磁気抵抗効果素子、磁気メモリ素子、磁気メモリ装置
【課題】角型性にすぐれ、ノイズの改善が図られ、安定した磁気特性を有する磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル接合を用いた磁気抵抗効果素子であって、強磁性層の一方により構成される磁化自由層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、磁化自由層がFe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしく2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む構成とする。
【解決手段】少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル接合を用いた磁気抵抗効果素子であって、強磁性層の一方により構成される磁化自由層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、磁化自由層がFe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしく2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ素子、磁気メモリ装置に関し、特に安定した磁気特性を有する磁気抵抗効果素子、磁気による不揮発性メモリ素子としての磁気メモリ素子、この磁気メモリ素子によって構成される磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、特に携帯端末などの個人用小型機器の飛躍的な普及に伴い、これを構成するメモリやロジックなどの素子には、高集積化、高速化、低電力化など、一層の高性能化が要請されている。特に不揮発性メモリの高密度・大容量化は、可動部分の存在により本質的に小型化が不可能なハードディスクや光ディスクに置き換える技術として、ますます重要になってきている。
【0003】
不揮発性メモリとしては、半導体を用いたフラッシュメモリや、強誘電体を用いたFRAM(Ferro electric Random Access Memory)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、フラッシュメモリは、書き込み速度がマイクロ秒のオーダーであり、その書き込み速度が遅いという欠点がある。
【0005】
一方、FRAMにおいては、書き換え可能回数が少ないという問題が指摘されている。
【0006】
これらの欠点を有さない不揮発性メモリとして注目されているのが、MRAM(Magnetic Random Access Memory)とよばれる磁気メモリである(例えばWang et al.,IEEE Trans.Magn.33(1997),4498参照。)。
【0007】
このMRAMは、構造が単純であるため高集積化が容易であり、また磁気モーメントの回転により記憶を行うために書き換え可能回数が大である。またアクセス時間についても、かなりの高速化が予想されており、既にナノ秒台で動作可能であることが確認されている。
【0008】
このMRAMに用いられる、磁気メモリ素子、TMR(Tunnel Magnetoresistance)素子は、その基本的構造が、強磁性層/トンネルバリア層/強磁性層の積層構造である。
【0009】
この磁気メモリ素子は、上述した強磁性層間に一定の電流を流した状態で、外部磁場を印加した場合、両強磁性層の磁化の相対角度に応じて磁気抵抗効果が現れる。具体的には、双方の強磁性層の磁化の向きが反平行の場合は抵抵抗値が最大となり、平行の場合は抵抗値が最小となる。磁気メモリ素子としての機能は、外部磁場により反平行と平行の状態を、一方の強磁性層における磁化の反転により作り出すことによってもたらされる。
【0010】
この抵抗の変化率は、それぞれの磁性層のスピン分極率をP1、P2とすると、
2P1P2/(1−P1P2) (1)
で表される。それぞれのスピン分極率が大きいほど抵抗変化率が大きくなる。強磁性層に用いる材料と、この抵抗変化率の関係、特に、Fe,Co,Ni等のFe族の強磁性体元素や、それら3種類の各組み合わせによる合金については、すでに報告がなされている。
【0011】
MRAMに関しては、書き込みについては、その磁気メモリ素子アレイのうちの、選択されたメモリ素子に情報を記憶するために、アレイを縦横に横切るビット書き込み線とワード書き込み線を設け、これらビット書き込み線とワード書き込み線の選択された立体的交叉位置の素子のみを、そのアステロイド特性を使用して選択書き込みする方法が知られている(例えば特開平10−116490号公報参照)。
