説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】第1電動機と係合装置とを共に作動することにより差動部を電気的な差動装置として機能させる場合に、第1電動機や係合装置の性能低下が抑制されつつ第1電動機の小型化が可能な車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、トルク分担率変更手段82により要求反力パワーPS1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更されるので、常に、係合装置K0によりエンジントルクTに対する反力を受けることが可能になり、その反力を受けるための第1電動機M1への依存度が小さくなる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量を抑制できる。このような結果として、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1を小型化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその差動機構の差動作用を制限することが可能な係合装置とを有し、電気的な差動装置として機能する差動部を備える車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、第1電動機と係合装置とを作動することにより差動部を電気的な差動装置として機能させるときの技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその差動機構の差動作用を制限する係合装置とを有し、電気的な差動装置として機能する差動部を備える車両用駆動装置の制御装置が良く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された車両用駆動装置の制御装置がそれである。この特許文献1によれば、差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、その差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、そのエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより変速比が連続的に変更される変速機として機能させられ、例えば電気的な無段変速機として機能させられ、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させるように制御されて燃費が向上させられる技術が開示されている。
【0004】
また、差動機構の差動作用を制限する係合装置として遊星歯車装置を一体回転させるクラッチや第1電動機の回転を停止させるブレーキが設けられ、例えば車両の発進時には、クラッチをスリップ制御することによりエンジンを駆動力源とするフリクションスタートが可能となり、電動機やそれらに関連する電気系の機能低下等が発生したときでも発進性能が確保される技術が開示されている。
【0005】
但し、上記特許文献1では、電動機のフェール時に発進性能を確保する為に差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御を第1電動機の作動により実施することに替えてクラッチのスリップ制御により実施するものであり、第1電動機が受け持つべきエンジン出力に対する反力トルクの一部をクラッチの係合トルクにより受け持たせることにより、第1電動機の定格出力を小さくしてその第1電動機を小型化するものではない。
【0006】
この第1電動機の小型化に関し、特許文献4には、第1電動機による反力とブレーキによる反力との両方を作用させて所望の要求駆動力を得ることにより、第1電動機の小出力化が可能になり、その第1電動機の小型化が可能になるハイブリッド車両が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−331063号公報
【特許文献2】特開2005−206136号公報
【特許文献3】特開平10−951号公報
【特許文献4】特開2004−254468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、クラッチやブレーキ等の係合装置をスリップ制御する際に、係合装置が受け持つ反力や係合装置自体の相対回転速度差が大きくなると、例えば発熱量が大きくなるなどして係合装置の耐久性等の性能が低下する可能性があった。一般的に、係合装置のこのような性能低下を防止するためには、トルク容量確保のための係合装置の大型化や、冷却性能向上のための冷却装置の大型化が必要となる。
【0009】
また、第1電動機が受け持つ反力が定格出力を超えることが多くなる程、その第1電動機の耐久性等の性能が低下する可能性があった。一般的に、第1電動機のこのような性能低下を防止するためには、高出力化のための第1電動機の大型化や、第1電動機の大型化に伴うインバータの高容量化が必要となる。
【0010】
つまり、差動部を電気的な差動装置として機能させる際に、第1電動機の小型化を目的として第1電動機と係合装置とを共に作動させて所望の要求駆動力を得る場合に、第1電動機や係合装置の作動状態が適切でないと、例えば第1電動機が受け持つ反力と係合装置の受け持つ反力とが適切に分担されていないと、第1電動機の性能低下や係合装置の性能低下等の上記問題が生じる可能性があった。
【0011】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1電動機と係合装置とを共に作動することにより差動部を電気的な差動装置として機能させる場合に、第1電動機の性能低下や係合装置の性能低下が抑制されつつ第1電動機の小型化が可能な車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその差動機構の差動作用を制限することが可能な係合装置とを有して電気的な差動装置として機能する差動部を備え、その差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御を前記第1電動機と前記係合装置とを作動させることにより実施する車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記反力制御の際に、前記係合装置の発熱量に基づいて前記第1電動機と前記係合装置とのトルク分担率を変更するトルク分担率変更手段と、(c) 前記係合装置のトルク容量が制限されるときは、前記エンジンの出力を制限するエンジン出力制限手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御の際に、トルク分担率変更手段により係合装置の発熱量に基づいて第1電動機と係合装置とのトルク分担率が変更されるので、第1電動機が受け持つ反力と係合装置の受け持つ反力とが適切に分担されて、係合装置の発熱量に依ってはエンジンの反力を受けるための第1電動機への依存度が小さくなる。また、係合装置の熱負荷を第1電動機へ分散することができ係合装置の発熱量を抑制できる。このような結果として、第1電動機の性能低下や係合装置の性能低下を抑制しつつ第1電動機を小型化することが可能となる。特に、前記係合装置のトルク容量が制限されるときは、エンジン出力制限手段により前記エンジンの出力が制限されるので、エンジン出力に対する必要な反力が係合装置のトルク容量の範囲内とされて係合装置を保護することができる。
【0014】
また、好適には、前記トルク分担率変更手段は、前記第1電動機の出力が制限されるときには、前記係合装置のトルク分担率を大きくするものである。このようにすれば、例えば低温時や第1電動機の発電電力が供給される蓄電装置の電力受け入れ制限時等に第1電動機の出力が制限されたとしても、その第1電動機の出力低下分を補うように係合装置のトルク容量が大きくされてエンジン出力に対する必要な反力が得られる。
【0015】
また、好適には、前記差動部を電気的な差動装置として機能させる為に、前記第1電動機を作動させることにより前記差動部の反力制御を実施すると同時に、前記係合装置を作動させることにより前記差動部のトルク循環制御を実施する差動制御手段を含むことにある。すなわち、前記係合装置は、前記差動機構を一体回転させる為のクラッチであり、前記クラッチの係合トルク分を前記差動機構に戻すことにより前記差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力トルクを発生させるものである。
【0016】
このようにすれば、常に、係合装置によりエンジンの反力を受けることが可能になり、エンジンの反力を受けるための第1電動機への依存度が小さくなる。また、係合装置の熱負荷を第1電動機へ分散することができ係合装置の発熱量を抑制できる。また、係合装置を完全係合することも可能になり係合装置の発熱量を抑制できる。このような結果として、第1電動機の性能低下や係合装置の性能低下を抑制しつつ第1電動機を小型化することが可能となる。
【0017】
また、好適には、前記伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に有段変速機を備えるものである。このようにすれば、前記差動部の変速比と有段変速機の変速比とに基づいて車両用駆動装置の総合変速比が形成され、この有段変速機の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。
【0018】
ここで、好適には、前記差動部は、前記係合装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることにより差動作用が作動可能な差動状態とされ、差動機構がその差動作用をしない非差動状態例えばロック状態とされて差動作用が制限されることにより差動作用が作動しない非差動状態例えばロック状態とされて差動作用が制限されるものである。このようにすれば、差動部が、差動状態と非差動状態とに切り換えられる。
【0019】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記係合装置は、前記差動機構を差動状態とするために第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とする、例えば差動機構を差動状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能とするものである。また、係合装置は、差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために少なくとも第2要素および第3要素を互いに異なる速度にて回転可能としない、例えば差動機構を非差動状態例えばロック状態とするために第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いは第2要素を非回転状態とするものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成される。
【0020】
また、好適には、前記係合装置は、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるために第1要素乃至第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するクラッチおよび/または第2要素を非回転状態とするために第2要素を非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに簡単に切り換えられるように構成される。
【0021】
また、エンジン出力に対する反力を第2要素により受け持つ際に、上記ブレーキのトルクは第1電動機による反力トルクと同様に反力トルクを発生させるものである。一方で、上記クラッチのトルクはそのトルク分が第1要素に戻ると考えることができる。このようなクラッチを作動させることによりトルク分が戻る制御が、係合装置を作動させることによる差動部の前記トルク循環制御である。
