車両の制御方法及び車両の制御装置
【課題】車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる車両の制御方法及び車両の制御装置を提供する。
【解決手段】運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止する場合、ブレーキ用ECUは、車両が停止する前に、自動変速機の入力クラッチを作動させてエンジンから後輪への動力伝達効率を低減させる(第4のタイミングt24)。その後、運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止した場合、ブレーキ用ECUは、各リニア電磁弁に対する電流値Islを調整して車両に対する制動力を保持させる(第5のタイミングt25)。
【解決手段】運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止する場合、ブレーキ用ECUは、車両が停止する前に、自動変速機の入力クラッチを作動させてエンジンから後輪への動力伝達効率を低減させる(第4のタイミングt24)。その後、運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止した場合、ブレーキ用ECUは、各リニア電磁弁に対する電流値Islを調整して車両に対する制動力を保持させる(第5のタイミングt25)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の停止時にその停止の維持を図る車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止した場合には、車両の燃費向上を目的として、いわゆるニュートラル制御が実行される。このニュートラル制御は、自動変速機の入力クラッチを半係合状態(又は解放状態)に調整することにより、駆動源(例えば、エンジン)から車輪への動力伝達効率を低減させる制御である(特許文献1参照)。こうしたニュートラル制御が実行された場合、トルクコンバータを有する車両に特有のクリープ現象に基づいたクリープ力は、ニュートラル制御が実行されない場合と比較して小さくなる。なお、クリープ力とは、アイドリング時におけるエンジンの回転数に対応した駆動力のことである。
【0003】
ところで、運転手によるブレーキペダルの操作によって登坂路を走行する車両が停止した場合においてニュートラル制御が実行されると、車輪に付与されるクリープ力が小さくなるため、車両が後退する可能性がある。これは、登坂路で車両が停止する場合には、クリープ力が車両の後退を抑制する力として車両に作用するためである。そこで、近年では、ニュートラル制御時における車両の後退を抑制するための装置として、例えば特許文献2に記載の停止制御装置が提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献2に記載の停止制御装置は、車両が停止してニュートラル制御が実行された場合、図11に示すように、エンジン側から車輪に伝達されるクリープ力が減少するにつれて、車輪に付与される制動力が増大するようにブレーキアクチュエータを作動させる(第1のタイミングt101)。その結果、登坂路で停止した車両でニュートラル制御が実行されたとしても、運転手が意図しない車両の後退が抑制されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165360号公報
【特許文献2】特開2006−312378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブレーキアクチュエータは、車輪に個別対応するホイールシリンダ内のブレーキ液圧を増大させるべく作動するポンプと、ホイールシリンダとポンプとを連結する流路に配置されるリニア電磁弁とを備えている。そして、車両の停止中にニュートラル制御が実行された場合、車輪に伝達されるクリープ力の減少量に相当する分、車輪に対する制動力を増大させるべくポンプが作動する(第1のタイミングt101)。この際、ポンプ(及び該ポンプの駆動源となるモータ)からは、作動に伴う作動音が発生する。こうした作動音は、車両の乗員に対して不快感を与える原因となり得る。また、ニュートラル制御が実行されてからポンプが作動し、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が上昇して車輪に対する制動力が実際に増大するまでには時間差が生じる。そのため、登坂路で車両が停止してニュートラル制御が実行された場合には、車輪に対する制動力が実際に増大するまでの間に車両が僅かに後退するおそれがあった。
【0007】
なお、こうした問題は、モータを駆動源とする電気自動車などであっても同様の問題が発生するおそれがある。すなわち、電気自動車は、モータを発電機として作動させ、停止時に回生制動力を車輪に付与する。そのため、車両停止時にニュートラル制御に相当する制御が実行されると、車輪に付与される回生制動力が減少する。よって、ブレーキアクチュエータのポンプは、回生制動力の減少を補うために車輪に付与する制動力を増大させるべく作動することになる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる車両の制御方法及び車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制御方法は、車両の運転者によるブレーキ操作に応じた制動力が車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される際に実行される車両の制御方法であって、車両の停止前に、該車両の駆動源(12)から車輪(FR,FL,RR,RL)への動力伝達経路(19,20)に配置される入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が低下するように作動させる効率低下ステップ(S32)と、前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持ステップ(S37)と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、車両が停止する前に、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率が低下される。そのため、車両が停止した後に該車両の停止を維持させるためには、運転手によるブレーキ操作によって車輪に付与された制動力を保持させるだけでよい。すなわち、車輪に対する制動力を車両側で自動的に増大させるために、ポンプやモータなどを作動させなくてもよい。したがって、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる。
【0011】
本発明の車両の制御方法において、前記車輪(FR,FL,RR,RL)には、該車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応するホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内に発生した流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、車両が停止する路面の傾斜角(θ)を取得させる傾斜角取得ステップ(S60,S66)をさらに有し、前記制動力保持ステップ(S37)では、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧を、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で取得した路面の傾斜角(θ)が大きいほど高圧な状態で保持することを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、ホイールシリンダ内の流体圧は、車両が停止する路面の傾斜角(又は勾配)が大きいほど高圧で維持される。すなわち、車輪に対する制動力は、路面の傾斜角が大きいほど大きな値で保持される。したがって、路面の傾斜角に関係なく、運転手によるブレーキ操作が解消されたときでも運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0013】
本発明の車両の制御方法において、前記制動力保持ステップ(S37)では、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で路面の傾斜角(θ)を取得不能である場合、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を予め設定された設定流体圧(Pwc1)とすることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、路面の傾斜角が取得できていない時点で車両が停止した場合には、ホイールシリンダ内の流体圧は、予め設定された設定値に調整される。そのため、設定値を、想定する路面の傾斜角の最大値に相当する流体圧以上に設定した場合には、路面の傾斜角に関係なく、運転手によるブレーキ操作が解消されたときでも運転手の意図しない車両の移動を抑制できる。
【0015】
本発明の車両の制御方法は、前記制動力保持ステップ(S37)と同時、又は前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記駆動源(12)を停止させる駆動源停止ステップ(S38)をさらに有し、前記効率低下ステップ(S32)では、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達が遮断されるように作動させることを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、駆動源から車輪への駆動力の伝達が遮断された状態で車両が停止する。そして、車両の停止後では駆動源が停止されるため、車両の燃費向上に貢献できる。
本発明の車両の制御方法は、前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が前記効率低下ステップ(S32)の実行前に近づくように作動させる効率回復ステップ(S38)をさらに有することを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、車輪に対する制動力が保持される場合、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率は、効率低下ステップの実行前の状態に近づく。そのため、停止した車両を再発進させる際には、該車両の速やかな発進に貢献できる。
【0018】
本発明の車両の制御方法は、車両の車体減速度(DVS、G)を取得させる減速度取得ステップ(S11、S14)と、取得した車体減速度(DVS、G)が大きいほど車体速度閾値(KVS)を大きな値に設定させる閾値設定ステップ(S30)と、をさらに有し、前記効率低下ステップ(S32)を、車両の車体速度(VS)が前記閾値設定ステップ(S30)で設定した車体速度閾値(KVS)以下となった場合に実行させることを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、効率低下ステップの開始タイミングを設定するための車体速度閾値は、車体減速度が大きいほど大きな値に設定される。そのため、車両を停止させる際の該車両の車体減速度に関係なく、車両が停止する前に、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率を低下させることができる。
【0020】
本発明の車両の制御方法において、車両には、前記駆動源(12)からの駆動力(Fd)が伝達される複数の車輪(FR,FL,RR,RL)と、該各車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する複数のホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)とが設けられ、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)とを連結する各流路(33,34,36a,36b,36c,36d)には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を調整するための複数の調整弁(35a,35b)がそれぞれ設けられ、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)には前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、前記制動力保持ステップ(S37)の後において車両の走行を再開させる場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力の減少態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S45,S46,S47)をさらに有することを要旨とする。
【0021】
各調整弁が正常に作動する場合、各車輪の車輪速度は、該各車輪に対する制動力の減少態様に個別対応した変化をそれぞれ示すはずである。そこで、本発明では、各車輪に対する制動力の減少態様が互いに異なるように各調圧弁をそれぞれ作動させた際に取得する各車輪の車輪速度に基づき、前記各調整弁の中に異常を示す調整弁が有るか否かが判定される。したがって、異常を示す調整弁が有るか否かを検出できる。
【0022】
本発明の車両の制御方法において、今回の異常判定ステップでは、第1の車輪に対する制動力のほうが第2の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、次回の異常判定ステップでは、第2の車輪に対する制動力のほうが第1の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを要旨とする。
【0023】
上記構成によれば、今回の異常判定ステップでは、第1の車輪の車輪速度のほうが第2の車輪の車輪速度よりも先に大きくなるはずである。このとき、第2の車輪の車輪速度のほうが第1の車輪の車輪速度よりも先に大きくなった場合には、第2の車輪に対応する調整弁が異常であると判定できる。また、次回の異常判定ステップでは、第2の車輪の車輪速度のほうが第1の車輪の車輪速度よりも先に大きくなるはずである。このとき、第1の車輪の車輪速度のほうが第2の車輪の車輪速度よりも先に大きくなった場合には、第1の車輪に対応する調整弁が異常であると判定できる。したがって、各調整弁のうち異常を示す調整弁を特定できる。
【0024】
本発明の車両の制御方法において、前記異常判定ステップ(S45,S46,S47)で異常を示す調整弁があると判定した場合、次回以降の車両停止時では、前記効率低下ステップ(S32)の実行を規制させることを要旨とする。
【0025】
異常を示す調整弁がある場合であっても効率低減ステップが実行されると、運転手がブレーキ操作を解消したときに、車輪に対する制動力を適切に保持できないため、運転手が意図しない車両の移動が発生するおそれがある。この点、本発明では、異常を示す調整弁がある場合には、効率低下ステップは実行されない。よって、効率低下ステップが実行される車両停止時には、該効率低下ステップによって車輪に対する制動力が保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0026】
一方、本発明の車両の制御装置は、車両の運転者によるブレーキ操作によって車両が停止した場合に、該車両の停止を維持する車両の制御装置であって、車両には、駆動源(12)と、該駆動源(12)で発生した駆動力が動力伝達経路(19,20)を介して伝達される車輪(FR,FL,RR,RL)と、前記動力伝達経路(19,20)に設けられる入力クラッチ(21)とが設けられており、前記入力クラッチ(21)及び前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を制御する制御手段(17,22,25)を備え、前記制御手段(17,22,25)は、車両の停止前に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率を低下させるべく前記入力クラッチ(21)を作動させる伝達効率低下制御を行い、前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持制御を行なうことを要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、上記車両の制御方法と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態における車両を模式的に示すブロック図。
【図2】制動装置を模式的に示すブロック図。
【図3】ホイールシリンダ内のWC圧とリニア電磁弁の電磁コイルに供給する電流値との関係を示すマップ。
【図4】実減速度と車体速度閾値との関係を示すマップ。
【図5】本実施形態の停止発進制御処理ルーチンを説明するフローチャート(前半部分)。
【図6】本実施形態の停止発進制御処理ルーチンを説明するフローチャート(後半部分)。
【図7】路面の傾斜角の演算処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図8】(a)はアクセルペダルの操作状況を説明するタイミングチャート、(b)はホイールシリンダ内のWC圧の変化を説明するタイミングチャート、(c)は各リニア電磁弁が正常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(d)は左後輪側のリニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(e)は右後輪側のリニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(f)は各リニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート。
【図9】(a)は車両の推定車体速度の変化を説明するタイミングチャート、(b)は車両の実減速度の変化を説明するタイミングチャート、(c)は減速度センサ値の変化を説明するタイミングチャート、(d)は路面の傾斜角を説明するタイミングチャート、(e)はアクセルペダルの操作状況を説明するタイミングチャート、(f)はブレーキスイッチの変化を説明するタイミングチャート、(g)は自動変速機の変速段の変化を説明するタイミングチャート、(h)はエンジンの回転数の変化を説明するタイミングチャート、(i)は減圧急勾配側の車輪を説明するタイミングチャート、(j)は右後輪側のリニア電磁弁に対する電流値の変化を説明するタイミングチャート、(k)は左後輪側のリニア電磁弁に対する電流値の変化を説明するタイミングチャート、(l)はマスタシリンダ及びホイールシリンダ内の圧力の変化を説明するタイミングチャート。
【図10】登坂路を走行する車両に加わる力の関係を説明する作用図。
【図11】(a)(b)(c)は従来において車体速度及び制動力の変化と、ポンプが作動するタイミングとを説明するタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図10に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、後輪RR,RLが駆動輪として機能するいわゆる後輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を発生する駆動源としてのエンジン12を有する駆動力発生装置13と、該駆動力発生装置13で発生した駆動力を後輪RR,RLに伝達する駆動力伝達装置14とを備えている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル15の操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するための制動装置16が設けられている。
【0031】
駆動力発生装置13は、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に配置され、且つ該エンジン12に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置(図示略)を備えている。こうした駆動力発生装置13は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するエンジン用ECU17(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)の制御に基づき駆動する。このエンジン用ECU17には、アクセルペダル11の近傍に配置され、且つ運転手によるアクセルペダル11の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU17は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づき駆動力発生装置13を制御する。
【0032】
駆動力伝達装置14は、運転手によって操作されるシフト装置18と、該シフト装置18によって設定されたシフトレンジに応じて作動し且つエンジン12の出力軸に接続された有段式の自動変速機19とを備えている。また、駆動力伝達装置14には、自動変速機19の出力軸から伝達された駆動力を適宜配分して後輪RR,RLに伝達するディファレンシャルギヤ20が設けられている。したがって、本実施形態では、自動変速機19及びディファレンシャルギヤ20によって、エンジン12で発生した駆動力を後輪RR,RLに伝達するための動力伝達経路が構成される。
【0033】
シフト装置18は、前進走行レンジ(「Dレンジ」ともいう。)、後進用走行レンジ(「Rレンジ」ともいう。)、ニュートラルレンジ(「Nレンジ」ともいう。)及びパーキングレンジ(「Pレンジ」ともいう。)を含む複数のシフトレンジを有している。Dレンジには、車両の推定車体速度や車体加速度などに応じて自動的に変速段を変更させる自動変速モードと、運転手によるシフト操作によって変速段を運転手の意図通りに変更させる手動変速モードとが含まれている。また、Nレンジ及びPレンジは、エンジン12からの駆動力を自動変速機19で遮断し、後輪RR,RLへの駆動力の伝達を規制するためのレンジである。
【0034】
自動変速機19は、トルクコンバータを有する流体式駆動力伝達機構と、複数の前進用変速段(例えば、6速変速段)及び後進用変速段などを有する変速機構とを備えている。この変速機構には、シフト装置18のシフトレンジがDレンジやRレンジである場合には係合状態に設定される一方、シフト装置18のシフトレンジがNレンジやPレンジである場合には解放状態に設定される入力クラッチ21が設けられている。この入力クラッチ21は、図示しない油圧調整部による油圧制御によって作動する。そして、エンジン12からの駆動力は、入力クラッチ21が係合状態である場合には流体式駆動力伝達機構及び変速機構を介してディファレンシャルギヤ20に伝達される一方、入力クラッチ21が解放状態である場合には変速機構の入力クラッチ21によって遮断されてディファレンシャルギヤ20に伝達されない。
【0035】
また、駆動力伝達装置14は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するAT用ECU22(「AT用電子制御装置」ともいう。)の制御によって駆動する。このAT用ECU22は、車両の推定車体速度、運転手によるアクセルペダル11、ブレーキペダル15及びシフト装置18の操作状況などに応じて、自動変速機19及びディファレンシャルギヤ20を適宜制御する。
【0036】
制動装置16は、図1及び図2に示すように、マスタシリンダ25、ブースタ26及びリザーバ27を有する液圧発生装置28と、2つの液圧回路29,30を有するブレーキアクチュエータ31(図2では二点鎖線で示す。)とを備えている。各液圧回路29,30は、液圧発生装置28のマスタシリンダ25にそれぞれ接続されている。そして、第1液圧回路29には、右前輪FR用のホイールシリンダ32a及び左後輪RL用のホイールシリンダ32dが接続されると共に、第2液圧回路30には、左前輪FL用のホイールシリンダ32b及び右後輪RR用のホイールシリンダ32cが接続されている。
【0037】
液圧発生装置28においてブースタ26は、エンジン12の図示しないインテークマニホールドに接続され、該インテークマニホールド内には、エンジン12の駆動時に負圧が発生する。そして、ブースタ26は、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダル15の操作力を倍力する。すなわち、本実施形態のブースタ26は、エンジン12の駆動時にのみ作動するブースタである。
【0038】
そして、エンジン12の駆動時であって且つブレーキペダル15が車両の運転者によって操作された場合には、マスタシリンダ25及びブースタ26がそれぞれ作動する。その結果、マスタシリンダ25からは、液圧回路29,30を介してホイールシリンダ32a〜32d内に流体としてのブレーキ液がそれぞれ供給される。すると、各車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ32a〜32d内のホイールシリンダ圧(「WC圧」ともいう。)に応じた制動力がそれぞれ付与される。
【0039】
ブレーキアクチュエータ31において各液圧回路29,30は、連結経路33,34を介してマスタシリンダ25にそれぞれ接続されており、該各連結経路33,34には、常開型のリニア電磁弁(調整弁)35a,35bがそれぞれ設けられている。これら各リニア電磁弁35a,35bは、弁座、弁体、電磁コイル及び弁体を弁座から離間する方向に付勢する付勢部材(例えば、コイルスプリング)をそれぞれ備えており、各弁体は、後述するブレーキ用ECU55から電磁コイルに供給される電流値に応じてそれぞれ変位する。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、リニア電磁弁35a,35bに供給される電流値に応じた液圧で維持される。
【0040】
第1液圧回路29には、ホイールシリンダ32aに接続される右前輪用経路36aと、ホイールシリンダ32dに接続される左後輪用経路36dとが形成されている。また、第2液圧回路30には、ホイールシリンダ32bに接続される左前輪用経路36bと、ホイールシリンダ32cに接続される右後輪用経路36cとが形成されている。したがって、本実施形態では、連結経路33,34及び各経路36a〜36dにより、マスタシリンダ25とホイールシリンダ32a〜32dとを連結する流路が構成される。また、各経路36a〜36dには、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁37a,37b,37c,37dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁38a,38b,38c,38dとが設けられている。
【0041】
