説明

内燃機関の吸気量制御装置

【課題】誤学習時における各学習値の修正を適正に行うことのできる内燃機関の吸気量制御装置を提供する。
【解決手段】この装置は、アイドル運転時における吸気量を学習するISC学習制御処理とスロットル機構の流量特性を学習するスロットル特性学習処理とを実行する。吸気量の調節制御を、ISC学習制御処理を通じて学習したISC学習値とスロットル特性学習処理を通じて学習したスロットル特性学習値とに基づき実行する。アイドル運転時に所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたときに(S11:YES)、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1以上であるときには(S12:YES)、各学習値のうちのスロットル特性学習値のみを修正する(S13)。更新量が判定値J1未満であるときには(S12:NO)、各学習値のうちのISC学習値のみを修正する(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気量を学習しつつ調節する内燃機関の吸気量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気通路には吸気量を調節するための吸気量調節機構が設けられている。そうした吸気量調節機構としては、スロットルバルブの開度を変更するスロットル機構や、吸気バルブの作用角やリフト量を変更するバルブ特性変更機構などが知られている。内燃機関の運転に際しては、機関回転速度やアクセル操作量などといった機関運転状態に応じて吸気量調節機構の作動が制御されて、吸気量がそのときどきの機関運転状態に見合う量に調節される。
【0003】
また、特許文献1に記載の装置のように、アイドル運転時における機関回転速度を目標回転速度に一致させることの可能な吸気量の学習を行う装置が提案されている。こうした装置によれば、上記学習における学習値(ISC学習値)によって内燃機関の吸気系の個体差や経時変化、外部環境(気圧や気温)の変化等に起因する吸気量の誤差が抑えられて、内燃機関が安定した状態で運転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−166037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、吸気量調節機構の経時変化(例えばデポジットの付着)に伴って、同吸気量調節機構の作動量と通過吸気量との関係(流量特性)も変化する。そのため仮に、そうした吸気量調節機構の流量特性の学習を実行するとともにその学習値(特性学習値)を吸気量制御に用いるようにすれば、ISC学習値を変化させる因子の中から吸気量調節機構の流量特性の変化を省くことができる。これにより吸気量の学習、具体的にはISC学習値および特性学習値の学習を適正に行うことが可能になるため、吸気量の調節精度の向上が図られるようになる。
【0006】
ところで、なんらかの理由によって吸気量の学習値が誤学習されると、内燃機関のアイドル運転時、すなわち通常なら機関回転速度の変動がごく小さくなるときにおいて機関回転速度の不要な上昇や不要な低下を招くおそれがあるため、学習値を速やかに修正して吸気量を適正な量に戻すことが望ましい。しかしながら、吸気量の学習値としてISC学習値および特性学習値が各別に学習される装置では、それら学習値をそのときどきの状況に応じたかたちで適正に修正しないと、内燃機関の吸気量を適正な量に戻すことができないことがあり、その場合には機関回転速度の不要な上昇や不要な低下を抑えられない。
【0007】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、誤学習時における各学習値の修正を適正に行うことのできる内燃機関の吸気量制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の装置では、吸気量を調節するための吸気量調節機構が吸気通路に設けられた内燃機関において、目標となるアイドル回転速度が得られるアイドル運転時における吸気量を学習するアイドル学習処理、および、吸気量調節機構の作動量と通過吸気量との関係(流量特性)を学習する特性学習処理がそれぞれ実行される。そして、アイドル学習処理を通じて学習したアイドル学習値と特性学習処理を通じて学習した特性学習値とに基づいて調節制御が実行されて内燃機関の吸気量が調節される。しかも、アイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度の変化が生じたときには、アイドル学習値や特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、それらアイドル学習値および特性学習値の一方が修正される。
【0009】
学習値の誤学習によって機関回転速度が大きく変化する状況においては、その原因である学習値の更新量も大きい。これに対して、吸気量調節機構の流量特性は同機構の経時変化に伴って徐々に変化するため、同流量特性に関する特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0010】
この点をふまえて上記装置では、アイドル学習値および特性学習値の一方を修正する際に、特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値以上であるときには、同特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちの特性学習値のみを更新前の適正な値に近づけるべく修正することができる。しかも、特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値未満であるときには、特性学習値を誤学習した可能性が低いためにアイドル学習値を誤学習した可能性が高いとして、特性学習値を修正することなくアイドル学習値を適正な値に近づけるべく修正することができる。このように上記装置によれば、アイドル学習値や特性学習値を誤学習した場合であれ、それら学習値の修正を適正に行うことができる。
【0011】
スロットルバルブの開度を変更するスロットル機構では、例えばスロットルバルブへのデポジットの付着量が徐々に多くなるのに伴って通過吸気量が少なくなるなどといったように、その流量特性がスロットル機構の経時変化に伴って徐々に変化する。そのため、スロットル機構の流量特性に関する特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0012】
請求項2に記載の装置では、そうしたスロットル機構が前記吸気量調節機構として設けられる。同装置によれば、アイドル学習値および特性学習値の一方を修正する際に、スロットル機構に関する特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値以上であるために同特性学習値を誤学習した可能性が高いときには、各学習値のうちの特性学習値のみを更新前の適正な値に近づけるべく修正することができる。しかも、スロットル機構に関する特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値未満であるためにアイドル学習値を誤学習した可能性が高いときには、特性学習値を修正することなくアイドル学習値を適正な値に近づけるべく修正することができる。
