説明

直噴式エンジンの燃料圧力制御装置

【課題】エンジン停止要求後からエンジン停止までの時間を短縮するとともに、エンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制する直噴式エンジンの燃料圧力制御装置を提供する。
【解決手段】高圧燃料ポンプによって加圧された燃料を燃料噴射弁によって燃焼室内に直接噴射する直噴式エンジンの燃料圧力制御装置において、エンジン停止要求を検出する停止要求検出手段S101と、高圧燃料ポンプから燃料噴射弁までの燃料の燃料圧力が所定圧より小さくなった時にエンジンを停止するエンジン停止手段S103、S107と、エンジン停止要求検出時に、高圧燃料ポンプを停止し、エンジン停止要求前のアイドル運転時よりも燃料噴射弁からの燃料噴射量を増加させ、燃料圧力を低下させる燃料圧力制御手段S102、S105と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室内に燃料を直接噴射する直噴式エンジンの燃料圧力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高圧燃料ポンプによって加圧した燃料をデリバリパイプに供給し、デリバリパイプ内の燃料を燃料噴射弁によって燃焼室内に噴射する直噴式エンジンが知られている。このような直噴式エンジンにおいては、エンジン停止後もデリバリパイプ内の燃料が高圧に保たれるため、燃料が燃料噴射弁から漏れ出るおそれがある。エンジン停止後に燃料噴射弁から漏れ出た燃料が未燃ガスとして大気中に排出されると、排気エミッションが悪化するという問題がある。
【0003】
特許文献1には、エンジン停止要求があった場合に、燃料噴射弁への燃料供給量を低下させるとともに燃料噴射弁による燃料噴射を継続することで、燃料圧力を低下させ、エンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制するエンジンの燃料圧力制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−293354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の燃料圧力制御装置では、エンジン停止要求後も燃料噴射弁によって燃料を噴射し、燃料圧力が所定圧力まで低下した後にエンジンを停止するので、エンジン停止要求があってから実際にエンジンが停止するまでに時間がかかる。このようにエンジン停止要求後からエンジン停止までの時間が長くなると、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、エンジン停止要求後からエンジン停止までの時間を短縮するとともに、エンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制できる直噴式エンジンの燃料圧力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、高圧燃料ポンプ(73)によって加圧された燃料を燃料噴射弁(71)によって燃焼室(13)内に直接噴射する直噴式エンジン(100)の燃料圧力制御装置において、エンジン停止要求を検出する停止要求検出手段(S101)と、高圧燃料ポンプ(73)から燃料噴射弁(71)までの燃料の燃料圧力が所定圧より小さくなった時にエンジン(100)を停止するエンジン停止手段(S103、S107)と、エンジン停止要求検出時に、高圧燃料ポンプ(73)を停止し、エンジン停止要求前のアイドル運転時よりも燃料噴射弁(71)からの燃料噴射量を増加させ、燃料圧力を低下させる燃料圧力制御手段(S102、S105)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジン停止要求時に燃料噴射量を増加させるので、燃料圧力を所定圧まで速やかに低下させることができる。これによりエンジン停止要求後からエンジンを停止するまでの時間を短縮でき、かつエンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、車両用エンジンの概略構成図である。
【0011】
エンジン100は、直列4気筒エンジンであって、図1に示すようにシリンダブロック10と、シリンダブロック10の上側を覆うシリンダヘッド20とを備える。
【0012】
シリンダブロック10には、ピストン11を摺動自在に収めるシリンダ12が形成される。ピストン11の冠面と、シリンダ12の壁面と、シリンダヘッド20の下面とによって燃焼室13が形成される。燃焼室13で混合気が燃焼すると、ピストン11は燃焼による燃焼圧力を受けてシリンダ12を往復動する。
【0013】
シリンダヘッド20には、燃焼室13に吸気を流す吸気ポート30と、燃焼室13からの排気を排出する排気ポート40とが形成される。
