説明

車両用走行制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、実際のエンジントルクの変動に伴うエンジン停止・始動のハンチングを抑える。
【解決手段】目標とする走行状態が予め設定したエンジン停止判定値以下の場合には、エンジン1による駆動輪の駆動を停止する。このとき、目標エンジントルクと実際のエンジントルクとの間の推定される偏差に基づき、上記エンジン停止判定値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及びモータを駆動源とし、走行の状態に応じてエンジン及びモータの少なくとも一方を使用して走行するハイブリッド車両の車両用走行制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の走行制御装置としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1には、電気自動車モード(EVモード)でのコースト走行中に、バッテリのSOCが所定以上まで低下した場合には、発電のためにエンジン始動要求を出してエンジンが始動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記EVモードでのコースト走行が継続する走行シーンにあっては、コーストに伴うモータの回生が継続することによって、バッテリのSOCが上昇する。そして、SOCが所定以上まで上昇すると、モータで出力可能な下限トルク(モータで回生可能なコースト減速トルク)が制限されて、目的とするコースト走行の継続が実現できないおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目したもので、ハイブリッド車両において、より確実に目的とするコースト走行を実現可能な走行制御を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、モータの回生によって充電されるバッテリを備えるハイブリッド車両である。そして、本発明は、上記モータだけを駆動源として走行中であって、当該モータの回生によるコースト減速トルクで車速を目標車速に制御しているときに、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定すると、エンジンを始動し、始動後のエンジンフリクショントルクを上記コースト減速トルクの一部とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、充電許可電力が制限されるような走行状況では、コースト減速トルクの一部をエンジンフリクションで賄う。これによって、目的とするコースト走行を実現するために要求されるモータの回生トルクが低減する。この結果、SOCの上昇を抑えられることで、目的とするコースト走行をより長く継続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るハイブリッド車両の概要構成図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るハイブリッドシステムの構成例を示す図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る統合コントローラにおける基本的な信号の流れを示す図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る統合コントローラの機能ブロックを示す図である。
【図5】目標駆動トルク演算部の機能ブロックである。
【図6】自動制御要求トルク演算部の構成を示す図である。
【図7】車両状態モードの遷移関係を示す図である。
【図8】車両状態モード決定部の機能ブロックである。
【図9】コースト減速トルク不足時始動要求判定部21Eaの処理を説明する図である。
【図10】電池中電許可電力とモータ下限トルクとの関係を示す図である。
【図11】高SOCコースト時始動要求判定部21Ebの処理を説明する図である。
【図12】エンジン始動停止判定部の処理を説明する図である。
【図13】本発明を適用しない場合の動作を説明する図である。
【図14】本実施形態を適用した場合の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は実施形態に係るハイブリッド車両の概要構成図である。図1に示すハイブリッド車両は後輪駆動の例であるが、前輪駆動であっても本発明は適用可能である。
(駆動系の構成)
まず駆動系(パワートレーン)の構成について説明する。
本実施形態のパワートレーンは、図1に示すように、エンジン1から左右後輪(駆動輪)までのトルク伝達経路の途中に、モータ2及び自動変速機AT(=トランスミッションT/M)を介装する。エンジン1とモータ2との間に、第1クラッチ4を介装する。また、モータ2と駆動輪(後輪)との間のトルク伝達経路に第2クラッチ5を介装する。この例では、第2クラッチ5は、自動変速機AT(=トランスミッションT/M)の一部を構成する。自動変速機ATは、プロペラシャフト、ディファレンシャルDF、及びドライブシャフトを介して駆動輪7(後輪)に接続する。
【0009】
上記エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンである。エンジン1は、後述するエンジンコントローラ22からの制御指令に基づき、スロットルバルブのバルブ開度等が制御可能となっている。なお、エンジン1の出力軸に、フライホイールが設けられていても良い。
上記モータ2は、例えばロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルを巻き付けた同期型モータである。モータ2は、後述するモータコントローラ23からの制御指令に基づき、後述のインバータ8で作り出した三相交流を印加することで制御出来る。このモータ2は、後述のバッテリ9からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできる(この状態を「力行」と呼ぶ)。また、モータ2は、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ9を充電することもできる(この動作状態を「回生」と呼ぶ)。このモータ2のロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結する。
