説明

積層構造、有機半導体素子、配線および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法

【課題】バリア性の高い保護層を有する積層構造、有機半導体素子、配線および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】導体または半導体を含む有機層と、絶縁材料により構成され、前記有機層を覆う保護層と、外周が前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、前記保護層に分散された複数の粒体とを備えた積層構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、有機層上に保護層を備え、例えばトランジスタや配線等に適用可能な積層構造、この積層構造を有する有機半導体素子、配線、および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いた有機トランジスタは低コストで製造可能であり、また、高い可撓性を有することから注目されている。例えば表示装置の駆動素子として有機トランジスタを用い、更に配線も有機導体により構成した場合、表示装置全体のフレキシブル性を一層高めることができる。
【0003】
このような有機トランジスタの有機半導体層は、例えば塗布や印刷法により形成することができる。塗布や印刷法は、有機半導体材料を有機溶媒に溶解させたインキを用いて行う方法であり、低温で、かつ簡便に行うことができるため詳細な検討が進められている。
【0004】
有機半導体材料はこのように容易に有機溶媒と混合して使用することができる一方、その耐薬品性の低さが問題となっている。例えば有機トランジスタを用いて表示装置を製造する際には、有機半導体層を設けた後に絶縁層や電極を形成していく。このため、絶縁層や電極の形成工程で使用する有機液体あるいはガスにより有機半導体層が劣化し、有機トランジスタの特性が低下する虞がある。このような製造工程での劣化を防止するため、有機半導体層上には保護層が設けられている。特許文献1では、この保護層に粒体を含有させることによりバリア性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−4817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように粒体を含む保護層では塗布や印刷法により保護層を形成する際に、粒体が絶縁材料および溶媒を含むインキ中に均一に混ざらず、粒体が低分散状態になってしまう。このような均一性の低い保護層ではバリア性が低下するという問題が生じていた。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、保護層中に均一に粒体を分散させることによりバリア性を向上させた積層構造、この積層構造を備えた有機半導体素子、配線および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の積層構造は、導体または半導体を含む有機層と、絶縁材料により構成され、有機層を覆う保護層と、外周が絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、保護層に分散された複数の粒体とを備えたものである。本技術の有機半導体素子および配線は本技術の積層構造を有するものであり、本技術の表示装置は本技術の有機半導体素子を備えている。
【0009】
本技術の有機半導体素子の製造方法は、半導体を含む有機層を形成する工程と、絶縁材料および粒体を溶媒に混合させてインキを調製する工程と、インキにより有機層を覆い、保護層を形成する工程とを含み、粒体の外周は、前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われているものである。
【0010】
本技術の積層構造、有機半導体素子、配線および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法では、粒体の外周に親和層が設けられているので、保護層を形成する際にインキ中での粒体と絶縁材料および溶媒との間の親和性が高まり、粒体が均一に分散される。
【発明の効果】
【0011】
本技術の積層構造、有機半導体素子、配線および表示装置、並びに有機半導体素子の製造方法によれば、粒体の外周に親和層を設けるようにしたので、保護層において粒体を均一に分散させバリア性を向上させることが可能となる。よって、製造工程での有機層の劣化を防ぎ、信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本技術の基本構造を表す断面図である。
