説明

表面検査方法および表面検査装置

【課題】干渉縞画像および表面画像のコントラストの向上を図る。
【解決手段】被検レンズ10の被検面10Aに照射する照明光を発する光源17と、主光路5上に配置され、照明光の一部を反射する参照面11Aを有する参照レンズ37と、光源17から発せられ、参照面11Aにより反射された参照面反射光と、参照面11Aを透過して被検レンズ10の被検面10Aにより反射され、参照面反射光に対して可干渉距離以下の光路差を有する被検面反射光とによって得られる画像を取得する撮像素子と、撮像素子により取得された画像を処理する画像処理部43とを備え、該画像処理部43が、参照面反射光のみからなる第1の光量分布を記憶する記憶部42と、参照面反射光と被検面反射光から得られる第2の光量分布から、記憶部42に記憶されている第1の光量分布を減算する演算部44とを有する表面検査装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面検査方法および表面検査装置に関するものである。特に、曲率半径が小さく、かつ半球に近いレンズ面の面精度および表面欠陥を検査する表面検査方法および表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品等の表面形状を観察するための手段として、パスマッチ機構を持つフィゾー型干渉計を用いた表面検査装置が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1に記載されている透明薄板測定用干渉計によれば、光源から出力された光のうち、基準体の基準面によって反射される反射光と、この基準面を透過して透明薄板の被検面によって反射される反射光とを干渉させ、CCD素子に形成される干渉縞画像に基づいて被検面の表面形状が測定されるようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−21606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の透明薄板測定用干渉計では、被検面に照射させる光の光路上に基準体が存在する。そして、光源からの光を2つの光束に分けていることから、干渉計光路中の基準体と被検面より、4つの反射光が生じる。このうち、干渉縞の創生には2つの光束しか用いないので、残りの2つの光束はノイズ光(フレア)となる。このように、特許文献1に記載の透明薄板測定用干渉計では、被検面に照射させる光の基準面における反射光によってフレアが発生し、干渉縞画像のコントラストが下がるという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、干渉縞画像および表面画像のコントラストの向上を図ることができる表面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、低コヒーレント光源と、2光路で構成されるパスマッチ機構を持つフィゾー型干渉光学系と、撮像装置と、該撮像装置からの画像を処理して表示する画像処理装置からなる干渉縞計測装置を用いて、被検レンズの面精度測定および表面欠陥の検査を行う表面検査方法であって、前記被検レンズを前記干渉縞計測装置にセットしない状態で、前記フィゾー型干渉光学系の参照レンズの参照面からの反射画像を取得し記憶させておく第1の工程と、前記被検レンズを前記フィゾー型干渉光学系にセットして、前記パスマッチ機構で干渉距離を一致させて干渉縞を創生し、干渉縞画像を取得して記憶する第2の工程と、前記第2の工程の状態から前記パスマッチ機構で2光路の干渉距離をわずかに相違させ前記干渉縞を消去した後、前記被検レンズ表面に前記撮像装置のピントを合わせ、前記被検レンズの表面画像を取得して記憶する第3の工程と、前記干渉縞画像の光量分布と前記表面画像の光量分布の各々から前記反射画像の光量分布を減算して、前記被検レンズの新たな干渉縞画像と表面画像とを作成し、それぞれを切り替えて表示する第4の工程とを備える表面検査方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、被検体の表面に照射する照明光を発する光源と、該光源と前記被検体との間の光路上に配置され、該被検体と同一光軸を有し、照明光の一部を反射する参照面を有する参照部材と、前記光源から発せられ、前記参照面により反射された参照面反射光と、前記参照面を透過して前記被検体の表面により反射され、前記参照面反射光に対して可干渉距離以下の光路差を有する被検面反射光とによって得られる画像を取得する撮像素子と、該撮像素子により取得された前記画像を処理する画像処理部とを備え、該画像処理部が、前記参照面反射光のみからなる第1の光量分布を記憶する記憶部と、前記参照面反射光と前記被検面反射光から得られる第2の光量分布から、前記記憶部に記憶されている前記第1の光量分布を減算する演算部とを有する表面検査装置を提供する。