【0010】
上記第1クラッチ4は、上記エンジン1とモータ2との間に介装された油圧式単板クラッチである。上記第1クラッチ4は、後述するATコントローラ24からの制御指令に基づいて、入力した目標クラッチ伝達トルクとなるように、第1クラッチ油圧ユニット(不図示)が作り出した制御油圧により、締結状態若しくは開放状態となる。なお、締結・開放には、滑り締結と滑り開放を含む。
【0011】
上記第2クラッチ5は、油圧式多板クラッチである。上記第2クラッチ5は、後述するATコントローラ24からの制御指令に基づき、目標クラッチ伝達トルクとなるように、第2クラッチ油圧ユニットで作り出した制御油圧により、締結状態若しくは開放状態となる。なお、締結・開放には、滑り締結と滑り開放を含む。
上記自動変速機ATは、例えば、前進7速後退1速や前進6速後退1速等の有段階の変速比を、車速や後述の統合コントローラ21から入力した変速用アクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機である。ここで、上記第2クラッチ5は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用して構成する。
【0012】
ここで、本実施形態では、第2クラッチ5を自動変速機AT(=トランスミッションT/M)の一部として構成する場合を例示しているが、これに限定されない。第2クラッチ5は、モータ2と自動変速機ATとの間、若しくは自動変速機ATとディファレンシャル・ギヤDFとの間に配置する構成であっても良い。
また、各輪には、それぞれブレーキユニット(不図示)を備える。各ブレーキユニットは、例えばディスクブレーキやドラムブレーキからなる。各ブレーキユニットは、油圧ブレーキ装置であっても、電動ブレーキ装置であっても良い。各ブレーキユニットは、ブレーキコントローラ25からの指令に応じて、対応する車輪に制動力を付与する。なお、ブレーキユニットは、全ての車輪に設ける必要はない。
【0013】
また、図1中、符号14は電動サブオイルポンプを示し、符号15は機械式オイルポンプを示す。これらのオイルポンプ14,15は、各クラッチのための油圧を発生する。また、符号10は、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転センサを、符号11は、モータ2の回転を検出するレゾルバ等のモータ回転センサを示す。また、符号12は、変速機の入力軸の回転を検出するAT入力回転センサを、符号13は、変速機の出力軸の回転を検出するAT出力回転センサを示す。また、符号27は、車輪の回転を検出する車輪速センサを示す。車輪速センサ27は、不図示の従動輪(前輪)にも設けてもよい。
【0014】
図2は、図1に示したパワートレーンの制御システムを説明する構成図である。
符号33は運転者によって操作されるアクセルペダル33である。このアクセルペダル33のアクセル開度APOは、アクセルセンサ20によって検出され、アクセルセンサ20は、検出したアクセル開度APO情報を統合コントローラ21に出力する。
また、符号34はペダルアクチュエータ34である。ペダルアクチュエータ34は、車間制御コントローラ31からの指令に応じたペダル反力をアクセルペダル33に付与するアクチュエータである。
【0015】
また符号32は、先行車検出手段を構成するレーダーユニット32である。レーダーユニット32は、車両前方の先行車両を検出し、検出した先行車両情報を車間制御コントローラ31に出力する。
また符号27は車輪速センサである。車輪速センサ27は、検出した車輪速情報をブレーキコントローラ25に出力する。また、車輪速情報から求まる車速情報は、ブレーキコントローラ25から統合コントローラ21及び車間制御コントローラ31に出力される。
【0016】
また符号35は、運転者に走行状態を提示するためのメータである。メータ35は、オートクルーズの情報などを表示する。
また符号29はブレーキスイッチ29である。ブレーキスイッチ29は、ブレーキペダル(不図示)の操作を検出する。
符号28は、ステアリングスイッチである。ステアリングスイッチ28は、自動走行制御であるオートクルーズ走行の起動や走行条件(目標車速等)の変更指示を運転者が行うための操作子である。ここで、本実施形態のオートクルーズ走行には、定速走行制御(定速クルーズ)及び車車間走行制御(車間クルーズ)の両方を含む。
【0017】
このステアリングスイッチ28には、定速走行制御の設定車速を予め設定した車速分だけ大きくする加速SW、及び定速走行制御の設定車速を予め設定した車速分だけ小さくするコーストSWを含む。
符号30は、ブレーキペダルに設けられたクルーズキャンセルスイッチである。クルーズキャンセルスイッチ30は、自動走行制御であるオートクルーズ走行の終了を指示するための操作子である。なお、上記ステアリングスイッチ28にもオートクルーズの終了を指示するスイッチが存在する。以下、このスイッチも含めクルーズキャンセルスイッチ30と呼ぶ。
符号18はバッテリ9の電圧を検出する電圧センサである。符号19はバッテリ9の電流を検出する電流センサである。
【0018】
次に、ハイブリッド車両の制御系の構成について説明する。
上記ハイブリッド車両の制御系は、図2に示すように、エンジンコントローラ22と、モータコントローラ23と、インバータ8と、バッテリコントローラ26と、ATコントローラ24と、ブレーキコントローラ25と、統合コントローラ21と、を有する。また、本実施形態のハイブリッド車両の制御系は、車間制御コントローラ31を有する。
なお、エンジンコントローラ22と、モータコントローラ23と、ATコントローラ24と、ATコントローラ24と、ブレーキコントローラ25と、車間制御コントローラ31と、統合コントローラ21とは、互いに情報交換が可能なCAN通信線(不図示)を介して接続する。
【0019】
上記エンジンコントローラ22は、エンジン回転数センサ10からのエンジン回転数情報を入力する。そして、上記エンジンコントローラ22は、統合コントローラ21からの目標エンジントルク等に応じ、エンジン動作点(Ne、Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Neの情報は、CAN通信線を介して統合コントローラ21から取得する。
