説明

超音波を用いた物品の洗浄方法

【課題】 物品の表面に付着した脂・汚れ等を超音波を用いて強力に洗浄し且つ強く殺菌させることができる超音波洗浄方法を提供する。更に連続的に洗浄殺菌できる設備の費用とそのランニングコストを廉価にできるようにする。
【解決手段】 酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水Wを貯えた洗浄槽2の水面下に発振面が対向するように上下一対の超音波振動子4を配置し、同超音波振動子の発振面間の狭間領域7に酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水の一部を邪魔板8で水量・流速を抑えて略50cm/分の流速で流入させる。洗浄槽2の側面を開口し、同開口を介して被洗浄物Aを通過させる搬送コンベヤ3を配置し、同開口から洗浄水を排出させ、同開口の内側に洗浄槽2へ供給する洗浄水を噴出して水カーテンWaを形成して開口からの大量の排水を抑え、又開口から落下した洗浄水を下方で受水槽1で受けてポンプで洗浄槽2へ圧送して洗浄水を循環的に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた物品の洗浄方法であって、洗浄水に酸素と窒素を高濃度(溶存飽和濃度又はそれに近い濃度)に溶存させ、超音波振動でソノケミストリー反応を生起させて発生する過酸化水素と硝酸によって洗浄と殺菌を行う技術である。半導体製品・金属加工品・医療器具・食器等の物品の洗浄・殺菌方法として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波洗浄方法として、洗浄水中に浸漬した被洗浄物品に対して超音波を異なる複数の方向から照射する方法が公知である(例えば特許文献1〜5参照)。この方法によれば、超音波が被洗浄物の表面全面に照射されやすくなり、ムラの少ない洗浄効果が得られるというものである。しかしながら特許文献1〜5記載の技術は、超音波振動子の振動が洗浄槽に貯えられた洗浄水全量に対して作用するものであり、あるいは槽自体を超音波振動させて洗浄水に超音波振動を伝播させるものであるため、水分子に対する超音波振動は弱いものとなる。更に洗浄槽の水面によって定常波が形成されて、水分子のランダムな超音波振動が弱まる。これらの理由で超音波振動の作用が弱く洗浄力が低いものとなる。又洗浄水は純水、上水であって、充分に酸素と窒素が溶存していないのでソノケミストリー反応がほとんど発生せず、殺菌力はあまり期待できなかった。
【0003】
また、酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水に超音波振動を与えて洗浄する方法が公知である(例えば特許文献6,7参照)。この方法によれば、洗浄水中にH(過酸化水素)やHNO(硝酸)が多量に生じ、これらの酸化作用により高い分解殺菌効果が得られるというものである。しかし、特許文献6,7記載の技術は、いずれも超音波を一方向から照射するものであるから、超音波が被洗浄物の全面に均一に照射されず、分解殺菌効果にムラがあった。また、酸素と窒素は導入管等を用いて強制的に注入するから、超音波洗浄装置が高コストとなる問題があった。更に、超音波振動子は洗浄槽に取り付けているから、超音波振動は前記理由によってまだ弱く、洗浄水中に溶存した酸素と窒素が分解して過酸化水素と硝酸を発生させるソノケミストリー反応が不充分であり、洗浄・殺菌力が低いという問題点がある。更に、水槽内の洗浄水を交換せず又酸素と窒素の吹き込みのない超音波振動によるバッチ式洗浄殺菌では洗浄水中の酸素と窒素が短時間で分解して消費され、洗浄殺菌力が失われる。
【0004】
