説明

基板生産物の製造方法、基板生産物、及び半導体デバイス

【課題】異種基板と貼り合わせた窒化物系化合物半導体基板の一部を異種基板から除去することにより窒化物系化合物半導体層を異種基板上に製造する方法において、窒化物系化合物半導体層におけるリーク電流を低減する。
【解決手段】シリコン基板等の支持基板20上に窒化ガリウム層30を有する基板生産物1を製造する方法であって、窒化ガリウム基板10の表面10aにイオン注入を行う工程と、表面10aを洗浄する工程と、表面10aと支持基板20の表面20aとを互いに接合させる工程と、窒化ガリウム基板10のうち表面10aを含む部分を層状に残して他の部分を除去することにより、窒化ガリウム層30を支持基板20上に形成する工程とを含む。表面10aを洗浄する工程の際、洗浄後の表面10aにおけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度を合計で1×1018[cm−3]以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板生産物の製造方法、基板生産物、及び半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物系化合物半導体を用いた半導体デバイスは、種々の方法により形成される。一般には、熱膨張係数が窒化物系化合物に近い異種材料(Si,SiC,サファイア等)から成る基板や、窒化物系化合物半導体から成る基板(バルク基板)上に、分子線エピタキシャル(MBE)成長法、有機金属気相成長(MOCVD)法などを使用して形成される。しかしながら、異種材料から成る基板上に形成する場合、基板と半導体デバイス層との熱膨張係数の差や格子不整合といった要因により、基板に応力が発生して基板及び半導体デバイス層に反りが生じる。その結果、デバイス特性の劣化、半導体デバイス層の基板からの剥離、半導体デバイス層における転位密度の増加といった好ましくない現象が生じてしまう。一方、窒化物系化合物半導体から成る基板上に形成する場合、該基板は高価なのでそのコストが最終的に半導体デバイスの製造コストを押し上げてしまう。
【0003】
そこで、良好な性質を有する窒化物系化合物半導体デバイスを安価に製造するために、例えば特許文献1に記載された方法がある。特許文献1には、窒化物半導体膜を異種基板上に有する半導体基板の作製方法が開示されている。この文献に記載された方法は、GaN基板の表面近傍に上方からイオンを注入してイオン注入層を形成し、そのGaN基板の表面と単結晶シリコン基板とを重ね合わせた状態で熱処理を施すことによりそれらを貼り合わせ、イオン注入層を除くGaN基板の主な部分を単結晶シリコン基板から引き剥がすことにより、GaN薄膜をシリコン基板上に有する半導体基板を作製している。そして、この半導体基板のGaN薄膜上に種々の窒化物半導体層を成長させることで、LEDやトランジスタを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−210660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、窒化物系化合物半導体基板にイオンを注入する際、イオン発生装置やチャンバ内に存在する不純物が、イオンの注入と同時に基板表面に付着する。また、窒化物系化合物は圧電性結晶なので特に不純物を引き寄せ易い。接合面となる窒化物系化合物半導体基板及び異種基板の表面に存在する不純物(パーティクル)は、窒化物系化合物半導体層におけるリーク電流の原因となる。
【0006】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、窒化物系化合物半導体基板の表面と異種基板とを貼り合わせ、窒化物系化合物半導体基板の一部を異種基板から除去することにより窒化物系化合物半導体層を異種基板上に製造する方法と、この方法により製造される基板生産物と、この基板生産物を備える半導体デバイスとにおいて、窒化物系化合物半導体層におけるリーク電流を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明による基板生産物の製造方法は、窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る支持基板上に窒化物系化合物半導体層を有する基板生産物を製造する方法であって、窒化物系