説明

薄膜トランジスタとその製造方法、及びアクティブマトリックス基板

【課題】電極/配線の材料としてAl及び/又はその合金が用いられており、オフリーク電流が小さく良好な素子特性を有する薄膜トランジスタ(TFT)を提供する。
【解決手段】TFT101は、基板1上にゲート電極2とゲート絶縁膜3とチャネル層として機能する半導体膜4とを備え、半導体膜4上にソース電極6とドレイン電極7とが互いに離間して設けられたものであり、ソース電極6及びドレイン電極7は、アルミニウム及び/又はその合金を主成分とする少なくとも1層のアルミニウム(合金)膜を含む単層膜又は積層膜からなり、半導体膜4の表面のソース電極6及びドレイン電極7の間の領域8に、電気的に不活性な少なくとも1種のアルミニウム化合物9が形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタとその製造方法、及びこの薄膜トランジスタを備えたアクティブマトリックス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下適宜「TFT」と略す。)を用いたアクティブマトリックス型の液晶装置や有機EL(electroluminescence)装置等の電気光学装置は、その低消費電力及び薄型という特徴を活かして、CRT(Cathode Ray Tube)に変わるフラットパネルディスプレイの一つとして製品への応用が盛んになされている。
【0003】
上記の電気光学装置では低コスト化が要求されており、TFTには製造工程の簡略化等が可能なことから、一般的にアモルファスシリコン(a−Si)を半導体膜に用いた逆スタガード(inverted staggered)構造のバックチャネルエッチング(バックチャネルエッチ)型と呼ばれる構造が主に採用されている。従来、かかるTFT及びこれを備えたアクティブマトリックス基板を構成する電極/配線の材料として、例えばチタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、及びこれらの合金等の高融点金属材料が一般的に用いられている。
【0004】
上記の高融点金属材料は、Si半導体膜との接続界面における界面拡散反応が殆ど無いため、TFTの電極材料として好適に用いられている。しかしながら、バックチャネルエッチング後にSi半導体膜の表面に残存する高融点金属材料の残渣がTFTのオフリーク電流が増大させる要因となる。この問題は、TFTを液晶表示装置等の表示装置の画素スイッチング素子として用いた場合、電荷保持特性の低下を招き、表示品位上の重要な要素であるコントラストの低下やクロストークを増大させてしまう。
かかる問題を解決するために、特許文献1、2等には、バックチャネルエッチング後のSi半導体膜の表面に対して、酸素プラズマ処理あるいは窒素プラズマ処理を実施する方法が開示されている(いずれも請求項1を参照)。
【0005】
一方で、近年のTV画面の大型化あるいは携帯電話機やデジタルカメラ等における小型ディスプレイの高精細化への動向に伴って、電極/配線材料の低抵抗化が強く要求されてきている。従来一般に用いられている上記例示の高融点金属材料の比抵抗値は12〜60μΩ・cm程度であり、充分に好適とはいえない状況にある。
このため、表示装置用のTFT及びこれを備えたアクティブマトリックス基板の電極/配線材料として、比抵抗がより低く、且つ、配線パターン加工が容易であるアルミニウム(Al)又はその合金が、高融点金属材料の代替材料として注目されている。以下、Al膜及びAl合金膜を合わせて「Al(合金)膜」と表記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−223363号公報
【特許文献2】特開2003−37270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Al(合金)膜を直接Si半導体膜上に形成した場合、その接合界面における相互拡散反応により電気的特性が劣化することが一般的に知られている。接合界面における相互拡散反応を抑制するには、Al(合金)膜とSi半導体膜との間にバリア層として上述の高融点金属膜を介在させることが考えられる。
しかしながら、Al(合金)膜を用いた場合には、上記バリア層形成の有無に関係なく以下のような問題があり、TFTのオフリーク電流が増大してしまう。
【0008】
バックチャネルエッチング後にSi膜表面にAl残渣が生じた場合、14族(IVB族)のSi膜中に13族(IIIB族)のAl原子が拡散して、Si膜中に正孔キャリア(いわゆるpキャリア)が発生してSi膜がP型化し、TFTのオフリーク電流が増大する。このような拡散現象は、バックチャネルエッチング後にSi膜表面を保護する保護絶縁膜(例えばSiN膜)を、例えば化学的気相法(CVD:Chemical Vapor Deposition)法で200℃以上の高温成膜をする過程でさらに促進される。
本明細書において、基本的には元素の族記載は長期周期表に基づく記載を採用しており、適宜()内に短期周期表の族記載を併記してある。
【0009】
特許文献1、2には、電極/配線の材料としてAl(合金)を用いること、及びAl残渣の不活性化については記載がなされていない。仮に特許文献1、2に開示されている技術を適用してバックチャネルエッチング後のSi膜表面を酸素プラズマ処理してAl残渣を酸化させた場合でも、下記理由により上記TFTのオフリーク電流の増大を解消することはできない。
従来の一般的な酸素プラズマ処理はAl残渣を確実に不活性化させるのに適正な処理ではなく、全てのAl残渣を不活性化できるとは限られずAl金属原子が残る可能性が高い。また、以後に行われるCVD法でSiN等からなる保護絶縁膜を形成する過程で、保護膜に含まれる水素(H)イオンによってAl酸化物がAl金属原子に還元され、これがSi膜中に拡散してpキャリアを発生させてしまう。また、Si膜中に拡散したSiN膜に含まれる15族(VB族)のN原子と13族(IIIB族)のAl原子とが結合してnキャリアやpキャリアを発生することもある。したがって、バックチャネルエッチング後のSi膜表面を酸素プラズマ処理してAl残渣を酸化させても、上記TFTのオフリーク電流の増大を解消することはできない。
【0010】
対策としてバックチャネルエッチング後のAl残渣を、ドライエッチング又はウエットエッチングで除去することが考えられる。しかしながら、この方法では、エッチングプロセスでさらに副次的なAl残渣が生じる可能性があり、Al残渣を完全に除去することは難しい。
【0011】
以上のように、TFT及びこれを備えたアクティブマトリックス基板の電極/配線の材料としてAl(合金)を用いた場合のオフリーク電流増大の問題に関しては、これまで有効な手立てがないのが現状である。
また上記の問題点は、特にAl(合金)膜を、高融点金属をバリア層として介在させることなく直接Si膜上に形成する場合に特に顕著となるため、Si膜上にAl(合金)膜を直接形成する構造は実用上採用されていない。
