説明

酸化亜鉛系半導体薄膜の成膜方法、及び成膜装置

【課題】気相成長によりキャリア濃度の高いp型ZnO系半導体薄膜を成膜できる方法を提供する。
【解決手段】反応管30内に外部から、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み且つ酸素原子を含まない第1の原料ガス311を供給するとともに基板10上にて窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを反応させる工程(A)と、反応管30内に外部から酸素前駆体原料を含む第2の原料ガス313を供給して酸素前駆体原料と工程(A)において未反応となった亜鉛前駆体原料とを基板10上にて反応させる工程(B)とを実施して成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長法により酸化亜鉛系半導体薄膜を成膜する方法及びそれを実現する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物半導体である酸化亜鉛(ZnO)は、室温でのバンドギャップが3.37eVの直接遷移型半導体であるため、発光および受光の光デバイス材料として注目されている。また、ZnOと近いバンドギャップエネルギーを持ち、現在青〜紫外域の発光素子に用いられている窒化ガリウム(GaN)は、励起子結合エネルギーが24meVであるのに対して、ZnOは60meVと非常に大きいため、励起子の遷移過程を利用した新しい発光デバイスとしての応用が期待されている。またその透明性を活かした電子デバイスについても研究が盛んに行われている。
【0003】
これら発光デバイスや電子デバイスを実現するためには電気伝導性の制御が重要になるが、ZnOはp型の伝導性制御が非常に難しく、大きな技術的課題となっている。
【0004】
p型化の手法としては、VI族の酸素を、窒素(非特許文献1)、燐(非特許文献2)、砒素(非特許文献3)などのV族元素で置換することでアクセプタとして機能させる方法が主に検討されている。しかし酸素イオンの半径1.38Åに対して、窒素(1.46Å)、燐(2.12Å)、砒素(2.22Å)と大きいことから窒素以外のドーパントでは添加がしにくく、得られる特性についても再現性に乏しい。またイオン半径が酸素にもっとも近い窒素にしても、p型を示してもキャリア濃度が低く満足のいく品質を得るのが難しいのが現状である。
【0005】
また、p型化が難しい別の理由として自己補償効果がある。これはアクセプタを添加しても電気的中性を保つように負の電荷を有する格子欠陥が形成されてしまい、ドーピングはされるものの結果としてp型半導体としての性質を示さないというものである。特に酸化物半導体の場合には酸素欠損が生じやすく、これがp型化を阻害している原因となっている。
【0006】
酸素欠損を抑制する成膜方法として、PLD(pulsed laser deposition)法やMBE(molecular beam epitaxy法、MOCVD(metal-organic chemical vapor deposition)法等が検討されている。中でも、MOCVD法は、金属原料である有機金属と、酸素原料である酸素含有ガスを加熱した基板上へ供給して、熱分解反応によって生成されるII族酸化物を基板上に堆積させることで結晶成長を行うもので、膜厚や組成の精密制御が可能であり、かつ生産性に優れていることから半導体素子を作製する際の製膜技術として広く用いられている方法である。例えば非特許文献4では、MOCVD法において、酸素源に酸素プラズマをもちいて酸素欠損を防止している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Minegishi et.al. Jpn.J.Appl.Phys. 6, L1453 (1997)
【非特許文献2】K.H.Bang et.al. Appl. Surf. Sci. 210, 177 (2003)
【非特許文献3】Y.R.Ryu et.al. J.Cryst.Growth 216, 330 (2000)
【非特許文献4】Y.J.Zeng et.al. Appl.Phys.Lett. 88, 262103 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献4で得られたp型ZnO膜のキャリア濃度は1.88×1017cm-3程度であり、未だ十分なものではない。キャリア濃度は、少なくとも1018オーダーの濃度であることが好ましい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、気相成長によりキャリア濃度の高いp型ZnO系半導体薄膜を成膜する方法及びそれを容易に実現する成膜装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法は、反応管内に配された基板上にp型ZnO系半導体薄膜を気相成長により成膜する方法であって、
前記反応管内に該反応管の外部から、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み且つ酸素原子を含まない第1の原料ガスを供給するとともに前記基板上にて前記窒素前駆体原料と前記亜鉛前駆体原料とを反応させる工程(A)と、
前記反応管内に該反応管の外部から、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを供給して該酸素前駆体原料と前記工程(A)において未反応となった前記亜鉛前駆体原料とを前記基板上にて反応させる工程(B)とを有することを特徴とするものである。
