導電性ダイヤモンド膜が形成された基板及び導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法
【課題】核生成速度が速く、粒子密度が高いダイヤモンド膜を得ることができる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基板に対する前処理として、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であるダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成する。
【解決手段】基板に対する前処理として、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であるダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンド膜が形成された基板及び導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法に関する。更に詳しくは、銅、アルミニウム、ガラスを基板とした、大面積化が期待できる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板、及び基板上へのダイヤモンド膜の形成を、基板温度を250℃程度とした化学気相成長法で実施することが可能な導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ダイヤモンドは、高硬度や耐熱性等の物理的・化学的安定性、高い熱導電性等の優れた物性から、発光素子、高出力高周波素子、耐放射線素子の各種半導体素子や電子デバイス材料として注目され、研究・開発が進められている。例えば、導電性ダイヤモンドを電極に用いた場合は、電位窓が広い、バックグラウンド電流が小さい、物理的・化学的に安定、表面改質が可能等といった、グラッシーカーボンや貴金属といった従来の電極材料より優れた性質を持つことが知られている。人工的にダイヤモンドを製造する方法としては超高圧を用いる方法と気相から合成する方法の2つに大別されるが、大面積の膜が得られる方法として、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)が広く用いられている(例えば、特許文献1〜特許文献3を参照。)。
【0003】
基材の表面に薄膜を形成する蒸着法の一つである化学気相成長法(CVD法)は、石英等で出来た反応管内で加熱した基材の表面に、目的とする薄膜(導電性ダイヤモンド膜)の成分を含む原料ガスを供給し、基盤表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。この化学気相成長法は、常圧(大気圧)や加圧した状態での運転が可能であるが、化学反応を活性化させる目的で、原料物質を含むガスに、熱や光によってエネルギーを与えたり、高周波でプラズマ化したりすることにより、原料物質がラジカル化して反応性に富むようになり、基板上に吸着されて堆積する。CVD法の種類としては、例えば、温度を上げて堆積させるものを熱CVD法、化学反応や熱分解を促進させるために光を照射するものを光CVD法、ガスをプラズマ状態に励起する方法をプラズマCVD法という。
【0004】
【特許文献1】特開2001−354491号公報([0016]、[0017])
【特許文献2】特開2004−176132号公報([請求項10]、[0054])
【特許文献3】特開2006−143561号公報([0008]、[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化学気相成長法を用いて導電性ダイヤモンド膜を形成するためには、前記した特許文献1等に開示されるように、対象となる基板を800℃以上に加熱する必要があり、基板の構成材料としてはシリコンや石英、モリブデン、ニオブ、タングステン等といった高融点、高耐熱性材料に限定されていた。また、このような理由により、アルミニウム等の金属やガラス、プラスチック等の融点が低い材料ないし耐熱性が低い材料からなる基板に、導電性ダイヤモンド膜を形成することは困難であった。
【0006】
一方、ガラス基板は、ディスプレイ用途等でニーズが高く、また、かかるガラスや、銅、アルミニウムからなる基板も、安価で大面積にも対応可能な基板であるため、いずれもダイヤモンド膜を形成可能な技術の提供が望まれていた。近年、特許文献2や特許文献3に開示されるように、300℃程度の低温条件でダイヤモンド膜を合成する方法も提案されていた。しかしながら、300℃程度の低温条件ではダイヤモンドの核生成速度が遅く、製膜に多大な時間がかかってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、大面積化が期待できる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板、及び化学気相成長法で導電性ダイヤモンド膜を形成するにあたり、基板温度を例えば250〜300℃といった低温領域としても、核生成速度が速く、粒子密度も高いダイヤモンド膜を得ることができる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1において、前記ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1または請求項2において、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有していることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項3において、前記増粘剤の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、前記化学気相成長法がマイクロ波プラズマ化学気相成長法であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板に対する前処理として、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布するようにしているので、基板上にあらかじめダイヤモンドナノ粒子を固定することができ、化学気相成長法の実施にあたって、基板温度が250℃程度で合成されるにもかかわらず、基板上での導電性ダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができる。よって、低耐熱性材料ないし低融点材料で構成された基板に対するダイヤモンド膜の形成技術として最適である。また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、従来の800℃以上で合成された導電性ダイヤモンド膜と同様に、結晶粒子が大きく、粒子密度も高いことに加え、導電性が高い等、電気的特性に優れたものとなる。
【0015】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を特定範囲としているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子が確実に固定され、前記した基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布することにより効果を効率よく発揮することができ、また、基板に対する導電性ダイヤモンド膜の密着性も良好となる。
【0016】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上に塗布するダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有するようにしているので、分散溶液をゲル化することができ、分散溶液を基板上に塗布した後の乾燥において、溶媒の流れによって溶液中のダイヤモンドナノ粒子が凝集し、基板上で偏在してしまうことを防止することができる。
【0017】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上に塗布するダイヤモンドナノ粒子分散溶液に対する増粘剤の含有量を、分散溶液全体に対して特定範囲としているので、粘度も適当であり、分散溶液を効率よくゲル化することができ、ダイヤモンドナノ粒子の凝集や基板上での偏在を確実に防止することができる。
【0018】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、化学気相成長法として、マイクロ波プラズマCVD法を適用しているので、高密度プラズマ源であるマイクロ波プラズマを用いて、原料ガスとなる炭化水素等を効率よく分解でき、形成される導電性ダイヤモンド膜の質の向上を図ることができ、基板上にハイスループットの導電性ダイヤモンド膜を形成することができる。
【0019】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されているので、基板の大面積化が期待でき、例えば、導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された製造方法(以下、「本発明の製造方法」という場合もある。)は、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上、好ましくは300℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することによりなる。
【0021】
本発明の製造方法にあっては、導電性ダイヤモンド膜を形成する対象となる基板は、特には制限無く、シリコン基板、石英基板(白金、金、銀、パラジウム等のグリッドが入ったグリッド(格子)入り石英基板を含む。以下同じ。)、セラミック基板(セラミクス基板、セラミックス基板)や、アルミニウム基板、銅基板、鉄基板、ステンレス基板、真鍮基板等の金属基板、ポリイミド基板、ポリアミド基板等のプラスチック基板、耐熱プラスチック基板、ガラス基板等を使用することができる。本発明の製造方法は、250℃以上であれば安定して化学気相成長法を実施することができ、高品質の多結晶導電性ダイヤモンド膜を形成することができるので、シリコン基板、石英基板、セラミック基板等といった、融点も高く、耐熱性の高い(高耐熱性の)構成材料から成る基板はもちろんのこと、アルミニウム基板等の金属基板、ガラス基板、ポリイミド基板、ポリアミド基板等のプラスチック基板といった、800℃程度の加熱に耐えることができない、耐熱性の低い(低耐熱性の)構成材料からなる基板や、プラスチック基板等、低耐熱性かつ、融点が概ね400℃以下の低融点材料からなる基板にも問題なく適用することができる。また、250℃程度の低温領域で導電性ダイヤモンド膜を合成することができるので、基板の熱変形を防止し、基板に対する負荷を軽減することができるとともに、得られる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の寸法安定性も優れる。なお、本発明において、ガラス(ガラス基板)としては、例えば、ソーダ石灰ガラス(軟化点 約550〜約750℃)、鉛ガラス(同 約500℃)、ホウケイ酸ガラス(同 約800℃)等が挙げられ、軟化点が概ね1000℃以下のものを、一方、石英(石英基板)としては、石英ガラス(合成石英ガラス含)(同 約1600〜約1750℃)等が挙げられ、軟化点が概ね1000℃を超えるもの、をそれぞれ指す。
【0022】
本発明の製造方法は、化学気相成長法を行う前の基板上に、前処理としてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布する。基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布することにより、ダイヤモンドナノ粒子が基板上に種付け(シーディング)されて固定されることにより、化学気相成長法を実施するにあたって、当該ダイヤモンドナノ粒子と合成される導電性ダイヤモンド膜のなじみがよく、基板上でのダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができる。また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、得られる膜の粒子密度も高くなる。そして、分散溶液という形態で基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布するようにしているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子が均一に固定されることになる。
【0023】
適用するダイヤモンドナノ粒子は、平均粒径が概ね5〜100nm、好ましくは5〜10nmであり、グラファイト不純物が除去され、水や有機溶媒中で一次粒子まで解膠(かいこう)(deflocculant)できる。よって、当該ダイヤモンドナノ粒子を分散した分散溶液は極めて安定なナノコロイドとなり、コロイド中の10nm以下のナノ分散粒子の個数比率は99%以上となり、凝膠(ぎょうこう)体がほとんど存在しない。ダイヤモンドナノ粒子としては、例えば、爆発法で作製したダイヤモンドナノ粒子や、電子衝撃CVD法(EACVD法)、気相合成法及び液相成長法で作製したダイヤモンドナノ粒子等を使用することができる。
【0024】
ダイヤモンドナノ粒子を分散させる溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、2−プロパノール、トルエン等の有機溶媒を使用することができる。これらの溶媒は、その1種を単独で使用してもよく、その2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%とすることが好ましい。分散溶液に対するダイヤモンドナノ粒子の含有量がかかる範囲であれば、基板上にダイヤモンドナノ粒子が確実に固定され、基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布することにより効果を効率よく発揮することができる。一方、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が0.001質量%より少ないと、基板上に固定されるダイヤモンドナノ粒子の量が少なすぎ、基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布する効果が得られない場合があり、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が0.1質量%を超えると、成長しなかったダイヤモンドナノ粒子が残留し、生成されるダイヤモンド膜の基板への密着性が悪くなる場合がある。ダイヤモンドナノ粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.001〜0.05質量%とすることが更に好ましく、0.005〜0.05質量%とすることが特に好ましい。