【0012】
本発明は以上の問題点を踏まえてなされたものであり、その主目的は電極/配線の材料としてAl及び/又はその合金が用いられており、オフリーク電流が小さく良好な素子特性を有する薄膜トランジスタ(TFT)及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の薄膜トランジスタ(TFT)は、
基板上にゲート電極とゲート絶縁膜とチャネル層として機能する半導体膜とを備え、前記半導体膜上にソース電極とドレイン電極とが互いに離間して設けられた薄膜トランジスタであって、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、アルミニウム及び/又はその合金を主成分とする少なくとも1層のアルミニウム(合金)膜を含む単層膜又は積層膜からなり、
前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域に、電気的に不活性な少なくとも1種のアルミニウム化合物が形成されたものである。
【0014】
本明細書において、「主成分」とは、原子比率において最も比率の高い第一元素のことと定義する。
本明細書において、「電気的に不活性なアルミニウム化合物」とは、化合物自身が電気的に絶縁性を有する、または半導体膜に対して不純物として導電キャリアを発生させない、あるいはその両方の特性を有するアルミニウム化合物と定義する。
本発明の各構成要素は不可避不純物を含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極/配線の材料としてAl及び/又はその合金が用いられており、オフリーク電流が小さく良好な素子特性を有する薄膜トランジスタ(TFT)及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、高融点金属材料よりなる高融点バリアメタル層を介在させることなく、Siを主成分とする半導体膜上に直接Al(合金)膜を形成しても良好な素子特性を有するTFT及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る第1実施形態のアクティブマトリックス基板の要部平面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のアクティブマトリックス基板の要部断面図である。
【図3A】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3B】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3C】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3D】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3E】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3F】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図3G】図2のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図4】第1実施形態の変更例を示す要部平面図である。
【図5】第1実施形態の変更例を示す要部断面図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態のアクティブマトリックス基板の要部平面図である。
【図7】本発明に係る第2実施形態のアクティブマトリックス基板の要部断面図である。
【図8A】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8B】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8C】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8D】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8E】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8F】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8G】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8H】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図8I】図7のアクティブマトリックス基板の製造工程図である。
【図9】実施例、従来例、及び比較例のTFTの素子特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「第1実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の薄膜トランジスタ(TFT)及びこれを画素スイッチング素子として備えたアクティブマトリックス基板について説明する。図1及び図2は各々、本実施形態のアクティブマトリックス基板の要部平面図、要部断面図である。図2は図1のX−X'断面図である。視認しやすくするため、各構成要素の縮尺や位置等は適宜実際のものとは異ならせてある。また、断面図において適宜ハッチングを省略してある。
本実施形態のアクティブマトリックス基板は、アクティブマトリックス型の液晶(表示)装置や有機EL(表示)装置等の電気光学装置に好適に用いられるものである。本実施形態では、透過型の液晶表示装置用のアクティブマトリックス基板を例として説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態のアクティブマトリックス基板201は、基板1上に画素スイッチング素子であるTFT101と画素電極12とが複数対アレイ状に配置されたものである(基板1は図2を参照)。
【0019】
図2に示すように、TFT101は、基板1上に順次形成されたゲート電極2とゲート絶縁膜3とチャネル層として機能する半導体膜4とを備え、半導体膜4上にソース電極6とドレイン電極7とが互いに離間して設けられたものである。
【0020】
基板1は特に制限されず、透過型の液晶装置用ではガラス基板等の透光性絶縁基板が用いられる。
【0021】
本実施形態において、半導体膜4は不純物が添加されていない真性(Intrinsic;i型)のアモルファスシリコン(a−Si)膜である。
半導体膜4上であってソース電極6とドレイン電極7の直下には、不純物が添加された半導体からなるオーミック低抵抗膜5が形成されている。本実施形態において、低抵抗膜5はa−Siに15族(VB族)のリン(P)が不純物として添加されたn型のアモルファス低抵抗シリコン(a−Si(n))膜である。
