説明

油圧緩衝器

【課題】 車両の加減速変化に応じて直ちに車両の姿勢を制御できるように、その応答性を向上すること。
【解決手段】 油圧緩衝器10において、ピストンリング90の背圧室に圧力を付与する背圧付与手段93を設け、車両姿勢制御装置100によって、背圧付与手段93が背圧室91に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の姿勢を制御可能にする油圧緩衝器(リヤクッションユニット)に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のリヤクッションユニットとして、車体側と後輪支持部材側の一方に取付けられるダンパケースの油室に、車体側と後輪支持部材側の他方に取付けられるピストンロッドを挿入し、ピストンロッドに設けたピストンにより、ダンパケースの油室をピストン側油室とロッド側油室に区画し、ダンパケースのピストン側油室と、ロッド側油室の間に減衰力発生装置を設けてなる油圧緩衝器が用いられている。
【0003】
従来、リヤクッションユニットにおいて、リヤ(車両後部)の浮き上がり(換言すれば、車両が前傾するノーズダイブ)を防止するため、特許文献1に記載の如く、リヤクッションユニットの油圧緩衝器に設けたピストンロッドに、ダンパケースのピストン側油室とロッド側油室を連通する貫通孔を設け、この貫通孔にピストン側油室とロッド側油室の間で移動する油の流量を制御する流量制御棒を挿入し、流量制御棒の後端側に、ブレーキ液圧室を設け、このブレーキ液圧室からブレーキ液圧管路を延ばし、このブレーキ液圧管路をマスタシリンダに接続したものが提案されている。
【0004】
ブレーキペダルのペダル操作によって、ブレーキ液圧管路を通じて、ブレーキ液圧が伝わり、ブレーキ液圧室内の液圧が高圧になる。ブレーキ液圧室内で高圧となったブレーキ液は、流量制御棒の後端面を押動し、ピストン側油室からロッド側油室へ又はロッド側油室からピストン側油室へ移動する油の流量を規制する。この油の流量が規制されると、油圧緩衝器の減衰力が高まる。油圧緩衝器の減衰力が高まると、ブレーキ操作したときに、油圧緩衝器が伸びようとする速さを遅くすることができる。油圧緩衝器が伸びる速さが遅くなれば、ブレーキ操作時に、車体後部が上昇する速さを遅くすることができ、リヤの浮き上がりを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-286364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のリヤクッションユニットでは、油圧緩衝器の流量制御棒をブレーキ操作に連動させ、この油圧緩衝器によりダンパケース内で移動する油の流量を規制し、この油の流量の規制によって生ずる減衰力の変化を利用し、車両の姿勢を制御するものである。
【0007】
従って、ブレーキ操作後に油圧緩衝器がストロークしてダンパケース内の油が移動するまでは車両の姿勢を制御できない。ブレーキ操作とともに直ちに車両の姿勢を制御することができない。
【0008】
本発明の課題は、車両の加減速変化に応じて直ちに車両の姿勢を制御できるように、その応答性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体側と後輪支持部材側の一方に取付けられるダンパケースの油室に、車体側と後輪支持部材側の他方に取付けられるピストンロッドを挿入し、ピストンロッドに設けたピストンにより、ダンパケースの油室をピストン側油室とロッド側油室に区画し、ダンパケースのピストン側油室と、ロッド側油室の間に減衰力発生装置を設けてなる油圧緩衝器において、ピストンに設けたピストンリングの外周をダンパケースの内周に摺接し、ピストンリングの内周に、ダンパケースの油室に対して封止される背圧室を設け、ピストンリングを弾性素材からなるものにし、ピストンリングの背圧室に圧力を付与する背圧付与手段を設け、車両姿勢制御装置によって、背圧付与手段が背圧室に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にするようにしたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記背圧付与手段が、ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側に液圧室を設けてなり、前記車両姿勢制御装置が、車両の加減速変化に連動して液圧室の液圧を昇圧させるようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において更に、前記車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作に連動してブレーキ液圧を発生させるブレーキマスタシリンダと、ブレーキマスタシリンダを前記背圧付与手段の液圧室に接続するブレーキ液圧管路とを有してなるようにしたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記背圧付与手段が、ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側にスプリングを装填し、このスプリングを加圧する電気式アクチュエータをピストンロッドの基部側に設けてなり、前記車両姿勢制御装置が、車両の加減速変化に連動して電気式アクチュエータを駆動するようにしたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作信号により電気式アクチュエータを駆動するようにしたものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記車両姿勢制御装置が、車両の加減速度を検出する加減速センサの検出信号により電気式アクチュエータを駆動するようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
(請求項1)
