説明

半導体エピタキシーにおけるメモリ効果の低減方法

水素ガス及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスを使用して、複数の成長段階同士の間にCVD反応チャンバを洗い流すことによって、エピタキシャル成長工程の間のメモリ効果を低減する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料のエピタキシャル成長の間のメモリ効果を低減する方法に関し、特に、複数のエピタキシャル成長反応同士間に混合ガスを使用して反応チャンバを浄化し、半導体の電気特性における再現性を改良する化学気相成長法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピタキシーは、半導体業界、および特にシリコン系半導体材料の製造において一般的に使用されている。CVDエピタキシーでは、基板(結果として得られるCVD膜の結晶構造を定めるように選択される)を有する成長または反応チャンバへの前駆体ガスの導入、基板表面上への反応物の堆積/吸着、及び排出される副生成物の脱着を含む化学気相成長(CVD)法が典型的に採用される。さらに、層の電気特性を制御するために、成長工程の間に、エピタキシャル層に不純物をドープすることができる。炭化ケイ素(SiC)半導体デバイスは、SiC基板上にエピタキシャル成長したn−及びp−ドープSiCの連続した層から構成され得る。ドーパントの種類は、電子または正孔を発生させる不純物を示す「n」または「p」で表され、その濃度は、それぞれ高及び低ドーパント濃度を示す「+」または「−」で表される。高濃度は典型的に5×1017cm−3から1×1020cm−3の範囲であり、低濃度は5×1013cm−3から5×1017cm−3の範囲である。SiC、SiまたはSiGe CVD工程において使用される典型的なドーパントは、ホウ素(前駆体ガスBまたはBCl)、リン(前駆体ガスPHまたは(CHP)、及びアルミニウム(前駆体ガス(CHAl)及びヒ素(AsH)を含む。
【0003】
SiC CVD工程用の典型的な気体前駆体は、シラン(RSiH(4−X)またはRSiCl(4−x)であり、RはHまたは炭化水素であってよい)及び炭化水素(CH、C)を含む。シリコンCVD工程用の典型的な気体前駆体は、シラン(HSiH(4−x)またはHSiCl(4−x))である。
【0004】
GaAs CVD工程において使用される典型的なドーパントガスは、シラン(HSiH(4−x)またはHSiCl(4−x))、有機亜鉛化合物、または炭素含有ガス(CH、CCl)であり、典型的な気体前駆体は、トリメチルガリウム及びヒ素である。
【0005】
GaN CVD工程において使用される典型的なドーパントガスは、シラン(HSiH(4−x)またはHSiCl(4−x))、有機マグネシウム化合物、または炭素含有ガス(CH、CCl)であり、典型的な気体前駆体は、トリメチルガリウム、窒素、及び/またはアンモニアである。
【0006】
しかし、成長反応の間に、部分的に反応した前駆体及び/またはドーパントガスは、反応チャンバ内の低流量領域内または多孔性材料に捕捉され得る。さらに、ドーパントを含む反応セル壁上に副堆積物が形成され得る。部分的に反応した前駆体及び副堆積物の潜在的放出及び/または蒸発によって、エピタキシャル層の電気特性が再現不可能となることもある。この現象は一般的に「メモリ効果」と言われる。例えば、トリメチルアルミニウム(TMAl)ドーパントを使用してp型炭化ケイ素を成長させる場合、グラファイト材料を含むCVD真空チャンバの反応領域へと拡散され得る。SiC含有アルミニウムが反応セルの壁上にも形成される。反応チャンバにおける工程の複数回の反復によって、堆積物が蒸発し、「捕捉された」アルミニウムドーパントが反応領域へと引き戻され、新たに形成されるエピタキシャル層に組み込まれる。SiC副堆積物からの残留するp型不純物がSiCにドープされてn型ドーパントの電気的効果を打ち消す、すなわちチャンバが先のp型成長工程を「記憶」しているため、新たなドープ膜がn型膜であるような場合にこれは望ましくない。
【0007】
メモリ効果現象及びTMAlドーパントが工程に戻る量を予測することは困難であるため、エピタキシャル層中のドーピング濃度を再現することが不可能となる。
【0008】
汚染されたCVDサセプタ部分の機械的洗浄または取替えが考えられる解決方法であるが、高価であり、p+/p−構造のような連続多層成長には実用的でない。
【0009】
