説明

静電チャックの再生方法

【課題】 静電チャックが確実に再生されたことを判断し得る静電チャックの再生方法を提供する。
【解決手段】 真空チャンバ12内にプラズマを発生させ、このプラズマにより誘電体たるチャックプレート3の表面をクリーニングする。次に、チャックプレート表面にダミー基板を搬送し、チャック本体の電極4a、4b間に電圧を印加してダミー基板を吸着させる工程と、前記ダミー基板の裏側に画成された空間3bに不活性ガスを供給し、そのときの前記空間からのガス漏洩量を測定する工程とを含む。そして、前記ダミー基板の複数枚を順次搬送して前記各工程を行い、前記ガス漏洩量が所定の閾値以下になると、静電チャックの再生が終了したと判断する。なお、ガス流量は、所定流量まで段階的または連続して増加させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置内にて処理すべき基板を吸着する静電チャックの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において所望のデバイス構造を得るためにPVD法、CVD法等による成膜処理、イオン注入処理やエッチング処理などプラズマを用いた処理が行われ、これらの処理を行う処理装置では、真空雰囲気中の処理室(真空チャンバ)にてシリコンウエハ(以下、「ウエハ」という)を位置決め保持するために所謂静電チャックが設けられている。従来、静電チャックとしては、正負の電極を埋設したチャック本体の上面に誘電体たるチャックプレートを装着してなる所謂双極型のものが例えば特許文献1で知られている。
【0003】
また、真空処理装置内でのプラズマ処理によっては、ウエハを所定温度に制御する場合があり、このような場合には、チャック本体(または基台)に例えば抵抗加熱式の加熱手段を組み込むと共に、ウエハの裏面(所定の処理が行われる面と反対側)の外周縁部と面接触するリブ部を形成し、このリブ部で囲繞された内部の空間に例えば同心状に複数個の支持部を立設してチャックプレートを構成することが知られている。そして、ウエハの加熱または冷却時には、上記内部空間にチャック本体に形成したガス通路を介してArガスなどの不活性ガスを供給し、リブ部とウエハ裏面とで画成される上記空間に不活性ガス雰囲気を形成することで、チャック本体からウエハへの熱伝達をアシストして、効率よくウエハの加熱、冷却できるようにしている。
【0004】
ここで、上記処理装置としてエッチング装置を例に説明すると、プラズマ中に存在するイオンが、静電チャックにて吸着されたウエハに引き込まれ、ウエハ表面に形成したレジストや酸化膜等の処理対象物がエッチングされる。このとき、エッチングにより有機物等の反応生成物が発生し、この反応生成物が、エッチング装置の内壁面だけでなく、静電チャックのチャックプレート等の表面にも付着し、堆積する場合がある。このような場合、単位印加電圧下での静電チャックの吸着力が低下するという不具合が生じ得る。
【0005】
このようにチャックプレート表面に付着し、堆積したものを効率よく除去し、静電チャックの吸着力を回復させる静電チャックの再生方法として、プラズマを用いたクリーニング処理が広く用いられており、特許文献2では、例えば、クリーニング処理中の処理室内の圧力を一定に保持する圧力制御バルブの開度の変化量を測定し、その開度が所定の閾値の範囲を超えて変化しなくなった時点をプラズマクリーニング処理の終点として検出することが提案されている。つまり、上記特許文献2記載のものでは、プラズマ中のイオン種と付着、堆積したものと反応させることで発生するガスに起因した処理室内の圧力変動を捉えて、クリーニング処理の終点を検出する。
【0006】
然しながら、クリーニング処理の終点を検出しても、クリーニング終了時点のチャックプレートの表面状態(表面抵抗等)を直接確認できず、例えば、チャックプレート表面に反応生成物が局所的に残留したりして静電チャックの吸着力が初期状態まで回復しない場合がある。このような状態で、生産用の基板を搬送して静電チャックにて基板を吸着したときに、例えば不活性ガスを供給すると、基板が位置ずれを生じたり、場合によっては、静電チャックから脱落するという不具合がある。従って、静電チャックの確実な再生(即ち、静電チャックの吸着力が初期状態までほぼ回復されるようにクリーニング処理されたこと)を事実上判断することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−321136号公報