また、各液圧回路29,30には、各ホイールシリンダ32a〜32dから減圧弁38a〜38dを介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ39,40と、モータ41の回転に基づき作動するポンプ42,43とがそれぞれ接続されている。各リザーバ39,40は、吸入用流路44,45を介してポンプ42,43にそれぞれ接続されると共に、マスタ側流路46,47を介して連結経路33,34においてリニア電磁弁35a,35bよりもマスタシリンダ25側にそれぞれ接続されている。また、各ポンプ42,43は、供給用流路48,49を介して液圧回路29,30における増圧弁37a〜37dとリニア電磁弁35a,35bとの間の接続部位50,51にそれぞれ接続されている。そして、各ポンプ42,43は、モータ41が回転した場合に、リザーバ39,40及びマスタシリンダ25側から吸入用流路44,45及びマスタ側流路46,47を介してブレーキ液をそれぞれ吸引し、該ブレーキ液を供給用流路48,49内にそれぞれ吐出する。
【0042】
次に、ブレーキアクチュエータ31の駆動を制御するブレーキ用ECU55(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)について説明する。
図2に示すように、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE2,SE3,SE4,SE5、車両の前後方向における車体減速度を検出するための加速度センサSE6が電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、ブレーキペダル15の近傍に配置され、且つブレーキペダル15が操作されているか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1が電気的に接続されている。一方、ブレーキ用ECU55の出力側インターフェースには、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38d及びモータ41などが電気的に接続されている。なお、加速度センサSE6からは、車両が加速する場合には車両の重心が後方に移動するために正の値となるような信号が出力される一方、車両が減速する場合には車両の重心が前方に移動するために負の値となるような信号が出力される。
【0043】
また、ブレーキ用ECU55は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどから構成されるデジタルコンピュータ、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38dを作動させるための図示しない弁用ドライバ回路、及びモータ41を作動させるための図示しないモータ用ドライバ回路を有している。デジタルコンピュータのROMには、各種制御処理(後述する停止発進制御処理等)、各種マップ(図3及び図4に示すマップ等)及び各種閾値(後述する経過時間閾値、基準値等)などが予め記憶されている。また、RAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報(後述する車輪速度、推定車体速度、実減速度、減速度センサ値、傾斜角算出値、傾斜角、経過時間、所定時間、各フラグ、異常カウンタ等)などがそれぞれ記憶される。
【0044】
次に、ブレーキ用ECU55のROMに記憶される各種マップについて、図3及び図4に基づき説明する。
まず、図3に示す第1マップは、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcと、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給する電流値Islとの関係を示すマップである。図3に示すように、電流値Islは、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを高圧に設定する場合であるほど大きな値に設定される。すなわち、WC圧Pwcを「0(零)」に設定する場合、電流値Islは、最低電流値Iminに設定される。この最低電流値Iminよりも大きな電流値Islがリニア電磁弁35a,35bに供給された場合、リニア電磁弁35a,35bの弁体は、付勢部材からの付勢力に抗して弁体に接近すべく変位する。一方、WC圧Pwcが、想定する路面の傾斜角が最大(一例として30度)である場合であっても車両の停止を維持できるような設定流体圧としての最大液圧Pwc1(>0(零))である場合、電流値Islは、最大電流値Imaxに設定される。
【0045】
次に、図4に示す第2マップは、車両の実減速度DVSと、車体速度閾値KVSとの関係を示すマップである。なお、実減速度DVSとは、詳しくは後述するが推定車体速度に基づき演算された値であって、加速度センサSE6を用いないで取得できる値である。図4に示すように、実減速度DVSが「0(零)」である場合、車体速度閾値KVSは、第1速度値KVS1(例えば5km/h)に設定される。また、実減速度DVSが「0(零)」よりも大きく且つ所定減速度DVS1未満である場合、車体速度閾値KVSは、実減速度DVSが大きいほど大きな値に設定される。そして、実減速度DVSが所定減速度DVS1以上である場合、車体速度閾値KVSは、第2速度値KVS2(例えば10km/h)に設定される。
【0046】
なお、本実施形態の自動変速機19は、トルクコンバータを有している。そのため、シフト装置18のシフトレンジがDレンジである場合において、アクセルペダル11及びブレーキペダル15が操作されていないときには、クリープ現象に基づいたクリープ力が駆動輪である後輪RR,RLに伝達される。この場合、水平な路面上に位置する車両は、第1速度値KVS1に相当する速度(即ち、5km/h)程度で走行する。
【0047】
本実施形態の車両において、エンジン用ECU17、AT用ECU22及びブレーキ用ECU55同士は、図1に示すように、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス56を介してそれぞれ接続されている。例えば、エンジン用ECU17からは、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報などがブレーキ用ECU55に適宜送信される一方、ブレーキ用ECU55からは、エンジン12の駆動を停止させる旨の制御指令やエンジン12を再駆動させる旨の制御指令などがエンジン用ECU17に送信される。また、AT用ECU22からは、シフト装置18のシフトレンジ及び自動変速機19の変速段に関する情報などがブレーキ用ECU55に送信される一方、ブレーキ用ECU55からは、自動変速機19の入力クラッチ21を作動させる旨の制御指令などがAT用ECU22に送信される。したがって、本実施形態では、各ECU17,22,55により、制御手段が構成される。
【0048】
次に、各ECU17,22,55のうち、本実施形態ではメインのECUとして機能するブレーキ用ECU55が実行する停止発進制御処理ルーチンについて、図5〜図7に示すフローチャートと、図8及び図9に示すタイミングチャートと、図10に示す作用図とに基づき説明する。なお、図8は、登坂路で車両が発進する際のタイミングチャートである。
【0049】
さて、ブレーキ用ECU55は、予め設定された所定周期(例えば、0.01秒周期)毎に停止発進制御処理ルーチンを実行する。この停止発進制御処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、各車輪速度センサSE2〜SE5からの検出信号に基づき各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを取得する(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU55は、ステップS10で取得した各車輪速度VWのうち少なくとも一輪の車輪速度VWに基づき推定車体速度VSを取得すると共に、推定車体速度VSを時間微分して該微分結果に対して「−1」を積算することにより実減速度DVSを取得する(ステップS11)。したがって、本実施形態では、ステップS11が、減速度取得ステップに相当する。そして、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報をエンジン用ECU17から取得し(ステップS12)、シフト装置18のシフトレンジに関する情報をAT用ECU22から取得する(ステップS13)。続いて、ブレーキ用ECU55は、加速度センサSE6からの検出信号に基づき車両の車体加速度を演算し、該車体加速度に対して「−1」を積算することにより減速度センサ値Gを取得する(ステップS14)。この減速度センサ値Gは、加速度センサSE6に基づき演算された車体減速度であり、車両減速時には正の値となる。また、減速度センサ値Gは、車両が登坂路で停止する場合には、路面が水平路のときと比較して車両の重心が後方に移動するために負の値を示す一方、車両が降坂路で停止する場合には、路面が水平路のときと比較して車両の重心が前方に移動するために正の値を示す。
【0050】
そして、ブレーキ用ECU55は、図7で詳述する路面の傾斜角θの演算処理を行なう(ステップS15)。続いて、ブレーキ用ECU55は、後述するエコラン制御許可フラグFLG1がOFFであるか否かを判定する(ステップS16)。このエコラン制御許可フラグFLG1は、車両のイグニッションスイッチがONになった場合に、OFFにリセットされる。ステップS16の判定結果が肯定判定(FLG1=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることが全て成立しているか否かを判定する(ステップS17)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS11で取得した推定車体速度VSに基づき車両が停止しているか否かを判定し、エンジン用ECU17から受信したアクセル開度が「0(零)」である場合にアクセルペダル11がOFFであると判定する。
【0051】
ステップS17の判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記3つの条件が全て成立するため、ブレーキ保持制御を実行する(ステップS18)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、下記に示す関係式(式1)に基づき、車両の停止する路面の傾斜角θに対応するホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを演算する。なお、関係式(式1)に代入される傾斜角θは、上記ステップS15で取得した傾斜角である。
【0052】
Pwc=A×(θの絶対値) ・・・(式1)
ただし、A…傾斜角をWC圧に変換するための定数
続いて、ブレーキ用ECU55は、演算したWC圧Pwcに対応する電流値Islを、図3に示す第1マップに基づき設定し、該設定した電流値Islを各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給させる。その結果、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、上記関係式(式1)で演算されたWC圧Pwcに近い圧力に調整される。そのため、運転手のブレーキペダル15の操作が解消された場合であっても、各車輪FR,RL,RR,RLに対する制動力が保持され、運転手が意図しない車両の移動が抑制される。したがって、本実施形態では、ステップS18が、流体圧減圧抑制ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU55は、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、ステップS17の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記3つの条件のうち少なくとも一つの条件が不成立であるため、ブレーキ保持制御が実施中であって且つアクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS19)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17から受信したアクセル開度が「0(零)」ではない場合にアクセルペダル11がONであると判定する。ステップS19の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御が実施中及びアクセルペダル11がONのうち少なくとも一方が成立していないため、運転手に車両を発進させる意志がないと判断し、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0054】
一方、ステップS19の判定結果が肯定判定(ブレーキ保持制御が実施中、且つアクセルペダル11=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手に車両を発進させる意志があると判断し、ブレーキ保持解消制御を実行する(ステップS20)。ブレーキ保持解消制御では、第1液圧回路29に接続されるホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcの減圧速度と、第2液圧回路30に接続されるホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcの減圧速度とが異なるように各リニア電磁弁35a,35bが作動される。具体的には、ブレーキ用ECU55は、駆動輪である後輪RR,RLのうち何れが減圧急勾配側の車輪であるのかを特定する。なお、初期状態においては、左後輪RLが減圧急勾配側の車輪に設定されている。続いて、ブレーキ用ECU55は、減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)用のホイールシリンダ(例えば、ホイールシリンダ32d)内のWC圧Pwcの減圧速度を第1減圧速度に設定する。また、ブレーキ用ECU55は、減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)用のホイールシリンダ(例えば、ホイールシリンダ32c)内のWC圧Pwcの減圧速度を第1減圧速度よりも低速の第2減圧速度に設定する。一例として、第2減圧速度は、第1減圧速度の1/5倍程度の速度に設定される。そして、ブレーキ用ECU55は、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcが個別に設定された減圧速度で減圧されるように、各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給する電流値Islを個別に小さくする。
【0055】
続いて、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持解消制御によって各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの減圧が開始されてからの経過時間が所定時間KT1を経過したか否かを判定する(ステップS21)。この所定時間KT1は、減圧急勾配側の車輪に対応するホイールシリンダ内のWC圧Pwcの減圧が開始されてから該WC圧Pwcが「0(零)」になるまでの時間に対して僅かに長い時間(例えば、0.01秒)を加算した時間である。すなわち、所定時間KT1は、ブレーキ保持解消制御が開始される直前においてリニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給される電流値Islが大きいほど長時間に設定される。ステップS21の判定結果が否定判定(経過時間<所定時間KT1)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS21の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS21の判定処理を繰り返し実行する。
【0056】
そして、ステップS21の判定結果が肯定判定(経過時間≧所定時間KT1)となった場合、ブレーキ用ECU55は、減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)の車輪速度VWが減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)の車輪速度VWよりも高速であるか否かを判定する(ステップS22)。減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)及び減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)の各車輪速度VWは、ステップS10で取得した各後輪RR,RLの車輪速度VWである。したがって、本実施形態では、ステップS20,S21,S22が、異常判定ステップに相当する。
【0057】
ここで、アクセルペダル11がONになってから上記経過時間が所定時間KT1以上となるまでの各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの変化と、各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化との関係を、図8に示すタイミングチャートを用いて説明する。なお、ここでは、減圧急勾配側の車輪が左後輪RLであると共に、減圧緩勾配側の車輪が右後輪RRである場合について説明するものとする。また、図8(c)は、両リニア電磁弁35a,35bともに正常に作動する場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートであり、図8(d)は、左後輪RL側のリニア電磁弁35aが異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートである。また、図8(e)は、右後輪RR側のリニア電磁弁35bが異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートであり、図8(f)は、両リニア電磁弁35a,35bともに異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートである。ちなみに、本実施形態におけるリニア電磁弁の異常とは、リニア電磁弁の弁体が正常に変位しない状態(弁体が何かにぶつかって意図通り変位しない状態(スティック)や異物のかみこみによるシール不良の状態))、弁体が弁座に着座してもWC圧Pwcを適切に保持できない状態などを示している。そして、リニア電磁弁の異常という概念には、リニア電磁弁自体の故障及びリニア電磁弁の電磁コイルに電流を供給するための電線の短絡などを含んでいる。
【0058】
すなわち、図8(a)(b)に示すように、第1のタイミングt11でアクセルペダル11がOFFからONになると、右前輪FR及び左後輪RL用のホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcは、第1減圧速度で減圧される。一方、左前輪FL及び右後輪RR用のホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcは、第2減圧速度(<第1減圧速度)で減圧される。このとき、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常である場合、図8(b)(c)に示すように、右前輪FR及び左後輪RL用のホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第2のタイミングt12で、左後輪RLの車輪速度VWが「0(零)」よりも大きな値となり、それ以降において左後輪RLの車輪速度VWは時間の経過と共に高速になる。この場合、左後輪RLの車輪速度VWは、車両の推定車体速度VSとほぼ同一速度となる。ただし、運転手によるアクセルペダル11の操作量が多い場合には、第2のタイミングt12以前に、左後輪RLの車輪速度VWが「0(零)」よりも大きな値となることもある。
【0059】
その一方で、第2のタイミングt12では、右後輪RRには、該右後輪RR用のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcに応じた制動力が付与されているため、右後輪RRの車輪速度VWは「0(零)」である。そして、第1のタイミングt11からの経過時間が所定時間KT1を経過した第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWが「0(零)」のままである。このとき、アクセルペダル11の操作量が多い場合には、第3のタイミングt13の時点で、右後輪RRの車輪速度VWが「0(零)」よりも高速である可能性もある。しかし、この場合であっても左後輪RLには制動力が付与されていない一方で、右後輪RRには制動力が付与されているため、左後輪RLの車輪速度VWのほうが右後輪RRの車輪速度VWよりも高速になる。
【0060】
その後、ホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第4のタイミングt14が経過すると、右後輪RRには、制動力が付与されなくなる。そのため、右後輪RRの車輪速度VWは、左後輪RLの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。そして、第5のタイミングt15で、右後輪RRの車輪速度VWが、左後輪RLの車輪速度VWとほぼ同等となる。なお、本実施形態では、第3のタイミングt13以降から、右後輪RR側のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcの減圧速度は、第2の減圧速度から、第1の減圧速度よりも大きな第3の減圧速度に変更される。
【0061】
また、左後輪RL側のリニア電磁弁35aのみが異常である場合、左後輪RL用のホイールシリンダ32d内のWC圧Pwcは、図8(b)の二点鎖線で示すように、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後に「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で左後輪RLには制動力が付与されなくなる。そのため、図8(d)に示すように、第1のタイミングt11以降において、左後輪RLの車輪速度VWは、時間の経過と共に高速になる。一方、右後輪RR側のリニア電磁弁35bは正常であるため、右後輪RRの車輪速度VWは、ホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第4のタイミングt14から左後輪RLの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。
【0062】
また、右後輪RR側のリニア電磁弁35bのみが異常である場合、図8(b)の二点鎖線で示すように、右後輪RR用のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcは、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後に「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で右後輪RRには制動力が付与されなくなる。そのため、図8(e)に示すように、第1のタイミングt11以降において、右後輪RRの車輪速度VWは、時間の経過と共に高速になる。このとき、車両の推定車体速度VSは、右後輪RRの車輪速度VWとほぼ同一速度となる。一方、左後輪RL側のリニア電磁弁35aは正常であるため、左後輪RLの車輪速度VWは、第2のタイミングt12以降から右後輪RRの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。そのため、第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWのほうが左後輪RLの車輪速度VWよりも高速になる。
【0063】
また、各リニア電磁弁35a,35bが共に異常である場合、図8(b)の二点鎖線で示すように、各後輪RR,RLのホイールシリンダ32c,32d内のWC圧Pwcは、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後にそれぞれ「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で各後輪RR,RLには制動力がそれぞれ付与されなくなる。そのため、図8(f)に示すように、第1のタイミングt11以降において、各後輪RR,RLの車輪速度VWは、時間の経過と共にそれぞれ高速になる。この場合、第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWが左後輪RLの車輪速度VWとほぼ同等になる。
【0064】
なお、減圧急勾配側の車輪が右後輪RRであって減圧緩勾配側の車輪が左後輪RLである場合において、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であるときには、第4のタイミングt14で、右後輪RRの車輪速度VWのほうが左後輪RLの車輪速度VWよりも高速になる。また、左後輪RL側のリニア電磁弁35aのみが異常であるときには、第4のタイミングt14で、左後輪RLの車輪速度VWのほうが右後輪RRの車輪速度VWよりも高速になる。
【0065】
図5に戻り、ステップS22の判定結果が否定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度≦減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも減圧緩勾配側の車輪(例えば右後輪RR)用のリニア電磁弁(例えばリニア電磁弁35b)が異常の可能性有りと判断する。そして、ブレーキ用ECU55は、異常カウンタCIを「1」だけインクリメントし(ステップS23)、ステップS23で更新した異常カウンタCIが予め設定されたカウント閾値KCI(例えば3)以上であるか否かを判定する(ステップS24)。このカウント閾値KCIは、一回の判定処理だけで異常を示すリニア電磁弁有りとした場合には誤判定の可能性があるために設定した閾値である。ステップS24の判定結果が肯定判定(CI≧KCI)である場合、ブレーキ用ECU55は、異常検出処理を実行する(ステップS25)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁がある旨を運転手に報知したり、後述するクラッチ遮断処理やエンジン停止処理の実行を禁止したりする。その後、ブレーキ用ECU55は、エコラン制御許可フラグFLG1をOFFにセットし(ステップS26)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS24の判定結果が否定判定(CI<KCI)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS26の処理を実行した後、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0066】
一方、ステップS22の判定結果が肯定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度>減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのチェックが完了したか否かを判定する(ステップS27)。この判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、未だチェックが完了していないリニア電磁弁のチェックを次回に行なうために、減圧急勾配側の車輪を変更すると共に、異常カウンタCIを「0(零)」にリセットする(ステップS28)。例えば、ブレーキ用ECU55は、今回の減圧急勾配側の車輪が左後輪RLであった場合には、次回の減圧急勾配側の車輪を右後輪RRに変更する。その後、ブレーキ用ECU55は、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS27の判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であるため、エコラン制御許可フラグFLG1をONにセットする共に、異常カウンタCIを「0(零)」にリセットし(ステップS29)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0067】
