説明

自動車およびその制御方法

【課題】 シフトレバーのPレンジから他のレンジへのシフト操作をスムーズに行なう。
【解決手段】 ブレーキが踏み込まれると共にシフト解除ボタンがオンされて脱Pレンジ操作が予測されたときには(S110)、路面勾配θに基づいて車両の前後方向に作用する力を打ち消す方向の補助駆動力F*を設定し(S120〜S140)、補助駆動力F*が所定駆動力F1未満のときには補助駆動力F*をモータMG2から出力し(S160,S170,S200)、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときには補助駆動力F*をモータMG2とモータMG3とから出力する(S180〜S200)。これにより、パーキング機構90に作用する車両の前後方向の力を低減することができ、シフトレバーのPレンジから他のレンジへのシフト操作をスムーズに行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車としては、シフトレバーの駐車位置への操作に伴って機械的に車輪をロックするメカニカルパーキングロック装置と車輪に機械的に接続された電動機とを備えるものが提案されている(特許文献1参照)。この自動車では、シフトレバーを駐車位置から他の位置へ操作するP抜きシフト操作時には、道路の傾斜に基づいて車両の前後方向に作用する力が打ち消されるよう電動機からトルクを出力してメカニカルパーキングロック装置に掛かる荷重を略値0とすることによりP抜きシフト操作を容易に行なうことができるようにしている。
【特許文献1】特開平9−286312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の自動車で用いたP抜きシフト操作の方法をエンジンと電動機とからの駆動力により走行する自動車など電動機と共に他の駆動力源を搭載する自動車に適用した場合には、P抜きシフト操作をスムーズに行なうことができない場合が生じる。電動機と共に他の駆動力源を搭載する自動車では、電動機と他の駆動力源とからの駆動力を用いて走行するため、電動機だけで走行する上述の自動車に比して能力の低い電動機を用いることができる。このため、道路の傾斜が大きいときには、傾斜に基づいて車両の前後方向に作用する力を打ち消すだけの駆動力を電動機から出力することができず、P抜き操作をスムーズに行なうことができなくなってしまう。
【0004】
本発明の自動車およびその制御方法は、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作をスムーズに行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の自動車およびその制御方法は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の自動車は、
第1の車軸に駆動力を出力可能な第1の電動機と、
前記第1の車軸または前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に駆動力を出力可能な駆動力源と、
シフトレバーの駐車ポジションへの操作に伴って前記第1の車軸が回転しないよう固定する固定手段と、
前記シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作を予測する脱駐車ポジション操作予測手段と、
路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の補助駆動力を設定する補助駆動力設定手段と、
前記脱駐車ポジション操作予測手段により前記脱駐車ポジション操作が予測されたとき、前記設定された補助駆動力が所定駆動力未満のときには該設定された補助駆動力が前記第1の電動機から出力されるよう該第1の電動機を制御し、前記設定された補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該設定された補助駆動力が前記第1の電動機と前記駆動力源とから出力されるよう該第1の電動機と該駆動力源とを制御する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の自動車では、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作が予測されたときに、路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の駆動力である補助駆動力が所定駆動力未満のときには補助駆動力が電動機から出力されるよう電動機を制御し、補助駆動力が所定駆動力以上のときには補助駆動力が電動機と駆動力源とから出力されるよう電動機と駆動力源とを制御する。したがって、補助駆動力が所定駆動力未満のときには電動機から補助駆動力を出力し、補助駆動力が所定駆動力以上のときには電動機と駆動力源とから補助駆動力を出力することにより、固定手段に作用する車両前後方向の力を低減することができる。この結果、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作をスムーズに行なうことができる。
【0008】
こうした本発明の自動車において、前記脱駐車ポジション操作は、複数の操作を組み合わせて構成されてなる操作であり、前記脱駐車ポジション操作予測手段は、前記脱駐車ポジション操作を構成する複数の操作のうちの少なくとも一部の操作が行なわれたときに該脱駐車ポジション操作を予測する手段であるものとすることもできる。例えば、脱駐車ポジション操作が、ブレーキを踏み込む操作と、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作の禁止を解除するシフト解除ボタンをオンする操作と、これらの操作を維持した状態でシフトレバーを駐車ポジションから他のポジションへ変更する操作との組み合わせにより構成されているときには、ブレーキが踏み込まれる操作やシフト解除ボタンがオンされる操作が行なわれたときに脱駐車ポジション操作を予測するものとすることができる。
【0009】