【0022】
また、好適には、前記差動機構は、前記クラッチおよび前記ブレーキの解放により少なくとも前記第2要素および前記第3要素が互いに異なる速度にて回転可能な差動状態とされて電気的な差動装置とされ、前記クラッチの係合により変速比が1である変速機とされるか、或いは前記ブレーキの係合により変速比が1より小さい増速変速機とされるものである。このようにすれば、差動機構が差動状態と非差動状態とに切り換えられるように構成されると共に、単段または複数段の定変速比を有する変速機としても構成され得る。
【0023】
また、好適には、前記差動機構動は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成され得る。
【0024】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の実施例の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、変速機構の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】アクセル開度に基づいて必要入力トルク(差動部出力トルク)を算出するための予め記憶された関係(差動部出力トルクマップ、自動変速部入力トルクマップ)であり、入力トルクと直達トルクと第2電動機トルクとサンギヤ反力トルクとの関係を例示するものでのある。
【図9】エンジン回転速度に基づいて目標エンジントルクが得られるスロットル弁開度を算出するための予め記憶された関係(エンジントルクマップ)である。
【図10】無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係を示す図であって、図7の破線に示す無段制御領域と有段制御領域との境界をマップ化するための概念図でもある。
【図11】要求反力パワーに基づいて第1電動機反力トルクと切換ブレーキによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図12】要求反力パワーに基づいて第1電動機反力トルクと切換クラッチによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図13】図4の電子制御装置の制御作動の要部すなわち第1電動機と係合装置とにより差動部を電気的な差動装置として機能させる際に、第1電動機や係合装置の性能低下を抑制しつつ第1電動機の小型化を可能とする為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図14】第1電動機回転速度に基づいて第1電動機反力トルクと切換ブレーキによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図15】第1電動機回転速度に基づいて第1電動機反力トルクと切換クラッチによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図16】係合装置の発熱量に基づいて第1電動機反力トルクと切換ブレーキによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図17】係合装置の発熱量に基づいて第1電動機反力トルクと切換クラッチによる係合装置反力トルクとのトルク分担率を変更する際に用いられるトルク分担率マップの一例である。
【図18】本発明の他の実施例におけるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
【図19】図18の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
【図20】図18の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段変速機としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
【0028】
このように、本実施例の変速機構10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0029】
差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
【0030】
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
【0031】
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されるとすなわち解放状態へ切り換えられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このとき、エンジン8の出力に対する反力を第1サンギヤS1が受け持つように第1電動機M1による反力トルクが発生させられることにより、差動部11が電気的な差動装置として作動させられる。
【0032】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合されるとすなわち係合状態へ切り換えられると、動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に連結されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0033】
次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合されて第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0034】
切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の係合状態では、第1サンギヤS1が受け持つエンジン8の出力に対する反力は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0による反力トルクにより発生させられる。尚、切換ブレーキB0の係合トルクは第1電動機M1による反力トルクと同様に反力トルクを発生させるものである。一方で、切換クラッチC0の係合トルクはそのトルク分が第1キャリヤCA1に戻ると考えることができる。このように係合装置を係合させることによりトルク分が戻る制御を差動部11のトルク循環制御という。
【0035】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに、すなわち差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態と、無段変速作動しない非無段変速状態例えば電気的な無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動しないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。
【0036】
別の見方をすれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、それぞれの係合作動によって動力分配機構16を非差動状態として動力分配機構16の差動作用を制限することにより、差動部11を非無段変速状態として差動部11の差動作用すなわち電気的な差動装置(無段変速機)としての作動を制限する差動制限装置として機能している。
【0037】
ここで、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の半係合(スリップ)状態は、差動部11の電気的な差動装置としての作動をある程度制限することが可能であることから、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が完全に係合される完全係合状態と同様に差動部11の差動制限をしていると見ることができる。一方、差動部11の電気的な差動装置としての作動をある程度許容することが可能であることから、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が完全に解放されている完全解放状態と同様に差動部11を電気的な差動装置として作動させていると見ることもできる。この切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0のスリップ状態では、第1電動機M1と切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0とによりエンジン出力に対する反力トルクを受け持つことが可能である。
【0038】
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
【0039】
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪34との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行される有段式変速機である。
【0040】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0041】
以上のように構成された変速機構10において、特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動可能な無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動可能な非無段変速状態(定変速状態)を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0042】
具体的には、差動部11が非無段変速状態とされて変速機構10が有段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、すなわち自動変速部20の変速に関与する係合装置の解放と係合とにより、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置(以下解放側係合装置)の解放と変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置(以下係合側係合装置)の係合とにより変速比が自動的に切り換えられるように、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速機構10の総合変速比γT(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。この変速機構10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される変速機構10全体としてのトータル変速比γTである。
【0043】
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、この後進ギヤ段は、通常、差動部11の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0044】
また、差動部11が無段変速状態とされて変速機構10が無段変速機として機能する場合には、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放されて差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度NIN)すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、変速機構10のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0045】
