説明

アイドルストップ車両の油圧制御装置

【課題】アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】ベルト式無段変速機の少なくともエンジンからの入力側あるいは駆動輪への出力側で油圧制御されるクラッチにより係合・開放され、ベルト式無段変速機用のオイルポンプがエンジンで駆動され、クラッチ圧およびベルト挟圧の制御に利用される。この油圧制御装置では、車両走行中にアイドルストップ許可判定がされた場合に、当該判定と同時に、クラッチ圧を少なくとも駆動伝達不能とする値まで低減制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置、とりわけ電動オイルポンプを有しない機械式オイルポンプで駆動するベルト式無段変速機においてアイドルストップ時のベルト滑りを防止し得る油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機では、近年、省エネルギーや環境問題の観点から、車両における燃費向上やエネルギー効率の改善が望まれている。かかる観点から、下記特許文献1に開示されているような無段変速機(CVT)を搭載した車両が提供されている。また更なる燃費向上を図るべく、下記特許文献2に開示されているように、信号等において走行を停止する際に所定の条件を満足することを条件としてエンジンの運転を自動的に停止し、発進時にエンジンを自動的に再始動させるアイドルストップ機能を備えた車両が提供されている。
【0003】
このようなアイドルストップ機能を備えた車両のベルト式無段変速機で、電動オイルポンプを持たない場合、エンジン停止過程においてエンジンの回転数の降下に伴い機械式オイルポンプからの供給油圧が減少し、その結果、ベルト伝達トルク、前後進クラッチトルクが減少する。したがって、車両減速中にアイドルストップによりエンジンを停止させた場合、車両減速過程で発生する慣性トルクが前後進クラッチトの伝達トルク以下となった状態でベルト伝達トルクを超えるときがあり、このときには所謂ベルト滑りが発生する。このベルト滑り時のPV値が大きい場合、ベルトへのショック・ダメージが大きくこれを適正に防止することが好ましい。
【0004】
これに対し、例えば特開平8−189395号公報では、ベルト式無段変速機において燃費カット条件が不成立でもアイドルストップ条件が成立している場合には、燃料カット制御を実施し、アイドルストップ実施条件(自動停止条件)の成立中にクラッチ開放条件が成立したときにクラッチ開放状態としてエンジンを自動停止する装置が開示されている。この装置は、所定以上のスロットル開度から急激にスロットル開度を全閉とする場合に、燃料カットとともにエンジンブレーキを効かせて速やかに減速し、自動停止前にクラッチを開放してエンジン停止時のベルトへのショックを防止するものであり、この点で有利である。
【0005】
しかしながら、上記装置はクラッチを車両停止直前まで効かせる必要があり、電動オイルポンプを備えないベルト式無段変速機の油圧制御装置としてそのまま適用することができない。
【0006】
また、例えば特開2005−330813号公報では、アイドルストップ実施要求直後(自動停止要求直後)のエンジン回転数降下中にアイドルストップ復帰要求(再始動要求)が発生したときに、エンジンの停止を待たずにクランキングを開始することができるベルト式無段変速機の油圧制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−189395号公報
【特許文献2】特開2005−330813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の事情に鑑みて創作されたものであり、車両減速中にアイドルストップによりエンジンを停止させる場合に、アイドルストップ実施後のベルト滑りの発生を防止、又はベルト滑り時のPV値を低減することにより、ベルトへのショック・ダメージを低減し得るベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために第一の本発明では、ベルト式無段変速機の少なくともエンジンからの入力側あるいは駆動輪への出力側で油圧制御されるクラッチ(例えば、実施形態ではエンジンからの入力側で油圧制御される逆転ブレーキB1)により係合・開放され、前記ベルト式無段変速機用のオイルポンプがエンジンで駆動され、クラッチ圧およびベルト挟圧の制御に利用される、アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。このベルト式無段変速機の油圧制御装置では、車両走行中にアイドルストップ許可判定がされた場合に、前記判定と同時に、前記クラッチ圧を少なくとも駆動伝達不能とする値まで低減制御を実施する。
【0010】