(a)車両姿勢制御装置によって、背圧付与手段が背圧室に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御する。これにより、背圧付与手段が付与する背圧室の圧力がピストンリングを加圧し、ピストンリングを拡径方向に弾性変形させて押し開く。ダンパケースの内周に摺接しようとするピストンリングに、油圧緩衝器のストロークによってダンパケース内の油が移動開始する前から摩擦力を及ぼすことができる。ダンパケースの内周に摺接しようとするピストンリングに及ぶ摩擦力は、油圧緩衝器の伸縮ストロークに対する抵抗になり、伸縮の速さを遅くする。車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなれば、リヤの浮き上がりが防止できる。車両の加速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の縮みの速さが遅くなれば、リヤの沈み込みが防止できる。
【0016】
(b)ピストンリングはダンパケースの内周に摩擦接触するものであり、摩擦接触長さは長く、摩擦力の発生効果は大きい。
【0017】
(c)ピストンリングの内周の背圧室はダンパケースの油室に対して封止されており、背圧室の封止が破れ、背圧室の内部流体がダンパケースの油室に漏れ出ても、外部への油漏れを引き起こすものにならない。
【0018】
(請求項2)
(d)前記背圧付与手段が、ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側に液圧室を設ける。車両姿勢制御装置が車両の加減速変化に連動して昇圧させる液圧室の液圧が、ピストンロッドの中空部、及びピストンの連通孔に充填した作動油を背圧室に及ぼし、ピストンリングを加圧して押し開き、前述(a)の摩擦力を発生させるものになる。このとき、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油が、背圧室にも充填されてピストンリングを加圧するものであるから、背圧室の封止が破れ、背圧室の内部流体たる作動油がダンパケースの油室に漏れ出ても、ダンパケースの油室を汚損しない。
【0019】
(請求項3)
(e)前述(d)の車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作に連動してブレーキ液圧を発生させるブレーキマスタシリンダと、ブレーキマスタシリンダを前記背圧付与手段の液圧室に接続するブレーキ液圧管路とを有する。ブレーキ操作による車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなり、リヤの浮き上がりが防止できる。
【0020】
(請求項4)
(f)前記背圧付与手段が、ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側にスプリングを装填し、このスプリングを加圧する電気式アクチュエータをピストンロッドの基部側に設ける。車両姿勢制御装置が車両の加減速変化に連動して電気式アクチュエータを駆動し、これによって加圧されるスプリングのばね力が、ピストンロッドの中空部、及びピストンの連通孔に充填した作動油を背圧室に及ぼし、ピストンリングを加圧して押し開き、前述(a)の摩擦力を発生させるものになる。このとき、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油が、背圧室にも充填されてピストンリングを加圧するものであるから、背圧室の封止が破れ、背圧室の内部流体たる作動油がダンパケースの油室に漏れ出ても、ダンパケースの油室を汚損しない。
【0021】
(請求項5)
(g)前述(f)の車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作信号により電気式アクチュエータを駆動する。ブレーキ操作による車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなり、リヤの浮き上がりが防止できる。
【0022】
(請求項6)
(h)前述(f)の車両姿勢制御装置が、車両の加減速度を検出する加減速センサの検出信号により電気式アクチュエータを駆動する。車両の加速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の縮みの速さが遅くなり、リヤの沈み込みが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は実施例1の油圧緩衝器を示す模式図である。
【図2】図2は油圧緩衝器を示す断面図である。
【図3】図3は油圧緩衝器の減衰力発生装置を示す断面図である。
【図4】図4は図3の要部拡大図である。
【図5】図5は図2の要部拡大図である。
【図6】図6は実施例2の油圧緩衝器を示す模式図である。
【図7】図7は油圧緩衝器を示す断面図である。
【図8】図8は図7の要部拡大図である。
【図9】図9は参考例の油圧緩衝器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施例1)(図1〜図5)
図1は、車両のリヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器10と、車両姿勢制御装置100により、自動二輪車等の車両の姿勢を制御可能にするものである。
【0025】
(油圧緩衝器10)
油圧緩衝器10は、図1〜図3に示す如く、車体側(車体フレーム等)に取付けられるダンパケース11の油室27に、後輪支持部材側(車体フレームに揺動自在に軸支されて後輪を支持するスイングアーム等)に取付けられるピストンロッド12を摺動自在に挿入し、ダンパケース11とピストンロッド12の外側部に懸架スプリング13を介装している。
【0026】
ダンパケース11は車体側取付部材14を備え、ピストンロッド12に車軸側取付部材15を備える。ダンパケース11の外周部にはばね受17を備えるとともに、ピストンロッド12の外側部にはばね受18を備える。ばね受17とばね受18の間に懸架スプリング13を介装する。懸架スプリング13のばね力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
【0027】
ダンパケース11は、図2に示す如く、ピストンロッド12が貫通するロッドガイド21をその開口部に備える。ロッドガイド21は、ダンパケース11の後述する外筒11Aの内周にOリングを介して液密に挿着され(Oリングはロッドガイド21の外周の環状溝に装填される)、オイルシール22、ブッシュ23、ダストシール24を備える内径部に、ピストンロッド12を液密に摺動自在にしている。
【0028】
