説明

内燃機関の制御装置

【課題】 良好な判定精度を維持したまま排ガスの悪化に基づいて触媒故障を判定でき、もって、排ガスに関する法規制の強化にも確実に対応できる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 上流側及び下流側のO2センサの反転周波数比に基づいて行われる三元触媒の故障判定に先行してO2センサの反転周波数比が増大し始めた時点で劣化判定を行って低NOx制御を実行する。低NOx制御が行なわれることにより、三元触媒のNOx浄化に対する劣化を補償し三元触媒からのNOx排出量を規制値内に収めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気系に排ガス浄化用の三元触媒を設けた内燃機関の制御装置に係り、詳しくは触媒上流側及び下流側に設置した空燃比検出手段の出力に基づいて触媒の故障判定を行う故障判定機能を有する内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用の内燃機関の排気系には排ガス浄化用の三元触媒が設けられており、排ガスを理論空燃比近傍にフィードバック制御することにより、三元触媒に炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)の酸化作用及び窒素酸化物(NOx)の還元作用を発揮させ、これにより排ガス中の有害成分を低減している。この種の三元触媒は使用に伴って次第に劣化(故障)して浄化効率が低下するため、故障した触媒の使用を継続したときの大気中への有害成分の放出を防止すべく、例えば北米のOBD(On Board Diagnosis)に関する法規制では、触媒故障を検出・表示して修理を促す故障判定機能を車両に装備することが義務付けられている。
【0003】
そこで、触媒上流側及び下流側に設置したO2センサの出力に基づいて触媒の故障判定を行う故障判定装置が実施されている。当該故障判定装置は、フィードバック制御により排ガスの空燃比が理論空燃比近傍を境界として短い周期で変動し、その空燃比変動が触媒下流側では触媒が有する酸素ストレージ能力により抑制される現象を利用したものである。即ち、触媒が十分な浄化能力を維持しているときには、酸素ストレージ能力により触媒下流側では空燃比変動の振幅と共にリッチとリーンとの間での反転周波数が低下し、一方、触媒の劣化に伴って酸素ストレージ能力が低下すると、触媒下流側での空燃比変動の振幅と共に反転周波数が増加するため、反転周波数比(下流側O2センサの反転周波数/上流側O2センサの反転周波数≦1.0)が予め設定した故障判定値を越えた時点で故障判定を下している。
【0004】
一方、触媒が故障したときの有害成分の排出を抑制するための対策が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1に開示された技術では、例えば上記手法等を用いて触媒の故障判定が行われたときに、可変動弁機構により内燃機関の排気弁の閉弁時期を進角させると共に吸気弁の開弁時期を遅角させ、これにより筒内に排気を残留させてNOx低減を図っている。
【特許文献1】特開2001−263100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は触媒が故障した時点での対策に過ぎないため、その時点までは何ら対策が講じられずに有害成分を大気中に排出してしまうという問題があった。
更に、触媒の故障判定の手法自体についても、特にNOxに関する近年の規制強化に十分に対応できるとは言い難かった。図6は触媒劣化過程におけるNOx排出量に対するO2センサ反転周波数比を示す図であり、例えば反転周波数比と比較するための故障判定値を0.8に設定した場合、実線で示す出力特性のポイントaで故障判定が下されるため、現行OBD規制値には対応できるものの、次期OBD規制値に対しては規制値を越える以前に故障判定を下すことは不可能であった。
【0006】
