説明

成膜装置

【課題】基板保持具に棚状に積載された複数枚の基板に対して、互いに反応する複数種類の処理ガスを順番に供給して成膜処理を行うにあたり、処理ガスを切り替える時の雰囲気を容易に置換すること。
【解決手段】Zr系ガスやOガスなどの処理ガスを反応管12内に供給するためのガス吐出口52の各々形成された第1のガスインジェクター51a、51bとは別に、反応管12の長さ方向に沿うようにスリット50の形成された第3のガスインジェクター51cを設けて、処理ガスを切り替える時には、このスリット50から反応管12内にパージガスを供給して当該反応管12内の雰囲気を置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基板を棚状に保持した基板保持具を、その周囲に加熱部が配置された縦型の反応管内に搬入して、基板に対して成膜処理を行う成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」と言う)に対して、互いに反応する複数例えば2種類の処理ガスを順番に(交互に)供給して、反応生成物を積層するALD(Atomic Layer Deposition)法を用いて薄膜を形成する手法が知られている。このALD法を縦型熱処理装置にて実施する場合、第1の処理ガスを供給するインジェクターと、第2の処理ガスを供給するインジェクターとが用いられ、これらインジェクターは、各ウエハに対応した位置にガス吐出孔を有するいわゆる分散インジェクターとして反応管内に設けられる。そして、処理ガスを切り替える時には、例えばこれら2本のインジェクターからパージガスを供給している。
【0003】
一方、3次元構造の半導体デバイスが検討されており、具体的には例えば深さ寸法及び開口径が夫々30nm及び2000nm程度もの大きなアスペクト比を持つ開口部が表面に多数箇所に形成されたウエハに対して、既述のALD法により成膜処理を行う場合がある。このようなウエハでは、平滑なウエハに比べて表面積が例えば40倍から80倍もの大きさになることがある。そのため、既述のインジェクターから供給されるパージガスの流量では、ウエハの表面に物理的に吸着した処理ガスを排気(置換)しにくくなってしまうおそれがある。従って、例えば処理雰囲気中(反応管内)において処理ガス同士が互いに混ざり合っていわばCVD(Chemical Vapor Deposition)的に反応してしまい、既述の開口部の下端側よりも上端側において薄膜の膜厚が厚くなり、例えば開口部の上端部が閉塞してしまうなど、良好なカバレッジ性(被覆性)の得られない場合がある。
【0004】
特許文献1には、成膜処理中において処理ガスの流れを制限するために、不活性ガスノズル22c、22dの不活性ガス噴出口24c、24dから不活性ガスをウエハ10に供給する技術が記載されており、また特許文献2には縦型の熱処理装置においてALD法を用いて薄膜を形成する方法について記載されているが、既述の課題については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−118462号公報(段落0048、0051)
【特許文献2】特開2005−259841号公報(段落0019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板保持具に棚状に積載された複数枚の基板に対して、互いに反応する複数種類の処理ガスを順番に供給して成膜処理を行うにあたり、処理ガスを切り替える時の雰囲気を容易に置換できる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、
複数の基板を棚状に保持した基板保持具を、その周囲に加熱部が配置された縦型の反応管内に搬入して、基板に対して成膜処理を行う成膜装置において、
第1の処理ガスを基板に供給するための複数のガス吐出口が各基板間の高さ位置毎に各々形成された第1のガスインジェクターと、
第1の処理ガスと反応する第2の処理ガスを基板に供給するために、前記第1のガスインジェクターに対して前記反応管の周方向に離間して設けられ、前記反応管の長さ方向に沿って伸びると共に基板側にガス吐出口が形成された第2のガスインジェクターと、
前記第1のガスインジェクターに対して前記反応管の周方向に離間した位置にて前記反応管の長さ方向に沿って伸びるように設けられ、前記基板保持具に保持される基板の保持領域の上端から下端に亘ってパージガス供給用のスリットが形成された第3のガスインジェクターと、
前記保持領域を介して前記第1のガスインジェクターとは反対側に形成され、前記反応管内の雰囲気を排気するための排気口と、