【0011】
本明細書において、ZnO系とは、ZnMgO,ZnCdO,ZnO等、ZnOを含む化合物半導体(混晶を含む)全般を意味する。
また、「酸素原子を含まない第1の原料ガス」とは、第1の原料ガス中に酸素原子が存在しないことを意味し、第1原料ガスの構成要素である窒素前駆体原料及び亜鉛前駆体原料中にも酸素原子を含まないこととする。
【0012】
本発明のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法の第1の好適な態様としては、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスが、前記基板面に対して垂直方向に分離されて、前記基板面に対して略平行方向から流入されて前記基板上に供給される態様が挙げられる。このとき、各原料ガスは、層流で前記基板上に供給されることが好ましい。
【0013】
また、本発明のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法の第2の好適な態様としては、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスは、前記基板面に対して略垂直方向から流入されて、前記基板上に供給されるものであり、前記工程(A)と前記工程(B)との間に、基板上の工程(A)が実施された位置に前記第2の原料ガスが供給されるように前記基板を回転させる工程(C)を実施する態様が挙げられる。
【0014】
本発明のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法において、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとが、水素、窒素、アルゴンからなる群より選択される少なくとも1種の分離ガスを介して分離されて前記基板上に供給されることが好ましい。
【0015】
また、前記第1の原料ガスは連続的に供給されることが好ましいが、前記第2の原料ガス及び分離ガスの供給は非連続的であってもよい。
【0016】
前記亜鉛前駆体原料は、有機金属からなるものであることが好ましく、ジエチルジンク又はジメチルジンクであることが好ましい。
【0017】
また、前記酸素前駆体原料としては、水、酸素、オゾン、及び酸素プラズマからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることが好ましい。
【0018】
前記窒素前駆体原料は、有機窒素化合物からなることが好ましい。かかる化合物としては、ターシャリーブチルアミン、ジメチルヒドラジン、及びジイソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の原料が挙げられる。
【0019】
本発明の第1のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置は、反応管内に配された基板上に気相成長により成膜するものであって、管軸が略水平に設けられた前記反応管と、前記基板を均熱保持する基板保持部と、少なくとも、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み酸素原子を含まない第1の原料ガスと、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを、前記反応管に分離して供給する複数のガス供給管を備えたガス供給部と、所定の前記ガス供給管に接続され、該ガス供給管から前記反応管内に供給されるガスの原料を個々に蓄える複数の原料槽とを備えた成膜装置であって、前記反応管は、前記基板の膜形成面が露出されて配された反応部と、該反応部に、前記管軸方向に隣接して設けられたガス導入部とを有するものであり、該ガス導入部は、前記膜形成面に対して略垂直方向に並列された複数の流路を備えたものであり、該複数の流路は、前記基板と反対側の端部において、前記複数のガス供給管と個々に接続されており、前記第1の原料ガスを供給する前記ガス供給管は、前記複数の流路のうち最も基板面に近い流路に接続されるものであることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第1の成膜装置において、前記ガス導入部の複数の流路は、前記第1の原料ガスが供給される流路と前記第2の原料ガスが供給される流路との間に、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとを分離して前記反応部に供給する分離ガスが供給される流路を備えたものであることが好ましい。
【0021】
本発明の第2のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置は、反応管内に配された基板上にp型ZnO系半導体薄膜を気相成長により成膜する成膜装置において、管軸が略水平に設けられた前記反応管と、前記管軸と略水平方向に前記基板を回転する機構を備え、且つ、前記基板を均熱保持する基板保持部と、少なくとも、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み酸素原子を含まない第1の原料ガスと、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスと、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとを前記基板上にて分離する分離ガスを前記反応管内に供給する複数のガス供給管を備えたガス供給部と、所定の前記ガス供給管に接続され、該ガス供給管から前記反応管内に供給されるガスの原料を個々に蓄える複数の原料槽とを備えた成膜装置であって、前記反応管は、前記基板の膜形成面が露出されて配された反応部と、前記膜形成面に対向配置されたガス導入部とを有するものであり、該ガス導入部は、前記膜形成面に対して略平行な面内にて吐出口が配列され、該吐出口の反対側の端部に前記ガス供給管が個々に接続された複数の流路を備えたものであり、前記第1の原料ガスを供給する前記ガス供給管が接続された前記流路と、前記第2の原料ガスを供給する前記ガス供給管が接続された前記流路とは、前記吐出口が配列された面内において隣接することなく配列されていることを特徴とするものである。
