車両用サスペンションシステム
【課題】実用性の高い車両用サスペンションシステムを提供する。
【解決手段】ばね上部材Muとばね下部材Mlとの間に、サスペンションスプリングSS,液圧式ショックアブソーバSAおよび接近離間力発生装置Dが互いに並列的に配設され、その接近離間力発生装置が、弾性体TBと、その弾性体の直列的に配置されて自身が発揮する力を弾性体を介して車体と車輪との接近離間力として作用させる電磁式アクチュエータAとを備える車両用サスペンションシステムにおいて、接近離間力を制御する制御装置Cが、その接近離間力を振動減衰力として発生させるための制御を実行するように構成されことで、ショックアブソーバによる減衰力に加え、接近離間力発生装置によっても減衰力を発生させることができるため、目的に応じた振動減衰特性の好適化を図ることが可能となり、車両用サスペンションシステムの実用性を向上させることが可能となる。
【解決手段】ばね上部材Muとばね下部材Mlとの間に、サスペンションスプリングSS,液圧式ショックアブソーバSAおよび接近離間力発生装置Dが互いに並列的に配設され、その接近離間力発生装置が、弾性体TBと、その弾性体の直列的に配置されて自身が発揮する力を弾性体を介して車体と車輪との接近離間力として作用させる電磁式アクチュエータAとを備える車両用サスペンションシステムにおいて、接近離間力を制御する制御装置Cが、その接近離間力を振動減衰力として発生させるための制御を実行するように構成されことで、ショックアブソーバによる減衰力に加え、接近離間力発生装置によっても減衰力を発生させることができるため、目的に応じた振動減衰特性の好適化を図ることが可能となり、車両用サスペンションシステムの実用性を向上させることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式アクチュエータの作動によってばね上部材とばね下部材とを接近離間させる力を制御可能に発生させる装置を設けた車両用サスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、下記特許文献に記載されているような車両用サスペンションシステム、具体的に言えば、電磁式アクチュエータの作動に依拠してばね上部材とばね下部材とを接近離間させる力(以下、「接近離間力」という場合がある)を制御可能に発生させる接近離間力発生装置を、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバと並列的に設けたシステムが検討され始めている。このシステムでは、上記接近離間力を車体のロールを抑制するロール抑制力として作用させることで、車体のロールを抑制可能とされている。
【特許文献1】特開2002−218778号公報
【特許文献2】特開2002−211224号公報
【特許文献3】特開2006−82751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献に記載の車両用サスペンションシステムの備える接近離間力発生装置は、例えば、車体のロールを抑制するように制御されており、車体姿勢の安定についての一役を担っている。ところが、このような接近離間距離発生装置を備えたシステムは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのシステムの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用サスペンションシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、ばね上部材とばね下部材との間に、サスペンションスプリング,液圧式ショックアブソーバおよび接近離間力発生装置が互いに並列的に配設され、その接近離間力発生装置が、弾性体と、その弾性体の直列的に配置されて自身が発揮する力を弾性体を介して車体と車輪との接近離間力として作用させる電磁式アクチュエータとを有する構造とされるとともに、その接近離間力を制御する制御装置が、その接近離間力を振動減衰力として発生させるための制御を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の車両用サスペンションシステムでは、ショックアブソーバによる減衰力に加え、上記接近離間力発生装置によっても減衰力を発生させることができるため、本発明のシステムによれば、目的に応じた振動減衰特性の好適化が可能な車両用サスペンションシステムが実現することになり、車両用サスペンションシステムの実用性が向上させられることになる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項と(5)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(3)項が請求項2に、(7)項が請求項3に、(8)項が請求項4に、(9)項が請求項5に、(10)項が請求項6に、(12)項が請求項7に、(20)項が請求項8に、(25)項が請求項9に、(26)項が請求項10に、(27)項が請求項11に、それぞれ相当する。
【0008】
(1)ばね上部材とばね下部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、
そのサスペンションスプリングと並列的に配設された液圧式のショックアブソーバと、
前記サスペンションスプリングと並列的に配設されてばね上部材とばね下部材とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる装置であって、(a)一端部がばね上部材とばね下部材との一方に連結される弾性体と、(b)その弾性体の他端部とばね上部材とばね下部材との他方との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結するとともに、電動モータを有して、その電動モータが発揮する力であるモータ力に依拠して自身が発揮する力であるアクチュエータ力を、前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させつつ、そのアクチュエータ力を前記弾性体を介して接近離間力としてばね上部材とばね下部材とに作用させる電磁式のアクチュエータとを有する接近離間力発生装置と、
前記電動モータの作動を制御することで、前記接近離間力発生装置が発生させる接近離間力を制御する接近離間力制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステム。
【0009】
本項に記載の態様は、請求可能発明の前提をなす態様であり、請求可能発明の車両用サスペンションシステムの基本的構成要素を列挙した態様である。本項の態様のサスペンションシステムは、概念的には、例えば、図1のように示すことができる。本項の態様のシステムでは、ばね上部材Muと、車輪Wを保持するばね下部材Mlとの間に、サスペンションスプリングSS,ショックアブソーバSAおよび弾性体TBが互いに並列的に配設され、弾性体TBと、ばね上部材Muとばね下部材Mlとの一方(図1のシステムでは、ばね上部材Mu)との間には、それらを連結するアクチュエータAが配設されている。このアクチュエータAは、上記モータ力に依拠するアクチュエータ力によって弾性体TBを変形させつつ、そのアクチュエータ力を弾性体TBを介してばね上部材Muとばね下部材Mlとを接近離間させる方向の力として作用させる構造のものである。すなわち、アクチュエータAと弾性体TBとで構成される接近離間力発生装置Dは、上記モータ力に依拠して、上記接近離間力を発生させる電動アクチュエータである。そして、電動モータの作動が、制御装置Cによって制御されることで、上記接近離間力が制御される。
【0010】
本項にいう「ばね上部材」は、例えば、サスペンションスプリングによって支持される車体の部分を広く意味し、「ばね下部材」は、例えば、サスペンションアーム等、車輪とともに上下動する車両の構成要素を広く意味する。「サスペンションスプリング」は、それの具体的な構造が特に限定されるものではなく、例えば、コイルスプリング,エアスプリング等を種々の構造のスプリングを採用することが可能である。
【0011】
本項にいう「ショックアブソーバ」は、ばね下部材とばね上部材との相対振動に対して、減衰力を発生させる機能を有するものである。それの具体的構造が特に限定されるものではなく、例えば、油圧式の一般的なものを広く採用することが可能である。「弾性体」は、変形量に応じた何らかの弾性力を発揮するものであればよく、例えば、コイルばね,トーションばね等、種々の変形形態の弾性体を採用することができる。「アクチュエータ」は、弾性体の変形形態に応じた動作を行うようなものを採用することができ、動力源となる「電動モータ」は、アクチュエータの動作に応じた形式のものを採用すればよい。つまり、回転モータであってもよく、また、リニアモータであってもよい。なお、アクチュエータは、減速機を備えるものであってもよい。
【0012】
「接近離間力発生装置」は、アクチュエータ力を弾性体に作用させるとともに、アクチュエータの動作量に応じて弾性体の変形量を変化させる構造のものとされており、接近離間力はアクチュエータ力に対応し、また、アクチュエータ力は弾性体が発揮する弾性力に対応するとともに、アクチュエータの動作量は、弾性体の変形量に対応する。したがって、接近離間力発生装置が発生する接近離間力と、アクチュエータの動作量とは、相互に対応する。したがって、「接近離間力制御装置」による制御は、アクチュエータ力、つまり、そのアクチュエータ力を発揮させるための電動モータのモータ力を直接の制御対象とする制御(以下、「アクチュエータ力対象制御」という場合がある)であってもよく、また、アクチュエータの動作量、つまり、そのアクチュエータの動作量を実現するための電動モータの動作量を直接の制御対象とする制御(以下、「動作量対象制御」という場合がある)であってもよい。なお、本明細書において、「アクチュエータの動作量」は、中立位置からの動作量を意味し、その中立位置は、例えば、車両が水平かつ平坦な路面に静止している状態、あるいは、その状態であると擬制することのできる状態におけるアクチュエータの動作位置として設定することが可能である。
【0013】
(2)前記弾性体が、ばね上部材としての車体に回転可能に保持されたシャフト部と、そのシャフト部の一端部からそのシャフト部と交差して延びるとともに先端部がばね下部材に連結されたアーム部とを有し、
前記アクチュエータが、車体に固定されるとともに、アクチュエータ力を、前記シャフト部の前記一端部とは反対の端部に回転力として作用させるものである(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0014】
本項に記載の態様は、接近離間力発生装置の構造を具体的に限定した一態様である。本項における弾性体は、シャフト部とアーム部との少なくとも一方が、弾性体としての機能を有していればよい。例えば、シャフト部がトーションばねとしての機能を有するようにしてもよく、アーム部が撓むことでそれがばねとしての機能を有するようにしてもよい。なお、弾性体は、シャフト部とアーム部とが別部材とされてそれらが結合されたものであってもよく、それらが一体化された一部材として構成されるものであってもよい。
【0015】
(3)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0016】
本項にいう「正逆効率積」は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比と考えることができ、正逆効率積が小さいほど、外部入力に対して動かされ難いアクチュエータとなる。したがって、正逆効率積が比較的小さなアクチュエータを採用すれば、例えば、車体のロールの抑制等、車体の姿勢変動を抑制する目的で、外部入力の作用下、上下方向における車体と車輪との距離(以下、「車体車輪間距離」という場合がある)をある距離に維持させるような場合において、比較的小さな電力によって、その距離を維持することが可能なる。したがって、本項の態様のシステムによれば、省電力の観点において優れたシステムが実現され、また、アクチュエータの動力源である電動モータの小型化が図れることになる。なお、そのようなメリットをより充分に享受できることに鑑みれば、正逆効率積が1/2.5以下、さらには、1/3以下のアクチュエータを採用することが望ましい。
【0017】
(4)前記アクチュエータが、前記電動モータの動作を減速する減速機を有してその減速機によって減速された動作が自身の動作となる構造とされ、その減速機の減速比が1/100以下とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0018】
本項の態様は、比較的減速比が小さくされたアクチュエータを採用する態様である。減速比の値が小さな減速機を採用する場合、一般に、上述した正逆効率積の値は小さくなると考えることができる。その観点からすれば、本項の態様は、正逆効率積の比較的小さなアクチュエータを採用する態様の一種と考えることができる。また、外部入力によってアクチュエータが動作させられる場合には、減速比が小さいほど、電動モータの動作速度が速くなるため、減速比を小さくすれば、外部入力によって電動モータが動作させられる際に発生する起電力が高くなり、例えば、その起電力に依拠した発電電力は大きくなる。したがって、その発電電力を回生可能なシステムとすれば、電力消費の観点において優れたシステムを構築可能である。なお、正逆効率積をできるだけ小さくするといった観点、上述した電力消費の観点等に鑑みれば、減速比は、1/150以下、さらには、1/200以下とすることが望ましい。
【0019】
なお、本項の態様においてアクチュエータが有する減速機は、それの採用する機構が特に限定されるものではない。例えば、ハーモニックギヤ機構(「ハーモニックドライブ(登録商標)機構」,「ストレインウェーブギヤリング機構」等と呼ばれることもある)、サイクロイド減速機構等を採用することにより、容易に、減速比の小さな減速機を構成することが可能である。
【0020】
(5)前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御を実行する(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0021】
本項の態様によれば、ショックアブソーバによるばね上部材とばね下部材との相対振動に対する減衰力に加え、接近離間力発生装置による上記減衰力を利用することが可能となとなる。したがって、減衰力を制御する場合の自由度が高く、幅広い設計思想の下で、当該システムの設計が可能となる。つまり、当該システムにおいて達成しようとする目的に応じた振動減衰特性の適正化が可能となるのである。なお、本項にいう「ばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動」には、例えば、いわゆるばね上振動、ばね下振動、ばね上ばね下相対振動等が含まれる。
【0022】
(6)前記減衰力制御が、ばね上共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性の適切化を目的とする制御である(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0023】
(7)前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた(6)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0024】
上記2つの態様は、接近離間力発生装置および液圧式ショックアブソーバのそれぞれが発揮すべき機能についての限定を加えた態様である。簡単に言えば、前者は、例えば、比較的低周波域の振動のばね下部材からばね上部材への伝達を抑制するような減衰力を接近離間力発生装置に発生させる態様であり、後者は、例えば、比較的高周波域の振動のばね下部材からばね上部材への伝達を抑制するような減衰力をショックアブソーバに発生させる態様である。
【0025】
接近離間力発生装置は、アクチュエータの作動を制御することによって減衰力の大きさを変化させる構造とされており、現実には、高周波域の振動に対処し難い傾向にあり、前述の正逆効率積が小さいアクチュエータを採用する場合に、その傾向が強くなる。したがって、上記2つの態様のうちの前者は、接近離間力発生装置の特性に適合した態様となる。低周波域の振動減衰を接近離間力発生装置に担わせた場合、ショックアブソーバの機能を、高周波域の振動減衰に特化させることができる。このような構成は、上記2つの態様を組み合わせることによって実現させることができる。低周波域の振動減衰を目的とする場合、減衰係数を比較的高目に設定することがが望ましく、逆に、高周波域の振動減衰を目的とする場合、減衰係数を比較的低目に設定することが望ましいことから、低周波域から高周波域までの広い範囲の振動減衰を、1つの減衰力発生機構によって賄うことは、現実には困難が付きまとう。そこで、上記2つの態様を組み合わせれば、ばね上共振周波数を含む低周波域の振動には接近離間力発生装置によって対処し、ばね下共振周波数を含む高周波域の振動にはショックアブソーバによって対処することができ、幅広い周波数域において振動減衰特性の良好なサスペンションシステムが容易に実現するのである。なお、ショックアブソーバに対して設定された減衰係数を小さくすれば、車輪の接地荷重変動の抑制にも効果的であり、その観点においても後者の態様は有利である。
【0026】
(8)前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である(5)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0027】
本項に記載の減衰力制御は、いわゆるスカイフック理論に基づいた制御であり、接近離間力発生装置は、アクチュエータの作動の制御により、ばね上ばね下相対速度に依存しない減衰力を発生させられることから、接近離間力発生装置によれば、容易に、スカイフック理論に基づく減衰力制御を実行することができる。ただし、スカイフック理論に基づく減衰力制御では、ばね下部材についての制振に対する配慮がなされないため、何らかの手段によって、車輪の接地荷重変動に対処することが望ましい。それに対しては、例えば、ショックアブソーバの減衰係数を適切化する等して、ショックアブソーバに車輪の接地荷重変動の抑制機能を充実させて対処することが可能である。
【0028】
(9)前記接近離間力制御装置が、発生させるべき接近離間力に応じて前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記減衰力制御を実行する(5)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0029】
先に説明したように、接近離間力発生装置の制御は、アクチュエータ力対象制御であっても、動作量対象制御であってもよい。本項の態様は、減衰力制御において接近離間力発生装置がアクチュエータ力対象制御の下で作動させられる態様の一態様である。また、本項の態様は、目標供給電力が、アクチュエータ力あるいはアクチュエータの動作量をフィードバックせずして決定されることから、減衰力制御を、フィードフォワード制御、言い換えればいわゆるオープン制御にて実行する態様である。例えば、接近離間力発生装置にの制御を、後に説明するようなフィードバック制御、具体的には、PI制御,PID制御等によって行えば、積分項(I項)成分の存在等の理由から、必ずしも充分な応答性が得られるとは限らない。その一方で、減衰力制御は、比較的速い速度で動作する制振対象物に対して適切な大きさの減衰力を作用させる必要があることから、比較的良好な応答性が要求される。本項の態様はそのことを考慮した態様であり、本項の態様によれば、減衰力制御においてオープン制御を実行することで、応答性の良好な減衰力制御が実行されることになる。
【0030】
(10)発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を目標動作量と定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータへの電源からの電力の供給を禁止して、前記減衰力制御を実行する(9)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0031】
先に説明したように、アクチュエータの動作量と接近離間力発生装置が発生する接近離間力とは対応関係にあり、本項にいう「目標動作量が増加する過程」は、接近離間力が増加させられる過程を意味し、逆に、「目標動作量が減少する過程」は、接近離間力が減少させられる過程を意味する。目標動作量が増加する過程(以下、「動作量増加過程」という場合がある)においては、弾性体の変形量を増加させる過程であるため、例えば弾性体の弾性力等、つまり、外部入力に抗してアクチュエータ力を増加させる必要があるため、電源から動力源である電動モータへの電力供給を必要とする。それに対して、目標動作量が減少する過程(以下、「動作量減少過程」という場合がある)では、例えば弾性体の復元力等、つまり、外部入力を利用してアクチュエータの動作量を減少させることができるため、必ずしも、電動モータへの電源からの電力供給を必要としない。本項に記載の態様は、このことを考慮した態様であり、動作量減少過程において電動モータへの電源からの電力供給を行わないようにしている。そのため、本項の態様によれば、電力消費を少なくして減衰力制御が実行できることになる
【0032】
(11)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータの起電力に依拠するアクチュエータ力を利用して、前記減衰力制御を実行する(10)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0033】
なお、動作量減少過程においては、外部入力によって電動モータが動作させられることから、電動モータに生じる起電力を利用することで、電源からの供給電力によらなくても、アクチュエータ力を動作量の減少に対する抵抗力として作用させることが可能である。そして、このアクチュエータ力を制御することにより、動作量減少過程においても、適切な減衰力を発生させることが可能となるのである。また、その起電力に依拠する発電電力を電源に回生させれば、さらなる電力消費の削減が可能となる。このような起電力を利用した減衰力制御は、先に説明した正逆効率積の小さいアクチュエータ,減速比の小さい減速機を有するアクチュエータを採用する接近離間力発生装置に対する場合に、特に効果的である。
【0034】
(12)当該サスペンションシステムが、前記電動モータを駆動するための駆動回路を備え、前記電動モータがその駆動回路の作動状態に依存するある作動モードの下で作動する構成とされ、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、(A)前記電動モータが有する複数の通電端子の間を相互に導通させる作動モードである全端子間導通モード、(B)前記複数の通電端子のうち1つの端子と電源の高電位側端子と低電位側端子との一方との導通を確保し、その1つの端子が前記電動モータの動作位置に応じて変更される作動モードである特定端子通電モード、(C)前記複数の通電端子をすべて開放する作動モードである全端子開放モードのうちのいずれかの作動モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(10)項または(11)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0035】
本項にいう「電動モータの作動モード」は、駆動回路の作動状態、詳しくは、電動モータの通電形態をどのような状態とするかに依存するものであり、具体的に言えば、電動モータの複数の通電端子相互間の導通・非導通、それら複数の通電端子と電源が有する高電位側端子,低電位側端子との導通・非導通に関する形態がどのようなものかに依存する。電動モータの駆動回路として、例えば、インバータを採用する場合には、電動モータの各相の通電端子と、電源の高電位側端子あるいは低電位側端子との接続を切り換えるスイッチング素子を利用して、電動モータに対する通電形態が決められる。詳しく言えば、電源から電力を電動モータに供給する場合には、例えば、1つの通電端子と別の通電端子とを、それぞれ、電源の高電位側端子と低電位側端子とに導通させ、その導通させられる通電端子を、電動モータの動作位置に応じて順次変更するような通電形態とされる。そして、例えば、高電位側端子と低電位側端子との一方とそれと導通させられる通電端子と間に介在しているスイッチング素子に対して、PWM(Pulse Width Modulation)制御を実行し、その制御におけるデューティ比を変更することによって、供給電力量を変更することが可能である(以下、このような通電形態を実現させる作動モードを、「制御通電モード」という場合がある)。本項において列挙した3つの作動モードは、いずれも、電力を電源から電動モータに供給しない作動モードであり、電動モータが外部入力によって動作させられた場合に、いずれの作動モードとされるかによって、電動モータの特性、詳しく言えば、電動モータのモータ力に関する特性は異なるものとなる。
【0036】
「全端子間導通モード」は、複数の通電端子の各々が相互に導通させられており、電動モータが外部入力によって動作させられた場合に、電動モータは、比較的大きな起電力を発生させる。通電端子が互いに短絡させられている場合には、最も大きな起電力が生じ、この作動モードの下では、アクチュエータは、アクチュエータ力を比較的大きな抵抗力として発揮させる。「全端子開放モード」は、概して言えば、電動モータの各相をオープンな状態とするような作動モードと考えることができる。本作動モードにおいては、上記起電力は殆ど生じず(駆動回路の構造によっては、起電力を発生させることもできる)、モータ力は殆ど発揮されないか、あるいは、発揮されたとしても比較的小さい。したがって、本モードを採用すれば、アクチュエータは、外部入力による動作に対して、比較的小さな抵抗力しか発揮しない状態となる。「特定端子通電モード」は、先のインバータを例にとって説明すれば、前述の制御通電モードにおいてPWM制御のデューティ比を0とした通電形態を実現させる作動モードである。この作動モードでは、外部入力によって動作させられる際、ある程度の起電力が生じ、その際のモータ力は、全端子間導通モードと全端子開放モードとの中間的な大きさとなる。したがって、本作動モードの下では、中間的なアクチュエータ力が発揮される。
【0037】
