説明

窒化物半導体構造の製造方法

【課題】平坦な表面を有し、結晶性の高い窒化物半導体下地層を、反りを抑えて、大きな成長速度で成長させることができる窒化物半導体構造の製造方法を提供する。
【解決手段】第3の窒化物半導体下地層を形成する工程において、第3の窒化物半導体下地層の成長時に単位時間当たりに供給されるV族原料ガスのモル量と単位時間当たりに供給されるIII族原料ガスのモル量との比であるV/III比を700以下とし、第3の窒化物半導体下地層の成長時の圧力を26.6kPa以上とし、第3の窒化物半導体下地層の成長速度を2.5μm/時以上とする、窒化物半導体構造の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素を含むIII−V族化合物半導体(III族窒化物半導体)は、赤外から紫外領域の波長を有する光のエネルギに相当するバンドギャップを有しているため、赤外から紫外領域の波長を有する光を発光する発光素子やその領域の波長を有する光を受光する受光素子の材料として有用である。
【0003】
また、III族窒化物半導体は、III族窒化物半導体を構成する原子間の結合が強く、絶縁破壊電圧が高く、飽和電子速度が大きいことから、耐高温・高出力・高周波トランジスタなどの電子デバイスの材料としても有用である。
【0004】
さらに、III族窒化物半導体は、環境を害することがほとんどなく、取り扱いやすい材料としても注目されている。
【0005】
上述したような優れた材料であるIII族窒化物半導体を用いて実用的な窒化物半導体素子を作製するためには、所定の基板上にIII族窒化物半導体の薄膜からなるIII族窒化物半導体層を積層して、所定の素子構造を形成する必要がある。
【0006】
ここで、基板としては、基板上にIII族窒化物半導体を直接成長させることが可能な格子定数や熱膨張係数を有するIII族窒化物半導体からなる基板を用いることが最も好適であり、III族窒化物半導体からなる基板としては、たとえば窒化ガリウム(GaN)基板などを用いることが好ましい。
【0007】
しかしながら、GaN基板は、現状ではその寸法が直径2インチ以下と小さく、また非常に高価であるため、実用的ではない。
【0008】
そのため、現状では、窒化物半導体素子の作製用の基板としては、III族窒化物半導体とは格子定数差および熱膨張係数差が大きいサファイア基板や炭化珪素(SiC)基板などが用いられている。
【0009】
サファイア基板と代表的なIII族窒化物半導体であるGaNとの間には約16%程度の格子定数差が存在する。また、SiC基板とGaNとの間には約6%程度の格子定数差が存在する。このような大きな格子定数差が基板とその上に成長するIII族窒化物半導体との間に存在する場合には、基板上にIII族窒化物半導体からなる結晶をエピタキシャル成長させることは一般的に困難である。たとえば、サファイア基板上に直接GaN結晶をエピタキシャル成長させた場合には、GaN結晶の3次元的な成長が避けられず、平坦な表面を有するGaN結晶が得られないという問題がある。
【0010】
そこで、基板とIII族窒化物半導体との間に、基板とIII族窒化物半導体との間の格子定数差を解消させるための所謂バッファ層と呼ばれる層を形成することが一般的に行なわれている。
【0011】
たとえば、特許文献1には、サファイア基板上にAlNのバッファ層をMOVPE法によって形成した後に、AlxGa1-xNからなるIII族窒化物半導体を成長させる方法が記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においても、平坦な表面を有するAlNのバッファ層を再現性良く得ることは困難であった。これは、MOVPE法によってAlNのバッファ層を形成する場合には、原料ガスとして用いられるトリメチルアルミニウム(TMA)ガスとアンモニア(NH3)ガスとが気相中で反応しやすいためと考えられる。
【0013】
したがって、特許文献1に記載の方法においては、表面が平坦であって、かつ欠陥密度が小さい高品質のAlxGa1-xNからなるIII族窒化物半導体をAlNのバッファ層上に再現性良く成長させることは困難であった。
【0014】
また、たとえば特許文献2には、サファイア基板上に直流バイアスを印加した高周波スパッタ法でAlxGa1-xN(0<x≦1)バッファ層を形成する方法が開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載されている方法によってAlxGa1-xN(0<x≦1)バッファ層上に形成されたIII族窒化物半導体は、特許文献3の段落[0004]および特許文献4の段落[0004]に記載されているように、優れた結晶性を有するものではなかった。
【0016】
そこで、特許文献3には、DCマグネトロンスパッタ法で形成したIII族窒化物半導体からなるバッファ層を水素ガスとアンモニアガスとの混合ガスの雰囲気下で熱処理する方法が提案されており、また、特許文献4には、400℃以上に昇温されたサファイア基板上にDCマグネトロンスパッタ法によって50オングストローム以上3000オングストローム以下の膜厚のIII族窒化物半導体からなるバッファ層を形成する方法が提案されている。
【0017】
また、特許文献5には、750℃に加熱されたサファイア基板上に高周波スパッタ法によってAlNの柱状結晶からなるバッファ層を形成する方法が提案されている。
【0018】
また、特許文献6には、結晶欠陥の少ないIII族窒化物半導体を成長するため、基板表面に凹凸構造を設け、その上にIII族窒化物半導体をラテラル成長させることが記載されている。
【0019】
さらに、特許文献7の段落[0043]および[0044]には、凹凸構造を設けた基板上に、GaN層を「サファイア基板11の主面に対して傾斜したファセットを斜面に有する二等辺三角形の断面形状となるようにGaN層12を成長させ」るステップと、「次に、成長条件を横方向成長が支配的となる条件に設定して成長を続け・・・GaN層12をその表面がサファイア基板11の主面と平行な平坦面となるまで横方向成長させる。」というステップからなる2段階の成長が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第3026087号公報
【特許文献2】特公平5−86646号公報
【特許文献3】特許第3440873号公報
【特許文献4】特許第3700492号公報
【特許文献5】特開2008−34444号公報
【特許文献6】特許第3950471号公報
【特許文献7】特開2006−352084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
結晶欠陥の少ない高品質のIII族窒化物半導体を成長させるためには、その下地となる窒化物半導体下地層についても結晶欠陥が少なく高い結晶性を有するものが要求される。
【0022】
そして、さらに近年においては、高品質のIII族窒化物半導体を効率良く製造するために、平坦な表面を有し、結晶性の高い窒化物半導体下地層を、反りを抑えて、大きな成長速度で成長させる要望が大きくなっている。
【0023】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、平坦な表面を有し、結晶性の高い窒化物半導体下地層を、反りを抑えて、大きな成長速度で成長させることができる窒化物半導体構造の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、凹部と凹部の間に設けられた凸部とを表面に有する三方晶コランダムまたは六方晶の結晶からなる基板を準備する工程と、基板上に窒化物半導体中間層を形成する工程と、窒化物半導体中間層上に第1の窒化物半導体下地層を形成する工程と、第1の窒化物半導体下地層上に第2の窒化物半導体下地層を形成する工程と、第2の窒化物半導体下地層上に第3の窒化物半導体下地層をMOCVD法により形成する工程と、を含み、第1の窒化物半導体下地層の表面は、第1の斜めファセット面と、第1の平坦領域とを有しており、第1の窒化物半導体下地層の表面における第1の斜めファセット面の面積割合が、第1の平坦領域の面積割合よりも小さく、第2の窒化物半導体下地層は、凸部を取り囲む第2の斜めファセット面を有し、第3の窒化物半導体下地層の下面は、第2の斜めファセット面に接し、第3の窒化物半導体下地層を形成する工程において、第3の窒化物半導体下地層の成長時に単位時間当たりに供給されるV族原料ガスのモル量と単位時間当たりに供給されるIII族原料ガスのモル量との比であるV/III比を700以下とし、第3の窒化物半導体下地層の成長時の圧力を26.6kPa以上とし、第3の窒化物半導体下地層の成長速度を2.5μm/時以上とする、窒化物半導体構造の製造方法である。
【0025】
ここで、本発明の窒化物半導体構造の製造方法において、第3の窒化物半導体下地層を形成する工程において、第3の窒化物半導体下地層の成長時に198slm未満の水素を供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、平坦な表面を有し、結晶性の高い窒化物半導体下地層を、反りを抑えて、大きな成長速度で成長させることができる窒化物半導体構造の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図2】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図3】図2に示す基板の表面の一例の模式的な拡大平面図である。
【図4】図3に示す凸部の中心を通るB−B線に沿った模式的な拡大断面図である。
【図5】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図6】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図7】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図8】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図9】実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図10】窒化物半導体下地層の各層の成長モードについて説明するための模式的な断面図である。
【図11】第1の窒化物半導体下地層の表面の一例の模式的な拡大平面図である。
【図12】第1の窒化物半導体下地層の表面の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図13】図12のB−Bに沿った模式的な拡大断面図である。
【図14】第1の窒化物半導体下地層の表面の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図15】第1の窒化物半導体下地層の形成後に成長させた第2の窒化物半導体下地層の表面の一例の模式的な拡大平面図である。
【図16】図15のB−Bに沿った模式的な拡大断面図である。