前記反応管内に第1の処理ガス及び第2の処理ガスを順番に供給すると共に、これら処理ガスの切り替え時には前記反応管内にパージガスを供給して当該反応管内の雰囲気を置換するように制御信号を出力する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
処理ガスの切り替え時に前記第3のガスインジェクターから供給されるパージガスの総流量は、基板の保持枚数をNとすると、0.05×N〜2.0×Nリットル/分であっても良い。
また、前記第3のガスインジェクターは、前記第2のガスインジェクターを兼用していても良い。
前記スリットは、前記第3のガスインジェクターの長さ方向に複数に分割され、
分割されたスリットは、k(k:整数)段目の基板の下面から(k+2)段目の基板の上面までの高さ寸法よりも長く設定されていても良い。
また、前記スリットは、前記第3のガスインジェクターの長さ方向に複数に分割され、
分割されたスリットの長さ寸法は、前記第3のガスインジェクターの上方側及び下方側の一方側から他方側に向かって徐々に長くなるように設定されていても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、基板保持具に棚状に積載された複数枚の基板に対して、互いに反応する複数種類の処理ガスを順番に供給して成膜処理を行うにあたり、処理ガスを供給する第1のガスインジェクターとは別に、パージガスを供給するための第3のガスインジェクターを反応管の長さ方向に沿うように設けている。そして、前記長さ方向に伸びるスリットを前記第3のガスインジェクターに形成して、処理ガスを切り替える時にこのスリットからパージガスを供給しているので、成膜処理の行われる雰囲気を容易に置換できる。そのため、雰囲気中における処理ガス同士の反応を抑えることができ、基板の面内に亘って被覆性が良好で且つ均一性の高い成膜処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の縦型熱処理装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】前記縦型熱処理装置を示す横断平面図である。
【図3】前記縦型熱処理装置の各ガスインジェクターを側方側から見た模式図である。
【図4】前記ガスインジェクターを上方側から見た横断面図である。
【図5】前記縦型熱処理装置における作用を示す横断平面図である。
【図6】前記縦型熱処理装置における作用を示す横断平面図である。
【図7】前記縦型熱処理装置における作用を示す横断平面図である。
【図8】本発明の他の例を示すガスインジェクターの模式図である。
【図9】本発明の更に別の例を示すガスインジェクターの模式図である。
【図10】本発明の他の例を示すガスインジェクターの模式図である。
【図11】本発明の他の例を示す横断平面図である。
【図12】前記縦型熱処理装置の他の例を示す縦断面図である。
【図13】前記縦型熱処理装置の他の例を示す反応管の斜視図である。
【図14】本発明の実施例にて得られる特性を示す特性図である。
【図15】前記実施例に用いたウエハの概略を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の成膜装置の実施の形態の一例について、図1〜図4を参照して説明する。始めにこの成膜装置の概略について簡単に説明すると、この成膜装置は、互いに反応する複数種類この例では2種類の処理ガスをウエハWに対して順番に(交互に)供給して反応生成物を積層するALD(Atomic Layer Deposition)法により薄膜を成膜する縦型熱処理装置として構成されている。そして、処理ガスを切り替える時には、これら処理ガスよりも大流量で不活性ガスをパージガスとして供給し、成膜処理が行われる処理雰囲気を速やかに置換できるように構成されている。以下に、この成膜装置の具体的構成について詳述する。
【0012】
成膜装置は、直径寸法が例えば300mmのウエハWを棚状に積載するための例えば石英からなる基板保持具であるウエハボート11と、このウエハボート11を内部に気密に収納して成膜処理を行うための例えば石英からなる反応管12と、を備えている。反応管12の外側には、内壁面に周方向に亘って加熱部であるヒータ13の配置された加熱炉本体14が設けられており、反応管12及び加熱炉本体14は、水平方向に伸びるベースプレート15によって下端部が周方向に亘って支持されている。ウエハボート11には、上下方向に伸びる複数本例えば3本の支柱32が設けられており、各々の支柱32には、ウエハWを下方側から支持する溝部32aが各々のウエハWの保持位置毎に内周側に形成されている。尚、図1中37はウエハボート11の天板、38はウエハボート11の底板である。