化合物半導体基板の表面にイオン注入を行う工程と、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程と、窒化物系化合物半導体基板の表面と支持基板の表面とを互いに接合させる工程と、窒化物系化合物半導体基板のうち表面を含む部分を層状に残して他の部分を除去することにより、窒化物系化合物半導体層を支持基板上に形成する工程とを備え、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程の際に、洗浄後の窒化物系化合物半導体基板の表面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度を合計で1×1018[cm−3]以下とすることを特徴とする。
【0008】
本発明者は、接合面である窒化物系化合物半導体基板の表面にFe,Cr,Ni,及びSiのいずれかが不純物として付着していると、当該不純物を介して窒化物系化合物半導体層と支持基板(すなわち異種基板)との間で電流のリークが生じ易いことを見出した。また、これらの不純物が合計で1×1018[cm−3]以下だと、電流のリークが顕著に減少し耐圧性が向上することを見出した。すなわち、上記した基板生産物の製造方法によれば、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程の際に、洗浄後の窒化物系化合物半導体基板の表面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度を合計で1×1018[cm−3]以下とすることによって、窒化物系化合物半導体層に流れるリーク電流を効果的に低減することができる。
【0009】
また、基板生産物の製造方法は、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程が、アンモニアを含む過酸化水素水を用いて窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程を含むことを特徴としてもよい。一般的に、窒化物系化合物半導体層上に半導体デバイス層を成長させる際、窒化物系化合物半導体層の窒素面とは逆の面(例えばガリウム面)を成長面として用いることが多い。その場合、窒化物系化合物半導体基板において支持基板と接合される面を窒素面とする必要があるが、例えばKOHやNaOHといった強アルカリ性の液体を用いて洗浄すると窒素面がエッチングされてしまい、表面の平坦性が損なわれて支持基板との接合が難しくなる。これに対し、アンモニアを含む過酸化水素水を用いて表面を洗浄すれば、窒化物系化合物半導体基板の窒素面の平坦性を保ちつつ、洗浄によってこの窒素面の不純物密度を上記範囲に抑えることができる。
【0010】
また、基板生産物の製造方法は、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程の際に、窒化物系化合物半導体基板を揺動あるいは振動させながら洗浄することを特徴としてもよい。これにより、窒化物系化合物半導体基板の表面に対する洗浄作用を高めることができる。
【0011】
また、本発明による基板生産物は、窒化物系化合物半導体基板の表面にイオン注入を行い、窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄したのち、窒化物系化合物半導体基板の表面と、窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る支持基板の表面とを互いに接合させ、窒化物系化合物半導体基板のうち表面を含む部分を層状に残して他の部分を除去することにより形成された窒化物系化合物半導体層を支持基板上に備え、窒化物系化合物半導体層の支持基板との界面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度が合計で1×1018[cm−3]以下であることを特徴とする。
【0012】
上記した基板生産物によれば、窒化物系化合物半導体層の支持基板との界面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度が合計で1×1018[cm−3]以下であることによって、窒化物系化合物半導体層に流れるリーク電流を効果的に低減することができる。
【0013】