また、本発明の自動車において、前記補助駆動力設定手段は、前記路面勾配または前記車重分力を検出すると共に該検出した路面勾配または車重分力が大きいほど大きくなる傾向に前記補助駆動力を設定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、補助駆動力をより適正に設定することができ、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作をよりスムーズに行なうことができる。
【0010】
さらに、本発明の自動車において、前記駆動力源は、前記第2の車軸に駆動力を出力可能な第2の電動機を備えてなり、前記制御手段は、前記補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該補助駆動力の少なくとも一部が前記第2の電動機から出力されるよう前記第1の電動機と前記駆動力源とを制御する手段であるものとすることもできる。また、本発明の自動車において、前記駆動力源は、前記第1の車軸または第2の車軸に駆動力を出力可能な内燃機関を備えてなり、前記制御手段は、前記補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該補助駆動力の少なくとも一部が前記内燃機関からの駆動力を用いて賄われるよう前記第1の電動機と前記駆動力源とを制御する手段であるものとすることもできる。この場合、前記駆動力源は、前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸に接続された第1の駆動軸または前記第2の車軸に接続された第2の駆動軸と第3の軸との3軸に接続され該3軸のうちいずれか2軸に入出力した動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力する発電機とを備えるものとすることもできるし、前記内燃機関の出力軸に取り付けられた第1の回転子と前記第1の車軸に接続された第1の駆動軸または前記第2の車軸に接続された第2の駆動軸に取り付けられた第2の回転子とを有し、前記第1の回転子と前記第2の回転子との相対的な回転により回転する対回転子電動機を備えるものとすることもできる。
【0011】
本発明の自動車において、前記制御手段は操作者による前記脱駐車ポジション操作が行なわれたときに前記固定手段による前記第1の車軸の固定が解除されるよう該固定手段を制御する手段であるものとすることもできるし、前記固定手段はギヤの噛み合いにより前記第1の車軸が回転しないよう固定する手段であるものとすることもできる。
【0012】
本発明の自動車の制御方法は、
第1の車軸に駆動力を出力可能な電動機と、前記第1の車軸または前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に駆動力を出力可能な駆動力源と、シフトレバーの駐車ポジションへの操作に伴って前記第1の車軸が回転しないよう固定する固定手段と、を備える自動車の制御方法であって、
(a)前記シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作を予測し、
(b)路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の補助駆動力を設定し、
(c)前記脱駐車ポジション操作が予測されたとき、前記設定された補助駆動力が所定駆動力未満のときには該設定された補助駆動力が前記電動機から出力されるよう該電動機を制御し、前記設定された補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該設定された補助駆動力が前記電動機と前記駆動力源とから出力されるよう該電動機と該駆動力源とを制御する
ことを要旨とする。
【0013】
この本発明の自動車の制御方法によれば、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作が予測されたときに、路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の駆動力である補助駆動力が所定駆動力未満のときには補助駆動力が電動機から出力されるよう電動機を制御し、補助駆動力が所定駆動力以上のときには補助駆動力が電動機と駆動力源とから出力されるよう電動機と駆動力源とを制御する。したがって、補助駆動力が所定駆動力未満のときには電動機から補助駆動力を出力し、補助駆動力が所定駆動力以上のときには電動機と駆動力源とから補助駆動力を出力することにより、固定手段に作用する車両前後方向の力を低減することができる。この結果、シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作をスムーズに行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続されると共に前輪63a,63bにディファレンシャルギヤ62を介して連結されたリングギヤ軸32aに接続されたモータMG2と、後輪66a,66bにディファレンシャルギヤ65を介して接続されたモータMG3と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介してモータMG2がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60,デファレンシャルギヤ62を介して前輪63a,63bに出力される。
【0018】
ギヤ機構60には、ファイナルギヤ60aに取り付けられたパーキングギヤ92と、パーキングギヤ92と噛み合ってその回転駆動を停止した状態でロックするパーキングロックポール94とからなるパーキングロック機構90が取り付けられている。パーキングロックポール94は、シフトレバー81の他のレンジからPレンジへの操作またはPレンジから他のレンジへの操作がシフトケーブル96を介して伝達されることにより作動し、パーキングギヤ92との噛合およびその解除によりパーキングロックおよびその解除を行なう。ファイナルギヤ60aは、機械的に前輪63a,63bに接続されているから、パーキングロック機構90は間接的に前輪63a,63bをロックしていることになる。
【0019】