【図17】第1の窒化物半導体下地層の形成後に成長させた第2の窒化物半導体下地層の表面の他の一例の模式的な拡大平面図である。
【図18】実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。
【図19】実施の形態1の発光装置の模式的な断面図である。
【図20】実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子の模式的な断面図である。
【図21】(a)は実施例の層厚の面内分布を示す図であり、(b)は比較例の層厚の面内分布を示す図である。
【図22】(a)は実施例のシート抵抗の面内分布を示す図であり、(b)は比較例のシート抵抗の面内分布を示す図である。
【図23】実施例および比較例のウエハの反りの測定方法を図解する模式的な側面図である。
【図24】(a)および(b)は、実施例のウエハの表面モフォロジーの微分干渉顕微鏡(金属顕微鏡)による観察像であり、(c)および(d)は、実施例のウエハのEPD測定による結晶欠陥の観察像である。
【図25】(a)および(b)は、比較例のウエハの表面モフォロジーの微分干渉顕微鏡(金属顕微鏡)による観察像であり、(c)および(d)は、比較例のウエハのEPD測定による結晶欠陥の観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0029】
<サファイア基板および窒化物半導体結晶の結晶方位>
(AlGaIn)N系の窒化物半導体結晶の結晶系は通常六方晶であり、またサファイアの結晶系は三方晶コランダムであるが六方晶の表記法で表わすことができる。そこで、サファイア基板および窒化物半導体結晶のいずれにおいても、c軸方向を[0001]とし、a1軸方向を[−2110]とし、a2軸方向を[1−210]とし、a3軸方向を[11−20]とし、a1軸方向、a2軸方向およびa3軸方向の3方向を合わせてa軸方向あるいは<11−20>方向と表記する。また、c軸方向および<11−20>方向にそれぞれ垂直で等価な3方向をm軸方向(最も代表的には<1−100>方向)と表記する。
【0030】
なお、結晶面および方向を表わす場合に、本来であれば所要の数字の上にバーを付した表現をするべきであるが、表現手段に制約があるため、本明細書においては、所要の数字の上にバーを付す表現の代わりに、所要の数字の前に「−」を付して表現している。たとえば、結晶学の記法によれば1の逆方向は1の上にバーを記載するところを、便宜上「−1」と表記する。
【0031】
<実施の形態1>
以下、図1〜図10を参照して、本発明の窒化物半導体構造の製造方法の一例である実施の形態1の窒化物半導体構造の製造方法について説明する。なお、本発明の窒化物半導体構造の製造方法においては、後述する各工程間に他の工程が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0032】
(基板を準備する工程)
まず、図1の模式的断面図に示すように、基板1を準備する工程を行なう。ここで、基板1としては、たとえば、三方晶コランダムあるいは六方晶の結晶からなる基板1を準備することができる。三方晶コランダムあるいは六方晶の結晶からなる基板1としては、たとえば、サファイア(Al23)単結晶、AlN単結晶またはGaN単結晶などからなる基板を用いることができる。
【0033】
また、基板1の表面40は、c面またはc面に対して5°以内の傾斜を有する表面であってもよく、傾斜の方向は、たとえば、m(sub)軸(<1−100>)方向のみであってもよく、a(sub)軸(<11−20>)方向のみであってもよく、あるいは両方向を合成した方向であってもよい。より具体的には、基板1としては、基板1の表面40がc面(法線がc軸の面)から基板のm(sub)軸<1−100>方向に0.15゜〜0.35゜傾斜したものなどを準備することができる。
【0034】
なお、本明細書において、基板の結晶方向と、基板上の窒化物半導体層の結晶方向と、が異なるため基板の結晶方向に「sub」を付記し、窒化物半導体層の結晶方向に「layer」を付記するものとする。ここで、基板の結晶軸と窒化物半導体層の結晶軸との関係に注意する必要がある。基板がサファイア単結晶である場合には、基板のa(sub)軸方向は窒化物半導体層のm(layer)軸方向と一致し、基板のm(sub)軸方向は窒化物半導体層のa(layer)軸方向と一致する。一方、基板がAlN単結晶またはGaN単結晶である場合には、基板のa(sub)軸方向は窒化物半導体層のa(layer)軸方向と一致し、基板のm(sub)軸方向は窒化物半導体層のm(layer)軸方向と一致する。
【0035】
また、基板1の口径は特には限定されないが、たとえば150mm(約6インチ)とすることができる。基板1としては、従来は50.8mm(2インチ)程度の口径の基板を用いることが一般的であったが、生産性を高めるためには大口径の基板を用いることが好ましい。しかしながら、大口径の基板1を用いた場合には、基板1上に窒化物半導体層を形成した後に歪が蓄積するため、基板1の割れや窒化物半導体層の表面にクラックが生じやすくなる。本発明は、後述するように、100mm(約4インチ)以上の大口径の基板1を用いた場合にも、基板1の割れや窒化物半導体層の表面に発生するクラックを抑制することができる。
【0036】
次に、図2の模式的断面図に示すように、基板1の表面40に、凹部1bと、凹部1bの間に設けられた凸部1aと、を形成する。このような基板1の表面の凸部1aおよび凹部1bは、たとえば、基板1の表面40上に凸部1aの平面配置を規定するマスクを形成するパターニング工程と、当該パターニング工程によって形成したマスクを用いて基板1の表面40をエッチングして凹部1bを形成する工程とを含む工程により形成することができる。ここで、パターニング工程は、一般的なフォトリソグラフィ工程で行なうことができる。エッチング工程は、たとえば、ドライエッチング法やウエットエッチング法で行なうことができる。しかしながら、凸部1aの形状が後述する先端部を備える形状とするためには、凸部1aの形状を制御しやすいドライエッチング法で行なうことが好ましい。
【0037】
図3に、図2に示す基板1の表面の一例の模式的な拡大平面図を示す。図3に示す基板1の表面の平面視において、平面形状が円形である凸部1aは、たとえば仮想の三角形1tの頂点にそれぞれ位置しており、仮想の三角形1tの3辺のそれぞれの辺の方向に配列されている。本例において、凸部1aは、基板1の表面のa(sub)軸方向(<11−20>方向)に配列されるとともに、基板1の表面のa(sub)軸方向に対して+60°の傾きを為す方向および基板1の表面のa(sub)軸方向に対して−60°の傾きを為す方向にそれぞれ配列されている。なお、本明細書において、基板1の表面の平面視において、a(sub)軸方向に対して+60°の傾きを為す方向およびa(sub)軸方向に対して−60°の傾きを為す方向をそれぞれu方向という。
【0038】
なお、凸部1aの平面形状である円形の円の中心は、三角形1tの頂点と必ずしも完全に一致している必要はなく、実質的に一致していればよい。具体的には、円の中心がその円の半径以下のズレである場合には、後述する第1の窒化物半導体下地層が凸部1aの領域上よりも安定して凹部1bの領域上に成長を開始する傾向にある。そして、第1の窒化物半導体下地層の成長がさらに進むと、第1の窒化物半導体下地層は、後述するように、凸部1aを中心として凸部1aの外側において凸部1aを取り囲む少なくとも6つの斜めファセット面を形成できる傾向にある。
【0039】
凸部1aの底面における平面形状は、円形に限られるものではなく、たとえば、六角形および/または三角形などの多角形であってもよい。
【0040】
また、基板1の表面の平面視において、頂点に凸部1aが配置される仮想の三角形1tの各内角の角度は50゜以上70゜以下であることが好ましい。この場合には、後述する第1の窒化物半導体下地層が凸部1aの領域上よりも安定して凹部1bの領域上に成長を開始する傾向にある。そして、第1の窒化物半導体下地層の成長がさらに進むと、第1の窒化物半導体下地層は、後述するように、凸部1aを中心として凸部1aの外側において凸部1aを取り囲む少なくとも6つの斜めファセット面を形成できる傾向にある。
【0041】
また、基板1の表面の平面視において、隣り合う凸部1aの間隔は0.2μm以上7μm以下とすることが好ましく、2μm程度とすることがより好ましい。隣り合う凸部1aの間隔が0.2μm以上7μm以下である場合には、プロセス上の問題が少なくなる傾向にある。プロセス上の問題としては、たとえば、凸部1aの高さを高くするためのドライエッチング時間が長くなることや、後述する第2の窒化物半導体下地層の上面を完全に平坦とするまでに要する成長時間が長くなり過ぎることなどの問題が挙げられる。なお、本明細書において、隣り合う凸部1aの間隔は、隣り合う凸部1aの間の最短距離を意味する。
【0042】
また、基板1の表面の平面視において、凸部1aの円形の円の直径は、隣り合う凸部1aの間隔の1/2以上3/4以下とすることが好ましい。たとえば、隣り合う凸部1aの間隔が2μmである場合には、凸部1aの円形の円の直径は1.2μm程度とすることがより好ましい。凸部1aの円形の円の直径が隣り合う凸部1aの間隔の1/2以上3/4以下である場合、特に1.2μm程度である場合には、後述する第1の窒化物半導体下地層が凸部1aの領域上よりも安定して凹部1bの領域上に成長を開始する傾向にある。そして、第1の窒化物半導体下地層の成長がさらに進むと、第1の窒化物半導体下地層は、後述するように、凸部1aを中心として凸部1aの外側において凸部1aを取り囲む少なくとも6つの斜めファセット面を形成できる傾向にある。
【0043】
また、凸部1aの高さは、凸部1aの円形の円の直径の1/4以上1以下とすることが好ましい。たとえば、凸部1aの円形の円の直径が1.2μmである場合には、凸部1aの高さは0.6μm程度とすることがより好ましい。この場合には、後述する第1の窒化物半導体下地層が凸部1aの領域上よりも安定して凹部1bの領域上に成長を開始する傾向にある。そして、第1の窒化物半導体下地層の成長がさらに進むと、第1の窒化物半導体下地層は、後述するように、凸部1aを中心として凸部1aの外側において凸部1aを取り囲む少なくとも6つの斜めファセット面を形成できる傾向にある。
【0044】
図4に、図3に示す凸部の中心を通るB−B線に沿った模式的な拡大断面図を示す。図4に示すように、基板1の表面の平面視における凸部1aの中心を通る断面視において凸部1aは先端部1cを備える形状であることが好ましい。なお、本明細書において、凸部1aが先端部1cを備える形状とは、基板1の表面の平面視における凸部1aの中心を通る断面視において、凸部1aの上面が平坦となっていない形状となっていることを意味する。凸部1aの上面が平坦である場合には、凹部1bだけでなく凸部1aの平坦な上面にも後述する第1の窒化物半導体下地層が成長することがある。一方、凸部1aが先端部1cを備える形状である場合には、後述の第1の窒化物半導体下地層は凹部1bから成長し、引き続き成長する後述の第2の窒化物半導体下地層が凸部1aの先端部1cの上方で会合するため、結晶欠陥が生じる領域が限定され、全体としての欠陥の数を減らせると考えられる。
