説明

表示用基板及びその製造方法並びに表示装置

【課題】透明電極がZnO膜で形成され、且つ、熱処理に対する特性の変化を低減することが可能な、表示用基板及びその製造方法並びに表示装置を提供する。
【解決手段】表示用基板1は、支持基板2と、支持基板2上に形成された有機樹脂層3と、有機樹脂層3上に形成された透明電極4と、を備え、透明電極4は有機樹脂層4に密着して形成された酸化亜鉛を含む第1層5と、第1層5上に形成された、第1層5よりも厚い層厚を有する酸化亜鉛を含む第2層6と、からなる。第1層5は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成されており、第2層6は、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成される。表示用基板1は、例えば、液晶表示装置の対向電極用の透明電極付基板として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜された酸化亜鉛を基材とし、可視光領域における優れた透過性と導電性とを持つと共に樹脂基板上への密着性が良好な透明導電層を有する表示用基板と、この表示用基板の製造方法並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示装置や薄膜太陽電池及びタッチパネルなどの入力装置、そして発光ダイオードなどの電子デバイス内における素子の透明電極として、ITO膜(錫添加酸化インジウム)、弗素添加SnO(酸化錫)膜、ホウ素,アルミニウム及びガリウムの何れかが添加されたZnO(酸化亜鉛)膜等が用いられている。ホウ素,アルミニウム,ガリウム等の導電性を付与するための原子が添加されたZnO膜を、導電性ZnO膜又は不純物添加されたZnO膜と呼ぶ。
【0003】
上記透明電極のうち、ITO膜は、比抵抗が1〜3×10−4Ω・cm以下程度と小さいために液晶表示装置等に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、ITO膜は、水素プラズマ中で還元されて黒化現象を招くため、例えば、太陽電池製造プロセス等のように、ZnO成膜の後工程に化学気相成長法(CVD)によりアモルファスSiを成膜するプロセスを用いる場合、ITO膜を電極として用いることができない。さらに、ITO膜の原料の一つであるインジウム(In)は高価でかつ量的にも希少であるレアメタルである。
【0005】
これに対して、弗素添加SnO膜は、比抵抗が10−3Ω・cm程度と大きいため、高い導電性を求められる膜には適さない。
【0006】
一方、不純物添加されたZnO膜は、通常スパッタリング法で作製されるが、この場合、比抵抗が4〜6×10−4Ω・cm程度であり、SnO膜よりも小さく、また、ITO膜に比べて化学的に安定であるため、上記したアモルファスSi膜を用いた太陽電池の電極として採用されている。さらに、ZnO膜の原料である亜鉛(Zn)は安価であり、かつ資源量としても豊富である。
【0007】
不純物添加されたZnO膜を液晶表示装置等に広く使用されるためには、比抵抗を4〜6×10−4Ω・cm程度あるいはそれ以下が必要とされ、膜厚120〜160nm程度が必要となる。
【0008】
ZnO透明導電膜をカラーフィルタ層側の共通電極として用いる場合には、下地となる樹脂を被覆した基板上に密着性が良好な成膜プロセスが必要となる。
【0009】
ZnO膜の成膜は、これまで直流マグネトロンスパッタリング法を用いた生産装置が広く普及している。当該装置は、マザーガラスサイズにおいて10世代なる大面積基板上での成膜も可能である。
【0010】
特許文献1には、液晶表示装置用の透明電極として、不純物添加されたZnO膜を用いることが記載されている。特許文献1には、下地基板1上に、Ag膜3を酸化亜鉛からなる透明導電層2で挟み、且つ、最上層の酸化亜鉛(ZnO)膜上にITO膜11を形成した透明導電膜が開示されている(特許文献1、段落[0017]〜[0029]及び図1〜図3参照)。また、下地基板1として、ガラス基板10上にカラーフィルタ層7、アクリル系樹脂層8及び無機中間膜層9が形成されたものを用いることが記載されている(特許文献1、段落[0017]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−291356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された透明電極では、Ag膜3を用いるため透過率が低減する。透過率の低減を抑制するためには、Ag膜3の厚さを薄く形成する必要があるが、この制御は困難である。また、最上層にITO膜11を用いているが、ITO膜11はレアメタルであるInを主材料とするので、高価である。また、この特許文献1では、カラーフィルタ層を熱処理した場合のZnO膜のシート抵抗の変動に関し、何らの考慮も示されていない。
【0013】
このように、上記特許文献1は、透明導電膜を不純物添加されたZnO膜だけで形成するものではない。
【0014】
本発明は上記課題に鑑み、透明電極がZnO膜で形成され、且つ、熱処理に対する特性の変化を低減することが可能な、表示用基板及びその製造方法並びに表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、酸化亜鉛からなる透明電極において、カラーフィルタ層等の有機樹脂層を有する基板に抵抗率の異なる2層以上の層構成とすることで、有機樹脂層に損傷(ダメージ)を与えないで、しかも、可視光領域において高透過率、低抵抗、かつ、外観が良好な透明導電膜を得ることができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の表示用基板は、支持基板と、支持基板上に形成された有機樹脂層と、有機樹脂層上に形成された透明電極と、を備え、透明電極は有機樹脂層に密着して形成された酸化亜鉛を含む第1層と、第1層上に形成された、第1層よりも厚い層厚を有する酸化亜鉛を含む第2層と、を備える。
ここで、第1層は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成されており、第2層は、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかによって形成されている。
【0017】
本発明の表示基板の第2の構成は、支持基板と、支持基板上に形成された有機樹脂層と、有機樹脂層上に形成された透明電極と、を備えている。透明電極は、有機樹脂層に密着して形成された、酸化亜鉛を含む第1層と、第1層上に形成され、第1層よりも小さい抵抗率を有し、且つ、前記第1層よりも厚い層厚を有する、酸化亜鉛を含む第2層と、からなる。