【0013】
吸気バルブの最大リフト量および作用角の少なくとも一方であるバルブ特性を変更するバルブ特性変更機構では、例えば吸気バルブへのデポジットの付着量が徐々に多くなるのに伴って通過吸気量が少なくなるなどといったように、その流量特性がバルブ特性変更機構の経時変化に伴って徐々に変化する。そのため、バルブ特性変更機構の流量特性に関する特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0014】
請求項3に記載の装置では、そうしたバルブ特性変更機構が前記吸気量調節機構として設けられる。同装置によれば、アイドル学習値および特性学習値の一方を修正する際に、バルブ特性変更機構に関する特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値以上であるために同特性学習値を誤学習した可能性が高いときには、各学習値のうちの特性学習値のみを更新前の適正な値に近づけるべく修正することができる。しかも、バルブ特性変更機構に関する特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値未満であるためにアイドル学習値を誤学習した可能性が高いときには、特性学習値を修正することなくアイドル学習値を適正な値に近づけるべく修正することができる。
【0015】
内燃機関の運転が開始されてから該運転が停止されるまでの期間(いわゆるトリップ中)において、吸気量調節機構の流量特性が大きく変化する可能性は低い。請求項4に記載の装置では、前記特性学習値の更新が、そうしたトリップ中において一回のみ行われる。同装置によれば、特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値との比較を通じて特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができるため、アイドル学習値や特性学習値の修正を適正に行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の装置では、内燃機関に、スロットルバルブの開度を変更するスロットル機構と吸気バルブの最大リフト量および作用角の少なくとも一方であるバルブ特性を変更するバルブ特性変更機構とが設けられる。目標となるアイドル回転速度が得られるアイドル運転時における吸気量を学習するアイドル学習処理、スロットル機構の作動量と通過吸気量との関係を学習する第1特性学習処理、および、バルブ特性変更機構の作動量と通過吸気量との関係を学習する第2特性学習処理が実行される。そして、アイドル学習処理を通じて学習したアイドル学習値と、第1特性学習処理を通じて学習した第1特性学習値と、第2特性学習処理を通じて学習した第2特性学習値とに基づいて調節制御が実行されて内燃機関の吸気量が調節される。
【0017】
しかも、アイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度の変化が生じたときには、いずれかの学習値を誤学習した可能性が高いとして、それら学習値のうちの一つが修正される。詳しくは、スロットル機構に関する第1特性学習値の直近の更新時における更新量が第1判定値以上であるときには、同特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちの第1特性学習値のみを更新前の適正な値に近づけるべく修正することができる。一方、第1特性学習値の直近の更新時における更新量が第1判定値未満であり且つバルブ特性変更機構に関する第2特性学習値の直近の更新時における更新量が第2判定値以上であるときには、同第2特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちの第2特性学習値のみを更新前の適正な値に近づけるべく修正することができる。他方、第1特性学習値の直近の更新時における更新量が第1判定値未満であり且つ第2特性学習値の直近の更新時における更新量が第2判定値未満であるときには、第1特性学習値および第2特性学習値のいずれかを誤学習した可能性が低いために、アイドル学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちのアイドル学習値のみを適正な値に近づけるべく修正することができる。このように上記装置によれば、アイドル学習値や第1特性学習値、第2特性学習値を誤学習した場合であれ、それら学習値の修正を適正に行うことができる。
【0018】
内燃機関の運転が開始されてから該運転が停止されるまでの期間(いわゆるトリップ中)において、スロットル機構の流量特性やバルブ特性変更機構の流量特性が大きく変化する可能性はごく低い。請求項6に記載の装置では、スロットル機構に関する第1特性学習値およびバルブ特性変更機構に関する第2特性学習値の更新が共に、そうしたトリップ中において一回のみ行われる。そのため、第1特性学習値の直近の更新時における更新量と第1判定値との比較を通じて同第1特性学習値の誤学習の可能性を精度良く判断することができ、また第2特性学習値の直近の更新時における更新量と第2判定値との比較を通じて同第2特性学習値の誤学習の可能性を精度良く判断することができる。したがって、それらの判断をもとにアイドル学習値や第1特性学習値、第2特性学習値の修正を適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態にかかる内燃機関の吸気量制御装置の概略構成を示す略図。
【図2】第1の実施の形態の学習値修正処理の実行手順を示すフローチャート。
【図3】本発明を具体化した第2の実施の形態にかかる内燃機関の吸気量制御装置の概略構成を示す略図。
【図4】第2の実施の形態の学習値修正処理の実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施の形態)
以下、本発明にかかる内燃機関の吸気量制御装置を具体化した第1の実施の形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、内燃機関10の吸気通路11には吸気量調節機構としてのスロットル機構12が設けられている。このスロットル機構12は、吸気通路11の通路断面積を変更するスロットルバルブ13と同スロットルバルブ13に連結されたスロットルモータ14とを備えている。内燃機関10の吸気通路11と燃焼室15との間は吸気バルブ16の開閉動作によって連通・遮断される。そして、スロットルモータ14の駆動制御を通じてスロットルバルブ13の開度(スロットル開度TA)が調節され、これにより吸気通路11および吸気バルブ16を通じて燃焼室15内に吸入される空気の量が調節される。また、上記吸気通路11には燃料噴射バルブ17が設けられている。この燃料噴射バルブ17は吸気通路11内に燃料を噴射する。
【0022】