そこで、例えば故障判定値を0.4まで減少させて、NOx排出量が次期OBD規制値を越える以前のポイントbで故障判定を下す対策も考えられるが、この場合には故障判定の精度が低下するため誤判定が生じ、また、誤判定が生じなくともHC浄化に対しては十分余裕があるもののNOx排出量が規制値を越えてしまうため、貴金属を用いた高価な三元触媒を頻繁に交換する等の別の問題が生じてしまう。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、触媒の故障判定を下す以前においてもNOxの排出を抑制できると共に、次期OBD規制値を越える以前のポイントCで良好な判定精度を維持したまま触媒の故障を判定でき、もって、排ガスに関する法規制の強化にも確実に対応することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、内燃機関の三元触媒の上流側及び下流側に設置した空燃比検出手段の出力に基づいて触媒の故障判定を行う故障判定手段と、故障判定手段による故障判定以前の段階で触媒の劣化を判定する劣化判定手段と、劣化判定手段により触媒の劣化が判定されたときに、内燃機関をNOx排出量を低減した運転状態に制御する低NOx制御手段とを備えたものである。
【0009】
従って、故障判定に先行して劣化判定手段により触媒の劣化が判定されると、低NOx制御手段により内燃機関からのNOx排出量を低減した運転状態に内燃機関が制御され、触媒の劣化による浄化性能の低下を補償し、触媒からのNOx排出量の増加を抑制する。
又、微小な排ガス悪化レベルでの故障判定を目的として、例えば反転周波数比と比較するための故障判定値を減少させる等の対策を実施する必要がないため、この対策により判定精度が低下して誤判定を生じる虞がない。更に、故障判定に先行して劣化判定を下した時点でNOx排出量を低減する制御が開始されるため、故障判定を下す以前においても触媒からのNOxの排出が抑制される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、故障判定手段が、反転周波数比が所定の故障判定値を越えたときに触媒の故障判定を行い、劣化判定手段が、反転周波数比が故障判定値より小さい値に設定された劣化判定値を越えたときに触媒の劣化判定を行うものである。
従って、まず、上流側及び下流側の反転周波数比が劣化判定値を越えて劣化判定が下され、この時点で内燃機関がNOx排出量を低減した運転状態で制御され、その後に反転周波数比が故障判定値を越えて故障判定が下される。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1において、故障判定手段が、所定の中立値を基準として正側及び負側に設定された故障判定用の反転基準値を下流側の空燃比検出手段の出力が横切った回数を反転周波数として求め、反転周波数と上流側の反転周波数との比に基づいて故障判定を行い、劣化判定手段が、故障判定用の反転基準値より中立値側に設定された劣化判定用の反転基準値を下流側の空燃比検出手段の出力が横切った回数を反転周波数として求め、反転周波数と上流側の反転周波数との比に基づいて劣化判定を行うものである。
【0012】
従って、下流側の空燃比検出手段の出力が故障判定用の反転基準値を横切る頻度より劣化判定用の反転基準値を横切る頻度の方が高いため、故障判定用の反転基準値に基づく反転周波数に先行して劣化判定用の反転基準値に基づく反転周波数が増加し、これらの反転周波数から求めた反転周波数比に基づいて、まず劣化判定が下され、次いで故障判定が下される。
【0013】
請求項3の好ましい態様として、上記中立値として下流側の空燃比検出手段の出力平均値を設定し、この出力平均値に基づいて故障判定用及び劣化判定用の反転基準値を設定することが望ましい。
三元触媒の下流側の空燃比は比較的大きな周期でリッチ側やリーン側にシフトする空燃比の揺らぎが発生するが、このように構成すれば、空燃比の揺らぎに追従して下流側の空燃比検出手段の出力平均値と共に反転基準値もシフトするため、揺らぎに影響されることなく正確な反転周波数の計測、ひいては正確な劣化判定や故障判定を実現できる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、低NOx制御手段が、劣化判定手段により判定された触媒の劣化度合に応じて制御量を変更するものである。
従って、触媒の劣化度合に応じてNOx排出量を低減する制御が行なわれる。
