説明

シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハ

【課題】 埋込イオン注入層を介して複数のエピタキシャル層が積層形成されたエピタキシャルウェーハを極めて能率的に製造でき、形成されるイオン注入層の横方向拡散も少ないシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】 イオン注入後の結晶回復のための熱処理を水素雰囲気中にて行うことで、注入前酸化処理を行わなくともイオン注入層71,72への面荒れ発生が極めて効果的に抑制される。その結果、埋込イオン注入層71’,72’を有するエピタキシャルウェーハの製造方法において、注入前酸化処理の省略、ひいてはフォトレジスト膜のみをマスク64として用いたイオン注入が実現される。注入前酸化を含めたエピタキシャル層3への積極的な酸化膜形成処理が排除される結果、埋込イオン注入層71’,72’に加わる熱履歴の回数が減って横方向拡散が効果的に抑制される。また、酸化膜の形成/除去が不要となる結果、エピタキシャルウェーハ製造の工程数を劇的に減ずることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法と、それにより製造されるエピタキシャルウェーハに関する。さらに詳しくは、シリコンエピタキシャル層にイオン注入後さらにシリコンエピタキシャル層を気相成長させることにより埋込層を形成するエピタキシャルウェーハの製造方法及びそれにより製造されるエピタキシャルウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶基板上にシリコン単結晶薄膜を気相エピタキシャル成長させたシリコンエピタキシャルウェーハ(以下、単に「エピタキシャルウェーハ」ともいう)中において、そのシリコン単結晶薄膜(以下、「シリコンエピタキシャル層」あるいは単に「エピタキシャル層」ともいう)に、イオン注入法により不純物元素のイオン注入層を形成し、さらに別のエピタキシャル層をその上に形成して埋込層となす技術が、例えば特開平1−105557号公報により既に知られている。該公報には、一例としてエピタキシャルウェーハにCMOS回路を作り込む工程が開示されている。
【0003】
エピタキシャルウェーハに縦型MOSFETや縦型バイポーラトランジスタ等の素子を作り込む際に、深さ方向に長い不純物添加領域(以下、本明細書では、「縦方向添加領域」あるいは「縦方向不純物添加領域」と称する)を形成しなければならない場合がある。例えば、素子を他の領域から絶縁分離するための素子分離領域(前記公報では、該公報第1図の素子分離領域3,4)や、ウェーハ中に埋込形成された高濃度不純物拡散層への導電路を形成する不純物添加領域(前記公報では、該公報第1図のドレイン領域6,6a)がこの「縦方向添加領域」に当たる。
【0004】
例えばエピタキシャル層が単一の比較的厚い層として形成されている場合、直接的なイオン注入では、エピタキシャル層を貫く縦方向添加領域の形成が困難となることがある。この場合、基板表面に予めイオン注入層を形成しておき、エピタキシャル層の成長後に層表面に別のイオン注入層を形成し、その後の拡散熱処理により両イオン注入に基づく不純物添加領域を互いに拡散させて接続・一体化する手法がとられる。しかしこの方法でも、縦方向の拡散距離が長すぎる場合には横方向への拡散領域が多く必要となり、素子縮小等を図る上で不都合が生ずる欠点がある。そこで、前記の公報では、単一の比較的厚いエピタキシャル層の替わりに比較的薄いエピタキシャル層の成長工程を複数回行い、各々のエピタキシャル層の形成工程毎に所要の部分に不純物を添加し、さらに拡散熱処理を施すことにより、最終のエピタキシャル層から必要な深さまで不純物の添加された部分が重なり合うようにする技術が開示されている。比較的薄いエピタキシャル層毎にイオン注入層が形成されるので縦方向拡散距離が短くて済み、結果として横方向拡散が抑制されるとともに、熱処理時間も短縮できる利点が述べられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上記公報に開示された技術では、エピタキシャル層の特定の領域に不純物イオンを選択的に注入するために、エピタキシャル層上に形成した酸化物被膜をマスクとして使用している(以下、「イオン注入マスク用酸化膜」という)。イオン注入マスク用酸化膜はエピタキシャル層の表面を熱酸化することにより形成されるので、複数のエピタキシャル層のそれぞれにイオン注入層を形成する場合、エピタキシャル層の層数だけ酸化膜形成のための熱履歴が加わる(第一の熱履歴)。
【0006】
また、イオン注入層には、高エネルギーでイオンを打ち込むことにより結晶損傷(欠陥)が生じるので、イオン注入後にその結晶損傷回復のための熱処理(以下、「結晶回復熱処理」という)も必要であり、その熱処理に伴う熱履歴もイオン注入の回数だけ加わる(第二の熱履歴)。また、図12(a)に示すように、イオン注入マスク用酸化膜をエッチング除去して形成されるパターン開口部に直接イオン注入し、さらに結晶回復熱処理(一般に、窒素雰囲気等の不活性雰囲気中にて行われる)を行うと、イオン注入が施された領域の表面に面荒れが生じやすい。そこで、通常、同図(b)に示すように、エッチングにより露出したエピタキシャル層の表面に面荒れ防止用の薄い酸化膜を形成する処理が、イオン注入処理に先立って行われる(いわゆる「注入前酸化処理」)。この酸化膜の形成も、エピタキシャル層の熱酸化により行われるので、それに伴う熱履歴がイオン注入の回数だけさらに加わる(第三の熱履歴)。さらに、イオン注入層の上に別のエピタキシャル層を気相成長して埋込層を形成する際、エピタキシャルウェーハは高温に加熱されるので、気相成長に伴う熱履歴がエピタキシャル層の数だけ加わる(第四の熱履歴)。
【0007】
従って、前記公報に記載の技術では、形成されたイオン注入層にこのような4種類もの熱履歴が、各エピタキシャル層の形成とイオン注入とのサイクル毎に繰返し加わるので、そのイオン注入層に基づいて形成される縦方向添加領域は、必ずしも横方向の拡散が抑制されたものにはならない問題がある。例えば、図6(a)に示すように、複数のエピタキシャル層103a〜103cの各層間にイオン注入層101,102を形成する場合、エピタキシャル層103a〜103cおよびイオン注入層101,102を形成した段階にて既に、多数回の熱履歴が加わることで、拡散領域101a,102aは相当に拡がる。そして、同図(b)に示すように、さらに拡散熱処理を施して縦方向にイオン注入層が接続した縦方向添加領域105とした場合には、横方向への拡散がさらに進行した105a,105bとなる。特に、下層側のイオン注入層101ほどエピタキシャル層とイオン注入層が形成される毎に繰返し加わる熱履歴が多くなるので、横方向への拡がりは上層側に比べてひどくなる。
【0008】
より具体的には、図6(c)に示すように、エピタキシャル層103の層間に形成されるイオン注入層101は、下層側に位置するものほど拡がりの大きい不均一なものとなってしまい、縦方向に拡散して既にある程度連結された構造になってしまう(特に、下層側のイオン注入層)。その結果、図6(d)に示すように、続く拡散熱処理により得られる縦方向添加領域105は、下側ほど太くなる不均一な大きさのものしか得られなくなってしまうのである。なお、同一のエピタキシャル層に互いに導電型の異なるイオン注入層(例えばn型とp型)を形成する場合、イオン注入マスク用酸化膜の形成、注入前酸化処理及び結晶回復熱処理のサイクルを、各導電型のイオン注入層パターン毎に繰り返す必要が生じるので、上記の問題はより深刻なものとなる。
【0009】
一方、上記特開平1−105557号公報に開示された技術では、イオン注入マスク用酸化膜の形成、注入前酸化処理及び結晶回復熱処理のサイクルを何度も繰り返すため、その工程数の多さによる低生産性も大きな問題の一つである。この場合、上記の工程以外にも、次のような派生工程が必然的に含まれるので、低生産性の問題が実際にはさらに大きいことはいうまでもない。
【0010】
(1)イオン注入マスク用酸化膜の形成に際しては、汚染物質の除去ならびに欠陥のないパターンの形成を行うために、酸化前洗浄が必要である。
【0011】
(2)イオン注入マスクを形成する際には、パターン位置合わせを行うためのマーク(いわゆるアライメントマーク)として、段差あるいは凹部を立体的に形成することが行われている。このような立体的なマーク(以下、「立体マーク」という)は、エピタキシャル層を1層形成する毎に、その都度形成し直している。
【0012】
(3)シリコンエピタキシャルウェーハの製造に使用する基板には、基板主裏面側からのオートドーピングを防止する目的で、二酸化珪素からなる裏面酸化膜がCVD法等により形成されることが多い。他方、基板主表面においては、エピタキシャル層に対するイオン注入マスク用酸化膜の形成と除去が何度も繰り返される。酸化膜の除去は一般に、基板を弗酸等のエッチング液に浸漬して酸化膜を化学的に溶解する、いわゆる湿式エッチングにより行われているが、ウェーハをそのままエッチング液に浸すと、本来必要な裏面酸化膜も除去されてしまうので、これをエッチング液から保護するためのレジスト膜を裏面酸化膜上に形成する。レジスト膜は、イオン注入マスク用酸化膜形成時の熱処理温度に耐えるようなものではないから、湿式エッチング終了後に直ちに除去され、イオン注入マスク用酸化膜の除去を行う度に形成し直さなければならない。
【0013】
(4)酸化膜へのパターン形成のためのフォトリソグラフィーが必要である。フォトリソグラフィーは、よく知られている通り、フォトレジストの露光、現像及び湿式エッチングの3つもの工程が含まれる。
【0014】
また、埋込層を形成するエピタキシャル層の気相成長に際しては、解決すべきオートドーピングの問題が存在する。すなわち、イオン注入層を形成後、さらにエピタキシャル層を気相成長させてこれを埋込層とする際に、そのイオン注入層から横方向のオートドーピング(ラテラルオートドーピング(lateral autodoping))が発生する場合がある。このような横方向オートドーピングが発生すると、イオン注入層から気相中に遊離したドーパント元素がイオン注入層のまわりで成長中のエピタキシャル層に再度取り込まれる結果、イオン注入が行われていない領域までドーピングされ、エピタキシャル層界面付近において、目的とするデバイス性能が得られなくなる場合がある。特に、n型の埋込層を例えば燐(P)のイオン注入により形成する場合、燐は特にオートドーピングしやすい元素であり、注意が必要である。
【0015】
また例えば、先にn型イオン注入層である燐注入層を形成した後、p型イオン注入層を硼素(B)の注入により形成する場合を考える。硼素注入層の形成に際して前述の注入前酸化処理を行うと、先に形成されている燐注入層の表面にも薄い酸化膜が形成される。酸化膜の主成分は二酸化珪素であるが、燐は二酸化珪素に対する偏析係数が大きいため、燐注入層において酸化膜の形成される主表面側に燐が偏在しやすくなる。この状態で酸化膜を除去後、エピタキシャル層を気相成長させると、主表面に偏在する燐の影響により、燐注入層からの横方向のオートドーピングが一層甚だしくなる。
【0016】
本発明の第一の課題は、埋込層を介して複数のエピタキシャル層が積層形成されたエピタキシャルウェーハを極めて能率的に製造でき、しかも形成されるイオン注入層の横方向拡散が少ないシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法と、それによって製造可能なシリコンエピタキシャルウェーハとを提供することにある。また、第二の課題は、イオン注入とエピタキシャル層の形成とを繰り返してエピタキシャルウェーハを製造する際に、パターン位置合わせを行うための立体マークの形成回数を減ずることができ、ひいては製造工程の簡略化に寄与するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法と、それによって得られるシリコンエピタキシャルウェーハとを提供することにある。さらに、第三の課題は、イオン注入層からの横方向オートドーピングを効果的に抑制することができるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法と、それによって得られるシリコンエピタキシャルウェーハとを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0017】
(第一態様)
上記第一の課題を解決するためのものである。これは、第一エピタキシャル層中に不純物元素をイオン注入してイオン注入層を形成し、その上に第二エピタキシャル層を気相成長して積み重ねることにより、イオン注入層を第一エピタキシャル層と第二エピタキシャル層との間に埋め込んで埋込層となすシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、