油圧緩衝器10は、ダンパケース11が形成する外筒11Aに内筒11Bを挿填してなる2重管を有し、外筒11Aを車体側取付部材14の内周にOリングを介して液密に挿着させ、外筒11Aの下端側内周にロッドガイド21の大外径部21Aを嵌合して固定し、ロッドガイド21の小外径部21Bに内筒11Bの下端外周を嵌合して備える。内筒11Bの上端部にはカラー19が取着され、カラー19は大外径部と小外径部の2段をなす外周のそれぞれに設けた環状溝にOリングが装填され、内筒11Bの上端内周をカラー19の大外径部に液密に圧入し、カラー19の小外径部を車体側取付部材14の段差孔に液密に嵌合する。そして、ピストンロッド12の先端部に挿着したピストン25をナット26で固定し、内筒11Bの内周に摺動可能に挿入されたピストン25により、ダンパケース11の油室27をピストン側油室27Aとロッド側油室27Bに区画する。
【0029】
油圧緩衝器10は、車体側取付部材14にサブタンク30を一体に成形し、キャップ30Aにより封着されるサブタンク30内に設けたエア室31と油溜室32をブラダ33により分離する。キャップ30Aに設けられるエアバルブ34を介して高圧化されるエア室31の圧力によって加圧される油溜室32をダンパケース11の油室27に連通するように設け、この油溜室32によりダンパケース11の油室27に進退するピストンロッド12の容積(油の温度膨張分の容積を含む)を補償する。
【0030】
油圧緩衝器10は、ダンパケース11のピストン側油室27Aと、ロッド側油室27Bの間に減衰力発生装置40を設ける。
【0031】
減衰力発生装置40は、図3、図4に示すバルブユニット40Aに小組された状態で、車体側取付部材14におけるダンパケース11とサブタンク30の間に設けたバルブ収容孔14Aに外方から挿入されて内蔵される。
【0032】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、バルブピース41と、バルブピース41の内端側の小径部41Aに螺着される内側バルブホルダ42と、バルブピース41の外端側の大径部41Bの端面に外方から衝合されるアジャスタホルダ43と、アジャスタホルダ43の外周に外方から液密に嵌合して軸方向に係合し、かつバルブピース41の大径部41Bに螺着されるキャップ44を有する。
【0033】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、更に、バルブピース41の小径部41Aの外周の軸方向に沿う中央に2枚の向かい合せしたセンタープレート45を設け、バルブピース41の小径部41Aの外周のセンタープレート45を挟む軸方向で、大径部41Bとの段差面の側から順に、伸側積層板バルブ52、圧側ピストン60、圧側減衰バルブ61を装填し、内側バルブホルダ42の端面の側から順に、圧側積層板バルブ62、伸側ピストン50、伸側減衰バルブ51を装填される。伸側積層板バルブ52、圧側ピストン60、圧側減衰バルブ61の組と、圧側積層板バルブ62、伸側ピストン50、伸側減衰バルブ51の組とは、センタープレート45を挟んで線対称配置されるとともに、バルブピース41における小径部41Aと大径部41Bの段差面と、内側バルブホルダ42の端面との間で、センタープレート45とともに挟圧固定化される。
【0034】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、アジャスタホルダ43をキャップ44の内周溝に装填されているOリング43Aを介して該キャップ44に液密に嵌合するに際し、アジャスタホルダ43の内周にバルブピース41の大径部41Bを螺着するとともに、アジャスタホルダ43の内端面と大径部41Bの中間外周部に設けた段差面との間に、キャップ44の内端部の内周に設けた環状つば部44Fを挟み込み、バルブピース41及びアジャスタホルダ43等(バルブユニット40Aにおいてキャップ44を除く部分)をキャップ44に対して回転自由に組込む。そして、バルブユニット40Aを構成するキャップ44は、Oリング44Aを介してバルブ収容孔14Aに液密に挿入され、螺着されて固定される。キャップ44はその外端側小径部の外端部の外周に多角形状外周面からなる回転操作部49(図2)を設けている。回転操作部49は、キャップ44に設ける異形状外周面、孔、溝、ローレット加工部等により構成できる。回転操作部49を工具で係止し螺着する。
【0035】
油圧緩衝器10は、減衰力発生装置40がバルブユニット40Aをバルブ収容孔14Aに上述の如くに組込んだ組込み済状態で、アジャスタホルダ43をキャップ44に設けてあるOリング43Aとの間に発生する摩擦力に抗して回転操作でき、ひいてはアジャスタホルダ43及びバルブピース41(バルブユニット40Aにおいてキャップ44を除く部分)とともにダンパケース11のバルブ収容孔14A内で回転操作できる。
【0036】
このとき、アジャスタホルダ43は2個の伸側アジャスタ70と圧側アジャスタ80を設けており、それらのアジャスタ70、80をアジャスタホルダ43の平面視で互いに相隣るように離隔して並置している。そして、アジャスタホルダ43は、伸側アジャスタ70の周辺に伸側であることを示すTENの文字を刻印し、圧側アジャスタ80の周辺に圧側であることを示すCOMの文字を刻印した表示部48(不図示)をその表面に設けている。
【0037】
尚、減衰力発生装置40のバルブユニット40A内で、2個の向かい合せして用いられるセンタープレート45は、それらの孔空き板の合せ面に放射状に設けてある複数の半径方向溝45Aを相対して後述する孔72Aを形成する。
【0038】
