説明

車両用駆動力制御装置

【課題】検出対象の位置検出精度の問題で良好な駆動力制御が妨げられることを抑制することが可能な車両用駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】車両の先方の環境を検出し、前記環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置であって、道路上又は道路周辺の印の情報を予め記憶する記憶手段と、前記印を検出する手段と、前記検出された印に基づいて車両と前記環境との距離情報を求める手段(S40)と、前記距離情報に基づいて、駆動力制御を行う(S70)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動力制御装置に関し、特に、車両の先方の環境を検出し、その検出された環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の先方の環境(例えば、コーナー、交差点、一時停止地点などが含まれる)を検出し、その検出された環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特開2000−145937号公報(特許文献1)には、コーナー進入時にコーナーの通過に適した変速段に制御する技術が開示されている。上記特許文献1の技術では、位置精度が悪い状態を見込んでコーナー領域を決定しているため、適切な変速制御ができない場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−145937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の現在位置や車両先方の環境の位置のような検出対象の位置検出精度が悪い場合には、車両の先方の環境に適した駆動力制御が良好に行われない場合がある。例えば、車両の現在位置と車両先方の環境との距離に基づいて、駆動力制御の要否を判定する場合に、車両の現在位置の検出精度が悪いと、不要な駆動力制御が行われる場合がある。また、例えば、車両の現在位置と車両先方の環境との距離に基づいて、駆動力制御の態様を変更する場合に、車両の現在位置の検出精度が悪いと、良好な駆動力制御が行われない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、検出対象の位置検出精度の問題で良好な駆動力制御が妨げられることを抑制することが可能な車両用駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用駆動力制御装置は、車両の先方の環境を検出し、前記環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置であって、道路上又は道路周辺の印の情報を予め記憶する記憶手段と、前記印を検出する手段と、前記検出された印に基づいて車両と前記環境との距離情報を求める手段と、前記距離情報に基づいて、駆動力制御を行うことを特徴としている。
【0008】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記駆動力制御は、車両がコーナーを通過するために求められる必要減速度となるように車両の減速度を制御する技術であることを特徴としている。
【0009】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記距離情報に基づいて、前記駆動力制御を実行するか否かを決定することを特徴としている。
【0010】
本発明の車両用駆動力制御装置は、車両の先方の環境を検出し、前記環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置であって、道路上又は道路周辺の印を検出する手段と、前記検出された印に基づいて前記印と前記環境との距離情報を求める手段と、前記距離情報に基づいて、駆動力制御を行うことを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用駆動力制御装置であって、道路上又は道路周辺の印の情報が予め記憶されているか否かを判断する手段と、前記判断の結果に応じて、前記駆動力制御の態様を変更することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出対象の位置検出精度の問題で良好な駆動力制御が妨げられることを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。
【0015】
車両先方のコーナーの曲がり度合い(半径、曲率などを含む)に基づいて、変速機をダウンシフトすることにより減速制御を行なう車両用駆動力制御装置においては、先方のコーナーまでの距離やコーナーの曲がり度合いに基づいて、制御実施・非実施の判別車速を計算している。このとき、ナビゲーションシステム装置により検出される現在位置の誤差を考慮して、コーナーの進入位置から手前にオフセットを取って判別車速線を計算している。また、コーナーに進入するに際しての必要減速度を計算して、その必要減速度を実現するように減速度を付与する制御が考えられている。