内燃機関10の燃焼室15においては、吸入空気と噴射燃料とからなる混合気に対して点火プラグ18による点火が行われ、これによって同混合気が燃焼してピストン19が往復移動し、クランクシャフト20が回転する。そして、燃焼後の混合気は排気として燃焼室15から排気バルブ21を介して排気通路22に送り出される。
【0023】
内燃機関10は、その運転状態を検出するための各種センサ類を備えている。各種センサ類としては、例えばスロットル開度TAを検出するためのスロットルセンサ51や、吸気通路11を通過する吸入空気の量(通路吸気量GA)を検出するための吸気量センサ52、機関冷却水の温度(冷却水温度THW)を検出するための水温センサ53が設けられている。また、アクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量(アクセル操作量ACC)を検出するためのアクセルセンサ54や、クランクシャフト20の回転角(クランク角)および回転速度(機関回転速度NE)を検出するためのクランクセンサ55、大気圧PAを検出するための大気圧センサ56が設けられている。その他、内燃機関10の運転開始に際してオン操作されるとともに同内燃機関10の運転停止に際してオフ操作される運転スイッチ23等も設けられている。
【0024】
また内燃機関10は、例えばマイクロコンピュータを有して構成される電子制御ユニット50を備えている。この電子制御ユニット50は、各種センサの検出信号を取り込むとともに各種の演算を行い、その演算結果に基づいて吸気量調節制御や燃料噴射制御などといった機関制御にかかる各種制御を実行する。
【0025】
以下、吸気量調節制御の実行態様について説明する。
本実施の形態では、エアクリーナや、吸気管、サージタンク、吸気マニホールド等により構成された吸気通路11および、スロットルバルブ13、吸気バルブ16からなる機関吸気系をモデル化した物理モデルが構築されている。そして、その物理モデルを通じて内燃機関10の運転状態に見合う筒内吸気量(後述する要求筒内吸気量TklA)と実際の筒内吸気量とが一致するようになるスロットル開度TAについての制御目標値(目標スロットル開度TtaA)が算出される。詳しくは、スロットル機構12の通過吸気量、機関回転速度NE、筒内吸気量、スロットルバルブ13の開度、大気圧PAを変数とするモデル式(吸気モデル式)が予め定められ、同吸気モデル式を通じて上記目標スロットル開度TtaAが算出される。
【0026】
具体的には、アクセル操作量ACCおよび機関回転速度NEに基づいて要求筒内吸気量TklAが算出される。そして、その要求筒内吸気量TklAおよび機関回転速度NEなどに基づいて吸気モデル式から目標スロットル開度TtaAが算出される。なお本実施の形態では、スロットル開度TAが大きいほど筒内吸気量が多くなるため、要求される筒内吸気量(上記要求筒内吸気量TklA)の多い高負荷領域ほど、スロットル開度TAが大きくなるように吸気量調節制御が実行される。
【0027】
また本実施の形態では、吸気量調節制御にかかる処理の一つとして、内燃機関10のアイドル運転時において目標となるアイドル回転速度が得られる吸気量を学習するアイドル学習処理(いわゆるISC学習制御処理)が実行される。このISC学習制御処理は以下のように実行される。
【0028】
すなわち先ず、冷却水温度THWに基づいて機関回転速度NEについての制御目標値(目標回転速度Tne)が算出される。ここでは、冷却水温度THWが低いときほど、機関燃焼状態が不安定化する傾向があるためにこれを回避するべく、目標回転速度Tneとして高い速度が設定される。その後、機関回転速度NEと目標回転速度Tneとの偏差ΔNE(=NE−Tne)が算出されるとともに、その偏差ΔNEに基づいてISC学習値が算出される。詳しくは、ISC学習値は、機関回転速度NEが目標回転速度Tneよりも低い場合には(偏差ΔNE<0)予め定めた所定値を加算する一方、機関回転速度NEが目標回転速度Tne以上である場合には(偏差ΔNE≧0)ISC学習値から所定値を減算するといったように算出される。このISC学習値は電子制御ユニット50に記憶されており、その記憶値はISC学習値の算出の度に更新される。そして吸気量調節制御では、このISC学習値を要求筒内吸気量TklAに加算するといったように、ISC学習値によって要求筒内吸気量TklAが補正される。
【0029】
このように本実施の形態では、内燃機関10のアイドル運転時における機関回転速度NEと目標回転速度Tneとを一致させるべく、それらの偏差ΔNEに応じて要求筒内吸気量TklAをフィードバック制御するといったように、ISC学習制御処理が実行される。本実施の形態では、ISC学習値がアイドル学習値として機能する。
【0030】
さらに本実施の形態では、吸気量調節制御にかかる処理の一つとして、スロットル機構12の作動量と通過吸気量との関係(流量特性)を学習するスロットル特性学習処理が実行される。このスロットル特性学習処理は、スロットル開度TAが所定開度以上であり且つ内燃機関10の運転状態がその変化のごく少ない安定した運転状態であることといった実行条件が成立していることを条件に、以下のように実行される。
【0031】
すなわち先ず、機関回転速度NE、スロットル開度TA、および大気圧PAに基づいて上記吸気モデル式から、スロットル機構12が標準的な流量特性を有するものと仮定した場合における筒内吸気量(基本筒内吸気量)が算出される。また、通路吸気量GA、機関回転速度NE、スロットル開度TA、および大気圧PAに基づいて上吸気モデル式から、実際の筒内吸気量が算出される。そして、それら基本筒内吸気量と実際の筒内吸気量とのずれを補償することの可能な値が算出されるとともに、同値が上記スロットル特性学習処理における学習値(スロットル特性学習値)として記憶される。
【0032】
吸気モデル式としては、スロットルバルブ13の上流側と下流側との差圧およびスロットル開度TAによってスロットル機構12の通過吸気量を特定することのできるモデル式が設定されている。この点をふまえて本実施の形態では、上記スロットル特性学習値として、差圧およびスロットル開度TAに基づいてスロットル機構12の通過吸気量を精度良く特定することが可能になる値(詳しくは、上記吸気モデル式における算出係数)が算出されて記憶される。
【0033】
また本実施の形態では、そうしたスロットル特性学習値の算出および記憶が、差圧およびスロットル開度TAに基づき定まる複数の機関運転状態のもとでそれぞれ実行される。
さらに本実施の形態では、スロットル特性学習値の更新が内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ23がオン操作されたときにのみ実行される。本実施の形態では詳しくは、スロットル特性学習値の算出および記憶は内燃機関10の運転中において実行条件が成立する度に実行される。ただし、そのように算出および記憶される値は仮の値であり、目標スロットル開度TtaAの算出には用いられない。そして、運転スイッチ23がオン操作されると、前回のトリップ中に算出されて記憶されていた仮の値を新たなスロットル特性学習値として記憶させるといったように、同スロットル特性学習値が更新される。そして、以後においては更新された新たなスロットル特性学習値が目標スロットル開度TtaAの算出に用いられる。
