説明

半導体装置

【課題】被トリミング素子の確実な溶断と下地基板のダメージ低減とを同時に実現可能な半導体装置を提供する。
【解決手段】下地基板10上に被トリミング素子20が配置されており、当該素子20に被さるように絶縁層30が配置されている。絶縁層30はシリコン酸化膜31から成り、具体的にはBPSG等のリンを含有したシリケートガラスが好ましい。酸化膜31において被トリミング素子20上の厚さdは約90〜270nmであり、酸化膜31は被トリミング素子20上においてトリミング用レーザーに対して約80%以上の透過率を有する。絶縁層30として被トリミング素子20上での厚さdが約65〜195nm程度のシリコン窒化膜を用いても上述の約80%以上の透過率が得られる。被トリミング素子20の下に回路素子14が配置されている。被トリミング素子20と酸化膜12との間にシリコン窒化膜を配置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、具体的にはレーザートリミングに際して被トリミング素子の確実な溶断(切断)と下地基板のダメージ低減とを同時に実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の特性の微調整や不良回路ブロックと冗長回路ブロックとの置き換え、すなわちトリミングに、ポリシリコンまたは金属から成る被トリミング素子が用いられている。このようなトリミングは、被トリミング素子を切断対象となる配線に挿入しておき当該被トリミング素子を後に切断するだけという簡単なプロセスによって特性の調整等が可能であることから、広く用いられている。被トリミング素子は、IC(Integrated Circuit)内のトランジスタのゲート電極、抵抗、配線等に用いられているポリシリコン層または配線と同時に形成され、レーザーリペア装置でレーザー(レーザービーム)を照射することによって溶断される(レーザートリミング)。
【0003】
図11および図12に従来の半導体装置1Zを説明するための断面図および平面図を示す。まず、図11に示すように、半導体基板11Z上に600nm程度のLOCOS(Local Oxidation of Silicon)酸化膜12Zが配置されており、その上にポリシリコンから成る被トリミング素子20Zが配置されている。被トリミング素子20Zは、ポリシリコン膜の堆積、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。被トリミング素子20Zに被さるようにCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜から成る保護膜31Zが配置されており、その上に配線41Zが配置されている。配線41Zは、AlSi膜のスパッタリング形成、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。配線41Zに被さるように、CVDによって形成された層間絶縁膜32Z,33Zがこの順序で積層されている。層間絶縁膜33Z上には配線45Zが配置されている。配線45ZはAlSi膜のスパッタリング形成、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。配線45Zに被さるようにかつ被トリミング素子20Z上方は開口するように(開口50aZ参照)、層間絶縁膜33Z上にシリコン窒化膜から成るカバー膜50Zが配置されている。ここで、被トリミング素子20Zの上方を開口するのは被トリミング素子20Zをレーザーによって溶断しやすくするためである。
【0004】
なお、保護膜31Zおよび層間絶縁膜32Z,33Zをまとめて「絶縁層30Z」と呼ぶことにする。
【0005】
このような従来の半導体装置1Zについて、被トリミング素子20Zの溶断のメカニズムを説明する。まず、被トリミング素子20Zにレーザー2(図12参照)を照射すると、被トリミング素子20Zはレーザー2を吸収して気化する。気化した被トリミング素子20Z(ポリシリコン)は逃げ場が無いため、被トリミング素子20Zの配置場所に滞留するが、気化が進むと被トリミング素子20Zの気化圧力(膨張圧力)が急激に上昇し、圧力に耐えられなくなった絶縁層30Zが破裂する。このように破裂した絶縁層30Zから、気化した被トリミング素子20Z(ポリシリコン)が噴出することによって被トリミング素子20Zが溶断(切断)される。
【0006】
このとき、図12に示すように、レーザー2のスポット径は被トリミング素子20Zの幅よりも十分広いものが用いられる。これは、レーザースポットの位置精度ばらつきによって位置ずれが若干発生しても被トリミング素子20Zを切断することができるようにするためである。なお、図12にはカバー膜50Zの開口50aZ内(開口50aZ下)に被トリミング素子20Zが3本在る場合を例示している。
【0007】
【特許文献1】特開平11−135730号公報
【特許文献2】特開2001−308276号公報
【特許文献3】特開2003−264230号公報
【特許文献4】特開平7−22585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の半導体装置1Zにはレーザートリミングに対して次のような問題がある。
【0009】
第1の問題として、絶縁層30Zの厚さがばらつくと当該絶縁層30Zでのレーザー2の透過率がばらつき、当該透過率が低い場合には被トリミング素子20Zが切れない等の問題がある。
【0010】
第2の問題として、上述のようにレーザースポットの位置精度ばらつきを考慮してレーザースポットを広くとる場合には、被トリミング素子20Zだけでなく被トリミング素子20Z付近の箇所にもレーザー2が当たってしまうという問題がある。従来のレーザートリミングでは、絶縁層30Zの厚さが上述のようにばらついても、換言すれば透過率がばらついても、被トリミング素子20Zが確実に切れるようにレーザー2のエネルギーを設定している。すなわち、透過率が最大の場合と最低の場合とのいずれでも被トリミング素子20Zを切断できるように、その差分、例えば30%以上もの大きなエネルギーを上乗せした出力で、レーザー2を利用している。このため、レーザースポットを広くとると、そのような高エネルギーのレーザー2が被トリミング素子20Z付近の箇所にも照射され、その箇所の下地にダメージを与える場合がある。
【0011】
