説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】発光層がストライプ状の凹凸形状に沿って形成されたIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層を均一な厚さに形成すること。
【解決手段】まず、基板101の一方の表面に、ノコギリ歯状ストライプの凹凸形状を形成する(図2(a))。次に、基板101のノコギリ歯状ストライプの凹凸形状が形成された側の表面上に、減圧MOCVD法によって、その凹凸形状に沿って、n型層102、発光層103、p型層104を順に積層させる。これにより、各層が凹凸形状に沿ってうねったノコギリ歯状ストライプの形状となるよう形成する(図2(b))。ここで、ガス流方向は、凹凸形状のストライプ方向に平行な方向とした。これにより、発光層103の面内膜厚分布、組成分布を均一にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストライプ状の凹凸形状を有するn型層上に、その凹凸形状に沿ってうねった形状の発光層を形成するIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板上にc面を主面とするIII 族窒化物半導体層を積層させた構造が広く用いられている。このような構造のIII 族窒化物半導体発光素子では、内部量子効率が限界に近づきつつあり、大幅な光出力の向上を図ることは困難な状況となっている。また、電極やチップ形状などについても多くの検討がなされており、光取り出し効率を大幅に向上させることも難しい状況である。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1、2の技術が提案されている。特許文献1、2には、n型層を凹凸形状とし、n型層上に凹凸形状に沿ってうねった形状の発光層を形成することで、発光面積を増大させ、光出力を向上させる方法が示されている。また、特許文献2では、凹凸形状をストライプ状のノコギリ歯状とし、その斜面を無極性面であるm面とする構造が示されている。m面はピエゾ電界が0となる面であることから、内部量子効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−92426
【特許文献2】特開2008−130606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2のように、n型層の凹凸形状に沿ってうねった形状の発光層を形成すると、発光層の厚さにばらつきを生じてしまい、均一の厚さに形成することは困難であった。
【0006】
そこで本発明の目的は、n型層表面の凹凸形状に沿って発光層が形成されたIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、均一な発光層を形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、III 族窒化物半導体からなるn型層表面にストライプ状の凹凸形状を有し、その凹凸形状を有するn型層表面上に、凹凸形状に沿ってうねった形状のIII 族窒化物半導体からなる発光層をMOCVD法によって形成するIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、発光層は、原料ガスをストライプ方向に平行な方向に流しながら形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0008】
ここでIII 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。より一般的には、Gaを少なくとも含むGaN、InGaN、AlGaN、AlGaInNを示す。n型不純物としてはSi、p型不純物としてはMgが通常用いられる。
【0009】
原料ガスのガス流方向は、ストライプ方向に平行な方向に完全に一致している必要はなく、ストライプ方向に直交しない範囲で揺らぎを有していてもよい。ガス流方向の揺らぎの範囲がストライプ方向に直交する方向を含むと、結晶表面近傍に乱流が生じ、発光層の厚さや組成に大きな偏りを生じてしまう。ガス流方向の揺らぎは、ストライプ方向を中心として−30°〜30°の範囲であることが望ましい。発光層の厚さ、組成をより均一にすることができる。
【0010】
ストライプ状の凹凸形状は、発光面積を増大させる点からn型層の主面に平行な面がなるべく少ない形状が望ましく、n型層の主面に平行な面がない形状、すなわちストライプ方向に垂直な方向における断面がノコギリ歯状である形状が特に望ましい。さらに、ノコギリ歯状を構成する斜面が(11−22)面であることが望ましい。この面はc面に対して約60°を成す面であり、半極性面であるから、内部量子効率を向上させることができる。