本項の態様では、動作量減少過程において、上記3つのいずれかの作動モードの下で、電動モータが作動させられるため、採用される作動モードに応じた電動モータの特性が得られ、その作動モードに応じたアクチュエータ力が、アクチュエータの動作に対する抵抗力として発揮されることになる。なお、本項の態様に従うサスペンションシステムは、必ずしも3つの作動モードが設定されていることを要しない。3つの作動モードのうちの1つのみが設定された構成であってもよく、また、2以上が設定され、何らかの条件に基づいてそれら2以上の作動モードのうちの1つが選択されるような構成であってもよい。
【0038】
(13)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、目標動作量が比較的大きい場合には前記全端子間導通モードの下で、目標動作量が比較的小さい場合には前記全端子開放モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(12)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0039】
先に説明したように、接近離間力発生装置は、アクチュエータの動作量に応じて弾性体の変形量が変化するようにされていることから、アクチュエータの目標動作量が比較的大きい場合には、上記弾性力は大きくなり、アクチュエータの目標動作量が比較的小さい場合には、上記弾性力は小さくなる。本項の態様は、このことに考慮し、アクチュエータが、例えば弾性体の復元力等の外部入力によって動作させられる場合において、アクチュエータの目標動作量が比較的大きいときには、比較的大きな抵抗を発生させ、アクチュエータの目標動作量が比較的小さい場合には、比較的小さな抵抗を発生させるようにされている。したがって、本項の態様によれば、動作量減少過程において電動モータへの電源からの電力供給を禁止した場合であっても、アクチュエータの動作の適切化を図ることが可能となり得る。
【0040】
(14)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、目標動作量が比較的大きい場合と比較的小さい場合との中間的な場合に、前記特定端子通電モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(13)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0041】
上述のように、作動モードに特定端子通電モードが採用された場合、外部入力によってアクチュエータが動作させられる際の抵抗は、全端子間導通モードにおける場合の抵抗と全端子開放モードにおける場合の抵抗との中間的な大きさになる。したがって、本項の態様によれば、目標動作量が中間的な場合において中間的な抵抗が発生させられるため、電力の供給を行わない状態での動作量減少過程において、アクチュエータの動作のより一層の適切化を図ることができる。
【0042】
(15)前記接近離間力制御装置が、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御を実行する(1)項ないし(14)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0043】
(16)前記距離調整制御が、車体のロールとピッチとの少なくとも一方を抑制するための制御である(15)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0044】
上記2つの態様は、接近離間力発生装置の機能についての限定を加えた態様である。ばね下ばね上間距離、すなわち、車体車輪間距離を調整可能とすれば、例えば、上記2つの項のうちの後者のように、車体のロールを抑制するロール抑制制御,車体のピッチを抑制するピッチ抑制制御等の車体の姿勢制御や、車高を調整する車高調整制御等を実行可能である。
【0045】
(17)前記接近離間力制御装置が、実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量である目標動作量に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記距離調整制御を実行する(15)項または(16)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0046】
本項に記載の態様は、上述の距離調整制御を、アクチュエータの動作量に基づくフィードバック制御にて実行する態様である。距離調整制御においては、接近離間力発生装置は、ロールモーメント,ピッチモーメント,車体重量の分担分等の外部入力の作用下で、ばね上ばね下間距離をある距離に維持させることが要求されるため、アクチュエータは、実動作量が目標動作量となっている場合でも、その目標動作量を維持するために、何某かのアクチュエータ力を発揮させつづける必要がある。このようなアクチュエータの制御は、フィードフォワード制御によっては実現させることが困難である。本項の態様は、そのことを考慮したものであり、いわゆるPI制御若しくはPID制御によって、距離調整制御を実行するようにされている。上記偏差の積分値に応じた供給電力成分、つまり、積分項成分(I項成分)は、アクチュエータの動作量を目標動作量に維持するためのアクチュエータ力に応じた供給電力成分として機能させることができるため、本項の態様によれば、適正な距離調整制御を容易に行なわせることができる。
【0047】
(18)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記距離調整制御を実行する(17)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0048】
距離調整制御においても、先に説明した正効率,逆効率の関係から、動作量増加過程における電動モータへの供給電力量は、動作量減少過程に比較して大きくする必要があり、逆にいえば、動作量減少過程においては、必要とされる供給電力量が少なくて済み、また、目標動作量の減少へのアクチュエータ動作の円滑な追従に鑑みれば、供給電力量を低減させることが望ましい。本項の態様は、そのことを考慮したものであり、本項の態様によれば、距離調整制御に対しての電力消費を抑制することが可能となり、また、動作量減少過程におけるアクチュエータ動作の良好な追従性を確保することが可能となる。なお、本項において明確にはしていないが、目標動作量が変化していない過程(以下、「動作量維持過程」という場合がある)、具体的には、例えば、アクチュエータの実動作量が略目標動作量となっておりその目標動作量が変動していない状態においても、供給電力量を低減させることが可能であり、その場合には、電力消費のより一層の抑制が可能となる。
【0049】
(19)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた(18)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0050】
前述した正逆効率積に基づく外部入力とアクチュエータ力との関係に従えば、同じ外部入力に対しての動作量減少過程におけるアクチュエータ力と動作量増加過程におけるアクチュエータ力との適正比は、正逆効率積に従うものとなる。本項の態様は、そのことに考慮したものであり、本項の態様によれば,適正に供給電力が削減され、適正にアクチュエータが動作させられることになる。
【0051】
(20)前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御と、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御とを同時に実行する(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0052】
(21)前記減衰力制御が、ばね上共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性の適切化を目的とする制御である(20)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0053】
(22)前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた(21)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0054】
(23)前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である(20)項ないし(22)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0055】
(24)前記距離調整制御が、車体のロールとピッチとの少なくとも一方を抑制するための制御である(20)項ないし(23)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0056】
上記5つの項の態様は、接近離間力発生装置による減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行する態様である。それらの制御を同時に実行できることで、本項の態様のサスペンションシステムは、実用性の極めて高いシステムとなる。なお、上記各項の態様に関する説明は、先に説明した説明と重複するためここでは省略する。
【0057】
(25)前記電動モータへの目標供給電力を構成する成分であって、前記減衰力制御についての成分を減衰力対応成分と、前記距離調整制御に関する成分を距離調整対応成分と、それぞれ定義し、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を減衰力対応目標動作量と、前記距離調整制御において実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量を距離調整対応目標動作量と、それら減衰力対応目標動作量と距離調整対応目標動作量との和を目標動作量計と、それぞれ定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に応じて前記減衰力対応成分を決定し、前記目標動作量計に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記距離調整対応成分を決定し、それら減衰力対応成分と距離調整対応成分との和である前記目標供給電力に基づいて前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する(20)項ないし(24)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0058】
本項の態様は、減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行する場合における、アクチュエータの制御に関する具体的な限定を加えた態様である。先に説明したように、減衰力制御におけるアクチュエータの制御は、オープンな制御によって実行することが望ましく、距離調整制御におけるアクチュエータの制御は、積分項成分に依拠するフィードバック制御によって実行することが望ましい。本項の態様によれば、それらの要望を充足しつつ、減衰力制御と距離調整制御とを、適正に一元化させることが可能となる。
【0059】
(26)前記接近離間力制御装置が、目標動作量計が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量計が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する(25)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0060】
(27)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた(26)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0061】
上記2つの項の態様は、減衰力制御と距離調整制御とが同時に実行される場合において、目標動作量計が減少する過程(上述した「動作量減少過程」の一種であり、これについても、以下、「動作量減少過程」という場合がある)における供給電力の低減に関する態様である。減衰力制御と距離調整制御とが同時に実行される場合には、距離調整制御における目標動作量の維持のためのアクチュエータ力を必要とするため、距離調整制御のみが行われる場合と同様の考え方の下、動作量減少過程において、供給電力量を低減させている。なお、上記2つの項の態様に関する説明は、先の説明と重複するため、ここでは省略する。
【実施例】
【0062】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0063】
≪車両用サスペンションシステムの構成≫
図2に、本実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本システム10は、車輪16の各々に対応して設けられた4つの車体車輪間距離調整装置(以下、「調整装置」という場合がある)20を含んで構成されている。調整装置20はそれぞれ、
概してL字形状をなすL字形バー22と、そのバー22を回転させるアクチュエータ26とを備えている。本システム10を搭載する車両には、各車輪16に対応した4つのサスペンション装置30(図2,3参照)が設けられている。L字形バー22の一端部はサスペンション装置30にリンクロッド32を介して連結され、他端部はアクチュエータ26に接続されている。
【0064】
サスペンション装置30については、転舵輪である前輪に対応するものと非転舵輪である後輪に対応するものとが車輪16を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪に対応したサスペンション装置30を代表して説明する。図3,4に示すように、サスペンション装置30は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置30は、サスペンションアームとしての第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48を備えている。5本のアーム40,42,44,46,48のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪16を回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。それら5本のアーム40,42,44,46,48により、アクスルキャリア50は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が可能とされている。
【0065】
サスペンション装置30は、本システム10を構成するサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング51とショックアブソーバ52とを備えており、それらは、それぞれ、ばね上部材としての車体の一部であるタイヤハウジングに設けられたマウント部54とばね下部材としての第2ロアアーム46との間に並列的に配設されている。ショックアブソーバ52は、油圧式のものであり、ばね上部材とばね下部材との相対振動を減衰する構造とされている。ショックアブソーバ52が発生する減衰力は、上記相対速度に応じて一義的に決まるようにされている。つまり、ショックアブソーバ52の減衰係数は、固定的なものとされており、具体的には、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動の第2ロアアーム46から車体への伝達を抑制すること、および、車輪16の接地荷重変動を抑制することを主目的とする大きさに設定されている。なお、油圧式のショックアブソーバ52の構造は公知のものであることから、詳細な説明は省略する。
【0066】
調整装置20の備えるL字形バー22は、略車幅方向に延びるシャフト部60と、シャフト部60と連続するとともにそれと交差して概ね車両後方に延びるアーム部62とに区分することができる。L字形バー22のシャフト部60は、アーム部62に近い箇所において、車体に固定された保持具64によって車体の一部に回転可能に保持されている。アクチュエータ26は、それの一端部に設けられた取付部材65によって車体下部の車幅方向における中央付近に固定されており、シャフト部60の端部(車幅方向における中央側の端部)がそのアクチュエータ26に接続されている。一方、アーム部62の端部(シャフト部60側とは反対側の端部)は、リンクロッド32を介して、第2ロアアーム46に連結されている。詳しくいえば、第2ロアアーム46には、リンクロッド連結部66が設けられ、リンクロッド32の一端部は、そのリンクロッド連結部66に、他端部はL字形バー22のアーム部62の端部に、それぞれ遥動可能に連結されている。
【0067】
調整装置20の備えるアクチュエータ26は、図5に示すように、駆動源としての電動モータ70と、その電動モータ70の回転を減速して伝達する減速機72とを含んで構成されている。これら電動モータ70と減速機72とは、アクチュエータ26の外殻部材であるハウジング74内に設けられており、そのハウジング74は、それの一端部に固定された上述の取付部材65によって、車体に固定的に取り付けられている。L字形バー22は、それのシャフト部60がハウジング74の他端部から延び入るように、配設されている。L字形バー22のシャフト部60は、それのハウジング74内に存在する部分において、後に詳しく説明するように、減速機72と接続され、シャフト部60の軸方向の中間部において、ブシュ型軸受76を介してハウジング74に回転可能に保持されている。
【0068】
電動モータ70は、ハウジング74の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のコイル78と、ハウジング74に回転可能に保持された中空状のモータ軸80と、コイル78と向きあうようにしてモータ軸80の外周に固定して配設された永久磁石82とを含んで構成されている。電動モータ70は、コイル78がステータとして機能し、永久磁石82がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。なお、ハウジング74内に、モータ軸80の回転角度、すなわち、電動モータ70の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ84が設けられている。モータ回転角センサ84は、エンコーダを主体とするものであり、アクチュエータ26の制御、つまり、調整装置20の制御に利用される。
【0069】
減速機72は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)86,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)88およびリングギヤ(サーキュラスプライン)90を備え、ハーモニックギヤ機構として構成されている。波動発生器86は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸80の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ88は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯(本減速機72では、400歯)が形成されている。このフレキシブルギヤ88は、先に説明したL字形バー22のシャフト部60に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、L字形バー22のシャフト部60は、モータ軸80を貫通しており、それから延び出す部分の外周面において、フレキシブルギヤ88の底部を貫通する状態でその底部とスプライン嵌合によって相対回転不能に接続されているのである。リングギヤ90は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機72においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング74に固定されている。フレキシブルギヤ88は、その周壁部が波動発生器86に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ90と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。上述のような構造により、波動発生器86が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ70のモータ軸80が1回転すると、フレキシブルギヤ88とリングギヤ90とが、2歯分だけ相対回転させられる。つまり、減速機72の減速比は、1/200とされている。
【0070】
以上の構成から、電動モータ70が駆動させられると、そのモータ70の発揮するモータ力によって、L字形バー22が回転させられて、そのL字形バー22のシャフト部60が捩じられることになる。この捩りにより生じる捩り反力が、アーム部62,リンクロッド32,リンクロッド連結部66を介し、第2ロアアーム46に伝達され、第2ロアアーム46の先端部を車体に対して押し下げたり、引き上げたりする力、言い換えれば、車体と車輪16とを上下に接近離間させる方向の力である接近離間力として作用する。つまり、アクチュエータ26の発揮する力であるアクチュエータ力が、弾性体として機能するL字形バー22を介して、接近離間力として作用することになる。このことから、調整装置20は、接近離間力を発生する接近離間力発生装置としての機能を有していると考えることができ、その接近離間力を調整することで、上下方向における車体と車輪との距離車体車輪間距離、言い換えれば、ばね上ばね下間距離を調整することが可能となっている。
【0071】
本システム10は、図2に示すように、各調整装置20,詳しく言えば、各アクチュエータ26の作動を制御する制御装置である調整装置電子制御ユニット(調整装置ECU)100を備えている。調整装置ECU100は、各アクチュエータ26の作動を制御し、各アクチュエータ26が有する電動モータ70に対応する駆動回路としての4つのインバータ102と、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とするコントローラ104とを備えている。(図13参照)。各インバータ102は、コンバータ106を介してバッテリ108に接続されており、各インバータ102は各調整装置20の電動モータ70に接続されている。コンバータ106は、双方向に通電可能なコンバータとされ、電圧を昇圧させて電力をバッテリ108から電動モータ70に供給することが可能であり、また、電圧を降圧させて電力を電動モータ70からバッテリ108に回生することが可能な構造とされている。なお、電動モータ70は定電圧駆動されることから、電動モータ70への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更され、電動モータ70は、その供給電流量に応じた力を発揮することとなる。ちなみに、供給電流量は、各インバータ102がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
【0072】
コントローラ104には、上記モータ回転角センサ84とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するためのステアリングセンサ110,車体に発生する横加速度を検出する横加速度センサ112,車体に発生する前後加速度を検出する前後加速度センサ114,車体のマウント部54に設けられ車体に発生する縦加速度を検出する縦加速度センサ116が接続されている。コントローラ104には、さらに、ブレーキシステムの制御装置であるブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」と記載する場合がある)118が接続されている。ブレーキECU118には、4つの車輪16のそれぞれに対して設けられてそれぞれの回転速度を検出するための車輪速センサ120が接続され、ブレーキECU118は、それら車輪速センサ120の検出値に基づいて、車両の走行速度(以下、「車速」という場合がある)を推定する機能を有している。コントローラ104は、必要に応じてブレーキECU118から車速を取得するようにされている。さらに、コントローラ104は、インバータ102にも接続され、それを制御することで、調整装置20を制御するものとされている。なお、コントローラ104のコンピュータが備えるROMには、後に説明する調整装置20の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。
【0073】
≪電動モータの作動モード≫
図6に示すように、電動モータ70は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子122u,122v,122w(以下、総称して「通電端子122」という場合がある)を有している。インバータ102は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)について、high(正)側,low(負)側の2つのスイッチング素子を備えている(以下、6つのスイッチング素子の各々を、「UHC」,「ULC」,「VHC」,「VLC」,「WHC」,「WLC」と呼ぶこととする)。スイッチング素子切換回路は、電動モータ70に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ102は、バッテリ108とコンバータ106とで構成される電源の高電位側の端子124hと低電位側の端子124lとに接続されている。
【0074】
本サスペンションシステム10では、電動モータ70は、4つの作動モードで作動可能とされており、その4つの作動モードの中から設定された条件等に基づいて選択された1つの作動モードで作動させられる。作動モードは、インバータ102の作動状態、言い換えれば、各スイッチング素子の切換形態によって定まるものとされている。詳しく言えば、作動モードの切り換えは、このインバータ102のスイッチング素子のON/OFFの切換えの形態を変更することによって行われる。
【0075】