その一方で、ステップS16の判定結果が否定判定(FLG1=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、図6のフローチャートに示すように、ステップS11で取得した実減速度DVSに対応する車体速度閾値KVSを、図4に示す第2マップに基づき設定する(ステップS30)。したがって、本実施形態では、ステップS30が、閾値設定ステップに相当する。続いて、ブレーキ用ECU55は、推定車体速度VSが車体速度閾値KVS以下であること、アクセルペダル11がOFFであること、ブレーキスイッチSW1がONであること及び実減速度DVSが「0(零)」よりも大きいことが全て成立しているか否かを判定する(ステップS31)。このステップS31で用いられる推定車体速度VS、実減速度DVS及び車体速度閾値KVSは、ステップS11,S30の各処理で取得された値である。
【0068】
ステップS31の判定処理が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記4つの条件が全て成立しているため、クラッチ遮断制御(伝達効率低下制御)を実行する(ステップS32)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を解放状態にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を解放状態にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合には入力クラッチ21が解放状態になった旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、入力クラッチ21が解放状態になった旨を受信した場合、その処理を後述するステップS36に移行する。したがって、本実施形態では、ステップS32が、効率低下ステップに相当する。
【0069】
ここで、図9(a)(b)(c)(d)に示すように、登坂路を走行する車両の推定車体速度VSが一定速である場合、該推定車体速度VSに基づき演算される実減速度DVSはほぼ「0(零)」となると共に、加速度センサSE6を用いて取得される減速度センサ値Gは負の値となる(第1のタイミングt21)。減速度センサ値Gが負の値となる理由としては、図10に示すように、登坂路を走行する車両には車体に加わる重力gに基づいた力(斜面下方への力であって、「重力相当力」ともいう。)Fgが作用し、該重力相当力Fgによって車両の重心が後方に移動する傾向を示すためである。また、重力相当力Fgは、路面の傾斜角θが大きいほど大きくなる。
【0070】
そして、図9(a)(e)に示すように、運転手によるアクセルペダル11の操作が解消される第2のタイミングt22以降では、エンジン12から駆動輪である後輪RR,RLに伝達される駆動力Fd(図10参照)が小さくなるため、重力相当力Fgが作用する車両の推定車体速度VSが徐々に低速になる。すると、実減速度DVS及び減速度センサ値Gは、第2のタイミングt22以前と比較してそれぞれ大きな値になる。本実施形態において実減速度DVS及び減速度センサ値Gはそれぞれ正の値になる。その後の第3のタイミングt23で運転手がブレーキペダル15の操作を開始すると、図9(f)に示すように、ブレーキスイッチSW1がOFFからONになる。
【0071】
そして、車両の推定車体速度VSが実減速度DVSに基づき設定された車体速度閾値KVS以下になる第4のタイミングt24では、図9(a)(g)に示すように、自動変速機19の変速段を現時点の変速段(この場合、第2変速段(2nd))からニュートラルに変更するためにクラッチ遮断制御が開始される。このクラッチ遮断制御が実行されると、自動変速機19の入力クラッチ21が係合状態から解放状態に変更され、エンジン12から後輪RR,RLへの動力伝達が遮断される。すると、車両には、該車両を前方に移動させるための力が作用しなくなる。なお、入力クラッチ21が実際に解放状態になるタイミングは、第4のタイミングt24よりも僅かに遅れる。これは、入力クラッチ21が油圧制御によって作動することに起因した応答遅れのためである。
【0072】
このようにクラッチ遮断制御が実行されると、後輪RR,RLにはエンジン12によるで応力伝達がされなくなる。エンジン12から後輪RR,RLに伝達される駆動力は、運転手が意図しない車両の後退に対して逆方向の力である。そのため、車両の運転手は、後輪RR,RLに伝達される駆動力の減少分だけ、車両の停止前にブレーキペダル15の操作量を増大させ、車両の意図しない後退の抑制を図る。すると、マスタシリンダ25のマスタシリンダ圧(以下、「MC圧」ともいう。)Pmcが増圧されると共に、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcは、MC圧Pmcに追随してそれぞれ増圧される。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、それぞれ増大される。
【0073】
図6に戻り、ステップS31の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記4つの条件のうち少なくとも一つの条件が不成立であると判断し、後述するエンジン停止フラグFLG2がOFFであるか否かを判定する(ステップS33)。この判定結果が否定判定(FLG2=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS36に移行する。一方、ステップS33の判定結果が肯定判定(FLG2=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS34)。この判定結果が肯定判定(アクセルペダル11=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手が車両を加速させる意志があると判断し、第1クラッチ接続制御を実行する(ステップS35)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を係合状態にさせると共に、自動変速機19の変速段をクラッチ遮断制御の実行前の変速段(図9の場合では第2変速段)にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を係合状態にすると共に、変速段を第2変速段にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合にはその旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、油圧制御が完了した旨を受信した場合、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS34の判定結果が否定判定(アクセルペダル11=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を次のステップS36に移行する。
【0074】
ステップS36において、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS17と同等の判定処理を行なう。この判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることが全て成立するため、上記ステップS18と同等のブレーキ保持制御(制動力保持制御)を実行する(ステップS37)。したがって、本実施形態では、ステップS37が、運転手によるブレーキ操作に基づく車両の停止後に、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を維持させる制動力保持ステップ及び流体圧減圧抑制ステップに相当する。
【0075】
そして、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御によって各リニア電磁弁35a,35bの作動が完了した後に、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御を実行する(ステップS38)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン12を停止させる旨の制御指令をエンジン用ECU17に送信する。すると、エンジン用ECU17は、エンジン12への燃料の供給を停止させるなどを行なってエンジン12を停止させる。そして、エンジン用ECU17は、エンジン12の停止が完了すると、その旨をブレーキ用ECU55に送信する。したがって、本実施形態では、ステップS38(エンジン停止制御)が、制動力維持ステップ(ステップS37)の後に実行される駆動源停止ステップに相当する。また、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を係合状態にさせると共に、自動変速機19の変速段を第1変速段(1st)にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を係合状態にすると共に、変速段を第1変速段にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合にはその旨をブレーキ用ECU55に送信する。したがって、本実施形態では、ステップS38(第2クラッチ接続制御)が、後輪RR,RLへの駆動力Fdの伝達効率がクラッチ遮断制御の実行前に近づくように入力クラッチ21を作動させる効率回復ステップに相当する。そして、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17からエンジン12が停止した旨を受信すると共に、AT用ECU22から自動変速機19の変速段が第1変速段に設定された旨を受信した場合に、エンジン停止フラグFLG2をONにセットし(ステップS39)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0076】
ここで、図9(a)に示すように、車両が停止した第5のタイミングt25では、アクセルペダル11がOFFであると共にブレーキスイッチSW1がONであるため、ブレーキ保持制御が開始される。すなわち、図9(j)(k)に示すように、各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、車両の停止する路面の傾斜角θに応じた電流値Islがそれぞれ供給される。こうした電流値Islに基づき各リニア電磁弁35a,35bが作動する場合、運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力がそれぞれ保持され、ひいては車両の後退が抑制される。
【0077】
その後の第6のタイミングt26では、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御が実行される。このとき、図9(g)に示すように、自動変速機19の変速段がニュートラルから第1変速段に変更される第7のタイミングt27は、第6のタイミングt26よりも僅かに遅れる。これは、自動変速機19において入力クラッチ21を含む複数の要素が油圧制御によって作動することに起因した応答遅れのためである。また、図9(h)に示すように、エンジンが実際に停止する第8のタイミングt28は、第6のタイミングt26よりも僅かに遅れる。これは、エンジン12への燃料供給が停止されてから、エンジン12で駆動力が発生しなくなるまでに多少の時間を要するためである。
【0078】
図6に戻り、ステップS36の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることのうち少なくとも一つが不成立であるため、エンジン停止フラグFLG2がONであるか否かを判定する(ステップS40)。この判定結果が否定判定(FLG2=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御が未実行であると判断し、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS40の判定結果が肯定判定(FLG2=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン停止フラグFLG2をOFFにリセットし(ステップS41)、エンジン再始動制御を実行する(ステップS42)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン12を再始動させる旨の制御指令をエンジン用ECU17に送信する。すると、エンジン用ECU17は、エンジン12を始動させるべく駆動力発生装置13を制御し、エンジン12が実際に始動し始めると(即ち、エンジン12から駆動力Fdが発生し始めると)、その旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が実際に始動し始めた旨をエンジン用ECU17から受信すると、エンジン再始動制御を終了する。
【0079】
続いて、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報をエンジン用ECU17から取得し、該取得結果に基づきアクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS43)。この判定結果が否定判定(アクセルペダル11=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS43の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS43の判定処理を繰り返し実行する。そして、ステップS43の判定結果が肯定判定(アクセルペダル11=ON)になった場合、ブレーキ用ECU55は、クラッチ変速制御を実行する(ステップS44)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の変速段を必要に応じて変更させる旨をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ手動変速モードである場合には現時点で選択されている変速段(例えば第2変速段)を取得し、自動変速機19の変速段を、選択されている変速段に変更する。このとき、AT用ECU22は、選択されている変速段が第1変速段である場合には自動変速機19の変速段の変更を行なわない。また、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ自動変速モードである場合にも自動変速機19の変速段の変更を行なわない。さらに、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジ以外である場合にも自動変速機19の変速段の変更を行なわない。
【0080】
続いて、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS20と同等のブレーキ保持解消制御を行なう(ステップS45)。そして、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS21と同様の判定処理を行なう(ステップS46)。この判定結果が否定判定(経過時間<所定時間KT1)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS46の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS46の判定処理を繰り返し実行する。
【0081】
そして、ステップS46の判定結果が肯定判定(経過時間≧所定時間KT1)となった場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS22と同様の判定処理を行なう(ステップS47)。したがって、本実施形態では、ステップS45,S46,S47により、各リニア電磁弁35a,35bの中で異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判断する異常判定ステップが構成される。ステップS47の判定結果が否定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度≦減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁が異常である可能性があると判断する。そして、ブレーキ用ECU55は、エコラン制御許可フラグFLG1をOFFにセットし(ステップS48)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS47の判定結果が肯定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度>減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁が正常であるため、上記ステップS28と同様に減圧急勾配側の車輪を変更し(ステップS49)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0082】
ここで、図9(a)(l)に示すように、運転手によるブレーキペダル15の操作量が少なくなると、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcが徐々に減圧される(第9のタイミングt29)。このとき、各リニア電磁弁35a,35bの作動によって、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの減圧は抑制され、結果として、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持される。そして、図9(a)(f)(l)に示すように、運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されると、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcはほぼ「0(零)」になると共に、ブレーキスイッチSW1がOFFになる(第10のタイミングt210)。この第10のタイミングt210では、図9(h)に示すように、エンジン再始動制御が開始される。その後の第11のタイミングt211では、運転手によるアクセルペダル11の操作が開始される。そして、エンジン12が実際に駆動し始める第12のタイミングt212では、図9(g)(h)(j)(k)に示すように、クラッチ変速制御が開始されると共に、ブレーキ保持解消制御が開始される。すると、図9(g)に示すように、第12のタイミングt212よりも僅かに遅れる第13のタイミングt213で、自動変速機19の変速段の第1変速段から第2変速段への変更が完了する。
【0083】
また、図9(i)(j)(k)(l)に示すように、減圧急勾配側の車輪である右後輪RR側のリニア電磁弁35bの電磁コイルに供給される電流値Islは、ホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcが第1減圧速度で減圧されるように徐々に小さくなる。また、減圧緩勾配側の車輪である左後輪RL側のリニア電磁弁35aの電磁コイルに供給される電流値Islは、ホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcが第2減圧速度(<第1減圧速度)で減圧されるように徐々に小さくなる。そして、減圧急勾配側の車輪である右後輪RRに伝達されるエンジン12からの駆動力Fdが、右後輪RRに付与される制動力と車両に作用する重力相当力Fgとの和よりも大きくなる第14のタイミングt214で、車両が前方に向けて走行し始める。なお、左後輪RLに対する制動力が「0(零)」となる第15のタイミングt215で、減圧急勾配側の車輪が左後輪RLに変更されると共に、減圧緩勾配側の車輪が右後輪RRに変更される。
【0084】
次に、上記ステップS15の路面の傾斜角θの演算処理ルーチンについて、図7に示すフローチャートに基づき説明する。
さて、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角算出値αを以下に示す関係式(式2)を用いて演算する(ステップS60)。なお、関係式(式2)に代入される実減速度DVS及び減速度センサ値Gは、上記ステップS11,S14で取得した値である。
【0085】
α=arcsin(DVS−G)/g) ・・・(式2)
ただし、g…標準重力加速度(9.8m/s2)
続いて、ブレーキ用ECU55は、経過時間Tを更新し(ステップS61)、該更新した経過時間Tが予め設定された経過時間閾値KT2以上であるか否かを判定する(ステップS62)。この経過時間閾値KT2は、傾斜角算出値αを複数回(例えば5回)演算できる程度の時間に設定される。ステップS62の判定結果が否定判定(T<KT2)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。一方、ステップS62の判定結果が肯定判定(T≧KT2)である場合、ブレーキ用ECU55は、経過時間Tを「0(零)」にリセットし(ステップS63)、ステップS62が肯定判定になるまでの間に取得した複数の傾斜角算出値αの中から最大値αmaxと最小値αminとを抽出する(ステップS64)。そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS64で抽出した最大値αmaxと最小値αminとの差分(=αmax−αmin)が予め設定された基準値Ksub未満であるか否かを判定する(ステップS65)。
【0086】
車両の走行する路面が凹凸の少ない良路である場合、複数の傾斜角算出値αのばらつきは少ない。その一方で、路面の凹凸が多い悪路である場合、複数の傾斜角算出値αのばらつきは多くなり、上記ステップS60で取得した傾斜角算出値αは、路面の実際の傾斜角と乖離している可能性がある。そこで、本実施形態では、取得した複数の傾斜角算出値αを用いて路面が悪路であるか否かを判断するための基準値として、基準値Ksubが予め設定される。
【0087】
そして、ステップS65の判定結果が肯定判定((αmax−αmin)<Ksub)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面が良路であると判断し、ステップS62が肯定判定になるまでの間に取得した各傾斜角算出値αの平均値を演算し、該平均値を路面の傾斜角θとする(ステップS66)。したがって、本実施形態では、ステップS60,S66により、傾斜角取得ステップが構成される。その後、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。一方、ステップS65の判定結果が否定判定((αmax−αmin)≧Ksub)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面が悪路であり且つ傾斜角θが取得不能であると判断し、路面の傾斜角θを、想定する路面の傾斜角の最大値である傾斜最大値θmax(例えば30度)に設定する(ステップS67)。その後、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。
【0088】
すなわち、加速度センサSE6からの検出信号には、車両の実際の加減速に関する信号成分と共に、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力に応じた信号成分が含まれる。路面が良路である場合には、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力の変動が小さいため、取得した実減速度DVS及び減速度センサ値Gに基づき演算された各傾斜角算出値αは、路面の実際の傾斜角に近い値になる。そして、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θが設定される。その結果、車両が停止した場合における各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、路面の実際の傾斜角に応じた大きさ若しくはそれに準じた大きさで維持される。
【0089】
一方、路面が悪路である場合には、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力の変動が大きいため、取得した実減速度DVS及び減速度センサ値Gに基づき演算された各傾斜角算出値αのばらつきが大きい。そのため、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θを設定したとしても、該傾斜角θは、路面の実際の傾斜角と乖離している可能性が高い。そこで、本実施形態では、路面が悪路である場合、傾斜角θは、傾斜最大値θmaxに設定される。その結果、車両が停止した場合における各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、路面の実際の傾斜角に応じた大きさよりも大きな力で維持される。本実施形態では、傾斜角θが傾斜最大値θmaxに設定された場合、図3に示す第1マップ及び上記関係式(式1)に基づき、各リニア電磁弁35a,35bに供給される電流値Islは、最大電流値(設定値)Imaxに設定される。よって、運転手が意図しない車両の移動が抑制される。
【0090】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両が停止する前に、エンジン12から後輪RR,RLへの駆動力Fdの伝達が遮断される。そのため、車両が停止した後に該車両の停止を維持させるためには、車輪FR,FL,RR,RLに付与された制動力を保持させるだけでよい。すなわち、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を車両側で自動的に増大させるために、ポンプ42,43やモータ41を作動させなくてもよい。したがって、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる。また、車両の停止時にポンプ42,43を作動させて車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させる場合と比較して、車両の消費電力を低減させることができる。
【0091】
(2)ブレーキ保持制御が実行された場合、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧(流体圧)Pwcを保持するための電流値Islは、車両が停止する路面の傾斜角θが大きいほど大きな値に調整される。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧(流体圧)Pwcは、路面の傾斜角θが大きいほど、より高圧な状態で保持されて減圧されにくくなる。その結果、ブレーキ保持制御が実行された状態で運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の減少は抑制される。そのため、車両の停止する路面が登坂路や降坂路であっても、運転手の意図しない車両の移動の発生を抑制できる。また、例えば路面の傾斜角θに関係なく電流値Islを最大電流値Imaxに設定する場合と比較して、ブレーキ保持制御中における車両の消費電力を低減させることができる。