【0022】
上記第1及び第2の成膜装置において、前記亜鉛前駆体原料は、有機金属からなるものであることが好ましく、ジエチルジンク又はジメチルジンクであることが好ましい。
【0023】
また、前記酸素前駆体原料としては、水、酸素、オゾン、及び酸素プラズマからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることが好ましい。
【0024】
前記窒素前駆体原料は、有機窒素化合物からなることが好ましい。かかる化合物としては、ターシャリーブチルアミン、ジメチルヒドラジン、及びジイソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の原料が挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明者は、p型ZnO系半導体薄膜の成膜において、アクセプターとしての窒素原子のドープ時に酸素原子が周辺に存在すると、亜鉛と酸素との反応性が亜鉛と窒素との反応性に比して高いことから、周辺の酸素原子と亜鉛との反応が、窒素原子の高濃度ドープを阻害する要因であることを見いだした。従って、本発明のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法は、反応管内に外部から、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み且つ酸素原子を含まない第1の原料ガスを供給するとともに基板上にて前記窒素前駆体原料と前記亜鉛前駆体原料とを反応させる工程(A)と、反応管内に外部から、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを供給して該酸素前駆体原料と工程(A)において未反応となった亜鉛前駆体原料とを基板上にて反応させる工程(B)とを有するものである。かかる方法によれば、最初に基板上に供給される第1の原料ガス中に酸素原子を含まないため、亜鉛前駆体原料が酸素と反応することなく、高効率に窒素前駆体原料と反応し、その後第2の原料ガスとして酸素前駆体原料が基板上に供給されて、基板上に残存する未反応の亜鉛前駆体原料と反応する。従って、本発明によれば、キャリア濃度の高いp型ZnO系半導体薄膜を成膜することができる。
【0026】
また、本発明の成膜装置は、上記本発明の成膜方法を実施可能なように、基板上に第1の原料ガスと第2の原料ガスとを分離して供給し、且つ、工程(A)を実施した後に工程(B)を実施することができる構成としている。従って本発明の成膜装置によれば、キャリア濃度の高いp型ZnO系半導体薄膜を容易に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る第1実施形態のp型ZnO系薄膜の成膜装置の概略構成図
【図2】本発明に係る第2実施形態のp型ZnO系薄膜の成膜装置の概略構成図
【図3】図2の成膜装置のガス導入部の吐出面における吐出口の一配置例を示した図。
【図4】図2の成膜装置のガス導入部の吐出面における吐出口の一配置例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
「p型ZnO系半導体薄膜の成膜装置の第1実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置及び成膜方法について説明する。図1は横型フロー形式である第1のp型ZnO系半導体薄膜成膜装置の概略構成図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0029】
図1に示されるように、p型ZnO系半導体薄膜成膜装置(以下、ZnO系膜成膜装置とする。)1は、管軸が略水平に設けられた反応管30と、基板10を均熱保持する基板保持部20と、少なくとも、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み酸素原子を含まない第1の原料ガスと、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを、反応管30に分離して供給する複数のガス供給管(41,42,43)を備えたガス供給部40と、所定のガス供給管(41,42,43)に接続され、該ガス供給管から反応管30内に供給されるガスの原料を個々に蓄える複数の原料槽(51〜55)を有する原料補給部50とを備えている。
【0030】
基板保持部20は、基板10を均熱保持し、支持部材23により支持されたサセプタ21と、サセプタ21を加熱するヒータ22とにより構成されている。サセプタ21としては、基板10を均熱保持可能なものであれば特に制限されないが、成膜される膜の面内組成分布の改善のため、支持部材23を中心軸として回転可能であることが好ましい。面内組成を略均一できればサセプタ21の回転数は特に制限されないが、例えば30rpm程度が挙げられる。