【0020】
上記モータコントローラ23は、モータ2のロータ回転位置を検出するモータ回転センサ11からの情報を入力する。そして、上記モータコントローラ23は、統合コントローラ21からの目標モータトルクや回転数指令等に応じ、モータ2のモータ動作点(Nm、Tm)を制御する指令をインバータ8へ出力する。
バッテリコントローラ26は、バッテリ9の充電状態をあらわすバッテリSOCを監視している。バッテリコントローラ26は、バッテリSOC情報を、モータ2の制御情報等として、CAN通信線を介して統合コントローラ21へ供給する。
【0021】
上記ATコントローラ24は、車速情報と第1及び第2クラッチ油圧センサからのセンサ情報を入力する。そして、上記ATコントローラ24は、統合コントローラ21からのアクセル開度APO情報、第1及び第2クラッチ制御指令(目標第1クラッチトルク、目標第2クラッチトルク)に応じ、変速制御における第2クラッチ制御に優先し、第2クラッチ5の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニットに出力すると共に、第1クラッチ4の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット(不図示)に出力する。
【0022】
上記ブレーキコントローラ25は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ27とブレーキストロークセンサからのセンサ情報を入力する。上記ブレーキコントローラ25は、予め設定した制御サイクルで、ブレーキペダルのストローク量や車間制御コントローラ31などからの制動要求量、車速に基づき目標減速度を演算する。そして、ブレーキコントローラ25は、回生協調ブレーキ制御として、目標減速度を回転制動力としての協調回生ブレーキ要求トルク、及び機械制動力(油圧制動力)としての目標油圧制動力に制動力配分を行う。そして、協調回生ブレーキ要求トルクを統合コントローラ21のモータコントローラ23に出力する。目標油圧制動力を、油圧制動力装置に出力する。例えば、上記ブレーキコントローラ25は、ブレーキ踏み込み制動時のブレーキストローク等から求められる要求制動力に対し、回生制動力だけでは不足する場合、回生協調ブレーキ制御を行う。そいて、その不足分を機械制動力(液圧制動力)で補うように、統合コントローラ21からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0023】
また、車間制御コントローラ31は、運転者が設定したステアリングスイッチ28の情報、クルーズ制御作動許可状態、その他の必要情報を、統合コントローラ21から入力する。そして、車間制御コントローラ31は、統合コントローラ21からの情報に基づき、先行車に対する車間制御を実施すると判定すると、自車速、レーダーユニット32の検出に基づく先行車両の情報(車間距離や相対速度など)等に基づき、先行車に対して目標車間距離や目標車間時間とするための目標加速度及び目標減速度を演算する。そして、車間制御コントローラ31は、求めた目標加速度を車間クルーズ要求トルク(ACC要求トルク)として統合コントローラ21に出力する。また、車間制御コントローラ31は、求めた目標減速度を制動要求トルクとしてブレーキコントローラ25に出力する。
【0024】
また、車間制御コントローラ31は、DCA制御(Distance Control Assist)部31Aを有する。DCA制御部31Aは、統合コントローラ21から受信するアクセル開度APO情報と、車輪速センサ27の検出に基づく車速情報、レーダーユニット32からの情報に基づきペダル反力指令を演算する。そして、DCA制御部31Aは、先行車との車間を保つ為の運転者への支援情報として、演算した反力指令をペダルアクチュエータ34に出力する。ペダルアクチュエータ34は、入力したアクセルペダル33に反力を付与する。
【0025】
上記統合コントローラ21は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うものである。
上記統合コントローラ21は、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ10、モータ回転数Nmを検出するモータ回転センサ11、変速機入力回転数を検出するAT入力回転センサ12、変速機出力回転数を検出するAT出力回転センサ13からの情報を入力する。また、統合コントローラ21は、アクセルセンサ20からアクセル開度APO情報、バッテリコントローラ26からバッテリ9の蓄電状態SOCの情報を入力する。また、上記統合コントローラ21は、CAN通信線を介して取得した情報を出力する。
【0026】
また、上記統合コントローラ21は、上記エンジンコントローラ22への制御指令によりエンジン1の動作制御を実行する。上記統合コントローラ21は、上記モータコントローラ23への制御指令によりモータ2の動作制御を実行する。上記統合コントローラ21は、上記ATコントローラ24への制御指令により第1クラッチ4の締結・開放制御を実行する。上記統合コントローラ21は、上記ATコントローラ24への制御指令により第2クラッチ5の締結・開放制御を実行する。
【0027】
ここで、本実施形態のハイブリッド車両における基本動作モードについて説明する。
車両停止中において、バッテリSOCの低下時であれば、エンジン1を始動して発電を行い、バッテリ9を充電する。そして、バッテリSOCが通常範囲になれば、第1クラッチ4は締結で第2クラッチ5は開放のままでエンジン1を停止する。
エンジン1による発進時には、アクセル開度APOとバッテリSOC状態によって、モータ2を連れ回し、力行/発電に切り替える。
【0028】
モータ走行(EVモード)は、エンジン始動に必要なモータトルクとバッテリ出力を確保し、不足する場合はエンジン走行に移行する。また、予め設定したマップ等に基づき予め設定した所定車速以上となると、モータ走行(EVモード)からエンジン走行(HEVモード)に移行する。またエンジン走行時において、アクセル踏み込み時のレスポンス向上のために、エンジントルク遅れ分をモータ2によりアシストする。すなわち、エンジン走行中は、エンジン1の動力だけ、若しくはエンジン1及びモータ2の動力の両方で走行するモードが存在する。