【0012】
その際の書き込み線には、Cuや、Alのような、半導体装置で通常使用される導体薄膜が使用される。この場合、上述した磁化反転を発生させるための反転磁界が、例えば40〔Oe〕の磁気メモリ素子に、線幅が0.35μmの書き込み線で、上述した磁化反転を生じさせて、その書き込みを行うためには、約10mAの電流が必要であった。この場合において、例えば、書き込み線の厚さが、線幅と同じであるとすると、その際の電流密度は8.0×10−6A/cm2となり、エレクトロンマイグレーションによる断線が懸念される。
【0013】
そこで、このようなエレクトロンマイグレーションの発生、更には、記録電流による発熱の問題や、消費電力低減の観点等からも、この記録電流を低減させる必要がある。
【0014】
この記録電流を減少させる1つの手段として、TMR素子の反転磁界すなわち保磁力を小さくすることが挙げられる。
【0015】
このTMR素子の保磁力は、素子の大きさや、形状および膜構成と材料の選択で決まる。素子の大きさは、MRAMの記録密度の向上を図って微細化させることが望まれるが、この微細化によって素子の保磁力は、上昇する傾向にある。したがって、材料の面からの保磁力の低減も必要とされる。
【0016】
また、磁気メモリ素子の磁気特性が素子ごとにばらついたり、同一素子を繰り返し使用した場合にばらつきが生じると、アステロイド特性を用いた選択書き込みが困難になる。
【0017】
したがって、理想的なアステロイド曲線を描かせるための磁気特性も求められる。理想的なアステロイド曲線を描かせるためには、TMR測定を行った際のR−H(抵抗−磁場)ループにおいてバルクハウゼンノイズ等のノイズが少なく、角型性がよく、保磁力Hcのばらつきが少ないことが必要となる。
【0018】
読み込みに関しては、トンネルバリア層を挟んだ一方の強磁性層と他方の強磁性層の磁気モーメントの向きが反平行であり抵抗値が高い場合を例えば“1”、その逆に各々の磁気モーメントが平行で抵抗値が低い場合を例えば“0”とし、これらの“1”,“0”状態での一定バイアス電圧での差電流や一定バイアス電流での差電圧により読み出しを行う。
【0019】
したがって、素子間の抵抗ばらつきが同じである場合には、TMR比(低抵抗状態の抵抗値Rminと高抵抗状態の抵抗値Rmaxとするときの(Rmax−Rmin)/Rminが高いほど有利であり、高速で集積度が高く、エラーレートの低い磁気メモリ装置が実現される。
【0020】
また、強磁性層/トンネルバリア層/強磁性層の基本構造を有する磁気メモリ素子にはTMR比のバイアス電圧依存性が存在し、バイアス電圧が上昇するにつれてTMR比が減少していくことが知られている。
【0021】
差電流または差電圧で読み出しを行う場合に、多くの場合、TMR比が、バイアス電圧依存性により半減する電圧(Vh)で読み出し信号の最大値をとることが知られている。したがって、バイアス依存性の少ないほうが読み出しMRAMのエラーの低減において有効である。
【0022】
したがって、MRAMに用いられるTMR素子としては、上述の書き込み特性要件と読み出し特性要件とを同時に満たす必要がある。
【0023】
しかし、一般的にCo,Fe,Niの強磁性遷移金属元素のみを成分とする磁性材料で磁化自由層を作製した場合には、前記(1)式で示すP1およびP2で示されるスピン分極率が大きくなるような合金組成を選択した場合には、Hcが大きくなる傾向にある。
【0024】
例えば、Co75Fe25(原子%)合金等を磁化自由層に用いた場合は、スピン分極率が大きく40%以上の高いTMR比が確保できるが保磁力も大きい。代わりに、軟磁性材料として知られるパーマロイと呼称されるNi80Fe20(原子%)合金等を用いた場合には、保磁力は低減させることはできるものの、Co75Fe25(原子%)と比較してスピン分極率が低いためにTMR比が33%程度まで低下してしまう。
【0025】
さらに、Co90Fe10(原子%)を用いると約37%のTMR比が得られて、その保磁力は、上述したCo75Fe25(原子%)合金とNi80Fe20(原子%)合金の中間となるが、R−Hループの角型性が劣り、書き込みを可能とするアステロイド特性が得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、角型性にすぐれ、ノイズの改善が図られ、安定した磁気特性を有する磁気抵抗効果素子、また、これらの特性を有し、ばらつきが改善され、すぐれたアステロイド特性を有する磁気メモリ素子、この磁気メモリ素子によって、書き込み特性および読み出し特性の改善がなされた磁気メモリ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明による磁気抵抗効果素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子である。