第3の問題として、絶縁層30Zが厚いと、トリミング時に絶縁層30Zがスムーズに破裂せず、被トリミング素子20Zの気化圧力によって下地にダメージを与えるという問題がある。
【0012】
ここで、特許文献4には、被トリミング素子上の保護膜を3層で形成することによってばらつきを抑えて一定の透過率にする技術が開示されている。しかし、この技術によれば、保護膜が厚いので、レーザーの波長や下地膜の材質によっては、被トリミング素子の気化が保護膜の側へうまく抜けずに下地にダメージを与える場合があると思われる。
【0013】
なお、上述の第2および第3の問題によるダメージを懸念して、従来の半導体装置1Zでは、被トリミング素子20Zの下に回路素子等が配置されていない。
【0014】
本発明は、かかる点にかんがみてなされたものであり、被トリミング素子の確実な溶断と下地基板のダメージ低減とを同時に実現可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明は、半導体装置において、下地基板と、前記下地基板上に配置された被トリミング素子と、前記被トリミング素子に被さるように前記下地基板上に配置されており、少なくとも1層から成り、前記被トリミング素子に照射されるレーザーに対して前記被トリミング素子上において約80%以上の透過率を有する、絶縁層とを備えることを特徴とする。このような構成によれば、絶縁層が被トリミング素子上においてレーザー(トリミング用レーザー)に対して約80%以上の透過率を有するので、レーザーのエネルギーを従来のように大幅に上乗せして設定する必要がない。すなわち、レーザーのエネルギーを従来よりも減少させても、被トリミング素子を確実に溶断することができる。このとき、レーザーのエネルギー低減によって、下地基板の被トリミング素子付近にレーザーが照射されても下地基板へのダメージを低減することができる。このように、被トリミング素子の確実な溶断と下地基板のダメージ低減とを同時に実現することができる。
【0016】
そして、前記絶縁層は単一の材料の1層から成ることが好ましい。このような構成によれば、多層構造の絶縁層に比べて、絶縁層の設計(透過率、厚さ等)およびその設計の実現が容易であるし、製膜コストや膜管理コストが少なくてすむ。
【0017】
また、前記レーザーの波長をλ[nm]とし、前記絶縁層の屈折率をnとするとき、前記絶縁層は前記被トリミング素子上において約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の厚さを有することが好ましい。このような構成によれば、上述の透過率を有する絶縁層を実現することができる。このとき、当該厚さ範囲は絶縁層の上記透過率が最大になる厚さ(約{(λ/n)/4})を中央に有するので、透過率のばらつきを抑えることができる。これにより、エネルギーマージン(被トリミング素子の切断残りと下地基板のダメージとのいずれもが発生しないレーザーのエネルギー範囲)内でのレーザートリミングがより確実になり、量産性が向上する。さらに、当該厚さ範囲によれば、レーザー照射時に、被トリミング素子の適度な気化圧力(膨張圧力)が得られるとともに絶縁層の破裂をスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子を確実にかつきれいに溶断できるし、被トリミング素子の膨張(気化)による下地基板へのダメージを低減することができる。
【0018】
さらに、本発明は、半導体装置において、下地基板と、前記下地基板上に配置された被トリミング素子と、前記被トリミング素子に被さるように前記下地基板上に配置されており、単一の材料の1層から成る、絶縁層とを備え、前記被トリミング素子に照射されるレーザーの波長をλ[nm]とし、前記絶縁層の屈折率をnとするとき、前記絶縁層は前記被トリミング素子上において約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の厚さを有することを特徴とする。このような構成によれば、絶縁層の透過率を被トリミング素子上においてレーザー(トリミング用レーザー)に対して約80%以上に設定することができ、さらにレーザー照射時に被トリミング素子の適度な気化圧力(膨張圧力)が得られるとともに絶縁層の破裂をスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子の確実な溶断と下地基板のダメージ低減とを同時に実現することができる。また、透過率ばらつきの低減によってエネルギーマージン内でのレーザートリミングがより確実になり、量産性が向上する。さらに、絶縁層は単一の材料の1層から成るので、絶縁層の設計(透過率、厚さ等)およびその設計の実現が容易であるし、製膜コストや膜管理コストが少なくてすむ。
【0019】
そして、前記絶縁層の前記厚さは約{(λ/n)/4}近傍の値であることが好ましい。このような構成によれば、絶縁層の上記透過率が略最大になるので、トリミング用レーザーのいっそうの低エネルギー化を図ることができる。このため、被トリミング素子付近へのレーザー照射による下地基板のダメージをさらに低減することができる。
【0020】
また、前記絶縁層はシリコン酸化膜から成ることが好ましい。このような構成によれば、シリコン酸化膜は被トリミング素子上の絶縁層として硬過ぎずやわらか過ぎないので、レーザー照射時に、被トリミング素子の適度な気化圧力が得られるとともに絶縁層の破裂をスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子を確実にかつきれいに溶断できるし、被トリミング素子の膨張による下地基板へのダメージを低減することができる。さらに、シリコン酸化膜は半導体製造技術で一般的に用いられる材料なので、特殊な材料を用いる場合に比べて低コストである。
【0021】
また、前記シリコン酸化膜はリンを含有したシリケートガラスであることが好ましい。このような構成によれば、リンを含有したシリケートガラスはシリコン酸化膜(シリコン酸化物)のなかでもやわらかい材質なので、絶縁層の破裂をよりスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子の膨張による下地基板へのダメージをさらに低減することができる。
【0022】
また、前記シリコン酸化膜は前記被トリミング素子上において約90nm以上約270nm以下の厚さを有することが好ましく、このような構成によれば、上述の効果を奏する絶縁層を提供することができる。