【0026】
また、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液は、溶媒にダイヤモンドナノ粒子を加えるほか、増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤を含有することにより、分散溶液をゲル化することができ、分散溶液を基板上に塗布した後の乾燥において、溶媒の流れによって溶液中のダイヤモンドナノ粒子が凝集し、基板上で偏在してしまうことを防止することができる。使用できる増粘剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩系増粘剤、水溶性セルロース類、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、増粘剤は、水溶性のものを使用することが好ましく、また、増粘剤は、後工程である化学気相成長法における初期段階の水素プラズマにより、容易に分解・除去される。
【0027】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液に対する増粘剤の含有量は、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%とすることが好ましい。分散溶液に対する増粘剤の含有量がかかる範囲であれば、粘度も適当であり、分散溶液を効率よくゲル化することができ、ダイヤモンドナノ粒子の凝集や基板上での偏在を確実に防止することができる。一方、増粘剤の含有量が0.01質量%より少ないと、分散溶液がゲル化せず、増粘剤を添加する効果が現れない場合があり、増粘剤の含有量が10.0質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎるため、分散溶液が基板上に広がらず、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を均一に塗布することが困難となる場合がある。増粘剤の含有量は、分散溶液全体に対して0.01〜1.0質量%とすることがさらに好ましく、0.025〜0.5質量%とすることが特に好ましい。
【0028】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製するには、前記した溶媒中とダイヤモンドナノ粒子を混合・撹拌して、溶媒中にダイヤモンドナノ粒子を分散されるようにすればよい。また、増粘剤を使用する場合は、あらかじめ加熱した溶媒を使用してもよく、また、増粘剤を添加した後の分散溶液を加熱するようにして、増粘剤を分散溶液中に混合するようにすればよい。なお、溶媒に対するダイヤモンドナノ粒子と増粘剤との混合の順序については、均一なゲル状態のダイヤモンドナノ粒子分散溶液を得ることができれば十分であり、特に問題にはならない。
【0029】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を基板上に塗布するに際しては、特に制限はなく、キャスト法、ディップコート法、スプレー法、刷毛塗り法等による公知の方法を使用することができる。本発明の実施に際しては、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を均一かつ定量的に塗布できる点で、キャスト法を用いることが好ましい。
【0030】
基板上に対するダイヤモンドナノ粒子分散溶液の塗布量は、後工程で実施される化学気相成長法の条件や、製造しようとするダイヤモンド膜の厚さ等により左右されるが、概ね0.01〜0.2g/cm2程度とすればよく、0.02〜0.1g/cm2程度とすることが好ましい。
【0031】
本発明のダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法にあっては、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した基板に対して、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)を用いて、基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成する。化学気相成長法とは、前記したように、石英等で形成される反応管内で加熱した基材の表面に、目的とする薄膜(導電性ダイヤモンド膜)の成分を含む原料ガスを供給し、基盤表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。化学気相成長法(CVD法)としては、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(マイクロ波プラズマCVD法)、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)、熱フィラメント化学気相成長法(熱フィラメントCVD法)、光化学気相成長法(光CVD法)等の公知の方法を使用することができるが、高密度プラズマ源であるマイクロ波プラズマを用いて、原料ガスとなる炭化水素等を効率よく分解でき、形成される導電性ダイヤモンド膜の質の向上を図ることができ、ハイスループットの膜を形成することができるという点で、マイクロ波プラズマCVD法を適用することが好ましい。
【0032】
なお、マイクロ波プラズマCVD法は、マグネトロン等より発生するマイクロ波を導波管によりプラズマ発生室に導き、炭素源を分解してプラズマ化させ、これを加熱されている被処理基板上に導くことにより、炭素ラジカルがダイヤモンドとなって微結晶を成長させる方法である。
【0033】
CVD法を実施するにあたり、炭化水素及び水素を含む原料ガスが必要となる。水素は、炭化水素のための希釈ガスとなるとともに、ダイヤモンドの結晶化促進を補助する。水素流量は、200〜500sccm程度とすればよい。
【0034】
水素源とともに用いられる炭素源としては、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等や、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のケトン類等を使用することができる。これらの炭素源は、その1種を単独で使用してもよく、その2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、液体のものは、2種類以上の混合溶液として用いるようにしてもよい。
【0035】
また、得られる導電性ダイヤモンド膜に不純物をドープすれば、得られるダイヤモンド膜の結晶構造を制御したり、ダイヤモンド膜の導電性を向上させることができる。また、ダイヤモンド膜に対して半導体特性を付与することができる。不純物としては、ホウ素(B)、硫黄(S)、酸素(O)、窒素(N)、ケイ素(Si)が挙げられ、炭化水素及び水素を含む原料ガスには、ホウ素を得るためにはジボラン、トリメトキシボラン、酸化ホウ素、硫黄を得るためには酸化硫黄、硫化水素、酸素を得るためには酸素自体あるいは二酸化炭素、窒素を得るためにはアンモニアあるいは窒素自体、ケイ素を得るためにはシラン、等を加えるようにしてもよい。
【0036】
原料ガスの圧力は20〜50Torr程度であればよく、反応ガスの圧力がかかる範囲であれば、合成が安定して進行し、結晶粒度が大きい、高品質のダイヤモンド膜が得られることになる。
【0037】
CVD法を実施する際の基板温度は、本発明にあっては、250℃以上として、300〜1200℃とすることが好ましく、300〜900℃とすることが特に好ましい。基板温度は、基板の融点に応じて決定すればよい。例えば、以下のようにして基板温度を設定すればよい。
【0038】
(基板の構成材料と基板温度との関係)
耐熱性プラスチック基板、プラスチック基板、ガラス基板:300〜400℃
石英基板、金属基板:300〜500℃、好ましくは400〜500℃
シリコン基板、セラミック基板:300〜900℃、好ましくは700〜900℃
【0039】
成長時間は、前記した基板温度や、基板を構成する材料及びその面積等にも左右されるが、2時間以上であればよく、5時間以上であることが好ましい。成長時間が長ければ、得られる導電性ダイヤモンド膜を構成するダイヤモンド粒子の平均粒径、結晶粒径が大きくなり、結晶性も向上する。また、成長時間を長くしたダイヤモンド粒子は、粒子が融合して粒子間の抵抗が小さくなり、導電性が向上する。これにより、基板を電極として用いた場合にあっては、電極反応速度が増加するといった効果を奏することができる。
【0040】
また、プラズマ出力は500〜1500W程度であればよく、プラズマ出力がかかる範囲であれば、合成が効率よく進行し、副生成物の少ない、高品質の導電性ダイヤモンド膜を形成することができる。
【0041】
本発明で得られる基板は、結晶粒径が数十〜数百nmのサイズの結晶粒子により、基板上が隙間無く覆われて、結晶密度(核密度)の高い、多結晶の導電性ダイヤモンド膜が基板上に形成される。導電性ダイヤモンド膜を電気化学的に適用する場合、特に導電性基板を用いた場合にあっては基板表面を露出させることができない一方、結晶粒子により隙間無く覆われる本発明で得られる基板は、電気化学的な用途に適用するにも最適である。また、形成される導電性ダイヤモンド膜の厚さは、概ね0.1〜5.0μmの薄膜である。
【0042】
図1は、本発明で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と、他の電極のバックグラウンド電流を比較した模式図である。図1に示されるように、本発明で得られた基板からなる電極は、比較として載せたグラッシーカーボンや貴金属電極(金電極、白金電極)と比べて電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいものである。また、このバックグラウンド電流は、従来の高温(800℃以上)を用いて合成された導電性ダイヤモンド膜を備えた電極と同様な挙動を示すものである。
【0043】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、化学気相成長法を用いて基板上に導電性ダイヤモンド膜を形成するにあたって、前処理として、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布しているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子に固定することができ、化学気相成長法の実施にあたって、基板温度が250℃程度で合成されるにもかかわらず、基板上での導電性ダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができ、また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、従来の800℃以上で合成された導電性ダイヤモンド膜と同様に、結晶粒子が大きく、粒子密度も高くなるとともに、導電性が高く、電気的特性に優れたものとなる。
【0044】
また、本発明の製造方法は、化学気相成長法を用いて導電性ダイヤモンド膜の合成を250℃程度といった低温で実施することができるので、シリコン基板、石英基板、セラミック基板等といった高耐熱性の構成材料から成る基板に加えて、ガラス基板、プラスチック基板といった、800℃程度の加熱に耐えることができない、低耐熱性材料ないし低融点材料からなる基板にも問題なく適用することができる。かかる低耐熱性材料は比較的安価であり、大面積化も容易であることから、基板温度を250℃程度として、低耐熱性材料に高品質のダイヤモンド膜を安定して形成できることにより、例えば、導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【0045】
導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、発光素子、高出力高周波素子、耐放射線素子の各種半導体素子や各種電子デバイス、電気化学デバイス等に使用することができ、例えば、得られた基板を導電性ダイヤモンド電極として適用した場合には、高感度な電気化学分析や高効率な電気分解を実施することができる。例えば、ベースメタル基板に導電性ダイヤモンド薄膜を製膜できれば、比較的大きな面積のダイヤモンド電極(10cm2以上)の電極を従来よりも安価に提供することができる。なお、比較的大電流を流すためには、導電性の高い金属、例えば銅、アルミニウム等を基板として導電性ダイヤモンド膜を形成することが望ましい。
【0046】
また、プラスチック等の軽量基板へ導電性ダイヤモンド薄膜を作製できれば、小型・携帯用電気化学センサーに組み込む分析用電極として使用することができる。そして、ガラス・石英・プラスチック等の透明材料を基板として導電性ダイヤモンド薄膜で被覆することにより、光を透過する電極・導電材料が作製できる可能性もある。
【0047】
加えて、導電性ダイヤモンド膜として、広範な用途、荷電粒子線マスク、リソグラフィー用ハードマスク、マイクロマシーン、工具及び磁気ヘッドの被覆材料、冷陰極電子源、電界発光素子ならびに液晶ディスプレイ等の薄型ディスプレイデバイス用及び太陽電池用電極膜、表面弾性波素子、バイオチップ、電気化学反応用電極、二次電池ならびに燃料電池用電極等の炭素系材料の応用分野に適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造(1):
下記(1)及び(2)を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板を製
造した。
【0050】
(1)シリコン基板上への処理液のキャスト:
溶媒を水として、溶液全体の0.1質量%のダイヤモンドナノ粒子(平均粒径:5〜10nm、ナノアマンド:(株)ナノ炭素研究所製)、増粘剤として溶液全体の0.25質量%の寒天(和光純薬工業(株)製)を混合し、沸騰させてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製した。一方、2−プロパノールに13.0mm×9.5mm×0.65mmtのシリコン基板を浸漬させ、15分間超音波洗浄した。超音波洗浄が終わったシリコン基板上に、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を50μLキャストして塗布した。このダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布したシリコン基板を室温で冷却、乾燥して、基板上にダイヤモンドナノ粒子を固定した。
【0051】
(2)MP−CVD法による導電性ダイヤモンド膜の形成:
(1)で得られたシリコン基板を、下記の条件により、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、シリコン基板上にボロンがドープされた多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0052】
(CVDの条件)
炭素源 :メタノール+アセトン混合溶媒
ホウ素源 :70%トリメトキシボラン(B/C 原子比 20000ppm)
水素流量 :400sccm
反応圧力 :35Torr
プラズマ出力:750W
基板温度 :300℃
成長時間 :2時間
【0053】
[参考例1]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造:
表面に1000番の紙ヤスリを用いて、実施例1で用いたものと同仕様のシリコン基板の表面に傷付け処理を施し、表面を荒らした。傷付け処理を施したシリコン基板を、ダイヤモンドパウダー(平均粒径0.1〜0.5μm、:エレメントシックス社製)を2−プロパノールを溶媒として混合させた混合溶液中で超音波洗浄した後、メタノールでリンスした。メタノールでリンスした後のシリコン基板を、実施例1(2)(成長時間 2時間)と同様にマイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、基板温度を300℃として、シリコン基板上にボロンがドープした多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0054】
[参考例2]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造:
参考例1に示した方法において、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)における基板温度を300℃から800℃に変更した以外は、参考例1と同様な方法を用いて、シリコン基板上にボロンがドープした多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0055】
図2は、実施例1(1)における乾燥後のシリコン基板表面のSEM写真を示した図である。図2に示すように、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布し、乾燥したシリコン基板は、基板上にダイヤモンドナノ粒子を大量に固定化できることが確認できた。
【0056】
また、図3〜図5はMP−CVD法実施後の基板表面のSEM写真を示した図(図3:実施例1、図4:参考例1、図5:参考例2)である。図3(実施例1)及び図5(参考例2)を比較すると、実施例1で得られた基板は、基板温度を300℃としてMP−CVD法を実施したにもかかわらず、核生成速度も速く、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンド膜を形成することができ、また、図3の写真より、粒子密度も、基板温度を800℃とした従来の方法で得られた参考例2(図5)と同様なレベルで形成できることが確認できた。一方、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液の塗布を行わず、基板温度を300℃とした参考例1は、核生成速度も遅く、図4に示した写真からも、得られた導電性ダイヤモンド膜の粒子密度も少なかった。
【0057】
図6〜図8は、実施例1、参考例1及び参考例2で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図6〜図8に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、ダイヤモンドが形成されていることが確認できた。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を0.1質量%から0.005質量%、MP−CVD法における成長時間を2時間から5時間とした以外は、実施例1と同様な方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った。
【0059】
[参考例3]
参考例2(基板温度 800℃)において、MP−CVD法における成長時間を2時間から5時間とした以外は、実施例2と同様な方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った。
【0060】
[試験例1]
電解質溶液中のサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
一般に、導電性ダイヤモンド電極は、貴金属電極やグラッシーカーボン等の炭素系電極と比較して、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいことが特徴であり、高感度な電気化学分析や高効率な電気分解等、さまざまな用途への応用が期待されている。本発明のダイヤモンド膜の形成方法で得られた基板がこのような電気化学特性を有しているかを確認するために、実施例2、及び従来の形成方法で得られた参考例3の基板について、0.1Mのリン酸緩衝溶液中でのサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した(走査速度:100mV/s)。結果を図9及び図10に示す。なお、図10は図9における部分拡大図である。
【0061】
図9及び図10に示すように、実施例2で得られた基板のサイクリックボルタグラム(CV)は、従来の方法で作製した参考例3の基板と比べても、ほぼ同様な性質のものが得られたことが確認できた。以上より、実施例2で得られた、基板温度を300℃として合成された導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板は、800℃以上の基板温度で合成された通常の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と同様な電気的特性を備えていることが確認できた。
【0062】
[試験例2]
酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
実施例2で得られた基板について、典型的な酸化還元種であるフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])をレドックスプローブとして用い、下記の条件で実施したサイクリックボルタモグラム(CV)を図11に示す。図11の結果より、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例2で得られた導電性ダイヤモンド膜を形成した基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【0063】
(条件)
レドックスプローブ :K3[Fe(CN)6](1mM)
電解液 :PBS(0.1M)
走査速度 :100mV/s
【0064】
[試験例3]
ダイヤモンドナノ粒子の含有量と合成される導電性ダイヤモンド膜との関係:
実施例2において、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を0.005質量%から0.025質量%、0.05質量%、0.1質量%とした以外は、実施例2と同様の方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った(含有量が0.025質量%、0.05質量%、及び0.1質量%のものを、それぞれ実施例2a、実施例2b、及び実施例2cとした。)。
【0065】
図12は、実施例2、実施例2a、実施例2b及び実施例2cで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図12に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られるが、実施例2(含有量が0.005質量%)のピークが一番大きく、ダイヤモンドの割合が一番高いことが確認できた。
【0066】
また、基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜の結晶粒子は、ダイヤモンドナノ粒子の含有量に関わらず十分に形成されており、結晶粒子の大きさも、本試験例における範囲では大差ないことが確認できた。
【0067】
なお、本試験において、形成された導電性ダイヤモンド膜と基板の密着性は、実施例2(含有量が0.05質量%)のものが一番よく、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が増えるにつれて、徐々にではあるが、基板に対する導電性ダイヤモンド膜の密着性が悪くなっていった。
【0068】
[試験例4]
MP−CVD法における成長時間と合成される導電性ダイヤモンド膜との関係:
実施例2において、MP−CVD法における成長時間を5時間から2時間、及び10時間とした以外は、実施例2と同様の方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った(成長時間が2時間、及び10時間のものを、それぞれ実施例2d、及び実施例2eとした。)。
【0069】
図13は、実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図13に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、また、成長時間が長くなるにつれて、ピークが大きくなっており、ダイヤモンドの割合が高くなった。よって、成長時間が長いほど導電性ダイヤモンドの結晶粒子が成長していることが確認できた。
【0070】
図14は、基板表面のSEM写真を示した図(図14A:実施例2d、図14B:実施例2、図14C:実施例2e)である。図14に示すように、基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜の結晶粒子は、成長時間が2時間であっても十分に形成されており、また、結晶粒子の大きさは、成長時間が長くなるにつれて大きくなっていくことが確認できた。
【0071】
酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板について、試験例2と同様、酸化還元種であるフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])をレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を図15に示す。図15に示すように、成長時間が長いほど、可逆な酸化還元ピークが観察され、得られた基板を電極として用いた場合における導電性向上による電極反応速度が増加することが確認できた。
【0072】
[実施例3]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の製造:
基板としてガラス基板(ソーダ石灰ガラス/軟化点 720℃)を用いて、下記(1)及び(2)を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板を製造した。
【0073】
(1)基板上への処理液のキャスト:
溶媒を水として、溶液全体の0.005質量%のダイヤモンドナノ粒子(平均粒径:5〜10nm、ナノアマンド:(株)ナノ炭素研究所製)、増粘剤として溶液全体の0.25質量%の寒天(和光純薬工業(株)製)を混合し、沸騰させてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製した。一方、2−プロパノールに13.0mm×9.5mm×0.65mmtのガラス基板を浸漬させ、15分間超音波洗浄した。超音波洗浄が終わったガラス基板上に、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を50μLキャストして塗布した。このダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布したガラス基板を室温で冷却、乾燥して、基板上にダイヤモンドナノ粒子を固定した。
【0074】
(2)MP−CVD法による導電性ダイヤモンド膜の形成:
(1)で得られたガラス基板を、下記の条件により、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、ガラス基板上にボロンがドープされた多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成し、本発明に係る導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板を得た。
【0075】
(CVDの条件)
炭素源 :メタノール+アセトン混合溶媒
ホウ素源 :70%トリメトキシボラン(B/C 原子比 20000ppm)
水素流量 :400sccm
反応圧力 :35Torr
プラズマ出力:500W
基板温度 :300℃
成長時間 :2時間
【0076】
[実施例4]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板からアルミニウム基板に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、本発明に係る導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板を得た。