【0029】
ブレーキON減速時には、運転者のブレーキ操作に応じた減速力を回生協調ブレーキ制御にて得る。
エンジン走行やモータ走行中における変速時には、加減速中の変速に伴う回転数合わせのために、モータ2を回生/力行させ、トルクコンバータ無しでのスムーズな変速を行う。
図3は、本実施形態の統合コントローラ21の制御における基本的な指令値の基本的な流れを示す概要構成図を例示するものである。また、図4は本実施形態の統合コントローラ21の制御を機能的に説明する機能ブロック図である。
【0030】
次に、統合コントローラ21にて実行する制駆動制御処理における、本発明に関わる部分について説明する。
統合コントローラ21は、図4に示すように、要求発電トルク演算部21A、要求エンジントルク演算部21B、モータ出力可能トルク演算部21C、目標駆動トルク演算部21D、車両状態モード決定部21E、エンジン始動制御部21F、エンジン停止制御部21G、目標エンジントルク算出部21H、目標モータトルク算出部21J、目標クラッチトルク算出部21Kを備える。
【0031】
要求発電トルク演算部21Aは、車速情報やバッテリコントローラ26からのSOCなどのバッテリ情報などに基づき、モータ2で発電すべき要求発電トルクを演算する。
要求エンジントルク演算部21Bは、車速などの走行状態や要求発電トルク演算部21Aが演算した要求発電トルク等に基づき、エンジン1で発生すべき要求エンジントルクを演算する。
モータ出力可能トルク演算部21Cは、バッテリコントローラ26からのSOCなどのバッテリ情報や、車速などに基づき、モータ2が出力可能なモータ出力可能トルクを演算する。
【0032】
目標駆動トルク演算部21Dは、目標とする目標駆動トルクを演算する。目標駆動トルク演算部21Dは、ドライバ要求トルク演算部、自動制御要求トルク演算部を備える。ドライバ要求トルク演算部は、運転者の操作するアクセルペダル33の操作量(アクセル開度APO)に基づき、運転者が要求していると推定するドライバ要求トルクを演算する。また、自動制御要求トルク演算部は、自動走行制御スイッチであるステアリングスイッチの操作によって作動し、クルーズキャンセルスイッチ30の操作による終了まで、運転者が予め設定した走行条件(設定車速)の走行状態に自動調整するための自動制御要求トルクを演算する。そして、目標駆動トルク演算部21Dは、ドライバ要求トルク演算部が演算したドライバ要求トルクと自動制御要求トルク演算部が演算した自動制御要求トルクとに基づき、目標駆動トルクを演算する。
【0033】
本実施形態の目標駆動トルク演算部21Dは、図5に示すように、ドライバ要求トルク演算部21Da、自動制御要求トルク演算部21Db、第1目標駆動トルク演算部21Dc、車速リミッタトルク演算部21Dd、最終目標駆動トルク演算部21Deを備える。
ドライバ要求トルク演算部21Daは、少なくともアクセルペダル33のアクセル開度APO情報及び車速に基づき、ドライバ要求トルクを演算する。ドライバ要求トルク演算部21Daは、図3に示す例では、アクセル開度APO及び変速機入力回転数を入力し、ベーストルクマップを参照して基本ドライバ要求トルクを演算する。また、車速に基づき、クリープ・コースト駆動トルクテーブルを参照して第1の補正トルクを演算する。また、アクセル開度APO情報、変速機入力回転数、SOC等に基づく電力制限情報に基づき、MGアシストトルクMAPを参照して、第2の補正トルクを算出する。そして、ドライバ要求トルク演算部21Daは、演算した基本ドライバ要求トルク、第1の補正トルク、第2の補正トルクに基づき、最終的なドライバ要求トルクを求める。
【0034】
自動制御要求トルク演算部21Dbは、ステアリングスイッチ28及びACC許可信号を車間制御コントローラ31に出力すると共に、該車間制御コントローラ31から車間クルーズ要求トルク(ACC要求トルク)を入力する。また、自動制御要求トルク演算部21Dbは、ステアリングリングSWによって設定された設定車速及び現在の車速に基づき、設定車速にフィードバック制御するためのクルーズ要求トルクを演算する。そして、自動制御要求トルクは、ACC作動(車間制御の作動)の有無に応じて、車間クルーズ要求トルク(ACC要求トルク)若しくはクルーズ要求トルクの一方を自動制御要求トルクとして選択する。ここでは、ACC作動時には、クルーズ要求トルクよりも車間クルーズ要求トルクを優先して選択するように処理する。
【0035】
本実施形態に係る上記自動制御要求トルク演算部21Dbの構成例を図6に示す。
すなわち、本実施形態の自動制御要求トルク演算部21Dbは、入力処理許可判定部50、目標車速設定部51、加速度算出部52、車速サーボ部53、選択部54を備える。
入力処理許可判定部50は、運転者が操作したステアリングスイッチ情報と、車速情報とを入力して、自動制御の許可判定を実施すると共に、車速及びステアリングスイッチ情報中の設定車速情報などの情報を目標車速設定部51に出力する。また、車間設定情報などを車間制御コントローラ31に出力する。
【0036】
加速度算出部52は、車速に基づき車両の加速度を算出して、車速サーボ部53に出力する。
目標車速設定部51は、運転者が設定した設定車速及び現在の車速から目標車速を算出し、算出した目標車速を車速サーボ部53に出力する。
また、車速サーボ部53は、目標車速に基づき車速サーボ処理(車速フィードバック制御処理)を実施して、クルーズ要求トルクを求める。
【0037】
また選択部54では、車速サーボ部53で求めたクルーズ要求トルクと、車間制御コントローラ31からのACC要求トルクとから、最終的な自動制御要求トルクを決定する。
第1目標駆動トルク演算部21Dcは、ドライバ要求トルク演算部21Daが演算したドライバ要求トルクと、自動制御要求トルク演算部21Dbが演算した自動制御要求トルクのセレクトハイを実施して、大きい方を第1目標駆動トルクとして選択して出力する。
【0038】
車速リミッタトルク演算部21Ddは、ステアリングスイッチ28によって設定される設定車速及び現在の車速に基づき、上限の車速以下とするための車速リミッタトルクを演算する。