減衰力発生装置40のバルブユニット40Aは、バルブ収容孔14Aに外方から挿入され、内側バルブホルダ42の先端面をバルブ収容孔14Aの軸方向の底面に相対し、キャップ44のOリング44Aを装填されている外周をバルブ収容孔14Aの開口部に液密に嵌合されて後述する如くに固定化される。このとき、減衰力発生装置40は、伸側ピストン50と圧側ピストン60のOリングが装填されている外周をバルブ収容孔14Aの内周に液密に固定し、バルブ収容孔14Aにおける圧側ピストン60の反伸側ピストン側のスペースをピストン側油室27Aに連通する伸圧共用流路46Aとし、バルブ収容孔14Aにおける伸側ピストン50の反圧側ピストン側のスペースをダンパケース11の後述する外側流路11Cを介してロッド側油室27Bに連通する伸圧共用流路46Bとし、バルブ収容孔14Aにおけるセンタープレート45の周囲で伸側ピストン50と圧側ピストン60に挟まれる環状スペースを車体側取付部材14に設けた連通路14Bを介して油溜室32に連通する伸圧共用流路46Cとする。また、減衰力発生装置40は、伸側ピストン50に伸側減衰バルブ51により開閉される伸側流路50A(不図示)と圧側積層板バルブ62により開閉される圧側流路50Bを設けるとともに、圧側ピストン60に伸側積層板バルブ52により開閉される伸側流路60Bと圧側減衰バルブ61により開閉される圧側流路60A(不図示)を設ける。減衰力発生装置40は、車体側取付部材14に設けた伸圧共用流路46A、46B、46Cと、伸側ピストン50に設けた伸側流路50A、圧側流路50Bと、圧側ピストン60に設けた伸側流路60B、圧側流路60Aと、ダンパケース11の外筒11Aと内筒11Bの環状間隙に設けられる外側流路11Cと、内筒11Bの下端側に設けた孔流路11Dを介して、ダンパケース11のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを連通する(ピストン25はピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを連通する流路を備えない)。
【0039】
従って、油圧緩衝器10にあっては、圧側行程で、ダンパケース11のピストン側油室27Aの油を、ダンパケース11の外側流路11Cからロッド側油室27Bに向けて流す圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路60A、50B)が減衰力発生装置40に設けられ、この圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路60A、50B)の上流側に圧側減衰バルブ61を、下流側に圧側積層板バルブ62を設け、この圧側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、圧側流路60A、50B)における圧側減衰バルブ61と圧側積層板バルブ62の中間部を、伸圧共用流路46C、連通路14Bを介して油溜室32に連通するものになる。圧側減衰バルブ61は板バルブの積層体からなり、圧側減衰力を発生する。圧側積層板バルブ62は、圧側チェックバルブに圧側減衰力発生手段を付帯してなるもの(圧側積層板バルブ62が設けられる圧側流路50Bの絞り抵抗により圧側減衰力を発生させても可)であって、板バルブの積層体からなり、圧側の流れのみを許容するチェック機能とともに、圧側減衰力発生機能も果たす。圧側積層板バルブ62の発生減衰力は圧側減衰バルブ61の発生減衰力に比して小さく、減衰力発生装置40が発生する圧側減衰力は概ね圧側減衰バルブ61に依存する。
【0040】
但し、圧側積層板バルブ62は圧側減衰力発生手段を付帯しない単なる圧側チェックバルブであっても良い。
【0041】
また、伸側行程で、ダンパケース11のロッド側油室27Bの油を、ダンパケース11の外側流路11Cからピストン側油室27Aに向けて流す伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50A、60B)が減衰力発生装置40に設けられ、この伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50A、60B)の上流側に伸側減衰バルブ51を、下流側に伸側積層板バルブ52を設け、この伸側流路(伸圧共用流路46A、46B、46C、伸側流路50A、60B)における伸側減衰バルブ51と伸側積層板バルブ52の中間部を、伸圧共用流路46C、連通路14Bを介して油溜室32に連通するものになる。伸側減衰バルブ51は板バルブの積層体からなり、伸側減衰力を発生する。伸側積層板バルブ52は、伸側チェックバルブに伸側減衰力発生手段を付帯してなるもの(伸側積層板バルブ52が設けられる伸側流路60Bの絞り抵抗により伸側減衰力を発生させても可)であって、板バルブの積層体からなり、伸側の流れのみを許容するチェック機能とともに、伸側減衰力発生機能も果たす。伸側積層板バルブ52の発生減衰力は伸側減衰バルブ51の発生減衰力に比して小さく、減衰力発生装置40が発生する伸側減衰力は概ね伸側減衰バルブ51に依存する。
【0042】
但し、伸側積層板バルブ52は伸側減衰力発生手段を付帯しない単なる伸側チェックバルブであっても良い。
【0043】
減衰力発生装置40は、所望により、図4に示す如く、バルブピース41の小径部41A〜大径部41Bの中心軸上に設けた中空部に、伸側減衰バルブ51と圧側減衰バルブ61を迂回して、ダンパケース11のピストン側油室27Aとロッド側油室27Bを油溜室32に連通する伸側バイパス流路72と圧側バイパス流路82を設けても良い。アジャストホルダ43に設けられる伸側アジャスタ70により外部から操作される伸側減衰力調整弁71により、この伸側バイパス流路72の開口面積を調整することで伸側減衰力を調整できる。伸側バイパス流路72は伸圧共用流路46Bに開口するとともに、バルブピース41に設けた孔72A、センタープレート45に設けた孔72Bを介して伸圧共用流路46Cに開口している。アジャストホルダ43に設けられる圧側アジャスタ80により外部から操作される圧側減衰力調整弁81により、この圧側バイパス流路82の開口面積を調整することで圧側減衰力を調整できる。圧側バイパス流路82は伸圧共用流路46Aに開口するとともに、バルブピース41に設けた孔72A、センタープレート45に設けた孔72Bを介して伸圧共用流路46Cに開口している。伸側アジャスタ70と圧側アジャスタ80はアジャスタホルダ43の平面視で互いに相隣るように離隔されて並置されている。
【0044】