また、洗浄水を大気に触れさせながら循環させ、大気中の窒素を洗浄水中に自然に取り込ませて溶存させる方法も公知である(例えば特許文献8参照)。しかし、特許文献8記載の技術は、洗浄水の水面のみを大気に触れるようにしているから、窒素の取り込み量が不十分となり、これを補うために洗浄水の流量調整装置と温度調整装置を別途必要とし、超音波洗浄装置が依然高コストとなる問題があった。また、超音波を一方向から照射するものであるから、特許文献6,7記載の技術と同様に洗浄殺菌効果にムラがあった。さらに、超音波振動子は洗浄槽に取り付けているから、前記理由から超音波は強く出力しないと充分な洗浄が期待できなかった。
更に、本発明者等が先に開発した特開平4−176379号公報の連続超音波洗浄装置は、上下一対の超音波振動子を用いて、その間に被洗浄物を通過させるものであるが、この洗浄方法は超音波振動子を上下対向して超音波振動を強力にして被洗浄物を強力に洗浄しようとするものであった。しかしながら、この洗浄方法ではソノケミストリー反応について認識されていず、且つ洗浄水は超音波振動子間を速く且つかなりの割合で流れる水流のため、ソノケミストリー反応が生じてもその反応で発生した過酸化水素、亜硝酸は速く流れて流出し被洗浄物の洗浄には不充分となる。又、洗浄水に溶存していた酸素・窒素ガスは循環するうちに消費され、溶存濃度が大幅に低下しソノケミストリー反応が弱くなり、ソノケミストリー反応による連続的で安定した殺菌・洗浄力はあまり期待できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−308067号公報
【特許文献2】実開昭56−20684号公報
【特許文献3】特開2006−35139号公報
【特許文献4】特開2009−125645号公報
【特許文献5】特開平6−262148号公報
【特許文献6】特開平9−194887号公報
【特許文献7】特開2005−45159号公報
【特許文献8】特開2008−91546号公報
【特許文献9】特開平4−176379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、物品の表面に付着した指紋脂も除去できる程に高い洗浄力と高い殺菌効果も同時に得ることができ、しかも低出力の超音波で高い洗浄殺菌効果を得ることができる超音波洗浄方法を提供することにある。更に、本願発明の他の課題は、洗浄水を循環使用して物品を安定的で且つ連続的に洗浄殺菌でき、しかも設備とランニングコストとも廉価にできる連続洗浄殺菌処理できる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 水中に酸素及び窒素を高濃度に溶存させた洗浄水が連続的に供給されて洗浄水を貯える洗浄槽内に、発振面が洗浄水の水面下に浸漬するように且つ互に発振面が対向するように複数の超音波振動子を配置し、対向する発振面によってはさまれた又は囲まれた狭間領域に酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水が15〜100cm/分の範囲の流速で流入するようにするとともに、被洗浄物を上記狭間領域に所定時間置き、上記狭間領域において対向する超音波振動子の超音波振動によって洗浄水中の溶存酸素と窒素とを分解して過酸化水素と硝酸とを発生させて被洗浄物の洗浄と殺菌を行うことを特徴とする、超音波を用いた物品の洗浄方法
2) 狭間領域の洗浄水の流速の範囲が20〜60cm/分である、前記1)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
3) 高濃度に酸素と窒素とを溶存させた洗浄水を狭間領域の対向する左右側面から互に対向する方向に流入させ、狭間領域の前後の側面から流出させることで洗浄水の流速を供給の流速から減速させて狭間領域での流速の範囲にする、前記1)又は2)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
4) 狭間領域をはさむ又は囲む複数の超音波振動子の総電力をWtとし、狭間領域への洗浄水の流入面積をSとし、狭間領域を流れる洗浄水の平均流速をvとすると、単位cm,秒,ワットで次の不等式1の 0.67<(Wt/(v*S))<13.3 の条件を満足させるようにして洗浄力と殺菌力を高める、前記1)〜3)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