【0014】
吸気ポート30には、吸気弁31が設けられる。吸気弁31は、可変動弁機構32の揺動カムによって駆動され、ピストン11の上下動に応じて吸気ポート30を開閉する。可変動弁機構32は、吸気弁31のリフト量や作動角等のバルブ特性を変更する。
【0015】
排気ポート40には、排気弁41が設けられる。排気弁41は、可変動弁機構42の揺動カムによって駆動され、ピストン11の上下動に応じて排気ポート40を開閉する。可変動弁機構42は、排気弁41のリフト量や作動角等のバルブ特性を変更する。
【0016】
なお、可変動弁機構32、42としては、例えば特開2008−111375号公報に開示されているような可変動弁機構が用いられる。特開2008−111375号公報の可変動弁機構では、制御軸の角度や駆動軸のカムスプロケットに対する位相を変更することによって、吸気弁や排気弁のリフト量や作動角を連続的に変更できる。
【0017】
吸気ポート30と排気ポート40との間であって、シリンダヘッド20の中心近傍には、点火プラグ21が設置される。点火プラグ21は、燃焼室13内に形成された混合気に所定のタイミングで火花着火する。
【0018】
吸気ポート30には、各気筒に吸気を分配する吸気マニホールド51が接続する。吸気マニホールド51には、外部から取り込んだ吸気を流す吸気通路52が接続する。吸気通路52には、スロットルバルブ53が設けられる。スロットルバルブ53は、吸気通路52の吸気流通面積を変化させることで、燃焼室13に導入される吸気の吸気流量を調整する。
【0019】
排気ポート40には、各気筒からの排気を集合させる排気マニホールド61が接続する。排気マニホールド61の集合部には、排気通路62が接続する。排気通路62には、空燃比センサ63と触媒コンバータ64とが上流側から順次設けられる。空燃比センサ63は、排気通路62内を流れる排気中の酸素濃度を検出する。触媒コンバータ64は、担体に三元触媒を担持しており、排気中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化する。
【0020】
エンジン100には、燃料供給装置70によって燃料が供給される。燃料供給装置70は、燃料噴射弁71と、デリバリパイプ72と、高圧燃料ポンプ73と、低圧燃料ポンプ74と、燃料タンク75とを備える。
【0021】
燃料噴射弁71は、エンジン100の気筒毎にシリンダヘッド20に設けられる。燃料噴射弁71は、エンジン運転状態に応じた燃料を所定のタイミングで燃焼室13内に直接噴射する。燃料噴射弁71に供給される燃料は、燃料タンク75に貯蔵される。
【0022】
燃料タンク75に貯蔵された燃料は、燃料タンク75内に設けられた低圧燃料ポンプ74から吐出される。吐出された低圧燃料は、低圧燃料通路76を通って高圧燃料ポンプ73に供給される。
【0023】
高圧燃料ポンプ73は、プランジャ式ポンプであって、ポンプカムが回転駆動してプランジャを往復動させることで燃料を加圧する。高圧燃料ポンプ73のポンプカムは、エンジン100のクランク軸の駆動力によって回転駆動する。クランク軸からの駆動力は、エンジン運転状態に応じてオルタネータ等の補機にも伝達される。
【0024】
高圧燃料ポンプ73から吐出された高圧燃料は、高圧燃料通路77を通ってデリバリパイプ72に流れ込み、デリバリパイプ72から各燃料噴射弁71に供給される。デリバリパイプ72には、デリバリパイプ72内の燃料圧力を検出する燃料圧力センサ78が設けられる。
【0025】
燃料噴射弁71の燃料噴射量及び燃料噴射時期、点火プラグ21の点火時期、スロットルバルブ53の開度、吸気弁31及び排気弁41のバルブ特性などは、コントローラ80によって制御される。コントローラ80は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0026】
コントローラ80には、空燃比センサ63や燃料圧力センサ78のほか、イグニッションスイッチ81や、スロットルバルブ53の開度を検出するスロットル開度センサ82、所定クランク角度ごとにクランク角信号を生成するクランク角センサ83、可変動弁機構32の揺動カムを駆動する駆動軸の回転角を検出するカム角センサ84、シフトレバーのレンジ位置を検出するポジションセンサ85、アイドル運転時にオンとなるアイドルスイッチ86、パーキングブレーキ使用時にオンにとなるブレーキスイッチ87からの検出データがそれぞれ信号として入力する。
【0027】
ところで、直噴式エンジンにおいては、エンジン停止後もデリバリパイプ内の燃料が高圧に維持されるため、燃料噴射弁から燃焼室内に燃料が漏れ出て、排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0028】