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、低NOx制御手段が、内燃機関の空燃比のリッチ化、EGR量の増加、点火時期のリタードの内の少なくとも1つを実行するものである。
【0015】
従って、空燃比のリッチ化、EGR量の増加、点火時期のリタードにより触媒からのNOx排出量の増加が抑制され、この運転状態で触媒の故障判定が行われる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の内燃機関の制御装置によれば、故障判定以前の触媒の劣化判定を下した段階で内燃機関からのNOx排出量を低減した運転状態に内燃機関を制御し、その後さらに触媒が劣化したときに故障判定を行うようにしたため、触媒の故障判定を下す以前においてもNOxの排出を抑制できると共に、良好な判定精度を維持したままより微小な排ガス劣化レベルにおいて触媒劣化や故障を判定でき、もって、排ガスに関する法規制の強化にも確実に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した内燃機関の制御装置の一実施例を説明する。
図1は本実施例の内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。内燃機関1の各気筒の燃焼室2は燃料噴射弁3を備えた吸気マニホールド4を介して共通の吸気通路5に接続され、吸気通路5には上流側からエアクリーナ6、エアフローセンサ7、スロットルバルブ8、ISCV(アイドルスピードコントロールバルブ)9が設けられている。又、各気筒の燃焼室2は排気マニホールド11を介して共通の排気通路12に接続され、排気通路12には三元触媒13及び図示しない消音器が接続されている。各気筒の燃焼室2の上部には点火プラグ14が配設され、各点火プラグ14には点火コイル15で発生した高電圧が供給される。
【0018】
そして、吸気通路5に導入された吸入空気はスロットルバルブ8又はISCV9の開度に応じて流量調整された後に吸気マニホールド4により各気筒に分配され、燃料噴射弁3から噴射された燃料と共に混合気として内燃機関の吸気行程で燃焼室2内に導入される。導入された混合気は圧縮上死点近傍で点火プラグ14により点火されて燃焼により機関トルクを発生させ、各気筒で燃焼後の排ガスは排気マニホールド11により集合して排気通路12を経て三元触媒13及び消音器を流通した後に大気中に排出される。
【0019】
排気通路12の三元触媒13の上流側には上流側O2センサ16が設けられ、三元触媒13の下流側には下流側O2センサ17が設けられ、これらのO2センサ16,17は三元触媒13の通過前及び通過後の排気ガスの酸素濃度に応じた電圧Vf,Vrを出力する。
一方、排気通路12と吸気通路5とはEGR通路18により接続され、このEGR通路18にはEGR弁19が設けられている。燃焼室2から排気通路12に排出された排ガスの一部は、EGR弁19の開度に応じてEGR通路18を経て吸気通路5側に還流される。
【0020】
車室内には、図示しない入出力装置、多数の制御プログラムを内蔵した記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU(電子コントロールユニット)20が設置されている。ECU20の入力側には上記エアフローセンサ7やO2センサ16,17が接続されると共に、機関回転速度Neを検出する回転速度センサ21、冷却水温TWを検出する水温センサ22等の各種センサ類が接続され、ECU20の出力側には上記燃料噴射弁3、ISCV9、点火コイル15、EGR弁19が接続されると共に、運転席に設けられた警告灯23等の各種デバイス類が接続されている。
【0021】
ECU20は各センサからの検出情報に基づいて燃料噴射弁3、ISCV9、点火コイル15、EGR弁19等を駆動制御して内燃機関1を運転する。燃料噴射制御では上流側O2センサ16の活性完了、機関回転速度Neや機関負荷が所定値以下等の所定条件が成立すると、ECU20は上流側O2センサ16の出力電圧Vfに基づくフィードバック制御を行う。このフィードバック制御では、理論空燃比(14.7)に対応する出力電圧Vfを目標値として上流側O2センサ16の出力電圧Vfがフィードバックされ、これにより内燃機関1の排ガスの空燃比が理論空燃比近傍の三元触媒13のウインドウ内に保持されて良好な浄化効率が発揮される。