5) 不等式の条件が更に減縮されて、単位cm,秒,ワットで次の不等式2の 1.1<(Wt/(v*S))<10.0 を満足するようにした、前記4)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
6) 前記1)〜5)記載のいずれかの超音波を用いた物品の洗浄方法において、酸素と窒素とを高濃度に溶存させた洗浄水を洗浄槽内へ連続的に供給するとともに、供給された洗浄水の一部のみが狭間領域を通過するように流した後供給された洗浄水全量を連続的に洗浄槽から排出し、排出した洗浄水を酸素と窒素とを溶存させる溶解部へ送り、同溶解部で溶存濃度を高めて酸素と窒素とも高濃度に溶存させた後ポンプで洗浄槽に供給して洗浄水を循環使用するとともに、洗浄槽内に供給される洗浄水のうち狭間領域を通過する流量の狭間領域を通過しないで排水される流量に対する分流比率が溶解部の洗浄水中の溶存の酸素又は窒素の各濃度上昇の比率のうち低い方の上昇比率より小さくなるようにし、洗浄槽に供給する洗浄水が常時酸素と窒素とを高濃度に溶存させるようにして連続洗浄を可能とした、超音波を用いた物品の洗浄方法
7) 洗浄槽の左右側壁面それぞれに開口を設け、左右の同開口を介して洗浄槽内の水中を移動して被洗浄物が洗浄水面下の狭間領域を通過するように搬送する搬送コンベヤを設け、洗浄槽に供給される洗浄水を槽内側の左右の開口付近で水膜状に吹き出して水カーテンを形成し、左右の開口から洗浄槽内の洗浄水が大量に排水するのを抑止し、更に吹き出した洗浄水の一部が槽内に設けた邪魔板によって減速されながら誘導されて狭間領域の左右側面から互に対向するように流入するようにした、前記6)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
8) 洗浄槽の開口から洗浄水を水膜又は水脈状に大気中に落下させ、落下途中において大気中の酸素と窒素と接触してこれらを洗浄水に溶存させ、洗浄槽の下方の受水槽で落下する洗浄水を回収し、回収した洗浄水をポンプで洗浄槽に送って供給するようにし、溶解部が洗浄槽の開口と同開口の下方に配置した受水槽とから形成される、前記7)記載の超音波を用いた物品の洗浄方法
にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超音波振動子の発振面を対向させ、対向した狭間領域に超音波振動を集中し、この領域において水と酸素と窒素に対して強力でランダムな超音波振動を与えることで、HやHNOを多量に発生させ、キャビテーション状態として強力でムラの少ない高い洗浄殺菌効果が同時に得られるようになる。更に、酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水を狭間領域に15〜100cm/分の流速の範囲で流すようにしたことで、高い濃度の過酸化水素と硝酸の連続的発生を維持し且つ発生した過酸化水素と硝酸の速い拡散流出を防ぎ、狭間領域に高い濃度の過酸化水素と硝酸とキャビテーション状態とを確保して物品の洗浄と殺菌の強い効果を長時間安定的に維持できるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例の超音波洗浄装置の説明図である。
【図2】実施例の供給された洗浄水の分流の状態を示す説明図である。
【図3】実施例の狭間領域での洗浄水の流入と流出状態を示す説明図である。
【図4】洗浄水中の溶存酸素・窒素の濃度変動を示す説明図である。
【図5】実施例の他の例の超音波洗浄装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の洗浄槽は、水槽構造ばかりでなく、洗浄水が流れて被洗浄物をその水流中に置ける水路構造のものであってもよい。
【0011】