【特許文献2】特開2006−73751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、静電チャックが確実に再生されたことを判断し得る静電チャックの再生方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、プラズマを発生させ、このプラズマにより誘電体たるチャックプレートの表面をクリーニングした後、前記チャックプレート表面にダミー基板を搬送し、チャック本体の電極間に電圧を印加してダミー基板を吸着させる工程と、前記ダミー基板の裏側に画成された空間に所定のガスを供給し、そのときの前記空間からのガス漏洩量を測定する工程とを含み、前記ダミー基板の複数枚を順次搬送して前記各工程を行い、前記ガス漏洩量が所定の閾値以下になると、静電チャックの再生が終了したと判断することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、上記従来例のように、プラズマを用いたクリーニング処理の終点を適切に検出してもチャックプレート表面に反応生成物が局所的に残留していると、静電チャックの吸着力が初期状態まで回復していない。このような状態でダミー基板を吸着した状態で所定流量のガスを供給すると、ガス漏洩量が多くなる。
【0011】
一方、ダミー基板を吸着させた時やその吸着解除時に、チャックプレートとダミー基板との摩擦等によって局所的に残留する反応生成物がダミー基板に転写されて除去されていく。このため、前記ダミー基板の複数枚を順次搬送して前記各工程を行い、前記ガス漏洩量が所定の閾値以下になれば、静電チャックの吸着力が初期状態まで回復して基板が確実に吸着できる状態まで静電チャックが再生されたと判断できる。
【0012】
このように本発明によれば、静電チャックが再生されたことを確実に判断でき、生産用の基板を空処理装置に搬送して所定の処理を実施する際に、基板裏面の空間に不活性ガスを供給しても、基板が位置ずれを生じたり、脱落したりするという不具合は生じない。
【0013】
本発明においては、前記ガス流量を所定流量まで段階的または連続して増加させるようにしておけば、不活性ガスを供給したときに、基板が位置ずれしたり、脱落するという不具合が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の静電チャックの再生方法を適用できるエッチング装置を模式的に説明する図。
【図2】図1に示す静電チャックの構成を模式的に説明する拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、本発明の実施形態の静電チャックの再生方法について、静電チャックECが配置される処理装置をエッチング装置とした場合を例に説明する。
【0016】
図1に示すように、エッチング装置1は、公知の構造を有する誘導結合型のものであり、ロータリポンプやターボ分子ポンプ等からなる真空排気手段11を備えた真空チャンバ12を有する。真空排気手段11に通じる排気管11aには、圧力制御バルブ13が介設され、エッチング(処理)中、真空チャンバ12内の圧力を所定値に維持し得る。
【0017】
真空チャンバ12は、誘電体円筒状壁により形成されたその上部のプラズマ発生室12aと下部の基板処理室12bとから構成されている。プラズマ発生室12aを画成する側壁(誘電体側壁)の外側には、三つの磁場コイル14a、14b、14cが設けられ、これらの磁場コイル14a、14b、14cにてプラズマ発生室12a内に環状磁気中性線(図示せず)を形成する。
【0018】
中間の磁場コイル14bとプラズマ発生室12aの側壁との間には、プラズマ発生用高周波アンテナコイル15が配置され、第1の高周波電源16に接続されている。第1の高周波電源16により三つの磁場コイル14a、14b、14cにより形成された磁気中性線に沿って交番電場を加えてプラズマ発生室12aに放電プラズマを発生させる。また、プラズマ発生室12aを画成する天板には、ガス管17が連結され、マスフローコントローラ17aを介して図示省略のガス源に連通し、プラズマ発生室12aにエッチングガスや後述のクリーニングガスを導入できるようになっている。
【0019】
基板処理室11bには、磁気中性線の作る面と対向するように、処理すべき基板たるウエハWを保持するステージSが設けられている。ステージSは、絶縁体S1を介して基板処理室11bの底面に設置された基台S2と、基台S2上に設けられた静電チャックECとから構成されている。なお、ステージSにはコンデンサ18を介して第2高周波電源19に接続され、エッチング中、ウエハWに負のバイアス電位が印加されるようになっている。
【0020】
図2に示すように、静電チャックECは、チャック本体2と、このチャック本体2の上面に設けられた誘電体たるチャックプレート3とから構成される。チャック本体2は、例えば窒化アルミ製であり、図示省略の絶縁層を介して正負の電極4a、4bが組み込まれ、公知のチャック電源たる直流電源Eから直流電圧が印加できるようになっている。
【0021】
