説明

光変調素子およびこれを用いた空間光変調器

【課題】配線に透明電極材料を適用する必要がなく、また、開口率を増大させることができると共に、効率的な偏光変調を行なうことができる光変調素子およびこの光変調素子を用いた空間光変調器を提供する。
【解決手段】光を透過させる基板7上に形成され、磁化自由層3と、中間層21,22と、磁化固定層11,12と、がこの順序で積層されたスピン注入磁化反転素子構造を有する光変調素子1であって、磁化固定層11,12は、同一平面上に分離した2つの磁化固定層11,12からなり、2つの磁化固定層11,12は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ磁化自由層3よりも保磁力の大きい磁性体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する光変調素子およびこれを用いた空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これを2次元アレイ状に配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ホログラフィ装置等の露光装置、ディスプレイ技術、記録技術等の分野で広く利用されている。また、2次元で並列に光情報を処理することができることから光情報処理技術への応用も研究されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられ、表示装置として広く利用されているが、ホログラフィや光情報処理用としては、応答速度や画素の高精細性が不十分であるため、近年では、高速処理かつ画素の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁気光学材料すなわち磁性体に入射した光が透過または回折する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射する、ファラデー効果(回折の場合はカー効果)を利用している。すなわち、選択された画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものとして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせる。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。
【0004】
図9に示すように、スピン注入方式を用いたスピン注入型の空間光変調器100は、基板107上に設けられた光変調素子101の上下に一対の電極(上部電極102および下部電極103)を接続して膜面に垂直に電流を供給することにより、スピンが注入されて積層された磁性膜の一部の層(磁化自由層)の磁化方向が変化(反転)する。そして磁気カー効果により磁化自由層の磁化の向きに応じて出射光(出射偏光)の偏光状態を、θと、−θの2値に変調することができる。このような空間光変調器100においては、入射偏光側と出射偏光側にそれぞれ偏光子PFi,PFoを設け、これら偏光子PFi,PFoの偏光面を互いに所定角度に設定したクロスニコル配置とする。そして、光変調素子101によって偏光面が角度−θ回転すると、出射偏光は偏光子PFoを透過できず暗状態となり、角度θだけ回転すると、その分、出射偏光は偏光子PFoを透過し、明状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術においては、以下のような問題がある。
スピン注入磁化反転素子には上下に電流を供給するための電極材料を設けるため、スピン注入磁化反転素子に光を入射するためには、回折型の空間光変調器の光変調素子であれば上または下の一方に、あるいは透過型の空間光変調器の光変調素子であれば上下共に、光を透過する透明電極材料を適用しなくてはならない。透明電極材料は、金属電極材料と比べて導電性が大きく劣るため、複数の画素に均一な電流を供給することが困難であるという問題がある。特により多数の光変調素子を2次元アレイ状に配列した高精細の空間光変調器になるほど中央部で動作が遅れる虞がある。これを防止するためには、電極(配線)を厚膜化したり、大電流を供給して空間光変調器を動作させたりする必要があり、省電力化の点で改良の余地がある。
【0007】
また、光変調される有効領域の面積率(開口率)を大きくするためには、素子サイズ(面積)を大きくする必要があるが、一方でスピン注入磁化反転素子は、好適に磁化反転させるために一辺が300nm以下程度の微小な素子サイズとする必要がある。そのため、素子サイズを大きくして開口率の増大を図ると共に、効率的な磁化反転を行なうことができる空間光変調器の開発が望まれている。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、配線に透明電極材料を適用する必要がなく、また、開口率を増大させることができると共に、効率的な偏光変調を行なうことができる光変調素子およびこの光変調素子を用いた空間光変調器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、既に発明したデュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子(特開2010−60748号公報参照)について、その積層の配置を変え、磁化自由層の上下に配置していた磁化固定層を、両方共、磁化自由層の上に積層することで、磁化自由層を底部としたU字型に電流経路を形成し、磁化自由層の下に電極を要しない構成とすることに至った。また、この構成により、開口率を大きくすると共に、効率的な磁化反転を行なうことを可能とした。
【0010】