【図2】本開示の第1の実施の形態に係る有機TFT(Thin Film Transistor)の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した粒体の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した有機TFTの製造工程の流れを表す図である。
【図5】変形例1に係る有機TFTの構成を表す断面図である。
【図6】変形例2に係る有機TFTの構成を表す断面図である。
【図7】変形例3に係る有機TFTの構成を表す断面図である。
【図8】本開示の第2の実施の形態に係る配線の構成を表す断面図である。
【図9】適用例1に係る表示装置の回路構成を表す図である。
【図10】図9に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図11】適用例2の外観を表す斜視図である。
【図12】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図13】(A)は適用例4の表側から見た外観を表す斜視図、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図14】適用例5の外観を表す斜視図である。
【図15】適用例6の外観を表す斜視図である。
【図16】(A)は適用例7の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明
は以下の順序で行う。
1.基本構造
2.第1の実施の形態
ボトムコンタクト・ボトムゲート型の有機TFTに保護層が設けられた例
3.変形例1
トップコンタクト・ボトムゲート型の有機TFTに保護層が設けられた例
4.変形例2
トップゲート型の有機TFTに保護層が設けられた例
5.変形例3
保護層が平坦化層を兼ねる有機TFTの例
6.第2の実施の形態
配線に保護層が設けられた例
【0014】
<基本構造>
本技術の積層構造は、図1に示したように導体または半導体を含む有機層Aと、この有機層Aを覆う保護層Bとを備えたものである。保護層Bは絶縁材料からなり、保護層Bには複数の粒体Cが分散されている。粒体Cの外周は、保護層Bの絶縁材料と親和性を有する親和層CHにより覆われている。このような本技術の積層構造は、例えば、有機TFT(後述の有機TFT1)等の有機半導体素子または配線(後述の配線2)等に適用されるものである。
【0015】
<第1の実施の形態>
図2は本開示の第1の実施の形態に係る有機TFT(有機TFT1)の断面構成を
表すものである。有機TFT1は、電界効果型のトランジスタであり、液晶,有機E
Lおよび電気泳動型の表示体を用いたディスプレイの駆動素子として用いられるもの
である。この有機TFT1は、ボトムコンタクト・ボトムゲート型構造のTFTであ
り、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁膜13、ソース・ドレイン電極14A,
14B、有機半導体層15(有機層)および保護層16をこの順に有している。
【0016】
基板11は、例えば厚さ20nm〜1mm程度のガラス基板,石英基板またはプラスチックフィルムなどにより構成されている。プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリエーテルスルホン,ポリエーテルイミド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリエーテルケトン,ポリフェニレンスルフィド,ポリアリレート,ポリイミド,ポリカーボネート,セルローストリアセテート,シクロオレフィンポリマー,ポリオレフィン,ポリ塩化ビニル,液晶ポリマー,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂あるいはシリコン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂を混合して用いるようにしてもよい。基板11をプラスチックフィルムにより構成すると、有機TFT1の可撓性が向上する。ガラス基板や石英基板等の無機物により基板11を構成する場合は、表面(ゲート電極12側の面)を高分子材料からなる有機絶縁膜で覆っておく。有機絶縁膜は、例えば、ポリビニルフェノール,ポリメチルメタクリレート,あるいはポリビニルフェノールとオクタデシルトリクロロシランとの混合物等である。このような有機絶縁膜は、ガラス基板や石英基板に貼り合わせてもよく、あるいは塗布により成膜してもよい。
【0017】
ゲート電極12は、有機TFT1にゲート電圧を印加して有機半導体層15中のキャリア密度を制御する役割を有するものである。ゲート電極12は有機半導体層15に対向するよう設けられている。ゲート電極12は基板11上の選択的な領域に設けられ、例えば金(Au),銀(Ag),白金(Pt),チタン(Ti),ルテニウム(Ru),モリブデン(Mo),銅(Cu),タングステン(W),クロム(Cr),ニッケル(Ni),アルミニウム(Al),パラジウム(Pd),鉄(Fe),マンガン(Mn)およびタンタル(Ta)等の金属単体または合金により構成されている。ゲート電極12には、この他の無機導電材料、またはポリアニリン等の有機導電材料、更には炭素材料を使用してもよい。ゲート電極12の厚みは、例えば50nm〜200nmである。