【0023】
また、前記絶縁層は第1シリコン窒化膜から成ることが好ましい。このような構成によれば、シリコン酸化膜から成る絶縁層に比べて透過率の最大値を上げることができるので、レーザーのエネルギー低減を促進することができる。さらに、レーザー波長が短い場合や被トリミング素子が太く(例えば幅が3.0μmより太い場合等)溶断しにくい場合であっても、硬いシリコン窒化膜(シリコン窒化物)によって気化圧力を確保することができる。このため、被トリミング素子を確実にかつきれいに溶断できる。さらに、シリコン窒化膜は半導体製造技術で一般的に用いられる材料なので、特殊な材料を用いる場合に比べて低コストである。
【0024】
また、前記第1シリコン窒化膜は前記被トリミング素子上において約65nm以上約195nm以下の厚さを有することが好ましく、このような構成によれば、上述の効果を奏する絶縁層を提供することができる。
【0025】
また、前記下地基板は、前記被トリミング素子の下に配置された第2シリコン窒化膜を含むことが好ましい。このような構成によれば、被トリミング素子直下の硬度を向上させることができ、溶断時の下地基板側へのダメージを軽減できる。
【0026】
また、前記下地基板は、前記被トリミング素子の下方に配置された、回路素子と配線との少なくとも一方を含むことが好ましい。このような構成によれば、従来では利用されていなかったスペースに回路素子や配線が配置されているので、半導体装置の高集積化や小型化を図ることができる。
【0027】
また、前記被トリミング素子はポリシリコンから成ることが好ましい。このような構成によれば、ポリシリコンはレーザーによって気化しやすいので、他の材質に比べて溶断するのに十分な圧力が確保しやすくなる。
【0028】
また、前記絶縁層よりも前記下地基板から遠くに配置されており、前記絶縁層に被さるように配置されている一方で前記被トリミング素子上方において開口した、第3シリコン窒化膜をさらに備えることが好ましい。このような構成によれば、第3シリコン窒化膜は絶縁層に被さるように配置されているので、絶縁層を吸湿等から保護することができる。しかも、当該第3シリコン窒化膜は被トリミング素子上方において開口しているので、絶縁層の破裂が被トリミング素子上方において発生するようにできるとともに、破裂箇所以外を硬いシリコン窒化膜で保護することができる。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明によれば、被トリミング素子の確実な溶断と下地基板のダメージ低減とを同時に実現可能な半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1に本発明の実施形態1に係る半導体装置1Aを説明するための断面図を示す。図1に示すように、半導体装置1Aは、下地基板10と、レーザー2(図12参照)によるトリミングの対象である被トリミング素子20と、絶縁層30と、配線層(または回路層)40と、シリコン窒化膜(第3シリコン窒化膜)から成るカバー膜50とを含んでいる。
【0031】
下地基板10上には、被トリミング素子20が配置されているとともに当該被トリミング素子20に被さるように絶縁層30が配置されており、これにより被トリミング素子20上に絶縁層30が配置されている。そして、絶縁層30上に配線層40が配置されており、配線層40上にカバー膜50が配線層40および絶縁層30に被さるように配置されている。なお、カバー膜50と絶縁層30との配置位置を下地基板10を基準にして比べると、カバー膜50は絶縁層30よりも下地基板10から遠い位置に配置されている。カバー膜50および配線層40は被トリミング素子20上方に開口50aおよび開口40aをそれぞれ有している。
【0032】
詳細には、半導体装置1Aの下地基板10は、例えばシリコンから成る半導体基板11と、当該半導体基板11上に配置されたシリコン酸化膜12とを含んでいる。なお、半導体基板11にはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-effect Transistor)やバイポーラ等のトランジスタや抵抗が形成されているが、図1等では図面の煩雑化を避けるためそれらを省略している。また、半導体装置1Aでは、シリコン酸化膜12は600nm程度の厚さのLOCOS(Local Oxidation of Silicon)酸化膜とする。
【0033】
そして、下地基板10のシリコン酸化膜12上に、0.8〜3.0μm程度の線幅の被トリミング素子20が配置されている。被トリミング素子20は例えばポリシリコンから成り、ポリシリコン膜の堆積、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。
【0034】
ここで、被トリミング素子20を、金属等によって形成することも可能であるし、導電材料の積層体で形成することも可能である(後述の表1参照)。このとき、ポリシリコンから成る被トリミング素子20によれば、ポリシリコンはレーザー2によって気化しやすいので、他の材質に比べて溶断するのに十分な圧力が確保しやすい。
【0035】
なお、上述の線幅の範囲(0.8〜3.0μm程度)によれば、被トリミング素子20を、切断しやすくかつ抵抗ばらつきを小さくすることができる。この点について、まず、線幅が広すぎると一般的なレーザースポット径(10μm前後)では適切に切断するのが困難であるが、本願発明者の評価によって3.0μm程度以下の線幅であれば適切に切断できることが分かった。他方、線幅が狭すぎると、抵抗が高くなってしまうし、また、製造ばらつきによって線幅のばらつき、すなわち抵抗のばらつきが生じるが、本願発明者の評価によって0.8μm程度以上の線幅であれば高抵抗化を回避できるとともに抵抗ばらつきが許容範囲に収まることが分かった。なお、線幅ばらつきの程度は製造プロセスに起因しほぼ一定と考えられるので、抵抗ばらつきの抑制には線幅が広い方が有利である。
【0036】