【0008】
上記発明においては、前記照明光を2つに分割するビームスプリッタと、該ビームスプリッタにより分割された一方の照明光と他方の照明光の光路長を調整する光路長調整機構とを備え、前記参照面反射光と前記被検面反射光との光路差が、前記光源の可干渉距離と同じになる第1状態と前記光源の可干渉距離よりも大きくなる第2状態とを有することとしてもよい。
【0009】
また、上記発明においては、合焦機構をさらに備え、前記第2状態になったときに、前記合焦機構により前記撮像素子上に前記被検体の像が形成されるように合焦を行い、前記演算部が、前記合焦状態で得られた前記第2の光量分布から前記第1の光量分布を差し引くこととしてもよい。
【0010】
また、上記発明においては、合焦機構をさらに備え、前記光路長調整機構が、前記一方の照明光または前記他方の照明光の一方を遮断可能な遮断部材を備え、前記遮断部材により、前記検査光または前記参照光が遮断されたときに、前記合焦機構により前記撮像素子上に前記被検体の像が形成されるように合焦を行い、前記演算部が、前記合焦状態で得られた前記第2の光量分布から前記第1の光量分布を差し引くこととしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、干渉縞画像および表面画像のコントラストの向上を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る表面検査装置1について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る表面検査装置1は、例えば、図1に示すような白色パスマッチフィゾー型の干渉計であり、レンズやレンズモールド型等(以下、単に「被検レンズ」という。)10の、特に曲率半径が小さく半球レンズに近い球面の面精度と面外観を検査するものである。
【0013】
この表面検査装置1は、光源部3、パスマッチ光学系部18、光源リレー部7、干渉光学部2、ステージ6、撮像部12および画像処理部15を備えている。
【0014】
光源部3は、低コヒーレント光源17と、コリメータレンズ14と、ポラライザ16とを備えている。低コヒーレント光源17としては、例えば、白色光源の一種であるSLD(スーパーレーザーダイオード)等がある。コリメータレンズ14は、低コヒーレント光源17から出射された光を平行光束にするようになっている。また、ポラライザ16は、偏光ビームスプリッタ13に対してP偏光となる光を出射するように配置されている。
【0015】
光源部3の光出射側には、パスマッチ光学系部18が配置されている。パスマッチ光学系部18は、第1のミラーユニット20と、第2のミラーユニット21と、移動機構(光路長調整機構,図示略)とを備えている。
【0016】
第1のミラーユニット20は、ハーフミラー(ビームスプリッタ)HM1とハーフミラーHM2とを備えている。ハーフミラーHM1は、光源部3からの平行光束が進行する光路(光軸)中に固定され、平行光束を直進方向とこれに直交する方向とに進行する2つの光束に分割するようになっている。また、ハーフミラーHM2は、ハーフミラーHM1で分割された2つの光束を合波するようになっている。
【0017】
第2のミラーユニット21は、2つのミラーM1,M2を備えている。ミラーM1はハーフミラーHM1と対向する位置に配置され、ミラーM2はハーフミラーHM2と対向する位置に配置されている。このような構成により、ハーフミラーHM1により分割偏向された光束を迂回させて、ハーフミラーHM2に戻すことができる。
なお、移動機構は、第2のミラーユニット21を第1のミラーユニット20に対して図1の矢印cに示す方向に移動させるものである。
【0018】
このパスマッチ光学系部18において、ハーフミラーHM1を直進する光路を基本光路と称し、また、ハーフミラーHM1で偏向して第2のミラーユニット21で迂回する光路を調整光路と称する。そして、2つの光路長の差(2d)を調整距離と称する。
【0019】