【0011】
n型層は、凹凸形状に沿って波型にうねった形状であってもよいが、発光層形成側の表面のみが凹凸形状を有していてもよい。また、発光層上に形成するp型層は、発光層と同様に凹凸形状に沿ってうねった形状としてもよいが、p型層の発光層側とは反対側の表面は凹凸のない平坦な面としてもよい。
【0012】
n型層に凹凸形状を形成する方法は、たとえば以下の方法を用いることができる。1つは、成長基板表面をエッチング等によって凹凸形状に加工し、その成長基板上に凹凸形状に沿ってn型層を形成する方法である。この方法を用いる場合、成長基板としてSi基板を用いるのが特に有効である。Si基板は異方性ウェットエッチングによって容易に凹凸形状を形成することができるのに加え、基板自体が低コストであり、また大口径基板を用いることができるので、III 族窒化物半導体発光素子の製造コストを低減することができる。他の方法として、成長基板上にストライプ状のマスクを形成し、n型層をファセット成長させることで、凹凸形状を形成してもよい。また、成長基板上に第1のn型層を平坦に形成した後に、第1のn型層上にストライプ状のマスクを形成し、そのマスクを用いて第1のn型層上に第2のn型層を選択成長させることで凹凸形状を形成してもよい。また、n型層をドライエッチングすることで凹凸形状に加工した後、再度凹凸形状に沿って波型にうねった形状のn型層を形成してもよい。
【0013】
発光層を形成する際には、減圧成長とすることが望ましい。凹凸形状の底部に原料ガスが滞留してしまうのを防止し、発光層の厚さを均一とするためである。また、減圧成長とすることで層間界面を急峻とすることも可能となる。また、原料ガスを一定方向に流すため、ガスフローの上流側と下流側では成長する発光層に厚さ分布、組成分布が発生する場合があるが、減圧成長とすることでこれを抑制することができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、MOCVD法は、減圧MOCVD法である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0015】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、凹凸形状は、ストライプ方向に垂直な方向における断面がノコギリ歯状である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0016】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、ノコギリ歯状を構成する面は、すべて(11−22)面である、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0017】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、n型層は、ストライプ状の凹凸形状を有した基板上に、その凹凸形状に沿ってうねった形状に形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0018】
第6の発明は、第5の発明において、基板はSi基板であり、そのSi基板表面にストライプ状のマスクを形成し、その後、Si基板表面を異方性ウェットエッチングすることで凹凸形状を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0019】
第7の発明は、第1の発明から第4の発明において、n型層は、第1のn型層と第2のn型層で構成され、基板上に第1のn型層を形成し、その第1のn型層上にストライプ状のマスクを形成し、その後、第1のn型層上にマスクを用いて第2のn型層を選択成長させることで、表面に凹凸形状を有する第2のn型層を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によると、凹凸形状がストライプ状であり、そのストライプ方向に原料ガスを流すため、原料ガスの流量および方向が安定し、凹凸形状に沿って均一な厚さの発光層を形成することができる。その結果、光出力が高く、駆動電圧が低減されたIII 族窒化物半導体発光素子を製造することができる。
【0021】
また、第2の発明によると、凹凸形状の凹部底にガスが滞留してしまうのを避けることができ、より均一な厚さ、組成の発光層を形成することができる。また、層間界面を急峻にすることができる。
【0022】
また、第3の発明のように、凹凸形状をノコギリ歯状のストライプとすることで、発光面積をより広くすることができ、光出力をより向上させることができる。
【0023】
