説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】基板にダメージを与えることなく、レジストを良好に除去することができる、基板処理装置および基板処理方法を提供すること。
【解決手段】SPM液ノズルに対し、170℃以上に温度調節された硫酸と、常温の過酸化水素水とが、1:0.1〜0.35の流量比で供給される。硫酸と過酸化水素水とが混合して生成されたSPM液が、SPM液ノズル3からウエハWの表面に供給される。
【効果】ウエハWの表面上のほぼ全域において、レジストを良好にかつ均一に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板の表面から不要になったレジストを除去するために用いられる基板処理装置および基板処理方法に関する。処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、たとえば、半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)の表面にリン、砒素、硼素などの不純物(イオン)を局所的に注入する工程が含まれる。この工程では、不所望な部分に対するイオン注入を防止するため、ウエハの表面に感光性樹脂からなるレジストがパターン形成されて、イオン注入を所望しない部分がレジストによってマスクされる。ウエハの表面上にパターン形成されたレジストは、イオン注入の後は不要になるから、イオン注入後には、そのウエハの表面上の不要となったレジストを除去するためのレジスト除去処理が行われる。
【0003】
このレジスト除去処理の代表的なものでは、ウエハの表面に酸素プラズマが照射されて、ウエハの表面上のレジストがアッシングされる。そして、ウエハの表面に硫酸と過酸化水素水の混合液である硫酸過酸化水素水混合液(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:SPM液)などの薬液が供給されて、アッシングされたレジストが除去されることにより、ウエハの表面からのレジストの除去が達成される。
【0004】
ところが、レジストのアッシングのための酸素プラズマの照射は、ウエハの表面のレジストで覆われていない部分(たとえば、レジストから露呈した酸化膜)にダメージを与えてしまう。
そのため、最近では、レジストのアッシングを行わずに、ウエハの表面にSPM液を供給して、このSPM液に含まれるペルオキソー硫酸(H2SO5)の強酸化力により、ウエハの表面からレジストを剥離して除去する手法が注目されつつある。特許文献1では、80〜110℃の硫酸と過酸化水素水とを所定の混合比で混合させたSPM液を、ウエハの表面に供給している。
【特許文献1】特開2005−32819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、高ドーズのイオン注入が行われたウエハでは、レジストの表面が炭化変質(硬化)していることがある。この場合、特許文献1の先行技術では、レジストをウエハの表面から良好に除去することが困難な場合がある。
そこで、この発明の目的は、基板にダメージを与えることなく、レジストを良好に除去することができる、基板処理装置および基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板(W)の表面からレジストを除去するために用いられる基板処理装置(1,100)であって、170℃以上の硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成される硫酸過酸化水素水混合液を、基板の表面に対して供給する硫酸過酸化水素水供給手段(3)を含む、基板処理装置である。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
本願発明者の研究により、170℃以上の硫酸と過酸化水素水とを、1:0.1〜0.35の混合比で混合して生成される硫酸過酸化水素水混合液は、そのレジスト剥離性能が著しく高く、その高いレジスト剥離性能を発揮する時間も比較的長いことが見い出された。このため、かかる硫酸過酸化水素水混合液を基板に供給することにより、基板の表面上のほぼ全域において、レジストを良好にかつ均一に除去することができる。これにより、表面に硬化層を有するレジストであっても、アッシングすることなく、基板の表面から除去することができる。レジストのアッシングが不要であるから、アッシングによる基板の表面のダメージの問題を回避することができる。
【0008】
硫酸過酸化水素水混合液の生成に用いられる硫酸の温度が170℃未満であると、硫酸過酸化水素水混合液のレジスト剥離性能が低くなり、そのため、基板の表面からレジストを良好に除去することができない。
硫酸と過酸化水素水との混合比が硫酸1に対して過酸化水素水が0.1未満であると、硫酸過酸化水素水混合液に含まれるペルオキソー硫酸(H2SO5)の量が少なく、そのため、基板の表面からレジストを良好に除去することができない。
【0009】
一方、硫酸と過酸化水素水との混合比が硫酸1に対して過酸化水素水が0.35を超えると、硫酸過酸化水素水混合液中の水分量が多いので、混合後の温度降下が大きい。