【0077】
[実施例5]
導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板から銅基板に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、本発明に係る導電性ダイヤモンドが形成された銅基板を得た。
【0078】
図16Aは、実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の表面のSEM写真を示した図、図16Bは、実施例4で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の表面のSEM写真を示した図、図16Cは、実施例5で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の表面のSEM写真を示した図、をそれぞれ示す。いずれの基板も、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。これらガラス基板、アルミニウム基板、及び銅基板は、いずれも大面積化が期待できるため、大面積の導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【0079】
また、図17は、実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板のラマンスペクトルを示した図である。図17に示すように、得られた基板は、グラファイト成分が多いものの、ダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、ダイヤモンドが形成されていることが確認できた。
【0080】
[実施例6]
導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板から石英基板(合成石英ガラス/軟化点 1720℃)に、また、MP−CVD法におけるプラズマ出力を500Wから750W、成長時間を2時間から10時間に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンドが形成された石英基板を得た。
【0081】
[実施例7]
導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の製造:
実施例6において、基板を石英基板から白金グリッド入り石英基板(石英について、合成石英ガラス/軟化点 1720℃)に変更した以外は、実施例6と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンドが形成された白金グリッド入り石英基板を得た。
【0082】
図18Aは、実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の表面のSEM写真を示した図、図18Bは、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図、をそれぞれ示す。なお、白金グリッド入り石英基板とは、石英基板に、幅が100μmの白金箔からなるグリッド(格子)を縦方向及び横方向に、間隔を150μmとして形成したものであり、かかる白金箔は、厚さ10nmのチタン層の上に、厚さ90nmの白金層を蒸着により形成したものである。図18Cに、使用した白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を併せて示した。図18A及び図18Bに示すように、いずれの基板も、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。なお、石英基板から白金グリッド入り石英基板とすることにより、シート抵抗を低減することができ(本実施例であれば、石英基板で約270kΩ/□であるところ、白金グリッド入り石英基板であれば約28kΩ/□)、導電材料として、電極(電気化学測定電極)等の用途に用いることができる。
【0083】
実施例6の導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板について、下記の測定条件を用いて、透過スペクトルを測定した。結果を図19に示す。
【0084】
(測定条件)
測定装置 :紫外可視分光光度計(V−570:日本分光(株)製)
リファレンス:空気
測定雰囲気 :室温・大気中
測定範囲 :200nm〜800nm
【0085】
図19は、実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の透過スペクトルを示した図である。図19に示すように、実施例6の導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板は、200数十nm以上の光を透過可能であることがわかり、透明性を必要とする用途に適することが確認できた。
【0086】
また、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、試験例2と同様な方法を用いて、酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。
【0087】
図20は、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。図20に示すように、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜を形成した白金グリッド入り石英基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、かかる基板が電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【0088】
[実施例8]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の製造:
実施例6において、基板を石英基板からチタン基板に、ダイヤモンドナノ粒子の含有量を溶液全体の0.005質量%から0.01質量%に変更した以外は、実施例6と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板を得た。
【0089】
図21は、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の表面のSEM写真を示した図である。図21に示すように、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。
【0090】
また、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、試験例1と同様な方法を用いて、0.1Mのリン酸緩衝溶液中でのサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した(走査速度:100mV/s)。結果を図22に示す。
【0091】
図22に示すように、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板のサイクリックボルタグラム(CV)は、従来の方法で作製した基板(例えば、参考例3の基板)と比べても、ほぼ同様な性質のものが得られたことが確認できた。このように、実施例8で得られた、導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板は、800℃以上の基板温度で合成された通常の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と同様な電気的特性を備えていることが確認できた。
【0092】
加えて、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、試験例2と同様な方法を用いて、酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。結果を図23に示す。
【0093】
図23は、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。図23に示すように、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例7で得られた基板と同様、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、かかる基板が電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、半導体分野、電子デバイス分野、電気化学デバイス分野等で使用される導電性ダイヤモンド膜が形成された基板を提供する技術として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と、他の電極のバックグラウンド電流を比較した模式図である。
【図2】実施例1(1)における乾燥後の基板表面のSEM写真を示した図である。
【図3】MP−CVD法実施後の実施例1で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図4】MP−CVD法実施後の参考例1で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図5】MP−CVD法実施後の参考例2で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図6】実施例1で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図7】参考例1で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図8】参考例2で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図9】実施例2及び参考例3で得られた基板のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図10】図9の部分拡大図である。
【図11】実施例2で得られた基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図12】試験例3における、実施例2、実施例2a、実施例2b及び実施例2cで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図13】試験例4における、実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図14A】試験例4における、実施例2dで得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図14B】試験例4における、実施例2で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図14C】試験例4における、実施例2eで得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図15】試験例4における、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図16A】実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図16B】実施例4で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図16C】実施例5で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図17】実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図18A】実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図18B】実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図18C】実施例7で使用した白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図19】実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の透過スペクトルを示した図である。
【図20】実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図21】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図22】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板のサイクリックボルタグラム(CV)を示した図である。
【図23】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンド膜が形成された基板及び導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法に関する。更に詳しくは、銅、アルミニウム、ガラスを基板とした、大面積化が期待できる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板、及び基板上へのダイヤモンド膜の形成を、基板温度を250℃程度とした化学気相成長法で実施することが可能な導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ダイヤモンドは、高硬度や耐熱性等の物理的・化学的安定性、高い熱導電性等の優れた物性から、発光素子、高出力高周波素子、耐放射線素子の各種半導体素子や電子デバイス材料として注目され、研究・開発が進められている。例えば、導電性ダイヤモンドを電極に用いた場合は、電位窓が広い、バックグラウンド電流が小さい、物理的・化学的に安定、表面改質が可能等といった、グラッシーカーボンや貴金属といった従来の電極材料より優れた性質を持つことが知られている。人工的にダイヤモンドを製造する方法としては超高圧を用いる方法と気相から合成する方法の2つに大別されるが、大面積の膜が得られる方法として、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)が広く用いられている(例えば、特許文献1〜特許文献3を参照。)。