【0028】
一方の強磁性層により構成される磁化自由層は、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層から成る。
この磁化自由層は、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む構成による。
【0029】
より好ましくは、磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む構成とする。
【0030】
更に、本発明による磁気抵抗効果素子は、その磁化自由層の上述した主な部分が、トンネルバリア層側に位置して配置された構成とする。
【0031】
そして、本発明による磁気メモリ素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子であり、強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなる構成とする。
この磁気メモリ素子における情報記憶層は、上述した磁気抵抗効果素子における磁化自由層の各構成と同様の構成とする。
【0032】
また、本発明による磁気メモリ装置は、互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、これらワード線とビット線との交叉部間に、上述した本発明による各構成の磁気抵抗効果素子の構成による磁気メモリ素子が配置された構成とするものである。
【発明の効果】
【0033】
以上説明した本発明による磁気センサー等における磁気抵抗素子、磁気メモリ装置における磁気メモリ素子においては、その磁化自由層を非晶質もしくは微結晶による材料の単層あるいはその主な部分とすることによって、更に望ましくは強磁性遷移金属元素Fe,Co,Niの少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上添加されている磁性材料によって、磁化自由層を、その単層として、もしくは主な部分として構成する。
【0034】
この構成によって、磁気抵抗効果素子においては、R−H特性における角形性がすぐれ、ノイズの低減が図られることから、磁気検出器、磁気ヘッド等各種用途の磁気センサーとして用いて、確実にその磁気検出を行うことができる。
【0035】
また、磁気メモリ素子および磁気メモリ装置においては、TMR比を増大させて読み出し信号の増大を図ると共に、書き込み電流を低減する効果が得られる。さらに、読み出しにおいて、TMR比のバイアス依存特性が向上して、低抵抗状態と高抵抗状態の判別が容易となり、読み出し特性が向上する。書き込みにおいては抵抗−外部磁場曲線のノイズが低減されて、アステロイド特性が向上して書き込み特性が向上し書き込みエラーが低減される。すなわち、書き込み特性および読み出し特性の両方を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】A、B それぞれ本発明に係わる磁気抵抗効果素子もしくは磁気メモリ素子の一例の断面図である。
【図2】本発明による磁気メモリ装置の一例の要部の斜視図である。
【図3】本発明による磁気メモリ素子の一例の概略断面図である。
【図4】A 磁気メモリ素子の評価素子の概略平面図である。 B 図4AのA−A線の断面図である。
【図5】A (Co90Fe10)100−xMx(Mは、B,Si,Al,Ge,Mg,Zn)の組成における3B〜5B族添加元素の種類および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)100−xMx(Mは、B,Si,Al,Ge,Mg,Zn)の組成における3B〜5B族添加元素の種類および添加量とTMR比の関係を示す図であり、比較例として2A族のMgと2B族のZnの結果も示す図である。
【図6】A (Co90Fe10)75Si15M10(Mは、B,C,Al,P)の組成として、Siと、B,C,Al,Pを同時に2種添加した場合の磁化自由層の材料組成と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)75Si15M10(Mは、B,C,Al,P)の組成として、SiとB,C,Al,Pを同時に2種添加した場合の磁化自由層の材料組成とTMR比の関係を示す図である。