また、硫酸過酸化水素水混合液中の過酸化水素水の量が多いと混合後における昇温幅が大きくなる。この発明の構成では、硫酸温度が170℃以上であるので、硫酸過酸化水素水混合液中の過酸化水素水量が多いと(硫酸1に対して過酸化水素水が0.35を超えると)、混合後における硫酸過酸化水素水混合液の到達温度が高くなりすぎて、室温との温度差が大きくなる。そのため、その後の温度降下が大きい。
【0010】
したがって、基板の表面に供給された硫酸過酸化水素水混合液が基板の表面の全域に行き渡るまでに、硫酸過酸化水素水混合液に含まれるペルオキソー硫酸に減衰が生じてしまう。その結果、レジスト除去率の基板面内分布にばらつきが生じる。
請求項2記載の発明は、基板を保持する基板保持手段(2)をさらに含み、前記硫酸過酸化水素水供給手段は、前記基板保持手段に保持された基板の表面に向けて硫酸過酸化水素水混合液を吐出する硫酸過酸化水素水ノズル(3)を含み、前記硫酸過酸化水素水ノズルは、前記硫酸と前記過酸化水素水とを混合するための混合室(26,27)と、前記混合室に前記硫酸を導入する硫酸導入路(35)と、前記混合室に前記過酸化水素水を導入する過酸化水素水導入路(36)と、前記混合室で混合された硫酸過酸化水素水混合液を吐出する吐出部(19)とを備える、請求項1記載の基板処理装置である。
【0011】
この構成によれば、硫酸過酸化水素水ノズルの内部において、硫酸と過酸化水素水とが混合されて、硫酸過酸化水素水混合液が生成される。そのため、生成直後の硫酸過酸化水素水混合液が基板の表面に供給される。したがって、ペルオキソー硫酸の減衰がほとんど生じていない硫酸過酸化水素水混合液を、基板上のレジストに対して作用させることができる。これにより、基板の表面からレジストをより良好に除去することができる。
【0012】
基板処理装置は、前記基板保持手段を回転する基板保持手段をさらに含むことが好ましい。この場合、基板の表面に供給された硫酸過酸化水素水は、基板上で遠心力を受け、基板の全域へと拡がっていく。
請求項3記載の発明は、前記過酸化水素水導入路は、前記硫酸導入路から前記混合室への硫酸導入位置(28)よりも下流側に前記混合室への過酸化水素水導入位置(30)を有する、請求項2記載の基板処理装置である。
【0013】
この構成によれば、混合室を流通している硫酸に対し過酸化水素水が流入されて、硫酸と過酸化水素水とが混合される。このため、硫酸と過酸化水素水とをスムーズに混合させることができる。
請求項4記載の発明は、前記過酸化水素水導入路は、前記混合室における硫酸の流れ方向に沿って過酸化水素水を流入させる、請求項2または3記載の基板処理装置である。
【0014】
この構成によれば、硫酸の流れ方向に沿って流入された過酸化水素水は、硫酸と広範囲で接触する。そのため、硫酸と過酸化水素水との混合が促進される。また、硫酸の流れ方向に沿って過酸化水素水が流入されるために、混合室内での硫酸の流れを阻害することなく、過酸化水素水を硫酸に混合させることができる。
したがって、十分に混合された硫酸過酸化水素水混合液を基板の表面に供給することができ、これにより、基板の表面からレジストを良好に除去することができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記硫酸過酸化水素水ノズルは、その内部に前記混合室が形成されたケーシング(17)をさらに備え、前記過酸化水素水導入路の前記過酸化水素水導入位置を流通方向に関して調整するために、前記ケーシングに前記過酸化水素水導入路が変位可能に取り付けられている、請求項2〜4記載の基板処理装置である。
この構成によれば、過酸化水素水導入位置が流通方向に沿って調節可能とされているので、過酸化水素水導入位置(すなわち、硫酸と過酸化水素水との混合位置)を、混合室で硫酸と過酸化水素水とが基板上へ到達する前に十分に混合することができる位置に設定することができる。過酸化水素水導入位置をかかる位置に設定した場合、強力な酸化力を持つ硫酸過酸化水素水混合液を基板の表面に供給することができる。これにより、基板の表面からレジストを良好に除去することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、前記混合室は、前記硫酸導入路および前記過酸化水素水導入路からの硫酸および過酸化水素水が混合される第1室(26)と、この第1室の下流側に、その流路断面が前記第1室の流路断面よりも小さくして設けられ、前記硫酸過酸化水素水混合液を前記吐出口に導く第2室(27)とを備える、請求項2〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
【0017】
