説明

車線逸脱警報装置

【課題】車両が車線を逸脱すると予測された場合に、運転者がすぐに回避行動を取ることができる車線逸脱警報装置を提供する。
【解決手段】車両(V)の走行車線からの逸脱が予測された場合(ステップS1)、一時的に後輪トー角を前輪と逆相に制御して逸脱方向のヨーモーメントが発生させるとともに、サスペンションを制御してロール感を強調する(ステップS2〜S4)。このため、車両運転者は、強い注意を喚起されてすばやく回避動作を取ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御手段を備えた車両の車線逸脱警報装置に係り、詳しくは、車両が車線を逸脱した場合または逸脱すると予測された場合に、運転者に警報を発し、車両を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行車線からの逸脱(以下、車線逸脱という)は、運転者の注意力が低下すること(すなわち、うっかり、ぼんやり)によって起こることが多いため、運転者は車線逸脱に気づくことに遅れがちである。このような車線逸脱を防いで走行時の安全性を向上させるため、種々の車線逸脱防止装置が開発されている(例えば、特許文献1,2)。特許文献1で提案されている車線内走行支援装置は、車線逸脱や運転者の意図を判定し、車線逸脱を生じさせない前輪の目標転舵角を設定し、この目標転舵角に実転舵角が一致するように転舵アクチュエータを制御し、操舵制御トルクに操舵反力が一致するように操舵反力アクチュエータを制御する装置である。また、特許文献2で提案されている車線逸脱防止装置は、車線逸脱を操舵制御によって回避した際に生じるロール角やロールモーメントを減衰力制御によって調整あるいはキャンセルすることにより、運転者が違和感を覚えることを防止する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−43227号公報
【特許文献2】特開2005−153717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車線逸脱の防止を主として操舵制御に頼る装置では、急激に操舵制御を行うと車両の走行が不安定となる一方、緩やかに操舵制御を行うと車線逸脱を回避できない可能性があった。しかし、車両の運転者自身が、車線逸脱の可能性に気づき、すぐに回避行動を取ることができれば、このような問題は生じない。本発明はこのような背景に鑑みなされたもので、運転者の注意力が低下することによって車線逸脱が生じる場合であっても、注意を喚起して回避行動を取らせることができる車線逸脱警報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係る車線逸脱警報装置は、車両(V)の操舵制御に供される操舵制御手段(30)と、前記車両(V)の走行車線からの逸脱を予測する車線逸脱予測手段(31)とを備えた車両に搭載される車線逸脱警報装置であって、前記車線逸脱予測手段(31)によって前記車両の走行車線からの逸脱が予測された場合、前記操舵制御手段(30)が逸脱方向のヨーモーメントを発生させる方向に所定の時間に渡って車両(V)を操舵制御することを特徴とする。
【0006】
特に、車体(1)と車輪(3)との間に介装されるサスペンション(4)を制御するサスペンション制御手段(29)をさらに備え、前記車線逸脱予測手段(31)によって前記車両(V)の走行車線からの逸脱が予測され、前記操舵制御手段(30)による前記操舵制御が行われた場合、前記サスペンション制御手段(29)は、当該操舵制御によって発生するロールを強めるように前記サスペンション(4)を制御するとよい。また、前記サスペンション制御手段(29)は、減衰力可変ダンパ(8)の減衰力を制御するダンパ制御手段(29)であり、前記操舵制御によって発生するロールを強める場合、前記ダンパ制御手段(29)は前記減衰力可変ダンパ(8)の減衰力を弱めるようにしてもよい。さらに、前記操舵制御手段(30)は、後輪トー角制御手段(30)であって、前記車線逸脱予測手段(31)によって前記車両が車線を逸脱すると判定された後に、前記車両の運転者による回避動作が取られた場合、後輪トー角制御手段(30)は、前輪(3fl,3fr)と同相に後輪(3rl,3rr)を操舵制御するものであるとよい。
【発明の効果】
【0007】