本発明の洗浄水に溶存された酸素と窒素の「高濃度」とは、大気圧下の飽和溶存濃度又はこの前後の濃度、飽和溶存濃度の70%以上のものである。通常、大気下での気体の溶存濃度は溶解度で表現され、1気圧時の容積単位cmで、酸素は室温で0.031cm/水1cc,窒素は室温で0.016cm/水1cc程である。加圧して飽和溶存濃度よりかなり高くすることも可能であり、これも含むものである。又洗浄水としては、純水・上水道水等の水に洗浄剤を加えてもよい。
【0012】
本発明の溶解部は、洗浄水中に酸素と窒素を高濃度に溶存させる構成部であり、この溶解部での酸素と窒素を溶存する方法としては、洗浄水を大気中で水膜状・水脈状・噴霧状又はシャワー状に落下又は吹き出せることで大気中の酸素と窒素と洗浄水を接触させて溶存させる方法(以下、落下式と総称する)と、洗浄水中に酸素ガス、窒素ガス又は空気を気泡状に吹き込んで溶存させる方法が代表的である。前者の落下式の場合は、一回の落下によって溶存濃度は大略15%程度しか高められない。
【0013】
本発明の狭間領域へ供給された高濃度の酸素・窒素溶存の洗浄水の一部を送るように分流する方法としては、供給された洗浄水を水槽内で邪魔板・区画板・誘導板等で直ちに分けて供給された洗浄水の一部がすぐに狭間領域にいくようにする方法と、高濃度に溶存させた洗浄水を送る供給ホース(供給管)を分岐して分岐した供給ホース(供給管)に一部の洗浄水を送り、これが直接狭間領域へ流入するようにして狭間領域を通過した洗浄水は非通過の洗浄水と合流させる方法がある。分流する割合は、10%前後が代表例である。
【0014】
本発明の狭間領域に流入する高濃度に酸素と窒素とを溶存させた洗浄水の流速(流速が変動しているときはその平均流速)は15〜100cm/分、好ましくは20〜60cm/分とする。これは、流速が遅いと、狭間領域内にある洗浄水の溶存された酸素と窒素はこの狭間領域に入ると直ちに超音波振動により分解して消費されるので、絶えず新しい洗浄水をこの狭間領域に流入させねば狭間領域内の酸素と窒素がなくなり新しい過酸化水素と硝酸が発生しなくなる。又発生していた過酸化水素と硝酸とは化学反応・拡散・流出で低濃度となり、洗浄殺菌力を失う。又発生していたキャビテーションも流出してしまうので絶えず新しい洗浄水の供給が必要となる。
又、洗浄水の流速が速いと、発生した過酸化水素と硝酸及びキャビテーション状態がこの狭間領域外へ流出して、やはり洗浄殺菌力が低下する。
【0015】
流速は、15〜100cm/分の範囲がその両者を調和させて高い洗浄殺菌力を高めるものであった。望ましくはその流速は20〜60cm/分が好ましいものであった。
【0016】
本発明で洗浄槽に供給される洗浄水の全流量のうち狭間領域に流入させる流量の割合は、溶解部でその溶存の濃度を高める濃度上昇の比率以下にすることで、狭間領域の洗浄水の通過で分解して失われる酸素と窒素とが溶解部で回復でき、洗浄水を連続的に循環使用でき、洗浄殺菌の処理を安定して且つ長時間その洗浄殺菌力を失わないことを可能とする。
【0017】
本発明では、狭間領域での洗浄水の流速vと、狭間領域に洗浄水が流入する流入面積をSとし、狭間領域に超音波振動を与える対向した超音波振動子の総電力Wtが下記の不等式1好ましくは不等式2を満足させれば、被洗浄物の表面の指紋脂等の取り除きにくい付着物を短時間できれいに除去できるものとすることができた。単位はcm,秒,ワットである。(Wt/(v*S))の値は、流速vが上記の如く速いと低い値となり、vが遅い(小さい)と大きくなり、上記の流速の範囲及び超音波の総電力も適切なものがよく、下記の不等式1,2のものがよいことが分かった。
【0018】
(数式1)
不等式1:0.67<(Wt/(v*S))<13.3
不等式2:1.1<(Wt/(v*S))<10.0
【0019】