パスマッチ光学系部18の光出射側には、光源リレー部7が配置されている。光源リレー部7は、集光レンズ22とピンホール23とを備えている。集光レンズ22は、パスマッチ光学系部18における基本光路と調整光路とを通過して再び重ね合わせられた平行光束を集光するようになっている。ピンホール23は、その集光点に配置されて光束を整えるようになっている。
【0020】
光源リレー部7の光出射側には、干渉光学部2が配置されている。干渉光学部2は、偏光ビームスプリッタ13と、λ/4板8と、コリメータレンズ9と、参照レンズ系11を備えている。上述のように、低コヒーレント光源17の光は、ポラライザ16によってP偏光の光となっている。偏光ビームスプリッタ13はP偏光の光を透過し、S偏光の光を反射する特性を有している。よって、光源リレー部7から出射された光は、偏光ビームスプリッタ13を透過し、λ/4板8で円偏光になってコリメータレンズ9に入射される。
【0021】
コリメータレンズ9は、光源リレー部7のピンホール23を通過してきた光束を、波面が整った平面の平行光束に変換するようになっている。この平行光束は、参照レンズ系11に入射される。参照レンズ系11から射出された光は、被検レンズ(被検体)10の表面「(以下、「被検球面(被検面)という。」10Aに入射される。
【0022】
参照レンズ系11は、光軸方向に配列された複数のレンズ33,35,37を含み、被検球面10Aに対向する最終面が参照面11AとなっているFno.0.6程度(開口角120°程度)のレンズ(参照レンズ(参照部材)37)である。つまり、120°の収束参照光が被検レンズ10に照射されると同時に参照面11Aでは4%程度の反射率で反射光(以下、「参照面反射光」という。)をλ/4板8側に送り返すようになっている。いわゆる干渉縞の参照光である。
【0023】
この構成で、被検レンズ10はXY(紙面および光軸に直交する平面)方向およびZ(光軸)方向に移動可能なステージ6に載置され、光軸に対する芯出しと参照面11Aの集光点への被検レンズ10の曲率中心合致作業が行われ、照射される参照レンズ系11からの光束を被検レンズ10が持つ反射率で反射光(以下、「被検球面反射光」という。)を参照レンズ系11に送り返すようになっている。いわゆる干渉縞の検査光である。
【0024】
上記2つの反射光は、参照レンズ系11およびコリメータレンズ9を通過して、λ/4板8に入射される。2つの反射光(円偏光)はまず、λ/4板8によって入射時とは直交する直線偏光(S偏光)に変換され、偏光ビームスプリッタ13に入射して、反射面13aによって直角に偏向されて撮像部12に至るようになっている。
【0025】
撮像部12は、偏光ビームスプリッタ13により導かれる参照面反射光および被検面反射光を集光する撮像光学系47と、該撮像光学系47により集光された被検面反射光を受光して画像を取得する撮像素子(図示略)を有する撮像装置(撮像部)41とを有する。 撮像部12からの情報は画像処理部15に入力される。画像処理部15は、撮像素子により取得された画像を処理する画像処理装置43と、画像処理装置43によって処理された画像等を表示するモニタ45とを備えている。
【0026】
撮像光学系47は、該撮像光学系47を構成するレンズ47bを光軸方向に移動させて、干渉縞や被検レンズ10にピントを合わせるようになっている。符号47aはピンホールである。
撮像装置41としては、例えば、CCDカメラを用いることができる。
【0027】
画像処理装置43は、撮像素子により取得された参照面11Aの画像および被検球面10Aの画像や、参照面反射光の光量分布および被検面反射光の光量分布を記憶する記憶部42と、参照面反射光の光量分布と被検面反射光の光量分布とに基づき演算処理を行う演算部44とを備えている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係る表面検査装置1を用いた本実施形態に係る表面検査方法について以下に説明する。
本実施形態に係る表面検査方法は、被検レンズ10をステージ6にセットしない状態で、参照レンズ系11の参照面11Aからの反射画像を取得し記憶させておく第1の工程と、被検レンズ10をステージ6にセットして、パスマッチ光学系部18で干渉距離を一致させて干渉縞を創生し、干渉縞画像を取得して記憶する第2の工程と、その状態からパスマッチ光学系部18で2つの光路の干渉距離をわずかに相違させて干渉縞を消去した後、被検球面10Aに撮像素子のピントを合わせ、被検レンズ10の表面画像を取得して記憶する第3の工程と、干渉縞画像の光量分布と表面画像の光量分布の各々から反射画像の光量分布を減算して、被検レンズ10の新たな干渉縞画像と表面画像とを作成し、それぞれを切り替えて表示する第4の工程とを備えている。
