説明

半導体装置の製造方法

【課題】高周波数動作が可能な半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、成長炉内に配置した基板10上に、GaN電子走行層16を成長する工程と、成長炉に導入する混合ガス中の窒素原料ガスの分圧比を0.15以上0.35以下として、GaN電子走行層16上に、InAlN電子供給層18を成長する工程と、InAlN電子供給層18上に、ゲート電極26と、ゲート電極26を挟むソース電極28およびドレイン電極30と、を形成する工程と、を有する半導体装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子などに用いられている。例えば、非特許文献1には、半絶縁性基板上に、バッファ層、GaN電子走行層、AlGaN電子供給層を順次積層し、AlGaN電子供給層との界面近傍でGaN電子走行層に発生する2次元電子ガス(2DEG:two dimensional electron gas)を利用して動作するHEMT(High Electron Mobility transistor)構造の半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】高橋清監修、「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、森北出版、2006年3月31日、p.242−243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に係るHEMT構造の半導体装置において、より高周波数での動作を求める要望が強い。より高周波数での動作を実現するには、相互コンダクタンスを高くすることが求められ、具体的には、AlGaN電子供給層を薄くした状態で2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることが求められる。
【0005】
2次元電子ガスのシート抵抗を低くするためには、AlGaN電子供給層のAl組成比を上げて、より高濃度の2次元電子ガスを発生させることが考えられる。しかしながら、高Al組成のAlGaN電子供給層はGaN電子走行層との格子不整合が大きくなるため、2次元電子ガスの移動度が低下してしまう。2次元電子ガスの移動度の低下は、2次元電子ガスのシート抵抗の増大をもたらしてしまう。一方、Al組成比を上げずに単純にAlGaN電子供給層を薄くした場合は、2次元電子ガスの濃度が低下し、2次元電子ガスのシート抵抗が高くなってしまう。このように、AlGaN電子供給層を用いたHEMT構造の半導体装置では、高周波数動作の限界が生じている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高周波数動作が可能な半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、成長炉内に配置した基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層を成長する工程と、前記成長炉に導入する混合ガス中の窒素原料ガスの分圧比を0.15以上0.35以下として、前記電子走行層上に、InAlNからなる電子供給層を成長する工程と、前記電子供給層上に、ゲート電極と、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極と、を形成する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、InAlNからなる電子供給層の表面平坦性を良好にすることができ、また、2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることができるため、高周波数動作が可能となる。
【0008】
本発明は、成長炉内に配置した基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層を成長する工程と、前記電子走行層を成長する際よりも前記成長炉に導入する混合ガス中の窒素原料ガスの分圧比が低い条件で、前記電子走行層上に、InAlNからなる電子供給層を成長する工程と、前記電子供給層上に、ゲート電極と、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極と、を形成する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることができ、また、InAlNからなる電子供給層の表面平坦性を良好にすることも可能となるため、高周波数動作が可能となる。
【0009】
上記構成において、前記電子走行層を成長する際の前記窒素原料ガスの流量に比べて、前記電子供給層を成長する際の前記窒素原料ガスの流量が小さい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記窒素原料ガスは、アンモニアガスである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記電子供給層は、600℃から800℃の範囲で成長される構成とすることができる。この構成によれば、高品質のInAlNからなる電子供給層を得ることができる。
【0012】
上記構成において、前記電子供給層の成長後、同じ成長炉内において前記電子供給層上にGaN層を成長する工程を有する構成とすることができる。この構成によれば、InAlNからなる電子供給層の表面の酸化を抑制することができる。
【0013】
上記構成において、前記窒素原料ガスの分圧比は、前記成長炉内に導入される混合ガスのモル比によって制御される構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記成長された電子供給層のIn組成比が12%以上35%以下である構成とすることができる。この構成によれば、a軸方向の格子歪みによるクラックの発生を抑制することができる。