【0022】
本実施形態において、ソース電極6及びドレイン電極7は、アルミニウム(Al)及び/又はその合金を主成分とする少なくとも1層のアルミニウム(合金)膜を含む単層膜又は積層膜から構成されている。
本実施形態において、ソース電極6に接続されたソース配線(図1を参照、符号は省略)についても、同一の材料が用いられている。
電極/配線の材料として、Al(合金)は他の金属に比べて材料コストが低く、かつ比抵抗値が低いため配線抵抗を低くすることができるので、液晶装置用のTFT及びこれを備えたアクティブマトリックス基板の電極/配線材料として好ましい。下層の低抵抗膜(a−Si(n)膜)5との界面及び上層のIZO(インジウム亜鉛酸化物)やITO(インジウム錫酸化物)等からなる画素電極12との界面における良好な電気的コンタクト特性が得られることから、Fe、Co、及びNi等の1種又は2種以上の8〜10族遷移元素が0.2〜6at%の組成範囲で添加されたAl合金が特に好ましい。
本実施形態では、ソース電極6とドレイン電極7がAl合金膜の単層膜である場合について説明する。
【0023】
図2中、符号8は、ソース電極6及びドレイン電極7の間の領域において、低抵抗膜5及び半導体膜4の表層部がエッチング除去されたバックチャネル(エッチング)領域を示している。
【0024】
本実施形態のTFT101において、半導体膜4の表面のバックチャネル領域8(ソース電極6及びドレイン電極7の間の領域)に、電気的に不活性な少なくとも1種のアルミニウム化合物を含む不活性層9が形成されている。以降、「電気的に不活性なアルミニウム化合物」は不活性アルミニウム化合物と略記している箇所がある。
なお、ここでは「不活性層9」としてあるが、不活性アルミニウム化合物は明確に層をなしていなくてもよい。
不活性アルミニウム化合物は、化合物自身が電気的に絶縁性を有する、または半導体膜に対して不純物として導電キャリアを発生させない、あるいはその両方の特性を有するものであればよく、フッ化アルミニウム(AlF)等が好ましい。
【0025】
詳細な製造方法については後述するが、本実施形態において、不活性層9は、半導体膜4の表面のバックチャネル領域8をフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理することにより生成されたものである。本実施形態では、バックチャネルエッチング後に半導体膜4表面に残るAl残渣がフッ素化されて、フッ化アルミニウム(AlF)が生成される。
【0026】
フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射の前及び/又は後には、酸素ガスを含むプラズマ照射による表面処理を実施しても構わない。この場合、半導体膜4の表面のバックチャネル領域8には、フッ化アルミニウム(AlF)に合わせて酸化シリコンも形成される。
【0027】
アクティブマトリックス基板201には基板全体に、バックチャネル領域8を保護し、各種電極や配線を絶縁する保護絶縁膜(層間絶縁膜)10が形成されている。本実施形態において、保護絶縁膜10は窒化シリコン(SiN:xはSiとNの原子数比を表す正数で一般的には1〜1.33)膜からなる。
上記保護絶縁膜10上に画素電極12が形成されており、画素電極12は保護絶縁膜10に開孔されたコンタクトホール(画素ドレインコンタクトホール)11を介してドレイン電極7に接続されている。
画素電極12の組成は特に制限なく、透過型の液晶装置用であればIZO(インジウム亜鉛酸化物)やITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電膜が用いられる。
【0028】
次に、図3A〜図3Gを参照して、アクティブマトリックス基板201の製造方法について説明する。
【0029】
まず、図3Aに示すように、基板1上にゲート電極2を形成する。
ガラス基板などの透光性絶縁基板1を洗浄液又は純水を用いて洗浄した後、ゲート電極材料を成膜する。ゲート電極材料としては、例えばCr、Mo、Ti、W、Al、及びこれらの合金、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このうち、Al合金は、他の金属に比べて材料コストが低く、かつ比抵抗値が低いため配線抵抗を低くすることができるので、液晶装置用のTFTのゲート電極材料として好ましい。
【0030】
ゲート電極材料としてAl合金を用いる場合には、パターン不良や歩留りの低下の原因となるヒロックと呼ばれる突起が配線上面方向に発生するのを防止するため、Fe、Co、及びNi等の8〜10族遷移元素、あるいはLa、Nd、Sm、及びGd等の希土類元素が1種又は2種以上添加された合金を用いることが好ましい。これら添加元素の組成範囲は特に制限されず、0.2〜6at%が好ましい。0.2at%未満だとヒロック防止効果が効果的に発現せず、6at%を超えると比抵抗値が増大してCr、Mo、及びTi等に対する低抵抗の優位性が低くなるためである。
【0031】
実施例1−1では、ガラス基板上に、ゲート電極材料として3at%のNiを添加したAl−3at%Ni合金膜を、Arガスを用いたスパッタリング法により200nmの厚さで成膜した。その後、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてリン酸と硝酸と酢酸を含む溶液を用いてウエットエッチングした後にフォトレジストパターンを除去して、ゲート電極2を形成した。
【0032】
次に、図3Bに示すパターンで、ゲート絶縁膜3と半導体膜4と低抵抗膜5とを順次形成する。
実施例1−1では、下記プロセスでこれらの膜を形成した。
化学的気相成膜(CVD)法により、約300℃の基板加熱条件下で、ゲート絶縁膜3としてSiN膜を400nm厚、半導体膜4としてi型のa−Si半導体膜を150nm厚、オーミック低抵抗膜5としてリン(P)を不純物として添加したa−Si(n)膜を50nm厚で順次成膜した。次いで、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてフッ素系ガスを用いたドライエッチングでi型のa−Si半導体膜4及びa−Si(n)低抵抗膜5とをエッチングした後にフォトレジストパターンを除去して、これらの膜を図3Bに示すパターンとした。
【0033】
次に、図3Cに示すように、ソース電極6及びドレイン電極7を形成する。
電極材料を成膜した後、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンPRを形成し、これをマスクとして電極材料の膜のバックチャネル領域8となる部分をエッチング除去して、ソース電極6とドレイン電極7とをパターン分離する。
【0034】