【0029】
まず、第1の工程において参照面11Aからの基本光路と調整光路を通過する2つの光束の和の参照面反射光量分布像を取得する方法について説明する。
撮像光学系47を図示しないピント合わせ光学系(ピンホール47aに換えて指標付摺りガラス、撮像光学系47に換えて摺りガラス観察光学系)に切り替えると参照面11Aからの反射光が摺りガラス上にスポットを結ぶので、このスポットを摺りガラスの指標に合致させることで表面検査装置1の光軸に参照レンズ系11の光軸を合致させることができる。
【0030】
この状態でピント合わせ光学系を撮像光学系47に切り替え、基本光路と調整光路を通過する2つの光束の和の参照面反射光量分布像(図5)を取得して記憶する。なお、基本光路と調整光路を通過する2つ光束の参照面反射光量分布像を個々に撮る場合は、図2に示すように、パスマッチ光学系部18の2つの光路のそれぞれにシャッタ(遮蔽板)31を挿入することで可能である。
【0031】
ここで、調整光路と基本光路を通過してきた2つの光が、参照面11Aと被検球面10Aでそれぞれ反射して4つの反射光を作るが、干渉縞と表面欠陥像を作るために寄与する反射光は共にそのうちの2つであり、他の2つはノイズ光で画像上のフレアとなり画質を低下させる理由について図2を用いて説明する。
【0032】
低コヒーレント光源12による干渉は、低コヒーレント光源12から参照面11Aまでの距離と低コヒーレント光源12から被検球面10Aで反射して参照面11Aに至る距離とが一致した状態でしか発生しない。図2で、反射光L1〜L4はわかり易いように斜めに反射しているように記入している。反射光L1,L2は基本光路を通過してきた照明光の参照面11Aと被検球面10Aでの反射光であり、反射光L3,L4は調整光路を通過してきた照明光の参照面11Aと被検球面10Aでの反射光である。
【0033】
参照面11Aを通過して被検球面10Aで反射された反射光L2,L4の光路長は、参照面11Aと被検球面10Aとの間の距離Lの2倍(2L)であることと、パスマッチ光学系部18での基本光路と調整光路の光路長差は2dであることに注意して光路長の一致する反射光の組合せを探すと、調整光路を通過した参照面反射光L3と基本光路を通過した被検面反射光L2がL=dのときに一致することがわかる。
【0034】
この状態で干渉縞が創生されるので、干渉縞画像(図3)を撮像(光量分布)し、記憶部42に記憶するのが第2の工程である。この画像上で干渉に関与しない反射光L1,L4はノイズ光となり画像上にフレアとして現れている。然るに、画像光量はL1+L2+L3+L4である。
【0035】
このときのフレアの量は、調整光路と基本光路の光量と参照面11Aと被検球面10Aの反射率がほぼ同じであるとき、干渉縞を生成する光量とフレアの光量はほぼ等しくなる。一般的なカメラと比較すると甚大なフレアが発生しているといえる。
なお、波長700nm程度の低コヒーレント光源12からの照明光の可干渉距離は50μm程度であり、干渉縞を創生するにはパスマッチ光学系部18の2つの光路の光路長差はこの範囲に合致させ、この範囲内で干渉縞のコントラストが最も良い状態に調整する。
【0036】
調整光路と基本光路の光量および参照面11Aと被検球面10Aの反射率がほぼ同じであるとする。実際の干渉計でも2つの干渉に関わる光の干渉が等しい程、コントラストの良い縞ができる。調整光路と基本光路の光量はほぼ等しく調整してあり、また、参照面11Aおよび被検球面10Aは、ガラスの磨き面のままで共に約4%の反射率であることが多い。
【0037】
基本光路に例をとって試算すると、基本光路光量を100として、まず参照面11Aで4%の反射なので参照面11Aからの干渉に関わる反射光L1の光量は4、被検球面10Aに向かう光量は96、被検球面10Aでの反射率が4%とすると再び参照面11A側に戻る反射光L2の光量は96×4%=3.84、この反射光L2が参照面11Aで4%の反射により光量減を強いられ参照レンズ系11を通過する干渉にかかわる光量は3.84×96%=3.69となる。つまり、参照面11Aおよび被検球面10Aからの反射光量はほぼ等しい(L1=L2)ことになる。この近似はフレア除去用であるので、精密な測定は必要なく十分使ってよい。
【0038】
一方、調整光路についても同様な結果となり、参照面11Aおよび被検球面10Aからの反射光量はほぼ等しい(L3=L4)ことになる。結果として、L1=L2=L3=L4となる。