また、本発明による半導体デバイスは、上記した基板生産物と、基板生産物の窒化物系化合物半導体層上に設けられた窒化物系化合物半導体から成る半導体デバイス層とを備えることを特徴とする。この半導体デバイスによれば、上記した基板生産物を備えることによって、窒化物系化合物半導体層に流れるリーク電流を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による基板生産物の製造方法、基板生産物、及び半導体デバイスによれば、窒化物系化合物半導体層に流れるリーク電流を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は、本実施形態に係る基板生産物の製造方法において使用される窒化ガリウム基板10を示している。図1(b)は、窒化ガリウム基板10にイオンを注入する工程を示している。図1(c)は、窒化ガリウム基板10の表面を洗浄する工程を示している。
【図2】図2(a)は、窒化ガリウム基板10と支持基板20とを貼り合わせる工程を示している。図2(b)は、窒化ガリウム基板10と支持基板20とを貼り合わせた基板を加熱する工程を示している。図2(c)は、窒化ガリウム基板10が、窒化ガリウム層30を残して支持基板20から剥離した様子を示している。
【図3】図3(a)は、窒化ガリウム層30を支持基板20上に有する基板生産物1を示している。図3(b)は、窒化ガリウム層30上にエピタキシャル層60を形成する工程を示している。図3(c)は、エピタキシャル層60上に各半導体層70〜78を形成する工程を示している。
【図4】図4(a)は、各半導体層70〜78をメサエッチングする工程を示している。図4(b)は、アノード電極82及びカソード電極84を形成する工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明による基板生産物の製造方法、基板生産物、及び半導体デバイスの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1〜図4は、本実施形態に係る基板生産物の製造方法および基板生産物、並びにこの基板生産物を使用した半導体デバイスの製造方法における各工程を示す図である。なお、本実施形態の方法により製造される基板生産物は、窒化物系化合物半導体層としての窒化ガリウム(GaN)層を支持基板上に有するものである。
【0018】
<第1の工程(イオン注入)>
まず、図1(a)に示すように、窒化ガリウム基板10を準備する。この窒化ガリウム基板10は、本実施形態における窒化物系化合物半導体基板である。窒化ガリウム基板10は、例えばハイドライド気相成長法(HVPE法)により窒化ガリウムを成長して作製されたものであり、酸素原子等の不純物がドープされていてもよい。
【0019】
次に、この窒化ガリウム基板10の表面10aにイオンを注入する。まず、窒化ガリウム基板10の表面10aを研磨したのち、図1(b)に示すように、窒化ガリウム基板10をイオン注入装置100に配置する。そして、窒化ガリウム基板10の表面10aに所定の原子(好ましくは、水素、ヘリウム、窒素等)のイオン12を注入して、脆弱層10bを形成する。
【0020】
<第2の工程(洗浄)>
続いて、図1(c)に示すように、窒化ガリウム基板10の表面10aを、洗浄液14を用いて洗浄する。窒化ガリウム基板10については、上述したイオン注入の際、イオン12を発生させるイオンガンやチャンバーの外壁等から不純物が発生する。窒化ガリウムは圧電性結晶であるため不純物が付着し易く、表面10aの洗浄を十分に行う必要がある。なお、洗浄により除去する不純物は何でも良いわけではなく、本実施形態ではFe,Cr,Ni,及びSiに限定する。これらは、本実施形態の基板生産物を用いて電子デバイスを作製した場合、電流リーク源となるものである。
【0021】
本実施形態では、洗浄後の窒化ガリウム基板10の表面10aにおけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度が合計で1×1018[cm−3]以下となるように、窒化ガリウム基板10の表面10aを洗浄する。
【0022】
これらの元素を除去するには、酸化還元電位でこれらを酸化できる洗浄液14を用いることが好ましい。また、窒化ガリウム基板10の表面10aに対するエッチング性が極めて小さい洗浄液14を用いることが好ましい。特に、洗浄対象である表面10aが窒素面である場合には、例えばKOHやNaOHといった強アルカリ性の液体を用いて洗浄すると窒素面がエッチングされてしまい、表面10aの平坦性が損なわれて後述する貼り合わせ工程に支障を来すこととなる。したがって、酸性の洗浄液14を用いることが好ましい。