【0018】
本発明によれば、有機樹脂層及び有機樹脂層上に形成された第1の透明導電層を有するTFT基板と、有機樹脂からなるカラーフィルタ層及びカラーフィルタ層上に形成された、酸化亜鉛を含む第2の透明導電層を有する表示用基板と、TFT基板と表示用基板間に介在された表示素子と、を備え、第1の透明導電層及び第2の透明導電層の少なくとも一方は、有機樹脂層又はカラーフィルタ層に密着して配設された第1層と、第1層上に積層された第1層よりも厚い層厚を有する酸化亜鉛を含む第2層と、を含む表示装置が提供される。
上記表示装置において、第1層は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成されており、第2層は、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成されている。
【0019】
本発明によれば、有機樹脂層及び有機樹脂層上に形成された第1の透明導電層を有するTFT基板と、有機樹脂からなるカラーフィルタ層及びカラーフィルタ層上に形成され第1層よりも厚い層厚を有し酸化亜鉛を含む第2の透明導電層とを有する表示用基板と、TFT基板と表示用基板間に介在された表示素子と、を備える表示装置が提供される。
上記表示装置において、第1の透明導電層及び第2の透明導電層は、有機樹脂層又はカラーフィルタ層に密着して形成された酸化亜鉛を含む第1層と、第1層上に積層され、第1層よりも小さい抵抗率を有し、且つ、第1層よりも厚い層厚を有している酸化亜鉛を含む第2層と、からなる。
【0020】
さらに、本発明によれば、支持基板上に有機樹脂層を形成する工程と、有機樹脂層上に透明電極を形成する工程と、を備え、透明電極を形成する工程は、有機樹脂層に密着した酸化亜鉛からなる第1層を直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成する工程と、第1層上に積層して高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかによって酸化亜鉛からなる第2層を形成する工程と、を含む表示用基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便な構成によって樹脂付き基板との密着力が強く、可視光領域において高透過率、低抵抗、外観が良好な透明導電膜を備えた、表示用基板及びその製造方法並びに表示装置が得られる。なお、本発明はカラーフィルタだけでなく、他の樹脂基板上でのZnO透明電極においても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る表示用基板の断面構造を示す図である。
【図2】表示用基板の変形例である表示用基板の断面構造を示す図である。
【図3】表示用基板の変形例である表示用基板の断面構造を示す図である。
【図4】ガラス基板に成膜したガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)膜の昇温離脱特性を示す図であり、(A)は直流マグネトロンスパッタによっての成膜、(B)は高周波重畳直流マグネトロンスパッタよっての成膜を示している。
【図5】ガラス基板に成膜したGZO膜の残留圧縮応力と基板温度の特性を示す図であり、(A)は直流マグネトロンスパッタによる成膜、(B)は高周波重畳直流マグネトロンスパッタによる成膜を示している。
【図6】表示装置の表示部の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図7】表示用基板を用いた液晶からなる表示装置の製造方法の一例を示すフロー図である。
【図8】表示用基板の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す図で、(A)は比較例2、(B)は実施例2である。
【図9】実施例1の表示用基板の断面の透過顕微鏡(TEM)像であり、(A)は低倍率を、(B)は高倍率で示す。
【図10】比較例の表示用基板の断面の透過顕微鏡(TEM)像であり、(A)は低倍率を、(B)及び(C)は高倍率で示す。
【図11】表示用基板の断面における電子線回折像を示す図で、(A)は実施例1、(B)は比較例1である。
【図12】実施例1、比較例2の表示用基板のX線回折を測定した結果を示す図である。
【図13】実施例1から3及び比較例2,3,5の(101)面回折強度と(100)面回折強度の比((101)/(100))を示す図である。
【図14】実施例1,比較例2及び実施例3の表示用基板のオージェ電子分光によって表面から深さ方向の元素分析を行った結果を示す図であり、(A)が実施例1、(B)が比較例2、(C)が実施例3である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面により詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
(表示用基板)
図1は、第1の実施形態に係る表示用基板の断面構造を示す図である。
【0024】
表示用基板1は、支持基板2と、この支持基板2上に形成された有機樹脂層3と、この有機樹脂層3上に形成され不純物添加された酸化亜鉛からなる透明電極4とからなり、この透明電極4は有機樹脂層3上に有機樹脂層3に密着して形成された第1層5と第1層5上に積層して形成された第2層6とから構成されている。詳細は後述するが、表示用基板1は、透明電極4上に配向膜を印刷し、熱処理により焼成するが、熱処理後の透明電極4の抵抗率(比抵抗とも呼ぶ)は、3μΩ・m〜7μΩ・mである。透明電極4の第2層6の抵抗率が、第1層5の抵抗率よりも低くされている。第2層6の抵抗率が7μΩ・m未満であることが好ましい。第1層5の抵抗率は、7μΩ・m以上であってもよい。
【0025】
ここで、支持基板2としてはガラス基板や樹脂基板等を用いることができる。
【0026】
第1層5及び第2層6は、上記の抵抗率を得るために酸化亜鉛にガリウム又はアルミニウムを添加されている。
【0027】
第1層5は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成することができる。さらに、第2層6は、第1層5よりも低い抵抗率を得るために、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成することができる。
【0028】
