説明

車両用駆動力制御装置

【課題】車間距離に応じて変速機の変速制御が行われる技術において、自車が前車を追い越すと推定又は検出される場合には、自車が前車を追い越さないと推定又は検出される場合に比べて、より大きな駆動力が得られ易い変速機の変速制御が行われる車両用駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】運転者が先行車との位置関係を保つような走行を望むか、又は前記先行車を追い越す走行を望むかを推定する推定手段を備え、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、前記相対的に低速用の変速段への変速が実行され易くされる、又は、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、より低速用の変速段への変速が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機を相対的に低速用の変速段又は変速比に変速する動作により、車両の駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2001−235017号公報(特許文献1)には、所定時間内の平均車速、アクセル開度高時間、アクセル踏込み時間を用いて、ファジールールにより運転者の加速指向をスポーツ/ミディアム/エコノミー等に判別し、この運転者の加速指向に応じてATの変速タイミングを変化させる技術が開示されている。なお、上記特許文献1には、上記所定時間として、長さの異なる2種類の時間が用いられることで、例えば定常的にスポーツ指向であるのか、それとも、一時的なスポーツ指向であるのかが判断されることができ、より運転者の加速指向に合った変速タイミングが実現される旨が記載されている。
【0003】
特開2000−118369号公報(特許文献2)には、車間距離および自車速度から相対速度および自車加速度を算出し、これらの値に基づいて目標減速度を求め、メモリに記憶し、スロットル弁開度の変化から、運転者の減速操作を検出すると、目標減速度に応じて変速機の変速比を制御して減速制御を行う技術が開示されている。
【0004】
上記特許文献1の技術は、自車の走行状態からATの変速タイミングを変化させるものであって、そのATの制御は、自車と、その自車の先方の前車との位置関係とは無関係に行われる。即ち、上記特許文献1の技術は、例えば、自車が前車に接近した場合に、車両の駆動力制御(減速制御)を行うものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−235017号公報
【特許文献2】特開2000−118369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、車間距離に応じて変速機の変速制御が行われる技術においては、相対車速が低い状態で、自車が前車に接近したときには、エンジンブレーキ力のみで適度な車間距離が確保できることから、通常ダウンシフトは行われない設定とされている。
【0007】
ここで、上記のように、相対車速が低い状態で自車が前車に接近し、自車が前車を追い越す場合について考える。この場合、自車が前車に接近する時には、ダウンシフトは不要であるが(上記のようにエンジンブレーキ力のみで適度な車間距離が確保できるため)、追い越し時には運転者の要求する駆動力を満たすために、ダウンシフトが必要となる。
【0008】
そこで、上記のような追い越しが行われる場合を想定して、上記設定(相対車速が低い状態ではダウンシフトは行われない設定)に代えて、相対車速が低い状態であってもダウンシフトが行われるように設定することが考えられる。ところが、その設定では、追い越しが行われない場合(自車が前車に追従走行していく場合が含まれる)には、車両に作用する減速度が過大となり、ドライバビリティ(走行フィーリング)が良くない結果となる。
【0009】
車間距離に応じて変速機の変速制御が行われる技術において、自車が前車を追い越す場合には、より大きな駆動力が得られるように(より低速用の変速段への)ダウンシフトが行われ易く、その反対に、自車が前車を追い越さない場合(自車が前車に追従していく場合が含まれる)には、過度な減速度が発生しないように(より低速用の変速段への)ダウンシフトが行われ難いことが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、車間距離に応じて変速機の変速制御が行われる技術において、自車が前車を追い越すと推定又は検出される場合には、自車が前車を追い越さないと推定又は検出される場合に比べて、より大きな駆動力が得られ易い変速機の変速制御が行われる車両用駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車両用駆動力制御装置は、車両の前方の先行車との位置関係を適正にするために、運転者の減速意思が検出されたときに前記車両の変速機を相対的に低速用の変速段又は変速比に変速制御する車両用駆動力制御装置であって、運転者が前記先行車との位置関係を保つような