第一の本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置によれば、車両走行中にアイドルストップ許可判定がなされた場合に、クラッチ圧を駆動伝達不能とする値まで低減制御する、代表的にはエンジンとベルト式無段変速機との間のクラッチを開放(切断)するように制御する。このように制御すれば、ベルトへの入力トルクはクラッチ・ベルト式無段変速機間の慣性トルクだけになり、エンジン・クラッチ間の慣性トルクは低減される。
詳細には、エンジンが自動停止するとこれと同時にオイルポンプも停止し、ベルト挟圧やクラッチ圧が降下する。その後、残存油圧によりクラッチ伝達トルクがベルト伝達トルクより大きくなることが想定される場合に(例えば、減速時のエンジンの慣性トルクが大きい場合や駆動輪に大きなショック入力がある場合など)、クラッチ側での駆動伝達を不能とするように制御する。これによりエンジンの自動停止から車両停止までの時間帯でのベルト滑りを防止することができる。
【0011】
また、第二の本発明では、ベルト式無段変速機の少なくともエンジンからの入力側あるいは駆動輪への出力側で油圧制御されるクラッチにより係合・開放され、前記ベルト式無段変速機用のオイルポンプがエンジンで駆動され、クラッチ圧およびベルト挟圧の制御に利用され、さらに車両停止前において、エンジン停止を待たずにクランキング可能なスタータを備える、アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。この油圧制御装置において、前記クラッチ圧は発進時と締結時とに切替弁で油圧が切替えられ、前記切替弁の切替え圧は変速制御用ソレノイド弁からの出力圧が入力され、所定車速以下でアイドルストップ許可判定がされた場合に、判定と同時に、前記変速制御用ソレノイド弁からの出力圧により前記切替弁を発進側に切替え、発進時のクラッチの指示圧を少なくともクラッチ駆動伝達不能に制御する。
【0012】
第二の本発明は、車両走行中にアイドルストップ許可判定がなされた場合に、クラッチを駆動伝達不能にする点では第一の本発明と同様であるが、第二の本発明では具体的な構成として、アイドルストップ許可判定(アイドルストップ実施判定)がされた場合に、変速制御用ソレノイド弁(例えば、実施形態におけるDS1,DS2)からの出力圧に基づいて変速制御用ソレノイド弁からの出力圧によりクラッチの切替弁を発進側に切替え、発進時のクラッチの指示圧を少なくともクラッチ駆動伝達不能に制御する。
また、第二の本発明では、車両停止前すなわち車両走行中にエンジン停止を待たずにクランキング可能なスタータを備えている。このため車両停止までに再始動要求があった場合に、クラッチが速やかに係合されて発進性が良好となる点で有利である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上の事情に鑑みて創作されたものであり、車両減速中にアイドルストップによりエンジンを停止させる場合に、アイドルストップ実施時に前後進クラッチを切断することで慣性トルクを低減させる、ベルトへの入力トルクを低減させる。これによりベルト滑りの発生を防止またはベルト滑り時のPV値を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機のスケルトン図である。
【図2】図1に示すベルト式無段変速機の油圧回路図である。
【図3】図2に示す油圧回路の一部の油圧回路図である。
【図4】本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置における制御方法の一例を説明するためのタイムチャートである。
【図5】本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置の一例の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機の油圧制御装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、ベルト式無段変速機の油圧制御装置の説明に先立って、これを搭載した車両の構成、車両において採用されている油圧回路について概略を説明する。
【0016】
≪車両の構成について≫
図1は本発明に係る車両の構成の一例を示す。エンジンの出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト(出力軸)32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速装置4(CVT)、油圧制御装置7及びエンジンにより駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0017】
オイルポンプ6は、トルクコンバータ3のポンプインペラ3aにより駆動される。トルクコンバータ3のタービンランナ3bはタービン軸(入力軸)5に連結され、ステータ3cはワンウェイクラッチ3dを介してケースにより支持されている。タービン軸5とポンプインペラ3aとの間にロックアップクランチ3eが設けられている。