【0092】
(3)さらに、本実施形態では、車両の走行する路面が凹凸の比較的少ない良路であるか凹凸の比較的多い悪路であるかが判定される。そして、路面が良路である場合には、経過時間閾値KT2に相当する時間内に取得した複数の傾斜角算出値αに基づき路面の傾斜角θが演算される。そのため、演算値である傾斜角θと実際の傾斜角との相違を極力小さくできる。その結果、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、路面の実際の傾斜角に応じた電流値に極めて近い電流値Islが供給される。したがって、登坂路や降坂路での車両の停止中に運転手がブレーキペダル15の操作を解消したとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は実際の傾斜角に対応する適切な制動力で保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0093】
(4)その一方で、路面が悪路である場合には、複数の傾斜角算出値αのばらつきが大きいため、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θを演算したとしても該傾斜角θは、実際の傾斜角とは乖離した値となる可能性が高い。そこで、本実施形態では、路面が悪路である場合、傾斜角θは、傾斜最大値θmaxに設定され、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Isl(本実施形態では、最大電流値Imax)が供給される。そのため、登坂路や降坂路での車両の停止中に運転手がブレーキペダル15の操作を解消したとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は実際の傾斜角に対応する制動力以上の制動力で保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を確実に抑制できる。
【0094】
(5)しかし、路面が悪路である場合であっても、車両が停止した場合には、加速度センサSE6からの検出信号において路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力に応じた信号成分は極めて小さくなる。そのため、車両が停止してからの各傾斜角算出値αに基づき演算された傾斜角θは、路面の凹凸度合いに関係なく、実際の傾斜角に近い値となる。そこで、本実施形態では、路面が悪路であると判断した場合であっても車両の停止後に上記ステップS65が肯定判定となったときには、傾斜角θは、各傾斜角算出値αに基づき演算される。そして、新たに演算された傾斜角θに応じた電流値Islが、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給される。したがって、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Isl(最大電流値Imax)が供給され続ける場合と比較して、ブレーキ保持制御中における車両の消費電力を低減させることができる。
【0095】
(6)本実施形態では、クラッチ遮断制御及びブレーキ保持制御の実行後には、エンジン12の駆動が停止される。すなわち、アイドリングがストップされる。そのため、車両の燃費を向上させることができる。
【0096】
(7)また、車両の停止後であって且つブレーキ保持制御の実行後には、運転手に車両を発進させる意志があることを検出する前に、解消状態にある自動変速機19の入力クラッチ21が係合状態に戻される。そのため、運転手に車両を発進させる意志があることを検出した後に入力クラッチ21を係合状態に戻す場合と比較して、車両を速やかに再発進させることができる。
【0097】
(8)もし仮にエンジン12が停止してから各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保持させる場合には、エンジン12の停止に伴うブースタ26の作動停止によるマスタシリンダ25のMC圧Pmcの減圧に追随し、各WC圧Pwcもまたそれぞれ減圧される可能性がある。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の低下にも繋がる。この点、本実施形態では、車両の停止後に、エンジン12は、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcが保持された状態で停止される。そのため、エンジン12の停止に伴う各WC圧Pwcの減圧を抑制でき、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を保持させることができる。
【0098】
(9)車両の停止前に入力クラッチ21を解放状態にするタイミングを設定するための車体速度閾値KVSは、実減速度DVSが大きいほど大きな値に設定される。そのため、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの駆動力Fdを確実に遮断させた状態で車両を停止させることができる。
【0099】
(10)また、車両の停止中にエンジン12が再始動した場合、自動変速機19の変速段は、車両の移動が再開する前に、運転手が所望する変速段に設定される。したがって、車両を、運転手が所望する加速度で発進させることができる。
【0100】
(11)車両を発進させる場合には、各リニア電磁弁35a,35bが正常に動作するか否かがチェックされる。具体的には、減圧急勾配側の車輪用のホイールシリンダ(例えばホイールシリンダ32c)内のWC圧Pwcが第1減圧速度で減圧されると共に、減圧緩勾配側の車輪用のホイールシリンダ(例えばホイールシリンダ32d)内のWC圧Pwcが第2減圧速度で減圧されるように、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islが個別に調整される。そして、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islが個別に調整される場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの大小に基づき、各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁が有るか否かがチェックされる。すなわち、ブレーキ保持解消制御中に異常を示すリニア電磁弁が有るか否かをチェックできる。
【0101】
(12)本実施形態では、ブレーキ保持解消制御が開始されてから所定時間KT1経過後に検出した減圧緩勾配側の車輪(例えば左後輪RL)の車輪速度が、減圧急勾配側の車輪(例えば右後輪RR)の車輪速度よりも高速である場合には、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁(この場合、リニア電磁弁35a)が異常であると判定される。したがって、各リニア電磁弁35a,35bのうち何れのリニア電磁弁が異常であるか否かを判定できる。
【0102】
(13)今回のブレーキ保持解消制御時には、減圧急勾配側の車輪が右後輪(第1の車輪)RRであって、該車輪用のリニア電磁弁がリニア電磁弁(第1の調整弁)35bである場合、次回のブレーキ保持解消制御時には、減圧急勾配側の車輪が左後輪(第2の車輪)RLであって、該車輪用のリニア電磁弁がリニア電磁弁(第2の調整弁)35aに変更される。すなわち、リニア電磁弁35a,35bのチェックを交互に行なうことができる。
【0103】
(14)また、本実施形態では、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であると判定されるまでは、運転手によるブレーキペダル15の操作による車両の停止時に、クラッチ遮断制御、エンジン停止制御及びブレーキ保持制御のうちブレーキ保持制御のみが実行される。これは、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも一方が異常を示す場合にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を行なうと、登坂路で車両を再発進させるべく運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたときに、液圧発生装置28のエンジン負荷によるブレーキ助勢力が不足することになり、車両が不必要に後退するおそれがあるためである。すなわち、運転手が意図しない車両の移動が発生するおそれがある。したがって、車両の安全性を維持できる。
【0104】
(15)クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御が実行されない状態で停止する車両が再発進する場合には、ブレーキ保持解消制御が実行される。このときに、各リニア電磁弁35a,35bが正常に作動するか否かがチェックされる。そのため、各リニア電磁弁35a,35bが正常に作動することが確認された状態で車両が停止する場合に、クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を実行させることができる。
【0105】
(16)しかし、車両の走行中にリニア電磁弁35a,35bが故障してしまうこともある。この点、本実施形態では、クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を伴う車両の停止後に、車両を再発進させる場合には、リニア電磁弁35a,35bが正常に作動するか否かがチェックされる。したがって、車両の走行中にリニア電磁弁35a,35bが異常を示すようになった場合には、車両の停止時にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御の実行を規制できる。
【0106】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、カウント閾値KCIは、「3」以外の正の整数(例えば2回)であってもよい。
【0107】
・実施形態において、停止発進制御処理ルーチンは、ステップS17〜S29を省略した制御処理であってもよい。この場合、車両のイグニッションスイッチがオンになって初めて車両が停止する場合にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を実行させることになる。しかし、車両の再発進時に実行されるブレーキ保持解消制御によって各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁があると判定された場合には、次回以降の車両停止時にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御の実行を規制することが望ましい。
【0108】
・実施形態において、ステップS17〜S29の各処理で各リニア電磁弁35a,35bが正常であると判定された場合であって且つその後のリニア電磁弁35a,35bの異常判定が不要である場合には、ステップS45のブレーキ保持解消制御で、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを同一減圧速度でそれぞれ減圧させてもよい。
【0109】
・実施形態において、ブレーキ保持解消制御では、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするタイミングを、減圧急勾配側の車輪用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするタイミングよりも遅らせてもよい。例えば、ブレーキ保持解消制御では、第1の車輪(例えば、右後輪RR)用のリニア電磁弁に対する電流値Islが「0(零)」になってから、第2の車輪(例えば、左後輪RL)用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするようにしてもよい。この場合、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islを低下させる速度は、同一速度であってもよい。このように構成しても、上記実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0110】
・実施形態において、ブレーキ保持解消制御では、各後輪RR,RLの車輪加速度を、該各車輪RR,RLの車輪速度VWを時間微分することにより取得してもよい。そして、ブレーキ保持解消制御が開始されてからの経過時間が所定時間KT1を経過した場合に、各後輪RR,RLの車輪加速度の大小によって、異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判定してもよい。これは、各後輪RR,RLに同等の駆動力が付与される場合、付与される制動力の小さい車輪の車輪加速度のほうが、付与される制動力の大きい車輪の車輪加速度よりも大きな値になるためである。
【0111】
もちろん、各後輪RR,RLの車輪加速度及び各後輪RR,RLの車輪速度VWの両方を用いて異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判定してもよい。これらのように構成しても、上記実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0112】
・実施形態において、各連結経路33,34に配置される調整弁は、二位置型の電磁弁であってもよい。また、ブレーキ保持制御では、リニア電磁弁35a,35bではなく、増圧弁37a〜37dを作動させて各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保持させてもよい。
【0113】
・実施形態において、車体速度閾値KVSを、減速度センサ値Gに基づき設定してもよい。
また、車体速度閾値KVSは、実減速度DVSや減速度センサ値Gなどに関係なく一定値(例えば、5km/h)であってもよい。ただし、車体速度閾値KVSは、「10km/h」以下の値に設定することが望ましい。
【0114】
・実施形態において、第2クラッチ接続制御では、自動変速機19の変速段をクラッチ遮断制御が実行される直前の変速段(図9では第2変速段)に設定させてもよい。また、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ手動変速モードである場合、第2クラッチ接続制御では、自動変速機19の変速段を現時点で選択されている変速段に設定してもよい。これらのような制御構成にした場合、クラッチ変速制御(ステップS44)を省略してもよい。
【0115】
・実施形態において、エンジン停止制御を、ブレーキ保持制御と同一タイミング(図9における第5のタイミングt215)で行なってもよい。このように構成しても、エンジン12が実際に停止するのは、リニア電磁弁35a,35bの作動が完了した後になる。
【0116】
・実施形態において、ステップS60で演算された傾斜角算出値αに対して、フィルタリング処理を行ない、フィルタリング処理後の傾斜角算出値αを用いてステップS61以降の各処理を行なってもよい。
【0117】
・実施形態において、車両に搭載されるナビゲーション装置などから現時点の路面の傾斜角(又は勾配)に関する情報を取得できる場合には、該取得した情報に基づきリニア電磁弁35a,35bに供給する電流値Islを設定してもよい。
【0118】
・実施形態において、路面が悪路であると判定して傾斜角θを傾斜最大値θmaxに設定した場合、車両の停止後に傾斜角θの再取得を行なわなくてもよい。この場合、車両の停止中において各リニア電磁弁35a,35bには、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Islが供給され続ける。
【0119】
・実施形態において、自動変速機19は、エンジン12が駆動すると共に入力クラッチ21が係合状態である状態で車両を停止させることが可能な変速機であれば、無段式の自動変速機でもよい。
【0120】
・実施形態において、車両を、駆動源としてエンジン12及びモータを有するいわゆるハイブリッド車両や電気自動車に具体化してもよい。こういった車両であっても、運転手によるブレーキペダル15の操作に伴う車両の停止時に、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させるべくポンプを作動させる必要がない。
【0121】
・実施形態において、車両は、前輪駆動車でもよいし、四輪駆動車でもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)と第1の車輪用のホイールシリンダとを連結する流路に設けられ、且つ該流路の流動抵抗を調整すべく作動する第1の調整弁と、
前記マスタシリンダ(25)と第2の車輪用のホイールシリンダとを連結する流路に設けられ、且つ該流路の流動抵抗を調整すべく作動する第2の調整弁との異常を検出する調整弁異常検出方法であって、
車両の停止時に、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)の減圧が抑制されるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させる流体圧減圧抑制ステップ(S18、S37)と、
車両が発進する場合に、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)の減圧態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S20,S21,S22、S45,S46,S47)と、を有することを特徴とする調整弁異常検出方法。
【0122】
(ロ)前記異常判定ステップ(S20,S21,S22、S45,S46,S47)では、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧速度と前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧速度とが互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させることを特徴とする技術的思想(イ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0123】
(ハ)前記異常判定ステップでは、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧の開始タイミングと前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧の開始タイミングとが互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させることを特徴とする技術的思想(イ)又は(ロ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0124】
(ニ)今回の異常判定ステップでは、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)のほうが前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)よりも先に0(零)となるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、
次回の異常判定ステップでは、前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)のほうが前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)よりも先に0(零)となるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを特徴とする技術的思想(イ)、(ロ)、(ハ)のうち何れか一項に記載の調整弁異常検出方法。
【0125】
(ホ)前記今回の異常判定ステップでは、前記第1の調整弁に対する電流値(Isl)の調整が完了した時点において、前記第2の車輪の車輪速度(VW)のほうが前記第1の車輪の車輪速度(VW)よりも高速である場合に、前記第2の調整弁が異常であると検出することを特徴とする技術的思想(ニ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0126】
(ヘ)前記次回の異常判定ステップでは、前記第2の調整弁に対する電流値(Isl)の調整が完了した時点において、前記第1の車輪の車輪速度(VW)のほうが前記第2の車輪の車輪速度(VW)よりも高速である場合に、前記第1の調整弁が異常であると検出することを特徴とする技術的思想(ニ)に記載の調整弁異常検出方法。
【符号の説明】
【0127】
12…駆動源としてのエンジン、17,22,25…制御手段としてのECU、19…動力伝達経路を構成する自動変速機、20…動力伝達経路を構成するディファレンシャルギヤ、21…入力クラッチ、25…マスタシリンダ、32a〜32d…ホイールシリンダ、33,34…流路を構成する連結経路、35a,35b…調整弁としてのリニア電磁弁、36a〜36d…流路を構成する経路、37a〜37d…調整弁としての増圧弁、DVS…車体減速度実減速度、Fd…駆動力、FR,FL,RR,RL…車輪、KVS…車体速度閾値、Pmc…流体圧としてのMC圧、Pwc…流体圧としてのWC圧、Pwc1…設定流体圧としての最大液圧、VS…推定車体速度、VW…車輪速度、θ…路面の傾斜角。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の停止時にその停止の維持を図る車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、運転手によるブレーキペダルの操作によって車両が停止した場合には、車両の燃費向上を目的として、いわゆるニュートラル制御が実行される。このニュートラル制御は、自動変速機の入力クラッチを半係合状態(又は解放状態)に調整することにより、駆動源(例えば、エンジン)から車輪への動力伝達効率を低減させる制御である(特許文献1参照)。こうしたニュートラル制御が実行された場合、トルクコンバータを有する車両に特有のクリープ現象に基づいたクリープ力は、ニュートラル制御が実行されない場合と比較して小さくなる。なお、クリープ力とは、アイドリング時におけるエンジンの回転数に対応した駆動力のことである。
【0003】
ところで、運転手によるブレーキペダルの操作によって登坂路を走行する車両が停止した場合においてニュートラル制御が実行されると、車輪に付与されるクリープ力が小さくなるため、車両が後退する可能性がある。これは、登坂路で車両が停止する場合には、クリープ力が車両の後退を抑制する力として車両に作用するためである。そこで、近年では、ニュートラル制御時における車両の後退を抑制するための装置として、例えば特許文献2に記載の停止制御装置が提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献2に記載の停止制御装置は、車両が停止してニュートラル制御が実行された場合、図11に示すように、エンジン側から車輪に伝達されるクリープ力が減少するにつれて、車輪に付与される制動力が増大するようにブレーキアクチュエータを作動させる(第1のタイミングt101)。その結果、登坂路で停止した車両でニュートラル制御が実行されたとしても、運転手が意図しない車両の後退が抑制されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165360号公報
【特許文献2】特開2006−312378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブレーキアクチュエータは、車輪に個別対応するホイールシリンダ内のブレーキ液圧を増大させるべく作動するポンプと、ホイールシリンダとポンプとを連結する流路に配置されるリニア電磁弁とを備えている。そして、車両の停止中にニュートラル制御が実行された場合、車輪に伝達されるクリープ力の減少量に相当する分、車輪に対する制動力を増大させるべくポンプが作動する(第1のタイミングt101)。この際、ポンプ(及び該ポンプの駆動源となるモータ)からは、作動に伴う作動音が発生する。こうした作動音は、車両の乗員に対して不快感を与える原因となり得る。また、ニュートラル制御が実行されてからポンプが作動し、ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が上昇して車輪に対する制動力が実際に増大するまでには時間差が生じる。そのため、登坂路で車両が停止してニュートラル制御が実行された場合には、車輪に対する制動力が実際に増大するまでの間に車両が僅かに後退するおそれがあった。
【0007】
なお、こうした問題は、モータを駆動源とする電気自動車などであっても同様の問題が発生するおそれがある。すなわち、電気自動車は、モータを発電機として作動させ、停止時に回生制動力を車輪に付与する。そのため、車両停止時にニュートラル制御に相当する制御が実行されると、車輪に付与される回生制動力が減少する。よって、ブレーキアクチュエータのポンプは、回生制動力の減少を補うために車輪に付与する制動力を増大させるべく作動することになる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。その目的は、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる車両の制御方法及び車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の車両の制御方法は、車両の運転者によるブレーキ操作に応じた制動力が車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される際に実行される車両の制御方法であって、車両の停止前に、該車両の駆動源(12)から車輪(FR,FL,RR,RL)への動力伝達経路(19,20)に配置される入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が低下するように作動させる効率低下ステップ(S32)と、前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持ステップ(S37)と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、車両が停止する前に、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率が低下される。そのため、車両が停止した後に該車両の停止を維持させるためには、運転手によるブレーキ操作によって車輪に付与された制動力を保持させるだけでよい。すなわち、車輪に対する制動力を車両側で自動的に増大させるために、ポンプやモータなどを作動させなくてもよい。したがって、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる。
【0011】