例えば、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放された状態で、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速(第5速における自動変速部20の係合装置の係合作動は第4速に同じ)の各ギヤ段に対しその自動変速部20の入力回転速度NINが無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、変速機構10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0046】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0047】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0048】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(差動部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
【0049】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3を相互に相対回転可能とする無段変速状態(差動状態)、例えば少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される車速Vに拘束される第1リングギヤR1の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される第1キャリヤCA1の回転速度すなわちエンジン回転速度Nが上昇或いは下降させられる。
【0050】
また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合により第1サンギヤS1がケース12に連結されると、動力分配機構16は第2回転要素RE2の回転が停止させられて少なくとも第2回転要素RE2および第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって差動部11が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0051】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0052】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0053】
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0054】
電子制御装置40には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、第1電動機回転速度NM1という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、第2電動機回転速度NM2という)を表す信号、蓄電装置50(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0055】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置52への制御信号例えばエンジン8の吸気管54に備えられた電子スロットル弁56のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ58への駆動信号や燃料噴射装置60による吸気管54或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置62によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号(図6参照)、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路64(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路64に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧Pが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0056】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置66の一例を示す図である。このシフト操作装置66は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー68を備えている。
【0057】
そのシフトレバー68は、変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0058】
上記シフトレバー68の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路64が電気的に切り換えられる。
【0059】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0060】
具体的には、シフトレバー68が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー68が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー68が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー68が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0061】
図6は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段72は、例えば記憶手段74に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。このとき、有段変速制御手段72は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路64へ出力する。油圧制御回路64は、その指令に従って、例えば変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に、変速に関与する係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路64内の電磁弁を作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
【0062】
ハイブリッド制御手段76は、無段変速制御手段として機能するものであり、変速機構10の無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力等を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0063】
ハイブリッド制御手段76は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、運転性と燃費性とが両立するような効率のよい作動域でエンジン8を作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
【0064】
このとき、ハイブリッド制御手段76は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ70を通して蓄電装置50や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ70を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段76は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段74に予め記憶されている。
【0066】
そして、ハイブリッド制御手段76は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段76によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクT域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。よって、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図7の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTとされる程大きくアクセルペダル45が踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
【0067】
また、ハイブリッド制御手段76は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置50からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。尚、第2電動機M2によるトルクアシストは、モータ走行時にその第2電動機M2の出力トルクを増加するように行われても良い。
【0068】
ハイブリッド制御手段76は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ58により電子スロットル弁56を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置60による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置62による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置52に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。エンジン出力制御装置52は、ハイブリッド制御手段76による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ58により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置60による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置62による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
【0069】
より具体的には、ハイブリッド制御手段76は、記憶手段74に予め記憶された図8に示すようなアクセル開度Accと差動部11のアウトプットトルク(すなわち差動部11から伝達部材18を介して自動変速部20へ入力される自動変速部20の入力トルク)TINとの関係(差動部出力トルクマップ、自動変速部入力トルクマップ)から実際のアクセル開度Accに基づいて必要な入力トルク(必要入力トルク)TINを算出する。ハイブリッド制御手段76は、この必要入力トルクTINが得られるように、エンジン8から動力分配機構16を介して第1リングギヤR1へ機械的に伝達されるトルク(以下、直達トルクという)Tと第2電動機M2から出力されるトルク(以下、第2電動機トルクという)TM2とを制御する。
【0070】
ここで、差動部11が電気的な差動装置として機能させられる動力分配機構16の差動状態においては、第1遊星歯車装置24のギヤ比をρ1とすると、第1サンギヤS1における反力トルク(以下、サンギヤ反力トルク)TS1とエンジントルクTと直達トルクTとの関係は次式(1)で表される。
S1:T:T=ρ1:(1+ρ1):1 ・・・(1)
【0071】
上記(1)式から明らかなように、直達トルクTは、 (1+ρ1)×T となるエンジントルクTを発生させ、そのエンジントルクTに対して ρ1×T(=ρ1/(1+ρ1)×T) となるサンギヤ反力トルクTS1を発生させることにより得られる(図8参照)。
【0072】