【0023】
酸性の洗浄液14について更に述べると、洗浄液14の酸化還元電位が高い方がFe,Cr,Ni,及びSiを除去する効果が高く、このような洗浄液14の例としては、塩酸、硝酸、フッ酸、又は硫酸、或いはこれらに過酸化水素水を混ぜたものや、これらの混合液などが挙げられる。
【0024】
一方、アルカリ性の洗浄液14を用いて窒化ガリウム基板10の窒素面を洗浄することも可能であるが、上述したように強アルカリ性の洗浄液14では窒素面の平坦性が損なわれてしまうので、アンモニアを含む過酸化水素水といった弱アルカリ性の洗浄液14を用いて窒素面を洗浄することが好ましい。
【0025】
なお、アルカリ性の洗浄液14を用いて窒化ガリウム基板10の窒素面を洗浄する工程は、酸性の洗浄液14を用いた洗浄工程の後に行うことが好ましい。窒化ガリウムは他の半導体材料と異なり、pH7の中性においてゼータ電位が正であり、他の不純物(Fe,Cr,Ni,及びSi)のゼータ電位が負であるから、窒化ガリウム基板10を純水で洗浄しても静電力により不純物が付着してしまう。窒化ガリウムのゼータ電位はpH7.1以上で負になるので、アルカリ性の洗浄液14による洗浄工程を酸性の洗浄液14による洗浄工程より後に行う必要があり、これを行わないと不純物が増加してしまうからである。
【0026】
また、窒化ガリウム基板10の表面10aを洗浄する際、窒化ガリウム基板10を揺動、あるいは振動(例えば超音波振動)させながら洗浄することが好ましい。これにより、窒化ガリウム基板10の表面10aに対する洗浄作用を高めることができる。
【0027】
<第3の工程(窒化ガリウム基板と支持基板との貼り合わせ)>
続いて、図2(a)に示すように、窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る支持基板20を準備する。そして、この支持基板20の表面20aと、窒化ガリウム基板10の表面10aとを互いに貼り合わせて接合させる。支持基板20は、後に形成される窒化ガリウム層を保持できる程度の強度(硬さか厚み)を有していれば、その構成材料については特に限定されないが、窒化ガリウム層上に半導体デバイス層を成長させる際の高温や、アンモニア及び水素といったガス雰囲気に曝されることを考慮して、そのような環境に耐え得る材料系から成ることが好ましい。そのような支持基板20としては、例えば表面20aに酸化層20bを有するシリコン基板が好適である。
【0028】
また、これらを接合させる前に、窒化ガリウム基板10及び支持基板20の各接合面を、ドライエッチング装置におけるアルゴンガス中で放電させて得られるプラズマにより予め清浄しておくと良い。
【0029】
窒化ガリウム基板10及び支持基板20を互いに接合させる方法は種々あるが、例えば、窒化ガリウム基板10及び支持基板20の接合面をそれぞれ鏡面に研磨し、これらを貼り合わせた後に荷重を加えながら加熱する方法や、窒化ガリウム基板10及び支持基板20をプラズマ中に曝すことにより接合する方法、或いは、真空中でプラズマ、イオン、又は中性粒子等によって窒化ガリウム基板10及び支持基板20の表面を叩くことにより表面の反応を増加させ、その後に窒化ガリウム基板10及び支持基板20を互いに貼り合わせて接合する方法などがある。また、樹脂コーティングや貼着テープ等を介してこれらを接合させることも可能である。また、窒化ガリウム基板10と支持基板20との接合界面に金属を介在させ、加熱して共晶接合させる方法や、イオンが移動しやすい材料を窒化ガリウム基板10と支持基板20との間に介在させて接合させる方法など、異種の基板同士が接合界面付近を除く領域においてそれぞれの特性を保持できる接合方法であれば、どのような方法であってもよい。
【0030】
<第4の工程(窒化ガリウム基板の剥離)>
続いて、図2(b)に示すように、互いに接合された窒化ガリウム基板10及び支持基板20をアニール炉200へ導入し、N雰囲気、O雰囲気、或いはN+O雰囲気の下でアニール処理を施す。このときの温度は、例えば300℃以上である。これにより、脆弱層10bに亀裂が発生し、図2(c)に示すように、脆弱層10bの表面10a側の部分のみ層状に残して窒化ガリウム基板10の他の部分が支持基板20から剥離する(窒化ガリウム基板10の薄板化)。こうして、窒化ガリウム基板10の他の部分が除去され、脆弱層10bは、窒化ガリウム層30として、支持基板20の表面20a上に残る。