上記したように、本実施形態では、ソース電極6とドレイン電極7の電極材料として、Al合金を用いる。Al合金は他の金属に比べて材料コストが低く、かつ比抵抗値が低いため配線抵抗を低くすることができるので、液晶装置用のTFTの電極材料として好ましい。上記したように、下層の低抵抗膜(a−Si(n)膜)5との界面及び上層のIZOやITO等からなる画素電極12との界面における良好な電気的コンタクト特性が得られることから、Fe、Co、及びNi等の1種又は2種以上の8〜10族遷移元素が0.2〜6at%の組成範囲で添加されたAl合金が好ましい。
【0035】
実施例1−1では、3at%のNiが添加されたAl−3at%Ni合金膜を、Arガスを用いたスパッタリング法により200nmの厚さで成膜した。その後、フォトレジストパターンPRを形成し、これをマスクとしてリン酸と硝酸と酢酸を含む溶液を用いたウエットエッチングによりソース電極6とドレイン電極7をパターン分離した。
【0036】
続いて、上記フォトレジストパターンPRをマスクとして、例えば塩素(Cl)を含むガスを用いたドライエッチング法にてa−Si(n)膜5のソース電極6及びドレイン電極7の間の領域を除去して、バックチャネル領域8を形成する(バックチャネルエッチング)。このとき、バックチャネル領域8に露出したa−Si膜4の表面には、ソース電極6及びドレイン電極7の端部からエッチングダメージによって飛ばされたAl原子が付着してAl残渣が発生する。
【0037】
次に、図3Dに示すように、不活性層9を形成する。
上記フォトレジストパターンPRをマスクとして、半導体膜4の表面のバックチャネル領域8をフッ素ガス(Fガス)及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理することにより、Al残渣をフッ化する。これにより、フッ化アルミニウム(AlF)が生成されて、不活性層9が生成される。なお、上記したように、フッ化アルミニウム(AlF)は明確に層として存在していなくてもよい。
フッ素ガス(Fガス)及び/又はフッ素化合物ガスは1種又は2種以上用いることができる。フッ素化合物ガスとしては、HFガス、NFガス、CHFガス、CFガス、Cガス、及びSFガス等が挙げられる。
この工程において、a−Si膜4表面のSi原子の一部もフッ素化されて、フッ化シリコン(SiF)が生成されてもよい。
【0038】
フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射は200〜400℃の加熱条件下で行うことが好ましい。200℃以上であれば、AlFの反応生成を促進することができ、Al残渣を効率良くAlFとすることが可能である。また、400℃を超える温度では、多結晶あるいは微結晶Si半導体では問題はないが、a−Si半導体を用いたTFTの場合には、TFT特性の性能低下を招く可能性があるため好ましくない。
上記プラズマ照射処理後にフォトレジストPRを除去して、図3Eに示す構造が得られる。
【0039】
次に、図3Fに示すように、保護絶縁膜10を成膜する。
実施例1−1では、化学的気相成膜(CVD)法により、約250℃の基板加熱条件下で保護絶縁膜10として窒化シリコンSiN膜を300nmの厚さで成膜した。
その後、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてフッ素系ガスを用いたドライエッチングを実施した後にフォトレジストパターンを除去してコンタクトホール(画素ドレインコンタクトホール)11を開孔した。
【0040】
最後に、図3Gに示すように、画素電極12を形成する。
実施例1−1では、ターゲットとして酸化インジウムInと酸化亜鉛ZnOを使用し、画素電極材料としてIZOをArガスを用いたスパッタリング法により100nmの厚さで成膜した。次いで、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてシュウ酸系溶液を用いたウエットエッチングを実施した後にフォトレジストパターンを除去して、画素電極12を形成した。
以上のようにして、図2に示したTFT101及びアクティブマトリックス基板201を得た。
【0041】
実施例1−1では上記で得たアクティブマトリックス基板201の表面に、液晶を配向させるためのポリイミド等からなる配向膜を形成し、複数の球状スペーサーを散布した後、この基板と、共通電極、カラーフィルタ、及び配向膜を備えた対向基板とを貼り合わせ、スペーサーによって両基板間に形成される隙間に液晶を注入して、液晶パネルを得た。この液晶パネルの両基板の外側に偏光板と位相差板とを設け、さらに一方の基板の外側にバックライトユニットを設けて、透過型の液晶表示装置を得た(図示せず)。
【0042】
従来、TFTのオフリーク電流を低減するためにバックチャネル領域8の表面に対して酸素(O)ガスを含むプラズマを照射して有機物や金属などの不純物を不活性化する手法が用いられている。
しかしながら、本実施形態の様にAl(合金)膜を含む単層膜又は積層膜からなる電極、特にAl(合金)膜が最表層となる電極を形成したTFTの場合、下記理由により、バックチャネル領域表面のAl残渣に対して酸素プラズマ処理を実施するだけでは不充分である。
バックチャネル領域8表面に形成されたすべてのAl残渣を、酸素プラズマ処理で充分に不活性化することは難しい。ごく微量のAl原子が残存した場合であってもSi膜4中に拡散してpキャリアを発生させてオフリーク電流を発生する。
また、仮にすべてのAl残渣をAl酸化物(AlO:xはAlとOの原子数比を表す正数で一般的には0.5〜1.5)として不活性化させることができたとしても、図3Fで示した工程において、SiN膜よりなる保護絶縁膜10を成膜する際、一般的な成膜方法では、成膜ガスとしてシラン(SiH)/アンモニア(NH)/窒素(N)/水素(H)混合ガス等を使用するので、成膜中の雰囲気や成膜されるSiN膜に含まれる水素(H)によって、AlOの一部が還元されて、活性Al原子に戻る場合がある。
何れにしても、アクティブマトリックス基板が完成した時点において、結果的に活性Al原子がバックチャネル領域8の表面に残存することとなり、その一部のAl原子が不純物としてa−Si膜4中に拡散してpキャリアを発生させて、オフリーク電流を増大させるという問題を生じる。
【0043】
本実施形態では、バックチャネル領域8の表面に残存するAl不純物をフッ化化合物(AlF)として不活性化させるので、SiN成膜中でもAlFが安定的に存在し、再び活性Al原子が生成されることを防ぐことができる。さらにAlFを含む不活性層9自体が保護層として働くことにより、Al原子のa−Si膜4中への拡散を防止できる。これら効果が相俟って、オフリーク電流の低い良好なTFT特性を実現することが可能となる。
【0044】