また、チャック本体2には、上下方向に貫通するガス通路5が形成され、このガス通路5の下端は、マスフローコントローラ6を介設したガス管7を介してArガス等の不活性ガスを収容したガス源8に連通し、ガス供給手段を構成する。また、マスフローコントローラ6の下流側でガス管7に公知のマスフローメータ9が介設され、後述のように内部の空間に不活性ガスを供給する際に、そのガス流量を監視できるようになっている。さらに、チャック本体2には、公知の構造を有する抵抗加熱式のヒータ10が内蔵され、ウエハWを所定温度に加熱できるようになっている。
【0022】
チャックプレート3は、例えば窒化アルミ製であり、ウエハW裏面の外周縁部が面接触可能な環状のリブ部3aと、リブ部3aで囲繞された空間3bで同心状に立設された複数個の棒状の支持部3cとを備える。この場合、支持部3cの高さは、リブ部3aの高さより僅かに低くなるように設定され、チャックプレート3表面でウエハWを吸着したときに、各支持部3cでウエハWを支持されるようになっている。
【0023】
そして、チャックプレート3にウエハWを載置した後、両電極4a、4b間に、直流電源Eを介して直流電圧を印加することで発生する静電気力でウエハWがチャックプレート3表面で吸着される(この場合、ウエハWはチャックプレート3表面に略平行な状態となる)。このとき、ウエハW裏面の外周縁部がリブ部3aとその全周に亘って面接触することで内部の空間3bが略密閉される。この状態で、ガス供給手段を介してArガス等を供給すると空間3bに不活性ガス雰囲気が形成される。なお、ウエハW裏面の外周縁部とリブ部2aとの間にはシール部材を設けていないので、ウエハW裏面の外周縁部がリブ部2aとその全周に亘って面接触している場合でも微量(例えば0.01〜0.03sccm)の不活性ガスが漏れることとなる。
【0024】
これにより、ヒータ9を作動させてウエハWを所定温度に加熱する場合、リブ部3aとウエハW裏面とで画成される空間3bに不活性ガス雰囲気を形成することで、ウエハWへの熱伝達をアシストして効率よく基板Wの加熱でき、他方、ヒータを作動させない状態で、ヘリウムガス等の冷却ガスを上記空間3bに供給して基板Wを冷却できる。このようにウエハWの加熱及び冷却により、処理中、ウエハW温度を略一定に維持できる。また、静電チャックを含む、エッチング装置の上記作動部品は、図示省略の制御手段により統括制御されるようになっている。
【0025】
そして、上記エッチング装置1により、例えば、ウエハW表面に形成されたSiOなどの層間絶縁膜(処理対象物)にビアホールや配線用ホール、トレンチが微細加工される。エッチングガスとしては、エッチングしようとする処理対象物に応じて適宜選択され、フロロカーボンガス、炭化水素ガスやこれらに酸素や不活性ガスを添加したものが用いられる。
【0026】
ここで、上記エッチングガスを導入して処理対象物をエッチングすると、エッチングにより有機物等の反応生成物が発生し、この反応生成物が、エッチング装置の内壁面だけでなく、静電チャックのチャックプレート3表面にも付着し、堆積する場合がある。このような場合、単位印加電圧下での静電チャックECの吸着力が低下していく。このため、定期的にチャックプレート3表面に付着し、堆積したものを除去し、静電チャックECの吸着力を回復させる必要がある。そこで、以下に本発明の静電チャックの再生方法を説明する。
【0027】
上記エッチング装置1での処理を一旦停止した状態でプラズマを用いたクリーニング処理を行う。クリーニング処理においては、ガス管17からフッ素系ガス等の公知のクリーニングガスを真空チャンバ12内に導入し、上記同様、三つの磁場コイル14a、14b、14cにより形成された磁気中性線に沿って第1高周波電源16により交番電場を加えてプラズマ発生室12aに放電プラズマを発生させる。これに併せて、高周波電源19によりステージSにバイアス電圧を印加し、上記付着、堆積した膜とこのプラズマ中のイオン種とを反応させることによりガスを生成させ、真空排気手段11により排気する。
【0028】
このようなクリーニング処理中、例えば、真空チャンバ12内の圧力を一定に保持する圧力制御バルブ13の開度の変化量を測定し、その開度が所定の閾値の範囲を超えて変化しなくなった時点をプラズマクリーニング処理の終点として検出する。この終点検知方法については、本出願人により出願され、出願公開された特開2006−73751号に記載されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0029】
次に、クリーニング処理が終了すると、真空チャンバ12内を所定圧力まで真空引きする。そして、製品たるウエハWへの処理に先立って、チャックプレート3に例えば処理に用いられるものと同一のダミーウエハ(ダミー基板)を搬送し、エッチング時にウエハWを吸着するときと同一の電圧で直流電源Eを介して直流電圧を印加し、ダミーウエハを吸着する。この状態で、ガス供給手段を介してArガス等の不活性ガスを空間3bに導入し、そのガス流量をマスフローメータ9で測定する。
【0030】