そこで、本実施形態では、エンジン停止要求後にデリバリパイプ72内の燃料圧力を速やかに低下させてからエンジン100を停止することで、エンジン停止要求後からエンジン停止までの時間を短縮しつつ、エンジン停止後に燃料噴射弁71から燃料が漏れるのを抑制する。
【0029】
図2を参照して、コントローラ80が実行する燃料圧力制御について説明する。
【0030】
図2は、燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。この制御ルーチンは、エンジン運転開始ともに実施され、一定周期、例えば10ミリ秒周期でエンジン運転終了まで実施される。
【0031】
ステップS101では、コントローラ80は、イグニッションスイッチ81がオンからオフにされたか否かを判定する。
【0032】
イグニッションスイッチ81がオフにされた場合には、コントローラ80はエンジン停止要求があったと判断して、ステップS102の処理を行う。それ以外の場合には、コントローラ80は処理を終了する。
【0033】
ステップS102では、コントローラ80は、高圧燃料ポンプ73の駆動を停止する。高圧燃料ポンプ停止後は、高圧燃料ポンプ73から燃料噴射弁71までの燃料の燃料圧力が上昇することはない。
【0034】
ステップS103では、コントローラ80は、燃料圧力センサ78の検出値に基づいて、デリバリパイプ72内の燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きいか否かを判定する。燃料圧力センサ78の検出値から算出される燃料圧力Pが、高圧燃料ポンプ73から燃料噴射弁71までの燃料の燃料圧力を代表する。
【0035】
燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きい場合には、コントローラ80はエンジン停止後に燃料噴射弁71から燃料が漏れ出る可能性があると判定して、ステップS104の処理を行う。これに対して、燃料圧力Pが所定圧P0よりも小さい場合には、コントローラ80はエンジン停止後に燃料噴射弁71から燃料が漏れ出ることがないと判定し、ステップS107においてエンジン100への燃料供給を止めてエンジン停止する。
【0036】
ステップS104では、コントローラ80は、イグニッションスイッチ81がオフにされてから所定時間tが経過したか否かを判定する。
【0037】
所定時間tを経過していない場合には、コントローラ80はステップS105の処理を行う。これに対して、所定時間tを経過している場合には、コントローラ80はステップS106の処理を行う。
【0038】
ステップS105では、コントローラ80はエンジン停止前燃料圧力制御を実行する。エンジン停止前燃料圧力制御の詳細については、図3を参照して後述する。
【0039】
ステップS106では、コントローラ80はエンジン停止後燃料圧力制御を実行する。エンジン停止後燃料圧力制御の詳細については、図4を参照して後述する。
【0040】
図3は、エンジン停止前燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。エンジン停止前燃料圧力制御は、エンジン停止要求後に燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きい場合に実施される。
【0041】
ステップS151では、コントローラ80は、スロットルバルブ53の開度をエンジン停止要求前のアイドル運転時よりも増大させる。これによりエンジン100の各気筒に導入される吸気の吸気流量が増加する。
【0042】
ステップS152では、コントローラ80は、失火しない範囲で目標空燃比を理論空燃比よりもリッチに設定する。
【0043】
ステップS151及びステップS152の処理によって、燃料噴射弁71からの燃料噴射量をエンジン停止要求前のアイドル運転時よりも増加させることができ、デリバリパイプ72内の燃料圧力を速やかに低下させることができる。このように燃料噴射量を増加させるとエンジン100からの出力トルクが増加するが、コントローラ80は、エンジン停止要求後における出力トルクの増加を抑制するためにステップS153〜S156の処理を実施する。
【0044】
ステップS153では、コントローラ80は、燃料噴射弁71の燃料噴射時期をアイドル運転時よりも遅角側に制御する。アイドル運転時は吸気行程前半で燃料噴射して均質混合気を形成すが、ここでは吸気行程後半から圧縮行程前半において燃料噴射して混合気の均質化を抑えることで、出力トルクの増加を抑制する。なお、圧縮行程後半において燃料噴射しないのは、失火を抑制するためである。
【0045】
ステップS154では、コントローラ80は、吸気弁31と排気弁41とが共に開弁する期間が長くなるように吸気弁31の開弁時期と排気弁41の閉弁時期を制御して、バルブオーバラップ量を増大させる。バルブオーバラップ量が増大すると、排気の一部が内部EGRガスとして燃焼室13に導入されやすくなる。バルブオーバラップ量が増大して内部EGR率が高くなると、燃焼室13内における混合気の燃焼速度が低下するので、出力トルクの増加が抑制される。