【0013】
反応管12は、この例では外管12aと当該外管12aの内部に収納された内管12bとの二重管構造となっており、これら外管12a及び内管12bの各々は、下面側が開口するように形成されている。内管12bの天井面は水平に形成され、外管12aの天井面は外側に膨らむように概略円筒形状に形成されている。これら外管12a及び内管12bは、下端面がフランジ状に形成されると共に上下面が開口する概略円筒形状のフランジ部17により、下方側から各々気密に支持されている。即ち、フランジ部17の上端面により外管12aが気密に支持され、フランジ部17の内壁面から内側に向かって水平に突出する突出部17aにより内管12bが気密に支持されている。この内管12bは、側面の一端側が当該内管12bの長さ方向に沿って外側に膨らむように形成されており、この外側に膨らんだ部分にガスインジェクター51が収納されるように構成されている。
【0014】
この例では、ガスインジェクター51は3本配置されており、各々ウエハボート11の長さ方向に沿って配置されると共に、反応管12の周方向に沿って互いに離間するように並んでいる。これらガスインジェクター51は、例えば石英から各々構成されている。これら3本のガスインジェクター51について、図2に示すように、反応管12を上方側から見て時計回り(右回り)に「第1のガスインジェクター51a」、「第2のガスインジェクター51b」及び「第3のガスインジェクター51c」と呼ぶと、第1のガスインジェクター51aにはジルコニウム(Zr)を含むZr系ガス(原料ガス)例えばテトラキスエチルメチルアミノジルコニウム(TEMAZr)ガスの貯留源55aが接続されている。また、第2のガスインジェクター51bにはO(オゾン)ガスの貯留源55bが接続され、第3のガスインジェクター51cにはN(窒素)ガスの貯留源55cが接続されている。図2において、53はバルブ、54は流量調整部である。
【0015】
ガスインジェクター51a、51bにおけるウエハWの保持領域(処理領域)側の管壁には、図3に示すように、複数のガス吐出口52が上下方向に亘って等間隔に各々形成されており、各々のガス吐出口52の開口径は例えば0.5mmとなっている。また、各々のガス吐出口52は、ウエハボート11における各々のウエハWの保持位置に対応するように、即ち一のウエハWの上面と当該一のウエハWの上方側に対向する他のウエハWの下面との間の領域を臨むように形成されている。尚、図3は、各々のガスインジェクター51をウエハW側から見た様子を示しており、各々のウエハWについてはガスインジェクター51よりも側方側にずらして描画している。また、図3においてウエハボート11や反応管12については省略している。
【0016】
また、第3のガスインジェクター51cにおける前記保持領域側の管壁には、当該保持領域の上端から下端に亘って上下方向に伸びるように、概略矩形のスリット50が形成されている。即ち、ウエハボート11に保持されるウエハWの枚数をN枚とすると、スリット50は、前記保持領域における上端(1枚目)のウエハWの表面よりも上方の位置から、保持領域における下端(N枚目)のウエハWの下面よりも下方の位置までに亘って伸びている。このスリット50の幅寸法(詳しくは第3のガスインジェクター51cの外周面の周方向に沿った幅寸法)tは、図4に示すように、0.01〜1mmこの例では0.3mmとなっている。また、第3のガスインジェクター51cを平面的に見た時のパージガスの流路の内径寸法(管本体の内径)Rは、例えば11.4mmとなっている。この時、互いに隣接するウエハW間の離間距離hは、図3に示すように、例えば11mmとなっている。
【0017】
各々のガスインジェクター51に対向するように、既述の内管12bの側面には、図2にも示すように、当該内管12bの長さ方向に沿うようにスリット状の排気口16が形成されている。即ち、排気口16は、ウエハボート11においてウエハWが収納される保持領域を介して各々のガスインジェクター51の反対側、この例では各ガスインジェクター51に対向するように形成されている。この排気口16は、上端位置及び下端位置が第3のガスインジェクター51cのスリット50の上端位置及び下端位置と同じ高さ位置となるように形成されている。そのため、各々のガスインジェクター51から内管12bに供給される処理ガス及びパージガスは、この排気口16を介して内管12bと外管12aとの間の領域に排気される。この時、前記「反対側」とは、図2に示すように、反応管12を上方側から見た時に、ガスインジェクター51a、51cの並びに平行で且つ反応管12の中心を通る直線に「L」の符号を付すと、この直線Lにより区画される反応管12内の2つの領域のうちガスインジェクター51の設けられていない領域を言う。
