説明

車両挙動制御装置

【課題】左右駆動力配分制御によこ滑りを防止する車両運動制御が組み合わされた場合であっても、両制御の干渉を防止し、アンダーステアやオーバーステアを良好に抑制できるようにする。
【解決手段】基本付加ヨーモーメント設定部87がハンドル角θHとヨーレートγと車速Vとに基づき車両に付加する基本付加ヨーモーメントYMall、及び基本付加ヨーモーメントYMallの極性を判定し、左右駆動力配分制御部89が、基本付加ヨーモーメントYMall及び基本付加ヨーモーメントYMallの極性に基づき左右駆動輪13RL,13RRに対する駆動力配分を設定すると共に車両運動制御ユニットから車両運動制御作動信号が出力されている場合は、基本付加ヨーモーメントYMallの極性が車両運動制御ユニットにて与えられるヨーモーメントと同方向になるように駆動力配分を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制御してよこ滑りを防止するよこ滑り防止制御手段と少なくとも左右駆動輪に対する駆動力配分を制御する駆動力配分制御手段とを備える車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、制動力制御、駆動力配分制御等の様々な車両挙動制御の技術が提案され、実用化されている。又、駆動力配分制御では、前後輪の駆動力配分を制御するだけでなく、左右駆動輪間の駆動力配分を積極的に制御して車両の安定性、回頭性を向上させるようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2006−29460号公報)には、後輪側の左右駆動力配分制御についての技術が開示されている。この文献に開示されている技術では、先ず、左右車輪速差フィードバック制御において、ハンドル角と車速とに基づき、左右後輪の目標車輪速差を算出し、左右後輪の実際の車輪速差が目標車輪速差と一致するように左右駆動力配分機構に対する第1基本制御量を設定する。又、ヨーレートフィードバック制御において、車速、ヨーレート、及びハンドル角に基づいて目標ヨーレートを算出し、実ヨーレートが目標ヨーレートと一致するように、左右駆動力配分機構に対する第2基本制御量を設定する。そして、第1基本制御量に所定ゲインを乗算した値と、第2基本制御量に所定ゲインを乗算した値とを加算して、後輪に対する左右駆動力配分制御を行い、車両のオーバーステア状態、及びアンダーステア状態を抑制する。
【0004】
又、特許文献2(特開2006−117113号公報)には、前後駆動力配分制御と後輪側の左右駆動力配分制御とを様々な車両の走行場面で最大限の効果を有して適切に制御する技術が開示されている。すなわち、当該文献では、先ず、前後駆動力配分制御付加ヨーモーメントと前後駆動力配分協調制御ゲインとを乗算して前後駆動力配分協調制御付加ヨーモーメントを求め、又、左右駆動力配分制御付加ヨーモーメントと左右駆動力配分協調制御ゲインとを乗算して左右駆動力配分協調制御付加ヨーモーメントを求める。そして、操舵加速状態において、高μ路と判断された場合は、前後駆動力配分協調制御ゲインを低く設定して前後駆動力配分制御による制御量を低くし、又、低μ路と判断された場合は、後輪側の左右駆動力配分協調制御ゲインを低く設定して左右駆動力配分制御による制御量を低くする。このような制御を行うことで、高μ路において横加速度が大きくなる運転をした場合の運動性能が向上し、又、低μ路では大転舵時の過剰な回頭モーメントを防止することができる。
【特許文献1】特開2006−29460号公報
【特許文献2】特開2006−117113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に開示されているような左右駆動力配分制御を、燃料カットやスロットル開閉によるエンジン制御と4輪独立の制動力制御とにより車両を制御してよこ滑りを防止する車両運動制御と組み合わせた場合、運転者のハンドル操作、例えばカーブの連続するスラローム走行や低μ路走行においてハンドルを連続的に切り返す場合には、車両運動制御によりオーバーステアを抑制する制御が行われている最中に、左右駆動力配分制御によりオーバーステアを助長する方向のヨーモーメントが付加されてしまう場合があり、オーバーステア抑制性能が低下してしまう、或いは、左右駆動力配分制御による駆動力が制動力と干渉し、目標とする制動力が得られなくなり、オーバーステア抑制性能が低下してしまうという問題がある。このことは上述した特許文献2においても同様の現象として現れる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、左右駆動力配分制御によこ滑りを防止する車両運動制御が組み合わされた場合であっても、両制御の干渉を防止し、アンダーステアやオーバーステアを良好に抑制することのできる車両挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明による車両挙動制御装置は、ハンドル角を検出するハンドル角検出手段と、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、車速を求める車速演算手段と、車両を制御してよこ滑りを防止するよこ滑り防止制御手段と、少なくとも左右駆動輪に対する駆動力配分を制御する駆動力配分制御手段とを備える車両挙動制御装置において、前記駆動力配分制御手段が、前記ハンドル角と前記ヨーレートと前記車速とに基づき車両に付加する付加ヨーモーメント及び該付加ヨーモーメントの極性を判定する付加ヨーモーメント設定手段と、前記付加ヨーモーメント設定手段で設定した付加ヨーモーメント及び該付加ヨーモーメントの極性に基づき左右駆動輪に対する駆動力配分を設定すると共に、前記よこ滑り防止制御手段からよこ滑り防止のための作動信号が出力されている場合、前記付加ヨーモーメントの極性が前記よこ滑り防止制御手段にて与えられるヨーモーメントと同方向になるように前記駆動力配分を調整する左右駆動力配分制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、左右駆動力配分制御は、よこ滑りを防止する車両運動制御が作動している場合、車両に付加するヨーモーメントの極性を、よこ滑りを防止する車両運動制御により与えられるヨーモーメントと同方向になるように駆動力配分が調整されるので、左右駆動力配分制御に、よこ滑りを防止する車両運動制御が組み合わされた場合であっても、両制御の干渉が防止され、アンダーステアやオーバーステアを良好に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1〜図16は本発明の第1実施形態を示し、図1は4輪駆動車両の車両挙動制御装置の概略構成図、図2は制御ユニットの機能ブロック図、図3は駆動力配分制御部の機能ブロック図である。