すなわち、本発明に係る光変調素子は、光を透過させる基板上に形成され、磁化自由層と、中間層と、磁化固定層と、がこの順序で積層されたスピン注入磁化反転素子構造を有し、前記磁化固定層上に接続した一対の電極間に電流が供給され、前記磁化自由層の磁化方向を変化させることによって前記基板を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折して出射する光変調素子であって、前記磁化固定層は、同一平面上に分離した2つの磁化固定層からなり、前記2つの磁化固定層は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ前記磁化自由層よりも保磁力の大きい磁性体であることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、同一平面上に分離した2つの磁化固定層を備えることで一対の電極の両方を光変調素子の上側に設けることができるため、基板側から光変調素子に入射した光は、電極を介さずに磁化自由層へ到達して回折する。したがって、画素を構成する電極は光を透過させる必要がなく、導電性に優れた金属電極材料を電極に適用できる。また、2つの磁化固定層を備え、これらが互いに反平行な磁化に固定されていることで一種の二重スピン注入方式となり、スピントルクが2倍となる。そのため、スピン注入の効率が向上する。また、光の入射面(出射面)の面積を広くしても磁化自由層の磁化反転が効率よく起きるため、画素の開口率を増大させることができる。
【0012】
さらに、本発明に係る光変調素子は、前記2つの磁化固定層のうちの一方が、磁気交換結合膜を備えた多層構造であることが好ましい。
かかる構成によれば、容易に2つの磁化固定層を互いに反平行な磁化に固定することができる。
【0013】
本発明に係る空間光変調器は、前記の光変調素子を用いた空間光変調器であって、光を透過させる基板と、この基板上に2次元配列された複数の画素と、この複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、前記画素は、前記光変調素子と、前記2つの磁化固定層上にそれぞれ接続され、前記光変調素子に電流を供給する一対の前記電極と、を有することを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、基板側から入射する光を回折する回折型空間光変調器として一対の電極に透明電極材料を適用する必要がなくなる。また、前記の光変調素子を用いることで、効率的なスピン注入磁化反転により偏光変調の効率が向上し、画素の開口率が増大する。
【0015】
また、本発明に係る空間光変調器は、前記配列された、前記2つの磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの画素において、前記光変調素子の2つを、1つの同じ電極に接続される前記2つの光変調素子の磁化固定層を一体として1つの一体型素子としたことを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、光変調素子における2つの磁化固定層の大きさを異なるものとすることができ、それぞれ異なる保磁力とすることができる。そのため、容易に2つの磁化固定層の磁化を互いに反平行の状態に固定した一体型素子とすることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記複数の画素のそれぞれが複数の光変調素子を有する構成としてもよい。
かかる構成によれば、1つの画素の複数の光変調素子において、磁化自由層の磁化方向を、それぞれ異なる方向とすることができる。これにより、画素の多段階表示が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光変調素子によれば、空間光変調器に用いる場合に、一対の電極に透明電極材料を適用する必要がないため、空間光変調器の省電力化を図ることができる。さらに、2つの磁化固定層を備えることでスピン注入の効率が向上し、効率的なスピン注入磁化反転を行なうことができるため、効率的な偏光変調を可能とする。また、光の入射面(出射面)の面積を通常のスピン注入磁化反転素子の2倍以上とすることができるため、開口率を増大させた画素とすることができる。
本発明に係る空間光変調器によれば、金属電極材料で一対の電極を形成することで省電力化を図ることができる。さらに、効率的なスピン注入磁化反転による偏光変調が可能となり、画素の開口率が増大したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る光変調素子の構成を模式的に示す断面図であり、(a)は第1実施形態、(b)は第2実施形態である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る光変調素子の動作を説明するための説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る空間光変調器の光変調素子の製造方法を説明するための模式図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す基板側から見た底面図である。
【図9】従来の空間光変調器の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
≪光変調素子≫
[第1実施形態]
図1(a)に示すように、本発明の光変調素子1は、光を透過させる基板7上に形成され、磁化自由層3と、第1中間層21および第2中間層22(以下、適宜、中間層21,22という)と、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12(以下、適宜、磁化固定層11,12という)と、がこの順序で積層されたスピン注入磁化反転素子構造を有する。また、第1磁化固定層11の上面にはX電極51が、第2磁化固定層12の上面にはY電極52が、それぞれ電極層として接続されている。そして光変調素子1は、磁化固定層11,12上に接続した一対の電極であるX電極51とY電極52(以下、適宜、電極51,52という)との間に電流が供給され、磁化自由層3の磁化方向を変化させることによって、下方から基板7を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折し、異なる2値の光(偏光成分)に変調して下方へ出射するものである。なお、反射光は0次回折光と表現できるので、回折には反射も含むものである。
【0021】
光変調素子1としては、所謂、CPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)型またはTMR(Tunneling MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)型の構造を有するものが用いられる。
なお、本実施形態では、光変調素子1として、磁化方向が垂直方向(層表面と直交する方向)の場合について説明する。