【0018】
ゲート絶縁膜13は、ゲート電極12とソース・ドレイン電極14A,14Bとを絶縁するため、ゲート電極11とソース・ドレイン電極14A,14Bとの間に設けられている。ゲート絶縁膜13は、例えば、ポリビニルフェノール,ポリメチルメタクリレート,ポリビニルアルコール,ポリイミド,ポリアミド,ポリエステル,ポリ酢酸ビニル,ポリウレタン,ポリスルホン,ポリフッ化ビニリデン,シアノエチルプルラン,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ベンゾシクロブテン樹脂あるいはアクリル樹脂などの有機材料により構成されている。ゲート絶縁膜13に、酸化シリコン(SiO2),酸化アルミニウム(Al23)あるいは酸化タンタル(Ta25)などの無機材料を用いることも可能である。ゲート絶縁膜13の厚みは、例えば50nm〜1000nmである。
【0019】
ソース・ドレイン電極14A,14Bはゲート絶縁膜13上に設けられ、ソース・ドレイン電極14Aとソース・ドレイン電極14Bとの間の間隙がゲート電極12に対向するよう配置されている。ソース・ドレイン電極14A,14Bは有機半導体層15に電気的に接続されている。ソース・ドレイン電極14A,14Bは、上記ゲート電極12と同様の材料により構成され、例えば50nm〜200nmの厚みを有している。
【0020】
有機半導体層15は、ソース・ドレイン電極14A,14B上およびこれらの間の間隙に設けられている。有機半導体層15の構成材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリチオフェンにヘキシル基を導入したポリ−3−ヘキシルチオフェン[P3HT]、ペンタセン[2,3,6,7−ジベンゾアントラセン]、ポリアントラセン、ナフタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレン、サーカムアントラセン、ベンゾピレン、ジベンゾピレン、トリフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリフェニレン、ポリフラン、ポリインドール、ポリビニルカルバゾール、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニレンスルフィド、ポリチエニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン、銅フタロシアニンで代表されるフタロシアニン、メロシアニン、ヘミシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ピリダジン、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]、
4,4’−ビフェニルジチオール(BPDT)、4,4’−ジイソシアノビフェニル、4,4’−ジイソシアノ−p−テルフェニル、2,5−ビス(5’−チオアセチル−2’−チオフェニル)チオフェン、2,5−ビス(5’−チオアセトキシル−2’−チオフェニル)チオフェン、4,4’−ジイソシアノフェニル、ベンジジン(ビフェニル−4,4’−ジアミン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、テトラチアフルバレン(TTF)−TCNQ錯体、ビスエチレンテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体に代表される電荷移動錯体、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−ジ(4−チオフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン、1,4−ジ(4−イソシアノフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン、デンドリマー、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン、1,4−ジ(4−チオフェニルエチニル)−2−エチルベンゼン、2,2”−ジヒドロキシ−1,1’:4’,1”−テルフェニル、4,4’−ビフェニルジエタナール、4,4’−ビフェニルジオール、4,4’−ビフェニルジイソシアネート、1,4−ジアセチニルベンゼン、ジエチルビフェニル−4,4’−ジカルボキシレート、ベンゾ[1,2−c;3,4−c’;5,6−c”]トリス[1,2]ジチオール−1,4,7−トリチオン、アルファ−セキシチオフェン、テトラチオテトラセン、テトラセレノテトラセン、テトラテルルテトラセン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリ(N−アルキルピロール)ポリ(3−アルキルピロール)、ポリ(3,4−ジアルキルピロール)、ポリ(2,2’−チエニルピロール)、ポリ(ジベンゾチオフェンスルフィド)またはキナクリドン等である。この他、縮合多環芳香族化合物、ポルフィリン系誘導体、フェニルビニリデン系の共役系オリゴマーまたはチオフェン系の共役系オリゴマー等を用いてもよい。有機半導体層15の厚みは例えば10nm〜100nmである。