この構成によれば、その流路断面が比較的大きい第1室で、硫酸と過酸化水素水とが混合される。したがって、混合直後の硫酸過酸化水素水混合液に沸騰が生じても、このような沸騰が第1室で吸収することができるので、小流路断面の第2室では、大きな気泡がほとんど生じない。そのため、第1室からの硫酸過酸化水素水混合液は、第2室に充満した状態で吐出口へと導かれ、吐出口から吐出される。このため、吐出口から硫酸過酸化水素水混合液をスムーズに吐出させることができる。これにより、十分に混合された硫酸過酸化水素水混合液を、基板の表面に良好に供給することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、前記硫酸過酸化水素水供給手段は、硫酸の温度を検出する温度検出手段(33)と、前記温度検出手段により検出された温度に応じて、硫酸と過酸化水素水との混合比を調節する混合比調節手段(32)とを、含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理装置である。より具体的には、たとえば、前記硫酸導入路に導入される硫酸の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段により検出された温度に応じて、前記混合室に導入される硫酸と過酸化水素水との流量比を調節する流量比調節手段とを含む構成とすればよい。
【0019】
レジスト剥離性能が最大となる硫酸と過酸化水素水との最適混合比は、その生成に用いられる硫酸の温度に依存している。そこで、この発明では、硫酸の温度に応じて、硫酸と過酸化水素水との混合比が調節される。これにより、剥離性能の高い硫酸過酸化水素水混合液を基板の表面に供給することができる。
請求項8記載の発明は、基板の表面からレジストを除去するために用いられる基板処理方法であって、170℃以上の硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成される硫酸過酸化水素水混合液を基板の表面に対して供給する、基板処理方法である。
【0020】
この方法によれば、請求項1に関連して述べた作用効果と同様な作用効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る基板処理装置1の構成を示す模式図である。
基板処理装置1は、たとえば基板の一例としてのウエハWの表面に不純物を注入するイオン注入処理やドライエッチング処理の後に、そのウエハWの表面から不要になったレジストを除去するための処理に用いられる枚葉式の装置である。
【0022】
この基板処理装置1は、ウエハWをほぼ水平に保持するとともに、その中心を通るほぼ鉛直な回転軸線方向まわりにウエハWを回転させるスピンチャック2と、スピンチャック2に保持されたウエハWの表面に対してSPM液(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:硫酸過酸化水素水混合液)を供給するためのSPMノズル3とを備えている。
スピンチャック2は、モータ6と、このモータ6の回転駆動力によって鉛直軸線まわりに回転される円盤状のスピンベース7と、スピンベース7の周縁部の複数箇所にほぼ等間隔で設けられ、ウエハWをほぼ水平な姿勢で挟持するための複数個の挟持部材8とを備えている。これにより、スピンチャック2は、室温雰囲気中で、複数個の挟持部材8によってウエハWを挟持した状態で、モータ6の回転駆動力によってスピンベース7を回転させることにより、そのウエハWを、ほぼ水平な姿勢を保った状態で、スピンベース7とともに鉛直軸線まわりに回転させることができる。
【0023】
SPMノズル3は、スピンチャック2の上方でほぼ水平に延びるアーム10の先端に取り付けられている。このアーム10は、スピンチャック2の側方でほぼ鉛直に延びたアーム支持軸11に支持されている。また、アーム支持軸11には、SPMノズル駆動機構12が結合されており、このSPMノズル駆動機構12の駆動力によって、アーム支持軸11を回動させて、アーム10を揺動させることができるようになっている。
【0024】
SPMノズル3には、硫酸供給源からの硫酸(たとえば96〜98wt%の濃硫酸)が供給される硫酸供給管13と、過酸化水素水供給源からの常温の過酸化水素水が供給される過酸化水素水供給管14とが接続されている。硫酸供給管13の途中部には、硫酸バルブ15が介装されている。また、過酸化水素水供給管14の途中部には、過酸化水素水バルブ16が介装されている。
【0025】
硫酸供給管13に供給される硫酸は、硫酸供給源において所定の高温(170℃以上)に温度調節されている。一方、過酸化水素水供給管14に供給される過酸化水素水は、常温(約25℃)程度の液温を有している。硫酸供給管13に供給される硫酸と、過酸化水素水供給管14に供給される過酸化水素水との流量比は1:0.1〜0.35となっている。
【0026】
硫酸バルブ15および過酸化水素水バルブ16が開かれると、硫酸および過酸化水素水がSPMノズル3に流入する。SPMノズル3の内部に流入された硫酸および過酸化水素水は、十分に混合(攪拌)される。この混合によって、硫酸と過酸化水素水とが十分に反応し、多量のカロ酸(H2SO5)を含むSPM液が作成される。そして、そのSPM液がSPMノズル3から、スピンチャック2に保持されたウエハWの表面に供給される。SPM液は、硫酸と過酸化水素水との反応時に生じる反応熱により、硫酸の液温以上に昇温し、ウエハWの表面上では約180〜約200℃に達する。
【0027】