【0031】
ヒータ22としてはサセプタ21を面内温度分布が略均一となるように加熱可能であり、ZnO系薄膜の好ましい基板温度範囲とされている200℃〜800℃の範囲で温度制御可能であれば特に制限されない。
【0032】
基板10としては上記基板温度範囲で熱安定性の良好なものであれば特に制限されない。かかる基板としては、サファイア基板やZnO基板等が挙げられる。基板上に成膜される膜は、基板の結晶情報(配向性等)を引き継いで結晶成長しやすいため、成膜する膜の好ましい結晶情報を有する基板を用いることが好ましい。
【0033】
反応管30は、基板10の膜形成面10sが露出されて配された反応部32と、反応部32に、管軸方向に隣接して設けられたガス導入部31とを有しており、ガス導入部31は、膜形成面10sに対して略垂直方向に並列された複数の流路(311〜313)を備えている。
【0034】
ここで複数の流路(311〜313)は、基板10と反対側の端部において、複数のガス供給管(41,42,43)と個々に接続されている。第1の原料ガスを供給するガス供給管41は、最も基板面に近い流路311に接続されており、原料補給部側の端部は亜鉛前駆体原料槽53と、窒素前駆体原料槽54と、キャリアガス原料槽55と分岐されて接続されている。
【0035】
亜鉛前駆体原料としては、特に制限されないが、ジエチルジンク、ジメチルジンク等の有機亜鉛化合物(有機金属)であることが好ましい。
【0036】
窒素前駆体原料としては、特に制限されないが、ターシャリーブチルアミン,ジメチルヒドラジン,ジイソプロピルアミン等の有機窒素化合物であることが好ましい。
【0037】
上記した有機亜鉛化合物及び有機窒素化合物は、沸点が100℃以下であることから、ZnO系薄膜の成長温度範囲である200℃〜800℃において分解効率が高いため、好ましく用いることができる。
【0038】
本実施形態では、p型ZnO膜を成膜する構成を示してあるが、マグネシウム(Mg)やカドミウム(Cd)を含むZnO混晶(ZnMgO,ZnCdO)の場合は、第1の原料ガスを供給するガス供給管41に、それぞれの前駆体原料槽が接続されることになる。マグネシウム前駆体原料としては、シクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)、カドミウム前駆体原料としては、ジメチルカドミウム(DMCd)等が挙げられる。
【0039】
また酸素前駆体原料としては、水、酸素、オゾン、酸素プラズマのいずれかであることが好ましい。中でも、酸素プラズマは自己補償効果による酸素欠損を抑制する観点から好ましい。
【0040】
本実施形態では、第2の原料ガスを供給するガス供給管43と第1の原料ガスを供給するガス供給管41との間に、分離ガスを供給するガス供給管42が配された構成としている。分離ガスは、第1の原料ガス及び第2の原料ガスと反応しないものであれば特に制限されず、不活性ガスであることが好ましい。好ましい不活性ガスとしては、水素、窒素、アルゴンからなる群より選択される少なくとも1種のガスが挙げられる。
【0041】
本実施形態の構成では、第1の原料ガスと第2の原料ガスが基板10に到達する前に混合されることを抑制し、より高効率に亜鉛前駆体原料と窒素前駆体原料との反応を進めることができる。ガス供給管43は酸素前駆体原料槽51に、分離ガス供給管42は分離ガス原料槽52にそれぞれ接続されている。分離ガスが供給されない形態としても、ZnO系膜成膜装置1によれば、第1の原料ガスが基板10の膜形成面に最も近傍より供給されることから、優先的に効率よく亜鉛前駆体原料と窒素前駆体原料とを反応させることができる。しかしながら、亜鉛前駆体原料が有機金属である場合は自然発火性を有するため、亜鉛前駆体原料と酸素前駆体原料とは物理的に分離されていることが好ましい。
【0042】
原料槽内の原料が気体である場合はそのままガス供給管に流入させることができるが、液体である場合は、キャリアガス55をまず液体の原料槽内に流入させてバブリングすることにより気化させた後にガス供給管に流入させる。キャリアガスとしては、窒素ガス、水素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0043】
複数の流路311〜313内のガスは、層流となるように流量を調整してある。従って、反応部32に対しても層流の状態で各ガスが基板10の膜形成面10sに供給される。各ガスの流量は、流量計を用いて管理されている(図示略)。成膜される膜の組成や物性、結晶構造は原料ガスの流量比、基板温度、圧力等によって変化するため、各ガスの流量や反応管30内の圧力等を調整して成膜を実施すればよい。
【0044】
反応部30に供給された各ガスは、基板上にて反応後、真空ポンプ60により強制排気される。
以下に、ZnO系膜成膜装置1を用いてZnO膜を成膜する方法の一例を説明する。
【0045】
はじめに、基板10を用意し、p型ZnO膜成膜装置1のサセプタ21上に設置する。その後サセプタ21をヒータ22により所定の温度になるように加熱して回転させる。
【0046】
次に、原料槽54内の窒素前駆体原料と原料槽53内の亜鉛前駆体原料を原料槽55内のキャリアガスによりバブリングして気化させてガス供給管41にて混合し、第1の原料ガスを調整し、原料槽51内の酸素前駆体原料(第2の原料ガス)及び原料槽52内の分離ガスと共に各ガス供給管により反応管30内に供給する。供給されたガスはガス導入部31のそれぞれの流路(311,312,313)を通って反応部32に流入し、基板10上供給される。