尚、伸側アジャスタ70は外部から回転操作可能にアジャストホルダ43にOリングを介して液密に枢着され、伸側アジャスタ70のおねじ部にスライダ70Aを螺合しており、伸側アジャスタ70の回転によって移動するスライダ70Aが伸側減衰力調整弁71のロッド状基端部を押動し、伸側減衰力調整弁71の先端ニードル弁を伸側バイパス流路72の開口に対して進退させる。また、圧側アジャスタ80は外部から回転操作可能にアジャストホルダ43にOリングを介して液密に枢着され、圧側減衰力調整弁81は伸側減衰力調整弁71のロッド周囲に遊挿されるとともに、そのフランジ部に圧側アジャスタ80のおねじ部が螺合されており、圧側アジャスタ80の回転によって移動する圧側減衰力調整弁81の先端ニードル弁を圧側バイパス流路82の開口に対して進退させる。伸側減衰力調整弁71の膨出状基端部と、圧側減衰力調整弁81の伸側減衰力調整弁71まわりに設けた陥凹部との間には、伸側減衰力調整弁71の基端部を常にスライダ70Aに圧接しておく圧縮コイルばね73が介装されている。伸側アジャスタ70のスライダ70Aには圧側アジャスタ80の中間軸部が挿通していてスライダ70Aを回り止めしている。圧側減衰力調整弁81のフランジ部には伸側アジャスタ70の先端軸部が挿通していて圧側減衰力調整弁81を回り止めしている。
【0045】
従って、油圧緩衝器10は以下の如くに減衰作用を行なう。
(圧側行程)
ピストン側油室27Aの油が昇圧し、減衰力発生装置40の圧側ピストン60の圧側流路60Aの圧側減衰バルブ61を押し開いて圧側減衰力を発生する。この圧側減衰バルブ61から伸圧共用流路46Cに流出する油は伸圧共用流路46Cにおいて2分し、一方の油は伸側ピストン50の圧側流路50Bの圧側チェックバルブ62からダンパケース11の外側流路11Cを通ってロッド側油室27Bに流出し、他方の油は油溜室32に排出される。この油溜室32に排出される他方の油は、ピストンロッド12の進入容積分の油を補償する。
【0046】
(伸側行程)
ロッド側油室27Bの油が昇圧し、ダンパケース11の外側流路11Cを通って減衰力発生装置40の伸側ピストン50の伸側流路50Aの伸側減衰バルブ51を押し開いて伸側減衰力を発生する。この伸側減衰バルブ51から伸圧共用流路46Cに流出する油は、油溜室32から補給される油と合流した後、圧側ピストン60の伸側流路60Bの伸側積層板バルブ52を通ってピストン側油室27Aに流出する。油溜室32から補給される油はピストンロッド12の退出容積分の油を補償する。
【0047】
しかるに、油圧緩衝器10にあっては、ピストン25のピストンリング90により摩擦力を発生させるため、以下の構成を具備する(図2、図5)。
【0048】
油圧緩衝器10は、ピストン25の外周の広幅溝内に設けたピストンリング90の外周をダンパケース11の内周に摺接する。ピストンリング90の内周に、ダンパケース11の油室27A、27Bに対して封止される背圧室91を設ける。本実施例において、ピストン25のピストンリング90が設けられる広幅溝の溝底における溝幅方向に間隔を介する2か所に設けた装填溝にOリング92A、92Bを設け、この広幅溝内に設けたピストンリング90の内周をOリング92A、92Bに密着する。ピストンリング90の内周と、ピストン25の広幅溝の溝底において両Oリング92A、92Bに挟まれる部分との隙間を背圧室91とする。
【0049】
油圧緩衝器10は、ピストンリング90をテフロン(登録商標)等の弾性素材からなるものにし、ピストンリング90の背圧室91に圧力を付与する背圧付与手段93を設ける。
【0050】
背圧付与手段93は、ピストンロッド12に設けた中空部94を、ピストン25に設けた連通孔95を介してピストンリング90の背圧室91に連通する。ピストンロッド12は中空部94を連通孔95に連通する横孔94Aを備える。ピストン25は連通孔95を背圧室91に連通する環状溝95Aを両Oリング92A、92Bの装填溝に挟まれる全周に渡って備える。尚、中空部94の一端はプラグ94Bにより閉塞されている。
【0051】
更に、背圧付与手段93は、図5に示す如く、ピストンロッド12の中空部94の中間をプランジャ96により仕切る。プランジャ96は外周溝に設けたOリングを介して、中空部94の内周に液密に摺動できる。背圧付与手段93は、ピストンロッド12の中空部94のプランジャ96より背圧室91の側に、ダンパケース11の油室27A、27Bに装填したと同じ(同一品種)作動油Lを充填する。また、中空部94のプランジャ96より反背圧室91の側に、ブレーキ液(ブレーキオイル)を封入する液圧室97Bを設ける。このとき、車軸側取付部材15がピストンロッド12のダンパケース11から外部に突き出ている端部外周に螺着されて同軸結合されるとともに、ロックナット15Aで固定される。そして、車軸側取付部材15に、液圧室97Bに連通する液圧室97Aが設けられる。
【0052】
車両姿勢制御装置100は、背圧付与手段93が背圧室91に付与する圧力を、車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にする。
【0053】
車両姿勢制御装置100は、本実施例では、図1に示す如く、車両のブレーキペダル(又はブレーキレバー)の如くのブレーキ操作部101に加えるブレーキ操作に連動してブレーキ液圧を発生させるブレーキマスタシリンダ102と、ブレーキマスタシリンダ102を背圧付与手段93の液圧室97Aに接続するブレーキ液圧管路103(103A、103B)とを有する。ブレーキ液圧管路103は、ブレーキマスタシリンダ102を継手104に接続する管路103Aと、継手104を液圧室97Aに接続する管路103Bと、継手104を車輪側のブレーキキャリパに接続する管路103Cとからなる。105はブレーキ液をブレーキマスタシリンダ102に供給するブレーキオイルカップである。
【0054】
これにより、車両姿勢制御装置100にあっては、ブレーキ操作部101に加えるブレーキ操作によりブレーキマスタシリンダ102がブレーキ液圧を高めると、ブレーキキャリパが作動して車両を制動し、車両を減速する。このブレーキ操作による車両の減速と同時に、ブレーキマスタシリンダ102が発生させた上述のブレーキ液圧がブレーキ液圧管路103を介して背圧付与手段93の液圧室97Aに及び、液圧室97A、97Bの液圧を昇圧させる。この液圧室97A、97Bに封入した液圧は、ピストンロッド12の中空部94、ピストン25の連通孔95に充填してある作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を押し開いてダンパケース11の内周に押圧する。油圧緩衝器10の伸縮ストロークによってダンパケース11内の油が移動するから否かに関係なく、ピストンリング90がダンパケース11の内周に押圧されて摩擦力を及ぼす。このピストンリング90の摩擦力は油圧緩衝器10の伸縮ストロークに対する抵抗になり、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器10の伸びを抑え、伸びの速さを遅くしてリヤの浮き上がりを防止する。