最終目標駆動トルク演算部21Deは、第1目標駆動トルク演算部21Dcが出力する第1目標駆動トルクと、車速リミッタトルク演算部21Ddが演算した車速リミッタトルクとのセレクトローを実施する。すなわち、第1目標駆動トルクを車速リミッタトルクで制限して、目標駆動トルクを求める。
【0039】
車両状態モード決定部21Eは、アクセル開度APO、車速情報(又は変速機出力回転数)、モータ出力可能トルク、要求エンジントルク、及び目標駆動トルクに基づき、車両状態モード領域マップ(EV−HEV遷移マップ)などを参照して、目標とする目標車両状態モード(EVモード、HEVモード)を決定する。たとえば、車両制駆動制御のための目標駆動トルクに、エンジン1の始動に必要なクランキングトルクを加えたトルクが、モータ2が出力可能なトルクを下回ると、HEVモードからEVモードに運転モードが遷移する。また、バッテリ充電要求等のシステム要求による要求エンジントルクがある場合には、目標とする目標車両状態モードをHEVモードとする。そして、現在の車両状態モードがEVモードであり、目標車両状態モードがHEVモードである場合には、エンジン始動シーケンスの処理を行う。また、現在の車両状態モードがHEVモードであり、目標車両状態モードがEVモードである場合には、エンジン停止シーケンスの処理を行う。
【0040】
ここで、車両状態モードとしては、図7に示すように、HEVモード、EVモード、遷移時のモードである、エンジン停止シーケンス及びエンジン始動シーケンスのモードを備える。HEVモードは、少なくともエンジン1を駆動源として走行する車両状態モードである。エンジン停止シーケンスのモードは、HEVモードからEVモードに移行する際の遷移時の車両状態モードである。エンジン始動シーケンスのモードは、EVモードからHEVモードに移行する際の遷移時の車両状態モードである。そして、現在の車両状態モードと目標車両状態モードとが同じ場合には、前回の状態モードを保持する。例えば、現在の車両状態モードがEVモードで目標車両状態モードもEVモードの場合には、車両状態モードをEVモードとする。現在の車両状態モードがHEVモードで目標車両状態モードもHEVモードの場合には、車両状態モードをHEVモードとする。一方、現在の車両状態モードがEVモードで、目標車両状態モードがHEVモードの場合、若しくは現在の車両状態モードがHEVモードで、目標車両状態モードがEVモードの場合は、遷移モードとして、エンジン1の停止若しくは始動の処理が完了するまでは、エンジン停止シーケンスのモード若しくはエンジン始動シーケンスのモードとなる。
【0041】
本実施形態における車両状態モード決定部21Eは、図8に示すように、コースト減速トルク不足時始動要求判定部21Ea、高SOCコースト時始動要求判定部21Eb、エンジン始動停止判定処理部21Ec及びモード遷移処理部21Edを備える。
コースト減速トルク不足時始動要求判定部21Eaは、目標駆動トルクとモータ下限トルクに基づき、コースト減速トルク不足時始動要求を生成する。ここで、定速クルーズ走行中であれば、クルーズ要求トルクが目標駆動トルクとなる。
【0042】
コースト減速トルク不足時始動要求判定部21Eaの処理を、図9に基づき説明する。
コースト減速トルク不足時始動要求判定部21Eaは、所定のサンプリング周期で起動して、まずステップS10にて下記条件((1)〜(4))の全てが成立しているか否かを判定する。成立している場合にはステップS30に移行する。成立していない場合にはステップS20に移行する。
(1)クルーズ制御中
(2)車両状態モードがEVモード若しくはエンジン停止シーケンス
(3)クルーズ要求トルク ≦ コースト下限トルク
(4)クルーズ要求トルク < モータ下限トルク
ここで、クルーズ制御中とは、ステアリングスイッチが操作されて、クルーズ走行状態となっていることを指す。
【0043】
車両状態モードがEVモード若しくはエンジン停止シーケンスとは、駆動輪の駆動源がモータだけの状態であることを指す。
「クルーズ要求トルク ≦ コースト下限トルク」とは、クルーズ要求トルクが負値となって、コースト走行時であることを指す。なお、コースト下限トルクは、車速に応じて変化する値であって、その車速において確実にコースト走行状態と検出可能な負の値として設定される。
【0044】
「クルーズ要求トルク < モータ下限トルク」とは、モータ下限トルクによる制限で、クルーズ要求トルクが実現出来ていない状態を指す。
モータ下限トルクは、図10に示すようなマップから求めることが可能である。すなわち、モータ回転数と、バッテリの電池充電許可電力(PIN)のマップから求めることが出来る。図10から分かるように、電池充電許可電力(PIN)が大きいほど、モータ下限トルクは小さくなる。すなわち、上述のようにモータ下限トルクを参照することで、間接的に電池充電許可電力(PIN)を参照していることになる。
【0045】
またステップS20では、目標駆動トルク(クルーズ要求トルク)が予め設定した解除判定トルク値よりも大きくなったか否かを判定する。条件を満足する場合にはステップS40に移行する。条件を満足しない場合にはステップS50に移行する。すなわち、クルーズ要求トルク(<0)が始動要求解除判定トルクを越えるまで増加した場合には、ステップS40に移行して、コースト減速トルク不足時始動要求をOFFする。解除判定トルクは、モータ下限トルクと定数設定値から決定され、モータ下限トルクよりも大きな値として設定される。
【0046】
ステップS30では、コースト減速トルク不足時始動要求をONにして、復帰する。
ステップS40では、コースト減速トルク不足時始動要求をOFFにして、復帰する。
ステップS50では、コースト減速トルク不足時始動要求に前回値を保持して、復帰する。
また、高SOCコースト時始動要求判定部21Ebは、クルーズ要求トルクとSOCに基づき、高SOCコースト時始動要求を生成する。
【0047】
高SOCコースト時始動要求判定部21Ebの処理を、図11を参照して説明する。高SOCコースト時始動要求判定部21Ebは、所定サンプリング周期で起動して、まずステップS100にて、下記条件の全てが成立しているか否かを判定する。全ての条件が成立する場合にはステップS120に移行する。いずれかの条件が成立しない場合にはステップS110に移行する。
(1)クルーズ制御中