スピンチャック2が駆動されてウエハWの回転開始された後、SPMノズル駆動機構12が駆動されて、SPMノズル3が、スピンチャック2の側方に設定された待機位置からスピンチャック2に保持されているウエハWの回転中心の上方に移動される。そして、硫酸バルブ15および過酸化水素水バルブ16が開かれて、SPMノズル3から回転中のウエハWの表面に向けてSPM液が吐出される。このSPM液の吐出の間、SPMノズル3は、ウエハWの回転中心の上方に位置され続ける。SPM液は、ウエハW上で遠心力を受け、ウエハWの全域へと拡がっていく。
【0028】
図2は、SPMノズル3の構成を示す図解的な断面図である。
SPMノズル3は、たとえば、いわゆるストレートノズルの構成を有している。SPMノズル3は、ケーシング17を備え、このケーシング17の先端にSPM液を外部空間18に向けて吐出するための吐出口19を有している。
より具体的に説明すると、ケーシング17は、円筒形状の第1流通管20と、第1流通管20と連続し、第1流通管20よりも小径でかつ第1流通管20と同軸の円筒形状の第2流通管21と、第1流通管20の上流側端部に接続されて、硫酸を導入するための硫酸導入管22と、第1流通管20の上流側端部に接続されて、過酸化水素水を導入するための過酸化水素水導入管23と、第1流通管20に第2流通管21を液密状態で接続するためのフッ素系樹脂(たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロチレン(4フッ化)樹脂))製の第1継手24と、第1流通管20に硫酸導入管22および過酸化水素水導入管23を液密状態で接続するためのフッ素系樹脂(たとえば、PTFE)の第2継手25とを備えている。
【0029】
第1流通管20は、たとえばフッ素系樹脂(たとえば、PFA(テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)樹脂)により構成されており、その内径D1がたとえば8mmに設定されている。第1流通管20の内部には第1混合室26が形成されている。第1混合室26では、硫酸導入管22からの硫酸と、過酸化水素水導入管23からの過酸化水素水とが混合される。
【0030】
第2流通管21は、たとえばフッ素系樹脂(PFA樹脂)により構成されており、その内径D2がたとえば4mmに設定されている。第1流通管20の内部には、第1混合室26に連通し、第1混合室26からのSPM液が混合されつつ流通する第2混合室27が形成されている。その第2混合室27の先端が、吐出口19として開口している。第2流通管21の内径D2が第1流通管20の内径D1よりも小径にされているので、第2混合室27の流路断面は、第1混合室26の流路断面よりも小面積となっている。
【0031】
硫酸導入管22は、その内部に形成された硫酸導入路35と、その先端に設けられた連通口28(硫酸導入位置)とを備えている。硫酸導入管22は、第1流通管20が延びる方向とほぼ直交する方向に延びており、硫酸導入路35の先端が、第1流通管20の上流側端部付近の内壁に開口して連通口28を形成している。硫酸導入管22の反対側の後端は、硫酸を導入するための硫酸ポート29を形成している。
【0032】
過酸化水素水導入管23は、その内部に形成された過酸化水素水導入路36と、その先端に設けられた開口30(過酸化水素水導入位置。硫酸と過酸化水素水との混合位置)とを備えている。過酸化水素水導入管23は、第1流通管20が延びる方向に沿って延びており、過酸化水素水導入路36の先端が、過酸化水素水導入管23の連通口28よりも下流側で開口して、開口30を形成している。過酸化水素水導入管23の反対側の後端は、過酸化水素水を導入するための過酸化水素水ポート31を形成している。
【0033】
この過酸化水素水導入管23は、第1流通管20(ケーシング17)に対し、第1流通管20が延びる方向(流通方向)に沿ってスライド可能に取り付けられている。これにより、開口30の位置を、第1流通管20が延びる方向に関して調整することができる。
硫酸導入管22の硫酸ポート29に硫酸供給管13が接続され、過酸化水素水導入管23の過酸化水素水ポート31に過酸化水素水供給管14が接続されている。そして、硫酸供給管13からの硫酸は、硫酸導入管22を通って、連通口28から第1混合室26へと供給される。また、過酸化水素水供給管13からの過酸化水素水は、過酸化水素水導入管23を通って開口30から第1混合室26へと供給される。
【0034】
前述のように、硫酸供給管13に供給される硫酸と、過酸化水素水供給管14に供給される過酸化水素水との流量比が1:0.1〜0.35であるため、第1混合室26には比較的大流量の硫酸と、比較的小流量の過酸化水素水とが供給される。
開口30が連通口28よりも下流側に位置している。このため、第1混合室26を流通する比較的大流量の硫酸に、比較的小流量の硫酸が流入されるようになる。過酸化水素水導入管23が、第1流通管20と同方向に延びているため、開口30からの過酸化水素水は、第1混合室26における硫酸の流れ方向に沿って流入される。硫酸の流れ方向に沿って流入された過酸化水素水は、硫酸と広範囲で接触する。そのため、硫酸と過酸化水素水との混合が促進される。また、硫酸の流れ方向に沿って過酸化水素水が流入されるために、第1混合室26内の硫酸の流れを阻害することなく、過酸化水素水を硫酸に混合させることができる。このため、硫酸と過酸化水素水とをスムーズに混合させることができる。
