説明

車両のクルーズコントロール装置

【課題】先行車ロスト時における減速度に応じて速やかに制動を解除できる車両のクルーズコントロール装置を提供する。
【解決手段】アダプティブクルーズコントローラは、追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時を判定する先行車ロスト時判定手段(ステップ3)と、先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)より高い場合に減速度を所定の低速モードで減少させる低速モード制動解除手段(ステップ7,8,9)と、先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)以下の場合に減速度を所定の高速モードで減少させる高速モード制動解除手段(ステップ7,9)とを備え、低速モード制動解除手段は高速モード制動解除手段より減速度を減少させる速度が低い領域を持つ構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行車との車間距離を維持するクルーズコントロールを行う車両のクルーズコントロール装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のクルーズコントロール装置は、例えば追従する先行車に接近して自車の制動が行われている状況で、先行車が車線変更等を行って自車の前方からいなくなる先行車ロスト時に、制動を解除した後に再加速してクルーズコントロールの目標車速に復帰させるようになっている。
【特許文献1】特開2003−63272号公報
【特許文献2】特開2004−142708号公報
【特許文献3】特開平11−157358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の車両のクルーズコントロール装置にあっては、減速度を先行車ロスト時からの経過時間に応じて0m/s2まで徐々に減少して制動を解除するようになっていたため、状況によっては制動の解除に時間がかかり過ぎ、トラック等の大型車両では再加速してクルーズコントロールの目標車速に復帰させるのが遅れ、ドライバに違和感を与える可能性があった。
【0004】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、先行車ロスト時における減速度に応じて速やかに制動を解除できる車両のクルーズコントロール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段と、検出される先行車との車間距離を維持するように自車速度を制御してクルーズコントロールを行う車速制御手段とを備える車両のクルーズコントロール装置において、追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時を判定する先行車ロスト時判定手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値より高い場合に減速度を所定の低速モードで減少させる低速モード制動解除手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値以下の場合に減速度を所定の高速モードで減少させる高速モード制動解除手段とを備え、低速モード制動解除手段は高速モード制動解除手段より減速度を減少させる速度が低い領域を持つ構成とした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、先行車ロスト時における減速度に応じて減速度の急激な変化を抑制してドライバにショック感を与えることなく、制動を速やかに解除することができる。
【0007】
これにより、トラック等の大型車両であっても、先行車ロスト時に制動を速やかに解除し、再加速してクルーズコントロールの目標車速に復帰させる時間を短縮し、ドライバに違和感を与えないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0009】
図1に示すように、車両のパワートレインは、エンジン1、トランスミッション2を備え、トランスミッション2の出力軸の回転がプロペラシャフト3からデファレンシャルギア4およびドライブシャフト等を介して左右の後輪5に伝達される。
【0010】
エンジン1は、内燃機関であり、供給される燃料をシリンダ内で燃焼させ、シリンダ内におけるピストンの往復運動により出力軸を回転駆動する。
【0011】
エンジンコントローラ10は、図示しないエンジン回転センサ、アクセル開度センサ、補助ブレーキスイッチ等の出力信号を入力するとともに、各コントローラ20、30、40、50との間で通信回線9を介して情報を送受信し、車速度制御系13が燃料噴射制御系11、エキゾーストブレーキ12の作動を制御する。この燃料噴射制御系11は、エンジン1の燃料噴射量を制御し、エンジン1の発生出力を調節する。
【0012】
エキゾーストブレーキ12は、図示しない排気通路に介装されるシャッタを閉じ、エンジン1の排気圧力を高めてエンジンブレーキ力を高める。
【0013】
トランスミッションコントローラ20は、図示しない車速度センサの出力信号を入力するとともに、各コントローラ10、30、40、50との間で通信回線9を介して情報を送受信し、トランスミッション2の変速比を制御する。
【0014】
リターダコントローラ30は、補助ブレーキスイッチ等の出力信号を入力するとともに、各コントローラ10、20、40、50との間で通信回線9を介して情報を送受信し、リターダ31の作動を制御する。補助ブレーキとしてパワートレインに設けられる電磁式リターダ31は、発電電力により後輪5の制動力を発生する。
【0015】