作動モードは、大きくは、2つのモードに分けることができる。その1つは、制御通電モードであり、デューティ比に従ったON/OFF制御、つまり、デューティ制御が行われるようになっており、バッテリ108から電動モータへの電力供給が実行される作動モードである。もう1つは、バッテリ108から電動モータ70への電力の供給を行わない作動モードである。本実施例においては、スタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードの3つが採用可能とされている。以下に、各作動モードについて説明する。
【0076】
(A)制御通電モード
図7を参照しつつ説明すれば、制御通電モードでは、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ70の回転角に応じて切り換えられる。さらに、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのみが、デューティ制御を実行するようになっており、そのデューティ比を変更することによって、電動モータ70への供給電流量が変更されるようになっている。図7における「1*」は、そのことを示している。ちなみに、各スイッチング素子の切換形態は、モータ力の発生方向に応じて異なっており、その方向を、便宜的に、右方向(CW方向)と左方向(CCW方向)と呼ぶこととする。
【0077】
上述のように、制御通電モードは、電動モータ70のモータ力発生方向および電動モータ70への供給電力量が制御可能なモードであり、この制御通電モードにおいては、任意の方向に、電動モータ70は供給電流量に応じた大きさのモータ力を発生させることが可能となる。したがって、調整装置20が発生する接近離間力の方向および大きさを制御することが可能である。
【0078】
(B)スタンバイモード
スタンバイモードでは、モータ力発生方向の指令に応じた各スイッチング素子の切り換えが実行されるものの、実際には電源から電動モータ70への電力供給が行われない。図7に示すように、上記制御通電モードと同様、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ70の回転位相に応じて切り換えられる。ただし、制御通電モードと異なり、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ制御が行われれない(デューティ比が0となるようにデューティ制御が行われるともいえる)。つまり、パルスオン時間が存在せず、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCは、実際にはOFF状態(開状態)とされていることから、実際には、電動モータ70には、電力が供給されない状態とされるのである。図7における「0*」は、そのことを示している。具体的に言えば、例えば、各スイッチング素子UHC,VHC,WHC,ULC,VLC,WLCのうちの1つのスイッチング素子VHCのみがON状態(閉状態)とされると、3つの通電端子122のうちの1つと電源の高電位側の端子124hとの導通が確保される。このようなスイッチング素子の切り換えが行われることから、本作動モードは、特定端子通電モードの一種と考えることができる。
【0079】
スタンバイモードにおいては、電動モータ70に電力が供給されないため、電動モータ70の作動を制御することができない。ところが、上記のようにスイッチング素子の切換えが行われていることから、電動モータ70の回転方向とモータ力発生方向との調節により、電動モータ70が外部入力によって回転させられる場合に、ある程度の起電力を発生させることが可能である。この場合には、電動モータ70の回転に対してある程度の制動効果が得られ、アクチュエータ26の動作に対する抵抗が発生することになる。なお、本作動モードによる制動効果は、後に説明するブレーキモードとフリーモードとの中間的な制動効果となる。
【0080】
(C)ブレーキモード
ブレーキモードでは、電動モータ70の各通電端子が相互に導通させられており、本作動モードは、全端子間導通モードの一種と考えられる。つまり、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方に配置されたすべてのものを閉状態に維持し、high側,low側の他方に配置されたすべてのものを開状態に維持する。具体的に言えば、本実施例では、図7に示すように、high側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCのいずれもが、ON状態(閉状態)とされ、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれもが、OFF状態(開状態)とされる。それらON状態とされたスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ70の各相は、あたかも相互に短絡させられた状態となる。このような状態では、電動モータ70に対して、いわゆる短絡制動の効果が得られることになる。したがって、アクチュエータ30は、外部入力によって速度の大きな動作を強いられる場合に、比較的大きな抵抗を発揮する。
【0081】
(D)フリーモード
フリーモードでは、電動モータ70の各通電端子122があたかも開放されたようにされる。つまり、本作動モードは、全端子開放モードの一種と考えれれる。具体的に言えば、図7に示すように、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。そのことによって、本作動モードでは、電動モータに起電力が殆ど発生せず、電動モータ70による制動効果が殆ど得られないか、あるいは、得られても比較的小さい効果しか得られない。したがって、本作動モードを採用すれば、外部入力がアクチュエータ26に作用する場合に、アクチュエータ26は、あまり抵抗を受けることなく作動することになる。
【0082】
≪アクチュエータの正効率,逆効率および正逆効率積≫
ここで、アクチュエータ26の効率(以下、「アクチュエータ効率」という場合がある)について考察する。アクチュエータ効率には、正効率,逆効率との2種が存在する。アクチュエータ逆効率(以下、単に「逆効率」という場合がある)ηNは、外部入力によっても電動モータ70が回転させられない最小のモータ力のその外部入力に対する比率と定義されるものであり、また、アクチュエータ正効率(以下、単に「正効率」という場合がある)ηPは、上記外部入力に抗してL字形バー22のシャフト部60を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義されるものである。つまり、アクチュエータ力(アクチュエータトルクと考えてもよい)をFaと、電動モータ70が発生する力であるモータ力(モータトルクと考えてもよい)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現でき、
正効率ηP=Fa/Fm
逆効率ηN=Fm/Fa
それら正効率ηP,逆効率ηNは、それぞれ、図8に示されている正効率特性線の傾き、逆効率特性線の傾きの逆数に相当するものとなる。ちなみに、モータ力Fmは、電動モータ70への供給電流量iに比例すると考えることができる。
【0083】
図8から解るように、同じ大きさのアクチュエータFaを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電動モータ70のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとでは、その値が異なっている(FmP>FmN)。この関係を上記の正効率ηP,逆効率ηNの式に当てはめると、下記のようになり、
Fa=ηP・FmP
Fa=(1/ηP)・FmN
正効率特性下におけるモータ力FmPと逆効率特性下におけるモータ力FmNとの関係は、下記のようになる。
FmN=ηP・ηN・FmP
逆効率特性下におけるモータ力FmNは、正効率特性下におけるモータ力FmPに正効率ηPと逆効率ηNとの積である正逆効率積ηP・ηNを掛けることで算出される。モータ力Fmは、電動モータ70への供給電流量iに比例すると考えることができることから、モータ力FmNに対応する電動モータ70への供給電流量をiNとし、モータ力FmPに対応する電動モータ70への供給電流量をiPとすれば、供給電流量iNと供給電流量iPとの関係は、下記のようになり、
iN=ηP・ηN・iP
アクチュエータ26を動作させるのに必要な供給電流量iPに正逆効率積ηP・ηNを掛けることで、アクチュエータ26が動作させられないために必要な供給電流量iNが算出される。ちなみに、本アクチュエータ26では、調整装置20のアクチュエータ26の正逆効率積ηP・ηNは1/3とされている。
【0084】
≪車両用サスペンションシステムの制御≫
(A)距離調整制御の概要
本システム10では、4つの調整装置20の各々が、それぞれの発生する接近離間力によって、各輪に対応する車体車輪間距離を調整することが可能とされており、車体車輪間距離を調整する制御(以下、「距離調整制御」という場合がある)が実行される。具体的に言えば、本システム10では、車両の旋回時において、旋回内輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させるような接近離間力を、旋回外輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させるような接近離間力を、それぞれ、車両の旋回に起因するロールモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の旋回に起因する車体のロールが抑制されるのである。また、車両の加速時において、前輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させ、後輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させるように接近離間力を、それぞれ、車両の加速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の加速に起因する車体のスクワットが抑制される。さらに、車両の減速時において、前輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させ、後輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させるように接近離間力を、それぞれ、車両の減速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の減速に起因する車体のノーズダイブが抑制されるのである。つまり、本システム10では、距離調整制御によって、車体のロールとピッチとを抑制することが可能となっている。
【0085】
(B)減衰力制御の概要
また、本システム10では、4つの調整装置20の各々が発生する接近離間力を、車体における各輪のばね上部材に相当する部分の振動を減衰するための力として、すなわち、減衰力として発生させる制御(以下、「減衰力制御」という場合がある)が実行される。本システム10においては、接近離間力を、車体の上下方向への移動速度、つまり、いわゆるばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させ、いわゆるスカイフック理論に基づいた減衰力制御が実行される。
【0086】
なお、本システム10においては、上述のように、正逆効率積ηP・ηNが比較的小さいアクチュエータ26を採用していること等の理由から、調整装置20は、比較的高周波域の振動に対処することが困難となっている。そこで、本システム10が備えるショックアブソーバ52は、高周波域の振動減衰に好適なショックアブソーバとされており、このショックアブソーバ52の作用によって、比較的高周波数域の振動の車体への伝達が抑制されることになる。つまり、本システム10では、アクチュエータ26の作動が充分に追従可能な比較的低周波数域、つまり、ばね上共振周波数を含む低周波域の振動には調整装置20によって対処し、ばね下共振周波数を含む高周波域の振動にはショックアブソーバ52によって対処することができ、幅広い周波数域における振動減衰特性を備えたシステムが実現されている。また、調整装置20による減衰力制御は、スカイフック理論に基づく制御であるため、ばね下振動に対処するもとのはされていない。そこで、ショックアブソーバ52は、ばね下制振、つまり、車輪16の接地荷重変動を抑制するために好適なショックアブソーバとされている。したがって、そのような機能を担保するために、ショックアブソーバ52の減衰係数は低目に設定されている。具体的に言えば、1000〜2000N・sec/m(車輪の動作に対してその車輪に直接作用させたと仮定した値)とされており、調整装置20を有していないサスペンションシステムにおけるショックアブソーバ、つまり、コンベンショナルなショックアブソーバに設定されている値である3000〜5000N・sec/mの半分以下に設定されている。
【0087】
(C)距離調整制御、減衰力制御それぞれの制御手法の概略
距離調整制御は、制御対象が車体車輪間距離であり、アクチュエータ26の動作量を直接の制御目標とする上述の動作量対象制御によって実行される。動作量対象制御は、実際のアクチュエータ26の動作量である実動作量が目標の動作量となるように制御されており、実動作量をフィードバックして、目標動作量と実動作量との偏差に基づき制御されるフィードバック制御の手法に従って実行される。
【0088】
距離調整制御では、車両が旋回中,加減速中等の場合、アクチュエータ26に外部入力が作用した状態でアクチュエータ26の動作量を目標動作量に維持する必要があることから、アクチュエータ26に、その外部入力によっても自身が動作させられないためのアクチュエータ力を発揮させる必要がある。つまり、調整装置20は、外部入力に対抗する接近離間力を発生させる必要があり、上記アクチュエータ力が発揮されない場合には、外部入力によって動作量が目標動作量からはずれてしまうのである。この目標動作量を維持するためのアクチュエータ力を発揮すべく、電動モータ70への供給電力の決定にあたって、フィードバック制御の手法が利用される。具体的には、PI制御則に従い、積分項(I項)によって定まる供給電力成分、つまり、上記偏差の積分値に応じた供給電力成分が、上記目標動作量を維持するためのアクチュエータ力を発揮させる供給電力となるように、電動モータ70への供給電力が決定される。このようにして、フィードバック制御手法に従う距離調整制御が行われるのである。
【0089】
なお本システム10の制御においては、アクチュエータ26の動作量は、所定の中立位置を基準とする動作量として扱われる。この中立位置は、例えば、車体に、ロールモーメント,ピッチモーメント等が実質作用しておらず、かつ、車体,車輪16に振動が生じていないとみなせる状態である基準状態において、アクチュエータ力を発揮していないときのアクチュエータ26の動作位置として設定される。また、本システム10の制御においては、アクチュエータ26の動作量と電動モータ70の回転角とは対応関係にあるため、実際には、アクチュエータ26の動作量に代えて、モータ回転角センサによって取得されるモータ回転角を対象とした制御が行われる。
【0090】
一方、減衰力制御においては、接近離間力をばね上振動に対する減衰力として作用させるため、相当に短い周期で変動する接近離間力が必要とされる。したがって、減衰力制御では、ばね上部材の絶対速度の変化に対する応答性の高い制御が要求されるのである。減衰力制御を上記フィードバック制御におけるPI制御に従って実行した場合、上記積分項によって定まる供給電力成分の存在等によって、応答性の高い制御が実行し得ない可能性がある。そこで、本システム10においては、高い応答性を担保すべく、減衰力制御は、減衰力としての接近離間力を発揮するためのアクチユ−タ力、詳しく言えば、そのアクチュエータ力に相当するモータ力を直接の制御対象とし、あらかじめ決められたモータ力と電動モータ70への供給電力との関係に基づき、ばね上部材の絶対速度に応じた供給電力を供給するようにして行われる。つまり、フィードバック制御の手法によらず、オープン制御の手法に従って実行される。
【0091】
(D)距離調整制御の詳細
i)距離調整制御における目標モータ回転角の決定
距離調整制御では、当該制御におけるモータ回転角の目標である目標モータ回転角として、距離調整対応目標モータ回転角成分(以下、「距離調整対応回転角成分」)θ*Kが決定される。距離調整対応回転角成分θ*Kは、車体のロールを抑制するための目標モータ回転角成分としてロール抑制目標モータ回転角成分(以下、「ロール抑制回転角成分」と略す場合がある)θ*Rと、車体のピッチを抑制するための目標モータ回転角成分としてピッチ抑制目標モータ回転角成分(以下、「ピッチ抑制回転角成分」と略す場合がある)θ*Pとによって構成されており、それらロール抑制回転角成分θ*R,ピッチ抑制回転角成分θ*Pが個々に決定され、決定されたそれらの成分が合計されることで決定される。
【0092】
ロール抑制回転角成分θ*Rは、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KA・Gyc+KB・Gyr (KA,KBはゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定される。調整装置ECU100のコントローラ104内には、制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制回転角成分θ*Rのマップデータが格納されており、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定にあたっては、そのマップデータが参照される。
【0093】
ピッチ抑制回転角成分θ*Pは、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、実測された実前後加速度Gzgに基づいて、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが、次式に従って決定される。
θ*P=KC・Gzg (KCはゲイン)
【0094】
距離調整対応回転角成分θ*Kは、上記決定されたロール抑制回転角成分θ*R,ピッチ抑制回転角成分θ*Pに基づき、次式に従って決定される。
θ*K=θ*R+θ*P
【0095】
ii)距離調整制御における目標供給電流の決定
距離調整制御では、当該制御における供給電流の目標である目標供給電流として、距離調整対応目標供給電流成分(以下、「距離調整対応成分」という場合がある)i*Kが決定される。この距離調整対応成分i*Kは、上述のように、フィードバック制御におけるPI制御に従って決定される。具体的には、まず、電動モータ70が備えるモータ回転角センサ84の検出値に基づいて実モータ回転角θが取得され、その実モータ回転角θの距離調整対応回転角成分θ*Kに対する偏差である距離調整対応モータ回転角偏差ΔθK(=θ*K−θ)が算出され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、距離調整対応成分i*Kが決定される。
i*K=K1・ΔθK+K2・Int(ΔθK)
この式が、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項であり、K1,K2は、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインである。また、Int(ΔθK)は、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKの積分値に相当している。
【0096】
なお、本システム10においては、PI制御則に従い距離調整対応成分i*Kが決定されたが、PID制御則に従い距離調整対応成分i*Kを決定することも可能である。この場合、PI制御則に従う式に、微分項(D項)すなわち、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKの微分値をパラメータとする項を加えた次式が、PID制御則に従う式となる。
i*K=K1・ΔθK+K2・Int(ΔθK)+K3・ΔθK’ (K3は微分ゲイン)
【0097】
iii)距離調整制御における供給電流の低減
車速が殆ど変化しない状態での車両の典型的な一旋回動作において、車両が受けるロールモーメントは、概して、図9(a)に示すように変化する。この図から解るように、ロールモーメントは、旋回初期P1においては増加し、旋回中期P2においては概ね一定に維持され、旋回終期P3においては減少するように変化する。このような旋回動作において、上記距離調整制御によって、車体のロールを抑制するには、図9(b)に示すようなロール抑制回転角成分θ*Rが要求され、距離調整対応成分i*Kが、図9(c)に示すように決定される。
【0098】
図9から解るように、旋回初期P1においては、ロール抑制回転角成分θ*R、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量は増加する過程にあり、外部入力であるロールモーメントに抗してアクチュエータ26の動作量を増加させる必要がある。そのため、上述のように決定される距離調整対応成分i*Kは、外部入力に抗してアクチュエータ26を動作させるのに必要なモータ力を発揮することができる供給電流となるように決定される。その一方で、旋回中期P2においては、ロールモーメントは概ね一定であり、旋回後期P3においては、ロールモーメントは減少する。このことから、アクチュエータ26が外部入力によって動作させられない程度のモータ力しか必要とされない。したがって、旋回中期P2および旋回終期P3には、上記距離調整対応成分i*Kより小さい電流、つまり、所定の低減供給電流itしか供給しなくてよいのである。先に説明したように、外部入力に抗してアクチュエータ26を動作させる場合のモータ力は、アクチュエータ26の正効率ηPに従い、また、外部入力によってアクチュエータ26が動作させられないモータ力は逆効率ηNに従うため、本距離調整制御では、上記低減供給電流itは、前述の正逆効率積ηP・ηNに基づき、次式に従って決定される。
it=ηP・ηN・i*K
すなわち、本距離調整制御では、図9(d)に示すように、旋回初期P1、言い換えれば、アクチュエータ26の動作量の増加過程においては、電動モータ70に上記距離調整対応成分i*Kが供給され、旋回中期P2および旋回終期P3、言い換えれば、アクチュエータ26の動作量の維持過程および減少過程においては、電動モータ70に上記低減供給電流itが供給される。
【0099】
ここまでの説明は、車体のロールを抑制する場合に関するものであるが、車体のピッチを抑制する場合に関しても、同様に説明することができる。したがって、車体のピッチを抑制する場合も、同様に、動作量の増加過程においては、上記距離調整対応成分i*Kが電動モータ70に供給され、アクチュエータ26の動作量の維持過程および減少過程においては、上記低減供給電流itが電動モータ70に供給されればよい。本距離調整制御では、上述したように、ロール抑制回転角成分θ*Rとピッチ抑制回転角成分θ*Pとを合計して距離調整対応回転角成分θ*Kが決定されることで、ロール抑制制御とピッチ抑制制御とが一元化されている。したがって、距離調整制御では、ロールの抑制であるかピッチの抑制であるかに拘わらず、動作量の増加過程においては、上記距離調整対応成分i*Kを電動モータ70に供給し、動作量の維持過程および減少過程においては、上記低減供給電流itを電動モータ70に供給されるようになっている。このようにして供給電流が低減されることで、本システム10では、電動モータ70の電力消費の抑制が図られているのである。
【0100】
なお、上記距離調整対応成分i*Kおよび低減供給電流itは、それの符号により電動モータ70のモータ力の発生方向をも表すものとなっており、電動モータ70の駆動制御にあたっては、それら距離調整対応成分i*K,低減供給電流itに基づいて、電動モータ70を駆動するためのデューティ比およびモータ力発生方向が決定される。そして、それらデューティ比およびモータ力発生方向についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードが制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。
【0101】
(E)減衰力制御の詳細
i)減衰力制御における目標供給電流の決定
減衰力制御は、調整装置20による接近離間力を、ばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として機能させる制御であり、減衰力制御では、当該制御において発生させるべき接近離間力として、減衰力FGが決定される。具体的には、車体のマウント部54に設けられた縦加速度センサ116によって検出される縦加速度に基づき、車体の絶対速度Vが計算され、次式に従って、減衰力FGが演算される。
FG=C・V (C:減衰係数)
そのように決定された減衰力FGに相当する接近離間力を発揮させるべく、その接近離間力に相当するアクチュエータ力、すなわち、モータ力を発生させるための供給電流の目標である目標供給電流成分として、減衰力対応目標供給電流成分(以下、「減衰力対応成分」という場合がある)i*Gが決定される。この決定にあたっては、調整装置ECU100のコントローラ104内に格納されたマップデータが参照される。
【0102】
ii)減衰力制御における供給電力の低減
車体に典型的な振動が生じている状態を例にとれば、車体のばね上部材として機能する部分の絶対速度、つまり、ばね上部材の絶対速度Vは、概して、図10(a)に示すように変化する。図が示すように、ばね上部材の絶対速度Vは、絶対速度が増加する速度増加期PZと、絶対速度が減少する速度減少期PGとが繰り返されるように変化する。このような車体の振動を減衰するには、図10(b)に示すような減衰力FGが要求され、減衰力制御では、減衰力対応成分i*Gが、図10(c)に示すように決定される。調整装置20の構造から、調整装置20が発揮する接近離間力とアクチュエータ26の動作量とは理屈上対応する。したがって、図10(b)は、減衰力FGに対応するモータ回転角、言い換えれば、仮に当該減衰力制御をモータの回転角を制御対象として行なうとすれば目標されるべきモータ回転角である減衰力対応目標モータ回転角成分(以下、「減衰力対応回転角成分」と略す場合がある)θ*Gをも示すものとなっている。
【0103】