【0003】
基材の表面に薄膜を形成する蒸着法の一つである化学気相成長法(CVD法)は、石英等で出来た反応管内で加熱した基材の表面に、目的とする薄膜(導電性ダイヤモンド膜)の成分を含む原料ガスを供給し、基盤表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。この化学気相成長法は、常圧(大気圧)や加圧した状態での運転が可能であるが、化学反応を活性化させる目的で、原料物質を含むガスに、熱や光によってエネルギーを与えたり、高周波でプラズマ化したりすることにより、原料物質がラジカル化して反応性に富むようになり、基板上に吸着されて堆積する。CVD法の種類としては、例えば、温度を上げて堆積させるものを熱CVD法、化学反応や熱分解を促進させるために光を照射するものを光CVD法、ガスをプラズマ状態に励起する方法をプラズマCVD法という。
【0004】
【特許文献1】特開2001−354491号公報([0016]、[0017])
【特許文献2】特開2004−176132号公報([請求項10]、[0054])
【特許文献3】特開2006−143561号公報([0008]、[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化学気相成長法を用いて導電性ダイヤモンド膜を形成するためには、前記した特許文献1等に開示されるように、対象となる基板を800℃以上に加熱する必要があり、基板の構成材料としてはシリコンや石英、モリブデン、ニオブ、タングステン等といった高融点、高耐熱性材料に限定されていた。また、このような理由により、アルミニウム等の金属やガラス、プラスチック等の融点が低い材料ないし耐熱性が低い材料からなる基板に、導電性ダイヤモンド膜を形成することは困難であった。
【0006】
一方、ガラス基板は、ディスプレイ用途等でニーズが高く、また、かかるガラスや、銅、アルミニウムからなる基板も、安価で大面積にも対応可能な基板であるため、いずれもダイヤモンド膜を形成可能な技術の提供が望まれていた。近年、特許文献2や特許文献3に開示されるように、300℃程度の低温条件でダイヤモンド膜を合成する方法も提案されていた。しかしながら、300℃程度の低温条件ではダイヤモンドの核生成速度が遅く、製膜に多大な時間がかかってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、大面積化が期待できる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板、及び化学気相成長法で導電性ダイヤモンド膜を形成するにあたり、基板温度を例えば250〜300℃といった低温領域としても、核生成速度が速く、粒子密度も高いダイヤモンド膜を得ることができる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1において、前記ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1または請求項2において、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有していることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項3において、前記増粘剤の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、前記請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、前記化学気相成長法がマイクロ波プラズマ化学気相成長法であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板に対する前処理として、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布するようにしているので、基板上にあらかじめダイヤモンドナノ粒子を固定することができ、化学気相成長法の実施にあたって、基板温度が250℃程度で合成されるにもかかわらず、基板上での導電性ダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができる。よって、低耐熱性材料ないし低融点材料で構成された基板に対するダイヤモンド膜の形成技術として最適である。また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、従来の800℃以上で合成された導電性ダイヤモンド膜と同様に、結晶粒子が大きく、粒子密度も高いことに加え、導電性が高い等、電気的特性に優れたものとなる。
【0015】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を特定範囲としているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子が確実に固定され、前記した基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布することにより効果を効率よく発揮することができ、また、基板に対する導電性ダイヤモンド膜の密着性も良好となる。
【0016】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上に塗布するダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有するようにしているので、分散溶液をゲル化することができ、分散溶液を基板上に塗布した後の乾燥において、溶媒の流れによって溶液中のダイヤモンドナノ粒子が凝集し、基板上で偏在してしまうことを防止することができる。
【0017】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、基板上に塗布するダイヤモンドナノ粒子分散溶液に対する増粘剤の含有量を、分散溶液全体に対して特定範囲としているので、粘度も適当であり、分散溶液を効率よくゲル化することができ、ダイヤモンドナノ粒子の凝集や基板上での偏在を確実に防止することができる。
【0018】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、化学気相成長法として、マイクロ波プラズマCVD法を適用しているので、高密度プラズマ源であるマイクロ波プラズマを用いて、原料ガスとなる炭化水素等を効率よく分解でき、形成される導電性ダイヤモンド膜の質の向上を図ることができ、基板上にハイスループットの導電性ダイヤモンド膜を形成することができる。
【0019】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されているので、基板の大面積化が期待でき、例えば、導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された製造方法(以下、「本発明の製造方法」という場合もある。)は、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上、好ましくは300℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することによりなる。
【0021】
本発明の製造方法にあっては、導電性ダイヤモンド膜を形成する対象となる基板は、特には制限無く、シリコン基板、石英基板(白金、金、銀、パラジウム等のグリッドが入ったグリッド(格子)入り石英基板を含む。以下同じ。)、セラミック基板(セラミクス基板、セラミックス基板)や、アルミニウム基板、銅基板、鉄基板、ステンレス基板、真鍮基板等の金属基板、ポリイミド基板、ポリアミド基板等のプラスチック基板、耐熱プラスチック基板、ガラス基板等を使用することができる。本発明の製造方法は、250℃以上であれば安定して化学気相成長法を実施することができ、高品質の多結晶導電性ダイヤモンド膜を形成することができるので、シリコン基板、石英基板、セラミック基板等といった、融点も高く、耐熱性の高い(高耐熱性の)構成材料から成る基板はもちろんのこと、アルミニウム基板等の金属基板、ガラス基板、ポリイミド基板、ポリアミド基板等のプラスチック基板といった、800℃程度の加熱に耐えることができない、耐熱性の低い(低耐熱性の)構成材料からなる基板や、プラスチック基板等、低耐熱性かつ、融点が概ね400℃以下の低融点材料からなる基板にも問題なく適用することができる。また、250℃程度の低温領域で導電性ダイヤモンド膜を合成することができるので、基板の熱変形を防止し、基板に対する負荷を軽減することができるとともに、得られる導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の寸法安定性も優れる。なお、本発明において、ガラス(ガラス基板)としては、例えば、ソーダ石灰ガラス(軟化点 約550〜約750℃)、鉛ガラス(同 約500℃)、ホウケイ酸ガラス(同 約800℃)等が挙げられ、軟化点が概ね1000℃以下のものを、一方、石英(石英基板)としては、石英ガラス(合成石英ガラス含)(同 約1600〜約1750℃)等が挙げられ、軟化点が概ね1000℃を超えるもの、をそれぞれ指す。
【0022】
本発明の製造方法は、化学気相成長法を行う前の基板上に、前処理としてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布する。基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布することにより、ダイヤモンドナノ粒子が基板上に種付け(シーディング)されて固定されることにより、化学気相成長法を実施するにあたって、当該ダイヤモンドナノ粒子と合成される導電性ダイヤモンド膜のなじみがよく、基板上でのダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができる。また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、得られる膜の粒子密度も高くなる。そして、分散溶液という形態で基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布するようにしているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子が均一に固定されることになる。
【0023】
適用するダイヤモンドナノ粒子は、平均粒径が概ね5〜100nm、好ましくは5〜10nmであり、グラファイト不純物が除去され、水や有機溶媒中で一次粒子まで解膠(かいこう)(deflocculant)できる。よって、当該ダイヤモンドナノ粒子を分散した分散溶液は極めて安定なナノコロイドとなり、コロイド中の10nm以下のナノ分散粒子の個数比率は99%以上となり、凝膠(ぎょうこう)体がほとんど存在しない。ダイヤモンドナノ粒子としては、例えば、爆発法で作製したダイヤモンドナノ粒子や、電子衝撃CVD法(EACVD法)、気相合成法及び液相成長法で作製したダイヤモンドナノ粒子等を使用することができる。
【0024】
ダイヤモンドナノ粒子を分散させる溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、2−プロパノール、トルエン等の有機溶媒を使用することができる。これらの溶媒は、その1種を単独で使用してもよく、その2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%とすることが好ましい。分散溶液に対するダイヤモンドナノ粒子の含有量がかかる範囲であれば、基板上にダイヤモンドナノ粒子が確実に固定され、基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布することにより効果を効率よく発揮することができる。一方、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が0.001質量%より少ないと、基板上に固定されるダイヤモンドナノ粒子の量が少なすぎ、基板上にダイヤモンドナノ粒子を塗布する効果が得られない場合があり、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が0.1質量%を超えると、成長しなかったダイヤモンドナノ粒子が残留し、生成されるダイヤモンド膜の基板への密着性が悪くなる場合がある。ダイヤモンドナノ粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.001〜0.05質量%とすることが更に好ましく、0.005〜0.05質量%とすることが特に好ましい。
【0026】
また、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液は、溶媒にダイヤモンドナノ粒子を加えるほか、増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤を含有することにより、分散溶液をゲル化することができ、分散溶液を基板上に塗布した後の乾燥において、溶媒の流れによって溶液中のダイヤモンドナノ粒子が凝集し、基板上で偏在してしまうことを防止することができる。使用できる増粘剤としては、例えば、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩系増粘剤、水溶性セルロース類、ポリエチレンオキサイド等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、増粘剤は、水溶性のものを使用することが好ましく、また、増粘剤は、後工程である化学気相成長法における初期段階の水素プラズマにより、容易に分解・除去される。