【0047】
反応部32への各ガスの流入は、流路の整列順序と同様の順で基板に近いガスからなされるため、まず第1の原料ガスが加熱された基板10の膜形成面上に到達し、第1の原料ガス中の窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料が反応する(工程(A))。
【0048】
窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料との反応後、第2の原料ガスが基板10の膜形成面上に到達して工程(A)において未反応となった亜鉛前駆体原料と反応し、p型ZnO膜が得られる(工程(B))。
【0049】
分離ガスを用いた本実施形態の構成では、その流量によって、工程(A)において未反応となった亜鉛前駆体原料と酸素前駆体原料との反応量を制御することができる。その際、分離ガスを非連続的に供給することによりその流量を調整して反応量を制御してもよい。
【0050】
この反応量の制御は、分離ガスの流量の調整以外に、第2の原料ガスの流量、反応管30内部の圧力を調整することによっても行うことができる。反応管30の内部の圧力は、10Torr(1.33×10Pa)以下であることが好ましい。また、酸素前駆体原料として反応性の高い酸素ラジカルやオゾンを使用する場合には、第2の原料ガスの供給を非連続的に行うことにより反応量を調整してもよい。
【0051】
上記成膜方法によれば、最初に基板10上に供給される第1の原料ガス中に酸素原子を含まないため、亜鉛前駆体原料が酸素と反応することなく、高効率に窒素前駆体原料と反応し、その後第2の原料ガスとして酸素前駆体原料が基板10上に供給されて、基板10上に残存する未反応の亜鉛前駆体原料と反応する。従って、本実施形態の成膜方法によれば、キャリア濃度の高いp型ZnO系膜を成膜することができる。
【0052】
また、成膜装置1は、基板10上に第1の原料ガスと第2の原料ガスとを分離して供給し、且つ、工程(A)を実施した後に工程(B)を実施することができる構成としている。従って成膜装置1によれば、キャリア濃度の高いp型ZnO系膜を容易に成膜することができる。
【0053】
「p型ZnO系半導体薄膜の成膜装置の第2実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置及び成膜方法について説明する。図2は縦型フロー形式である第2のp型ZnO系半導体薄膜成膜装置の概略構成図である。図1と同じ構成要素には同じ符号を付してある。また、視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0054】
図示されるように、ZnO系膜成膜装置2は、上記第1実施形態の成膜装置1と、原料ガスのフロー形式のみが異なるため、ガス導入部の構成のみが異なった構成としている。従って、本実施形態では第1実施形態と異なるガス導入部についてのみ説明することとし、同様の構成要素については説明を省略する。
【0055】
上記したように、本実施形態は縦型フロー形式であり、ガス導入部33が基板10の膜形成面に対向配置されており、膜形成面に対して略平行な面内にて吐出口331〜333が配列され、該吐出口の反対側の端部にガス供給管41〜43が個々に接続された複数の流路を備えたシャワーヘッド型の構成としている。
【0056】
図3及び図4は、シャワーヘッド型のガス導入部33のガス吐出面(シャワーヘッド先端部)の吐出口の配置を示したものであり、吐出口331が第1の原料ガス、吐出口332が分離ガス、吐出口333が第2の原料ガスの吐出口である。図示されるように、いずれの図においても、ガス吐出面において、第1の原料ガス吐出口331と第2の原料ガスの吐出口333とは隣接することなく配列されている。
【0057】
図3及び図4に示されるような吐出口の配置とすることにより、吐出後も分離ガスがエアカーテンとなるため、第1の原料ガスと第2の原料ガスとがほとんど接触することなく基板10の膜形成面に到達する。
【0058】
基板10に到達した第1の原料ガスは、基板10の膜形成面において加熱されるため、第1の原料ガス中の亜鉛前駆体原料と窒素前駆体原料とが反応して基板10上に成膜される。このとき、第1の原料ガス中には酸素原子を含まないため、亜鉛前駆体原料が酸素と反応することなく、高効率に窒素前駆体原料と反応する。
【0059】
本実施形態においても、基板10は支持部材23を軸として回転するサセプタ21の上に均熱保持されている。従って、サセプタ21を回転させて第1の原料ガス中の亜鉛前駆体原料と窒素前駆体原料とが反応して成膜されている部分を、第2の原料ガスが吐出されている領域に移動させることにより、該部分において未反応のまま残っている亜鉛前駆体原料と第2の原料ガス中の酸素前駆体原料とが反応して、p型ZnO系半導体薄膜を得ることができる。
【0060】
図3及び図4に示されるシャワーヘッドの吐出面では、わかりやすくするために吐出口同士の間隔が広くなっているが、実際の吐出面では、吐出口同士の間隔は狭くなっており、また、基板10も例えば200rpm等の回転数で高速回転されている。従って、上記シャワーヘッド型のガス導入部33とすることにより、組成むらが少なく膜厚の略均一なp型ZnO系半導体薄膜を成膜することができる。
【0061】
上記したように、本実施形態においても、第1の原料ガスは基板10上の膜形成面に、第2の原料ガスとほとんど接触することなく到達することができるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0062】