【0011】
図1の符号1はエンジンであり、このエンジン1に変速機(自動変速機或いは手動変速機)2が連設されている。エンジン1の出力は変速機2により所定に変速及びトルク増幅されて出力軸2aから出力される。この出力軸2aに動力伝達系を構成するドライブギヤ3が設けられており、このドライブギヤ3に、センタデファレンシャル装置5に設けられているドリブンギヤ4が噛合されている。
【0012】
センタデファレンシャル装置5は、変速機2から入力された駆動力を、前後輪に配分するもので、このセンタデファレンシャル装置5から後輪側のリヤドライブ軸6、プロペラシャフト7、ドライブピニオン軸8を介してリヤデファレンシャル装置9が連設されている。又、センタデファレンシャル装置5から前輪側にフロントドライブ軸10を介してフロントデファレンシャル装置11が連設されている。
【0013】
リヤデファレンシャル装置9から左右にリヤアクスル軸12RL,12RRが延出されており、この各リヤアクスル軸12RL,12RRに後側左右駆動輪としての左右輪13RL,13RRが連設されている。又、フロントデファレンシャル装置11から左右にフロントアクスル軸12FL,12FRが延出されており、この各フロントアクスル軸12FL,12FRに、前側左右駆動輪としての左右輪13FL,13FRが連設されている。
【0014】
センタデファレンシャル装置5は、周知のプラネタリギヤ式差動装置16を有し、そのリングギヤ16aがドリブンギヤ4に連設されている。又、プラネタリギヤ16bを支持するプラネタリキャリア16cにリヤドライブ軸6が連設されている。更に、サンギヤ16dにフロントドライブ軸10が連設されている。このフロントドライブ軸10の中途に、差動制限装置であるランスファクラッチ17のドリブンプレートが設けられ、この各ドリブンプレートの間に介装されているドライブプレートがプラネタリキャリア16cに連設されている。
【0015】
トランスファクラッチ17は電磁或いは油圧式アクチュエータ(図示せず)により締結力が制御され、或いは開放される。トランスファクラッチ17の締結により差動装置16が直結状態となると差動が制限され、前後輪の接地荷重の比率に応じてトルク配分、例えば前後輪の接地荷重が50:50の場合には、前後輪に対して等分(50:50)にトルク配分される。又、トランスファクラッチ17が開放されると差動制限が解除されるため、差動装置16に設定されている前後配分比(例えば後輪偏重の35:65)でトルク配分される。このトランスファクラッチ17は後述するトランスファクラッチ制御部83から出力される締結力指示出力信号に従って、直結状態から開放状態まで連続的に動作される。
【0016】
リヤデファレンシャル装置9は、ドライブピニオン軸8から伝達される駆動力を左右リヤアクスル軸12RL,12RRに配分する差動装置21と、このリヤアクスル軸12RL,12RRに対する駆動力配分を調整する駆動力配分装置41を有しており、又、この差動装置21がデフハウジング22に収容されている。尚、デフハウジング22には、このデフハウジング22内の油温を検出する油温センサ26が配設されている。
【0017】
差動装置21はプラネタリギヤ式であり、この差動装置21のリングギヤ21aを内周に有するデフケース20は、その外周にデフリングギヤ24が設けられており、このデフリングギヤ24にドライブピニオン軸8に形成されているドライブピニオン8aが噛合されている。又、プラネタリギヤ21bを支持するプラネタリキャリア21cが、駆動力配分装置41を構成する油圧モータ40のモータハウジング40aを介して右側リヤアクスル軸12RRに連設されている。更に、左側リヤアクスル軸12RLにサンギヤ21dが軸支されていると共に、このサンギヤ21dに油圧モータ40のシリンダブロック(内側回転体)40bが連設されている。
【0018】
更に、デフケース20にはポンプドライブギヤ25が設けられており、このポンプドライブギヤ25に、油圧ポンプ61の入力軸62に設けられているドリブンギヤ63が噛合されている。ドライブピニオン軸8からの回転が差動装置21のデフケース20に伝達されると、油圧ポンプ61が回転駆動して作動油を吐出すると共に、内周に設けられているリングギヤ21aが回転する。リングギヤ21aの回転力は、プラネタリギヤ21bを支持するプラネタリキャリア21cと、プラネタリギヤ21bに噛合されているサンギヤ21dとを介して、右側リヤアクスル軸12RRと左側リヤアクスル軸12RLとに配分される。又、その際、プラネタリギヤ21bの自転により両リヤアクスル軸12RL,12RRの差回転が吸収される。
【0019】
油圧モータ40は、ラジアルプランジャ式であり、シリンダブロック40bの外周には、複数のプランジャが放射状に進退動自在に保持されている。又、このシリンダブロック40bを収容するモータハウジング40aはカムリングを兼用しており、その内周に、シリンダブロック40bに保持されているプランジャの先端と係合するカム面が形成されている。
【0020】
又、油圧モータ40に、油圧ポンプ61から給排制御される作動油を、シリンダブロック40bに設けられている各プランジャに供給するための給排油路50,51が連通されている。尚、各プランジャは2つの組に分けられており、プランジャの組に給排油路50が連通され、残りのプランジャの組に給排油路51が連通されている。一方、油圧ポンプ61の吐出ポートから吐出油路61aが延出され、流入ポートから流入油路61bが延出されている。
【0021】
給排油路50,51と吐出油路61a及び流入油路61bとが切換弁65を介して連通遮断自在にされている。切換弁65は、2位置4ポートの電磁式方向切換弁であり、後述するリヤ制御弁制御部82からの左右トルク切換指示出力信号に従い、図1に示す中立状態から双方向へ切換え動作される。この切換弁65が中立状態にあるときは、両給排油路50,51間が直結され、シリンダブロック40bとモータハウジング40aとが自由回転となる。
【0022】
