説明

干渉縞安定化装置およびそれを用いた非破壊検査装置

【課題】参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光との干渉縞を安定化することが可能な干渉縞安定化装置、および検査対象物の内部欠陥の検出精度の向上が可能な非破壊検査装置を提供する。
【解決手段】非破壊検査装置は、検出用レーザ11と、弾性波励起用レーザ21と、信号光と参照光とを干渉させ検査対象物Obの振動を検出する振動検出手段30と、干渉縞安定化装置40とを備える。干渉縞安定化装置40は、信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段41と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラー42と、干渉縞検出手段41により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラー42の位置を制御する制御手段43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉縞安定化装置およびそれを用いた非破壊検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の非破壊検査装置として、コンクリート構造物、金属構造物などの検査対象物の内部欠陥の有無や深さなどの検査が可能なレーザ超音波リモートセンシング装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、特許文献1に開示されている非破壊検査装置は、図7に示すように、連続出力のレーザ光からなる信号光を出力する検出用レーザ11と、検査対象物Obに弾性波(超音波)を励起させるためのパルスレーザ光からなる励起光を出力する弾性波励起用レーザ21と、検出用レーザ11と検査対象物Obとの間の光路上に配設され検出用レーザ11から出力された信号光の一部を参照光として分岐する偏光ビームスプリッタ104と、検出用レーザ11から出力され検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光と偏光ビームスプリッタ104で分岐された参照光とが所定の角度で交差するように入射する干渉計を構成するフォトリフラクティブ結晶109と、フォトリフラクティブ結晶109から出射されビームスプリッタ112で分岐された干渉光を検出する2つの光検出器113a,113bと、光検出器113a,113bの出力を記録するオシロスコープ114とを備え、オシロスコープ114において各光検出器113a,113bの出力に対して適宜の周波数解析を行うことにより検査対象物Obの内部欠陥を検出するように構成されている。
【0004】
上述の非破壊検査装置では、参照光と周波数変調された信号光とによりフォトリフラクティブ結晶109の内部にダイナミックホログラムが形成され、ダイナミックホログラムにより参照光が回折され、参照光の一部と信号光との干渉光がフォトリフラクティブ結晶109から出射される。
【0005】
なお、上記特許文献1に開示された非破壊検査装置は、フォトリフラクティブ結晶109から参照光の入射方向に沿った方向へ出射される信号光の強度を検出する信号光モニタ116と、信号光モニタ116の出力に基づいて、信号光と参照光との強度比が略一定となるように、検出用レーザ11と偏光ビームスプリッタ104との間の光路上に配設されている濃度可変フィルタ102の透過率をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備えており、可動ミラー107を駆動して信号光を検査対象物Obの表面で走査させた場合でも内部欠陥を検出することができる。
【0006】
ところで、上述の非破壊検査装置では、ダイナミックホログラムで回折される参照光の光量を多くする(つまり、回折効率を向上させる)ことで検出感度を高めるために、フォトリフラクティブ結晶109に高電界を印加するとともに、フォトリフラクティブ結晶109へ入射させる参照光を位相シフトさせる位相シフトミラーを設けて参照光を位相シフトさせることにより、フォトリフラクティブ結晶109での回折効率を向上させることが考えられる。
【特許文献1】特開2005−147813号公報(段落〔0022〕−〔0050〕、図1−5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示された非破壊検査装置では、検査対象物Obが当該非破壊検査装置の遠方に存在している場合、当該非破壊検査装置と検査対象物Obとが独立して振動しており、弾性波励起用レーザ21からの励起光を検査対象物Obに照射していない状態でも干渉縞が振動して(明るい部分と暗い部分とが交互に並んでいる方向に動いて)、干渉縞のコントラストが悪くなり、内部欠陥の検出精度や検出感度が低下してしまう。