【0021】
保護層16は、製造工程および動作時の化学的あるいは物理的衝撃から有機半導体層15を保護するものであり、有機半導体層15の上面を覆っている。保護層16は有機半導体層15の下面を覆っていてもよく、あるいは有機半導体層15の上面あるいは下面の少なくとも一部を覆うものであってもよい。有機半導体層15の上面および側面を保護層16により覆うようにしてもよい。保護層16は形状を維持できる絶縁材料、例えば樹脂により構成されている。製造工程で使用する薬品(例えば、有機液体等)やガスにより有機半導体層15が劣化することを防ぐため、保護層16には耐薬品性の高い含フッ素樹脂を用いることが好ましい。例えば保護層16は、含フッ素ポリイミドなどの縮合系含フッ素ポリマー、含フッ素アクリル樹脂、含フッ素エーテルポリマーあるいは含フッ素環状エーテルポリマーからなる。これらの樹脂は全フッ素置換されたパーフルオロ樹脂であってもよい。あるいは、含フッ素樹脂のフッ素置換残部(フッ素未置換部)を塩素で置換するようにしてもよい。保護層16の厚みは500nm以上であることが好ましく、例えば500nm〜1μmである。保護層16のバリア性を向上させるためである。
【0022】
この保護層16には、粒体17が例えば1〜50重量%程度含まれている。粒体17は球状の微粒子であり、その粒径は例えば10〜1000nmであることが好ましい。粒体17の粒径が1000nmを超えると、塗布や印刷法による保護層16の形成に悪影響を及ぼし、また保護層16における粒体17の分散性も低下する虞がある。粒体17は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリメタクリレートあるいはラテックス等の樹脂微粒子、または、ガラス,石英およびシリカ(SiO2)等のケイ素化合物、マグネシア、チタニア、ジルコニア、アルミナ(Al23)あるいはアパタイト等の無機微粒子により構成されている。粒体17には、例えばポリスチレンまたはポリエチレン等の誘電率の低い材料を用いることが好ましい。有機TFT1のバックチャネル効果に起因する閾値電圧の変動を抑えることができるからである。本実施の形態では図3に示したように、この粒体17の外周(表面)は親和層17Hにより覆われている。
【0023】
親和層17Hは保護層16の絶縁材料と高い親和性を有し、粒体17を保護層16中に均一に分散させるものである。例えば保護層16が上述のような含フッ素樹脂からなる場合、親和層17Hは粒体17に化学的に結合したフッ素化官能基により構成されている。このフッ素化官能基は、例えばフッ素化アルキル基、フッ素化アルキル基を有するエーテル,エステルおよびアミド基あるいはフッ素化アリール基などである。親和層17Hとして上述の含フッ素樹脂を用い、この含フッ素樹脂で粒体17を被覆するようにしてもよい。粒体17の保護層16における分散性を向上させるため、親和層17Hはフッ素置換率の高い官能基または樹脂であることが好ましく、フッ化率60%以上であることが好ましい。
【0024】
この有機TFT1は例えば次のようにして製造することができる(図4)。
【0025】
まず、基板11上にゲート電極12を形成する(S101)。ゲート電極12は例えば基板11の全面に真空蒸着法により金を成膜した後、これをフォトリソグラフィを用いてパターニングすることにより形成する。ゲート電極12は、塗布法,印刷法または鍍金法を用いて形成するようにしてもよい。
【0026】
次いで、ゲート電極12を覆うようにゲート絶縁層13を形成する(S102)。ゲート絶縁層13は、例えばポリビニルフェノールのPGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)溶液をスピンコート法によりゲート電極12上および基板11上に塗布した後、150度の熱処理を行うことにより形成する。続いて、このゲート絶縁膜13上に、例えばゲート電極12と同様の方法により金からなるソース・ドレイン電極14A,14Bを形成する(S103)。
【0027】
ソース・ドレイン電極14A,14Bを形成した後、ソース・ドレイン電極14A,14B上およびソース・ドレイン電極14Aとソース・ドレイン電極14Bとの間の間隙に有機半導体層15を形成する(S104)。有機半導体層15は、例えばTIPSペンタセン(6,13-Bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene)のキシレン溶液を用いてインクジェット印刷法により形成する。