【0035】
第1混合室26では、硫酸と過酸化水素水との混合時に沸騰が生じる。そのため、第1混合室26はその流路断面が比較的大きくされている。すなわち、沸騰に伴う大きな気泡は第1混合室26内で生じ、第2混合室27に大きな気泡が持ち込まれることがほとんどない。
第2混合室27では、その流路断面積が比較的小さく設定されている。そのため、第1混合室26からのSPM液は、第2混合室27に充満した状態で吐出口19へと導かれ、吐出口19から吐出される。このため、吐出口19からSPM液をスムーズに吐出させることができる。
【0036】
以上のように、SPMノズル3の内部において、硫酸と過酸化水素水とが混合されて、SPM液が生成される。そのため、生成直後のSPM液がウエハWの表面に供給される。したがって、ペルオキソー硫酸の減衰がほとんど生じていないSPM液を、ウエハWの表面上のレジストに対して作用させることができる。これにより、ウエハWの表面からレジストをより良好に除去することができる。
【0037】
また、開口30の位置が第1流通管20の延びる方向に沿って調節可能にされている。このため、開口30を、第1混合室26内で硫酸と過酸化水素水とが十分に混合できる位置に設定すれば、十分に混合されたSPM液をウエハWの表面に供給することができる。
図3および図4は、レジスト剥離試験の結果を示すグラフである。図3は、ウエハW(直径300mm)の周縁部におけるレジスト除去率(レジスト剥離性能)の硫酸温度(H2SO4 temperature)への依存性と、ウエハWの周縁部におけるレジスト除去率のSPM液の過酸化水素水混合比(SPM ratio)に対するレジスト除去率の依存性とを示すグラフである。図4は、レジスト除去率(レジスト剥離性能)の位置依存性を示すグラフである。
【0038】
直径300mmのウエハWの表面にKrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザ用レジストのパターンを形成し、これをマスクとして、ウエハWの表面にAs(ヒ素)をドーズ量1×1016atoms/cm2、ドーズエネルギー40kevでイオン注入したものを試料として用い、この試料に対しSPMノズル3からSPM液を供給してレジストを剥離(除去)する試験を行った。
【0039】
SPMノズル3に対し、流量1200mL/minの硫酸(濃度96wt%)流量と、温度25℃の過酸化水素水とを供給し、以下の各試験において、硫酸の温度と過酸化水素水の流量とを変化させた。
ウエハW(試料)の表面に対して、SPMノズル3からのSPM液を30秒間供給し、ウエハW周縁部におけるレジスト除去率、ならびに、ウエハW全体、回転中心から100mm以内の領域、および、回転中心から50mm以内の領域のそれぞれにおける平均レジスト除去率を計測した。レジスト除去率および平均レジスト除去率は、測定器としてSP2(KLA-Tencor社製)を用いた。
<試験1>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を160℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量100mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比(混合比)は、0.083である。
<試験2>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を160℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量200mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.167である。
<試験3>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を160℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量300mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.250である。
<試験4>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を160℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量400mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.333である。
<試験5>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を160℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量600mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.500である。