調整装置20は、アクチュエータ26の動作量に応じてL字形バー22のシャフト部60の捩り量を変化させる構造のものとされており、速度増加期PZにおいては、減衰力対応回転角成分θ*G、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量が増加する過程にあることから、弾性体の変形量を増加させる必要がある。このため、L字形バー22のシャフト部60の捩り反力に抗してアクチュエータ力を増加させる必要があるため、その必要に応じた供給電力が電動モータ70に供給されるように、上記減衰力対応成分i*Gが決定される。一方、速度減少期PGおいては、減衰力対応回転角成分θ*G、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量が減少する過程にあることから、L字形バー22のシャフト部60の捩り反力(復元力ということもできる)、つまり、外部入力を利用してアクチュエータ26の動作量を減少させることができるため、モータ力は、速度増加期PZにおける程は必要とされない。つまり、アクチュエータ26の動作量が減少する過程、言い換えれば、アクチュエータ26の動作位置が中立位置に戻る過程においては、上記捻り反力を利用した動作を行い得ることから、本減衰力制御では、動作量減少過程においては、電動モータ70への電力供給を禁止するようにされている。したがって、本減衰力制御においては、図10(d)に示すように、速度増加期PZ、すなわち、動作量増加過程においてのみ、上記減衰力対応成分i*Gが供給されることになる。本システム10では、このように、減衰力制御においても、電動モータ70の電力消費の抑制が図られているのである。
【0104】
iii)電動モータの作動モードの切換
減衰力制御では、アクチュエータ26の動作量の増加過程において、上記距離調整制御と同様に、減衰力対応成分i*Gに基づくモータ力発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードがモータ力発生方向に応じた制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。
【0105】
一方、動作量の減少過程においては、電動モータ70への電力供給は禁止されるが、ある程度のモータ力を発揮させることが望ましい。先に説明したように、動作量減少過程では、外部入力であるL字形バー22のシャフト部60の捩り反力を利用したアクチュエータ26の動作が行われるが、アクチュエータ26の動作量が減少しすぎることで、適切な減衰力が得られなくなるという現象が生じ得る。そのため、動作量減少過程であっても、アクチュエータ26の動作の安定性を考慮すれば、ある程度のモータ力を発揮させることが望ましいのである。また、捩り反力とアクチュエータ26の動作量とは対応関係にあり、アクチュエータ26の動作量が大きい場合には、上記捩り反力も大きくなり、逆に、アクチュエータ26の動作量が小さい場合には、上記捩り反力も小さくなる。そのため、動作量減少過程においては、動作量に応じた大きさのモータ力を発揮させることが望ましいのである。
【0106】
本システム10では、動作量減少過程において、電源からの電力供給を行わずして電動モータ70に適切なモータ力を発生させるため、電動モータ70の作動モードとして、上記制御通電モードに代えて、別の作動モードが採用される。具体的に言えば、アクチュエータ26の動作量が比較的大きい場合には、前述したブレーキモードとされ、アクチュエータ26の動作量が比較的小さい場合には、フリーモードとされ、アクチュエータ26の動作量が比較的大きい場合と比較的小さい場合との中間的な場合には、スタンバイモード、詳しく言えば、モータ発生力方向に応じたスタンバイモードとされる。このように、動作量に応じた作動モードの切り換えが行われることで、適切な大きさのモータ力を発生さつつ、電動モータ70の消費電力の低減が図れることになる。なお、それら3つの作動モードにおいては、先に説明したように、インバータ102の構造等によって、起電力に依拠した発電電力を回生させることも可能であり、回生可能とすれば、より省電力なサスペンションシステムを実現させることができる。
【0107】
(F)距離調整制御と減衰力制御とが同時実行
本サスペンションシステム10においては、上記減衰力制御と上記距離調整制御とが同時に実行可能とされており、それらの制御は、各制御における目標供給電流を合計することにより、一元化して実行される。具体的には、両制御が同時に行われる場合の目標供給電流i*が、上記減衰力対応成分i*Gと上記距離調整対応成分i*Kとに基づいて、次式に従って決定される。
i*=i*G+i*K
ただし、距離調整制御では、先に説明したように、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKに基づくフィードバック制御手法に基づいて、距離調整対応成分i*Kが決定されるため、両制御を同時に実行する場合、減衰力制御による接近離間力を発揮させるための電動モータ70の回転が、距離調整対応成分i*Kの決定に影響を与えることになる。そこで、両制御が同時に実行される場合には、その影響を考慮し、以下のようにして距離調整対応成分i*Kが決定される。
【0108】
まず、減衰力制御によって発生させられる減衰力FGに対応するモータ回転角成分である減衰力対応回転角成分θ*Gが、減衰力FGに基づいて、次式に従って決定される。
θ*G=KD・FG (KDはげイン)
その決定された減衰力対応回転角成分θ*Gと、上記ロール抑制回転角成分θ*Rおよび上記ピッチ抑制回転角成分θ*Pとに基づき、目標モータ回転角θ*が、両制御を同時に実行される場合の目安となるモータ回転角として次式に従って決定される。
θ*=θ*G+θ*R+θ*P
次に、実モータ回転角θの目標モータ回転角θ*からの偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θ*−θ)が算出され、それをパラメータとして、次式に従って、距離調整対応成分i*Kが決定される。
i*K=K1・Δθ+K2・Int(Δθ)
つまり、減衰力制御によって電動モータ70が回転させられるであろうモータ回転角を加味して、距離調整対応成分i*Kが決定されるのである。
【0109】
減衰力制御と距離調整制御とが同時に行われる場合は、上記距離調整対応成分i*Kを決定するための式における積分項成分の存在により、電源から電動モータ70への電力供給を行うことが望ましい。そのため、電動モータ70の駆動制御に関しては、前述した距離調整制御の場合と同様である。具体的に言えば、上記目標モータ回転角θ*に基づいて、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあるか否かが判断され、増加過程にある場合には、目標供給電流i*に基づくモータ力発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードがモータ力発生方向に応じた制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。それに対し、アクチュエータ26の動作量が維持過程若しくは減少過程にある場合には、前述の正逆効率積ηP・ηNに基づき、次式に従って、低減供給電流it決定され、
it=ηP・ηN・i*
その低減供給電流itに基づく指令が、インバータ102に発令される。
【0110】
なお、本システム10では、電動モータ70,アクチュエータ26の構造上の理由等から、発揮できるモータ力,つまり、調整装置20が発揮する接近離間力に上限があり、その上限を超える場合には、いくら大きな電力を供給する旨の指令を発したとしても、アクチュエータ26の動作量は目標動作量とはならない。例えば、減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御が同時に実行されるような場合には、特に、その可能性が高く、例えば、図11に示すように、目標モータ回転角θ*がかなり大きくなる場合には、実モータ回転角θが、目標モータ回転角θ*に届き得ないことがある(図のPTの期間)。本システム10では、そのことに考慮し、アクチュエータ25の動作量が増加過程にあるか否かの判断を、目標モータ回転角θ*の変化に基づいて判断するようにされている。この判断方法は、距離調整制御と減衰制御とを同時に行っているか否かに拘わらず、いずれかの制御が単独で実行されている場合であっても適用される。したがって、距離調整制御が単独で、あるいは、距離調整制御と減衰力制御とが同時に実行されている場合においては、供給電流を低減するタイミングの適切性が担保され、また、減衰力制御のみが実行されている場合においては、電動モータ70の作動モードの切り換えのタイミング、電動モータ70への電源からの電力供給を禁止するタイミングの適切化が担保されているのである。
【0111】
≪調整装置制御プログラム≫
上述のような調整装置20の制御は、図12にフローチャートを示す調整装置制御プログラムが、コントローラ104によって実行されることで行われる。このプログラムは、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいて繰り返し実行される。なお、このプログラムは、減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行可能なプログラムとされている。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0112】
調整装置制御プログラムは、4つの調整装置20の各アクチュエータ26に対して、アクチュエータ26ごとに、実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての本プログラムによる処理について説明する。本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、ばね上振動の発生の有無が判断される。具体的に言えば、縦加速度センサ116によって検出される車体の縦加速度が、ある閾値を超えている場合にばね上振動が発生していると判断される。ばね上振動が発生していると判断された場合には、S2において、減衰力制御を実行するため、縦加速度から演算されるばね上絶対速度Vに基づいて、必要な減衰力FGが決定される。車体の上記周波数域の振動が発生していないと判断された場合には、S3において、減衰力FGが0に決定される。減衰力FGが決定されると、S3において、この減衰力FGに基づいて、減衰力対応回転角成分θ*Gが決定される。ちなみに、減衰力制御が実行されない場合には、減衰力対応回転角成分θ*Gは、0に決定されることになる。
【0113】
続いて、S5において、車体のロールの発生の有無が判断される。具体的には、ステアリングホイールの操作角が閾角度以上、かつ、車速が閾速以上となった場合に、車両の旋回に起因する車体のロールが実質的に発生していると判断される。車体のロールが発生していると判断された場合には、S6において、距離調整制御によって車体のロールを抑制するため、前述の制御横加速度に基づいて、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定される。車体のロールが発生していないと判断された場合には、S7において、ロール抑制回転角成分θ*Rが0に決定される。次に、S8において、車体のピッチの発生の有無が判断される。具体的には、前後加速度の絶対値が設定閾加速度以上となった場合に、車体のピッチが実質的に発生していると判断される。車体のピッチが発生していると判断された場合には、S9において、距離調整制御によって車体のピッチを抑制するため、前後加速度に基づいて、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが決定される。車体のピッチが発生していないと判断された場合には、S10において、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが0に決定される。
【0114】
次に、S11において、決定された減衰力FGに基づき、前述のようにして、オープン制御の手法に従って減衰力対応成分i*Gが決定される。続いて、S12において、既に決定されているロール抑制回転角成分θ*Rおよびピッチ抑制回転角成分θ*Pと減衰力対応回転角成分θ*Gとが合計されることによって、目標モータ回転角θ*が決定される。続くS13において、この目標モータ回転角θ*と実際のモータ回転角θとからモータ回転角偏差Δθが算出され、前述のようにして、フィードバック制御手法に従って距離調整対応成分i*Kが決定される。次に、S14において、減衰力対応成分i*Gと距離調整対応成分i*Kとが合計されることによって、目標供給電流i*が決定される。
【0115】
続いて、S15において、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあるか否かが判断される。具体的に言えば、目標モータ回転角θ*から微分演算された電動モータ70のモータ回転速度vMの符号と、目標モータ回転角θ*の符号とが同じか否かが判断される。それぞれの符号が同じであると判断された場合は、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあると判断され、S16において、目標供給電流i*に基づく指令が、インバータ102に発令される。また、モータ回転速度vMの符号と目標モータ回転角θ*の符号とが同じでないと判断された場合は、アクチュエータ26の動作量が増加過程にないと判断され、S17において、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0より大きいか否かが判断される。
【0116】
S17の判断処理は、簡単にいえば、動作量が増加過程にない場合において、距離調整制御において実行が予定されている供給電力の低減と、減衰力制御で実行が予定されている電力供給の禁止とのいずれを行うかを決定するための処理である。上記閾電流i0は、モータ回転角センサ84の検出能に相当する角度だけ電動モータ70を動作させることで得られる接近離間力を限界最小接近離間力とした場合に、その接近離間力を発揮させるのに必要な供給電流とされている。つまり、かなり0に近い値に設定されている。したがって、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0以下の場合には、距離調整制御のための接近離間力、つまり、モータ力は、必要とされない。
【0117】
そこで、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0より大きいと判断された場合は、S18において、目標供給電流i*に基づき、距離調整制御において予定されいる低減供給電流itが、目標供給電流i*に正逆効率積ηP・ηNを乗じることによって決定され、続いて、S19において、低減供給電流itに基づく指令が、インバータ102に発令される。逆に、S17において距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0以下と判断された場合は、S20において、目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1より大きいか否かが判断され、目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1より大きいと判断された場合には、S21において、電動モータ70の作動モードをブレーキモードとする指令が、インバータ102に発令される。また、S20において目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1以下と判断された場合には、S22において、目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2(<θ1)より小さいか否かが判断される。目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2より小さいと判断された場合には、S23において、作動モードをフリーモードとする指令がインバータ102に発令され、また、目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2以上と判断された場合には、S24において、作動モードをスタンバイモードとする指令がインバータ102に発令される。インバータ102に何らかの指令が発令された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0118】
≪コントローラの機能構成≫
以上のような制御プログラムが実行されて機能する本サスペンションシステム10のコントローラ104は、その実行処理によれば、図13に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その機能構成図から解るように、コントローラ104は、S4,S6,S7,S9,S10,S12の処理を実行する機能部、つまり、アクチュエータ26の目標動作量である目標モータ回転角θ*を決定する機能部として、目標動作量決定部150を、S11,S13,S14の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*を決定する機能部として、目標供給電流決定部152を、S15の処理を実行する機能部、つまり、アクチュエータ30の動作量の増減を判定する機能部として、動作量増減判定部154を、S16の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*に基づいて電動モータ70の作動を制御する機能部として、目標供給電流依拠作動制御部156を、S19の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*を低減した低減供給電流itに基づいて電動モータ70の作動を制御する機能部として、低減供給電流依拠作動制御部158を有している。さらに、コントローラ104は、S20からS24の処理を実行する機能部、つまり、電動モータ70への電力供給を禁止する機能部として、電力供給禁止部160を有している。なお、目標供給電流決定部152は、S11の処理を実行する機能部、つまり、減衰力対応成分i*Gを決定する機能部として、減衰力対応成分決定部162を、S13の処理を実行する機能部、つまり、距離調整対応成分i*Kを決定する機能部として、距離調整対応成分決定部164を備え、電力供給禁止部160は、S21からS24の処理を実行する機能部、つまり、電動モータ70の作動モードを変換する機能部として、作動モード変換部166を備えている。
【0119】
なお、本サスペンションシステム10における制御を、図14にブロック線図にて示す。Ka,Kb,Kd,Keは、それぞれゲインを意味しており、1/sは積分伝達関数を、sは微分伝達関数を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】請求可能発明の車両用サスペンションシステムを概念的に示す図である。
【図2】請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
【図3】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置とコイルスプリングとショックアブソーバとを車両後方からの視点において示す模式図である。
【図4】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置とコイルスプリングとショックアブソーバとを車両上方からの視点において示す模式図である。
【図5】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置を構成するアクチュエータを示す概略断面図である。
【図6】図2の車両用サスペンションシステムの備えるインバータと図4に示す電動モータとが接続された状態での回路図である。
【図7】電動モータの各作動モードにおける図5のインバータによるスイッチング素子の切り換え状態を示す表である。
【図8】実施例のアクチュエータの正効率および逆効率を概念的に示すグラフである。
【図9】車両の典型的な一旋回動作中におけるロールモーメント,ロール抑制回転角成分,距離調整対応成分,電動モータへの供給電流の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図10】車体の典型的な振動中における絶対速度,減衰力,減衰力対応成分,電動モータへの供給電流の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図11】車両走行の際のロール抑制回転角力成分,ピッチ抑制回転角成分,減衰力対応回転角成分,それらの成分が合計された目標モータ回転角,実際のモータ回転角の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図12】調整装置制御プログラムを示すフローチャートである。
【図13】実施例の調整装置の制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【図14】請求可能発明の車両用サスペンションシステムにおける制御のブロック線図である。
【符号の説明】
【0121】
10:車両用サスペンションシステム 20:車体車輪間距離調整装置(接近離間力発生装置) 22:L字形バー(弾性体) 26:アクチュエータ 46:第2ロアアーム(ばね下部材) 51:コイルスプリング(サスペンションスプリング) 52:ショックアブソーバ 54:マウント部(ばね上部材) 60:シャフト部 62:アーム部 70:電動モータ 72:減速機 100:調整装置電子制御ユニット(接近離間力制御装置) 102:インバータ(駆動回路) 122:通電端子 124h:高電位側端子 124l:低電位側端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式アクチュエータの作動によってばね上部材とばね下部材とを接近離間させる力を制御可能に発生させる装置を設けた車両用サスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、下記特許文献に記載されているような車両用サスペンションシステム、具体的に言えば、電磁式アクチュエータの作動に依拠してばね上部材とばね下部材とを接近離間させる力(以下、「接近離間力」という場合がある)を制御可能に発生させる接近離間力発生装置を、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバと並列的に設けたシステムが検討され始めている。このシステムでは、上記接近離間力を車体のロールを抑制するロール抑制力として作用させることで、車体のロールを抑制可能とされている。
【特許文献1】特開2002−218778号公報
【特許文献2】特開2002−211224号公報
【特許文献3】特開2006−82751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献に記載の車両用サスペンションシステムの備える接近離間力発生装置は、例えば、車体のロールを抑制するように制御されており、車体姿勢の安定についての一役を担っている。ところが、このような接近離間距離発生装置を備えたシステムは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのシステムの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用サスペンションシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、ばね上部材とばね下部材との間に、サスペンションスプリング,液圧式ショックアブソーバおよび接近離間力発生装置が互いに並列的に配設され、その接近離間力発生装置が、弾性体と、その弾性体の直列的に配置されて自身が発揮する力を弾性体を介して車体と車輪との接近離間力として作用させる電磁式アクチュエータとを有する構造とされるとともに、その接近離間力を制御する制御装置が、その接近離間力を振動減衰力として発生させるための制御を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の車両用サスペンションシステムでは、ショックアブソーバによる減衰力に加え、上記接近離間力発生装置によっても減衰力を発生させることができるため、本発明のシステムによれば、目的に応じた振動減衰特性の好適化が可能な車両用サスペンションシステムが実現することになり、車両用サスペンションシステムの実用性が向上させられることになる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項と(5)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(3)項が請求項2に、(7)項が請求項3に、(8)項が請求項4に、(9)項が請求項5に、(10)項が請求項6に、(12)項が請求項7に、(20)項が請求項8に、(25)項が請求項9に、(26)項が請求項10に、(27)項が請求項11に、それぞれ相当する。
【0008】
(1)ばね上部材とばね下部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、
そのサスペンションスプリングと並列的に配設された液圧式のショックアブソーバと、
前記サスペンションスプリングと並列的に配設されてばね上部材とばね下部材とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる装置であって、(a)一端部がばね上部材とばね下部材との一方に連結される弾性体と、(b)その弾性体の他端部とばね上部材とばね下部材との他方との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結するとともに、電動モータを有して、その電動モータが発揮する力であるモータ力に依拠して自身が発揮する力であるアクチュエータ力を、前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させつつ、そのアクチュエータ力を前記弾性体を介して接近離間力としてばね上部材とばね下部材とに作用させる電磁式のアクチュエータとを有する接近離間力発生装置と、
前記電動モータの作動を制御することで、前記接近離間力発生装置が発生させる接近離間力を制御する接近離間力制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステム。
【0009】