【図7】A (CoxFeyNiz)80B20組成として磁化自由層の強磁性遷移金属元素の組成依存性(B添加20原子%一定)と保磁力の関係を示す図である。 B (CoxFeyNiz)80B20組成として磁化自由層の強磁性遷移金属元素の組成依存性(B添加20原子%一定)とTMR比の関係を示す図であり、比較例としてBを添加していない場合の結果を示している。
【図8】A (Co90Fe10)100−xMx(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)として、4Aおよび5A族元素を添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)100−xMx(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)として、4Aおよび5A族元素を添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量とTMR比の関係を示す図である。
【図9】A (Co90Fe10)90−xMxB10(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)としてB10原子%と4Aおよび5A族元素を同時に添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)90−xMxB10(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)としてB10原子%と4Aおよび5A族元素を同時に添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量とTMR比の関係を示す図である。
【図10】A Cu,Nb,Si,Bを同時にCoFeに添加している磁化自由層を用いた場合の保磁力を示す図である。 B Cu,Nb,Si,Bを同時にCoFeに添加している磁化自由層を用いた場合のTMR比を示す図である。
【図11】A 磁化自由層の成膜時基板温度と保磁力との関係を示す図である。 B 磁化自由層の成膜時基板温度とTMR比との関係を示す図である。
【図12】A 磁化自由層を結晶質材料と非晶質材料との積層構造とした場合の保磁力である。 B 磁化自由層を結晶質材料と非晶質材料との積層構造とした場合のTMR比である。
【図13】A 本発明の磁化自由層によるTMR比のバイアス電圧依存性の測定値である。 B 本発明の磁化自由層によるTMR比のバイアス電圧依存性の測定値のプロットである。
【図14】(Co90Fe10)80B20およびCo90Fe10を磁化自由層に用いた場合のMTJ素子の抵抗−外部磁場曲線である。
【図15】A (Co90Fe10)80B20を磁化自由層に用いた場合のアステロイド曲線である。 B Co90Fe10を磁化自由層に用いた場合のアステロイド曲線である。
【図16】磁気メモリ装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明による磁気抵抗効果素子の実施の形態は、例えば磁気センサーとして用いることができる磁気抵抗効果素子である。
【0038】
また、本発明による磁気メモリ素子は、磁気メモリ装置の各メモリ素子に適用できるメモリ素子である。
【0039】
更に、本発明による磁気メモリ装置は、それぞれ複数のビット書き込み線(以下ビット線もしくはBLという)とワード書き込み線(以下ワード線あるいはWLまたはWWLという)とが、立体的に交叉し、ビット線とワード線間の立体的交叉部に、本発明による磁気メモリ素子が配置された構成を有する。
【0040】
先ず、本発明による磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子は、その基本的構成が同等であることから、これら磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子について説明する。
【0041】
〔磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子〕
本発明による磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子は、少なくとも一対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合の構造を有して成る。
【0042】
図1Aは、この強磁性トンネル結合構造を有するTMR素子による磁気抵抗効果素子ないしは磁気メモリ素子1の一例の概略断面図で、この例では、基板2、例えばSi基板上に、下地層3が形成され、この下地層3を介して反強磁性層4が形成され、この上に、順次強磁性層5(以下第1の強磁性層という)、トンネルバリア層6、強磁性層7(以下第2の強磁性層という)が積層されて成る強磁性トンネル結合部8が形成される。