また、第4の発明のように、ノコギリ歯状を構成する斜面すべてを(11−22)面とすると、内部電界の影響が大きく低減され、内部量子効率を向上させることができるので、さらなる光出力の向上を図ることができる。
【0024】
また、第5の発明のように、凹凸形状を有した基板を用いると、容易にその凹凸形状を有したn型層を形成することができ、また基板の凹凸形状によって光取り出し効率も向上させることができる。特に第6の発明のように、基板としてSi基板を用いると、基板に凹凸形状を形成することも容易となる。
【0025】
また、第7の発明のように、第1のn型層上にマスクを用いて第2のn型層を選択成長させることで、凹凸形状を有したn型層を容易に形成することができる。また、その凹凸形状における斜面を容易に(11−22)面とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1の発光素子100の構成を示した図。
【図2】実施例1の発光素子100の製造工程を示した図。
【図3】実施例2の発光素子200の構成を示した図。
【図4】実施例2の発光素子200の製造工程を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1は、実施例1の発光素子100の構成を示した図である。発光素子100は、基板101と、基板101上に順に積層されたn型層102、発光層103、p型層104と、n電極105およびp電極106と、透明電極107と、によって構成されている。
【0029】
基板101は、n型層102形成側の表面に、ストライプ状の凹凸形状を有している。その凹凸形状のストライプ方向に垂直な方向における断面はノコギリ歯状である。
【0030】
基板101の材料は、サファイア、Si、SiC、ZnO、スピネルなど、従来よりIII 族窒化物半導体の成長基板として知られている任意の材料を用いることができる。基板101の材料としてSiなどの光を吸収する材料を用いる場合には、基板101とn型層102との間に光学多層膜、DBR層、金属層などの光を反射する層を設け、光取り出し効率を向上させる構造とするのが望ましい。
【0031】
基板101の凹凸形状を有する側の表面上には、図示しないバッファ層を介して、c面を主面とするIII 族窒化物半導体からなるn型層102、発光層103、p型層104が順に積層されている。これらn型層102、発光層103、p型層104は、いずれも基板101の凹凸形状に沿ってうねったノコギリ歯状ストライプの形状となっていて、その面内膜厚分布、組成分布は均一である。
【0032】
n型層102、発光層103、p型層104は、従来より知られる任意の構造を採用することができる。n型層102は、たとえば、基板101側から順に、GaNからなる高濃度にSiがドープされたn型コンタクト層、GaNからなるnクラッド層が積層された構造である。発光層103は、たとえば、GaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層が繰り返し積層されたMQW構造である。p型層104は、たとえば、発光層103側から順に、AlGaNからなるMgがドープされたpクラッド層、GaNからなるMgがドープされたpコンタクト層、が積層された構造である。
【0033】
p型層104上の一部領域には、ドライエッチングによってn型層102に達する深さの溝109が形成されている。この溝109の底面も凹凸形状に沿ったノコギリ歯状ストライプの形状を有している。溝109の底面に露出したn型層102上には、n電極105が形成され、p型層104上のほぼ全面には透明電極107が形成され、透明電極107上にはp電極106が形成されている。
【0034】
なお、凹凸形状はストライプ状であればよく、ストライプ方向に垂直な方向における断面は必ずしもノコギリ歯状でなくてもよいが、発光面積をより増大させるためには素子面に平行な面の面積はなるべく少ないことが望ましく、素子面に平行な面の無いノコギリ歯状が最も望ましい。特に、発光層103のノコギリ歯状を構成する斜面がすべて(11−22)面となるようにすることが望ましい。(11−22)面はc面に対して約60°を成す面であり、半極性面である。そのため、(11−22)面に沿って発光層103が形成されることで内部量子効率を向上させることができる。
【0035】
また、実施例1の発光素子100はフェイスアップ型の構造であるが、透明電極107を省き、Ag合金などの高反射なp電極106をp型層105上に全面に形成してフリップチップ型の発光素子としてもよい。
【0036】
この発光素子100は、発光層103がノコギリ歯状のうねった形状を有しているため、発光面積が増大している。また、発光層103の厚さ、組成が均一であるため、電流が均一に拡散し、発光効率が向上している。また、基板101が凹凸形状に加工されているため、光取り出し効率も向上している。これらの理由により、発光素子100は光出力が向上している。また、n電極105、p電極106、透明電極107は凹凸形状に沿って接触しており、接触面積が広いので、駆動電圧が低減されている。