有機樹脂層3は、アクリル等の透明有機樹脂に顔料を添加した赤(R)・緑(G)・青(B)のカラーフィルタで構成される。このような表示用基板1は、液晶表示装置に用いることができる。
【0029】
第1層5の膜厚は10〜50nmであり、第2層6の膜厚は60〜200nmであることが好ましい。また、この膜厚構成の割合が逆となっても良い。カラーフィルタ層3側の第1層5とその上に形成される第2層6の膜厚との合計膜厚は100〜200nmであることが好ましい。
【0030】
図2は、表示用基板1の変形例である表示用基板10の断面構造を示す図である。
【0031】
表示用基板10が、図1の表示用基板1と異なるのは、さらに、透明電極4の第2層6上に形成され不純物添加された酸化亜鉛からなる第3層7を含み、第3層7の抵抗率が第2層6の抵抗率よりも高くしている点にある。この第3層7の抵抗率は、第1層5の抵抗率と同様に、7μΩ・m以上であってもよい。
【0032】
この第3層7は、第1層5と同様に、ガリウムやアルミニウムを添加した酸化亜鉛を直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成することができる。
【0033】
3層構造からなる表示用基板10では、第1層5の膜厚が20〜30nm、第2層6の膜厚が60〜140nm、さらに第3層7の膜厚が20〜30nmであることが好ましい。第1層5と第2層6と第3層7との膜厚の合計は、100〜200nmであることが好ましい。
【0034】
図3は、表示用基板10の変形例である表示用基板20の断面構造を示す図である。
【0035】
表示用基板20が表示用基板10と異なるのは、有機樹脂層3をカラーフィルタ層3aとバッファ層3bにより構成した点にある。バッファ層3bは、カラーフィルタ層3aの上面を平坦にするために形成するものであり、好適には、スピンコート法によりカラーフィルタ3a上に形成される。このバッファ層3bには、例えば透明なエポキシ樹脂やアクリル樹脂を用いることができる。また、バッファ層3bは、耐熱性や耐薬品性の向上を図ることができる。
【0036】
(表示用基板の製造方法)
表示用基板に形成する酸化亜鉛(ZnO)からなる透明電極4は、特に、アルミニウム(Al)又はガリウム(Ga)が添加されたZnOターゲットによるスパッタ法により成膜されたZnO膜を使用することができる。酸化亜鉛からなる透明電極4へは、Al及びGaを添加してもよい。
【0037】
ここで、Alが添加されたZnOをAZO、Gaが添加されたZnOをGZO、Al及びGaが両方添加されたZnOをAGZOと呼ぶ。
【0038】
上記透明電極4をスパッタで成膜する場合には、ZnOをターゲットとして用い、ターゲットには、酸化アルミニウム又はガリウムが、酸化アルミニウム又はガリウムと酸化亜鉛との総量に対して、3〜15重量%含有されたものが好ましい。
【0039】
酸化亜鉛からなる透明電極4の第1層5は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成することができる。さらに、酸化亜鉛からなる透明電極4の第2層6は、第1層5よりも抵抗率の低い層とするために高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成することができる。
【0040】
なお、上記透明電極4を有機樹脂層3が被覆された支持基板2へ形成する場合、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより150nm程度形成した膜の場合には、シート抵抗が、例えば74.3Ω/□と高いものであった。しかしながら、有機樹脂層3へのダメージは小さいものであった。
【0041】
一方、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成した150nm形成した膜は、例えばシート抵抗が38.2Ω/□と低いものであった。しかしながら、有機樹脂層3へのダメージは大きいものであった。
【0042】
有機樹脂層へ直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタによって酸化亜鉛からなる第1層を形成した場合にカラーフィルタ層等の有機樹脂層3へのダメージや耐熱性が良好となる理由は以下のように推察される。
【0043】
図4は、ガラス基板に成膜したガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)膜の昇温離脱特性を示す図であり、(A)が直流マグネトロンスパッタによっての成膜、(B)が高周波重畳直流マグネトロンスパッタよっての成膜を示している。図4に示す昇温離脱特性(Thermal Desorption Spectroscopy)は、横軸が温度を、縦軸が強度(任意目盛)を示している。
【0044】
GZO膜を直接ガラス基板に成膜した場合には、最初の昇温過程で応力が急激に減少し始める温度がある。この温度は、図4(A)に示すように、直流マグネトロンスパッタを使用した場合は250℃〜300℃であり、図4(B)に示すように、高周波重畳直流マグネトロンスパッタを使用した場合は、200℃〜250℃であった。
【0045】
図5は、基板温度とGZO膜の残留圧縮応力との関係を示す特性図であり、(A)は直流マグネトロンスパッタによる成膜を、(B)が高周波重畳直流マグネトロンスパッタによる成膜を示している。図の横軸は基板の温度(℃)を、縦軸は圧縮応力(GPa)を示している。
各図において、基板温度の変化は次のステップで行った。
サイクル(1):室温から500℃に増加する、
サイクル(2):サイクル(1)の後、500℃から室温に低下する、
サイクル(3)−(4):サイクル(2)の後、上記サイクル(1)及びサイクル(2)を繰り返す。
【0046】
サイクル(1)では、基板温度の上昇と共に圧縮応力は低減し、サイクル(2)では基板温度の低減と共に圧縮応力が低減する。サイクル(3)及びサイクル(4)では、圧縮応力は、基板温度の上昇〜下降と共にサイクル(2)の変化に沿う変動をした。
ここで、注目すべき点は、図5(A)の場合、即ち、直流マグネトロンスパッタによる成膜の場合には、基板温度が250〜300℃で顕著な残留圧縮応力の低減が見られ、図5(B)の場合、即ち、高周波重畳直流マグネトロンスパッタによる成膜の場合には、基板温度が200〜250℃で顕著な残留圧縮応力の低減が見られることである。
【0047】
これから、残留応力の減少は亜鉛の昇華と密接に関連していることが分かる。また、亜鉛が昇華すると酸化亜鉛からなる透明電極の抵抗の増大が予想される。従って、酸化亜鉛を直流マグネトロンスパッタによって成膜した場合は、その抵抗率は高周波重畳直流マグネトロンスパッタよりも若干高いが、耐熱性の高い膜が得られる。本発明の有機樹脂層に酸化亜鉛を成膜する場合も、同様の現象が生起していると考えられる。