また、ZnO系膜成膜装置2は、上記第1実施形態の成膜装置1と、原料ガスのフロー形式のみが異なるため、ガス導入部の構成のみが異なった構成としている。上記したとおり、本実施形態のガス導入部33を用いても、第1実施形態と同様、基板10上に第1の原料ガスと第2の原料ガスとを分離して供給し、且つ、工程(A)を実施した後に工程(B)を実施することができる構成としている。従って成膜装置2によれば、キャリア濃度の高いp型ZnO系膜を容易に成膜することができる。
【実施例】
【0063】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図1に示される成膜装置を用いてp型ZnO薄膜を成膜した。原料槽には、亜鉛前駆体原料としてジメチルジンク,窒素前駆体原料としてターシャリーブチルアミン、酸素前駆体原料として酸素(気体)、分離ガスとしてArガスを用意した。亜鉛前駆体原料及び窒素前駆体原料のキャリアガスとしては、窒素ガスを用いた。
【0064】
単結晶サファイア基板をサセプタ上に固定し、基板温度550℃,回転数30rpmで回転させ、第1の原料ガスとしてジメチルジンクとターシャリーブチルアミンの混合ガス、第2の原料ガスとして酸素を用いて成膜を行った。
【0065】
得られた膜の抵抗値を測定したところ、約5Ωcmであることが確認された。
【0066】
(比較例1)
亜鉛前駆体原料として、二酸化窒素を用いた以外は実施例1と同様にしてp型ZnO膜を成膜した。得られた膜の抵抗値を測定したところ、約30Ωcmであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のp型ZnO系半導体薄膜の製造方法及び製造装置は、発光ダイオードや半導体レーザに用いられるZnO系薄膜の製造に好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 本発明に係る第1実施形態のp型ZnO系半導体膜の成膜装置
2 本発明に係る第2実施形態のp型ZnO系半導体膜の成膜装置
10 基板
20 基板保持部
21 サセプタ
22 ヒータ
23 支持部材
30 反応管
31,33 ガス導入部
311,312,313 流路
331,332,333 吐出口
32 反応部
40 ガス供給部
41,42,43,411,412,413 ガス供給管
50 原料補給部
51,52,53,54,55 原料槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応管内に配された基板上にp型ZnO系半導体薄膜を気相成長により成膜する方法であって、
前記反応管内に該反応管の外部から、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み且つ酸素原子を含まない第1の原料ガスを供給するとともに前記基板上にて前記窒素前駆体原料と前記亜鉛前駆体原料とを反応させる工程(A)と、
前記反応管内に該反応管の外部から、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを供給して該酸素前駆体原料と前記工程(A)において未反応となった前記亜鉛前駆体原料とを前記基板上にて反応させる工程(B)とを有することを特徴とするp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項2】
前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスが、前記基板面に対して垂直方向に分離されて、前記基板面対して略平行方向から流入されて前記基板上に供給されることを特徴とする請求項1に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項3】
前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスは、前記基板面に対して略垂直方向から流入されて、前記基板上に供給されるものであり、前記工程(A)と前記工程(B)との間に、基板上の工程(A)が実施された位置に前記第2の原料ガスが供給されるように前記基板を回転させる工程(C)を、実施することを特徴とする請求項1に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとが、水素、窒素、アルゴンからなる群より選択される少なくとも1種の分離ガスを介して分離されて前記基板上に供給されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の原料ガス及び前記分離ガスの供給が連続的であり、且つ、前記第2の原料ガスの供給が非連続的であることを特徴とする請求項4に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項6】
前記第1の原料ガス及び前記第2の原料ガスの供給が連続的であり、且つ、前記分離ガスの供給が非連続的であることを特徴とする請求項4に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項7】
前記亜鉛前駆体原料が、有機金属からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項8】
前記亜鉛前駆体原料が、ジエチルジンク又はジメチルジンクであることを特徴とする請求項7に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項9】
