説明

炭化ケイ素静電誘導トランジスタの制御装置及び制御方法

【課題】電力用変換器の過電流においてオン抵抗損失の著しい増大を抑制して、電力用変換器の小型・軽量化および低価格化をはかる。
【解決手段】定格電流容量の5倍ないし20倍のサージ電流が流れる電力用変換器に炭化ケイ素を素材とした静電誘導トランジスタを適用するにあたり、該静電誘導トランジスタのオン時のゲート電圧を定格電流以下の正常動作時にはゲート接合のビルトイン電圧以下として高速、低損失、高効率の電力変換を行い、定格を超える過電流が流れた場合にかぎりゲート電圧をビルトイン電圧以上に昇圧することにより過電流による素子破壊を防止する制御方法によって変換器に使用される炭化ケイ素静電誘導トランジスタの電流容量を変換のそれを大幅に超えない小容量とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素を素材とする高電圧、低オン抵抗の縦型静電誘導トランジスタの制御装置及び制御方法に関し、とくに定格を超える過電流が流れるときの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子を用いた各種の電力変換装置は、電力の供給源(電源)と電力を消費する各種の電気器機(負荷)の間にあって、電力を交流から直流に、あるいは直流から交流に変換する交直変換、電流の遮断、通過電力量を制御して負荷の出力を調整するなどの役割を担う。このような電力変換装置には、負荷の短時間の過電流動作に耐えるような過負荷耐性が求められる。通常、変換装置の定格容量の1.5倍ないし2倍程度の出力で数分間の運転が続いても装置が正常に動作しなければならない。
【0003】
数分間の動作では、その間の過電流によって生ずる電力用半導体素子の温度上昇を半導体素子の熱容量のみでは吸収できない。そのため、変換装置に使われる半導体素子は定格の1.5倍ないし2倍の過負荷動作においても素子の最高温度が動作上限温度を超えないようにしなければならない。その結果、使用される半導体素子の容量は変換装置の定格容量の割には大きくなり、その上、変換器の冷却システムもそれにともなって大型化されることになる。このことが、変換装置の大型・重量化をもたらし、特に配電系統などに使用されるような大容量の電力変換装置の高価格化の大きな要因となり、その広い活用と普及拡大が著しく妨げられている。
【0004】
この問題に対しては、動作上限温度がシリコンを素材とする電力用素子より100℃以上も高くできる炭化ケイ素を素材とする電力用半導体素子を使用することが考えられている。すなわち、炭化ケイ素電力用半導体素子では、定格運転時における素子の温度は動作上限温度に対して十分に余裕があるので、使用素子の容量や変換器の冷却系を大きくしなくても定格の1.5倍ないし2倍の過電流状態で素子の最高温度が動作上限温度を超えないようにすることが比較的容易にできるからである。このように、定格容量における動作の損失がシリコン素子より著しく小さく、かつ動作上限温度が高い炭化ケイ素の電力用半導体素子を利用すれば、変換装置の定格運転時の変換効率を高くするだけでなく、装置の小型・軽量化にも大きな効果が期待できる。
【0005】
しかしながら、電力の送配電系統の安定化や電力品質の維持の目的で系統内に接続される電力変換装置では、以下に述べる理由から、単に従来のシリコン半導体素子を炭化ケイ素の半導体素子に置換えるだけでは十分とは言えない。すなわち、電力系統では系統に連携された負荷側の各種電気器機の短絡事故や送配電線での相間短絡や地絡などの事故時に備えて、系統に使用される変換装置には定格電流の10倍ないし20倍の過電流が半サイクルないし数サイクル(5m秒ないし100m秒間)の期間にわたって通電しても変換装置の機能が喪失しないよう厳しい仕様が付けられ、半導体素子にとってきわめて過酷な過負荷状態に耐えることが要求されるからである。
【0006】