【0048】
第1の実施形態に係る表示用基板1の製造方法によれば、有機樹脂層3が被覆された支持基板2へ最初に酸化亜鉛からなる透明電極4の第1層5を、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより薄く形成し、次に、第2層6を、透明電極4のシート抵抗が小さくなるように厚く堆積することによってシート抵抗が小さく、かつ、有機樹脂層3へのダメージが少ない透明電極4を形成することができる。
【0049】
2層あるいは3層構成の透明電極4をスパッタ法により成膜する際、AZOあるいはGZOターゲットとしては同種、同組成のものを用い、真空チャンバ内の条件を制御することによって所望の電気特性、光学特性などを有する2層あるいは3層構成の透明電極4が得られるようにしてもよい。特に、成膜時のスパッタ電源を直流→高周波→直流と組み合わせて積層膜が得られるようにしてもよい。この場合には、真空チャンバ内に導入する酸素等のガスの量を制御することにより、膜中の酸素含有量を最適範囲に制御することが好ましい。
【0050】
直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタを用いる工程において、支持基板2に被着する粒子の支持基板2への入射角度成分を、支持基板2への垂直成分よりも水平成分のほうが大きくなるように制御してもよい。
【0051】
支持基板2と各スパッタで用いるターゲットを相対的に同心円に配置し、支持基板2を回転させながら成膜してもよい。
【0052】
支持基板2の面と各スパッタで用いるターゲットの面とを並行に配置し、支持基板2の面を、複数回ターゲットの前面を移動させて成膜してもよい。
【0053】
スパッタに用いるガスは、Ar,Kr,Xeの何れかを用いることができる。
【0054】
(表示装置)
図6は、本発明による表示装置の表示部の構成を模式的に示す部分断面図である。
【0055】
図6に示す表示部30は、液晶表示装置を例として示している。表示部30は、カラーフィルタ層付基板となる表示用基板1と、TFT基板32と、表示用基板1とTFT基板32の間にスペーサ34を介して挿入される液晶36と、から構成されている。図示の場合、カラーフィルタ層の表示用基板1としては、表示用基板1の変形例である表示用基板10,20を用いてもよい。
【0056】
TFT基板32は、ガラス基板38上に各画素電極40毎に接続されるTFT41が形成された基板である。図示の場合には、カラー表示のために1画素が赤、緑及び青のための3つのTFT41を有しており、画素電極40の上部には、赤、緑及び青のカラーフィルタ層3r,3g、3bが配置され、各カラーフィルタ層の3r,3g、3bの境界にはブラックマスク42が配置されている。図示のTFT41は、制御電極となるゲート電極43が埋め込まれ、かつ、ゲート絶縁膜となる第1の絶縁層44を備え、第1の絶縁層44上に第2の絶縁層45が形成されている。TFT41のドレイン電極46は、第2の絶縁層45の開口部を介して画素電極40に接続される。TFT41のソース電極47には、データ信号が印加される。
【0057】
液晶表示装置は、表示部30の他には、画像データに基づいて画像が表示される表示部30の走査信号線を走査するための走査信号線駆動回路と、表示部30のデータ信号線に画像データに基づいた表示信号電圧を供給するためのデータ信号線駆動回路と、表示部30の共通電極に所定の電圧を印加するための共通電圧発生回路と、各種制御信号を出力して各駆動部の同期を得る制御部等を備えて構成されている。さらに、外部から入力されてくる画像データを一時記憶するための画像メモリを備えていてもよい。
【0058】
なお、TFT基板32と表示用基板1との間に挿入される表示素子が液晶の場合について説明したが、表示素子は有機EL等の液晶以外の表示素子でもよい。
【0059】
(表示装置の製造方法)
図7は、表示用基板1,10,20を用いた液晶からなる表示装置の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0060】
図7に示すように、TFT基板32に対向して配置した表示用基板1,10,20にカラーフィルタR・G・Bが形成された表示部30(図6参照)を製造する場合には、先ず、表示用基板1(10,20)側では支持基板2上にブラックマスク42、カラーフィルタ層3r、3g、3bからなる有機樹脂層3及び透明電極4を形成したCF用基板を準備する(ステップS10)。
一方、TFT基板32側ではガラス基板38上にTFT41、第1の絶縁層44、第2の絶縁層45及び画素電極40を形成したTFT用基板32を準備する(ステップS20)。
【0061】
次に、CF用基板1及びTFT用基板32を、それぞれ、洗浄し(ステップS11,S21)、乾燥した後、配向膜を印刷し(ステップS12,S22)、赤外線で焼成して硬化する(ステップS13,S23)。この熱処理は、180℃〜250℃の温度で、30分〜60分間行う。
次に、硬化された配向膜にラビング等により配向処理を施す(ステップS14,S24)。次いで、各基板1,32を洗浄し(ステップS15,S25)、TFT用基板32には、その周縁部にシール剤(図示せず)を印刷し(ステップS16)、CF用基板1には、その表面全面にスペーサ34を散布して付着させる(ステップS26)。この場合、シール剤をCF用基板1に形成し、スペーサ34をTFT用基板32に形成したり、シール剤及びスペーサ34の両方をどちらか一方の基板に形成したりしてもよい。
【0062】
この後の工程は、TFT用基板32とCF用基板1とを位置決めして、シール剤を介して熱圧着により貼り合せ(ステップS101)、シール剤を硬化する(ステップS102)。
次いで、個々の液晶セルに分離し(ステップS103)、注入口から液晶36を注入する(ステップS104)。
液晶36を注入したら紫外線硬化型の接着剤を用いて注入口を封止し(ステップS105)、紫外線を照射して封止剤を硬化する(ステップS106)。この後、必要に応じ、セルを洗浄して(ステップS107)、駆動用LSIを実装する(ステップS108)。
次に、駆動回路基板に接続されたFPC(フレキシブル基板)を実装し(ステップS109)、TFT用基板32の下面とCF用基板1の上面、それぞれに偏光板を貼り付け(ステップS110)、金属ケース内に収納し(ステップS111)、バックライトを装着する(ステップS112)。この後は、検査を行い(ステップS113)、良品であれば完成する(ステップS114)。