【0018】
無段変速機2は、トルクコンバータ3のタービン軸5の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達する前後進切替装置8、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21及び両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15を有する変速装置4、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。タービン軸5とプライマリ軸10とは同一軸線上に配置され、セカンダリ軸20とドライブシャフト32とがタービン軸5に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機2は全体として3軸構成とされている。ここで用いられるVベルト15は、例えば無端状張力帯とこの張力帯に摺動自在に支持された多数のブロックとで構成された公知の圧縮駆動タイプの金属ベルトである。
【0019】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキB1と直結クラッチC1とで構成されている。逆転ブレーキB1は、前進時に発進クラッチとして機能し、直結クラッチC1は、後進時に発進クラッチとして機能する。逆転ブレーキB1と直結クラッチC1は、それぞれ湿式多板式のブレーキ及びクラッチである。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸5に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。遊星歯車機構80はシングルピニオン方式であり、逆転ブレーキB1はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチC1はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチC1を解放して逆転ブレーキB1を締結すると、前進走行状態となり、逆に、逆転ブレーキB1を解放して直結クラッチC1を締結すると、後進走行状態となる。
【0020】
プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油室13が形成されている。油室13へ供給される作動油を、後述するレシオ制御弁76,77で流量制御することにより、変速制御が実施される。
【0021】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油室23が形成されている。この油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト挟圧力が与えられる。なお、油室23には初期挟圧力を与えるバイアススプリングを配置してもよい。セカンダリプーリ21の油室23の近傍の供給油路中には、後述するように油室23の供給油圧を検出する油圧センサ108が設けられている。
【0022】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延びており、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0023】
エンジン1及び無段変速機2は、電子制御装置100によって制御される。電子制御装置100には、イグニッションスイッチIG、エンジン回転数センサ101、車速センサ102(又はセカンダリプーリ回転数センサ)、スロットル開度センサ103(又はアクセル開度センサ)、シフトポジションセンサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、ブレーキセンサ106、CVT油温センサ107及びセカンダリ圧を検出する油圧センサ108からそれぞれ検出信号が入力されている。入力信号として、その他の信号を入力してもよいことは勿論である。プライマリプーリ回転数センサ105によって、発進クラッチ(例えばB1)の後の回転数を検出できる。プライマリプーリ回転数センサ105及び車速センサ102の検出信号により、プーリ比を計算できる。本実施形態では説明を簡単にするため、単一の電子制御装置100によってエンジン1と無段変速機2の両方を制御する例を示したが、実際には個別の電子制御装置によって制御され、両電子制御装置は通信用バスによって相互に連携している。
【0024】
電子制御装置100は、油圧制御装置7に内蔵されたソレノイド弁を制御している。油圧制御装置7は、オイルポンプ6、プライマリ油室13、セカンダリ油室23、逆転ブレーキB1、直結クラッチC1とそれぞれ配管を介して接続されている。電子制御装置100は、車速とスロットル開度とに応じて予め設定された変速マップに従って目標プーリ比又はプライマリ回転数を決定し、油圧制御装置7内のソレノイド弁DS1、DS2を制御することによって、無段変速機2のプライマリ油室13への供給油量を調整し、プーリ比又はプライマリ回転数を目標値へとフィードバック制御している。