そこで、ノイズ光である反射光L1,L4の光量の和は、基本光路と調整光路の参照面反射光L1,L3の和と同じとして画像を取得して記憶すればよい。具体的には、干渉縞観察時の状態から被検球面10Aを取り除いて基本光路と調整光路の参照面反射光分布画像(図5)を撮像するのが第1の工程である。
【0039】
もちろん、4つの反射光量を個々に測定することもできる。即ち、パスマッチ光学系部18の片側の光路にシャッタを挿入したうえで、被検レンズ10をセットしない状態で参照面反射光量を測定しておき、被検レンズ10をセットして参照面反射光L1,L3および被検面反射光L2,L4の光量の和を測定する。この後、和から参照面反射光量を減算すれば、被検面反射光L2,L4の光量が測定できる。被検球面10Aの反射率が異なる場合などに使用すると効果がある。
【0040】
次に、第2の工程において、干渉縞を創生する方法を説明する。
参照面反射光量分布像の取得後、被検球面10Aをステージ6に載せ、撮像装置41の撮像光学系47をピント合わせ光学系に切り替える。被検球面10Aの頂点からの反射光が摺りガラス上にスポットを結ぶので頂点像スポットを摺りガラスのターゲットに移動、合致させると被検球面10Aの頂点を表面検査装置1の光軸に合致させることができる。
【0041】
被検球面10Aが凸球面であれば参照面11A側に、凹球面であれば参照面11Aから離れる方向に移動させる。このときの被検球面10Aの配置は図1のようになり、参照面11Aと被検球面10Aとの距離はLである。よって、反射することを考慮すると光路差は2Lとなる。この距離2Lと等しい光路差をパスマッチ光学系部18の移動装置により第2のミラーユニット21を移動して、基本光路と調整光路の光路差が2Lとなったときに、干渉縞が観察できることになる。
【0042】
基本光路と調整光路の光路差は図1から2dである。即ち、L=dのとき干渉縞が創生できる。そして、この状態で撮像装置41の摺りガラス観察光学系を元の撮像光学系47に切り替え、干渉縞を直線状に調整して像周辺に縞の歪みがなくなった状態で干渉縞像(図5)を撮像し記憶する。
【0043】
このとき、基本光路と調整光路に遮蔽板を交互に挿入して、各光路を通る個別の参照面11Aと被検球面10Aからの和の反射光量分布画像を取得し、前述の個々に取得した基本光路と調整光路を通過する2つ光束個々の参照面反射光量分布像を減算すれば、基本光路と調整光路を通過する2つ光束個々の被検球面10Aからのみの光量分布像を得ることができる。したがって、4つの反射光量分布を記憶して使用してもよい。つまり、図2の調整光路を通過する光の被検球面反射光L4を精密に測定でき、この値を用いることにより被検面反射率が異なる場合など干渉縞像のコントラストを向上することができる。
【0044】
また、この時点で被検球面10Aを表面検査装置1から取り除き、基本光路と調整光路を通過する2つの光束の和の参照面反射光の光量分布画像を取得して記憶して使用してもよい。
【0045】
その後、画像処理装置43内の記憶部42に既に記憶してある干渉縞画像から参照面反射光のみの光量分布画像を減算してモニタ45に表示すると、図8に示すようなフレアのないコントラストの良い干渉縞が創生される。同一の被検球面10Aを検査する場合は保存してある光量分布画像を使えば都度参照面反射光量分布画像を撮る必要はなくなる。
【0046】
次に、第3の工程において表面欠陥画像を取得する方法を説明する。
上記の干渉縞を創生する状態で、調整光路距離を0.2mm程度ずらすと可干渉範囲から2つの光路距離差が外れるので干渉縞は消滅する。この状態で、縞撮像光学系のピントを被検球面10Aに合わせると被検球面10Aの表面欠陥画像を撮像して記憶する。これは2つの光束が被検球面10Aで反射した被検球面10Aの表面画像に2つの光束が参照面11Aで反射した反射光量分布像がフレアとなって重なったものである。
【0047】
ここで、被検球面の表面欠陥画像が得られる理由を図10に示す。図10は光源部17やパスマッチ光学系部18等の記載を省略している。光源部17からの照明光が参照レンズ系11を経て被検球面10Aに照射されたとき被検球面10Aにキズがあると、このキズによって散乱光や回折光が発生して参照レンズ系11側に向かう。
【0048】
そして、コリメータレンズ9の焦点位置(絞り位置)に瞳を作ると同時にキズの像を被検球面10Aの参照レンズ系11位置との距離に応じた位置Dに作る。ピント合わせレンズを光軸に沿って移動することで、このキズの2次像を撮像装置41の撮像面上に作る。