主ブレーキコントローラ40は、ドライバによって操作されるフットブレーキペダルの踏み込み量を検出するフットブレーキセンサ(図示せず)等の出力信号を入力するとともに、各コントローラ10、20、30、50との間で通信回線9を介して情報を送受信し、フットブレーキセンサの出力信号に基づく減速度とコントローラ50からの指令値に基づく減速度を比較し、両者のうち減速度の大きい方を選択して主ブレーキシステム45の作動を制御する。
【0016】
主ブレーキシステム45は、ブレーキバルブ42が各ブレーキアクチュエータ43に導かれる制動エア圧を調節し、各ブレーキアクチュエータ43が図示しないブレーキ機構を介して前輪6、後輪5に制動力を付与する。
【0017】
クルーズコントロール装置は、アダプティブクルーズコントローラ(ACC ECU)50を備える。このアダプティブクルーズコントローラ50は、ドライバによって操作されるACC操作系51、車間距離レーダ53の出力信号をそれぞれ入力するとともに、各コントローラ10、20、30、40との間で通信回線9を介して情報を送受信し、先行車との車間距離を維持しながら車速度を目標値に近づけるように制御するクルーズコントロールを行う。
【0018】
ACC操作系51は、クルーズコントロールをON・OFFするメインスイッチと、クルーズコントロール制御の解除後に復帰させるリジュームスイッチと、クルーズコントロール時の目標車速度を設定する車速セットスイッチと、車間距離の目標値を設定するタップスイッチ等を備え、これらがドライバによって操作される。
【0019】
ACC表示系52は、クルーズコントロールの作動状況を表示し、これをドライバに知らせる。
【0020】
車間距離検出手段として設けられる車間距離レーダ53は、例えばミリ波帯の電波を介して車両前方に存在する反射物(前方車両、障害物等)との距離、相対速度及び方位角度を検知する電波レーダが用いられる。
【0021】
アダプティブクルーズコントローラ50の車間距離制御系56は、自車の車速度に応じた目標車間距離を算出するとともに、先行車との車間距離及び相対速度に応じて加減速度を算出し、加減速度指令を各コントローラ10、20、30、40に指令する。車間距離制御系56は、先行車への接近により先行車との車間距離が目標車間距離より小さくなった場合、算出した減速度に応じてエンジン1のエンジンブレーキ、エキゾーストブレーキ12、リターダ31、主ブレーキシステム45を順に作動させる。これにより先行車との車間距離を維持して走行するクルーズコントロールが行われる。
【0022】
そして本発明の要旨とするところであるが、アダプティブクルーズコントローラ50は、追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時を判定する先行車ロスト時判定手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)より高い場合に減速度を所定の低速モードで減少させる低速モード制動解除手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)以下の場合に減速度を所定の高速モードで減少させる高速モード制動解除手段とを備え、低速モード制動解除手段は高速モード制動解除手段より減速度を減少させる速度が低い領域を持つ構成とする。
【0023】
具体的に、低速モード制動解除手段は、所定の短時間(0.5s)、減速度減速度を先行車ロスト時からの経過時間に応じて所定値(0.98m/s2)まで漸次減少し、この所定値(0.98m/s2)に達したら減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除する。
【0024】
高速モード制動解除手段は先行車ロスト時に減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除する。
【0025】
図2のフローチャートは上記クルーズコントロールを解除するルーチンを示しており、アダプティブクルーズコントローラ50において一定周期毎に実行される。
【0026】
これについて説明すると、まず、ステップ1にて、アダプティブクルーズコントローラ50、車間距離レーダ53を作動させる。
【0027】
続く、ステップ2にて、車間距離レーダ53の検出値信号に基づく先行車との車間距離及び相対速度を検出する。
【0028】
続く、ステップ3にて、追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時かどうかを判定する。なお、ステップ3の処理が先行車ロスト時判定手段に相当する。
【0029】
ここで、先行車ロスト時でないと判定された場合、ステップ4に進んで、追従する先行車との車間距離及び相対速度に応じて減速度を算出し、続くステップ5にて算出した減速度を主ブレーキコントローラ40に送信し、続くステップ6にて算出した減速度を保存する。
【0030】
一方、先行車ロスト時であると判定された場合、ステップ7に進んで、保存した減速度が所定値(1.96m/s2)より高いかどうかを判定する。
【0031】
保存した先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)より高い場合に、ステップ8、ステップ9に進んで、減速度を低速モードを実行する。すなわち、ステップ8にて、減速度を、所定の短時間で、先行車ロスト時からの経過時間に応じて所定値(0.98m/s2)まで漸次減少し、この所定値(0.98m/s2)に達したら、ステップ9に進んで減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除する。
【0032】
保存した先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)以下の場合に、ステップ8を迂回してステップ9に進んで、低速モード制動解除手段を実行し、減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除する。
【0033】
ステップ10にて保存した減速度をクリアする。
【0034】