モータMG1,MG2,MG3は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42,43を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42,43とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42,43が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2,MG3のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2,MG3のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2,MG3により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2,MG3は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2,MG3を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2,MG3の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ44,45,46からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2,MG3に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42,43へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、回転位置検出センサ44,45,46から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンによりモータMG1,MG2,MG3の回転子の回転数Nm1,Nm2,Nm3やリングギヤ軸32aの回転数Nrを計算している。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2,MG3を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2,MG3の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0020】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も計算している。
【0021】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,シフトレバー81のPレンジ(駐車ポジション)から他のレンジへのシフト操作の禁止を解除するシフト解除ボタン81aからの解除信号,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,車両の前後方向の路面勾配を検出する勾配センサ89からの車両の前後方向の路面勾配θなどが入力ポートを介して入力されている。なお、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0022】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にシフトレバー81をPレンジから他のレンジにシフト操作する際の動作について説明する。図2は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される脱Pレンジ操作時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトポジションSPがPレンジにあるときに繰り返し実行される。
【0023】
脱Pレンジ操作時処理ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、ブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBPやシフトレバー81のPレンジから他のレンジへのシフト操作の禁止を解除するシフト解除ボタン81aからの解除信号,勾配センサ89からの車両の前後方向の路面勾配θなどのデータを入力し(ステップS100)、入力したブレーキペダルポジションBPと解除信号とに基づいて脱Pレンジ操作が予測されるか否かを判定する(ステップS110)。ここで、脱Pレンジ操作は、ブレーキペダル85を踏み込むと共にシフト解除ボタン81aをオンした状態でシフトレバー81をPレンジから他のレンジへシフト操作することをいい、脱Pレンジ操作の予測は、実施例では、ブレーキペダル85が踏み込まれると共にシフト解除ボタン81aがオンされたときに行なうものとした。脱Pレンジ操作が予測されないときには、そのまま本ルーチンを終了する。
【0024】
脱Pレンジ操作が予測されたときには、路面勾配θと重力加速度gとに基づいて車重Mに対する車両の前後方向の分力である車重分力FM(=M・g・sinθ)を計算すると共に(ステップS120)、路面勾配θに基づいて係数αを設定し(ステップS130)、車重分力FMに係数αを乗じることにより車両に出力すべき補助駆動力F*を計算する(ステップS140)。ここで、車重Mは、実施例では、1名乗車時の総重量に相当する値を用いるものとした。また、係数αは、車重分力FMに基づいてパーキングロック機構90に作用する力を低減する程度を設定するために用いられるものであり、実施例では、路面勾配θと係数αとの関係を予め定めて係数設定用マップとしてROM74に記憶しておき、路面勾配θが与えられると記憶したマップから対応する係数αを設定するものとした。図3に係数設定用マップの一例を示す。係数αは、図示するように、値0から値1の範囲内で路面勾配θが大きいほど大きくなる傾向に設定するものとした。これは、車重分力FMと補助駆動力F*とに基づいてパーキングロック機構90に作用する車両の前後方向の力が路面勾配θの増加に伴って増加するのを抑制するためである。車重分力FMと補助駆動力F*との関係を図4示す。
【0025】