ハイブリッド制御手段76は、記憶手段74に予め実験的に求められて記憶された図9に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度Nとエンジントルク推定値TE0との関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度Nに基づいて直達トルクTが得られるエンジントルクT(=(1+ρ1)×T)を発生させられるスロットル弁開度θTHとなるようにスロットルアクチュエータ74により電子スロットル弁58を開閉制御する。
【0073】
また、前記サンギヤ反力トルクTS1は、ハイブリッド制御手段76によりエンジントルクTに基づいて算出され、後述するように、第1電動機M1の発電による反力トルク(以下、第1電動機反力トルクという)TM1と係合装置K0(切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0)の係合トルクによる反力トルク(以下、係合装置反力トルクという)Tとで分担される。
【0074】
前記第2電動機トルクTM2は、車両の無段変速走行時においてハイブリッド制御手段76により第2電動機M2に供給される制御電流(第2電動機制御電流)IM2に基づいて発生させられる。車両の通常の無段変速走行においては第1電動機M1で発電した電力が第2電動機M2に供給されて、第2電動機M2は力行作動させられ第2電動機トルクTM2が出力される。このとき、特に、第1電動機反力トルクTM1を発生するための第1電動機M1の発電による出力電流(第1電動機発電電流)IM1Gが全て第2電動機M2に供給されて第2電動機制御電流IM2が第1電動機発電電流IM1Gと略同一とされる場合には、第2電動機出力トルクTM2は第1電動機発電電流IM1Gに従って発生させられる。また、蓄電装置50の充電容量SOCが低下している場合には第1電動機発電電流IM1Gの一部が蓄電装置50の充電に用いられる。このような場合には、蓄電装置50の充電に用いられる充電電流分だけ少なくされた第2電動機制御電流IM2が第2電動機M2に供給される。
【0075】
また、車両の無段変速走行時において蓄電装置50からの電気エネルギにより第2電動機M2が駆動されてエンジン8の動力を補助するトルクアシスト中である場合には、前記第2電動機トルクTM2は第2電動機アシストトルクTM2A分が加味されたトルクとされる。前記直達トルクTは、このように発生させられる第2電動機トルクTM2分を必要入力トルクTINから減じたトルクであるとも言える。
【0076】
増速側ギヤ段判定手段78は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段74に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が、或いは前記有段変速制御手段72により判断された変速機構10の変速されるべき変速段が、増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0077】
切換制御手段80は、車両状態に基づいて前記切換クラッチC0および/または切換ブレーキB0の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段80は、記憶手段74に予め記憶された前記図7の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、変速機構10(差動部11)の切り換えるべき変速状態を判断して、すなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内(無段変速制御領域内)であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内(有段変速制御領域内)であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
【0078】
具体的には、切換制御手段80は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段76に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段72に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段72は、記憶手段74に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段74に予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0079】
例えば、増速側ギヤ段判定手段78により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段80は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路64へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段78により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段80は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路64へ出力する。このように、切換制御手段80によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0080】
一方で、切換制御手段80は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路64へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段76に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段72には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段74に予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段72により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段80により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0081】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段74に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0082】
また、図7の破線は切換制御手段80による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図7は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段80により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段74に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0083】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段80は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには例えば切換ブレーキB0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段80は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクT1を越えたときには例えば切換クラッチC0を係合して変速機構10を有段変速状態とする。
【0084】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の故障や機能低下、すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ70、蓄電装置50、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段80は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。例えば、この場合には、切換制御手段80は、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下が発生したか否かを判定し、その故障や機能低下が発生したときには変速機構10を有段変速状態とする。
【0085】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪34での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度Gや、例えばアクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTH等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪34の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0086】
また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。つまり、高速走行においては、電気パスを含まないことにより変速機構10を伝達効率の良い遊星歯車式の有段変速機として有効に利用するものである。
【0087】
また、前記判定トルクT1は、例えば車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジン8の高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。或いはまた、その判定トルクT1は、例えば車両の高出力走行においては運転者の燃費に対する要求より変速に伴ってエンジン回転速度が変化する変速フィーリングに対する要求が重視されるとの考え方から、その高出力走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。つまり、高出力走行においては、変速機構10を無段変速機として機能させることより変速比が段階的に変化させられる有段変速機として機能させるものである。
【0088】
図10は、エンジン回転速度NとエンジントルクTとをパラメータとして切換制御手段80により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有し、例えば記憶手段74に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段80は、図7の切換線図に替えてこの図10の切換線図からエンジン回転速度NとエンジントルクTとに基づいて、それらのエンジン回転速度NとエンジントルクTとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図10は図7の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図7の破線は図10の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
【0089】
この図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0090】
同様に、図10の関係に示されるように、エンジントルクTが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度Nが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTおよびエンジン回転速度Nから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図10における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