車両が走行車線から逸脱すると予測された場合、操舵制御手段が逸脱方向のヨーモーメントを発生させるように所定の時間に渡って車両を操舵制御することにより、運転者は、逸脱しない方向に車両を制御する場合に比べて、強く注意を喚起され、すばやく回避動作を取ることができる。また、これと同時にサスペンション制御手段がロールを強めるようにサスペンションを制御すると、さらに強く注意が喚起される。また、運転者による回避動作が確認された場合、後輪を前輪と同相に制御することにより、横加速度応答が早まり車線逸脱を回避しやすくなるとともに、車両挙動の発散が生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る4輪自動車の概略構成図である。
【図2】実施形態に係るECUの要部を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る一実施形態を説明する。
≪実施形態の構成≫
まず、概略構成図である図1を参照して、実施形態に係る4輪操舵自動車(以下、単に自動車と記す)の概略構成について説明する。説明にあたり、4本の車輪やそれらに対して配置された部材、すなわち、タイヤやサスペンション等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば、左前輪3fl、右前輪3fr、左後輪3rl、右後輪3rrと記すとともに、総称する場合には車輪3と記す。
<自動車の概略構成>
【0010】
図1に示すように、自動車(車両)Vの車体1にはタイヤ2が装着された車輪3が前後左右に設置されており、これら各車輪3がサスペンションアームやスプリング、減衰力可変ダンパ8等からなるサスペンション装置によって車体1に懸架されている。自動車Vには、左右前輪3fl,3frの操舵アシストに供されるEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)5と、左右の後輪3rl,3rrの転舵にそれぞれ供される左右の後輪トー角制御機構6l,6rと、EPS5、左右の後輪トー角制御機構6l,6r、および減衰力可変ダンパ8を駆動制御するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)7とが設置されている。
【0011】
EPS5は、図示しないラックやピニオンからなるステアリングギヤ11と、ステアリングホイール12が後端に取り付けられたステアリングシャフト13と、ステアリングシャフト13に操舵アシスト力を与えるEPSモータ14とを主要構成要素としている。なお、ステアリングシャフト13には、ステアリングホイール12の操舵角を検出する操舵角センサ(操舵角検出手段)15が取り付けられている。また、左右の後輪トー角制御機構6l,6rは、車体1と後輪側ナックル16rl,16rrとの間に介装された直動式の後輪トー角アクチュエータ17l,17rや、図示しないポジションセンサ等から構成されている。
【0012】
自動車Vには、車速を検出する車速センサ21の他、横加速度を検出する横Gセンサ22、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ23等が車体1の適所に設置される他、前輪側サスペンション装置4fl、4frの変位を検出するサスペンション変位センサ(以下、単に変位センサと記す)24l、24rがホイールハウス内に設置され、さらに、前方(進行方向)を撮影するカメラ26が車体1の前部に設置されている。
<ECUの構成>
【0013】
図2はECUの要部を示すブロック図である。ECU7は、CPUやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して各センサ15,21〜24、カメラ26、左右の後輪トー角制御機構6l,6r、および減衰力可変ダンパ8等と接続されている。図2を参照すると、ECU7には、減衰力可変ダンパ制御部29、後輪トー角制御部30、車線逸脱予測部31、回避動作判定部32、および駆動電流生成部37が収容されている。減衰力可変ダンパ制御部29は、ダンパ減衰力設定部33と、ダンパ減衰力補正算出部34とを含み、後輪トー角制御部30は、後輪トー角設定部35と、後輪トー角補正量算出部36とを含む。
【0014】