【0025】
また、電子制御装置100は、エンジントルクと変速比とからベルト伝達トルクを求め、通常のベルト滑りを発生させない最低限のベルト挟圧力となるように、油圧制御装置7内のソレノイド弁SLSを制御する。この際、油圧センサ108で実際のセカンダリ圧が検出される。さらに、油圧制御装置7内のソレノイド弁SLSは、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1への供給油圧(過渡圧)を制御する機能を備えている。
【0026】
≪油圧回路について≫
図2は、第一および第二の本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置7を備える油圧回路の基本構成を例示したものであり、図3はその一部を拡大したものである。図2、図3において、71はレギュレータ弁、72はクラッチモジュレータ弁、73はソレノイドモジュレータ弁、74はガレージシフト弁、75はマニュアル弁、76はアップシフト用レシオ制御弁、77はダウンシフト用レシオ制御弁、78はレシオチェック弁、79は挟圧コントロール弁である。また、SLSはライン圧の調圧制御、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1の過渡制御、及びセカンダリプーリ21の油室23の調圧制御を行うためのソレノイド圧Pslsを出力するリニアソレノイド弁、DS1はアップシフト用信号圧Pds1を調圧制御するアップシフト用ソレノイド弁、DS2はダウンシフト用信号圧Pds2を調圧制御するダウンシフト用ソレノイド弁である。本実施形態では、ソレノイド弁SLSは常開型(N/Oタイプ)のリニアソレノイド弁、ソレノイド弁DS1,DS2は共に常閉型(N/Cタイプ)のデューティソレノイド弁を使用している。油圧制御装置7の油圧源は、エンジン1によって駆動されるオイルポンプ6のみである。
【0027】
レギュレータ弁71は、オイルポンプ6の吐出圧を所定のライン圧PLに調圧する弁であり、信号ポート71aにリニアソレノイド弁SLSからが入力されている。そのため、ライン圧はソレノイド圧Pslsに比例した油圧に調圧される。クラッチモジュレータ弁72は、直結クラッチC1および逆転ブレーキB1への供給圧の元圧となるクラッチモジュレータ圧Pcmを出力する弁である。ソレノイドモジュレータ弁73は、クラッチモジュレータ圧Pcmを調圧して、一定のソレノイドモジュレータ圧Psmを発生する弁である。
【0028】
ガレージシフト弁74は、シフトレバーをNからD又はNからRへ切り替えた時(ガレージシフト時)に、直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替えるための切替弁である。このガレージシフト弁74は発進時にのみリニアソレノイド弁SLSからの出力圧Pslsを発進クラッチ圧とするが、クラッチの係合完了後はライン圧を減圧した一定圧Pcmに切り替えられてクラッチの係合を維持する機能を有する。図2において、ガレージシフト弁74の中心線より左側が過渡状態を示し、右側が保持状態を示す。ガレージシフト弁74は、スプリング74aによって一方向に付勢されたスプール74bを備えており、スプリング荷重と同方向には信号ポート74c,74dが形成されており、アップシフト用信号圧Pds1とダウンシフト用信号圧Pds2とが入力されている。カウンタポート74hには、スプリング荷重と対向方向にソレノイドモジュレータ圧Psmが入力されている。また、ポート74eにはリニアソレノイド弁SLSからソレノイド圧Pslsが入力されている。
【0029】
ガレージシフト時にはソレノイド弁DS1,DS2は共にオン状態となるので、信号ポート74c,74dに入力される信号圧Pds1,Pds2も共にオン状態になる。また、スプール74bはスプリング74aに抗して下方へ移動する。これにより、ガレージシフト弁74は、図2において中心線より左側に示した過渡状態になる。そのため、ポート74eに入力されたソレノイド圧Pslsが出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1へ供給される。このためソレノイド圧Pslsにより、直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1の係合ショックを回避しつつ緩やかな係合を開始することができる。
【0030】