【0015】
上記構成において、前記成長された電子供給層のIn組成比が12%以上18%以下である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記成長された電子供給層のIn組成比が17%以上18%以下である構成とすることができる。この構成によれば、電子走行層と電子供給層の格子歪みを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、InAlNからなる電子供給層の表面平坦性を良好にすることができ、また、2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることができるため、高周波数動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、2次元電子ガスのシート抵抗とInAlN電子供給層の表面平坦性を測定するために作製したエピタキシャル層の断面図の例である。
【図2】図2は、InAlN電子供給層を成長させる際のアンモニアガスの分圧比に対する2次元電子ガスのシート抵抗の測定結果を示す図である。
【図3】図3は、InAlN電子供給層を成長させる際のアンモニアガスの分圧比に対するInAlN電子供給層の表面平坦性の測定結果を示す図である。
【図4】図4は、図2と図3を合わせたものである。
【図5】図5は、実施例1に係る半導体装置の断面図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず初めに、発明者が行った実験について説明する。図1は、2次元電子ガスのシート抵抗とInAlN電子供給層の表面平坦性を測定するために作製したエピタキシャル層の断面図の例である。エピタキシャル層は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて成長される。図1を参照して、まず、Siからなる基板10を、MOCVD装置の成長炉内に配置する。そして、基板10上に、以下の成長条件にて、AlN層12を成長させる。なお、以下に説明する結晶成長では、特に注釈しないかぎり、キャリアガスとして水素を用いる。
Al原料ガス:TMA(トリメチルアルミニウム)
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
膜厚 :300nm
【0020】
AlN層12上に、以下の成長条件にて、AlGaN層14を成長させる。AlN層12とAlGaN層14は、バッファ層として機能する。
Al原料ガス:TMA
Ga原料ガス:TMG(トリメチルガリウム)
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
III族組成比(Al組成比):50%
膜厚 :150nm
【0021】
AlGaN層14上に、以下の成長条件にて、GaN電子走行層16を成長させる。なお、以下においてアンモニアガス(NH)の分圧比とは、成長炉に導入される全てのガス(キャリアガス+原料ガス)中におけるアンモニアガスの分圧比をいう(以下において同じ)。つまり、アンモニアガスの分圧比とは、成長炉に導入する混合ガス中のアンモニアガスの分圧比をいう。なお、この分圧比は成長炉内に導入される混合ガスのモル比と一致する。分圧比の設定は、混合ガスのモル比の制御によって行う。
Ga原料ガス:TMG
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
アンモニアガス(NH)の分圧比:0.5
膜厚 :500nm
【0022】
キャリアガスを水素から窒素に変えた後、GaN電子走行層16上に、以下の成長条件にて、InAlN電子供給層18を成長させる。
In原料ガス:TMI(トリメチルインジウム)
Al原料ガス:TMA
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:750℃
III族組成比(In組成比):17%
アンモニアガス(NH)の分圧比:0.1〜0.5
膜厚 :10nm
【0023】
本実験で電子供給層として使用したInAlNは、GaNと格子整合し、また、InAlNとGaNの大きな自発分極差と、伝導帯の大きな不連続により、GaN電子走行層16に高濃度の2次元電子ガスが得られることが期待できる。即ち、InAlN電子供給層18を用いることで、InAlN電子供給層18を薄層化させた状態でも、2次元電子ガスのシート抵抗が低くなることが期待できる。
【0024】
ここで、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.1〜0.5の間で振って作製した複数のエピタキシャル層それぞれについて、GaN電子走行層16に生成される2次元電子ガスのシート抵抗と、InAlN電子供給層18の表面平坦性を測定した。図2は、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比に対する2次元電子ガスのシート抵抗の測定結果を示す図である。図3は、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比に対するInAlN電子供給層18の表面平坦性の測定結果を示す図である。図4は、図2と図3を合わせたものであり、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比に対する2次元電子ガスのシート抵抗およびInAlN電子供給層18の表面平坦性の測定結果を示す図である。
【0025】