【0045】
後述する窒化物半導体中間層の形成前に基板1の表面の前処理を行なうこともできる。基板1の表面の前処理の一例としては、たとえば、RCA洗浄(希フッ酸水溶液(HF)処理、アンモニア(NH4OH)+過酸化水素(H22)処理、塩酸(HC1)+過酸化水素(H22)処理、超純水洗浄を順次行なう洗浄)を行なうことによって、基板1の表面を水素終端化する処理が挙げられる。これにより、基板1の表面上に良好な結晶性の窒化物半導体中間層を再現性良く積層することができる傾向にある。
【0046】
また、基板1の表面の前処理の他の一例としては、基板1の表面を窒素ガスのプラズマに曝す処理が挙げられる。これにより、基板1の表面に付着した有機物や酸化物などの異物を除去し、基板1の表面の状態を整えることができる傾向にある。特に、基板1がサファイア基板である場合には、基板1の表面を窒素ガスのプラズマに曝すことによって、基板1の表面が窒化されて、基板1の表面上に積層される窒化物半導体中間層が面内で均一に形成されやすくなる傾向にある。
【0047】
(窒化物半導体中間層を形成する工程)
次に、図5の模式的断面図に示すように、基板1の表面上に窒化物半導体中間層2を形成する。ここで、窒化物半導体中間層2は、たとえば、N2とArとの混合雰囲気においてAlターゲットをスパッタする反応性スパッタ法によって形成することができる。
【0048】
窒化物半導体中間層2としては、たとえばAlx0Gay0N(0≦x0≦1、0≦y0≦1、x0+y0≠0)の式で表わされる窒化物半導体からなる層を積層することができる。なかでも、窒化物半導体中間層2としては、AlNまたはAlx1Ga1-x1N(0.5<x1≦1)の式で表わされる窒化物半導体(窒化アルミニウム)からなる層を積層することが好ましい。この場合には、基板1の表面の法線方向に伸長する結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなる良好な結晶性の窒化物半導体中間層2を得ることができる傾向にある。窒化物半導体中間層2は微量の酸素を含んでいてもよい。
【0049】
窒化物半導体中間層2の厚さは5nm以上100nm以下であることが好ましい。窒化物半導体中間層2の厚さが5nm未満である場合には、窒化物半導体中間層2がバッファ層としての機能を十分に発揮しないおそれがある。窒化物半導体中間層2の厚さが100nmを超える場合にはバッファ層としての機能が向上することなく、窒化物半導体中間層2の形成時間だけが長くなるおそれがある。また、窒化物半導体中間層2の厚さを10nm以上50nm以下とすることがより好ましい。この場合には、窒化物半導体中間層2のバッファ層としての機能を面内において均一に発揮させることができる傾向にある。窒化物半導体中間層2の一例として、わずかに酸素を含むAlN膜を約30nmの厚さで形成することができる。
【0050】
窒化物半導体中間層2の形成時における基板1の温度は、300℃以上1000℃以下であることが好ましい。窒化物半導体中間層2の形成時における基板1の温度が300℃未満である場合には、窒化物半導体中間層2が基板1の表面の全面を覆うことができず、基板1の表面の一部が窒化物半導体中間層2から露出するおそれがある。また、窒化物半導体中間層2の積層時における基板1の温度が1000℃を超える場合には、基板1の表面での原料のマイグレーションが活発になりすぎて、柱状結晶の集合体というよりはむしろ単結晶の膜に近い窒化物半導体中間層2が形成されて、窒化物半導体中間層2のバッファ層としての機能が低下するおそれがある。
【0051】
(窒化物半導体下地層を形成する工程)
次に、図6の模式的断面図に示すように、窒化物半導体中間層2の表面上に、第1の斜めファセット面3fと第1の平坦領域3cとを有する第1の窒化物半導体下地層3を形成する。そして、図7の模式的断面図に示すように、第1の窒化物半導体下地層3の表面上に、第2の斜めファセット面4rと第2の平坦領域4cとを有する第2の窒化物半導体下地層4を形成する。また、図8の模式的断面図に示すように、第2の窒化物半導体下地層4の第2の斜めファセット面4rおよび第2の平坦領域4cに接するように、第3の窒化物半導体下地層5を形成する。以上により、基板1上に、窒化物半導体中間層2、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5がこの順に積層された実施の形態1の窒化物半導体構造が製造される。
【0052】
ここで、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5は、それぞれ、たとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって、窒化物半導体中間層2の表面上に順次形成することができる。
【0053】
より具体的には、図9の模式的断面図に示すように、まず、主に凹部1bにおける窒化物半導体中間層2の表面上に第1の窒化物半導体下地層3(例えば、厚さt3=300nm)を形成し、次に、少なくとも第1の窒化物半導体下地層3の表面上に第2の窒化物半導体下地層4(例えば、厚さt4=1800nm)を形成し、その後、少なくとも第2の窒化物半導体下地層4の表面上に第3の窒化物半導体下地層5(例えば、厚さt5=6000nm)を形成する。
【0054】
〔窒化物半導体下地層の各層の成長モード〕
次に、図10の模式的断面図を参照して、結晶欠陥が少なく、かつ平坦な上面5Uを有する第3の窒化物半導体下地層5を製造するまでの窒化物半導体下地層の各層の成長モードについて説明する。
【0055】
まず、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5(以下、「窒化物半導体下地層の各層」とする。)は、それぞれ、適切な成長モードを選んで成長させる。以下、本明細書においては、下記のように、成長モードを便宜的に定義する。
2次元成長モード:平坦な表面が得られやすい成長モード
3次元成長モード:斜めファセット面が形成されやすい成長モード
2.5次元成長モード:2次元成長モードと3次元成長モードとの中間的な成長モード
〔窒化物半導体下地層の成長モードと成長パラメータとの関係〕
次に、窒化物半導体下地層の各層の成長に用いられる成長モードの切り替えは、それぞれ、(A)成長温度、(B)成長圧力、(C)V/III比、(D)基板の回転数、および(E)キャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比の5つの成長パラメータを適切に選択することにより行なうことができる。
【0056】
具体的には、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の少なくとも1つの成長パラメータあるいはその組合せにより実現することができる。ここで、本発明者が鋭意研究に努めた結果、これら3つのそれぞれの成長パラメータと、窒化物半導体下地層の成長モードとの相関を知り得ることができた。
【0057】
(A)成長温度
成長温度が高いほど2次元成長モードになりやすく、成長温度が低いほど3次元成長モードになりやすい。
【0058】
(B)成長圧力
成長圧力が低いほど2次元成長モードになりやすく、成長圧力が高いほど3次元成長モードになりやすい。
【0059】
(C)V/III比
V/III比が小さいほど2次元成長モードになりやすく、V/III比が大きいほど3次元成長モードになりやすい。なお、V/III比は、窒化物半導体下地層の成長時に単位時間当たりに供給されるV族原料ガスのモル量と、単位時間当たりに供給されるIII族原料ガスのモル量との比である。
【0060】
(D)基板の回転数
基板の単位時間当たりの回転数が大きいほど2次元成長モードになりやすく、基板の単位時間当たりの回転数が小さいほど3次元成長モードになりやすい。
【0061】
(E)キャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比
キャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比が小さいほど2次元成長モードになりやすく、キャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比が大きいほど3次元成長モードになりやすい。
【0062】
そこで、結晶欠陥が少なく結晶性の高い平坦な上面5Uを有する第3の窒化物半導体下地層5を形成するためには、まず、第1の窒化物半導体下地層3は、平坦な表面が得られる「2次元成長モード」と斜めファセットの結晶面が優先的に出現する「3次元成長モード」との中間的な成長モードである「2.5次元成長モード」で成長させることが好ましい。
【0063】
これにより、第1の窒化物半導体下地層3の表面は、第1の斜めファセット面3fと、第1の平坦領域3cとを有する。そして、それぞれの第1の窒化物半導体下地層3の表面における第1の斜めファセット面3fの面積割合が第1の平坦領域3cの面積割合よりも小さくなる。
【0064】
第2の窒化物半導体下地層4は、第2の斜めファセット面4rが形成されるように「3次元成長モード」で成長させる。
【0065】
これにより、第2の窒化物半導体下地層4の表面は、第2の斜めファセット面4rと、第2の平坦領域4cとを有する。そして、それぞれの第2の窒化物半導体下地層4の表面の平面視における第2の斜めファセット面4rの面積割合が第2の平坦領域4cの面積割合よりも大きくなる。
【0066】
さらに、第3の窒化物半導体下地層5の下層5Aおよび上層5Bは、それぞれ、第2の斜めファセット面4rを埋め込んで平坦な上面5Uを形成するために「2次元成長モード」で成長させることが好ましい。
【0067】
これにより、結晶欠陥が少なく結晶性が良く、かつ平坦な上面5Uを有する第3の窒化物半導体下地層5を形成することができる。
【0068】
すなわち、第1の窒化物半導体下地層3の表面に第1の斜めファセット面3fを設けることによって窒化物半導体層のc(layer)軸方向に伸長する転位を第1の斜めファセット面3fの方向に曲げることにより、その数を低減する。
【0069】
そして、第2の窒化物半導体下地層4の表面の平面視における第2の平坦領域4cの面積割合よりも大きい面積割合の第2の斜めファセット面4rを設けることによって、窒化物半導体層のc(layer)軸方向に伸長する転位を第2の斜めファセット面4rの方向に曲げて、その数をさらに低減する。
【0070】
このように窒化物半導体層のc(layer)軸方向に伸長する転位の数が低減された第2の窒化物半導体下地層4の表面上に、平坦な表面を有する窒化物半導体層の成長を促進する2次元成長モードで第3の窒化物半導体下地層5を成長させることによって、結晶欠陥が少なく結晶性が良く、かつ平坦な上面5Uを有する第3の窒化物半導体下地層5を形成することができる。
【0071】
