4輪駆動ハイブリッド車両
【課題】電動車両の4輪走行の駆動力再配分において、再配分後の目標燃費を最良の燃費とする。
【解決手段】要求駆動力に対するエンジン1の駆動力の過不足分を第1のモータ3、第2のモータ3、7で調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。このため、モータで消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【解決手段】要求駆動力に対するエンジン1の駆動力の過不足分を第1のモータ3、第2のモータ3、7で調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。このため、モータで消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪駆動可能なハイブリッド車両に関し、特に、その駆動力配分の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−332020号公報は4輪駆動可能なハイブリッド車両を開示している。この車両においては、前後輪の駆動力を均一に設定しておき、一方の駆動輪にスリップが発生した場合には、スリップを収束させるべくスリップ輪の駆動力を低下させて、非スリップ輪にスリップ輪の低下分の駆動力を加算して車両の駆動力を一定に保つようにしている。
【特許文献1】特開平11−332020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術では、再配分は専らスリップを抑えて駆動力を一定にすることを目的として行われ、再配分後における燃費がどうなるかに関しては何も考慮されていない。スリップを抑えて駆動力を一定にする場合の駆動力配分は一通りではなく、再配分後の燃費に関してはなお向上させる余地がある。
【0004】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、4輪駆動ハイブリッド車両において駆動力の再配分を行うにあたり、再配分後の燃費を最良にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を第1及び第2のモータで調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、駆動力再配分後のモータで消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
図1に本発明を適用するハイブリッド車両の構成を示す。パワートレインは、エンジン1、クラッチ2、前輪モータ3(第1のモータ)、無段変速機15、減速装置4、差動装置5および前輪6(第1の駆動輪)から構成される駆動力伝達経路と、後輪モータ7(第2のモータ)、減速装置8、差動装置9及び後輪10(第2の駆動輪)から構成される駆動力伝達経路を持ち、4輪駆動可能な車両である。エンジン1の出力軸およびクラッチ2の入力軸は互いに連結されており、また、クラッチ2の出力軸とモータ3の入力軸が連結されている。
【0009】
クラッチ2締結時はエンジン1とモータ3が車両の推進源となり、クラッチ2解放時は前輪モータ3、後輪モータ7の一方、若しくは、双方が車両の推進源となる。エンジン1および/または前輪モータ3の駆動力は、無段変速機15、減速装置4および差動装置5を介して前輪6へ伝達される。また、後輪モータ7の駆動力は、減速装置8及び差動装置9を介して後輪10へ伝達される。
【0010】
無段変速機15は、ここではベルト式を用いるが、トロイダル式など他の方式の無段変速機であっても良く、また、無段変速機ではなく段階的に変速を行う有段変速機を用いても良い。無段変速機15には油圧装置17から油圧が供給され、ベルトのクランプと潤滑がなされる。油圧装置17のオイルポンプ(図示せず)は12Vで駆動される直流電動機モータ16により駆動される。
【0011】
クラッチ2はパウダークラッチであり伝達トルクを調節することができる。クラッチ2としては、パウダークラッチのほか、乾式単板クラッチや湿式多板クラッチを用いることもできる。
【0012】
モータ3、7はそれぞれ、インバータ11、13により駆動される。モータ3、7はここでは交流電動機であるが、直流電動機を用いることもできる。なお、モータ3、7に直流電動機を用いる場合には、インバータの代わりにDC/DCコンバーターを用いる。インバータ11、13は共通のDCリンクを介して蓄電装置12に接続されており、蓄電装置12の直流充電電力を交流電力に変換してモータ3、7へ供給するとともに、モータ3、7の交流発電電力を直流電力に変換して蓄電装置12を充電する。蓄電装置12には、リチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池などの各種電池や、電気二重層キャパシタいわゆるパワーキャパシターを用いることができる。
【0013】
コントローラ14は、アクセル操作量センサ21で検出されるアクセルペダルの操作量、磁気式や光学式のエンコーダなどで構成される車速センサ22で検出される車速、温度センサ23、24で検出されるモータ3、7の温度等が入力され、これらに基づいて、エンジン1の運転状態、モータ3の運転状態をどうすべきか判断し、その判断結果とアクセル操作を介した運転者からの要求に答えるべく、エンジン1、クラッチ2、モータ3、7、無段変速機15に対する指令値を生成する。
【0014】
図2は、上記ハイブリッド車両において行われる駆動力配分処理の内容を示したフローチャートである。この処理は、コントローラ14において、例えば10[msec]毎といったように所定の周期で繰り返し演算される。
【0015】
まず、ステップS11では、アクセル操作量と車両速度から運転者が要求する駆動力(以下、要求駆動力)を算出する。
【0016】
ステップS12では、ステップS11で算出した要求駆動力を実現する際のエンジン1の動作点、無段変速機15の変速比の目標値、クラッチ2の締結/開放状態を求める。
【0017】
ステップS13では、ステップS11で算出した要求駆動力をもとに過渡的に実現したい駆動力(以下、過渡要求駆動力)を算出する。
【0018】
ステップS14では、ステップS12で算出した動作点を目標値とするエンジン1のトルクを推定し、エンジン1により発生中の駆動力を推定する。
【0019】
ステップS15では、モータ3、7のトルク制限値をそれぞれ算出する。制限値の算出は図5に示すフローに従って行われ、これについては後述する。
【0020】