なお、ステップ7,8,9の処理が高速モード制動解除手段に相当し、ステップ7,9の処理が低速モード制動解除手段に相当する。
【0035】
図3の(a)、(b)は、先行車ロスト時に減速度が変化する様子を示すタイミングチャートである。
【0036】
先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)より高い場合には、図3の(a)に破線で示すように、減速度が所定の短時間(0.5s)に渡って先行車ロスト時からの経過時間に応じて所定値(0.98m/s2)まで徐々に減少し、この所定値(0.98m/s2)に達したら減速度が瞬時に0m/s2まで減少して制動が解除される。
【0037】
これにより、先行車ロスト時に減速度が1.96m/s2より高い急制動時に、減速度の急激な変化を抑制してドライバにショック感を与えないことと、制動を速やかに解除することを両立できる。
【0038】
先行車ロスト時における減速度が所定値(1.96m/s2)以下の場合には、図3の(b)に破線で示すように、先行車ロスト時に減速度は瞬時に0m/s2まで減少して制動が解除される。
【0039】
これにより、先行車ロスト時に減速度が1.96m/s2以下の緩制動時に、制動を速やかに解除できる。
【0040】
なお、図3の(a)、(b)に実線で示すように、減速度を先行車ロスト時からの経過時間に応じて0m/s2まで徐々に減少した場合、制動を解除するのに時間がかかり過ぎ、トラック等の大型車両では再加速してクルーズコントロールの目標車速に復帰させるの時間がかかり、ドライバに違和感を与える可能性があった。
【0041】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0042】
(ア)先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段と、検出される先行車との車間距離を維持するように自車速度を制御してクルーズコントロールを行う車速制御手段とを備える車両のクルーズコントロール装置において、追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時を判定する先行車ロスト時判定手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値より高い場合に減速度を所定の低速モードで減少させる低速モード制動解除手段と、先行車ロスト時における減速度が所定値以下の場合に減速度を所定の高速モードで減少させる高速モード制動解除手段とを備え、低速モード制動解除手段は高速モード制動解除手段より減速度を減少させる速度が低い領域を持つ構成としたため、先行車ロスト時における減速度に応じて減速度の急激な変化を抑制してドライバにショック感を与えることなく、制動を速やかに解除することができる。これにより、トラック等の大型車両であっても、先行車ロスト時に制動を速やかに解除し、再加速してクルーズコントロールの目標車速に復帰させる時間を短縮し、ドライバに違和感を与えないようにすることができる。
【0043】
(イ)低速モード制動解除手段は、所定の短時間、減速度を先行車ロスト時からの経過時間に応じて所定値まで漸次減少し、この所定値に達したら減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除し、高速モード制動解除手段は先行車ロスト時に減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除する構成としたため、先行車ロスト時における減速度に応じて速やかに制動を解除することができる。
【0044】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態を示す車両のクルーズコントロール装置の構成図。
【図2】同じくクルーズコントロールを解除するルーチンを示すフローチャート。
【図3】同じく減速度が変化する様子を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0046】
40 主ブレーキコントローラ
50 アダプティブクルーズコントローラ
53 車間距離レーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行車との車間距離を検出する車間距離検出手段と、
検出される先行車との車間距離を維持するように自車速度を制御してクルーズコントロールを行う車速制御手段とを備える車両のクルーズコントロール装置において、
追従する先行車が自車の前方からいなくなる先行車ロスト時を判定する先行車ロスト時判定手段と、
先行車ロスト時における減速度が所定値より高い場合に減速度を所定の低速モードで減少させる低速モード制動解除手段と、
先行車ロスト時における減速度が前記所定値以下の場合に減速度を所定の高速モードで減少させる高速モード制動解除手段とを備え、
前記低速モード制動解除手段は前記高速モード制動解除手段より減速度を減少させる速度が低い領域を持つことを特徴とする車両のクルーズコントロール装置。
【請求項2】
前記低速モード制動解除手段は、所定の短時間、減速度を先行車ロスト時からの経過時間に応じて所定値まで漸次減少し、この所定値に達したら減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除し、
前記高速モード制動解除手段は先行車ロスト時に減速度をステップ状に0m/s2まで減少させて制動を解除することを特徴とする請求項1に記載の車両のクルーズコントロール装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−216776(P2007−216776A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38015(P2006−38015)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】