【0031】
なお、本実施形態ではイオン注入後の加熱によって窒化ガリウム基板10の一部を支持基板20上に残存させているが、窒化ガリウム基板10を薄板化する方法は他の方法でも良く、例えば窒化ガリウム基板10のイオン注入部分に力を加えて上記脆弱層10bを剥離させても良いし、窒化ガリウム基板10をスライスしても良いし、研磨等によって薄板化しても良い。
【0032】
以上の工程により、図3(a)に示すように、窒化ガリウム層30を支持基板20上に有する基板生産物1が作製される。
【0033】
<エピタキシャル層形成工程>
続いて、図3(b)に示すように、窒化物系化合物半導体から成るエピタキシャル層60を窒化ガリウム層30上に成長させる。エピタキシャル層60を構成する材料としては、その格子定数が窒化ガリウム層30と同じか又は近いもの、例えば窒化ガリウムが好適である。このエピタキシャル層形成工程を経ることにより、表面の平坦性が高くデバイスの作製に更に好適な基板生産物2が作製される。
【0034】
<デバイス層形成工程>
続いて、基板生産物2を用いた半導体デバイスの作製に移る。まず、図3(c)に示すように、基板生産物2のエピタキシャル層60上に、n型GaN層70及びn型AlGaN層72といった第1導電型の窒化物系化合物半導体層、発光層74、並びにp型AlGaN層76及びp型GaN層78といった第2導電型の窒化物系化合物半導体層を成長させる。発光層74は、電流(キャリア)が注入されることにより光を発生する層であり、多重量子井戸構造を有している。具体的には、発光層74は、複数のバリア層及び井戸層が交互に積層されることにより構成されている。バリア層及び井戸層は、AlX3InGa1−X3−YN(0≦X3<1、0≦Y<1、0<X3+Y<1)といった窒化物系化合物半導体からなる。バリア層及び井戸層の組成は、バリア層のバンドギャップが井戸層のバンドギャップよりも大きくなるように調整されている。この構成により、発光層74に注入されたキャリアが井戸層に効率よく閉じ込められる。
【0035】
続いて、図4(a)に示すように、各半導体層70〜78の一部をエッチング(メサエッチング)することにより、n型GaN層70の一部の表面を露出させる。そして、真空蒸着法や電子ビーム蒸着法によって、図4(b)に示すようにアノード電極82及びカソード電極84を形成する。このとき、アノード電極82は、p型GaN層78の発光層74と対向する面とは反対側の面上に、ほぼ全面にわたって設けられる。アノード電極82は例えばNi/Au/Al/Auといった金属を順次積層してなり、アノード電極82とp型GaN層78との間でオーミック接触が実現される。
【0036】
また、カソード電極84は、n型GaN層70のエピタキシャル層60と対向する面とは反対側の面上において、n型AlGaN層72、発光層74、p型AlGaN層76、及びp型GaN層78が設けられた領域とは別の領域上に設けられる。カソード電極84は、例えばTi/Al/Auといった金属を順次積層してなり、カソード電極84とn型GaN層70との間でオーミック接触が実現される。
【0037】
以上の工程により、発光ダイオードといった機能を有する半導体デバイス層3が、エピタキシャル層60上に形成される。これにより、半導体デバイス層3を基板生産物2上に有する半導体デバイス4が提供される。
【実施例1】
【0038】
上記実施形態に係る基板生産物1の一実施例として、発明者が調査した、窒化ガリウム基板10の表面における不純物の密度による基板生産物1の特性の変化について説明する。
【0039】
まず、酸素をドープした厚さ500[μm]の2インチGaNウェハ(窒化ガリウム基板10に相当)の両面を研磨して鏡面にしたものを6枚準備した。これらのGaNウェハは、六方晶でありその表面は(0001)面であった。また、これらのGaNウェハの比抵抗は1[Ω・cm]以下であり、キャリア濃度は1×1017[cm−3]以上であった。
【0040】
次に、これらのGaNウェハの窒素面に水素イオンを注入した。このとき、イオンの加速電圧を100[keV]とし、ドーズ量を4×1017[cm−2]とした。イオン注入後、これらのGaNウェハのうち1枚に対し全反射蛍光X線(Total Reflection X-Ray Fluorescence)測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0041】