ステップS16では、ステップS15で算出したモータトルク制限値をもとに、モータトルク制限値の範囲内で、かつ、高い効率(少ない電力消費)でもって過渡要求駆動力を実現する各輪のモータトルク指令値を算出する。制限値の算出は図7に示すフローに従って行われ、これについては後述する。
【0021】
ステップS17では、ステップS12で求めた、エンジン1の動作点、無段変速機15の変速比の目標値、クラッチ2の締結/開放状態を実現するために、各アクチュエータを制御すると共に、ステップS16で求めたモータ3、モータ7のトルク指令値を実現するようインバータ11、13を制御する。
【0022】
以下、図2に示す各処理の詳細について説明する。
【0023】
ステップS11では、車速センサ22で検出した車両速度[km/h]とアクセル操作量センサ21で検出したアクセル操作量[deg]をもとに図3に示すマップを検索することにより要求駆動力Fd[N]を算出する。図3に示すマップは、車両速度が低いときほど大きな駆動力を算出する傾向を持ち、予め実験などから運転者の感覚に沿うようマップの値が調整される。
【0024】
ステップS12では、エンジン1、クラッチ2、無段変速機15の各動作点を算出する。例えば、走行中に消費する燃料量を低減するよう各動作点を求める。この場合には、エンジンの燃料消費特性やモータの損失特性を考慮し、運転者の要求駆動力を実現するにあたって、燃料消費量あたりの蓄電装置への充電量(以下、運転効率)が最も高くなる動作点を用いることにより実現することができる。また、同様に走行中の蓄電装置12の充電状態を所望の範囲に推移させたい場合には、特開2003-171604のように充電状態と運転効率を対応付けることにより実現することが可能となる。
【0025】
ステップS13は、ステップS11で算出した要求駆動力をもとに、運転者の運転性向上のため駆動力の推移が滑らかに補正したり、加速感を演出するために駆動力の立ち上がりを補正することにより過渡要求駆動力Fdt[N]を算出する。図4に過渡要求駆動力の例を示す。
【0026】
ステップ14では、エンジン1で発生中のトルクを推定する。ここでトルク推定値eTe[Nm]は、エンジン回転速度、吸気圧力と点火時期に対するエンジントルクの関係を予め実験により求め、マップを作成しておき、マップを検索することによりトルク基本値を算出する。また、この基本値に対して、トルク応答の時定数を持った一次遅れ処理を施すことによりトルク推定値eTe[Nm]を算出することができる。
【0027】
そして、次式により、エンジン1により発生中の駆動力eFeng[F]を求める。
【0028】
【数1】
【0029】
図5は、図2のステップS15においてモータトルク制限値を算出する処理の詳細を示したものである。
【0030】
これについて説明すると、ステップS21において、前後輪に備わった車速センサから各輪の車輪速を読み込む。
【0031】
ステップS22では、各輪の車輪速を用いて、路面摩擦係数μ[]を推定する。推定方法としては、例えば特開平11-78843号公報記載のように、タイヤと路面との間の摩擦係数の勾配である路面摩擦係数勾配を推定する技術や、特開平10-114263号公報記載のように、路面摩擦係数勾配と等価的に扱うことができる物理量として、スリップ速度に対する制動トルクの勾配や駆動トルクの勾配に基づいて推定する技術などが公知である。
【0032】
ステップS23では、前後輪にかかる荷重とステップS22で推定した路面摩擦係数とを乗算することにより、過回転スリップを発生することなく各輪で発生可能な駆動力の最大値(以下、前後輪限界駆動力)を求める。ここで、前輪の限界駆動力をFfmax[N]、後輪の限界駆動力をFrmax[N]とする。
【0033】
ステップS24では、ステップS14で求めたエンジン駆動力推定値eFengと前後輪の限界駆動力Ffmax、Frmaxから、モータトルク制限値を以下の式を用いて求める。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
【数4】
【0037】
ここで、Tfmmax[Nm]は前輪限界駆動力を発生する際の前輪モータ3のトルク、Trmmax[Nm]は後輪限界駆動力を発生する際の後輪モータ7のトルクを示す。また、Gff[]はフロントファイナルギア比、Gfr[]はリアファイナルギア比、Rtire[m]はタイヤ有効半径、Ncvtin[rpm]は無段変速機15の入力回転速度、Ncvtout[rpm]はその出力回転速度を示している。
【0038】
なお、必ずしも路面摩擦係数μを推定する必要はなく、例えば、スリップが収束した駆動力を当該駆動輪の発生可能な限界駆動力として代用しても良い。この場合、スリップを起こしていない他方の駆動輪の発生可能な駆動力は当該スリップ輪の収束値を輪荷重配分により補正して代用する。
【0039】
なお、ここではエンジン駆動力推定値と前後輪の限界駆動力から、モータトルク制限値を設定しているが、この設定方法に加えて、あるいは、この設定方法に代えて、モータの温度に応じてモータトルクを制限するようにしてもよい。これは、高温によるモータの性能劣化を防止するために行う。具体的には、モータ温度を代表するモータ冷却水温を温度センサ23、24で検出し、それに応じてモータ3、7のトルクを制限する。図6は、このとき用いられるマップの一例を示す。冷却水温に応じてモータ出力を段階的に制限し、モータ回転速度に応じたトルク制限値を検索することにより求めることができる。
【0040】
図7は、図2のステップS16における処理を示したものである。ステップS16では、モータトルク制限値の範囲内で高効率に過渡要求駆動力を実現する各輪のモータトルク指令値を算出する。
【0041】
これについて説明すると、ステップS31ないしS33では、過渡要求駆動力Fdt[N]、エンジン発生駆動力eFeng[N]、前後輪モータ制限値Tfmmax[Nm]、Trmmax[Nm]をそれぞれ読み込む。
【0042】
ステップS34では、蓄電装置12の出力可能電力Pout[kw]を算出する。ここで、出力可能電力Pout[kW]は以下の式を用いることで求めることができる。Vmin[V]は蓄電装置12が利用可能な下限電圧、Vo[V]は蓄電装置12の現在の開放端電圧、R[Ω]は蓄電装置12の内部抵抗である。
【0043】
【数5】
【0044】
ステップS35では、これまでのステップで求めたモータトルク制限値の範囲内で過渡要求駆動トルクを実現する前後輪のモータトルクの組合せを算出する。実施例で示す車両構成において、前輪モータトルクをTfm[Nm]に設定した場合の、過渡要求駆動力を実現する後輪モータトルクTrm[Nm]は次に示す式により求めることができる。