【0022】
そして、フィードバック制御の結果、排ガスの空燃比は理論空燃比近傍を境界として短い周期で変動し、この空燃比変動は、排ガスが三元触媒13を流通する際に三元触媒13が有する酸素ストレージ能力により抑制される。ECU20は、この現象を利用して三元触媒13の劣化状況を段階的に判定し、劣化の兆候があるときには内燃機関からのNOx排出量の抑制を目的とした低NOx制御を実行し、更に劣化が進行してNOx排出量又はHC排出量が法規に基づく規制値に達したときには故障表示を行って修理を促しており、以下、これらの処理について詳述する。
【0023】
ここで、説明の便宜上、まず、三元触媒13に劣化の兆候が現れず正常な浄化効率を奏している場合の制御状況を説明し、その後に劣化の兆候が現れ触媒からのNOx排出量が増加し始めたとき(以下、劣化判定時と称する)の制御状況、更に劣化が進行して低NOx制御を実行しているにも関わらずNOx排出量が規制値に達した又はHC排出量が規制値に達したとき(以下、故障判定時と称する)の制御状況を順次述べるものとする。
【0024】
ECU20は内燃機関1が始動されると図2,3に示す触媒故障判定ルーチンを実行し、まず、ステップS2で判定完了フラグF1がセット(=1)されているか否かを判定する。当該判定完了フラグF1は三元触媒13の故障判定の完了を意味するものであり、車両のイグニションオフと共にリセット(=0)されるようになっている。従って、機関始動当初は判定完了フラグF1がリセットされているため、ECU20は故障判定が完了していないとしてNo(否定)の判定を下し、ステップS4に移行する。
【0025】
ステップS4では低NOx制御フラグF2がセット(=1)されているか否かを判定する。当該低NOx制御フラグF2は低NOx制御の実行を指令するためのものであり、その設定内容は車両のイグニションスイッチがオフされてもバッテリバックアップされるようになっている。従って、ステップS4では前回運転時での低NOx制御フラグF2の設定内容が判定されることになり、ここでは、三元触媒13が正常状態であることを受けて低NOx制御フラグF2がリセットされているため、Noの判定を下してステップS6に移行する。
【0026】
ステップS6では、触媒劣化・故障判定の実行条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、燃料噴射制御においてフィードバック制御を実行中であること、機関回転速度Neや機関負荷が所定範囲内で内燃機関1の運転が安定していること等が定められており、何れかの実行条件が成立しないときにはステップS6でNoの判定を下して一旦ルーチンを終了する。
【0027】
そして、全ての実行条件が成立してステップS6の判定がYes(肯定)になると、ECU20はステップS8に移行して上流側反転周波数ffを算出する。具体的な算出方法としては、所定時間(例えば、10sec)内に上流側O2センサ16の出力電圧Vfが閾値V0(例えば、0.5V)を横切った回数を求め、この処理を所定回数(例えば、7回)繰返して平均化した値を上流側反転周波数ffとする。
【0028】
続くステップS10では下流側O2センサ17の出力電圧Vrの平均値Vraveを下式(1)に従って算出する。
Vrave=a×Vrave(n-1)+(1−a)×Vr……(1)
ここに、Vrave(n-1)は前回の平均値、Vrは下流側O2センサ17の今回の出力電圧、aはフィルタ定数を示す。
【0029】
三元触媒13の上流側に対して下流側では、三元触媒13が奏する酸素ストレージ能力により空燃比変動が抑制される一方、比較的大きな周期で空燃比がリッチ側やリーン側にシフトする、所謂空燃比の揺らぎが発生するが、算出された平均値Vraveも揺らぎに追従してシフトすることになる。尚、フィルタ定数aを変更することで、実際の空燃比に対して平均値Vraveが追従してシフトするときの精度や応答性を適宜調整できる。
【0030】
その後、ECU20はステップS12に移行して劣化判定用の反転基準値TaH,TaLを下式(2),(3)により算出する。
TaH=Vrave+α……(2)
TaL=Vrave−α……(3)