(2)車両状態モードがEVモード若しくはエンジン停止シーケンス
(3)クルーズ要求トルク ≦ コースト下限トルク
(4)SOC > 始動判定SOC
すなわち、ステップ100では、コースト走行中であり、且つバッテリのSOCが予め設定した始動判定SOCを越えるまで増加している場合に、ステップS120に移行して、高SOCコースト時始動要求をONする。
ここで、始動判定SOCは、これ以上SOCが増加すると電池充電許可電圧が制限されると推定される下限のSOC値である。
【0048】
ステップS110では、下記条件のいずれかが成立しているか否かを判定する。いずれかの条件が成立している場合にはステップS130に移行する、いずれの条件も成立していない場合にはステップS140に移行する。
(1)クルーズ要求トルク > 解除判定トルク値
(2) SOC < 停止判定SOC値
すなわち、始動要求解除判定は、クルーズ要求トルクが始動要求解除判定トルクまで増加した場合、もしくはSOCが始動要求解除判定SOCまで低下した場合に行う。
ステップS120では、高SOCコースト時始動要求をONにして、復帰する。
ステップS130では、高SOCコースト時始動要求をOFFにして、復帰する。
ステップS140では、高SOCコースト時始動要求として前回値を保持して、復帰する。
【0049】
次に、エンジン始動停止判定処理部21Ecの処理について、図12のフローチャートを参照して説明する。
まずステップS200では、オートクルーズの制御中か否かを判定する。クルーズ制御中の場合にはステップS210に移行する。クルーズ制御中でない場合にはステップS300に移行する。
ステップS210では、クルーズ要求トルク(目標駆動トルク)が、予め設定した始動判定トルク以上か否かを判定する。始動判定トルク以上の場合には、ステップS250に移行する。クルーズ要求トルク(目標駆動トルク)が、始動判定トルク未満の場合にはステップS220に移行する。
【0050】
ステップS220では、コースト減速トルク不足時始動要求がONか否かを判定する。条件を満足する場合にはステップS260に移行する。条件を満足しない場合にはステップS230に移行する。
ステップS230では、高SOCコースト時始動要求がONか否かを判定する。条件を満足する場合にはステップS270に移行する。条件を満足しない場合にはステップS240に移行する。
ステップS240では、クルーズ走行中における他のエンジン始動要件を満足したか否かを判定する。条件を満足する場合にはステップS280に移行する。条件を満足しない場合にはステップS290に移行する。
【0051】
ステップS250では、クルーズエンジン始動要求をONにして、ステップS310に移行する。
ステップS260では、クルーズエンジン始動要求をONにして、ステップS310に移行する。
ステップS270では、クルーズエンジン始動要求をONにして、ステップS310に移行する。
ステップS280では、クルーズエンジン始動要求をONにして、ステップS310に移行する。
ステップS290では、クルーズエンジン始動要求をOFFにして、ステップS310に移行する。
ステップS300では、クルーズエンジン始動要求をOFFにして、ステップS310に移行する。
【0052】
ステップS310では、下記条件のいずれかが成立する場合には、ステップS320に移行する。一方、条件を満足しない場合には、ステップS330に移行する。
(1)アクセル開度APOによる始動要求を満足する
(2)システムによる始動要求を満足するか否かを判定する。
(3)クルーズによる始動要求がON
アクセル開度APOによる始動要求は、現在のアクセル開度APOが予め設定した始動アクセル開度以上の場合に満足する。始動アクセル開度APOは、車速に応じて変更されても良い。
【0053】
また、システムによる始動要求とは、SOC低下が予め設定した始動SOC以下の場合、水温が予め設定した値以下に低下している場合、EV禁止車速以上となっている場合などの、システムによってエンジン1の駆動が必要なシステム状況の場合に、エンジン始動要求を満足する。
クルーズによる始動要求がONとは、ステップS200〜S300で生成したクルーズエンジン始動要求がONの場合である。
ステップS320では、エンジン始動要求をONにして、復帰する。
ステップS330では、エンジン始動要求をOFFにして、復帰する。
【0054】
また、モード遷移処理部21Edでは、エンジン始動停止判定処理部21Ecが求めたエンジン始動要求に応じてモード遷移処理を行う。すなわち、エンジン始動要求がONの場合には、現在の車両状態モードがHEVモードでなければ、エンジン始動フラグをONにして、エンジン始動制御部21Fを作動する処理を実行する。また、エンジン始動要求がOFFの場合には、EVモードで無ければエンジン停止フラグをONにして、エンジン停止制御部21Gを作動する処理を実行する。
ここで、上記説明では、エンジン始動要求の状態によってエンジン停止判定も実施しているが、エンジン始動要求とエンジン停止要求にヒステリシスを持たせるように条件設定をしても良い。
【0055】
目標エンジントルク算出部21Hは、車両状態モード決定部21Eが決定した目標車両状態モード、車速などの走行状態情報、目標駆動トルク、発電のために要求される要求エンジントルクに基づき、目標エンジントルクを算出する。なお、目標車両状態モードがEVモードである場合には、エンジントルクは不要であるので、目標エンジントルクは、ゼロ若しくは負値となっている。また、予め設定したF/C条件を満足している場合には、エンジンに対して燃料カット(F/C)を指示し、エンジンは空回りしている状態になっている。
【0056】
目標モータトルク算出部21Jは、車両状態モード決定部21Eが決定した目標車両状態モード、車速などの走行状態情報、目標駆動トルク、要求発電トルクに基づき、目標モータトルクを算出する。例えば、目標駆動トルクから、目標エンジントルクに遅れ補正を施したトルク値分を減算した値を目標モータトルクとする。なお、他の制御部から回生ブレーキ要求トルク(<0)の入力がある場合には、目標モータトルクに対しその回生ブレーキ要求トルク分を足した値を最終的な目標モータトルクとする。
【0057】
エンジン始動制御部21Fは、エンジン始動フラグがONの場合に作動して、モータ走行中にエンジン1を始動する処理を実施してHEVモードへの移行処理を行う。