第一エピタキシャル層の表面に、フォトレジスト膜からなるイオン注入用マスクを直接形成するマスク形成工程と、
前記イオン注入用マスクが形成された第一エピタキシャル層に対してイオン注入を行うイオン注入工程と、
該イオン注入工程の終了後、第二エピタキシャル層を気相成長させるのに先立って行う水素熱処理工程と、
該水素熱処理工程が終了した後に、第二エピタキシャル層を気相成長させる気相成長工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
上記の第一態様の製造方法において重要な点は2つある。1つは、イオン注入のマスクとして、酸化膜ではなくフォトレジスト膜を使用する点、すなわち、イオン注入を施す第一エピタキシャル層に対して積極的に酸化膜形成を行うことなく、フォトレジスト膜からなるイオン注入用マスクを第一エピタキシャル層に直に形成する点である。ただし、室温付近でエピタキシャル層の表面に形成される自然酸化膜は許容される。また、他方は、イオン注入後の結晶性回復ならびにキャリアの活性化のための熱処理を水素雰囲気中にて行う点である。フォトレジスト膜からなるイオン注入用マスクを第一エピタキシャル層上に直に形成するということは、イオン注入マスク用酸化膜の形成のみならず注入前酸化処理も行わないことを意味し、結果としてイオン注入処理後の結晶性回復ならびにキャリア活性化のための熱処理(以下、単に「結晶性回復兼活性化熱処理」とよぶことがある)は、イオン注入層の表面に酸化膜を積極的に形成しない状態にて行われる。
【0019】
イオン注入層の表面に酸化膜を形成しておかないで結晶性回復兼活性化熱処理を従来のように窒素雰囲気中にて行うと、熱処理によりイオン注入層の表面に発生する荒れの凹凸が大きくなってしまうのであるが、本発明者らが鋭意検討した結果、この結晶性回復兼活性化熱処理を水素雰囲気中にて行えば上記の面荒れが極めて効果的に抑制されることが判明した。その結果、埋込層を有するエピタキシャルウェーハの製造方法において、注入前酸化処理の省略、ひいてはフォトレジスト膜のみをマスクとして用いたイオン注入工程が実現可能となる。そして、注入前酸化を含めたエピタキシャル層上への積極的な酸化膜形成処理が不必要となる結果、次に説明するように、酸化膜をイオン注入時のマスクとして用いる際に生じた従来の製造方法の問題点を、ことごとく解決することができるのである。
【0020】
[1]酸化膜をイオン注入マスクとして用いないので、従来の方法においては不可避的に生ずる3つの熱履歴のうち、イオン注入マスク用の酸化膜形成に係る第一の熱履歴、及び注入前酸化処理に係る第三の熱履歴を回避することができる。その結果、埋込層、ひいてはそれに基づいて形成される不純物添加領域の横方向拡散を極めて効果的に抑制することができる。
[2]マスク用酸化膜形成及び注入前酸化の2つの酸化膜形成処理工程が省略される。
[3]マスク用酸化膜形成工程の省略に伴い、酸化前洗浄や酸化膜のエッチング工程等も省略できる。また、裏面酸化膜保護用のレジスト膜形成も省略ないし回数を減ずることができる。
【0021】
これにより、埋込層を有するエピタキシャルウェーハ、特に複数のエピタキシャル層及びイオン注入層を積層形成したエピタキシャルウェーハの製造工程を劇的に簡略化することができる。
【0022】
上記の本発明の製造方法は、同じエピタキシャル層に対して導電型の互いに異なるイオン注入層パターンを形成する場合においても、次のような工程を含む形にて適用できる:
第一エピタキシャル層の表面の第一領域に第一不純物をイオン注入するための第一イオン注入用マスクを、フォトレジスト膜により前記第一エピタキシャル層の表面に直接形成する第一マスク形成工程;
前記第一イオン注入用マスクが形成された第一エピタキシャル層に対して、第一不純物をイオン注入することにより、前記第一領域に第一イオン注入層を形成する第一イオン注入工程;
第一エピタキシャル層の表面の第一領域とは異なる第二領域に、前記第一不純物とは種類の異なる第二不純物をイオン注入するための第二イオン注入用マスクを、フォトレジスト膜により前記第一エピタキシャル層の表面に直接形成する第二マスク形成工程;
前記第二イオン注入用マスクが形成された第一エピタキシャル層に対して、第二不純物をイオン注入することにより、第二領域に対応する位置に第二イオン注入層を形成する第二イオン注入工程;
該第二イオン注入工程の終了後、第一及び第二イオン注入層が表面に形成された第一エピタキシャル層の上に第二エピタキシャル層を気相成長させるのに先立って行う水素熱処理工程;
該水素熱処理工程が終了した後に、第二エピタキシャル層を気相成長させることにより、第一イオン注入層及び第二イオン注入層を、それぞれ第一埋込層及び第二埋込層となす気相成長工程。
【0023】
従来のように、酸化膜をマスクとして用いて第一イオン注入層と第二イオン注入層とを同じエピタキシャル層に形成する場合、両種別のイオン注入層に対応して、酸化膜形成→フォトレジスト塗布→パターン露光・現像→エッチング(パターン形成)→フォトレジスト除去→イオン注入→酸化膜除去の工程サイクルを2度繰り返さなければならない。その結果、酸化膜形成に伴い熱処理が2度繰り返され、注入された不純物の拡散もそれだけ大きくなる(特に、先に形成される種別のイオン注入層)。また、パターン形成あるいは酸化膜除去のためのエッチングがそれぞれ2回ずつ都合4回行われるから、裏面酸化膜の保護用のフォトレジスト被覆(裏面コート)もこれに対応して4回行わなければならない。
【0024】
しかしながら、本発明の方法では酸化膜形成に伴う熱履歴が加わらないのはもちろん、パターン形成あるいは酸化膜除去のためのエッチング、さらには裏面コートも全く不要となり、工程全体がフォトレジスト塗布→パターン露光・現像→イオン注入→フォトレジスト除去と劇的に短縮され、さらに水素雰囲気中で行う結晶性回復兼活性化熱処理を2種類のイオン注入層に対して一括して行うので、工程簡略化の効果がさらに顕著となる。
【0025】
また、本発明の製造方法を次のようにすることで、エピタキシャル層と埋込層とを複数積層したエピタキシャルウェーハの製造に適用することが可能となる。すなわち、形成された第二エピタキシャル層を新たに第一エピタキシャル層として用いる形で、マスク形成工程から、イオン注入工程及び水素熱処理工程を経て気相成長工程に至る処理サイクルを1回又は複数回繰り返すことにより、層間に埋込層を挟む形にて複数のエピタキシャル層を積層形成する。
【0026】
上記方法によれば、各エピタキシャル層に加わる熱履歴は、イオン注入後に水素雰囲気中で行う結晶性回復兼活性化熱処理及び気相成長時の加熱に限定されるので、埋込層を介して多層のエピタキシャル層を形成する際に、下層の埋込層に対し、後続のエピタキシャル層や埋込層を形成する際の熱履歴が累積しにくくなる。その結果、埋込層の熱拡散による拡がりを下層と上層との間で小さくでき、下層側に位置する埋込層ほど横方向に拡がった不均一なものとなる不具合を効果的に抑制することができる。
【0027】
例えば、前記した縦方向添加領域を形成する場合、同一不純物がイオン注入された複数の埋込層を、シリコンエピタキシャル層の積層方向において全てが互いに隔てられているように形成することが有効である。この場合、拡散熱処理を施すことにより、上記複数の埋込層をエピタキシャル層の積層方向(以下、縦方向ともいう)に拡散・一体化させて、前述の縦方向添加領域となすことができる。
【0028】
そして、上記の方法により得られる本発明のエピタキシャルウェーハは、複数の不純物添加領域がエピタキシャル層の積層方向に相互に接続した構造を有する素子を製造するためのシリコンエピタキシャルウェーハであって、同一導電型の埋込層が同一領域に形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、前記複数の埋込層が全て前記エピタキシャル層の積層方向において互いに隔てられていることを特徴とする。すなわち、熱履歴が累積しにくい本発明の方法を採用することにより、縦方向に配列する埋込層の拡がりが抑制される結果、全ての埋込層が縦の配列方向においてつながらず、互いに隔てられた状態を維持した構造が実現される。このような構造においては、結果として埋込層の横方向への拡がりも相応に抑制されたものとなるから、拡散熱処理により、これら埋込層を拡散・一体化して得られる縦方向添加領域は、下層側と上層側とで横方向の拡がり(あるいは寸法)の差が小さい、均一なものが得られる。その結果、このような縦方向添加領域を用いて形成される半導体素子の縮小等を図る上でも極めて効果的である。
【0029】
(第二態様)
上記第二の課題を解決するためのものである。これは、第一エピタキシャル層中に不純物元素をイオン注入してイオン注入層を形成し、その上に第二エピタキシャル層を気相成長して積み重ねることにより、イオン注入層を第一エピタキシャル層と第二エピタキシャル層との間に埋め込んで埋込層となす工程を繰り返し、埋込層の形成されたエピタキシャル層が複数積層されたシリコンエピタキシャルウェーハを製造する方法において、
第一エピタキシャル層表面に凹部又は段差からなる位置決め用立体マークを形成し、
第一エピタキシャル層に対し、位置決め用立体マークを用いて位置決めを行いつつマスクパターンを転写して、イオン注入層を形成するためのイオン注入用マスクを形成し、
第一エピタキシャル層上に第二エピタキシャル層を形成した際に、位置決め用立体マークの形状を浮き上がらせる形で第二エピタキシャル層の表面に転写立体マークを生じさせ、該転写立体マークを次のイオン注入層形成のための位置決め用立体マークとして使用することを特徴とする。
【0030】
上記の方法では、下層側たる第一エピタキシャル層の位置決め用立体マークに基づき、上層側たる第二エピタキシャル層形成時に立体マークが転写されるので、これを第二エピタキシャル層に対する位置決め用立体マークとして使用する。すなわち、エピタキシャル層を形成する度には新たな立体マークを形成しないので、立体マークの形成回数を大幅に削減することができ、能率的である。より具体的には、下層のエピタキシャル層の位置決め用立体マークに由来せず、かつ以降の層へ転写立体マークを形成するための転写元となる転写元位置決め用立体マークが、埋込層の形成されたエピタキシャル層のうち、最下層のものを含む一部のものについてのみ形成するような方法が可能となる。すなわち、最下層のものを含む一部の層以外のエピタキシャル層には、転写元位置決め立体マークを形成しないから、立体マークの形成回数を大幅に削減することができて能率的である。
【0031】
なお、転写元位置決め用立体マークの形成は、湿式エッチング法、あるいはイオンエッチング等の乾式エッチング法を採用して行なうことができる。
【0032】
上記方法により、得られるシリコンエピタキシャルウェーハの構成は、転写元位置決め用立体マークの形成層の観点から捉えれば、以下のようなものとなる。すなわち、埋込層の形成されたエピタキシャル層が複数積層形成されたシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、凹部又は段差からなる位置決め用立体マークであって、下層のエピタキシャル層の位置決め用立体マークに由来せず、かつ以降の層へ転写立体マークを形成するための転写元となる転写元位置決め用立体マークが、埋込層の形成されたエピタキシャル層のうち、最下層のものを含む一部のものについてのみ形成される。
【0033】
また、最上層のエピタキシャル層への転写立体マークの出現数の観点から捉えれば、シリコンエピタキシャルウェーハの構成は以下のようなものとなる。すなわち、埋込層の形成されたエピタキシャル層が積層形成されたシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、その最上層のエピタキシャル層には、凹部又は段差からなる位置決め用立体マークが、前記埋込層の形成されたエピタキシャル層の層数よりも少ない数だけ形成されたものとなる。
【0034】
これらいずれのエピタキシャルウェーハも、転写元位置決め用立体マークの形成されないエピタキシャル層において、前記した湿式エッチング法や乾式エッチング法による位置決め立体マークの形成が不要となるので、高能率にて安価に製造できる利点がある。
【0035】
なお、イオン注入マスクの形成や、イオン注入に先立つ注入前酸化等を目的として、同じエピタキシャル層の表面に酸化膜の形成/除去を繰り返すと、立体マークの形成されたエピタキシャル層表層部が、酸化膜への転換及び除去により失われて形が崩れやすく、場合によっては、新たなエピタキシャル層を積層すると転写立体マークの原形が損なわれてしまうことがある。この場合、エピタキシャル層の表面に、フォトレジスト膜からなるイオン注入用マスクを直接形成する第一態様の製造方法を組み合わせれば、立体マークの形状崩壊を効果的に抑制することができる。すなわち、イオン注入用のマスクを酸化膜ではなくフォトレジスト膜として形成することで、酸化膜の形成及びそのエッチング除去を繰り返す必要がなくなり、エピタキシャル層に形成された位置決め用立体マークの形状もほとんど崩れなくなる。これにより、その上側に新たなエピタキシャル層を積層したときに転写される下層側の位置決め用立体マークを、上層のエピタキシャル層に対する位置決め用立体マークとして使用することが可能となる。