また、下地基板10のシリコン酸化膜12上には絶縁層30が配置されており、当該絶縁層30は被トリミング素子20に被さっている。半導体装置1Aの絶縁層30はシリコン酸化膜31の単層から成り、当該シリコン酸化膜31をBPSG(Boron-Phosphor-Silicate-Glass)等のリン(P)を含有したシリケートガラスで構成するのがより好ましい。シリコン酸化膜31は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。シリコン酸化膜31は、全体的には400〜500nm程度の厚さを有しているが、被トリミング素子20付近(開口40a下の部分を参照)は上記厚さよりも薄く、シリコン酸化膜31における被トリミング素子20上の厚さdは約90nm以上約270nm以下であり、より好ましくは約180nm近傍である。また、シリコン酸化膜31において被トリミング素子20上の部分はトリミング用のレーザー2に対して約80%以上の透過率を有する。なお、絶縁層30については後に詳述する。
【0037】
絶縁層30のシリコン酸化膜31上には配線層40が配置されている。配線層40は、配線41,45と、シリコン窒化膜42と、シリコン酸化膜43,44とを含んでいる。配線41はシリコン酸化膜31上に配置されており、例えば金属膜のスパッタリング形成、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。また、シリコン酸化膜31上には、配線41に被さるように、シリコン窒化膜42、平坦化のためのシリコン酸化膜43およびシリコン酸化膜44がこの順序で積層されている。なお、シリコン酸化膜43は例えばSOG(Spin-on-Glass)膜であり、シリコン酸化膜44は例えばプラズマシリコン酸化膜である。シリコン酸化膜44上に配線45が配置されており、当該配線45は例えば金属膜のスパッタリング形成、フォトリソグラフィー処理およびエッチングによって形成される。このような構成において上述のシリコン窒化膜42およびシリコン酸化膜43,44は層間絶縁膜を成している。配線層40は被トリミング素子20上方に開口40aを有しており、当該開口40aは、シリコン窒化膜42およびシリコン酸化膜43,44を積層方向に貫いており、これらの膜42,43,44をフォトリソグラフィー処理およびエッチングすることにより形成される。
【0038】
このエッチング時に絶縁層30のシリコン酸化膜31の一部もエッチングすることによって、シリコン酸化膜31の上述の薄い部分が形成される。すなわち、上記400〜500nm程度の厚さのシリコン酸化膜31をエッチングすることによって被トリミング素子20上の厚さdを約90〜270nmに制御する。なお、かかる一部エッチングによらずに当初から約90〜270nmの厚さのシリコン酸化膜31を形成することも可能であるが、被トリミング素子20上以外の部分が薄くなると絶縁性の低下や寄生容量の増加が生じうる点にかんがみれば、上述の一部エッチングによって厚さを制御するのが好ましい。
【0039】
そして、配線層40のシリコン酸化膜44上には配線45に被さるように、600nm程度の厚さのシリコン窒化膜(第3シリコン窒化膜)から成るカバー膜50が配置されている。カバー膜50は、シリコン酸化膜44上だけでなく配線層40の開口40a内にも延在し開口40aの内壁面上にも配置されているが、被トリミング素子20上方は開口している。すなわち、カバー膜50の開口50aおよび配線層40の開口40aは被トリミング素子20(のレーザー照射部分)に重なっている。
【0040】
このような半導体装置1Aの被トリミング素子20に対して、開口40a,50aを通してレーザー2(図12参照)を照射することにより、レーザートリミングが行われる。
【0041】
次に、絶縁層30における被トリミング素子20上の部分の設定(透過率約80%以上、厚さ約90nm以上約270nm以下)について説明を加える。
【0042】
まず従来は、絶縁層30Z(図11参照)の透過率が最大の場合と最低の場合とのいずれでも被トリミング素子20Zを切断できるようにレーザー2のエネルギーを大幅に上乗せしていた。つまり、絶縁層30Zの透過率のばらつきを容認した上で当該ばらつきを補償するように照射レーザー2のエネルギーを制御するだけで、絶縁層30Zの透過率自体については十分な光学的考察がなされてこなかった。これに対して、本願発明者は、絶縁層30の光学特性に着眼し研究の末、絶縁層30が被トリミング素子20上においてレーザー2に対して約80%以上の透過率を有する場合に、被トリミング素子20の切断残りを抑制可能であると同時に下地基板10のダメージを抑制可能であるという実用性・量産性に適した結果を得たのである。つまり、半導体装置1Aは、絶縁層30における被トリミング素子20上での透過率を制御して構成されており(そのような透過率制御は後述の図3から分かるように膜厚制御によって実現される)、したがって、絶縁層30Z(図11参照)の透過率は制御せずに形成後の当該透過率に合わせてレーザー2の出力エネルギーを調整する従来技術とは、立脚点を全く異にする。以下、より具体的に説明する。
【0043】
図2に半導体装置1Aにおけるトリミング用レーザー2の反射および透過を説明するための模式図を示す。なお、図2中の(a)は被トリミング素子20の開口50a付近の拡大図に相当する。図2中の(a)に示すように、空気、絶縁層30(ここではシリコン酸化膜31)および被トリミング素子20(ここではポリシリコン)の屈折率をn0、nおよびnmとし、絶縁層30における被トリミング素子20上の厚さをd(単位はnm)とし、空気層と絶縁層30との界面についてのフレネル振幅反射係数およびフレネル振幅透過係数をρ0およびτ0とし、絶縁層30と被トリミング素子20との界面についてのフレネル振幅反射係数およびフレネル振幅透過係数をρ1およびτ1とすると、次の式(1)の関係が成り立つ。
【0044】
【数1】

【0045】
図2中の(a)に示す反射および透過の形態は、図2中の(b)に示す仮想界面Sにおける反射および透過に単純化して捉えることができ、仮想界面Sについてのフレネル振幅反射係数およびフレネル振幅透過係数をρおよびτとすると、次の式(2)の関係が成り立つ。なお、式(2)中、λはレーザー2の波長(単位はnm)であり、eは自然対数の底であり、iは虚数単位である。
【0046】
【数2】

【0047】
このとき、仮想界面Sにおける透過率Tは式(3)で与えられる。
【0048】
【数3】

【0049】
式(3)に基づいて、シリコン酸化膜31について厚さdと透過率Tとの関係を図3のグラフに示す。なお、式(3)においてn0=1、n=1.45,nm=3.5とし、λ=1047nmとしている。図3によれば、透過率Tは、シリコン酸化膜31の厚さdに依存し、周期性を呈することが分かる。また、周期性における最大値および最低値は約95%および約70%であることが分かる。