続いて、補助駆動力F*と所定駆動力F1とを比較する(ステップS150)。ここで、所定駆動力F1は、補助駆動力F*をモータMG2のみから出力するかモータMG2とモータMG3とから出力するかを判定するために用いられる閾値であり、モータMG2の定格最大トルクより小さな値に設定される。補助駆動力F*が所定駆動力F1未満であると判定されたときには補助駆動力F*に換算係数k1を乗じることによりモータMG2のトルク指令Tm2*を設定すると共にモータMG3のトルク指令Tm3*に値0を設定し(ステップS160,S170)、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上であると判定されたときには所定駆動力F1に換算係数k1を乗じることによりモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する共に補助駆動力F*と所定駆動力F1との偏差に換算係数k2を乗じることによりモータMG3のトルク指令Tm3*を設定する(ステップS180,S190)。そして、設定したトルク指令Tm2*,Tm3*でモータMG2,MG3を駆動制御する(ステップS200)。ここで、換算係数k1,k2は、駆動力をモータMG2,MG3のトルクに換算するための係数である。モータMG2,MG3の駆動制御は、具体的には、トルク指令Tm2*,Tm3*をモータECU40に送信し、これを受信したモータECU40がトルク指令Tm2*,Tm3*でモータMG2,MG3が駆動されるようインバータ42,43のスイッチング素子のスイッチング制御を行なうことにより行なわれる。このように、ブレーキペダル85が踏み込まれると共にシフト解除ボタン81aがオンされることにより脱Pレンジ操作が予測されたときに、補助駆動力F*が所定駆動力F1未満のときにはモータMG2から補助駆動力F*に相当するトルクを出力し、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときにはモータMG2とモータMG3とから補助駆動力F*に相当するトルクを出力することにより、前輪63a,63bを間接的にロックするパーキングロック機構90のパーキングギヤ92とパーキングロックポール94との間に作用する車両の前後方向の力を低減することができる。運転者は、この状態でシフトレバー81をPレンジから他のレンジへ変更するシフト操作を行なうことになるから、このシフト操作をスムーズに行なうことができる。
【0026】
そして、シフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPやブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,シフト解除ボタン81aからの解除信号を入力し(ステップS210)、入力したシフトポジションSPがPレンジ以外のレンジにあるか否かを調べることにより脱Pレンジ操作が完了したか否かを判定すると共に(ステップS220)、脱Pレンジ操作が完了していないときにはブレーキペダル85が離されたか否かおよびシフト解除ボタン81aがオフされたか否かを調べることにより脱Pレンジ操作の予測が解除されたか否かを判定し(ステップS230)、脱Pレンジ操作が完了していないと共に脱Pレンジ操作の予測が解除されていないと判定されたときにはステップS210に戻る。こうしてステップS210〜S230を繰り返し実行して脱Pレンジ操作が完了したと判定されると、モータMG2,MG3のトルク指令Tm2*,Tm3*を解除し(ステップS250)、本ルーチンを終了する。脱Pレンジ操作が完了すると、その後このルーチンは実行されない。一方、脱Pレンジ操作が完了する前にブレーキペダル85が離されたりシフト解除ボタン81aがオフされたりすることにより脱Pレンジ操作の予測が解除されたときには、モータMG2,MG3のトルク指令Tm2*,Tm3*を解除して(ステップS240)、本ルーチンを終了する。
【0027】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、脱Pレンジ操作が予測されたときに、路面勾配θに基づく車重分力FMを打ち消す方向の補助駆動力F*が所定駆動力F1未満のときにはモータMG2から補助駆動力F*に相当するトルクを出力し、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときにはモータMG2とモータMG3とから補助駆動力F*に相当するトルクを出力するから、パーキングロック機構90に作用する車両の前後方向の力を抑制することができる。この結果、運転者は、シフトレバー81をPレンジから他のレンジへ変更するシフト操作をスムーズに行なうことができる。
【0028】
実施例のハイブリッド自動車20では、脱Pレンジ操作の予測は、ブレーキペダル85が踏み込まれると共にシフト解除ボタン81aがオンされたときに行なうものとしたが、ブレーキペダル85の踏み込み操作とシフト解除ボタン81aのオン操作とのうちいずれかの操作がなされたときに行なうものとしてもよい。
【0029】
実施例のハイブリッド自動車20では、勾配センサ89により検出された路面勾配θを用いて車重分力FMを計算するものとしたが、勾配センサ89に代えてあるいは加えて車両の前後方向の加速度を検出するGセンサを取り付けてこのGセンサにより検出された値に基づいて車重分力FMを計算するものとしてもよい。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2,MG3のトルク指令Tm2*,Tm3*は、路面勾配θを用いて計算した車重分力FMに基づいて設定するものとしたが、車重分力FMを計算することなく、路面勾配θを用いてパーキングロック機構90に作用する車両の前後方向の力を計算してこれに基づいて設定するものとしてもよい。
【0031】