【0046】
ステップS155では、コントローラ80は、点火プラグ21の点火時期を圧縮上死点近傍から遅角側に制御する。このように点火時期を最適点火時期から離れるように遅角制御することで、出力トルクの増加が抑制される。
【0047】
ステップS156では、コントローラ80は、エンジン100のクランク軸の駆動力によって駆動されるようにオルタネータを制御し、処理を終了する。このようにクランク軸からの駆動力によってオルタネータ等の補機類を駆動させることで、出力トルクの増加が抑制される。
【0048】
上記の通り、エンジン停止前燃料圧力制御では、燃料圧力を速やかに低下させつつ、燃料噴射量の増加に起因するトルク変動を抑えることができる。
【0049】
図4を参照して、エンジン停止後燃料圧力制御について説明する。図4は、エンジン停止後燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。エンジン停止後燃料圧力制御は、イグニッションスイッチ81がオフにされてから所定時間tを経過しても、燃料圧力Pが所定圧P0まで低下していない場合に実施される。
【0050】
ステップS161では、コントローラ80は、エンジン100への燃料供給を止めて、エンジン停止する。イグニッションスイッチ81をオフにした後もエンジン100が運転され続けると、運転者に違和感を与えるため、イグニッションスイッチ81がオフにされてから所定時間tを経過した後は、燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きい場合であってもエンジン100を停止する。
【0051】
ステップS162では、コントローラ80は、吸気行程において排気弁41が閉弁している気筒に燃料を噴射するように燃料噴射弁71を制御する。燃料噴射弁71は、燃料圧力Pが所定圧P0よりも小さくなるまで燃料を噴射する。
【0052】
このようにエンジン停止後に燃料圧力Pを低下させるので、エンジン停止後における燃料噴射弁71からの燃料漏れを抑制することができる。また、排気行程や膨張行程等の気筒に燃料を噴射すると、エンジン再始動時に未燃燃料が外部に排出されやすくなるが、吸気行程で排気弁41が閉弁している気筒に噴射された燃料はエンジン再始動時に燃焼するので、エンジン停止後に噴射された燃料が外部に排出されることがない。
【0053】
なお、吸気行程において排気弁41が閉弁している気筒は、クランク角センサ83の検出値とカム角センサ84の検出値に基づいて決定される。
【0054】
エンジン停止前燃料圧力制御及びエンジン停止後燃料圧力制御の作用について、図5及び図6を参照して説明する。
【0055】
まず、図5のタイミングチャートを参照して、エンジン停止前燃料圧力制御の作用について説明する。
【0056】
図5(A)に示すように、時刻t1で、運転者によってイグニッションスイッチ81がオンからオフにされ、エンジン停止要求があると、図5(C)に示すように高圧燃料ポンプ73の駆動が停止される。このとき図5(E)に示すようにデリバリパイプ72内の燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きいので、エンジン停止前燃料圧力制御が実施される。
【0057】
エンジン停止前燃料圧力制御では、図5(G)に示すようにスロットル開度がアイドル運転時よりも増大され、図5(I)に示すように目標空燃比が理論空燃比よりもリッチに設定され、燃料噴射量がエンジン停止要求前のアイドル運転時よりも増加するので、図5(E)に示すように燃料圧力Pが速やかに低下する。時刻t2で、燃料圧力Pが所定圧P0まで低下すると、図5(D)に示すように燃料噴射弁71からの燃燃料噴射が止められて図5(B)に示すようにエンジン100が停止する。
【0058】
燃料圧力を速やかに低下させるために燃料噴射量を増加させると、エンジン100の出力トルクが増加し、エンジン回転速度が上昇する。エンジン停止前燃料圧力制御の実施中は、図5(H)のように燃料噴射時期をアイドル運転時よりも遅角し、図5(F)のように点火時期を圧縮上死点よりも遅角し、図5(J)のようにオルタネータを駆動させ、図5(K)のようにバルブオーバラップ量を増大させて内部EGR率を高めるので、エンジン100の出力トルクの増加が抑えられる。そのため図5(B)に示すように時刻t1からt2の間でエンジン回転速度の上昇が抑制される。
【0059】
次に、図6のタイミングチャートを参照して、エンジン停止後燃料圧力制御の作用について説明する。
【0060】