SiCエピタキシーにおけるメモリ効果を最小限にするためのその他の試みも行われている。例えば、p−型エピタキシー成長段階の後、チャンバを低濃度n型SiCで被覆することができる。非特許文献1を参照する。この工程は、付随するp型SiCで被覆/含浸された反応領域上を被覆する膜を形成し、次のエピタキシー工程においてp型不純物の輸送を防ぐ。しかし、この方法はメモリ効果を低減する一方で、反応領域部材の早期の劣化及び過剰な粒子汚染の早期の形成をもたらし得るため、非効率的であり高価である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bernd Thomas, “Advances in 4H−SiC Homoepitaxy for Production and Development of Power Devices,” Mater. Res. Soc. Symp. Proc. 2006年, Vol. 911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、半導体材料のエピタキシャル成長の間に起こるメモリ効果を低減し、電気特性の再現性に優れた半導体デバイス構造のエピタキシャルCVD成長を可能にする方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、複数のエピタキシャル成長反応同士の間に水素及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスを使用してCVD反応チャンバを洗い流すことによって、エピタキシャル成長の間に起こり得るメモリ効果を低減または排除する方法を提供するという要求を満たす。この方法は、反応チャンバから効果的に残留ドーパント源を除去する。この方法を使用して、再現性に優れたn+SiC/n−SiC/p+SiCエピタキシー構造などのシリコンベースの構造を成長させることに成功した。本方法を使用して、SiC、GaN、GaAs、及びSiGeを含む半導体材料のエピタキシャル成長における再現性を向上させることもできる。
【0013】
本発明の1態様によると、反応チャンバを提供する段階と、半導体基板を提供する段階と、前駆体ガスを提供する段階と、反応チャンバにおいて、ドープされた半導体材料のエピタキシャルCVD成長を実施して第1層を形成する段階と、水素及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスで反応チャンバを洗い流す段階と、反応チャンバにおいて、第2のドープされた半導体材料のエピタキシャルCVD成長を実施して第2層を形成する段階と、を含む半導体材料のエピタキシャル成長の間のメモリ効果を低減する方法を提供する。
【0014】
半導体基板は、洗浄工程の間チャンバ内に維持してよく、または洗浄工程より前に取り出してもよい。また、半導体基板(その上に第1層を備える)を洗浄工程より前に取り出し、第2層のエピタキシャル成長のために新たな半導体基板を洗浄工程の後に提供してもよい。
【0015】
反応チャンバは、約450℃から1800℃の間の温度、より好ましくは約1000℃から1600℃の間、またはそれ以上、最も好ましくは約1300℃から1600℃の間の温度で洗い流される。
【0016】
ハロゲン含有ガスは、HCl、Cl、F、CF、ClF、及びHBrから選択され得る。
【0017】
本発明の別の実施形態における方法は、反応チャンバを提供する段階と、半導体基板を提供する段階と、前駆体ガスを提供する段階と、n型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、p型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、その上に層を備えた基板を取り出す段階と、水素及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスで反応チャンバを洗い流す段階と、その上に層を備えた基板をチャンバ内に戻す段階と、前駆体ガスを提供する段階と、反応チャンバにおいてn型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、反応チャンバにおいてp型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、を含む。
【0018】
本発明の別の実施形態における方法は、反応チャンバを提供する段階と、半導体基板を提供する段階と、前駆体ガスを提供する段階と、反応チャンバにおいて第1p型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、水素及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスで反応チャンバを洗い流す段階と、第1p型ドープSiC層よりも低いドーパント濃度を有する第2p型ドープSiC層のエピタキシャルCVD成長を実施する段階と、を含む。
【0019】
上述の方法は、2つ以上のエピタキシャル層を備えるSiC、GaAs、GaN、またはSiGe構造に適用することができる。本方法はまた、基板及びエピタキシャル層が原則的に同一材料(ホモエピタキシー)または異なる材料(ヘテロエピタキシー)を含む構造に適用することができる。
【0020】
本方法によってSiC基板構造が形成される実施形態では、SiC半導体デバイスをCVD成長エピタキシャル層を含む基板上に形成することができる。
【0021】
従って、本発明は、半導体材料のエピタキシャル成長の間のメモリ効果を低減する方法を提供することを特徴とする。本発明のこれらおよびその他の特徴ならびに利点は、以下の発明の詳細な説明、添付の図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態によって形成されたp+SiCエピタキシャルCVD層におけるアルミニウム濃度を示すグラフである。