以上の結果をまとめると、第1の窒化物半導体下地層3および第2の窒化物半導体下地層4を形成する工程は、以下の(i)、(ii)、(iii)、(iv)および(v)からなる群から選択された少なくとも1つの条件を満たすように行なわれることが好ましい。これにより、クラックが生じにくく、X線ロッキングカーブの半値幅の狭い窒化物半導体下地層が得られる傾向にある。
【0072】
(i)第1の窒化物半導体下地層3の成長時の成長温度を第2の窒化物半導体下地層4の成長時の成長温度以上とする。
【0073】
(ii)第1の窒化物半導体下地層3の成長時の圧力を第2の窒化物半導体下地層の成長時の圧力以下とする。
【0074】
(iii)第1の窒化物半導体下地層3の成長時に供給されるガスのV/III比を第2の窒化物半導体下地層4の成長時に供給されるガスのV/III比以下とする。
【0075】
(iv)第1の窒化物半導体下地層3の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数を、第2の窒化物半導体下地層4の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数以上とする。
【0076】
(v)第1の窒化物半導体下地層3の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比を、第2の窒化物半導体下地層4の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比以下とする。
【0077】
また、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5を形成する工程は、以下の(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる群から選択された少なくとも1つの条件を満たすように行なわれるとともに、以下の(a)、(b)、(c)、(d)および(e)からなる群から選択された少なくとも1つの条件を満たすように行なわれることが好ましい。これにより、クラックが生じにくく、X線ロッキングカーブの半値幅が狭く結晶性が良好であって平坦な上面5Uを有する第3の窒化物半導体下地層5が得られる傾向にある。
【0078】
(I)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の成長温度を第1の窒化物半導体下地層3の成長時の成長温度以上する。
【0079】
(II)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の圧力を第1の窒化物半導体下地層3の成長時の圧力以下とする。
【0080】
(III)第3の窒化物半導体下地層5の成長時に供給されるガスのV/III比を第1の窒化物半導体下地層3の成長時に供給されるガスのV/III比以下とする。
【0081】
(IV)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数を、第1の窒化物半導体下地層3の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数以上とする。
【0082】
(V)第3の窒化物半導体下地層5の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比を、第1の窒化物半導体下地層3の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比以下とする。ここでいうキャリアガスとは、シャワーヘッドから出てくるガスのことである。
【0083】
(a)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の成長温度を第2の窒化物半導体下地層4の成長時の成長温度以上とする。
【0084】
(b)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の圧力を第2の窒化物半導体下地層4の成長時の圧力以下とする。
【0085】
(c)第3の窒化物半導体下地層5の成長時に供給されるガスのV/III比を第2の窒化物半導体下地層4の成長時に供給されるガスのV/III比以下とする。
【0086】
(d)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数を、第2の窒化物半導体下地層4の成長時の基板1の単位時間当たりの回転数以上とする。
【0087】
(e)第3の窒化物半導体下地層5の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比を、第2の窒化物半導体下地層4の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比以下とする。
【0088】
さらに、第3の窒化物半導体下地層5を形成する工程において、以下の(f)〜(h)の条件をすべて満たすことによって、平坦な表面を有し、結晶性の高い第3の窒化物半導体下地層5を、反りを抑えて、大きな成長速度で成長させることができる。
【0089】
(f)第3の窒化物半導体下地層5の成長時に供給されるガスのV/III比を700以下とする。
【0090】
(g)第3の窒化物半導体下地層5の成長時の圧力を26.6kPa以上とする。
(h)第3の窒化物半導体下地層5の成長速度を2.5μm/時以上とする。
【0091】
さらに、第3の窒化物半導体下地層5を形成する工程において、以下の(k)の条件を満たすことによって、第3の窒化物半導体下地層5の成長時におけるIII族原料ガスの濃度が上昇し、MOCVD装置の成長室内でのIII族原料ガスの滞留時間を長くすることができるため、第3の窒化物半導体下地層5の成長速度をさらに大きくすることができる。第3の窒化物半導体下地層5の成長速度は、上記(f)、(g)、(h)および(k)の条件に加えて、MOCVD装置の成長室内の排気速度を低下させることで、さらに大きくすることができる傾向にある。
【0092】
(k)第3の窒化物半導体下地層5の成長時に198slm未満の水素を供給する。
〔第1の窒化物半導体下地層3〕
図11に、第1の窒化物半導体下地層3の表面の一例の模式的な拡大平面図を示す。図11に示すように、第1の窒化物半導体下地層3は、凸部1aの外側において、凸部1aを取り囲む第1の斜めファセット面3fを有している。
【0093】
また、1つの凸部1aを取り囲む第1の斜めファセット面3fと、他の1つの凸部1aを取り囲む第1の斜めファセット面3fとは、第1の窒化物半導体下地層3の第1の平坦領域3cで連結されている。
【0094】
第1の窒化物半導体下地層3の第1の斜めファセット面3fは、第1の窒化物半導体下地層3の第1の平坦領域3cから基板1の凸1aに向かって下りながら傾斜している。
【0095】
図12に、第1の窒化物半導体下地層3の表面の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。図12に示す例においては、基板1の凹部1bのほぼ全面が第1の窒化物半導体下地層3の第1の平坦領域3cで均一に覆われており、第1の斜めファセット面3fが凸部1aの周囲にわずかに形成されている点を特徴としている。
【0096】
すなわち、図12に示す例においては、図11に示す例と比べて、第1の窒化物半導体下地層3の表面において、第1の平坦領域3cが占める面積割合が、第1の斜めファセット面3fが占める面積割合よりも大きくなっている。
【0097】
図13に、図12のB−Bに沿った模式的な拡大断面図を示す。第1の窒化物半導体下地層3は、基板1の凹部1bの上方の領域から選択的に成長が進行する。そして、第1の窒化物半導体下地層3の成長の進行により、基板1の凹部1bの上方の領域のほぼ全面が第1の窒化物半導体下地層3の第1の平坦領域3cで均一に覆われ、第1のファセット面3fが基板1の凸部1aの周囲にわずかに形成される。
【0098】
図14に、第1の窒化物半導体下地層3の表面の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。図14に示す例においては、第1の窒化物半導体下地層3の表面に粗面領域3dが形成されていることを特徴としている。
【0099】
ここで、第1の窒化物半導体下地層3が、たとえば60nm以上といった大きな層厚を有する場合でも、基板1の凹部1bの上方の領域の第1の窒化物半導体下地層3の表面には、第1の平坦領域3cと、第1の平坦領域3cよりも粗い粗面領域3dとが混在する。この場合、この粗面領域3dの表面上に第2の窒化物半導体下地層4を成長すると、第2の窒化物半導体下地層4の表面はさらに大きな粗面になりやすく、さらにその上に成長する第3の窒化物半導体下地層5の表面が平坦化しにくくなるという問題が生じる可能性がある。
【0100】
そこで、第1の窒化物半導体下地層3は、第1の窒化物半導体下地層3の表面を占める粗面領域3dの面積割合が5%以下となる条件で成長させられることが好ましい。この場合には、第1の窒化物半導体下地層3の表面上に成長する第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5がそれぞれ結晶欠陥が少なく結晶性の良好な膜となる傾向にある。
【0101】
〔第2の窒化物半導体下地層4〕
図15に、第1の窒化物半導体下地層3の形成後に成長させた第2の窒化物半導体下地層4の表面の一例の模式的な拡大平面図を示す。第2の窒化物半導体下地層4は、基板1の凸部1aの外側において、凸部1aを取り囲む6つの第2の斜めファセット面4rを有している。
【0102】
図15に示す平面視において、第2の斜めファセット面4rは、a(sub)軸方向に2つ現れ、a(sub)軸方向に対して+60°の角度で傾いた方向およびa(sub)軸方向に対して−60°の角度で傾いた方向(いずれもu方向)にそれぞれ2つずつ現れている(この場合を「ケース1」とする。)。
【0103】
より具体的には、6つの第2の斜めファセット面4rのうち、図15に示す第2の窒化物半導体下地層4の表面の平面視において、a(sub)軸方向に現れる2つの第2の斜めファセット面4rは、a(sub)軸方向(<11−20>方向)に対して斜め上方に傾斜しており、その傾斜した方向に第2の斜めファセット面4rが伸長している。
【0104】
また、同様に、第2の窒化物半導体下地層4の表面の平面視において、a(sub)軸方向に対して+60°の角度で傾いた方向およびa(sub)軸方向に対して−60°の角度で傾いた方向(いずれもu方向)にそれぞれ2つずつ現れる第2の斜めファセット面4rも、a(sub)軸方向に対して+60°の角度で傾いた方向およびa(sub)軸方向に対して−60°の角度で傾いた方向に対してそれぞれ斜め上方に傾斜しており、その傾斜した方向に第2の斜めファセット面4rが伸長している。
【0105】
図16に、図15のB−Bに沿った模式的な拡大断面図を示す。図16に現れる第2の斜めファセット面4rは、第2の斜めファセット面4rの存在する範囲内では、その断面の奥行き方向においても同様に現れる面である。