走行を望むか、又は前記先行車を追い越す走行を望むかを推定する推定手段を備え、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行され易くされる、又は、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、より低速用の変速段又は変速比への変速が実行されることを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行され易くされるとは、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、前記先行車と前記車両との相対車速が小さい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されること、前記先行車と前記車両との車間距離が大きい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されること、及び前記先行車と前記車両との車間時間が大きい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されることの少なくともいずれか一つに対応していることを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記推定手段は、前記運転者の減速意図が検出される以前の前記先行車と前記車両との相対車速の統計値に基づいて、前記推定を行うことを特徴としている。
【0014】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記推定手段は、第1の期間の前記相対車速のデータに関する第1の前記統計値と、前記第1の期間とは長さの異なる第2の期間の前記相対車速のデータに関する第2の前記統計値に基づいて、前記推定を行うことを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、自動変速機の変速段又は変速比を制御して駆動力の制御を行う車両用駆動力制御装置に関する。
【0017】
本実施形態は、自車の前方の車両(前車)と自車との車間距離と相対車速に基づき、運転者の減速意図に応答して、自動変速機のダウンシフト制御を行って駆動力制御を行うものにおいて、運転者の指向が追従指向(前車に追従していくことを好む)であるのか、それとも、追い越し指向(前者を追越していくことを好むか)であるのかを、前車と自車の相対車速に基づいて判断し、その判断の結果、追い越し指向である場合には、追従指向時よりも、低い相対車速及び/又は大きな車間距離であってもダウンシフトを行い、追い越しに備えて大きな駆動力を発生させて、追い越しが迅速に行えるようにするものである。
【0018】
前車を追い越す時には、運転者は、前車との車間距離を気にしつつ追い越し操作をすることになるので、ダウンシフトによる減速度が通常時(追従指向時が含まれる)より大きいことよりも、車両が速やかに加速することにうれしさを感じる。特に前車との車間距離に余裕が少なくなるに連れて、その傾向は大きくなる。このことから、本実施形態では、追い越し時(追い越し指向と判定された時)には、より積極的にダウンシフトが行われることにして、運転者のドライバビリティ(走行フィーリング)が向上するようにしている。
【0019】
本実施形態の構成としては、以下に詳述するように、ミリ波レーダーによる車間距離センサなどのように、前車との車間距離、相対車速及び前車の加速度を計測又は算出する手段と、運転者の減速意図(アクセル操作)を検出する手段と、上記車間距離の情報と運転者の減速意図に基づいて、自動変速機(AT、CVT、HV(ハイブリッド車に搭載されたAT)、MMT(自動変速モード付きマニュアルT/M))の変速制御を行う減速制御手段が前提となる。
【0020】
図2において、符号10は自動変速機、40はエンジンである。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて6段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
【0021】
スロットル開度センサ114は、エンジン40の吸気通路41内に配置されたスロットルバルブ43の開度を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。加速度センサ90は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。車間距離計測部100は、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサを有し、先行車両との車間距離を計測する。
【0022】
運転指向演算部118は、CPU131の一部として設けられることができる。運転指向演算部118は、相対車速の統計値(標準偏差及び/又は平均値)に基づいて、運転者の運転指向が追い越し指向であるのか、それとも追従指向であるのか推定するものである。
【0023】