【図2】n−SiCエピタキシャルCVD形成層におけるアルミニウム濃度を示すグラフである。
【図3】n−SiCエピタキシャルCVD形成層における窒素濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法の実施形態は、従来のエピタキシャル成長に優るいくつかの利点を提供する。複数のエピタキシャル成長工程同士の間に高温ガス洗浄を組み込むことで、SiCにおける残留p型不純物からの望ましくないドーピングを抑制して再現可能なp−n構造の連続的成長を可能にすることができることが予期せず発見された。また、反応領域から副堆積物を著しく除去せずにメモリ効果が排除されることが発見された。
【0024】
CVD SiCエピタキシーのための本発明の好ましい実施形態では、化学気相成長反応チャンバ内の温度は約1550から1650℃の間、圧力は約100から150mbarの間に維持される。本発明において使用するための適切なシリコンソースガスは、ジクロロシラン及びトリクロロシランを含む。炭素ソースガスは、プロパンを含み得る。キャリアガスは水素を含み得る。n型ドーパントガスは窒素を含み、p型ドーパントガスはトリメチルアルミニウムを含み得る。
【0025】
本発明の方法の1実施形態では、p型ドープエピタキシャル層の形成後、反応チャンバを水素及びハロゲン含有ガスの混合ガスで洗い流す。ハロゲン含有ガスは、HCl、Cl、F、CF、ClF、またはHBrを含んでよく、好ましくは約0.001%から50%の間の濃度、さらに好ましくは約0.05%から20%の間の濃度、最も好ましくは約0.1から10%の間の濃度で使用することができる。しかし、当然のことながら、ハロゲン含有ガスの量は、反応チャンバの寸法及び表面積に応じて変更してよい。好ましい実施形態では、混合ガスは約60slmのH及び100sccmのHClを含む。
【0026】
「洗い流す(洗浄)」とは、主な前駆体種の非存在下、つまり堆積種が含まれないチャンバに混合ガスを通過させることを意味する。洗い流した後、別のn型ドープエピタキシャル層またはp型ドープエピタキシャル層を成長させることができる。目的とするn型またはp型層のドーパント濃度は、好ましくは約5×1013cm−3から1×1019cm−3の間である。
【0027】
本方法の別の実施形態では、第1p型ドープエピタキシャル層を成長させた後、水素/ハロゲン含有混合ガスで洗い流し、次いで第2p型ドープエピタキシャル層を成長させ、ここで第2p型ドープ層のドーパント濃度は第1層のものよりも低い。この実施形態では、第1p型ドープ層のドーパント濃度は約1×1016cm−3から1×1019cm−3の間であり、第2p型ドープ層のドーパント濃度は約5×1013から1×1017cm−3の間である。水素/ハロゲン含有洗浄用混合ガスを使用することで、反応チャンバ内での先のエピタキシャル成長工程からの残留不純物が効果的に除去され、メモリ効果が著しく低減する。連続するエピタキシャル工程の各々の間にCVD反応チャンバが洗い流される限り、連続するn型及びp型層または連続するp+/p−型層のドーピング濃度を再現することが可能である。本方法は、PiNダイオード、MESFETS、バイポーラ接合トランジスタ、及び類似のものなどの多様な多層SiCデバイス構造を成長させるために使用することができる。
【0028】
当然のことながら、SiCエピタキシー構造が、ドーパントキャリアの型が変化する(p−n)、または第3層(例えばn−p−n)が所望されるような成長順序を必要とする場合は、各成長工程に続いて洗い流す工程を実施することができる。洗い流す工程の間に基板がチャンバ内に維持されるような場合には、洗い流す段階は、既に成長した層の一部をエッチングした結果であり得る。従って、所望の厚さのp型層を得るためには、洗浄の間にエッチング除去可能な追加の厚さ範囲を含む厚さに成長させて、所望の最終厚さが得られるようにすべきである。連続する層の各々がより低いドーパント濃度を有するような複数のp型層を成長させる場合にも同様の技術を採用することができる。
【0029】
本発明をより理解し易くするために、以下の実施例を参照する。これらは本発明の例示を目的とするものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
マルチウエハ遊星運動誘導加熱CVD反応チャンバにおいて以下の工程条件下でSiCエピタキシャル成長工程を実施した。
【0031】
【表1】

【0032】
n+(層1)n−(層2)/p+(層3)を備えた薄膜構造のSiC CVDエピタキシャル成長の直後に反応チャンバから基板を取り出し、100sccmのHClガス及び60slmのHの混合ガスでチャンバを洗い流した。HCl/H混合ガスは、圧力500mbar、温度1600℃で4時間SiCエピタキシー反応器内に導入した。洗い流す工程に続いて、新たな基板をチャンバ内に配置し、低ドープn型SiCのSiC CVDエピタキシー工程を実施した。結果を以下の表1に示す。