【0018】
そして、これら内管12bと外管12aとの間の領域に連通するように、既述のフランジ部17の側壁には排気口21が形成されており、この排気口21から伸びる排気路22には、バタフライバルブなどの圧力調整部23を介して真空ポンプ24が接続されている。フランジ部17の下方側には、当該フランジ部17の下端部であるフランジ面に外縁部が周方向に亘って気密に接触するように概略円板状に形成された蓋体25が設けられており、この蓋体25は、図示しないボートエレベータなどの昇降機構により、ウエハボート11と共に昇降自在に構成されている。図1中26はウエハボート11と蓋体25との間に円筒状に形成された断熱体、27はウエハボート11及び断熱体26を鉛直軸周りに回転させるためのモータなどの回転機構である。また、図1中28は、蓋体25を気密に貫通してモータ27とウエハボート11及び断熱体26とを接続する回転軸であり、21aは排気ポートである。
【0019】
この縦型熱処理装置には、装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータからなる制御部100が設けられており、この制御部100のメモリ内には後述の成膜処理を行うためのプログラムが格納されている。このプログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスクなどの記憶媒体である記憶部101から制御部100内にインストールされる。
【0020】
次に、上述実施の形態の作用について説明する。先ず、反応管12の下方側において、図示しない搬送アームによりウエハボート11に例えば150枚の12インチ(300mm)サイズのウエハWを載置する。各々のウエハWの表面には、例えば高誘電体を埋め込むためのホールが形成されている。ウエハボート11における最上段(1枚目)から5枚目まで及び最下段(N枚目)から(N−4)枚目までにはダミーウエハが搭載され、これらダミーウエハ間(6枚目〜(N−5)枚目)に製品用のウエハWが保持されている。
【0021】
そして、ウエハボート11を反応管12内に気密に挿入して、真空ポンプ24により反応管12内の雰囲気を真空排気すると共に、ウエハボート11を鉛直軸周りに回転させながら、ヒータ13によりこのウエハボート11上のウエハWが例えば250℃程度となるように加熱する。続いて、圧力調整部23により反応管12内の圧力を処理圧力例えば1.0Torr(133Pa)に調整しながら、図5に示すように、当該反応管12内に第1のガスインジェクター51aのガス吐出口52から第1の処理ガスである既述のZr系ガスを例えば0.4ml/min(液体流量)で供給する。ウエハWの表面にZr系ガスが接触すると、当該ウエハWの表面にはこのZr系ガスの原子層あるいは分子層が吸着する。未反応のZr系ガスやウエハWへの吸着により生成した有機ガスなどは、排気口16に排気される。
【0022】
次いで、Zr系ガスの供給を停止すると共に、例えば12インチサイズのウエハWがウエハボート11に150枚保持されている場合には、図6に示すように、第3のガスインジェクター51cから反応管12内にパージガスであるNガスを20slm(リットル/分)〜100slmで供給することが好ましく、この例では60slmで例えば20秒間に亘って供給する。このように、Zr系ガスの流量よりも大流量のパージガスを反応管12内に供給しているので、当該反応管12内の雰囲気は極めて速やかに置換される。
【0023】
続いて、パージガスの供給を停止して、図7に示すように、反応管12内に第2の処理ガスであるOガスを例えば300g/Nm(Oを20slmで流して得られるO濃度)で供給する。このOガスは、同様にガス吐出口52の各々からウエハWに向かって通流し、各々のウエハWに吸着したZr系ガスの成分を酸化してジルコニウムオキサイド(Zr−O)からなる反応生成物を生成する。そして、Oガスの供給を停止した後、パージガスにより反応管12の雰囲気を既述のように置換する。こうしてZr系ガス、パージガス、Oガス及びパージガスをこの順番で供給する供給サイクルを複数回行って、前記反応生成物の層を積層する。
【0024】