<試験6>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を170℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量100mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.083である。
<試験7>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を170℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量200mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.167である。
<試験8>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を170℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量300mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.250である。
<試験9>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を170℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量400mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.333である。
<試験10>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を170℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量600mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.500である。
<試験11>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を180℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量100mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.083である。
<試験12>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を180℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量200mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.167である。
<試験13>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を180℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量300mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.250である。
<試験14>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を180℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量400mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.333である。
<試験15>
SPMノズル3に供給する硫酸の温度を180℃とした。また、SPMノズル3に供給する過酸化水素水の流量を流量600mL/minとした。このとき、硫酸1に対する過酸化水素水の流量比は、0.500である。
【0040】
図3には、試験2〜5,試験7〜10,試験12〜15において計測されたレジスト除去率に基づき、グラフ作成用ソフト(design−expart(商標))を用いて、硫酸温度に対するレジスト除去率の依存性、および、SPM液の過酸化水素水混合比に対するレジスト除去率の依存性を演算した結果を、等高線(等しいレジスト除去率が得られる点が形成する線)を用いて示す。縦軸は硫酸温度を示し、横軸は過酸化水素水の流量を示している。この図3では、等高線の幅が狭く示されている部分では、レジスト除去率が急激に変化している。
【0041】
図3に示す結果から、170℃以上の硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成されるSPM液は、レジスト剥離性能が高い(レジスト除去率が70%以上)ことが理解される。また、レジスト剥離性能が最大となるSPM液の最適流量比は、硫酸の温度に依存していることがわかる。図3に示すように、170℃以上の温度範囲では、硫酸の温度が上昇するにつれて、過酸化水素水の最適混合比が低下することが理解される。つまり、硫酸の温度を高くするだけでは不十分であり、硫酸と過酸化水素水との混合比を適切に設定する必要がある。
【0042】