【0063】
TFT用基板32にカラーフィルタ3r、3g、3bを設けた液晶表示装置とすることも可能である。この場合、図示はしないが、CF用基板1としては、支持基板2上にブラックマスク42及び透明電極4を形成したものを準備する。また、TFT用基板32としては、図6に示すガラス基板38上にTFT41、第1の絶縁層44及び第2の絶縁層45を形成したものを用意したうえ、第2の絶縁層45上にカラーフィルタ層3r、3g、3bからなる有機樹脂層3を形成する。
続いて、有機樹脂層3のドレイン電極46と画素電極40との接続部となる領域をフォトリソグラフィ工程とエッチング工程により開口する。次に、透明電極を成膜し、この成膜した透明電極をレジスト塗布、現像、エッチング、レジスト洗浄除去等の工程によって微細加工して画素電極40を形成する。この後の工程は、上記と同様の工程で液晶表示装置を製作することができる。これらの液晶表示装置の製造工程においては、表示用基板1及びTFT基板32の耐熱性、機械的特性、機械的特性などの諸特性を考慮して製造条件を設定すればよい。
【実施例1】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0065】
ガラス基板2の表面上にカラーフィルタ層(有機樹脂層)3を成膜した市販の基板を用意し、スパッタリング装置によりカラーフィルタ層3上にGZO膜からなる透明電極4膜を成膜した。用いた支持基板2は無アルカリガラス基板であり、例えばコーニング社製のガラス基板2(#1737)である。ガラス基板2の大きさは、320mm×400mmである。スパッタリング装置としては、DCスパッタリングモードと、DCスパッタリングに高周波電力を重畳したDC/RFスパッタリングモードとを切り替えて成膜できる装置を使用した。DC/RFモードの場合、DC電力とRF電力との比は1:1とした。RF電力の周波数は13.56MHzとした。
【0066】
実施例1の表示用基板1としては、上記支持基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、第1層5となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nm、第2層6となるGZO膜をDC/RFスパッタリングモードで130nmを順次堆積した。支持基板2は150℃に加熱した。
【実施例2】
【0067】
実施例2の表示用基板10としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、第1層5となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nm、第2層6となるGZO膜をDC/RFスパッタリングモードで110nm、第3層7となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nm堆積を順次堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
【実施例3】
【0068】
実施例3の表示用基板20としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3a上に、バッファ層3bを20nm堆積し、さらに、第1層5となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nm、第2層6となるGZO膜をDC/RFスパッタリングモードで110nm、第3層7となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nm堆積を順次堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
(比較例1)
比較例1の表示用基板としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、GZO膜をDCスパッタリングモードで150nm堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
(比較例2)
比較例2の表示用基板としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、GZO膜をDC/RFスパッタリングモードで150nm堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
(比較例3)
比較例3の表示用基板としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、第1層5となるGZO膜をDC/RFスパッタリングモードで120nm、第2層6となるGZO膜をDCスパッタリングモードで20nmを順次堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
(比較例4)
比較例4の表示用基板としては、実施例1と同じガラス基板2上のカラーフィルタ層3a上に、バッファ層3bを20nm堆積し、さらに、GZO膜をDC/RFスパッタリングモードで150nm堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
(参考例)
参考例の表示用基板としては、実施例1と同じガラス基板2上に形成されたカラーフィルタ層3上に、ITO膜をDCスパッタリングモードで150nm堆積した。この堆積以外の条件は実施例1と同様とした。
【0069】
成膜後のカラーフィルタ層3上に成膜したGZO膜のシート抵抗を、成膜の構成と共に表1に示す。シート抵抗(Ω/□)は、四端子法で測定した。
【0070】
表1に示すように、実施例1〜3で形成したGZO膜のシート抵抗は、それぞれ、33.8Ω/□,32.7Ω/□,45Ω/□であった。
【0071】
一方、比較例1で形成したGZO膜のシート抵抗は、74.3Ω/□であり、DCスパッタリングモードだけの場合には、シート抵抗が高いことが分かる。
【0072】
比較例2で形成したGZO膜のシート抵抗は、36.4Ω/□であり、DC/RFスパッタリングモードだけの場合には、比較例1の場合よりもシート抵抗が低くなることが分かる。
【0073】
比較例3で形成したGZO膜は、38.2Ω/□であり、比較例2よりも若干高くなった。
【0074】
比較例4は、カラーフィルタ層3上にバッファ層3bを挿入して、比較例2と同様にDC/RFスパッタリングモードで同じ厚さ(150nm)のGZO膜を形成した場合であるが、シート抵抗は47.1Ω/□となり、比較例2の場合よりも増加した。