電動機の回転速度制御などのような電力変換装置の場合、負荷である電動機の近くに設置されることが多いので、負荷の短絡などの異常時にはその異常を素早く変換装置の制御回路に伝達して変換器を遮断するか、または出力を絞るなどの制御が比較的容易にできる。しかし、電力の送配電系統に使われる変換装置では、通常は系統の事故地点と変換装置が設置されている地点との間の距離が長いので制御に長い時間を要するだけでなく、系統内の他の正常な地点の電力供給にできるだけ支障がないようにするためには、系統内の一部の変換装置のみを直ちに遮断、もしくは電流を絞り込むような操作は許されない。すなわち、電力系統内には保護継電器や電磁力を利用して電流を遮断する機械接点式の遮断器機が多数接続されているが、これらの器機は異常時に流れる過電流の作用によって素早い電流の遮断ができるようになっているものが多く、これらの器機を安全に動作させて系統全体の安定を図るためにも系統の一部に異常が発生した場合に連携されている変換装置を瞬時に遮断することや電流を絞り込むことは許されないからである。そのため電力系統用の変換装置には、前項[0005]のようなきわめて厳しいサージ電流の通電に耐える過負荷耐性が要求されるのである。
【0007】
かかるサージ電流の通電に耐える過負荷耐性を有した送配電系統用の従来の電力変換装置には、シリコンの電力用半導体の中でとりわけサージ電流に対する耐性の高いサイリスタやゲートタンオフサイリスタ(GTOサイリスタ)あるいは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などのバイポーラ動作型の素子が使われている。サイリスタ素子は通電状態にはカソードおよびアノードの二つのエミッタからの電子およびホールの注入によって内部の高抵抗層の伝導度が著しく増加するので、定格電流の10ないし20倍の電流が流れても素子の電圧降下の増分は比較的小さく、半サイクルまたは数サイクルの短期間であれば破壊にいたらないという有利な特長がある。また、IGBT素子は、アノードエミッタからのホールの注入によって高抵抗層の伝導度変調がおこるので、素子の電流容量を定格容量の2ないし3倍程度に大きくしておけば、過大のサージ電流が通電した場合でもオン電圧の著しい増加をともなうことなく安全に動作することが可能である。
【0008】
しかしながら、前項[0004]に記載した理由から送配電系統用の電力用変換装置に炭化ケイ素を素材とする電力用半導体素子を使用するにあたり、前記[0008]に示したサイリスタやGTO、あるいはIGBTなどのバイポーラ動作型の電力用半導体素子を適用した場合、以下に述べるように装置の定格あるいはそれ以下での正常運転時の変換効率を著しく損ねるという問題がある。すなわち、これらのバイポーラ型素子がオン状態にあるときは、pn接合からの少数キャリアの注入によって伝導度変調が起こり大きな電流が流れるという動作をする。このキャリアの注入が起こるためにはpn接合にそのビルトイン電圧(閾値電圧)以上の順方向電圧が印加されねばならない。ところで、pn接合のビルトイン電圧は半導体素子の結晶素材のバンドギャップ(禁制帯幅)の大きさに依存する。バンドギャップが大きい炭化ケイ素のpn接合のビルトイン電圧は約2.5Vと、シリコンの約1.0Vより2倍以上大きいので、炭化ケイ素のバイポーラ型素子がオン状態にあるときは、順方向電圧降下には、この2.5Vの電圧がいつも加わり、この分の損失が素子の発生損失ひいては変換装置の電力損失を増大する。その結果、定格電流やそれ以下での正常な運転状態における装置の変換効率を著しく損ねることになる。さらに、配電系統などのような高電圧の電力変換装置では、半導体素子を直列接続の形態で使われることが多いが、素子の直列数に比例してビルトイン電圧分の通電損失が累積されるので、このようなバイポーラ動作型素子は変換器の高効率化の点で不利である。
【0009】
これに対して、電力用変換装置に用いられる炭化ケイ素を素材とする電力用半導体素子としてユニポーラ動作型の静電誘導トランジスタ(接合型電界効果トランジスタ;JFETと呼ばれることもある)を適用するのが有利である。図1は、炭化ケイ素静電誘導トランジスタの代表的な例として特許文献1に記載されたものを示す。炭化ケイ素の高濃度n型単結晶基板1に低濃度n型層2が積層され、該低濃度n型層2の内部に高濃度p型層3が複数個埋め込まれ、低濃度n型層2に高濃度n型層4が積層されている。そして、前記高濃度n型単結晶基板1の表面にドレイン電極5、前記高濃度n型層4の表面にソース電極6,および前記高濃度p型層3の表面の一部にゲート電極7がそれぞれ低抵抗オーミック接触されている。二つの高濃度p型層3に挟まれたn型領域21をチャネルと呼び、ゲート電極7とソース電極6の間に印加されるゲート電圧Vgの極性や大きさによって制御されるチャネル内に広がる空乏層によってオン状態やオフ状態になる。すなわち、十分な大きさの逆方向のゲート電圧Vgによってチャネルがピンチオフされてオフ状態となり、また、ゲート電圧Vgを取り除くか、もしくは順方向に低い電圧を印加すればオン状態になる。炭化ケイ素静電誘導トランジスタとしてはこの例の他に種々の構造のトランジスタが提案されているが、動作が同じなので、以下では本例をもとに動作および特徴を詳細に説明する。