このときガス流量は、例えば、製品たるウエハWを吸着してエッチングするときに空間3bに供給するガス流量と同一になるように設定され、所定間隔で段階的に増加するように制御される(例えば、エッチング時のガス流量が400sccmである場合には、所定間隔をおいて100sccmずつ400sccmまで増加させる)。このように所定流量の不活性ガスが供給された場合、チャックプレートのウエハWの吸着面に表面に上記付着、堆積した膜が残留し、単位吸着電圧における吸着力が回復していないとき、空間3bからのガス漏洩量が多くなる。
【0031】
このため、チャックプレートの初期状態で、製品たるウエハWを吸着した後、複数のガス流量で不活性ガスを供給したときのガス漏洩量をマスフローメータ9で測定されるガス流量から測定し、このときの測定値から閾値を予め設定する。そして、所定流量の不活性ガスが供給されたとき、マスフローメータ9で測定された単位時間当たりのガス流量が所定の閾値以内に収まっている場合には、空間3bに供給するガス流量を増加させる。
【0032】
他方、マスフローメータ9で測定された単位時間当たりのガス流量が上記閾値を超えた場合には、吸着力が回復していないと判断し、不活性ガスの供給を停止すると共に、直流電圧の印加を停止し、ダミーウエハの吸着を解除する。そして、ダミーウエハを静電チャックECから搬出し、次のダミーウエハを搬入する。ここで、ダミーウエハを吸着させた時やその吸着解除時に、チャックプレート3とダミーウエハとの摩擦等によって局所的に残留する反応生成物がダミーウエハに転写されて除去されていく。
【0033】
次のダミーウエハが搬送されてくると、上記と同様の手順でダミーウエハの吸着、不活性ガスの供給を行い、そのときマスフローメータ9で測定された単位時間当たりのガス流量が所定の閾値以内に収まっているかを判断する。そして、上記動作を繰り返し、エッチング時に空間3bに供給するガス流量と同一ガス流量にて、単位時間当たりのガス流量が上記閾値内に収まると、静電チャックの吸着力が初期状態まで回復してウエハWが確実に吸着できる状態まで静電チャックが再生されたと判断する。
【0034】
以上、説明したように本実施形態の静電チャックの再生方法によれば、ウエハWの温度制御用に静電チャックに組み込まれている部品を用いて静電チャックECが再生されたことを確実に判断でき、生産用のウエハWを真空チャンバ12に搬送して所定の処理を実施する際に、処理上設定された不活性ガスを供給しても、ウエハWが位置ずれを生じたり、脱落したりするという不具合は生じない。
【0035】
また、ガス流量を所定流量まで段階的増加させるようにしたため、不活性ガスを供給したときに、ガス圧でチャックプレートに吸着されたウエハWが位置ずれしたり、脱落するという不具合も生じない。
【0036】
なお、上記実施形態では、エッチング装置を例に説明したが、真空中でプラズマを用いて処理を行うものであれば、本発明の再生方法を適用することができる。また、ウエハWの位置ずれや脱落が防止できるのであれば、ガスの供給方法は上記に限定されるものではない。更に、ガス管7にマスフローメータ9を設けてガス漏洩量を測定したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、圧力制御バルブの開度を一定に設定し、真空チャンバ内の圧力変化からガス漏洩量を測定することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 エッチング装置(処理装置)
EC 静電チャック(基板保持装置)
2 チャック本体
3 チャックプレート
3b 空間
5、6、7 ガス導入手段
9 マスフローメータ
E 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させ、このプラズマにより誘電体たるチャックプレートの表面をクリーニングした後、前記チャックプレート表面にダミー基板を搬送し、チャック本体の電極間に電圧を印加してダミー基板を吸着させる工程と、前記ダミー基板の裏側に画成された空間に所定のガスを供給し、そのときの前記空間からのガス漏洩量を測定する工程とを含み、
前記ダミー基板の複数枚を順次搬送して前記各工程を行い、前記ガス漏洩量が所定の閾値以下になると、静電チャックの再生が終了したと判断することを特徴とする静電チャックの再生方法。
【請求項2】
前記ガス流量を所定流量まで段階的または連続して増加させることを特徴とする請求項1記載の静電チャックの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−245304(P2010−245304A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92594(P2009−92594)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】