尚、上記不等式で(Wt/(v*S))の値を(Wt/q)にすることもできる。v,sの値が不明又は計測できにくく、通過流量qの方が測定でき易い又は計算し易い場合は、(Wt/(v*S))を(Wt/q)に置き代えることもできる。更に分流割合kをk=q/(q+q)=q/Qとすると、q=k*Qであるから、更に(Wt/(v*S))を(Wt/(k*Q))に置き代えるようにしてもよい。不等式1,2は下記数2に置き代えることができる。
【0020】
(数2)
不等式3:0.67<(Wt/(k*Q))<13.3
不等式4:1.1<(Wt/(k*Q))<10.0
k=q/Q=分流割合
【0021】
又、洗浄槽に供給される酸素と窒素とを高濃度αに溶存させた洗浄水の流量をQとし、供給された洗浄水が狭間領域を通過する流量をqとし、狭間領域を通過しないでそのまま排水される流量をq=(Q−q)とし、溶解部での酸素と窒素の濃度上昇の低い方の濃度上昇の比率値をγとしたとき、開口から落下する直前の濃度βは、狭間領域を通過する酸素と窒素はほとんど分解して消費されるのでα*q/(q+q)であり、これが溶解部で比率値γで濃度上昇し、しかも比率値γが供給される洗浄水の狭間領域に流入する流量の非通過の流量に対する分流比率(q/q)より大きくするようになっているので、溶解部を経た後の洗浄水の濃度δは(β+γβ)となり、濃度上昇の比率値γ=(δ−β)/βが分流比率(q/q)の値より大きいので下式のように、濃度δは供給時の濃度αより大きくなる。
【0022】
(数3)
/q<γ
δ=β+γβ=β(1+γ)=α*q*(1+γ)/(q+q
δ>α*q*(1+q/q)/(q+q)=α
δ>α
【0023】
このように、溶解部の濃度上昇の比率γを分流比率より大きくすることで(又は分流比率を溶解部の濃度上昇の比率γより小さくすることで)、洗浄槽へ供給する洗浄水の酸素と窒素の濃度は所定の高濃度以上を維持して連続で長時間の洗浄殺菌を可能とする。尚、初期的にこれら濃度にするには、超音波振動子を作動させないで繰り返し循環させることで、所定の高濃度にできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。図1は実施例に用いた超音波洗浄装置Tの説明図である。図2〜4はその洗浄水の流れと、酸素と窒素の溶存濃度と流量との変動を示す実施例の説明図である。
【0025】
図中、1は受水槽、1aは同受水槽の上方の左右側面に開口した搬送コンベヤ3の通過口、2は洗浄槽、2aは洗浄槽の左右の側面に設けた開口であって排水口となっている。2bは細長のスリットから水膜状に洗浄水を噴出する噴出部、2cは洗浄水の一時貯水部、3は水が上下に通過できるスラットコンベヤを用いた搬送コンベヤ、4は10cmの間隔を離して設けた上下一対の各1000watt(ワット)の超音波振動子、4aはその振動面、5はポンプ、6は洗浄水の供給管、7は超音波振動子4の対向した振動面内の狭間領域で、高さ10cm,左右長さ40cm,幅30cmの空間を有する。8は噴出部2bから槽内側の開口2aに沿って水膜状に噴出して水流の大部分が狭間領域7へ流入しないように流入水量と流入速度とを制御する上下一対の邪魔板、9は受水槽1の洗浄水がポンプ5に入る前に設けたゴミ除去部である。Aは被洗浄物である半導体基板、Wは洗浄水、Waは水カーテンである。
【0026】
本実施例の超音波洗浄装置は、図1に示すように、上面が開放された受水槽1内部に洗浄槽2を配置し、受水槽1と洗浄槽2の前後の側面に通過口1a,開口2aを開口し、その前後の通過口1a,開口2aに搬送コンベヤ3を連通し、受水槽1に洗浄水Wを貯水している。洗浄槽2の左右の開口2aの上方位置には、洗浄水Wの水カーテンWaが開口2aの槽内側に沿って形成されるように、下向きに且つやや内向きに噴出させる長さ60cmでスリット幅5mmのスリットを備えた噴出部2bを取り付けている。洗浄槽2内には超音波振動子4をその発振面が水面下で対向するように10cm間隔をおいて上下に配置し、受水槽1の洗浄水Wを噴出部2bへ給水するポンプ5と供給管6を設けている。
【0027】