【0049】
このとき、撮像装置41の撮像面上の視野の大きさは、参照レンズ系11の被検球面10A照射角(図10では120°)に対する被検球面10Aの球面角に依存し、曲率半径の大小に関係しない。例えば、被検球面10Aの角度が80°であれば被検球面10Aの曲率半径が2mmであっても10mmであっても撮像面上の像は最大径の80%である。
【0050】
よって、像の倍率からすると、被検球面10Aの曲率半径が小さいほど倍率が高くなる。実際の観察では、曲率半径2mmの被検球面10A上の5μmのキズを観察できる。なお、120°を超える場合は、120°を超える部分の観察は当然できない。
【0051】
本実施形態に係る表面観察方法において、曲率半径の小さい被検球面10Aの検査に適しているという理由はこのような事情による。しかし、レンズ設計製造においては半球に近いレンズは曲率半径が5mm以下の場合が多く、また、表面欠陥検出が困難なのは小さな曲率半径のレンズであり、用途は多い。
【0052】
この場合においても、表面欠陥検出画像に寄与する光はパスマッチ光学系部18の基本光路と調整光路の被検球面10Aからの反射光L2,L4である。残りの基本光路と調整光路の参照面11Aからの反射光L1,L3はフレアとなって表面欠陥検出画像のコントラストを大きく低減する。このときのフレアに寄与する光量は干渉縞画像の場合と同じく表面欠陥検出画像に寄与する光量とほぼ等しく、甚大なフレアが発生している。
【0053】
次に、第4の工程において、コントラストの良い干渉縞画像および表面欠陥画像の取得について述べる。
第4の工程は、第2の工程において記憶した干渉縞画像と第3の工程において記憶した表面欠陥画像の光量分布から、第1の工程において記憶した画像の光量分布を減算してモニタ45に表示する工程である。
【0054】
図6は画像間の光量分布の減算の過程をわかり易くするために、符号aは図5の横断面光量分布を示すグラフ、符号bは図3の横断面光量分布を示すグラフであり、これらの減算を行った結果が図8である。これによれば、フレアが抜けてコントラストの良い画像が得られていることがわかる。
【0055】
同様に、図7で、符号aは図5の横断面光量分布を示すグラフ、符号cは図4の横断面光量分布を示すグラフであり、これらの減算を行った結果が図9である。同様にフレアが抜けてコントラストの良い画像が得られていることがわかる。
【0056】
このように、本実施形態に係る表面検査装置1および表面検査方法によれば、調整光路を通過してきた光の低コヒーレント光源17から参照面11Aまでの距離と基本光路を通過してきた光の低コヒーレント光源17から被検球面10Aまでの距離が一致したとき干渉縞を創生でき、撮像光学系47を含む撮像装置41において干渉縞画像が取得される。この干渉縞画像の干渉パターンを観察することにより被検球面10Aの形状、つまり、球面の面精度を測定することができる。
また、調整光路を通過してきた光の参照面11Aまでの距離と基本光路を通過してきた光の被検球面10Aまでの距離が一致しないとき、撮像光学系47を含む撮像装置41において表面欠陥画像が取得される。この表面欠陥画像から被検球面10Aの表面の欠陥の有無や大きさを検査することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る表面検査装置1によれば、極度な精度を要求しない干渉光学系を用いた安価で測定精度が高くかつ振動にも強く、かつ検査可能被検球面の曲率半径の制限を緩和するほか被検球面10Aの検査領域を大きくすることができるという利点がある。
【0058】
なお、本実施形態においては、パスマッチ光学系部18は図1の形式のものに限定されるものではなく、例えば、米国特許第4872755号明細書に記載されているような各種のパスマッチ光学系を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面検査装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の表面検査装置における参照光および検査光の参照面または被検面で生じる4つの反射光を示す図である。
【図3】ノイズを低減する前の干渉縞画像を示す図である。
【図4】ノイズを低減する前の被検面の表面画像を示す図である。
【図5】参照レンズの参照面の反射像を示す図である。
【図6】図2の反射面の光量分布と図3の干渉縞画像の光量分布を示す図である。