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、eTe[N]はステップS14(エンジン駆動力推定ステップ)で推定したエンジントルク[Nm]である。この関係を用いて、モータトルク制限値の範囲内で、過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを算出する。
【0047】
図8にモータトルクの組合せの一例を示す。前後輪のモータトルクは、式(6)に示す関係を用いて、過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを示し、縦の破線上の丸印で示す点はその一例を示したものである。横の破線で示すトルク制限値は、ステップS15で求めた制限値を示したものである。複数のトルク制限値を設定している場合は、モータトルクが多く制限される方(絶対値のより小さい方)を用いるようにすればよい。また、この制限値は少なくともモータの定格出力や最大トルクが守られることを前提とする。トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を実現する範囲は図中矢印で示す範囲となる。
【0048】
ステップS36では、ステップS35で求めたモータトルクの組合せを実現した場合の電力消費をそれぞれ算出する。電力消費は、次式により求めることができる。
【0049】
【数7】
【0050】
Nfm[rpm]は前輪モータの回転速度、Nrm[rpm]は後輪モータの回転速度を示す。また、MAPpfloss(Tfm,Nfm)とMAPprloss(Trm,Nrm)は前後輪それぞれのモータ損失電力を算出するためのマップを検索した結果であり、予め実験などによりモータトルクと回転速度に対応する損失電力の関係を求めて図9に示すようなマップを作成し、これ検索することにより求めることができる。
【0051】
各組み合わせについて電力消費を演算によって求め、横軸に駆動力配分をとってプロットすれば、図8の三段目に示すようなグラフが得られる。なお、このグラフはある車速、要求駆動力におけるグラフであり、車速、要求駆動力が異なればグラフの形も異なり、運転条件によってはいずれか一方のモータのみで駆動力を発生させた方が電力消費が少なくなる場合もありうる。このグラフを検索すれば、トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を最小の電力消費で実現するモータトルクの組合せを求めることができる。
【0052】
ステップS37では、出力可能電力Pout[kW]と、トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを実現した場合の電力消費の最小値(以下、最小電力消費)との大小関係を比較する。出力可能電力Pout[kW]が最小電力消費以上であると判断した場合には、ステップS39に進み、最小電力消費となる前後輪のモータトルクをそのままトルク指令値とする。
【0053】
一方、出力可能電力Pout[kW]が最小電力消費未満であると判断した場合にはステップS38に進み、過渡要求駆動力を所定量だけ減少補正し、ステップS35の処理に戻って電力消費の和を最小とするモータトルクの組み合わせを再度検索する。この処理は、ステップS37の条件が満たされるまで継続される。
【0054】
最小電力消費が出力可能電力を超える場合に選択されるモータトルク指令値の一例を図10に示す。灰色で示す丸印のモータトルクの組合せでは出力可能電力を満たせないため、過渡要求駆動力を段階的に低く設定し、電力消費を最小とした場合に出力可能電力を実現するモータトルクの組合せを検索してモータトルク指令値とする。
【0055】
なお、ステップS35では、モータ3、7を制御するインバータ11、13の電流値から各モータトルクを推定し、現在のモータトルクを中心とした所定範囲内のトルクの中から電力消費の和を最小にするモータトルクの組合せを算出する処理を追加するようにしても構わない。つまり、モータトルクの変動幅を制限するためのトルク制限値を追加する。これにより、モータトルクが大幅に変化することに伴う運転性の悪化を抑制することができる。
【0056】
ステップS17では、ステップS12で求められたエンジン動作点を実現するよう燃料噴射量制御アクチュエータやスロットル制御アクチュエータや、点火時期制御用アクチュエータを制御する。無段変速機15については、変速比制御用油圧アクチュエータを制御し、所望の変速比を実現する。クラッチ2については、締結/開放指令を実現するよう電流が制御される。前後輪のモータ3、7についてはステップS16で求めたトルクを実現するようインバータ11、13を制御する。
【0057】
次に、上記制御を行うことによる本発明の作用効果について説明する。
【0058】
本発明によれば、要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を第1及び第2のモータ(モータ3、7)で調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。このため、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【0059】
図11は本発明を適用しない比較例におけるトルクの変更の例を示し、運転者の要求する駆動力に対して、エンジン1の出力により得られる駆動力を差し引いた分を、前輪モータ3、後輪モータ7に配分した場合を示している。縦に並ぶモータ3、7のトルクは要求駆動力を実現する組合せであり、三段目にはその組合せにおける両モータ3、7の電力消費の合計を示してある。出力制限にかからない場合は、電力消費が最も少なくなるトルクの組合せが選択されるが、この状態において出力が制限されると、制限により一方のモータの出力が減少する分だけ他方のモータの出力を増加させる。図11においては、前輪モータ3のトルクが制限される分だけ、後輪モータ7のトルクの出力を増加させており、この際の電力消費は制限前と比較して大幅に大きくなっている。このように、駆動力再配分後に選択されるモータ3、7の動作点は必ずしも高効率なものにはならず、電力消費量を増大させ、車両の燃費を悪化させる。
【0060】