図6(A)に示すように、時刻t3で、運転者によってイグニッションスイッチ81がオンからオフにされ、エンジン停止要求があると、図6(C)に示すように高圧燃料ポンプ73の駆動が停止される。このときエンジン停止前燃料圧力制御が実施されるので、図6(E)に示すようにデリバリパイプ72内の燃料圧力Pが低下し始める。
【0061】
時刻t4において、イグニッションスイッチ81がオフにされてから所定時間tが経過した時には、エンジン停止後燃料圧力制御が実行される。エンジン停止後燃料圧力制御では、燃料圧力Pが所定圧P0まで低下していない場合であっても、図6(D)に示すように燃料噴射弁71からの燃料噴射を止め、図6(B)に示すようにエンジン100を停止する。これによりイグニッションスイッチ81をオフにしてからエンジン100が停止するまでの時間が長くなり過ぎるのを抑制する。
【0062】
そして、エンジン停止後の時刻t5で、吸気行程であって排気弁41が閉弁している気筒において、燃料圧力Pが所定圧P0よりも小さくなるまで燃料を噴射する。これによりエンジン停止後において燃料圧力Pを低下させるので、エンジン停止後における燃料噴射弁71からの燃料漏れが抑制される。
【0063】
以上により、本実施形態のエンジン100の燃料圧力制御装置では、下記の効果を得ることができる。
【0064】
エンジン停止要求時にデリバリパイプ72内の燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きい場合には、スロットル開度を増大し、目標空燃比をリッチに設定して、エンジン停止要求前のアイドル運転時よりも燃料噴射量を増加させる。そのため燃料圧力Pを所定圧P0まで速やかに低下させてから、エンジン100を停止できる。これによりエンジン停止要求後からエンジン停止までの時間を短縮するとともに、エンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制することが可能となる。
【0065】
燃料圧力Pを速やかに低下させるために燃料噴射量を増加させる場合には、燃料噴射時期をアイドル運転時よりも遅角し、点火時期を圧縮上死点よりも遅角し、オルタネータを駆動させ、バルブオーバラップ量を増大させて内部EGR率を高めるので、エンジン100の出力トルクの増加が抑えられる。そのため燃料噴射量を増加させた場合であっても、エンジン回転速度の上昇を抑制できる。
【0066】
エンジン停止要求後から所定時間tが経過した時には、燃料圧力Pが所定圧P0よりも大きい場合であっても、エンジン100を停止するので、イグニッションスイッチ81をオフにしてからエンジン100が停止するまでの時間が長くなり過ぎるのを抑制できる。このようにエンジン100を停止する場合には、吸気行程であって排気弁41が閉弁している気筒において、燃料圧力Pが所定圧P0よりも小さくなるまで燃料を噴射するので、エンジン停止後における燃料噴射弁からの燃料漏れを抑制できる。
【0067】
(第2実施形態)
第2実施形態のエンジン100の燃料圧力制御装置は、第1実施形態とほぼ同様であるが、イグニッションスイッチ81をオフにする前に燃料圧力を調整する点において一部相違する。つまり、エンジン停止要求前に予め燃料圧力を低下させるようにしたもので、以下にその相違点を中心に説明する。
【0068】
図7は、燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図7は、第1実施形態の図2に置き換わるものである。この制御ルーチンは、エンジン運転開始ともに実施され、一定周期、例えば10ミリ秒周期でエンジン運転終了まで実施される。
【0069】
なお、ステップS101〜S107の処理は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0070】
イグニッションスイッチ81がオフにされる前のステップS108では、コントローラ80は、アイドルスイッチ86からの信号に基づいて、エンジン100がアイドル運転中か否かを判定する。
【0071】
コントローラ80は、アイドル運転中でない場合には処理を終了し、アイドル運転中の場合にはステップS109の処理を行う。
【0072】
ステップS109では、コントローラ80は、ポジションセンサ85の検出値に基づいて、レンジ位置がドライブレンジ(Dレンジ)等の駆動レンジからニュートラルレンジ(Nレンジ)等の非駆動レンジに変更されたか否かを判定する。
【0073】
レンジ位置がDレンジから変更されていない場合には、コントローラ80は処理を終了する。これに対して、レンジ位置がNレンジ変更された場合には、コントローラ80はステップS110の処理を行う。
【0074】
ステップ110では、コントローラ80は、ブレーキスイッチ87からの信号に基づいて、車両がパーキングブレーキによって停止しているか否かを判定する。
【0075】