次に、エンジン始動制御部21Fの処理例について説明する。
エンジン始動制御部21Fは、モータ走行中にエンジン始動指令(エンジン始動フラグがON)を取得すると起動する。
【0058】
まず第2クラッチ5を目標クラッチ伝達トルクで滑り締結するための目標第2クラッチトルク指令を、ATコントローラ24に出力する。上記目標第2クラッチ伝達トルク指令TCL2は、エンジン始動処理前の出力トルク相当のトルクを伝達可能な伝達トルク指令であって、モータ2が出力する駆動トルクを増大したとしても出力軸トルクに影響を与えない範囲とする。ここで、ATコントローラ24は、指令に応じたクラッチ油圧が発生するように第2クラッチ油圧ユニットを制御する。このとき、第2クラッチ5は滑り締結状態となる。
【0059】
次に、モータコントローラ23に、モータ2を回転数制御する指令を出力する。なお、モータ2の実トルクはモータ2に作用する負荷によって決定される。続いて、ATコントローラ24に対して、第1クラッチ4のトルク伝達トルクがエンジンクランキング用のトルクとなるトルク指令を出力する。これによって第1クラッチ4は滑り締結状態となる。
【0060】
続いて、エンジン回転数とモータ回転数とが同期したことを検知したら、クランキング処理の終了として第1クラッチ4を完全締結とするロックアップ指令を出力する。第1クラッチ4の同期判定は、実モータ回転と実エンジン回転の差回転が規定値以下の状態が規定時間経過したときに同期したと判定する。規定値は第1クラッチトルク制御中から完全締結移行時の応答無駄時間相当の差回転を設定する。さらに、エンジン回転数が始動可能回転数以上になったことを検知したら、エンジンコントローラ22に対してエンジン始動指令を出力する。更に、第2クラッチ5を完全締結とするロックアップ指令を出力する。そしてエンジン始動フラグをOFFにして復帰する。
【0061】
エンジン停止制御部21Gは、エンジン停止指令(エンジン停止フラグがON)を取得すると起動し、HEVモードからEVモードへの移行処理を行う。
例えば、エンジン停止制御部21Gは、エンジン停止指令(エンジン停止フラグがON)を取得すると起動して、まず、ATコントローラ24に対して、第1クラッチ4を滑り締結する予め設定したトルク指令を出力する。同期をとって、モータコントローラ23に、モータ2を回転数制御する指令を出力する。これによって、第1クラッチ4によるエンジン1からのトルクを減少しつつ、モータトルクを増大して、目標駆動トルクを得る。目標モータトルクが目標駆動トルクとなったら、第1クラッチ4を目標クラッチ伝達トルク=0にするための目標第1クラッチ4トルク指令を、ATコントローラ24に出力する。その後、エンジン停止フラグをONにし、またエンジンコントローラ22に対して目標エンジントルクにゼロを設定して出力する。これによって、エンジンは燃料カット(F/C)され、エンジンは空回りしている状態となる。
【0062】
目標クラッチトルク算出部21Kは、車両状態モード決定部21Eが決定した目標車両状態モード、エンジン1及びモータ2の発生トルクに基づき、第1クラッチ4及び第2クラッチ5の目標各クラッチトルクを算出する。なお、EVモード状態の場合には、通常、ATコントローラ24に対し、第1クラッチ4の開放指令を出力すると共に第2クラッチ5の締結指令を出力することで、第1クラッチ4を開放状態とすると共に、第2クラッチ5を締結状態とする。また、HEVモード状態の場合には、通常、ATコントローラ24に対し、第1クラッチ4の締結指令を出力すると共に第2クラッチ5の締結指令を出力することで、第1クラッチ4を締結状態とすると共に第2クラッチ5を締結状態とする。また、エンジン始動若しくは停止処理の場合には、上述の締結開放状態となるクラッチトルクを算出する。
なお、図3におけるVAPO演算21Lは、クルーズ要求トルクから逆算して対応する推定アクセル開度を演算して、演算した推定アクセル開度を変速用アクセル開度としてATコントローラ24に出力する。
【0063】
(作用)
自動走行であるオートクルーズ走行の制御中でない場合には、アクセル開度APOに基づくドライバ要求トルクを目標駆動トルクとして、駆動源であるエンジン1及びモータ2の少なくとも一方の出力が制御される。そして、例えば、アクセルが踏み込まれて車両が所定車速以上となるなど、エンジン始動要求を満足すると、エンジン1が始動されて、HEVモードでの走行状態となり、また、例えばアクセルが踏み戻されて、エンジン停止要件を満足すると、エンジン1が停止されてEVモードに移行する。
【0064】
一方、ステアリングスイッチ28が操作されて、オートクルーズ走行の制御が起動されると、運転者によって設定された設定車速とするための目標車速を目標値として自動制御要求トルクを算出する。そして、その自動制御要求トルク(目標駆動トルク)となるように、駆動源であるエンジン1及びモータ2の少なくとも一方の出力が制御される。この場合、運転者が一時的な加速要求を実施しない場合には、アクセルペダル33はOFFの状態となっている。一時的に加速したい場合にだけ、運転者はアクセルペダル33を踏み込むことで、車両は一時的に加速される。またステアリングスイッチ28の加速SW及びコーストSWの操作によって設定車速の増減が行われる。
【0065】
ここで、自動走行状態であるオートクルーズ走行のうちの、定速クルーズ走行中(定速走行制御中)を想定する。
目標車速が運転者が設定した設定車速となったら、駆動源の出力は、走行抵抗トルク分相当の駆動トルクに制御されて、目標車速=設定車速で走行するように調整されることとなる。そして、クルーズ要求トルク(目標駆動トルク)が走行抵抗トルク分相当であることから、通常は、要求されるトルクが小さいため、EVモードでの走行状態となる。
ここで、EVモードの場合には、エンジン1が停止状態でかつ第1クラッチ4が開放状態となっている。
そして、図13のように、平坦路から下り勾配の坂道を走行するシーンになると、目標車速を維持するために、コースト走行(減速走行)となり、EVモードであるから、目的とするコースト走行を実現するためのコースト減速トルクをモータ2の回生トルクで発生する。
【0066】