【0010】
図2は炭化ケイ素静電誘導トランジスタの出力特性の代表例を示す。ゲート・ソース間に0V、1.0V,2.5Vおよび3.0〜5.0Vのゲート電圧Vgを印加したときのドレイン電圧Vdとドレイン電流Idの間の電圧・電流特性である。Idは、Vg=0Vではほとんど流れないが、Vg≧0VではVdの増加に伴って直線的に増加しやがて飽和する。この直線領域のオン抵抗はVg=1.0Vのとき約0.1オーム、Vg=2.5Vのとき0.05オーム、さらにVg=3.0〜5.0Vのとき約0.01オームと、いずれもきわめて低いオン抵抗でありVgの増加とともに小さくなる。また、飽和電流もVgの増加に伴って増加する。これは、Vg≦2.5Vでは順方向のゲート電圧の印加によって前記チャネル領域に広がる空乏層の広がりが抑制され、電流通路となるチャネル領域の実質的な幅が拡大される結果によるものであり、また、Vg=3.0〜5.0Vでは、上記のチャネル領域の実質的な拡大に加えて高濃度p型層3からチャネル領域21に正孔が注入されてそこでの伝導度が著しく高くなった結果によりものである。Vg=2.5Vは炭化ケイ素のゲート・ソース間pn接合のビルトイン電圧にほぼ等しい。この2.5V以下のバイアス状態ではゲート電極からの小数キャリアの注入が起こらないので高速にスイッチングするというユニポーラ動作型半導体素子の特徴を保有するためにはVg≦2.5Vである必要がある。これに対して、ゲート電圧として炭化ケイ素のpn接合のビルトイン電圧2.5Vを超える3.0Vないし5.0Vの高電圧を投入した場合、直線領域のオン抵抗がさらに減少して0.01オーム以下になり、かつ、飽和電流も200A程度に激増し、Vg=2.5Vの定常動作時と比較してオン抵抗は約1/5に減少、飽和電流は約10倍に増加する。しかしながら、Vg>2.5Vでは少数キャリアの蓄積効果のためスイッチング速度はバイポーラ動作型と同様に遅くなり、動作の高周波化による回路部品の小型化ができなくなるという特性上の問題がある。
【0011】
また、これらの出力特性ではドレイン電流はドレイン電圧Vd=0Vから立ち上がるので、前項[0008]で述べたバイポーラ動作型素子のような通電損失にpn接合でのビルトイン電圧分の損失が加わることはなく、導通損失を小さくできる。また、直列接続の高電圧動作においても直列数に比例してビルトインで電圧分の損失が累積されることはない。さらに、温度の上昇にともなって素子のオン抵抗が大きくなる性質があるので電流集中が起こりにくく、変換装置内の素子の並列接続や1素子内の半導体チップの並列実装も比較的に容易に実現できるという特長があり従来のサイリスタやIGBTなどのバイポーラ動作型素子にくらべて優れている。
【0012】
また、電界効果トランジスタとして広く使われているMOSFETと比べると、両者ともゲート・ソース間に印加されるゲート回路からの電圧信号によってターンオンやターンオフされる素子であるが、MOSFETではゲート・ソース間は酸化膜などによって絶縁され、ゲート電圧信号の印加によってゲート絶縁膜の直下の半導体表面に電流通電路となるチャネルが形成されオン状態になる。オン抵抗はこのチャネル内の電子移動度に強く依存するが、MOSFETのチャネルの移動度は炭化ケイ素半導体と酸化絶縁膜との界面欠陥の存在のためバルク移動度の10分の1以下と低い値であり、このためMOSFETのオン抵抗はあまり小さくならない。これに対して、静電誘導トランジスタでは、チャネル移動度はバルクの移動度と等しく高い値であり、低いオン抵抗を実現し易いという特徴がある。また、MOSFETでは、ゲートと炭化ケイ素との間にはSiO2などの絶縁膜が介在するので、静電誘導トランジスタのようにゲート電極からのキャリアの注入によってオン抵抗を低減したり、飽和電流を増大したりする制御ができない。
【0013】