AlFのAl原子数に対するF原子数の含有比(原子組成比)としては特に制限なく、4〜50at%であることが好ましい。この組成範囲のAlFは、耐熱性及び耐蝕性に優れており、本発明者は、図3FにおけるCVD法等による保護絶縁膜10の成膜温度が300℃まではオフリーク電流値の増大が殆ど認められず、高い温度信頼性があることを確認している。なお、これらの組成比は例えば二次イオン質量分析計(SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)やオージェ電子分光分析(AES:Auger Electron Spectroscopy)によるAlとFの定量分析測定値の比、あるいはX線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)によるAl−F/Al−Alピーク強度比の測定などから算出することができる。
【0045】
本実施形態では、ソース電極6及びドレイン電極7として、Alに少なくともNiを添加したAlNi合金膜を用いたことにより、下層のSi(n)膜5及び上層の酸化物透光性導電膜等からなる画素電極12との良好なコンタクト特性を実現することができる。したがって、本実施形態によれば、オフリーク電流の増大問題を含めて従来の技術では実質的に実現不可能であった低抵抗Al合金のソース・ドレイン電極を、単層膜構成でも実現することができる。
【0046】
ソース電極6及びドレイン電極7はAl合金膜でなく、Al膜でも同様の効果が得られる。
ソース電極6及びドレイン電極7はAl(合金)単層膜構成に限ることはなく、例えばCr、Mo、Ti、W、及びこれらの合金等の高融点金属からなるバリア層とAl(合金)膜との積層構造としてもよい。
一般に、バリア層を設けてもAl(合金)膜が最表層となる電極を形成した場合には、バックチャネル領域にAl残渣が形成され易い。本実施形態では、バックチャネル領域8に存在するAl残渣をAlFとして不活性化することによって、バリア層とAl(合金)膜との積層構造の電極を形成する場合にも、上記と同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、Al残渣については、上記説明のとおりAlFとして不活性化させることで、Alの不活性状態を維持でき、不活性化されたAl残渣が再び活性化することを抑制できるので、Al残渣の不活性化方法として最善である。
ただし、Al残渣を充分に不活性化でき、かつ、後工程で不活性化されたAl残渣の還元の問題がなければ、Al残渣を酸化処理及び/又は窒化処理により不活性化しても構わない。例えば、保護絶縁膜10の成膜を還元雰囲気を用いない方法に変更(SiN膜の成膜方法及び/又は膜種を変更)すること、還元雰囲気に対する保護層を形成した後に保護絶縁膜10を形成すること、或いは保護絶縁膜10の形成工程自体を省略することなどにより、不活性化されたAl残渣の還元の問題を解消することができる。
したがって、バックチャネル領域8に存在するAl残渣をAl酸化物あるいはAl窒化物として不活性化した場合にも、条件を整えれば所望のオフリーク電流の低減効果が得られる。
また、Alフッ化物、Al酸化物、あるいはAl窒化物が比較的な安定な不活性化合物を得られることから有効であるが、これらに限られず、少なくとも電気的に不活性なアルミニウム化合物であれば、ある一定のオフリーク電流低減効果を得ることができる。
上記説明はAl残渣の不活性化の度合いが大きいほど増大する。不活性化の度合いはX線光電子分光分析(XPS)によるAl−Alピーク強度が減少することで評価できる。Al残渣がほぼ完全に不活性化された場合、言い換えるとソース電極6及びドレイン電極7の形成後にバックチャネル領域8に存在する全てのAl原子が電気的に不活性なアルミニウム化合物として不活性化された場合に、本発明の効果が最大となる。実用上では、Al−Alピークが検出不能となる状態若しくは無視できる程度に小さくなる状態が本発明でいうAl残渣が充分に不活性化された状態に対応する。
【0048】
なお、「背景技術」の項において挙げた特許文献1,2には、バックチャネルエッチング後のSi半導体膜の表面に対して酸素プラズマ処理あるいは窒素プラズマ処理を実施することについて記載されているが、電極/配線の材料としてAl(合金)を用いること、及びAl残渣の不活性化については記載がなされていない。
【0049】
「第1実施形態の変更例」
第1実施形態の図3Dに示した工程において、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマを照射する前に、少なくとも酸素ガスを含むプラズマを照射してもよい。この場合は、バックチャネル領域8に形成されるAlF層とa−Si膜4表面との間に酸化シリコン(SiO:xはSiとOの原子数比を表す正数で一般的には1.2〜2)層が形成されるため、もし不活性化されずに残るAl残渣がある場合でもこの影響が抑えられ、TFTのオフリーク電流が低減され、特性変動の少ない高信頼性のTFTを得ることができる。
【0050】
フッ素化処理に先立ちあらかじめ酸素ガスプラズマによってAl残渣をAl酸化物(AlO)にしておくと、Al酸化物に対するフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射時のFによる還元作用が強く働き、Al原子状態の場合よりも効率よくAlFを反応生成することができるので好ましい。この場合、バックチャネル領域8のAl残渣はAlFと一部還元されずに残るAlOとして不活性化されることになるが、多くのAlFの存在により本発明の効果を得ることができる。
【0051】
第1実施形態の図3Dに示した工程において、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマを照射した後に酸素ガスを含むプラズマを照射するようにしてもよい。本発明者は、実施例1−2として、この方法にしたがって実施例1−1と同様に液晶表示装置を得た。
この方法では、バックチャネル領域8には、AlF層に加えてその上層に更に酸化シリコン(SiO)層が形成されるため、TFTのオフリーク電流が低減され、特性変動の少ない高信頼性のTFTを得ることができる。
なお、AlFは耐熱性及び耐蝕性に優れ、化学的に安定であるので、酸素プラズマ照射によって先に生成されたAlFが酸化物(AlO)に変換されることは殆どない。
【0052】
第1実施形態の図3Dに示した工程において、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射の前後の両方に酸素ガスを含むプラズマを照射するようにしてもよい。この場合は、不活性なAlF層を挟んでその上下層にSiO層が形成されるので、さらにTFT特性の信頼性を高めることができる。
【0053】