【0027】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液に対する増粘剤の含有量は、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%とすることが好ましい。分散溶液に対する増粘剤の含有量がかかる範囲であれば、粘度も適当であり、分散溶液を効率よくゲル化することができ、ダイヤモンドナノ粒子の凝集や基板上での偏在を確実に防止することができる。一方、増粘剤の含有量が0.01質量%より少ないと、分散溶液がゲル化せず、増粘剤を添加する効果が現れない場合があり、増粘剤の含有量が10.0質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎるため、分散溶液が基板上に広がらず、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を均一に塗布することが困難となる場合がある。増粘剤の含有量は、分散溶液全体に対して0.01〜1.0質量%とすることがさらに好ましく、0.025〜0.5質量%とすることが特に好ましい。
【0028】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製するには、前記した溶媒中とダイヤモンドナノ粒子を混合・撹拌して、溶媒中にダイヤモンドナノ粒子を分散されるようにすればよい。また、増粘剤を使用する場合は、あらかじめ加熱した溶媒を使用してもよく、また、増粘剤を添加した後の分散溶液を加熱するようにして、増粘剤を分散溶液中に混合するようにすればよい。なお、溶媒に対するダイヤモンドナノ粒子と増粘剤との混合の順序については、均一なゲル状態のダイヤモンドナノ粒子分散溶液を得ることができれば十分であり、特に問題にはならない。
【0029】
ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を基板上に塗布するに際しては、特に制限はなく、キャスト法、ディップコート法、スプレー法、刷毛塗り法等による公知の方法を使用することができる。本発明の実施に際しては、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を均一かつ定量的に塗布できる点で、キャスト法を用いることが好ましい。
【0030】
基板上に対するダイヤモンドナノ粒子分散溶液の塗布量は、後工程で実施される化学気相成長法の条件や、製造しようとするダイヤモンド膜の厚さ等により左右されるが、概ね0.01〜0.2g/cm2程度とすればよく、0.02〜0.1g/cm2程度とすることが好ましい。
【0031】
本発明のダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法にあっては、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した基板に対して、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)を用いて、基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成する。化学気相成長法とは、前記したように、石英等で形成される反応管内で加熱した基材の表面に、目的とする薄膜(導電性ダイヤモンド膜)の成分を含む原料ガスを供給し、基盤表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。化学気相成長法(CVD法)としては、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(マイクロ波プラズマCVD法)、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)、熱フィラメント化学気相成長法(熱フィラメントCVD法)、光化学気相成長法(光CVD法)等の公知の方法を使用することができるが、高密度プラズマ源であるマイクロ波プラズマを用いて、原料ガスとなる炭化水素等を効率よく分解でき、形成される導電性ダイヤモンド膜の質の向上を図ることができ、ハイスループットの膜を形成することができるという点で、マイクロ波プラズマCVD法を適用することが好ましい。
【0032】
なお、マイクロ波プラズマCVD法は、マグネトロン等より発生するマイクロ波を導波管によりプラズマ発生室に導き、炭素源を分解してプラズマ化させ、これを加熱されている被処理基板上に導くことにより、炭素ラジカルがダイヤモンドとなって微結晶を成長させる方法である。
【0033】
CVD法を実施するにあたり、炭化水素及び水素を含む原料ガスが必要となる。水素は、炭化水素のための希釈ガスとなるとともに、ダイヤモンドの結晶化促進を補助する。水素流量は、200〜500sccm程度とすればよい。
【0034】
水素源とともに用いられる炭素源としては、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等や、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のケトン類等を使用することができる。これらの炭素源は、その1種を単独で使用してもよく、その2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、液体のものは、2種類以上の混合溶液として用いるようにしてもよい。
【0035】
また、得られる導電性ダイヤモンド膜に不純物をドープすれば、得られるダイヤモンド膜の結晶構造を制御したり、ダイヤモンド膜の導電性を向上させることができる。また、ダイヤモンド膜に対して半導体特性を付与することができる。不純物としては、ホウ素(B)、硫黄(S)、酸素(O)、窒素(N)、ケイ素(Si)が挙げられ、炭化水素及び水素を含む原料ガスには、ホウ素を得るためにはジボラン、トリメトキシボラン、酸化ホウ素、硫黄を得るためには酸化硫黄、硫化水素、酸素を得るためには酸素自体あるいは二酸化炭素、窒素を得るためにはアンモニアあるいは窒素自体、ケイ素を得るためにはシラン、等を加えるようにしてもよい。
【0036】
原料ガスの圧力は20〜50Torr程度であればよく、反応ガスの圧力がかかる範囲であれば、合成が安定して進行し、結晶粒度が大きい、高品質のダイヤモンド膜が得られることになる。
【0037】
CVD法を実施する際の基板温度は、本発明にあっては、250℃以上として、300〜1200℃とすることが好ましく、300〜900℃とすることが特に好ましい。基板温度は、基板の融点に応じて決定すればよい。例えば、以下のようにして基板温度を設定すればよい。
【0038】
(基板の構成材料と基板温度との関係)
耐熱性プラスチック基板、プラスチック基板、ガラス基板:300〜400℃
石英基板、金属基板:300〜500℃、好ましくは400〜500℃
シリコン基板、セラミック基板:300〜900℃、好ましくは700〜900℃
【0039】
成長時間は、前記した基板温度や、基板を構成する材料及びその面積等にも左右されるが、2時間以上であればよく、5時間以上であることが好ましい。成長時間が長ければ、得られる導電性ダイヤモンド膜を構成するダイヤモンド粒子の平均粒径、結晶粒径が大きくなり、結晶性も向上する。また、成長時間を長くしたダイヤモンド粒子は、粒子が融合して粒子間の抵抗が小さくなり、導電性が向上する。これにより、基板を電極として用いた場合にあっては、電極反応速度が増加するといった効果を奏することができる。
【0040】
また、プラズマ出力は500〜1500W程度であればよく、プラズマ出力がかかる範囲であれば、合成が効率よく進行し、副生成物の少ない、高品質の導電性ダイヤモンド膜を形成することができる。
【0041】
本発明で得られる基板は、結晶粒径が数十〜数百nmのサイズの結晶粒子により、基板上が隙間無く覆われて、結晶密度(核密度)の高い、多結晶の導電性ダイヤモンド膜が基板上に形成される。導電性ダイヤモンド膜を電気化学的に適用する場合、特に導電性基板を用いた場合にあっては基板表面を露出させることができない一方、結晶粒子により隙間無く覆われる本発明で得られる基板は、電気化学的な用途に適用するにも最適である。また、形成される導電性ダイヤモンド膜の厚さは、概ね0.1〜5.0μmの薄膜である。
【0042】
図1は、本発明で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と、他の電極のバックグラウンド電流を比較した模式図である。図1に示されるように、本発明で得られた基板からなる電極は、比較として載せたグラッシーカーボンや貴金属電極(金電極、白金電極)と比べて電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいものである。また、このバックグラウンド電流は、従来の高温(800℃以上)を用いて合成された導電性ダイヤモンド膜を備えた電極と同様な挙動を示すものである。
【0043】
本発明の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法は、化学気相成長法を用いて基板上に導電性ダイヤモンド膜を形成するにあたって、前処理として、基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布しているので、基板上にダイヤモンドナノ粒子に固定することができ、化学気相成長法の実施にあたって、基板温度が250℃程度で合成されるにもかかわらず、基板上での導電性ダイヤモンド膜の合成が効率よく進行し、核生成速度を速めることができ、また、得られる導電性ダイヤモンド膜も、従来の800℃以上で合成された導電性ダイヤモンド膜と同様に、結晶粒子が大きく、粒子密度も高くなるとともに、導電性が高く、電気的特性に優れたものとなる。
【0044】
また、本発明の製造方法は、化学気相成長法を用いて導電性ダイヤモンド膜の合成を250℃程度といった低温で実施することができるので、シリコン基板、石英基板、セラミック基板等といった高耐熱性の構成材料から成る基板に加えて、ガラス基板、プラスチック基板といった、800℃程度の加熱に耐えることができない、低耐熱性材料ないし低融点材料からなる基板にも問題なく適用することができる。かかる低耐熱性材料は比較的安価であり、大面積化も容易であることから、基板温度を250℃程度として、低耐熱性材料に高品質のダイヤモンド膜を安定して形成できることにより、例えば、導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【0045】
導電性ダイヤモンド膜が形成された基板は、発光素子、高出力高周波素子、耐放射線素子の各種半導体素子や各種電子デバイス、電気化学デバイス等に使用することができ、例えば、得られた基板を導電性ダイヤモンド電極として適用した場合には、高感度な電気化学分析や高効率な電気分解を実施することができる。例えば、ベースメタル基板に導電性ダイヤモンド薄膜を製膜できれば、比較的大きな面積のダイヤモンド電極(10cm2以上)の電極を従来よりも安価に提供することができる。なお、比較的大電流を流すためには、導電性の高い金属、例えば銅、アルミニウム等を基板として導電性ダイヤモンド膜を形成することが望ましい。
【0046】
また、プラスチック等の軽量基板へ導電性ダイヤモンド薄膜を作製できれば、小型・携帯用電気化学センサーに組み込む分析用電極として使用することができる。そして、ガラス・石英・プラスチック等の透明材料を基板として導電性ダイヤモンド薄膜で被覆することにより、光を透過する電極・導電材料が作製できる可能性もある。
【0047】
加えて、導電性ダイヤモンド膜として、広範な用途、荷電粒子線マスク、リソグラフィー用ハードマスク、マイクロマシーン、工具及び磁気ヘッドの被覆材料、冷陰極電子源、電界発光素子ならびに液晶ディスプレイ等の薄型ディスプレイデバイス用及び太陽電池用電極膜、表面弾性波素子、バイオチップ、電気化学反応用電極、二次電池ならびに燃料電池用電極等の炭素系材料の応用分野に適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造(1):
下記(1)及び(2)を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板を製
造した。
【0050】
(1)シリコン基板上への処理液のキャスト:
溶媒を水として、溶液全体の0.1質量%のダイヤモンドナノ粒子(平均粒径:5〜10nm、ナノアマンド:(株)ナノ炭素研究所製)、増粘剤として溶液全体の0.25質量%の寒天(和光純薬工業(株)製)を混合し、沸騰させてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製した。一方、2−プロパノールに13.0mm×9.5mm×0.65mmtのシリコン基板を浸漬させ、15分間超音波洗浄した。超音波洗浄が終わったシリコン基板上に、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を50μLキャストして塗布した。このダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布したシリコン基板を室温で冷却、乾燥して、基板上にダイヤモンドナノ粒子を固定した。
【0051】
(2)MP−CVD法による導電性ダイヤモンド膜の形成:
(1)で得られたシリコン基板を、下記の条件により、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、シリコン基板上にボロンがドープされた多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0052】
(CVDの条件)
炭素源 :メタノール+アセトン混合溶媒
ホウ素源 :70%トリメトキシボラン(B/C 原子比 20000ppm)
水素流量 :400sccm
反応圧力 :35Torr
プラズマ出力:750W
基板温度 :300℃
成長時間 :2時間
【0053】
[参考例1]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造:
表面に1000番の紙ヤスリを用いて、実施例1で用いたものと同仕様のシリコン基板の表面に傷付け処理を施し、表面を荒らした。傷付け処理を施したシリコン基板を、ダイヤモンドパウダー(平均粒径0.1〜0.5μm、:エレメントシックス社製)を2−プロパノールを溶媒として混合させた混合溶液中で超音波洗浄した後、メタノールでリンスした。メタノールでリンスした後のシリコン基板を、実施例1(2)(成長時間 2時間)と同様にマイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、基板温度を300℃として、シリコン基板上にボロンがドープした多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0054】