前記酸素前駆体原料が、水、酸素、オゾン、及び酸素プラズマからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項10】
前記窒素前駆体原料が、有機窒素化合物からなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項11】
前記窒素前駆体原料が、ターシャリーブチルアミン、ジメチルヒドラジン、及びジイソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることを特徴とする請求項10に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜方法。
【請求項12】
反応管内に配された基板上にp型ZnO系半導体薄膜を気相成長により成膜する成膜装置において、
管軸が略水平に設けられた前記反応管と、
前記基板を均熱保持する基板保持部と、
少なくとも、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み酸素原子を含まない第1の原料ガスと、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスを、前記反応管に分離して供給する複数のガス供給管を備えたガス供給部と、
所定の前記ガス供給管に接続され、該ガス供給管から前記反応管内に供給されるガスの原料を個々に蓄える複数の原料槽とを備えた成膜装置であって、
前記反応管は、前記基板の膜形成面が露出されて配された反応部と、該反応部に、前記管軸方向に隣接して設けられたガス導入部とを有するものであり、
該ガス導入部は、前記膜形成面に対して垂直方向に並列された複数の流路を備えたものであり、
該複数の流路は、前記基板と反対側の端部において、前記複数のガス供給管と個々に接続されており、
前記第1の原料ガスを供給する前記ガス供給管は、前記複数の流路のうち最も基板面に近い流路に接続されるものであることを特徴とするp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項13】
前記ガス導入部の複数の流路は、前記第1の原料ガスが供給される流路と前記第2の原料ガスが供給される流路との間に、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとを分離して前記反応部に供給する分離ガスが供給される流路を備えたことを特徴とする請求項12に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項14】
反応管内に配された基板上にp型ZnO系半導体薄膜を気相成長により成膜する成膜装置において、
管軸が略水平に設けられた前記反応管と、
前記管軸と略水平方向に前記基板を回転する機構を備え、且つ、前記基板を均熱保持する基板保持部と、
少なくとも、窒素前駆体原料と亜鉛前駆体原料とを含み酸素原子を含まない第1の原料ガスと、酸素前駆体原料を含む第2の原料ガスと、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとを前記基板上にて分離する分離ガスを前記反応管内に供給する複数のガス供給管を備えたガス供給部と、
所定の前記ガス供給管に接続され、該ガス供給管から前記反応管内に供給されるガスの原料を個々に蓄える複数の原料槽とを備えた成膜装置であって、
前記反応管は、前記基板の膜形成面が露出されて配された反応部と、前記膜形成面に対向配置されたガス導入部とを有するものであり、
該ガス導入部は、前記膜形成面に対して略平行な面内にて吐出口が配列され、該吐出口の反対側の端部に前記ガス供給管が個々に接続された複数の流路を備えたものであり、
前記第1の原料ガスを供給する前記ガス供給管が接続された前記流路と、前記第2の原料ガスを供給する前記ガス供給管が接続された前記流路とは、前記吐出口が配列された面内において隣接することなく配列されていることを特徴とするp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項15】
前記亜鉛前駆体原料が、有機金属からなることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項16】
前記亜鉛前駆体原料が、ジエチルジンク又はジメチルジンクであることを特徴とする請求項15に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項17】
前記酸素前駆体原料が、水、酸素、オゾン、及び酸素プラズマからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項18】
前記窒素前駆体原料が、有機窒素化合物からなることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。
【請求項19】
前記窒素前駆体原料が、ターシャリーブチルアミン、ジメチルヒドラジン、及びジイソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の原料であることを特徴とする請求項18に記載のp型ZnO系半導体薄膜の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−232316(P2010−232316A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76605(P2009−76605)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】