本発明の車両の制御方法において、前記車輪(FR,FL,RR,RL)には、該車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応するホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内に発生した流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、車両が停止する路面の傾斜角(θ)を取得させる傾斜角取得ステップ(S60,S66)をさらに有し、前記制動力保持ステップ(S37)では、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧を、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で取得した路面の傾斜角(θ)が大きいほど高圧な状態で保持することを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、ホイールシリンダ内の流体圧は、車両が停止する路面の傾斜角(又は勾配)が大きいほど高圧で維持される。すなわち、車輪に対する制動力は、路面の傾斜角が大きいほど大きな値で保持される。したがって、路面の傾斜角に関係なく、運転手によるブレーキ操作が解消されたときでも運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0013】
本発明の車両の制御方法において、前記制動力保持ステップ(S37)では、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で路面の傾斜角(θ)を取得不能である場合、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を予め設定された設定流体圧(Pwc1)とすることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、路面の傾斜角が取得できていない時点で車両が停止した場合には、ホイールシリンダ内の流体圧は、予め設定された設定値に調整される。そのため、設定値を、想定する路面の傾斜角の最大値に相当する流体圧以上に設定した場合には、路面の傾斜角に関係なく、運転手によるブレーキ操作が解消されたときでも運転手の意図しない車両の移動を抑制できる。
【0015】
本発明の車両の制御方法は、前記制動力保持ステップ(S37)と同時、又は前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記駆動源(12)を停止させる駆動源停止ステップ(S38)をさらに有し、前記効率低下ステップ(S32)では、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達が遮断されるように作動させることを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、駆動源から車輪への駆動力の伝達が遮断された状態で車両が停止する。そして、車両の停止後では駆動源が停止されるため、車両の燃費向上に貢献できる。
本発明の車両の制御方法は、前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が前記効率低下ステップ(S32)の実行前に近づくように作動させる効率回復ステップ(S38)をさらに有することを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、車輪に対する制動力が保持される場合、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率は、効率低下ステップの実行前の状態に近づく。そのため、停止した車両を再発進させる際には、該車両の速やかな発進に貢献できる。
【0018】
本発明の車両の制御方法は、車両の車体減速度(DVS、G)を取得させる減速度取得ステップ(S11、S14)と、取得した車体減速度(DVS、G)が大きいほど車体速度閾値(KVS)を大きな値に設定させる閾値設定ステップ(S30)と、をさらに有し、前記効率低下ステップ(S32)を、車両の車体速度(VS)が前記閾値設定ステップ(S30)で設定した車体速度閾値(KVS)以下となった場合に実行させることを要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、効率低下ステップの開始タイミングを設定するための車体速度閾値は、車体減速度が大きいほど大きな値に設定される。そのため、車両を停止させる際の該車両の車体減速度に関係なく、車両が停止する前に、駆動源から車輪への駆動力の伝達効率を低下させることができる。
【0020】
本発明の車両の制御方法において、車両には、前記駆動源(12)からの駆動力(Fd)が伝達される複数の車輪(FR,FL,RR,RL)と、該各車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する複数のホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)とが設けられ、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)とを連結する各流路(33,34,36a,36b,36c,36d)には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を調整するための複数の調整弁(35a,35b)がそれぞれ設けられ、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)には前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、前記制動力保持ステップ(S37)の後において車両の走行を再開させる場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力の減少態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S45,S46,S47)をさらに有することを要旨とする。
【0021】
各調整弁が正常に作動する場合、各車輪の車輪速度は、該各車輪に対する制動力の減少態様に個別対応した変化をそれぞれ示すはずである。そこで、本発明では、各車輪に対する制動力の減少態様が互いに異なるように各調圧弁をそれぞれ作動させた際に取得する各車輪の車輪速度に基づき、前記各調整弁の中に異常を示す調整弁が有るか否かが判定される。したがって、異常を示す調整弁が有るか否かを検出できる。
【0022】
本発明の車両の制御方法において、今回の異常判定ステップでは、第1の車輪に対する制動力のほうが第2の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、次回の異常判定ステップでは、第2の車輪に対する制動力のほうが第1の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを要旨とする。
【0023】
上記構成によれば、今回の異常判定ステップでは、第1の車輪の車輪速度のほうが第2の車輪の車輪速度よりも先に大きくなるはずである。このとき、第2の車輪の車輪速度のほうが第1の車輪の車輪速度よりも先に大きくなった場合には、第2の車輪に対応する調整弁が異常であると判定できる。また、次回の異常判定ステップでは、第2の車輪の車輪速度のほうが第1の車輪の車輪速度よりも先に大きくなるはずである。このとき、第1の車輪の車輪速度のほうが第2の車輪の車輪速度よりも先に大きくなった場合には、第1の車輪に対応する調整弁が異常であると判定できる。したがって、各調整弁のうち異常を示す調整弁を特定できる。
【0024】
本発明の車両の制御方法において、前記異常判定ステップ(S45,S46,S47)で異常を示す調整弁があると判定した場合、次回以降の車両停止時では、前記効率低下ステップ(S32)の実行を規制させることを要旨とする。
【0025】
異常を示す調整弁がある場合であっても効率低減ステップが実行されると、運転手がブレーキ操作を解消したときに、車輪に対する制動力を適切に保持できないため、運転手が意図しない車両の移動が発生するおそれがある。この点、本発明では、異常を示す調整弁がある場合には、効率低下ステップは実行されない。よって、効率低下ステップが実行される車両停止時には、該効率低下ステップによって車輪に対する制動力が保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0026】
一方、本発明の車両の制御装置は、車両の運転者によるブレーキ操作によって車両が停止した場合に、該車両の停止を維持する車両の制御装置であって、車両には、駆動源(12)と、該駆動源(12)で発生した駆動力が動力伝達経路(19,20)を介して伝達される車輪(FR,FL,RR,RL)と、前記動力伝達経路(19,20)に設けられる入力クラッチ(21)とが設けられており、前記入力クラッチ(21)及び前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を制御する制御手段(17,22,25)を備え、前記制御手段(17,22,25)は、車両の停止前に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率を低下させるべく前記入力クラッチ(21)を作動させる伝達効率低下制御を行い、前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持制御を行なうことを要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、上記車両の制御方法と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態における車両を模式的に示すブロック図。
【図2】制動装置を模式的に示すブロック図。
【図3】ホイールシリンダ内のWC圧とリニア電磁弁の電磁コイルに供給する電流値との関係を示すマップ。
【図4】実減速度と車体速度閾値との関係を示すマップ。
【図5】本実施形態の停止発進制御処理ルーチンを説明するフローチャート(前半部分)。
【図6】本実施形態の停止発進制御処理ルーチンを説明するフローチャート(後半部分)。
【図7】路面の傾斜角の演算処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図8】(a)はアクセルペダルの操作状況を説明するタイミングチャート、(b)はホイールシリンダ内のWC圧の変化を説明するタイミングチャート、(c)は各リニア電磁弁が正常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(d)は左後輪側のリニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(e)は右後輪側のリニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート、(f)は各リニア電磁弁が異常な場合の後輪の車輪速度の変化を説明するタイミングチャート。
【図9】(a)は車両の推定車体速度の変化を説明するタイミングチャート、(b)は車両の実減速度の変化を説明するタイミングチャート、(c)は減速度センサ値の変化を説明するタイミングチャート、(d)は路面の傾斜角を説明するタイミングチャート、(e)はアクセルペダルの操作状況を説明するタイミングチャート、(f)はブレーキスイッチの変化を説明するタイミングチャート、(g)は自動変速機の変速段の変化を説明するタイミングチャート、(h)はエンジンの回転数の変化を説明するタイミングチャート、(i)は減圧急勾配側の車輪を説明するタイミングチャート、(j)は右後輪側のリニア電磁弁に対する電流値の変化を説明するタイミングチャート、(k)は左後輪側のリニア電磁弁に対する電流値の変化を説明するタイミングチャート、(l)はマスタシリンダ及びホイールシリンダ内の圧力の変化を説明するタイミングチャート。
【図10】登坂路を走行する車両に加わる力の関係を説明する作用図。
【図11】(a)(b)(c)は従来において車体速度及び制動力の変化と、ポンプが作動するタイミングとを説明するタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図10に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の車両は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、後輪RR,RLが駆動輪として機能するいわゆる後輪駆動車である。こうした車両には、運転手によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を発生する駆動源としてのエンジン12を有する駆動力発生装置13と、該駆動力発生装置13で発生した駆動力を後輪RR,RLに伝達する駆動力伝達装置14とを備えている。また、車両には、運転手によるブレーキペダル15の操作量に応じた制動力を各車輪FR,FL,RR,RLに付与するための制動装置16が設けられている。
【0031】
駆動力発生装置13は、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に配置され、且つ該エンジン12に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置(図示略)を備えている。こうした駆動力発生装置13は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するエンジン用ECU17(「エンジン用電子制御装置」ともいう。)の制御に基づき駆動する。このエンジン用ECU17には、アクセルペダル11の近傍に配置され、且つ運転手によるアクセルペダル11の操作量、即ちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサSE1が電気的に接続されている。そして、エンジン用ECU17は、アクセル開度センサSE1からの検出信号に基づきアクセル開度を演算し、該演算したアクセル開度などに基づき駆動力発生装置13を制御する。
【0032】
駆動力伝達装置14は、運転手によって操作されるシフト装置18と、該シフト装置18によって設定されたシフトレンジに応じて作動し且つエンジン12の出力軸に接続された有段式の自動変速機19とを備えている。また、駆動力伝達装置14には、自動変速機19の出力軸から伝達された駆動力を適宜配分して後輪RR,RLに伝達するディファレンシャルギヤ20が設けられている。したがって、本実施形態では、自動変速機19及びディファレンシャルギヤ20によって、エンジン12で発生した駆動力を後輪RR,RLに伝達するための動力伝達経路が構成される。
【0033】
シフト装置18は、前進走行レンジ(「Dレンジ」ともいう。)、後進用走行レンジ(「Rレンジ」ともいう。)、ニュートラルレンジ(「Nレンジ」ともいう。)及びパーキングレンジ(「Pレンジ」ともいう。)を含む複数のシフトレンジを有している。Dレンジには、車両の推定車体速度や車体加速度などに応じて自動的に変速段を変更させる自動変速モードと、運転手によるシフト操作によって変速段を運転手の意図通りに変更させる手動変速モードとが含まれている。また、Nレンジ及びPレンジは、エンジン12からの駆動力を自動変速機19で遮断し、後輪RR,RLへの駆動力の伝達を規制するためのレンジである。
【0034】
自動変速機19は、トルクコンバータを有する流体式駆動力伝達機構と、複数の前進用変速段(例えば、6速変速段)及び後進用変速段などを有する変速機構とを備えている。この変速機構には、シフト装置18のシフトレンジがDレンジやRレンジである場合には係合状態に設定される一方、シフト装置18のシフトレンジがNレンジやPレンジである場合には解放状態に設定される入力クラッチ21が設けられている。この入力クラッチ21は、図示しない油圧調整部による油圧制御によって作動する。そして、エンジン12からの駆動力は、入力クラッチ21が係合状態である場合には流体式駆動力伝達機構及び変速機構を介してディファレンシャルギヤ20に伝達される一方、入力クラッチ21が解放状態である場合には変速機構の入力クラッチ21によって遮断されてディファレンシャルギヤ20に伝達されない。
【0035】
また、駆動力伝達装置14は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを有するAT用ECU22(「AT用電子制御装置」ともいう。)の制御によって駆動する。このAT用ECU22は、車両の推定車体速度、運転手によるアクセルペダル11、ブレーキペダル15及びシフト装置18の操作状況などに応じて、自動変速機19及びディファレンシャルギヤ20を適宜制御する。
【0036】
制動装置16は、図1及び図2に示すように、マスタシリンダ25、ブースタ26及びリザーバ27を有する液圧発生装置28と、2つの液圧回路29,30を有するブレーキアクチュエータ31(図2では二点鎖線で示す。)とを備えている。各液圧回路29,30は、液圧発生装置28のマスタシリンダ25にそれぞれ接続されている。そして、第1液圧回路29には、右前輪FR用のホイールシリンダ32a及び左後輪RL用のホイールシリンダ32dが接続されると共に、第2液圧回路30には、左前輪FL用のホイールシリンダ32b及び右後輪RR用のホイールシリンダ32cが接続されている。
【0037】
液圧発生装置28においてブースタ26は、エンジン12の図示しないインテークマニホールドに接続され、該インテークマニホールド内には、エンジン12の駆動時に負圧が発生する。そして、ブースタ26は、インテークマニホールド内に発生する負圧と大気圧との圧力差を利用し、運転手によるブレーキペダル15の操作力を倍力する。すなわち、本実施形態のブースタ26は、エンジン12の駆動時にのみ作動するブースタである。
【0038】
そして、エンジン12の駆動時であって且つブレーキペダル15が車両の運転者によって操作された場合には、マスタシリンダ25及びブースタ26がそれぞれ作動する。その結果、マスタシリンダ25からは、液圧回路29,30を介してホイールシリンダ32a〜32d内に流体としてのブレーキ液がそれぞれ供給される。すると、各車輪FR,FL,RR,RLには、ホイールシリンダ32a〜32d内のホイールシリンダ圧(「WC圧」ともいう。)に応じた制動力がそれぞれ付与される。
【0039】
ブレーキアクチュエータ31において各液圧回路29,30は、連結経路33,34を介してマスタシリンダ25にそれぞれ接続されており、該各連結経路33,34には、常開型のリニア電磁弁(調整弁)35a,35bがそれぞれ設けられている。これら各リニア電磁弁35a,35bは、弁座、弁体、電磁コイル及び弁体を弁座から離間する方向に付勢する付勢部材(例えば、コイルスプリング)をそれぞれ備えており、各弁体は、後述するブレーキ用ECU55から電磁コイルに供給される電流値に応じてそれぞれ変位する。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、リニア電磁弁35a,35bに供給される電流値に応じた液圧で維持される。
【0040】
第1液圧回路29には、ホイールシリンダ32aに接続される右前輪用経路36aと、ホイールシリンダ32dに接続される左後輪用経路36dとが形成されている。また、第2液圧回路30には、ホイールシリンダ32bに接続される左前輪用経路36bと、ホイールシリンダ32cに接続される右後輪用経路36cとが形成されている。したがって、本実施形態では、連結経路33,34及び各経路36a〜36dにより、マスタシリンダ25とホイールシリンダ32a〜32dとを連結する流路が構成される。また、各経路36a〜36dには、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧の増圧を規制する際に作動する常開型の電磁弁である増圧弁37a,37b,37c,37dと、WC圧を減圧させる際に作動する常閉型の電磁弁である減圧弁38a,38b,38c,38dとが設けられている。
【0041】
また、各液圧回路29,30には、各ホイールシリンダ32a〜32dから減圧弁38a〜38dを介して流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ39,40と、モータ41の回転に基づき作動するポンプ42,43とがそれぞれ接続されている。各リザーバ39,40は、吸入用流路44,45を介してポンプ42,43にそれぞれ接続されると共に、マスタ側流路46,47を介して連結経路33,34においてリニア電磁弁35a,35bよりもマスタシリンダ25側にそれぞれ接続されている。また、各ポンプ42,43は、供給用流路48,49を介して液圧回路29,30における増圧弁37a〜37dとリニア電磁弁35a,35bとの間の接続部位50,51にそれぞれ接続されている。そして、各ポンプ42,43は、モータ41が回転した場合に、リザーバ39,40及びマスタシリンダ25側から吸入用流路44,45及びマスタ側流路46,47を介してブレーキ液をそれぞれ吸引し、該ブレーキ液を供給用流路48,49内にそれぞれ吐出する。
【0042】
次に、ブレーキアクチュエータ31の駆動を制御するブレーキ用ECU55(「ブレーキ用電子制御装置」ともいう。)について説明する。
図2に示すように、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE2,SE3,SE4,SE5、車両の前後方向における車体減速度を検出するための加速度センサSE6が電気的に接続されている。また、ブレーキ用ECU55の入力側インターフェースには、ブレーキペダル15の近傍に配置され、且つブレーキペダル15が操作されているか否かを検出するためのブレーキスイッチSW1が電気的に接続されている。一方、ブレーキ用ECU55の出力側インターフェースには、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38d及びモータ41などが電気的に接続されている。なお、加速度センサSE6からは、車両が加速する場合には車両の重心が後方に移動するために正の値となるような信号が出力される一方、車両が減速する場合には車両の重心が前方に移動するために負の値となるような信号が出力される。
【0043】
また、ブレーキ用ECU55は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどから構成されるデジタルコンピュータ、各弁35a,35b,37a〜37d,38a〜38dを作動させるための図示しない弁用ドライバ回路、及びモータ41を作動させるための図示しないモータ用ドライバ回路を有している。デジタルコンピュータのROMには、各種制御処理(後述する停止発進制御処理等)、各種マップ(図3及び図4に示すマップ等)及び各種閾値(後述する経過時間閾値、基準値等)などが予め記憶されている。また、RAMには、車両の図示しないイグニッションスイッチがオンである間、適宜書き換えられる各種の情報(後述する車輪速度、推定車体速度、実減速度、減速度センサ値、傾斜角算出値、傾斜角、経過時間、所定時間、各フラグ、異常カウンタ等)などがそれぞれ記憶される。
【0044】
次に、ブレーキ用ECU55のROMに記憶される各種マップについて、図3及び図4に基づき説明する。
まず、図3に示す第1マップは、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcと、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給する電流値Islとの関係を示すマップである。図3に示すように、電流値Islは、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを高圧に設定する場合であるほど大きな値に設定される。すなわち、WC圧Pwcを「0(零)」に設定する場合、電流値Islは、最低電流値Iminに設定される。この最低電流値Iminよりも大きな電流値Islがリニア電磁弁35a,35bに供給された場合、リニア電磁弁35a,35bの弁体は、付勢部材からの付勢力に抗して弁体に接近すべく変位する。一方、WC圧Pwcが、想定する路面の傾斜角が最大(一例として30度)である場合であっても車両の停止を維持できるような設定流体圧としての最大液圧Pwc1(>0(零))である場合、電流値Islは、最大電流値Imaxに設定される。
【0045】
次に、図4に示す第2マップは、車両の実減速度DVSと、車体速度閾値KVSとの関係を示すマップである。なお、実減速度DVSとは、詳しくは後述するが推定車体速度に基づき演算された値であって、加速度センサSE6を用いないで取得できる値である。図4に示すように、実減速度DVSが「0(零)」である場合、車体速度閾値KVSは、第1速度値KVS1(例えば5km/h)に設定される。また、実減速度DVSが「0(零)」よりも大きく且つ所定減速度DVS1未満である場合、車体速度閾値KVSは、実減速度DVSが大きいほど大きな値に設定される。そして、実減速度DVSが所定減速度DVS1以上である場合、車体速度閾値KVSは、第2速度値KVS2(例えば10km/h)に設定される。
【0046】
なお、本実施形態の自動変速機19は、トルクコンバータを有している。そのため、シフト装置18のシフトレンジがDレンジである場合において、アクセルペダル11及びブレーキペダル15が操作されていないときには、クリープ現象に基づいたクリープ力が駆動輪である後輪RR,RLに伝達される。この場合、水平な路面上に位置する車両は、第1速度値KVS1に相当する速度(即ち、5km/h)程度で走行する。
【0047】
本実施形態の車両において、エンジン用ECU17、AT用ECU22及びブレーキ用ECU55同士は、図1に示すように、各種情報及び各種制御指令を送受信できるようにバス56を介してそれぞれ接続されている。例えば、エンジン用ECU17からは、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報などがブレーキ用ECU55に適宜送信される一方、ブレーキ用ECU55からは、エンジン12の駆動を停止させる旨の制御指令やエンジン12を再駆動させる旨の制御指令などがエンジン用ECU17に送信される。また、AT用ECU22からは、シフト装置18のシフトレンジ及び自動変速機19の変速段に関する情報などがブレーキ用ECU55に送信される一方、ブレーキ用ECU55からは、自動変速機19の入力クラッチ21を作動させる旨の制御指令などがAT用ECU22に送信される。したがって、本実施形態では、各ECU17,22,55により、制御手段が構成される。
【0048】
次に、各ECU17,22,55のうち、本実施形態ではメインのECUとして機能するブレーキ用ECU55が実行する停止発進制御処理ルーチンについて、図5〜図7に示すフローチャートと、図8及び図9に示すタイミングチャートと、図10に示す作用図とに基づき説明する。なお、図8は、登坂路で車両が発進する際のタイミングチャートである。
【0049】