【0050】
絶縁層30(シリコン酸化膜31)のこのような光学特性にかんがみ、厚さdを透過率Tが略最大(約95%)になる値に設定することにより、レーザー2のエネルギーを従来のように大幅に上乗せして設定する必要がなくなる。すなわち、レーザー2のエネルギーを従来よりも減少させても、確実に溶断することができる。このとき、レーザー2のエネルギー低減によって、下地基板10において被トリミング素子20付近にレーザー2が照射されても下地基板10へのダメージを低減することができる。したがって、被トリミング素子20の確実な溶断と下地基板10のダメージ低減とを同時に実現することができる。
【0051】
このとき、式(3)によれば、絶縁層30(ここではシリコン酸化膜31)における被トリミング素子20上の厚さdが、mを奇数として、次の式(4)を満たすときに透過率Tが最大になる(反射率が最小になる)ことが分かる。
【0052】
【数4】

【0053】
なお、図3中の透過率Tの3つのピーク(最大値)は式(4)においてm=1,3,5の場合に当たる。
【0054】
式(4)および図3によれば、最大の透過率を与える厚さdは、上述の周期性ゆえに、いくつも存在する。しかし、シリコン酸化膜31にはレーザー2の照射時に被トリミング素子20の気化圧力(膨張圧力)が適度に得られかつ最終的には破裂することが求められるので、厚すぎるのは好ましくない。したがって、シリコン酸化膜31における被トリミング素子20上の厚さdは、最も薄いm=1の場合にあたる{(λ/n)/4}近傍の値(約180nm)が好ましく、このような厚さdによれば、上述の適度な気化圧力およびシリコン酸化膜31すなわち絶縁層30のスムーズな破裂を実現できる。その結果、被トリミング素子20を確実にかつきれいに溶断でき、また、被トリミング素子20の膨張(気化)による下地基板10へのダメージを低減することができる。
【0055】
なお、図4に絶縁層30について最大透過率(m=1の場合)を与える厚さdのグラフを示す。図4によれば、屈折率nが約1.45のシリコン酸化膜31の場合、波長λ=1047nmのレーザー2に対して最大透過率を与える厚さdが約180nmであることが分かる。図4には、レーザー2の波長λが1300nmの場合も併せて図示している。
【0056】
ところで、レーザー2の照射エネルギーが低すぎると被トリミング素子20に切断残りが発生し、当該エネルギーが高すぎると下地基板10にダメージが発生する。ここで、被トリミング素子20の切断残りと下地基板10のダメージとのいずれもが発生しないレーザー2のエネルギー範囲を「エネルギーマージン」と呼ぶことにする。エネルギーマージンの下限値は被トリミング素子20の切断残りの発生/不発生の境界値にあたり、エネルギーマージンの上限値は下地基板10のダメージの発生/不発生の境界値にあたる。
【0057】
なお、エネルギーマージンを、上述の上限値および下限値で規定されるエネルギー範囲(単位は例えばJ)によって表現するとともに、エネルギーマージンの上限値を基準とした(例えば100%とした)場合の当該エネルギーマージンの幅の割合、すなわち{(上限値−下限値)/上限値}で算出される値(単位は%)によっても表現することにする(後述の表1参照)。
【0058】
エネルギーマージンは、プロセスによって異なるが、一般的には20%〜80%程度であり、金属製の被トリミング素子20はエネルギーマージンが狭くなる場合がある。本願発明者の調査によっても、次の表1に示すように20%〜50%程度のエネルギーマージンが確認された。なお、表1には被トリミング素子20および絶縁層30の材質を種々に変えた4つの例を示しており、絶縁層30がシリコン窒化膜から成る構成については後述する。
【0059】
【表1】

【0060】
エネルギーマージンは被トリミング素子20、絶縁層30および下地基板10の材質や厚さ等によって決まる一方で、実際のレーザートリミングでは、設備の出力ばらつき、絶縁層30の透過率ばらつき、被トリミング素子20の切断エネルギーのばらつき、等が影響する。すなわち、これらのばらつきの積算がエネルギーマージンを越えてしまうと、被トリミング素子20の切断残りや下地基板10のダメージが生じて量産には不具合である。なお、上述の設備の出力ばらつきとは、レーザー照射設備自体による出力エネルギーのばらつきであり、一般的に±5%程度である。また、上述の被トリミング素子20の切断エネルギーのばらつきとは、被トリミング素子20の厚さ等のばらつきによる切断エネルギーのばらつきである。
【0061】
このため、量産性を確保するためには上記ばらつきを減らしてエネルギーマージン内で確実にレーザートリミングが実施されるようにする必要がある。この点について本願発明者は上述のうちでも絶縁層30の透過率ばらつきの低減に着眼した。このとき、上述のように絶縁層30が被トリミング素子20上において最大透過率(特にm=1)を有する場合に大きな効果を奏する点にかんがみれば、当該最大透過率を含んだ範囲内に透過率ばらつきを抑えるのが好ましい。
【0062】
そのような範囲の採り方として、図3に示す範囲A,Bとが考えられる。なお、ここでは範囲A,Bの幅が上述の周期性の2分の1周期(1/2周期)分の場合を例示している。このとき、範囲Bは最大透過率を与える厚さdを当該範囲の端に有しており、範囲Bによれば透過率のばらつきは約70%〜約95%である。これに対して、範囲Aは最大透過率を与える厚さdを当該範囲の中央に有しており、範囲Aによれば透過率のばらつきは約80%〜約95%であり、範囲Bよりも透過率ばらつきが小さい。つまり、範囲Aの方が量産性向上に貢献しうる。なお、最大透過率を与える厚さdを中央および端以外に含む範囲も考えられるが、このような範囲よりも範囲Aの方が透過率のばらつきが小さいことは容易に推測される。
【0063】
続いて、範囲Aの幅について調査・考察したところ、透過率ばらつきを抑えてエネルギーマージン内でのレーザートリミングを確実化すればエネルギーマージンが狭い被トリミング素子20であっても適切に切断できる点、および、上述のようにエネルギーマージンが一般的に20%〜80%程度である点を考慮すると、透過率は約80%以上であることが好ましいとの結果が得られた。具体的には、透過率が約80%以上の場合、レーザーの出力を当該エネルギーマージンの上限値に設定すれば、エネルギーマージンが最小の20%の場合であっても切断残りは生じないし、既述の通り下地基板10にはダメージが発生しない。