制御回路130は、スロットル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、加速度センサ90の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、車間距離計測部100による計測結果を示す信号を入力する。
【0024】
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、116、122、123、90からの信号、上述のスイッチ117からの信号、及び車間距離計測部100のそれぞれからの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
【0025】
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムが格納されているとともに、自動変速機10のギヤ段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
【0026】
次に、図3を参照して、本実施形態における追い越し指向、及び追従指向の判定について説明する。
【0027】
図3は、追い越し走行時及び追従走行時のそれぞれの相対車速の分布を示している。図3に示すように、追従走行が行われている時、相対車速(=前車車速−自車速)の標準偏差は、3〜5km/hの範囲にあり、運転者による違いは少ないといわれている(例えば、第3回交通安全研究所研究発表論文集、追従走行時のドライバの挙動参照)。
【0028】
これに対して、追い越しは、通常、自車速>前車車速(上記相対車速が負)の時に行われ、追い越し中も、自車速>前車車速である(上記相対車速が負の状態が継続する)ので、前車を追い越すことが多い場合、相対車速の標準偏差は、追従走行時よりも大きくなる(図3参照)。このことから、相対車速の標準偏差に基づいて、運転者が追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかを推定することが可能である。
【0029】
また、図3に示すように、追従走行時は、相対車速の平均値≒0となるが、追い越すことが多い場合、相対車速の平均値が負側となる。このことから、相対車速の平均値に基づいて、運転者が追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかを推定することが可能である。上記のように、相対車速の標準偏差や平均値から、過去において、その運転者が、前車を追い越してばかりしていたのか、それとも前車に追従ばかりしていたのかが分かり、それに基づいて、運転者の指向が推定される。
【0030】
次に、図1及び図2を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0031】
[ステップS1]
まず、図1のステップS1に示すように、自車の前方に車両(前車)があるか否かが判定される。具体的には、制御回路130は、車間距離計測部100から入力した車間距離を示す信号に基づいて、自車と自車線の前車との車間距離が所定値以下であるか否かを判定する。ステップS1の結果、車間距離が所定値以下であると判定されれば、ステップS2に進む。一方、車間距離が所定値以下であると判定されなければ、ステップS11に進む。
【0032】
[ステップS2]
ステップS2では、制御回路130により、車間距離Dと、相対車速Vdが算出される。車間距離計測部100として、例えばミリ波レーダーが使用される場合には、車間距離と、相対車速が直接計測されることができる。ステップS2の次に、ステップS3が行われる。
【0033】
[ステップS3]
ステップS3では、上記ステップS2で求められた相対車速Vdのデータが制御回路130のメモリに格納される。ステップS3の次に、ステップS4が行われる。
【0034】
[ステップS4]
ステップS4では、制御回路130の運転指向演算部118により、上記ステップS3にてメモリに格納された相対車速Vdのデータのうち、最新のn個の相対車速Vdのデータを用いて、標準偏差Vstdが算出される。ステップS4の次にステップS5が行われる。
【0035】
[ステップS5]
ステップS5では、運転指向演算部118により、上記ステップS4にて求められた標準偏差Vstdが予めROM133に設定された所定値よりも大きいか否かが判定される。その判定の結果、標準偏差Vstdが上記所定値よりも大きいと判定された場合(ステップS5−Y)には、追い越し指向と判定されてステップS6に進む。一方、その判定の結果、標準偏差Vstdが上記所定値よりも大きいと判定されなかった場合(ステップS5−N)には、追従指向と判定されてステップS7に進む。ここで、標準偏差Vstdに基づいて、運転者が追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかを判定できる理由については、図3を参照して上述した通りである。
【0036】
[ステップS6]
ステップS6では、制御回路130により、ROM133に予め設定された追越用変速段テーブル(図4)が選択される。ステップS6の次に、ステップS8が行われる。