【0036】
ここで、第一態様においては、イオン注入層のパターン形成に関して酸化膜エッチングの工程を事実上含まず、ここに湿式エッチングが介在する余地はない。従って、転写元位置決め立体マークをイオンエッチング等の乾式エッチングにて形成するようにすれば、位置決め用立体マークの形成を含めて、湿式エッチング工程を廃止することができ、例えば裏面酸化膜保護用のレジスト膜形成工程も全く行う必要がなくなる。また、酸性エッチング廃液も発生しなくなるので、廃液処理費用を削減することができる。
【0037】
ところで、以下の説明においては、ミラー指数を用いて結晶面を(hkl)、結晶軸を[hkl]のように表示するが、ミラー指数の表示法においては、下記数1の[1]及び[2]のように、負の指数を表す負号は指数の上に付けるのが一般的である。
【0038】
【数1】

【0039】
ただし、本明細書では、上記の[1]及び[2]を、便宜的に以下の[1]’及び[2]’のように表すものとする。
(h-kl)‥‥‥[1]’
[h-kl]‥‥‥[2]’
【0040】
位置決め立体マークを第二エピタキシャル層上に転写する場合、転写立体マークの外形に、気相成長機構に由来する変形が発生することがある。このような転写立体マークの変形は、形成する第二エピタキシャル層の厚さや、転写回数(すなわちエピタキシャル層の積層数)が大きくなるほど程度が大きくなる。転写立体マークの変形が大きくなれば、イオン注入層形成のために行われるマスク位置合わせの精度の低下を招くことにつながる。
【0041】
本発明者等が鋭意検討した結果、面方位(100)のシリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を形成する場合、位置決め用立体マークは、[011]方向又は[0-1-1]方向に対して45°以内の方向を向く直線部分を有するように形成するのがよいことが判明した。転写元立体マークに、上記の条件を満足する直線部分を含ませておけば、第二エピタキシャル層を気相成長させて転写立体マークを形成した際に変形が生じにくく、境界が明確な直線部分としてこれが引き継がれる。従って、転写立体マークを新たな立体マークとして用いてパターン形成する場合に、その引き継がれた直線部分をパターンの位置決めに用いることにより、イオン注入層形成のための位置合わせの精度を高めることができる。また、転写元位置決め用立体マークが形成されたエピタキシャル層上に、相当数のエピタキシャル層を積層した場合でも、転写される立体マークの形状が崩れにくく、転写元位置決め用立体マークの形成が必要となるエピタキシャル層の数を減ずることができるので、工程数削減に一層効果的である。
【0042】
この場合、得られるエピタキシャルウェーハは、面方位(100)のシリコン単結晶基板上にエピタキシャル層が形成されるとともに、その最上層のエピタキシャル層には、凹部又は段差からなる位置決め用立体マークが形成され、かつ該位置決め用立体マークは、[011]方向又は[0-1-1]方向に対して45°以内の方向を向く直線部分を有するものとなる。位置決め用立体マークをこのような直線部分を含むものとして形成することで、転写立体マークの変形等が生じにくくなり、ひいては転写元位置決め用立体マークの形成回数を減ずることができるので、さらに能率よく製造できる利点がある。
【0043】
なお、位置決め用立体マークの直線部分の方向が上記角度範囲を外れると、これを用いて形成される転写立体マークにおいて、対応する直線部分の変形の度合いが大きくなり、境界が不明確となるので、正確な位置合わせに支障を来たす場合がある。
【0044】
(第三態様)
上記第三の課題を解決するためのものである。これは、第一エピタキシャル層中に燐をイオン注入して燐注入層を形成し、その上に第二エピタキシャル層を気相成長して積み重ねることにより、燐注入層を第一エピタキシャル層と第二エピタキシャル層との間に埋め込んで燐埋込層となすシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、
第一エピタキシャル層に燐をイオン注入するイオン注入工程と、
該イオン注入工程の終了後、第二エピタキシャル層を気相成長させるのに先立って、常圧下にて950℃以上1100℃未満にて熱処理を行う熱処理工程と、
該熱処理工程が終了した後に、減圧雰囲気下にて原料ガスを導入して封止用エピタキシャル層を気相成長させる封止成長工程と、
その封止用エピタキシャル層上に第二エピタキシャル層を気相成長させる本成長工程とを含むことを特徴とする。前記シリコン原料ガスは、例えば水素で希釈されたジクロロシラン(SiHCl)又はトリクロロシラン(SiHCl)あるいは四塩化珪素(SiCl)である。
【0045】
上記の方法によれば、燐をイオン注入して燐注入層を形成した後に、熱処理を950℃以上1100℃未満にて常圧で行い、続いて、減圧雰囲気下にてシリコン原料ガスを導入してオートドーピング封止用エピタキシャル層を気相成長させ、さらにその封止用エピタキシャル層上に第二エピタキシャル層を本成長させる2段成長処理を行うことにより、燐の横方向オートドーピングを極めて効果的に抑制することができる。
【0046】
従来、オートドーピング現象は、熱処理温度が高ければ高いほどオートドープ量が大きくなると思われていた。しかるに、本発明者らが常圧下における燐のオートドーピング現象について、熱処理温度850〜1200℃の範囲で調査した結果、950℃以上1100℃未満の温度域においてオートドープ量が逆に小さくなり、1080℃近傍において極小となることを見出した。
常圧下、950℃以上1100℃未満の温度域において、燐は、エピタキシャル層から気相へある一定の大きさで外方拡散される一方、気相中からエピタキシャル層へ再度取り込まれる量が減少するものと考えられる。そこで、常圧下における熱処理条件として950℃以上1100℃未満の温度域を採用することで、燐の外方拡散が促進される一方、再度結晶中に取り込まれる量は抑制されるので、燐注入層表層部の燐濃度が低下し、燐のオートドーピングを防止する上で有利な状態が形成される。また、封止用エピタキシャル層の気相成長を、特に減圧雰囲気下にてシリコン原料ガスを導入しながら行うことにより、燐注入層の表面を封止する際に発生する燐のオートドーピングも効果的に抑制できる。その結果、工程全体として燐の横方向オートドーピングの抑制が顕著に図られることとなる。なお、熱処理雰囲気を減圧としたり、あるいは常圧雰囲気を採用する場合でも950℃以上1100℃未満の温度域を外れると、燐の横方向オートドーピングの防止効果を十分に達成できなくなる。また、封止用エピタキシャル層の気相成長を常圧あるいは加圧雰囲気で行った場合も、同様に燐の横方向オートドーピングの防止効果を十分に達成できなくなる。なお、封止用エピタキシャル層のシリコン原料ガスとしてジクロロシランまたはトリクロロシランあるいは四塩化珪素を使用する理由は、膜成長速度が大きいため、燐の外方拡散が最も生じやすい封止用エピタキシャル層の成長時において、その成長時間を短縮でき、横方向オートドーピングの防止を図るうえで一層有利であること、取扱いが容易であること等である。なお、本成長工程においてもジクロロシランまたはトリクロロシランあるいは四塩化珪素を原料ガスとして使用すれば、本成長工程において必要な膜厚の第二エピタキシャル層が得られるまでの成長時間を短縮でき、また、封止用エピタキシャル工程から本成長工程に移る際に、原料ガス種の切替も不要になるので、工程短縮及び製造設備の簡略化に有利である。
【0047】
なお、上記の方法により燐の横方向オートドーピングが防止される結果、p型のエピタキシャル層が複数積層され、かつ該エピタキシャル層同士の界面位置に燐注入層を埋め込んだ構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハの場合は、次のような構造を達成することができる。すなわち、燐注入層に隣接し、かつ該燐注入層を横切らない位置にてエピタキシャル層の膜厚方向に、エピタキシャル層同士の界面を横切ってエピタキシャル層中の正味キャリア濃度プロファイルを測定したときに、エピタキシャル層の界面における正味キャリア濃度の最も低い値をBH、エピタキシャル層におけるキャリア濃度の安定した領域での平均正味キャリア濃度をAHとして、(AH−BH)/AHが0.5以下となる。燐注入層に隣接する位置において、(AH−BH)/AHを0.5以下とすることで、エピタキシャル層界面付近において、横方向の正味キャリア濃度分布がより均一となり、ひいては安定で良好な特性を示すデバイスを得ることができる。ここで、正味キャリア濃度とは、多数キャリアの濃度と少数キャリアの濃度との差であり、例えば、拡がり抵抗値をキャリア濃度に換算して得られる。
【0048】
(第四態様)
上記第三の課題を解決するためのものである。これは、同一基板上に硼素埋込層と燐埋込層とを同時に作り込むエピタキシャルウェーハの製造に係るものであり、
第一エピタキシャル層の表面の第一領域に硼素をイオン注入することにより、第一領域に対応する位置に硼素注入層を形成する硼素注入工程と、
第一エピタキシャル層の表面の第一領域とは異なる第二領域に、燐をイオン注入することにより、第二領域に対応する位置に燐注入層を形成する燐注入工程と、
燐注入工程に先立って、第一エピタキシャル層の表面を酸化する注入前酸化工程と、
硼素注入層及び燐注入層の形成された第一エピタキシャル層上に、第二エピタキシャル層を気相成長させることにより、第一イオン注入層及び第二イオン注入層を、それぞれ第一埋込層及び第二埋込層となす気相成長工程とを含むことを特徴とする。
【0049】
一般的なシリコンエピタキシャルウェーハの製造においては、イオン注入に先立つ注入前酸化工程や、マスク形成のために酸化膜を形成するイオン注入マスク用酸化膜形成工程が介在することが多い。この場合、酸化膜は主に二酸化珪素により形成されることとなるが、例えば硼素注入層及び燐注入層の表面に酸化膜が形成される場合、燐及び硼素の二酸化珪素に対する偏析係数の相違から、硼素は酸化膜中に取り込まれやすいのに対し、燐は酸化膜との界面付近に集まりやすいという、異なった挙動をとる。この場合、特に問題となるのは、燐注入層の形成と、該燐注入層が形成されるエピタキシャル層への酸化被膜の形成の順序である。すなわち、燐注入層の形成後に、該燐注入層が形成された第一エピタキシャル層の表面に別のイオン注入層形成のための注入前酸化工程が実施されると、酸化膜との境界部すなわち燐注入層の表層部に燐が集まって濃縮するので、その後に第一エピタキシャル層上に形成される第二エピタキシャル層の気相成長時に燐の横方向オートドーピングを生じやすくなる問題がある。しかしながら、上記本発明の方法では、注入前酸化工程は、必ず燐注入工程に先立って行うようにしたから、第二エピタキシャル層の成長前に燐注入層の表層部に燐が濃化している状況が生じにくくなり、燐の横方向オートドーピングが効果的に抑制される。
【0050】
例えば、同一のエピタキシャル層に先ず燐注入層を形成し、その後に硼素注入層を形成する場合、硼素注入層を形成するための注入前酸化を行う際に、先に形成されている燐注入層の表面にも酸化被膜が形成されてしまう。そこで、燐注入工程を硼素注入工程の後で行うようにすれば、硼素注入に対する注入前酸化が燐注入に先んずることがなくなり、燐の横方向オートドーピングの回避に有効である。また、注入前酸化工程は、硼素注入工程に先立って行うことが、硼素注入の際に発生しやすいエピタキシャル層の面荒れ防止に有効である。
【0051】
なお、イオン注入層を形成後は、イオン注入の際に発生した結晶損傷を回復させる熱処理を行うことが一般的であるが、燐注入工程の後にこのような熱処理を独立して行わずに、例えば、第二エピタキシャル層の気相成長の前熱処理においてイオン注入の際に発生した結晶損傷を回復させうる熱処理を行うようにすれば、燐の横方向オートドーピング防止に一層有利であり、かつ埋込層の熱拡散による余分な拡がりを防止することができる。また、結晶損傷は、第二エピタキシャル層の気相成長時に加わる熱履歴、あるいは第二エピタキシャル層の形成後に行われる拡散熱処理(例えば前記した縦方向添加領域形成のためのもの)においても回復することができる。
【0052】
(第五態様)