図2の出力特性を有する炭化ケイ素静電誘導トランジスタにおいて、定常動作におけるユニポーラ動作を意図してVg≦2.5Vでの動作を行った場合、定格の2倍を超える過電流が通電すると素子内での通電損失が著しく増大するという問題がある。すなわち、Vg=2.5Vでの順方向のオン状態において、この素子の定格を10A程度に設定しておけば定格電流以下での動作における素子の通電損失は充分小さくでき、たとえ定格の2倍程度の過電流が流れてもドレイン電圧Vdの著しい増加もなく発生損失を小さく押えることができる。しかし、出力電流が飽和する電流値以上の電流が流れた場合、ドレイン電圧Vdが急増し、素子内での通電損失の著しい増大をもたらし、通電時間が長いときは素子温度が上限温度を超えて、素子破壊に至る場合もある。そのため、定格の10倍ないしは20倍のサージ電流が流れるような変換器に適用するには相当に大きな面積の素子が必要とされる。
【0014】
一方、定格電流以下の正常な運転状態において順方向通電時のオン抵抗の低減を意図してVg=3.0V〜5.0Vのようなビルトイン電圧を超える高電圧をゲートに供給した場合、オン抵抗を小さくできるが小数キャリアの蓄積効果によってスイッチング速度が損なわれるといういわゆるバイポーラ動作型素子の問題が生ずる。さらに、ゲート接合の順バイアスによって、オン動作時には常にゲート電流が通電するのでゲート回路の大型化のみならずそこでの制御電力の損失は無視できなくなるという問題がある。
【特許文献1】特開2006−253292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
電力用変換器の定格容量以下の正常動作における高い変換効率と高速スイッチング動作および定格の2倍程度の過負荷電流に対する高い耐性が得られるためユニポーラ動作型の炭化ケイ素静電誘導トランジスタを適用した配電系統用などの大電力の電力用変換器では、変換器に定格の10倍ないしは20倍のサージ電流が流れた場合、使用するトランジスタのサージ電流領域におけるオン抵抗の著しい増大に起因した過大の通電損失のためトランジスタが熱的破壊し、電力変換器がブレークダウンするという問題があった。
【0016】
これらの問題に鑑み本発明の目的は、電力用変換器の過電流においてオン抵抗損失の著しい増大が抑制される炭化ケイ素静電誘導トランジスタ素子の制御装置及び制御方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、炭化ケイ素静電誘導トランジスタを用いて小型、軽量化、および低コスト化された高い変換効率の電力用変換器を実現するためのトランジスタ制御装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題解決のため本発明は、炭化ケイ素静電誘導トランジスタを使った電力変換器の定格容量以内での正常動作時にはトランジスタをオン状態にするための制御信号としてのゲート電圧をトランジスタのゲート・ソース間のpn接合のビルトイン電圧(閾値電圧)以下とし、過負荷通電時のみビルトイン電圧(閾値電圧)以上の電圧とするにより該トランジスタのオン抵抗を著しく低減し素子の熱的破壊を防止することを特徴とする。
【0019】
前記ゲート電圧として定常動作時には2.5V以下の電圧を、前記過負荷通電時には3.0Vないし5.0Vの範囲の電圧とする。前記過負荷通電時として変換器の定格容量の5倍以上の電流とする。
【発明の効果】
【0020】
以上記述したように本発明によれば、以下のような効果を奏する。高速、低損失、かつ過電流耐性に強い炭化ケイ素静電誘導トランジスタを適用した電力用変換器の素子の定格容量を大幅に超えるサージ過電流の通電時においても適用素子の発生損失を著しく増加することのないトランジスタの制御方法によって、使用するトランジスタの電流容量を装置の定格容量より著しく大きくしなくてもよくなり、電力用変換装置の小型化、軽量化、高効率化ならびに低価格化が同時に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の具体的実施形態を図面により詳細に説明する。図3は本発明の炭化ケイ素静電誘導トランジスタの制御装置の1実施例を示すものである。この装置は、大きく分けると、ゲート駆動回路、ゲート電圧制御回路、および電流検出回路より構成される。該ゲート駆動回路は、2.5Vのオンゲート電圧源となるコンデンサーC1,15Vのオフゲート電圧源となるコンデンサーC2、フォトカプラからのオン、オフ指令に従ってC1,C2の電圧をゲート抵抗Rを介して炭化ケイ素静電誘導トランジスタのゲート端子Gに供給するためのスイッチTrs1およびTrs2などから構成されており、炭化ケイ素静電誘導トランジスタに定格容量以下もしくは定格の2倍程度の電流が流れる正常動作時の駆動回路である。