【0106】
また、1つの凸部1aを取り囲む第2の斜めファセット面4rと、他の1つの凸部1aを取り囲む第2の斜めファセット面4rとは、第2の窒化物半導体下地層4の上面4cで連結されている。
【0107】
ここで、凸部1aの外周を取り囲む6つの第2の斜めファセット面4rは、それぞれ、凸部1aから斜め上方に伸張することによって傾斜している。
【0108】
図17に、第1の窒化物半導体下地層3の形成後に成長させた第2の窒化物半導体下地層4の表面の他の一例の模式的な拡大平面図を示す。図17に示す例においては、基板1の表面の凸部1aがa(sub)軸方向に対して+30°傾斜した方向およびa(sub)軸方向に対して−30°傾斜した方向にそれぞれに配列している場合の第2の窒化物半導体下地層4の第2の斜めファセット面4rと第2の平坦領域4cとの位置関係が示されている(この場合を「ケース2」とする。)。
【0109】
6つの第2の斜めファセット面4rが形成される3次元成長モードで第2の窒化物半導体下地層4を成長させる場合には、第2の窒化物半導体下地層4の第2の斜めファセット面4rおよび第2の平坦領域4cは、それぞれ、基板1の凸部1aの配列の影響を受けやすくなる。
【0110】
ケース2においては、第2の窒化物半導体下地層4の表面の平面視において、第2の窒化物半導体下地層4の第2の平坦領域4cの形状が三角形が連なったような形状になり、第3の窒化物半導体下地層5の成長モードである2次元成長モードに切り替えた後に第2の平坦領域4c上に第3の窒化物半導体下地層5が形成される。第2の窒化物半導体下地層4の第2の平坦領域4cの結晶欠陥は第3の窒化物半導体下地層5に引き継がれて伝播する傾向にあるため、第2の窒化物半導体下地層4の表面に占める第2の平坦領域4cの面積がより小さいケース1の場合の方がケース2の場合と比べて第3の窒化物半導体下地層5において結晶欠陥の少ない良好な結晶性の膜となる傾向にある。
【0111】
〔第3の窒化物半導体下地層5〕
第3の窒化物半導体下地層5の厚さは、凸部1aの高さの2倍以上であることが好ましい。たとえば、凸部1aの高さが0.6μmである場合には、1.2μm以上であることが好ましい。第3の窒化物半導体下地層5の厚さが、凸部1aの高さの2倍以上である場合には、第3の窒化物半導体下地層5で凸部1aを埋め込むことができる傾向が大きくなるため、第3の窒化物半導体下地層5の上面5Uが平坦となる傾向が大きくなる。
【0112】
〔その他〕
なお、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4、第3の窒化物半導体下地層5としては、たとえば、Alx2Gay2Inz2N(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦z2≦1、x2+y2+z2≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層を用いることができる。また、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5は、材料としては同じ組成とし、成長条件のみを変えることが好ましい。
【0113】
第1の窒化物半導体下地層3の成長時における成長モードから第2の窒化物半導体下地層4の成長時における成長モードへの切り替え、ならびに第2の窒化物半導体下地層4の成長時における成長モードから第3の窒化物半導体下地層5の成長時における成長モードへの切り替え時に、それぞれ、たとえば2秒〜60秒程度の成長中断時間を設け、その間に成長条件を変更することが好ましいが、連続的に条件を変化させてもよい。
【0114】
第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4、第3の窒化物半導体下地層5としては、それぞれ、柱状結晶の集合体からなる窒化物半導体中間層2中の転位などの結晶欠陥を引き継がないようにするために、III族元素としてGaを含む窒化物半導体層を用いることが好ましい。
【0115】
窒化物半導体中間層2中の転位を引き継がないようにするためには窒化物半導体中間層2との界面付近で転位をループさせる必要があるが、第1の窒化物半導体下地層3がGaを含むIII族窒化物半導体からなる場合には転位のループが生じやすい。そこで、Gaを含むIII族窒化物半導体からなる第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4、および第3の窒化物半導体下地層5をそれぞれ用いることによって、窒化物半導体中間層2との界面付近で転位をループ化して閉じ込めて、窒化物半導体中間層2から第2の窒化物半導体下地層4に転位が引き継がれるのを抑えることができる傾向にある。
【0116】
第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5をそれぞれアンドープとすることが好ましいが、第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5をそれぞれn型ドープとしてもよい。n型ドープとする場合には、n型ドーパントが1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下の範囲でドーピングされていてもよい。
【0117】
n型ドーパントとしては、たとえば、シリコン、ゲルマニウムおよび錫からなる群から選択された少なくとも1つなどを用いることができ、なかでもシリコンを用いることが好ましい。n型ドーパントにシリコンを用いる場合には、n型ドーピングガスとしてはシランガスまたはジシランガスを用いることが好ましい。
【0118】
第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5のそれぞれの成長時における基板1の温度は、800℃以上1250℃以下であることが好ましく、900℃以上1150℃以下であることがより好ましい。第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5のそれぞれの成長時における基板1の温度が800℃以上1250℃以下である場合、特に900℃以上1150℃以下である場合には、結晶欠陥の少ない結晶性に優れた第1の窒化物半導体下地層3、第2の窒化物半導体下地層4および第3の窒化物半導体下地層5を成長させることができる傾向にある。
【0119】
(窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法)
以下、図18を参照して、本発明の窒化物半導体素子の製造方法の一例である実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子の製造方法について説明する。実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子は、実施の形態1の窒化物半導体構造を用いて製造されていることに特徴がある。なお、以下においても、後述する工程間に他の工程が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0120】
まず、たとえばMOCVD法によって、上記のようにして作製した実施の形態1の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層5の平坦な上面5U上にn型窒化物半導体コンタクト層7を形成する。
【0121】
n型窒化物半導体コンタクト層7としては、たとえば、Alx3Gay3Inz3N(0≦x3≦1、0≦y3≦1、0≦z3≦1、x3+y3+z3≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層にn型ドーパントをドーピングした層などを形成することができる。
【0122】
なかでも、n型窒化物半導体コンタクト層7としては、Alx4Ga1-x4N(0≦x4≦1、好ましくは0≦x4≦0.5、より好ましくは0≦x4≦0.1)の式で表わされるIII族窒化物半導体にn型ドーパントとしてシリコンがドーピングされた窒化物半導体層であることが好ましい。
【0123】
n型窒化物半導体コンタクト層7へのn型ドーパントのドーピング濃度は、5×1017cm-3以上5×1019cm-3以下であることが好ましい。この場合には、n型窒化物半導体コンタクト層7とn側電極20との良好なオーミック接触を維持し、n型窒化物半導体コンタクト層7におけるクラックの発生を抑制し、かつn型窒化物半導体コンタクト層7の良好な結晶性を維持することができる傾向にある。
【0124】
次に、たとえばMOCVD法によって、n型窒化物半導体コンタクト層7の表面上にn型窒化物半導体クラッド層9を形成する。
【0125】
n型窒化物半導体クラッド層9としては、たとえば、Alx5Gay5Inz5Nの式(0≦x5≦1、0≦y5≦1、0≦z5≦1、x5+y5+z5≠0)で表わされるIII族窒化物半導体からなる層にn型ドーパントをドーピングした層などを形成することができる。また、n型窒化物半導体クラッド層9は、III族窒化物半導体からなる複数の窒化物半導体層をヘテロ接合した構造や超格子構造であってもよい。
【0126】
n型窒化物半導体クラッド層9の厚さは特に限定されないが、0.005μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.005μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。
【0127】
n型窒化物半導体クラッド層9へのn型ドーパントのドーピング濃度については、1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であることが好ましく、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であることがより好ましい。この場合には、n型窒化物半導体クラッド層9の良好な結晶性を維持し、かつ素子の動作電圧を低減することができる傾向にある。
【0128】
次に、たとえばMOCVD法によって、n型窒化物半導体クラッド層9の表面上に窒化物半導体活性層11を形成する。
【0129】
窒化物半導体活性層11がたとえば単一量子井戸(SQW)構造を有する場合には、窒化物半導体活性層11としては、たとえば、Ga1-z6Inz6N(0<z6<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層を量子井戸層とするものを用いることができる。
【0130】
窒化物半導体活性層11の厚さは、特に限定されないが、1nm以上10nm以下とすることが好ましく、1nm以上6nm以下とすることがより好ましい。窒化物半導体活性層11の厚さが1nm以上10nm以下である場合、特に1nm以上6nm以下である場合には、窒化物半導体発光ダイオード素子100の発光出力を向上させることができる傾向にある。
【0131】