【0064】
このような約80%以上の透過率(無論、上述の最大透過率約95%を含む)によれば、透過率が最大の場合と最低の場合とのいずれでも被トリミング素子20Zを切断できるようにするためにレーザー2のエネルギーを大きく設定していた従来とは異なり、当該エネルギーを大幅に上乗せして設定する必要がない。すなわち、レーザー2のエネルギーを従来よりも減少させても、確実に溶断することができる。このとき、レーザー2のエネルギー低減によって、下地基板10において被トリミング素子20付近にレーザー2が照射されても下地基板10へのダメージを低減することができる。したがって、被トリミング素子20の確実な溶断と下地基板10のダメージ低減とを同時に実現することができる。
【0065】
そして、そのような透過率範囲において上述のように略最大値(約95%)に設定することにより、レーザー2の出力エネルギーのいっそうの低減を図ることができる。このため、被トリミング素子20付近へのレーザー照射による下地基板10のダメージをさらに低減することができる。
【0066】
シリコン酸化膜31について約80%以上の透過率を与える厚さdの範囲は、図3から上述の周期性ゆえにいくつも存在するが、もっとも薄い約90nm以上約270nm以下の範囲によれば、レーザー照射時に、被トリミング素子20の適度な気化圧力(膨張圧力)が得られるとともに絶縁層30の破裂をスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子20を確実にかつきれいに溶断できるし、被トリミング素子20の膨張(気化)による下地基板10へのダメージを低減することができる。また、このような厚さ範囲によれば、最大透過率を与える厚さd=180nmを中央に有するので、上述のように透過率のばらつきを抑えることができる。これにより、エネルギーマージン内でのレーザートリミングがより確実になり、量産性が向上する。
【0067】
なお、シリコン酸化膜31についての約90nm以上約270nm以下という範囲は、図3等から、最大透過率Tを与える厚さd={(λ/n)/4}を中心にして両側4分の1周期(1/4周期)分の範囲、すなわち約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の範囲に相当する。
【0068】
さらに、半導体装置1Aによれば以下の効果も得られる。まず、絶縁層30を成すシリコン酸化膜31によれば、シリコン酸化物は被トリミング素子20に被せる膜の材質として硬過ぎずやわらか過ぎないので、レーザー照射時に、被トリミング素子20の適度な気化圧力(膨張圧力)が得られるとともにシリコン酸化膜31すなわち絶縁層30の破裂をスムーズに起こすことができる。このため、被トリミング素子20を確実にかつきれいに溶断できるし、被トリミング素子20の膨張(気化)による下地基板10へのダメージを低減することができる。さらに、当該シリコン酸化膜31をBPSG等のリン(P)を含有したシリケートガラスで構成することにより、当該シリケートガラスはシリコン酸化物のなかでもやわらかい材質であることに起因して、シリコン酸化膜31すなわち絶縁層30の破裂がよりスムーズになる。このため、被トリミング素子20の膨張による下地基板10へのダメージを低減することができる。このとき、上述したレーザー2のエネルギー低減による被トリミング素子20付近のダメージ低減と併せて、半導体装置1Aによれば下地基板10のダメージ低減効果は大きいと言える。
【0069】
また、半導体装置1Aの絶縁層30は単層構造なので、絶縁層30を多層で構造する場合に比べて、絶縁層30の設計(上述の透過率T、厚さd等)および当該設計を実現するためのプロセス制御等が容易である。さらに、単層の絶縁層30によれば、製膜自体のコストだけでなく、その膜の管理のためのコスト(膜厚測定のためのコスト、設備メンテナンスのためのコスト等)が、多層構造に比べて少なくてすむ。また、絶縁層30を成すシリコン酸化膜31は半導体製造技術で一般的に用いられる材料なので、特殊な材料を用いる場合に比べて低コストである。
【0070】
また、シリコン窒化膜から成るカバー膜50が絶縁層30および配線層40を覆うように配置されているので、絶縁層30および配線層40を吸湿等から保護することができる。しかも、カバー膜50は被トリミング素子20上方においては開口しているので、絶縁層30の破裂が被トリミング素子20上方において発生するようにできるとともに、破裂箇所以外を硬いシリコン窒化膜で保護することができる。
【0071】
図5に実施形態2に係る半導体装置1Bを説明するための断面図を示す。図5に示すように、半導体装置1Bは上述の半導体装置1A(図1参照)において下地基板10に厚さ数十nm程度のシリコン窒化膜(第2シリコン窒化膜)13を追加した構成を有しており、半導体装置1Bのその他の構成は半導体装置1Aと同様である。詳細には、半導体装置1Bの下地基板10では半導体基板11上にシリコン酸化膜12およびシリコン窒化膜13がこの順序で積層されており、当該シリコン窒化膜13上に被トリミング素子20および絶縁層30が配置されている。
【0072】
このように被トリミング素子20の直下にシリコン窒化膜13が配置されているので、半導体装置1Bによれば、被トリミング素子20直下の硬度を向上させることができ、溶断時の下地基板10側へのダメージを軽減できる。
【0073】
図6に実施形態3に係る半導体装置1Cを説明するための断面図を示す。図6に示すように、半導体装置1Cは上述の半導体装置1A(図1参照)において下地基板10に回路素子14を追加した構成を有しており、半導体装置1Cのその他の構成は半導体装置1Aと同様である。なお、図6では、回路素子14としてMOSFETを模式的に図示しており、回路素子14と同じ符号を用いてMOSFET14とも呼ぶことにする。詳細には、下地基板10において、半導体基板11内にMOSFET14のソースおよびドレインが形成されており、半導体基板11上にゲート絶縁膜およびゲート電極が形成されており、ゲート電極およびゲート絶縁膜に被さるようにシリコン酸化膜12が半導体基板11上に配置されている。このとき、半導体装置1Cではシリコン酸化膜12は層間絶縁膜として機能する。
【0074】