【0034】
このように、本実施の形態では、スロットル特性学習値の更新が、内燃機関10の運転を開始するべく運転スイッチ23がオン操作されてから同内燃機関10の運転を停止させるべく運転スイッチ23がオフ操作されるまでの期間(いわゆるトリップ中)において一回のみ行われる。なお、そうしたトリップ中において、スロットル機構12の流量特性が大きく変化する可能性は低い。本実施の形態では、スロットル特性学習値の更新がトリップ中において一回のみ行われるため、その更新頻度が低く抑えられて誤更新の機会が少なくなることから、同スロットル特性学習値の学習が適正に行われるようになる。
【0035】
このようにして更新されるスロットル特性学習値は吸気モデル式に適用される。これにより、スロットルバルブ13へのデポジットの付着などによってスロットル機構12の流量特性が変化した場合であっても、吸気モデル式を実際の流量特性に見合う式にすることができ、同吸気モデル式を通じて実際の流量特性に見合う値を目標スロットル開度TtaAとして算出することができる。しかも、ISC学習値を変化させる因子の中からスロットル機構12の流量特性の変化を省くことができるために、吸気量の学習(詳しくはISC学習値およびスロットル特性学習値の学習)を適正に行うことが可能になるため、実際の筒内吸気量の調節精度の向上が図られるようになる。
【0036】
このように本実施の形態では、ISC学習制御処理を通じて学習したISC学習値とスロットル特性学習処理を通じて学習したスロットル特性学習値とに基づいて筒内吸気量の調節制御が実行される。
【0037】
ところで、なんらかの理由によってISC学習値やスロットル特性学習値が誤学習されると、内燃機関10のアイドル運転時、すなわち通常なら機関回転速度NEの変動がごく小さくなるときに機関回転速度NEの不要な上昇や不要な低下を招くおそれがあるために、誤学習した学習値を速やかに修正して筒内吸気量を適正な量に戻すことが望ましい。
【0038】
しかしながら本実施の形態では、ISC学習値およびスロットル特性学習値が各別に学習されるため、それらISC学習値およびスロットル特性学習値をそのときどきの状況に応じたかたちで適正に修正しないと、内燃機関10の筒内吸気量を適正な量に戻すことができない場合がある。そして、そうした場合には機関回転速度NEの不要な上昇や不要な低下を抑えられない。
【0039】
この点を踏まえて本実施の形態では、以下のようにして、ISC学習値やスロットル特性学習値を修正するようにしている。
図2に学習値を修正する処理(学習値修正処理)の実行態様を示す。同図2のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット50により実行される処理である。
【0040】
図2に示すように、この処理では先ず、内燃機関10のアイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたか否かが判断される(ステップS11)。ここでは、アクセル操作部材の操作が解除されてアクセル操作量ACCが「0」になった後の経過時間や機関回転速度NEの単位時間あたりの変化量、同機関回転速度NEの絶対値などに基づいて、内燃機関10のアイドル運転時において機関回転速度NEの急上昇や急低下を招いたか否かが判断される。
【0041】
そして、内燃機関10のアイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたと判断される場合には(ステップS11:YES)、学習値の誤学習によって機関回転速度NEの変動が大きくなっている可能性が高いとして、ISC学習値およびスロットル特性学習値のいずれかを修正するための処理が実行される。
【0042】
具体的には先ず、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量として、直近の運転スイッチ23のオン操作時に更新された最新のスロットル特性学習値(A)と更新前のスロットル特性学習値(Ai)との差(「A−Ai」の絶対値)が算出される。そして、この更新量が予め定められた判定値J1以上であるか否かが判断される(ステップS12)。
【0043】
ここで、ISC学習値やスロットル特性学習値の誤学習によって機関回転速度NEが大きく変化する状況においては、その原因である学習値の更新量も大きくなる。そのため、そうした状況においてはISC学習値の更新量およびスロットル特性学習値の更新量のうちの一方が大きくなると云える。
【0044】
本実施の形態では、スロットル特性学習値の更新がトリップに一回のみ行われるために、スロットル特性学習値の更新における更新量がトリップ中におけるスロットル特性学習値の変化分に相当する量になる。スロットル機構12の実際の流量特性は、例えばスロットルバルブ13へのデポジットの付着量が徐々に多くなるのに伴って通過吸気量が少なくなるなどといったように、同スロットル機構12の経時変化に伴って徐々に変化する。そのため、トリップ中においてスロットル機構12の流量特性が大きく変化する可能性は低く、スロットル特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同スロットル特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0045】
こうしたことから、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値J1との比較を通じてスロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができる。そのため、その判断をもとに、ISC学習値やスロットル特性学習値の修正を適正に行うことができる。
【0046】
具体的には、上記更新量が判定値J1以上であるときには(ステップS12:YES)、同スロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、ISC学習値およびスロットル特性学習値のうちの同スロットル特性学習値のみが修正される(ステップS13)。詳しくは、更新前のスロットル特性学習値(Ai)を最新のスロットル特性学習値(A)として記憶させるといったようにスロットル特性学習値が更新される。このように本実施の形態では、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1以上であることをもって同スロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いと判断することができ、その判断をもとに各学習値のうちのスロットル特性学習値のみを更新前の適正な値に修正することができる。なお本実施の形態では、スロットル特性学習値が誤学習された状況とISC学習値が誤学習された状況とを的確に判別することの可能な上記更新量に相当する値が予め求められるとともに、同値が上記判定値J1として電子制御ユニット50に記憶されている。
【0047】