以下、光変調素子1の構成について説明する。
【0022】
(磁化自由層)
磁化自由層3は、2つの磁化固定層11,12上にそれぞれ接続した電極層を一対の電極(X電極51およびY電極52)間に電流が供給されることにより、磁化方向が変化するものである。すなわち、X電極51とY電極52との間に供給される電流の向きに応じて、注入される電子のスピンと磁化自由層3内の電子スピンとの相互作用により磁化自由層3内の磁化の向きが反転する。
【0023】
磁化自由層3は、磁化固定層11,12と共に、垂直磁気異方性を有する材料を使用する。具体的には、CoFeB、CoFe、Co、Fe、CoFeSi、CoFeGe等の遷移金属系材料を主に用いることができる。また、遷移金属からなる薄膜層と貴金属からなる薄膜層とが交互に積層した多層膜や、遷移金属と貴金属との合金や、希土類金属と遷移金属との合金等、磁気光学効果の大きな材料を用いることができる。
【0024】
前記多層膜としては、Co/Pt(左側から記載の材料から順に積層)多層膜、Co/Pd多層膜、Fe/Pd多層膜、CoFe/Pd多層膜、Fe/Pt多層膜等が挙げられる。遷移金属と貴金属との合金としては、CoPt合金、CoPd合金、FePd合金、FePt合金等が挙げられる。希土類金属と遷移金属との合金としては、GdFe合金、GdCoFe合金、GdCo合金、TbFeCo合金等が挙げられる。その他、MnBi合金、Mn/Bi多層膜、PtMnSb合金、Pt/MnSb多層膜等の磁気光学効果の大きな材料を用いることができる。
【0025】
また、磁化自由層3は、入射した光の波長における磁気光学効果が2つの磁化固定層11,12よりも大きい磁性体であることが好ましい。かかる構成により、光変調素子1は、入射した光が磁化自由層3を透過して2つの磁化固定層11,12に到達した場合に、互いに反平行な磁化による旋光角のばらつきを抑制することができる。
【0026】
磁化自由層3の厚さは特に限定されるものではないが、磁化自由層3が薄すぎると保磁力が低下し、一方、厚すぎると垂直磁気異方性が劣化する。したがって、磁化自由層3の厚さは、1.5〜15nmが好ましい。
【0027】
(磁化固定層)
磁化固定層11,12は、同一平面上に分離した2つの磁化固定層、すなわち、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12からなり、この2つの磁化固定層11,12のそれぞれが、1つの磁化自由層3上に、中間層21,22を挟んで積層されている。磁化固定層11,12は、磁化方向が所定方向、すなわち、高さ方向と平行な方向(垂直な方向)の一方の向きに固定されており、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12は、互いに反平行な磁化に固定されている。また、磁化固定層11,12は強磁性材料からなり、磁化自由層3よりも保磁力の大きい磁性体である。
【0028】
第1磁化固定層11および第2磁化固定層12の磁化を、互いに反平行な状態とするためには、磁化固定層11,12にCoFe/TbFeCo等の積層膜を用い、一方の膜厚を厚くしたり、一方の磁化固定層11(12)の形状を変えたりすることで、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12がそれぞれ異なる保磁力HC1,HC2を有するようにすればよい。あるいは、それぞれ異なる材料を用いることで、それぞれ異なる保磁力HC1,HC2を有するようにすればよい。ただし、磁化自由層3の保磁力をHCfとすると、HCf<HC1<HC2とする必要がある。そして、HC2より大きな磁界Hmaxを印加した後、HC1とHC2の中間の大きさとなる負の磁界−Hmid(HC1<Hmid<HC2)を印加することによって、2つの磁化固定層11,12の磁化を反平行な状態に初期設定することができる。なお、この磁界の印加は、電極51,52を形成する前でもよく、形成した後でもよい。
【0029】
磁化固定層11,12に用いる材料としては、希土類金属と遷移金属との合金(例えば、TbFeCo、TbFe、TbCo、DyCo、DyCoFe、GdFe、GdCo、GdFeCo等)の上に遷移金属薄膜を積層したものや、遷移金属/貴金属系多層膜(例えば、Co/Pd多層膜、Fe/Pt多層膜、Co/Pt多層膜等)や、遷移金属と貴金属との合金(例えば、CoPt合金、FePt合金等)等が挙げられる。その他,Co/Ni多層膜、CoNi合金/Pt多層膜等がある。なお、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等、前記貴金属としては、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられる。
【0030】
また、磁化固定層11,12のうちの一方を、Ru等の磁気交換結合膜を備えた多層構造、例えば、CoFe/Ru/CoFe/TbFeCo等とすることが好ましい。このような構成により、前記のHmaxやHmid等の磁界を印加することなく、2つの磁化固定層11,12の磁化を反平行な状態に初期設定することができる。
【0031】
磁化固定層11,12の厚さは特に限定されるものではないが、磁化固定層11,12が薄すぎると保磁力が低下し、一方、厚すぎると垂直磁気異方性が劣化する。したがって、磁化固定層11,12の厚さは、3〜50nmが好ましい。また、第1磁化固定層11と第2磁化固定層12との間隔は、開口率の増大および加工性等の観点から、10〜300nmが好ましい。なお、磁化自由層3の膜厚が通常素子(すなわち、従来の光変調素子)と同じである場合を想定すると、スピン注入磁化反転のスピントルクを与える磁化固定層が、磁化自由層3に対して2枚あると考えられるので、光変調素子1のサイズは、通常素子(例えば、300nm×100nm×2素子)の2倍程度(例えば、300nm×400nm×1素子)まで大きくすることができる。
【0032】
(中間層)
第1中間層21および第2中間層22は、それぞれ、磁化自由層3と第1磁化固定層11との間、および、磁化自由層3と第2磁化固定層12との間に配置される層である。中間層21,22は、磁化自由層3の磁化状態と磁化固定層11,12の磁化状態とを分離するために必要であり、後記する「光変調素子の磁区状態の変移」で説明するとおり、磁化自由層3と磁化固定層11,12との間でスピン偏極した電子をやり取りする際の通路として機能する。このように、中間層21、22はスピンの通路として機能するため、中間層21、22には、スピン軌道相互作用が小さく、スピン拡散長(スピンを保持する距離)の長い材料を用いることが好ましい。