【0055】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)車両姿勢制御装置100によって、背圧付与手段93が背圧室91に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御する。これにより、背圧付与手段93が付与する背圧室91の圧力がピストンリング90を加圧し、ピストンリング90を拡径方向に弾性変形させて押し開く。ダンパケース11の内周に摺接しようとするピストンリング90に、油圧緩衝器のストロークによってダンパケース11内の油が移動開始する前から摩擦力を及ぼすことができる。ダンパケース11の内周に摺接しようとするピストンリング90に及ぶ摩擦力は、油圧緩衝器の伸縮ストロークに対する抵抗になり、伸縮の速さを遅くする。車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなれば、リヤの浮き上がりが防止できる。車両の加速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の縮みの速さが遅くなれば、リヤの沈み込みが防止できる。
【0056】
(b)ピストンリング90はダンパケース11の内周に摩擦接触するものであり、摩擦接触長さは長く、摩擦力の発生効果は大きい。
【0057】
(c)ピストンリング90の内周の背圧室91はダンパケース11の油室27A、27Bに対して封止されており、背圧室91の封止が破れ、背圧室91の内部流体がダンパケース11の油室27A、27Bに漏れ出ても、外部への油漏れを引き起こすものにならない。
【0058】
(d)前記背圧付与手段93が、ピストンロッド12に設けた中空部94を、ピストン25に設けた連通孔95を介してピストンリング90の背圧室91に連通し、ピストンロッド12の中空部94の中間にプランジャ96を設け、その中空部94のプランジャ96より背圧室91の側に、ダンパケース11の油室27A、27Bに装填したと同じ作動油を充填し、その中空部94のプランジャ96より反背圧室91の側に液圧室97A、97Bを設ける。車両姿勢制御装置100が車両の加減速変化に連動して昇圧させる液圧室97A、97Bの液圧が、ピストンロッド12の中空部94、及びピストン25の連通孔95に充填した作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を加圧して押し開き、前述(a)の摩擦力を発生させるものになる。このとき、ダンパケース11の油室27A、27Bに装填したと同じ作動油が、背圧室91にも充填されてピストンリング90を加圧するものであるから、背圧室91の封止が破れ、背圧室91の内部流体たる作動油がダンパケース11の油室27A、27Bに漏れ出ても、ダンパケース11の油室27A、27Bを汚損しない。
【0059】
(e)前述(d)の車両姿勢制御装置100が、ブレーキ操作部101の操作に連動してブレーキ液圧を発生させるブレーキマスタシリンダ102と、ブレーキマスタシリンダ102を前記背圧付与手段93の液圧室97A、97Bに接続するブレーキ液圧管路103とを有する。ブレーキ操作による車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなり、リヤの浮き上がりが防止できる。
【0060】
(実施例2)(図6〜図8)
実施例2が実施例1と異なる点は、油圧緩衝器10の背圧付与手段93を背圧付与手段110に変更し、車両姿勢制御装置100を車両姿勢制御装置120に変更したことにある。
【0061】
背圧付与手段110は、図7、図8に示す如く、ピストンロッド12に設けた中空部111を、ピストン25に設けた連通孔112を介してピストンリング90の背圧室91に連通する。ピストンロッド12は中空部111を連通孔112に連通する横孔111Aを備える。ピストン25は連通孔112を背圧室91に連通する環状溝112Aを両Oリング92A、92Bの挿填溝に挟まれる全周に渡って備える。尚、中空部111の一端はプラグ111Bにより閉塞されている。
【0062】
更に、背圧付与手段110は、ピストンロッド12の中空部111の中間をプランジャ113により仕切る。プランジャ113は外周溝に設けたOリングを介して、中空部111の内周に液密に摺動できる。背圧付与手段110は、ピストンロッド12の中空部111のプランジャ113より背圧室91の側に、ダンパケース11の油室27A、27Bに装填したと同じ(同一品種)作動油Lを充填する。また、中空部111のプランジャ113より反背圧室91の側にコイルスプリング114を挿填し、このコイルスプリング114を加圧する電気式アクチュエータ116をピストンロッド12の基部側、本実施例では車軸側取付部材15に内蔵した。電気式アクチュエータ116は、ステッピングモータ(又はソレノイドでも可)等からなり、直線往復動する操作子116Aをピストンロッド12の中空部111の他端開口に挿入し、操作子116Aが押圧するプランジャ115を介してコイルスプリング114を加圧可能にする。
【0063】
車両姿勢制御装置120は、背圧付与手段110が背圧室91に付与する圧力を、車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にする。
【0064】
車両姿勢制御装置120は、本実施例では、図6に示す如く、車両のブレーキペダル(又はブレーキレバー)の如くのブレーキ操作部121の操作信号(ブレーキセンサの検出信号でも同じ)を受信し、このブレーキ操作部121の操作信号により電気式アクチュエータ116を駆動する。これにより、車両姿勢制御装置120にあっては、ブレーキ操作による車両の減速時に、電気式アクチュエータ116を駆動し、操作子116Aを突き出してコイルスプリング114を圧縮し、これによって増加するコイルスプリング114のばね力がプランジャ113を介してピストンロッド12の中空部111、ピストン25の連通孔112に充填してある作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を押し開いてダンパケース11の内周に押圧する。油圧緩衝器10の伸縮ストロークによってダンパケース11内の油が移動するか否かに関係なく、ピストンリング90がダンパケース11の内周に押圧されて摩擦力を及ぼす。このピストンリング90の摩擦力は油圧緩衝器10の伸縮ストロークに対する抵抗になり、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器10の伸びを抑え、伸びの速さを遅くしてリヤの浮き上がりを防止する。