【0037】
次に、実施例1の発光素子100の製造工程について、図2を参照に説明する。
【0038】
まず、基板101の一方の表面に、ノコギリ歯状ストライプの凹凸形状を形成する(図2(a))。このような凹凸形状は、基板101表面にストライプ状のマスクを形成してドライエッチングすることによって形成することができる。基板101としてSi基板を用いる場合には、凹凸形状をウェットエッチングによって形成してもよい。SiはKOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などの強アルカリ溶液によって異方性ウェットエッチングすることができ、このウェットエッチングによって容易にノコギリ歯状の凹凸形状を形成することができる。たとえば(100)面を主面とするSi基板を用い、Si基板表面にストライプ状のマスクを形成してKOH、TMAHなどによりウェットエッチングすれば、ノコギリ歯状ストライプの凹凸形状を容易に形成することができる。また、ノコギリ歯状を構成する斜面は(111)面であり、III 族窒化物半導体の成長に適した面である。また、Si基板はサファイア基板などに比べて安価であり、大口径の基板を用いることができるので、製造コストを低減することができる。
【0039】
次に、基板101のノコギリ歯状ストライプの凹凸形状が形成された側の表面上に、減圧MOCVD法によって、その凹凸形状に沿って、バッファ層(図示しない)、n型層102、発光層103、p型層104を順に積層させる。これにより、各層が凹凸形状に沿ってうねったノコギリ歯状ストライプの形状となるよう形成する(図2(b))。MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 )、キャリアガスとしてH2 とN2 である。
【0040】
上記n型層102、発光層103、p型層104を形成するMOCVD法において、ガス流方向は、凹凸形状のストライプ方向に平行な方向とした。これにより、各層の厚さ、および組成を凹凸形状に沿って均一にすることができ、層間界面を急峻とすることができる。また、n型層102、発光層103、p型層104を減圧成長とすることにより、凹凸形状の底部にガスが滞留してしまうのを防止することができ、またガス流の上流側で成長する層と、下流側で成長する層との面内膜厚分布、組成分布の差を低減することができる。
【0041】
なお、ガス流方向は、凹凸形状のストライプ方向に平行な方向に完全に一致している必要はなく、ストライプ方向に垂直な方向とならない範囲で揺らぎを有していてもよい。ストライプ方向に垂直な方向となると、表面近傍に乱流を生じてしまい、また表面近傍に存在する拡散層の厚みに大きな偏りを生じてしまい、面内膜厚分布、組成分布に大きな偏りを生じてしまう。このようなガス流方向の制御は、たとえば、ガス流をウェハに平行な面内で回転させ、その回転円の円周方向とストライプ方向とを一致させることで達成することができる。より均一な厚さ、組成にn型層102、発光層103、p型層104を形成するために、ガス流方向の揺らぎは凹凸形状のストライプ方向に平行な方向を中心として−30〜30°の範囲に抑えることが望ましい。
【0042】
次に、p型層104上に開口部を有したマスクを形成し、ドライエッチングによってp型層104表面からn型層102に達する深さの溝109を形成する。p型層104表面は上述のように凹凸形状を有しており、p型層104、発光層103、n型層102が面内に一様な深さでエッチングされるため、溝109の底面に露出するn型層102もまた、凹凸形状を有する。その後ドライエッチングで用いたマスクは除去する(図2(c))。
【0043】
次に、p型層104上の全面に透明電極107を形成し、溝109の底面に露出したn型層102上にn電極105、透明電極107上にp電極106をそれぞれ形成する。ここで、溝109の底面、p型層104表面、はいずれも凹凸形状を有しているため、n電極105、透明電極107は接触面積が広くなる。その結果、n電極105、透明電極107の接触抵抗が下がるため、発光素子100の駆動電圧を低減することができる。
【0044】
以上のようにして製造された発光素子100は、発光層103の厚さ、組成が均一であるから、電流も均一に拡散し発光効率が向上している。
【実施例2】
【0045】
図3は、実施例2の発光素子200の構成を示した図である。発光素子200は、基板201と、基板201上に順に積層された、c面を主面とするIII 族窒化物半導体からなるn型層202、発光層203、p型層204と、n電極205、p電極206と、透明電極207と、によって構成されている。