実施例のハイブリッド自動車20では、係数αは、図3の係数設定用マップに示したように、路面勾配θが大きいほど大きくなる傾向に設定するものとしたが、所定値を設定するものとしてもよい。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、補助駆動力F*は、車重分力FMに係数αを乗じることにより計算するものとしたが、車重分力FMから所定値を減じることにより計算するものとしてもよいし、車重分力FMから補助駆動力F*を減じたものが所定値になるように補助駆動力F*を設定するものとしてもよい。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20では、所定駆動力F1としてステップS150の閾値FrefとステップS160のモータMG2から出力すべき要求駆動力Fm2*とに同じ値を用いるものとしたが、異なる値を用いるものとしてもよい。例えば、ステップS150で要求駆動力F*が所定駆動力F1未満のときには、所定駆動力F1より小さな駆動力F2を用いてモータMG2のトルク指令Tm2*(=F2・k1)を設定すると共にモータMG3のトルク指令Tm3*(=(F*−F2)・k2)を設定するものとしてもよい。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときには、所定駆動力F1に基づいてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定すると共に残余の駆動力(F*−F1)に基づいてモータMG3のトルク指令Tm3*を設定するものとしたが、補助駆動力F*に相当するトルクをモータMG2とモータMG3とから出力するものであれば、他の方法によりトルク指令Tm2*,Tm3*を設定するものとしてもよい。例えば、補助駆動力F*に所定の比率x(0<x<1)を乗じた駆動力(F*・x)に基づいてトルク指令Tm2*を設定すると共に残余の駆動力(F*・(1−x))に基づいてトルク指令Tm3*を設定するものとしてもよい。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときには、補助駆動力F*をモータMG2とモータMG3とを制御することにより出力するものとしたが、所定の条件が成立する場合には補助駆動力F*をエンジン22とモータMG1とモータMG2とを制御することにより出力するものとしてもよい。この場合の脱Pレンジ操作時処理ルーチンの一例の一部を図5に示す。この脱Pレンジ操作時処理ルーチンでは、ステップS150で補助駆動力F*が所定駆動力F1以上であると判定されると、路面勾配θに基づいて車両の現在位置が降坂路であるか否かを判定し(ステップS300)、降坂路であると判定されたときには、前述したように、モータMG2,MG3のトルク指令Tm2*,Tm3*を設定すると共に(ステップS180,S190)、設定したトルク指令Tm2*,Tm3*でモータMG2,MG3を駆動制御し(ステップS200)、ステップS210以降の処理を実行する。一方、降坂路ではないと判定されたときには、ステップS180と同様にモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する共に(ステップS310)、補助駆動力F*と所定駆動力F1との偏差(F*−F1)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとに基づいてエンジン22の目標トルクTe*を次式(1)により設定し(ステップS320)、目標トルクTe*に基づいてエンジン22を効率よく運転できる運転ポイントでエンジン22を運転すると共にエンジン22からの出力に対して反力をとれるようモータMG1を駆動制御し、トルク指令Tm2*でモータMG2を駆動制御し(ステップS330)、ステップS210以降の処理を実行する。ここで、式(1)中、「k3」は駆動力をエンジン22のトルクに換算するための換算係数である。この場合、補助駆動力F*が所定駆動力F1以上のときに降坂路ではないときには、エンジン22とモータMG1とモータMG2とを制御して補助駆動力F*に相当するトルクを出力することにより、パーキングロック機構90に作用する車両の前後方向の力を低減することができる。
【0036】
Te*=(F*-F1)・(1+ρ)・k3 …(1)
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力を動力分配統合機構30を介して前輪63a,63bに出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ132と前輪63a,63bに機械的に接続されたアウターロータ134とを有し、エンジン22の動力の一部を前輪63a,63bに伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機130を備えるものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの駆動力の少なくとも一部を動力分配統合機構30を介して前輪63a,63bに出力するものとしたが、エンジン22からの駆動力をそのままあるいは変速して前輪63a,63bまたは後輪66a,66bに出力するものとしてもよい。この場合、実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG3を備えるものとしたが、モータMG3を備えないものとしてもよい。
【0039】
実施例では、内燃機関からの駆動力と第1の電動機からの駆動力とを第1の車軸に出力すると共に第2の電動機からの駆動力を第2の車軸に出力可能なハイブリッド自動車に適用するものとしたが、こうしたハイブリッド自動車に限られず、内燃機関を備えない通常の電気自動車にも適用することができる。この場合、例えば、第1の電動機からの駆動力を第1の車軸に出力すると共に第2の電動機からの駆動力を第2の車軸に出力する電気自動車に適用することができる。
【0040】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例のハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】ハイブリッド自動車20のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される脱Pレンジ操作時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】係数設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】車重分力FMと補助駆動力F*との関係を示す説明図である。
【図5】変形例の脱Pレンジ操作時処理ルーチンの一部の一例を示すフローチャートである。