【0091】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保される。また、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では、変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされて専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達され、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0092】
また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪34へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。
【0093】
つまり、前記所定値TE1が第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTの切換判定値として予め設定されると、エンジントルクTがその所定値TE1を超えるような高出力走行では、差動部11が有段変速状態とされるため、第1電動機M1は差動部11が無段変速状態とされているときのようにエンジントルクTに対する反力トルクを受け持つ必要が無いので、第1電動機M1の大型化が防止されつつその耐久性の低下が抑制される。言い換えれば、本実施例の第1電動機M1は、その最大出力がエンジントルクTの最大値に対して必要とされる反力トルク容量に比較して小さくされることで、すなわちその最大出力を上記所定値TE1を超えるようなエンジントルクTに対する反力トルク容量に対応させないことで、小型化が実現されている。
【0094】
尚、上記第1電動機M1の最大出力は、この第1電動機M1の使用環境に許容されるように実験的に求められて設定されている第1電動機M1の定格値である。また、上記エンジントルクTの切換判定値は、第1電動機M1が反力トルクを受け持つことができるエンジントルクTの最大値またはそれよりも所定値低い値であって、第1電動機M1の耐久性の低下が抑制されるように予め実験的に求められた値である。
【0095】
また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度Nの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度Nの変化が楽しめる。
【0096】
ところで、本実施例では、第1電動機M1の最大出力を前記所定値TE1を超えるようなエンジントルクTに対する反力トルクに対応させないことに加え、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為に、エンジントルクTに対する反力トルクを常時第1電動機M1と係合装置K0(切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0)により受け持つことで、すなわちサンギヤ反力トルクTS1を第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとの両方で常時(同時に)発生させることで、第1電動機M1の受け持つべき反力トルクを小さくして第1電動機M1の一層の小型化が実現されている。
【0097】
尚、ここでの係合装置反力トルクTは、前述したように、切換クラッチC0の係合トルクによる反力トルク或いは切換ブレーキB0の係合トルクによる反力トルクであるが、切換クラッチC0の係合トルクに関しては反力制御ではなくトルク循環制御を行っていると見ることもできる。つまり、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為に、第1電動機M1と切換クラッチC0とを作動させることにより差動部11の反力制御を実施することは、第1電動機M1を作動させることにより差動部11の反力制御を実施すると同時に切換クラッチC0を作動させることにより差動部11のトルク循環制御を実施することと見ることができる。よって、本実施例における係合装置反力トルクTの一例である切換クラッチC0の係合トルクに関しては、反力制御を行うことによりエンジントルクTに対する反力トルクを受け持つことはもちろんのこと、トルク循環制御を行うことによりその反力トルクを受け持つことをも含んでいるものとする。
【0098】
差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、サンギヤ反力トルクTS1を第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとで分担するときの第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率すなわち第1電動機M1のトルク分担率R(=TM1/(TM1+T))の設定に関して、以下に詳細に説明する。
【0099】
トルク分担率変更手段82は、差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、エンジン出力を受け持つために必要な反力に基づいて、すなわち前記ハイブリッド制御手段76により算出される必要なサンギヤ反力トルクTS1と第1サンギヤS1の回転速度(すなわち第1電動機回転速度NM1)に基づく要求反力パワー(=TS1×NM1)PS1に基づいて、第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rを変更(決定)する。
【0100】
例えば、トルク分担率変更手段82は、要求反力パワーPS1が高パワーになる程トルク分担率Rが小さくされるように予め実験的に求められて記憶された要求反力パワーPS1とトルク分担率Rとの関係(トルク分担率マップ)から実際の要求反力パワーPS1に基づいてトルク分担率Rを決定する。つまり、一層小型化された第1電動機M1の最大能力(定格出力)までのトルク分(=TS1×R)については第1電動機M1により負担(分担)し、その第1電動機M1の最大能力を超えるトルク分(=TS1×(1−R))については係合装置K0により負担する。
【0101】
こうすることで、常に、係合装置K0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担することが可能になり、サンギヤ反力トルクTS1の分担に対する第1電動機M1の依存度が小さくなって第1電動機M1の一層の小型化が可能になる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量Q(=C×∫(TS1×(1−R)×ΔN)dt;Cは定数、ΔNは係合装置K0のスリップ量すなわち係合装置K0の相対回転速度)を抑制できる。また、要求反力パワーPS1が比較的高パワーとなる領域では、係合装置K0のみでサンギヤ反力トルクTS1を負担することも可能であり、係合装置K0を完全係合することも可能になって係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。
【0102】
前記ハイブリッド制御手段76は、前記トルク分担率変更手段82により決定されたトルク分担率Rに基づいて、第1電動機M1の分担すべき第1電動機反力トルクTM1(=TS1×R)を発生させる指令をインバータ70へ出力する。また、前記切換制御手段80は、前記トルク分担率変更手段82により決定されたトルク分担率Rに基づいて、係合装置K0をスリップ制御として係合装置K0の分担すべき係合装置反力トルクT(=TS1×(1−R))を発生させる指令を油圧制御回路64へ出力する。
【0103】
このように、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為に、常時、ハイブリッド制御手段76により第1電動機M1を作動させる反力制御が実施されると共に、切換制御手段80により係合装置K0をスリップ制御させる反力制御が実施されるものであり、ハイブリッド制御手段76および切換制御手段80は差動制御手段として機能する。前述したように、係合装置K0として切換クラッチC0を用いる場合には、この係合装置K0をスリップ制御させる反力制御はトルク循環制御と見ることができる。
【0104】
図11および図12は、前記トルク分担率変更手段82によるトルク分担率Rの変更に用いられるトルク分担率マップの一例であって、前記記憶手段74に記憶されているものである。図11は切換ブレーキB0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例であり、図12は切換クラッチC0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例である。
【0105】
図11、12の実線および破線に示すように、要求反力パワーPS1が高パワーとなる程トルク分担率Rが漸減され、要求反力パワーPS1が比較的高パワーとなる領域ではトルク分担率Rが零とされて係合装置K0のみのトルク分担とされている。
【0106】
上記実線は、第1電動機M1が最大能力を発揮したときのトルク分担率Rを示している。この実線に示すトルク分担率マップは、第1電動機M1の最大能力が大きなもの程トルク分担率Rが大きくなる側に設定され、第1電動機M1の一層の小型化を目指して第1電動機M1の最大能力がより小さくされるとトルク分担率Rがより小さくなる側に設定される。
【0107】
また、前記破線は、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときのトルク分担率Rであり、実線に示す制限されないときのトルク分担率Rに比較して小さくされている。つまり、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときには、実線に示すトルク分担率マップに替えて、トルク分担率Rが小さくされた破線に示すトルク分担率マップが用いられる。見方を換えれば、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときには、係合装置K0のトルク分担が大きくされたトルク分担率マップが用いられる。このようにトルク分担率Rを設定することで、第1電動機M1の出力が制限されたとしても、第1電動機M1の出力低下分が係合装置K0により補われて必要なサンギヤ反力トルクTS1が得られる。
【0108】
第1電動機反力トルクTM1が制限されるときとは、例えば第1電動機M1の能力が低下する低温時や第1電動機M1の発電電力が供給される蓄電装置50の電力受け入れ性に制限があるときや第1電動機M1の過熱時等が想定される。
【0109】
M1トルク制限判定手段84は、第1電動機反力トルクTM1の制限が有るか否かを、例えば第1電動機M1の温度が第1電動機M1の能力が低下するとして予め実験的に求められて定められた所定温度以下であるか否か、或いは蓄電装置50の受け入れ性に制限があるか否か、或いは第1電動機M1の作動状態が耐久性等を考慮して第1電動機M1の運転を制限する必要があるとして予め実験的に求められて定められた所定の過熱状態であるか否かに基づいて判定する。
【0110】
前記トルク分担率変更手段82は、前記M1トルク制限判定手段84により第1電動機反力トルクTM1の制限が有ると判定された場合には、第1電動機反力トルクTM1が制限されないときのトルク分担率マップに比較してトルク分担率Rが小さくされた第1電動機反力トルクTM1が制限されるときのトルク分担率マップを選択(採用)すると共に、すなわち係合装置K0のトルク分担が大きくされたトルク分担率マップを選択(採用)すると共に、その選択したトルク分担率マップに従ってトルク分担率Rを決定し、第1電動機M1により分担するトルク分を小さくする、すなわち係合装置K0により分担するトルク分を大きくする。