続いて、残り5枚のGaNウェハの窒素面を洗浄した。このとき、5枚のGaNウェハのうち1枚をアセトンで5分間洗浄し、他の3枚を塩酸でそれぞれ1分、3分及び10分洗浄し、残りの1枚を塩酸で20分、フッ酸で10分洗浄した。
【0042】
その後、5枚のGaNウェハをドライエッチング装置にセットし、アルゴンガス中で放電させて得られるプラズマにより窒素面を清浄した。また、これとは別に5枚のシリコンウェハ(支持基板20に相当)を準備し、これらのシリコンウェハの表面を熱酸化させて厚さ100[nm]のSiO層(酸化層20bに相当)を形成した。これらのシリコンウェハの表面をプラズマにより清浄した。なお、GaNウェハ及びシリコンウェハを清浄する際のArガスの条件は、RFパワー100[W]、Ar流量50[sccm(標準立方センチメートル毎分)]、圧力6.7[Pa]であった。その後、各5枚のGaNウェハ及びシリコンウェハを互いに大気中で貼り合わせ、これらを窒素中に置き300[℃]で2時間加熱することにより接合させ、同時にイオン注入による脆弱層を残してGaNウェハをシリコンウェハから剥離させることにより、GaN膜を表面に有するシリコンウェハ(基板生産物1に相当)を作製した。
【0043】
次に、各シリコンウェハのGaN膜上に、MOCVD法を使用してGaNエピタキシャル層を形成した。GaNエピタキシャル層にはn型ドーパントが添加され、その不純物濃度は7×1015[cm−3]であった。また、GaNエピタキシャル層の厚さは5[μm]であった。このような5枚のシリコンウェハのそれぞれを二分割し、その一方について、二次イオン質量分析(SIMS分析)によりGaN膜のシリコンとの界面における不純物密度を測定した。
【0044】
また、分割された他方の各シリコンウェハのGaNエピタキシャル層の表面に対して、塩酸水溶液(塩酸:純水=1:1)によって室温で1分間の表面処理を行った後、GaNエピタキシャル層上に、Au膜からなる二つのショットキー電極を抵抗加熱蒸着法により形成した。一方のショットキー電極は、直径が200[μm]の円形電極であった。また、他方のショットキー電極は、一方のショットキー電極の周囲に設けられた環状電極であり、一方のショットキー電極との間隔は250[μm]であり、外径は300[μm]であった。そして、これらのショットキー電極間の耐圧を、各シリコンウェハについて測定した。
【0045】
下の表2は、各シリコンウェハ(1)〜(5)について、洗浄方法、SIMS分析による不純物密度の最大量、及び耐圧値を示している。なお、不純物密度の最大量は、GaN膜のシリコンウェハとの界面における不純物密度を意味していると考えられる。
【表2】


表2に示すように、不純物密度が3.7×1018[cm−3]から1.2×1218[cm−3]までおよそ70%低下しても耐圧は50[V]から98[V]まで約2倍にしか増加しないが、不純物密度がそれより低くなると、1.2×1218[cm−3]から7.4×1017[cm−3]までおよそ40%低下しただけで約2倍増加している。そして、不純物密度がこれより低くなるほど、耐圧が顕著に増加していることがわかる。このように、GaN膜のシリコンウェハとの界面における不純物密度が1×1018[cm−3]以下であれば、耐圧が顕著に増加する(すなわち、GaN膜におけるリーク電流が顕著に減少する)ことが判明した。
【実施例2】
【0046】
上述した実施例1においてショットキー電極が設けられたシリコンウェハ(1)及び(5)を使用して、オン抵抗及び順方向電圧を測定した。シリコンウェハ(1)の場合、印加電圧を5Vとすると電流を50[A]しか流せなかったが、シリコンウェハ(5)の場合、電流を100[A]流すことができ、順方向の電流密度が470[A・cm−2]で順方向電圧が1.7[V]という良好な特性を得た。この結果より、GaN膜のシリコンウェハとの界面における不純物密度が1×1018[cm−3]以下であれば、良好なショットキーバリアダイオードを形成できることが判明した。
【実施例3】
【0047】
上記実施形態に係る基板生産物1の他の実施例として、洗浄工程においてアルカリ性の洗浄液を使用した場合の、その洗浄液の種類による製造工程への影響を調べた結果について説明する。
【0048】