又、この切換弁65が一方側に切り替わると、吐出油路61aと給排油路50とが連通されると共に、流入油路61bと給排油路51とが連通される。更に、この切換弁65が他方側に切り替わると、吐出油路61aと給排油路51とが連通されると共に、流入油路61bと給排油路50とが連通される。その結果、この切換弁65の切換動作により、油圧ポンプ61側の油路61a,61bと、油圧モータ40側の給排油路50,51との接続を切換えることで、必要なトルクを、右側リヤアクスル軸12RRから左側リヤアクスル軸12RLへ、或いは左側リヤアクスル軸12RLから右側リヤアクスル軸12RRへ移動させることができる。
【0023】
又、吐出油路61aにリリーフ油路66が分岐接続されており、このリリーフ油路66に、油圧モータ40に供給する油圧を制御する圧力制御弁67が介装されている。
【0024】
切換弁65の切換え動作、及び圧力制御弁67の制御動作は、後述するリヤ制御弁制御部82から出力される左右トルク切換指示出力信号、及び油圧モータ圧力指示出力信号に従って動作される。
【0025】
又、各アクスル軸12FL,12FR,12RL,12RRに、各車輪13FL,13FR,13RL,13RRの回転速度ωFL,ωFR,ωRL,ωRRを検出する車輪速センサ71FL,71FR,71RL,71RRが各々配設されている。又、ハンドル52と一体に回動するステアリング軸52aに、ハンドル角θH(本実施形態での極性は、右旋回を+、左旋回を−で表す)を検出するハンドル角検出手段としてのハンドル角センサ64が配設されている。
【0026】
又、センタデファレンシャル装置5、リヤデファレンシャル装置9に対する駆動力配分は、図2に示す駆動力配分制御装置31で制御される。この駆動力配分制御装置31は、マイクロコンピュータを主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM、及びEEPROM等の不揮発メモリ等を有している。この駆動力配分制御装置31の入力側に、車輪速センサ71FL,71FR,71RL,71RR(図においては、「車輪速センサ71」と包括的に記載している)、ハンドブレーキレバーを操作する際にON動作するハンドブレーキスイッチ72、ブレーキペダルの踏込みを検出してON動作するブレーキスイッチ73、シフトセレクトレバーをニュートラルポジションにセットした際にON動作するニュートラルスイッチ74、油温センサ26、スロットル弁(本実施形態では、電子制御スロットル弁)の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度検出手段としてのスロットル開度センサ75、エンジン1の出力軸回転数を検出するエンジン回転数センサ76、車両に作用する横加速度を検出する横加速度検出手段としての横加速度センサ77、車両に作用するヨーレートを検出するヨーレート検出手段としてのヨーレートセンサ78、ハンドル角センサ64、及び、図示しないABS(Antilock Brake System)制御ユニットからのABS作動信号、駆動力制御システム制御ユニットからの駆動力制御システム作動信号、車両運動制御ユニットからの、よこ滑り防止のための作動情報を有する車両運動制御作動信号が入力される。尚、この各作動信号はブレーキ作動時に出力される。
【0027】
ABS制御ユニットは、各車輪速センサ71FL,71FR,71RL,71RRからの信号に基づいて、車輪のロック状態を検出し、ロックが検出された車輪に対しては、図示しないブレーキ系統の油圧を減圧してブレーキ操作時の車輪のロックを回避する制御を行う。駆動力制御システム制御ユニットは、駆動輪の空転を検出した場合、スロットル弁を絞り、エンジン出力を制限して駆動輪の空転を防止する制御を行う。よこ滑り防止制御手段の代表である車両運動制御ユニットは、車両挙動がオーバーステアにある場合、コーナ外側の前輪を制動し、又、アンダーステアにある場合は、スロットル弁を絞りエンジン出力を制限すると共にコーナ内側の後輪を制動して車両挙動の安定化を実現する制御を行う。
【0028】
又、駆動力配分制御装置31の出力側に、リヤデファレンシャル装置9の圧力制御弁67、切換弁65の各アクチュエータ、及びトランスファクラッチ17のアクチュエータが各々接続されている。
【0029】
この駆動力配分制御装置31は、前後輪に対する駆動力配分、及び後側左右輪に対する駆動力配分を実行する機能として、駆動力配分制御手段としての駆動力配分制御部81、リヤ制御弁制御部82、トランスファクラッチ制御部83を備えている。
【0030】
更に、図3に示すように、駆動力配分制御部81は、車速演算部86、基本付加ヨーモーメント設定部87、前後駆動力配分制御手段としての前後駆動力配分制御部88、左右駆動力配分制御手段としての左右駆動力配分制御部89を備えている。又、この前後駆動力配分制御部88が前後駆動力配分制御付加ヨーモーメント演算部88a、トランスファクラッチトルク換算制御部88b、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cを備えている。更に、左右駆動力配分制御部89は、左右駆動力配分協調制御付加ヨーモーメント演算部89a、リヤ駆動トルク換算制御部89b、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部89cを備えている。
【0031】
駆動力配分制御部81では、各センサ類で検出した車両の運転状態に基づき適切な車両挙動を演算し、この挙動を実現するために、センタデファレンシャル装置5のトランスファクラッチ17、及びリヤデファレンシャル装置9の圧力制御弁67と切換弁65とに適切な制御指示値を出力して車両制御を行う。そして、車両運動制御システムが作動している場合は、この車両運動制御システムとの協調制御により、センタデファレンシャル装置5のトランスファクラッチ17、及びリヤデファレンシャル装置9の圧力制御弁67と切換弁65とに対して、適正な制御指示信号を出力して車両の挙動を制御する。
【0032】
より詳細には、駆動力配分制御部81に設けられている車速演算手段としての車速演算部86では、各車輪速センサ71FL,71FR,71RL,71RRで検出した各回転速度ωFL,ωFR,ωRL,ωRRの平均から車速V[m/s]を算出する。
【0033】