【0033】
光変調素子1がCPP−GMR型の磁気抵抗効果素子の場合には、中間層21、22として、非磁性金属が用いられる。この場合、非磁性金属材料としてはCu、Al、Ag、Au等が好ましく、ZnO等の半導体材料を用いてもよい。また、その厚さは、スピン偏極した電子がスピン状態を十分に保ったまま流れるように、2〜6nmが好ましい。
また、TMR型の磁気抵抗効果素子の場合には、中間層21、22として、マグネシア(MgO)、アルミナ(Al)、MgF等の絶縁材料が用いられる。中間層21、22を絶縁体層とすることにより、光変調素子1の磁気抵抗効果比(MR比)を改善することができ、MR比に反比例する磁化反転電流を低減することができる。また、TMR型の場合には、中間層21、22の厚さは、0.6〜2nm程度が好ましい。
【0034】
以上、本発明に係る光変調素子1の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、以下の構成としてもよい。
【0035】
[第2実施形態]
図1(b)に示すように、本発明に係る光変調素子1Aは、光を透過させる基板7上に形成され、磁化自由層3と、中間層2Aと、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12と、保護層41,42と、がこの順序で積層されたスピン注入磁化反転素子構造を有する。中間層2Aの形態および保護層41,42以外については、前記第1実施形態に係る光変調素子1と同様であるため、ここでは、中間層2Aの形態および保護層41,42について説明する。
【0036】
(中間層の形態)
図1(b)に示すように、中間層2Aについては、TMR型の素子とする場合には、中間層2Aに絶縁材料を用いるため、同一平面上に分離したものとせず、磁化自由層3と同様に1つの中間層2Aとして形成してもよい。このような構成とすることで、後記する光変調器の製造方法において、素子膜をエッチングやミリング加工等により掘り下げる際に、素子膜の中央を中間層2Aの上面または途中まで除去すればよいため、過度なエッチング等が行なわれた場合であっても、磁化自由層3が損傷することを防止できる。
【0037】
(保護層)
保護層41,42は、必要に応じて、それぞれ第1磁化固定層11とX電極51との間、および、第2磁化固定層12とY電極52との間に設けられる層である。保護層41,42は、磁化固定層11,12の酸化や現像処理時のアルカリ性薬品等によるダメージを防止する役割を担う層であり、特に、光変調素子1Aを形成する際の熱処理における磁化固定層11,12の酸化を防止する。また、保護層41,42を構成する材料には、熱処理の際に磁化固定層11,12を構成する材料と反応しない性質が求められる。このような要求を満たす材料として、Ta、Ru等を用いることができる。特にRuは、それ自体が酸化されても抵抗率が増大しないため本発明の光変調素子1Aに用いることが好ましい。なお、ここでは、1つの中間層2Aとした光変調素子1Aについて例示しているが、第1実施形態の光変調素子1においても、保護層41,42を備える構成としてもよい。
【0038】
[その他]
その他、前記各実施形態では、垂直磁化の場合について説明したが、磁化方向が層表面と平行な方向である面内磁化であってもよい。面内磁化の場合には、磁化自由層3および磁化固定層11,12には、面内磁気異方性を有する材料を使用する。なお、磁化固定層11,12のうちの一方を磁気交換結合膜を備えた多層構造とする場合、面内磁化であれば、CoFe/Ru/CoFe/IrMn(IrMnの代わりに、FeMn、PtMn等の反強磁性材料を用いることも可能)等とすることが好ましい。
【0039】
≪空間光変調器≫
次に、本発明の空間光変調器について、ここでは、図1(a)の光変調素子1を用いた場合を例にして説明する。
[第1実施形態]
図2に、空間光変調器10の構成を底面から見た模式図を示す。
図2に示すように、空間光変調器10は、前記記載の光変調素子1を用いたものであり、光を透過させる基板7(図1参照)と、この基板7上に2次元配列された複数の画素4と、複数の画素4から1以上の画素4を選択する画素選択手段(画素選択部94)と、この画素選択手段が選択した画素4に所定の電流を供給する電流供給手段(電源93)と、を備える。画素選択手段および電流供給手段の駆動(動作)は、電流制御手段である電流制御部90により制御されている。そして、空間光変調器10は、基板7を透過して画素選択手段が選択した画素4に入射した光の偏光の向きを特定の方向に変化させて回折して出射する。
以下、各構成について説明する。
【0040】
(基板)
基板7は、光変調素子1、電極51,52を形成するための土台となるものである。空間光変調器10では、後記するように、基板7を透過して光変調素子1に入射した後に回折される光を利用するため、基板7としては、SiO、MgO、サファイア、石英ガラス等の透過性に優れた透明基板を用いる。
【0041】
(画素)
画素4は、空間光変調器10の光の入射面に、2次元アレイ状に配列されて画素アレイ40を構成する。すなわち、画素アレイ40は、平面視で複数のX電極51と、平面視でX電極51と直交する複数のY電極52と、を備え、X電極51とY電極52との交点毎に1つの画素4を設ける。本実施形態では、画素アレイ40は、4行×4列の16個の画素4からなる構成で例示される。
【0042】
画素4は、光変調素子1と、2つの磁化固定層11,12上にそれぞれ接続され、光変調素子1に電流を供給する一対の電極51,52と、を有している。また、光変調素子1の溝部(磁化固定層11,12間、中間層21,22間)や、隣り合うX電極51,51間、光変調素子1,1間、およびY電極52,52間等、すなわち、図2の空白部分は、絶縁部材6で埋められている。
【0043】
〈光変調素子〉