本項に記載の態様は、請求可能発明の前提をなす態様であり、請求可能発明の車両用サスペンションシステムの基本的構成要素を列挙した態様である。本項の態様のサスペンションシステムは、概念的には、例えば、図1のように示すことができる。本項の態様のシステムでは、ばね上部材Muと、車輪Wを保持するばね下部材Mlとの間に、サスペンションスプリングSS,ショックアブソーバSAおよび弾性体TBが互いに並列的に配設され、弾性体TBと、ばね上部材Muとばね下部材Mlとの一方(図1のシステムでは、ばね上部材Mu)との間には、それらを連結するアクチュエータAが配設されている。このアクチュエータAは、上記モータ力に依拠するアクチュエータ力によって弾性体TBを変形させつつ、そのアクチュエータ力を弾性体TBを介してばね上部材Muとばね下部材Mlとを接近離間させる方向の力として作用させる構造のものである。すなわち、アクチュエータAと弾性体TBとで構成される接近離間力発生装置Dは、上記モータ力に依拠して、上記接近離間力を発生させる電動アクチュエータである。そして、電動モータの作動が、制御装置Cによって制御されることで、上記接近離間力が制御される。
【0010】
本項にいう「ばね上部材」は、例えば、サスペンションスプリングによって支持される車体の部分を広く意味し、「ばね下部材」は、例えば、サスペンションアーム等、車輪とともに上下動する車両の構成要素を広く意味する。「サスペンションスプリング」は、それの具体的な構造が特に限定されるものではなく、例えば、コイルスプリング,エアスプリング等を種々の構造のスプリングを採用することが可能である。
【0011】
本項にいう「ショックアブソーバ」は、ばね下部材とばね上部材との相対振動に対して、減衰力を発生させる機能を有するものである。それの具体的構造が特に限定されるものではなく、例えば、油圧式の一般的なものを広く採用することが可能である。「弾性体」は、変形量に応じた何らかの弾性力を発揮するものであればよく、例えば、コイルばね,トーションばね等、種々の変形形態の弾性体を採用することができる。「アクチュエータ」は、弾性体の変形形態に応じた動作を行うようなものを採用することができ、動力源となる「電動モータ」は、アクチュエータの動作に応じた形式のものを採用すればよい。つまり、回転モータであってもよく、また、リニアモータであってもよい。なお、アクチュエータは、減速機を備えるものであってもよい。
【0012】
「接近離間力発生装置」は、アクチュエータ力を弾性体に作用させるとともに、アクチュエータの動作量に応じて弾性体の変形量を変化させる構造のものとされており、接近離間力はアクチュエータ力に対応し、また、アクチュエータ力は弾性体が発揮する弾性力に対応するとともに、アクチュエータの動作量は、弾性体の変形量に対応する。したがって、接近離間力発生装置が発生する接近離間力と、アクチュエータの動作量とは、相互に対応する。したがって、「接近離間力制御装置」による制御は、アクチュエータ力、つまり、そのアクチュエータ力を発揮させるための電動モータのモータ力を直接の制御対象とする制御(以下、「アクチュエータ力対象制御」という場合がある)であってもよく、また、アクチュエータの動作量、つまり、そのアクチュエータの動作量を実現するための電動モータの動作量を直接の制御対象とする制御(以下、「動作量対象制御」という場合がある)であってもよい。なお、本明細書において、「アクチュエータの動作量」は、中立位置からの動作量を意味し、その中立位置は、例えば、車両が水平かつ平坦な路面に静止している状態、あるいは、その状態であると擬制することのできる状態におけるアクチュエータの動作位置として設定することが可能である。
【0013】
(2)前記弾性体が、ばね上部材としての車体に回転可能に保持されたシャフト部と、そのシャフト部の一端部からそのシャフト部と交差して延びるとともに先端部がばね下部材に連結されたアーム部とを有し、
前記アクチュエータが、車体に固定されるとともに、アクチュエータ力を、前記シャフト部の前記一端部とは反対の端部に回転力として作用させるものである(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0014】
本項に記載の態様は、接近離間力発生装置の構造を具体的に限定した一態様である。本項における弾性体は、シャフト部とアーム部との少なくとも一方が、弾性体としての機能を有していればよい。例えば、シャフト部がトーションばねとしての機能を有するようにしてもよく、アーム部が撓むことでそれがばねとしての機能を有するようにしてもよい。なお、弾性体は、シャフト部とアーム部とが別部材とされてそれらが結合されたものであってもよく、それらが一体化された一部材として構成されるものであってもよい。
【0015】
(3)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0016】
本項にいう「正逆効率積」は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比と考えることができ、正逆効率積が小さいほど、外部入力に対して動かされ難いアクチュエータとなる。したがって、正逆効率積が比較的小さなアクチュエータを採用すれば、例えば、車体のロールの抑制等、車体の姿勢変動を抑制する目的で、外部入力の作用下、上下方向における車体と車輪との距離(以下、「車体車輪間距離」という場合がある)をある距離に維持させるような場合において、比較的小さな電力によって、その距離を維持することが可能なる。したがって、本項の態様のシステムによれば、省電力の観点において優れたシステムが実現され、また、アクチュエータの動力源である電動モータの小型化が図れることになる。なお、そのようなメリットをより充分に享受できることに鑑みれば、正逆効率積が1/2.5以下、さらには、1/3以下のアクチュエータを採用することが望ましい。
【0017】
(4)前記アクチュエータが、前記電動モータの動作を減速する減速機を有してその減速機によって減速された動作が自身の動作となる構造とされ、その減速機の減速比が1/100以下とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0018】
本項の態様は、比較的減速比が小さくされたアクチュエータを採用する態様である。減速比の値が小さな減速機を採用する場合、一般に、上述した正逆効率積の値は小さくなると考えることができる。その観点からすれば、本項の態様は、正逆効率積の比較的小さなアクチュエータを採用する態様の一種と考えることができる。また、外部入力によってアクチュエータが動作させられる場合には、減速比が小さいほど、電動モータの動作速度が速くなるため、減速比を小さくすれば、外部入力によって電動モータが動作させられる際に発生する起電力が高くなり、例えば、その起電力に依拠した発電電力は大きくなる。したがって、その発電電力を回生可能なシステムとすれば、電力消費の観点において優れたシステムを構築可能である。なお、正逆効率積をできるだけ小さくするといった観点、上述した電力消費の観点等に鑑みれば、減速比は、1/150以下、さらには、1/200以下とすることが望ましい。
【0019】
なお、本項の態様においてアクチュエータが有する減速機は、それの採用する機構が特に限定されるものではない。例えば、ハーモニックギヤ機構(「ハーモニックドライブ(登録商標)機構」,「ストレインウェーブギヤリング機構」等と呼ばれることもある)、サイクロイド減速機構等を採用することにより、容易に、減速比の小さな減速機を構成することが可能である。
【0020】
(5)前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御を実行する(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0021】
本項の態様によれば、ショックアブソーバによるばね上部材とばね下部材との相対振動に対する減衰力に加え、接近離間力発生装置による上記減衰力を利用することが可能となとなる。したがって、減衰力を制御する場合の自由度が高く、幅広い設計思想の下で、当該システムの設計が可能となる。つまり、当該システムにおいて達成しようとする目的に応じた振動減衰特性の適正化が可能となるのである。なお、本項にいう「ばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動」には、例えば、いわゆるばね上振動、ばね下振動、ばね上ばね下相対振動等が含まれる。
【0022】
(6)前記減衰力制御が、ばね上共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性の適切化を目的とする制御である(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0023】
(7)前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた(6)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0024】
上記2つの態様は、接近離間力発生装置および液圧式ショックアブソーバのそれぞれが発揮すべき機能についての限定を加えた態様である。簡単に言えば、前者は、例えば、比較的低周波域の振動のばね下部材からばね上部材への伝達を抑制するような減衰力を接近離間力発生装置に発生させる態様であり、後者は、例えば、比較的高周波域の振動のばね下部材からばね上部材への伝達を抑制するような減衰力をショックアブソーバに発生させる態様である。
【0025】
接近離間力発生装置は、アクチュエータの作動を制御することによって減衰力の大きさを変化させる構造とされており、現実には、高周波域の振動に対処し難い傾向にあり、前述の正逆効率積が小さいアクチュエータを採用する場合に、その傾向が強くなる。したがって、上記2つの態様のうちの前者は、接近離間力発生装置の特性に適合した態様となる。低周波域の振動減衰を接近離間力発生装置に担わせた場合、ショックアブソーバの機能を、高周波域の振動減衰に特化させることができる。このような構成は、上記2つの態様を組み合わせることによって実現させることができる。低周波域の振動減衰を目的とする場合、減衰係数を比較的高目に設定することがが望ましく、逆に、高周波域の振動減衰を目的とする場合、減衰係数を比較的低目に設定することが望ましいことから、低周波域から高周波域までの広い範囲の振動減衰を、1つの減衰力発生機構によって賄うことは、現実には困難が付きまとう。そこで、上記2つの態様を組み合わせれば、ばね上共振周波数を含む低周波域の振動には接近離間力発生装置によって対処し、ばね下共振周波数を含む高周波域の振動にはショックアブソーバによって対処することができ、幅広い周波数域において振動減衰特性の良好なサスペンションシステムが容易に実現するのである。なお、ショックアブソーバに対して設定された減衰係数を小さくすれば、車輪の接地荷重変動の抑制にも効果的であり、その観点においても後者の態様は有利である。
【0026】
(8)前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である(5)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0027】
本項に記載の減衰力制御は、いわゆるスカイフック理論に基づいた制御であり、接近離間力発生装置は、アクチュエータの作動の制御により、ばね上ばね下相対速度に依存しない減衰力を発生させられることから、接近離間力発生装置によれば、容易に、スカイフック理論に基づく減衰力制御を実行することができる。ただし、スカイフック理論に基づく減衰力制御では、ばね下部材についての制振に対する配慮がなされないため、何らかの手段によって、車輪の接地荷重変動に対処することが望ましい。それに対しては、例えば、ショックアブソーバの減衰係数を適切化する等して、ショックアブソーバに車輪の接地荷重変動の抑制機能を充実させて対処することが可能である。
【0028】
(9)前記接近離間力制御装置が、発生させるべき接近離間力に応じて前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記減衰力制御を実行する(5)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0029】
先に説明したように、接近離間力発生装置の制御は、アクチュエータ力対象制御であっても、動作量対象制御であってもよい。本項の態様は、減衰力制御において接近離間力発生装置がアクチュエータ力対象制御の下で作動させられる態様の一態様である。また、本項の態様は、目標供給電力が、アクチュエータ力あるいはアクチュエータの動作量をフィードバックせずして決定されることから、減衰力制御を、フィードフォワード制御、言い換えればいわゆるオープン制御にて実行する態様である。例えば、接近離間力発生装置にの制御を、後に説明するようなフィードバック制御、具体的には、PI制御,PID制御等によって行えば、積分項(I項)成分の存在等の理由から、必ずしも充分な応答性が得られるとは限らない。その一方で、減衰力制御は、比較的速い速度で動作する制振対象物に対して適切な大きさの減衰力を作用させる必要があることから、比較的良好な応答性が要求される。本項の態様はそのことを考慮した態様であり、本項の態様によれば、減衰力制御においてオープン制御を実行することで、応答性の良好な減衰力制御が実行されることになる。
【0030】
(10)発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を目標動作量と定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータへの電源からの電力の供給を禁止して、前記減衰力制御を実行する(9)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0031】
先に説明したように、アクチュエータの動作量と接近離間力発生装置が発生する接近離間力とは対応関係にあり、本項にいう「目標動作量が増加する過程」は、接近離間力が増加させられる過程を意味し、逆に、「目標動作量が減少する過程」は、接近離間力が減少させられる過程を意味する。目標動作量が増加する過程(以下、「動作量増加過程」という場合がある)においては、弾性体の変形量を増加させる過程であるため、例えば弾性体の弾性力等、つまり、外部入力に抗してアクチュエータ力を増加させる必要があるため、電源から動力源である電動モータへの電力供給を必要とする。それに対して、目標動作量が減少する過程(以下、「動作量減少過程」という場合がある)では、例えば弾性体の復元力等、つまり、外部入力を利用してアクチュエータの動作量を減少させることができるため、必ずしも、電動モータへの電源からの電力供給を必要としない。本項に記載の態様は、このことを考慮した態様であり、動作量減少過程において電動モータへの電源からの電力供給を行わないようにしている。そのため、本項の態様によれば、電力消費を少なくして減衰力制御が実行できることになる
【0032】
(11)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータの起電力に依拠するアクチュエータ力を利用して、前記減衰力制御を実行する(10)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0033】
なお、動作量減少過程においては、外部入力によって電動モータが動作させられることから、電動モータに生じる起電力を利用することで、電源からの供給電力によらなくても、アクチュエータ力を動作量の減少に対する抵抗力として作用させることが可能である。そして、このアクチュエータ力を制御することにより、動作量減少過程においても、適切な減衰力を発生させることが可能となるのである。また、その起電力に依拠する発電電力を電源に回生させれば、さらなる電力消費の削減が可能となる。このような起電力を利用した減衰力制御は、先に説明した正逆効率積の小さいアクチュエータ,減速比の小さい減速機を有するアクチュエータを採用する接近離間力発生装置に対する場合に、特に効果的である。
【0034】
(12)当該サスペンションシステムが、前記電動モータを駆動するための駆動回路を備え、前記電動モータがその駆動回路の作動状態に依存するある作動モードの下で作動する構成とされ、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、(A)前記電動モータが有する複数の通電端子の間を相互に導通させる作動モードである全端子間導通モード、(B)前記複数の通電端子のうち1つの端子と電源の高電位側端子と低電位側端子との一方との導通を確保し、その1つの端子が前記電動モータの動作位置に応じて変更される作動モードである特定端子通電モード、(C)前記複数の通電端子をすべて開放する作動モードである全端子開放モードのうちのいずれかの作動モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(10)項または(11)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0035】
本項にいう「電動モータの作動モード」は、駆動回路の作動状態、詳しくは、電動モータの通電形態をどのような状態とするかに依存するものであり、具体的に言えば、電動モータの複数の通電端子相互間の導通・非導通、それら複数の通電端子と電源が有する高電位側端子,低電位側端子との導通・非導通に関する形態がどのようなものかに依存する。電動モータの駆動回路として、例えば、インバータを採用する場合には、電動モータの各相の通電端子と、電源の高電位側端子あるいは低電位側端子との接続を切り換えるスイッチング素子を利用して、電動モータに対する通電形態が決められる。詳しく言えば、電源から電力を電動モータに供給する場合には、例えば、1つの通電端子と別の通電端子とを、それぞれ、電源の高電位側端子と低電位側端子とに導通させ、その導通させられる通電端子を、電動モータの動作位置に応じて順次変更するような通電形態とされる。そして、例えば、高電位側端子と低電位側端子との一方とそれと導通させられる通電端子と間に介在しているスイッチング素子に対して、PWM(Pulse Width Modulation)制御を実行し、その制御におけるデューティ比を変更することによって、供給電力量を変更することが可能である(以下、このような通電形態を実現させる作動モードを、「制御通電モード」という場合がある)。本項において列挙した3つの作動モードは、いずれも、電力を電源から電動モータに供給しない作動モードであり、電動モータが外部入力によって動作させられた場合に、いずれの作動モードとされるかによって、電動モータの特性、詳しく言えば、電動モータのモータ力に関する特性は異なるものとなる。
【0036】
「全端子間導通モード」は、複数の通電端子の各々が相互に導通させられており、電動モータが外部入力によって動作させられた場合に、電動モータは、比較的大きな起電力を発生させる。通電端子が互いに短絡させられている場合には、最も大きな起電力が生じ、この作動モードの下では、アクチュエータは、アクチュエータ力を比較的大きな抵抗力として発揮させる。「全端子開放モード」は、概して言えば、電動モータの各相をオープンな状態とするような作動モードと考えることができる。本作動モードにおいては、上記起電力は殆ど生じず(駆動回路の構造によっては、起電力を発生させることもできる)、モータ力は殆ど発揮されないか、あるいは、発揮されたとしても比較的小さい。したがって、本モードを採用すれば、アクチュエータは、外部入力による動作に対して、比較的小さな抵抗力しか発揮しない状態となる。「特定端子通電モード」は、先のインバータを例にとって説明すれば、前述の制御通電モードにおいてPWM制御のデューティ比を0とした通電形態を実現させる作動モードである。この作動モードでは、外部入力によって動作させられる際、ある程度の起電力が生じ、その際のモータ力は、全端子間導通モードと全端子開放モードとの中間的な大きさとなる。したがって、本作動モードの下では、中間的なアクチュエータ力が発揮される。
【0037】
本項の態様では、動作量減少過程において、上記3つのいずれかの作動モードの下で、電動モータが作動させられるため、採用される作動モードに応じた電動モータの特性が得られ、その作動モードに応じたアクチュエータ力が、アクチュエータの動作に対する抵抗力として発揮されることになる。なお、本項の態様に従うサスペンションシステムは、必ずしも3つの作動モードが設定されていることを要しない。3つの作動モードのうちの1つのみが設定された構成であってもよく、また、2以上が設定され、何らかの条件に基づいてそれら2以上の作動モードのうちの1つが選択されるような構成であってもよい。
【0038】
(13)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、目標動作量が比較的大きい場合には前記全端子間導通モードの下で、目標動作量が比較的小さい場合には前記全端子開放モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(12)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0039】
先に説明したように、接近離間力発生装置は、アクチュエータの動作量に応じて弾性体の変形量が変化するようにされていることから、アクチュエータの目標動作量が比較的大きい場合には、上記弾性力は大きくなり、アクチュエータの目標動作量が比較的小さい場合には、上記弾性力は小さくなる。本項の態様は、このことに考慮し、アクチュエータが、例えば弾性体の復元力等の外部入力によって動作させられる場合において、アクチュエータの目標動作量が比較的大きいときには、比較的大きな抵抗を発生させ、アクチュエータの目標動作量が比較的小さい場合には、比較的小さな抵抗を発生させるようにされている。したがって、本項の態様によれば、動作量減少過程において電動モータへの電源からの電力供給を禁止した場合であっても、アクチュエータの動作の適切化を図ることが可能となり得る。
【0040】
(14)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、目標動作量が比較的大きい場合と比較的小さい場合との中間的な場合に、前記特定端子通電モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する(13)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0041】
上述のように、作動モードに特定端子通電モードが採用された場合、外部入力によってアクチュエータが動作させられる際の抵抗は、全端子間導通モードにおける場合の抵抗と全端子開放モードにおける場合の抵抗との中間的な大きさになる。したがって、本項の態様によれば、目標動作量が中間的な場合において中間的な抵抗が発生させられるため、電力の供給を行わない状態での動作量減少過程において、アクチュエータの動作のより一層の適切化を図ることができる。
【0042】
(15)前記接近離間力制御装置が、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御を実行する(1)項ないし(14)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0043】
(16)前記距離調整制御が、車体のロールとピッチとの少なくとも一方を抑制するための制御である(15)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0044】
上記2つの態様は、接近離間力発生装置の機能についての限定を加えた態様である。ばね下ばね上間距離、すなわち、車体車輪間距離を調整可能とすれば、例えば、上記2つの項のうちの後者のように、車体のロールを抑制するロール抑制制御,車体のピッチを抑制するピッチ抑制制御等の車体の姿勢制御や、車高を調整する車高調整制御等を実行可能である。
【0045】
(17)前記接近離間力制御装置が、実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量である目標動作量に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記距離調整制御を実行する(15)項または(16)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0046】
本項に記載の態様は、上述の距離調整制御を、アクチュエータの動作量に基づくフィードバック制御にて実行する態様である。距離調整制御においては、接近離間力発生装置は、ロールモーメント,ピッチモーメント,車体重量の分担分等の外部入力の作用下で、ばね上ばね下間距離をある距離に維持させることが要求されるため、アクチュエータは、実動作量が目標動作量となっている場合でも、その目標動作量を維持するために、何某かのアクチュエータ力を発揮させつづける必要がある。このようなアクチュエータの制御は、フィードフォワード制御によっては実現させることが困難である。本項の態様は、そのことを考慮したものであり、いわゆるPI制御若しくはPID制御によって、距離調整制御を実行するようにされている。上記偏差の積分値に応じた供給電力成分、つまり、積分項成分(I項成分)は、アクチュエータの動作量を目標動作量に維持するためのアクチュエータ力に応じた供給電力成分として機能させることができるため、本項の態様によれば、適正な距離調整制御を容易に行なわせることができる。
【0047】
(18)前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記距離調整制御を実行する(17)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0048】
距離調整制御においても、先に説明した正効率,逆効率の関係から、動作量増加過程における電動モータへの供給電力量は、動作量減少過程に比較して大きくする必要があり、逆にいえば、動作量減少過程においては、必要とされる供給電力量が少なくて済み、また、目標動作量の減少へのアクチュエータ動作の円滑な追従に鑑みれば、供給電力量を低減させることが望ましい。本項の態様は、そのことを考慮したものであり、本項の態様によれば、距離調整制御に対しての電力消費を抑制することが可能となり、また、動作量減少過程におけるアクチュエータ動作の良好な追従性を確保することが可能となる。なお、本項において明確にはしていないが、目標動作量が変化していない過程(以下、「動作量維持過程」という場合がある)、具体的には、例えば、アクチュエータの実動作量が略目標動作量となっておりその目標動作量が変動していない状態においても、供給電力量を低減させることが可能であり、その場合には、電力消費のより一層の抑制が可能となる。
【0049】