【0008】
また、上記特許文献1に開示された非破壊検査装置に上述の位相シフトミラーを設けた場合、位相シフトミラーの変位に比べて非破壊検査装置と検査対象物Obとの相対振動での変位量が大きいので、参照光を位相シフトさせてもフォトリフラクティブ結晶109の回折効率を向上させることができなかった。
【0009】
また、フォトリフラクティブ結晶109に入射させる参照光を位相シフトさせて回折効率を向上させる場合、非破壊検査装置の振動に起因して、参照光にリニアな位相シフトを与えることができなかった。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光との干渉縞を安定化することが可能な干渉縞安定化装置、および検査対象物の内部欠陥の検出精度の向上が可能な非破壊検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、検査対象物で反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラーと、干渉縞検出手段により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラーの位置を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、検査対象物で反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラーと、干渉縞検出手段により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラーの位置を制御する制御手段とを備えているので、制御手段によって、干渉縞検出手段により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトが抑制されるように波面制御用ミラーの位置が制御されるから、当該干渉縞安定化装置と検査対象物との相対的な振動に起因して補正用参照光と補正用信号光とが独自に振動するのを防止できて補正用参照光と補正用信号光との干渉縞の位相シフトを抑制でき、参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光との干渉縞を安定化することが可能になる。
【0013】
請求項2の発明は、レーザ光を出力する検出用レーザと、検査対象物に弾性波を励起させるための励起光を出力する弾性波励起用レーザと、検出用レーザと検査対象物との間の光路上に配設され検出用レーザから出力されたレーザ光の一部を参照光として分岐するビーム分岐手段と、検出用レーザから出力されて検査対象物で反射され周波数変調された信号光とビーム分岐手段で分岐された参照光とを干渉させる位相共役素子を有し当該位相共役素子から出射される干渉光を利用して検査対象物の振動を検出する振動検出手段と、振動検出手段の出力に基づいて検査対象物の内部欠陥を検出する欠陥検出手段と、請求項1記載の干渉縞安定化装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、請求項1記載の干渉縞安定化装置を備えているので、当該非破壊検査装置と検査対象物との相対的な振動に起因して参照光と信号光とが独自に振動するのを防止できて参照光と信号光との干渉縞の位相シフトを抑制でき、遠方に存在する検査対象物の内部欠陥の検出精度の向上が可能になる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記振動検出手段は、参照光の位相をシフトさせる位相シフトミラーと、位相シフトミラーにより位相シフトされた参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光とが所定の角度で交差するように入射する前記位相共役素子であるフォトリフラクティブ結晶と、フォトリフラクティブ結晶に電界を印加するための一対の電極と、フォトリフラクティブ結晶から出射される干渉光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、前記振動検出手段が、参照光の位相をシフトさせる位相シフトミラーと、前記位相共役素子であるフォトリフラクティブ結晶に電界を印加するための一対の電極とを備えているので、前記位相共役素子であるフォトリフラクティブ結晶での回折効率を向上でき、前記欠陥検出手段での内部欠陥の検出感度を向上できる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、信号光を前記検査対象物の表面で走査させる信号光走査手段を備えることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、前記検査対象物の広い範囲に亘って内部欠陥の検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明では、干渉縞安定化装置と検査対象物との相対的な振動に起因した干渉縞の位相シフトを抑制でき、参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光との干渉縞を安定化することが可能になるという効果がある。