これに対し、図12は本発明を適用した場合を示しており、同様の状況で、駆動力を再配分した後に選択されるモータトルクの組合せを示したものである。トルク制限値の範囲内で電力消費が最も少なくなるトルクの組み合わせが選択されるので、駆動力再配分後の消費電力の増加は抑えられ、図11に示した比較例と比較して電力消費が少なくなることがわかる。
【0061】
また、駆動力再配分後の電力消費が最小となるようモータ3、7におけるモータトルクを求めた結果、電力消費が蓄電装置12の出力可能電力を上回る場合には、要求駆動力を減少補正した上で、電力消費を最小にするモータトルクの組み合わせを再検索する。これにより、電力消費は常に出力可能電力以下に抑えられるので蓄電装置12の過放電を防止することができ、制限の範囲内で最大限の駆動力を実現することができる。
【0062】
また、各駆動軸の出力可能な駆動力である前後輪限界駆動力を、例えば、路面摩擦係数を推定することによって求め、これに基づきモータトルクを制限するので、駆動力再配分後の過回転スリップを抑制しつつ、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することができる。
【0063】
また、モータトルク制限値をモータ3、7の温度に応じて制限することとしたため、温度上昇によるモータ性能の低下を抑制する範囲内で、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することができる。
【0064】
また、モータ3、7のトルクを推定し、推定した各モータトルクを中心とする所定のトルク範囲内で電力消費を最小とするようにモータトルク指令値を算出するようにしてもよく、これによればモータトルクが大幅に変化することに伴う運転性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】コントローラが行う駆動力配分処理の内容を示したフローチャートである。
【図3】車速とアクセル操作量に対する要求駆動力の関係を示したマップである。
【図4】過渡要求駆動力を説明するための図である。
【図5】モータトルク制限値を算出処理の内容を示したフローチャートである。
【図6】モータ温度とトルク制限値の関係を示したマップである。
【図7】モータトルク指令値算出処理の内容を示したフローチャートである。
【図8】過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組み合わせの一例を示した図である。
【図9】モータ回転速度とモータトルクに対する損失電力の関係を示したマップである。
【図10】モータの消費電力が蓄電装置の出力可能電力を超える場合にモータトルクが制限される場合を示す図である。
【図11】本発明を適用しない場合において出力制限が行われ、モータトルクの組み合わせが変更された場合を示す図である。
【図12】本発明を適用する場合において出力制限が行われ、モータトルクの組み合わせが変更された場合を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
2 クラッチ
3 前輪モータ(第1のモータ)
6 前輪(第1の駆動輪)
7 後輪モータ(第2のモータ)
10 後輪(第2の駆動輪)
11 インバータ
13 インバータ
14 コントローラ
15 無段変速機
21 アクセル操作量センサ
22 車速センサ
23 温度センサ
24 温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪駆動可能なハイブリッド車両に関し、特に、その駆動力配分の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−332020号公報は4輪駆動可能なハイブリッド車両を開示している。この車両においては、前後輪の駆動力を均一に設定しておき、一方の駆動輪にスリップが発生した場合には、スリップを収束させるべくスリップ輪の駆動力を低下させて、非スリップ輪にスリップ輪の低下分の駆動力を加算して車両の駆動力を一定に保つようにしている。
【特許文献1】特開平11−332020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術では、再配分は専らスリップを抑えて駆動力を一定にすることを目的として行われ、再配分後における燃費がどうなるかに関しては何も考慮されていない。スリップを抑えて駆動力を一定にする場合の駆動力配分は一通りではなく、再配分後の燃費に関してはなお向上させる余地がある。
【0004】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、4輪駆動ハイブリッド車両において駆動力の再配分を行うにあたり、再配分後の燃費を最良にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を第1及び第2のモータで調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、駆動力再配分後のモータで消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
図1に本発明を適用するハイブリッド車両の構成を示す。パワートレインは、エンジン1、クラッチ2、前輪モータ3(第1のモータ)、無段変速機15、減速装置4、差動装置5および前輪6(第1の駆動輪)から構成される駆動力伝達経路と、後輪モータ7(第2のモータ)、減速装置8、差動装置9及び後輪10(第2の駆動輪)から構成される駆動力伝達経路を持ち、4輪駆動可能な車両である。エンジン1の出力軸およびクラッチ2の入力軸は互いに連結されており、また、クラッチ2の出力軸とモータ3の入力軸が連結されている。
【0009】
クラッチ2締結時はエンジン1とモータ3が車両の推進源となり、クラッチ2解放時は前輪モータ3、後輪モータ7の一方、若しくは、双方が車両の推進源となる。エンジン1および/または前輪モータ3の駆動力は、無段変速機15、減速装置4および差動装置5を介して前輪6へ伝達される。また、後輪モータ7の駆動力は、減速装置8及び差動装置9を介して後輪10へ伝達される。
【0010】
無段変速機15は、ここではベルト式を用いるが、トロイダル式など他の方式の無段変速機であっても良く、また、無段変速機ではなく段階的に変速を行う有段変速機を用いても良い。無段変速機15には油圧装置17から油圧が供給され、ベルトのクランプと潤滑がなされる。油圧装置17のオイルポンプ(図示せず)は12Vで駆動される直流電動機モータ16により駆動される。
【0011】
クラッチ2はパウダークラッチであり伝達トルクを調節することができる。クラッチ2としては、パウダークラッチのほか、乾式単板クラッチや湿式多板クラッチを用いることもできる。