なお、図3Dに示した工程において、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスと酸素ガスの両方を含むプラズマ照射を行うことも考えられるが、酸素ガスを含むプラズマはAlに対して酸化作用として働き、一方でフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマは還元作用として働く。このため、両者のガスを混合させた状態では、バックチャネル領域8に残るAl残渣を充分に酸化またはフッ化させることができない。またAl酸化物が生成された場合には、図3Fの工程で、Al酸化物が還元されてしまいオフリーク電流を増大させてしまうため好ましくない。
以上の理由から、酸素ガスを含まずフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射の工程を少なくとも1回独立して実施し、Al残渣を確実にフッ化化合物として不活性化させることが重要である。
【0054】
以上の変更例において、AlF層及び酸化シリコン層は明確に層として存在していない場合がある。また、層として存在していてもこれらが明確に層として分離されていない場合もある。
【0055】
「第1実施形態のその他の変更例」
図4及び図5は各々、第1実施形態の変形例のアクティブマトリックス基板の要部平面図及び要部断面図を示すものである。図5は図4のX−X'断面図である。本変形例のTFT102及びアクティブマトリックス基板202は、保護絶縁膜10のない構成となっており、その他の構成ならびに符号は第1実施形態と同一である。
【0056】
従来の液晶装置用のアクティブマトリックス基板においては、その表面に形成されるポリイミド配向膜や樹脂スペーサーからの不純物イオンによるTFT特性の劣化や変動を防止するために、一般的にバックチャネル領域を保護するための保護絶縁膜10が必要不可欠であった。
しかしながら、本発明ではバックチャネル領域8に残存するAl残渣を利用して、これを耐熱性及び耐蝕性に優れたAlFとして不活性化するようにしたので、保護絶縁膜10を省略した場合でもTFT特性の劣化や変動を防止することが可能である。
本変形例では、図3Fの工程を省略することができる。したがって、第1実施形態と同様の効果を得つつ、少ない工程数で高い生産効率かつ低コストで、アクティブマトリックス基板及び液晶装置を製造することが可能となる。
【0057】
図9は、第1実施形態及びその変形例に係るTFT、従来例のTFT、及び比較例のTFTの特性を示すものである。図9は、ソース電極側を接地電位とし、ドレイン電極側に+20Vのドレイン電圧Vdを印加した状態で、ゲート電極に−20Vから+20Vのゲート電圧Vgを加えたときのドレイン−ソース間を流れるドレイン電流Idをプロットしたものである。
【0058】
図9において、各例は以下の通りである。
従来例1:ソース電極及びドレイン電極をAl合金膜とし、図3Dの工程を実施せずにTFTを作製した例、
従来例2:図3Dの工程で酸素プラズマのみを実施してTFTを作製した例、
比較例:ソース電極及びドレイン電極をCr膜とし、図3Dの工程を実施せずにTFTを作製した例、
実施例1−1:第1実施形態に記載した方法でTFTを作製した例、
実施例1−2:第1実施形態の変更例として、不活性層を形成する工程において、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマを照射した後にさらに酸素ガスを含むプラズマを照射して、TFTを作製した例。
なお、上記の例では、明記していない上記以外の条件は同一条件として、TFTを作製した。
【0059】
図9のデータから、従来例2は従来例1に比べてゲート電圧が負側(すなわちオフ領域側)の場合のId(オフリーク電流)が低減されていることが分かる。具体的には、例えば一般的な液晶ディスプレイの電荷保持状態であるゲート電圧Vg=−5V前後ではオフリーク電流は二桁以上低減されている。
実施例1−1及び実施例1−2のオフリーク電流は、従来例2に比べてさらに一桁以上低減されており、従来のCr膜を用いた比較例のTFTとほぼ同等、またはそれ以上に低減されており、優れた特性が得られていることが分かる。
【0060】
実施例1−1及び実施例1−2において、ソース電極及びドレイン電極を高融点金属バリア膜とAl(合金)膜との積層膜としても、図9に示したのと同等の優れたTFT特性を得ることができた。
【0061】
以上説明したように、第1実施形態及びその変更例によれば、電極/配線の材料としてAl(合金)が用いられており、オフリーク電流の小さい良好な素子特性を有するTFT及びその製造方法を提供することができる。
第1実施形態及びその変更例は特に、高融点金属材料よりなる高融点バリアメタル層を介在させることなく、Siを主成分とする半導体膜上に直接Al(合金)膜を形成する場合に有効である。
第1実施形態及びその変更例によれば、低オフリーク電流かつ長期信頼性に優れ、大型化あるいは高精細化対応の液晶装置用のTFTを低コストに生産性良く製造することが可能となる。
第1実施形態及びその変更例のTFTは、大型化あるいは高精細化対応の液晶表示装置に搭載した場合に、表示コントラストの低下やクロストークの発生を抑えることができ、低コストで高い表示品質を実現することが可能となる。
【0062】
「第2実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態のTFT及びこれを画素スイッチング素子として備えたアクティブマトリックス基板について説明する。図6及び図7は各々、本実施形態のアクティブマトリックス基板の要部平面図、要部断面図である。図7は図6のX−X'断面図である。第1実施形態と同じ構成要素については同じ参照符号を付して、説明を省略する。
【0063】
本実施形態のTFT103及びアクティブマトリックス基板203の基本構成は第1実施形態と同様であり、半導体膜4、低抵抗膜5、ソース電極6、ドレイン電極7、及び不活性層9の形成領域が第1実施形態とは異なっている。
本実施形態では、半導体膜4の形成領域が第1実施形態よりも大きく、ソース電極6及びドレイン電極7の外側にも及んでいる。
本実施形態では、ソース電極6及びドレイン電極7より外側にはみ出た半導体膜4の表面にも不活性層9が形成されている。
【0064】
次に、図8A〜図8Iを参照して、アクティブマトリックス基板203の製造方法について説明する。
【0065】
まず、図8Aに示すように、第1実施形態と同様に、基板1上にゲート電極2を形成する。
実施例2では、ゲート電極材料として、3at%のNiを添加したAl−3at%Ni合金膜を、Arガスを用いたスパッタリング法により200nmの厚さで成膜した。その後、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてリン酸と硝酸と酢酸を含む溶液を用いたウエットエッチングを実施した後に、フォトレジストパターンを除去して、ゲート電極2を形成した。
【0066】