(19)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた(18)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0050】
前述した正逆効率積に基づく外部入力とアクチュエータ力との関係に従えば、同じ外部入力に対しての動作量減少過程におけるアクチュエータ力と動作量増加過程におけるアクチュエータ力との適正比は、正逆効率積に従うものとなる。本項の態様は、そのことに考慮したものであり、本項の態様によれば,適正に供給電力が削減され、適正にアクチュエータが動作させられることになる。
【0051】
(20)前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御と、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御とを同時に実行する(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0052】
(21)前記減衰力制御が、ばね上共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性の適切化を目的とする制御である(20)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0053】
(22)前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた(21)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0054】
(23)前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である(20)項ないし(22)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0055】
(24)前記距離調整制御が、車体のロールとピッチとの少なくとも一方を抑制するための制御である(20)項ないし(23)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0056】
上記5つの項の態様は、接近離間力発生装置による減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行する態様である。それらの制御を同時に実行できることで、本項の態様のサスペンションシステムは、実用性の極めて高いシステムとなる。なお、上記各項の態様に関する説明は、先に説明した説明と重複するためここでは省略する。
【0057】
(25)前記電動モータへの目標供給電力を構成する成分であって、前記減衰力制御についての成分を減衰力対応成分と、前記距離調整制御に関する成分を距離調整対応成分と、それぞれ定義し、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を減衰力対応目標動作量と、前記距離調整制御において実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量を距離調整対応目標動作量と、それら減衰力対応目標動作量と距離調整対応目標動作量との和を目標動作量計と、それぞれ定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に応じて前記減衰力対応成分を決定し、前記目標動作量計に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記距離調整対応成分を決定し、それら減衰力対応成分と距離調整対応成分との和である前記目標供給電力に基づいて前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する(20)項ないし(24)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0058】
本項の態様は、減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行する場合における、アクチュエータの制御に関する具体的な限定を加えた態様である。先に説明したように、減衰力制御におけるアクチュエータの制御は、オープンな制御によって実行することが望ましく、距離調整制御におけるアクチュエータの制御は、積分項成分に依拠するフィードバック制御によって実行することが望ましい。本項の態様によれば、それらの要望を充足しつつ、減衰力制御と距離調整制御とを、適正に一元化させることが可能となる。
【0059】
(26)前記接近離間力制御装置が、目標動作量計が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量計が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する(25)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0060】
(27)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた(26)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0061】
上記2つの項の態様は、減衰力制御と距離調整制御とが同時に実行される場合において、目標動作量計が減少する過程(上述した「動作量減少過程」の一種であり、これについても、以下、「動作量減少過程」という場合がある)における供給電力の低減に関する態様である。減衰力制御と距離調整制御とが同時に実行される場合には、距離調整制御における目標動作量の維持のためのアクチュエータ力を必要とするため、距離調整制御のみが行われる場合と同様の考え方の下、動作量減少過程において、供給電力量を低減させている。なお、上記2つの項の態様に関する説明は、先の説明と重複するため、ここでは省略する。
【実施例】
【0062】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0063】
≪車両用サスペンションシステムの構成≫
図2に、本実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本システム10は、車輪16の各々に対応して設けられた4つの車体車輪間距離調整装置(以下、「調整装置」という場合がある)20を含んで構成されている。調整装置20はそれぞれ、
概してL字形状をなすL字形バー22と、そのバー22を回転させるアクチュエータ26とを備えている。本システム10を搭載する車両には、各車輪16に対応した4つのサスペンション装置30(図2,3参照)が設けられている。L字形バー22の一端部はサスペンション装置30にリンクロッド32を介して連結され、他端部はアクチュエータ26に接続されている。
【0064】
サスペンション装置30については、転舵輪である前輪に対応するものと非転舵輪である後輪に対応するものとが車輪16を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪に対応したサスペンション装置30を代表して説明する。図3,4に示すように、サスペンション装置30は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置30は、サスペンションアームとしての第1アッパアーム40,第2アッパアーム42,第1ロアアーム44,第2ロアアーム46,トーコントロールアーム48を備えている。5本のアーム40,42,44,46,48のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪16を回転可能に保持するアクスルキャリア50に回動可能に連結されている。それら5本のアーム40,42,44,46,48により、アクスルキャリア50は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が可能とされている。
【0065】
サスペンション装置30は、本システム10を構成するサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング51とショックアブソーバ52とを備えており、それらは、それぞれ、ばね上部材としての車体の一部であるタイヤハウジングに設けられたマウント部54とばね下部材としての第2ロアアーム46との間に並列的に配設されている。ショックアブソーバ52は、油圧式のものであり、ばね上部材とばね下部材との相対振動を減衰する構造とされている。ショックアブソーバ52が発生する減衰力は、上記相対速度に応じて一義的に決まるようにされている。つまり、ショックアブソーバ52の減衰係数は、固定的なものとされており、具体的には、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動の第2ロアアーム46から車体への伝達を抑制すること、および、車輪16の接地荷重変動を抑制することを主目的とする大きさに設定されている。なお、油圧式のショックアブソーバ52の構造は公知のものであることから、詳細な説明は省略する。
【0066】
調整装置20の備えるL字形バー22は、略車幅方向に延びるシャフト部60と、シャフト部60と連続するとともにそれと交差して概ね車両後方に延びるアーム部62とに区分することができる。L字形バー22のシャフト部60は、アーム部62に近い箇所において、車体に固定された保持具64によって車体の一部に回転可能に保持されている。アクチュエータ26は、それの一端部に設けられた取付部材65によって車体下部の車幅方向における中央付近に固定されており、シャフト部60の端部(車幅方向における中央側の端部)がそのアクチュエータ26に接続されている。一方、アーム部62の端部(シャフト部60側とは反対側の端部)は、リンクロッド32を介して、第2ロアアーム46に連結されている。詳しくいえば、第2ロアアーム46には、リンクロッド連結部66が設けられ、リンクロッド32の一端部は、そのリンクロッド連結部66に、他端部はL字形バー22のアーム部62の端部に、それぞれ遥動可能に連結されている。
【0067】
調整装置20の備えるアクチュエータ26は、図5に示すように、駆動源としての電動モータ70と、その電動モータ70の回転を減速して伝達する減速機72とを含んで構成されている。これら電動モータ70と減速機72とは、アクチュエータ26の外殻部材であるハウジング74内に設けられており、そのハウジング74は、それの一端部に固定された上述の取付部材65によって、車体に固定的に取り付けられている。L字形バー22は、それのシャフト部60がハウジング74の他端部から延び入るように、配設されている。L字形バー22のシャフト部60は、それのハウジング74内に存在する部分において、後に詳しく説明するように、減速機72と接続され、シャフト部60の軸方向の中間部において、ブシュ型軸受76を介してハウジング74に回転可能に保持されている。
【0068】
電動モータ70は、ハウジング74の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のコイル78と、ハウジング74に回転可能に保持された中空状のモータ軸80と、コイル78と向きあうようにしてモータ軸80の外周に固定して配設された永久磁石82とを含んで構成されている。電動モータ70は、コイル78がステータとして機能し、永久磁石82がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。なお、ハウジング74内に、モータ軸80の回転角度、すなわち、電動モータ70の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ84が設けられている。モータ回転角センサ84は、エンコーダを主体とするものであり、アクチュエータ26の制御、つまり、調整装置20の制御に利用される。
【0069】
減速機72は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)86,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)88およびリングギヤ(サーキュラスプライン)90を備え、ハーモニックギヤ機構として構成されている。波動発生器86は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸80の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ88は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯(本減速機72では、400歯)が形成されている。このフレキシブルギヤ88は、先に説明したL字形バー22のシャフト部60に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、L字形バー22のシャフト部60は、モータ軸80を貫通しており、それから延び出す部分の外周面において、フレキシブルギヤ88の底部を貫通する状態でその底部とスプライン嵌合によって相対回転不能に接続されているのである。リングギヤ90は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機72においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング74に固定されている。フレキシブルギヤ88は、その周壁部が波動発生器86に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ90と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。上述のような構造により、波動発生器86が1回転(360度)すると、つまり、電動モータ70のモータ軸80が1回転すると、フレキシブルギヤ88とリングギヤ90とが、2歯分だけ相対回転させられる。つまり、減速機72の減速比は、1/200とされている。
【0070】
以上の構成から、電動モータ70が駆動させられると、そのモータ70の発揮するモータ力によって、L字形バー22が回転させられて、そのL字形バー22のシャフト部60が捩じられることになる。この捩りにより生じる捩り反力が、アーム部62,リンクロッド32,リンクロッド連結部66を介し、第2ロアアーム46に伝達され、第2ロアアーム46の先端部を車体に対して押し下げたり、引き上げたりする力、言い換えれば、車体と車輪16とを上下に接近離間させる方向の力である接近離間力として作用する。つまり、アクチュエータ26の発揮する力であるアクチュエータ力が、弾性体として機能するL字形バー22を介して、接近離間力として作用することになる。このことから、調整装置20は、接近離間力を発生する接近離間力発生装置としての機能を有していると考えることができ、その接近離間力を調整することで、上下方向における車体と車輪との距離車体車輪間距離、言い換えれば、ばね上ばね下間距離を調整することが可能となっている。
【0071】
本システム10は、図2に示すように、各調整装置20,詳しく言えば、各アクチュエータ26の作動を制御する制御装置である調整装置電子制御ユニット(調整装置ECU)100を備えている。調整装置ECU100は、各アクチュエータ26の作動を制御し、各アクチュエータ26が有する電動モータ70に対応する駆動回路としての4つのインバータ102と、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とするコントローラ104とを備えている。(図13参照)。各インバータ102は、コンバータ106を介してバッテリ108に接続されており、各インバータ102は各調整装置20の電動モータ70に接続されている。コンバータ106は、双方向に通電可能なコンバータとされ、電圧を昇圧させて電力をバッテリ108から電動モータ70に供給することが可能であり、また、電圧を降圧させて電力を電動モータ70からバッテリ108に回生することが可能な構造とされている。なお、電動モータ70は定電圧駆動されることから、電動モータ70への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更され、電動モータ70は、その供給電流量に応じた力を発揮することとなる。ちなみに、供給電流量は、各インバータ102がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
【0072】
コントローラ104には、上記モータ回転角センサ84とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するためのステアリングセンサ110,車体に発生する横加速度を検出する横加速度センサ112,車体に発生する前後加速度を検出する前後加速度センサ114,車体のマウント部54に設けられ車体に発生する縦加速度を検出する縦加速度センサ116が接続されている。コントローラ104には、さらに、ブレーキシステムの制御装置であるブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」と記載する場合がある)118が接続されている。ブレーキECU118には、4つの車輪16のそれぞれに対して設けられてそれぞれの回転速度を検出するための車輪速センサ120が接続され、ブレーキECU118は、それら車輪速センサ120の検出値に基づいて、車両の走行速度(以下、「車速」という場合がある)を推定する機能を有している。コントローラ104は、必要に応じてブレーキECU118から車速を取得するようにされている。さらに、コントローラ104は、インバータ102にも接続され、それを制御することで、調整装置20を制御するものとされている。なお、コントローラ104のコンピュータが備えるROMには、後に説明する調整装置20の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。
【0073】
≪電動モータの作動モード≫
図6に示すように、電動モータ70は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子122u,122v,122w(以下、総称して「通電端子122」という場合がある)を有している。インバータ102は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)について、high(正)側,low(負)側の2つのスイッチング素子を備えている(以下、6つのスイッチング素子の各々を、「UHC」,「ULC」,「VHC」,「VLC」,「WHC」,「WLC」と呼ぶこととする)。スイッチング素子切換回路は、電動モータ70に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ102は、バッテリ108とコンバータ106とで構成される電源の高電位側の端子124hと低電位側の端子124lとに接続されている。
【0074】
本サスペンションシステム10では、電動モータ70は、4つの作動モードで作動可能とされており、その4つの作動モードの中から設定された条件等に基づいて選択された1つの作動モードで作動させられる。作動モードは、インバータ102の作動状態、言い換えれば、各スイッチング素子の切換形態によって定まるものとされている。詳しく言えば、作動モードの切り換えは、このインバータ102のスイッチング素子のON/OFFの切換えの形態を変更することによって行われる。
【0075】
作動モードは、大きくは、2つのモードに分けることができる。その1つは、制御通電モードであり、デューティ比に従ったON/OFF制御、つまり、デューティ制御が行われるようになっており、バッテリ108から電動モータへの電力供給が実行される作動モードである。もう1つは、バッテリ108から電動モータ70への電力の供給を行わない作動モードである。本実施例においては、スタンバイモード,ブレーキモード,フリーモードの3つが採用可能とされている。以下に、各作動モードについて説明する。
【0076】
(A)制御通電モード
図7を参照しつつ説明すれば、制御通電モードでは、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ70の回転角に応じて切り換えられる。さらに、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのみが、デューティ制御を実行するようになっており、そのデューティ比を変更することによって、電動モータ70への供給電流量が変更されるようになっている。図7における「1*」は、そのことを示している。ちなみに、各スイッチング素子の切換形態は、モータ力の発生方向に応じて異なっており、その方向を、便宜的に、右方向(CW方向)と左方向(CCW方向)と呼ぶこととする。
【0077】
上述のように、制御通電モードは、電動モータ70のモータ力発生方向および電動モータ70への供給電力量が制御可能なモードであり、この制御通電モードにおいては、任意の方向に、電動モータ70は供給電流量に応じた大きさのモータ力を発生させることが可能となる。したがって、調整装置20が発生する接近離間力の方向および大きさを制御することが可能である。
【0078】
(B)スタンバイモード
スタンバイモードでは、モータ力発生方向の指令に応じた各スイッチング素子の切り換えが実行されるものの、実際には電源から電動モータ70への電力供給が行われない。図7に示すように、上記制御通電モードと同様、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電動モータ70の回転位相に応じて切り換えられる。ただし、制御通電モードと異なり、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ制御が行われれない(デューティ比が0となるようにデューティ制御が行われるともいえる)。つまり、パルスオン時間が存在せず、low側に存在する各スイッチング素子ULC,VLC,WLCは、実際にはOFF状態(開状態)とされていることから、実際には、電動モータ70には、電力が供給されない状態とされるのである。図7における「0*」は、そのことを示している。具体的に言えば、例えば、各スイッチング素子UHC,VHC,WHC,ULC,VLC,WLCのうちの1つのスイッチング素子VHCのみがON状態(閉状態)とされると、3つの通電端子122のうちの1つと電源の高電位側の端子124hとの導通が確保される。このようなスイッチング素子の切り換えが行われることから、本作動モードは、特定端子通電モードの一種と考えることができる。
【0079】
スタンバイモードにおいては、電動モータ70に電力が供給されないため、電動モータ70の作動を制御することができない。ところが、上記のようにスイッチング素子の切換えが行われていることから、電動モータ70の回転方向とモータ力発生方向との調節により、電動モータ70が外部入力によって回転させられる場合に、ある程度の起電力を発生させることが可能である。この場合には、電動モータ70の回転に対してある程度の制動効果が得られ、アクチュエータ26の動作に対する抵抗が発生することになる。なお、本作動モードによる制動効果は、後に説明するブレーキモードとフリーモードとの中間的な制動効果となる。
【0080】
(C)ブレーキモード
ブレーキモードでは、電動モータ70の各通電端子が相互に導通させられており、本作動モードは、全端子間導通モードの一種と考えられる。つまり、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方に配置されたすべてのものを閉状態に維持し、high側,low側の他方に配置されたすべてのものを開状態に維持する。具体的に言えば、本実施例では、図7に示すように、high側のスイッチング素子UHC,VHC,WHCのいずれもが、ON状態(閉状態)とされ、low側のスイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれもが、OFF状態(開状態)とされる。それらON状態とされたスイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電動モータ70の各相は、あたかも相互に短絡させられた状態となる。このような状態では、電動モータ70に対して、いわゆる短絡制動の効果が得られることになる。したがって、アクチュエータ30は、外部入力によって速度の大きな動作を強いられる場合に、比較的大きな抵抗を発揮する。
【0081】
(D)フリーモード
フリーモードでは、電動モータ70の各通電端子122があたかも開放されたようにされる。つまり、本作動モードは、全端子開放モードの一種と考えれれる。具体的に言えば、図7に示すように、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。そのことによって、本作動モードでは、電動モータに起電力が殆ど発生せず、電動モータ70による制動効果が殆ど得られないか、あるいは、得られても比較的小さい効果しか得られない。したがって、本作動モードを採用すれば、外部入力がアクチュエータ26に作用する場合に、アクチュエータ26は、あまり抵抗を受けることなく作動することになる。
【0082】
≪アクチュエータの正効率,逆効率および正逆効率積≫
ここで、アクチュエータ26の効率(以下、「アクチュエータ効率」という場合がある)について考察する。アクチュエータ効率には、正効率,逆効率との2種が存在する。アクチュエータ逆効率(以下、単に「逆効率」という場合がある)ηNは、外部入力によっても電動モータ70が回転させられない最小のモータ力のその外部入力に対する比率と定義されるものであり、また、アクチュエータ正効率(以下、単に「正効率」という場合がある)ηPは、上記外部入力に抗してL字形バー22のシャフト部60を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義されるものである。つまり、アクチュエータ力(アクチュエータトルクと考えてもよい)をFaと、電動モータ70が発生する力であるモータ力(モータトルクと考えてもよい)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現でき、
正効率ηP=Fa/Fm
逆効率ηN=Fm/Fa
それら正効率ηP,逆効率ηNは、それぞれ、図8に示されている正効率特性線の傾き、逆効率特性線の傾きの逆数に相当するものとなる。ちなみに、モータ力Fmは、電動モータ70への供給電流量iに比例すると考えることができる。
【0083】