また、ゲート電圧制御回路は、5Vのオンゲート電圧源となるコンデンサーC3、C3に直列接続されたスイッチTrs4、およびTrs4のゲート回路より構成され、前記ゲート駆動回路の前記2.5Vのオンゲート電圧源C1に並列に接続されており、炭化ケイ素静電誘導トランジスタに流れる電流が定格電流を大幅に超えた時に起動して該トランジスタのゲート端子Gに2.5Vを超えるゲート電圧、本例では5.0V,を供給するための回路である。電流検出回路は、炭化ケイ素静電誘導トランジスタに流れる電流を素子に直列に接続された抵抗RLと、その両端での電圧降下によって検出される電流値を規定の値と比較する回路より構成され、電流値がトランジスタの定格電流を大幅に超えたことを判断して前記ゲート電圧制御回路のスイッチTrs4をターンオンする指令信号を出力する。
この制御装置は、トランジスタに流れる電流が定格電流以下もしくは定格の2倍程度の正常動作時にはオン時のゲート電圧を、前記ゲート駆動回路によって、トランジスタのゲート・ソース間のpn接合のビルトイン電圧(ほぼ2.5V)以下の電圧に制御する。そして、定格を大幅に超える電流が流れた時には、前記電流検出回路によって検出された電流が既定値を超えると出力される信号によって前記ゲート電圧制御回路のスイッチTrs4がターンオンして、ビルトイン電圧を超えるゲート電圧(本例では5.0V)に制御する。かかる制御装置を用いた本発明の制御方法の具体例を以下に説明する。
【0022】
図4は本発明の炭化ケイ素静電誘導トランジスタの制御方法を説明するものである。上段には静電誘導トランジスタをオンまたはオフ状態に保持するための指令信号、中段にはゲート回路から静電誘導トランジスタに印加されるゲート電圧Vg、そして下段には静電誘導トランジスタのドレイン・ソース間の電圧(ドレイン電圧)Vdおよびドレイン・ソース間に流れる電流(ドレイン電流)Idを示す。それぞれの値の変化を同時化した時間経過で表わしている。時刻t1より以前のオフ指令状態では、Vg=−15Vのゲート電圧によって静電誘導トランジスタはオフ状態となりドレイン電圧Vdが印加されたままドレイン電流Id=0の状態が保持される。なお、このオフ時のゲート電圧Vgは必ずしも−15Vである必要はなく、トランジスタによってはVg=0あるいは−50Vなどの他の値であっても構わない。時刻t1において指令信号がオフからオンに切り替わるとゲートにはVg=2.5Vの電圧が印加されトランジスタはターンオンし、ドレイン電流Idが通電し始める。ドレイン電圧はIdの大きさに比例した1V前後の低い値に保持される。なお、このオン時のゲート電圧Vgも必ずしも2.5Vである必要はない。ユニポーラ型の動作によって高速のスイッチング動作を起こさせるためにゲート接合からの少数キャリアが注入されない炭化ケイ素静電誘導トランジスタのゲート接合のビルトイン電圧(閾値電圧)以下であれば良く、1.0Vや1.5Vなどの他の値であっても構わない。図2で示した通り、Vgが高ければ高いほどオン抵抗が小さくなるのでビルトイン電圧を超えない2.0〜2.5Vの範囲の電圧が良い。動作が正常な場合は、t5で指令信号がオフに切り替わり再びVg=−15Vのゲート電圧が印加されてトランジスタがターンオフするまでは、このままのゲート電圧Vgが印加されて(図中点線(a)で示す)オン状態を継続する。
【0023】
図4においてt1からt5のオン指令信号が投入されている期間中、予測されないある時刻t2においてトランジスタにその定格電流を大幅に超える電流が流れ始めた場合、ゲート電圧Vgを直ちに時刻t3において5.0Vに昇圧する。Vgの昇圧はドレイン電流Idがトランジスタの定格電流を5倍以上超えるサージ電流が流れて、この所定の電流値以下に減少する時刻t4までの期間中続けられる。ここでは時刻t4が、指令信号がオンからオフに切り替わる時刻t5より以前の場合を例示したが、時刻t5以降になる場合もある。その場合は、指令信号に優先してVgの昇圧を継続するような制御を行う。また、時刻t3から時刻t4までの過電流の期間のゲート電圧Vgは必ずしも5.0Vである必要はなく、前記ビルトイン電圧を超える電圧であれば良い。
【0024】