ここに、αはヒステリシス定数であり、後述する故障判定用のヒステリシス定数βに比較すると、より早期の劣化判定を目的として小さな値(例えば、0.078V)に設定されている。
【0031】
次いで、ECU20はステップS14に移行して、前述した上流側反転周波数ffの算出に適用した所定時間内に、下流側O2センサ17の出力電圧Vrが正側及び負側の反転基準値TaH,TaLを横切った回数を求め、この処理を上流側反転周波数ffと同じく所定回数繰返し、平均化した値を下流側反転周波数frとする。
図4のタイムチャート中に●印で示すように、出力電圧Vrが反転基準値TaH,TaLを横切る毎に下流側反転周波数frが計測されるが、触媒下流側の空燃比に揺らぎが生じたときには、それに追従して平均値Vraveと共に反転基準値TaH,TaLもリッチ側やリーン側にシフトするため、下流側反転周波数frは空燃比の揺らぎに影響されることなく正確に計測される。
【0032】
更に、ECU20はステップS16で上流側反転周波数ffと下流側反転周波数frとから反転周波数比fr/ffを算出し、算出した反転周波数比fr/ffが劣化判定値Taより大きいか否かを判定する(劣化判定手段)。上記ヒステリシス定数αと同様の趣旨で、劣化判定値Taは後述する故障判定値Tbに比較すると、より早期の劣化判定を目的として小さな値(例えば、0.2)に設定されている。
【0033】
三元触媒13に劣化の兆候がないときには下流側O2センサ17の出力電圧Vrがほとんど変動しない若しくは変動が微小であることから、反転周波数比fr/ffは劣化判定値Taより小さな値に算出され、ステップS16ではNoの判定が下される。このとき、ECU20はステップS18に移行して低NOx制御フラグF2をリセットした後、ステップS24で判定完了フラグF1をセットしてルーチンを終了する。
【0034】
従って、再び触媒故障判定ルーチンが実行されるとステップS2でYesの判定が下されて直ちにルーチンが終了するため、以上の劣化判定は機関始動時に1回のみ実施されると共に、この場合には低NOx制御の実行が保留されて、通常通りの燃料噴射制御、EGR制御、点火時期制御が行われる。更に一旦内燃機関1が停止されて再び始動されたときには触媒故障判定ルーチンが実行されるが、三元触媒13が正常である限り低NOx制御フラグF2がリセット状態に保持されるため、ステップS6以降では上記と同様の処理が実施される。
【0035】
そして、三元触媒13の劣化進行によりステップS16の判定がYesになると、三元触媒からのNOx排出量が増加し始めたと判定しECU20はステップS16からステップS20に移行して低NOx制御フラグF2をセットし、続くステップS22でこのときの反転周波数比fr/ffを現在の三元触媒13の劣化指標として記憶装置に記憶し、更にステップS24で判定完了フラグF1をセットした後にルーチンを終了する。記憶された反転周波数比fr/ffは低NOx制御フラグF2と同様にイグニションスイッチがオフされてもバッテリバックアップされるようになっている。従って、再び内燃機関1が始動されると、ECU20はステップS4でYesの判定を下してステップS32に移行する。
【0036】
尚、上記のように劣化判定は必ずしも1回に限る必要はなく、例えば内燃機関1の運転中に継続して劣化判定を繰返すと共に、過去の値より大きな反転周波数比fr/ffが算出されたときには、ステップS22で記憶装置に記憶されている値を最新値に更新するようにしてもよい。
ステップS32では、別ルーチンで行われる燃料噴射制御、EGR制御、点火時期制御の各制御を通常制御から低NOx制御に切換え、内燃機関からのNOx排出量を抑制し三元触媒のNOx浄化の劣化を補償する(低NOx制御手段)。具体的には、前回運転時に記憶された反転周波数比fr/ffに基づき、図5に示す変換マップから各制御毎に対応して補正係数Kcc(0〜1.0)をそれぞれ算出する。各制御では、通常時の制御量のベース値を算出するためのマップと共に低NOx制御用のベース値を決定するためのマップが予め設定されており、算出した補正係数Kccに基づいて両マップ間で補完処理を行って補正係数Kccに対応するベース値を算出し、このベース値に各種補正を行って最終的な制御量を決定して制御に適用する。
【0037】