[参考例2]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板の製造:
参考例1に示した方法において、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)における基板温度を300℃から800℃に変更した以外は、参考例1と同様な方法を用いて、シリコン基板上にボロンがドープした多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成した。
【0055】
図2は、実施例1(1)における乾燥後のシリコン基板表面のSEM写真を示した図である。図2に示すように、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布し、乾燥したシリコン基板は、基板上にダイヤモンドナノ粒子を大量に固定化できることが確認できた。
【0056】
また、図3〜図5はMP−CVD法実施後の基板表面のSEM写真を示した図(図3:実施例1、図4:参考例1、図5:参考例2)である。図3(実施例1)及び図5(参考例2)を比較すると、実施例1で得られた基板は、基板温度を300℃としてMP−CVD法を実施したにもかかわらず、核生成速度も速く、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンド膜を形成することができ、また、図3の写真より、粒子密度も、基板温度を800℃とした従来の方法で得られた参考例2(図5)と同様なレベルで形成できることが確認できた。一方、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液の塗布を行わず、基板温度を300℃とした参考例1は、核生成速度も遅く、図4に示した写真からも、得られた導電性ダイヤモンド膜の粒子密度も少なかった。
【0057】
図6〜図8は、実施例1、参考例1及び参考例2で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図6〜図8に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、ダイヤモンドが形成されていることが確認できた。
【0058】
[実施例2]
実施例1において、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を0.1質量%から0.005質量%、MP−CVD法における成長時間を2時間から5時間とした以外は、実施例1と同様な方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った。
【0059】
[参考例3]
参考例2(基板温度 800℃)において、MP−CVD法における成長時間を2時間から5時間とした以外は、実施例2と同様な方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った。
【0060】
[試験例1]
電解質溶液中のサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
一般に、導電性ダイヤモンド電極は、貴金属電極やグラッシーカーボン等の炭素系電極と比較して、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいことが特徴であり、高感度な電気化学分析や高効率な電気分解等、さまざまな用途への応用が期待されている。本発明のダイヤモンド膜の形成方法で得られた基板がこのような電気化学特性を有しているかを確認するために、実施例2、及び従来の形成方法で得られた参考例3の基板について、0.1Mのリン酸緩衝溶液中でのサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した(走査速度:100mV/s)。結果を図9及び図10に示す。なお、図10は図9における部分拡大図である。
【0061】
図9及び図10に示すように、実施例2で得られた基板のサイクリックボルタグラム(CV)は、従来の方法で作製した参考例3の基板と比べても、ほぼ同様な性質のものが得られたことが確認できた。以上より、実施例2で得られた、基板温度を300℃として合成された導電性ダイヤモンド膜が形成されたシリコン基板は、800℃以上の基板温度で合成された通常の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と同様な電気的特性を備えていることが確認できた。
【0062】
[試験例2]
酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
実施例2で得られた基板について、典型的な酸化還元種であるフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])をレドックスプローブとして用い、下記の条件で実施したサイクリックボルタモグラム(CV)を図11に示す。図11の結果より、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例2で得られた導電性ダイヤモンド膜を形成した基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【0063】
(条件)
レドックスプローブ :K3[Fe(CN)6](1mM)
電解液 :PBS(0.1M)
走査速度 :100mV/s
【0064】
[試験例3]
ダイヤモンドナノ粒子の含有量と合成される導電性ダイヤモンド膜との関係:
実施例2において、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液におけるダイヤモンドナノ粒子の含有量を0.005質量%から0.025質量%、0.05質量%、0.1質量%とした以外は、実施例2と同様の方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った(含有量が0.025質量%、0.05質量%、及び0.1質量%のものを、それぞれ実施例2a、実施例2b、及び実施例2cとした。)。
【0065】
図12は、実施例2、実施例2a、実施例2b及び実施例2cで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図12に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られるが、実施例2(含有量が0.005質量%)のピークが一番大きく、ダイヤモンドの割合が一番高いことが確認できた。
【0066】
また、基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜の結晶粒子は、ダイヤモンドナノ粒子の含有量に関わらず十分に形成されており、結晶粒子の大きさも、本試験例における範囲では大差ないことが確認できた。
【0067】
なお、本試験において、形成された導電性ダイヤモンド膜と基板の密着性は、実施例2(含有量が0.05質量%)のものが一番よく、ダイヤモンドナノ粒子の含有量が増えるにつれて、徐々にではあるが、基板に対する導電性ダイヤモンド膜の密着性が悪くなっていった。
【0068】
[試験例4]
MP−CVD法における成長時間と合成される導電性ダイヤモンド膜との関係:
実施例2において、MP−CVD法における成長時間を5時間から2時間、及び10時間とした以外は、実施例2と同様の方法を用いて、シリコン基板への導電性ダイヤモンド膜の形成を行った(成長時間が2時間、及び10時間のものを、それぞれ実施例2d、及び実施例2eとした。)。
【0069】
図13は、実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。図13に示すように、得られた基板は、いずれもダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、また、成長時間が長くなるにつれて、ピークが大きくなっており、ダイヤモンドの割合が高くなった。よって、成長時間が長いほど導電性ダイヤモンドの結晶粒子が成長していることが確認できた。
【0070】
図14は、基板表面のSEM写真を示した図(図14A:実施例2d、図14B:実施例2、図14C:実施例2e)である。図14に示すように、基板上に形成された導電性ダイヤモンド膜の結晶粒子は、成長時間が2時間であっても十分に形成されており、また、結晶粒子の大きさは、成長時間が長くなるにつれて大きくなっていくことが確認できた。
【0071】
酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)の測定:
実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板について、試験例2と同様、酸化還元種であるフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])をレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を図15に示す。図15に示すように、成長時間が長いほど、可逆な酸化還元ピークが観察され、得られた基板を電極として用いた場合における導電性向上による電極反応速度が増加することが確認できた。
【0072】
[実施例3]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の製造:
基板としてガラス基板(ソーダ石灰ガラス/軟化点 720℃)を用いて、下記(1)及び(2)を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板を製造した。
【0073】
(1)基板上への処理液のキャスト:
溶媒を水として、溶液全体の0.005質量%のダイヤモンドナノ粒子(平均粒径:5〜10nm、ナノアマンド:(株)ナノ炭素研究所製)、増粘剤として溶液全体の0.25質量%の寒天(和光純薬工業(株)製)を混合し、沸騰させてダイヤモンドナノ粒子分散溶液を調製した。一方、2−プロパノールに13.0mm×9.5mm×0.65mmtのガラス基板を浸漬させ、15分間超音波洗浄した。超音波洗浄が終わったガラス基板上に、ダイヤモンドナノ粒子分散溶液を50μLキャストして塗布した。このダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布したガラス基板を室温で冷却、乾燥して、基板上にダイヤモンドナノ粒子を固定した。
【0074】
(2)MP−CVD法による導電性ダイヤモンド膜の形成:
(1)で得られたガラス基板を、下記の条件により、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MP−CVD法)を用いて、ガラス基板上にボロンがドープされた多結晶の導電性ダイヤモンド膜を形成し、本発明に係る導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板を得た。
【0075】
(CVDの条件)
炭素源 :メタノール+アセトン混合溶媒
ホウ素源 :70%トリメトキシボラン(B/C 原子比 20000ppm)
水素流量 :400sccm
反応圧力 :35Torr
プラズマ出力:500W
基板温度 :300℃
成長時間 :2時間
【0076】
[実施例4]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板からアルミニウム基板に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、本発明に係る導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板を得た。
【0077】
[実施例5]
導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板から銅基板に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、本発明に係る導電性ダイヤモンドが形成された銅基板を得た。
【0078】
図16Aは、実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の表面のSEM写真を示した図、図16Bは、実施例4で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の表面のSEM写真を示した図、図16Cは、実施例5で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の表面のSEM写真を示した図、をそれぞれ示す。いずれの基板も、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。これらガラス基板、アルミニウム基板、及び銅基板は、いずれも大面積化が期待できるため、大面積の導電性ダイヤモンド膜が形成された電池、電解装置、センサー等を低コストで提供することができる。
【0079】
また、図17は、実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板のラマンスペクトルを示した図である。図17に示すように、得られた基板は、グラファイト成分が多いものの、ダイヤモンドピーク(1333cm−1)が見られ、ダイヤモンドが形成されていることが確認できた。
【0080】
[実施例6]
導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の製造:
実施例3において、基板をガラス基板から石英基板(合成石英ガラス/軟化点 1720℃)に、また、MP−CVD法におけるプラズマ出力を500Wから750W、成長時間を2時間から10時間に変更した以外は、実施例3と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンドが形成された石英基板を得た。
【0081】
[実施例7]
導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の製造:
実施例6において、基板を石英基板から白金グリッド入り石英基板(石英について、合成石英ガラス/軟化点 1720℃)に変更した以外は、実施例6と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンドが形成された白金グリッド入り石英基板を得た。
【0082】
図18Aは、実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の表面のSEM写真を示した図、図18Bは、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図、をそれぞれ示す。なお、白金グリッド入り石英基板とは、石英基板に、幅が100μmの白金箔からなるグリッド(格子)を縦方向及び横方向に、間隔を150μmとして形成したものであり、かかる白金箔は、厚さ10nmのチタン層の上に、厚さ90nmの白金層を蒸着により形成したものである。図18Cに、使用した白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を併せて示した。図18A及び図18Bに示すように、いずれの基板も、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。なお、石英基板から白金グリッド入り石英基板とすることにより、シート抵抗を低減することができ(本実施例であれば、石英基板で約270kΩ/□であるところ、白金グリッド入り石英基板であれば約28kΩ/□)、導電材料として、電極(電気化学測定電極)等の用途に用いることができる。
【0083】
実施例6の導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板について、下記の測定条件を用いて、透過スペクトルを測定した。結果を図19に示す。
【0084】
(測定条件)
測定装置 :紫外可視分光光度計(V−570:日本分光(株)製)
リファレンス:空気
測定雰囲気 :室温・大気中
測定範囲 :200nm〜800nm
【0085】
図19は、実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の透過スペクトルを示した図である。図19に示すように、実施例6の導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板は、200数十nm以上の光を透過可能であることがわかり、透明性を必要とする用途に適することが確認できた。
【0086】
また、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、試験例2と同様な方法を用いて、酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。
【0087】
図20は、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。図20に示すように、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜を形成した白金グリッド入り石英基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、かかる基板が電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【0088】
[実施例8]
導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の製造:
実施例6において、基板を石英基板からチタン基板に、ダイヤモンドナノ粒子の含有量を溶液全体の0.005質量%から0.01質量%に変更した以外は、実施例6と同様な方法を用いて、導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板を得た。
【0089】
図21は、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の表面のSEM写真を示した図である。図21に示すように、基板表面全体に均一に、結晶粒径が概ね100〜200nmの導電性ダイヤモンドの連続膜を形成できた。
【0090】
また、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、試験例1と同様な方法を用いて、0.1Mのリン酸緩衝溶液中でのサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した(走査速度:100mV/s)。結果を図22に示す。
【0091】
図22に示すように、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板のサイクリックボルタグラム(CV)は、従来の方法で作製した基板(例えば、参考例3の基板)と比べても、ほぼ同様な性質のものが得られたことが確認できた。このように、実施例8で得られた、導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板は、800℃以上の基板温度で合成された通常の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と同様な電気的特性を備えていることが確認できた。
【0092】
加えて、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、試験例2と同様な方法を用いて、酸化還元種によるサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。結果を図23に示す。
【0093】
図23は、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。図23に示すように、対称的な酸化還元ピーク対が確認できることから、実施例7で得られた基板と同様、実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板上で、電子移動反応が起きていることがわかり、かかる基板が電極として問題なく使用することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、半導体分野、電子デバイス分野、電気化学デバイス分野等で使用される導電性ダイヤモンド膜が形成された基板を提供する技術として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された基板からなる電極と、他の電極のバックグラウンド電流を比較した模式図である。
【図2】実施例1(1)における乾燥後の基板表面のSEM写真を示した図である。
【図3】MP−CVD法実施後の実施例1で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図4】MP−CVD法実施後の参考例1で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図5】MP−CVD法実施後の参考例2で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図6】実施例1で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図7】参考例1で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図8】参考例2で得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図9】実施例2及び参考例3で得られた基板のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図10】図9の部分拡大図である。
【図11】実施例2で得られた基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図12】試験例3における、実施例2、実施例2a、実施例2b及び実施例2cで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図13】試験例4における、実施例2d、実施例2、及び実施例2eで得られた基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図14A】試験例4における、実施例2dで得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図14B】試験例4における、実施例2で得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図14C】試験例4における、実施例2eで得られた基板表面のSEM写真を示した図である。
【図15】試験例4における、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図16A】実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図16B】実施例4で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたアルミニウム基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図16C】実施例5で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された銅基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図17】実施例3で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたガラス基板のラマンスペクトルを示した図である。
【図18A】実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図18B】実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図18C】実施例7で使用した白金グリッド入り石英基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図19】実施例6で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された石英基板の透過スペクトルを示した図である。
【図20】実施例7で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成された白金グリッド入り石英基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【図21】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板の表面のSEM写真を示した図である。
【図22】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板のサイクリックボルタグラム(CV)を示した図である。
【図23】実施例8で得られた導電性ダイヤモンド膜が形成されたチタン基板について、フェリシアン化カリウムをレドックスプローブとして用いた場合のサイクリックボルタモグラム(CV)を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することを特徴とする導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項3】
前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項4】
前記増粘剤の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項5】
前記化学気相成長法がマイクロ波プラズマ化学気相成長法であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項6】
銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されていることを特徴とする導電性ダイヤモンド膜が形成された基板。
【請求項1】
基板上にダイヤモンドナノ粒子分散溶液を塗布した後、基板温度を250℃以上として、化学気相成長法により、前記基板上に導電性ダイヤモンド膜を合成することを特徴とする導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンドナノ粒子の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.001〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項3】
前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液が増粘剤を含有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項4】
前記増粘剤の含有量が、前記ダイヤモンドナノ粒子分散溶液全体に対して0.01〜10.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項5】
前記化学気相成長法がマイクロ波プラズマ化学気相成長法であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電性ダイヤモンド膜が形成された基板の製造方法。
【請求項6】
銅、アルミニウム、ガラスのいずれかからなる基板上に導電性ダイヤモンド膜が形成されていることを特徴とする導電性ダイヤモンド膜が形成された基板。
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図21】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図21】
【公開番号】特開2009−91234(P2009−91234A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240051(P2008−240051)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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