一方、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が上記判定値J1未満であるときには(ステップS12:NO)、スロットル特性学習値をした可能性が低いためにISC学習値を誤学習した可能性が高いとして、ISC学習値およびスロットル特性学習値のうちの同ISC学習値のみが修正される(ステップS14)。詳しくは、ISC学習値として初期値(標準的な特性を有する機関システムに見合う値)が記憶される。このときには、例えば内燃機関10が一時的に不調になったり同内燃機関10が低温環境下や高地で運転されたりする等してISC学習値が誤学習された可能性が高いとして、スロットル特性学習値を修正することなくISC学習値を適正な値に近づけるべく修正することができる。
【0048】
このように本実施の形態によれば、ISC学習値やスロットル特性学習値を誤学習した場合であれ、それらISC学習値およびスロットル特性学習値をそのときどきの状況に応じて適正に行うことができる。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)アイドル運転時に所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたときに、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1以上であるときには、各学習値のうちのスロットル特性学習値のみを修正し、上記更新量が判定値J1未満であるときには各学習値のうちのISC学習値のみを修正するようにした。そのため、ISC学習値やスロットル特性学習値を誤学習した場合であれ、それら学習値の修正を適正に行うことができる。
【0050】
(2)スロットル特性学習値の更新がトリップ中に一回のみ行われる。そのため、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値J1との比較を通じてスロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができる。したがって、ISC学習値やスロットル特性学習値の修正を適正に行うことができる。
【0051】
(第2の実施の形態)
以下、本発明にかかる内燃機関の吸気量制御装置を具体化した第2の実施の形態について、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0052】
図3に示すように、本実施の形態の内燃機関30には、クランクシャフト20の回転角(クランク角)に対する吸気カムシャフト31の相対回転角を調節して、吸気バルブ16の開閉弁時期(バルブタイミング)を進角または遅角させるためのVVT機構32が設けられている。また内燃機関30には、吸気バルブ16のバルブ特性(最大リフト量および作用角VL)を変更するバルブ特性変更機構33が設けられている。
【0053】
詳しくは、内燃機関30において吸気通路11と燃焼室15との間は吸気バルブ16の開閉動作によって連通・遮断される。また吸気バルブ16はクランクシャフト20の回転が伝達される吸気カムシャフト31の回転に伴って開閉動作する。
【0054】
そして、上記VVT機構32は吸気カムシャフト31に設けられている。このVVT機構32は、アクチュエータ34の作動制御を通じて駆動される。VVT機構32の駆動によるバルブタイミングの変更では、吸気バルブ16の開弁期間(作用角VL)を一定に保持した状態で同吸気バルブ16の開弁時期及び閉弁時期が共に進角または遅角される。
【0055】
一方、バルブ特性変更機構33は、吸気カムシャフト31と吸気バルブ16との間に設けられている。このバルブ特性変更機構33はアクチュエータ35によって駆動される。このバルブ特性変更機構33の駆動を通じて、吸気バルブ16のリフト量(詳しくは、最大リフト量)が作用角VLと同期して変化して、例えばリフト量が大きくなるほど作用角VLも大きくなる。この作用角VLが大きくなるということは、吸気バルブ16の開弁時期と閉弁時期とが互いに遠ざかるということであり、吸気バルブ16の開弁期間が長くなるということを意味する。
【0056】
各種センサ類としては、前述したセンサ類に加えて、次に記載するものが設けられている。すなわち、吸気通路11におけるスロットルバルブ13より吸気流れ方向下流側の圧力(吸気圧PM)を検出するための吸気圧センサ57や、吸気カムシャフト31の回転角(カム角)を検出するためのカムセンサ58、吸気バルブ16の作用角VL(詳しくは、バルブ特性変更機構33の作動量)を検出するためリフトセンサ59が設けられている。
【0057】
本実施の形態では、スロットル機構12の通過吸気量、機関回転速度NE、筒内吸気量、スロットルバルブ13の開度、吸気バルブ16の作用角、バルブ特性変更機構33の通過吸気量、吸気バルブタイミング、大気圧PAを変数とする吸気モデル式が予め定められている。そして筒内吸気量の調節制御においては、同吸気モデル式を通じて以下に記載する各種制御目標値が算出される。
・スロットル開度TAについての制御目標値(目標スロットル開度TtaB)。
・吸気バルブ16の作用角VLについての制御目標値(目標作用角Tvl)。
・吸気バルブタイミングVTについての制御目標値(目標吸気バルブタイミングTvt)。
【0058】
具体的には、アクセル操作量ACCおよび機関回転速度NEに基づいて筒内吸気量についての制御目標値(要求筒内吸気量TklB)が算出される。そして、その要求筒内吸気量TklBおよび機関回転速度NEなどに基づいて吸気モデル式から各種制御目標値が算出される。そして、スロットル開度TAと目標スロットル開度TtaBとが一致するようにスロットル機構12の駆動が制御される。また、吸気バルブ16の作用角VLと目標作用角Tvlとが一致するようにバルブ特性変更機構33の駆動が制御されるとともに、吸気バルブタイミングVTと目標吸気バルブタイミングTvtとが一致するようにVVT機構32の駆動が制御される。
【0059】
なお本実施の形態の吸気モデル式は、具体的には以下のような概念に基づき定められている。
筒内吸気量は、吸気バルブ16の作用角VLの可変制御(作用角制御)とスロットル開度TAの可変制御(スロットル制御)との協働制御を通じて調節される。ここで内燃機関30にあってはスロットル開度TAが大きいほど、また吸気バルブ16の作用角VLが大きいほど筒内吸気量が多くなる。そのため本実施の形態の協働制御では基本的に、要求される筒内吸気量(上記要求筒内吸気量TklB)の多い高負荷領域ほど、スロットル開度TAが大きくなるようにスロットル制御が実行され、吸気バルブ16の作用角VLが大きくなるように作用角制御が実行される。
【0060】
また吸気通路11から燃焼室15内に吸入空気を効率よく導入するために、VVT機構32の作動制御(吸気バルブタイミング制御)が実行される。この吸気バルブタイミング制御は、基本的に、吸気バルブ16の作用角VLの小さい低負荷領域ほど吸気バルブタイミングVTが進角側の時期になるように実行される。
【0061】
本実施の形態においても、第1の実施の形態のスロットル特性学習処理と同様の実行態様で、スロットル機構12の流量特性を学習するスロットル特性学習処理が実行される。