【0037】
[ステップS7]
ステップS7では、制御回路130により、ROM133に予め設定された追従用変速段テーブル(図5)が選択される。ステップS7の次に、ステップS8が行われる。
【0038】
図4及び図5に示すように、追越用変速段テーブル(図4)では、追従用変速段テーブル(図5)に比べて、相対的に低い相対車速及び/又は相対的に低い車間時間でダウンシフトが行われるような設定とされている。また、相対車速及び車間時間が同じ条件であるときに、追越用変速段テーブル(図4)では、追従用変速段テーブル(図5)に比べて、相対的に低い変速段又は変速比に変速されるように設定されている。
【0039】
[ステップS8]
ステップS8では、制御回路130により、スロットル開度センサ114からの信号に基づいて、アクセルがOFFの状態か否かが判定される。ステップS8では、運転者による減速意図が確認される。ステップS8の結果、アクセルがOFFの状態であると判定されれば、ステップS9に進む。ステップS9から車両の駆動力制御が開始される。一方、アクセルがOFFの状態であると判定されなければ、ステップS11に進む。
【0040】
[ステップS9]
ステップS9では、制御回路130により、上記ステップS6又はステップS7により選択された変速段テーブルが参照されて、目標変速段(=N段とする)が求められる。ここでは、上記ステップS5の判定結果として求められた運転者の指向(追越指向又は追従指向)が反映された目標変速段(N段)が求められる。
【0041】
制御回路130は、上記ステップS6又はステップS7にて選択された上記追越指向時目標変速段テーブル又は追従指向時目標変速段テーブルを参照して、車間時間(車間距離/自車速)及び相対車速に基づいて、変速制御によるダウンシフト先としての変速段が決定される。例えば、相対車速が8[km/h]であって、車間時間が1.3[sec]であるとき、図4の追越指向時目標変速段テーブルによれば、目標変速段(N段)は4速であるのに対して、図5の追従指向時目標変速段テーブルによれば、目標変速段(N段)は6速である。
【0042】
[ステップS10]
ステップS10では、制御回路130により、(N+1)段以上の変速段の使用が禁止される。制御回路130により、目標変速段への変速制御が開始される。現状の変速段>N段成立時には、N段にダウンシフトが行われ、その後のアップシフトが禁止される。また、現状の変速段=N段成立時には、アップシフトが禁止される。
【0043】
即ち、上記追越指向時目標変速段テーブル又は追従指向時目標変速段テーブルを参照して選択された目標変速段(N段)と、現状の変速段が比較され、目標変速段(N段)の方が低速用の変速段であれば、目標変速段(N段)にダウンシフトが行われるとともに、その後のアップシフトが禁止される。一方、現状の変速段に比べて目標変速段(N段)の方が低速用の変速段ではない場合には、変速が行われずにそのままであり、アップシフトが禁止される。
【0044】
上記ステップS5の判定結果として、追い越し指向であると判定された場合には、追従指向であると判定された場合に比べて、ステップS10による変速制御によって、より低速用の変速段に変速される場合が多く、その場合には、その変速後の変速段(目標変速段)により、追い越し時(加速時)に、通常時(追従指向時)よりも、大きな駆動力が得られる。これにより、迅速な追い越しが可能となるため、追い越し指向の運転者は、ドライバビリティが良好であると感じる。
【0045】
また、上記の場合と同様に、上記ステップS5の判定結果として、追い越し指向であると判定された場合に、追従指向であると判定された場合に比べて、より低速用の変速段に変速される場合には、その分、より大きなエンジンブレーキ力が発生する。その場合には、その分、通常時(追従指向時)よりも、前車に対する接近が抑えられ、前車との間により大きな車間距離が確保されることになる。このように、アクセルオフ時(加速に入る前の段階)において、より大きな車間距離が残っている(車間距離に余裕がある)方が、追い越しのための加速時(アクセルオン時)に、前車との車間距離を気にする必要が少ない。この意味においても、追い越し指向の運転者は、ドライバビリティが良好であると感じる。ステップS10の次に、ステップS11が実行される。
【0046】
[ステップS11]
ステップS11では、制御回路130により、N+1段以上の変速段の使用禁止(上記ステップS10)からの復帰条件が成立したか否かが判定される。その復帰条件は、予め設定されていることができ、例えば、運転者のアクセルオン操作後、予め設定された所定時間が経過されたことであることができる。ステップS11の判定の結果、復帰条件が成立している場合(ステップS11−Y)には、ステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)には、本制御フローはリターンされる。
【0047】
[ステップS12]