図8から解るように、同じ大きさのアクチュエータFaを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電動モータ70のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとでは、その値が異なっている(FmP>FmN)。この関係を上記の正効率ηP,逆効率ηNの式に当てはめると、下記のようになり、
Fa=ηP・FmP
Fa=(1/ηP)・FmN
正効率特性下におけるモータ力FmPと逆効率特性下におけるモータ力FmNとの関係は、下記のようになる。
FmN=ηP・ηN・FmP
逆効率特性下におけるモータ力FmNは、正効率特性下におけるモータ力FmPに正効率ηPと逆効率ηNとの積である正逆効率積ηP・ηNを掛けることで算出される。モータ力Fmは、電動モータ70への供給電流量iに比例すると考えることができることから、モータ力FmNに対応する電動モータ70への供給電流量をiNとし、モータ力FmPに対応する電動モータ70への供給電流量をiPとすれば、供給電流量iNと供給電流量iPとの関係は、下記のようになり、
iN=ηP・ηN・iP
アクチュエータ26を動作させるのに必要な供給電流量iPに正逆効率積ηP・ηNを掛けることで、アクチュエータ26が動作させられないために必要な供給電流量iNが算出される。ちなみに、本アクチュエータ26では、調整装置20のアクチュエータ26の正逆効率積ηP・ηNは1/3とされている。
【0084】
≪車両用サスペンションシステムの制御≫
(A)距離調整制御の概要
本システム10では、4つの調整装置20の各々が、それぞれの発生する接近離間力によって、各輪に対応する車体車輪間距離を調整することが可能とされており、車体車輪間距離を調整する制御(以下、「距離調整制御」という場合がある)が実行される。具体的に言えば、本システム10では、車両の旋回時において、旋回内輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させるような接近離間力を、旋回外輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させるような接近離間力を、それぞれ、車両の旋回に起因するロールモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の旋回に起因する車体のロールが抑制されるのである。また、車両の加速時において、前輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させ、後輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させるように接近離間力を、それぞれ、車両の加速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の加速に起因する車体のスクワットが抑制される。さらに、車両の減速時において、前輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を増加させ、後輪側の調整装置20によって車体車輪間距離を減少させるように接近離間力を、それぞれ、車両の減速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の減速に起因する車体のノーズダイブが抑制されるのである。つまり、本システム10では、距離調整制御によって、車体のロールとピッチとを抑制することが可能となっている。
【0085】
(B)減衰力制御の概要
また、本システム10では、4つの調整装置20の各々が発生する接近離間力を、車体における各輪のばね上部材に相当する部分の振動を減衰するための力として、すなわち、減衰力として発生させる制御(以下、「減衰力制御」という場合がある)が実行される。本システム10においては、接近離間力を、車体の上下方向への移動速度、つまり、いわゆるばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させ、いわゆるスカイフック理論に基づいた減衰力制御が実行される。
【0086】
なお、本システム10においては、上述のように、正逆効率積ηP・ηNが比較的小さいアクチュエータ26を採用していること等の理由から、調整装置20は、比較的高周波域の振動に対処することが困難となっている。そこで、本システム10が備えるショックアブソーバ52は、高周波域の振動減衰に好適なショックアブソーバとされており、このショックアブソーバ52の作用によって、比較的高周波数域の振動の車体への伝達が抑制されることになる。つまり、本システム10では、アクチュエータ26の作動が充分に追従可能な比較的低周波数域、つまり、ばね上共振周波数を含む低周波域の振動には調整装置20によって対処し、ばね下共振周波数を含む高周波域の振動にはショックアブソーバ52によって対処することができ、幅広い周波数域における振動減衰特性を備えたシステムが実現されている。また、調整装置20による減衰力制御は、スカイフック理論に基づく制御であるため、ばね下振動に対処するもとのはされていない。そこで、ショックアブソーバ52は、ばね下制振、つまり、車輪16の接地荷重変動を抑制するために好適なショックアブソーバとされている。したがって、そのような機能を担保するために、ショックアブソーバ52の減衰係数は低目に設定されている。具体的に言えば、1000〜2000N・sec/m(車輪の動作に対してその車輪に直接作用させたと仮定した値)とされており、調整装置20を有していないサスペンションシステムにおけるショックアブソーバ、つまり、コンベンショナルなショックアブソーバに設定されている値である3000〜5000N・sec/mの半分以下に設定されている。
【0087】
(C)距離調整制御、減衰力制御それぞれの制御手法の概略
距離調整制御は、制御対象が車体車輪間距離であり、アクチュエータ26の動作量を直接の制御目標とする上述の動作量対象制御によって実行される。動作量対象制御は、実際のアクチュエータ26の動作量である実動作量が目標の動作量となるように制御されており、実動作量をフィードバックして、目標動作量と実動作量との偏差に基づき制御されるフィードバック制御の手法に従って実行される。
【0088】
距離調整制御では、車両が旋回中,加減速中等の場合、アクチュエータ26に外部入力が作用した状態でアクチュエータ26の動作量を目標動作量に維持する必要があることから、アクチュエータ26に、その外部入力によっても自身が動作させられないためのアクチュエータ力を発揮させる必要がある。つまり、調整装置20は、外部入力に対抗する接近離間力を発生させる必要があり、上記アクチュエータ力が発揮されない場合には、外部入力によって動作量が目標動作量からはずれてしまうのである。この目標動作量を維持するためのアクチュエータ力を発揮すべく、電動モータ70への供給電力の決定にあたって、フィードバック制御の手法が利用される。具体的には、PI制御則に従い、積分項(I項)によって定まる供給電力成分、つまり、上記偏差の積分値に応じた供給電力成分が、上記目標動作量を維持するためのアクチュエータ力を発揮させる供給電力となるように、電動モータ70への供給電力が決定される。このようにして、フィードバック制御手法に従う距離調整制御が行われるのである。
【0089】
なお本システム10の制御においては、アクチュエータ26の動作量は、所定の中立位置を基準とする動作量として扱われる。この中立位置は、例えば、車体に、ロールモーメント,ピッチモーメント等が実質作用しておらず、かつ、車体,車輪16に振動が生じていないとみなせる状態である基準状態において、アクチュエータ力を発揮していないときのアクチュエータ26の動作位置として設定される。また、本システム10の制御においては、アクチュエータ26の動作量と電動モータ70の回転角とは対応関係にあるため、実際には、アクチュエータ26の動作量に代えて、モータ回転角センサによって取得されるモータ回転角を対象とした制御が行われる。
【0090】
一方、減衰力制御においては、接近離間力をばね上振動に対する減衰力として作用させるため、相当に短い周期で変動する接近離間力が必要とされる。したがって、減衰力制御では、ばね上部材の絶対速度の変化に対する応答性の高い制御が要求されるのである。減衰力制御を上記フィードバック制御におけるPI制御に従って実行した場合、上記積分項によって定まる供給電力成分の存在等によって、応答性の高い制御が実行し得ない可能性がある。そこで、本システム10においては、高い応答性を担保すべく、減衰力制御は、減衰力としての接近離間力を発揮するためのアクチユ−タ力、詳しく言えば、そのアクチュエータ力に相当するモータ力を直接の制御対象とし、あらかじめ決められたモータ力と電動モータ70への供給電力との関係に基づき、ばね上部材の絶対速度に応じた供給電力を供給するようにして行われる。つまり、フィードバック制御の手法によらず、オープン制御の手法に従って実行される。
【0091】
(D)距離調整制御の詳細
i)距離調整制御における目標モータ回転角の決定
距離調整制御では、当該制御におけるモータ回転角の目標である目標モータ回転角として、距離調整対応目標モータ回転角成分(以下、「距離調整対応回転角成分」)θ*Kが決定される。距離調整対応回転角成分θ*Kは、車体のロールを抑制するための目標モータ回転角成分としてロール抑制目標モータ回転角成分(以下、「ロール抑制回転角成分」と略す場合がある)θ*Rと、車体のピッチを抑制するための目標モータ回転角成分としてピッチ抑制目標モータ回転角成分(以下、「ピッチ抑制回転角成分」と略す場合がある)θ*Pとによって構成されており、それらロール抑制回転角成分θ*R,ピッチ抑制回転角成分θ*Pが個々に決定され、決定されたそれらの成分が合計されることで決定される。
【0092】
ロール抑制回転角成分θ*Rは、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KA・Gyc+KB・Gyr (KA,KBはゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定される。調整装置ECU100のコントローラ104内には、制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制回転角成分θ*Rのマップデータが格納されており、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定にあたっては、そのマップデータが参照される。
【0093】
ピッチ抑制回転角成分θ*Pは、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、実測された実前後加速度Gzgに基づいて、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが、次式に従って決定される。
θ*P=KC・Gzg (KCはゲイン)
【0094】
距離調整対応回転角成分θ*Kは、上記決定されたロール抑制回転角成分θ*R,ピッチ抑制回転角成分θ*Pに基づき、次式に従って決定される。
θ*K=θ*R+θ*P
【0095】
ii)距離調整制御における目標供給電流の決定
距離調整制御では、当該制御における供給電流の目標である目標供給電流として、距離調整対応目標供給電流成分(以下、「距離調整対応成分」という場合がある)i*Kが決定される。この距離調整対応成分i*Kは、上述のように、フィードバック制御におけるPI制御に従って決定される。具体的には、まず、電動モータ70が備えるモータ回転角センサ84の検出値に基づいて実モータ回転角θが取得され、その実モータ回転角θの距離調整対応回転角成分θ*Kに対する偏差である距離調整対応モータ回転角偏差ΔθK(=θ*K−θ)が算出され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、距離調整対応成分i*Kが決定される。
i*K=K1・ΔθK+K2・Int(ΔθK)
この式が、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項であり、K1,K2は、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインである。また、Int(ΔθK)は、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKの積分値に相当している。
【0096】
なお、本システム10においては、PI制御則に従い距離調整対応成分i*Kが決定されたが、PID制御則に従い距離調整対応成分i*Kを決定することも可能である。この場合、PI制御則に従う式に、微分項(D項)すなわち、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKの微分値をパラメータとする項を加えた次式が、PID制御則に従う式となる。
i*K=K1・ΔθK+K2・Int(ΔθK)+K3・ΔθK’ (K3は微分ゲイン)
【0097】
iii)距離調整制御における供給電流の低減
車速が殆ど変化しない状態での車両の典型的な一旋回動作において、車両が受けるロールモーメントは、概して、図9(a)に示すように変化する。この図から解るように、ロールモーメントは、旋回初期P1においては増加し、旋回中期P2においては概ね一定に維持され、旋回終期P3においては減少するように変化する。このような旋回動作において、上記距離調整制御によって、車体のロールを抑制するには、図9(b)に示すようなロール抑制回転角成分θ*Rが要求され、距離調整対応成分i*Kが、図9(c)に示すように決定される。
【0098】
図9から解るように、旋回初期P1においては、ロール抑制回転角成分θ*R、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量は増加する過程にあり、外部入力であるロールモーメントに抗してアクチュエータ26の動作量を増加させる必要がある。そのため、上述のように決定される距離調整対応成分i*Kは、外部入力に抗してアクチュエータ26を動作させるのに必要なモータ力を発揮することができる供給電流となるように決定される。その一方で、旋回中期P2においては、ロールモーメントは概ね一定であり、旋回後期P3においては、ロールモーメントは減少する。このことから、アクチュエータ26が外部入力によって動作させられない程度のモータ力しか必要とされない。したがって、旋回中期P2および旋回終期P3には、上記距離調整対応成分i*Kより小さい電流、つまり、所定の低減供給電流itしか供給しなくてよいのである。先に説明したように、外部入力に抗してアクチュエータ26を動作させる場合のモータ力は、アクチュエータ26の正効率ηPに従い、また、外部入力によってアクチュエータ26が動作させられないモータ力は逆効率ηNに従うため、本距離調整制御では、上記低減供給電流itは、前述の正逆効率積ηP・ηNに基づき、次式に従って決定される。
it=ηP・ηN・i*K
すなわち、本距離調整制御では、図9(d)に示すように、旋回初期P1、言い換えれば、アクチュエータ26の動作量の増加過程においては、電動モータ70に上記距離調整対応成分i*Kが供給され、旋回中期P2および旋回終期P3、言い換えれば、アクチュエータ26の動作量の維持過程および減少過程においては、電動モータ70に上記低減供給電流itが供給される。
【0099】
ここまでの説明は、車体のロールを抑制する場合に関するものであるが、車体のピッチを抑制する場合に関しても、同様に説明することができる。したがって、車体のピッチを抑制する場合も、同様に、動作量の増加過程においては、上記距離調整対応成分i*Kが電動モータ70に供給され、アクチュエータ26の動作量の維持過程および減少過程においては、上記低減供給電流itが電動モータ70に供給されればよい。本距離調整制御では、上述したように、ロール抑制回転角成分θ*Rとピッチ抑制回転角成分θ*Pとを合計して距離調整対応回転角成分θ*Kが決定されることで、ロール抑制制御とピッチ抑制制御とが一元化されている。したがって、距離調整制御では、ロールの抑制であるかピッチの抑制であるかに拘わらず、動作量の増加過程においては、上記距離調整対応成分i*Kを電動モータ70に供給し、動作量の維持過程および減少過程においては、上記低減供給電流itを電動モータ70に供給されるようになっている。このようにして供給電流が低減されることで、本システム10では、電動モータ70の電力消費の抑制が図られているのである。
【0100】
なお、上記距離調整対応成分i*Kおよび低減供給電流itは、それの符号により電動モータ70のモータ力の発生方向をも表すものとなっており、電動モータ70の駆動制御にあたっては、それら距離調整対応成分i*K,低減供給電流itに基づいて、電動モータ70を駆動するためのデューティ比およびモータ力発生方向が決定される。そして、それらデューティ比およびモータ力発生方向についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードが制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。
【0101】
(E)減衰力制御の詳細
i)減衰力制御における目標供給電流の決定
減衰力制御は、調整装置20による接近離間力を、ばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として機能させる制御であり、減衰力制御では、当該制御において発生させるべき接近離間力として、減衰力FGが決定される。具体的には、車体のマウント部54に設けられた縦加速度センサ116によって検出される縦加速度に基づき、車体の絶対速度Vが計算され、次式に従って、減衰力FGが演算される。
FG=C・V (C:減衰係数)
そのように決定された減衰力FGに相当する接近離間力を発揮させるべく、その接近離間力に相当するアクチュエータ力、すなわち、モータ力を発生させるための供給電流の目標である目標供給電流成分として、減衰力対応目標供給電流成分(以下、「減衰力対応成分」という場合がある)i*Gが決定される。この決定にあたっては、調整装置ECU100のコントローラ104内に格納されたマップデータが参照される。
【0102】
ii)減衰力制御における供給電力の低減
車体に典型的な振動が生じている状態を例にとれば、車体のばね上部材として機能する部分の絶対速度、つまり、ばね上部材の絶対速度Vは、概して、図10(a)に示すように変化する。図が示すように、ばね上部材の絶対速度Vは、絶対速度が増加する速度増加期PZと、絶対速度が減少する速度減少期PGとが繰り返されるように変化する。このような車体の振動を減衰するには、図10(b)に示すような減衰力FGが要求され、減衰力制御では、減衰力対応成分i*Gが、図10(c)に示すように決定される。調整装置20の構造から、調整装置20が発揮する接近離間力とアクチュエータ26の動作量とは理屈上対応する。したがって、図10(b)は、減衰力FGに対応するモータ回転角、言い換えれば、仮に当該減衰力制御をモータの回転角を制御対象として行なうとすれば目標されるべきモータ回転角である減衰力対応目標モータ回転角成分(以下、「減衰力対応回転角成分」と略す場合がある)θ*Gをも示すものとなっている。
【0103】
調整装置20は、アクチュエータ26の動作量に応じてL字形バー22のシャフト部60の捩り量を変化させる構造のものとされており、速度増加期PZにおいては、減衰力対応回転角成分θ*G、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量が増加する過程にあることから、弾性体の変形量を増加させる必要がある。このため、L字形バー22のシャフト部60の捩り反力に抗してアクチュエータ力を増加させる必要があるため、その必要に応じた供給電力が電動モータ70に供給されるように、上記減衰力対応成分i*Gが決定される。一方、速度減少期PGおいては、減衰力対応回転角成分θ*G、言い換えればアクチュエータ26の目標動作量が減少する過程にあることから、L字形バー22のシャフト部60の捩り反力(復元力ということもできる)、つまり、外部入力を利用してアクチュエータ26の動作量を減少させることができるため、モータ力は、速度増加期PZにおける程は必要とされない。つまり、アクチュエータ26の動作量が減少する過程、言い換えれば、アクチュエータ26の動作位置が中立位置に戻る過程においては、上記捻り反力を利用した動作を行い得ることから、本減衰力制御では、動作量減少過程においては、電動モータ70への電力供給を禁止するようにされている。したがって、本減衰力制御においては、図10(d)に示すように、速度増加期PZ、すなわち、動作量増加過程においてのみ、上記減衰力対応成分i*Gが供給されることになる。本システム10では、このように、減衰力制御においても、電動モータ70の電力消費の抑制が図られているのである。
【0104】
iii)電動モータの作動モードの切換
減衰力制御では、アクチュエータ26の動作量の増加過程において、上記距離調整制御と同様に、減衰力対応成分i*Gに基づくモータ力発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードがモータ力発生方向に応じた制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。
【0105】
一方、動作量の減少過程においては、電動モータ70への電力供給は禁止されるが、ある程度のモータ力を発揮させることが望ましい。先に説明したように、動作量減少過程では、外部入力であるL字形バー22のシャフト部60の捩り反力を利用したアクチュエータ26の動作が行われるが、アクチュエータ26の動作量が減少しすぎることで、適切な減衰力が得られなくなるという現象が生じ得る。そのため、動作量減少過程であっても、アクチュエータ26の動作の安定性を考慮すれば、ある程度のモータ力を発揮させることが望ましいのである。また、捩り反力とアクチュエータ26の動作量とは対応関係にあり、アクチュエータ26の動作量が大きい場合には、上記捩り反力も大きくなり、逆に、アクチュエータ26の動作量が小さい場合には、上記捩り反力も小さくなる。そのため、動作量減少過程においては、動作量に応じた大きさのモータ力を発揮させることが望ましいのである。
【0106】
本システム10では、動作量減少過程において、電源からの電力供給を行わずして電動モータ70に適切なモータ力を発生させるため、電動モータ70の作動モードとして、上記制御通電モードに代えて、別の作動モードが採用される。具体的に言えば、アクチュエータ26の動作量が比較的大きい場合には、前述したブレーキモードとされ、アクチュエータ26の動作量が比較的小さい場合には、フリーモードとされ、アクチュエータ26の動作量が比較的大きい場合と比較的小さい場合との中間的な場合には、スタンバイモード、詳しく言えば、モータ発生力方向に応じたスタンバイモードとされる。このように、動作量に応じた作動モードの切り換えが行われることで、適切な大きさのモータ力を発生さつつ、電動モータ70の消費電力の低減が図れることになる。なお、それら3つの作動モードにおいては、先に説明したように、インバータ102の構造等によって、起電力に依拠した発電電力を回生させることも可能であり、回生可能とすれば、より省電力なサスペンションシステムを実現させることができる。
【0107】
(F)距離調整制御と減衰力制御とが同時実行
本サスペンションシステム10においては、上記減衰力制御と上記距離調整制御とが同時に実行可能とされており、それらの制御は、各制御における目標供給電流を合計することにより、一元化して実行される。具体的には、両制御が同時に行われる場合の目標供給電流i*が、上記減衰力対応成分i*Gと上記距離調整対応成分i*Kとに基づいて、次式に従って決定される。
i*=i*G+i*K
ただし、距離調整制御では、先に説明したように、距離調整対応モータ回転角偏差ΔθKに基づくフィードバック制御手法に基づいて、距離調整対応成分i*Kが決定されるため、両制御を同時に実行する場合、減衰力制御による接近離間力を発揮させるための電動モータ70の回転が、距離調整対応成分i*Kの決定に影響を与えることになる。そこで、両制御が同時に実行される場合には、その影響を考慮し、以下のようにして距離調整対応成分i*Kが決定される。
【0108】
まず、減衰力制御によって発生させられる減衰力FGに対応するモータ回転角成分である減衰力対応回転角成分θ*Gが、減衰力FGに基づいて、次式に従って決定される。
θ*G=KD・FG (KDはげイン)
その決定された減衰力対応回転角成分θ*Gと、上記ロール抑制回転角成分θ*Rおよび上記ピッチ抑制回転角成分θ*Pとに基づき、目標モータ回転角θ*が、両制御を同時に実行される場合の目安となるモータ回転角として次式に従って決定される。
θ*=θ*G+θ*R+θ*P
次に、実モータ回転角θの目標モータ回転角θ*からの偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θ*−θ)が算出され、それをパラメータとして、次式に従って、距離調整対応成分i*Kが決定される。
i*K=K1・Δθ+K2・Int(Δθ)
つまり、減衰力制御によって電動モータ70が回転させられるであろうモータ回転角を加味して、距離調整対応成分i*Kが決定されるのである。
【0109】
減衰力制御と距離調整制御とが同時に行われる場合は、上記距離調整対応成分i*Kを決定するための式における積分項成分の存在により、電源から電動モータ70への電力供給を行うことが望ましい。そのため、電動モータ70の駆動制御に関しては、前述した距離調整制御の場合と同様である。具体的に言えば、上記目標モータ回転角θ*に基づいて、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあるか否かが判断され、増加過程にある場合には、目標供給電流i*に基づくモータ力発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ102に発令され、電動モータ70の作動モードがモータ力発生方向に応じた制御通電モードとされた下で、インバータ102によって、その指令に基づいた電動モータ70の駆動制御がなされる。それに対し、アクチュエータ26の動作量が維持過程若しくは減少過程にある場合には、前述の正逆効率積ηP・ηNに基づき、次式に従って、低減供給電流it決定され、
it=ηP・ηN・i*
その低減供給電流itに基づく指令が、インバータ102に発令される。
【0110】