【0016】
上記において、ナビゲーションシステム装置による現在位置の検出精度が十分ではないことから、以下の問題が生じていた。制御の要否判定を良好に行うことができず、不要なダウンシフトを行う領域が増大する。コーナーに進入するに際しての必要減速度を計算して、その必要減速度を実現するように減速度を付与する制御では、車両に付与する減速度に過不足が生じる場合がある。なお、ナビゲーションシステム装置の地図情報の整備・更新には、コストと時間がかかる。
【0017】
図2を参照して、本実施形態の構成について説明する。
【0018】
図2において、符号10は有段の自動変速機、40はエンジンである。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて6段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
【0019】
スロットル開度センサ114は、エンジン40の吸気通路41内に配置されたスロットルバルブ43の開度を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。加速度センサ90は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。
【0020】
ナビゲーションシステム装置95は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、演算処理装置と、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶された情報記憶媒体と、自立航法により自車両の現在位置や道路状況を検出し、地磁気センサやジャイロコンパス、ステアリングセンサを含む第1情報検出装置と、電波航法により自車両の現在位置、道路状況などを検出するためのもので、GPSアンテナやGPS受信機などを含む第2情報検出装置等を備えている。
【0021】
制御回路130は、スロットル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、加速度センサ90の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、ナビゲーションシステム装置95からの信号を入力する。
【0022】
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、116、122、123、90からの信号、上述のスイッチ117からの信号、及びナビゲーションシステム装置95のそれぞれからの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
【0023】
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)を記述したプログラムが格納されているとともに、自動変速機10の変速段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が格納されている。
【0024】
制御回路130は、予め記憶された変速線図から実際のエンジン負荷に対応するアクセル開度および車速に基づいて自動変速機10のギヤ段を決定し、この決定されたギヤ段を成立させるように自動変速機10に設けられた油圧制御回路の電磁弁121a〜121cを制御する自動変速制御を実行する。
【0025】
次に、本実施形態の動作を説明する。
以下では、コーナーの大きさに基づいて、自動変速機10の変速段を変速して減速度の制御(コーナー制御)を行なう場合について説明する。
【0026】
図3は、本実施形態の減速制御の前提を説明するためのチャートである。図3において、横軸は距離を示しており、減速制御の要否を決める判別車速とコーナーまでの距離との関係を示す制御実施境界線Lc、必要減速度401、目標旋回車速Vreq、道路形状上面視、アクセルがOFF(アクセル開度が全閉)とされた地点aが示されている。
【0027】
図3に示すように、先方のコーナー402は、地点403から地点404に存在している。そのコーナー402を予め設定された所望の旋回Gで旋回するために、コーナー402の入口403から所定量手前にオフセットされた地点bにおいて、コーナー402の半径(又は曲率)R405に対応した、目標旋回車速Vreqにまで減速されている必要がある。
【0028】
目標旋回車速Vreqは、例えば、下記数式1より求めることができる。
【数1】

【0029】
本実施形態では、制御回路130により、制御実施境界線Lcに基づいて、本制御の要否が判定される。その判定では、図3において、現在の車速とコーナー402の入口403までの距離Ld(図示せず)との関係で、減速制御の要否を決める判別車速Vt(図示せず)を示す制御実施境界線Lcよりも上方に位置すれば、本制御が必要と判定され、制御実施境界線Lcよりも下方に位置すれば、本制御は不要と判定される。
【0030】