受水槽1の貯水量は100〜300リットル、洗浄槽2の容積は30〜60リットル、ポンプ4の給水能力は300〜1000リットル/分可能である。各超音波振動子4は1000ワットで周波数は25kHz・40kHz・120kHzの切替式である。
【0028】
本実施例では、ポンプ5を作動させると、受水槽1に貯えた酸素と窒素とを飽和溶存濃度程度に溶存させた洗浄水Wは供給管6を介して洗浄槽2へ送られる。
洗浄槽2では、供給管6で送られた洗浄水は一時貯水部2cで貯えられた後、スリット状の噴出口が5mm幅で60cm長さの噴出部2bから50m/分の高速で水カーテン状に噴出する。噴出部2bの水カーテンWaは洗浄槽2の開口2aを閉鎖するようになって、この開口2aより高い水面となっている洗浄槽2内の洗浄水が大量に開口2aから排出されるのを抑止して水面の高さを維持している。
【0029】
水カーテンWaの水流は上下一対の邪魔板8によって大部分(90%程)は邪魔板8と槽内面との間で遊水して開口2aから排出される。
水カーテンWaの水中の一部の10%程度の水が上下の邪魔板8の間隙から超音波振動子4間の狭間領域7へ左右両側から対向するように流入する。その流入速度は略50cm/分程で大幅に減速されている。狭間領域は高さ10cm,奥行30cm,長さ(左右長)は40cm程でその領域の容積Lは12リッターである。水カーテン状に噴出した酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水の一部はこの狭間領域7へ左右から対向して進入したらその領域7の前後から流出する。この状態を図3に示している。
【0030】
狭間領域7へ流入した洗浄水の酸素と窒素は狭間領域の上下の超音波振動子4による強力な超音波振動によって分解され、直ちに過酸化水素水と硝酸になる。一方狭間領域7から流出する洗浄水の酸素と窒素の濃度はそのため略0%近くとなる。この流出した洗浄水は狭間領域7に流入(通過)しない洗浄水(90%程度)と合流し、開口2aから槽外へ排出され、洗浄水はこの開口2aから水膜・水脈状となって下方へ落下し、受水槽1によって回収され、貯えられる。洗浄水はこの水膜・水脈状となって落下する途中に大気中の酸素と窒素ガスと接触し、落下途中でこれらガスを洗浄水中へ溶解してそれらの濃度を高める。このように本発明の溶解部は実施例では洗浄槽2の開口2aとその下方に設置された受水槽1の簡単な構成からなっている。そしてこれらガスの溶存濃度は一回の落下で大略15%程濃度を高めることができる。溶解部での濃度上昇の比率値γは0.15程である。
【0031】
左右の噴出部2bから洗浄水の供給量は略300リットル/分程であり、又狭間領域7に流入する洗浄水量は約30リットル/分で供給される洗浄水の略10%程である。
【0032】
狭間領域7に流入した洗浄水は、10cm間隔の上下にある各1000watt(ワット)の超音波振動子4によってこの領域に生起するランダムで強力な超音波振動によって、洗浄水中に溶存させていた酸素と窒素は下式のように分解されて過酸化水素水と硝酸等が生成され、これらによる高い殺菌力・脱脂力及びキャビテーションと併せて高い洗浄力を発現する。
【0033】
【化1】

【0034】
この実施例の狭間領域7を通過(流入)する流量と非通過(流入しない)流量の分流比率(q/q)は略0.1であり、狭間領域7の容積Lは12リットルであり、左右からの狭間領域7の洗浄水の流入面積Sは約30cm×10cm×2=600cmであり、それへの流入速度は50cm/分で、超音波振動子の総出力は2000watt(ワット)であるので、(Wt/(v*S))の値は4.0であり、又(Wt/q)、(Wt/(k*Q))でも4.0となる。
【0035】
狭間領域7への洗浄水の流入速度は、15〜100cm/分が実用的であり好ましくは20〜60cm/分である。下限値より小さくすると、高濃度に酸素と窒素とを溶存させた洗浄水の流入量が不足して過酸化水素水と硝酸の生成が少なく洗浄殺菌力が少なくなる。又上限値を超えると、生成した過酸化水素水と硝酸、キャビテーションが流出して散失してやはり洗浄殺菌効果が弱くなる。