【図7】図2の反射面の光量分布と図4の表面画像の光量分布を示す図である。
【図8】図3のノイズを低減した後の干渉縞画像を示す図である。
【図9】図4のノイズを低減した後の表面画像を示す図である。
【図10】図1の表面検査装置における被検球面に照明光が照射される様子を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 表面検査装置
3 光源部
10 被検レンズ(被検体)
10A 被検面(表面)
11 参照レンズ系
11A 参照面
12 撮像部
15 画像処理部
17 低コヒーレント光源
18 パスマッチ光学系部
HM1 ハーフミラー(ビームスプリッタ)
31 シャッタ(遮蔽板)
37 参照レンズ(参照部材)
42 記憶部
43 画像処理装置(画像処理部)
44 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低コヒーレント光源と、2光路で構成されるパスマッチ機構を持つフィゾー型干渉光学系と、撮像装置と、該撮像装置からの画像を処理して表示する画像処理装置からなる干渉縞計測装置を用いて、被検レンズの面精度測定および表面欠陥の検査を行う表面検査方法であって、
前記被検レンズを前記干渉縞計測装置にセットしない状態で、前記フィゾー型干渉光学系の参照レンズの参照面からの反射画像を取得し記憶させておく第1の工程と、
前記被検レンズを前記フィゾー型干渉光学系にセットして、前記パスマッチ機構で干渉距離を一致させて干渉縞を創生し、干渉縞画像を取得して記憶する第2の工程と、
前記第2の工程の状態から前記パスマッチ機構で2光路の干渉距離をわずかに相違させ前記干渉縞を消去した後、前記被検レンズ表面に前記撮像装置のピントを合わせ、前記被検レンズの表面画像を取得して記憶する第3の工程と、
前記干渉縞画像の光量分布と前記表面画像の光量分布の各々から前記反射画像の光量分布を減算して、前記被検レンズの新たな干渉縞画像と表面画像とを作成し、それぞれを切り替えて表示する第4の工程とを備える表面検査方法。
【請求項2】
被検体の表面に照射する照明光を発する光源と、
該光源と前記被検体との間の光路上に配置され、該被検体と同一光軸を有し、照明光の一部を反射する参照面を有する参照部材と、
前記光源から発せられ、前記参照面により反射された参照面反射光と、前記参照面を透過して前記被検体の表面により反射され、前記参照面反射光に対して可干渉距離以下の光路差を有する被検面反射光とによって得られる画像を取得する撮像素子と、
該撮像素子により取得された前記画像を処理する画像処理部とを備え、
該画像処理部が、前記参照面反射光のみからなる第1の光量分布を記憶する記憶部と、前記参照面反射光と前記被検面反射光から得られる第2の光量分布から、前記記憶部に記憶されている前記第1の光量分布を減算する演算部とを有する表面検査装置。
【請求項3】
前記照明光を2つに分割するビームスプリッタと、該ビームスプリッタにより分割された一方の照明光と他方の照明光の光路長を調整する光路長調整機構とを備え、
前記参照面反射光と前記被検面反射光との光路差が、前記光源の可干渉距離と同じになる第1状態と前記光源の可干渉距離よりも大きくなる第2状態とを有する請求項2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
合焦機構をさらに備え、
前記第2状態になったときに、前記合焦機構により前記撮像素子上に前記被検体の像が形成されるように合焦を行い、
前記演算部が、前記合焦状態で得られた前記第2の光量分布から前記第1の光量分布を差し引く請求項3に記載の表面検査装置。
【請求項5】
合焦機構をさらに備え、
前記光路長調整機構が、前記一方の照明光または前記他方の照明光の一方を遮断可能な遮断部材を備え、
前記遮断部材により、前記検査光または前記参照光が遮断されたときに、前記合焦機構により前記撮像素子上に前記被検体の像が形成されるように合焦を行い、
前記演算部が、前記合焦状態で得られた前記第2の光量分布から前記第1の光量分布を差し引く請求項3に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−19798(P2010−19798A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182801(P2008−182801)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】