これも、上記第三の課題を解決するためのものであり、上記第一〜第四態様(あるいは後記の第六もしくは第七態様)のいずれとも組み合わせて適用することができる。すなわち、同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、イオン注入する元素が硼素と燐であり、同一エピタキシャル層に注入する硼素と燐のドーズ量の比を、硼素と燐の注入パターン面積の比に反比例させることを特徴とする。前記燐の注入パターン面積は、硼素の注入パターン面積の3倍〜10倍であることが好ましい。また、前記燐のドーズ量は、硼素のドーズ量の1/3〜1/10であることが好ましい。
【0053】
上記のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法によると、複数の不純物添加領域がエピタキシャル層の積層方向に相互に接続した構造を有する素子を製造するためのシリコンエピタキシャルウェーハであって、同一導電型のイオン注入層が同一傾域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、イオン注入された元素が硼素と燐であり、同一エピタキシャル層に注入されている硼素と燐のドーズ量の比が、硼素と燐の注入パターン面積の比に反比例することを特徴とするものを製造することができる。
【0054】
例えば同一エピタキシャル層に、同一の注入パターン面積でしかも同一ドーズ量の硼素と燐を注入した場合、これらの注入層を埋込むエピタキシャル層を気相成長する際に、燐は、硼素より3倍〜10倍大きいオートドープを発生する。そして、このオートドープ量の差が、エピタキシャル層界面付近において、燐による横方向のオートドープを顕著にしてしまう。
【0055】
燐と硼素のオートドープ量を等しくできれば、両者は互いに相殺しあうため、イオン注入層からの横方向オートドーピングを効果的に抑制することができる。そこで、予め燐と硼素のオートドープ量を調査しておき、両者からのオートドープ量が同じになるように注入パターンの面積とドーズ量を決定する。
【0056】
すなわち、オートドープ量がイオン注入層の表面不純物温度と比例関係にあることを利用し、オートドープの大きい燐について、注入パターンの面積を硼素の3倍〜10倍に形成するとともに、燐のドーズ量を硼素の1/3〜1/10に下げる。すると、燐の注入総量を一定に保ちつつ、燐のオートドープ量を下げることができるので、エピタキシャル層界面付近で均一な添加不純物濃度分布を得ることができる。
【0057】
(第六態様)
これは、形成される縦方向添加領域の濃度分布を均一にする上で効果のある発明であり、上記第一〜第五態様(あるいは後記の第七態様)のいずれとも組合せが可能である。すなわち、同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、イオン注入層を、下層側に位置するものほど注入不純物濃度が高くなるように形成することを特徴とする。また、これにより得られるシリコンエピタキシャルウェーハは、複数の不純物添加領域がエピタキシャル層の積層方向に相互に接続した構造を有する素子を製造するためのシリコンエピタキシャルウェーハであって、同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、下層側に位置するイオン注入層ほど注入不純物濃度が高くなるように形成されていることを特徴とする。
【0058】
この態様の要旨は、縦方向添加領域を形成する等の目的で、同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を形成する場合、イオン注入層を、下層側に位置するものほど注入不純物濃度が高くなるように形成する点にある。下層側のイオン注入層は、上層側のエピタキシャル層やイオン注入層、あるいは酸化膜の形成等により熱処理を繰返し受けるため、熱拡散による拡がりが大きくなり、不純物濃度が低くなる。そこで、図28(a)〜(c)に示すように、積層されたエピタキシャル層103a〜103cの下層側に位置するもの、換言すれば先に形成されるエピタキシャル層ほど、注入不純物濃度が高くなるようにイオン注入層250〜252を形成することによって、図28(d)に示すように、エピタキシャル層103a〜103dの積層方向に並ぶ複数の埋込層250’,251’及び252’間の注入不純物濃度の差を縮めることができるようになる。すなわち、イオン注入層250〜252の各イオン注入濃度をC1、C2及びC3としたときに、C1>C2>C3とするのである。この場合、下層側に位置するイオン注入層ほど、注入イオンのドーズ量を大きくすればよい。
【0059】
また、ここでは、イオン注入層250〜251は、下層側に位置するものほどパターン面積が小さくなるように形成している。すなわち、イオン注入層250〜252の各パターン面積をS1、S2及びS3としたときに、S1<S2<S3としている。その結果、図28(d)に示すように、埋込層250’,251’及び252’間のパターン面積の差も小さくできる。
【0060】
例えば、埋込層を上記のように3層形成する場合、各層を形成する際のイオン注入のドーズ量をD1、D2、D3としたときに、
D1:D2:D3=(S2/S1)×C2:C2:(S2/S3)×C2
となるようにドーズ量を設定することが、各埋込層250’,251’及び252’間の注入不純物濃度の差を縮小する上で有効である。このドーズ量とパターン面積の関係は、埋込層を3層形成する場合にも応用することができる。その結果、これに拡散熱処理を施して得られる縦方向添加領域は、不純物濃度ばかりでなく軸断面積もより均一なものが得られるようになり、例えば該縦方向添加領域を利用して作られる素子の集積密度を向上させることも可能となる。
【0061】
(第七態様)
この態様は、上記第一〜第六のいずれの態様とも組み合わせ可能であるし、第一〜第六態様とは無関係に単独で実施することもできる。これは、不純物元素のイオン注入層を挟んで複数のエピタキシャル層を積層した構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法に係るものであり、
第一エピタキシャル層を気相成長させる第一気相成長工程と、
第一不純物元素を、第一エピタキシャル層の表面の第一領域にイオン注入することにより、第一イオン注入層を形成する第一イオン注入工程と、
その第一イオン注入工程の終了後、第二エピタキシャル層を気相成長させる第二気相成長工程と、
第二不純物元素を、第二エピタキシャル層の表面において、第一エピタキシャル層の表面の第一領域とは異なる第二領域にイオン注入することにより、第二領域に対応する位置に第二イオン注入層を形成する第二イオン注入工程と、を1組として、
それら工程の組を複数回繰り返すことにより、第一イオン注入層同士及び第二イオン注入層同士がそれぞれ同一領域に形成されるように、複数のエピタキシャル層の各層間に第一イオン注入層と第二イオン注入層とを、互い違いに形成することを特徴とする。
【0062】
図29に具体例を示している。ここでは、エピタキシャル層103を積層しながら、第一イオン注入層として硼素注入層71を、第二イオン注入層として燐注入層72を、エピタキシャル層103の各層間に互い違いに形成している。硼素と燐とは、既に説明した通り横方向オートドーピングに関する挙動に大きな差があり、その影響が最小化されるエピタキシャル層の成長条件も互いに異なるものとなる。このように、横方向オートドーピングの挙動が異なる2種類の不純物を同一のエピタキシャル層に注入する場合、これを埋め込む際の第二エピタキシャル層の成長条件は、一方の不純物を優先すれば他方の不純物のオートドーピング抑制の観点からは不利となるジレンマが生ずる。また、両不純物に関する中間の条件を採用した場合も、横方向オートドーピング抑制に関して条件が最適化されないことに変わりはない。そこで、上記のような方法を採用すれば、各エピタキシャル層には第一イオン注入層か第二イオン注入層のいずれか一方のみが形成されるから、エピタキシャル層毎に、対応する不純物の横方向オートドーピングが最小となる成長条件を、他方の不純物とは無関係に自由に設定できる。その結果、各不純物の埋込層の横方向オートドーピングを効果的に抑制することが可能となる。
【0063】
上記のようにして得られるシリコンエピタキシャルウェーハに拡散熱処理を施すと、各層に形成された対応するイオン注入層同士がエピタキシャル層の積層方向に相互に接続し、図29(e)に示すように、複数の縦方向の不純物添加領域(ここでは縦方向、硼素添加領域171と縦方向燐添加領域172)が形成される。この場合、これは、以下のような特徴を有したものとなる。すなわち、接続された不純物添加領域として、第一不純物を添加した第一不純物添加領域171と、第二不純物を添加した第二不純物添加領域172との2種類が形成されており、いずれもエピタキシャル層103の積層方向を軸方向として、軸断面積が極小となる小径部171b,172bと、軸断面積が極大となる大径部171a,172aとが交互に配列した不均一柱状形態に形成される。そして、それら第一不純物添加領域171及び第二不純物添加領域172は、積層方向における小径部171b,172b及び大径部171a,172aの形成周期が互いにずれることにより、一方の大径部171aあるいは172aに他方の小径部172bあるいは171bが各々対応する位置関係にて形成される。その結果、第一不純物添加領域171と第二不純物添加領域172との軸線間距離を近付けることができ、例えばこれら不純物添加領域171,172を用いて形成する素子の集積密度を向上させることができる。
【0064】
この場合、図29(e)に示すように、隣接形成された第一不純物添加領域171及び第二不純物添加領域172を、平面視したときに大径部171a,172a同士に一部重なりが生ずる位置関係にて形成すること、換言すれば、一方の添加領域の大径部による膨出部分を、他方の添加領域の小径部によるくびれ部分の内側に入り込ませるようにすることにより、第一不純物添加領域171と第二不純物添加領域172との軸間距離をさらに近付けることができ、上記の効果が一層高められる。この場合、第一イオン注入層71と第二イオン注入層72とは、エピタキシャル層103を間に隔てて互いに隣接するもの同士を、該エピタキシャル層103の積層方向に見たときに一部重なりが生ずる位置関係にて形成するようにする。図30(a)に示すように、第一イオン注入層71と第二イオン注入層72とを同一のエピタキシャル層中に隣接形成する場合の、イオン注入層71,72の外寸法をAとすれば、同図(b)に示すように、第一イオン注入層71と第二イオン注入層72とを交互形成し、さらにそれらの一部同士に重なりを生じさせた場合の外寸法Bは、Aよりも例えば6%程度縮小できるのである。
【0065】
(第八態様)
これは、いわば第一態様と第三態様との組み合わせ(ただし、エピタキシャル層の原料ガスはトリクロロシランに限定されず、不純物は燐に限定されない)に相当するエピタキシャルウェーハの製造方法に係るものであり、
主表面の面方位が(100)のシリコン単結晶基板上に第一エピタキシャル層を気相成長させる第一気相成長工程と、
第一エピタキシャル層の表面の第一領域に第一不純物をイオン注入するための第一イオン注入用マスクを、フォトレジスト膜により第一エピタキシャル層の表面に直接形成する第一マスク形成工程と、
第一イオン注入用マスクが形成された第一エピタキシャル層に対して、第一不純物をイオン注入することにより、第一領域に対応する位置に第一イオン注入層を形成する第一イオン注入工程と、
第一エピタキシャル層の表面の第一領域とは異なる第二領域に、第一不純物とは種類の異なる第二不純物をイオン注入するための、第二イオン注入用マスクを、フォトレジスト膜により第一エピタキシャル層の表面に直接形成する第二マスク形成工程と、
第二イオン注入用マスクが形成された第一エピタキシャル層に対して、第二不純物をイオン注入することにより、第二領域に対応する位置に第二イオン注入層を形成する第二イオン注入工程と、
該第二イオン注入工程の終了後、常圧下にて950℃以上1100℃未満の温度範囲にて行う水素熱処理工程と、
該水素熱処理工程が終了した後に、減圧雰囲気下にて封止用エピタキシャル層を気相成長させる封止成長工程と、を1組として、
それら工程の組を複数回繰り返すことにより、層間にイオン注入層を埋込層として挟む形にて複数のエピタキシャル層を積層形成することを特徴とする。
【0066】
ここで特徴的なことは、該第二イオン注入工程の終了後に行う第一態様の水素熱処理工程が、常圧下にて950℃以上1100℃以下の温度範囲にて行うことにより、第三態様の熱処理工程を兼ねるものとなっている点である。そして、水素熱処理工程が終了した後に、減圧雰囲気下にて封止用エピタキシャル層を気相成長させることで、第一態様の種々の効果に加え不純物、例えば燐の横方向オートドーピングを効果的に抑制できるという、第三態様の効果も同時に達成されるのである。
【0067】