付加ヨーモーメント設定手段としての基本付加ヨーモーメント設定部87では、図4に示す基本付加ヨーモーメント設定ルーチンに従い、車両に付加する基本ヨーモーメントである基本付加ヨーモーメントYMallを設定する。すなわち、このルーチンでは、先ず、ステップS1で、次式からヨーレート/ハンドル角ゲインGγを演算する。
Gγ=(1/(1+A・V))・(V/L)・(1/n)…(1)
ここで、Aは理想的なステアリング特性を表すスタビリティファクタ[s2/m2]であり任意にチューニングが可能である。又、Lはホイールベース[m]、nはステアリングギヤ比である。尚、ホイールベースL、ステアリングギヤ比nは、車種毎に決定される固定値である。
【0034】
次いで、ステップS2で、ヨーレート感応ゲインKγを算出する。このヨーレート感応ゲインKγを算出するに際し、先ず、次式からハンドル角感応ゲインKθを算出する。
Kθ=Lf・2・Kf…(2)
ここで、Lfは前軸・重心間距離[m]、Kfは前軸1輪のコーナリングパワー[N/rad]であり、この前軸・重心間距離Lf、前軸1輪のコーナリングパワーKfは固定値である。次いで、このハンドル角感応ゲインKθに基づき次式からヨーレート感応ゲインKγを算出する。
Kγ=Kθ/Gγ…(3)
【0035】
その後、ステップS3へ進み、車速Vに基づき低速時車速感応ゲインKVvlを、図9に示す低速時車速感応ゲインテーブルを参照して設定する。この低速時車速感応ゲインKVvlは、極低速(約0〜20[Km/h])での不要な付加ヨーモーメントを回避するために設定するものである。
【0036】
次いで、ステップS4へ進み、基本付加ヨーモーメントYMall[Nm]を、次式から算出し、この値を出力してルーチンを抜ける。尚、本実施形態では、基本付加ヨーモーメントYMallの極性は、右回頭が+、左回頭が−で表される。
YMall=(−Kγ・γ+Kθ・θH)・KVvl…(4)
ここで、γはヨーレートセンサ78で検出したヨーレート[rad/s]、θHはハンドル角センサ64で検出したハンドル角[rad]である。すなわち、この基本付加ヨーモーメントYMallは、ヨーレートγをバラメータとする車両に作用するヨーモーメント(−Kγ・γ)と、ハンドル角θHをパラメータとするハンドル角に応じて発生すべきヨーモーメント(Kθ・θH)との差を基本付加ヨーモーメントYMall[Nm]としている。
【0037】
この基本付加ヨーモーメント設定部87で設定した基本付加ヨーモーメントYMallは、前後駆動力配分制御部88の前後駆動力配分制御付加ヨーモーメント演算部88a、及び左右駆動力配分制御部89の左右駆動力配分協調制御付加ヨーモーメント演算部89aで読込まれる。
【0038】
前後駆動力配分制御部88での処理は、具体的には、図5に示す前後駆動力配分制御ルーチンに従って行われる。尚、このルーチンのステップS11〜S15で行われる処理が前後駆動力配分制御付加ヨーモーメント演算部88aでの処理に対応し、ステップS16で行われる処理がトランスファクラッチトルク換算制御部88bでの処理に対応し、又、ステップS17,S18で行われる処理が前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cでの処理に対応している。
【0039】
このルーチンでは、先ず、ステップS11で、アシスト量を設定するゲイン(アシスト量設定ゲイン)KAVTDを設定する。尚、このアシスト量設定ゲインKAVTDは固定値である。
【0040】
次いで、ステップS12で、車速Vに基づき車速横加速度感応ゲイン(高速)KVvhを、図10に示す車速横加速度感応ゲインテーブルを参照して設定する。この車速横加速度感応ゲイン(高速)KVvhは、低μ路高速域での過剰な回頭性を抑制するために設定するものである。又、図10に示すように、車速横加速度感応ゲイン(高速)KVvhのテーブルが、横加速度センサ77で検出した横加速度(dy/dt)[m/s2]の絶対値に応じて切換えられる。
【0041】
その後、ステップS13へ進み、車体すべり角速度(dβ/dt)を、次式から求める。
(dβ/dt)=|((dy/dt)/V)−γ|…(5)
【0042】
その後、ステップS14へ進み、車体すべり角速度(dβ/dt)に基づき、図11に示す車体すべり角速度感応ゲインテーブルを参照して車体すべり角速度感応ゲインKVβを設定する。車体すべり角速度感応ゲインKVβは限界域での過剰な回頭性を抑制するために設定するものである。但し、限界域であっても車体すべり角速度(dβ/dt)は過渡的に小さな値を示す瞬間があるため、車体すべり角速度感応ゲインKVβの復帰勾配を、以下の関係により制限する。
【0043】
KVβ(K)≦KVβ(K-1)+ΔKVβ(K)・Δt
ここで、(K)は今回値、(K-1)は前回値、ΔKVβは車体すべり角速度感応ゲインの復帰勾配(固定値)、Δtは演算周期[s]である。
【0044】
そして、ステップS15へ進み、前後駆動力配分付加ヨーモーメントYMVTDを次式から算出する。
【0045】
YMVTD=KAVTD・KVvh・KVβ・YMall…(6)
その後、ステップS16へ進み、この前後駆動力配分付加ヨーモーメントYMVTDを、次式に基づき、ハンドル角θHの極性毎に、ハンドル角/ヨーレート感応制御LSD(Limited Slip Differential)トルクTLSD_P[Nm]に変換する。
【0046】
θH≧0(右操舵)の場合は、
TLSD_P=−KLSD_V・YMVTD…(7a)
θH<0(左操舵)の場合は、
TLSD_P=KLSD_V・YMVTD…(7b)
ここで、KLSDは換算係数であり、チューニングによって車両毎に決定される。
【0047】
前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cでは、ステップS17において、車両運動制御ユニットから出力される車両運動制御作動信号を読込み、車両運動制御作動か否かを調べ、よこ滑りを防止すべく車両運動制御が作動している場合は、ステップS18へ進み、又非作動状態のときは、ルーチンを抜け、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cへハンドル角/ヨーレート感応制御LSD(Limited Slip Differential)トルクTLSD_P[Nm]を出力する。
【0048】