【0020】
請求項2の発明では、非破壊検査装置と検査対象物との相対的な振動に起因した干渉縞の位相シフトを抑制でき、遠方に存在する検査対象物の内部欠陥の検出精度の向上が可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本実施形態の非破壊検査装置(レーザ超音波リモートセンシング装置)は、図1に示すような構成であって、レーザ光(レーザビーム)を出力する検出用レーザ11と、検査対象物Obに弾性波(超音波)を励起させるための励起光を出力する弾性波励起用レーザ21と、検出用レーザ11と検査対象物Obとの間の光路上に配設され検出用レーザ11から出力されたレーザ光から参照光を分岐させる第1のビーム分岐手段12と、検出用レーザ11から出力されて検査対象物Obで反射されて周波数変調された信号光と第1のビーム分岐手段12で分岐された参照光とを干渉させる位相共役素子33を有し当該位相共役素子33から出射される干渉光を利用して検査対象物Obの振動を検出する振動検出手段30と、振動検出手段30の出力に基づいて検査対象物Obの内部欠陥Deを検出する欠陥検出手段70と、参照光から分岐された補正用参照光と検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光との干渉縞を安定化する干渉縞安定化装置40と、検出用レーザ11からの信号光を検査対象物Obの表面で走査させる信号光走査手段50と、信号光走査手段50を制御するマイクロコンピュータなどからなる走査制御装置60とを備えている。なお、図1中の矢印は、検出用レーザ11から出力されたレーザ光の進行経路を示している。また、本実施形態の非破壊検査装置は、エアーサスペンション付きの光学定盤(図示せず)上に設置されている。
【0022】
本実施形態では、検査対象物Obとして、コンクリート構造物を想定し、検査対象物Obの内部欠陥Deとして、空洞、クラック、ジャンカなどを想定しており、検出用レーザ11として、波長532nmのレーザ光を連続出力するNd:YAGレーザ(2倍高調波)を採用し、弾性波励起用レーザとして、パルス幅が10nsのパルスレーザ光を出力するNd:YAGレーザ(基本波)を採用しているが、検査対象物Obおよび各レーザ11,12は特に限定するものではない。
【0023】
上述の第1のビーム分岐手段12は、ビームスプリッタにより構成され、信号光走査手段50は、走査ミラー(スキャンニングミラー)51と走査ミラー51を駆動する駆動装置(スキャンニング装置)52とで構成されている。
【0024】
また、本実施形態の非破壊検査装置は、第1のビーム分岐手段12と走査ミラー51との間の光路上に2つのハーフミラー13,14が配設されている。ここにおいて、ビーム分岐手段12に近い側のハーフミラー13は、検出用レーザ11からの信号光を反射する一方で弾性波励起用レーザ21からの励起光を透過する。また、第1のビーム分岐手段12から遠い側のハーフミラー14は、信号光および励起光を反射する一方で、検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光を透過する。また、本実施形態の非破壊検査装置は、ハーフミラー14における走査ミラー51側とは反対側に、ハーフミラー14を透過した信号光から補正用信号光を分岐させるビームスプリッタからなる第2のビーム分岐手段15が配置されている。また、第2のビーム分岐手段15と干渉縞安定化装置40との間には、補正用信号光を干渉縞安定化装置40側へ反射するミラー16が配置されている。
【0025】
振動検出手段30は、参照光の位相をシフトさせる位相シフトミラー32と、位相シフトミラー32により位相シフトされた参照光と検査対象物Obで反射されて周波数変調された信号光とが所定の角度で交差するように入射するフォトリフラクティブ結晶(例えば、Bi12SiO20結晶など)からなる位相共役素子33と、位相共役素子33に電界を印加するための一対の電極34,34と、一対の電極34,34間に電圧を印加する電源回路(図示せず)と、位相共役素子33から出射される干渉光を検出する光電子増倍管からなる光検出器35とを備えている。なお、位相共役素子33は、フォトリフラクティブ結晶に限らず、位相共役現象が起こるとともに2光波混合が起こる非線形光学素子であればよい。