【0075】
なお、参照例のITO膜のシート抵抗は11.1Ω/□であった。
【0076】
上記実施例1〜3におけるGZO膜の成膜後のシート抵抗は、ほぼ比較例2のDC/RFスパッタリングモードで形成したGZO膜単層と同様であることが判明した。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例1〜3及び比較例1〜4の表示用基板を熱処理し、熱処理した後のシート抵抗変化を測定した。熱処理は、大気中で230℃の温度で30分行った。この熱処理は、図7のフローチャートに示されたステップS23の配向膜硬化工程において処理される一般的な加熱条件である。表1には、実施例1〜3及び比較例1〜4の熱処理前及び熱処理後のシート抵抗と、熱処理前後の抵抗率変化と、カラーフィルタ層3へのダメージを示している。
【0079】
抵抗変化率は、下記の(1)式で計算した。
抵抗変化率=(Rs−R)/R*100(%) (1)
ここで、Rは熱処理前のシート抵抗であり、Rsは熱処理後のシート抵抗である。
【0080】
表1に示すように、実施例1〜3の熱処理後のシート抵抗及び抵抗変化率は、比較例よりも小さかった。さらに、実施例1,2の場合、カラーフィルタ層3へのダメージも比較例に対して改善され、実施例3のバッファ層3bを挿入した場合は、ダメージの問題は生じなかった。
【0081】
表1において、実施例1〜3における画素電極4の熱処理前のシート抵抗を抵抗率に換算すると、それぞれ、2.25μΩ・m、2.18μΩ・m、3.00μΩ・mであった。即ち、熱処理前における画素電極4の抵抗率はばらつきを考慮しても、4μΩ・m未満であることが確認された。これに対し、画素電極4の熱処理後のシート抵抗を抵抗率に換算すると、それぞれ、4.03μΩ・m、3.48μΩ・m、6.2μΩ・mである。
上記結果から、熱処理後のシート抵抗は、ほぼ3μΩ・m〜7μΩ・mの範囲とすればよく、特に、3μΩ・m〜5μΩ・mの範囲内とすることが望ましいことが判る。
【0082】
有機樹脂層3上に第1層5のみを成膜し、その抵抗率を測定したところ、第1層5単独の抵抗率は7〜9μΩ・mであった。このことから、第2層6単独の抵抗率は、7μΩ・m未満であることが明らかである。
【0083】
図8は表示用基板の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す図で、(A)は比較例2、(B)は実施例2である。各図は、それぞれ赤、緑、青のフィルタ上の測定結果を示しており、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さRa(nm)及び表面うねりRz(nm)も併せて示している。ここで、Raは局所領域の凹凸であり、面内数nmの領域の小さな凹凸である。表面うねりRz(nm)は、面内数10nmの領域の凹凸である。
【0084】
図8から明らかなように、実施例2の表面粗さRaは、赤、緑、青のフィルタ上において、何れも比較例2の場合よりも小さくなり、表面平坦性が改善されていることが分かった。
【0085】
表2は、実施例2及び3と比較例2の表示用基板の表面粗さを測定した結果を示す表である。
【0086】
表2から明らかなように、実施例2の表面粗さRaは、比較例2の場合よりも小さくなり、表面平坦性が改善されており、実施例3及び比較例2との比較では、特に赤色のフィルタ上の実施例3の表面平坦性が改善されていることが分かった。
【0087】
【表2】

【0088】
図9は、実施例1の表示用基板1の断面の透過顕微鏡(TEM)像であり、(A)は低倍率を、(B)は高倍率を示す。
【0089】
図9から明らかなように、実施例1の表示用基板1では、カラーフィルタ層3の凹凸に沿って柱状の透明電極4が形成されており、c軸配向性が高いことが分かる。
【0090】
図10は、比較例2の表示用基板の断面の透過顕微鏡(TEM)像であり、(A)は低倍率、(B)及び(C)は高倍率を示す。
【0091】
図10から明らかなように、比較例2の表示用基板では、カラーフィルタ層3の凹凸に沿って、柱状の透明電極4が形成されている。しかしながら、図10(C)に示すように、透明電極4の柱状の軸の向きが垂直ではない箇所があり、実施例1に比較するとc軸配向性が悪いことが分かる。
【0092】
図11は、表示用基板の断面における電子線回折像を示す図であり、(A)は実施例1、(B)は比較例1である。
【0093】
図11から明らかなように、実施例1の場合、比較例1に対して僅かに結晶性が良好であることが分かる。
【0094】
図12は、実施例1、比較例2の示用基板のX線回折を測定した結果を示す図である。図12において、縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示しており(100)面回折強度で規格化した値である。横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。測定は同一平面(in-plain)で行った。
【0095】
実施例1における(101)面回折強度は、(100)面回折強度の0.03程度であり、比較例2に比較して、c軸配向性が高いことが分かった。
【0096】
なお、カラーフィルタ層3上に20nmのバッファ層3bを形成後、比較例2と同様にDC/RFスパッタで150nmの酸化亜鉛膜を形成した比較例5においては、(101)面回折強度は、(100)面回折強度の0.2程度であり、実施例1の場合よりもc軸配向性が乱れることが分かった。
【0097】
図13は、実施例1から3及び比較例2,3,5の(101)面回折強度と(100)面回折強度の比((101)/(100))を示す図である。
【0098】
図13から明らかなように、(101)面回折強度と(100)面回折強度の比は実施例1,2の場合が比較例2,3よりも小さく、c軸配向性が高いことが分かった。特に、実施例1及び2の如く、バッファ層3bを形成しない場合、(101)面回折強度/(100)面回折強度は、0.05以下であった。
【0099】
カラーフィルタ層3上に20nmのバッファ層3bを形成した実施例3の場合の(101)面回折強度と(100)面回折強度の比は、上記図13で示した比較例5と同様に、0.2程度であり、実施例1の場合よりもc軸配向性が乱れることが分かった。
【0100】
図14は、実施例1,比較例2及び実施例3の表示用基板のオージェ電子分光によって表面から深さ方向の元素分析を行った結果を示す図であり、(A)が実施例1、(B)が比較例2、(C)が実施例3である。図14において、縦軸は原子濃度(%)を示しており、横軸はスパッタ時間(分)を示している。