車線逸脱予測部31は、操舵角センサ15、車速センサ21およびカメラ26からの入力信号に基づき、自動車Vが車線から逸脱するか否かを予測する。また、回避動作判定部32は、操舵角センサ15および車速センサ21からの入力信号に基づき、運転者によって自動車Vの車線逸脱を回避する操作が行われたか否かを判定する。
【0015】
ダンパ減衰力設定部33は、図示しないセンサを含めた各センサからの入力信号に基づき、ダンパ減衰力制御量Dfl,Dfr,Drl,Drrを設定する。ダンパ減衰力補正算出部34は、車線逸脱予測部31の予測結果、回避動作判定部32の判定結果、および横Gセンサ22やヨーレイトセンサ23、サスペンション変位センサ24等の入力信号に基づき、ダンパ減衰力補正量Dflc,Dfrc,Drlc,Drrcを算出する。
【0016】
また、後輪トー角設定部35は、図示しないセンサを含めた各センサからの入力信号に基づき、後輪トー角制御量δrl,δrrを設定する。後輪トー角補正量算出部36は、車線逸脱予測部31の予測結果、回避動作判定部32の判定結果、および操舵角センサ15や車速センサ21等の入力信号に基づき、後輪トー角補正量δrlc,δrrcを算出する。
【0017】
また、駆動電流生成部37,37は、ダンパ減衰力制御量Dfl,Dfr,Drl,Drr(以下、「D」と記す)にダンパ減衰力補正量Dflc,Dfrc,Drlc,Drrc(以下、「Dc」と記す)を加算した値、および後輪トー角制御量δrl,δrr(以下、「δr」と記す)に後輪トー角補正量δrlc、δrrc(以下、「δrc」と記す)を加算した値にそれぞれ対応する駆動電流を設定し、これらをそれぞれ減衰力可変ダンパ8fl,8fr,8rl,8rrおよび後輪トー角アクチュエータ17l,17rに出力する。
【0018】
≪実施形態の作用≫
図3は実施形態に係る処理手順をフローチャートで示したものである。図2および図3を参照して、本実施形態の処理手順を説明する。
自動車Vが走行状態にあるとき、車線逸脱予測部31は自動車Vが車線を逸脱するか否かを予測する(ステップS1)。逸脱すると予測されるまでは、この処理が周期的に実行される。逸脱しないと予測されている間は、ダンパ減衰力補正量算出部34および後輪トー角補正量算出部36は、補正量Dc,δrcを0として出力する。その結果、減衰力可変ダンパ8および後輪トー角アクチュエータ17は、補正されない制御量D,δrを基にして制御される。
【0019】
自動車Vが車線を逸脱すると予測された場合は、ダンパ減衰力補正量算出部34および後輪トー角補正量算出部36が補正量Dc,δrcを算出する。この補正量が制御量D,δrに加算され、駆動電流生成部37,37を介して、それぞれ減衰力可変ダンパ8および後輪トー角アクチュエータ17に出力して減衰力可変ダンパ8の減衰力を弱め(ステップS2)、後輪トー角を車線逸脱方向のヨーモーメントが発生するように前輪3fと逆相に操舵する(ステップS3)。そして所定の時間経過後、後輪トー角補正量算出部36が後輪トー角補正量δrcを0とし、後輪トー角制御量δrは補正されずに出力され、後輪トー角が補正されていない状態に戻る(ステップS4)。ここで、所定の時間とは、運転者が一瞬と感じる時間であって、例えば、後輪トー角アクチュエータ17l,17rが実際に補正後の後輪トー角になるまで作動した直後に、元に戻す制御に入ることとしても良い。
【0020】
その後、回避動作判定部32が運転者による車線逸脱回避動作が行われたか否かを判定する(ステップS5)。回避動作が行われない場合、ステップS3およびステップ4が繰り返される。回避動作が行われた場合、ダンパ減衰力補正量算出部34はダンパ減衰力補正量Dcを0とし、ダンパ減衰力制御量Dは補正されずに出力される。その結果、減衰力可変ダンパ8fl,8fr,8rl,8rrの減衰力が強まり、車線逸脱が予測される前の状態に戻る(ステップS6)。そして、後輪トー角補正量算出部36は、後輪3rl,3rrが前輪3fl,3frと同相になるように後輪トー角補正量δrcを設定して、後輪トー角補正量δrcを後輪トー角制御量δrに加算する。補正後の輪トー角制御量δr+δrcは、駆動電流生成部34を介して、後輪トー角アクチュエータ17l,17rに出力され、後輪トー角が制御されて後輪3rl,3rrが前輪3fl,3frと同相になる(ステップS7)。
【0021】