上記の方法においては、埋込層の形成されたエピタキシャル層のうち、最下層のエピタキシャル層を含む一部のものについてのみ、凹部又は段差からなり、[011]方向又は[0-1-1]方向に対して45°以内の方向を向く直線部分を有する位置決め用立体マークを形成するようにすれば、さらに第二態様の効果も同時に達成される。また、イオン注入層を、下層側に位置するものほど注入不純物濃度が高く、かつ、パターン面積が小さく形成するようにすれば、第五態様の効果が同時に達成される。
【発明の実施するための最良の形態】
【0068】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
ここでは、所定の導電型となるように不純物添加を行ったシリコン単結晶基板上に、n型(低濃度にドープされたn型)のシリコンエピタキシャル層と、導電型の異なる2種のイオン注入層とを交互に形成したエピタキシャルウェーハの製造を例に取る。なお、説明の順序としては、本発明の第一態様の作用・効果が明確となるように、まず、酸化膜をイオン注入用マスクとして使用する参考技術のエピタキシャルウェーハの製造方法について参考技術例1として説明し、続いて第一態様の実施の形態を、その参考技術と対比しながら説明することにする。なお、第一態様以外の態様については、基本的に第一態様の説明が終了後にまとめて説明を行う。また、ここでいう参考技術とは、第一態様の実施の形態の特徴ならびに優位性をより明確にするための対比技術を意味し、当然に公知の技術を意味するものではない。
【0069】
(参考技術例1)
以下、図14〜図17により、参考技術について説明する。なお、図17は、埋込層を6層形成する場合の、工程流れ図である。
まず、図14(a)に示すように、裏面にCVD法等により裏面酸化膜2を形成したシリコン単結晶基板1を用意する。この実施例では、シリコン単結晶基板1(以下、単に基板1と称する)は、アンチモンドープにより抵抗率を0.010Ω・cm〜0.015Ω・cmとしたn型(高濃度にドープされたn型)で結晶軸方位<100>のものを使用しているが、これに限られるものではない。次に、図14(b)に示すように、シリコン単結晶基板1の主表面にn型の第一シリコンエピタキシャル層3(以下、単にエピタキシャル層3とも称する)を気相成長させる。ここでは、気相成長装置内にシリコン単結晶基板1を配置し、エピタキシャル層3の形成に先立ってシリコン単結晶基板1を所定温度(例えば1100℃、水素雰囲気)で熱処理した後、エピタキシャル層3(例えば膜厚:5μm〜10μm、抵抗率:10Ω・cm〜50Ω・cm)を気相成長させる(図17:工程1)。
【0070】
図4(b)は気相成長装置121の一例を模式的に示す側面断面図である。この気相成長装置121は、偏平箱状に形成された反応容器122を備え、その一端に形成されたガス導入口171からの原料ガスSGが、流れ調整部124を経て容器本体123の内部空間に水平かつ一方向に供給される。そして、その容器本体123内において、サセプタ収容凹部110内に配設されたサセプタ112上にウェーハWが略水平に1枚のみ配置される。ここで処理対象となるのは、シリコン単結晶基板であるが、以下の工程において、シリコン単結晶基板の主表面にエピタキシャル層をすでに形成したシリコンエピタキシャルウェーハ上にさらにエピタキシャル層を形成する場合にも図4を用いて説明するので、以下、処理対象物を単にウェーハWと称する。反応容器122には、原料ガス導入口171が形成されているのと反対側の端部に、ベンチュリ状の絞り部129を介してガス排出口128が形成されている。ガス導入口171から導入された原料ガスSGは、ウェーハWの表面上を通過した後ガス排出口128から排気される。原料ガスSGは例えばトリクロロシラン(SiHCl)であり、ドーパンドガス(ここでは、n型の不純物添加を行うのでホスフィン(PH)を使用する)やキャリアガスとしてHが適宜配合される。ウェーハWはサセプタ112とともにモータMにより回転駆動され、さらに赤外線加熱ランプ111にて加熱されながら、原料ガスSGの供給を受けてエピタキシャル層が形成される。
【0071】
図14に戻り、シリコン単結晶基板1の主表面上に形成されたエピタキシャル層3に、(f)に示す位置決め用立体マーク7(以下、単に立体マーク7ともいう)を形成するための、マーク蝕刻用酸化膜4を形成する。位置決め用立体マーク7は、イオン注入層のパターン位置決めに使用するものであり、そのマーク蝕刻用酸化膜4は、以下のようなフォトリソグラフィー工程を経て蝕刻される(これは、後述するイオン注入マスク用酸化膜の形成工程においても全く同様である)。まず、エピタキシャル層3を形成したウェーハを洗浄し(図17:工程2)、次いで酸化炉内にてエピタキシャル層の表面を熱酸化することにより、厚さが例えば600nm程度のマーク蝕刻用酸化膜4を形成する(図17:工程3)。続いて、その上にフォトレジスト被膜51を形成し、露光・現像工程を経てフォトレジスト被膜51に立体マークのパターンを転写する(図17:工程4〜6)。
【0072】
次に、マーク蝕刻用酸化膜4はフォトレジスト被膜51を介して湿式エッチングによりパターンエッチングされるが、これに先立って裏面酸化膜2を湿式エッチングから保護するために、裏面酸化膜2上にフォトレジスト膜を塗布し保護膜52(図14(c))を形成する、裏面コート処理を行う(図17:工程7)。そして、その状態で湿式エッチングを施すことにより立体マークのパターン開口部4aを上記マーク蝕刻用酸化膜4に蝕刻する(図14(c)、図17:工程8)。図14(d)は、表裏の各フォトレジスト膜をさらに除去した状態である(図17:工程9)。
【0073】
続いて、再びウェーハを洗浄後(図17:工程10)、図14(e)に示すように、パターン開口部4aにおいて露出しているエピタキシャル層3の表面に対し、所定厚さ(例えば600nm)のマーク形成用酸化膜6を形成する(図17:工程11)。そして、裏面コート処理を行って裏面酸化膜2を保護し(図17:工程12)、酸化膜除去の湿式エッチングを施すと(図17:工程13)、マーク形成用酸化膜6の形成時に酸化されたエピタキシャル層3の厚さに相当する深さの凹状の立体マーク7が、(d)のパターン開口部4aに対応する形状及び位置に蝕刻される。その後、裏面側のフォトレジスト膜を除去する(図14(f)、図17:工程14)。
【0074】
続いて、図15に進み、エピタキシャル層3にボロン注入層(硼素注入層)を形成するためのイオン注入マスク用酸化膜8を熱酸化により形成する。この工程は、基本的にマーク蝕刻用酸化膜4の形成工程と同様に、ウェーハ洗浄→熱酸化膜形成→フォトレジスト膜形成→パターン露光・現像→裏面コート→湿式エッチング(パターン開口部の蝕刻)→フォトレジスト膜除去→洗浄、の一連の工程により行われる(図17:工程15〜23)。図15(a)は湿式エッチングが終了した状態、同図(b)はフォトレジスト膜(図15(a):53,54)を除去した状態をそれぞれ表すものであり、イオン注入マスク用酸化膜8には、硼素注入層を形成するためのパターン開口部11が形成されている。
【0075】
続いて、図15(c)に示すように、パターン開口部11に露出したエピタキシャル層3に面荒れ防止用の酸化膜12(膜厚:例えば50nm)を形成するための注入前酸化工程を行う(図17:工程24)。そして、図15(d)に示すように、公知のイオン注入法に基づき、ボロン(B)のイオン注入(打込みエネルギー:例えば50keV〜70keV、ドーズ量:2×1012/cm)を行うと、エピタキシャル層3のパターン開口部11に対応する位置に硼素注入層13が形成される(図17:工程25)。なお、酸化膜の湿式エッチングにより形成されるパターン開口部11は、図15(e)に示すように、内面形状がテーパ状となりやすく、これが硼素注入層13の形成面積のばらつきの要因となる。
【0076】
次に、図15(f)に示すように、イオン注入により硼素注入層13に生じた損傷の結晶性回復とキャリアの活性化とを行うための結晶性回復兼活性化熱処理(例えば950℃、30分間のアニール)を、酸化膜12を残留させた状態で窒素雰囲気中にて施す(図17:工程26)。図12(b)に示すように、酸化膜12を残留させた形で結晶性回復兼活性化熱処理を行うことで、硼素注入層13(イオン注入層)の面荒れ発生は防止される。なお、図15(g)に示すように、この熱処理による熱履歴(発明が解決しようとする課題で記載した第二の熱履歴に相当)の影響で硼素注入層13には熱拡散による若干の拡がりが生ずる。
【0077】
結晶性回復兼活性化熱処理が終了すれば、図15(h)に示すように、再び裏面コート→湿式エッチング(図17:工程27,28)を経て、主表面のイオン注入マスク用酸化膜8及び面荒れ防止用の酸化膜12を除去する。酸化膜8は、酸化により、エピタキシャル層3の表層部をいわば食い潰す形で形成されるから、これを除去すると、図15(i)に示すように、立体マーク7の幅dは酸化膜形成代に相当等する分だけ拡がってd’となり、形が崩れることとなる。
【0078】
次に、図16(a)に示すように、エピタキシャル層3に燐注入層を形成するためのイオン注入マスク用酸化膜15を、上記硼素注入層形成時と全く同様にして形成する(図17:工程29〜38)。なお、符号55及び56はフォトレジスト膜である。イオン注入マスク用酸化膜15には、燐注入層を形成するためのパターン開口部18が形成される。ここで、酸化膜15を形成するときの熱処理(第一の熱履歴に相当)により、図16(b)に示すように、すでに形成されている硼素注入層13の拡がりが助長される。
【0079】
ここでも、図16(c)に示す注入前酸化工程(面荒れ防止用の酸化膜19の形成、図17:工程39)が行われるが、図16(d)に示すように、このときの熱処理(第三の熱履歴に相当)により硼素注入層13の熱拡散がさらに進行する。次に、燐(P)のイオン注入(打込みエネルギー:例えば120keV〜150keV、ドーズ量:2×1012/cm)を行うと、エピタキシャル層3のパターン開口部18に対応する位置には燐注入層20が形成される(図17:工程40)。そして、図16(e)に示すように、酸化膜19を残留させた状態にて燐注入層20に対する結晶性回復兼活性化熱処理を施す(図17:工程41)。図16(f)に示すように、このときの熱処理(第二の熱履歴)により、硼素注入層13及び燐注入層20の熱拡散が進行する。
【0080】
こうして硼素注入層13及び燐注入層20を形成した後に、図16(g)に示すように、裏面コート→湿式エッチング(図17:工程42,43)を経て酸化膜15を除去する。すると、図16(h)に示すように、立体マーク7の幅d’がさらに拡がってd”となり、寸法の変形が生じてしまう。そして、裏面コートとして形成されたレジスト膜57を除去・洗浄後(図17:工程44,45)、エピタキシャル層3の上に第二シリコンエピタキシャル層22を気相成長させる(図17:工程46)。これにより、硼素注入層13及び燐注入層20は、埋込硼素注入層13’及び埋込燐注入層20’となる。以降、同様の工程を繰り返して、埋込硼素注入層及び埋込燐注入層とエピタキシャル層とを交互に積層した構造を形成してゆく。なお、最後に形成した硼素注入層及び燐注入層を埋込層とするために、その後、エピタキシャル層の形成工程が1層分余分に行われる。
【0081】
以上説明した参考技術においては、酸化膜の形成除去により形成した立体マーク7に対してさらに酸化膜の形成/除去を繰り返すので、該立体マーク7の形成されたエピタキシャル層表層部が酸化膜への転換及び除去により失われて形が崩れてしまう。その立体マーク7上にエピタキシャル層22を気相成長させると、図16(i)に示すように、その立体形状7’はエピタキシャル層22の表面に多少は浮き上がって残るものの、正確なパターン位置合わせに使用できるほぼ限界である。そのため、1サイクル毎にエピタキシャル層22の表面において、立体形状7’とは別の位置に位置決め用立体マークを新たに形成し直さなければならない。図17においては、埋込層を一層形成する毎に、立体マークの形成(工程3〜14)を含め、工程1〜45の全体を反復しなければならなず、例えば6層構造では全工程数が実に271にも達する。また、1サイクル中、酸化膜の形成処理が上記の通り6回(3,11,16,24,31,39)、裏面コート処理が6回(7,12,20,27,35,42)、酸化膜の湿式エッチング工程(除去工程を含む)が6回(8,13,21,28,36,43)と、酸化膜形成及び派生工程だけで45工程中18工程を占め、6サイクルでは271工程中108工程に及ぶ。これを見ても、上記参考技術においては、酸化膜の形成/除去に関連して、いかに多くの工程を要しているかが明らかであろう。
【0082】