このように下り勾配の路面を走行する際、コースト減速によって車速を維持する場合は、モータ2が回生状態によって、そのモータ回生トルクによる発電によってバッテリ9のSOCが上昇する。そして、コースト減速が継続することで、SOC上昇して電池充電許可電力(PIN)が制限される(図13参照)。電池充電許可電力(PIN)が制限されることで、モータ下限トルクが制限(0kWに近づく)、つまりモータ下限トルク(この場合は負値)が大きくなって、モータでの回生トルクが小さくなる。この結果、EVモードでのコースト減速を継続すると、徐々にコースト減速トルクが弱まり、目的とするクルーズ走行時の目標車速を維持できなくなってしまう(図13参照)。
【0067】
これに対し、本発明に基づく実施形態の構成を採用すると、図14に示すようなタイムチャート例となる。
すなわち、下り坂の路面を走行することで、クルーズ要求トルク(目標駆動トルク)が負となって、コースト走行に移行すると、SOCが始動判定SOC以上となるか、モータトルクがモータ2が発生可能なモータ下限トルクとなった時点で、エンジン始動要求=ONとなって、第1クラッチ4が締結すると共に、エンジン1が始動されてHEVモードに移行する。エンジン始動後はF/C指令により、エンジン1はフリクショントルクによる減速度を発生する。
【0068】
この結果、クルーズ要求トルクを実現するための減速度の一部をエンジンフリクショントルクで賄う事になるため、モータトルクへの配分が減る。これによって、コーストモータ回生トルクが低減することで、その分、SOC上昇が抑えられる。
SOC上昇が抑えられると、電池充電許可電力(PIN)の制限も抑えられ、モータ下限トルクが制限されない状態が図13に比べて長く継続することとなる。これによって、コースト減速トルクによるコースト走行の実現可能状態がより長く継続することになる。すなわち、本来クルーズ要求トルクによるエンジン始動要求が不要な場面である、下り勾配を走行するシーンで、本実施形態ではエンジン始動する。この結果、モータ回生トルクが低減して、目標車速追従状態をより継続させることが可能となる。
【0069】
ここで、自動制御要求トルク演算部21Dbは、自動走行手段を構成する。
(本実施形態の効果)
(1)自動走行手段は、運転者による起動操作によって作動して、運転者が設定した走行状態に応じた目標車速に自動調整するための自動制御要求トルクを算出する。そして、モータだけを駆動源として走行中であって、当該モータの回生によるコースト減速トルクで車速を上記目標車速に制御しているときに、バッテリへの充電許可電力が制限されると判定すると、上記エンジンを始動し、始動後のエンジンフリクショントルクを上記コースト減速トルクの一部とする。
コースト減速トルクの一部をエンジンフリクションで賄う事により、モータ回生トルクを低減してSOC上昇を抑える。この結果、目的とするコースト走行の継続時間を延ばすことが可能となる。
【0070】
(2)バッテリのSOCが予め設定した始動判定SOC値以上の場合に、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定する。
これによって、充電許可電力が制限されることを所定の精度を持って検出可能となる。
(3)自動制御要求トルクがモータで発生可能な下限のトルク未満となった場合に、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定する。
これによって、充電許可電力が制限されることを所定の精度を持って検出可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン
2 モータ
4 第1クラッチ
5 第2クラッチ
7 駆動輪
9 バッテリ
21 統合コントローラ
21A 要求発電トルク演算部
21B 要求エンジントルク演算部
21C モータ出力可能トルク演算部
21D 目標駆動トルク演算部
21Da ドライバ要求トルク演算部
21Db 自動制御要求トルク演算部
21Dc 第1目標駆動トルク演算部
21Dd 車速リミッタトルク演算部
21De 最終目標駆動トルク演算部
21E 車両状態モード決定部
21Ea コースト減速トルク不足時始動要求判定部
21Eb コースト時始動要求判定部
21Ec エンジン始動停止判定処理部
21Ed モード遷移処理部
21F エンジン始動制御部
21G エンジン停止制御部
21H 目標エンジントルク算出部
21J 目標モータトルク算出部
21K 目標クラッチトルク算出部
22 エンジンコントローラ
23 モータコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に駆動力を伝達する駆動源としてエンジン及びモータを備えると共に、上記モータの回生によって充電されるバッテリを備えるハイブリッド車両の走行を制御する車両用走行制御装置であって、
運転者による起動操作によって作動して、運転者が設定した走行状態に応じた目標車速に自動調整するための自動制御要求トルクを算出する自動走行手段を備え、
上記モータだけを駆動源として走行中であって、当該モータの回生によるコースト減速トルクで車速を上記目標車速に制御しているときに、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定すると、上記エンジンを始動し、始動後のエンジンフリクショントルクを上記コースト減速トルクの一部とすることを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
バッテリのSOCが予め設定した始動判定SOC値以上の場合に、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定することを特徴とする請求項1に記載した車両用走行制御装置。
【請求項3】
自動制御要求トルクがモータで発生可能な下限のトルク未満となった場合に、上記バッテリへの充電許可電力が制限されると判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−86773(P2012−86773A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237090(P2010−237090)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】