制御実施境界線Lcは、コーナーまでの距離Ldとの関係で減速制御の要否を決める判別車速Vtを示す線である。制御実施境界線Lcは、現在の車速と、コーナー402の入口403の手前からΔLだけオフセットされた地点bまでの距離との関係で、予め設定された通常制動による減速度を超えた減速度が車両に作用しない限り、コーナー402の入口403の手前の地点bにおいて目標旋回車速Vreqに到達できない(コーナー402を所望の旋回Gで旋回できない)範囲に対応した線である。
【0031】
減速制御の要否を決める判別車速Vtは、ナビゲーションシステム装置95から入力した、コーナー402のR405と、コーナーまでの距離を示すデータに基づいて、制御回路130により作成される。判別車速Vtは、例えば、下記数式2により求めることができる。
【数2】

【0032】
減速制御の要否を決める判別車速Vtとコーナーまでの距離Ldとの関係を示す制御実施境界線Lcよりも上方に位置する場合には、コーナー402の入口403の手前の地点bにおいて目標旋回車速Vreqに到達するためには、予め設定された通常制動による減速度を超えた減速度が車両に作用することが必要である。
【0033】
そこで、制御実施境界線Lcよりも上方に位置する場合には、本実施形態のコーナーの大きさに対応した減速制御が実行されて、減速度の増大によって、運転者によるブレーキの操作量がなくても、ないしは操作量が相対的に小さくても(フットブレーキを少ししか踏まなくても)、コーナー402の入口403の手前の地点bにおいて目標旋回車速Vreqに到達できるようにしている。
【0034】
図3において、アクセル開度がゼロとされた符号aに対応する時点は、制御実施境界線Lcよりも上方に位置するため、本制御が必要と判定される。
【0035】
従来は、ナビゲーションシステム装置95の現在位置の検出精度の問題から検出誤差分ΔLだけ、実際のコーナー402の入口cよりもオフセットΔLを手前にとる必要があった。そのオフセットΔLがなされた地点bを基点に制御実施境界線Lcを引く必要があった。その理由は、この場合に、コーナー402の入口c点を起点にすると、ナビゲーションシステム装置95の現在位置の検出誤差ΔLがある場合には、制御実施境界線が本来のあるべき位置から大幅にずれる可能性があり、その場合には、減速制御が必要であるにも関わらず、減速制御が行われない可能性が出てくるためである。
【0036】
以下、図1を参照して、本実施形態の具体的な動作を説明する。
【0037】
[ステップS10]
図1のステップS10では、制御回路130により、スロットル開度センサ114からの信号に基づいて、アクセルがOFFの状態(全閉)か否かが判定される。ステップS10の結果、アクセルがOFFの状態であると判定されれば、ステップS20に進む。アクセルが全閉である場合(ステップS10−Y)に、運転者に減速の意図があると判断されて、本実施形態の減速制御が行われる。一方、アクセルがOFFの状態であると判定されなければ、ステップS160に進む。上記のように、図4では、符号fの位置(時点)にてアクセル開度がゼロ(全閉)とされている。
【0038】
[ステップS20]
ステップS20では、制御回路130により、フラグFがチェックされる。その結果、フラグFが0であればステップS30に進み、フラグFが1であればステップS100に進み、フラグFが2であればステップS130に進む。本制御フローが実行されたときに、最初は、フラグFが0であるので、ステップS30に進む。
【0039】
[ステップS30]
ステップS130では、制御回路130により、車両の走行場所が地図の整備エリアであるか否かが判定される。その結果、地図の整備エリアであると判定された場合には、ステップS40に進み、そうでない場合にはステップS50に進む。
【0040】
ここで、地図の整備エリアとは、ナビゲーションシステム装置95の地図情報において、予め設定されたマーキング(図4では、例えば符号406)からコーナー402の入口403までの距離Lが登録された(地図が整備された)エリアを示す。
【0041】
マーキング406とは、例えば、道路上の各種標識(横断歩道・制限車速の標識等)の他、道路周辺の標識や看板・電柱であってもよい。即ち、マーキング406は、車両によって認識可能であって、そのマーキング406の位置からコーナー402の入口403までの距離Lが地図上に登録され得るものであればよい。よって、マーキング406には、例えば、ビーコンなどの通信技術を用いたインフラ情報の通信局などが含まれる。
【0042】
図4では示していないが、制御回路130は、車両のリアカメラ(図示せず)等によってマーキング406を認識した地点eからアクセルが全閉とされた地点fまでの距離L1を計測している。その距離L1は、車速を積分することにより求めることができる。本例では、車両の走行場所(地点eからコーナー402の入口403までのエリア)が地図の整備エリアと判定され、ステップS40に進むとする。
【0043】
[ステップS40]
