたが、T字状の接合部13の間隔がそれぞれ500μm、1.5mm、2mmとなった以外は実施例1と同様の結果が得られた。
【0039】
[実施例4]
まず、種基板として表2に示すE〜Mを用意して、マイクロ波プラズマCVD装置のホルダに図8のように配置した。近接する{100}側面同士の間隔を50μm、2つのT字状の近接部の間隔を1mmとした。次に、種基板の上にCVDダイヤモンド単結晶を成長した。成長条件は、水素流量500sccm、メタン流量50sccmでメタン/水素流量比10%とし、さらに窒素を0.5sccm添加して、合成圧力100Torr、マイクロ波電力4.5kWで、成長中の種基板温度は950℃〜1000℃に保った。成長速度は15μm/hで、60時間成長することで、種基板上に厚さ約900μmのCVDダイヤモンド単結晶が得られた。そして、種基板を研磨で除去して図11に示す自立したCVDダイヤモンド単結晶板を得た。
肉眼で接合部12が見られ、8つのT字状の接合部13があったが、凹部はなく、倍率1,000倍の光学顕微鏡でも凹部は観察されなかった。近接するT字状の接合部13の間隔は1mmであった。
【0040】
【表2】

【0041】
[実施例5]
近接する{100}側面同士の間隔を変えた以外は実施例4と同様の実験を試みた。近接する{100}側面同士の間隔として10μm、100μm、150μm、200μmの4通りを試みたが、実施例4と同様の結果が得られた。
【0042】
[比較例]
種基板を図5のように配置した以外は実施例1と同様にして実験を試みたが、得られたCVDダイヤモンドは図14のように凹部14が肉眼で観察された。
【符号の説明】
【0043】
01 種基板
02 主面
03 側面
04 側面
05 三面交差部
06 種基板
07 側面
08 十字状の近接部
09 T字状の近接部
10 T字状の近接部
11 自立したCVDダイヤモンド単結晶基板
12 接合部
13 T字状の近接部
14 CVDダイヤモンド単結晶
15 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が{100}であるダイヤモンド単結晶基板の、{100}側面同士を同一平面上に近接させてモザイク状に4枚以上配置し、
該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板の主面にダイヤモンドを気相合成によりエピタキシャル成長させた後、該モザイク状に配置したダイヤモンド単結晶基板を除去することにより、1枚の大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法であって、
前記ダイヤモンド単結晶基板が、
近接する任意の4枚のダイヤモンド単結晶基板の、隣接する2枚の単結晶基板A1とA2とからなる単位Aと、他の隣接する2枚の単結晶基板B1とB2とからなる単位Bとにおいて、
A及びBが対向する側の面が、それぞれ同一平面上にあり、
かつ、
A1とA2が対向する側面間の間隔の真中の面が、B1とB2が対向する側面間の間隔の真中の面に対して、単位Aと単位Bが対向する面の方向にずれて配置されている
ことを特徴とする、大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の大面積CVDダイヤモンド単結晶を製造する方法によって得られたことを特徴とする大面積CVDダイヤモンド単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−111653(P2012−111653A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261013(P2010−261013)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】