ステップS12では、制御回路130により、N+1段以上の変速段の使用禁止(上記ステップS10)が解除される。即ち、本実施形態による駆動力制御(変速点制御)が終了し、通常の変速点マップに基づいた変速制御に復帰する。ステップS12の次に、本制御フローは終了する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態は、前車と自車の車間距離に基づいて、運転者の減速意図を制御開始トリガとして、駆動力制御(減速制御)を行うものにおいて、前車と自車との関係(相対車速が含まれる)に基づいて、運転者が前車に追従したいのか、それとも前車を追い越したいのかに関する運転指向を推定し、その推定結果に基づいて、最適な変速段制御を行うものである。
【0049】
これにより、従来、前者を追い越す場合には、運転者のアクセル操作に応答してダウンシフト(キックダウン)が発生し、加速に遅れが生じる場合があったが、本実施形態によれば、追い越しのアクセル操作前に、適切な変速段に確実にダウンシフトされるので、スムーズに加速することができ、ドライバビリティが向上する。
【0050】
本実施形態では、変速段の選択に関して、その変速段により得られる、減速時の減速度と加速時の加速度の両方を考慮した変速段へのダウンシフトが行われる。即ち、運転者が追い越し指向であるのか、それとも追従指向であるのかによって、減速時のエンジンブレーキ力と加速時の駆動力の重み付けの最適化がなされた変速段が選択されるようになっている。
【0051】
例えば、追従時(追従指向時)には、減速時のエンジンブレーキ力と加速時の駆動力の重み付けは、50:50であるのに対し、追い越し時(追い越し指向時)には、追従時に比べて、相対的に加速時の重み付けが大きく設定されて、減速時のエンジンブレーキ力と加速時の駆動力の重み付けの比は、20:80とされる。
【0052】
これにより、追い越し時(追い越し指向時)には、相対車速が低い場合、即ち、前車との相対的位置関係に関する減速制御の観点からは、ダウンシフトする必要性が少ない場合であっても、追い越し時により大きな駆動力を得る(加速時の駆動力の重み付けが大きい)という観点から、積極的にダウンシフトが行われる。
【0053】
上述したように、従来は、単一の目標変速段テーブルに基づいて、ダウンシフト量が決定されていたため、前車を追い越す時に適したダウンシフト量と、前車に追従する時のダウンシフト量の両立ができなかった。これに対し、本実施形態では、前車との相対的な関係(本例では相対車速である)に基づいて、運転者が前車を追い越そうとしている(可能性が高い)のか、前車に追従しようとしている(可能性が高い)のかを推定し、その推定結果に応じて、追越指向用の目標変速段テーブルと、追従指向用の目標変速段テーブルとを使い分けることで、運転者の感覚/要求に合ったダウンシフトが行われる。
【0054】
本実施形態では、上記前車との相対的な関係の例として、相対車速が用いられたが(ステップS4、ステップS5)、相対車速に限定されず、例えば、衝突時間(車間距離/相対車速)、車間時間(車間距離/自車速)、それらの組み合わせが用いられることができる。衝突時間は、相対車速のパラメータを含んでいるため、置き換えが可能である。また、車間時間には、相対車速のパラメータを含んでいないが、普段の車間時間に比べて車間を詰めて走行している場合には、追い越し指向と判定することで、置き換えか可能である。
【0055】
(第1実施形態の第1変形例)
次に、上記第1実施形態の第1変形例について説明する。
なお、上記第1実施形態と共通する内容についての説明は省略する。
【0056】
上記第1実施形態では、相対車速の標準偏差に基づいて、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定された(ステップS4、ステップS5)。本変形例では、上記相対車速の標準偏差に代えて、相対車速の平均値に基づいて、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定されることができる。その理由は、図3を参照して説明した通りである。
【0057】
また、相対車速の標準偏差と平均値のアンド条件により、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定されることができる。これに代えて、相対車速の標準偏差と平均値のオア条件により、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定されることができる。
【0058】
(第1実施形態の第2変形例)
【0059】
本変形例では、直近の運転者の指向の判定が可能となるように、上記相対車速の標準偏差が算出されるに際して(図1のステップS4)、過去の相対車速のデータのうち標準偏差の算出に使用するデータを限定し、運転者のクセ等の影響がでないようにするものである。以下に具体的に説明する。
【0060】
上記第1実施形態では、最新のn個の相対車速の標準偏差に基づいて、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定された(ステップS4、ステップS5)。これに対して、本変形例では、最新のm個の相対車速の標準偏差と、最新のn個の相対車速の標準偏差の比較に基づいて、追従指向であるのか、それとも追い越し指向であるのかが判定されることができる。ここで、m≫nとし、最新のm個の相対車速の標準偏差Vstmは、最新のn個の相対車速の標準偏差Vstnに比べて、長時間のデータに基づくデータとする。