ステップS40では、制御回路130により、アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403までの距離L2が求められる。上記地図の整備エリアとして、予め登録されたマーキング406の地点eからコーナー402の入口403の地点hまでの距離Lから、上記マーキング406を認識した地点eからアクセルが全閉とされた地点fまでの距離L1が減算された結果として、アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403までの距離L2が求められる。ステップS40の次には、ステップS60に進む。
【0044】
[ステップS50]
ステップS50では、制御回路130により、アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403までの距離L2’(図示せず)が求められる。ナビゲーションシステム装置95の地図上で、現在位置(アクセルがオフされた地点f)からコーナー402の入口403までの距離(図示せず)から、ナビゲーションシステム装置95が現在位置を検出する最大誤差分ΔLが減算された結果として、アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403までの距離L2’が求められる。ステップS40の次には、ステップS60に進む。
【0045】
[ステップS60]
ステップS60では、制御回路130により、アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403の地点hまでの距離L2又はL2’を用いて、上記数式2を用いて判別車速Vtが求められる。即ち、上記数式2のLdに上記ステップS40又はステップS50にて求めた上記距離L2又はL2’を代入する。アクセルがオフにされた地点fからコーナー402の入口403の地点hまでの距離が上記距離L2として正確に求められた場合の効果については、後述する。ステップS60の次に、ステップS70に進む。
【0046】
[ステップS70]
ステップS70では、制御回路130により、上記ステップS60にて求められた判別車速Vtに基づいて、本制御の要否が判定される。その判定では、図4において、アクセルがオフとされた地点の車速が判別車速Vt(図示せず)よりも高ければ、本制御が必要と判定され、判別車速Vtよりも低ければ、本制御は不要と判定される。ステップS70の判定の結果、本制御が必要と判定された場合には、ステップS80に進み、本制御が不要と判定された場合には、本制御フローはリターンされる。
【0047】
本実施形態では、図4において、アクセル開度がゼロとされた符号fに対応する時点の車速(図示せず)は、判別車速Vtよりも上方に位置し、本制御が必要と判定され(ステップS70−Y)、ステップS80に進む。
【0048】
[ステップS80]
ステップS80では、制御回路130により、自動変速機10の高速段規制が行われる。ここでは、目標変速段が決定され、(その目標変速段+1段)の使用が規制される(高速段規制)。まず、目標変速段の決定方法について説明する。
【0049】
目標変速段の決定に際しては、まず必要減速度が求められ、次いで、その必要減速度に基づいて、必要減速度が決定される。以下、必要減速度の算出を(A)として説明し、次いで、目標変速段の決定を(B)として説明する。
【0050】
(A)必要減速度の算出について
制御回路130により、必要減速度が計算により求められる。必要減速度は、先方のコーナーを予め設定された目標旋回車速Vreqで旋回するために(目標旋回車速Vreqでコーナーに進入するために)必要とされる減速度である(上記図3の例では、符号401が符号aの地点でアクセルオフされたときの必要減速度を示している)。
【0051】
上記ステップS10においてアクセルが全閉であると判定された場所fの車速から、その場所fから上記ステップS40にて求められた距離L2、又は、上記ステップS50にて求められた距離L2’だけ先の地点で、目標旋回車速Vreqまで減速するには、必要減速度だけ減速することが必要とされる。制御回路130は、車速センサ122から入力した現在の車速と、上記距離L2又はL2’及びコーナー402の曲がり度合い405に基づいて、必要減速度を算出する。
【0052】
(B)目標変速段の決定について
予めROM133には、図5に示すようなアクセルOFF時の各変速段の車速毎の減速Gを示す車両特性のデータが登録されている。
【0053】
ここで、出力回転数が1000[rpm]であり、必要減速度が−0.12Gである場合を想定すると、図5において、出力回転数が1000[rpm]のときの車速に対応し、かつ必要減速度の−0.12Gに最も近い減速度となる変速段は、4速であることが判る。これにより、上記例の場合、目標変速段は、4速であると決定される。
【0054】
なお、ここでは、必要減速度に最も近い減速度となる変速段を目標変速段として選択したが、目標変速段は、必要減速度以下(又は以上)の減速度であって必要減速度に最も近い減速度となる変速段を選択してもよい。
【0055】
ステップS80では、制御回路130により、目標変速段に係る変速指令が出力される。即ち、制御回路130のCPU131から電磁弁駆動部138a〜138cにダウンシフト指令(変速指令)が出力される。上記ダウンシフト指令に応答して、電磁弁駆動部138a〜138cは、電磁弁121a〜121cを通電又は非通電にする。これにより、自動変速機10では、ダウンシフト指令に指示される変速が実行される。