【0026】
ここにおいて、位相共役素子33として、Bi12SiO20結晶からなるフォトリフラクティブ結晶を用いた場合には、図2に示すように、電界強度Eを高くし、入射する信号光と参照光との交差角を小さくするほど、ゲイン(2光波混合利得)が高くなる。また、位相共役素子33は、位相シフトミラー32により参照光の位相をシフトさせる(遅らせる)ことにより、干渉光の強度が高くなる。要するに、本実施形態の非破壊検査装置では、振動検出手段30が、参照光の位相をシフトさせる位相シフトミラー32と、位相共役素子33であるフォトリフラクティブ結晶に電界を印加するための一対の電極34,34とを備えているので、位相共役素子33であるフォトリフラクティブ結晶での回折効率を向上でき、欠陥検出手段70での内部欠陥の検出感度を向上できる。
【0027】
欠陥検出手段70は、光検出器35の出力を記録してFFT(高速フーリエ変換)による周波数解析を行うFFT演算部を有するオシロスコープと、オシロスコープのFFT演算部での周波数解析の結果に基づいて検査対象物Obの内部欠陥の有無および深さを評価するマイクロコンピュータからなる信号処理部とで構成されている。ここにおいて、欠陥検出手段70は、検査対象物Obの内部欠陥Deの深さや大きさに応じた検査対象物Obの表面の振動スペクトルの周波数解析を行い内部欠陥Deの有無、深さを評価する振動スペクトル法の原理を適用して内部欠陥Deを検出する機能と、レーザ光を検査対照物Obに照射してから多重反射エコーが検出までの時間差により内部欠陥Deの有無、深さを評価する反射エコー法の原理を適用して内部欠陥Deを検出する機能とを有している。
【0028】
ここで、振動スペクトル法を適用する場合には、検査対象物Obの表面の振動スペクトルを求めると、内部欠陥Deがない部分では周波数スペクトルに特徴的なピークは存在しないが、内部欠陥Deがある場合には、内部欠陥Deの深さに応じて周波数スペクトルに特徴的なピーク(1次モードの振動周波数のピーク)が現れるので、信号処理部に1次モードの振動周波数と内部欠陥Deの深さとの関係テーブルを予め記憶させておけば、信号処理部において内部欠陥Deの有無および深さを評価できる。また、多重反射エコー法を適用する場合には、検査対象物Obの内部欠陥Deの深さに応じて縦波の多重反射エコーの周波数スペクトルが異なるので、信号処理部において多重反射周波数と検査対象物Ob内の縦波の速度とに基づいて内部欠陥Deの深さを求めることができる。
【0029】
干渉縞安定化装置40は、検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段41と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラー42と、干渉縞検出手段41により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラー42の位置を制御する制御手段43とを備えている。ここにおいて、波面制御用ミラー42は、第1のビーム分岐手段12と振動検出手段30の位相シフトミラー32との光路上に配設されている。ただし、波面制御用ミラー42と振動検出手段30との間には、参照光から補正用参照光を分岐させるビームスプリッタからなる第3のビーム分岐手段17が配置されており、第3のビーム分岐手段17と干渉縞安定化装置40との間には、補正用参照光を干渉縞安定化装置40側へ反射するミラー18が配置されている。ここで、上述の振動検出手段30は、第3のビーム分岐手段17と位相シフトミラー32との間に配置されて第3のビーム分岐手段17側からの参照光を位相シフトミラー32側へ反射するミラー31を備えている。
【0030】
干渉縞検出手段41は、複数個(例えば、8個)の受光部141aが一平面上に配列された複数チャネルの受光素子141と、受光素子141の各受光部141aの出力(アナログの電圧信号)からオフセット電圧を除去するオフセット電圧除去回路およびオフセット電圧除去後の出力を増幅するアンプを有する信号処理回路部142とを備えている。ここにおいて、受光素子141としては、8個の受光部141aが一平面上で1次元アレイ状に配列されたリニアアレイ素子を用いており、受光部141aの受光面(有効光電面)のサイズ(チャネルサイズ)が2.0mm×2.5mm、受光部141aの受光面のピッチ(チャネルピッチ)が2.8mmに設定されている。なお、受光素子141の各受光部141aは、受光感度波長域が300〜880nmの光電子増倍管により構成されているが、受光素子141としてCCDカメラを用い、当該CCDカメラの画素が受光部141aを構成するようにしてもよい。