【0061】
即ち、本変形例では、上記第1実施形態の図1のステップS4の内容が、”最新のn個の相対車速Vdを使い、標準偏差Vstnを算出するとともに、最新のm個の相対車速Vdを使い、標準偏差Vstmを算出する。”に変更される。
また、本変形例では、上記第1実施形態の図1のステップS5の内容が、”(Vstn−Vstm)>設定値?”に変更される。
【0062】
上記標準偏差Vstmは、運転者の普段の操作を反映したデータであり、この標準偏差Vstmと上記標準偏差Vstnを比較することにより、直近の運転者の指向が精度良く推定されることができる。
【0063】
なお、上記においては、有段の自動変速機10を例にとり説明したが、CVTに適用することも可能である。また、上記においては、車両が減速すべき量を示す減速度は、減速加速度(G)を用いて説明したが、減速トルクをベースに制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の車両用走行制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の車両用走行制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】本発明の車両用走行制御装置の第1実施形態における運転者指向(追い越し指向か追従指向か)と相対車速との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の車両用走行制御装置の第1実施形態における追越指向用目標変速段テーブルを示す図である。
【図5】本発明の車両用走行制御装置の第1実施形態における追従指向用目標変速段テーブルを示す図である。
【符号の説明】
【0065】
10 自動変速機
40 エンジン
90 加速度センサ
100 車間距離計測部
114 スロットル開度センサ
116 エンジン回転数センサ
118 運転指向演算部
122 車速センサ
123 シフトポジションセンサ
130 制御回路
131 CPU
133 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方の先行車との位置関係を適正にするために、運転者の減速意思が検出されたときに前記車両の変速機を相対的に低速用の変速段又は変速比に変速制御する車両用駆動力制御装置であって、
運転者が前記先行車との位置関係を保つような走行を望むか、又は前記先行車を追い越す走行を望むかを推定する推定手段を備え、
前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行され易くされる、又は、前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、より低速用の変速段又は変速比への変速が実行される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動力制御装置において、
前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行され易くされるとは、
前記先行車を追い越す走行を望むと推定される場合には、前記先行車との位置関係を保つような走行を望むと推定される場合に比べて、
前記先行車と前記車両との相対車速が小さい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されること、
前記先行車と前記車両との車間距離が大きい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されること、及び
前記先行車と前記車両との車間時間が大きい状態で前記相対的に低速用の変速段又は変速比への変速が実行されることの少なくともいずれか一つに対応している
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記推定手段は、前記運転者の減速意図が検出される以前の前記先行車と前記車両との相対車速の統計値に基づいて、前記推定を行う
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両用駆動力制御装置において、
前記推定手段は、第1の期間の前記相対車速のデータに関する第1の前記統計値と、前記第1の期間とは長さの異なる第2の期間の前記相対車速のデータに関する第2の前記統計値に基づいて、前記推定を行う
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−71084(P2006−71084A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259038(P2004−259038)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】