【0028】
続いて、保護層16を形成するためのインキ16Iを調製する(S105)。まず、保護層16の絶縁材料として例えばアモルファスフッ素樹脂CYTOP(登録商標)(旭硝子株式会社製)を用い、これを溶媒に8wt%の割合で溶解(混合)させる。このときの溶媒としては含フッ素樹脂が可溶であると共に、有機半導体層15を溶解させず、かつ有機半導体層15と反応しない溶媒、例えばCT180やCT100(旭硝子株式会社製)等の含フッ素系溶媒を使用する。この他、含フッ素脂肪族炭化水素類、含フッ素エーテル類または含フッ素アルキルアミン類などの有機溶媒を使用することができる。フッ素置換残部を一部塩素などで置換したものを用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、絶縁材料を溶解させる溶媒として水またはアルコール類を使用することも可能であるが、このときの絶縁材料には極性の高いものを選択する。
【0029】
一方、粒体17の外周には親和層17Hを形成する。例えば、粒体17には直径50nmのアミノ基修飾されたポリスチレンビーズを用い、この粒体17の表面にパーフルオロオクチル基からなる親和層17Hを化学結合させる。パーフルオロオクチル基の導入は、例えば、ポリスチレンビーズに10wt%のパーフルオロオクタン酸のハイドロフルオロエーテル溶液を加えて脱水縮合し、ポリスチレンビーズのアミノ基とパーフルオロオクタン酸との間にアミド結合を生成させることにより行う。この他、例えば粒体17が水酸基により表面修飾された上記樹脂微粒子あるいは上記無機微粒子である場合には、フッ素アルキル基、フッ素化アルキルエーテル基あるいはフッ素化アリール基などの含フッ素官能基を有するシランカップリング剤(クロロシランまたはアルコシシラン等)を用いることにより親和層17Hが導入される。粒体17が例えば、カルボキシル基あるいはスルホン基により表面修飾された上記樹脂微粒子である場合には、上記含フッ素官能基を有するアミンを用いることにより親和層17Hが導入される。粒体17が例えば、アミノ基により表面修飾された上記樹脂微粒子である場合には、上記含フッ素官能基を有するカルボン酸あるいはスルホン酸を用いることにより親和層17Hが導入される。親和層17Hが含フッ素樹脂である場合にも同様に導入することが可能である。この親和層17Hが形成された粒体17を含む溶液を抽出した後、減圧乾燥させる。この減圧乾燥により得られた粉体を、例えば2wt%の割合で上述の保護層16の絶縁材料を含む溶液に添加してインキ16Iを調製する。このとき、本実施の形態では粒体17の外周に親和層17Hが設けられているため、インキ16I中で粒体17がより均一に分散される。
【0030】
特許文献1では、バリア性を向上させるために保護層に粒体を混合させている。しかしながら、粒体の外周には親和層がないため粒体はインキ中に均一に分散されずに、沈殿したりあるいは表面に浮いたりする。これは、粒体の比重がインキに含まれる溶媒の比重と異なっており、また、粒体自体はこの溶媒に不溶であり親和性も低いことに起因する。このインキを用いて保護層を形成すると、保護層中での粒体の分散性も低くなり、期待される十分なバリア効果が得られない。特に、保護層の絶縁材料に含フッ素樹脂を使用し、これを含フッ素系溶媒に溶解させた場合には、含フッ素系溶媒の表面張力の低さにより保護層の厚みを大きくすることができず、バリア性が低下する。
【0031】
また、粒体として誘電率の高い酸化ケイ素(SiO2)を用いているため、有機TFTを動作させた際にバックチャネル効果に起因する閾値電圧の変動が生じ、信頼性が低下する虞がある。
【0032】
これに対し、有機TFT1では保護層16に分散された粒体17の外周が親和層17Hにより覆われている。このため、インキ16I中での粒体17と絶縁材料および溶媒との間の親和性が高まり、粒体17が均一に分散される。即ち、保護層16においても粒体17が均一に分散され、十分なガスバリア効果が発揮される。また、インキ16Iのチキソ性が向上するため、含フッ素樹脂および含フッ素系溶媒を使用してインキ16Iを調製した場合にも、保護層16の厚みを大きくすることができる。
【0033】
更に、粒体17自体と絶縁材料および溶媒との親和性に制限を受けることなく、粒体17の材料を選択することが可能なため、粒体17に誘電率の低い材料、例えばポリスチレンやポリエチレンを用いることができる。
【0034】
インキ16Iを調製した後、このインキ16Iを塗布法または印刷法により有機半導体層15上に成膜して乾燥させることにより、保護層16を形成する(S106)。塗布法としては、例えば、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法およびスリット&スピンコート法が挙げられる。印刷法としては、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法および反転オフセット印刷法が挙げられる。印刷法では、上記のようにインキ16Iのチキソ性が向上することにより、膜厚を大きくできることに加え、高精細な印刷が可能となる。例えば、インキ16Iを反転オフセット印刷法により有機半導体層15上に印刷した後、120℃で10分間乾燥させることにより保護層16を形成することができる。以上の工程により図2に示した有機TFT1が完成する。