【0101】
図14(A)及び(B)において、右側のC(炭素)がカラーフィルタ層3の構成成分である。ZnとOとGaとからなる透明電極4とカラーフィルタ層3との界面の広がりは、実施例1の場合が比較例2よりも若干狭いことが分かる。
【0102】
一方、図14(C)から明らかなように、実施例3の場合には、ZnとOとGaとからなる透明電極4とバッファ層3bとの界面の広がりは、非常に狭いことが分かった。
【0103】
上記結果から、実施例1及び3の場合には、カラーフィルタ層3上に第1層5を設けることによって、透明電極4のc軸配向が高いことが分かった。一方、カラーフィルタ層3上にバッファ層3bを形成した場合には、c軸配向が乱れることが分かった。
【0104】
上記実施例及び比較例によれば、実施例の表示用基板1,10,20が、簡単な構成で有機樹脂層3付き基板との密着力が強く、可視光領域において高透過率、低抵抗、外観が良好な透明導電膜を備えた表示用基板1,10,20が得られることが分かった。
【実施例4】
【0105】
(液晶表示装置)
実施例1〜3の表示用基板1,10,20を用いた表示装置を製作した。実施例1〜3の表示用基板1,10,20を液晶表示装置の対向電極側に用いた。TFT基板32としては、本発明者等が自ら製作した対角が3インチのTFT基板32を使用した。このTFT基板32の画素電極40に用いた透明電極材料はITOからなる。
【0106】
図7のフロー図に示すように、表示用基板1とTFT基板32との間にスペーサ34を挿入した後、表示用基板1とTFT基板32との貼り合わせを行い、シール材を硬化させた。次に、この基板上に形成した液晶セル領域毎に切り離した。このように切り分けられた3インチの各液晶セルに液晶36を注入し、フロー図に示した工程で3インチの表示部30を製作した。
【0107】
表示部30は、有効表示領域が対角3インチであり、240画素×960画素のマトリクスからなり、全画素数は、230×400である。
【0108】
組み立てが終了した表示部30を駆動装置に接続して液晶表示装置を完成させた。点灯確認の結果、実施例1〜3の何れの表示用基板1,10,20を用いた液晶表示装置も点灯した。その結果、表示部30では全く欠陥が視認されず、カラーフィルタ層3側の酸化亜鉛からなる透明電極4と、画素側の透明電極をITO電極としたときの液晶36の配向不良もなかった。また、これに起因した特性不良を生じることなく正常に動作した。
【0109】
上記実施例4によれば、酸化亜鉛からなる透明電極4を用いた表示用基板1,10,20を対向電極とし、TFT基板32側の透明電極をITOとした3インチの液晶表示装置の点灯を実現した。ここで、特筆すべき点は、従来のITOからなる透明電極をTFT基板32及び対向基板とした液晶表示装置において、少なくとも一方の表示用基板1,10,20を酸化亜鉛からなる透明電極4に置き換えられたことである。
【0110】
なお、上記各実施例では、カラーフィルタ3aを有する支持基板2上に形成する透明電極4のみを、酸化亜鉛からなるものとして説明したが、この発明は、TFT基板32に形成する画素電極40を、上述した透明電極4と同じ層構造の酸化亜鉛により形成することも可能である。また、この発明は、表示素子1,10,20として、液晶のみでなく、有機EL等他の表示素子を駆動する透明電極にも適用可能である。有機ELに適用する場合には図6に示すように、ガラス基板38上にTFT41、第1の絶縁層44及び第2の絶縁層45が形成されたものを用意し、絶縁層45上に、上述した透明電極4と同一の層構造の酸化亜鉛からなるアノード電極を形成し、このアノード電極上に有機ELからなる発光素子を積層し、この有機EL上に、それぞれ、対応するTFT41に接続されたカソード電極を形成するようにすればよい。
【0111】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0112】
1,10,20:表示用基板
2:支持基板
3:有機樹脂層
3a:カラーフィルタ
3b:バッファ層
4:透明電極
5:第1層
6:第2層
7:第3層
30:表示部
32:TFT基板
34:スペーサ
36:液晶
38:ガラス基板
40:画素電極
41:TFT
42:ブラックマスク
43:ゲート電極
44:第1の絶縁層
45:第2の絶縁層
46:ドレイン電極
47:ソース電極
50,52:配向膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に形成された有機樹脂層と、
前記有機樹脂層上に形成された透明電極と、
を備え、
前記透明電極は前記有機樹脂層に密着して形成された酸化亜鉛を含む第1層と、該第1層上に形成された、前記第1層よりも厚い層厚を有する酸化亜鉛を含む第2層と、からなり、
前記第1層は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成されており、
前記第2層は、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成されていることを特徴とする、表示用基板。
【請求項2】
前記第1層及び前記第2層は、酸化亜鉛にガリウム、アルミニウム、ガリウム及びアルミニウムの何れかが添加されていることを特徴とする、請求項1に記載の表示用基板。
【請求項3】
前記有機樹脂層はカラーフィルタ層であることを特徴とする、請求項1に記載の表示用基板。
【請求項4】
前記カラーフィルタ層と前記透明電極との間に形成された有機樹脂からなるバッファ層を有し、前記透明電極は前記バッファ層に密着して形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の表示用基板。
【請求項5】
前記透明電極は、前記第2層上に、さらに、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成された酸化亜鉛からなる第3層を含むことを特徴とする、請求項1に記載の表示用基板。
【請求項6】
支持基板と、
前記支持基板上に形成された有機樹脂層と、
前記有機樹脂層上に形成された透明電極と、
を備え、
前記透明電極は、前記有機樹脂層に密着して形成された、酸化亜鉛を含む第1層と、該第1層上に形成され、前記第1層よりも小さい抵抗率を有し、且つ、前記第1層よりも厚い層厚を有する、酸化亜鉛を含む第2層と、からなることを特徴とする、表示用基板。
【請求項7】
前記第1層及び前記第2層は、酸化亜鉛にガリウム、アルミニウム、ガリウム及びアルミニウムの何れかが添加されていることを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項8】