また、信号圧Pds1,Pds2の少なくとも一方がオフ状態になると、スプール74bがソレノイドモジュレータ圧Psmによって上方へ移動し、ガレージシフト弁74が図2において中心線より右側に示した保持状態になる。そのため、ポート74gに入力されたクラッチモジュレータ圧Pcmが出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1へ供給される。つまり、信号圧Pds1,Pds2の少なくとも一方がオフ状態になると、リニアソレノイド弁SLSの作動如何にかかわらず直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1の締結状態を保持できる。
【0031】
マニュアル弁75は、シフトレバーと機械的に連結された手動操作弁であり、P、R、N、D、S、Bの各レンジに切り換えられ、ガレージシフト弁74から供給される油圧を直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1に選択的に導くものである。入力ポート75aにはガレージシフト弁74から油圧が供給され、出力ポート75bは直結クラッチC1と接続され、出力ポート75c、75dは共に逆転ブレーキB1に接続されている。マニュアル弁75は、Rレンジでは直結クラッチC1に油圧を供給するとともに逆転ブレーキB1の油圧をドレーンし、D、S、Bレンジでは逆転ブレーキB1に油圧を供給するとともに直結クラッチClの油圧をドレーンする。非走行レンジであるP、Nレンジでは直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1の油圧を共にドレーンする。
【0032】
アップシフト用レシオ制御弁76及びダウンシフト用レシオ制御弁77は、アップシフト用信号圧Pds1とダウンシフト用信号圧Pds2との相対関係によってプライマリ油室13に給排される作動油量を調整する流量制御弁である。すなわち、図3に示すように、アップシフト用レシオ制御弁76はスプリング76aによって一方向に付勢されたスプール76bを備えており、スプリング76aが収容された一端側の信号ポート76cに信号圧Pds2が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート76dに信号圧Pds1が入力されている。中間部の入力ポート76eにはライン圧PLが供給されており、出力ポート76fはプライマリプーリ11の油室13と接続されている。入力ポート76eとドレーンポート76gとの間には、後述するレシオチェック弁78のポート78hと接続されたポート76hが形成され、出力ポート76fと信号ポート76dとの間には、ダウンシフト用レシオ制御弁77のポート77f及びレシオチェック弁78のポート78dと接続されたポート76iが形成されている。
【0033】
ダウンシフト用レシオコントロール弁77は、スプリング77aによって一方向に付勢されたスプール77bを備えており、スプリング77aが収容された一端側の信号ポート77cに信号圧Pdslが入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート77dに信号圧Pds2が入力されている。中間部には、ドレーンポート77eと、アップシフト用レシオ制御弁76のポート76iと接続されたポート77fと、レシオチェック弁78のポート78fと接続されたポート77gとが順に形成されている。
【0034】
レシオチェック弁78は、閉じ込み制御のために、プライマリ油室13を流量制御から油圧制御に切り替えて、プライマリ油室13の油圧とセカンダリ油室23の油圧との比率を予め設定された関係に保持するための弁である。レシオチェック弁78は、スプリング78aによって一方向に付勢されたスプール78bを備えており、スプリング78aが収容された一端側の信号ポート78cにセカンダリプーリ油室23の油圧が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート78dには、プライマリプーリ油室13の油圧がアップシフト用レシオ制御弁76のポート76f,76iを介して入力されている。なお、セカンダリ圧が入力される信号ポート78cの受圧面積に比べて、プライマリ圧が入力される信号ポート78dの受圧面積の方がα倍だけ大きい。入力ポート78eにはライン圧PLが供給されており、出力ポート78hはグウンシフト用レシオ制御弁77のポート77gと接続されている。さらに、出力ポート78fとドレーンポート78gとの間には、アツプシフト用レシオ制御弁76のポート76hと接続されるポート78hが形成されている。
【0035】
挟圧コントロール弁79は、セカンダリプーリ21の作動油室23の油圧(セカンダリ圧)を制御するための弁である。スプリング79fによって一方向に付勢されたスプール79eを備え、スプリング荷重と対向する一端側の信号ポート79aにソレノイドモジュレータ弁73から−定圧Psmが供給されている。入力ポート79bにはライン圧PLが供給されており、出力ポート79cはセカンダリプーリ21の作動油室23と接続され、セカンダリ圧はポート79dにフィードバックされている。スプリング79fが収容された他端側の信号ポート79eにはソレノイド圧Pslsが供給される。ポート79hはドレーンポートである。このため、信号ポート79eに入力されたソレノイド圧Pslsを所定の増幅度で増幅した油圧を、セカンダリ圧としてセカンダリプーリ21の作動油室23に供給することができる。作動油室23の油圧(セカンダリ圧)は油圧センサ108によって検出され、検出された油圧に基づいてベルト挟圧力又はベルト伝達トルクを求めることができる。