特にMOSFET14は被トリミング素子20の下方に、換言すれば半導体装置1Cの平面視において被トリミング素子20に重なるように、配置されている。このような配置構造は、半導体装置1Cの基礎となる上述の半導体装置1A(図1参照)が下地基板10へのダメージを低減したことによって初めて実現されるものである。すなわち、従来では被トリミング素子20Z(図11参照)の溶断に伴うダメージを考慮して被トリミング素子20Zの下方には回路素子等が設けられていないのに対して、半導体装置1Cではそのような従来利用されていなかったスペースにMOSFET14を配置している。したがって、半導体装置1Cによれば、高集積化や小型化を図ることができる。
【0075】
なお、回路素子14はMOSFETに限られないし、回路素子14の代わりに配線を配置することも可能であるし、回路素子14と配線との両方を配置することも可能である。また、上述の例では下地基板10が1層の回路層を含む場合に相当するが、下地基板10が回路層や配線層を積層した多層構造を含んでもよい。また、半導体装置1Cの下地基板10にシリコン窒化膜13(図5参照)を追加してもよい。
【0076】
さて、既述の式(3)によれば、屈折率n0,n,nmが、次式(5)の関係を満たすときに透過率T(の最大値)が最大になることが分かる。
【0077】
【数5】

【0078】
つまり、n0=1およびnm=3.5の場合は屈折率nが1.87に近い値の材料で絶縁層30を構成すれば、透過率Tを略最大にすることができる。なお、絶縁層30について屈折率nと透過率Tとの関係を図7に示す。
【0079】
この点にかんがみると、シリコン酸化物の屈折率(約1.45)よりも上記値1.87に近い屈折率を有する材料として、例えば、屈折率が約2であるシリコン窒化物が挙げられる。そのような材料で絶縁層30を構成することによって、シリコン酸化膜31から成る絶縁層30に比べて透過率Tの最大値を上げることができるので、レーザー2のエネルギー低減を促進することができる。
【0080】
そこで、図8の断面図に、上述の半導体装置1A(図1参照)の絶縁層30においてシリコン酸化膜31をシリコン窒化膜(第1シリコン窒化膜)32に代えた半導体装置1Dを、実施形態4として示す。すなわち、半導体装置1Dの絶縁層30は、被トリミング素子20上において透過率が約80%以上のシリコン窒化膜32の単層から成る。なお、半導体装置1Dのその他の構成は半導体装置1Aと同様である。
【0081】
そして、屈折率n=2とした場合の上述の式(3)を図9にグラフ化して示す。図9によれば、透過率Tの最大値は約100%であり、シリコン酸化膜31による最大値約95%(図3参照)を上回ることが分かる。したがって、半導体装置1Dによれば、レーザー2のエネルギー低減を促進することができる。
【0082】
図9によれば、シリコン窒化膜32における被トリミング素子20上の部分が約80%以上の透過率Tとなる厚さdは、シリコン酸化膜31の場合と同様に(図3参照)その周期性ゆえにいくつも存在するが、透過率が約80%以上でありかつ最も薄い、約65nm以上約195nm以下の範囲が好ましく、このような厚さdによれば、レーザー照射時に、被トリミング素子20の適度な気化圧力およびシリコン窒化膜32すなわち絶縁層30のスムーズな破裂を実現できる。
【0083】
このようなシリコン窒化膜32から成る絶縁層30によれば、絶縁層30がシリコン酸化膜31から成る場合(図1参照)と同様に、確実な溶断と下地基板10のダメージ低減とを同時に実現することができる。そして、上述の範囲において、厚さdを、透過率Tが略最大(約100%)になる約{(λ/n)/4}近傍の値(約130nm)に設定することによって(図9および図4参照)、レーザー2の出力エネルギーをさらに低減することができ、これにより被トリミング素子20付近へのレーザー照射による下地基板10のダメージをさらに低減することができる。
【0084】
なお、シリコン窒化膜32の厚さdについての上述の約65nm以上約195nm以下という範囲は、図9から、最大の透過率を与える厚さd={(λ/n)/4}を中心にして両側1/4周期分の範囲、すなわち約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の範囲に相当する。このため、上述の範囲によれば、最大透過率を与える厚さd=({(λ/n)/4})を中央に有するので、透過率のばらつきを抑えることができる。これにより、エネルギーマージン内でのレーザートリミングがより確実になり、量産性が向上する。
【0085】
さらに、半導体装置1Dによれば以下の効果も得られる。まず、絶縁層30を成すシリコン窒化膜32によれば、レーザー2の波長が短い場合や被トリミング素子20が太く(例えば幅が3.0μmより太い場合等)溶断しにくい場合でも、シリコン窒化物の硬さによって圧力を確保することができ、確実にかつきれいに溶断することができる。
【0086】
また、絶縁層30は単層構造なので、既述の半導体装置1Aと同様に、絶縁層30の設計(上述の透過率T、厚さd等)および当該設計を実現するためのプロセス制御等が容易であるし、製膜コストや膜管理コストが少なくてすむ。また、絶縁層30を成すシリコン窒化膜32は半導体製造技術で一般的に用いられる材料なので、特殊な材料を用いる場合に比べて低コストである。
【0087】
なお、半導体装置1Dの下地基板10にシリコン窒化膜13(図5参照)や回路素子14(図6参照)や配線を追加してもよい。
【0088】
なお、上述の絶縁層30に、シリコン酸化膜31およびシリコン窒化膜32以外の材料、例えば酸窒化シリコン膜(SiON)等を利用してもよい。
【0089】
図10に実施形態5に係る半導体装置1Eを説明するための断面図を示す。図10に示すように、半導体装置1Eは、上述の半導体装置1A(図1参照)の絶縁層30においてシリコン酸化膜31をシリコン酸化膜33およびシリコン窒化膜34の積層体に代えた構成を有しており、半導体装置1Eのその他の構成は半導体装置1Aと同様である。
【0090】
詳細には、シリコン酸化膜33は被トリミング素子20に被さるように下地基板10のシリコン酸化膜12上に配置されており、当該シリコン酸化膜33上にシリコン窒化膜34が配置されている。シリコン窒化膜34において被トリミング素子20付近(開口40a下の部分を参照)は他よりも薄い。このような多層構造の絶縁層30であってもトリミング用レーザー2に対する透過率を被トリミング素子20上において約80%以上に設定することは可能である。なお、かかる透過率を与えるシリコン酸化膜33およびシリコン窒化膜34の厚さ範囲は、例えば、多層膜での光の透過・反射についての各種シミュレーション法によって取得可能である。