また、上記工程1〜45のサイクルには、パターン形成用の熱酸化膜の形成工程が4回(3,11,16,31)、注入前酸化工程が2回(24,39)、さらに結晶性回復兼活性化熱処理が2回(26,41)と、ウェーハに熱履歴の加わる工程が合計8回も含まれる。従って、埋込層として、硼素注入層13’及び燐注入層20’の組を6層にわたって形成する場合、その最下層のものには、以降の5層の形成時に加わるものに限っても、8×5=40回もの熱履歴が累積されることとなる。その結果、図6(c)を用いてすでに説明した通り、下層に位置する埋込層101ほど熱拡散による拡がりが大きくなり、縦方向及び横方向の拡散が積層方向で不均一なものとなってしまう。そして、図6(d)に示すように、これら埋込層101を拡散熱処理により縦方向につないで得られる縦方向添加領域105も、下側ほど太くなる不均一なものとなるのである。
以上で、参考技術の説明を終わる。
【0083】
(実施の形態1)
続いて、本発明の一実施例につき、図1〜図4を用いて説明する。なお、図3は、埋込層を6層形成する場合の工程流れ図である。
まず、図1(a)に示すように、裏面にCVD法等により裏面酸化膜2を形成したシリコン単結晶基板1を用意する。次いで図1(b)に示すように、シリコン単結晶基板1の主表面にn型の第一エピタキシャル層3を気相成長させる(図3:工程1)。ここまでの工程及び条件は、上記参考技術と全く同様である。
【0084】
次に、図1(c)に示すように、位置決め用立体マークを形成するためのフォトレジスト膜60(膜厚:例えば1.2μm程度)を形成する。このフォトレジスト膜60に位置決め用立体マークのパターンを露光・現像することにより、パターン開口部61を形成して立体マーク形成用のマスクとする(図3:工程2〜4)。ここで、最初の位置決め用立体マークは、シリコン単結晶基板に予め形成されているオリエンテーションフラットあるいはノッチに基づいて位置決めされる。そして、図1(d)に示すように、この状態で基板に乾式エッチングを行うことにより、パターン開口部61に対応する位置に凹状の立体マーク7を形成する(図3:工程5、深さ:例えば200nm〜300nm)。乾式エッチング法としては、例えば反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)を採用することができる。その後、フォトレジスト膜60を除去する(図3:工程6)。
【0085】
位置決め用立体マーク7の形成には、前述の参考技術例1では、図17の工程2〜14の13工程を要していたのに対し、この実施の形態では、図3の工程2〜6のわずか5工程に短縮されている。これは、参考技術例1で用いたマーク蝕刻用酸化膜の形成が不要になるため、洗浄工程、裏面コート工程、酸化膜エッチング工程、さらにはマーク形成用酸化膜の形成と、これに対応する洗浄工程、裏面コート工程及び酸化膜除去工程等が軒並み不要となることに起因している。
【0086】
次いで、図1に戻り、ウェーハを洗浄後(図3:工程7)、露出した第一エピタキシャル層3上に酸化膜を積極形成することなく、フォトレジスト膜を直に塗布する(図3:工程8、膜厚:例えば1.2μm、図ではポジ型)。そして、該フォトレジスト膜に対し、前記した立体マーク7を用いてパターンを位置合わせし、さらに露光・現像することにより、第一不純物としての硼素(B)を注入するためのパターン開口部63を形成して第一イオン注入用マスク62とする(図3:工程9,10)。
【0087】
そして、図1(e)に示すように、第一イオン注入用マスク62が形成された状態にて、参考技術例1と同様の条件にて硼素のイオン注入を行うと、エピタキシャル層3のパターン開口部63に対応する領域を第一領域として、ここに第一イオン注入層としての硼素注入層71が形成される(図3:工程11)。その後、第一イオン注入用マスク62を除去する(図1(g)、図3:工程12)。ここで、フォトレジスト膜の露光・現像により形成されるパターン開口部63は、図1(f)に示すように、内面形状が酸化膜の湿式エッチングにより形成されるもの(図15(e))より急峻で切り立ったものとなり、硼素注入層71の形成面積のばらつきが生じにくい。
【0088】
さて、上記硼素注入層71の形成には、前述の参考技術例1では、結晶性回復兼活性化熱処理を含めて図17の工程15〜26の12工程を要していたのに対し、この実施の形態では、図3の工程7〜12の6工程に短縮されている。これは、イオン注入用マスクに酸化膜を使用せず、かつ注入前酸化も行わないので、それら両酸化工程に加え、洗浄、裏面コート、さらに酸化膜エッチングの各工程が省略されることに起因する。
【0089】
また、硼素注入層71を形成後は、ウェーハを洗浄後(図3:工程13)、結晶性回復兼活性化熱処理を行わずに引き続きその露出した第一エピタキシャル層3上に、図2(a)に示すように、同様に酸化膜を積極形成することなくフォトレジスト膜を直に塗布する(図3:工程14)。そして、該フォトレジスト膜に対し立体マーク7を用いてパターンを位置合わせし、さらに露光・現像することにより、第二不純物としての燐(P)を注入するためのパターン開口部65を、前記した硼素を注入するためのパターン開口部63(図1(e))とは別の位置に形成して第二イオン注入用マスク64とする(図3:工程15,16)。そして、第二イオン注入用マスク64が形成された状態にて、参考技術と同様の条件にて第二不純物としての燐のイオン注入を行うと、第一エピタキシャル層3のパターン開口部65に対応する領域には、これを第二領域として、第二イオン注入層たる燐注入層72が形成される(図3:工程17)。その後、第二イオン注入用マスク64を除去する(図2(b)、図3:工程18)。
【0090】
前述の参考技術例1では、酸化膜除去のエッチング並びに結晶性回復兼活性化熱処理を含めて、図17の工程27〜41の15工程を要していたのに対し、この実施の形態では硼素注入層形成時と同様に、酸化膜の形成/除去に関連する工程が省略されるので、図3の工程13〜18の6工程に短縮されている。
【0091】
そして、ウェーハの洗浄(図3:工程19)を経て、図2(d)に示すように、結晶性回復兼活性化熱処理がなされる。この熱処理は、図4(a)に示すように、ウェーハWを気相成長装置121内に配置して、第二エピタキシャル層22(図2(f))の気相成長を行う直前に、該気相成長装置121内に水素を導入して行われる(図3:工程20)。この水素雰囲気中での熱処理は、気相成長の前に通常行うウェーハ表面の自然酸化膜を除去するための熱処理を兼ねることができるので、効率的である。
【0092】
イオン注入後の結晶性回復兼活性化熱処理を上記のような水素雰囲気中で行うことで、図13に示すように、イオン注入の前に酸化膜を積極形成していないにも拘わらず、イオン注入層の表面に面荒れが生じにくくなるばかりでなく、面荒れの凹凸が小さくなる。すでに繰り返し説明している通り、本発明による工程短縮効果に最も寄与しているのは、酸化膜形成/除去が不要となった点であるが、酸化膜形成工程の省略を実現できるようになった根本的な要因は、上記水素熱処理による面荒れ防止効果の達成にあるともいえる。
【0093】
また、前記した参考技術例1では硼素注入層13及び燐注入層20に対して各々個別に結晶性回復兼活性化熱処理が行われていたのに対し、この実施の形態では、上記水素雰囲気中における熱処理により、硼素注入層71及び燐注入層72に対する結晶性回復兼活性化熱処理が一括して行われ、工程がさらに短縮されている。
【0094】
上記水素雰囲気中における熱処理工程の処理温度は、700℃以上にて調整するのがよい。処理温度が700℃未満では、イオン注入層の結晶性回復並びに活性化が十分になされない。なお、該処理温度は、より望ましくは850℃〜1100℃の範囲にて調整するのがよい。熱処理温度が850℃未満では、ウェーハ表面の自然酸化膜が水素でほとんどエッチングされない。また、熱処理温度が1100℃を超えると、イオン注入層の不純物拡散が無視できなくなる。また、水素雰囲気中での熱処理工程は、常圧下にて行うことで十分な面荒れ防止効果が達成されるが、面荒れ防止効果が損なわれない範囲内にて、減圧した水素雰囲気(例えば20torr〜760torr程度)にて行ってもよい。
【0095】
水素雰囲気中における熱処理が終了すれば、図4(b)に示すように、気相成長装置121内にて引き続き、原料ガスSGとしてトリクロロシラン(SiHCl)を流すことにより気相成長工程を行い、図2(f)に示すように第二エピタキシャル層22を形成するとともに、第一及び第二イオン注入層である硼素注入層71及び燐注入層72を、第一及び第二埋込層である硼素埋込層71’及び燐埋込層72’となす(図3:工程20)。このように、水素雰囲気中における熱処理工程と、第二エピタキシャル層を形成する気相成長工程とが、一つの気相成長装置内にて一連の工程(事実上、1つの工程)として実施されるので、全体のさらなる工程短縮を図ることができる。
【0096】
なお、この気相成長工程は、硼素注入層71及び燐注入層72からの横方向オートドーピングを抑制するために、まず、封止用の薄いエピタキシャル層を気相成長(いわゆるキャップデポ処理)してから第二エピタキシャル層22の本成長を行う、複数段階処理とすることが望ましい。
【0097】
以上にて、エピタキシャル層上への立体マーク形成から硼素埋込層71’及び燐埋込層72’を1層分形成するまでのサイクルは終了するが、図3からも明らかな通り、この1サイクルの工程数は2〜20の19工程であり、酸化膜をイオン注入用マスクとして使用する参考技術例1(45工程)の半分以下に短縮されていることがわかる。また、ウェーハに熱履歴の加わる工程が、参考技術例1では8工程含まれていたのに対し、本発明の実施の形態1ではエピタキシャル成長工程の1工程のみである。従って、図2(e)に示すように、埋込層を1層分形成する1サイクル当たりに生ずるイオン注入層(硼素注入層71及び燐注入層72)の熱拡散は、参考技術と比較して格段に小さくなる。その結果、図5に示す通り、縦方向に並ぶ埋込層は横方向の拡がりの差が小さくなり、かつ縦方向に互いに隔離された均一なものが得られる。そして、複数のエピタキシャル層を積層形成した後にこれら埋込層を拡散熱処理により縦方向につないで得られる縦方向添加領域(「縦方向不純物添加領域」ということもある。)も、断面積の積層方向により均一なものが実現可能となる。
【0098】
図7は、実施の形態1の製造方法により得られるシリコンエピタキシャルウェーハの要部を模式的に示す断面図である。各エピタキシャル層の層間には、第一埋込層としてp型の硼素埋込層と、第二埋込層としてn型の燐埋込層とが各エピタキシャル層の同一領域に形成される。また、エピタキシャル層の積層方向に連なる各硼素注入層及び燐注入層は、それらの全てがn型エピタキシャル層領域を介して積層方向に互いに隔てられ形成される。このようなエピタキシャルウェーハに拡散熱処理を行うと、不純物添加領域を構成する硼素埋込層及び燐埋込層は、図8に示すようにそれぞれ縦方向につながって縦方向硼素添加領域及び縦方向燐添加領域となる。これら縦方向添加領域は、図4(d)に示す参考技術と比較して積層方向の断面積が格段に均一なものとなる。
【0099】
なお、図10(a)は、本発明の製造方法を、MOSFET素子用エピタキシャルウェーハの製造に適用した例である。p型のシリコン単結晶基板251上に、n型のエピタキシャル層253a〜253cが複数積層され、基板251と最下層のエピタキシャル層253aとの間にn型の埋込層252が形成されるとともに、各々リング状の硼素注入層と燐注入層とがエピタキシャル層253a〜253cの各層間に分離形態で埋込まれている。図10(a)において、縦方向の硼素注入層の列は、埋込層252の外側においてこれを取り囲むように形成される。他方、縦方向の燐注入層の列は、エピタキシャル層253a〜253cの積層方向と直交する平面への投影において埋込層252と重なる位置に形成されている。図10(b)に示すように、これに拡散熱処理を施すことで、硼素注入層は縦方向硼素添加領域である筒状のp型素子分離領域254となり、燐注入層は、縦方向燐添加領域である筒状のn型ドレイン領域255(埋込層252に導通)となる。なお、図10(b)では、ドレイン領域255の内側にp型ウェル、n型ソース領域、及びゲートを形成して、nチャネル型MOSFET素子を作り込んだ状態を示している。
【0100】
他方、図11(a)は、本発明の製造方法を、バイポーラ素子用エピタキシャルウェーハの製造に適用した例である。p型のシリコン単結晶基板261上に、n型のエピタキシャル層263a〜263cが複数積層され、基板261と最下層のエピタキシャル層263aとの間にn型の埋込層262が形成されるとともに、リング状の硼素注入層と扁平板状の燐注入層とがエピタキシャル層263a〜263cの各層間に分離形態で埋込まれている。図11(b)に示すように、これに拡散熱処理を施すことで、硼素注入層は縦方向硼素添加領域である筒状のp型素子分離領域264となり、燐注入層は縦方向燐添加領域である柱状のn型コレクタ領域265となる。なお、図11(b)では、素子分離領域264の内側にp型ベース及びn型エミッタ領域を形成して、npn型バイポーラ素子を作り込んだ状態を示している。