上述の実施の形態によれば、互いに反応する2種類の処理ガスを交互にウエハWに供給してALD法により反応生成物を積層するにあたり、処理ガス供給用の第1のガスインジェクター51aとは別に第3のガスインジェクター51cを設けて、処理ガスを切り替える時には第3のガスインジェクター51cの長さ方向に形成されたスリット50からパージガスを供給している。そして、このパージガスの流量について、例えば従来の装置(ガス吐出口52の形成されたガスインジェクター51を用いてパージガスを供給していた場合)と比べて、例えば40倍程度もの大流量に設定している。そのため、処理ガスの切り替え時には、処理ガスの流量よりも極めて大きな流量のパージガスを反応管12内に安定的に(例えば第3のガスインジェクター51cの破損などを起こすことなく)供給できるので、当該反応管12内の雰囲気を速やかに置換できる。従って、処理雰囲気中における処理ガス同士の例えばCVD的な反応を抑えることができるので、3次元構造の(表面積の大きい)ウエハWであっても、後述の実施例にも示すように、ウエハWの面内に亘って被覆(カバレッジ)性が良好で膜厚及び膜質の均一性の高い成膜処理を行うことができる。
【0025】
また、パージガス用の第3のガスインジェクター51cについて、スリット50を当該第3のガスインジェクター51cの上方側から下方側に亘って形成しているので、各ウエハWに対して例えば乱気流の発生を抑えて層流の状態でパージガスを供給できる。そのため、ウエハWの保持領域に対して、ムラのない状態であるいはムラの抑えられた状態でパージガスを供給できるし、また例えば第3のガスインジェクター51cの管壁(スリット50の周縁部)に堆積したCVD膜の剥離などに由来するパーティクルの発生を抑えることができる。更に、スリット50の幅寸法tを既述の範囲内に設定しているので、当該スリット50の長さ方向に亘って流量を揃えた状態でパージガスを供給できる。
【0026】
更に、処理ガスの切り替え時において処理ガス同士が互いに混ざり合うことを抑えるにあたって、パージガスの流量を既述のように各処理ガスの流量よりも大流量に設定しているので、後述の実施例に示すように、反応管12内を高真空に設定する必要がない。即ち、反応管12内の圧力を成膜処理に適した処理圧力に設定できるので、成膜レートの低下を抑えて成膜処理を行うことができる。
【0027】
ここで、処理ガスを供給するための第1のガスインジェクター51aについてはガス吐出口52を形成し、当該処理ガスの流量を最小限に留めている。即ち、各ウエハW間の領域に均一に処理ガスをスリット50から供給しようとすると、当該処理ガスの流量が必要以上に大きくなるので、処理ガス(原料ガス)のコストが高いことから得策ではない。しかし、本発明では原料ガスであるZr系ガスについては第1のガスインジェクター51aにガス吐出口52を形成してガス流量の少量化を図り、一方パージガスについては大流量で供給できるように第3のガスインジェクター51cにスリット50を形成して、いわば各ガスの供給流量に対応させてガスの吐出面積(ガス吐出口52及びスリット50)を調整している。また、Oガスについても、大流量用の第3のガスインジェクター51cとは別に専用の第2のガスインジェクター51bを設けて、当該Oガスの流量の少量化(最適化)を図っている。そのため、処理ガス(原料ガスやOガス)のコストを抑えつつ、ALD法による成膜を速やかに行うことが出来る。
【0028】
既述のスリット50としては、上下方向にテーパー状に形成しても良く、具体的には当該スリット50の上端側の幅寸法t及び下端側の幅寸法tを夫々4mm及び1mmに設定し、スリット50の4つの外縁のうち上下方向に伸びる2つの外縁と鉛直軸とのなす角度が各々1°となるようにしても良い。
【0029】
また、スリット50について、長さ方向に複数に区画しても良い。図8は、スリット50を長さ方向に3つに等間隔に区画した例を示している。この例において、3つのスリット50の各々について「50a」の符号を付すと、互いに隣接するスリット50a、50a間の離間距離dは、例えば0.05cm〜1.0cm(ウエハWの厚み寸法と同じ寸法)程度に設定される。
【0030】
更に、図9は、スリット50aの長さ寸法を最も短くした例、即ちスリット50の区画数を最も多くした例を示している。具体的には、各々のスリット50aは、互いに隣接する2枚のウエハWに対して共通化されており、k(k:自然数)枚目のウエハWの下端位置から、当該ウエハWの下方側における(k+2)枚目のウエハWの上端位置までに亘って形成されている。図9においても、前記離間距離dは同様の寸法に設定される。尚、図9においては、第3のガスインジェクター51cの一部を拡大して描画している。
【0031】
また、第3のガスインジェクター51cの他の例を図10に示す。図10では、図8及び図9と同様に、第3のガスインジェクター51cの長さ方向に沿って複数のスリット50aを形成している。そして、この例では、スリット50aの長さ寸法jは、第3のガスインジェクター51cの上方側から下方側に向かって徐々に長くなっている。具体的には、第3のガスインジェクター51cの最上段におけるスリット50a及び最下段における長さ寸法jは、夫々例えば1.6cm及び12cmとなっており、当該最上段から下方側に向かうにつれて例えば0.8cmずつ長くなっている。