次に、車線逸脱予測部31は車線逸脱が回避されたか否かを判定する(ステップ8)。回避完了と判定されるまで後輪3rl,d3rrは前輪3fl,3rrと同相に制御される。回避動作判定部32が回避完了と判定すると、後輪トー角補正量算出部36は後輪トー角補正量δrcを0に設定する。その結果、後輪トー角制御量δrが補正されずに、駆動電流生成部37を介して後輪トー角アクチュエータ17l,17rに出力され、後輪3rl,3rrの前輪3fl,3frとの同相制御は終了する(ステップS9)。
【0022】
≪実施形態の効果≫
自動車Vが車線を逸脱すると予測された場合、後輪3rl,3rrが前輪3fl,3frと逆相に一時的に制御されるため、逸脱方向にヨーモーメントが発生し、これが運転者への警報となる。さらに、このとき減衰力可変ダンパ8の減衰力を弱めているため、ロールが強まり、これも運転者への警報となる。車線逸脱方向にヨーが発生するため、運転者の緊張感や注意力が高まり、運転者自身が素早い回避行動をとることができる。すなわち、うっかり、ぼんやりしている状態でも、運転者は、この警報によって注意力が高い状態に移行するため、すぐに自動車Vの車線逸脱状態を認識して、適切な回避行動を取ることができる。
【0023】
また、運転者の回避行動に合わせて、後輪3rl,3rrを前輪3fl,3frと同相に制御するため、横加速度応答が早まって車線逸脱を回避しやすくなるとともに、車両挙動が発散し難くなる。
【0024】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、自動車や制御装置の具体的構成、制御の具体的手順等について適宜変更可能である。例えば、サスペンション制御手段の制御対象として上記実施例では減衰力可変ダンパではなく、アクティブサスペンション等を採用しても良い。また、所定の回数、警報を発しても運転者が回避行動を取らない場合には、車線逸脱を回避する方向に操舵制御する手段を組み合わせてもよい。また、図3におけるステップ7以降を省略する場合には、前輪を制御してもよい。
【符号の説明】
【0025】
V 自動車
4 サスペンション装置(サスペンション)
6 後輪トー角制御機構
7 ECU
8 減衰力ダンパ
17 後輪トー角アクチュエータ
29 減衰力可変ダンパ制御部(サスペンション制御手段、ダンパ制御手段)
30 後輪トー角制御部(操舵制御手段、後輪トー角制御手段)
31 車線逸脱予測部(車線逸脱予測手段)
32 回避動作判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵制御に供される操舵制御手段と、前記車両の走行車線からの逸脱を予測する車線逸脱予測手段とを備えた車両に搭載される車線逸脱警報装置であって、
前記車線逸脱予測手段によって前記車両の走行車線からの逸脱が予測された場合、前記操舵制御手段が逸脱方向のヨーモーメントを発生させる方向に所定の時間に渡って前記車両を操舵制御することを特徴とする車線逸脱警報装置。
【請求項2】
車体と車輪との間に介装されるサスペンションを制御するサスペンション制御手段をさらに備え、
前記車線逸脱予測手段によって前記車両の走行車線からの逸脱が予測され、前記操舵制御手段による前記操舵制御が行われた場合、前記サスペンション制御手段は、当該操舵制御によって発生するロールを強めるように前記サスペンションを制御することを特徴とする、請求項1に記載の車線逸脱警報装置。
【請求項3】
前記サスペンション制御手段は、減衰力可変ダンパの減衰力を制御するダンパ制御手段であり、
前記操舵制御によって発生するロールを強める場合、前記ダンパ制御手段は前記減衰力可変ダンパの減衰力を弱めることを特徴とする、請求項2に記載の車線逸脱警報装置。
【請求項4】
前記操舵制御手段は、後輪トー角制御手段であって、
前記車線逸脱予測手段によって前記車両が車線を逸脱すると判定された後に、前記車両の運転者による回避動作が取られた場合、後輪トー角制御手段は、前輪と同相に後輪を操舵制御することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車輪逸脱警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228721(P2010−228721A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81506(P2009−81506)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】