【0031】
また、制御手段43は、波面制御用ミラー42を駆動するピエゾトランスレータからなるアクチュエータ44と、アクチュエータ44を駆動する駆動回路部45と、信号処理回路部142の出力に基づいて駆動回路部45を制御するマイクロコンピュータなどからなる制御部46とを備えており、制御部46は、信号処理回路部142の出力をアナログ−デジタル変換するA/Dコンバータ46a、駆動回路部45へ与える制御信号をデジタル−アナログ変換するD/Aコンバータ46b、制御部46の各種設定(アクチュエータのサーボ設定、原点復帰)などを行うため適宜のプログラムを搭載したパーソナルコンピュータからなる支援装置48を接続するインタフェース46cなどを備えている。制御手段43は、支援装置48の操作部(例えば、キーボード、ポインティングデバイスなど)を適宜操作することによって制御部46の各種設定を行い、支援装置48のディスプレイからなる表示部50に運転状態や設定状態や受光素子141の受光状態などを表示させることができるようになっている。なお、干渉縞安定化装置40は、商用電源などの交流電源の出力をAC/DC変換して得た直流電圧を降圧して制御部46へ供給する電源回路47を備えている。また、上述の支援装置48において、制御部46、検出用レーザ11、振動励起用レーザ21、振動検出手段30、駆動装置60などを一括して連動制御するようにするようにすれば、非破壊検査装置の自動化が容易になる。
【0032】
制御部46は、受光素子141の8個の受光部141aのうちの3個の受光部141a(以下、説明の便宜上、チャネル1の受光部141a、チャネル2の受光部141a、チャネル3の受光部141aと称する)の出力に基づいて干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制する(つまり、干渉縞が安定化する)ように波面制御用ミラー42の位置を制御する(波面制御用ミラー42を変位させる)。
【0033】
ここで、制御部46において、波面制御用ミラー42の変位量Δdを決める原理について説明してから、具体的な動作について説明する。
【0034】
いま、検査対象物Obと非破壊検査装置との相対的な振動のような外乱の影響のない状態で受光素子141の表面に形成される干渉縞が、図3(a)に示すよう干渉パターンであって図4(a)に示すような光強度分布(干渉強度分布)を有している場合、干渉縞の位相シフト量(図4(a)における横軸方向の変位量)をφとし、各チャネル1,2,3それぞれの受光部141a,141a,141aが図3(a)および図4(a)においてCh1,Ch2,Ch3で示した位置(ただし、Ch3は、Ch1とCh2との中間位置)の光強度を検出するものとし、チャネル1,2,3それぞれの受光部141a,141a,141aからの出力を信号U1,U2,U3とすれば、
U1=0.5Umax(−sinφ+1)
U2=0.5Umax=0.5Umax(sinφ+1)
U3=0.5Umax(−cosφ+1)
となる。つまり、U1とU2とは位相が180°だけ異なっている。ここにおいて、φは、検出用レーザ11から出力されるレーザ光の波長をλとすれば、
φ=(2π/λ)λ
で表される。
【0035】
また、チャネル1の受光部141aからの信号U1とチャネル2の受光部141aからの信号U2とを用いて干渉縞のコントラストの良否を判断するための信号コントラストKを、
K=(U2−U1)/(U2+U1)=sinφ
と定義すれば、Δφ=0のとき(つまり、干渉縞が安定状態にあるとき)、K=0となる。また、本実施形態では、図3(b)に一点鎖線で示すように、図3(a)の干渉縞からの位相シフト量がΔφ=π/10(Δλ=λ/20に相当する)以下であれば、干渉縞が安定しているとみなすようにしている。具体的には、U1=0.34Umax、U2=0.65Umaxとなり、K=0.31となるので、コントラスト値Kを用いて干渉縞が安定しているか否かを判断するための信号コントラストKの閾値Ksを0.31(Δλ=λ/20に相当する)に設定してあり、信号コントラストKがKsよりも大きい場合には参照光の位相制御を行う。したがって、例えば、図3(c),(d)および図4(c),(d)に示すように干渉縞の位相シフト量Δφがπ/10よりも大きい場合には参照光の位相制御を行う。
【0036】
また、波面制御用ミラー42の変位量をΔd、波面制御用ミラー42への参照光の入射角をθとすると、
Δλ=2Δdcosθ
となる。ここで、図3(c)に示す干渉縞のように図3(a)から位相が大きくずれている場合に干渉縞を安定化のための波面制御ミラーの変位量をΔdstabとし、信号コントラストをKとすると、
Δdstab=λsin-1K/4πcosθ