本実施の形態のスロットル特性学習処理では、前記実行条件が成立したときに、機関回転速度NE、スロットル開度TA、作用角VL、吸気バルブタイミングVT、および大気圧PAに基づいて吸気モデル式から、スロットル機構12が標準的な流量特性を有するものと仮定した場合における筒内吸気量(基本筒内吸気量)が算出される。また、通路吸気量GA、機関回転速度NE、スロットル開度TA、作用角VL、吸気バルブタイミングVT、および大気圧PAに基づいて上吸気モデル式から、実際の筒内吸気量が算出される。そして、それら基本筒内吸気量と実際の筒内吸気量とのずれを補償することの可能な値が算出されるとともに、同値が上記スロットル特性学習処理における学習値(スロットル特性学習値)として記憶される。
【0062】
こうしたスロットル特性学習処理を実行することにより、吸気モデル式をスロットル機構12の実際の流量特性に見合う式にすることができるために、同吸気モデル式を通じて実際の流量特性に見合う値を目標スロットル開度TtaBとして算出することができる。
【0063】
本実施の形態では、吸気量調節制御にかかる処理の一つとして、前述したISC学習制御処理およびスロットル特性学習処理に加えて、バルブ特性変更機構33の作動量と通過吸気量との関係(流量特性)を学習するバルブ特性学習処理が実行される。このバルブ特性学習処理は、吸気バルブ16の作用角VLが所定角度以上であり且つ内燃機関30の運転状態がその変化のごく少ない安定した運転状態であることといった実行条件が成立していることを条件に、以下のように実行される。
【0064】
本実施の形態では、吸気モデル式とは別に、バルブ特性学習処理の実行に際して実際の筒内吸気量を算出するためのモデル式(算出モデル式)が設定されている。この算出モデル式では吸気圧PMが変数の一つとして採用されている。
【0065】
バルブ特性学習処理では、前記実行条件が満たされると、機関回転速度NE、スロットル開度TA、作用角VL、吸気バルブタイミングVT、および大気圧PAに基づいて吸気モデル式から、バルブ特性変更機構33が標準的な流量特性を有するものと仮定した場合における筒内吸気量(基本筒内吸気量)が算出される。また、機関回転速度NE、スロットル開度TA、大気圧PA、および吸気圧PMに基づいて算出モデル式から実際の筒内吸気量が算出される。そして、それら基本筒内吸気量と実際の筒内吸気量とのずれを補償することの可能な値が算出されるとともに、同値が上記バルブ特性学習処理における学習値(バルブ特性学習値)として記憶される。
【0066】
吸気モデル式では、吸気圧と吸気バルブ16の作用角VLとによってバルブ特性変更機構33の通過吸気量を特定することができる。この点をふまえて本実施の形態では、上記バルブ特性学習値の算出および記憶が、吸気圧および吸気バルブ16の作用角に基づき定まる複数の機関運転状態のもとでそれぞれ実行される。
【0067】
さらに本実施の形態では、バルブ特性学習値の更新が内燃機関30の運転を開始するべく運転スイッチ23がオン操作されたときにのみ実行される。本実施の形態では詳しくは、バルブ特性学習値の算出および記憶は内燃機関30の運転中において実行条件が成立する度に実行される。ただし、そのように算出および記憶される値は仮の値であり、目標作用角Tvlの算出には用いられない。そして、運転スイッチ23がオン操作されると、前回のトリップ中に算出されて記憶されていた仮の値を新たなバルブ特性学習値として記憶させるといったように、同バルブ特性学習値が更新される。そして、以後においては更新された新たなバルブ特性学習値が目標作用角Tvlの算出に用いられる。
【0068】
このように本実施の形態では、バルブ特性学習値の更新が、内燃機関30の運転を開始するべく運転スイッチ23がオン操作されてから同内燃機関30の運転を停止させるべく運転スイッチ23がオフ操作されるまでの期間(いわゆるトリップ中)において一回のみ行われる。なお、そうしたトリップ中において、バルブ特性変更機構33の流量特性が大きく変化する可能性は低い。本実施の形態では、バルブ特性学習値の更新がトリップ中において一回のみ行われるため、その更新頻度が低く抑えられて誤更新の機会が少なくなることから、同バルブ特性学習値の学習が適正に行われるようになる。
【0069】
このようにして更新されるバルブ特性学習値は吸気モデル式に適用される。これにより、吸気バルブ16へのデポジットの付着などによってバルブ特性変更機構33の流量特性が変化した場合であっても、吸気モデル式を実際の流量特性に見合う式にすることができ、同吸気モデル式を通じて実際の流量特性に見合う値を目標作用角Tvlとして算出することができる。しかも、ISC学習値を変化させる因子の中からバルブ特性変更機構33の流量特性の変化を省くことができるために、吸気量の各学習(詳しくはISC学習値、スロットル特性学習値、およびバルブ特性学習値の学習)を適正に行うことが可能になるため、実際の筒内吸気量の調節精度の向上が図られるようになる。
【0070】
このように本実施の形態では、ISC学習制御処理を通じて学習したISC学習値と、スロットル特性学習処理を通じて学習したスロットル特性学習値と、バルブ特性学習処理を通じて学習したバルブ特性学習値とに基づいて筒内吸気量の調節制御が実行される。
【0071】
本実施の形態では、ISC学習値やスロットル特性学習値、バルブ特性学習値を修正する処理(学習値修正処理)が以下のように実行される。
図4に本実施の形態の学習値修正処理の実行態様を示す。同図4のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御ユニット50により実行される処理である。
【0072】
図4に示すように、この処理では先ず、内燃機関30のアイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたか否かが判断される(ステップS21)。そして、内燃機関30のアイドル運転時において所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたと判断される場合には(ステップS21:YES)、学習値の誤学習によって機関回転速度NEの変動が大きくなっている可能性が高いとして、ISC学習値、スロットル特性学習値、およびバルブ特性学習値のいずれかを修正するための処理が実行される。
【0073】
具体的には先ず、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が予め定められた判定値J1以上であるか否かが判断される(ステップS12)。
ここで、ISC学習値、スロットル特性学習値、およびバルブ特性学習値のいずれかの誤学習によって機関回転速度NEが大きく変化する状況においては、その原因である学習値の更新量も大きくなる。そのため、そうした状況においてはISC学習値の更新量、スロットル特性学習値の更新量、およびバルブ特性学習値の更新量のうちのいずれかが大きくなると云える。また前述したように、トリップ中においてスロットル機構12の流量特性が大きく変化する可能性は低く、スロットル特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同スロットル特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0074】