【0046】
基板201のn型層202形成側表面は、実施例1の基板101とは異なり、凹凸形状が形成されておらず、平坦である。
【0047】
n型層202は、基板201上に形成された第1のn型層202aと、第1のn型層上に形成された第2のn型層202bとで構成されている。第1のn型層202a表面であって、第2のn型層202b側には、ストライプ状のマスク208が形成されていて、第1のn型層202aと第2のn型層202bとの界面近傍にマスク208が埋め込まれた形となっている。第2のn型層202bは、第1のn型層202a上にマスク208を用いて選択成長された層であり、ファセット成長により表面(第1のn型層202a側とは反対側表面)は、ノコギリ歯状ストライプの凹凸形状を有している。ノコギリ歯状を構成する斜面は、すべて(11−22)面である。マスク208は、III 族窒化物半導体を成長させない任意の材料でよく、たとえばSiO2 などである。
【0048】
発光層203、p型層204は、第2のn型層202bの凹凸形状が形成された側の表面上に、その凹凸形状に沿ってうねったノコギリ歯状ストライプの形状に形成されており、その面内膜厚分布、組成分布は均一である。
【0049】
p型層204上の一部領域には、ドライエッチングによって第2のn型層202bに達する深さの溝が形成されており、その溝の底面もまたノコギリ歯状ストライプの形状を有している。その溝に露出した第2のn型層202b上には、n電極205が形成されている。また、p型層204上のほぼ全面には透明電極207が形成され、透明電極207上にはp電極206が形成されている。
【0050】
この実施例2の発光素子200もまた、実施例1の発光素子100と同様に、発光層203が凹凸形状に沿ってうねった形状を有しているため、発光面積が増大され、光出力が向上されている。また、発光層203は(11−22)面に沿って形成されており、(11−22)面は半極性面であるため、内部量子効率の高い構造となっている。また、n電極205、p電極206、透明電極207は凹凸形状に沿って接触しており、接触面積が広いので、駆動電圧が低減されている。
【0051】
次に、発光素子200の製造工程について、図4を参照に説明する。
【0052】
まず、基板201上に、MOCVD法によってバッファ層(図示しない)、第1のn型層202aを形成する。
【0053】
次に、第1のn型層202a上にストライプ状のマスク208を形成し、そのマスク208を用いて第1のn型層202a上に、第2のn型層202bを選択成長させる。温度等の成長条件は、ファセット面が(11−22)面となるような条件とした。成長初期には、第1のn型層202aのマスク208が形成されていない領域上に、断面が二等辺三角形のストライプ状にn−GaN結晶210が成長していく(図4(b))。この二等辺三角形の2つの斜辺は(11−22)面である。そして、n−GaN結晶210は、(11−22)面を保持した状態でマスク208上を覆っていき、隣接するn−GaN結晶210同士が合体し、第1のn型層202a上およびマスク208上に第2のn型層202bが形成される。このように、マスク208を用いて選択成長させた結果、第2のn型層202bの表面(第1のn型層202a側とは反対側の表面)は、斜面が(11−22)面であるノコギリ歯状ストライプの凹凸形状が形成される(図4(c))。
【0054】
次に、第2のn型層202bのノコギリ歯状ストライプの凹凸形状が形成された側の表面上に、減圧MOCVD法によって、その凹凸形状に沿って、発光層203、p型層204を順に積層させる。これにより、発光層203およびp型層204が凹凸形状に沿ってうねったノコギリ歯状ストライプの形状となるよう形成する(図2(d))。ここで、ガス流方向は、凹凸形状のストライプ方向に平行な方向とした。これにより、発光層203およびp型層204の厚さ、および組成を凹凸形状に沿って均一にすることができ、層間界面を急峻とすることができる。また、発光層203、p型層204を減圧成長とすることにより、凹凸形状の底部(ノコギリ歯状の谷の部分)にガスが滞留してしまうのを防止することができ、またガス流の上流側で成長する層と、下流側で成長する層との面内膜厚分布、組成分布の差を低減することができる。
【0055】
次に、p型層204上の一部領域をドライエッチングしてn型層202に達する深さの溝を形成し、p型層204上に透明電極207を形成し、溝の底面に露出する第2のn型層202b上にn電極205、透明電極207上にp電極206をそれぞれ形成する。実施例1の場合と同様に、溝の底面とp型層204表面はいずれも凹凸形状を有しているため、n電極205、透明電極207は接触面積が広くなる。その結果、n電極205、透明電極207の接触抵抗が下がるため、発光素子200の駆動電圧を低減することができる。