なお、本システム10では、電動モータ70,アクチュエータ26の構造上の理由等から、発揮できるモータ力,つまり、調整装置20が発揮する接近離間力に上限があり、その上限を超える場合には、いくら大きな電力を供給する旨の指令を発したとしても、アクチュエータ26の動作量は目標動作量とはならない。例えば、減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御が同時に実行されるような場合には、特に、その可能性が高く、例えば、図11に示すように、目標モータ回転角θ*がかなり大きくなる場合には、実モータ回転角θが、目標モータ回転角θ*に届き得ないことがある(図のPTの期間)。本システム10では、そのことに考慮し、アクチュエータ25の動作量が増加過程にあるか否かの判断を、目標モータ回転角θ*の変化に基づいて判断するようにされている。この判断方法は、距離調整制御と減衰制御とを同時に行っているか否かに拘わらず、いずれかの制御が単独で実行されている場合であっても適用される。したがって、距離調整制御が単独で、あるいは、距離調整制御と減衰力制御とが同時に実行されている場合においては、供給電流を低減するタイミングの適切性が担保され、また、減衰力制御のみが実行されている場合においては、電動モータ70の作動モードの切り換えのタイミング、電動モータ70への電源からの電力供給を禁止するタイミングの適切化が担保されているのである。
【0111】
≪調整装置制御プログラム≫
上述のような調整装置20の制御は、図12にフローチャートを示す調整装置制御プログラムが、コントローラ104によって実行されることで行われる。このプログラムは、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいて繰り返し実行される。なお、このプログラムは、減衰力制御と距離調整制御とを同時に実行可能なプログラムとされている。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0112】
調整装置制御プログラムは、4つの調整装置20の各アクチュエータ26に対して、アクチュエータ26ごとに、実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての本プログラムによる処理について説明する。本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、ばね上振動の発生の有無が判断される。具体的に言えば、縦加速度センサ116によって検出される車体の縦加速度が、ある閾値を超えている場合にばね上振動が発生していると判断される。ばね上振動が発生していると判断された場合には、S2において、減衰力制御を実行するため、縦加速度から演算されるばね上絶対速度Vに基づいて、必要な減衰力FGが決定される。車体の上記周波数域の振動が発生していないと判断された場合には、S3において、減衰力FGが0に決定される。減衰力FGが決定されると、S3において、この減衰力FGに基づいて、減衰力対応回転角成分θ*Gが決定される。ちなみに、減衰力制御が実行されない場合には、減衰力対応回転角成分θ*Gは、0に決定されることになる。
【0113】
続いて、S5において、車体のロールの発生の有無が判断される。具体的には、ステアリングホイールの操作角が閾角度以上、かつ、車速が閾速以上となった場合に、車両の旋回に起因する車体のロールが実質的に発生していると判断される。車体のロールが発生していると判断された場合には、S6において、距離調整制御によって車体のロールを抑制するため、前述の制御横加速度に基づいて、ロール抑制回転角成分θ*Rが決定される。車体のロールが発生していないと判断された場合には、S7において、ロール抑制回転角成分θ*Rが0に決定される。次に、S8において、車体のピッチの発生の有無が判断される。具体的には、前後加速度の絶対値が設定閾加速度以上となった場合に、車体のピッチが実質的に発生していると判断される。車体のピッチが発生していると判断された場合には、S9において、距離調整制御によって車体のピッチを抑制するため、前後加速度に基づいて、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが決定される。車体のピッチが発生していないと判断された場合には、S10において、ピッチ抑制回転角成分θ*Pが0に決定される。
【0114】
次に、S11において、決定された減衰力FGに基づき、前述のようにして、オープン制御の手法に従って減衰力対応成分i*Gが決定される。続いて、S12において、既に決定されているロール抑制回転角成分θ*Rおよびピッチ抑制回転角成分θ*Pと減衰力対応回転角成分θ*Gとが合計されることによって、目標モータ回転角θ*が決定される。続くS13において、この目標モータ回転角θ*と実際のモータ回転角θとからモータ回転角偏差Δθが算出され、前述のようにして、フィードバック制御手法に従って距離調整対応成分i*Kが決定される。次に、S14において、減衰力対応成分i*Gと距離調整対応成分i*Kとが合計されることによって、目標供給電流i*が決定される。
【0115】
続いて、S15において、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあるか否かが判断される。具体的に言えば、目標モータ回転角θ*から微分演算された電動モータ70のモータ回転速度vMの符号と、目標モータ回転角θ*の符号とが同じか否かが判断される。それぞれの符号が同じであると判断された場合は、アクチュエータ26の動作量が増加過程にあると判断され、S16において、目標供給電流i*に基づく指令が、インバータ102に発令される。また、モータ回転速度vMの符号と目標モータ回転角θ*の符号とが同じでないと判断された場合は、アクチュエータ26の動作量が増加過程にないと判断され、S17において、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0より大きいか否かが判断される。
【0116】
S17の判断処理は、簡単にいえば、動作量が増加過程にない場合において、距離調整制御において実行が予定されている供給電力の低減と、減衰力制御で実行が予定されている電力供給の禁止とのいずれを行うかを決定するための処理である。上記閾電流i0は、モータ回転角センサ84の検出能に相当する角度だけ電動モータ70を動作させることで得られる接近離間力を限界最小接近離間力とした場合に、その接近離間力を発揮させるのに必要な供給電流とされている。つまり、かなり0に近い値に設定されている。したがって、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0以下の場合には、距離調整制御のための接近離間力、つまり、モータ力は、必要とされない。
【0117】
そこで、距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0より大きいと判断された場合は、S18において、目標供給電流i*に基づき、距離調整制御において予定されいる低減供給電流itが、目標供給電流i*に正逆効率積ηP・ηNを乗じることによって決定され、続いて、S19において、低減供給電流itに基づく指令が、インバータ102に発令される。逆に、S17において距離調整対応成分i*Kの絶対値が閾電流i0以下と判断された場合は、S20において、目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1より大きいか否かが判断され、目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1より大きいと判断された場合には、S21において、電動モータ70の作動モードをブレーキモードとする指令が、インバータ102に発令される。また、S20において目標モータ回転角θ*の絶対値が第1閾回転角θ1以下と判断された場合には、S22において、目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2(<θ1)より小さいか否かが判断される。目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2より小さいと判断された場合には、S23において、作動モードをフリーモードとする指令がインバータ102に発令され、また、目標モータ回転角θ*の絶対値が第2閾回転角θ2以上と判断された場合には、S24において、作動モードをスタンバイモードとする指令がインバータ102に発令される。インバータ102に何らかの指令が発令された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0118】
≪コントローラの機能構成≫
以上のような制御プログラムが実行されて機能する本サスペンションシステム10のコントローラ104は、その実行処理によれば、図13に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その機能構成図から解るように、コントローラ104は、S4,S6,S7,S9,S10,S12の処理を実行する機能部、つまり、アクチュエータ26の目標動作量である目標モータ回転角θ*を決定する機能部として、目標動作量決定部150を、S11,S13,S14の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*を決定する機能部として、目標供給電流決定部152を、S15の処理を実行する機能部、つまり、アクチュエータ30の動作量の増減を判定する機能部として、動作量増減判定部154を、S16の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*に基づいて電動モータ70の作動を制御する機能部として、目標供給電流依拠作動制御部156を、S19の処理を実行する機能部、つまり、目標供給電流i*を低減した低減供給電流itに基づいて電動モータ70の作動を制御する機能部として、低減供給電流依拠作動制御部158を有している。さらに、コントローラ104は、S20からS24の処理を実行する機能部、つまり、電動モータ70への電力供給を禁止する機能部として、電力供給禁止部160を有している。なお、目標供給電流決定部152は、S11の処理を実行する機能部、つまり、減衰力対応成分i*Gを決定する機能部として、減衰力対応成分決定部162を、S13の処理を実行する機能部、つまり、距離調整対応成分i*Kを決定する機能部として、距離調整対応成分決定部164を備え、電力供給禁止部160は、S21からS24の処理を実行する機能部、つまり、電動モータ70の作動モードを変換する機能部として、作動モード変換部166を備えている。
【0119】
なお、本サスペンションシステム10における制御を、図14にブロック線図にて示す。Ka,Kb,Kd,Keは、それぞれゲインを意味しており、1/sは積分伝達関数を、sは微分伝達関数を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】請求可能発明の車両用サスペンションシステムを概念的に示す図である。
【図2】請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
【図3】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置とコイルスプリングとショックアブソーバとを車両後方からの視点において示す模式図である。
【図4】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置とコイルスプリングとショックアブソーバとを車両上方からの視点において示す模式図である。
【図5】図2の車両用サスペンションシステムの備える調整装置を構成するアクチュエータを示す概略断面図である。
【図6】図2の車両用サスペンションシステムの備えるインバータと図4に示す電動モータとが接続された状態での回路図である。
【図7】電動モータの各作動モードにおける図5のインバータによるスイッチング素子の切り換え状態を示す表である。
【図8】実施例のアクチュエータの正効率および逆効率を概念的に示すグラフである。
【図9】車両の典型的な一旋回動作中におけるロールモーメント,ロール抑制回転角成分,距離調整対応成分,電動モータへの供給電流の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図10】車体の典型的な振動中における絶対速度,減衰力,減衰力対応成分,電動モータへの供給電流の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図11】車両走行の際のロール抑制回転角力成分,ピッチ抑制回転角成分,減衰力対応回転角成分,それらの成分が合計された目標モータ回転角,実際のモータ回転角の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
【図12】調整装置制御プログラムを示すフローチャートである。
【図13】実施例の調整装置の制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【図14】請求可能発明の車両用サスペンションシステムにおける制御のブロック線図である。
【符号の説明】
【0121】
10:車両用サスペンションシステム 20:車体車輪間距離調整装置(接近離間力発生装置) 22:L字形バー(弾性体) 26:アクチュエータ 46:第2ロアアーム(ばね下部材) 51:コイルスプリング(サスペンションスプリング) 52:ショックアブソーバ 54:マウント部(ばね上部材) 60:シャフト部 62:アーム部 70:電動モータ 72:減速機 100:調整装置電子制御ユニット(接近離間力制御装置) 102:インバータ(駆動回路) 122:通電端子 124h:高電位側端子 124l:低電位側端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね上部材とばね下部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、
そのサスペンションスプリングと並列的に配設された液圧式のショックアブソーバと、
前記サスペンションスプリングと並列的に配設されてばね上部材とばね下部材とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる装置であって、(a)一端部がばね上部材とばね下部材との一方に連結される弾性体と、(b)その弾性体の他端部とばね上部材とばね下部材との他方との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結するとともに、電動モータを有して、その電動モータが発揮する力であるモータ力に依拠して自身が発揮する力であるアクチュエータ力を、前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させつつ、そのアクチュエータ力を前記弾性体を介して接近離間力としてばね上部材とばね下部材とに作用させる電磁式のアクチュエータとを有する接近離間力発生装置と、
前記電動モータの作動を制御することで、前記接近離間力発生装置が発生させる接近離間力を制御する接近離間力制御装置とを備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御を実行する車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた請求項1または請求項2に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項5】
前記接近離間力制御装置が、発生させるべき接近離間力に応じて前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記減衰力制御を実行する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項6】
発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を目標動作量と定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータへの電源からの電力の供給を禁止して、前記減衰力制御を実行する請求項5に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項7】
当該サスペンションシステムが、前記電動モータを駆動するための駆動回路を備え、前記電動モータがその駆動回路の作動状態に依存するある作動モードの下で作動する構成とされ、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、(A)前記電動モータが有する複数の通電端子の間を相互に導通させる作動モードである全端子間導通モード、(B)前記複数の通電端子のうち1つの端子と電源の高電位側端子と低電位側端子との一方との導通を確保し、その1つの端子が前記電動モータの動作位置に応じて変更される作動モードである特定端子通電モード、(C)前記複数の通電端子をすべて開放する作動モードである全端子開放モードのうちのいずれかの作動モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する請求項6に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項8】
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御と、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御とを同時に実行する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項9】
前記電動モータへの目標供給電力を構成する成分であって、前記減衰力制御についての成分を減衰力対応成分と、前記距離調整制御に関する成分を距離調整対応成分と、それぞれ定義し、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を減衰力対応目標動作量と、前記距離調整制御において実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量を距離調整対応目標動作量と、それら減衰力対応目標動作量と距離調整対応目標動作量との和を目標動作量計と、それぞれ定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に応じて前記減衰力対応成分を決定し、前記目標動作量計に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記距離調整対応成分を決定し、それら減衰力対応成分と距離調整対応成分との和である前記目標供給電力に基づいて前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する請求項8に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項10】
前記接近離間力制御装置が、目標動作量計が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量計が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する請求項9に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項11】
前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた請求項10に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項1】
ばね上部材とばね下部材との間に配設されたサスペンションスプリングと、
そのサスペンションスプリングと並列的に配設された液圧式のショックアブソーバと、
前記サスペンションスプリングと並列的に配設されてばね上部材とばね下部材とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる装置であって、(a)一端部がばね上部材とばね下部材との一方に連結される弾性体と、(b)その弾性体の他端部とばね上部材とばね下部材との他方との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結するとともに、電動モータを有して、その電動モータが発揮する力であるモータ力に依拠して自身が発揮する力であるアクチュエータ力を、前記弾性体に作用させることで、自身の動作量に応じて前記弾性体の変形量を変化させつつ、そのアクチュエータ力を前記弾性体を介して接近離間力としてばね上部材とばね下部材とに作用させる電磁式のアクチュエータとを有する接近離間力発生装置と、
前記電動モータの作動を制御することで、前記接近離間力発生装置が発生させる接近離間力を制御する接近離間力制御装置とを備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記接近離間力制御装置が、接近離間力をばね上部材とばね下部材との少なくとも一方の振動に対する減衰力として発生させるための減衰力制御を実行する車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
前記ショックアブソーバが、ばね下共振周波数およびそれの近傍の周波数域の振動減衰特性を適切化するための減衰係数を有する構造とされた請求項1または請求項2に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
前記減衰力制御が、前記接近離間力をばね上部材の絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させるための制御である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項5】
前記接近離間力制御装置が、発生させるべき接近離間力に応じて前記電動モータへの目標供給電力を決定し、その目標供給電力に基づいて前記減衰力制御を実行する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項6】
発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を目標動作量と定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量が減少する過程において、前記電動モータへの電源からの電力の供給を禁止して、前記減衰力制御を実行する請求項5に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項7】
当該サスペンションシステムが、前記電動モータを駆動するための駆動回路を備え、前記電動モータがその駆動回路の作動状態に依存するある作動モードの下で作動する構成とされ、
前記接近離間力制御装置が、目標動作量が減少する過程において、(A)前記電動モータが有する複数の通電端子の間を相互に導通させる作動モードである全端子間導通モード、(B)前記複数の通電端子のうち1つの端子と電源の高電位側端子と低電位側端子との一方との導通を確保し、その1つの端子が前記電動モータの動作位置に応じて変更される作動モードである特定端子通電モード、(C)前記複数の通電端子をすべて開放する作動モードである全端子開放モードのうちのいずれかの作動モードの下で前記電動モータを作動させて、前記減衰力制御を実行する請求項6に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項8】
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御と、接近離間力によってばね上部材とばね下部材との距離であるばね上ばね下間距離を調整するための距離調整制御とを同時に実行する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項9】
前記電動モータへの目標供給電力を構成する成分であって、前記減衰力制御についての成分を減衰力対応成分と、前記距離調整制御に関する成分を距離調整対応成分と、それぞれ定義し、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に対応する前記アクチュエータの動作量を減衰力対応目標動作量と、前記距離調整制御において実現されるべきばね上ばね下間距離に対応する前記アクチュエータの動作量を距離調整対応目標動作量と、それら減衰力対応目標動作量と距離調整対応目標動作量との和を目標動作量計と、それぞれ定義した場合において、
前記接近離間力制御装置が、前記減衰力制御において発生させるべき接近離間力に応じて前記減衰力対応成分を決定し、前記目標動作量計に対する実際のアクチュエータの動作量である実動作量の偏差に基づき、少なくともその偏差に応じた供給電力成分とその偏差の積分値に応じた供給電力成分とを含む前記距離調整対応成分を決定し、それら減衰力対応成分と距離調整対応成分との和である前記目標供給電力に基づいて前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する請求項8に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項10】
前記接近離間力制御装置が、目標動作量計が増加する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力の供給を実現し、目標動作量計が減少する過程において、電源から前記電動モータへの前記目標供給電力より小さい供給電力である低減供給電力の供給を実現して、前記減衰力制御と前記距離調整制御とを同時に実行する請求項9に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項11】
前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記低減供給電力が、前記目標供給電力に正逆効率積を掛けた大きさの供給電力とされた請求項10に記載の車両用サスペンションシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−55944(P2008−55944A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232284(P2006−232284)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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