【0012】
モータ3、7はそれぞれ、インバータ11、13により駆動される。モータ3、7はここでは交流電動機であるが、直流電動機を用いることもできる。なお、モータ3、7に直流電動機を用いる場合には、インバータの代わりにDC/DCコンバーターを用いる。インバータ11、13は共通のDCリンクを介して蓄電装置12に接続されており、蓄電装置12の直流充電電力を交流電力に変換してモータ3、7へ供給するとともに、モータ3、7の交流発電電力を直流電力に変換して蓄電装置12を充電する。蓄電装置12には、リチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池などの各種電池や、電気二重層キャパシタいわゆるパワーキャパシターを用いることができる。
【0013】
コントローラ14は、アクセル操作量センサ21で検出されるアクセルペダルの操作量、磁気式や光学式のエンコーダなどで構成される車速センサ22で検出される車速、温度センサ23、24で検出されるモータ3、7の温度等が入力され、これらに基づいて、エンジン1の運転状態、モータ3の運転状態をどうすべきか判断し、その判断結果とアクセル操作を介した運転者からの要求に答えるべく、エンジン1、クラッチ2、モータ3、7、無段変速機15に対する指令値を生成する。
【0014】
図2は、上記ハイブリッド車両において行われる駆動力配分処理の内容を示したフローチャートである。この処理は、コントローラ14において、例えば10[msec]毎といったように所定の周期で繰り返し演算される。
【0015】
まず、ステップS11では、アクセル操作量と車両速度から運転者が要求する駆動力(以下、要求駆動力)を算出する。
【0016】
ステップS12では、ステップS11で算出した要求駆動力を実現する際のエンジン1の動作点、無段変速機15の変速比の目標値、クラッチ2の締結/開放状態を求める。
【0017】
ステップS13では、ステップS11で算出した要求駆動力をもとに過渡的に実現したい駆動力(以下、過渡要求駆動力)を算出する。
【0018】
ステップS14では、ステップS12で算出した動作点を目標値とするエンジン1のトルクを推定し、エンジン1により発生中の駆動力を推定する。
【0019】
ステップS15では、モータ3、7のトルク制限値をそれぞれ算出する。制限値の算出は図5に示すフローに従って行われ、これについては後述する。
【0020】
ステップS16では、ステップS15で算出したモータトルク制限値をもとに、モータトルク制限値の範囲内で、かつ、高い効率(少ない電力消費)でもって過渡要求駆動力を実現する各輪のモータトルク指令値を算出する。制限値の算出は図7に示すフローに従って行われ、これについては後述する。
【0021】
ステップS17では、ステップS12で求めた、エンジン1の動作点、無段変速機15の変速比の目標値、クラッチ2の締結/開放状態を実現するために、各アクチュエータを制御すると共に、ステップS16で求めたモータ3、モータ7のトルク指令値を実現するようインバータ11、13を制御する。
【0022】
以下、図2に示す各処理の詳細について説明する。
【0023】
ステップS11では、車速センサ22で検出した車両速度[km/h]とアクセル操作量センサ21で検出したアクセル操作量[deg]をもとに図3に示すマップを検索することにより要求駆動力Fd[N]を算出する。図3に示すマップは、車両速度が低いときほど大きな駆動力を算出する傾向を持ち、予め実験などから運転者の感覚に沿うようマップの値が調整される。
【0024】
ステップS12では、エンジン1、クラッチ2、無段変速機15の各動作点を算出する。例えば、走行中に消費する燃料量を低減するよう各動作点を求める。この場合には、エンジンの燃料消費特性やモータの損失特性を考慮し、運転者の要求駆動力を実現するにあたって、燃料消費量あたりの蓄電装置への充電量(以下、運転効率)が最も高くなる動作点を用いることにより実現することができる。また、同様に走行中の蓄電装置12の充電状態を所望の範囲に推移させたい場合には、特開2003-171604のように充電状態と運転効率を対応付けることにより実現することが可能となる。
【0025】
ステップS13は、ステップS11で算出した要求駆動力をもとに、運転者の運転性向上のため駆動力の推移が滑らかに補正したり、加速感を演出するために駆動力の立ち上がりを補正することにより過渡要求駆動力Fdt[N]を算出する。図4に過渡要求駆動力の例を示す。
【0026】
ステップ14では、エンジン1で発生中のトルクを推定する。ここでトルク推定値eTe[Nm]は、エンジン回転速度、吸気圧力と点火時期に対するエンジントルクの関係を予め実験により求め、マップを作成しておき、マップを検索することによりトルク基本値を算出する。また、この基本値に対して、トルク応答の時定数を持った一次遅れ処理を施すことによりトルク推定値eTe[Nm]を算出することができる。
【0027】
そして、次式により、エンジン1により発生中の駆動力eFeng[F]を求める。
【0028】
【数1】
【0029】
図5は、図2のステップS15においてモータトルク制限値を算出する処理の詳細を示したものである。
【0030】
これについて説明すると、ステップS21において、前後輪に備わった車速センサから各輪の車輪速を読み込む。
【0031】
ステップS22では、各輪の車輪速を用いて、路面摩擦係数μ[]を推定する。推定方法としては、例えば特開平11-78843号公報記載のように、タイヤと路面との間の摩擦係数の勾配である路面摩擦係数勾配を推定する技術や、特開平10-114263号公報記載のように、路面摩擦係数勾配と等価的に扱うことができる物理量として、スリップ速度に対する制動トルクの勾配や駆動トルクの勾配に基づいて推定する技術などが公知である。
【0032】
ステップS23では、前後輪にかかる荷重とステップS22で推定した路面摩擦係数とを乗算することにより、過回転スリップを発生することなく各輪で発生可能な駆動力の最大値(以下、前後輪限界駆動力)を求める。ここで、前輪の限界駆動力をFfmax[N]、後輪の限界駆動力をFrmax[N]とする。
【0033】
ステップS24では、ステップS14で求めたエンジン駆動力推定値eFengと前後輪の限界駆動力Ffmax、Frmaxから、モータトルク制限値を以下の式を用いて求める。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
【数4】