又、超音波振動子の総電力Wtにも影響し、(Wt/(v*S))の値が0.67〜13.3の範囲が実用的であり、1.1〜10.0の範囲が好ましい範囲であることが分かった。
【0036】
このように、強力なソノケミストリー反応を狭間領域7に生起させている状態で、搬送コンベヤ3を作動させ、被洗浄物Aを搬送コンベヤ3で受水槽1を介して洗浄槽2の開口2aを介して洗浄槽2内の洗浄水中へ被洗浄物Aを送り出し、被洗浄物を狭間領域7を一定速度で通過させる。これによって狭間領域に集中的に与えられている水の強力な超音波振動、キャビテーション及び過酸化水素水、硝酸等で被洗浄物Aを強力に洗浄殺菌することができた。
【0037】
狭間領域に強力なソノケミストリー反応が生じていることを、洗浄水中にルミノール液を混入して狭間領域でのルミノール液の酸化による青白い光の発生状況で目視観察した。本実施例では狭間領域全体に強い大きな青白い発光を目視できたが、上方の超音波発振子の作動を停止すると、発光は作動させている下方の超音波振動子のある側の部分的なもので発光も弱いものであった。
【0038】
更に、水槽中に洗浄水を貯えて超音波振動を与えるバッチ式の従来の超音波洗浄機と、本実施例の超音波洗浄装置を用いて、ブタや牛の血を塗布した医療用インジケータを洗浄した所、従来のバッチ式では血等の汚れが完全に落ちるまでには90〜120分を要したが、本実施例の洗浄では1〜5分で済み、きわめて短時間で医療用インジケータを完全に洗浄できた。
【0039】
図5に示す他の実施例は、前記実施例の邪魔板8を使わずに水量と流速を調整する例である。供給管6を分岐して狭間領域7へ洗浄水を直接送るようにし、又洗浄槽2の洗浄水は下方の散水管23からシャワー状に吹き出して下方の受水槽1で回収される。溶解部は散水管23と受水槽1とで構成された例で、分岐管20の途中に設けた水量調整弁21で分流比率を0.1程度となるようにし、分岐管20の先端の吹出部22から狭間領域7に向けて左右対向するように流入させて、その流速を20〜60cm/分となるように水量調整弁21と吹出部の吹出面積で調整した例である。又、溶解部は洗浄水がシャワー状に吹き出してより水の細かい粒子状にして大気中の酸素と窒素を溶解し易くしている。他の構成、作用効果は前記実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の技術は、電子部品・機械加工品・医療器具・メダルや硬貨・入れ歯等に付着した汚れや油分等を洗浄殺菌する用途に利用される。また、超音波振動子を左右に対向して配置し、その間の空間に部屋の空気を微細な気泡にして下方から送り込んで洗浄殺菌する空気清浄にも応用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 受水槽
1a 通過口
2 洗浄槽
2a 開口
2b 噴出部
2c 一時貯水部
3 搬送コンベヤ
4 超音波振動子
5 ポンプ
6 供給管
7 狭間領域
8 邪魔板
9 ゴミ除去部
20 分岐管
21 水量調整弁
22 吹出部
23 散水管
A 被洗浄物
W 洗浄水
Wa 水カーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に酸素及び窒素を高濃度に溶存させた洗浄水が連続的に供給されて洗浄水を貯える洗浄槽内に、発振面が洗浄水の水面下に浸漬するように且つ互に発振面が対向するように複数の超音波振動子を配置し、対向する発振面によってはさまれた又は囲まれた狭間領域に酸素と窒素を高濃度に溶存させた洗浄水が15〜100cm/分の範囲の流速で流入するようにするとともに、被洗浄物を上記狭間領域に所定時間置き、上記狭間領域において対向する超音波振動子の超音波振動によって洗浄水中の溶存酸素と窒素とを分解して過酸化水素と硝酸とを発生させて被洗浄物の洗浄と殺菌を行うことを特徴とする、超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項2】