図2を参照して、2次元電子ガスのシート抵抗は、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比に依存していることが分かる。具体的には、アンモニアガスの分圧比が0.35以下では、アンモニアガスの分圧比が大きくなるに従い、2次元電子ガスのシート抵抗は徐々に増加していき、アンモニアガスの分圧比が0.35を超えると急激に増加する。したがって、図2から、2次元電子ガスのシート抵抗を小さくするには、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.35以下とするのがよいことが分かる。
【0026】
次に、図3を用いて、InAlN電子供給層18の表面平坦性を説明する。InAlN電子供給層18の表面モフォロジーは、電子移動度に影響を与えるため、InAlN電子供給層18の表面は平坦であることが求められる。つまり、InAlN電子供給層18の表面平坦性が劣化すると、2次元電子ガスの移動度も低下してしまうことになる。2次元電子ガスの移動度の低下は、2次元電子ガスのシート抵抗の増大をもたらすため、相互コンダクタンスが小さくなり、高周波数特性が劣化してしまう。
【0027】
図3を参照して、InAlN電子供給層18の表面平坦性は、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比に依存していることが分かる。具体的には、アンモニアガスの分圧比が0.15までは、アンモニアガスの分圧比が大きくなるに従い、InAlN電子供給層18の表面のHaze値は急激に低下していく。そして、アンモニアガスの分圧比が0.15以上となると、アンモニアガスの分圧比が大きくなるに従い、InAlN電子供給層18の表面のHaze値は徐々に低下していく。例えば、アンモニアガスの分圧比が0.15の場合の、InAlN電子供給層18の表面におけるHaze値は50ppmであり、0.2の場合のHaze値は47ppmである。図3から、InAlN電子供給層18の表面平坦性の観点からは、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.15以上とするのがよいことが分かる。
【0028】
そこで、上記の実験結果を踏まえて、高周波数動作が可能な半導体装置の実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0029】
図5は、実施例1に係る半導体装置の断面図の例である。実施例1に係る半導体装置のエピタキシャル層は、MOCVD法を用いて成長される。図5を参照して、Siからなる基板10を、MOCVD装置の成長炉内に配置した後、基板10上に、以下の成長条件にて、AlN層12を成長させる。なお、以下に説明する結晶成長では、特に注釈しないかぎり、キャリアガスとして水素を用いる。
Al原料ガス:TMA
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
膜厚 :300nm
【0030】
AlN層12上に、以下の成長条件にて、AlGaN層14を成長させる。AlN層12とAlGaN層14は、バッファ層として機能する。
Al原料ガス:TMA
Ga原料ガス:TMG
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
III族組成比(Al組成比):50%
膜厚 :150nm
【0031】
AlGaN層14上に、以下の成長条件にて、GaN電子走行層16を成長させる。
Ga原料ガス:TMG
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
アンモニアガス(NH)の分圧比:0.5
膜厚 :500nm
【0032】
GaN電子走行層16上に、以下の成長条件にて、AlNスペーサ層20を成長させる。GaN電子走行層16とInAlN電子供給層18との間にAlNスペーサ層20を設けることで、2次元電子ガスの移動度の向上が期待できる。AlNスペーサ層20は、例えばGaN電子走行層16の上面に接して成長される。
Al原料ガス:TMA
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
膜厚 :1nm
【0033】
キャリアガスを水素から窒素に変えた後、AlNスペーサ層20上に、以下の成長条件にて、InAlN電子供給層18を成長させる。InAlN電子供給層18は、GaN電子走行層16に2次元電子ガス22を生成する。InAlN電子供給層18は、例えばAlNスペーサ層20の上面に接して成長される。
In原料ガス:TMI
Al原料ガス:TMA
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:750℃
III族組成比(In組成比):17%
アンモニアガス(NH)の分圧比:0.15〜0.35
膜厚 :10nm
【0034】
キャリアガスを再度窒素から水素に変えた後、InAlN電子供給層18上に、以下の成長条件にて、GaN層24を成長させる。GaN層24は、例えばInAlN電子供給層18の上面に接して成長される。
Ga原料ガス:TMG
N原料ガス:アンモニアガス(NH
成長温度:1000℃
膜厚 :5nm
【0035】
GaN層24上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、ゲート電極26と、ゲート電極26を挟むソース電極28およびドレイン電極30を形成する。ゲート電極26は、例えばGaN層24側からNi(ニッケル)、Au(金)が順次積層された2層構造をしている。ソース電極28およびドレイン電極30は、例えばGaN層24側からTi(チタン)、Al(アルミニウム)が順次積層された2層構造をしたオーミック電極である。
【0036】
GaN層24上であって、ゲート電極26、ソース電極28、およびドレイン電極30が設けられていない領域に、例えばプラズマCVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)法を用いて、例えばSiN(窒化シリコン)からなる保護膜32を形成する。