車両運動制御非作動状態のときは、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cにおいて車両運度制御協調制御が行われないため、ハンドル角/ヨーレート感応制御LSDトルクTLSD_P[Nm]がそのままトランスファクラッチ制御部83へ出力される。そして、トランスファクラッチ制御部83からトランスファクラッチ17のアクチュエータに対して、ハンドル角/ヨーレート感応制御LSDトルクTLSD_Pに対応するトランスファクラッチ締結力指示出力信号が出力され、トランスファクラッチ17に対するクラッチ締結力が制御される。
【0049】
一方、ステップS17で車両運度制御作動中と判定されて、ステップS18へ進むと、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御を実行してルーチンを抜ける。この前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御は、図7に示す前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンに従って、実行される。尚、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御については後述する。
【0050】
次に、左右駆動力配分制御部89で実行される処理について説明する。この、左右駆動力配分制御部89での処理は、具体的には、図6に示す左右駆動力配分制御ルーチンに従って行われる。尚、このルーチンのステップS21〜S24で行われる処理が左右駆動力配分協調制御付加ヨーモーメント演算部89aでの処理に対応し、ステップS25で行われる処理がリヤ駆動トルク換算制御部89bでの処理に対応し、更に、ステップS26,S27で行われる処理が、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部89cでの処理に対応している。
【0051】
このルーチンでは、先ず、ステップS21で、アシスト量を設定するゲイン(アシスト量設定ゲイン)KADYCを設定する。尚、このアシスト量設定ゲインKADYCは、限界域での後述するハンドル角/ヨーレート感応制御DYC(Direct Yaw-moment Control)トルクTDYC_Pの上限張り付きに伴う違和感を回避するためのアシスト量を決定する値で、固定値である。
【0052】
次いで、ステップS22で、車速Vに基づき車速度感応ゲインKYZθを設定する。この車速感応ゲインKYZθは高速域での過剰なヨーモーメント付加を避けるために設定するもので、これにより回頭性が強すぎる状況やダンピングを強めたい状況に対応することができる。
【0053】
車速感応ゲインKYZθを設定するに際し、先ず、ハンドル角θH(右操舵が+、左操舵が−)と基本付加ヨーモーメントYMall(右回頭が+、左回頭が−)との極性を比較する。そして、ハンドル角θHと基本付加ヨーモーメントYMallとの極性が同一(回頭方向)の場合、現在の走行状態がアンダーステアであると判定し、又、この両極性が異なっている場合(ダンピング方向)は、現在の走行状態がオーバーステアであると判定する。ダンピング方向は、例えば連続するカーブをハンドルを切り返しながら走行している場合や低μ路でのレーンチェンジを行った際に発生し易い。
【0054】
アンダーステアと判定された場合、車速Vに基づき図12(a)に示すアンダーステア車速感応ゲインテーブルを参照して、アンダーステア車速感応ゲインKYZθSAMEを設定する。又、オーバーステアと判定した場合、車速Vに基づき図12(b)に示すオーバーステア車速感応ゲインテーブルを参照して、オーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFを設定する。このアンダーステア車速感応ゲインKYZθSAME、及びオーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFは、旋回時のステア特性に対するゲインが設定されており、従って、図12(a)に示すアンダーステア車速感応ゲインKYZθSAMEは、低中速走行においては後側外輪(左旋回では13RR)への駆動力配分が小さく設定される。一方、図12(b)に示すオーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFは、低中速走行においては後側内輪(左旋回では13RL)への駆動力配分が大きく設定される。従って、ハンドル角θHと基本付加ヨーモーメントYMallとの極性が同一の回頭側へヨーモーメントを付加するためには、後側外輪に対する駆動力配分が小さく設定される。又、ハンドル角θHと基本付加ヨーモーメントYMallとの極性が異なるダンピング側へヨーモーメントを付加するためには、後側外輪に対する駆動力配分が大きく設定される。
【0055】
尚、旋回時の内輪外輪の判定は、横加速度の極性で行なう。具体的には、図14に示すように旋回軌跡が右旋回であるために横加速度が負となる場合は後輪内輪を13RLとし、後輪外輪を13RRとする。また、図15においても同様に判定することで、後輪内輪を13RLとし、後輪外輪を13RRとする。
【0056】
そして、設定したアンダーステア車速感応ゲインKYZθSAME、或いはオーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFを、車速感応ゲインKYZθとして設定する。
【0057】
その後、ステップS23へ進むと、ハンドル角速度感応ゲインKYθを設定する。このハンドル角速度感応ゲインKYθは、通常走行時の過剰な制御の介入を抑制するためのものであり、ハンドル角速度ωH[deg/sec]に基づき、図13に示すハンドル角速度ゲインテーブルを参照して設定する。
【0058】
その後、ステップS24で、左右駆動力配分付加ヨーモーメントYMZを次式から算出する。
YMZ=KADYC・KYZθ・KYθ・YMall…(8)
【0059】
そして、ステップS25へ進み、この左右駆動力配分付加ヨーモーメントYMZを、次式に基づき、ハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pに変換し、このハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pと、ハンドル角θH(0:中立、+:右操舵、−:左操舵)に基づいて設定した旋回フラグVDC_H(0:中立、1:右旋回、−1:左旋回)を、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部89cへ出力する。