【0037】
ここで、Tfmmax[Nm]は前輪限界駆動力を発生する際の前輪モータ3のトルク、Trmmax[Nm]は後輪限界駆動力を発生する際の後輪モータ7のトルクを示す。また、Gff[]はフロントファイナルギア比、Gfr[]はリアファイナルギア比、Rtire[m]はタイヤ有効半径、Ncvtin[rpm]は無段変速機15の入力回転速度、Ncvtout[rpm]はその出力回転速度を示している。
【0038】
なお、必ずしも路面摩擦係数μを推定する必要はなく、例えば、スリップが収束した駆動力を当該駆動輪の発生可能な限界駆動力として代用しても良い。この場合、スリップを起こしていない他方の駆動輪の発生可能な駆動力は当該スリップ輪の収束値を輪荷重配分により補正して代用する。
【0039】
なお、ここではエンジン駆動力推定値と前後輪の限界駆動力から、モータトルク制限値を設定しているが、この設定方法に加えて、あるいは、この設定方法に代えて、モータの温度に応じてモータトルクを制限するようにしてもよい。これは、高温によるモータの性能劣化を防止するために行う。具体的には、モータ温度を代表するモータ冷却水温を温度センサ23、24で検出し、それに応じてモータ3、7のトルクを制限する。図6は、このとき用いられるマップの一例を示す。冷却水温に応じてモータ出力を段階的に制限し、モータ回転速度に応じたトルク制限値を検索することにより求めることができる。
【0040】
図7は、図2のステップS16における処理を示したものである。ステップS16では、モータトルク制限値の範囲内で高効率に過渡要求駆動力を実現する各輪のモータトルク指令値を算出する。
【0041】
これについて説明すると、ステップS31ないしS33では、過渡要求駆動力Fdt[N]、エンジン発生駆動力eFeng[N]、前後輪モータ制限値Tfmmax[Nm]、Trmmax[Nm]をそれぞれ読み込む。
【0042】
ステップS34では、蓄電装置12の出力可能電力Pout[kw]を算出する。ここで、出力可能電力Pout[kW]は以下の式を用いることで求めることができる。Vmin[V]は蓄電装置12が利用可能な下限電圧、Vo[V]は蓄電装置12の現在の開放端電圧、R[Ω]は蓄電装置12の内部抵抗である。
【0043】
【数5】
【0044】
ステップS35では、これまでのステップで求めたモータトルク制限値の範囲内で過渡要求駆動トルクを実現する前後輪のモータトルクの組合せを算出する。実施例で示す車両構成において、前輪モータトルクをTfm[Nm]に設定した場合の、過渡要求駆動力を実現する後輪モータトルクTrm[Nm]は次に示す式により求めることができる。
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、eTe[N]はステップS14(エンジン駆動力推定ステップ)で推定したエンジントルク[Nm]である。この関係を用いて、モータトルク制限値の範囲内で、過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを算出する。
【0047】
図8にモータトルクの組合せの一例を示す。前後輪のモータトルクは、式(6)に示す関係を用いて、過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを示し、縦の破線上の丸印で示す点はその一例を示したものである。横の破線で示すトルク制限値は、ステップS15で求めた制限値を示したものである。複数のトルク制限値を設定している場合は、モータトルクが多く制限される方(絶対値のより小さい方)を用いるようにすればよい。また、この制限値は少なくともモータの定格出力や最大トルクが守られることを前提とする。トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を実現する範囲は図中矢印で示す範囲となる。
【0048】
ステップS36では、ステップS35で求めたモータトルクの組合せを実現した場合の電力消費をそれぞれ算出する。電力消費は、次式により求めることができる。
【0049】
【数7】
【0050】
Nfm[rpm]は前輪モータの回転速度、Nrm[rpm]は後輪モータの回転速度を示す。また、MAPpfloss(Tfm,Nfm)とMAPprloss(Trm,Nrm)は前後輪それぞれのモータ損失電力を算出するためのマップを検索した結果であり、予め実験などによりモータトルクと回転速度に対応する損失電力の関係を求めて図9に示すようなマップを作成し、これ検索することにより求めることができる。
【0051】
各組み合わせについて電力消費を演算によって求め、横軸に駆動力配分をとってプロットすれば、図8の三段目に示すようなグラフが得られる。なお、このグラフはある車速、要求駆動力におけるグラフであり、車速、要求駆動力が異なればグラフの形も異なり、運転条件によってはいずれか一方のモータのみで駆動力を発生させた方が電力消費が少なくなる場合もありうる。このグラフを検索すれば、トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を最小の電力消費で実現するモータトルクの組合せを求めることができる。
【0052】
ステップS37では、出力可能電力Pout[kW]と、トルク制限値の範囲内で過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組合せを実現した場合の電力消費の最小値(以下、最小電力消費)との大小関係を比較する。出力可能電力Pout[kW]が最小電力消費以上であると判断した場合には、ステップS39に進み、最小電力消費となる前後輪のモータトルクをそのままトルク指令値とする。
【0053】
一方、出力可能電力Pout[kW]が最小電力消費未満であると判断した場合にはステップS38に進み、過渡要求駆動力を所定量だけ減少補正し、ステップS35の処理に戻って電力消費の和を最小とするモータトルクの組み合わせを再度検索する。この処理は、ステップS37の条件が満たされるまで継続される。
【0054】
最小電力消費が出力可能電力を超える場合に選択されるモータトルク指令値の一例を図10に示す。灰色で示す丸印のモータトルクの組合せでは出力可能電力を満たせないため、過渡要求駆動力を段階的に低く設定し、電力消費を最小とした場合に出力可能電力を実現するモータトルクの組合せを検索してモータトルク指令値とする。
【0055】