端的に述べると、低NOx制御での補正係数Kccに基づくベース値は、通常時のベース値に比較して排ガス中のNOxを低減する方向に設定されるが、以下、具体的なベース値の設定状況を各制御毎に例示する。
例えば燃料噴射制御では、空燃比フィードバックの積分ゲインを通常制御時のベース値から補正係数Kccに応じて増減したり、或いは上流側O2センサ16の反転レベルの基準値を通常制御時のベース値から補正係数Kccに応じてリッチ側に変更して(例えば、0.5V→0.6V)リーン判定し易くしたりし、これにより空燃比をリッチ化してNOx低減を図る。
【0038】
尚、空燃比のリッチ化によるNOx低減作用は三元触媒13のNOx還元作用によるものであるため、機関が始動されて三元触媒13の活性化後にリッチ化を開始することが望ましい。
又、上流側O2センサ16の劣化補償等を目的として、下流側O2センサ17の出力電圧Vrと目標値(例えば、理論空燃比に対応する出力電圧Vr)との差に基づいて上流側O2センサ16によるフィードバック制御の目標値を補正する制御を実施している場合には、下流側O2センサ17側の目標値を通常制御時のベース値から補正係数Kccに応じてリッチ側に変更することにより空燃比をリッチ化してもよい。
【0039】
EGR制御では、所定のEGRマップから求められるEGR弁19の開度を通常制御時のベース値から補正係数Kccに応じて開側に変更し、これによりEGR還流量を増加してNOx低減を図る。加えて、EGRの還流をより低水温域で開始するようにしてもよい。
点火時期制御では、所定の点火時期マップから求められる点火時期を通常制御時のベース値から補正係数Kccに応じて遅角側に変更し、これにより点火時期リタードを行ってNOx低減を図る。
【0040】
これらのEGR増量や点火リタードによるNOx低減作用は燃焼温度の低下によるものであり、三元触媒13の活性状態に関係なく得られるため、機関始動当初から実行可能である。
尚、三元触媒13の劣化判定の直後から低NOx制御を開始することなく次回始動時まで待機しているのは、機関運転中に低NOx制御への切換を行うと出力特性の変化により運転者に違和感を与える虞がある一方、触媒劣化の進行は比較的緩やかで特別に緊急な対処を要しないことを考慮した結果であり、次回の始動当初から低NOx制御を開始することで出力特性の変化による運転者の違和感が防止される。但し、低NOx制御の内容によっては出力特性がほとんど変化しないこともあるため、このような場合には劣化判定直後から低NOx制御を開始してもよい。
【0041】
一方、ECU20はステップS32で以上の低NOx制御を実行した後、ステップS34に移行する。ステップS34以降の処理は上記ステップS6〜16の劣化判定と同様であるが、三元触媒13の劣化進行による故障判定を行うべく各閾値を異にしている。
即ち、ステップS34で触媒劣化・故障判定の実行条件が成立すると、ステップS36で上流側反転周波数ffを算出し、続くステップS38で下流側O2センサ17の出力電圧Vrの平均値Vraveを算出する。重複する説明はしないが、これらの処理は上記したステップS8,10と同様の手法で行われる。
【0042】
その後、ECU20はステップS40に移行して故障判定用の反転基準値TbH,TbLを下式(4),(5)により算出する。
TbH=Vrave+β……(4)
TbL=Vrave−β……(5)
ここに、βはヒステリシス定数であり、上記のように劣化判定用のヒステリシス定数αより大きな値(例えば、0.156V)に設定されている。
【0043】
次いで、ECU20はステップS42で、これらの反転基準値TbH,TbLに基づいて下流側反転周波数frを算出する。この処理は上記ステップS14と同様の手法で実施され、図4のタイムチャート中に○印で示すように、下流側O2センサ17の出力電圧Vrが正側及び負側の反転基準値TbH,TbLを横切った回数から下流側反転周波数frが求められる。続くステップS44では反転周波数比fr/ffを算出して故障判定値Tbより大きいか否かを判定する(故障判定手段)。上記のように故障判定値Tbは劣化判定値Taより大きな値(例えば、0.8)に設定されている。
【0044】