【0035】
有機TFT1では、ゲート電極12に所定の閾値電圧以上のゲート電圧が印加されると、有機半導体層15にチャネルが形成され、ソース・ドレイン電極14A,14B間に電流(ドレイン電流)が流れ、トランジスタとして機能する。ここでは、粒体17の外周に親和層17Hが設けられているので、粒体17が保護層16中に均一に分散される。これにより、保護層16のバリア性が高まり、製造工程および動作時の有機半導体層15の劣化を防止することができる。よって、有機TFT1の信頼性が向上する。
【0036】
また、粒体17に誘電率の低い材料を用いることも可能となるため、バックチャネル効果に起因する閾値電圧の変動を抑えることができる。
【0037】
以上のように本実施の形態の表示装置1では、粒体17の外周に親和層17Hを設けるようにしたので、保護層16中での粒体17の分散性を高めることができる。よって、保護層16のバリア性を向上させることが可能となる。
【0038】
以下、本技術の変形例および他の実施の形態について説明するが、上記実施の形態と共通の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。
【0039】
<変形例1>
図5は、上記実施の形態の変形例1に係る有機TFT(有機TFT1A)の断面構成を表すものである。この有機TFT1Aは、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁膜13、有機半導体層15、ソース・ドレイン電極14A,14Bおよび保護層16をこの順に有している。即ち、有機TFT1Aはトップコンタクト・ボトムゲート型構造である。この点を除き、有機TFT1Aは有機TFT1と同様の構成を有し、その作用および効果も同様である。
【0040】
<変形例2>
図6は、上記実施の形態の変形例2に係る有機TFT(有機TFT1B)の断面構成を表すものである。この有機TFT1Bは、基板11上にソース・ドレイン電極14A,14B、有機半導体層15、保護層16、ゲート絶縁膜13およびゲート電極12をこの順に有している。即ち、有機TFT1Bはトップゲート型構造である。この点を除き、有機TFT1Bは有機TFT1と同様の構成を有し、その作用および効果も同様である。
【0041】
<変形例3>
図7は、上記実施の形態の変形例3に係る有機TFT(有機TFT1C)の断面構成を表すものである。この有機TFT1Cでは、保護層16が有機半導体層15上およびソース・ドレイン電極14A,14B上に加え、ゲート絶縁膜13上にも設けられている。つまり、ここでは保護層16が平坦化層の役割を担っている。この点を除き、有機TFT1Cは有機TFT1と同様の構成を有し、その作用および効果も同様である。
【0042】
<第2の実施の形態>
図8に、本技術の第2の実施の形態に係る配線(配線2)の断面構成を有機TFT1と共に表す。この配線2を介して有機TFT1に電気信号が伝送される。
【0043】
配線2は、基板11側から有機導体層21(有機層)および保護層16がこの順に積層されたものである。有機導体層21は、例えばPEDOT/PSSや不純物をドーピングしたポリアニリン等により構成されている。
【0044】
保護層16は、上記第1の実施の形態と同様に、有機導体層21を物理的および化学的衝撃から保護するものであり、有機導体層21の一方の面(上面)を覆っている。保護層16には、粒体17が分散されており、粒体17の外周に親和層17Hが設けられている。保護層16の構成、作用および効果は、上記第1の実施の形態と同様である。
【0045】
<適用例1>
図9は、上記有機TFT1(有機TFT1A,1B,1C)を駆動素子として備えた表示装置(表示装置90)の回路構成を表すものである。表示装置90は、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイまたは電子ペーパーなどであり、基板11上の表示領域110に、マトリクス状に配設された複数の画素10と、画素10を駆動するための各種駆動回路とが形成されたものである。基板11上には、駆動回路として、例えば映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130と、画素駆動回路140とが配設されている。この基板11には、図示しない封止パネルが貼り合わせられ、この封止パネルにより画素10および上記駆動回路が封止されている。
【0046】