光変調素子1は、X電極51とY電極52との間に一定の電流を供給したときに、光変調素子1に入射した入射光の偏光面をカー効果により一定角度回転させて回折する役割を担う。光変調素子1の平面視での大きさは、一例として、磁化自由層3の幅(横方向の長さ)(ここでの幅とは、2つの磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向、以下同じ)が400nm、長さ(縦方向の長さ)が300nm、あるいは、幅が300nm、長さが400nm等である。また、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12の幅がそれぞれ150nm、第1磁化固定層11と第2磁化固定層12との間隔が100nm等である。ただし、光変調素子1等の大きさは、これに限定されるものではない。
【0044】
また、空間光変調器10では、光変調素子1は、二次元マトリックス状(縦横に一定間隔で二次元配置された状態)に配置されており、ここでは、1個の光変調素子1が1画素となっている。また、光変調素子1の形状は、例えば正方形や長方形(矩形)が挙げられるが、その他の形状であってもよい。光変調素子1同士のピッチは、電極51,52および光変調素子1の成膜技術(半導体製造プロセスが好適に用いられる)の精度に依存し、適宜、定められ、例えば1μm以下である。この光変調素子1は、第1磁化固定層11と第2磁化固定層12が、それぞれ一対の電極であるX電極51とY電極52に接続されて、層面に垂直に電流が供給される(図1参照)。
【0045】
〈X電極およびY電極〉
X電極51は、光変調素子1に電流を供給するための一対の電極のうち、片方の電極であり、Y電極52は、もう一方の電極である。X電極51およびY電極52を構成する材料としては、安価で導電性に優れた銅(Cu)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、金(Au)や白金(Pt)等の貴金属を用いてもよい。そして後記するように、入射偏光は基板7側から光変調素子1に入射し、磁化自由層3で回折されるため、電極51,52は光を透過させる必要がない。そのため、電極51,52を、透明材料で構成する必要はない。電極51,52の幅は、基板7上に形成する光変調素子1の形状に合わせて、適宜、定められる。空間光変調器10では、光変調素子1を縦横に一定間隔で二次元配置する構成としているため、X電極51は、帯状の形状を有し、一定幅かつ一定間隔で第1磁化固定層11上に設けられている。また、Y電極52も、その長手方向がX電極51の長手方向と直交するように、一定間隔で平行に配置されて、第2磁化固定層12上に設けられている。
【0046】
〈絶縁部材〉
絶縁部材6は、X電極51およびY電極52の電極や、光変調素子1,1間を絶縁するための部材である。絶縁部材6としては、SiO2やAl23等の従来公知の絶縁材料を用いればよい。
【0047】
(電源および画素選択部)
電源93および画素選択部94の駆動動作は、電流制御部90により制御される。
〈電流制御部〉
図2に示すように、電流制御部90は、空間光変調器10の駆動動作を制御する。そして、電流制御部90は、画素選択部94(画素選択手段)と、画素選択部94によって制御される電源93(電流供給手段)とを備える。
【0048】
X電極選択部91は、複数のX電極51にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチング素子から構成される。Y電極選択部92もこれと同様に、複数のY電極52にそれぞれ対応して設けられた複数のスイッチング素子から構成される。各スイッチング素子へは電源93から一定電流が供給されており、駆動対象となる光変調素子1にX電極51を介して接続されているスイッチング素子、および、Y電極52を介して接続されているスイッチング素子が、画素選択部94からの指令(動作信号)を受けて導通動作を行うことにより、その光変調素子1に電流が供給される。駆動対象となっている光変調素子1の選択と、この光変調素子1を駆動するためにスイッチング素子の動作制御は、画素選択部94によって行われる。
【0049】
電源93は電流反転機能を備えている。つまり、X電極51に正電流を供給すると共に、Y電極52に負電流を供給することができ、逆に、X電極51に負電流を供給すると共に、Y電極52に正電流を供給することもできるようになっている。この電源93の電流反転機能の制御もまた画素選択部94により行われる。
画素選択部94は、所謂、コンピュータであり、図示しない中央演算装置がROMに格納されたプログラムを実行することにより、X電極選択部91、Y電極選択部92および電源93の動作制御が行われる。なお、X電極選択部91、Y電極選択部92による各選択は、画素選択部94に、人為的に予め所望のプログラムを設定し、このプログラムを実行することで行なわれる。
【0050】
<空間光変調器の動作>
次に、空間光変調器10の動作について、図3を参照して説明する。
まず、光源である光学系OPSから、レーザー光が照射される。この光学系OPSから照射されたレーザー光は様々な偏光成分を含んでいるので、これを基板7の下方の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、画素アレイ40(図2参照)のすべての画素4に所定の入射角で入射する。入射偏光は、それぞれの画素4において、基板7を透過して光変調素子1に入射し、当該光変調素子1の磁化自由層3によるカー効果により、偏光方向が所定角度回転した出射偏光として光変調素子1から出射し、再び基板7を透過して画素4から出射する。それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、偏光子PFoに到達する。偏光子PFoは、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θ旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器PDに入射する。一方、角度−θ旋光した偏光は、偏光子PFoを透過できない。なお、偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
【0051】
このように、角度θ旋光した場合の回折光(出射偏光)は偏光子PFoを通過することができるが、角度−θ旋光した場合の回折光は偏光子PFoを通過することができない状態を作り出すことができる。空間光変調器10は、前記の通りX電極51とY電極52とを選択的に駆動(電流供給)して所望の光変調素子1に電流を流すことができるようになっているため、光変調素子1毎に(画素4毎に)磁化自由層3の磁化の向きを電流の向きや大きさによって制御し、偏光子PFoを通過可能な回折光とするか通過不能な回折光とするかによって、回折光の強弱(コントラスト)を制御することができる。