窒化物半導体活性層11が、たとえばGa1-z6Inz6N(0<z6<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層を量子井戸層とする単一量子井戸(SQW)構造を有する場合には、窒化物半導体発光ダイオード素子100の発光波長が所望の発光波長となるように、窒化物半導体活性層11のIn組成や厚さを制御することができる。
【0132】
しかしながら、窒化物半導体活性層11の形成時の基板1の温度が低いと結晶性が悪化するおそれがある一方で、窒化物半導体活性層11の形成時の基板1の温度が高いとInNの昇華が顕著になって固相中へのInの取り込まれ効率が低減してIn組成が変動するおそれがある。そのため、Ga1-z6Inz6N(0<z6<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層を井戸層とする単一量子井戸(SQW)構造からなる窒化物半導体活性層11の形成時の基板1の温度は700℃以上900℃以下であることが好ましく、750℃以上850℃以下であることがより好ましい。
【0133】
また、窒化物半導体活性層11としては、たとえば、Ga1-z6Inz6N(0<z6<0.4)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる量子井戸層と、量子井戸層よりもバンドギャップの大きいAlx7Gay7Inz7N(0≦x7≦1、0≦y7≦1、0≦z7≦1、x7+y7+z7≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる量子障壁層と、を交互に1層ずつ積層した多重量子井戸(MQW)構造を有するものを用いることもできる。なお、上記の量子井戸層および/または量子障壁層にはn型またはp型のドーパントがドーピングされていてもよい。
【0134】
次に、たとえばMOCVD法によって、窒化物半導体活性層11の表面上にp型窒化物半導体クラッド層13を形成する。
【0135】
p型窒化物半導体クラッド層13としては、たとえば、Alx8Gay8Inz8N(0≦x8≦1、0≦y8≦1、0≦z8≦1、x8+y8+z8≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体にp型ドーパントをドーピングした層などを積層することができる。なかでも、p型窒化物半導体クラッド層13としては、Alx8Ga1-x8N(0<x8≦0.4、好ましくは0.1≦x8≦0.3)の式で表わされるIII族窒化物半導体にp型ドーパントをドーピングした層を積層することが好ましい。なお、p型ドーパントとしては、たとえばマグネシウムなどを用いることができる。
【0136】
p型窒化物半導体クラッド層13のバンドギャップは、窒化物半導体活性層11への光閉じ込めの観点から、窒化物半導体活性層11のバンドギャップよりも大きくすることが好ましい。
【0137】
p型窒化物半導体クラッド層13の厚さは、特に限定されないが、0.01μm以上0.4μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。
【0138】
p型窒化物半導体クラッド層13へのp型ドーパントのドーピング濃度は、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であることが好ましく、1×1019cm-3以上1×1020cm-3以下であることがより好ましい。p型窒化物半導体クラッド層13へのp型ドーパントのドーピング濃度が1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である場合、特に1×1019cm-3以上1×1020cm-3以下である場合には、良好な結晶性のp型窒化物半導体クラッド層13を得ることができる傾向にある。
【0139】
また、p型窒化物半導体クラッド層13としては、たとえば、Alx8aGa1-x8aN(0<x8a≦0.4、好ましくは0.1≦x8a≦0.3)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層(A層)と、A層よりもバンドギャップの小さいAlx8bGay8bInz8bN(0≦x8b≦1、0≦y8b≦1、0≦z8b≦1、x8b+y8b+z8b≠
0)の式で表わされるIII族窒化物半導体からなる層(B層)とを交互に1層ずつ積層した超格子構造を有する層を用いることができる。なお、当該超格子構造においては、A層およびB層のそれぞれにp型ドーパントがドーピングされていてもよく、A層またはB層の一方のみにp型ドーパントがドーピングされていてもよい。
【0140】
次に、たとえばMOCVD法によって、p型窒化物半導体クラッド層13の表面上にp型窒化物半導体コンタクト層15を形成する。
【0141】
p型窒化物半導体コンタクト層15としては、たとえば、Alx9Gay9Inz9N(0≦x9≦1、0≦y9≦1、0≦z9≦1、x9+y9+z9≠0)の式で表わされるIII族窒化物半導体にp型ドーパントをドーピングした層などを積層することができる。なかでも、p型窒化物半導体コンタクト層15としては、GaN層にp型ドーパントをドーピングした層を用いることが好ましい。この場合には、p型窒化物半導体コンタクト層15の良好な結晶性を維持し、かつ透光性電極層19と良好なオーミック接触を得ることができる傾向にある。
【0142】
p型窒化物半導体コンタクト層15へのp型ドーパントのドーピング濃度は、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下であることが好ましく、5×1019cm-3以上5×1020cm-3以下であることがより好ましい。p型窒化物半導体コンタクト層15へのp型ドーパントのドーピング濃度が1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である場合、特に5×1019cm-3以上5×1020cm-3以下である場合には、透光性電極層19との良好なオーミック接触を維持し、p型窒化物半導体コンタクト層15におけるクラックの発生を抑制し、p型窒化物半導体コンタクト層15の良好な結晶性を維持することができる傾向にある。
【0143】
p型窒化物半導体コンタクト層15の厚さは、特に限定されるものではないが、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.2μm以下であることがより好ましい。p型窒化物半導体コンタクト層15の厚さが0.01μm以上0.5μm以下である場合、特に0.05μm以上0.2μm以下である場合には、窒化物半導体発光ダイオード素子100の発光出力を向上させることができる傾向にある。
【0144】
なお、n型窒化物半導体コンタクト層7、n型窒化物半導体クラッド層9、窒化物半導体活性層11、p型窒化物半導体クラッド層13およびp型窒化物半導体コンタクト層15がそれぞれIII族窒化物半導体から構成される場合には、これらの層はそれぞれたとえば以下のガスを用いたMOCVD法によって積層することができる。
【0145】
すなわち、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)およびトリメチルインジウム(TMI)からなる群から選択された少なくとも1つのIII族元素の有機金属原料ガスと、たとえばアンモニアなどの窒素原料ガスとを供給して、これらを熱分解し、反応させることによって上記の層をそれぞれ積層することができる。
【0146】
また、n型ドーパントであるシリコンをドーピングする場合には、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばシラン(SiH4)あるいはジシラン(Si26)をドーピングガスとして上記の原料ガスに加えて供給することにより、シリコンをドーピングすることが可能である。
【0147】
また、p型ドーパントであるマグネシウムをドーピングする場合には、MOCVD装置の反応炉の内部に、たとえばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)をドーピングガスとして上記の原料ガスに加えて供給することにより、マグネシウムをドーピングすることが可能である。
【0148】
次に、p型窒化物半導体コンタクト層15の表面上にたとえばITO(Indium Tin Oxide)からなる透光性電極層19を形成した後に、透光性電極層19の表面上にp側電極21を形成する。p側電極21としては、たとえば、ニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層の積層膜を形成することができる。
【0149】
次に、p側電極21の形成後の積層体の一部をエッチングにより除去することによって、n型窒化物半導体コンタクト層7の表面の一部を露出させる。
【0150】
次に、n型窒化物半導体コンタクト層7の露出した表面上にn側電極20を形成する。n側電極20としては、たとえば、ニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層の積層膜を形成することができる。
【0151】
その後、n側電極20の形成後の積層体の全面にSiO2などの絶縁保護膜23を形成し、p側電極21およびn側電極20が露出するように絶縁保護膜23に開口部を設け、複数の窒化物半導体発光ダイオード素子100が形成されたウエハを個別の素子に分割することによって、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100を作製することができる。
【0152】
ここで、ウエハの分割は、たとえば、基板1上に上記の構造を形成したウエハの裏面を研削および研磨してミラー状の面とした後に、ウエハを280μm×550μm角の長方形状のチップに分割することによって行なうことができる。
【0153】
以上のようにして作製した実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100は、平坦な表面を有し、結晶性が高く、反りが抑えられて、大きな成長速度で製造された第3の窒化物半導体下地層5の上面5U上にn型窒化物半導体コンタクト層7、n型窒化物半導体クラッド層9、窒化物半導体活性層11、p型窒化物半導体クラッド層13およびp型窒化物半導体コンタクト層15がこの順序で積層されている。
【0154】
そのため、n型窒化物半導体コンタクト層7、n型窒化物半導体クラッド層9、窒化物半導体活性層11、p型窒化物半導体クラッド層13およびp型窒化物半導体コンタクト層15については転位密度が低くなり、優れた結晶性を有している。
【0155】
したがって、このような優れた結晶性を有する窒化物半導体層から形成された実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100は、動作電圧が低く、発光出力の高い素子となり、さらに効率良く製造することができる。
【0156】