ヒステリシス定数βに基づく反転基準値TbH,TbLの設定により、劣化判定時に比較して出力電圧Vrが反転基準値TbH,TbLを横切る頻度が低くなるため(図4中の●印から○印に減少)、反転周波数比fr/ffが小さな値として算出される共に、劣化判定値Taに比較して故障判定値Tb自体も大きいことから、低NOx制御が開始された当初はステップS44でNoの判定を下してルーチンを終了する。従って、このときには警告灯23は消灯状態に保持されて、運転者への故障表示は行われない。
【0045】
そして、三元触媒13の劣化進行によりステップS44の判定がYesになると、ECU20は三元触媒13の故障判定を下してステップS44からステップS46に移行し、警告灯23を点灯させた後にルーチンを終了する。
従って、警告灯23の表示により運転者は三元触媒13の故障を認識して車両を修理工場に持ち込み、修理工場では三元触媒13の交換等の修理作業と共に、ECU20内の故障コードの消去により低NOx制御フラグF2のリセットや警告灯23の消灯等を行う。
【0046】
ECU20による三元触媒13の劣化・故障判定は以上のように実施され、劣化判定後は低NOx制御によってNOx排出量増大が抑制され、以下のようにして微小な排ガス悪化レベルでも制度良く故障判定できるようになる。
図6は触媒劣化過程におけるNOx排出量に対するO2センサ16,17の反転周波数比fr/ffを示す図であり、図中には参考として北米のOBD規制値が示されている。図中の実線は低NOx制御非作動時におけるO2センサ16,17の反転周波数比fr/ffを示しており、NOx排出量の増加に対して比較的緩やかに反転周波数比fr/ffが増加することから、故障判定値Tbとして0.8を適用した場合、次期OBD規制値に対しては規制値を越える以前に故障判定できないことが判る。
【0047】
ここで、三元触媒のNOx浄化性能低下によるNOx排出量の増加を抑制するため、故障判定より先行するNOx浄化の劣化判定に基づいて低NOx制御が実行されると、反転周波数比fr/ffは変わらないもののNOx排出量が減少するため、排ガス自体がO2センサ16,17の反転周波数比fr/ffは図中の破線で示すように、NOx排出量の増加に対して急激に増加する特性に変更される。結果としてNOx排出量が僅かに増加するだけでも反転周波数比fr/ffは大きく増加することになり、次期OBD規制値を越える以前のポイントcで反転周波数比fr/ffが故障判定値Tbの0.8に達して故障判定が下される。よって、より微小な排ガス悪化レベルにおいて三元触媒13の故障判定が可能となる。
【0048】
しかも、故障判定値Tbとして0.8を適用したままのため、次期OBD規制値に対する故障判定を適応させるため故障判定値Tbを減少させた場合のように判定精度が低下する虞は一切ない。よって、判定精度が低下したときの弊害、即ち、誤判定により三元触媒13を不必要に交換してしまう等の事態を未然に防止することができる。
以上のように、OBD規制値等に基づく故障判定は、三元触媒13の劣化進行により三元触媒からのNOx排出量、又はHC排出量が規制値に達した時点で行なう必要があるが、低NOx制御を実行しなければ故障判定に至る前に三元触媒13の劣化によりNOx排出量は次期OBD規制値を越えてしまう。本実施形態では故障判定に先行してNOx浄化に対する劣化判定が下された時点で内燃機関からのNOx排出量を抑制するための低NOx制御を開始するようにしているため、故障判定を下す以前においても内燃機関からのNOxの排出を抑制して三元触媒のNOx浄化の劣化を補償し、三元触媒からのNOx排出量を規制値内に収めることができ、より微小な排ガス悪化レベルにおいて精度良く触媒の故障判定を下すことが可能となる。
【0049】
又、低NOx制御は、反転周波数比fr/ffすなわち劣化度合に応じてNOx排出量を低減する制御量を変更しても良い。このようにすれば、劣化度合が小さいときには制御量を小さくして内燃機関への影響を小さくすることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、三元触媒の故障判定と同様の手法を用いて劣化判定を行ったが、必ずしも同様の手法を適用する必要はなく、例えば排ガス中の酸素濃度と触媒温度とに基づいて単位時間当たりの三元触媒の劣化度合を求め、この劣化度合の積算値に基づいて三元触媒の劣化を推定するようにしてもよい。
【0050】