【0065】
また、車両姿勢制御装置120は、図6に示す如く、車両の加減速度(加速度又は減速度)を検出する加減速センサ122の検出信号を受信し、この加減速センサ122の検出信号により電気式アクチュエータ116を駆動する。これにより、車両姿勢制御装置120にあっては、車両の加減速時に、電気式アクチュエータ116を駆動し、操作子116Aを突き出し、コイルスプリング114を圧縮し、これによって増加するコイルスプリング114のばね力がプランジャ113を介してピストンロッド12の中空部111、ピストン25の連通孔112に充填してある作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を押し開いてダンパケース11の内周に押圧する。油圧緩衝器10の伸縮ストロークによってダンパケース11内の油が移動するか否かに関係なく、ピストンリング90がダンパケース11の内周に押圧されて摩擦力を及ぼす。このピストンリング90の摩擦力は油圧緩衝器10の伸縮ストロークに対する抵抗になり、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器10の縮み(加速時)又は伸び(減速時)を抑え、それらの縮み又は伸びの速さを遅くしてリヤの沈み込み(加速時)又は浮き上がり(減速時)を防止する。
【0066】
尚、加減速センサ122としては、車両の燃料供給量を制御するスロットルの開度センサの検出結果を用いることもできる。
【0067】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)車両姿勢制御装置120によって、背圧付与手段110が背圧室91に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御する。これにより、背圧付与手段110が付与する背圧室91の圧力がピストンリング90を加圧し、ピストンリング90を拡径方向に弾性変形させて押し開く。ダンパケースの内周に摺接しようとするピストンリング90に、油圧緩衝器のストロークによってダンパケース内の油が移動開始する前から摩擦力を及ぼすことができる。ダンパケースの内周に摺接しようとするピストンリング90に及ぶ摩擦力は、油圧緩衝器の伸縮ストロークに対する抵抗になり、伸縮の速さを遅くする。車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなれば、リヤの浮き上がりが防止できる。車両の加速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の縮みの速さが遅くなれば、リヤの沈み込みが防止できる。
【0068】
(b)ピストンリング90はダンパケースの内周に摩擦接触するものであり、摩擦接触長さは長く、摩擦力の発生効果は大きい。
【0069】
(c)ピストンリング90の内周の背圧室91はダンパケースの油室27A、27Bに対して封止されており、背圧室91の封止が破れ、背圧室91の内部流体がダンパケースの油室27A、27Bに漏れ出ても、外部への油漏れを引き起こすものにならない。
【0070】
(d)前記背圧付与手段110が、ピストンロッド12に設けた中空部111を、ピストンに設けた連通孔112を介してピストンリング90の背圧室91に連通し、ピストンロッド12の中空部111の中間にプランジャ113を設け、その中空部111のプランジャ113より背圧室91の側に、ダンパケースの油室27A、27Bに装填したと同じ作動油を充填し、その中空部111のプランジャ113より反背圧室91の側にコイルスプリング114を装填し、このコイルスプリング114を加圧する電気式アクチュエータ116をピストンロッド12の基部側に設ける。車両姿勢制御装置120が車両の加減速変化に連動して電気式アクチュエータ116を駆動し、これによって加圧されるコイルスプリング114のばね力が、ピストンロッド12の中空部111、及びピストンの連通孔112に充填した作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を加圧して押し開き、前述(a)の摩擦力を発生させるものになる。このとき、ダンパケースの油室27A、27Bに装填したと同じ作動油が、背圧室91にも充填されてピストンリング90を加圧するものであるから、背圧室91の封止が破れ、背圧室91の内部流体たる作動油がダンパケースの油室27A、27Bに漏れ出ても、ダンパケースの油室27A、27Bを汚損しない。
【0071】
(e)前述(d)の車両姿勢制御装置120が、ブレーキ操作部121の操作信号により電気式アクチュエータ116を駆動する。ブレーキ操作による車両の減速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の伸びの速さが遅くなり、リヤの浮き上がりが防止できる。
【0072】
(f)前述(d)の車両姿勢制御装置120が、車両の加減速度を検出する加減速センサ122の検出信号により電気式アクチュエータ116を駆動する。車両の加速時に、リヤクッションユニットを構成する油圧緩衝器の縮みの速さが遅くなり、リヤの沈み込みが防止できる。
【0073】
(参考例1)(図9)
図9に示した参考例1は、実施例2の油圧緩衝器10において、背圧付与手段110の電気式アクチュエータ116をアジャスタ130に代え、車両姿勢制御装置120を付帯させないことにある。アジャスタ130は、車軸側取付部材15に設けたキャップ131にアジャスタボルト132を枢支し、アジャスタボルト132にカム133を螺合してある。ピストンロッド12の中空部111の他端開口に挿入してコイルスプリング114を加圧しているプランジャ115の中空部111から突出している操作部115Aを、カム133のカム面に衝接している。アジャスタボルト132がキャップ131との間に設けてあるクリック機構134に対して節度感をもって回転操作されると、アジャスタボルト132に対して螺動するカム133が車軸側取付部材15に設けてあるねじ135に回り止めされて直線動し、カム133のカム面がプランジャ115の操作部115Aを押動する。