【0032】
即ち、第3のガスインジェクター51cの下方側からパージガスが導入されるので、当該第3のガスインジェクター51c内を通流するパージガスの流量は、下方側から上方側に向かうにつれて少なくなる。そのため、この例では、第3のガスインジェクター51c内を通流するパージガス流量に応じて、パージガス流量の多い下方側の領域ではスリット50aの長さ寸法jを長く設定し、パージガス流量の少なくなる上方側に向かうにつれて、スリット50aの長さ寸法jを徐々に短く設定している。従って、第3のガスインジェクター51cの長さ方向に亘って各々のスリット50aからウエハWに対して供給されるパージガス圧力を揃えることができる。この例においても、互いに隣接するスリット50a、50a間の離間距離dは既述と同じ寸法に設定される。
【0033】
ここで、既述のように第3のガスインジェクター51cに下方側からパージガスが供給されるので、当該第3のガスインジェクター51cの下方側ではウエハWに対してパージガスが過剰に供給され、一方上方側ではウエハWへのパージガスの流量が不足する場合もある。この場合には、スリット50aについて、下方側では長さ寸法jを短く設定し、第3のガスインジェクター51cの上方側に向かうにつれて長さ寸法jが徐々に長くなるように、つまり既述の図10の各々のスリット50aの配置を上下逆となるようにしても良い。
【0034】
ここで、既述のようにOガスの流量がZr系ガスの流量よりも多いので、OガスをNガスの第3のガスインジェクター51cから反応管12内に供給しても良い。即ち、図11に示すように、Oガス用の第2のガスインジェクター51bとNガス用の第3のガスインジェクター51cとを共通化しても良い。図11において、Oガスの貯留源55から伸びるガス供給路56は、反応管12の外側領域においてNガスの貯留源55と第3のガスインジェクター51cとの間のガス供給路57に接続されている。
【0035】
また、反応管12を二重管構造としたが、一重管構造の反応管12を用いると共に、ウエハボート11の長さ方向に夫々伸びるダクト状のガス供給部(ガスインジェクター)及び排気部を反応管12の外側に夫々気密に配置すると共に、これらガス供給部及び排気部と夫々連通するように反応管12の側面にガス吐出口52、スリット50及び排気口16を形成しても良い。図12及び図13は、このような構成例の要部を示している。図12及び図13において80は排気ダクト、81はガス供給部であり、ガス供給部81はZr系ガス、Oガス及びNガス毎に個別に設けられている。尚、図14では排気ダクト80について一部を切り欠いて内部の排気口16を示している。
【0036】
既述の例では、第3のガスインジェクター51cから反応管12内に供給するNガスの流量について、20slm〜100slmに設定したが、ウエハボート11に保持されているウェハWの枚数をN枚とすると、Nガス流量を0.05N〜2.0Nslmに設定しても良く、具体的には7.5〜300slm(ウエハWの保持枚数:150枚)としても良い。
【実施例】
【0037】
続いて、既述のようにパージガスの流量を各処理ガスの流量よりも多く設定した場合に得られる薄膜の特性を評価した実験について説明する。この実験には、ウエハWの収納枚数が33枚(製品ウエハW:25枚、ダミーウエハ:上下4枚ずつ)に設定された小型の実験用装置を用いた。また、図15に示すように、開口部(ホール)200が多数箇所に形成された3次元構造のウエハWを用いた。そして、既述のようにZr系ガス及びOガスを用いると共にこれらガスの切り替え時にパージガスを供給して、以下に示す各実験条件に基づいて、目標膜厚が5nm(50Å)となるようにジルコニウムオキサイド膜を成膜した。尚、以下の表において「共通」とは、他の実験例と揃えた条件であることを意味している。
(実験条件)

【0038】
そして、開口部200の上側から下側にかけて、ホールトップ、トップ、センター、センターボトム間及びボトムにおいて薄膜の膜厚を測定すると共に、各々の実験条件毎に、ホールトップの膜厚を100%とした時の下方側の薄膜の膜厚比(ステップカバレッジ)を計算した。この結果を以下の表及び図14に示す。
【0039】

【0040】