なお、ステップS35では、モータ3、7を制御するインバータ11、13の電流値から各モータトルクを推定し、現在のモータトルクを中心とした所定範囲内のトルクの中から電力消費の和を最小にするモータトルクの組合せを算出する処理を追加するようにしても構わない。つまり、モータトルクの変動幅を制限するためのトルク制限値を追加する。これにより、モータトルクが大幅に変化することに伴う運転性の悪化を抑制することができる。
【0056】
ステップS17では、ステップS12で求められたエンジン動作点を実現するよう燃料噴射量制御アクチュエータやスロットル制御アクチュエータや、点火時期制御用アクチュエータを制御する。無段変速機15については、変速比制御用油圧アクチュエータを制御し、所望の変速比を実現する。クラッチ2については、締結/開放指令を実現するよう電流が制御される。前後輪のモータ3、7についてはステップS16で求めたトルクを実現するようインバータ11、13を制御する。
【0057】
次に、上記制御を行うことによる本発明の作用効果について説明する。
【0058】
本発明によれば、要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を第1及び第2のモータ(モータ3、7)で調整する際に、各モータトルク制限値の範囲内となるモータトルクの組合せの中から最も電力消費が少なくなるものを選択し、モータトルク指令値とする。このため、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することが可能となる。
【0059】
図11は本発明を適用しない比較例におけるトルクの変更の例を示し、運転者の要求する駆動力に対して、エンジン1の出力により得られる駆動力を差し引いた分を、前輪モータ3、後輪モータ7に配分した場合を示している。縦に並ぶモータ3、7のトルクは要求駆動力を実現する組合せであり、三段目にはその組合せにおける両モータ3、7の電力消費の合計を示してある。出力制限にかからない場合は、電力消費が最も少なくなるトルクの組合せが選択されるが、この状態において出力が制限されると、制限により一方のモータの出力が減少する分だけ他方のモータの出力を増加させる。図11においては、前輪モータ3のトルクが制限される分だけ、後輪モータ7のトルクの出力を増加させており、この際の電力消費は制限前と比較して大幅に大きくなっている。このように、駆動力再配分後に選択されるモータ3、7の動作点は必ずしも高効率なものにはならず、電力消費量を増大させ、車両の燃費を悪化させる。
【0060】
これに対し、図12は本発明を適用した場合を示しており、同様の状況で、駆動力を再配分した後に選択されるモータトルクの組合せを示したものである。トルク制限値の範囲内で電力消費が最も少なくなるトルクの組み合わせが選択されるので、駆動力再配分後の消費電力の増加は抑えられ、図11に示した比較例と比較して電力消費が少なくなることがわかる。
【0061】
また、駆動力再配分後の電力消費が最小となるようモータ3、7におけるモータトルクを求めた結果、電力消費が蓄電装置12の出力可能電力を上回る場合には、要求駆動力を減少補正した上で、電力消費を最小にするモータトルクの組み合わせを再検索する。これにより、電力消費は常に出力可能電力以下に抑えられるので蓄電装置12の過放電を防止することができ、制限の範囲内で最大限の駆動力を実現することができる。
【0062】
また、各駆動軸の出力可能な駆動力である前後輪限界駆動力を、例えば、路面摩擦係数を推定することによって求め、これに基づきモータトルクを制限するので、駆動力再配分後の過回転スリップを抑制しつつ、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することができる。
【0063】
また、モータトルク制限値をモータ3、7の温度に応じて制限することとしたため、温度上昇によるモータ性能の低下を抑制する範囲内で、モータ3、7で消費する電力を効果的に低減し、その結果として走行中に消費する燃料量を低減することができる。
【0064】
また、モータ3、7のトルクを推定し、推定した各モータトルクを中心とする所定のトルク範囲内で電力消費を最小とするようにモータトルク指令値を算出するようにしてもよく、これによればモータトルクが大幅に変化することに伴う運転性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】コントローラが行う駆動力配分処理の内容を示したフローチャートである。
【図3】車速とアクセル操作量に対する要求駆動力の関係を示したマップである。
【図4】過渡要求駆動力を説明するための図である。
【図5】モータトルク制限値を算出処理の内容を示したフローチャートである。
【図6】モータ温度とトルク制限値の関係を示したマップである。
【図7】モータトルク指令値算出処理の内容を示したフローチャートである。
【図8】過渡要求駆動力を実現するモータトルクの組み合わせの一例を示した図である。
【図9】モータ回転速度とモータトルクに対する損失電力の関係を示したマップである。
【図10】モータの消費電力が蓄電装置の出力可能電力を超える場合にモータトルクが制限される場合を示す図である。
【図11】本発明を適用しない場合において出力制限が行われ、モータトルクの組み合わせが変更された場合を示す図である。
【図12】本発明を適用する場合において出力制限が行われ、モータトルクの組み合わせが変更された場合を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジン
2 クラッチ
3 前輪モータ(第1のモータ)
6 前輪(第1の駆動輪)
7 後輪モータ(第2のモータ)
10 後輪(第2の駆動輪)
11 インバータ
13 インバータ
14 コントローラ
15 無段変速機
21 アクセル操作量センサ
22 車速センサ
23 温度センサ
24 温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の駆動輪に動力を伝達するエンジン及び第1のモータと、
第2の駆動輪に動力を伝達する第2のモータと、
前記第1及び第2のモータに接続されて前記第1及び第2のモータと電力の受け渡しを行う蓄電装置と、
運転者が要求する駆動力を演算する要求駆動力算出手段と、
前記第1及び第2のモータのトルク制限値を算出するモータトルク制限値算出手段と、
前記エンジンの動力により発生している駆動力を推定するエンジン駆動力推定手段と、