そのため、上記更新量が判定値J1以上であるときには(ステップS12:YES)、同スロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちの同スロットル特性学習値のみが修正される(ステップS13)。このように本実施の形態では、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1以上であることをもって同スロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いと判断することができ、その判断をもとに各学習値のうちのスロットル特性学習値のみを更新前の適正な値に修正することができる。本実施の形態では、スロットル特性学習値が第1特性学習値として機能し、判定値J1が第1判定値として機能する。
【0075】
一方、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が上記判定値J1未満であるときには(ステップS12:NO)、バルブ特性学習値の直近の更新時における更新量として、直近の運転スイッチ23のオン操作時に更新された最新のバルブ特性学習値(B)と更新前のバルブ特性学習値(Bi)との差(「B−Bi」の絶対値)が算出される。そして、この更新量が予め定められた判定値J2以上であるか否かが判断される(ステップS24)。
【0076】
本実施の形態では、バルブ特性学習値の更新がトリップ中に一回のみ行われるために、バルブ特性学習値の更新における更新量がトリップ中におけるバルブ特性学習値の変化分に相当する量になる。バルブ特性変更機構33の実際の流量特性は、例えば吸気バルブ16へのデポジットの付着量が徐々に多くなるのに伴って通過吸気量が少なくなるなどといったように、同バルブ特性変更機構33の経時変化に伴って徐々に変化する。そのため、トリップ中においてバルブ特性変更機構33の流量特性が大きく変化する可能性は低く、バルブ特性学習値が適正に学習される状況のもとでは、同バルブ特性学習値の更新量が大きくなる可能性は低いと云える。
【0077】
こうしたことから、バルブ特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値J2との比較を通じてバルブ特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができる。そのため、その判断をもとに、各学習値の修正を適正に行うことができる。
【0078】
詳しくは、上記更新量が判定値J2以上であるときには(ステップS24:YES)、バルブ特性学習値を誤学習した可能性が高いとして、各学習値のうちの同バルブ特性学習値のみが修正される(ステップS25)。詳しくは、更新前のバルブ特性学習値(Bi)を最新のバルブ特性学習値(B)として記憶させるといったように、バルブ特性学習値が更新される。このように本実施の形態では、バルブ特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J2以上であることをもって同バルブ特性学習値を誤学習した可能性が高いと判断することができ、その判断をもとに各学習値のうちのバルブ特性学習値のみを更新前の適正な値に修正することができる。なお本実施の形態では、バルブ特性学習値が誤学習された状況であることを的確に判別することの可能な上記更新量に相当する値が予め求められるとともに、同値が上記判定値J2として電子制御ユニット50に記憶されている。また本実施の形態では、バルブ特性学習値が第2特性学習値として機能し、判定値J2が第2判定値として機能する。
【0079】
他方、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が上記判定値J1未満であり、且つバルブ特性学習値の直近の更新時における更新量が上記判定値J2未満であるときには(ステップS12:NO且つステップS24:NO)、各学習値のうちのISC学習値のみが修正される(ステップS26)。詳しくは、このときスロットル特性学習値およびバルブ特性学習値を誤学習した可能性が低いためにISC学習値を誤学習した可能性が高いと判断されて、ISC学習値として初期値(標準的な特性を有する機関システムに見合う値)が記憶される。このときにはスロットル特性学習値およびバルブ特性学習値を修正することなくISC学習値を適正な値に近づけるべく修正することができる。
【0080】
このように本実施の形態によれば、ISC学習値やスロットル特性学習値、バルブ特性学習値を誤学習した場合であれ、それら学習値をそのときどきの状況に応じて適正に行うことができる。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
(3)アイドル運転時に所定レベル以上の機関回転速度NEの変化が生じたときに、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1以上であるときには、各学習値のうちのスロットル特性学習値のみを修正するようにした。また、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1未満であり、且つバルブ特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J2以上であるときには各学習値のうちのバルブ特性学習値のみを修正するようにした。さらに、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J1未満であり、且つバルブ特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値J2未満であるときには各学習値のうちのISC学習値のみを修正するようにした。そのため、ISC学習値やスロットル特性学習値、バルブ特性学習値を誤学習した場合であれ、それら学習値の修正を適正に行うことができる。
【0082】
(4)スロットル特性学習値の更新とバルブ特性学習値の更新とが共にトリップ中に一回のみ行われる。そのため、スロットル特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値J1との比較を通じてスロットル特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができる。またバルブ特性学習値の直近の更新時における更新量と判定値J2との比較を通じてバルブ特性学習値を誤学習した可能性が高いことやその可能性が低いことを精度良く判断することができる。したがって、ISC学習値や、スロットル特性学習値、バルブ特性学習値の修正を適正に行うことができる。
【0083】
(他の実施の形態)
なお、上記各実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・基本筒内噴射量や実際の筒内噴射量を、吸気モデル式(各実施の形態)や算出モデル式(第2の実施の形態)などのモデル式を通じて算出することに限らず、予め定められた演算式や演算マップを通じて算出するようにしてもよい。