【0036】
ベルト挟圧力又はベルト伝達トルクの計算方法としては、例えば油圧センサ108によってセカンダリ油圧を検出し、そのセカンダリ油圧と受圧面積とからベルト挟圧力を計算し、さらにベルト挟圧、ベルトとプーリとの摩擦係数、ベルト巻き掛け径などからベルト伝達トルクを計算することができる。
【0037】
≪本発明のベルト式無段変速機の制御装置における制御方法について≫
図4は、本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置7における制御方法の一例を説明するためのタイムチャートである。具体的に図4は上段から順に(a)はブレーキ信号、(b)は車速、(c)はエンジンの回転数、(d)はベルト式無段変速機のプーリレシオ(以下、「プーリレシオ」)、(e)はアップシフト用ソレノイド弁DS1の出力信号、(f)はダウンシフト用ソレノイド弁DS2の出力信号、(g)はリニアソレノイドSLSの出力信号、(h)は前進クラッチ(逆転ブレーキ)B1の油圧、を示している。
【0038】
まず、(a)(b)(c)に示すように時間t0においてブレーキがONになると車両が減速を開始し、これに伴いエンジン回転数も徐々に低下する。また、車両が減速するためにプーリレシオもローレシオ側(増速側)に動いていくことが判る((d)参照)。次に時間t1において車速が所定値v2以下になるとアイドルストップが実施される((b)参照)。本実施形態ではv2=5〜7km/hでアイドルストップ実施判定がなされる。
【0039】
アイドルストップが実施されると(e)(f)に示されるようにソレノイド弁DS1、DS2が共にオンになり、全開(100%)に切り替わるように制御される。これにより上述するように図2のガレージシフト弁74は過渡状態になり、ポート74eに入力されたソレノイド圧Pslsが出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1へ供給される。このとき(g)に示すようにリニアソレノイド弁SLSの出力電流は所定値(ここでは1A)に上昇させる。この出力電流の上昇は逆転ブレーキB1の開放(クラッチの切断)、すなわちベルトの狭圧制御(=変速制御)からクラッチ制御に移行したことを意味する。また、(h)の時間t1前後に示すように逆転ブレーキB1への供給油圧は、一定値のクラッチモジュレータ圧Pcmからリニアソレノイド弁SLSの作動に基づくソレノイド圧Pslsで制御されることとなる。なお、前述するようにソレノイド弁DS1、DS2がオンになると変速制御が停止するため増速側に動いていたプーリレシオも一定値となる((d)参照)。
【0040】
次に時間t2に注目すれば、ブレーキがONからOFFになりスロットルが開放されるとエンジンの再始動判定(アイドルストップ復帰判定)がなされ、ブレーキOFFその他のエンジンの再始動条件を満足するとエンジンが再始動し、その回転数も上昇していく。なお、図4の場合、時間t1〜t2の間でエンジンが停止し、車両が停止した後にエンジンが再始動し、少し遅れて車速上昇しているが、アイドルストップの復帰は車両が停止する前でも良く、さらにエンジンが停止する前であっても良い。この場合、一般的にはエンジン始動時にクランキングを実行するスタータはエンジン停止前にも作動可能にしておくことが好ましい。後述するクラッチ係合を迅速に実行することができ、車両の発進性が向上するからである。
【0041】
時間t2においてアイドルストップ復帰判定がなされるとリニアソレノイド弁SLSの出力電流を低下させて、徐々に逆転ブレーキB1への油圧が上昇し、前述のクラッチモジュレータ圧Pcmに近づけられていく((g)(h)参照)。その後、所定時間経過すると増速側のソレノイド弁(アップシフト用ソレノイド弁)DS1がオフになり、全閉(0%)に一気に切り替わり、通常の変速制御に移行する((e)(f)の時間t3参照)。これにより、逆転ブレーキB1の係合が完了し、クラッチ油圧もクラッチモジュレータ圧Pcmが導通する。具体的には、ガレージシフト弁74が図2の右側に示した保持状態に戻り、ポート74gに入力されたクラッチモジュレータ圧Pcmが出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して逆転ブレーキB1へ供給される。したがって、時間t3からは、時間t1までのベルト挟圧制御に移行する((g)参照)。
【0042】