【0060】
θH>0(右旋回)の場合は、
TDYC_P=−KR・YMZ…(9a)
θH<0(左旋回)の場合は、
TDYC_P=KR・YMZ…(9b)
ここで、KRは事前に実験等で決定される固定値である。
【0061】
そして、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部89cでは、ステップS26において、車両運動制御ユニットから出力される車両運動制御作動信号を読込み、車両運動制御作動か否かを調べ、作動している場合は、ステップS27へ進み、非作動状態のときは、ルーチンを抜ける。
【0062】
従って、VDC非作動状態のときは、駆動力配分制御部81から、リヤ制御弁制御部82へハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pが出力される。又、ステップS26で車両運動制御作動中と判定されて、ステップS27へ進むと、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御を実行してルーチンを抜ける。この左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御は、図8に示す左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンに従って実行される。
【0063】
次に、図7に示す前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンについて説明する。このルーチンでは、先ず、ステップS31で、車両運動制御ユニットから前後駆動力配分制御部88の前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部88cに入力される車用運動制御作動信号に含まれているオーバーステア判定フラグVDC_O(或いはアンダーステア判定フラグVDC_U)を読込む。車両運動制御ユニットからは、走行状態がオーバーステアのときはVDC_O=1、VDC_U=0の信号が出力され、又、アンダーステアのときはVDC_O=0、VDC_U=1の信号が出力される。尚、本実施形態では、オーバーステア判定フラグVDC_Oの値のみで、オーバーステアかアンダーステアかを判定している。
【0064】
そして、VDC_O=1のオーバーステアと判定したときは、ステップS32へ進み、又、VDC_O=0のアンダーステアと判定したときは、ステップS33へジャンプする。ステップS32では、スロットル開度センサ75で検出したスロットル開度に基づき、スロットル弁が全閉か否かを調べ、全閉のときはステップS33へ進み、開弁状態のときはそのままルーチンを抜ける。
【0065】
ステップS31或いはステップS32からステップS33へ進むと、ハンドル角/ヨーレート感応制御LSDトルクTLSD_Pを、TLSD_P=0に設定してルーチンを抜ける。
【0066】
その結果、車両運動制御作動中であって、オーバーステア(VDC_O=1)で、且つスロットル弁が全閉のときは、トランスファクラッチ制御部83に対して、トランスファクラッチ17を開放させるハンドル角/ヨーレート感応制御LSDトルクTLSD_P(TLSD_P=0)が出力される。この場合、トランスファクラッチ17が開放状態となるため、車用運動制御を最大限発揮させることができる。
【0067】
一方、オーバーバステア(VDC_O=1)であって、スロットル弁が開弁しているとき、或いはアンダーステア(VDC_O=0)のときは、そのままルーチンを抜けるため、図5のステップS16で設定したハンドル角/ヨーレート感応制御LSDトルクTLSD_Pでトランスファクラッチ17のクラッチ締結力が設定される。
【0068】
次に、図8に示す左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンについて説明する。このルーチンでは、先ず、ステップS41で、車両運動制御ユニットから左右駆動力配分制御部89の左右駆動力配分制御車両運動協調制御設定部89cに入力される車両運動制御作動信号に含まれているオーバーステア判定フラグVDC_O(或いはアンダーステア判定フラグVDC_U)を読込む。尚、本実施形態では、オーバーステア判定フラグVDC_Oの値のみで、オーバーステアかアンダーステアかを判定している。
【0069】
そして、VDC_O=1のオーバーステアと判定したときは、ステップS42へ進み、又、VDC=0のアンダーステアと判定したときは、ステップS43へ進む。ステップS42へ進むと、アンダーステア車速感応ゲインKYZθSAMEをKYZθSAME=0に設定し、オーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFをKYZθDIFF=1に設定して、ステップS44へ進む。ステップS44では、車速感応ゲインKYZθをKYZθDIFFでセットして(KYZθ←KYZθDIFF)、ステップS46へ進む。
【0070】
又、ステップS41からステップS43へ進むと、アンダーステア車速感応ゲインKYZθSAMEをKYZθSAME=1にセットし、オーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFをKYZθDIFF=0にセットしてステップS45へ進む。ステップS45では、車速感応ゲインKYZθをKYZθSAMEでセットして(KYZθ←KYZθSAME)、ステップS46へ進む。
【0071】
上述したように、図12(a)に示すテーブルを参照して設定されるアンダーステア車速感応ゲインKYZθSAMEでは、低中速走行においては後側外輪への駆動力配分が小さくなる。一方、図12(b)に示すテーブルを参照して設定されるオーバーステア車速感応ゲインKYZθDIFFは、低中速走行においては後側内輪への駆動力配分が大きくなる。
【0072】
しかし、図14に示すように、走行状態がアンダーステアの場合、車両運動制御ユニットでは、内側の後輪、或いは後輪と前輪とを制動して、旋回方向へヨーモーメントを付加させる制御が行われる。一方、図15に示すように、走行状態がオーバーステアの場合、車両運動制御ユニットでは、外側の前輪、或いは前輪と後輪とを制動して、車両の挙動を安定させる制御が行われる。