又、三元触媒の故障判定と同様の手法で劣化判定を実施する場合でも、上記実施形態に限る必要はない。即ち、上記実施形態では故障判定より早期に劣化判定するために、故障判定の反転基準値TbH,TbLとは別の反転基準値TaH,TaLを適用すると共に、故障判定値Tbとは別の劣化判定値Taを適用したが、何れか一方の閾値のみを故障判定と相違させてもよく、この場合でも故障判定に先行するタイミングで劣化判定を下して低NOx制御により上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
更に上記実施形態では、低NOx制御として空燃比のリッチ化、EGR量の増加、点火時期のリタードを実施したが、これらに限定されることはなく、何れかの制御を省略したり、逆にNOx排出量を低減可能な他の手法を加えたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態の内燃機関の制御装置を示す概略構成図である。
【図2】ECUが実行する触媒故障判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】同じくECUが実行する触媒故障判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】空燃比変動に対する反転周波数の算出状況を示すタイムチャートである。
【図5】反転周波数比から補正係数を算出するための変換マップを示す図である。
【図6】触媒劣化過程におけるNOx排出量に対する〇2センサ反転周波数比を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 内燃機関
16 上流側O2センサ(空燃比検出手段)
17 下流側O2センサ(空燃比検出手段)
20 ECU(故障判定手段、劣化判定手段、低NOx制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の三元触媒の上流側及び下流側に設置した空燃比検出手段の出力に基づいて該触媒の故障判定を行う故障判定手段と、
上記故障判定手段による故障判定以前の段階で上記触媒の劣化を判定する劣化判定手段と、
上記劣化判定手段により触媒の劣化が判定されたときに、上記内燃機関をNOx排出量を低減した運転状態に制御する低NOx制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
上記故障判定手段は、上記空燃比検出手段の出力の反転周波数比が所定の故障判定値を越えたときに上記触媒の故障判定を行い、
上記劣化判定手段は、上記反転周波数比が上記故障判定値より小さい値に設定された劣化判定値を越えたときに上記触媒の劣化判定を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
上記故障判定手段は、所定の中立値を基準として正側及び負側に設定された故障判定用の反転基準値を上記下流側の空燃比検出手段の出力が横切った回数を反転周波数として求め、該反転周波数と上流側の反転周波数との比に基づいて故障判定を行い、
上記劣化判定手段は、上記故障判定用の反転基準値より中立値側に設定された劣化判定用の反転基準値を上記下流側の空燃比検出手段の出力が横切った回数を反転周波数として求め、該反転周波数と上流側の反転周波数との比に基づいて劣化判定を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
上記低NOx制御手段は、上記劣化判定手段により判定された上記触媒の劣化度合に応じて制御量を変更することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
上記低NOx制御手段は、上記内燃機関の空燃比のリッチ化、EGR量の増加、点火時期のリタードの内の少なくとも1つを実行することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−183511(P2006−183511A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376165(P2004−376165)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】