なお、図10及び図11に示す本発明の製造方法は、p型のシリコン単結晶基板を用いる半導体素子を製造する場合について例示している。しかしながら、本発明に係る製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハはこれに限られるものではなく、p型のシリコン単結晶基板を用いて製造される半導体素子用のエピタキシャルウェーハ及びその製造方法についても適用可能である。また、さらにn型のシリコン単結晶基板についても適用できることは言うまでもない。
【0101】
(実施の形態2)
次に、第二態様の実施の形態について説明する。
図1及び図2に示すように、上記の実施の形態1においては、第一エピタキシャル層3上の立体マーク7(転写元位置決め立体マーク)の形状があまり崩れることなく、前述の埋込層を1層分形成する1サイクルの工程終了時にも元の状態をほぼ維持している(図2(c))。これにより、図2(f)に示すように、その上側に第二エピタキシャル層22を積層したときに、下層側の立体マーク7がそれほど形崩れすることなく浮き上がり転写される。従って、第二エピタキシャル層22を新たに第一エピタキシャル層として、イオン注入及び気相成長の工程サイクルを繰り返すときに、その転写されたマークを位置決め用立体マーク7’として使用することが可能となる(すなわち、転写立体マークとして使用される)。
【0102】
これにより、2層目の硼素埋込層及び燐埋込層を形成するサイクルにおいては、立体マークの形成工程(図3では工程2〜7)を省略することができ、更なる工程短縮が可能となるのである。また、この結果得られるエピタキシャルウェーハにおいては、下層のエピタキシャル層の位置決め用立体マークに由来せず、かつ以降の層へ転写立体マークを形成するための転写元となる転写元位置決め用立体マークが、埋込層の形成されたエピタキシャル層のうち、最下層のものを含む一部のものについてのみ形成されることとなる。図3では、立体マークの形成工程を含む第一サイクルが工程2〜20の19工程であるのに対し、立体マークを形成しない第二サイクルは6工程短縮された、工程21〜33の13工程である。エピタキシャル層及び埋込層を複数層に形成する場合、第一サイクルは最初の1層のみとし、以降は第二サイクルのみを繰り返すようにしてもよい。また、エピタキシャル層の形成厚さによっては位置合わせ精度確保のため、図9に示すように、一層目の立体マーク7aに基づき浮き上がる立体マーク7b(図9(a)),7c(図9(b))の使用を一定の積層数で打ち切って、新たな立体マーク7dを別の位置に形成する(図9(c))ようにしてもよい。すると、埋込層の形成されたエピタキシャル層のうち最上層のものに、位置決め用立体マークがエピタキシャル層の層数よりも少ない数だけ互いに重ならない位置関係にて形成される。この時、複数のエピタキシャル層3a〜3cのうち、最下層のエピタキシャル層3aに形成される7aと、2層上のエピタキシャル層3cに形成される7dが転写元位置決め用立体マークとして機能する。
【0103】
例えば、図3においては、1層おきに立体マークを新たに形成するように設計しており、結果として第一サイクルと第二サイクルとが交互に繰り返される形となっている。上記した本発明の実施例において、6層分の埋込層の形成に要する最終的な工程数は97であり、図17の参考技術の工程数271の1/3強に削減されていることがわかる。
【0104】
なお、上記の工程では、硼素注入層71及び燐注入層72の形成を通じて、酸化膜を形成/除去する必要がない工程を採用しているから、転写元位置決め立体マークの形状保持という点においては一層有利であるともいえる。ただし、水素雰囲気中での熱処理を行わずに通常通り注入前酸化処理を行う工程を採用する場合においても、注入前酸化処理による酸化膜の形成厚さは50nm程度と小さいので、上記第二態様を適用することができる。
【0105】
また、上記の工程では、転写立体マークがそのまま該層の位置決め用立体マークとして流用できることに加え、酸化膜のマスクを使用しないため、同一エピタキシャル層において複数の導電型のイオン注入層をパターン形成する場合でも、先の導電型のイオン注入層パターンのマスク位置決めに使用した立体マークを、次の導電型のイオン注入層パターンのマスク位置決めにも流用できる。従って、1つのエピタキシャル層に何種類のパターンを形成しようとも、マスク位置決め用の位置決め立体マークは最低1つあれば良い。このことは、新規に蝕刻形成する位置決め用立体マークの形成数を削減できる大きな要因の一つであるとともに、マスクの数を大幅に削減できるという新たな利点も生ずる。さらに、エピタキシャルウェーハの主表面上で位置決め用立体マークの占める面積を削減できるという効果もある。
【0106】
(参考技術例2)
一方、イオン注入用マスクに酸化膜を使用する参考技術例1の工程では、図23に示すように、エピタキシャル層3上に導電型の異なるイオン注入層、例えば硼素注入層71と燐注入層72とを形成する場合、イオン注入用マスクとして用いられる酸化膜の1回の形成・剥離に伴い、位置決め用立体マーク7の形状が崩れる。そこで、位置決め用立体マーク7として、同じエピタキシャル層3上といえども、硼素注入層71のパターン形成用の位置決め立体マーク7hと、燐注入層72のパターン形成用の位置決め立体マーク7iとを個別に形成する。また、この上にエピタキシャル層22を重ねて形成したときには、そのエピタキシャル層22上に、新しい位置決め立体マークを形成する。この場合、下層側のエピタキシャル層3上の位置決め用立体マーク7が上層のエピタキシャル層22に多少転写されるので、これを利用して上層の位置決め立体マークの位置決めを行う。このとき、酸化膜の形成・剥離により崩れた立体マーク7h,7iに基づく転写立体マークでは位置決めの精度が確保できないので、上層側のエピタキシャル層22を形成する前に、上層の位置決め用立体マークを形成するために使用する新たな位置決め立体マーク7jを形成する。図23(b)に示すように、この位置決め立体マーク7jに基づく転写立体マーク7j’を利用して位置決め用立体マークの新規形成を行う。いずれにしろ、1つのエピタキシャル層に対して複数個、ここでは3つの位置決め用立体マークが形成される。
【0107】
この場合、下層側の位置決め用立体マークの形は上層側から認識できるため、上層側の位置決め用立体マークが下層側の位置決め立体マークと位置的に重なりを生じないように形成される必要がある。その結果、各層毎に位置決め用立体マークを形成する場合、最上層のエピタキシャル層には、層数に相当する数の立体マークが形成あるいは転写される。例えば、図23(d)には、埋込層71’,72’あるいはイオン注入層71,72を形成しつつ、3層のエピタキシャル層103a〜103cを形成する例を示しているが、最上層のエピタキシャル層103cには、該層103cに新規蝕刻された位置決め用立体マーク7に加え、2層下に蝕刻された位置決め用立体マーク7に基づいて、中間層103bでの転写マーク207を経て2重に転写された転写立体マーク307と、中間層103bにて新規蝕刻された位置決め用立体マーク7に基づく転写立体マーク207との計3組の立体マークが現われる。特に図23(b)及び(c)に示すように一層に対して複数個の位置決め用立体マークを形成する場合では、その数はさらに増大することとなる。その結果として、得られるエピタキシャルウェーハの最上層のエピタキシャル層には、形成したエピタキシャル層の層数よりもはるかに多い立体マークが現われることとなり、その立体マークが現れるスペースを用意しなければならないという問題がある。
【0108】
また、縦方向拡散領域を形成するために、例えば図7に示すように、同一導電型の埋込層を同じ位置に重ねて形成する場合、イオン注入層のマスクパターンは各層とも全く同じでよい。しかしながら、各層毎に位置決め用立体マークの形成位置は変更しなければならないから、イオン注入層のパターンは同じであるにも拘わらず、結局のところ位置決め用立体マークのパターン位置のみを変えた多数のマスクを用意しなければならないという問題もある。
【0109】
(実施の形態3)
転写立体マークは、位置決めに使用可能な形状精度を確保するために、シリコンの気相成長機構に由来する変形を生じにくい形状を考慮することが重要である。例えば、図22は面方位(100)のシリコン単結晶基板を示すものであるが、[011]方向の直線部分407aと、[01-1]方向の直線部分407bとが交差した十字状の立体マーク407を使用した場合、これに基づいて該立体マーク407上に形成されたエピタキシャル層に転写される転写立体マーク407’は、例えば[011]方向の直線部分407a’の幅が縮小し、これと直交する[01-1]方向の直線部分407b’の幅は逆に増大するというパターン変形が生じやすい。
【0110】
本発明者等が鋭意検討した結果、面方位(100)のシリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を形成する場合、図20に示すように、位置決め用立体マーク507として、[011]方向又は[0-1-1]方向に対する角度θが45°以内の方向の直線部分を有するように形成すると、これに基づく転写立体マークの変形が生じにくくなることが判明した。図18は、そのような位置決め用立体マーク507の具体例を示すものであり、溝状に形成された2本のラインパターン507a,507b(例えば、各々幅約4μm、深さ約0.2μm)を略直交する形態で、ここでは一端部を互いに共有するL字状に形成したものである。ただし、図19に示すように、立体マークを凸状に形成することも可能である。ここでは、立体マーク517は、基板表面の浅い凹部517c内に、凸状形態の2本のラインパターン517a,517bを略直交する形態でL字状に形成したものである。なお、基板の主表面には4°程度までのオフアングルを付与することもできる。この場合、結晶軸方位は近似的にオフアングルを付与しない場合のものと同一であると考える。
【0111】
上記の効果を確認するために次の実験を行った。まず、シリコン単結晶基板として、結晶軸方位を[100](ただし、オフアングルなし)、オリエンテーションフラット面を(011)とした、図18(a)に示す形態のシリコン単結晶基板を用意し、図21に示す高さ130nm、幅12μmの直線凸状形態の立体マーク527を形成した。ただし、その立体マーク527のエッジの向きは、[011]方向をθ=0°、[01-1]方向をθ=90°として各種方向に設定した。次に、図4に示すタイプの気相成長装置122により、その立体マーク527が形成された主表面上にエピタキシャル層を、トリクロロシラン(SiHCl)を用いて1080℃、80torrにて厚さ24μmだけ形成した。
【0112】
そして、このエピタキシャル層成長後の基板に対し、ネガ型フォトレジストを0.8μm塗布し、上記の立体マーク527を位置合わせパターンとして利用することにより、公知のアライナー装置を用いてパターン付マスクを上記のエピタキシャルウェーハに自動位置決め(オートアライメント)することを試みた。このオートアライメントは、エピタキシャルウェーハに形成された立体マーク527及びマスクのパターンエッジからの反射光を光電的に検出し、それらエッジ位置のずれが解消されるようにエピタキシャルウェーハ及びマスクを相対移動させて行うものである。図21に、各θの値毎のパターン位置信号の測定プロファイルを示す。この結果、θが45°を超えると一方のエッジからの反射ピークが極端に小さくなり、オートアライメント不可となったが、θが45°以下であれば問題なくオートアライメントできることがわかった。これは、エピタキシャル層に転写された立体マーク527の転写立体マークにおいて、その一方のエッジが顕著にパターン変形を起こすが、θが45°以下であれば、そのパターン変形をオートアライメントができる程度小さく抑制することができるという効果があることを意味する。
【0113】
(実施の形態4)
次に、第三態様の実施の形態について説明する。前記第一態様の実施の形態において説明した通り、エピタキシャル層の気相成長工程は、硼素注入層及び燐注入層からの横方向オートドーピングを抑制するために、まず、封止用の薄いエピタキシャル層を気相成長(いわゆるキャップデポ処理)してから第二エピタキシャル層の本成長を行う、二段階処理とすることが望ましい。このことは、特に燐注入層からの燐の横方向オートドーピング防止の観点において重要である。
【0114】