【0052】
また、磁化自由層3によるカー効果の大きさ(カー回転角の大きさ)によって回折光のコントラストの強弱比が決まる。図3に示すように、角度θ旋光して回折光を透過するか、または、角度−θ旋光して遮光するかの状態の場合、カー回転角(−θ,θ)が一定角度以上ある場合には、高いコントラストを得ることができるが、カー回転角が小さい場合には、低コントラストとなる。なお、図3のように磁化自由層3の磁化の向きが下向きである場合に光検出器の出力が「明状態」となり、逆に磁化自由層3の磁化の向きが上向きである場合には「暗状態」となる。
【0053】
<光変調素子の磁区状態の変移>
次に、光変調素子1の磁区状態の変移について、図4を参照して説明する。
図4(a)に示すように、初期状態として、磁化の方向は、磁化自由層3では下向き、第1磁化固定層11では上向き、第2磁化固定層12では下向きであるとする。
【0054】
この状態から、図4(b)に示すように、X電極51を負、Y電極52を正としてパルス電流を供給すると、X電極51から注入された電子において、上向きスピンの電子d1は第1磁化固定層11を通過するが、下向きスピンの電子d2は第1磁化固定層11を通過することができない。すなわち、X電極51から注入された電子は第1磁化固定層11によって弁別され、第1磁化固定層11の内部で第1磁化固定層11の磁化方向にスピンを揃え(スピン偏極)、そのスピン偏極した電子(上向きスピンの電子d1)が第1中間層21内をスピンを保持したまま通過し、磁化自由層3に注入される。そして、磁化自由層3の内部では、磁化自由層3の磁化方向を決定づける内部電子と注入されたスピン偏極電子との相互作用により、局所的なスピントルクという力が生じて磁化自由層3内の磁化方向を決定づける内部電子のスピンを反転させる。そのために、結果として第1磁化固定層11の直下付近の磁化自由層3から磁化反転が生ずる。
【0055】
同時に、第2磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3内の電子において、下向きスピンの電子d2は第2磁化固定層12を通過するが、上向きスピンの電子d1は第2磁化固定層12を通過することができない。すなわち、磁化自由層3内の電子は、下向きスピンの電子d2のみが第2磁化固定層12内をスピンを保持したまま通過することで第2磁化固定層12によって弁別される。これにより、第2磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3には上向きスピンの電子d1が留まり、この上向きスピンによるトルクのため、第2磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3からも磁化反転が生じる。このように、適当な幅のパルス電流を供給することにより、磁化自由層3の磁化が反転し、結果的に図4(b)から図4(c)の状態に移行する。
【0056】
そして、図4(c)に示すように、この状態では、磁化自由層3の磁化の方向は、上向きとなる。この状態から、図4(d)に示すように、X電極51を正、Y電極52を負としてパルス電流を供給すると、第2磁化固定層12によって弁別された下向きスピンの電子d2が磁化自由層3に注入され、下向きスピンによるトルクのため、第2磁化固定層12の直下付近の磁化自由層3から磁化反転が生じる。同時に、第1磁化固定層11によって弁別された下向きスピンの電子d2の下向きスピンによるトルクのため、第1磁化固定層11の直下付近の磁化自由層3からも磁化反転が生じる。このように、適当な幅のパルス電流を供給することにより、磁化自由層3の磁化方向が反転し、結果的に図4(d)から図4(a)の状態に移行する。
【0057】
このように、磁化自由層3の磁化の向きは、パルス電流を流す向きによって制御することができるため、パルス電流によって回折する光の偏光面を制御する光変調素子1として動作させることができる。なお、パルス電流ではなく、直流電流であってもよい。また、ここでは電流を供給するものとして説明したが、電圧を印加するものであってもよい。なお、パルス供給後の磁化の向きはそのまま保持され、別途電流を流す必要はない。すなわち、本発明の光変調素子1は自らメモリ機能を有する。
そして、2つの磁化固定層11,12を備えることで、スピン注入の効率を向上させることができ、また、光の入射面(出射面)の面積を広くしても磁化自由層3の磁化反転が効率よく起きるため、画素4の開口率を増大させることができる。
【0058】
<光変調器の製造方法>
次に、空間光変調器10の製造方法の一例について、図1、2を適宜参照して説明する。なお、ここでは、保護層41,42を設けない場合について説明する。
【0059】
まず、基板7上に磁化自由層3、中間層21,22、磁化固定層11,12を構成するための各層膜をこの順に、スパッタリング法(例えば、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング)等、公知の技術を用いて、真空中で一貫して製膜し、素子膜を形成する。また、基板7上に形成された素子膜に対して、必要に応じて、熱処理を施す。この熱処理は、光変調素子1の特性を向上させ、また、後に行われるフォトリソグラフィプロセス中における光変調素子1の特性変化を抑制するために行われる。熱処理条件としては、例えば190〜500℃で1時間の真空熱処理を行う。
【0060】
次に、素子膜の層上に、画素サイズのレジストを形成し、レジストパターンを形成する。レジストの形成は、光変調素子1のサイズに応じて所定サイズのレジストパターンをメサパターンとなるように、EB(電子ビーム)露光法等により形成する。そして、レジストパターンのレジストが形成されていない部位について、素子膜の膜厚方向に、基板7の上面まで(表面が露出するまで)除去する。除去については、エッチング、あるいはArイオン等を用いたイオンビームミリング法によるミリング加工等により行なうことができる。
【0061】
その後、レジストを剥離せずに、アルミナや酸化珪素等の絶縁材料(絶縁部材6)を全面に堆積し、ミリング加工等により形成された溝を絶縁部材6で埋める。絶縁部材6の形成は、反応性スパッタリング法やCVD法、ゾル−ゲル法等により行うことができる。溝に堆積する絶縁部材6の厚さは、溝深さと同程度か、それ以上厚くする。また、レジストを除去する前に堆積するため、レジスト上にも絶縁部材6が堆積する。