【0037】
以上説明してきたように、実施例1によれば、成長炉内に配置した基板10上に、GaN電子走行層16を成長し、その後、アンモニアガスの分圧比を0.15以上且つ0.35以下として、GaN電子走行層16上にInAlN電子供給層18を成長する。そして、InAlN電子供給層18上に、ゲート電極26と、ゲート電極26を挟むソース電極28およびドレイン電極30と、を形成する。図3で説明したように、InAlN電子供給層18の表面平坦性の劣化は、2次元電子ガスの移動度の低下による2次元電子ガスのシート抵抗の増大をもたらし、高周波数特性の劣化を引き起こしてしまう。しかしながら、実施例1では、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.15以上としているため、図3のように、InAlN電子供給層18の表面平坦性を良好にすることができる。また、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.35以下としているため、図2のように、2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることができる。したがって、実施例1に係る半導体装置によれば、高周波数動作が可能となる。
【0038】
図4のように、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比が小さい程、2次元電子ガスのシート抵抗は小さくなり、アンモニアガスの分圧比が大きい程、InAlN電子供給層18の表面平坦性は良好となる。このことを踏まえると、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比は、0.18以上且つ0.32以下である場合が好ましく、0.2以上且つ0.3以下である場合がより好ましい。
【0039】
また、実施例1によれば、GaN電子走行層16を成長する際のアンモニアガスの分圧比は0.5であり、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比は0.15〜0.35である。即ち、基板10上にGaN電子走行層16を成長した後、GaN電子走行層16を成長する際よりもアンモニアガスの分圧比が低い条件で、GaN電子走行層16上にInAlN電子供給層18を成長している。図2のように、GaN電子走行層16を成長する際のアンモニアガスの分圧比0.5でInAlN電子供給層18を成長すると、2次元電子ガスのシート抵抗は高くなってしまう。InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比が低くなるほど、2次元電子ガスのシート抵抗は低下することから、GaN電子走行層16を成長する際のアンモニアガスの分圧比よりも低いアンモニアガスの分圧比でInAlN電子供給層18を成長することで、2次元電子ガスのシート抵抗を低くすることができる。また、図3のように、InAlN電子供給層18の表面平坦性を良好にすることも可能となる。よって、高周波数動作が可能となる。
【0040】
GaN電子走行層16を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.5、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの分圧比を0.15〜0.35とすることを、アンモニアガスの流量を調整することで行っている。即ち、GaN電子走行層16を成長する際のアンモニアガスの流量に比べて、InAlN電子供給層18を成長する際のアンモニアガスの流量を小さくしている。例えば、GaN電子走行層16を成長する際のTMGの流量を20mL/min、アンモニアガスの流量を10L/minとし、InAlN電子供給層18を成長する際のTMIの流量を30mL/min、TMAの流量を400mL/min、アンモニアガスの流量を5L/minとすることができる。
【0041】
実施例1では、GaN電子走行層16およびInAlN電子供給層18を成長する際の窒素原料ガスとしてアンモニアガスの場合を例に説明してきたが、アンモニアガス以外の窒素原料ガスを用いて、GaN電子走行層16およびInAlN電子供給層18を成長する場合でもよい。
【0042】
InAlN電子供給層18は、600℃から800℃の範囲の成長温度で成長される場合が好ましい。InAlNは高温で成長を行うと、Inが優先的に昇華してしまい、Inが欠損した結晶となり高品質のInAlN電子供給層18が得られない。よって、600℃から800℃の範囲の成長温度で成長をすることで、Inが優先的に昇華することを抑制でき、高品質のInAlN電子供給層18を得ることができる。
【0043】
図5のように、InAlN電子供給層18を成長した後、同じ成長炉内においてInAlN電子供給層18上にGaN層24を成長している。InAlN電子供給層18は、Alを含んでいるため、大気に曝されると表面酸化が進み易く、酸化アルミニウムなどが形成され、大きな不良要因となってしまう。したがって、InAlN電子供給層18上にGaN層24を成長させない場合でもよいが、InAlN電子供給層18の表面酸化を抑制する点からは、GaN層24を成長させる場合が好ましい。
【0044】
上述したように、アンモニアガスの分圧比は、成長炉内に導入される混合ガスのモル比によって制御することができる。
【0045】
図5のように、GaN層24に凹部を設けず、GaN層24の上面にゲート電極26、ソース電極28、およびドレイン電極30を形成する場合を例に示したが、これに限られるわけではない。例えば、GaN層24に凹部を設けて、この凹部にゲート電極26を形成したゲートリセス構造の場合でもよく、またオーミックリセス構造の場合でもよい。