前記透明電極の抵抗率が4μΩ・m未満であることを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項9】
前記有機樹脂層はカラーフィルタ層を含むことを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項10】
前記透明電極は、(101)面と(100)面とのX線回折強度の比が0.05以下であることを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項11】
前記カラーフィルタ層と前記透明電極との間に形成された有機樹脂からなるバッファ層を有し、前記透明電極は前記バッファ層に密着して形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の表示用基板。
【請求項12】
前記透明電極は、前記第2層上に形成された酸化亜鉛からなる第3層を含み、該第3層の抵抗率が前記第2層の抵抗率よりも高いことを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項13】
前記透明電極上に形成された配向膜を有することを特徴とする、請求項6に記載の表示用基板。
【請求項14】
前記透明電極は、抵抗率が7μΩ・m以下であることを特徴とする、請求項12に記載の表示用基板。
【請求項15】
前記透明電極の前記第1層は、抵抗率が7μΩ・m以上であることを特徴とする、請求項14に記載の表示用基板。
【請求項16】
有機樹脂層及び該有機樹脂層上に形成された第1の透明導電層を有するTFT基板と、
有機樹脂からなるカラーフィルタ層及び該カラーフィルタ層上に形成された、酸化亜鉛を含む第2の透明導電層を有する表示用基板と、
前記TFT基板と前記表示用基板間に介在された表示素子と、
を備え、
前記第1の透明導電層及び前記第2の透明導電層の少なくとも一方は、前記有機樹脂層又は前記カラーフィルタ層に密着して配設された第1層と、該第1層上に積層された前記第1層よりも厚い層厚を有する酸化亜鉛を含む第2層と、を含み、
前記第1層は、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成されており、
前記第2層は、高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより形成されていることを特徴とする、表示装置。
【請求項17】
前記透明電極は、前記第2層上に直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成された酸化亜鉛からなる第3層を含むことを特徴とする、請求項18に記載の表示装置。
【請求項18】
有機樹脂層及び該有機樹脂層上に形成された第1の透明導電層を有するTFT基板と、
有機樹脂からなるカラーフィルタ層と、該カラーフィルタ層上に形成され前記第1層よりも厚い層厚を有し、酸化亜鉛を含む第2の透明導電層と、を有する表示用基板と、
前記TFT基板と前記表示用基板間に介在された表示素子と、
を備え、
前記第1の透明導電層及び前記第2の透明導電層は、前記有機樹脂層又は前記カラーフィルタ層に密着して形成された酸化亜鉛を含む第1層と、該第1層上に形成され、該第1層よりも小さい抵抗率を有し、且つ、前記第1層よりも厚い層厚を有している酸化亜鉛を含む第2層と、からなることを特徴とする、表示装置。
【請求項19】
前記透明電極は、前記第2層上に酸化亜鉛からなる第3層を含み、該第3層の抵抗率が前記第2層の抵抗率よりも高いことを特徴とする、請求項20に記載の表示装置。
【請求項20】
前記透明導電層は、抵抗率が7μΩ・m以下であることを特徴とする、請求項20に記載の表示装置。
【請求項21】
前記透明導電層の前記第1層は、抵抗率が7μΩ・m以上であることを特徴とする、請求項20に記載の表示装置。
【請求項22】
支持基板上に有機樹脂層を形成する工程と、
前記有機樹脂層上に透明電極を形成する工程と、を備え、
前記透明電極を形成する工程は、
前記有機樹脂層に密着した酸化亜鉛を含む第1層を直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成する工程と、
前記第1層上に積層して高周波スパッタ、高周波マグネトロンスパッタ、高周波重畳直流スパッタ、高周波重畳直流マグネトロンスパッタの何れかにより酸化亜鉛を含む第2層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、表示用基板の製造方法。
【請求項23】
前記支持基板上に有機樹脂層を形成する工程は、前記支持基板上にカラーフィルタ層を形成する工程を含むことを特徴とする、表示用基板の製造方法。
【請求項24】
前記カラーフィルタ層と前記透明導電層との間に、さらに、バッファ層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項25に記載の表示用基板の製造方法。
【請求項25】
前記第2層上に、さらに、酸化亜鉛を含む第3層を、直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタにより形成する工程を含むことを特徴とする、請求項24に記載の表示用基板の製造方法。
【請求項26】
前記直流スパッタ又は直流マグネトロンスパッタを用いる工程において、前記支持基板に被着する粒子の該支持基板への入射角度成分を、該支持基板への垂直成分よりも水平成分のほうが大きくなるように制御することを特徴とする、請求項24に記載の表示用基板の製造方法。
【請求項27】
前記支持基板と前記各スパッタで用いるターゲットを相対的に同心円に配置し、前記支持基板を回転させながら成膜することを特徴とする、請求項24〜28の何れかに記載の表示用基板の製造方法。
【請求項28】
前記支持基板の面と前記各スパッタで用いるターゲットの面とを並行に配置し、
前記支持基板の面を、複数回前記ターゲットの前面を移動させて成膜することを特徴とする、請求項24〜28の何れかに記載の表示用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−265629(P2009−265629A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55755(P2009−55755)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
【Fターム(参考)】