【0056】
以上のようにして製造された発光素子200は、発光層203が均一な厚さ、組成に形成されるため、電流が均一に拡散し、発光効率が向上している。また、発光層203を半極性面である(11−22)面に沿って形成することができるため、内部量子効率を向上させることができる。
【0057】
なお、n型層にストライプ状の凹凸形状を形成する方法として、実施例1では、基板をストライプ状の凹凸形状に加工し、基板上にその凹凸形状に沿ってn型層を成長させる方法を示し、実施例2では、第1のn型層上にストライプ状のマスクを形成し、その第1のn型層上に第2のn型層を選択成長させることによって、第2のn型層表面をストライプ状の凹凸形状とする方法を示したが、他の方法によってn型層にストライプ状の凹凸形状を形成してもよい。たとえば、基板上にストライプ状のマスクを形成し、基板上にn型層を選択成長させることによって、n型層表面をストライプ状の凹凸形状としてもよい。また、平坦なn型層を直接ドライエッチングなどの方法によって加工して凹凸形状を形成し、その凹凸形状に沿って再度n型層を成長させる方法であってもよい。
【0058】
また、実施例ではn電極とp電極とを同一面側に設けた構造の発光素子を示したが、本発明は縦型の素子構造を有する発光素子にも適用することができる。縦型の発光素子は、n電極とp電極を対向して設け、素子面に垂直な方向に導通を取る構造である。このような縦型の発光素子は、成長基板としてSi基板やGaN基板などの導電性材料を用いたり、p型層上にpコンタクト電極を形成後に低融点金属などを介して導電性の支持基板と接合し、その後成長基板をレーザーリフトオフ、エッチングなどの方法によって除去することで実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のIII 族窒化物半導体発光素子は、照明装置等に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
101、201:基板
102、202:n型層
103、203:発光層
104、204:p型層
105、205:n電極
106、206:p電極
107、207:透明電極
208:マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族窒化物半導体からなるn型層表面にストライプ状の凹凸形状を有し、その凹凸形状を有するn型層表面上に、前記凹凸形状に沿ってうねった形状のIII 族窒化物半導体からなる発光層をMOCVD法によって形成するIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
発光層は、原料ガスをストライプ方向に平行な方向に流しながら形成する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記MOCVD法は、減圧MOCVD法である、ことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸形状は、ストライプ方向に垂直な方向における断面がノコギリ歯状である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記ノコギリ歯状を構成する面は、すべて(11−22)面である、ことを特徴とする請求項3に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記n型層は、ストライプ状の凹凸形状を有した基板上に、その凹凸形状に沿ってうねった形状に形成する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記基板はSi基板であり、
そのSi基板表面にストライプ状のマスクを形成し、その後、Si基板表面を異方性ウェットエッチングすることで前記凹凸形状を形成する、ことを特徴とする請求項5に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記n型層は、第1のn型層と第2のn型層で構成され、
基板上に前記第1のn型層を形成し、その第1のn型層上にストライプ状のマスクを形成し、その後、前記第1のn型層上に前記マスクを用いて前記第2のn型層を選択成長させることで、表面に前記凹凸形状を有する前記第2のn型層を形成する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−243616(P2011−243616A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111947(P2010−111947)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】