次に、図8Bに示すように、ゲート絶縁膜3と、不純物が添加されていないi型のa−Si半導体膜4と、Pを不純物として添加したn型のアモルファスSi(a−Si(n))からなるオーミック低抵抗膜5と、ソース電極6及びドレイン電極7となる金属膜13とを順次成膜した後に、フォトレジストパターンPRを形成する。このときフォトレジストパターンPRは、ソース電極6及びドレイン電極7の形成領域に対応した厚膜部PR1と、バックチャネル領域8に対応した薄膜部PR2とを備えたパターンとする。
【0067】
実施例2では、化学的気相成膜(CVD)法により、約300℃の基板加熱条件下で、ゲート絶縁膜3としてSiN膜を400nm厚、半導体膜4としてi型のa−Si半導体膜を150nm厚、オーミック低抵抗膜5としてリン(P)を不純物として添加したa−Si(n)膜を50nm厚で順次成膜した。
さらに金属膜13として3at%のNiを添加したAl−3at%Ni合金膜を、Arガスを用いたスパッタリング法により200nmの厚さで成膜した。その後、フォトリソグラフィ法によりノボラック系の感光性樹脂からなるフォトレジストを1.6μmの厚さでスピン塗布し、マスクパターンを用いて露光を行った。この露光工程においては、バックチャネル領域8については、その他の領域の露光量100%に対して、約30〜60%の露光量とした。その後、アルカリ系現像液でフォトレジストを現像することによって、約1.6μmの厚さの厚膜部PR1と、約0.4μmの厚さの薄膜部PR2とを有するフォトレジストパターンPRを形成した。
【0068】
次に、図8Cに示すように、フォトレジストパターンPRの厚膜部PR1をマスクとして、金属膜13、a−Si(n)低抵抗膜5、およびa−Si半導体膜4を順次エッチングして、ソース電極6及びドレイン電極7の外形パターンを形成する。
【0069】
次に、図8Dに示すように、フォトレジストパターンPRの表面に酸素プラズマを照射してレジストアッシングを行うことにより、レジストパターンを全体的に薄膜化して薄膜部PR2を除去し、バックチャネル領域8において金属膜13の表面が露出するようにする。この工程後には薄膜部PR2が除去され、厚膜部PR1のみが残存して、バックチャネル領域8を形成するためのフォトレジストパターンが形成される。
【0070】
次に、図8Eに示すように、残存したフォトレジストパターンPR1をマスクとして、金属膜13においてバックチャネル領域8となる部分をリン酸と硝酸と酢酸とを含む溶液を用いたウエットエッチングにより除去して、ソース電極6とドレイン電極7とを分離形成する。
その後続けて、同じフォトレジストパターンPR1をマスクとして、例えば塩素(Cl)を含むガスを用いたドライエッチング法にてa−Si(n)膜5をエッチングしてバックチャネル領域8を形成する。このとき、バックチャネル領域8のa−Si膜4の表面には、ソース電極6およびドレイン電極7のパターン端部からエッチングダメージによって飛ばされたAl原子が再付着してAl残渣が発生する。
【0071】
次に、図8Fに示すように、同じフォトレジストパターンPR1をマスクとして、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガス(Fガス、HFガス、NFガス、CHFガス、CFガス、Cガス、及びSFガス等)を含むプラズマを照射して、バックチャネル領域8の表面のAl残渣をフッ化してフッ化化合物(AlF)を反応生成させる。この工程により不活性層9が生成される。この工程において、a−Si膜4表面のSi原子の一部もフッ化されて、フッ化化合物(SiF)が生成されてもよい。
本実施形態では、ソース電極6及びドレイン電極7より外側にはみ出た半導体膜4の表面のAl残渣についても不活性化されて、不活性層9が生成される。
次に、図8Gに示すように、フォトレジストPR1を除去することにより、ソース電極6、ドレイン電極7、及びTFTのバックチャネル領域8が形成される。
【0072】
次に、図8Hに示すように、保護絶縁膜10として200℃以上の成膜温度で、窒化シリコンSiN膜を成膜する。実施例2では、化学的気相成膜(CVD)法により、約250℃の基板加熱条件下で保護絶縁膜10として窒化シリコンSiN膜を300nmの厚さで成膜した。
その後、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを実施した後にフォトレジストパターンを除去して、コンタクトホール(画素ドレインコンタクトホール)11を形成する。
【0073】
最後に、図8Iに示すように、画素電極12を形成する。
実施例2では、ターゲットとして酸化インジウムInと酸化亜鉛ZnOを使用し、画素電極材料としてIZOをArガスを用いたスパッタリング法により100nmの厚さで成膜した。次いで、フォトリソグラフィ法によりフォトレジストパターンを形成し、これをマスクとしてシュウ酸系溶液を用いたウエットエッチングを実施した後にフォトレジストパターンを除去して、画素電極12を形成した。
以上のようにして、図7に示したアクティブマトリックス基板203を得た。
【0074】
実施例2では上記で得たアクティブマトリックス基板203の表面に、液晶を配向させるためのポリイミド等からなる配向膜を形成し、複数の球状スペーサーを散布した後、この基板と、共通電極、カラーフィルタ、及び配向膜を備えた対向基板とを貼り合わせ、スペーサーによって両基板間に形成される隙間に液晶を注入して、液晶パネルを得た。この液晶パネルの両基板の外側に偏光板と位相差板とを設け、さらに一方の基板の外側にバックライトユニットを設けて、液晶表示装置を得た(図示せず)。
【0075】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
すなわち、本実施形態によっても、電極/配線の材料としてAl(合金)が用いられており、オフリーク電流の小さい良好な素子特性を有するTFT及びその製造方法を提供することができる。
本実施形態も、高融点金属材料よりなる高融点バリアメタル層を介在させることなく、Siを主成分とする半導体膜上に直接Al(合金)膜を形成する場合に有効である。
さらに、本実施形態では、第1実施形態に比べて少ないフォトリソ工程数で生産性よくアクティブマトリックス基板を製造することができ、生産性向上、ならびにコスト低減において、さらに大きな効果を得ることが可能である。
【0076】
「設計変更」
本発明は上記実施形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、設計変更可能である。
例えば、上記第1、第2実施形態ではa−SiTFTについて説明したが、本発明はかかる構成に限定されることはなく、チャネル層として、多結晶Si、微結晶Si、他の酸化物系半導体、あるいは窒化物系半導体を用いた場合にも同様に適用可能であり、同様の効果が得られる。
上記第1、第2実施形態では、透過型の液晶装置用のアクティブマトリックス基板の例を示したが、本発明はこれに限定されることはなく、反射型あるいは半透過反射型の液晶装置用にも同様に適用可能であり、同様の効果が得られる。