【0073】
その結果、従来の車両運動制御と左右駆動力配分制御とを単純に組み合わせた場合、車用運動制御によるステア特性判断と左右駆動録配分制御によるヨーモーメント付加の方向が異なる場合があり、アンダーステアでは、後側内輪への駆動力配分が相対的に大きく、一方、車両運動制御ユニットでは内側の後輪、或いは後輪と前輪との双方を制動しているため、内輪側では駆動力と制動力とが干渉し、アンダーステア抑制性能が低下してしまう。同様に、オーバーステアでは、後側外輪への駆動力配分が大きく、一方、車両運動制御ユニットでは外側の前輪、或いは前輪と後輪との双方を制動しているため、外輪側では駆動力と制動力とが干渉し、オーバーステア抑制性能が低下してしまう。
【0074】
これに対し、本実施形態では、車両運動制御ユニットがアンダーステア状態と判定した場合、図14に示すように、後側内輪(13RL)の駆動力を制限するようにしたので、左右駆動力配分制御による駆動力と車両運動制御による制動力との干渉を回避することができる。又、相対的に後側外輪の駆動力が増加するので、車両運動制御によるヨーモーメントと前後駆動力配分制御によるヨーモーメントとが併せて付加されるので、アンダーステア抑制性能をより一層向上させることができる。一方、車両運動制御がオーバーステア状態と判定した場合は、図15に示すように、後側外輪(13RR)の駆動力を制限するようにしたので、左右駆動力配分制御による駆動力と車両運動制御による制動力との干渉を回避することができる。更に、後側内輪(13RL)の駆動力が相対的に大きく設定されるので、車両運動制御によるヨーモーメントと前後駆動力配分制御によるヨーモーメントとが併せて付加されて、オーバーステア抑制性能をより一層向上させることができる。
【0075】
そして、ステップS44或いはステップS45からステップS46へ進むと、図6のステップS25で設定した、ハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pを、ステップS44、或いはステップS45で設定した車速感応ゲインKYZθに基づき変更し、新たなハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pを設定してルーチンを抜ける。
【0076】
この左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御設定部89cで設定した、ハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pと、車両の旋回方向を示す旋回フラグVDC_H(0:中立、1:右旋回、−1:左旋回)は、リヤ制御弁制御部82へ出力される。リヤ制御弁制御部82では、旋回フラグVDC_Hの値に従い、対応する左右トルク切換指示出力信号を切換弁65に出力して、この切換弁65を切換動作、或いは中立動作させる。更に、ハンドル角/ヨーレート感応制御DYCトルクTDYC_Pに対応する油圧モータ圧力指示出力信号を圧力制御弁67へ出力して、圧力制御弁67から吐出される油圧のリリーフ量を制御し、これにより油圧モータ40に供給する油圧を調整して左右駆動力配分を制御する。
【0077】
このように、本実施形態では、車両運動制御が作動中は、車両運動制御による制動力が印加されている側の車輪に対する左右駆動力配分制御による駆動力配分を小さくしたので、車両運動制御により付加されるヨーモーメントと左右駆動力配分制御による付加ヨーモーメントとの干渉が回避されるばかりでなく、車両運動制御による制動力と左右駆動力配分制御による駆動力との干渉をも回避することができ、ステア抑制性能を向上させることができる。
【0078】
又、車両運動制御ユニットがアンダーステアを抑制する制御を行っている場合は、図14に示すように旋回内輪側が制動制御されるため、これに左右駆動力配分制御による駆動力を加えることで、更に多くの付加ヨーモーメントを加えることができる。又、車両運動制御ユニットがオーバーステアを抑制する制御を行っている場合は、図15に示すように、旋回外輪側が制動制御されるため、これに左右駆動力配分制御による駆動力を加えることで、更に多くの付加ヨーモーメントを加えることができる。
【0079】
その結果、車両運動制御作動中における制動系の負荷を減少させることができ、運転者に与える減速感を抑制することができて走行性を向上させることができる。更に、制動系の負荷軽減により、ブレーキ発熱が抑制され、ブレーキオーバーヒートによる性能低下を減少させることができる。又、車両運動制御系において車両運動制御が作動するまでは、左右駆動力配分制御は通常通り動作しているので、左右駆動力配分制御は常用域から限界域まで連続的に作動可能である。そのため、通常は制動の緻密な制御を必要とするために、車両運動制御が介入できないようなよこ滑り初期状態においても、左右駆動力配分制御により、よこ滑りを押さえることができ、高い走行安定性得ることができる。更に、車両運動制御の介入頻度を低減し、制動系の負荷を低減できるので軽量化・コスト低減を実現することができる。
【0080】
すなわち、図16に一点鎖線で示すように、従来の車両運動制御のみで付加ヨーモーメントを発生させる場合に比し、図に実線で示すように、車両運動制御+左右駆動力配分制御の場合は、両制御にてヨーモーメントを付加させることができるため、相対的に車両運動制御による付加ヨーモーメントを低減することができる。又、経過時間t1〜t2においては、左右駆動力配分制御においてヨーモーメントを付加させることができるため、車両運度制御の介入頻度を低減させることができる。更に、経過時間t2以降においては、左右駆動力配分制御においてヨーモーメントが付加されるため、その分車両運動制御による制動系の負荷を低減させることができる。
【0081】
尚、車両運動制御としてスロットル弁を絞るエンジン制御が行われる場合であっても、駆動力制御装置31では上述と同様の制御が行われる。
【0082】
[第2実施形態]
図17に本発明の第2実施形態による駆動力配分制御部の機能ブロック図を示す。上述した第1実施形態では、ハンドル角センサ64にてハンドル角θHを直接検出するようにしているが、本実施形態では、ハンドル角センサ64を省略し、このハンドル角センサ64で検出するハンドル角θHに代えて、横加速度dyに基づきハンドル角を算出するようにしたものである。
【0083】