【0084】
・各実施の形態において、ISC学習値を修正する処理の実行態様は任意に変更することができる。例えば機関回転速度NEが急低下したときに同機関回転速度NEの低下を抑えるべくISC学習値に所定値を加算したり、機関回転速度NEが急上昇したときに同機関回転速度NEの上昇を抑えるべくISC学習値から所定値を減算したりしてもよい。要は、ISC学習値を適正な値に近づけるべく修正することができればよい。
【0085】
・各実施の形態において、スロットル特性学習値を修正する処理の実行態様は任意に変更可能である。例えば機関回転速度NEが急低下したときに同機関回転速度NEの低下を抑えるべくスロットル特性学習値を一定値だけ修正したり、機関回転速度NEが急上昇したときに同機関回転速度NEの上昇を抑えるべくスロットル特性学習値を一定値だけ修正したりしてもよい。要は、スロットル特性学習値を適正な値に近づけるべく修正することができればよい。
【0086】
・第2の実施の形態において、バルブ特性学習値を修正する処理の実行態様は任意に変更することができる。例えば機関回転速度NEが急低下したときに同機関回転速度NEの低下を抑えるべくバルブ特性学習値を一定値だけ修正したり、機関回転速度NEが急上昇したときに同機関回転速度NEの上昇を抑えるべくバルブ特性学習値を一定値だけ修正したりしてもよい。要は、バルブ特性学習値を適正な値に近づけるべく修正することができればよい。
【0087】
・スロットル特性学習値(各実施の形態)やバルブ特性学習値(第2の実施の形態)の更新頻度は、トリップ中に一回に限らず、任意に変更可能である。具体的には、それら学習値の更新を、数トリップに一回行うようにしたり、トリップ中に複数回行うようにしたり、更新後における機関運転時間が所定時間に達したことを条件に行うようにしたりすることができる。
【0088】
・第2の実施の形態にかかる装置は、吸気バルブ16の最大リフト量および作用角VLの一方のみを変更するバルブ特性変更機構が設けられた内燃機関にも、その構成を適宜変更したうえで適用することができる。
【0089】
・本発明は、スロットル機構が設けられずにリフト量可変機構が設けられた内燃機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10,30…内燃機関、11…吸気通路、12…スロットル機構、13…スロットルバルブ、14…スロットルモータ、15…燃焼室、16…吸気バルブ、17…燃料噴射バルブ、18…点火プラグ、19…ピストン、20…クランクシャフト、21…排気バルブ、22…排気通路、23…運転スイッチ、31…吸気カムシャフト、32…VVT機構、33…バルブ特性変更機構、34…アクチュエータ、35…アクチュエータ、50…電子制御ユニット、51…スロットルセンサ、52…吸気量センサ、53…水温センサ、54…アクセルセンサ、55…クランクセンサ、56…大気圧センサ、57…吸気圧センサ、58…カムセンサ、59…リフトセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気量を調節するための吸気量調節機構が吸気通路に設けられた内燃機関に適用されて、目標となるアイドル回転速度が得られるアイドル運転時における吸気量を学習するアイドル学習処理、および、前記吸気量調節機構の作動量と通過吸気量との関係を学習する特性学習処理を実行するとともに、前記アイドル学習処理を通じて学習したアイドル学習値と前記特性学習処理を通じて学習した特性学習値とに基づいて吸気量の調節制御を実行する内燃機関の吸気量制御装置において、
アイドル運転時に所定レベル以上の機関回転速度の変化が生じたときに、前記特性学習値の直近の更新時における更新量が判定値以上であるときには、前記アイドル学習値および前記特性学習値のうちの同特性学習値のみを修正し、前記更新量が前記判定値未満であるときには、前記アイドル学習値および前記特性学習値のうちの同アイドル学習値のみを修正する
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の吸気量制御装置において、
前記吸気量調節機構は、スロットルバルブの開度を変更するスロットル機構である
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の吸気量制御装置において、
前記吸気量調節機構は、吸気バルブの最大リフト量および作用角の少なくとも一方であるバルブ特性を変更するバルブ特性変更機構である
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の吸気量制御装置において、
当該装置は、前記特性学習値の更新を、前記内燃機関の運転が開始されてから該運転が停止されるまでの期間において一回のみ行う
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。
【請求項5】
スロットルバルブの開度を変更するスロットル機構と吸気バルブの最大リフト量および作用角の少なくとも一方であるバルブ特性を変更するバルブ特性変更機構とが設けられた内燃機関に適用されて、目標となるアイドル回転速度が得られるアイドル運転時における吸気量を学習するアイドル学習処理、および、前記スロットル機構の作動量と通過吸気量との関係を学習する第1特性学習処理、および、前記バルブ特性変更機構の作動量と通過吸気量との関係を学習する第2特性学習処理を実行するとともに、前記アイドル学習処理を通じて学習したアイドル学習値と前記第1特性学習処理を通じて学習した第1特性学習値と前記第2特性学習処理を通じて学習した第2特性学習値とに基づいて吸気量の調節制御を実行する内燃機関の吸気量制御装置において、
アイドル運転時に所定レベル以上の機関回転速度の変化が生じたときに、前記第1特性学習値の直近の更新時における更新量が第1判定値以上であるときには各学習値のうちの前記第1特性学習値のみを修正し、前記第1特性学習値の直近の更新時における更新量が前記第1判定値未満であり且つ前記第2特性学習値の直近の更新時における更新量が第2判定値以上であるときには各学習値のうちの前記第2特性学習値のみを修正し、前記第1特性学習値の直近の更新時における更新量が前記第1判定値未満であり且つ前記第2特性学習値の直近の更新時における更新量が前記第2判定値未満であるときには各学習値のうちの前記アイドル学習値のみを修正する
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の吸気量制御装置において、
当該装置は、前記第1特性学習値の更新と前記第2特性学習値の更新とを共に、前記内燃機関の運転が開始されてから該運転が停止されるまでの期間において一回のみ行う
ことを特徴とする内燃機関の吸気量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15124(P2013−15124A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150264(P2011−150264)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】