上記第1、第2実施形態では液晶装置用のアクティブマトリックス基板の例を示したが、本発明はこれに限定されることはなく、有機EL装置等の他のアクティブマトリックス型の電気光学装置にも同様に適用可能であり、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0077】
101〜103:TFT、201〜203:アクティブマトリックス基板、1:基板、2:ゲート電極、3:ゲート絶縁膜、4:半導体膜(チャネル層)、5:低抵抗膜、6:ソース電極、7:ドレイン電極、8:バックチャネル領域、9:不活性層、10:保護絶縁膜、11:コンタクトホール、12:画素電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にゲート電極とゲート絶縁膜とチャネル層として機能する半導体膜とを備え、前記半導体膜上にソース電極とドレイン電極とが互いに離間して設けられた薄膜トランジスタであって、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、アルミニウム及び/又はその合金を主成分とする少なくとも1層のアルミニウム(合金)膜を含む単層膜又は積層膜からなり、
前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域に、電気的に不活性な少なくとも1種のアルミニウム化合物が形成された薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域に、前記アルミニウム化合物として少なくともフッ化アルミニウムが形成された請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記フッ化アルミニウムのフッ素組成が4〜50at%である請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記フッ化アルミニウムは、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域を、フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理することにより形成された請求項2又は3に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の形成後に、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域に存在するAl原子が、電気的に不活性な少なくとも1種のアルミニウム化合物として不活性化された請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記Al原子が、X線光電子分光分析によるAl−Alピーク強度が検出不能となる状態若しくは無視できる程度に小さくなる状態に不活性化された請求項5に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記半導体膜がシリコンを主成分とする半導体膜からなり、
前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域に、前記アルミニウム化合物の他に酸化シリコンが形成された請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記酸化シリコンは、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域を、酸素ガスを含むプラズマ照射により表面処理することにより形成された請求項7に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記半導体膜上であって前記ソース電極及び前記ドレイン電極の直下に、不純物が添加された半導体からなる低抵抗膜を備えた請求項1〜8に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項10】
請求項2又は3に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成した後に、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域をフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理する工程を有する薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記半導体膜上の表面全体を覆う、不純物が添加された半導体からなる低抵抗膜を形成し、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成し、前記低抵抗膜の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域をエッチング除去した後に、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域をフッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理する工程を有する薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射を200〜400℃の加熱条件下で行う請求項10又は11に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記フッ素ガス及び/又はフッ素化合物ガスを含むプラズマ照射により表面処理する工程の前及び/又は後に、前記半導体膜の表面の前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間の領域を酸素ガスを含むプラズマ照射により表面処理する工程をさらに有する請求項10〜12のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項14】
前記基板上に、請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜トランジスタと画素電極とが複数対アレイ状に配置されたアクティブマトリックス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図8I】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−243605(P2011−243605A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111794(P2010−111794)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】