【0111】
このように、サンギヤ反力トルクTS1が第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとで分担される。また、第1電動機反力トルクTM1が制限される際には、係合装置反力トルクTのトルク分担率が大きくされて必要なサンギヤ反力トルクTS1が得られる。また、要求反力パワーPS1が比較的高パワーとなる領域では、係合装置K0のみで必要なサンギヤ反力トルクTS1が得られる。従って、通常は、サンギヤ反力トルクTS1に対して係合装置反力トルクTが不足することはない。換言すれば、不足することがないように係合装置K0の最大トルク容量が定められている。
【0112】
しかし、係合装置反力トルクTが制限されるときは、サンギヤ反力トルクTS1に対して係合装置反力トルクTが不足する可能性がある。そこで、係合装置反力トルクTが制限されるときは、エンジン出力を低減して必要なサンギヤ反力トルクTS1を係合装置反力トルクTの範囲内とする。
【0113】
図11および図12の二点鎖線は、係合装置反力トルクTが制限されるときの係合装置K0により得られる第1サンギヤS1における反力パワー(=T×NM1)Pの限界線LPKを示しており、要求反力パワーPS1がこの限界線LPKを超える領域がエンジントルクTの制限領域である。この制限領域においては、要求反力パワーPS1がこの限界線LPKを超えないようにエンジントルクTが制限される。
【0114】
係合装置反力トルクTが制限されるときとは、例えば係合装置K0の油圧アクチュエータの作動油の粘性が高くなって係合装置K0の応答性が低下する低油温時や係合装置K0の油圧アクチュエータを制御する制御弁に制限(規制)が掛かっているとき等が想定される。
【0115】
係合トルク制限判定手段86は、係合装置反力トルクTの制限が有るか否かを、例えば作動油温が係合装置K0の応答性が低下するとして予め実験的に求められて定められた所定油温以下であるか否か、或いは係合装置K0の油圧アクチュエータを制御する制御弁に制限が掛かっているか否かに基づいて判定する。
【0116】
前記ハイブリッド制御手段76は、直達トルクTが得られるエンジントルクT(=(1+ρ1)×T)を発生させる際に、前記係合トルク制限判定手段86により係合装置反力トルクTの制限が有ると判定された場合には、要求反力パワーPS1が限界線LPKを超えないようにエンジントルクTを制限するエンジントルク制限指令をエンジン出力制御装置52に出力するエンジン出力制限手段として機能する。エンジン出力制御装置52は、ハイブリッド制御手段76によるエンジントルク制限指令に従って、スロットルアクチュエータ58により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射装置60による燃料噴射を制御し、イグナイタ等の点火装置62による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制限を実行する。
【0117】
図13は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち第1電動機M1と係合装置K0とにより差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1の小型化を可能とする為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0118】
先ず、前記ハイブリッド制御手段76に対応するS1において、例えば記憶手段74に予め記憶された図8の差動部出力トルクマップから実際のアクセル開度Accに基づいて必要入力トルク(差動部出力トルク)TINが算出される。
【0119】
次いで、前記M1トルク制限判定手段84に対応するS2において、第1電動機反力トルクTM1の制限が有るか否かが、例えば第1電動機M1の温度が第1電動機M1の能力が低下するとして予め実験的に求められて定められた所定温度以下であるか否か、或いは蓄電装置50の受け入れ性に制限があるか否か等に基づいて判定される。
【0120】
前記S2の判断が否定される場合は前記係合トルク制限判定手段86に対応するS3において、係合装置反力トルクTの制限が有るか否かが、例えば作動油温が係合装置K0の応答性が低下するとして予め実験的に求められて定められた所定油温以下であるか否か、或いは係合装置K0の油圧アクチュエータを制御する制御弁に制限が掛かっているか否かに基づいて判定される。
【0121】
前記S3の判断が否定される場合は前記トルク分担率変更手段82に対応するS4において、例えば図11或いは図12の実線に示すトルク分担率マップから要求反力パワーPS1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0122】
前記S2の判断が肯定される場合は前記トルク分担率変更手段82に対応するS5において、第1電動機反力トルクTM1が制限されないときの図11或いは図12の実線に示すトルク分担率マップに比較してトルク分担率Rが小さくされた(すなわち係合装置K0のトルク分担が大きくされた)第1電動機反力トルクTM1が制限されるときの図11或いは図12の破線に示すトルク分担率マップが選択(採用)されると共に、その選択されたトルク分担率マップから要求反力パワーPS1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0123】
前記S3の判断が肯定される場合は前記ハイブリッド制御手段76および前記トルク分担率変更手段82に対応するS6において、要求反力パワーPS1が図11或いは図12の二点鎖線に示すような限界線LPKを超えないように、すなわち係合装置反力トルクTが制限されるときの係合装置K0により得られる第1サンギヤS1における反力パワー(=T×NM1)Pを超えないように、エンジントルクTを制限するエンジントルク制限指令がエンジン出力制御装置52に出力され、例えば図11或いは図12の実線に示すトルク分担率マップから要求反力パワーPS1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0124】
前記S4、S5、或いはS6に続いて前記ハイブリッド制御手段76および前記切換制御手段80に対応するS7において、前記S4、S5、或いはS6にて決定されたトルク分担率Rに基づいて、第1電動機M1の分担すべき第1電動機反力トルクTM1(=TS1×R)を発生させる指令がインバータ70へ出力されると共に、係合装置K0をスリップ制御として係合装置K0の分担すべき係合装置反力トルクT(=TS1×(1−R))を発生させる指令が油圧制御回路64へ出力される。
【0125】
上述のように、本実施例によれば、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御の際に、トルク分担率変更手段82によりエンジン出力を受け持つために必要な反力に基づいて、すなわち要求反力パワー(=TS1×NM1)PS1に基づいて、第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更されるので、第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとが適切に分担されて、常に、係合装置K0によりエンジントルクTに対する反力を受けることが可能になり、その反力を受けるための第1電動機M1への依存度が小さくなる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。また、要求反力パワーPS1に依っては係合装置K0を完全係合することも可能になり係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。このような結果として、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1を小型化することが可能となる。
【0126】
また、本実施例によれば、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときにはトルク分担率変更手段82により係合装置K0の分担するトルク分が大きくされるので、例えば第1電動機M1の能力が低下する低温時や第1電動機M1の発電電力が供給される蓄電装置50の電力受け入れ性に制限があるとき等に第1電動機反力トルクTM1が制限されたとしても、第1電動機M1の出力低下分を補うように係合装置K0のトルク容量が大きくされて必要なサンギヤ反力トルクTS1が得られる。
【0127】
また、本実施例によれば、係合装置反力トルクTが制限されるときにはハイブリッド制御手段76によりエンジントルクTが制限されるので、必要なサンギヤ反力トルクTS1が係合装置反力トルクTの範囲内とされて係合装置K0を保護することができる。
【0128】
また、本実施例によれば、ハイブリッド制御手段76および切換制御手段80により、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為に、第1電動機M1を作動させることにより差動部11の反力制御が実施されると同時に係合装置K0を作動させることにより差動部11のトルク循環制御が実施されるので、常に、係合装置K0によりエンジントルクTに対する反力を受けることが可能になり、その反力を受けるための第1電動機M1への依存度が小さくなる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。また、係合装置K0を完全係合することも可能になり係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。このような結果として、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1を小型化することが可能となる。
【0129】
また、本実施例によれば、伝達部材18から駆動輪34への動力伝達経路に自動変速部20を備えるので、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて変速機構10の総合変速比γTが形成され、この自動変速部20の変速比γを利用することによって駆動力が幅広く得られるようになる。
【0130】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0131】
前述の実施例では、前記トルク分担率変更手段82は、要求反力パワーPS1とトルク分担率Rとを変数とするトルク分担率マップから実際の要求反力パワーPS1に基づいてトルク分担率Rを決定した。本実施例では、前記トルク分担率変更手段82は、第1電動機回転速度NM1が高回転になる程トルク分担率Rが小さくされるように予め実験的に求められて記憶された第1電動機回転速度NM1とトルク分担率Rとの関係(トルク分担率マップ)から実際の第1電動機回転速度NM1に基づいてトルク分担率Rを決定する。
【0132】
具体的には、図14および図15は、前記トルク分担率変更手段82によるトルク分担率Rの変更に用いられるトルク分担率マップの一例であって、前記記憶手段74に記憶されているものである。図14は切換ブレーキB0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例であって、前記図11のトルク分担率マップに相当する。図15は切換クラッチC0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例であって、前記図12のトルク分担率マップに相当する。
【0133】
図14、15の実線および破線に示すように、第1電動機回転速度NM1が高回転となる程トルク分担率Rが漸減され、第1電動機回転速度NM1が比較的高回転となる領域ではトルク分担率Rが零とされて係合装置K0のみのトルク分担とされている。この第1電動機回転速度NM1は車速Vや出力軸回転速度NOUTと等価であることから、車両停止中は係合装置K0を完全係合させず、ある程度高車速になった第1電動機回転速度NM1の比較的高回転領域では係合装置K0の完全係合が可能になる。