また、図4には、試験1〜15により計測されたレジスト除去率に基づき、レジスト除去率のウエハW面内分布のばらつきを示す。図4中の「△」は硫酸温度が160℃であるとき、「□」は硫酸温度が170℃であるとき、「◇」は硫酸温度が180℃であるときを示している。
縦軸はウエハW面内分布の均一性(uniformity)を示し、横軸は過酸化水素水の流量(H2O2 flow rate)を示している。また、上辺には、過酸化水素水の流量に対応するSPM液の過酸化水素水混合比(ratio to H2SO4)が示されている。
【0043】
均一性(uniformity)は、半径位置における平均レジスト除去率に基づいて算出した標準偏差を、平均レジスト除去率で除した値であり、ウエハW全体の平均レジスト除去率が、回転中心から50mm以内の領域の平均レジスト除去率よりも高い場合を正とし、ウエハW全体の平均レジスト除去率が、回転中心から50mm以内の領域の平均レジスト除去率よりも低い場合を負として表している。均一性の値が0に近づくほど、レジスト除去率のウエハW面内分布のばらつきが小さく、レジスト剥離性能の位置依存性が少ない。
【0044】
図4に示す結果から、硫酸温度が160℃、170℃および180℃のいずれにおいても、硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成されるSPM液は均一性が高いことが理解される。しかし、硫酸温度が160℃のときは、レジスト剥離性能が高くない。
以上のように、この実施形態によれば、170℃以上の硫酸と過酸化水素水とを、1:0.1〜0.35の混合比で混合して生成されるSPM液は、レジスト剥離性能が高く、かつ、ウエハW面内分布の均一性が高い。そのため、かかるSPM液をウエハWに供給することにより、ウエハWの表面上のほぼ全域において、レジストを良好にかつ均一に除去することができる。これにより、表面に硬化層を有するレジストであっても、アッシングすることなく、ウエハWの表面から除去することができる。レジストのアッシングが不要であるから、アッシングによるウエハWの表面のダメージの問題を回避することができる。
【0045】
また、SPMノズル3の内部において、硫酸と過酸化水素水とが混合され、SPM液が生成される。そのため、生成直後のSPM液がウエハWの表面に供給される。したがって、ペルオキソー硫酸の減衰がほとんど生じていないSPM液を、ウエハWの表面上のレジストに対して作用させることができる。これにより、ウエハWの表面からレジストをより良好に除去することができる。
【0046】
図5は、この発明の他の実施形態にかかる基板処理装置100の構成を示す模式図である。
図5では、前述の実施形態の各部に相当する部分には、それら各部と同一の参照符号が付されている。また、以下では、その同一の参照符号を付した各部についての詳細な説明を省略する。
【0047】
図5に示す構成では、硫酸供給管13の途中部には、硫酸バルブ15の下流側において、温度センサ33が介装されている。また、過酸化水素水供給管14の途中部には、過酸化水素水バルブ16の下流側において、流量調節バルブ32が介装されている。
基板処理装置100は、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置34を備えている。
【0048】
制御装置34には、温度センサ33が接続されており、この温度センサ33から出力された計測値が入力されるようになっている。
また、制御装置34には、モータ6、SPMノズル駆動機構12、硫酸バルブ15、過酸化水素水バルブ16および流量調節バルブ32が制御対象として接続されている。
前述のように、SPM液の最適混合比は、その生成に用いられる硫酸の温度に依存している。逆に、レジスト剥離性能が最大となる硫酸の最適温度も、SPM液の混合比に依存しているとも言える。
【0049】
この実施形態では、制御装置34には、硫酸の温度に対する過酸化水素水の流量が記憶されている。制御装置34は、温度センサ33の出力をモニタし、この出力に応じて流量調節バルブ32の開度を調節して、SPMノズル3に供給される過酸化水素水流量を調節する。これにより、硫酸と過酸化水素水との流量比を、硫酸の温度に対応した最適な流量比にすることができる。ゆえに、剥離性能の高いSPM液をウエハWの表面に供給することができる。
【0050】
この発明は、前述した形態以外の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、SPM液の吐出の間、SPMノズル3がウエハWの回転中心の上方に位置され続けるとして説明した。しかし、SPM液の吐出の間、SPMノズル3からのSPM液が導かれるウエハWの表面上の供給位置が、ウエハWの回転中心からウエハWの周縁部に至る範囲内を、ウエハWの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描きつつ往復移動するものとしてもよい。
【0051】
また、図5の実施形態では、過酸化水素水供給管14に流量調節バルブ32を設ける構成を例にとって説明したが、過酸化水素水供給管14だけでなく、硫酸供給管13に流量調節バルブが設けられていてもよい。この流量調節バルブは、硫酸供給管13において、硫酸バルブ15の下流側に介装される。この場合、双方の流量調節バルブの開度が調節されることにより、SPMノズル3に供給される硫酸の流量および過酸化水素水の流量の双方が、個別に変更される。このため、SPMノズル3から吐出されるSPM液全体の流量を一定に保ちつつ、その混合比だけを調節することが可能である。