そして、この強磁性トンネル結合部8上に、保護層9いわゆるトップコート層が形成される。
【0043】
第1の強磁性層5は、その磁化の向きが固定される磁化固定層であり、第2の強磁性層7は、磁化反転がなされる磁化自由層、磁気メモリ素子においては、情報記憶層である。
【0044】
この磁化自由層もしくは情報記憶層を構成する第2の強磁性層7は、少なくとも1種類もしくは2種類以上のFe,Ni,Coの遷移金属(以下FMTMという)に対して、以下に示すような合金元素を添加して、非晶質化もしくは微細結晶化された構成を有する。
【0045】
このように、強磁性層7による磁化自由層および情報記憶層は、これが非晶質化もしくは微細結晶化された構成とされたことによって、FMTMのスピン分極率を維持しながら保磁力を低下させ、軟磁気特性を得てR−Hループにおけるバルクハウゼンノイズ、角型性が改善され、情報記憶層として、反転磁界の繰り返し書き込みにおいてもそのばらつきを低減させて、良好な書き込み特性を得ることができる。また、同時に、高いTMR比を実現し、バイアス依存特性を改善して優れた読み出し特性を得ることができるものである。
【0046】
また、上述した効果すなわち目的を達成させるFMTMに添加する元素としては、次に列記する分類1〜3に、大別分類することができる。
分類1.周期律表で3B〜5B族元素のメタロイドおよびメタリック元素の添加。
分類2.周期律表で4A族と5A族元素の添加。
分類3.上記分類1および2の一方もしくは両方の添加、およびCu,O,Nなどの元素の微量添加。
【0047】
本発明の磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子において、第2の強磁性層7は、スピン分極率を維持したまま保磁力を低下させる目的で、FMTMに上記分類1に示した合金添加成分を含んでいればよい。上述の目的を達成する限りにおいては、FMTMと第2主成分である上記分類1に示した添加成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0048】
上記分類1では、磁化自由層の非晶質化が目的であり、これに属する合金系の、FMTMに1種類の半金属元素を添加する例としては、FMTM−Si合金、FMTM−B合金、FMTM−P合金、FMTM−C合金など、FMTMに周期律表で3B〜5B族元素を添加した合金系が挙げられる。しかしながら、好ましくはFMTM−Si合金やFMTM−B合金である。
【0049】
また、上述のような目的を達成する範囲内において、周期律表で3Bおよび4B族の半金属元素を2種以上含んでいてもよい。この場合に挙げられる合金系としては、FMTM−B−C合金、FMTM−B−P合金、FMTM−B−Ge合金、FMTM−Si−B合金、FMTM−Si−P合金、FMTM−Si−C合金、FMTM−Si−Al合金・・・・等の多数の組み合わせが挙げられる。このうち、好ましくはFMTM−B合金、FMTM−Si−B合金や、FMTM−Si−Al合金である。
【0050】
上記分類2も非晶質形成能もしくは結晶粒微細化の向上の効果を図るものであり、4A族元素と5A族元素(好ましくはTi,Zr,Hf,Nb,Ta)を添加する。この例としては、FMTM−Ti合金、FMTM−Zr合金、FMTM−Hf合金、FMTM−Nb合金、FMTM−Ta合金、FMTM−Zr−Nb合金、FMTM−Ta−Nb合金、FMTM−Ti−Zr合金、FMTM−Zr−Ta合金、FMTM−Zr−Nb−Ta合金、FMTM−Zr−Nb合金・・・・等の組み合わせが挙げられる。しかしながら、このうち好ましくはFMTM−Zr−Nb合金、FMTM−Zr−Ta合金、FMTM−Ta−Nb合金等が挙げられる。
【0051】
上記分類3は、分類1や分類2における半金属元素の効果よりも非晶質形成能もしくは結晶粒微細化の向上を図るものであり、上述した分類1と分類2の添加を行う。この例としては、FMTM−B−Nb合金、FMTM−B−Zr合金、FMTM−Si−Al合金、FMTM−Si−Nb合金、FMTM−Si−Zr合金の3元合金やFMTM−Si−B−Al合金の4元合金、FMTM−Si−B−Nb合金・・・・等の無数の組み合わせが挙げられる。また、FMTMに対しての添加元素の主成分が上記分類1や分類2に属するものであればよく、その他にCu,O,Nなどの分類含んでいてもよい。これらのうち好ましくはFMTM−Si−Al合金、FMTM−Zr−B合金、FMTM−Si−Cu合金、FMTM−Nb−SiB合金、FMTM−Si−B−Cu合金、FMTM−Si−B−Zr−Cu合金、FMTM−Si−B−Nb−Cu合金等が挙げられる。