【0056】
ダウンシフト指令は、本実施形態の変速点制御としてダウンシフトする必要性有りと図4の符号fに対応する場所(時点)で制御回路130により判断されると、それと実質的に同時に出力される。ステップS80の次に、ステップS90に進む。
【0057】
[ステップS90]
ステップS90では、制御回路130により、フラグFが1にセットされる。次に、ステップS100に進む。
【0058】
[ステップS100]
ステップS100では、制御回路130により、車両がコーナー402に進入したか否かが判定される(車両の旋回判定)。制御回路130は、車両の横Gの大きさ等に基づいて、ステップS100の判定を行う。又は、ナビゲーションシステム装置95から入力した、車両の現在位置とコーナー402の入口403の位置を示すデータに基づいて、ステップS100の判定を行う。ステップS100の判定の結果、コーナー402に進入を開始した後であれば、ステップS110に進み、そうでない場合にはステップS130に進む。
【0059】
本制御フローが実施された最初の段階では、車両はコーナー402に進入していないため(ステップS100−N)、ステップS130に進む。再度の制御フローでは、アクセルが全閉である場合(ステップS10−Y)には、フラグFが1であるので(ステップS20−1)、ステップS100に進み、ステップS100の条件が成立するまで繰り返される。
【0060】
[ステップS110]
ステップS110では、制御回路130により、フラグFが2にセットされる。次に、ステップS120に進む。
【0061】
[ステップS120]
ステップS120では、制御回路130により、新たなアップシフトが規制される。最新の変速指令(上記ステップS80で出力されたダウンシフト指令を含む)に係る変速段よりも相対的に高速用の変速段にアップシフトされることが規制される。ステップS120の次には、ステップS130に進む。
【0062】
[ステップS130]
ステップS130では、制御回路130により、車両がコーナー402を脱出した(コーナーを終了したか)か否かが判定される。制御回路130は、車両に作用する横Gに基づいて、車両がコーナー402を脱出したか否かを判定する。又は、ナビゲーションシステム装置95から入力した、車両の現在位置とコーナー402の出口404の位置を示すデータに基づいて、ステップS130の判定を行う。ステップS130の判定の結果、コーナー402を脱出した後であれば、ステップS140に進み、そうでない場合には本制御フローはリターンされる。
【0063】
本制御フローが実施された最初の段階では、車両はコーナー402を脱出していないため(ステップS130−N)、本制御フローはリセットされる。再度の制御フローでは、アクセルが全閉である場合(ステップS10−Y)には、フラグFが2であるので(ステップS110、ステップS20−2)、シフト規制がなされたまま(ステップS120)、ステップS130に進み、ステップS130の条件が成立するまで繰り返される。ステップS130の条件が成立したら(ステップS130−Y)、ステップS140に進む。
【0064】
[ステップS140]
ステップS140では、制御回路130により、シフト規制が解除される。これにより、上記ステップS80及びステップS120にて行われていたシフトの規制が解除される。ステップS140の次にはステップS150が行われる。
【0065】
[ステップS150]
ステップS150では、制御回路130により、フラグFが0にセットされる。ステップS150の次には、本制御フローはリセットされる。
【0066】
[ステップS160]〜[ステップS210]
アクセルが非全閉の場合(ステップS10−N)には、フラグFがチェックされ(ステップS160)、フラグFが0又は1である場合には、上記ステップS80にて行われた高速段規制が解除される(ステップS200)。その後、フラグFが0にリセットされた後(ステップS210)、本制御フローはリセットされる。
【0067】
上記ステップS160の判定の結果、フラグFが2である場合には、コーナー402を脱出したか否かが判定される(ステップS170)。その判定の結果、コーナー402を脱出した場合(ステップS170−Y)には、上記ステップS80及びステップS120のシフト規制は解除され(ステップS180)、フラグFが0にリセットされた後(ステップS190)、本制御フローはリセットされる。コーナー402を脱出していない場合(ステップS170−N)には、本制御フローがリセットされる。なお、本制御が開始された初期の状態では、シフト規制もされていないしフラグFも0であるのでそのままである。ステップS100で否定的に判定され、又はステップS130で否定的に判定され、それぞれ肯定的な判定が成立するまでの間に、アクセルが踏まれた場合には、ステップS160にて上記と同様の判定が行われて、必要に応じた処置が行われる。
【0068】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