【0134】
上記実線は、第1電動機M1が最大能力を発揮したときのトルク分担率Rを示している。この実線に示すトルク分担率マップは、第1電動機M1の最大能力が大きなもの程トルク分担率Rが大きくなる側に設定され、第1電動機M1の一層の小型化を目指して第1電動機M1の最大能力がより小さくされるとトルク分担率Rがより小さくなる側に設定される。
【0135】
また、前記破線は、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときのトルク分担率Rであり、実線に示す制限されないときのトルク分担率Rに比較して小さくされている。つまり、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときには、実線に示すトルク分担率マップに替えて、トルク分担率Rが小さくされた破線に示すトルク分担率マップが用いられる。見方を換えれば、第1電動機反力トルクTM1が制限されるときには、係合装置K0のトルク分担が大きくされたトルク分担率マップが用いられる。このようにトルク分担率Rを設定することで、第1電動機M1の出力が制限されたとしても、第1電動機M1の出力低下分が係合装置K0により補われて必要なサンギヤ反力トルクTS1が得られる。
【0136】
本実施例でも、第1電動機M1と係合装置K0とにより差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1の小型化を可能とする為の制御作動は、前述の実施例と同様に前記図13のフローチャートに従って実施される。
【0137】
但し、前記図13のS4においては、例えば図14或いは図15の実線に示すトルク分担率マップから第1電動機回転速度NM1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0138】
また、前記S5においては、第1電動機反力トルクTM1が制限されないときの図14或いは図15の実線に示すトルク分担率マップに比較してトルク分担率Rが小さくされた(すなわち係合装置K0のトルク分担が大きくされた)第1電動機反力トルクTM1が制限されるときの図14或いは図15の破線に示すトルク分担率マップが選択(採用)されると共に、その選択されたトルク分担率マップから第1電動機回転速度NM1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0139】
また、前記S6においては、係合装置反力トルクTが制限されるときの係合装置K0により得られる第1サンギヤS1における反力パワー(=T×NM1)Pを要求反力パワーPS1が超えないように、エンジントルクTを制限するエンジントルク制限指令がエンジン出力制御装置52に出力され、例えば図14或いは図15の実線に示すトルク分担率マップから第1電動機回転速度NM1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0140】
上述のように、本実施例によれば、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御の際に、トルク分担率変更手段82により第1電動機回転速度NM1に基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更されるので、第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとが適切に分担されて、常に、係合装置K0によりエンジントルクTに対する反力を受けることが可能になり、その反力を受けるための第1電動機M1への依存度が小さくなる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。また、要求反力パワーPS1に依っては係合装置K0を完全係合することも可能になり係合装置K0の発熱量Qを抑制できる。このような結果として、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1を小型化することが可能となる。
【実施例3】
【0141】
前記トルク分担率変更手段82は、前記実施例1においては要求反力パワーPS1とトルク分担率Rとを変数とするトルク分担率マップから実際の要求反力パワーPS1に基づいてトルク分担率Rを決定し、前記実施例2においては第1電動機回転速度NM1とトルク分担率Rとを変数とするトルク分担率マップから実際の第1電動機回転速度NM1に基づいてトルク分担率Rを決定した。本実施例では、前記トルク分担率変更手段82は、係合装置K0の熱容量すなわち発熱量Qが高くなる程トルク分担率Rが大きくされるように予め実験的に求められて記憶された発熱量Qとトルク分担率Rとの関係(トルク分担率マップ)から実際の発熱量Qに基づいてトルク分担率Rを決定する。
【0142】
図16および図17は、前記トルク分担率変更手段82によるトルク分担率Rの変更に用いられるトルク分担率マップの一例であって、前記記憶手段74に記憶されているものである。図16は切換ブレーキB0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例であって、前記図11、14のトルク分担率マップに相当する。図17は切換クラッチC0によりサンギヤ反力トルクTS1を分担するときの一例であって、前記図12、15のトルク分担率マップに相当する。
【0143】
図16、17の実線に示すように、発熱量Qが高くなる程トルク分担率Rが漸増され、発熱量Qが比較的高くなる領域ではトルク分担率Rが1.0とされて第1電動機M1のみのトルク分担とされている。この実線に示すトルク分担率マップは、第1電動機M1のある出力時のトルク分担率Rを示している。
【0144】
図16および図17の二点鎖線は、係合装置K0の作動状態が耐久性等を考慮して係合装置K0によるトルク分担を回避する必要があるとして予め実験的に求められて定められた限界値LQKを示している。従って、発熱量Qがこの限界値LQKを超える領域ではトルク分担率Rが1.0とされている。
【0145】
本実施例でも、第1電動機M1と係合装置K0とにより差動部11を電気的な差動装置として機能させる際に、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1の小型化を可能とする為の制御作動は、前述の実施例と同様に前記図13のフローチャートに従って実施される。
【0146】
但し、前記図13のS2およびS5は削除され、前記S4においては、例えば図16或いは図17の実線に示すトルク分担率マップから発熱量Qに基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0147】
また、前記S6においては、係合装置反力トルクTが制限されるときの係合装置K0により得られる第1サンギヤS1における反力パワー(=T×NM1)Pを要求反力パワーPS1が超えないように、エンジントルクTを制限するエンジントルク制限指令がエンジン出力制御装置52に出力され、例えば図16或いは図17の実線に示すトルク分担率マップから発熱量Qに基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更(決定)される。
【0148】
上述のように、本実施例によれば、差動部11を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御の際に、トルク分担率変更手段82により係合装置K0の発熱量Qに基づいて第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとのトルク分担率Rが変更されるので、第1電動機反力トルクTM1と係合装置反力トルクTとが適切に分担されて、係合装置K0の発熱量Qに依ってはエンジントルクTに対する反力を受けるための第1電動機M1への依存度が小さくなる。また、係合装置K0と第1電動機M1とで熱負荷を分散することができ係合装置K0の発熱量を抑制できる。このような結果として、第1電動機M1や係合装置K0の性能低下を抑制しつつ第1電動機M1を小型化することが可能となる。
【実施例4】
【0149】
図18は本発明の他の実施例における変速機構110の構成を説明する骨子図、図19はその変速機構110の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図20はその変速機構110の変速作動を説明する共線図である。
【0150】
変速機構110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部120とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部120は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置28とを備えている。第2遊星歯車装置26の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置28の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2遊星歯車装置26の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置28の第3リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0151】
以上のように構成された変速機構110では、例えば、図19の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構110では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部120とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構110は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0152】
例えば、変速機構110が有段変速機として機能する場合には、図19に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
【0153】
しかし、変速機構110が無段変速機として機能する場合には、図19に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部120が有段変速機として機能することにより、自動変速部120の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部120の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0154】
図20は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成される変速機構110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0155】
図20における自動変速部120の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第3キャリヤCA3を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2および第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2をそれぞれ表している。また、自動変速部120において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部120の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0156】