図10は、画素駆動回路140の等価回路図である。画素駆動回路140は、上記有機TFT1として、トランジスタTr1,Tr2が配設されたアクティブ型の駆動回路である。トランジスタTr1,Tr2の間にはキャパシタCsが設けられ、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において、画素10がトランジスタTr1に直列に接続されている。このような画素駆動回路140では、列方向に信号線120Aが複数配置され、行方向に走査線130Aが複数配置されている。この信号線120Aまたは走査線130Aを配線2により構成するようにしてもよい。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介してトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介してトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。この表示装置では、トランジスタTr1,Tr2が、上記実施の形態の有機TFT1により構成されているので、このトランジスタTr1,Tr2の良好なTFT特性により、高品質な表示が可能となる。このような表示装置90は、例えば次の適用例2〜7に示した電子機器に搭載することができる。
【0047】
<適用例2>
図11(A)および図11(B)は、電子ブックの外観を表したものである。この電子ブックは、例えば、表示部210、非表示部220および操作部230を有している。操作部230は、図11(A)に示したように表示部210と同じ面(前面)に形成されていても、図11(B)に示したように表示部210とは異なる面(上面)に形成されていてもよい。
【0048】
<適用例3>
図12は、テレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有している。
【0049】
<適用例4>
図13は、デジタルスチルカメラの外観を表したものである。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有している。
【0050】
<適用例5>
図14は、ノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有している。
【0051】
<適用例6>
図15は、ビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有している。
【0052】
<適用例7>
図16は、携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。
【0053】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本技術を説明したが、本技術は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、粒体17として球状(図3)のものを例示したが、粒体17は他の形状であってもよく、例えば葉状あるいは鱗片状であってもよい。
【0054】
また、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件等は限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。例えば、上記実施の形態等では保護層16が含フッ素樹脂からなる場合について説明したが、保護層16に他の樹脂材料を用いるようにしてもよい。
【0055】
更に、上記実施の形態等では、有機TFT1の構成を具体的に挙げて説明したが、他の層を更に備えていてもよい。
【0056】
加えて、上記第2の実施の形態では、配線2を有機TFT1と共に用いる場合について説明したが、配線2は他のトランジスタと共に用いるようにしてもよい。
【0057】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)導体または半導体を含む有機層と、絶縁材料により構成され、前記有機層の上面または下面の少なくとも一部を覆う保護層と、外周が前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、前記保護層に分散された複数の粒体とを備えた積層構造。
(2)前記(1)に記載の積層構造を有し、前記有機層は半導体を含む有機半導体素子。
(3)前記絶縁材料は樹脂材料である請求項2に記載の有機半導体素子。
(4)前記絶縁材料は含フッ素樹脂を含み、前記親和層は前記粒体に化学結合したフッ素化官能基により構成されている前記(2)または(3)に記載の有機半導体素子。
(5)前記フッ素化官能基は、パーフルオロアルキル基を含む前記(4)に記載の有機半導体素子。
(6)前記絶縁材料は含フッ素樹脂を含み、前記親和層は前記粒体を被覆する含フッ素樹脂である前記(2)または(3)に記載の有機半導体素子。
(7)前記粒体は、樹脂により構成されている前記(2)乃至(6)のうちいずれか1つに記載の有機半導体素子。