さて、ブレーキ用ECU55は、予め設定された所定周期(例えば、0.01秒周期)毎に停止発進制御処理ルーチンを実行する。この停止発進制御処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、各車輪速度センサSE2〜SE5からの検出信号に基づき各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを取得する(ステップS10)。続いて、ブレーキ用ECU55は、ステップS10で取得した各車輪速度VWのうち少なくとも一輪の車輪速度VWに基づき推定車体速度VSを取得すると共に、推定車体速度VSを時間微分して該微分結果に対して「−1」を積算することにより実減速度DVSを取得する(ステップS11)。したがって、本実施形態では、ステップS11が、減速度取得ステップに相当する。そして、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報をエンジン用ECU17から取得し(ステップS12)、シフト装置18のシフトレンジに関する情報をAT用ECU22から取得する(ステップS13)。続いて、ブレーキ用ECU55は、加速度センサSE6からの検出信号に基づき車両の車体加速度を演算し、該車体加速度に対して「−1」を積算することにより減速度センサ値Gを取得する(ステップS14)。この減速度センサ値Gは、加速度センサSE6に基づき演算された車体減速度であり、車両減速時には正の値となる。また、減速度センサ値Gは、車両が登坂路で停止する場合には、路面が水平路のときと比較して車両の重心が後方に移動するために負の値を示す一方、車両が降坂路で停止する場合には、路面が水平路のときと比較して車両の重心が前方に移動するために正の値を示す。
【0050】
そして、ブレーキ用ECU55は、図7で詳述する路面の傾斜角θの演算処理を行なう(ステップS15)。続いて、ブレーキ用ECU55は、後述するエコラン制御許可フラグFLG1がOFFであるか否かを判定する(ステップS16)。このエコラン制御許可フラグFLG1は、車両のイグニッションスイッチがONになった場合に、OFFにリセットされる。ステップS16の判定結果が肯定判定(FLG1=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることが全て成立しているか否かを判定する(ステップS17)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、ステップS11で取得した推定車体速度VSに基づき車両が停止しているか否かを判定し、エンジン用ECU17から受信したアクセル開度が「0(零)」である場合にアクセルペダル11がOFFであると判定する。
【0051】
ステップS17の判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記3つの条件が全て成立するため、ブレーキ保持制御を実行する(ステップS18)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、下記に示す関係式(式1)に基づき、車両の停止する路面の傾斜角θに対応するホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを演算する。なお、関係式(式1)に代入される傾斜角θは、上記ステップS15で取得した傾斜角である。
【0052】
Pwc=A×(θの絶対値) ・・・(式1)
ただし、A…傾斜角をWC圧に変換するための定数
続いて、ブレーキ用ECU55は、演算したWC圧Pwcに対応する電流値Islを、図3に示す第1マップに基づき設定し、該設定した電流値Islを各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給させる。その結果、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧は、上記関係式(式1)で演算されたWC圧Pwcに近い圧力に調整される。そのため、運転手のブレーキペダル15の操作が解消された場合であっても、各車輪FR,RL,RR,RLに対する制動力が保持され、運転手が意図しない車両の移動が抑制される。したがって、本実施形態では、ステップS18が、流体圧減圧抑制ステップに相当する。その後、ブレーキ用ECU55は、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、ステップS17の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記3つの条件のうち少なくとも一つの条件が不成立であるため、ブレーキ保持制御が実施中であって且つアクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS19)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17から受信したアクセル開度が「0(零)」ではない場合にアクセルペダル11がONであると判定する。ステップS19の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御が実施中及びアクセルペダル11がONのうち少なくとも一方が成立していないため、運転手に車両を発進させる意志がないと判断し、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0054】
一方、ステップS19の判定結果が肯定判定(ブレーキ保持制御が実施中、且つアクセルペダル11=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手に車両を発進させる意志があると判断し、ブレーキ保持解消制御を実行する(ステップS20)。ブレーキ保持解消制御では、第1液圧回路29に接続されるホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcの減圧速度と、第2液圧回路30に接続されるホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcの減圧速度とが異なるように各リニア電磁弁35a,35bが作動される。具体的には、ブレーキ用ECU55は、駆動輪である後輪RR,RLのうち何れが減圧急勾配側の車輪であるのかを特定する。なお、初期状態においては、左後輪RLが減圧急勾配側の車輪に設定されている。続いて、ブレーキ用ECU55は、減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)用のホイールシリンダ(例えば、ホイールシリンダ32d)内のWC圧Pwcの減圧速度を第1減圧速度に設定する。また、ブレーキ用ECU55は、減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)用のホイールシリンダ(例えば、ホイールシリンダ32c)内のWC圧Pwcの減圧速度を第1減圧速度よりも低速の第2減圧速度に設定する。一例として、第2減圧速度は、第1減圧速度の1/5倍程度の速度に設定される。そして、ブレーキ用ECU55は、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcが個別に設定された減圧速度で減圧されるように、各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給する電流値Islを個別に小さくする。
【0055】
続いて、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持解消制御によって各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの減圧が開始されてからの経過時間が所定時間KT1を経過したか否かを判定する(ステップS21)。この所定時間KT1は、減圧急勾配側の車輪に対応するホイールシリンダ内のWC圧Pwcの減圧が開始されてから該WC圧Pwcが「0(零)」になるまでの時間に対して僅かに長い時間(例えば、0.01秒)を加算した時間である。すなわち、所定時間KT1は、ブレーキ保持解消制御が開始される直前においてリニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給される電流値Islが大きいほど長時間に設定される。ステップS21の判定結果が否定判定(経過時間<所定時間KT1)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS21の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS21の判定処理を繰り返し実行する。
【0056】
そして、ステップS21の判定結果が肯定判定(経過時間≧所定時間KT1)となった場合、ブレーキ用ECU55は、減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)の車輪速度VWが減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)の車輪速度VWよりも高速であるか否かを判定する(ステップS22)。減圧急勾配側の車輪(例えば、左後輪RL)及び減圧緩勾配側の車輪(例えば、右後輪RR)の各車輪速度VWは、ステップS10で取得した各後輪RR,RLの車輪速度VWである。したがって、本実施形態では、ステップS20,S21,S22が、異常判定ステップに相当する。
【0057】
ここで、アクセルペダル11がONになってから上記経過時間が所定時間KT1以上となるまでの各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの変化と、各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化との関係を、図8に示すタイミングチャートを用いて説明する。なお、ここでは、減圧急勾配側の車輪が左後輪RLであると共に、減圧緩勾配側の車輪が右後輪RRである場合について説明するものとする。また、図8(c)は、両リニア電磁弁35a,35bともに正常に作動する場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートであり、図8(d)は、左後輪RL側のリニア電磁弁35aが異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートである。また、図8(e)は、右後輪RR側のリニア電磁弁35bが異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートであり、図8(f)は、両リニア電磁弁35a,35bともに異常である場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの変化を示すタイミングチャートである。ちなみに、本実施形態におけるリニア電磁弁の異常とは、リニア電磁弁の弁体が正常に変位しない状態(弁体が何かにぶつかって意図通り変位しない状態(スティック)や異物のかみこみによるシール不良の状態))、弁体が弁座に着座してもWC圧Pwcを適切に保持できない状態などを示している。そして、リニア電磁弁の異常という概念には、リニア電磁弁自体の故障及びリニア電磁弁の電磁コイルに電流を供給するための電線の短絡などを含んでいる。
【0058】
すなわち、図8(a)(b)に示すように、第1のタイミングt11でアクセルペダル11がOFFからONになると、右前輪FR及び左後輪RL用のホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcは、第1減圧速度で減圧される。一方、左前輪FL及び右後輪RR用のホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcは、第2減圧速度(<第1減圧速度)で減圧される。このとき、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常である場合、図8(b)(c)に示すように、右前輪FR及び左後輪RL用のホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第2のタイミングt12で、左後輪RLの車輪速度VWが「0(零)」よりも大きな値となり、それ以降において左後輪RLの車輪速度VWは時間の経過と共に高速になる。この場合、左後輪RLの車輪速度VWは、車両の推定車体速度VSとほぼ同一速度となる。ただし、運転手によるアクセルペダル11の操作量が多い場合には、第2のタイミングt12以前に、左後輪RLの車輪速度VWが「0(零)」よりも大きな値となることもある。
【0059】
その一方で、第2のタイミングt12では、右後輪RRには、該右後輪RR用のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcに応じた制動力が付与されているため、右後輪RRの車輪速度VWは「0(零)」である。そして、第1のタイミングt11からの経過時間が所定時間KT1を経過した第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWが「0(零)」のままである。このとき、アクセルペダル11の操作量が多い場合には、第3のタイミングt13の時点で、右後輪RRの車輪速度VWが「0(零)」よりも高速である可能性もある。しかし、この場合であっても左後輪RLには制動力が付与されていない一方で、右後輪RRには制動力が付与されているため、左後輪RLの車輪速度VWのほうが右後輪RRの車輪速度VWよりも高速になる。
【0060】
その後、ホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第4のタイミングt14が経過すると、右後輪RRには、制動力が付与されなくなる。そのため、右後輪RRの車輪速度VWは、左後輪RLの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。そして、第5のタイミングt15で、右後輪RRの車輪速度VWが、左後輪RLの車輪速度VWとほぼ同等となる。なお、本実施形態では、第3のタイミングt13以降から、右後輪RR側のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcの減圧速度は、第2の減圧速度から、第1の減圧速度よりも大きな第3の減圧速度に変更される。
【0061】
また、左後輪RL側のリニア電磁弁35aのみが異常である場合、左後輪RL用のホイールシリンダ32d内のWC圧Pwcは、図8(b)の二点鎖線で示すように、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後に「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で左後輪RLには制動力が付与されなくなる。そのため、図8(d)に示すように、第1のタイミングt11以降において、左後輪RLの車輪速度VWは、時間の経過と共に高速になる。一方、右後輪RR側のリニア電磁弁35bは正常であるため、右後輪RRの車輪速度VWは、ホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcが「0(零)」となる第4のタイミングt14から左後輪RLの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。
【0062】
また、右後輪RR側のリニア電磁弁35bのみが異常である場合、図8(b)の二点鎖線で示すように、右後輪RR用のホイールシリンダ32c内のWC圧Pwcは、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後に「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で右後輪RRには制動力が付与されなくなる。そのため、図8(e)に示すように、第1のタイミングt11以降において、右後輪RRの車輪速度VWは、時間の経過と共に高速になる。このとき、車両の推定車体速度VSは、右後輪RRの車輪速度VWとほぼ同一速度となる。一方、左後輪RL側のリニア電磁弁35aは正常であるため、左後輪RLの車輪速度VWは、第2のタイミングt12以降から右後輪RRの車輪速度VWに追いつくべく急激に上昇する。そのため、第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWのほうが左後輪RLの車輪速度VWよりも高速になる。
【0063】
また、各リニア電磁弁35a,35bが共に異常である場合、図8(b)の二点鎖線で示すように、各後輪RR,RLのホイールシリンダ32c,32d内のWC圧Pwcは、ブレーキペダル15の操作が解消された時点又は直後にそれぞれ「0(零)」となる。すなわち、第1のタイミングt11で各後輪RR,RLには制動力がそれぞれ付与されなくなる。そのため、図8(f)に示すように、第1のタイミングt11以降において、各後輪RR,RLの車輪速度VWは、時間の経過と共にそれぞれ高速になる。この場合、第3のタイミングt13では、右後輪RRの車輪速度VWが左後輪RLの車輪速度VWとほぼ同等になる。
【0064】
なお、減圧急勾配側の車輪が右後輪RRであって減圧緩勾配側の車輪が左後輪RLである場合において、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であるときには、第4のタイミングt14で、右後輪RRの車輪速度VWのほうが左後輪RLの車輪速度VWよりも高速になる。また、左後輪RL側のリニア電磁弁35aのみが異常であるときには、第4のタイミングt14で、左後輪RLの車輪速度VWのほうが右後輪RRの車輪速度VWよりも高速になる。
【0065】
図5に戻り、ステップS22の判定結果が否定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度≦減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも減圧緩勾配側の車輪(例えば右後輪RR)用のリニア電磁弁(例えばリニア電磁弁35b)が異常の可能性有りと判断する。そして、ブレーキ用ECU55は、異常カウンタCIを「1」だけインクリメントし(ステップS23)、ステップS23で更新した異常カウンタCIが予め設定されたカウント閾値KCI(例えば3)以上であるか否かを判定する(ステップS24)。このカウント閾値KCIは、一回の判定処理だけで異常を示すリニア電磁弁有りとした場合には誤判定の可能性があるために設定した閾値である。ステップS24の判定結果が肯定判定(CI≧KCI)である場合、ブレーキ用ECU55は、異常検出処理を実行する(ステップS25)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁がある旨を運転手に報知したり、後述するクラッチ遮断処理やエンジン停止処理の実行を禁止したりする。その後、ブレーキ用ECU55は、エコラン制御許可フラグFLG1をOFFにセットし(ステップS26)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS24の判定結果が否定判定(CI<KCI)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS26の処理を実行した後、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0066】
一方、ステップS22の判定結果が肯定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度>減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのチェックが完了したか否かを判定する(ステップS27)。この判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、未だチェックが完了していないリニア電磁弁のチェックを次回に行なうために、減圧急勾配側の車輪を変更すると共に、異常カウンタCIを「0(零)」にリセットする(ステップS28)。例えば、ブレーキ用ECU55は、今回の減圧急勾配側の車輪が左後輪RLであった場合には、次回の減圧急勾配側の車輪を右後輪RRに変更する。その後、ブレーキ用ECU55は、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS27の判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であるため、エコラン制御許可フラグFLG1をONにセットする共に、異常カウンタCIを「0(零)」にリセットし(ステップS29)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0067】
その一方で、ステップS16の判定結果が否定判定(FLG1=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、図6のフローチャートに示すように、ステップS11で取得した実減速度DVSに対応する車体速度閾値KVSを、図4に示す第2マップに基づき設定する(ステップS30)。したがって、本実施形態では、ステップS30が、閾値設定ステップに相当する。続いて、ブレーキ用ECU55は、推定車体速度VSが車体速度閾値KVS以下であること、アクセルペダル11がOFFであること、ブレーキスイッチSW1がONであること及び実減速度DVSが「0(零)」よりも大きいことが全て成立しているか否かを判定する(ステップS31)。このステップS31で用いられる推定車体速度VS、実減速度DVS及び車体速度閾値KVSは、ステップS11,S30の各処理で取得された値である。
【0068】
ステップS31の判定処理が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記4つの条件が全て成立しているため、クラッチ遮断制御(伝達効率低下制御)を実行する(ステップS32)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を解放状態にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を解放状態にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合には入力クラッチ21が解放状態になった旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、入力クラッチ21が解放状態になった旨を受信した場合、その処理を後述するステップS36に移行する。したがって、本実施形態では、ステップS32が、効率低下ステップに相当する。
【0069】
ここで、図9(a)(b)(c)(d)に示すように、登坂路を走行する車両の推定車体速度VSが一定速である場合、該推定車体速度VSに基づき演算される実減速度DVSはほぼ「0(零)」となると共に、加速度センサSE6を用いて取得される減速度センサ値Gは負の値となる(第1のタイミングt21)。減速度センサ値Gが負の値となる理由としては、図10に示すように、登坂路を走行する車両には車体に加わる重力gに基づいた力(斜面下方への力であって、「重力相当力」ともいう。)Fgが作用し、該重力相当力Fgによって車両の重心が後方に移動する傾向を示すためである。また、重力相当力Fgは、路面の傾斜角θが大きいほど大きくなる。
【0070】
そして、図9(a)(e)に示すように、運転手によるアクセルペダル11の操作が解消される第2のタイミングt22以降では、エンジン12から駆動輪である後輪RR,RLに伝達される駆動力Fd(図10参照)が小さくなるため、重力相当力Fgが作用する車両の推定車体速度VSが徐々に低速になる。すると、実減速度DVS及び減速度センサ値Gは、第2のタイミングt22以前と比較してそれぞれ大きな値になる。本実施形態において実減速度DVS及び減速度センサ値Gはそれぞれ正の値になる。その後の第3のタイミングt23で運転手がブレーキペダル15の操作を開始すると、図9(f)に示すように、ブレーキスイッチSW1がOFFからONになる。
【0071】
そして、車両の推定車体速度VSが実減速度DVSに基づき設定された車体速度閾値KVS以下になる第4のタイミングt24では、図9(a)(g)に示すように、自動変速機19の変速段を現時点の変速段(この場合、第2変速段(2nd))からニュートラルに変更するためにクラッチ遮断制御が開始される。このクラッチ遮断制御が実行されると、自動変速機19の入力クラッチ21が係合状態から解放状態に変更され、エンジン12から後輪RR,RLへの動力伝達が遮断される。すると、車両には、該車両を前方に移動させるための力が作用しなくなる。なお、入力クラッチ21が実際に解放状態になるタイミングは、第4のタイミングt24よりも僅かに遅れる。これは、入力クラッチ21が油圧制御によって作動することに起因した応答遅れのためである。
【0072】
このようにクラッチ遮断制御が実行されると、後輪RR,RLにはエンジン12によるで応力伝達がされなくなる。エンジン12から後輪RR,RLに伝達される駆動力は、運転手が意図しない車両の後退に対して逆方向の力である。そのため、車両の運転手は、後輪RR,RLに伝達される駆動力の減少分だけ、車両の停止前にブレーキペダル15の操作量を増大させ、車両の意図しない後退の抑制を図る。すると、マスタシリンダ25のマスタシリンダ圧(以下、「MC圧」ともいう。)Pmcが増圧されると共に、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcは、MC圧Pmcに追随してそれぞれ増圧される。その結果、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、それぞれ増大される。
【0073】
図6に戻り、ステップS31の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、上記4つの条件のうち少なくとも一つの条件が不成立であると判断し、後述するエンジン停止フラグFLG2がOFFであるか否かを判定する(ステップS33)。この判定結果が否定判定(FLG2=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を後述するステップS36に移行する。一方、ステップS33の判定結果が肯定判定(FLG2=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS34)。この判定結果が肯定判定(アクセルペダル11=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、運転手が車両を加速させる意志があると判断し、第1クラッチ接続制御を実行する(ステップS35)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を係合状態にさせると共に、自動変速機19の変速段をクラッチ遮断制御の実行前の変速段(図9の場合では第2変速段)にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を係合状態にすると共に、変速段を第2変速段にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合にはその旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、油圧制御が完了した旨を受信した場合、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS34の判定結果が否定判定(アクセルペダル11=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、その処理を次のステップS36に移行する。
【0074】