なお、ケース1の条件で作成された窒化物半導体発光ダイオード素子100をベアチップ(後述の樹脂封止を行わない)評価用素子とし、10個の素子に30mAの電流を流したところ、平均して光出力39mW、動作電圧3.0Vおよび発光波長455nmの動作電圧が低く、発光出力の高い素子が得られることが確認された。
【0157】
(発光装置)
また、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100を用いて、図19に示す構成の実施の形態1の発光装置110を製造してもよい。
【0158】
ここで、実施の形態1の発光装置110は、たとえば、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100を第2のリードフレーム31上に設置し、窒化物半導体発光ダイオード素子100のp側電極21と第1のリードフレーム30とを第1のワイヤ33で電気的に接続するとともに、窒化物半導体発光ダイオード素子100のn側電極20と第2のリードフレーム31とを第2のワイヤ34で電気的に接続する。そして、透明なモールド樹脂35で窒化物半導体発光ダイオード素子100をモールドすることによって、砲弾型の形状の発光装置110を製造することができる。
【0159】
図19に示す構成の実施の形態1の発光装置110は、実施の形態1の窒化物半導体発光ダイオード素子100を用いていることから、動作電圧が低く、発光出力が高く、効率良く製造することができる発光装置とすることができる。
【0160】
<実施の形態2>
実施の形態2は、実施の形態1により製造された窒化物半導体構造を用いた電子デバイスである窒化物半導体トランジスタ素子であることを特徴としている。
【0161】
図20に、実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子300の模式的な断面図を示す。窒化物半導体トランジスタ素子300は、凸部1aが等価な3つのa(sub)軸方向に配されたc面を主面とするサファイア基板からなる基板1と、基板1の表面上に、順次積層された、AlNなどからなる窒化物半導体中間層2と、アンドープGaNなどからなる第1の窒化物半導体下地層3と、アンドープGaNなどからなる第2の窒化物半導体下地層4と、アンドープGaNなどからなる第3の窒化物半導体下地層5とからなる窒化物半導体構造を有している。
【0162】
そして、結晶欠陥の少ない良好な結晶性を有する第2の窒化物半導体下地層5の平坦な上面5a上にアンドープGaNなどからなる窒化物半導体電子走行層71が積層され、窒化物半導体電子走行層71の表面上にn型AlGaNなどからなるn型窒化物半導体電子供給層73が積層されている。
【0163】
n型窒化物半導体電子供給層73の表面上にはゲート電極77が備えられており、ゲート電極77の両側にn型GaNなどからなるソースコンタクト層75Sとドレインコンタクト層75Dとが備えられている。また、ソースコンタクト層75S上にソース電極78Sが備えられており、ドレインコンタクト層75D上にドレイン電極78Dが備えられている。
【0164】
以下、実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子300の製造方法の一例について説明する。まず、実施の形態1と同様にして、凸部1aおよび凹部1bを有する基板1の表面上に、反応性スパッタ法によってAlNからなる窒化物半導体中間層2を形成する。
【0165】
次に、実施の形態1と同様の条件のMOCVD法によって、窒化物半導体中間層2の表面上に、アンドープGaNからなる第1の窒化物半導体下地層3と、アンドープGaNからなる第1の窒化物半導体下地層4とをこの順序で成長させる。ここで、第2の窒化物半導体下地層4は、第1の窒化物半導体下地層4の表面の平面視において、a(sub)軸方向に現れる2つの斜めファセット面4rと、a(sub)軸方向に対して+60°の角度で傾いた方向およびa(sub)軸方向に対して−60°の角度で傾いた方向にそれぞれ2つずつ現れる斜めファセット面4rと、が現れる条件(たとえば、ケース1の条件)で成長させる。
【0166】
次に、実施の形態1と同様の条件のMOCVD法によって、第2の窒化物半導体下地層4の表面上にアンドープGaNからなる第3の窒化物半導体下地層5を成長させる。ここで、第3の窒化物半導体下地層5は、第1の窒化物半導体下地層4の斜めファセット面4rを埋め込んで平坦な上面5Uが現れる条件で成長させる。
【0167】
次に、MOCVD法によって、第3の窒化物半導体下地層5の平坦な上面5U上にn型AlxGa1-xNからなる窒化物半導体電子走行層71を積層し、窒化物半導体電子走行層71の表面上にn型窒化物半導体電子供給層73を積層する。
【0168】
その後、n型窒化物半導体電子供給層73の表面上に、ソースコンタクト層75Sおよびドレインコンタクト層75Dを形成した後に、ソース電極78S、ドレイン電極78Dおよびゲート電極77をそれぞれ形成する。以上により、実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子300を作製することができる。
【0169】
実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子300においても、実施の形態1と同様に、結晶性が高く、反りが抑えられて、大きな成長速度で製造された第3の窒化物半導体下地層5の平坦な上面5U上に、窒化物半導体電子走行層71およびn型窒化物半導体電子供給層73などの窒化物半導体層を積層している。これにより、特に、窒化物半導体電子走行層71の最上面の2次元電子走行領域における結晶欠陥が低減するため、電子の移動度を向上させることができる。
【0170】
したがって、実施の形態2の窒化物半導体トランジスタ素子300においても、第3の窒化物半導体下地層5の表面上に積層されたそれぞれの層については転位密度が低く結晶性に優れた層とすることができるため、電子移動度などの特性が向上した素子とすることができる。
【実施例】
【0171】
<実施例>
まず、口径6インチで厚さ1.3mmのサファイア単結晶からなる基板を準備した。次に、その基板上に図3に示す凸部の平面配置を規定するマスクを形成し、当該マスクを用いて基板の表面をドライエッチングして図3に示す平面配置に凹部を形成した。
【0172】
これにより、基板の表面の凸部は、基板の表面のa(sub)軸方向(<11−20>方向)に配列されるとともに、基板の表面のa(sub)軸方向に対して+60°の傾きを為す方向および基板の表面のa(sub)軸方向に対して−60°の傾きを為す方向(いずれもu方向)にそれぞれ配列されていた。ここで、凸部は、基板の表面の平面視において、図3に示す仮想の三角形1tの頂点にそれぞれ位置しており、仮想の三角形の3辺のそれぞれの辺の方向に周期的に配列されていた。さらに、凸部の底面における平面形状は円形であった。また、基板の表面の平面視において、隣り合う凸部の間隔は2μmであって、凸部の底面における平面形状である円形の円の直径は1.2μm程度であり、凸部の高さは0.6μm程度であった。さらに、基板の表面の凸部および凹部はそれぞれ図4に示す断面を有しており、凸部は先端部1cを有していた。
【0173】
次に、凸部および凹部の形成後の基板の表面のRCA洗浄を行なった。そして、チャンバーに上記のRCA洗浄後の基板を設置し、N2とArとを導入し、基板を650℃に加熱して、N2とArとの混合雰囲気においてAlターゲットをスパッタする反応性スパッタ法により、凸部および凹部を有する基板の表面上に、基板の表面の法線方向に伸長する結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなるAlN結晶からなる厚さ30nmの窒化物半導体中間層を形成した。
【0174】
上記のようにして窒化物半導体中間層までを形成したウエハを縦型MOCVD装置内に設置し、ウエハの基板の温度を1000℃に加熱しながら、ウエハの基板を回転数600RPMで回転させ、縦型MOCVD装置内の雰囲気の圧力を66.6kPaとした状態で、縦型MOCVD装置内に、原料ガスとしてV族原料ガスであるアンモニアガスとIII族原料ガスであるTMG(トリメチルガリウム)との混合ガスを供給するとともに、キャリアガスとして水素ガスのみ(流量:129slm)を供給することによって、MOCVD法により、アンドープGaN結晶を5分間成長させて、厚さ300nmの第1の窒化物半導体下地層を形成した。
【0175】
ここで、原料ガスは、原料ガスのV/III比が1165となるようにして供給した。なお、キャリアガスとしては水素ガスのみ供給されていることから、第1の窒化物半導体下地層の成長時のキャリアガスの全体積に対する水素ガスの体積比が1であることは明らかである。
【0176】
その後、引き続き、上記と同一の条件で、アンドープGaN結晶をさらに成長させて、厚さ1.8μmの実施例1の第2の窒化物半導体下地層を形成した。
【0177】
その後、基板の回転数を1200RPMまで上昇させ、縦型MOCVD装置の成長室内の雰囲気の圧力を26.6kPaと低減した状態で、原料ガスとしてV族原料ガスであるアンモニアガス(アンモニアガス流量:25slm)とIII族原料ガスであるTMG(トリメチルガリウム流量:340sccm)との混合ガスを供給(V/III比:656)するとともに、キャリアガスとして水素ガスのみ(流量:153slm)を供給することによって、MOCVD法により、アンドープGaN結晶を72分間成長させて、第2の窒化物半導体下地層上に厚さ5.0μmの第3の窒化物半導体下地層を形成(成長速度:4.17μm/時)して、実施例の窒化物半導体構造を作製した。そして、実施例の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層上に厚さ2.8μmのn型GaNからなるn型窒化物半導体コンタクト層を積層した。
【0178】
その後、従来から用いられている方法によって、n型窒化物半導体コンタクト層上に、n型窒化物半導体超格子層、窒化物半導体発光層、p型窒化物半導体クラッド層、p型窒化物半導体コンタクト層および透光性電極層をこの順に積層した。
【0179】
その後、従来から用いられている方法によって、n型窒化物半導体コンタクト層の表面を露出させ、n型窒化物半導体コンタクト層の露出表面にn側電極を形成し、透光性電極層の表面上にp側電極を形成した。
【0180】
その後、透光性電極層、p型窒化物半導体コンタクト層、p型窒化物半導体クラッド層、窒化物半導体発光層、n型窒化物半導体超格子層およびn型窒化物半導体コンタクト層のそれぞれの表面をSiO2からなる絶縁保護膜で覆った。
【0181】
その後、従来から用いられている方法によって、チップ状に分割して、実施例の窒化物半導体発光ダイオード素子を作製した。
【0182】
<比較例>
第3の窒化物半導体下地層を以下のようにして作製したこと以外は実施例と同様にして比較例の窒化物半導体構造を作製した。
【0183】