【0091】
なお、多層構造の絶縁層30は、上述の例示に限られず、シリコン酸化膜33とシリコン窒化膜34との積層順序を入れ替えてもよいし、他の材料を用いてもよいし、3層以上であってもよい。また、半導体装置1Eの下地基板10にシリコン窒化膜13(図5参照)や回路素子14(図6参照)や配線を追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】は、本発明の実施形態1に係る半導体装置を説明するための断面図である。
【図2】は、本発明の実施形態1に係る半導体装置におけるトリミング用レーザーの反射と透過とを説明するための模式図である。
【図3】は、本発明の実施形態1に係る半導体装置の絶縁層(シリコン酸化膜)について厚さと透過率との関係を説明するためのグラフである。
【図4】は、本発明の実施形態1に係る半導体装置の絶縁層について最大透過率を与える厚さを説明するためのグラフである。
【図5】は、本発明の実施形態2に係る半導体装置を説明するための断面図である。
【図6】は、本発明の実施形態3に係る半導体装置を説明するための断面図である。
【図7】は、本発明の実施形態4に係る半導体装置の絶縁層について屈折率と透過率との関係を説明するためのグラフである。
【図8】は、本発明の実施形態4に係る半導体装置を説明するための断面図である。
【図9】は、本発明の実施形態4に係る半導体装置の絶縁層(シリコン窒化膜)について厚さと透過率との関係を説明するためのグラフである。
【図10】は、本発明の実施形態5に係る半導体装置を説明するための断面図である。
【図11】は、従来の半導体装置を説明するための断面図である。
【図12】は、従来の半導体装置を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0093】
1A〜1E 半導体装置
2 レーザー
10 下地基板
13 シリコン窒化膜(第2シリコン窒化膜)
14 回路素子
20 被トリミング素子
30 絶縁層
31 シリコン酸化膜
32 シリコン窒化膜(第1シリコン窒化膜)
50 カバー膜(第3シリコン窒化膜)
d 厚さ
n 屈折率
λ 波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板と、
前記下地基板上に配置された被トリミング素子と、
前記被トリミング素子に被さるように前記下地基板上に配置されており、少なくとも1層から成り、前記被トリミング素子に照射されるレーザーに対して前記被トリミング素子上において約80%以上の透過率を有する、絶縁層とを備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁層は単一の材料の1層から成ることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記レーザーの波長をλ[nm]とし、前記絶縁層の屈折率をnとするとき、
前記絶縁層は前記被トリミング素子上において約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の厚さを有することを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
下地基板と、
前記下地基板上に配置された被トリミング素子と、
前記被トリミング素子に被さるように前記下地基板上に配置されており、単一の材料の1層から成る、絶縁層とを備え、
前記被トリミング素子に照射されるレーザーの波長をλ[nm]とし、前記絶縁層の屈折率をnとするとき、
前記絶縁層は前記被トリミング素子上において約{(λ/n)/8}以上約{(λ/n)×3/8}以下の厚さを有することを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
前記絶縁層の前記厚さは約{(λ/n)/4}近傍の値であることを特徴とする請求項3ないし請求項4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記絶縁層はシリコン酸化膜から成ることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記シリコン酸化膜はリンを含有したシリケートガラスであることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記シリコン酸化膜は前記被トリミング素子上において約90nm以上約270nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項6ないし請求項7のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項9】
前記絶縁層は第1シリコン窒化膜から成ることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1シリコン窒化膜は前記被トリミング素子上において約65nm以上約195nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記下地基板は、前記被トリミング素子の下に配置された第2シリコン窒化膜を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項12】
前記下地基板は、前記被トリミング素子の下方に配置された、回路素子と配線との少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項13】
前記被トリミング素子はポリシリコンから成ることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項14】
前記絶縁層よりも前記下地基板から遠くに配置されており、前記絶縁層に被さるように配置されている一方で前記被トリミング素子上方において開口した、第3シリコン窒化膜をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−165569(P2007−165569A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359727(P2005−359727)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】