【0062】
絶縁部材6を堆積した後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフ(レジストの剥離)する。あるいは、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により、レジストを除去してもよい。なお、CMP処理等を行う場合には、最上部に形成されている磁化固定層11,12の厚さが所定値となるように、成膜時に研磨厚さ分だけ厚く形成しておいてもよい。
【0063】
次に、素子膜の中央部を分断するような孔の空いたレジストパターンを形成し、ミリング加工等により素子膜の中央を磁化自由層3の上面まで除去するか(図1(a)参照)、あるいは、中間層2Aの上面または途中まで除去する(図1(b)参照)。その後、レジストを剥離せずに、アルミナや酸化珪素等の絶縁材料(絶縁部材6)を再び全面に堆積し、前記と同様の方法でミリング加工等により形成された溝を絶縁部材6で埋める。溝に堆積する絶縁部材6の厚さは、溝深さと同程度か、それ以上厚くする。また、レジストを除去する前に堆積するため、レジスト上にも絶縁部材6が堆積する。絶縁部材6を堆積した後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフする。あるいは、CMP法により、レジストを除去してもよい。
【0064】
レジストを除去した後、第1磁化固定層11上にX電極51、第2磁化固定層12上にY電極52を、これらが直交するように所定間隔で形成する。この電極の形成は、素子膜の形成方法と同様にして行うことができる。そして、X電極51間、Y電極52間には、絶縁部材6が充填される。
【0065】
以上、本発明に係る空間光変調器10の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、以下の構成としてもよい。
【0066】
[第2実施形態]
図5、6に示すように、空間光変調器10Aは、配列された、2つの磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの画素4において、光変調素子1の2つを、1つの同じY電極52に接続される2つの光変調素子1の第2磁化固定層12を一体として1つの一体型素子15としたものである。具体的には、図6に示すように、1つの光変調素子1の第2磁化固定層12と、この光変調素子1に隣り合う光変調素子1の第2磁化固定層12とが1つの磁化固定層Fとして構成されている。その他の構成については、前記第1実施形態の空間光変調器10と同様である。
【0067】
すなわち、一体型素子15は、磁化固定層が、同一平面上に分離した3つの磁化固定層11,F,11からなり、この3つの磁化固定層11,F,11のそれぞれが、同一平面上に分離した2つの磁化自由層3,3上に、中間層22,22を挟んで積層されたものである。そして、3つの磁化固定層11,F,11のうち中央に位置する磁化固定層Fが2つの磁化自由層3,3を跨いで積層され、他の2つの磁化固定層がそれぞれ2つの磁化自由層3,3のうちのいずれか一方に積層されている。そして、3つの磁化固定層11,F,11は、中央に位置する1つの磁化固定層Fが他の2つの磁化固定層11,11とは反平行な磁化に固定され、かつ2つの磁化自由層3,3よりも保磁力の大きい磁性体である。
【0068】
このような構成とすることで、光変調素子1における第1磁化固定層11と第2磁化固定層12の大きさを異なるものとすることができ、それぞれ異なる保磁力とすることができる。そのため、第1磁化固定層11および第2磁化固定層12の磁化を、容易に反平行の状態に固定することができる。
【0069】
次に、空間光変調器10Aの製造方法について、図7を参照して説明する。なお、前記した空間光変調器10の製造方法と同様の事項については、適宜説明を省略する。
まず、基板7上に磁化自由層用膜301、中間層用膜302、磁化固定層用膜303、第1電極層用膜304を積層した素子膜Aを形成する(図7(a))。次に、レジストBにより素子膜Aの中央部を分断するような孔の空いたレジストパターンを形成する(図7(b))。その後、素子膜Aの中央を基板7の上面まで除去し、溝を挟んで、2つの素子膜Aa,Abとする(図7(c))。その後、レジストBを剥離せずに、絶縁部材6を全面に堆積し、形成された溝を中間層用膜302の上面の高さまで絶縁部材6で埋め、さらに、磁化固定層用膜303を全面に積層し、形成された溝を、中間層用膜302上の磁化固定層用膜303の上面の高さまで磁化固定層用膜303で埋める(図7(d))。これにより、磁化固定層用膜303を溝の部分でつなげて一体膜303aとする。なお、これらの際、レジストB上にも絶縁部材6が堆積し、さらに、この絶縁部材6上にも磁化固定層用膜303が堆積する(図7(d))。
【0070】
その後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフする(図7(e))。次に、素子膜Aa,Abのそれぞれの中央部を分断するような孔の空いたレジストパターンを形成し(図7(f))、それぞれの素子膜Aa,Abのそれぞれの中央を磁化自由層用膜301の上面まで除去する(図7(g))。次に、レジストBを剥離せずに、絶縁部材6を再び全面に堆積し、形成された溝を絶縁部材6で埋め、その後、レジスト剥離液に浸して、リフトオフする(図7(h))。次に、一体膜303a上の第1電極層用膜304上、および、一体膜303a上の溝の部分に第2電極層用膜305を積層する(図7(i))。そしてこの第2電極層用膜305とこれに接する第1電極層用膜304(一体膜303a上の第1電極層用膜304)が一体となってY電極52を形成する。また、紙面上、左右両端の第1電極層用膜304,304がX電極51となる。
【0071】
[第3実施形態]
図8に示すように、空間光変調器10Bは、1つの画素4が3つの光変調素子1から構成されており、これらの光変調素子1は、共通の電極51,52を備えている。その他の構成については、前記第1実施形態の空間光変調器10と同様である。
【0072】