基板の回転数を1200RPMまで上昇させ、縦型MOCVD装置の成長室内の雰囲気の圧力を17.2kPaとした状態で、原料ガスとしてV族原料ガスであるアンモニアガス(アンモニアガス流量:25slm)とIII族原料ガスであるTMG(トリメチルガリウム流量:274sccm)との混合ガスを供給(V/III比:814)するとともに、キャリアガスとして水素ガスのみ(流量:198slm)を供給することによって、MOCVD法により、アンドープGaN結晶を140分間成長させて、第2の窒化物半導体下地層上に厚さ5.0μmの第3の窒化物半導体下地層を形成(成長速度:2.14μm/時)して、比較例の窒化物半導体構造を作製した。その後、実施例と同様にして、比較例の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層上に厚さ2.8μmのn型GaNからなるn型窒化物半導体コンタクト層を積層した。
【0184】
<評価>
上記のようにして作製した実施例の窒化物半導体構造と、比較例の窒化物半導体構造とについて、第3の窒化物半導体下地層上にn型窒化物半導体コンタクト層を形成した段階で、(1)層厚の面内分布、(2)シート抵抗の面内分布、(3)結晶性、(4)反りの大きさ、および(5)表面モフォロジーおよび結晶欠陥について、それぞれ評価した。
【0185】
(1)層厚の面内分布
第1の窒化物半導体下地層からn型窒化物半導体コンタクト層までの層厚の面内分布をフォトルミネッセンス測定法により測定した。層厚は、分光干渉を利用し、分光器で波長ごとの分光反射率を決定して算出した。図21(a)に実施例の層厚の面内分布を示し、図21(b)に比較例の層厚の面内分布を示す。
【0186】
図21(a)と図21(b)とを比較すると、図21(b)に示す比較例の層厚の面内分布は、n型窒化物半導体コンタクト層の表面の中心から端部にかけて等高線状に層厚が厚くなっていた。しかしながら、図21(a)に示す実施例の層厚の面内分布においては、そのような等高線状の分布とはなっていなかった。また、実施例の層厚の面内分布の層厚の偏差には大きな差が現れておらず、比較例の層厚の面内分布では現れていたオリエンテーションフラットから時計方向にかけて存在する端部の層厚部もその発生が抑制されていた。したがって、この結果から、実施例の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層は、比較例の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層と比べて、表面が平坦であると考えられる。
【0187】
(2)シート抵抗の面内分布
図22(a)に実施例のシート抵抗の面内分布を示し、図22(b)に比較例のシート抵抗の面内分布を示す。ここで、シート抵抗は、非接触のシート抵抗測定器を用いて測定した。
【0188】
図22(a)と図22(b)とを比較すると、図22(a)に示す実施例のシート抵抗の面内分布の方が、図22(b)に示す比較例のシート抵抗の面内分布のと比べて、均一性が高かいように見受けられたが、シート抵抗の平均値には差異が見られなかった。
【0189】
(3)結晶性
実施例と比較例の窒化物半導体構造の第3の窒化物半導体下地層上に形成されたn型窒化物半導体コンタクト層の結晶性をX線ロッキングカーブ回折法(XRC)によって評価した。
【0190】
ω測定によるGaN(0004)面のピーク半値幅は、実施例が30arcsec、比較例が30arcsecであり、GaN(10−12)面のピーク半値幅は、実施例が116arcsec、比較例が113arcsecであり、両者に大きな差は見られなかった。この結果から、実施例および比較例のいずれの窒化物半導体構造においても、第3の窒化物半導体下地層は良好な結晶性を有しているものと考えられる。
【0191】
これは、実施例と比較例の窒化物半導体構造の第1の窒化物半導体下地層および第2の窒化物半導体下地層の成長条件が同一であるため、実施例と比較例とにおいて、これらの層のファセット面の形状に差異が無かったためと考えられる。
【0192】
(4)反りの大きさ
実施例と比較例のそれぞれについて、n型窒化物半導体コンタクト層の形成後のウエハの反りについて測定した。ウエハの反りは、図23の模式的側面図に示すように、基準平面を最小二乗平面として非吸着での全測定点データの最大値と最小値の差の値を反りの大きさとした。
【0193】
その結果、実施例のウエハの反りは97μmであり、比較例のウエハの反りは100μmであって、実施例の方が比較例よりも反りが抑制できていることが確認された。したがって、この結果から、実施例の窒化物半導体構造の方が、比較例の窒化物半導体構造よりも反りが抑制できていると考えられる。
【0194】
(5)表面モフォロジーおよび結晶欠陥
実施例と比較例のそれぞれについて、n型窒化物半導体コンタクト層の形成後のウエハの表面モフォロジーおよび結晶欠陥を観察した。ここで、表面モフォロジーは、微分干渉顕微鏡(金属顕微鏡)によって観察することにより評価した。また、結晶欠陥は、EPD(エッチピット密度)測定により評価した。
【0195】
図24(a)および図24(b)に、実施例のウエハの表面モフォロジーの微分干渉顕微鏡(金属顕微鏡)による観察像を示し、図24(c)および図24(d)に、実施例のウエハのEPD測定による結晶欠陥の観察像を示す。ここで、図24(a)および図24(c)がそれぞれ5倍の倍率での観察像であり、図24(b)および図24(d)がそれぞれ20倍の倍率での観察像である。
【0196】
図25(a)および図25(b)に、比較例のウエハの表面モフォロジーの微分干渉顕微鏡(金属顕微鏡)による観察像を示し、図25(c)および図25(d)に、比較例のウエハのEPD測定による結晶欠陥の観察像を示す。ここで、図25(a)および図25(c)がそれぞれ5倍の倍率での観察像であり、図25(b)および図25(d)がそれぞれ20倍の倍率での観察像である。
【0197】
図24(a)〜(d)と、図25(a)〜(d)との比較から明らかなように、実施例と比較例のウエハの表面モフォロジーおよび結晶欠陥にほとんど差異は見られなかった。
【0198】
<まとめ>
以上の実施例と比較例との比較から、以下の1)〜3)の条件を満たすことによって、第3の窒化物半導体下地層の成長時間を140分間から72分間に大幅に短縮して、平坦な表面を有し、結晶性が高く、反りが抑えられた第3の窒化物半導体下地層を成長させることができる。これにより、III族原料ガスの使用量を大幅に低減することが可能となり、比較例のように端部に局所的に大きな層厚を有するエッジ部の発生を抑制することができる。
【0199】
1)III族原料ガスであるTMGの流量を274sccmから340sccmに増加させる。
【0200】
2)キャリアガスである水素ガスの流量を198slmから153slmに減少させる。
【0201】
3)第3の窒化物半導体下地層の成長時の圧力を17.2kPaから26.6kPaに増加させる。
【0202】
また、III族原料ガスの流量を増加させただけでは、上記のような大幅な成長時間の短縮を望むことはできないが、キャリアガスである水素ガスの流量を153slmに減少させることによって、第3の窒化物半導体下地層の成長時における成長室内のIII族原料ガスの濃度を上昇させることによって、上記の大幅な成長時間の短縮を望むことができる。このとき、縦型MOCVD装置の成長室の排気装置の排気速度を低下させて、成長室内でIII族原料ガスを滞留させることにより、第3の窒化物半導体下地層の成長速度をさらに大きくすることができる。
【0203】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明は、窒化物半導体構造の製造方法に利用することができ、また窒化物半導体発光ダイオード素子および窒化物半導体トランジスタ素子の製造方法に利用することもできる。
【符号の説明】
【0205】
1 基板、1a 凸部、1b 凹部、1c 先端部、1t 三角形、2 窒化物半導体中間層、3 第1の窒化物半導体下地層、3c 第1の平坦領域、3d 粗面領域、3f 第1の斜めファセット面、4 第2の窒化物半導体下地層、4c 第2の平坦領域、4r 第2の斜めファセット面、5 第3の窒化物半導体下地層、5U 上面、7 n型窒化物半導体コンタクト層、9 n型窒化物半導体クラッド層、11 窒化物半導体活性層、13 p型窒化物半導体クラッド層、15 p型窒化物半導体コンタクト層、19 透光性電極層、20 n側電極、21 p側電極、23 絶縁保護膜、30 第1のリードフレーム、31 第2のリードフレーム、33 第1のワイヤ、34 第2のワイヤ、35 モールド樹脂、40 表面、71 窒化物半導体電子走行層、73 n型窒化物半導体電子供給層、75S ソースコンタクト層、75D ドレインコンタクト層、77 ゲート電極、78S ソース電極、78D ドレイン電極、100 窒化物半導体発光ダイオード素子、110 発光装置、300 窒化物半導体トランジスタ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部と前記凹部の間に設けられた凸部とを表面に有する三方晶コランダムまたは六方晶の結晶からなる基板を準備する工程と、
前記基板上に窒化物半導体中間層を形成する工程と、
前記窒化物半導体中間層上に第1の窒化物半導体下地層を形成する工程と、
前記第1の窒化物半導体下地層上に第2の窒化物半導体下地層を形成する工程と、
前記第2の窒化物半導体下地層上に第3の窒化物半導体下地層をMOCVD法により形成する工程と、を含み、
前記第1の窒化物半導体下地層の表面は、第1の斜めファセット面と、第1の平坦領域とを有しており、
前記第1の窒化物半導体下地層の前記表面における前記第1の斜めファセット面の面積割合が、前記第1の平坦領域の面積割合よりも小さく、
前記第2の窒化物半導体下地層は、前記凸部を取り囲む第2の斜めファセット面を有し、
前記第3の窒化物半導体下地層の下面は、前記第2の斜めファセット面に接し、
前記第3の窒化物半導体下地層を形成する工程において、前記第3の窒化物半導体下地層の成長時に単位時間当たりに供給されるV族原料ガスのモル量と単位時間当たりに供給されるIII族原料ガスのモル量との比であるV/III比を700以下とし、前記第3の窒化物半導体下地層の成長時の圧力を26.6kPa以上とし、前記第3の窒化物半導体下地層の成長速度を2.5μm/時以上とする、窒化物半導体構造の製造方法。
【請求項2】
前記第3の窒化物半導体下地層を形成する工程において、前記第3の窒化物半導体下地層の成長時に198slm未満の水素を供給する、請求項1に記載の窒化物半導体構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図23】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−84832(P2013−84832A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224623(P2011−224623)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】