【0052】
このように、合金元素を加えて、情報記憶層の大きな抵抗変化率を得るためのスピン分極を維持しつつ、保磁力を下げようとする場合において、FMTMに対して、3B〜5B族の半金属元素や4Aおよび5A族元素などの添加元素を増加させ過ぎることによって、強磁性遷移金属元素FMTM量が少なくなり過ぎると、膜特性が強磁性でなくなる。また、ターゲットの抵抗値が大きく成り過ぎてこの磁性層の成膜を、例えばDCマグネトロンスパッタリングによって成膜する場合の成膜が困難になり、良質な膜の成膜がなされないという不都合が生じる場合がある。
【0053】
このような場合には、その原因はまだ明確でないが、磁気抵抗変化率が減少してしまうことなどの不具合があるので、上記分類1の場合の周期律表における3B〜5B族であるメタロイドおよびメタリック元素(好ましくはB,Si,Al,Ge)の添加量は、TMの組成にも依存するが50%以下であることが望ましい。
【0054】
また、添加元素の量が多すぎると、強磁性を示さなくなることもあるので、非晶質もしくは微細結晶の組織構造を得るためには、1種もしくは2種以上用いる場合で、これらの元素が合計で、5〜35原子%の範囲にあることが望ましい。
【0055】
微結晶構造にする場合でも例えばBを添加した場合FeB,Fe2B,Fe3B,Co2B,Co3Bの等の強磁性の析出物が得られる範囲で、5〜35原子%にあることが望ましい。
【0056】
上記分類2の4Aと5A族元素(好ましくはTi,Zr,Hf,Nb,Ta)を加える場合は、多すぎると非晶質構造が得られないことや、強磁性ではなくなるなどの理由から、磁気特性が悪化しTMR比が低下するので、多くても20%程度でそれ以下が望ましい。
【0057】
上記分類1と2の両方を添加する場合においても同様で、余り添加量が多すぎると強磁性を失ってしまったり、所望の非晶質構造や微細結晶組織を得ることが困難となるので、FMTMに対するこれらの添加量は、分類1の3B〜5B族元素の場合と同様で35%程度以下とすることが望ましい。
【0058】
なお、分類1および2の元素がFMTMに対して共に添加されていて、これらが、添加元素のうちの主成分である限りにおいては、Cu,O,Sなどの元素がさらに微量に含まれていてもよい。このことは、その他の添加元素についても同様である。
【0059】
また、上記に挙げた要件を満たしている限りにおいては、磁気工学ハンドブック、川西健次、近角總信、桜井良文著、P298等に掲載されているような公知の非晶質および微結晶の軟磁性材料を使用することができる。
【0060】
これらの非晶質および微結晶構造の磁性材料層によって、第2の強磁性層、すなわち磁化自由層もしくは情報記憶層を構成する場合、その非晶質もしくは微細結晶構造によって保磁力すなわち反転磁界の低減効果とTMR比の維持を発現するために、この磁化自由層もしくは情報記憶層は、この磁性材料による単層構造とするか、あるいはこの磁性材料層によって主な部分を構成することが望ましい。
【0061】
一方、磁化固定層は、例えば図1Aで示すように、第1の強磁性層5と反強磁性的に結合するような反強磁性体層4が配置され、これによって、例えば磁気メモリに対する情報記録のための電流磁界が印加された場合においても磁化固定層において、磁化反転が生じないようにすることができる。
【0062】
この磁化固定層の第1の強磁性層5の構成強磁性材料は、特に限定はないが、Fe,Ni,Coの1種もしくは2種以上からなる合金材料を用いることができる。
【0063】
また、反強磁性層4の構成材料は、Fe,Ni,Pt,Ir,RhなどのMn合金、Coや、Ni酸化物などによって構成することができる。
【0064】
また、図1Bに、その一例の概略断面図を示すように、第1の強磁性層5すなわち磁化固定層を、第1の強磁性体層51、非磁性の導電体層52、第2の強磁性体層53による積層フェリ構造とすることもできる。
【0065】
この場合においても、第1の強磁性体層51は、反強磁性層4と接しており、これらの層間に働く交換相互作用によって、磁化固定層5は強い一方向の磁気異方性を持つ。
【0066】
この場合の導体層52の材料としては、Ru,Cu,Cr,Au,Ag等によって構成することができる。
【0067】
尚、図1Bにおいて、図1Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0068】
そして、図1AおよびBで示す、第1および第2の強磁性層5および7間には、上述したように、トンネルバリア層6が介在されており、このトンネルバリア層の介在によって、第1の強磁性層5すなわち磁化固定層と、第2の強磁性層7の磁化自由層もしくは情報記憶層との磁気的結合を切るとともに、トンネル電流を流すための役割を担う。