【図6】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0042】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,43 インバータ、44,45,46 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、60a ファイナルギヤ、62,65 デファレンシャルギヤ、63a,63b 前輪、66a,66b 後輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、81a シフト解除ボタン、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 勾配センサ、90 パーキングロック機構、92 パーキングギヤ、94 パーキングロックポール、130 対ロータ電動機、132 インナーロータ、134 アウターロータ、MG1,MG2,MG3 モータ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の車軸に駆動力を出力可能な第1の電動機と、
前記第1の車軸または前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に駆動力を出力可能な駆動力源と、
シフトレバーの駐車ポジションへの操作に伴って前記第1の車軸が回転しないよう固定する固定手段と、
前記シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作を予測する脱駐車ポジション操作予測手段と、
路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の補助駆動力を設定する補助駆動力設定手段と、
前記脱駐車ポジション操作予測手段により前記脱駐車ポジション操作が予測されたとき、前記設定された補助駆動力が所定駆動力未満のときには該設定された補助駆動力が前記第1の電動機から出力されるよう該第1の電動機を制御し、前記設定された補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該設定された補助駆動力が前記第1の電動機と前記駆動力源とから出力されるよう該第1の電動機と該駆動力源とを制御する制御手段と、
を備える自動車。
【請求項2】
請求項1記載の自動車であって、
前記脱駐車ポジション操作は、複数の操作を組み合わせて構成されてなる操作であり、
前記脱駐車ポジション操作予測手段は、前記脱駐車ポジション操作を構成する複数の操作のうちの少なくとも一部の操作が行なわれたときに該脱駐車ポジション操作を予測する手段である
自動車。
【請求項3】
前記補助駆動力設定手段は、前記路面勾配または前記車重分力を検出すると共に該検出した路面勾配または車重分力が大きいほど大きくなる傾向に前記補助駆動力を設定する手段である請求項1または2記載の自動車。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の自動車であって、
前記駆動力源は、前記第2の車軸に駆動力を出力可能な第2の電動機を備えてなり、
前記制御手段は、前記補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該補助駆動力の少なくとも一部が前記第2の電動機から出力されるよう前記第1の電動機と前記駆動力源とを制御する手段である
自動車。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の自動車であって、
前記駆動力源は、前記第1の車軸または第2の車軸に駆動力を出力可能な内燃機関を備えてなり、
前記制御手段は、前記補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該補助駆動力の少なくとも一部が前記内燃機関からの駆動力を用いて賄われるよう前記第1の電動機と前記駆動力源とを制御する手段である
自動車。
【請求項6】
前記駆動力源は、前記内燃機関の出力軸と前記第1の車軸に接続された第1の駆動軸または前記第2の車軸に接続された第2の駆動軸と第3の軸との3軸に接続され該3軸のうちいずれか2軸に入出力した動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力する発電機とを備える請求項5記載の自動車。
【請求項7】
前記駆動力源は、前記内燃機関の出力軸に取り付けられた第1の回転子と前記第1の車軸に接続された第1の駆動軸または前記第2の車軸に接続された第2の駆動軸に取り付けられた第2の回転子とを有し、前記第1の回転子と前記第2の回転子との相対的な回転により回転する対回転子電動機を備える請求項5記載の自動車。
【請求項8】
前記制御手段は、操作者による前記脱駐車ポジション操作が行なわれたときに前記固定手段による前記第1の車軸の固定が解除されるよう該固定手段を制御する手段である請求項1ないし7いずれか記載の自動車。
【請求項9】
前記固定手段は、ギヤの噛み合いにより前記第1の車軸が回転しないよう固定する手段である請求項1ないし8いずれか記載の自動車。
【請求項10】
第1の車軸に駆動力を出力可能な電動機と、前記第1の車軸または前記第1の車軸とは異なる第2の車軸に駆動力を出力可能な駆動力源と、シフトレバーの駐車ポジションへの操作に伴って前記第1の車軸が回転しないよう固定する固定手段と、を備える自動車の制御方法であって、
(a)前記シフトレバーの駐車ポジションから他のポジションへの変更操作を含む脱駐車ポジション操作を予測し、
(b)路面勾配に基づいて車両に作用する車重の車両前後方向の分力である車重分力を打ち消す方向の補助駆動力を設定し、
(c) 前記脱駐車ポジション操作が予測されたとき、前記設定された補助駆動力が所定駆動力未満のときには該設定された補助駆動力が前記電動機から出力されるよう該電動機を制御し、前記設定された補助駆動力が前記所定駆動力以上のときには該設定された補助駆動力が前記電動機と前記駆動力源とから出力されるよう該電動機と該駆動力源とを制御する
自動車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−74894(P2006−74894A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254351(P2004−254351)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】