ステップS36において、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS17と同等の判定処理を行なう。この判定結果が肯定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることが全て成立するため、上記ステップS18と同等のブレーキ保持制御(制動力保持制御)を実行する(ステップS37)。したがって、本実施形態では、ステップS37が、運転手によるブレーキ操作に基づく車両の停止後に、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を維持させる制動力保持ステップ及び流体圧減圧抑制ステップに相当する。
【0075】
そして、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御によって各リニア電磁弁35a,35bの作動が完了した後に、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御を実行する(ステップS38)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン12を停止させる旨の制御指令をエンジン用ECU17に送信する。すると、エンジン用ECU17は、エンジン12への燃料の供給を停止させるなどを行なってエンジン12を停止させる。そして、エンジン用ECU17は、エンジン12の停止が完了すると、その旨をブレーキ用ECU55に送信する。したがって、本実施形態では、ステップS38(エンジン停止制御)が、制動力維持ステップ(ステップS37)の後に実行される駆動源停止ステップに相当する。また、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の入力クラッチ21を係合状態にさせると共に、自動変速機19の変速段を第1変速段(1st)にさせる旨の制御指令をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、入力クラッチ21を係合状態にすると共に、変速段を第1変速段にするべく油圧制御を行ない、該油圧制御が完了した場合にはその旨をブレーキ用ECU55に送信する。したがって、本実施形態では、ステップS38(第2クラッチ接続制御)が、後輪RR,RLへの駆動力Fdの伝達効率がクラッチ遮断制御の実行前に近づくように入力クラッチ21を作動させる効率回復ステップに相当する。そして、ブレーキ用ECU55は、エンジン用ECU17からエンジン12が停止した旨を受信すると共に、AT用ECU22から自動変速機19の変速段が第1変速段に設定された旨を受信した場合に、エンジン停止フラグFLG2をONにセットし(ステップS39)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0076】
ここで、図9(a)に示すように、車両が停止した第5のタイミングt25では、アクセルペダル11がOFFであると共にブレーキスイッチSW1がONであるため、ブレーキ保持制御が開始される。すなわち、図9(j)(k)に示すように、各リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、車両の停止する路面の傾斜角θに応じた電流値Islがそれぞれ供給される。こうした電流値Islに基づき各リニア電磁弁35a,35bが作動する場合、運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力がそれぞれ保持され、ひいては車両の後退が抑制される。
【0077】
その後の第6のタイミングt26では、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御が実行される。このとき、図9(g)に示すように、自動変速機19の変速段がニュートラルから第1変速段に変更される第7のタイミングt27は、第6のタイミングt26よりも僅かに遅れる。これは、自動変速機19において入力クラッチ21を含む複数の要素が油圧制御によって作動することに起因した応答遅れのためである。また、図9(h)に示すように、エンジンが実際に停止する第8のタイミングt28は、第6のタイミングt26よりも僅かに遅れる。これは、エンジン12への燃料供給が停止されてから、エンジン12で駆動力が発生しなくなるまでに多少の時間を要するためである。
【0078】
図6に戻り、ステップS36の判定結果が否定判定である場合、ブレーキ用ECU55は、車両が停止中であること、アクセルペダル11がOFFであること及びブレーキスイッチSW1がONであることのうち少なくとも一つが不成立であるため、エンジン停止フラグFLG2がONであるか否かを判定する(ステップS40)。この判定結果が否定判定(FLG2=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、ブレーキ保持制御、エンジン停止制御及び第2クラッチ接続制御が未実行であると判断し、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS40の判定結果が肯定判定(FLG2=ON)である場合、ブレーキ用ECU55は、エンジン停止フラグFLG2をOFFにリセットし(ステップS41)、エンジン再始動制御を実行する(ステップS42)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、エンジン12を再始動させる旨の制御指令をエンジン用ECU17に送信する。すると、エンジン用ECU17は、エンジン12を始動させるべく駆動力発生装置13を制御し、エンジン12が実際に始動し始めると(即ち、エンジン12から駆動力Fdが発生し始めると)、その旨をブレーキ用ECU55に送信する。そして、ブレーキ用ECU55は、エンジン12が実際に始動し始めた旨をエンジン用ECU17から受信すると、エンジン再始動制御を終了する。
【0079】
続いて、ブレーキ用ECU55は、アクセルペダル11のアクセル開度に関する情報をエンジン用ECU17から取得し、該取得結果に基づきアクセルペダル11がONであるか否かを判定する(ステップS43)。この判定結果が否定判定(アクセルペダル11=OFF)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS43の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS43の判定処理を繰り返し実行する。そして、ステップS43の判定結果が肯定判定(アクセルペダル11=ON)になった場合、ブレーキ用ECU55は、クラッチ変速制御を実行する(ステップS44)。具体的には、ブレーキ用ECU55は、自動変速機19の変速段を必要に応じて変更させる旨をAT用ECU22に送信する。すると、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ手動変速モードである場合には現時点で選択されている変速段(例えば第2変速段)を取得し、自動変速機19の変速段を、選択されている変速段に変更する。このとき、AT用ECU22は、選択されている変速段が第1変速段である場合には自動変速機19の変速段の変更を行なわない。また、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ自動変速モードである場合にも自動変速機19の変速段の変更を行なわない。さらに、AT用ECU22は、シフト装置18のシフトレンジがDレンジ以外である場合にも自動変速機19の変速段の変更を行なわない。
【0080】
続いて、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS20と同等のブレーキ保持解消制御を行なう(ステップS45)。そして、ブレーキ用ECU55は、上記ステップS21と同様の判定処理を行なう(ステップS46)。この判定結果が否定判定(経過時間<所定時間KT1)である場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS46の判定結果が肯定判定になるまで該ステップS46の判定処理を繰り返し実行する。
【0081】
そして、ステップS46の判定結果が肯定判定(経過時間≧所定時間KT1)となった場合、ブレーキ用ECU55は、ステップS22と同様の判定処理を行なう(ステップS47)。したがって、本実施形態では、ステップS45,S46,S47により、各リニア電磁弁35a,35bの中で異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判断する異常判定ステップが構成される。ステップS47の判定結果が否定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度≦減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁が異常である可能性があると判断する。そして、ブレーキ用ECU55は、エコラン制御許可フラグFLG1をOFFにセットし(ステップS48)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。一方、ステップS47の判定結果が肯定判定である場合、即ち減圧急勾配側の車輪の車輪速度>減圧緩勾配側の車輪の車輪速度である場合、ブレーキ用ECU55は、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁が正常であるため、上記ステップS28と同様に減圧急勾配側の車輪を変更し(ステップS49)、停止発進制御処理ルーチンを一旦終了する。
【0082】
ここで、図9(a)(l)に示すように、運転手によるブレーキペダル15の操作量が少なくなると、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcが徐々に減圧される(第9のタイミングt29)。このとき、各リニア電磁弁35a,35bの作動によって、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcの減圧は抑制され、結果として、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力が保持される。そして、図9(a)(f)(l)に示すように、運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されると、マスタシリンダ25内のMC圧Pmcはほぼ「0(零)」になると共に、ブレーキスイッチSW1がOFFになる(第10のタイミングt210)。この第10のタイミングt210では、図9(h)に示すように、エンジン再始動制御が開始される。その後の第11のタイミングt211では、運転手によるアクセルペダル11の操作が開始される。そして、エンジン12が実際に駆動し始める第12のタイミングt212では、図9(g)(h)(j)(k)に示すように、クラッチ変速制御が開始されると共に、ブレーキ保持解消制御が開始される。すると、図9(g)に示すように、第12のタイミングt212よりも僅かに遅れる第13のタイミングt213で、自動変速機19の変速段の第1変速段から第2変速段への変更が完了する。
【0083】
また、図9(i)(j)(k)(l)に示すように、減圧急勾配側の車輪である右後輪RR側のリニア電磁弁35bの電磁コイルに供給される電流値Islは、ホイールシリンダ32b,32c内のWC圧Pwcが第1減圧速度で減圧されるように徐々に小さくなる。また、減圧緩勾配側の車輪である左後輪RL側のリニア電磁弁35aの電磁コイルに供給される電流値Islは、ホイールシリンダ32a,32d内のWC圧Pwcが第2減圧速度(<第1減圧速度)で減圧されるように徐々に小さくなる。そして、減圧急勾配側の車輪である右後輪RRに伝達されるエンジン12からの駆動力Fdが、右後輪RRに付与される制動力と車両に作用する重力相当力Fgとの和よりも大きくなる第14のタイミングt214で、車両が前方に向けて走行し始める。なお、左後輪RLに対する制動力が「0(零)」となる第15のタイミングt215で、減圧急勾配側の車輪が左後輪RLに変更されると共に、減圧緩勾配側の車輪が右後輪RRに変更される。
【0084】
次に、上記ステップS15の路面の傾斜角θの演算処理ルーチンについて、図7に示すフローチャートに基づき説明する。
さて、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンにおいて、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角算出値αを以下に示す関係式(式2)を用いて演算する(ステップS60)。なお、関係式(式2)に代入される実減速度DVS及び減速度センサ値Gは、上記ステップS11,S14で取得した値である。
【0085】
α=arcsin(DVS−G)/g) ・・・(式2)
ただし、g…標準重力加速度(9.8m/s2)
続いて、ブレーキ用ECU55は、経過時間Tを更新し(ステップS61)、該更新した経過時間Tが予め設定された経過時間閾値KT2以上であるか否かを判定する(ステップS62)。この経過時間閾値KT2は、傾斜角算出値αを複数回(例えば5回)演算できる程度の時間に設定される。ステップS62の判定結果が否定判定(T<KT2)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。一方、ステップS62の判定結果が肯定判定(T≧KT2)である場合、ブレーキ用ECU55は、経過時間Tを「0(零)」にリセットし(ステップS63)、ステップS62が肯定判定になるまでの間に取得した複数の傾斜角算出値αの中から最大値αmaxと最小値αminとを抽出する(ステップS64)。そして、ブレーキ用ECU55は、ステップS64で抽出した最大値αmaxと最小値αminとの差分(=αmax−αmin)が予め設定された基準値Ksub未満であるか否かを判定する(ステップS65)。
【0086】
車両の走行する路面が凹凸の少ない良路である場合、複数の傾斜角算出値αのばらつきは少ない。その一方で、路面の凹凸が多い悪路である場合、複数の傾斜角算出値αのばらつきは多くなり、上記ステップS60で取得した傾斜角算出値αは、路面の実際の傾斜角と乖離している可能性がある。そこで、本実施形態では、取得した複数の傾斜角算出値αを用いて路面が悪路であるか否かを判断するための基準値として、基準値Ksubが予め設定される。
【0087】
そして、ステップS65の判定結果が肯定判定((αmax−αmin)<Ksub)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面が良路であると判断し、ステップS62が肯定判定になるまでの間に取得した各傾斜角算出値αの平均値を演算し、該平均値を路面の傾斜角θとする(ステップS66)。したがって、本実施形態では、ステップS60,S66により、傾斜角取得ステップが構成される。その後、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。一方、ステップS65の判定結果が否定判定((αmax−αmin)≧Ksub)である場合、ブレーキ用ECU55は、路面が悪路であり且つ傾斜角θが取得不能であると判断し、路面の傾斜角θを、想定する路面の傾斜角の最大値である傾斜最大値θmax(例えば30度)に設定する(ステップS67)。その後、ブレーキ用ECU55は、路面の傾斜角θの演算処理ルーチンを終了する。
【0088】
すなわち、加速度センサSE6からの検出信号には、車両の実際の加減速に関する信号成分と共に、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力に応じた信号成分が含まれる。路面が良路である場合には、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力の変動が小さいため、取得した実減速度DVS及び減速度センサ値Gに基づき演算された各傾斜角算出値αは、路面の実際の傾斜角に近い値になる。そして、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θが設定される。その結果、車両が停止した場合における各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、路面の実際の傾斜角に応じた大きさ若しくはそれに準じた大きさで維持される。
【0089】
一方、路面が悪路である場合には、路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力の変動が大きいため、取得した実減速度DVS及び減速度センサ値Gに基づき演算された各傾斜角算出値αのばらつきが大きい。そのため、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θを設定したとしても、該傾斜角θは、路面の実際の傾斜角と乖離している可能性が高い。そこで、本実施形態では、路面が悪路である場合、傾斜角θは、傾斜最大値θmaxに設定される。その結果、車両が停止した場合における各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は、路面の実際の傾斜角に応じた大きさよりも大きな力で維持される。本実施形態では、傾斜角θが傾斜最大値θmaxに設定された場合、図3に示す第1マップ及び上記関係式(式1)に基づき、各リニア電磁弁35a,35bに供給される電流値Islは、最大電流値(設定値)Imaxに設定される。よって、運転手が意図しない車両の移動が抑制される。
【0090】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両が停止する前に、エンジン12から後輪RR,RLへの駆動力Fdの伝達が遮断される。そのため、車両が停止した後に該車両の停止を維持させるためには、車輪FR,FL,RR,RLに付与された制動力を保持させるだけでよい。すなわち、車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を車両側で自動的に増大させるために、ポンプ42,43やモータ41を作動させなくてもよい。したがって、車両の停止時に該車両からの作動音の発生を抑制できる。また、車両の停止時にポンプ42,43を作動させて車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させる場合と比較して、車両の消費電力を低減させることができる。
【0091】
(2)ブレーキ保持制御が実行された場合、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧(流体圧)Pwcを保持するための電流値Islは、車両が停止する路面の傾斜角θが大きいほど大きな値に調整される。すなわち、ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧(流体圧)Pwcは、路面の傾斜角θが大きいほど、より高圧な状態で保持されて減圧されにくくなる。その結果、ブレーキ保持制御が実行された状態で運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の減少は抑制される。そのため、車両の停止する路面が登坂路や降坂路であっても、運転手の意図しない車両の移動の発生を抑制できる。また、例えば路面の傾斜角θに関係なく電流値Islを最大電流値Imaxに設定する場合と比較して、ブレーキ保持制御中における車両の消費電力を低減させることができる。
【0092】
(3)さらに、本実施形態では、車両の走行する路面が凹凸の比較的少ない良路であるか凹凸の比較的多い悪路であるかが判定される。そして、路面が良路である場合には、経過時間閾値KT2に相当する時間内に取得した複数の傾斜角算出値αに基づき路面の傾斜角θが演算される。そのため、演算値である傾斜角θと実際の傾斜角との相違を極力小さくできる。その結果、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、路面の実際の傾斜角に応じた電流値に極めて近い電流値Islが供給される。したがって、登坂路や降坂路での車両の停止中に運転手がブレーキペダル15の操作を解消したとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は実際の傾斜角に対応する適切な制動力で保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を抑制できる。
【0093】
(4)その一方で、路面が悪路である場合には、複数の傾斜角算出値αのばらつきが大きいため、各傾斜角算出値αに基づき傾斜角θを演算したとしても該傾斜角θは、実際の傾斜角とは乖離した値となる可能性が高い。そこで、本実施形態では、路面が悪路である場合、傾斜角θは、傾斜最大値θmaxに設定され、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルには、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Isl(本実施形態では、最大電流値Imax)が供給される。そのため、登坂路や降坂路での車両の停止中に運転手がブレーキペダル15の操作を解消したとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力は実際の傾斜角に対応する制動力以上の制動力で保持されるため、運転手が意図しない車両の移動を確実に抑制できる。
【0094】
(5)しかし、路面が悪路である場合であっても、車両が停止した場合には、加速度センサSE6からの検出信号において路面から車輪FR,FL,RR,RLが受ける反力に応じた信号成分は極めて小さくなる。そのため、車両が停止してからの各傾斜角算出値αに基づき演算された傾斜角θは、路面の凹凸度合いに関係なく、実際の傾斜角に近い値となる。そこで、本実施形態では、路面が悪路であると判断した場合であっても車両の停止後に上記ステップS65が肯定判定となったときには、傾斜角θは、各傾斜角算出値αに基づき演算される。そして、新たに演算された傾斜角θに応じた電流値Islが、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに供給される。したがって、リニア電磁弁35a,35bの電磁コイルに、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Isl(最大電流値Imax)が供給され続ける場合と比較して、ブレーキ保持制御中における車両の消費電力を低減させることができる。
【0095】
(6)本実施形態では、クラッチ遮断制御及びブレーキ保持制御の実行後には、エンジン12の駆動が停止される。すなわち、アイドリングがストップされる。そのため、車両の燃費を向上させることができる。
【0096】
(7)また、車両の停止後であって且つブレーキ保持制御の実行後には、運転手に車両を発進させる意志があることを検出する前に、解消状態にある自動変速機19の入力クラッチ21が係合状態に戻される。そのため、運転手に車両を発進させる意志があることを検出した後に入力クラッチ21を係合状態に戻す場合と比較して、車両を速やかに再発進させることができる。
【0097】
(8)もし仮にエンジン12が停止してから各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保持させる場合には、エンジン12の停止に伴うブースタ26の作動停止によるマスタシリンダ25のMC圧Pmcの減圧に追随し、各WC圧Pwcもまたそれぞれ減圧される可能性がある。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力の低下にも繋がる。この点、本実施形態では、車両の停止後に、エンジン12は、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcが保持された状態で停止される。そのため、エンジン12の停止に伴う各WC圧Pwcの減圧を抑制でき、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を保持させることができる。
【0098】
(9)車両の停止前に入力クラッチ21を解放状態にするタイミングを設定するための車体速度閾値KVSは、実減速度DVSが大きいほど大きな値に設定される。そのため、エンジン12から車輪FR,FL,RR,RLへの駆動力Fdを確実に遮断させた状態で車両を停止させることができる。
【0099】
(10)また、車両の停止中にエンジン12が再始動した場合、自動変速機19の変速段は、車両の移動が再開する前に、運転手が所望する変速段に設定される。したがって、車両を、運転手が所望する加速度で発進させることができる。
【0100】
(11)車両を発進させる場合には、各リニア電磁弁35a,35bが正常に動作するか否かがチェックされる。具体的には、減圧急勾配側の車輪用のホイールシリンダ(例えばホイールシリンダ32c)内のWC圧Pwcが第1減圧速度で減圧されると共に、減圧緩勾配側の車輪用のホイールシリンダ(例えばホイールシリンダ32d)内のWC圧Pwcが第2減圧速度で減圧されるように、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islが個別に調整される。そして、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islが個別に調整される場合の各後輪RR,RLの車輪速度VWの大小に基づき、各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁が有るか否かがチェックされる。すなわち、ブレーキ保持解消制御中に異常を示すリニア電磁弁が有るか否かをチェックできる。
【0101】
(12)本実施形態では、ブレーキ保持解消制御が開始されてから所定時間KT1経過後に検出した減圧緩勾配側の車輪(例えば左後輪RL)の車輪速度が、減圧急勾配側の車輪(例えば右後輪RR)の車輪速度よりも高速である場合には、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁(この場合、リニア電磁弁35a)が異常であると判定される。したがって、各リニア電磁弁35a,35bのうち何れのリニア電磁弁が異常であるか否かを判定できる。
【0102】
(13)今回のブレーキ保持解消制御時には、減圧急勾配側の車輪が右後輪(第1の車輪)RRであって、該車輪用のリニア電磁弁がリニア電磁弁(第1の調整弁)35bである場合、次回のブレーキ保持解消制御時には、減圧急勾配側の車輪が左後輪(第2の車輪)RLであって、該車輪用のリニア電磁弁がリニア電磁弁(第2の調整弁)35aに変更される。すなわち、リニア電磁弁35a,35bのチェックを交互に行なうことができる。
【0103】
(14)また、本実施形態では、各リニア電磁弁35a,35bが共に正常であると判定されるまでは、運転手によるブレーキペダル15の操作による車両の停止時に、クラッチ遮断制御、エンジン停止制御及びブレーキ保持制御のうちブレーキ保持制御のみが実行される。これは、各リニア電磁弁35a,35bのうち少なくとも一方が異常を示す場合にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を行なうと、登坂路で車両を再発進させるべく運転手によるブレーキペダル15の操作が解消されたときに、液圧発生装置28のエンジン負荷によるブレーキ助勢力が不足することになり、車両が不必要に後退するおそれがあるためである。すなわち、運転手が意図しない車両の移動が発生するおそれがある。したがって、車両の安全性を維持できる。
【0104】