図4の具体的実施例において過電流の異常時でもゲート電圧を正常動作時と同じ2.5Vとした図中のゲート電圧の点線(a)のような従来の制御方法では、図中の時刻t3から時刻t4の素子のドレイン電圧Vdは点線(a)のようにオフ時と同じ電源電圧に等しい高電圧が印加されるため素子内での発生損失がきわめて大きくなる。これに対して、この具体的実施例のように過電流の異常時のゲート電圧を5.0Vに昇圧した図中のゲート電圧の実線(b)の制御方法では、時刻t3から時刻t4の素子のドレイン電圧Vdは実線(b)のように低い値になり素子内での発生損失が小さく抑えられる。なお、時刻t3の付近の過電流が検出されてゲート電圧が昇圧されるまでの期間はVdは高い値を持つが、この期間は10マイクロ秒以下のきわめて短い時間なので素子の発生損失に与える影響は少ない。
【0025】
以上、炭化ケイ素を素材として静電誘導トランジスタを電力変換器に応用するときの過電流時の装置並びに制御方法について説明したが、静電誘導トランジスタが適用される電力変換器としてはインバータ装置やコンバータ装置などの電力の順、逆変換装置、電圧を昇降圧する各種チョッパー装置および交、直流の遮断装置なども含まれる。また、炭化ケイ素の静電誘導トランジスタとして図示の制御回路および制御方法の例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載の範囲内で当業者が容易に改変し得る他の構成をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】代表的な炭化ケイ素静電誘導トランジスタのセル断面図
【図2】炭化ケイ素静電誘導トランジスタの出力特性の代表例
【図3】本発明の炭化ケイ素静電誘導トランジスタの制御装置の1実施形態
【図4】本発明の炭化ケイ素静電誘導トランジスタの制御方法の1実施形態
【符号の説明】
【0027】
1. 高濃度n型単結晶基板
2. 低濃度n型堆積膜(ドリフト層)
3. 高濃度p型層
4. 高濃度n型ソース層
5. ドレイン電極
6. ソース電極
7. ゲート電極
21.n型チャネル領域
51.ドレイン電極端子
61.ソース電極端子
71.ゲート電極端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を素材とした静電誘導トランジスタの制御装置において、
該静電誘導トランジスタに流れる素子電流を検出する回路と、
該素子電流検出回路の出力に基づき、ゲート電圧を制御する回路と、を備え、
前記ゲート電圧制御回路は、定格電流以下の正常動作時にはオン時のゲート電圧を、前記静電誘導トランジスタのゲート・ソース間のpn接合のビルイン電圧以下の電圧に制御し、かつ、定格を超える過電流が流れた場合にかぎりゲート電圧をビルトイン電圧以上に昇圧することにより過電流による素子破壊を防止することから成る静電誘導トランジスタの制御装置。
【請求項2】
前記ビルトイン電圧以下のゲート電圧として2.5Vを越えない範囲とし、かつ前記ビルトイン電圧を超えるゲート電圧として3.0ないし5.0Vの範囲の値とした請求項1に記載の静電誘導トランジスタの制御装置。
【請求項3】
前記定格電流を超える過電流が、定格電流のほぼ5倍以上の電流である請求項1又は2に記載の静電誘導トランジスタの制御装置。
【請求項4】
前記定格電流を超える過電流が、定格電流のほぼ10倍以上の電流である請求項1又は2に記載の静電誘導トランジスタの制御装置。
【請求項5】
炭化ケイ素を素材とした静電誘導トランジスタの制御方法において、
該静電誘導トランジスタに流れる素子電流を検出する回路と、該素子電流検出回路の出力に基づき、ゲート電圧を制御する回路とを備え、
前記ゲート電圧制御回路は、定格電流以下の正常動作時にはオン時のゲート電圧を、前記静電誘導トランジスタのゲート・ソース間のpn接合のビルイン電圧以下の電圧に制御し、かつ、定格を超える過電流が流れた場合にかぎりゲート電圧をビルトイン電圧以上に昇圧することにより過電流による素子破壊を防止することから成る静電誘導トランジスタの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−55200(P2009−55200A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218525(P2007−218525)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】