【0046】
InAlN電子供給層18のIn組成比は17%である場合を例に示したが、これに限られない。In組成比が12%より小さいまたは35%より大きい場合は、a軸方向の格子歪みが大きくクラックが生じてしまうため、成長されたInAlN電子供給層18のIn組成比は12%以上且つ35%以下であることが好ましい。また、In組成比が18%以下であると、2次元電子ガスのシート抵抗が下がっていく傾向にあるため、成長されたInAlN電子供給層18のIn組成比は12%以上且つ18%以下であることがより好ましい。また、成長されたInAlN電子供給層18のIn組成比が17%以上且つ18%以下の範囲内であることがさらに好ましい。In組成比が17%以上且つ18%以下である場合は、InAlNはGaNと格子整合するので格子歪みが抑制されるためである。
【0047】
GaN層24は、i型の場合でもn型の場合でもよい。n型の場合は、表面電荷が安定し易く、また高温でn型のGaNを成長することでドーパントの活性化率が上がり、より表面電荷が安定されるため、デバイス全体のバンド構造が安定化し不良が低減する。なお、nドーパントとしてはSiH(シラン)を用いることができる。
【0048】
基板10はSi基板である場合を例に示したが、その他に、SiC基板、GaN基板、サファイア基板、Ga基板などを用いることができる。また、成長に用いる原料ガスは、上述した原料ガスの他に、Al原料ガスとしてTEA(トリエチルアルミニウム)、Ga原料ガスとしてTEG(トリエチルガリウム)を用いることができる。
【0049】
スペーサ層は、AlNスペーサ層20である場合を例に示したが、この場合に限られず、AlGa1−yN(0≦y≦1)からなるスペーサ層を用いることができる。なお、製造容易性を考慮すると、スペーサ層はAlNからなる場合が好ましい。また、電子走行層は、GaN電子走行層16である場合を例に示したが、この場合に限られず、BαAlβGaγIn1−α−β−γNからなる窒化物半導体であって、電子供給層のInAl1−XNとa軸格子定数が合うように下記の式を満たす材料を用いることができる。
2.55α+3.11β+3.19γ+3.55(1−α−β−γ)=3.55X+3.11(1−X)
【0050】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 基板
12 AlN層
14 AlGaN層
16 GaN電子走行層
18 InAlN電子供給層
20 AlNスペーサ層
22 2次元電子ガス
24 GaN層
26 ゲート電極
28 ソース電極
30 ドレイン電極
32 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長炉内に配置した基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層を成長する工程と、
前記成長炉に導入する混合ガス中の窒素原料ガスの分圧比を0.15以上0.35以下として、前記電子走行層上に、InAlNからなる電子供給層を成長する工程と、
前記電子供給層上に、ゲート電極と、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極と、を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
成長炉内に配置した基板上に、窒化物半導体からなる電子走行層を成長する工程と、
前記電子走行層を成長する際よりも前記成長炉に導入する混合ガス中の窒素原料ガスの分圧比が低い条件で、前記電子走行層上に、InAlNからなる電子供給層を成長する工程と、
前記電子供給層上に、ゲート電極と、前記ゲート電極を挟むソース電極およびドレイン電極と、を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記電子走行層を成長する際の前記窒素原料ガスの流量に比べて、前記電子供給層を成長する際の前記窒素原料ガスの流量が小さいことを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記窒素原料ガスは、アンモニアガスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記電子供給層は、600℃から800℃の範囲で成長されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記電子供給層の成長後、同じ成長炉内において前記電子供給層上にGaN層を成長する工程を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記窒素原料ガスの分圧比は、前記成長炉内に導入される混合ガスのモル比によって制御されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記成長された電子供給層のIn組成比が12%以上35%以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記成長された電子供給層のIn組成比が12%以上18%以下であることを特徴とする請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記成長された電子供給層のIn組成比が17%以上18%以下であることを特徴とする請求項9記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−26410(P2013−26410A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159229(P2011−159229)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】