(15)クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御が実行されない状態で停止する車両が再発進する場合には、ブレーキ保持解消制御が実行される。このときに、各リニア電磁弁35a,35bが正常に作動するか否かがチェックされる。そのため、各リニア電磁弁35a,35bが正常に作動することが確認された状態で車両が停止する場合に、クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を実行させることができる。
【0105】
(16)しかし、車両の走行中にリニア電磁弁35a,35bが故障してしまうこともある。この点、本実施形態では、クラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を伴う車両の停止後に、車両を再発進させる場合には、リニア電磁弁35a,35bが正常に作動するか否かがチェックされる。したがって、車両の走行中にリニア電磁弁35a,35bが異常を示すようになった場合には、車両の停止時にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御の実行を規制できる。
【0106】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・実施形態において、カウント閾値KCIは、「3」以外の正の整数(例えば2回)であってもよい。
【0107】
・実施形態において、停止発進制御処理ルーチンは、ステップS17〜S29を省略した制御処理であってもよい。この場合、車両のイグニッションスイッチがオンになって初めて車両が停止する場合にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御を実行させることになる。しかし、車両の再発進時に実行されるブレーキ保持解消制御によって各リニア電磁弁35a,35bの中に異常を示すリニア電磁弁があると判定された場合には、次回以降の車両停止時にクラッチ遮断制御及びエンジン停止制御の実行を規制することが望ましい。
【0108】
・実施形態において、ステップS17〜S29の各処理で各リニア電磁弁35a,35bが正常であると判定された場合であって且つその後のリニア電磁弁35a,35bの異常判定が不要である場合には、ステップS45のブレーキ保持解消制御で、各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを同一減圧速度でそれぞれ減圧させてもよい。
【0109】
・実施形態において、ブレーキ保持解消制御では、減圧緩勾配側の車輪用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするタイミングを、減圧急勾配側の車輪用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするタイミングよりも遅らせてもよい。例えば、ブレーキ保持解消制御では、第1の車輪(例えば、右後輪RR)用のリニア電磁弁に対する電流値Islが「0(零)」になってから、第2の車輪(例えば、左後輪RL)用のリニア電磁弁に対する電流値Islを小さくするようにしてもよい。この場合、各リニア電磁弁35a,35bに対する電流値Islを低下させる速度は、同一速度であってもよい。このように構成しても、上記実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0110】
・実施形態において、ブレーキ保持解消制御では、各後輪RR,RLの車輪加速度を、該各車輪RR,RLの車輪速度VWを時間微分することにより取得してもよい。そして、ブレーキ保持解消制御が開始されてからの経過時間が所定時間KT1を経過した場合に、各後輪RR,RLの車輪加速度の大小によって、異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判定してもよい。これは、各後輪RR,RLに同等の駆動力が付与される場合、付与される制動力の小さい車輪の車輪加速度のほうが、付与される制動力の大きい車輪の車輪加速度よりも大きな値になるためである。
【0111】
もちろん、各後輪RR,RLの車輪加速度及び各後輪RR,RLの車輪速度VWの両方を用いて異常を示すリニア電磁弁が有るか否かを判定してもよい。これらのように構成しても、上記実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0112】
・実施形態において、各連結経路33,34に配置される調整弁は、二位置型の電磁弁であってもよい。また、ブレーキ保持制御では、リニア電磁弁35a,35bではなく、増圧弁37a〜37dを作動させて各ホイールシリンダ32a〜32d内のWC圧Pwcを保持させてもよい。
【0113】
・実施形態において、車体速度閾値KVSを、減速度センサ値Gに基づき設定してもよい。
また、車体速度閾値KVSは、実減速度DVSや減速度センサ値Gなどに関係なく一定値(例えば、5km/h)であってもよい。ただし、車体速度閾値KVSは、「10km/h」以下の値に設定することが望ましい。
【0114】
・実施形態において、第2クラッチ接続制御では、自動変速機19の変速段をクラッチ遮断制御が実行される直前の変速段(図9では第2変速段)に設定させてもよい。また、シフト装置18のシフトレンジがDレンジであって且つ手動変速モードである場合、第2クラッチ接続制御では、自動変速機19の変速段を現時点で選択されている変速段に設定してもよい。これらのような制御構成にした場合、クラッチ変速制御(ステップS44)を省略してもよい。
【0115】
・実施形態において、エンジン停止制御を、ブレーキ保持制御と同一タイミング(図9における第5のタイミングt215)で行なってもよい。このように構成しても、エンジン12が実際に停止するのは、リニア電磁弁35a,35bの作動が完了した後になる。
【0116】
・実施形態において、ステップS60で演算された傾斜角算出値αに対して、フィルタリング処理を行ない、フィルタリング処理後の傾斜角算出値αを用いてステップS61以降の各処理を行なってもよい。
【0117】
・実施形態において、車両に搭載されるナビゲーション装置などから現時点の路面の傾斜角(又は勾配)に関する情報を取得できる場合には、該取得した情報に基づきリニア電磁弁35a,35bに供給する電流値Islを設定してもよい。
【0118】
・実施形態において、路面が悪路であると判定して傾斜角θを傾斜最大値θmaxに設定した場合、車両の停止後に傾斜角θの再取得を行なわなくてもよい。この場合、車両の停止中において各リニア電磁弁35a,35bには、傾斜最大値θmaxに応じた電流値Islが供給され続ける。
【0119】
・実施形態において、自動変速機19は、エンジン12が駆動すると共に入力クラッチ21が係合状態である状態で車両を停止させることが可能な変速機であれば、無段式の自動変速機でもよい。
【0120】
・実施形態において、車両を、駆動源としてエンジン12及びモータを有するいわゆるハイブリッド車両や電気自動車に具体化してもよい。こういった車両であっても、運転手によるブレーキペダル15の操作に伴う車両の停止時に、各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動力を増大させるべくポンプを作動させる必要がない。
【0121】
・実施形態において、車両は、前輪駆動車でもよいし、四輪駆動車でもよい。
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)と第1の車輪用のホイールシリンダとを連結する流路に設けられ、且つ該流路の流動抵抗を調整すべく作動する第1の調整弁と、
前記マスタシリンダ(25)と第2の車輪用のホイールシリンダとを連結する流路に設けられ、且つ該流路の流動抵抗を調整すべく作動する第2の調整弁との異常を検出する調整弁異常検出方法であって、
車両の停止時に、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)の減圧が抑制されるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させる流体圧減圧抑制ステップ(S18、S37)と、
車両が発進する場合に、前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)の減圧態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S20,S21,S22、S45,S46,S47)と、を有することを特徴とする調整弁異常検出方法。
【0122】
(ロ)前記異常判定ステップ(S20,S21,S22、S45,S46,S47)では、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧速度と前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧速度とが互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させることを特徴とする技術的思想(イ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0123】
(ハ)前記異常判定ステップでは、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧の開始タイミングと前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)の減圧の開始タイミングとが互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)を作動させることを特徴とする技術的思想(イ)又は(ロ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0124】
(ニ)今回の異常判定ステップでは、前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)のほうが前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)よりも先に0(零)となるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、
次回の異常判定ステップでは、前記第2の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)のほうが前記第1の車輪用のホイールシリンダ内の流体圧(Pwc)よりも先に0(零)となるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを特徴とする技術的思想(イ)、(ロ)、(ハ)のうち何れか一項に記載の調整弁異常検出方法。
【0125】
(ホ)前記今回の異常判定ステップでは、前記第1の調整弁に対する電流値(Isl)の調整が完了した時点において、前記第2の車輪の車輪速度(VW)のほうが前記第1の車輪の車輪速度(VW)よりも高速である場合に、前記第2の調整弁が異常であると検出することを特徴とする技術的思想(ニ)に記載の調整弁異常検出方法。
【0126】
(ヘ)前記次回の異常判定ステップでは、前記第2の調整弁に対する電流値(Isl)の調整が完了した時点において、前記第1の車輪の車輪速度(VW)のほうが前記第2の車輪の車輪速度(VW)よりも高速である場合に、前記第1の調整弁が異常であると検出することを特徴とする技術的思想(ニ)に記載の調整弁異常検出方法。
【符号の説明】
【0127】
12…駆動源としてのエンジン、17,22,25…制御手段としてのECU、19…動力伝達経路を構成する自動変速機、20…動力伝達経路を構成するディファレンシャルギヤ、21…入力クラッチ、25…マスタシリンダ、32a〜32d…ホイールシリンダ、33,34…流路を構成する連結経路、35a,35b…調整弁としてのリニア電磁弁、36a〜36d…流路を構成する経路、37a〜37d…調整弁としての増圧弁、DVS…車体減速度実減速度、Fd…駆動力、FR,FL,RR,RL…車輪、KVS…車体速度閾値、Pmc…流体圧としてのMC圧、Pwc…流体圧としてのWC圧、Pwc1…設定流体圧としての最大液圧、VS…推定車体速度、VW…車輪速度、θ…路面の傾斜角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者によるブレーキ操作に応じた制動力が車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される際に実行される車両の制御方法であって、
車両の停止前に、該車両の駆動源(12)から車輪(FR,FL,RR,RL)への動力伝達経路(19,20)に配置される入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が低下するように作動させる効率低下ステップ(S32)と、
前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持ステップ(S37)と、を有することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
前記車輪(FR,FL,RR,RL)には、該車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応するホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内に発生した流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、
車両が停止する路面の傾斜角(θ)を取得させる傾斜角取得ステップ(S60,S66)をさらに有し、
前記制動力保持ステップ(S37)では、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧を、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で取得した路面の傾斜角(θ)が大きいほど高圧な状態で保持することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
前記制動力保持ステップ(S37)では、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で路面の傾斜角(θ)を取得不能である場合、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を予め設定された設定流体圧(Pwc1)とすることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
前記制動力保持ステップ(S37)と同時、又は前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記駆動源(12)を停止させる駆動源停止ステップ(S38)をさらに有し、
前記効率低下ステップ(S32)では、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達が遮断されるように作動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が前記効率低下ステップ(S32)の実行前に近づくように作動させる効率回復ステップ(S38)をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
車両の車体減速度(DVS、G)を取得させる減速度取得ステップ(S11、S14)と、
取得した車体減速度(DVS、G)が大きいほど車体速度閾値(KVS)を大きな値に設定させる閾値設定ステップ(S30)と、をさらに有し、
前記効率低下ステップ(S32)を、車両の車体速度(VS)が前記閾値設定ステップ(S30)で設定した車体速度閾値(KVS)以下となった場合に実行させることを特徴とする請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項7】
車両には、前記駆動源(12)からの駆動力(Fd)が伝達される複数の車輪(FR,FL,RR,RL)と、該各車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する複数のホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)とが設けられ、
前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)とを連結する各流路(33,34,36a,36b,36c,36d)には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を調整するための複数の調整弁(35a,35b)がそれぞれ設けられ、
前記各車輪(FR,FL,RR,RL)には前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、
前記制動力保持ステップ(S37)の後において車両の走行を再開させる場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力の減少態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S45,S46,S47)をさらに有することを特徴とする請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項8】
今回の異常判定ステップでは、第1の車輪に対する制動力のほうが第2の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、
次回の異常判定ステップでは、第2の車輪に対する制動力のほうが第1の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを特徴とする請求項7に記載の車両の制御方法。
【請求項9】
前記異常判定ステップ(S45,S46,S47)で異常を示す調整弁があると判定した場合、
次回以降の車両停止時では、前記効率低下ステップ(S32)の実行を規制させることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項10】
車両の運転者によるブレーキ操作によって車両が停止した場合に、該車両の停止を維持する車両の制御装置であって、
車両には、駆動源(12)と、該駆動源(12)で発生した駆動力が動力伝達経路(19,20)を介して伝達される車輪(FR,FL,RR,RL)と、前記動力伝達経路(19,20)に設けられる入力クラッチ(21)とが設けられており、
前記入力クラッチ(21)及び前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を制御する制御手段(17,22,25)を備え、
前記制御手段(17,22,25)は、
車両の停止前に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率を低下させるべく前記入力クラッチ(21)を作動させる伝達効率低下制御を行い、
前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持制御を行なうことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
車両の運転者によるブレーキ操作に応じた制動力が車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される際に実行される車両の制御方法であって、
車両の停止前に、該車両の駆動源(12)から車輪(FR,FL,RR,RL)への動力伝達経路(19,20)に配置される入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が低下するように作動させる効率低下ステップ(S32)と、
前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持ステップ(S37)と、を有することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
前記車輪(FR,FL,RR,RL)には、該車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応するホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内に発生した流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、
車両が停止する路面の傾斜角(θ)を取得させる傾斜角取得ステップ(S60,S66)をさらに有し、
前記制動力保持ステップ(S37)では、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧を、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で取得した路面の傾斜角(θ)が大きいほど高圧な状態で保持することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
前記制動力保持ステップ(S37)では、前記傾斜角取得ステップ(S60,S66)で路面の傾斜角(θ)を取得不能である場合、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を予め設定された設定流体圧(Pwc1)とすることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
前記制動力保持ステップ(S37)と同時、又は前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記駆動源(12)を停止させる駆動源停止ステップ(S38)をさらに有し、
前記効率低下ステップ(S32)では、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達が遮断されるように作動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
前記制動力保持ステップ(S37)の後に、前記入力クラッチ(21)を、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率が前記効率低下ステップ(S32)の実行前に近づくように作動させる効率回復ステップ(S38)をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
車両の車体減速度(DVS、G)を取得させる減速度取得ステップ(S11、S14)と、
取得した車体減速度(DVS、G)が大きいほど車体速度閾値(KVS)を大きな値に設定させる閾値設定ステップ(S30)と、をさらに有し、
前記効率低下ステップ(S32)を、車両の車体速度(VS)が前記閾値設定ステップ(S30)で設定した車体速度閾値(KVS)以下となった場合に実行させることを特徴とする請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項7】
車両には、前記駆動源(12)からの駆動力(Fd)が伝達される複数の車輪(FR,FL,RR,RL)と、該各車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する複数のホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)とが設けられ、
前記各ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)と運転手によるブレーキ操作に応じた流体圧(Pmc)を発生するマスタシリンダ(25)とを連結する各流路(33,34,36a,36b,36c,36d)には、前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)の流体圧(Pwc)を調整するための複数の調整弁(35a,35b)がそれぞれ設けられ、
前記各車輪(FR,FL,RR,RL)には前記ホイールシリンダ(32a,32b,32c,32d)内の流体圧(Pwc)に応じた制動力が付与されるようになっており、
前記制動力保持ステップ(S37)の後において車両の走行を再開させる場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力の減少態様が互いに異なるように前記各調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させると共に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の車輪速度(VW)をそれぞれ取得し、該取得結果に基づき前記各調整弁(35a,35b)の中に異常を示す調整弁が有るか否かを判定する異常判定ステップ(S45,S46,S47)をさらに有することを特徴とする請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項8】
今回の異常判定ステップでは、第1の車輪に対する制動力のほうが第2の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の車輪(FR,FL,RR,RL)に個別対応する第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させ、
次回の異常判定ステップでは、第2の車輪に対する制動力のほうが第1の車輪に対する制動力よりも先に0(零)となるように前記第1及び第2の調整弁(35a,35b)をそれぞれ作動させることを特徴とする請求項7に記載の車両の制御方法。
【請求項9】
前記異常判定ステップ(S45,S46,S47)で異常を示す調整弁があると判定した場合、
次回以降の車両停止時では、前記効率低下ステップ(S32)の実行を規制させることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項10】
車両の運転者によるブレーキ操作によって車両が停止した場合に、該車両の停止を維持する車両の制御装置であって、
車両には、駆動源(12)と、該駆動源(12)で発生した駆動力が動力伝達経路(19,20)を介して伝達される車輪(FR,FL,RR,RL)と、前記動力伝達経路(19,20)に設けられる入力クラッチ(21)とが設けられており、
前記入力クラッチ(21)及び前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を制御する制御手段(17,22,25)を備え、
前記制御手段(17,22,25)は、
車両の停止前に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)への駆動力(Fd)の伝達効率を低下させるべく前記入力クラッチ(21)を作動させる伝達効率低下制御を行い、
前記ブレーキ操作に基づく車両の停止後に、前記車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力を保持させる制動力保持制御を行なうことを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−152818(P2011−152818A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14156(P2010−14156)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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