【0033】
【表2】

[表1]
【0034】
この結果から、3つの連続したn型ドープ層成長実験(134〜136)によってn型ドープレベルの基準値が設定され、水銀プローブC−V測定に基づいて約2×1015cm−3n型である一貫して低い総ドープ濃度が得られたことが示される。次にp+層成長(実験137)を実施し、続いて4時間HCl/H洗浄を行った。次に、同様の条件下でn型ドープ層を成長させ、総ドープ濃度2.1×1015cm−3n型を得た。この結果から、残留アルミニウムが反応チャンバから除去され、HCl/H洗浄で清浄な環境が得られたことが示唆される。続く実験138では、サイクルを2回以上連続して繰り返した。層のn型ドーパント濃度の再現性は表1において示唆されている。n型層における総ドープの制御は2倍以内で維持された。
【0035】
サンプル137をSIMS(二次イオン質量分析法)で分析すると、図1に示すように1×1019cm−3を超える濃度のアルミニウムが検出された。サンプル138も同様にSIMSで分析すると、図2及び3に示すように、窒素及びアルミニウムの両方が検出限界(それぞれ2×1015cm−3及び5×1013cm−3)以下であった。
【0036】
p+SiCエピ層成長後のH/HCl洗浄段階によって、反応チャンバから残留アルミニウム源が効果的に除去され、ドープメモリ効果が著しく低減すると結論付けることができる。
【0037】
発明の詳細に説明及び好ましい実施形態の参照によって、本発明の範囲から逸脱しない範囲で修正及び変形を行うことが可能であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料のエピタキシャル成長の間のメモリ効果を低減する方法であって、
反応チャンバを提供する段階と、
半導体基板を提供する段階と、
前駆体ガスを提供する段階と、
前記反応チャンバにおいて、ドープされた半導体材料のエピタキシャルCVD成長を実施して第1層を形成する段階と、
水素及びハロゲン含有ガスを含む混合ガスで前記反応チャンバを洗い流す段階と、
前記反応チャンバにおいて、ドープされた半導体材料のエピタキシャルCVD成長を実施して第2層を形成する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
前記反応チャンバを約450℃から1800℃の間の温度で洗い流す請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応チャンバを約1300℃から1600℃の間の温度で洗い流す請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記半導体材料がSiC、GaN、GaAs、及びSiGeから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化ガスがHCl、Cl、F、CF、ClF、及びHBrから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記洗い流す段階の間、前記半導体基板を前記チャンバ内に維持する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記洗い流す段階より前に前記チャンバから前記半導体基板を取り出し、前記洗い流す段階の後に戻す請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記洗い流す段階より前に前記チャンバから前記半導体基板を取り出し、前記洗い流す段階の後に新たな半導体基板と取り替える請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ドープされた半導体材料の前記第1層がn型ドープSiCを含み、ドープされた半導体材料の前記第2層がp型ドープSiCを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ドープされた半導体材料の前記第1層がp型ドープSiCを含み、ドープされた半導体材料の前記第2層が前記第1層よりも低いドーパント濃度を有するp型ドープSiCを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ハロゲン含有ガスの濃度が約0.1から10%の間である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって作製された基板上に形成された炭化ケイ素半導体デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−523214(P2011−523214A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512535(P2011−512535)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/045551
【国際公開番号】WO2009/148930
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】