【0052】
さらにまた、基板の一例としてウエハWを取り上げたが、処理の対象となる基板は、ウエハWに限らず、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、FED用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板またはフォトマスク用基板であってもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を示す模式図である。
【図2】SPMノズルの構成を示す図解的な断面図である。
【図3】レジスト剥離試験の結果を示すグラフである。
【図4】レジスト剥離試験の結果を示すグラフである。
【図5】この発明の他の実施形態にかかる基板処理装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1,100 基板処理装置
2 スピンチャック(基板保持手段)
3 SPM液ノズル(硫酸過酸化水素水ノズル)
17 ケーシング
19 吐出口(吐出部)
26 第1混合室(第1室)
27 第2混合室(第2室)
28 連通口(硫酸導入位置)
30 開口(過酸化水素水導入位置)
32 流量調節バルブ(流量比調節手段)
33 温度センサ(温度検出手段)
34 制御装置
35 硫酸導入路
36 過酸化水素水導入路
W ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面からレジストを除去するために用いられる基板処理装置であって、
170℃以上の硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成される硫酸過酸化水素水混合液を、基板の表面に対して供給する硫酸過酸化水素水供給手段を含む、基板処理装置。
【請求項2】
基板を保持する基板保持手段をさらに含み、
前記硫酸過酸化水素水供給手段は、前記基板保持手段に保持された基板の表面に向けて硫酸過酸化水素水混合液を吐出する硫酸過酸化水素水ノズルを含み、
前記硫酸過酸化水素水ノズルは、前記硫酸と前記過酸化水素水とを混合するための混合室と、前記混合室に前記硫酸を導入する硫酸導入路と、前記混合室に前記過酸化水素水を導入する過酸化水素水導入路と、前記混合室で混合された硫酸過酸化水素水混合液を吐出する吐出部とを備える、請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記過酸化水素水導入路は、前記硫酸導入路から前記混合室への硫酸導入位置よりも下流側に前記混合室への過酸化水素水導入位置を有する、請求項2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記過酸化水素水導入路は、前記混合室内における硫酸の流れ方向に沿って過酸化水素水を流入させる、請求項2または3記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記硫酸過酸化水素水ノズルは、その内部に前記混合室が形成されたケーシングをさらに備え、
前記過酸化水素水導入路の前記過酸化水素水導入位置を流通方向に関して調整するために、前記ケーシングに前記過酸化水素水導入路が変位可能に取り付けられている、請求項2〜4のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記混合室は、前記硫酸導入路および前記過酸化水素水導入路からの硫酸および過酸化水素水が混合される第1室と、この第1室の下流側に、その流路断面が前記第1室の流路断面よりも小さくして設けられ、前記硫酸過酸化水素水混合液を前記吐出口に導く第2室とを備える、請求項2〜5のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記硫酸過酸化水素水供給手段は、硫酸の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段により検出された温度に応じて、硫酸と過酸化水素水との混合比を調節する混合比調節手段とを、含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
基板の表面からレジストを除去するために用いられる基板処理方法であって、
170℃以上の硫酸1に対し0.1〜0.35の流量の過酸化水素水を混合して生成される硫酸過酸化水素水混合液を基板の表面に対して供給する、基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−16497(P2009−16497A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175432(P2007−175432)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】