パーキングブレーキが使用されていない場合には、コントローラ80は処理を終了する。これに対して、パーキングブレーキによって車両が停止中である場合には、コントローラ80はステップS111の処理を実行する。
【0076】
ステップS111では、コントローラ80は、燃料吐出量が低下するように高圧燃料ポンプ73を制御する。このように高圧燃料ポンプ73を制御することによって、デリバリパイプ72内の燃料圧力Pをアイドル運転時における燃料圧力よりも低い所定圧P1まで低下させる。この所定圧P1は、ステップS103における所定圧P0よりも大きい値である。
【0077】
なお、ステップS111の後は、コントローラ80はステップS101以降の処理を実施する。
【0078】
上記の通り本実施形態では、エンジン停止要求前に、アイドルスイッチ86、ブレーキスイッチ87及びポジションセンサ85からの信号に基づいて、運転者がエンジン停止のための準備をしているか否かを判定する。エンジン停止準備中であると判定された場合(S108〜S110でYES)には、高圧燃料ポンプ73の燃料吐出量を低下させ(S111)、イグニッションスイッチ81がオフにされて高圧燃料ポンプ73が停止するまでの間に事前に燃料圧力Pを所定圧P1まで低下させる。
【0079】
したがって、エンジン停止前燃料圧力制御の実施前までに燃料圧力Pをある程度低下させることができ、エンジン停止前燃料圧力制御によって燃料圧力Pを所定圧P0まで低下させるための時間が短くなる。これによりエンジン停止要求後からエンジン停止までの時間を第1実施形態よりも短縮することが可能となる。
【0080】
(第3実施形態)
第3実施形態のエンジン100の燃料圧力制御装置は、第1実施形態とほぼ同様であるが、エンジン停止前燃料圧力制御の内容において一部相違する。つまり、燃料噴射量の増加に起因する出力トルクの増加を、スロットル開度によって抑制するようにしたもので、以下にその相違点を中心に説明する。本実施形態は、第1実施形態だけでなく、第2実施形態にも適用することが可能である。
【0081】
図8は、エンジン停止前燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図8は、第1実施形態の図3に置き換わるものである。なお、ステップS152〜S156の処理は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0082】
第3実施形態のエンジン停止前燃料圧力制御では、ステップS157において、コントローラ80は、エンジン停止要求前のアイドル運転時と同様にスロットルバルブ53を全閉位置に制御する。スロットルバルブ53が全閉位置にあると、ピストン往復動時のポンピングロスが大きくなり、さらにエンジン100の各気筒に導入される吸気の吸気流量が低下する。
【0083】
ステップS158では、コントローラ80は、吸気弁31の作動角をアイドル運転時よりも増大させる。吸気弁31の作動角を増大させると吸気弁31の開弁期間が長くなるので、スロットルバルブ53が全閉位置にあっても、第1実施形態と同程度の吸気流量を確保することができる。
【0084】
ステップS158の処理の後は、コントローラ80はステップS152以降の処理を行う。
【0085】
上記の通り本実施形態では、エンジン停止前燃料圧力制御においてスロットルバルブ53を全閉位置に制御し、吸気弁31の作動角をアイドル運転時よりも増大させる。これにより、第1実施形態と同程度の吸気流量を確保することができ、燃料圧力を速やかに低下させるために燃料噴射量を増加させることができる。スロットルバルブ53を全閉位置に制御すれば、ポンピングロスが大きくなるので、燃料噴射量の増加に起因する出力トルクの増大を抑制することも可能となる。
【0086】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0087】
第1実施形態から第3実施形態においては、イグニッションスイッチ81のオフ後に、タコメータをゼロにするように構成したり、タコメータ等の各種メータの照明をオフにするように構成したりしてもよい。このようにすれば運転者はエンジン100が停止状態となったことを視認できるので、エンジン停止要求後の所定期間にエンジン運転が継続されても運転者に違和感を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】車両用エンジンの概略構成図である。
【図2】燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】エンジン停止前燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】エンジン停止後燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】エンジン停止前燃料圧力制御の作用について説明するタイミングチャートである。