以下、第1実施形態と相違する構成についてのみ説明する。図17に示すように、本実施形態による駆動力配分制御部81’はハンドル角演算部64’を備えている。より詳細には、駆動力配分制御部81’に設けられているハンドル角検出手段としてのハンドル角演算部64’では、横加速度センサ77で検出した横加速度(dy/dt)[m/s2]、並びに、車速演算部86で演算した車速V[m/s]より、次式からハンドル角θHを求める。
θH=((1+A・V)/V)・L・n・dy…(10)
【0084】
このように、本実施形態では、ハンドル角θHを横加速度(dy/dt)から算出するようにしたので、第1実施形態よる効果に加え、ハンドル角センサが不要となり、より軽量化、及び、コスト低減を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1実施形態による4輪駆動車両の車両挙動制御装置の概略構成図
【図2】同、制御ユニットの機能ブロック図
【図3】同、駆動力配分制御部の機能ブロック図
【図4】同、基本付加ヨーモーメント設定ルーチンを示すフローチャート
【図5】同、前後駆動力配分制御ルーチンを示すフローチャート
【図6】同、左右駆動力配分制御ルーチンを示すフローチャート
【図7】同、前後駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンを示すフローチャート
【図8】同、左右駆動力配分制御車両運動制御協調制御ルーチンを示すフローチャート
【図9】同、低速時車速感応ゲインテーブルの概念図
【図10】同、車速横加速度感応ゲインテーブルの概念図
【図11】同、車体すべり角速度感応ゲインテーブルの概念図
【図12】同、(a)はアンダーステア車速感応ゲインテーブルの概念図、(b)はオーバーステア車速感応ゲインテーブルの概念図
【図13】同、ハンドル角速度ゲインテーブルの概念図
【図14】同、アンダーステアにおける車両運動制御と左右駆動力配分制御との協調制御を示す説明図
【図15】同、オーバーステアにおける車両運動制御と左右駆動力配分制御との協調制御を示す説明図
【図16】同、車両運動制御と左右駆動力配分制御との協調制御により発生する付加ヨーモーメントを示す説明図
【図17】第2実施形態による駆動力配分制御部の機能ブロック図
【符号の説明】
【0086】
1…エンジン、
5…センタデファレンシャル装置、
9…リヤデファレンシャル装置、
13FL,13FR…前側左右輪、
13RL,13RR…後側左右輪、
16,21…作動装置、
17…トランスファクラッチ、
31…駆動力制御装置、
40…油圧モータ、
41…駆動力配分装置、
71FL,71FR,71RL,71RR…車輪速センサ、
75…スロットル開度センサ、
77…横加速度センサ、
78…ヨーレートセンサ、
81…駆動力配分制御部、
82…リヤ制御弁制御部、
83…トランスファクラッチ制御部、
86…車速演算部、
87…基本付加ヨーモーメント設定部、
88…前後駆動力配分制御部、
89…左右駆動力配分制御部、
γ…ヨーレート、
θH…ハンドル角、
V…車速、
VDC_U…アンダーステア判定フラグ、
VDC_O…オーバーステア判定フラグ、
YMVTD…前後駆動力配分付加ヨーモーメント、
YMZ…左右駆動力配分付加ヨーモーメント、
YMall…基本付加ヨーモーメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル角を検出するハンドル角検出手段と、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、車速を求める車速演算手段と、車両を制御してよこ滑りを防止するよこ滑り防止制御手段と、少なくとも左右駆動輪に対する駆動力配分を制御する駆動力配分制御手段とを備える車両挙動制御装置において、
前記駆動力配分制御手段が、
前記ハンドル角と前記ヨーレートと前記車速とに基づき車両に付加する付加ヨーモーメント及び該付加ヨーモーメントの極性を判定する付加ヨーモーメント設定手段と、
前記付加ヨーモーメント設定手段で設定した付加ヨーモーメント及び該付加ヨーモーメントの極性に基づき左右駆動輪に対する駆動力配分を設定すると共に、前記よこ滑り防止制御手段からよこ滑り防止のための作動信号が出力されている場合、前記付加ヨーモーメントの極性が前記よこ滑り防止制御手段にて与えられるヨーモーメントと同方向になるように前記駆動力配分を調整する左右駆動力配分制御手段と
を備えることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
前後輪間の動力伝達系に差動装置と該差動装置の差動を制限する差動制限装置とが配設され、
前記駆動力配分制御手段が、車両の走行状態に応じて前記差動制限装置を動作させて前後輪に対する駆動力配分を設定する前後駆動力配分制御手段を有し、
前記駆動力配分制御手段は、前記よこ滑り防止制御手段からよこ滑り防止のための作動信号が出力されている場合、スロットル弁の開度を検出するスロットル開度検出手段で検出したスロットル開度が全閉のときは、前記差動制限装置による差動制限を解除する
ことを特徴とする請求項1記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記駆動力配分制御装置は、前記よこ滑り防止制御手段からよこ滑り防止のための作動信号が出力されている場合であって、車両挙動がオーバーステアで、且つ前記スロットル開度検出手段で検出したスロットル開度が開弁状態のときは、前記車両の走行状態に応じて前記差動制限装置を動作させる
ことを特徴とする請求項2記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記ハンドル角検出手段は、横加速度を検出する横加速度検出手段を備え、横加速検出手段により検出された横加速度に基づき、ハンドル角を算出する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両挙動制御装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−36306(P2009−36306A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201134(P2007−201134)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】