自動変速部120では、図20に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0157】
本実施例の変速機構110においても、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部120とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
【0158】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0159】
例えば、前述の実施例では、係合装置反力トルクTが制限される場合には、ハイブリッド制御手段76によりエンジントルクTが制限されたが、これに替えて或いは加えて、トルク分担率変更手段82は可能な範囲で第1電動機M1のトルク分担率Rを上げても良い。
【0160】
また、前述の実施例の変速機構10、110は、差動部11(動力分配機構16)が電気的な無段変速機として作動可能な差動状態とそれを非作動とする非差動状態(ロック状態)とに切り換えられることで無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成され、この無段変速状態と有段変速状態との切換えは差動部11が差動状態と非差動状態とに切換えられることによって行われていたが、例えば差動部11が差動状態のままであっても差動部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させることにより有段変速機として機能させられ得る。言い換えれば、差動部11の差動状態/非差動状態と、変速機構10、110の無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、差動部11は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切換可能に構成される必要はなく、変速機構10、110(差動部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
【0161】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0162】
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0163】
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されてもよい。また、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、120内の回転部材に連結されていてもよい。第2電動機M2がギヤ、ベルト、減速機等を介して伝達部材18や出力軸22等に連結される様な形態も、伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた一態様である。尚、第2電動機M2が備えられなくとも、本発明は適用され得る。この場合には、必要入力トルクTINは直達トルクTのみで発生させられる。
【0164】
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
【0165】
また、前述の実施例の変速機構10、110では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
【0166】
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0167】
また、前述の実施例では、差動部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪34との間の動力伝達経路に、自動変速部20、120が介挿されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機、手動操作により変速段が切り換えられる同期噛み合い式の手動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、120の変速が実行されてもよい。また、自動変速部20、120は、必ずしも備えられなくとも本発明は適用され得る。
【0168】
また、前述の実施例では、自動変速部20、120は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、120が配設されてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20、120とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0169】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0170】
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、その遊星歯車装置はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。
【0171】
また、前述の実施例のシフト操作装置66は、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー68を備えていたが、そのシフトレバー68に替えて、例えば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションPSHを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションPSHを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションPSHを切り換えられる装置等であってもよい。また、シフトレバー68が「M」ポジションへ操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが変速段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速変速段が変速段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20、102では変速段が切り換えられて変速が実行される。例えば、シフトレバー68が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかがシフトレバー68の操作に応じて設定される。
【0172】
また、前述の実施例では、例えば図7の関係図から車両状態の変化に基づく変速機構10の変速状態の自動切換制御作動を説明したが、手動操作により動力分配機構16の差動状態(非ロック状態)と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換えを選択するための変速状態手動選択装置としてのスイッチがユーザにより手動操作可能に車両に備えられ、自動切換制御作動に替えて或いは加えて例えばこのスイッチが手動操作されたことにより変速機構10の変速状態が手動切換制御されても良い。つまり、切換制御手段80は、スイッチの無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかの選択操作に従って優先的に変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択する。またユーザは有段変速機の変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択する。
【0173】
上記スイッチは、ユーザが所望する変速状態での車両走行を選択可能とするものであり、例えばシーソー型スイッチにより構成され、無段変速走行に対応する無段変速走行指令釦或いは有段変速走行に対応する有段変速走行指令釦がユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。
【0174】
また、スイッチに無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられる場合には、スイッチがその中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、変速機構10の変速状態の自動切換制御作動が実行されればよい。
【0175】
また、シーソー型スイッチ以外に、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチに中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチの選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチとは別に設けられてもよい。また、スイッチに替えて或いは加えて、手動操作に因らず運転者の音声に反応して少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられる装置や足の操作により切り換えられる装置等であってもよい。
【0176】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0177】
8:エンジン
10、110:変速機構(駆動装置)
11:差動部
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材
20:自動変速部(有段変速機)
34:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
76:ハイブリッド制御手段(差動制御手段、エンジン出力制限手段)
80:切換制御手段(差動制御手段)
82:トルク分担率変更手段
M1:第1電動機
C0:切換クラッチ(係合装置)
B0:切換ブレーキ(係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構と該差動機構の差動作用を制限することが可能な係合装置とを有して電気的な差動装置として機能する差動部を備え、該差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力制御を前記第1電動機と前記係合装置とを作動させることにより実施する車両用駆動装置の制御装置であって、
前記反力制御の際に、前記係合装置の発熱量に基づいて前記第1電動機と前記係合装置とのトルク分担率を変更するトルク分担率変更手段と、
前記係合装置のトルク容量が制限されるときは、前記エンジンの出力を制限するエンジン出力制限手段と
を、含むことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記トルク分担率変更手段は、前記第1電動機の出力が制限されるときには、前記係合装置のトルク分担率を大きくするものである請求項1の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記係合装置は、前記差動機構を一体回転させる為のクラッチであり、
前記クラッチの係合トルク分を前記差動機構に戻すことにより前記差動部を電気的な差動装置として機能させる為の反力トルクを発生させるものである請求項1又は2の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に有段変速機を備えるものである請求項1乃至3のいずれか1の車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−132283(P2010−132283A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289874(P2009−289874)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2006−205378(P2006−205378)の分割
【原出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】