(8)前記粒体は、ポリスチレンからなる前記(2)乃至(7)のうちいずれか1つに記載の有機半導体素子。
(9)前記粒体は、無機物からなる前記(2)乃至(6)のうちいずれか1つに記載の有機半導体素子。
(10)前記有機層に対向するゲート電極と、前記有機層に電気的に接続されたソース・ドレイン電極とを有する前記(2)乃至(9)のうちいずれか1つに記載の有機半導体素子。
(11)前記(1)に記載の積層構造を有し、前記有機層は導体を含む配線。
(12)複数の画素と前記複数の画素を駆動するための有機半導体素子とを備え、前記有機半導体素子は、ゲート電極と、前記ゲート電極に対向すると共に半導体を含む有機層と、前記有機層に電気的に接続されたソース・ドレイン電極と、絶縁材料により構成され、前記有機層を覆う保護層と、外周が前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、前記保護層に分散された複数の粒体とを有する表示装置。
(13)半導体を含む有機層を形成する工程と、絶縁材料および粒体を溶媒に混合させてインキを調製する工程と、前記インキにより前記有機層を覆い、保護層を形成する工程とを含み、前記粒体の外周は、前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われている有機半導体素子の製造方法。
【符号の説明】
【0058】
1,1A,1B,1C・・・有機TFT、2・・・配線、11・・・基板、12・・・ゲート電極、13・・・ゲート絶縁膜、14A,14B・・・ソース・ドレイン電極、15・・・有機半導体層、16・・・保護層、17・・・粒体、17H・・・親和層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体または半導体を含む有機層と、
絶縁材料により構成され、前記有機層の上面または下面の少なくとも一部を覆う保護層と、
外周が前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、前記保護層に分散された複数の粒体と
を備えた積層構造。
【請求項2】
請求項1に記載の積層構造を有し、
前記有機層は半導体を含む
有機半導体素子。
【請求項3】
前記絶縁材料は樹脂材料である
請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
前記絶縁材料は含フッ素樹脂を含み、前記親和層は前記粒体に化学結合したフッ素化官能基により構成されている
請求項3に記載の有機半導体素子。
【請求項5】
前記フッ素化官能基は、パーフルオロアルキル基を含む
請求項4に記載の有機半導体素子。
【請求項6】
前記絶縁材料は含フッ素樹脂を含み、
前記親和層は前記粒体を被覆する含フッ素樹脂である
請求項3に記載の有機半導体素子。
【請求項7】
前記粒体は、樹脂により構成されている
請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項8】
前記粒体は、ポリスチレンからなる
請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項9】
前記粒体は、無機物からなる
請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項10】
前記有機層に対向するゲート電極と、
前記有機層に電気的に接続されたソース・ドレイン電極とを有する
請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項11】
請求項1に記載の積層構造を有し、
前記有機層は導体を含む
配線。
【請求項12】
複数の画素と前記複数の画素を駆動するための有機半導体素子とを備え、
前記有機半導体素子は、
ゲート電極と、
前記ゲート電極に対向すると共に半導体を含む有機層と、
前記有機層に電気的に接続されたソース・ドレイン電極と、
絶縁材料により構成され、前記有機層を覆う保護層と、
外周が前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われ、前記保護層に分散された複数の粒体とを有する
表示装置。
【請求項13】
半導体を含む有機層を形成する工程と、
絶縁材料および粒体を溶媒に混合させてインキを調製する工程と、
前記インキにより前記有機層を覆い、保護層を形成する工程とを含み、
前記粒体の外周は、前記絶縁材料と親和性を有する親和層に覆われている
有機半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−89760(P2013−89760A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228837(P2011−228837)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】