さて、本発明者等が検討した結果、図24に示すように、(a)に示す燐注入層72に対しては、燐注入工程の終了後、第二エピタキシャル層を気相成長させるのに先立って、同図(b)に示すように、常圧下にて950℃〜1100℃(望ましくは1060℃〜1100℃)にて水素雰囲気中で熱処理を行う熱処理工程を行い、燐注入層の燐の一部をあらかじめ気相中に外方拡散して燐注入層表面部の温度を下げ、該熱処理工程が終了した後に、(c)に示すように減圧雰囲気下にてシリコン原料ガスを供給して封止用エピタキシャル層22aを気相成長させ(封止成長工程)、同図(d)に示すように、その封止用エピタキシャル層22a上に第二エピタキシャル層22を気相成長させる本成長を行うことが、燐の横方向オートドーピング防止に極めて効果があることが判明した。なお、前述の第一態様の実施例を適用するならば、図2(b)に示す水素雰囲気中での熱処理を約30分間行うことで、結晶性回復兼活性化熱処理も同時に行えることとなる。これは、第七態様の実施形態に相当する。また、封止用エピタキシャル層22aを気相成長中は、ドーパントガスを供給しない。ただし、封止用エピタキシャル層22aの形成厚さが1μmより厚いと第二エピタキシャル層22との界面において正味キャリア濃度に段差が生じてしまうので、厚さは1μm以下が好ましい。しかし、厚さが0.2μm未満では封止効果が不十分となるので、封止用エピタキシャル層22aの厚さは0.2μm〜1μm以下とするのが良い。
【0115】
封止成長工程は、圧力5torr〜60torrにて行うことが望ましい。圧力が5torr未満では気相成長速度が低いので能率が悪く、圧力が60torrを超えると燐の横方向オートドーピングの抑制効果が不十分となる。
【0116】
なお、封止成長工程後はオートドーピングが十分防止されているので、封止成長工程よりも生産効率の良い高温及び/又は高圧の条件にて本成長工程を同一の気相成長装置にて行うことができる。
【0117】
上記第三態様の効果を確認するために次の実験を行った。まず、シリコン単結晶基板として、直径200mm、結晶軸方位[100](ただし、オフアングルなし)、n型(抵抗率:0.010〜0.015Ω・cm)で、裏面にオートドープ防止用酸化膜が0.5μmの厚さに形成されたものを用意した。次いで、その主表面上にp型の第一エピタキシャル層(正味キャリア濃度3×1015atoms/cm)を、トリクロロシラン(SiHCl)をシリコン原料ガスとして用い、ドーパントガスとして水素で希釈されたジボラン(B)を用いることにより、気相成長温度1130℃、常圧下にて10μmの厚さに形成した(抵抗率:4.5Ω・cm)。次いで、この第一エピタキシャル層に対し、個々の注入領域の寸法が1730μm×8μmの縦長形状となり、かつ幅方向に概ね16μm程度の間隔で並ぶように、複数の燐注入層をイオン注入により形成した。ただし、イオン注入層の形成に先立って厚さ約50nmの酸化膜が形成されるように注入前酸化処理を行い、イオン注入は加速電圧120keV〜150keV、ドーズ量2×1012/cmにて行った。また、注入後において、結晶性回復兼活性化のため、熱処理を窒素雰囲気下にて950℃で30分行った。
【0118】
続いて、注入前酸化により形成された酸化膜を湿式エッチングにより除去後、基板を図4に示すタイプの気相成長装置121の反応容器122内に配置し、水素雰囲気にて900℃、1080℃及び1190℃の各温度にて常圧(760torr)にて10分間熱処理した。そして、第一エピタキシャル層と同じ原料ガスを用い、ドーパントガスを供給しないで、850℃、25torrにて厚さ0.5μmの封止用エピタキシャル層を成長させ、引き続き1080℃、80torrにて厚さ10μmの第二エピタキシャル層をドーパントガスのジボラン(B)を供給しながら本成長させた(正味キャリア濃度3×1015atoms/cm)。
【0119】
こうして得られた燐埋込層を有するエピタキシャルウェーハを、横方向に並ぶ複数の燐埋込層が研磨面に現われるよう、主表面と1°程度の角度をなすように角度研磨した。さらに図26に示すように、その研磨面上において、互いに隣接する燐埋込層間において(すなわち燐埋込層を横切らない位置において)、エピタキシャル層の界面と直交する向きに測定ラインを設定して拡がり抵抗法により、エピタキシャル層中の正味キャリア濃度プロファイルを測定した。その測定プロファイルにおいて、エピタキシャル層の界面における正味キャリア濃度の最も低い値をBH、エピタキシャル層におけるキャリア濃度の最も安定した領域での平均正味キャリア濃度をAHとして、(AH−BH)/AHの値をそれぞれ求めた。(AH−BH)/AHの値が小さいほど、エピタキシャル層界面における燐の横方向オートドーピングが小さいことを意味する。以上の測定結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
すなわち、封止エピタキシャル層成長前の常圧熱処理温度が1080℃のものにおいてのみ、(AH−BH)/AHが0.5以下となり、1080℃近傍において常圧熱処理することにより燐成分の横方向オートドーピングが効果的に抑制される。なお、図27は、拡がり抵抗法によるキャリア濃度プロファイルの測定例であり、(a)は常圧熱処理温度が1080℃のもの、(b)は1190℃のものである。(a)では界面位置においてもキャリア濃度の低下がそれほど生じていないのに対し、(b)では、p型エピタキシャル層中への燐成分の横方向オートドーピングによりキャリア濃度が急減していることがわかる。また、同図には、キャリア濃度測定を行ったサンプル面を弗酸−硝酸水溶液からなるステイン液に浸漬後光照射することにより得られたものの拡大写真を示している。背景の黒く現われている部分がp型のエピタキシャル層、その中に明るく現われている部分がn型の燐埋込層であるが、(a)では互いに隣接する燐埋込層につながりが全く生じていないのに対し、(b)では燐成分の横方向オートドーピングにより燐埋込層が界面位置において連結されてしまっている。
【0122】
(実施の形態5)
次に、第四態様の実施の形態について説明する。この態様の要旨は、第一エピタキシャル層に硼素注入層と燐注入層との双方を形成する場合に、燐注入層形成後には、第一エピタキシャル層の表面を酸化する注入前酸化工程を行わない。すなわち、燐注入工程を硼素注入工程の後に行う点にある。そして、この工程は、図14〜図17に示す前記参考技術例1としてすでに説明されている。
【0123】
すなわち、図15(h)において硼素注入層13を形成した後、イオン注入マスク用酸化膜15が形成され、硼素注入層13は該酸化膜15により覆われる(図16(c))。しかしながら、硼素は酸化膜中に取り込まれやすいため、酸化膜15を形成しても硼素注入層13の表層部には濃化せず、むしろ表面濃度が低下するため、オートドーピングが小さくなる方向に作用する。他方、燐は酸化膜との界面に集まりやすいのであるが、図16(c)に示すように、燐の注入は注入前酸化膜19の形成後に行われるから、燐注入層20の表層部への燐の濃化は回避される。その結果、第二エピタキシャル層22を形成しても燐及び硼素の横方向オートドーピングが効果的に防止されるのである。なお、燐注入後、酸化膜15を残した状態にて長時間の熱処理を行うと、燐成分が燐注入層20の表層部に濃化するため、図16(e)の結晶回復のための熱処理は省略し、直ちにエピタキシャル層22の成長を行うことが望ましい。
【0124】
なお、上記第四態様は、フォトレジスト被膜をイオン注入用マスクとして使用するエピタキシャルウェーハの製造方法にも適用可能である。この場合、図25(a)に示すように、第一エピタキシャル層3内に先に硼素注入層71を形成しておき、次いで注入前酸化膜19を形成する。硼素注入層71中の硼素は注入前酸化膜19との界面には前記と同様な理由で集まりにくいので、硼素の表層部への濃化は生じない。次いで、(b)に示すように、燐注入層形成のためのイオン注入用マスク60をフォトレジスト被膜により形成し、燐を注入後、(c)に示すようにイオン注入用マスク60と注入前酸化膜19とを除去し、さらに(d)に示すように第二エピタキシャル層22を成長させて、硼素埋込層71’及び燐埋込層72’を得る。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】第一態様の製造方法の一実施例を示す工程説明図。
【図2】図1に続く工程説明図。
【図3】上記実施例の工程により埋込層を6層形成する場合の工程流れ図。
【図4】気相反応装置内にて水素熱処理工程及び気相成長工程を連続的に行う工程を、気相反応装置の断面構造とともに示す説明図。
【図5】第一態様の製造方法により形成された埋込層と、それに基づいて形成される縦方向添加領域の特徴を示す断面模式図。
【図6】参考技術の製造方法により形成された埋込層と、それに基づいて形成される縦方向添加領域の特徴を示す断面模式図。
【図7】埋込層を多層に形成した、本発明のエピタキシャルウェーハの断面構造を模式的に示す図。
【図8】図7のエピタキシャルウェーハを熱処理して得られる縦方向添加領域の例を示す断面模式図。
【図9】第二態様の特徴を示す工程説明図。
【図10】本発明の製造方法により製造されるエピタキシャルウェーハの断面構造の一例を示す模式図。
【図11】同じく別の例を示す模式図。
【図12】結晶回復熱処理を行ったときにイオン注入層に面荒れが発生する様子と、注入前酸化処理によりこれが防止される様子とを表す説明図。
【図13】水素熱処理の効果を説明する図。
【図14】参考技術(第四態様の一例)のエピタキシャルウェーハの製造方法を示す工程説明図。
【図15】図14に続く工程説明図。
【図16】図15に続く工程説明図。
【図17】上記参考技術の工程により埋込層を6層形成する場合の工程流れ図。
【図18】位置決め立体マークの好適な実施例の1つを模式的に示す図。
【図19】図18の位置決め立体マークの位置変形例を示す模式図。
【図20】位置決め立体マークに含まれる直線部分の好適な角度範囲を示す説明図。
【図21】図20の角度範囲を裏付ける実験結果を示す説明図。
【図22】従来の位置決め立体マークがエピタキシャル層の成長により変形する様子を説明する図。
【図23】従来の位置決め立体マークを用いたシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法の問題点を説明する図。
【図24】第三態様の効果の説明図。
【図25】第四態様の変形例に係る製造方法の、工程の要旨を説明する図。
【図26】第三態様の効果確認実験における、キャリア濃度プロファイルの測定ラインの設定態様を説明する図。
【図27】そのキャリア濃度プロファイルの測定例を示す図。
【図28】第六態様の製造方法の工程説明図。
【図29】第七態様の製造方法の工程説明図。
【図30】その効果の一例を説明する図。
【符号の説明】
【0126】
1 シリコン単結晶基板
3 第一エピタキシャル層
7 位置決め用立体マーク
62 第一イオン注入用マスク
64 第二イオン注入用マスク
71 硼素注入層(第一イオン注入層)
72 燐注入層(第二イオン注入層)
22 第二エピタキシャル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、前記イオン注入層を、下層側に位置するものほど注入不純物濃度が高くなるように形成することを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記イオン注入層を形成するためのイオン注入を行う際に、下層側に位置するイオン注入層ほど、注入イオンのドーズ量を大きくする請求項1記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入層を、下層側に位置するものほどパターン面積が小さくなるように形成する請求項1又は2に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
複数の不純物添加領域がエピタキシャル層の積層方向に相互に接続した構造を有する素子を製造するためのシリコンエピタキシャルウェーハであって、同一導電型のイオン注入層が同一領域に埋込形成されているエピタキシャル層が複数積層された構造を有するシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、下層側に位置するイオン注入層ほど注入不純物濃度が高くなるように形成されていることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項5】
前記イオン注入層は、下層側に位置するものほどパターン面積が小さくなるように形成されている請求項4記載のシリコンエピタキシャルウェーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−229234(P2006−229234A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39991(P2006−39991)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【分割の表示】特願平11−319970の分割
【原出願日】平成11年11月10日(1999.11.10)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】