次に図5を参照すれば、図4のタイムチャートと同様の本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置7の制御フローチャートが示されている。まず、STEP1の車両が通常走行状態(例えば車速>V1)からアイドルストップ実施判定がなされる(STEP2)。このアイドルストップ実施判定は所定のアイドルストップ実施条件を満足するか否かである。例えば(1)車速が所定値(V2)以上である、(2)ブレーキ信号がONである又はブレーキ負圧が所定値(P1)以上である、(3)その他の条件を満足するか否かである。
【0043】
アイドル実施条件を満足したと判定された場合、まずソレノイド弁DS1、DS2が共に全開になりガレージシフト弁74が過渡状態に切り替わる(STEP3)。ガレージシフト弁74が過渡状態に切り替わるとエンジンが停止し(STEP4)、前進クラッチ(逆転ブレーキ)B1が開放される(STEP5)。このときリニアソレノイド弁SLSが所定値(=例えば1A)に上昇される(STEP5)。
【0044】
次に、アイドルストップから復帰しエンジンを再始動させるときの制御フローについてSTEP6から説明する。まず、既述したSTEP2〜STEP5でアイドルストップ実施状態から復帰するためのアイドルストップ再始動実施判定がなされる(STEP6)。このアイドルストップ再始動判定は、所定のアイドルストップ再始動条件(復帰条件)を満足するか否かである。例えば(1)ブレーキ信号がOFFである又はブレーキ負圧が所定値(P2)以下である、(2)その他の条件、を満足するか否かである。
【0045】
アイドルストップ再始動条件を満足したと判定された場合にはエンジンが再始動し(STEP7)、リニアソレノイド弁SLSが所定値(=例えば1A未満)に低減され、前進クラッチ(逆転ブレーキ)B1の係合制御が開始する(STEP8)。その後、所定時間経過すると前進クラッチ(逆転ブレーキ)B1の係合制御が完了し、ソレノイド弁DS1、DS2それぞれ一方がオフになる通常の変速制御に移行する(STEP9〜STEP10)。
【0046】
以上、第一及び第二の本発明のベルト式無段変速機の油圧制御装置についての実施形態およびその概念について説明してきたが本発明はこれに限定されるものではなく特許請求の範囲および明細書等に記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例、改良例が得られることは当業者は理解できるであろう。
【符号の説明】
【0047】
11 プライマリプーリ
13 油室
21 セカンダリプーリ
71 レギュレータ弁
72 クラッチモジュレータ弁
73 ソレノイドモジュレータ弁
74 ガレージシフト弁
75 マニュアル弁
76 アップシフト用レシオ制御弁
77 ダウンシフト用レシオ制御弁
78 レシオチェック弁
79 挟圧コントロール弁
108 油圧センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト式無段変速機の少なくともエンジンからの入力側あるいは駆動輪への出力側で油圧制御されるクラッチにより係合・開放され、
前記ベルト式無段変速機用のオイルポンプがエンジンで駆動され、クラッチ圧およびベルト挟圧の制御に利用される、アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、
車両走行中にアイドルストップ許可判定がされた場合に、前記判定と同時に、前記クラッチ圧を少なくとも駆動伝達不能とする値まで低減制御を実施する、ことを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
ベルト式無段変速機の少なくともエンジンからの入力側あるいは駆動輪への出力側で油圧制御されるクラッチにより係合・開放され、
前記ベルト式無段変速機用のオイルポンプがエンジンで駆動され、クラッチ圧およびベルト挟圧の制御に利用され、
さらに車両停止前において、エンジン停止を待たずにクランキング可能なスタータを備える、アイドルストップ可能な車両用のベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、
前記クラッチ圧は発進時と締結時とに切替弁で油圧が切替えられ、前記切替弁の切替え圧は変速制御用ソレノイド弁からの出力圧が入力され、
所定車速以下でアイドルストップ許可判定がされた場合に、判定と同時に、前記変速制御用ソレノイド弁からの出力圧により前記切替弁を発進側に切替え、発進時のクラッチの指示圧を少なくともクラッチ駆動伝達不能に制御する、ことを特徴とするベルト式無段変速機の油圧制御装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97790(P2012−97790A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244719(P2010−244719)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】