前記要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を前記第1及び第2のモータのトルクで調整する場合、前記モータトルク制限値の範囲内で前記第1及び第2のモータの電力消費の和を最小とする第1及び第2のモータトルクの組み合わせを検索し、検索した組み合わせを前記第1及び第2のモータの指令値として算出するモータトルク指令値算出手段と、
前記第1及び第2のモータのトルクがそれぞれ前記指令値となるように前記第1及び第2のモータを制御するモータ制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記モータトルク指令値算出手段は、算出されたモータトルクの組み合わせによる消費電力が前記蓄電装置の出力可能電力を超える場合、前記要求駆動力を減少補正し、補正後の要求駆動力に基づき前記第1及び第2のモータの電力消費の和を最小とする第1及び第2のモータトルクの組み合わせを再度検索することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
過回転スリップが発生することなく第1及び第2の駆動輪で出力可能な駆動力の最大値をそれぞれ第1の駆動輪の限界駆動力、第2の駆動輪の限界駆動力として算出する限界駆動力算出手段を備え、
前記モータトルク制限値算出手段は、前記第1のモータに対しては、前記第1の駆動輪の限界駆動力から前記エンジンの動力により発生している駆動力を減じた駆動力を前記第1のモータで発生する場合の前記第1のモータのトルクを、前記第2のモータに対しては、前記第2の駆動輪の限界駆動力を前記モータで発生する場合の前記第2のモータのトルクをそれぞれモータトルク制限値として設定することを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記限界駆動力算出手段は、走行中の路面摩擦係数を推定し、推定した路面摩擦係数に基づき前記第1及び第2の駆動輪の限界駆動力を算出することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両
【請求項5】
前記第1及び第2のモータの温度を検出する手段を備え、
前記モータトルク制限値算出手段は、検出された前記第1及び第2のモータの温度が高いほど前記モータトルク制限値の絶対値を小さくすることを特徴とする請求項1から4のいずれかひとつに記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
走行中の第1及び第2のモータのトルクを推定するモータトルク推定手段を備え、
推定した各モータトルクを中心とする所定トルク範囲で電力消費を最小とするモータトルク指令値を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載のハイブリッド車両。
【請求項1】
第1の駆動輪に動力を伝達するエンジン及び第1のモータと、
第2の駆動輪に動力を伝達する第2のモータと、
前記第1及び第2のモータに接続されて前記第1及び第2のモータと電力の受け渡しを行う蓄電装置と、
運転者が要求する駆動力を演算する要求駆動力算出手段と、
前記第1及び第2のモータのトルク制限値を算出するモータトルク制限値算出手段と、
前記エンジンの動力により発生している駆動力を推定するエンジン駆動力推定手段と、
前記要求駆動力に対するエンジン駆動力の過不足分を前記第1及び第2のモータのトルクで調整する場合、前記モータトルク制限値の範囲内で前記第1及び第2のモータの電力消費の和を最小とする第1及び第2のモータトルクの組み合わせを検索し、検索した組み合わせを前記第1及び第2のモータの指令値として算出するモータトルク指令値算出手段と、
前記第1及び第2のモータのトルクがそれぞれ前記指令値となるように前記第1及び第2のモータを制御するモータ制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記モータトルク指令値算出手段は、算出されたモータトルクの組み合わせによる消費電力が前記蓄電装置の出力可能電力を超える場合、前記要求駆動力を減少補正し、補正後の要求駆動力に基づき前記第1及び第2のモータの電力消費の和を最小とする第1及び第2のモータトルクの組み合わせを再度検索することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
過回転スリップが発生することなく第1及び第2の駆動輪で出力可能な駆動力の最大値をそれぞれ第1の駆動輪の限界駆動力、第2の駆動輪の限界駆動力として算出する限界駆動力算出手段を備え、
前記モータトルク制限値算出手段は、前記第1のモータに対しては、前記第1の駆動輪の限界駆動力から前記エンジンの動力により発生している駆動力を減じた駆動力を前記第1のモータで発生する場合の前記第1のモータのトルクを、前記第2のモータに対しては、前記第2の駆動輪の限界駆動力を前記モータで発生する場合の前記第2のモータのトルクをそれぞれモータトルク制限値として設定することを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記限界駆動力算出手段は、走行中の路面摩擦係数を推定し、推定した路面摩擦係数に基づき前記第1及び第2の駆動輪の限界駆動力を算出することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両
【請求項5】
前記第1及び第2のモータの温度を検出する手段を備え、
前記モータトルク制限値算出手段は、検出された前記第1及び第2のモータの温度が高いほど前記モータトルク制限値の絶対値を小さくすることを特徴とする請求項1から4のいずれかひとつに記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
走行中の第1及び第2のモータのトルクを推定するモータトルク推定手段を備え、
推定した各モータトルクを中心とする所定トルク範囲で電力消費を最小とするモータトルク指令値を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれかひとつに記載のハイブリッド車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−180657(P2006−180657A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373018(P2004−373018)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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