【0074】
従って、アジャスタ130によりプランジャ115が上述の如くに押動されると、コイルスプリング114が圧縮され、これによって増加するコイルスプリング114のばね力がプランジャ113を介してピストンロッド12の中空部111、ピストン25の連通孔112に充填されている作動油を背圧室91に及ぼし、ピストンリング90を押し開いてダンパケース11の内周に押圧する。アジャスタ130は、アジャスタボルト132の螺動操作量により、プランジャ115の進み量を調整し、ひいては背圧室91の圧力を調整し、ピストン25の極低速域、又は高周波作動域におけるピストンリング90の摩擦力を調整し、油圧緩衝器10の減衰特性を調整できる。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明において、ダンパケースのピストン側油室と、ロッド側油室の間に設けられる減衰力発生装置は、ピストンロッドのピストンに設けたピストン側油室とロッド側油室の連絡流路に設けられる減衰力発生装置であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、車体側と後輪支持部材側の一方に取付けられるダンパケースの油室に、車体側と後輪支持部材側の他方に取付けられるピストンロッドを挿入し、ピストンロッドに設けたピストンにより、ダンパケースの油室をピストン側油室とロッド側油室に区画し、ダンパケースのピストン側油室と、ロッド側油室の間に減衰力発生装置を設けてなる油圧緩衝器において、ピストンに設けたピストンリングの外周をダンパケースの内周に摺接し、ピストンリングの内周に、ダンパケースの油室に対して封止される背圧室を設け、ピストンリングを弾性素材からなるものにし、ピストンリングの背圧室に圧力を付与する背圧付与手段を設け、車両姿勢制御装置によって、背圧付与手段が背圧室に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にした。これにより、車両の加減速変化に応じて直ちに車両の姿勢を制御できるように、その応答性を向上することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 油圧緩衝器
11 ダンパケース
12 ピストンロッド
25 ピストン
27 油室
27A ピストン側油室
27B ロッド側油室
32 油溜室
40 減衰力発生装置
90 ピストンリング
91 背圧室
93 背圧付与手段
94 中空部
95 連通孔
96 プランジャ
97A、97B 液圧室
100 車両姿勢制御装置
101 ブレーキ操作部
102 ブレーキマスタシリンダ
103 ブレーキ液圧管路
110 背圧付与手段
111 中空部
112 連通孔
113 プランジャ
114 コイルスプリング
116 電気式アクチュエータ
120 車両姿勢制御装置
121 ブレーキ操作部
122 加減速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側と後輪支持部材側の一方に取付けられるダンパケースの油室に、車体側と後輪支持部材側の他方に取付けられるピストンロッドを挿入し、
ピストンロッドに設けたピストンにより、ダンパケースの油室をピストン側油室とロッド側油室に区画し、
ダンパケースのピストン側油室と、ロッド側油室の間に減衰力発生装置を設けてなる油圧緩衝器において、
ピストンに設けたピストンリングの外周をダンパケースの内周に摺接し、
ピストンリングの内周に、ダンパケースの油室に対して封止される背圧室を設け、
ピストンリングを弾性素材からなるものにし、ピストンリングの背圧室に圧力を付与する背圧付与手段を設け、
車両姿勢制御装置によって、背圧付与手段が背圧室に付与する圧力を車両の加減速状態に応じて制御することにより、車両の姿勢を制御可能にすることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記背圧付与手段が、
ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、
ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側に液圧室を設けてなり、
前記車両姿勢制御装置が、
車両の加減速変化に連動して液圧室の液圧を昇圧させる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作に連動してブレーキ液圧を発生させるブレーキマスタシリンダと、ブレーキマスタシリンダを前記背圧付与手段の液圧室に接続するブレーキ液圧管路とを有してなる請求項2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記背圧付与手段が、
ピストンロッドに設けた中空部を、ピストンに設けた連通孔を介してピストンリングの背圧室に連通し、
ピストンロッドの中空部の中間にプランジャを設け、その中空部のプランジャより背圧室の側に、ダンパケースの油室に装填したと同じ作動油を充填し、その中空部のプランジャより反背圧室の側にスプリングを装填し、このスプリングを加圧する電気式アクチュエータをピストンロッドの基部側に設けてなり、
前記車両姿勢制御装置が、
車両の加減速変化に連動して電気式アクチュエータを駆動する請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記車両姿勢制御装置が、ブレーキ操作部の操作信号により電気式アクチュエータを駆動する請求項4に記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
前記車両姿勢制御装置が、車両の加減速度を検出する加減速センサの検出信号により電気式アクチュエータを駆動する請求項4に記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−116268(P2012−116268A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266418(P2010−266418)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】