狭間領域の洗浄水の流速の範囲が20〜60cm/分である、請求項1記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項3】
高濃度に酸素と窒素とを溶存させた洗浄水を狭間領域の対向する左右側面から互に対向する方向に流入させ、狭間領域の前後の側面から流出させることで洗浄水の流速を供給の流速から減速させて狭間領域での流速の範囲にする、請求項1又は2記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項4】
狭間領域をはさむ又は囲む複数の超音波振動子の総電力をWtとし、狭間領域への洗浄水の流入面積をSとし、狭間領域を流れる洗浄水の平均流速をvとすると、単位cm,秒,ワットで次の不等式1の 0.67<(Wt/(v*S))<13.3 の条件を満足させるようにして洗浄力と殺菌力を高める、請求項1〜3記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項5】
不等式の条件が更に減縮されて、単位cm,秒,ワットで次の不等式2の 1.1<(Wt/(v*S))<10.0 を満足するようにした、請求項4記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれかの超音波を用いた物品の洗浄方法において、酸素と窒素とを高濃度に溶存させた洗浄水を洗浄槽内へ連続的に供給するとともに、供給された洗浄水の一部のみが狭間領域を通過するように流した後供給された洗浄水全量を連続的に洗浄槽から排出し、排出した洗浄水を酸素と窒素とを溶存させる溶解部へ送り、同溶解部で溶存濃度を高めて酸素と窒素とも高濃度に溶存させた後ポンプで洗浄槽に供給して洗浄水を循環使用するとともに、洗浄槽内に供給される洗浄水のうち狭間領域を通過する流量の狭間領域を通過しないで排水される流量に対する分流比率が溶解部の洗浄水中の溶存の酸素又は窒素の各濃度上昇の比率のうち低い方の上昇比率より小さくなるようにし、洗浄槽に供給する洗浄水が常時酸素と窒素とを高濃度に溶存させるようにして連続洗浄を可能とした、超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項7】
洗浄槽の左右側壁面それぞれに開口を設け、左右の同開口を介して洗浄槽内の水中を移動して被洗浄物が洗浄水面下の狭間領域を通過するように搬送する搬送コンベヤを設け、洗浄槽に供給される洗浄水を槽内側の左右の開口付近で水膜状に吹き出して水カーテンを形成し、左右の開口から洗浄槽内の洗浄水が大量に排水するのを抑止し、更に吹き出した洗浄水の一部が槽内に設けた邪魔板によって減速されながら誘導されて狭間領域の左右側面から互に対向するように流入するようにした、請求項6記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。
【請求項8】
洗浄槽の開口から洗浄水を水膜又は水脈状に大気中に落下させ、落下途中において大気中の酸素と窒素と接触してこれらを洗浄水に溶存させ、洗浄槽の下方の受水槽で落下する洗浄水を回収し、回収した洗浄水をポンプで洗浄槽に送って供給するようにし、溶解部が洗浄槽の開口と同開口の下方に配置した受水槽とから形成される、請求項7記載の超音波を用いた物品の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−56408(P2011−56408A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209359(P2009−209359)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【特許番号】特許第4485598号(P4485598)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(391053825)
【Fターム(参考)】