となる。また、図3(d)に示す干渉縞のように図3(a)から位相が180°だけずれている場合など、U3>0.5の場合、波面をΔλ=λだけシフトして補正するための波面制御用ミラー42の補正変位量をΔdcorrとすると、
Δdcorr=λ/4cosθ
となり、安定状態にない全ての条件の干渉縞を安定状態となるように補正するための波面制御用ミラーdの変位量をΔdとすると、
Δd=Δdstab+Δdcorr
となるので、制御部46において、波面制御用ミラー42の変位量がΔdとなるように波長制御用ミラー42の位置を制御することにより、干渉縞を安定化させることができる。
【0037】
次に、制御部46の動作を具体的に説明する。
【0038】
弾性波励起用レーザ21からパルスレーザ光が出力され(S1)、支援装置48から同期パルスが入力されると(S2)、制御部46は、A/Dコンバータ46aを通して各チャネル1,2,3の受光部141a,141a,141aからの信号を読み込み(S3)、信号U1と信号U2とを用いて信号コントラストK=(U2−U1)/(U2+U1)を演算する(S4)。S4の後、信号コントラストKを予め設定した閾値Ks(=0.3)と比較し(S5)、|K|≦Ksの条件を満たしていたとき、U3の値を読み込んでU3<0.5であれば(S6)、図3(a)に示すような安定状態の干渉縞が形成されているとみなすことができるので、干渉縞が安定化されていると判断され、振動検出手段30の光検出部35において振動信号が記録される(S7)。
【0039】
一方、S5において、|K|>Ksであれば、図3(b),(c)あるいは図3(d)に示すような干渉縞が形成されているとみなすことができるので、干渉縞を安定化するための波面制御用ミラー42の変位量Δdstabに対応するデジタル値Ustabを求め(S8)、その後、干渉縞を安定させるための波面制御用ミラー42の変位量Δdに対応するデジタル値Upiezo=Ustab+Ucorrを演算して当該デジタル値UpiezoをD/Aコンバータ46bでアナログの電圧信号に変換して駆動回路部45に与えることで波面制御用ミラー42をΔdだけ変位させ(S9)、S2に戻る。また、S6において、U3≧0.5であれば図3(d)に示すような干渉縞が形成されているとみなすことができるので、上述の補正変位量dcorrに対応するデジタル値Ucorrを求め(S10)、その後、S9を行い、S2に戻る。
【0040】
上述の動作説明から分かるように、制御部46では、干渉縞が安定化するまでデジタル値Upiezoが繰り返し得られ、デジタル値Upiezoが得られるたびに、波面制御用ミラー42の位置を制御する。この波面制御用ミラー42の位置を繰り返し制御する周波数(上述の同期パルスの周波数)は、検査対象物Obの振動周波数の最低周波数の10分の1程度の周波数に設定することが望ましい。例えば、検査対象物Obがコンクリート構造物の場合、最低周波数が1kHzとすれば、波面制御用ミラー42の位置を繰り返し制御する周波数は、100kHz程度に設定することが望ましい。なお、検査対象物Obが金属構造物の場合、最低周波数を1MHzとすれば、波面制御用ミラー42の位置を繰り返し制御する周波数は100kHz程度とすることが望ましい。また、本実施形態では、波面制御用ミラー42の最大変位量を5μmに設定してある。
【0041】
ここで、図6(a)に、検査対象物Obを本実施形態の非破壊検査装置の光学定盤上に配置し、検査対象物Obと非破壊検査装置との相対振動がない場合に受光素子141表面に形成される干渉縞を示し、同図(b)に、検査対象物Obを非破壊検査装置の光学定盤から離して配置して検査対象物Obと非破壊検査装置との相対振動がある状態(相対振動の周波数は20Hzが大きな割合を占めていた)として干渉縞安定化装置40の運転を停止させている場合に受光素子141表面に形成される干渉縞を示し、同図(c)に、検査対象物Obと非破壊検査装置との相対振動がある状態として干渉縞安定化装置40により干渉縞を安定化させた場合に受光素子141表面に形成される干渉縞を示す。図6から、干渉縞安定化装置40により、干渉縞を安定化できることが分かる。
【0042】
以上説明した本実施形態における干渉縞安定化装置40では、検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段41と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラー42と、干渉縞検出手段41により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラー42の位置を制御する制御手段43とを備えているので、制御手段43によって、干渉縞検出手段41により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトが抑制されるように波面制御用ミラー42の位置が制御されるから、当該干渉縞安定化装置40と検査対象物Obとの相対的な振動に起因して補正用参照光と補正用信号光とが独自に振動するのを防止できて補正用参照光と補正用信号光との干渉縞の位相シフトを抑制でき、参照光と検査対象物Obで反射され周波数変調された信号光との干渉縞を安定化することが可能になる。