その結果、各実験例では、センターにおける膜厚がほぼ揃っていた。センターではガス流量の影響を受けにくいことから、各実験例ではほぼ同程度の膜厚の薄膜が得られる実験条件となっていることが分かる。一方、比較例と本発明とを比べると、CVD膜が特に付着しやすい傾向のあるホールトップにおける膜厚は、本発明(5.5nm)では比較例(6.4nm)よりも0.9nmも薄くなっており、センターにおける膜厚(4.6nm)に近い値となっていた。即ち、本発明では、目標膜厚に対するホールトップにおける膜厚増加分が0.5nm(5Å)で抑えられている。そのため、比較例では処理ガスの置換が不十分となり、処理雰囲気中(開口部200の上方側)において処理ガス同士が互いに混ざり合ってCVD的に反応生成物が生成していることが分かる。しかし、本発明では、16slmもの大流量でパージガスを供給しているので、処理ガスの置換が良好に行われて処理雰囲気における反応ガス同士の反応が抑えられ、開口部200の上方側から下方側に亘って揃った膜厚の薄膜が得られることが分かった。ステップカバレッジの計算結果からも、本発明では開口部200の深さ方向に亘って均一な膜厚となっていることが分かる。
【0041】
尚、参考例1において、Oガスの流量を増やすことによって、比較例よりも被覆性(カバレッジ性)が若干改善されていた。また、参考例2では、本発明と同レベルの特性となっていた。従って、参考例2及び本発明の結果から、反応管12内を高真空に設定することによって処理ガス同士の反応が抑えられるが、本発明では反応管12内を高真空に設定することに代えてパージガスの流量を多くしていると言える。そのため、本発明では、反応管12内を高真空に設定したことによる成膜レートの低下を抑えて、処理ガス同士の反応を抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0042】
W ウエハ
12 反応管
21 排気口
52 ガス吐出口
50 スリット
51a〜51c ガスインジェクター
55 貯留源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板を棚状に保持した基板保持具を、その周囲に加熱部が配置された縦型の反応管内に搬入して、基板に対して成膜処理を行う成膜装置において、
第1の処理ガスを基板に供給するための複数のガス吐出口が各基板間の高さ位置毎に各々形成された第1のガスインジェクターと、
第1の処理ガスと反応する第2の処理ガスを基板に供給するために、前記第1のガスインジェクターに対して前記反応管の周方向に離間して設けられ、前記反応管の長さ方向に沿って伸びると共に基板側にガス吐出口が形成された第2のガスインジェクターと、
前記第1のガスインジェクターに対して前記反応管の周方向に離間した位置にて前記反応管の長さ方向に沿って伸びるように設けられ、前記基板保持具に保持される基板の保持領域の上端から下端に亘ってパージガス供給用のスリットが形成された第3のガスインジェクターと、
前記保持領域を介して前記第1のガスインジェクターとは反対側に形成され、前記反応管内の雰囲気を排気するための排気口と、
前記反応管内に第1の処理ガス及び第2の処理ガスを順番に供給すると共に、これら処理ガスの切り替え時には前記反応管内にパージガスを供給して当該反応管内の雰囲気を置換するように制御信号を出力する制御部と、を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
処理ガスの切り替え時に前記第3のガスインジェクターから供給されるパージガスの総流量は、基板の保持枚数をNとすると、0.05×N〜2.0×Nリットル/分であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第3のガスインジェクターは、前記第2のガスインジェクターを兼用していることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記第3のガスインジェクターの長さ方向に複数に分割され、
分割されたスリットは、k(k:整数)段目の基板の下面から(k+2)段目の基板の上面までの高さ寸法よりも長く設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記スリットは、前記第3のガスインジェクターの長さ方向に複数に分割され、
分割されたスリットの長さ寸法は、前記第3のガスインジェクターの上方側及び下方側の一方側から他方側に向かって徐々に長くなるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−169307(P2012−169307A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26400(P2011−26400)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】