このような構成とすることで、複数の光変調素子1を1つの画素4とするため、画素4の多段階表示を可能とすることができる。すなわち、1つの光変調素子1で1画素を構成する場合、1画素は磁化方向の向きに対応した2状態しか取ることができず、1画素の光の階調が例えば「1」で示す明状態と「0」で示す暗状態との2階調となる。しかし、3つの光変調素子1で1画素を構成する場合には、明状態と暗状態との間にある状態、すなわち、明状態よりも暗く、暗状態よりも明るい状態である中間状態を作り出すことができる。具体的には、3つの光変調素子1の磁化の向きが、それぞれ、(1)「上,上,上」、(2)「上,上,下」、「上,下,上」、または、「下,上,上」、(3)「上,下,下」、「下,上,下」、または、「下,下,上」、(4)「下,下,下」である4状態を形成することができる。この4状態に応じて、明暗状態も4段階に変化させることができる。このように、1画素が3つの光変調素子1を備えると、各画素4を、光変調素子1に流す電流の向きや大きさにしたがって、明状態から暗状態(又は暗状態から明状態)へと段階的に変化させることで、複数の異なる中間状態を作り出すことが可能となる。そのため、例えば、この空間光変調器10Bを用いて映像や画像を表示する場合に、精密な階調表現が可能になる。
【0073】
[その他]
その他、前記各実施形態においては、1つの画素4が、1つまたは3つの光変調素子1を備える場合について説明したが、1つの画素4が備える光変調素子1は、2つでも、4つ以上であってもよい。なお、2つの場合は、前記した中間状態は1つとなる。すなわち、複数の画素4のそれぞれが複数の光変調素子1を有するものとしてもよい。
【0074】
また、第2実施形態では、1つの同じY電極52に接続される2つの光変調素子1の第2磁化固定層12を一体として1つの一体型素子15としたが、1つの同じX電極51に接続される各光変調素子1の第1磁化固定層11を一体として1つの一体型素子とし、Y電極52に接続される光変調素子1の第2磁化固定層12を分離する構造であってもよい。なお、第1磁化固定層11同士と第2磁化固定層12同士をともに一体とすると、マトリックス状に配置された電極51,52で任意の1画素を選択できなくなるため、このような構成とはしない。すなわち、配列された、2つの磁化固定層11,12が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの画素4において、光変調素子1の2つを、2つの電極51,52のうちのいずれか1つの同じ電極(X電極51またはY電極52)に接続される2つの光変調素子1の磁化固定層(第1磁化固定層11または第2磁化固定層12)を一体として1つの一体型素子とする。また、光変調素子の一部のみを一体型素子としてもよい。
【0075】
さらには、光変調素子1を磁気抵抗効果素子として、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に用いてもよい。なお、前記各実施形態では、図1(a)に示す光変調素子1を例にして説明したが、図1(b)に示す光変調素子1Aを用いたもので空間光変調器を構成してもよく、その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更した光変調素子を用いたものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1,1A 光変調素子
2A 中間層
3 磁化自由層
4 画素
6 絶縁部材
7 基板
10,10A,10B 空間光変調器
11 第1磁化固定層
12 第2磁化固定層
15 一体型素子
21 第1中間層
22 第2中間層
40 画素アレイ
41,42 保護層
51 X電極(電極)
52 Y電極(電極)
90 電流制御部(電流制御手段)
91 X電極選択部
92 Y電極選択部
93 電源(電流供給手段)
94 画素選択部(画素選択手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させる基板上に形成され、磁化自由層と、中間層と、磁化固定層と、がこの順序で積層されたスピン注入磁化反転素子構造を有し、前記磁化固定層上に接続した一対の電極間に電流が供給され、前記磁化自由層の磁化方向を変化させることによって前記基板を透過して入射した光をその偏光方向を変化させて回折して出射する光変調素子であって、
前記磁化固定層は、同一平面上に分離した2つの磁化固定層からなり、
前記2つの磁化固定層は、互いに反平行な磁化に固定され、かつ前記磁化自由層よりも保磁力の大きい磁性体であることを特徴とする光変調素子。
【請求項2】
前記2つの磁化固定層のうちの一方は、磁気交換結合膜を備えた多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光変調素子を用いた空間光変調器であって、
光を透過させる基板と、この基板上に2次元配列された複数の画素と、この複数の画素から1以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備え、
前記画素は、前記光変調素子と、前記2つの磁化固定層上にそれぞれ接続され、前記光変調素子に電流を供給する一対の前記電極と、を有することを特徴とする空間光変調器。
【請求項4】
前記配列された、前記2つの磁化固定層が同一平面上に並んだ方向に隣り合う2つの画素において、前記光変調素子の2つを、1つの同じ電極に接続される前記2つの光変調素子の磁化固定層を一体として1つの一体型素子としたことを特徴とする請求項3に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記複数の画素のそれぞれが複数の光変調素子を有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の空間光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−78579(P2012−78579A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224007(P2010−224007)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「革新的三次元映像表示のためのデバイス技術」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】