【0043】
また、本実施形態の非破壊検査装置は、上述の干渉縞安定化装置40を備えているので、当該非破壊検査装置と検査対象物Obとの相対的な振動に起因して参照光と信号光とが独自に振動するのを防止できて参照光と信号光との干渉縞の位相シフトを抑制でき、遠方に存在する検査対象物Obの内部欠陥Deの検出精度の向上が可能になる。
【0044】
なお、コンクリート構造物などの検査対象物Obの表面状態や、検出用レーザ11から出力されたレーザ光の検査対象物Obの表面での集光状態などに起因して補正用信号光にスペックルパターンが多い、あるいはスペックルパターンが細かく干渉縞に影響を与えるときには、補正用信号光を分岐する前の信号光の光軸上にスペイシャルフィルタなどの高次波面パターンを低減させる装置を挿入することにより、スペックルパターンが干渉縞に与える影響を少なくすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施形態における非破壊検査装置を示し、(a)は概略構成図、(b)は要部構成図である。
【図2】同上におけるフォトリフラクティブ結晶の特性説明図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【図7】従来例を示す非破壊検査装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0046】
11 検出用レーザ
12 ビーム分岐手段
21 弾性波励起用レーザ
30 振動検出手段
32 位相シフトミラー
33 位相共役素子(フォトリフラクティブ結晶)
34 電極
35 光検出器
40 干渉縞安定化装置
41 干渉縞検出手段
42 波面制御用ミラー
43 制御手段
50 信号光走査手段
70 欠陥検出手段
Ob 検査対象物
De 内部欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物で反射され周波数変調された信号光から分岐された補正用信号光と参照光から分岐された補正用参照光との干渉縞を検出する干渉縞検出手段と、補正用参照光を分岐する前の参照光の光路上に配設され参照光の波面を制御する波面制御用ミラーと、干渉縞検出手段により検出される干渉縞の安定状態からの位相シフトを抑制するように波面制御用ミラーの位置を制御する制御手段とを備えることを特徴とする干渉縞安定化装置。
【請求項2】
レーザ光を出力する検出用レーザと、検査対象物に弾性波を励起させるための励起光を出力する弾性波励起用レーザと、検出用レーザと検査対象物との間の光路上に配設され検出用レーザから出力されたレーザ光の一部を参照光として分岐するビーム分岐手段と、検出用レーザから出力されて検査対象物で反射され周波数変調された信号光とビーム分岐手段で分岐された参照光とを干渉させる位相共役素子を有し当該位相共役素子から出射される干渉光を利用して検査対象物の振動を検出する振動検出手段と、振動検出手段の出力に基づいて検査対象物の内部欠陥を検出する欠陥検出手段と、請求項1記載の干渉縞安定化装置とを備えることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項3】
前記振動検出手段は、参照光の位相をシフトさせる位相シフトミラーと、位相シフトミラーにより位相シフトされた参照光と検査対象物で反射され周波数変調された信号光とが所定の角度で交差するように入射する前記位相共役素子であるフォトリフラクティブ結晶と、フォトリフラクティブ結晶に電界を印加するための一対の電極と、フォトリフラクティブ結晶から出射される干渉光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする請求項2記載の非破壊検査装置。
【請求項4】
信号光を前記検査対象物の表面で走査させる信号光走査手段を備えることを特徴とする請求項2または請求項3記載の非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−30996(P2009−30996A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192248(P2007−192248)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【Fターム(参考)】