まず、酸素をドープした厚さ500[μm]の2インチGaNウェハ(窒化ガリウム基板10に相当)の両面を研磨して鏡面にしたものを3枚準備した。研磨後の窒素面の表面粗さは1[nm]であった。これらのGaNウェハは、六方晶でありその表面は(0001)面であった。また、これらのGaNウェハの比抵抗は1[Ω・cm]以下であり、キャリア濃度は1×1017[cm−3]以上であった。
【0049】
次に、これらのGaNウェハの窒素面に水素イオンを注入した。このとき、イオンの加速電圧を100[keV]とし、ドーズ量を4×1017[cm−2]とした。イオン注入後、3枚のGaNウェハの窒素面をアセトンで5分間の超音波洗浄を行い、その後に塩酸(HCl:水=1:1)による10分間の洗浄を行った。
【0050】
続いて、洗浄液として、水で薄めることによりpHを13に各々調整したKOH溶液及びNaOH溶液を準備し、また、これとは別に、洗浄液として、アンモニア水と過酸化水素水と水との比が1:1:5である混合溶液を準備した。そして、これら3種類の洗浄液に3枚のGaNウェハをそれぞれ浸したのち、これらのGaNウェハの表面粗さを測定した。
【0051】
また、3枚のGaNウェハとは別に、3枚のシリコンウェハ(支持基板20に相当)を準備し、これらのシリコンウェハの表面を熱酸化させて厚さ100[nm]のSiO層(酸化層20bに相当)を形成した。その後、各3枚のGaNウェハ及びシリコンウェハを互いに接合させた。表3は、3種類の洗浄液によってそれぞれ洗浄された各GaNウェハの表面粗さと、接合の可否を示したものである。
【表3】


表3に示すように、KOH溶液で洗浄したGaNウェハ及びNaOH溶液で洗浄したGaNウェハはシリコンウェハと接合されず、アンモニア水と過酸化水素水と水の混合溶液で洗浄したGaNウェハのみシリコンウェハと接合できた。
【0052】
なお、この接合したシリコンウェハ及びGaNウェハを加熱し、イオン注入による脆弱層を残してGaNウェハをシリコンウェハから剥離させることにより、GaN膜を表面に有するシリコンウェハ(基板生産物1に相当)を作製した。そして、この基板生産物を使用して実施例1と同様のショットキバリアダイオードを作製したところ、その耐圧は442[V]であり、良好な特性が得られた。
【0053】
以上に説明した基板生産物1の製造方法、基板生産物1及び半導体デバイス4が有する効果について説明する。実施例1において説明したように、本発明者は、支持基板20との接合面である窒化ガリウム基板10の表面10aにFe,Cr,Ni,及びSiのいずれかが不純物として付着していると、当該不純物を介して窒化ガリウム層30で電流のリークが生じ易いことを見出した。また、これらの不純物が合計で1×1018[cm−3]以下であれば、電流のリークが顕著に減少し耐圧性が向上することを見出した。すなわち、上記実施形態による基板生産物1の製造方法によれば、窒化ガリウム基板10の表面10aを洗浄する工程の際に、洗浄後の表面10aにおけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度を合計で1×1018[cm−3]以下とすることによって、窒化ガリウム層30に流れるリーク電流を効果的に低減することができる。また、上記実施形態による基板生産物1及び半導体デバイス4によれば、窒化ガリウム層30の支持基板20との界面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度が合計で1×1018[cm−3]以下であることによって、窒化ガリウム層30に流れるリーク電流を効果的に低減することができる。
【0054】
また、上記実施形態のように、窒化ガリウム基板10の表面10aを洗浄する工程が、アンモニアを含む過酸化水素水を用いて表面10aを洗浄する工程を含んでもよい。一般的に、窒化ガリウム層30上に半導体デバイス層3(図4(b)を参照)を成長させる際には、窒化ガリウム層30の窒素面とは逆のガリウム面を成長面として用いることが多い。その場合、窒化ガリウム基板10において支持基板20と接合される面を窒素面とする必要があるが、実施例3に示したように、例えばKOHやNaOHといった強アルカリ性の液体を用いて洗浄すると窒素面がエッチングされてしまい、表面の平坦性が損なわれて支持基板20との接合が難しくなる。これに対し、アンモニアを含む過酸化水素水を用いて表面10aを洗浄すれば、表3に示したように窒化ガリウム基板10の窒素面の平坦性を保ちつつ、洗浄によってこの窒素面の不純物密度を1×1018[cm−3]以下に抑えることができる。