【0069】
図4において、符号eをマーキング位置とする。符号fはアクセルがオフされた地点を示す。符号hはコーナー402の入口403を示す。上記地図の整備エリアである場合(図1のステップS30−Y)、マーキングの位置(点e)からコーナー402の入口403(点h)までの距離Lは、ナビゲーションシステム装置95の地図情報として記憶されている。よって、例えば、車両のリアカメラ(図示せず)でマーキングの通過を確認した位置eからの距離L1を車速の積分によって求め、アクセルオフの位置fまでの距離L1が求まれば、アクセルオフの位置fからコーナー402の入口403の地点hまでの距離L2を正確に求めることができる(L2=L−L1、ステップS40)。
【0070】
したがって、この場合の制御要否を決める判別車速Vtをコーナーの入口までの距離との関係で示す制御実施境界線Lcは、実際のコーナー402の入口403の地点hを基点として符号Lc−Aに示すように引くことができる。なお、制御要否の判定を行うことなく、コーナー402への進入に際しての必要減速度を算出し、その必要減速度に基づいて、車両の減速制御を行う場合にも、上記と同様に、必要減速度を算出するための距離L2が正確に把握できるため、良好な減速制御が可能となる。
【0071】
一方、ナビゲーションシステム装置95の地図情報において上記整備エリアではない場合(ステップS30−N)には、ナビゲーションシステム装置95の現在位置の検出精度の問題から検出誤差分だけ、実際のコーナー402の入口403の地点hよりもオフセットΔLを手前にとる必要がある。そのオフセットΔLがなされた地点gを基点に制御実施境界線Lc−Cを引く必要がある。その理由は、この場合に、コーナー402の入口403の地点hを起点にすると、ナビゲーションシステム装置95の現在位置の検出誤差ΔLがある場合には、制御実施境界線Lcが符号Lc−Bに示すようになる可能性があり、その場合には、減速制御が必要であるにも関わらず、減速制御が行われない可能性が出てくるためである。
【0072】
(第1実施形態の第1変形例)
上記第1実施形態において、コーナー制御は、有段の自動変速機10の変速段の制御によって行なわれるとして説明したが、これに代えて、CVTの変速比の制御が行われることができる。
【0073】
(第1実施形態の第2変形例)
次に、図6及び図7を参照して、第1実施形態の変形例について説明する。
本変形例は、ブレーキ(制動装置)制御を行う車両用駆動力制御装置に関する。本変形例において、上記第1実施形態と共通する部分についての説明は省略される。
【0074】
上記第1実施形態では、変速機のダウンシフトによる減速度を用いて、減速制御を行ったのに対し、本変形例では、ブレーキの制御により、減速制御を行う。
【0075】
図6は、本変形例の概略構成を示す図である。図6において、上記図2と同じ構成要素については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0076】
制御回路130の出力ポート135には、ブレーキ制御回路230へのブレーキ制動力信号線L1が接続されている。ブレーキ制動力信号線L1では、ブレーキ制動力信号SG1が伝達される。
【0077】
ブレーキ装置200は、制御回路130からブレーキ制動力信号SG1を入力するブレーキ制御回路230によって制御されて、車両を制動する。ブレーキ装置200は、油圧制御回路220と、車両の車輪204、205、206、207に各々設けられる制動装置208、209、210、211とを備えている。各制動装置208、209、210、211は、油圧制御回路220によって制動油圧が制御されることにより、対応する車輪204、205、206、207の制動力を制御する。油圧制御回路220は、ブレーキ制御回路230により、制御される。
【0078】
油圧制御回路220は、ブレーキ制御信号SG2に基づいて、各制動装置208、209、210、211に供給する制動油圧を制御することで、ブレーキ制御を行う。ブレーキ制御信号SG2は、ブレーキ制動力信号SG1に基づいて、ブレーキ制御回路230により生成される。ブレーキ制動力信号SG1は、自動変速機10の制御回路130から出力され、ブレーキ制御回路230に入力される。ブレーキ制御の際に車両に与えられるブレーキ力は、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいてブレーキ制御回路230により生成される、ブレーキ制御信号SG2によって定められる。
【0079】
ブレーキ制御回路230は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU231、RAM232、ROM233、入力ポート234、出力ポート235、及びコモンバス236を備えている。出力ポート235には、油圧制御回路220が接続されている。ROM233には、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいて、ブレーキ制御信号SG2を生成する際の動作が格納されている。ブレーキ制御回路230は、入力した各制御条件に基づいて、ブレーキ装置200の制御(ブレーキ制御)を行う。