【図6】エンジン停止後燃料圧力制御の作用について説明するタイミングチャートである。
【図7】第2実施形態における燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】第3実施形態におけるエンジン停止前燃料圧力制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0089】
100 エンジン
13 燃焼室
21 点火プラグ
31 吸気弁
32 可変動弁機構
41 排気弁
42 可変動弁機構
53 スロットルバルブ
63 空燃比センサ
71 燃料噴射弁
72 デリバリパイプ
73 高圧燃料ポンプ
78 燃料圧力センサ
80 コントローラ
81 イグニッションスイッチ
82 スロットル開度センサ
83 クランク角センサ
84 カム角センサ
85 ポジションセンサ
86 アイドルスイッチ
87 ブレーキスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧燃料ポンプによって加圧された燃料を燃料噴射弁によって燃焼室内に直接噴射する直噴式エンジンの燃料圧力制御装置において、
エンジン停止要求を検出する停止要求検出手段と、
前記高圧燃料ポンプから前記燃料噴射弁までの燃料の燃料圧力が所定圧より小さくなった時に前記エンジンを停止するエンジン停止手段と、
エンジン停止要求検出時に、前記高圧燃料ポンプを停止し、エンジン停止要求前のアイドル運転時よりも前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を増加させ、前記燃料圧力を低下させる燃料圧力制御手段と、
を備えることを特徴とする直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項2】
前記燃料圧力制御手段は、スロットルバルブの開度を増大させ、目標空燃比をリッチに設定することで、前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項3】
前記燃料圧力制御手段は、スロットルバルブを全閉するとともに吸気弁の作動角を増大させ、目標空燃比をリッチに設定することで、前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項4】
前記燃料圧力制御手段は、前記燃料噴射弁の燃料噴射時期を吸気行程後半から圧縮行程前半に設定する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項5】
前記燃料圧力制御手段は、混合気に点火する点火装置の点火時期を圧縮上死点から遅角制御する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項6】
前記燃料圧力制御手段は、内部EGR率が高くなるように吸気弁及び排気弁のバルブオーバラップ量を増大させる、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項7】
前記燃料圧力制御手段は、前記エンジンのクランク軸の駆動力によって補機を駆動する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項8】
前記エンジン停止手段は、エンジン停止要求検出後から所定時間が経過した時には、前記燃料圧力が所定圧よりも大きい場合であっても前記エンジンを停止する、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項9】
前記燃料圧力制御手段は、エンジン停止後に燃料圧力が所定圧よりも小さくなるよう、前記燃料噴射弁によって、吸気行程において排気弁が閉弁している気筒に燃料を噴射する、
ことを特徴とする請求項8に記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。
【請求項10】
前記燃料圧力制御手段は、エンジン停止要求前のアイドル運転中において、シフトレバーのレンジ位置が駆動レンジから非駆動レンジに変更され、パーキングブレーキが使用された時には、前記燃料圧力が低下するように高圧燃料ポンプの吐出量をアイドル運転時よりも低下させる、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の直噴式エンジンの燃料圧力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−65557(P2010−65557A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231062(P2008−231062)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】