【0055】
また、上記実施形態のように、窒化ガリウム基板10の表面10aを洗浄する工程の際には、窒化ガリウム基板10を揺動あるいは振動(例えば超音波振動)させながら洗浄することが好ましい。これにより、窒化ガリウム基板10の表面10aに対する洗浄作用を高めることができる。
【0056】
本発明による基板生産物の製造方法、基板生産物、及び半導体デバイスは、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および実施例では窒化物系化合物半導体基板として窒化ガリウム基板を例示したが、窒化物系化合物から成る基板であれば他の組成を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,2…基板生産物、3…半導体デバイス層、4…半導体デバイス、10…窒化ガリウム基板、10a…表面、10b…脆弱層、12…イオン、14…洗浄液、20…支持基板、20a…表面、20b…酸化層、30…窒化ガリウム層、60…エピタキシャル層、70…n型GaN層、72…n型AlGaN層、74…発光層、76…p型AlGaN層、78…p型GaN層、82…アノード電極、84…カソード電極、100…イオン注入装置、200…アニール炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る支持基板上に窒化物系化合物半導体層を有する基板生産物を製造する方法であって、
窒化物系化合物半導体基板の表面にイオン注入を行う工程と、
前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程と、
前記窒化物系化合物半導体基板の表面と前記支持基板の表面とを互いに接合させる工程と、
前記窒化物系化合物半導体基板のうち表面を含む部分を層状に残して他の部分を除去することにより、窒化物系化合物半導体層を前記支持基板上に形成する工程と
を備え、
前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程の際に、洗浄後の前記窒化物系化合物半導体基板の表面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度を合計で1×1018[cm−3]以下とすることを特徴とする、基板生産物の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程が、アンモニアを含む過酸化水素水を用いて前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の基板生産物の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄する工程の際に、前記窒化物系化合物半導体基板を揺動あるいは振動させながら洗浄することを特徴とする、請求項1または2に記載の基板生産物の製造方法。
【請求項4】
窒化物系化合物半導体基板の表面にイオン注入を行い、前記窒化物系化合物半導体基板の表面を洗浄したのち、前記窒化物系化合物半導体基板の表面と、窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る支持基板の表面とを互いに接合させ、前記窒化物系化合物半導体基板のうち表面を含む部分を層状に残して他の部分を除去することにより形成された窒化物系化合物半導体層を前記支持基板上に備え、
前記窒化物系化合物半導体層の前記支持基板との界面におけるFe,Cr,Ni,及びSiの密度が合計で1×1018[cm−3]以下であることを特徴とする、基板生産物。
【請求項5】
請求項4に記載の基板生産物と、
前記基板生産物の前記窒化物系化合物半導体層上に設けられた窒化物系化合物半導体から成る半導体デバイス層と
を備えることを特徴とする、半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−287731(P2010−287731A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140359(P2009−140359)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】