【0080】
油圧制御回路220は、ブレーキ制御信号SG2に基づいて、制動装置208、209、210、211に供給する油圧を制御することで、ブレーキ制御信号SG2に含まれる指示通りのブレーキ力を発生させる。
【0081】
次に、図7を参照して、本変形例の動作について説明する。
【0082】
本変形例では、上記地図の整備エリアが完備されていることを前提に、上記第1実施形態の上記ステップS30及びステップS50に相当する動作は行われない。
【0083】
本変形例では、上記第1実施形態の上記ステップS80以降が主に変更されている。即ち、本変形例では、ステップS160で必要減速度が算出された後は、制動ショックが大きくならないように、ブレーキ装置200による制動力を漸次増加させる(ステップS170)。その後、車両の実減速度が必要減速度に到達するまで、制動力を漸次増加させる(ステップS190、ステップS120−1)。
【0084】
車両の実減速度が必要減速度に到達したら(ステップS190−Y)、その時点で必要減速度を再度計算し(ステップS200)、その必要減速度になるように制動力を補正する(ステップS210)。その後、必要減速度の再計算(ステップS200)と、制動力補正(ステップS210)を必要減速度が予め設定された所定値以下となるまで繰り返す(ステップS230、ステップS120−2)。必要減速度が上記所定値以下となった場合(ステップS230−Y)に、ブレーキ装置200の制御を終了させる(ステップS240)。
【0085】
なお、本実施形態におけるブレーキ制御は、上記ブレーキに代えて、パワートレーン系に設けたMG装置による回生ブレーキなどの他の、車両に制動力を生じさせる制動装置を用いても可能である。
【0086】
(第2実施形態)
次に、図8及び図9を参照して、第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上記第1実施形態と共通する部分についての説明は省略され、特徴部分についてのみ説明する。
【0087】
図9では、ステップS205、ステップS230及びステップS345が上記第1実施形態と異なっている。
【0088】
ステップS230の地図の整備エリアとは、上記第1実施形態の上記ステップS30で定義した内容に加えて、後述するように、車両が一度その道を走行して、マーキング406の地点e(図8参照)からコーナー402の入口403までの距離(後述する距離L’)を実測して記憶しているエリアが含まれる。
【0089】
ステップS205では、マーキング406を例えば車両のリアカメラで検出すると、そのマーキング406の地点eからの位置(距離)と車両横G407を対として記憶していく(コーナー402までに新たなマーキング406が現れれば更新する)。減速制御の終了後(ステップS340)、ステップS345では、マーキング406を検出した地点eから、上記記憶された車両横G407が予め設定された閾値ΔGを超えた地点(即ち、概ねコーナーリング開始地点)までの距離L’を見積もって、地図の整備エリアの地図情報として記憶する。次回、その道を走行する場合には、ステップS230では、地図の整備エリアとして判定され、ステップS240の制御が行われる。
【0090】
ここで、ステップS205で検出されるマーキング406は、車両がその道を走行するまでに、予め記憶されていたマーキングでもよいし、予め記憶されておらず、その道を初めて走行したときに初めて検出したものであってもよい。マーキングが予め記憶されており、そのマーキングからコーナーリング開始地点までの距離が予め登録されている場合には、その登録された距離は、今回の実測により得られた距離L’によって更新されることができる。
【0091】
なお、車両横G407の判定動作(ステップS345)は、もともと本来の制御において、旋回判定(ステップS300、図8の符号408)を行っているため、その旋回判定で代用することができる。この場合には、旋回判定の閾値との関係で、旋回判定が肯定的に判定される地点jが、実際のコーナー402の入口403の地点hよりも、コーナー402の中に入り込む影響を抑制するために、上記ステップS240にて求められた距離L2から予め設定された距離Δlだけ減算した値を用いることができる。
【0092】
本実施形態によれば以下の効果を奏することができる。
【0093】
地図の整備エリアを設定していくには、コストと時間がかかるが、本実施形態によれば、それまで地図の整備エリアとして設定されていない道路であっても、車両が一度走行した道路であれば、マーキング406の地点eから車両横G407が所定値ΔGを越える地点h(コーナー402の入口)までの距離L’を学習記憶するため、次回の走行時からステップS230が肯定的に判定され、ステップS240により良好な減速制御が可能となる。
【0094】
この距離L’を求める場合のコーナー402の入口の検出に際しては、本来の制御で行われる旋回判定(ステップS300)を代用することができる。但し、旋回判定処理(ステップS300)は、リアルタイムで行われるため、誤判定を抑制するために、判定閾値(図示せず)が大きく設定され、実際のコーナー402の入口の地点hよりも奥側の地点jで旋回判定が肯定的に判定されるようになっている。このことから、マーキング406の地点eから旋回判定が肯定的に判定された地点jまでの距離から、コーナー402の曲がり度合い405に基づいた値Δlを減算した値を用いることができる。
【0095】
上記各実施形態では、コーナーに進入するに際しての減速制御を例に説明したが、例えば、交差点や一時停止等の車両前方の環境に基づく減速制御において対象地点までの距離を求める場合にも適用可能である。
【0096】
上記においては、車両が減速すべき量を示す減速度は、減速加速度(G)を用いて説明したが、減速トルクをベースに制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の前提の技術を説明するためのチャートである。
【図4】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を説明するためのチャートである。
【図5】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態において、各変速段の車速毎の減速度を示す図である。
【図6】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の変形例の概略構成図である。
【図7】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の変形例の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態の動作を説明するためのチャートである。
【図9】本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
10 自動変速機
40 エンジン
90 加速度センサ
95 ナビゲーションシステム装置
114 スロットル開度センサ
116 エンジン回転数センサ
122 車速センサ
123 シフトポジションセンサ
130 制御回路
131 CPU
133 ROM
200 ブレーキ装置
230 ブレーキ制御回路
401 必要減速度
402 コーナー
403 コーナーの入口
404 コーナーの出口
405 コーナーR
406 マーキング
407 車両横G
408 旋回判定
a アクセルオフ地点
b コーナーの入口からオフセットされた地点
c コーナーの入口
d 旋回判定が肯定的に判定される地点
e マーキングの地点
f アクセルオフ地点
g コーナーの入口から位置検出最大誤差分オフセットされた地点
h コーナーの入口
j 旋回判定が肯定的に判定される地点
Vreq 目標旋回車速
L1 ブレーキ制動力信号線
Lc 制御実施境界線
Lc−A 制御実施境界線
Lc−B 制御実施境界線
Lc−C 制御実施境界線
ΔL 位置検出誤差
ΔG 判定閾値
Δl 所定値
SG1 ブレーキ制動力信号
SG2 ブレーキ制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の先方の環境を検出し、前記環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置であって、
道路上又は道路周辺の印の情報を予め記憶する記憶手段と、
前記印を検出する手段と、
前記検出された印に基づいて車両と前記環境との距離情報を求める手段と、
前記距離情報に基づいて、駆動力制御を行うことを特徴とする
車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動力制御装置において、
前記駆動力制御は、車両がコーナーを通過するために求められる必要減速度となるように車両の減速度を制御する技術である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記距離情報に基づいて、前記駆動力制御を実行するか否かを決定する
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
車両の先方の環境を検出し、前記環境に適した駆動力制御を行う車両用駆動力制御装置であって、
道路上又は道路周辺の印を検出する手段と、
前記検出された印に基づいて前記印と前記環境との距離情報を求める手段と、
前記距離情報に基づいて、駆動力制御を行うことを特徴とする
車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置であって、
道路上又は道路周辺の印の情報が予め記憶されているか否かを判断する手段と、
前記判断の結果に応じて、前記駆動力制御の態様を変更する
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−149912(P2008−149912A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340401(P2006−340401)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】