【0069】
このトンネルバリア層6の構成材料は、例えばAl,Mg,Si,Li,Ca等の酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の絶縁薄膜層によって構成することができる。
【0070】
〔磁気抵抗効果素子およびメモリ素子の製造方法〕
これら磁気抵抗効果素子もしくは磁気メモリ素子を構成する各層、すなわち各磁性層および導体層は、蒸着法、スパッタリングすなわちスパッタ蒸着法によって形成することができる。
【0071】
そして、トンネルバリア層6の形成は、例えばスパッタリングで形成された金属膜を酸化、もしくは窒化させることにより形成するとか、有機金属と酸素やオゾン、窒素もしくはハロゲンおよびハロゲン化ガスを用いる化学気相成長法(CVD)によって形成することができる。
【0072】
磁化自由層例えば情報記憶層を構成する第2の強磁性層7の作製は、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの気相成長法、または電解ないし無電解めっき法等によることができる。
【0073】
しかしながら、MRAMを構成する場合におけるように、TMR膜における厚さが、数nmから数十nmである場合は一般的に、スパッタリングなどの気相成長法が望ましい。
【0074】
そして、例えば上述した気相成長法による成膜において、基板2を加熱しない状態で行うことによって、その成膜材料の組成、堆積条件によって非晶質膜の成膜を行うことができる。
【0075】
すなわち、第2の強磁性層7による磁化自由層例えば情報記憶層を、非晶質膜構成とする場合、結晶粒界が存在しなくなることから、この強磁性層内における均一性が向上する。したがって、FMTM成分の組成比が同じであっても、非晶質元素の添加により非晶質化することによって保磁力を低下させることができる。
【0076】
この際には、非晶質膜の成膜のために、その成膜時の基板温度を、冷却等によって、100℃以下に保つことが望ましい。
【0077】
また、非晶質からの結晶化により微細な結晶組織を生成させる方法を用いることもできる。この場合、所望の磁気特性を発現させるためには、結晶組織がより微細で均一であることが好ましく、少なくとも2nm以下の粒径であることが望ましい。
【0078】
この場合の熱処理温度としては、材料組成によって異なるが、材料の結晶化温度付近以上の温度であり、析出した微結晶相が再結晶により結晶粒径が増大する温度よりも低いことが望ましい。
【0079】
次に、本発明による磁気メモリ装置の実施の形態について説明する。
【0080】
〔磁気メモリ装置〕
本発明による磁気メモリ装置は、そのメモリセルを構成する磁気メモリ素子が、上述した本発明による磁気メモリ素子1によって構成される。
【0081】
この磁気メモリ装置は、例えば図2に、その一例の要部の概略構成の斜視図を示し、図3に、その1つのメモリセルの概略断面図を示すように、クロスポイント型のMRAMアレイ構造とすることができる。
【0082】
すなわち、このMRAMにおいては、並置配列された複数のワード線WLと、これらワード線WLとそれぞれ立体的に交叉するように並置配列された複数のビット線BLとを有し、これらワード線WLとビット線BLとの間の立体的交叉部に、それぞれ本発明による磁気メモリ素子1が配置されて、これら交叉部においてメモリセル11が構成される。
【0083】
図2においては、磁気メモリ装置における3×3のメモリセルがマトリクス状に配置された部分を示している。
【0084】
図3は、このメモリセルの概略断面図を示す。この場合、例えばシリコン基板より成る半導体基板2上すなわち半導体ウエハ上に、スイッチング用のトランジスタ13が形成される。
【0085】
このトランジスタ13は、絶縁ゲート電界効果型トランジスタ例えばMOSトランジスタより成る。この場合、半導体基板2上にゲート絶縁層14が形成され、この上にゲート電極15が被着された絶縁ゲート部が構成される。
【0086】
また、半導体基板2に、絶縁ゲート部を挟んでその両側にソース領域16とドレイン領域17とが形成される。この構成において、ゲート電極15は、読み出し用のワード線RWLを構成している。
【0087】
このトランジスタ13が形成された半導体基板2上には、ゲート電極15を覆って第1の層間絶縁層31が形成され、この第1の層間絶縁層31の、各ソース領域16およびドレイン領域17上に、層間絶縁層31を貫通してコンタクトホール18が穿設され、各コンタクトホール18に、導電性プラグ19が充填される。
【0088】
そして、第1の層間絶縁層31上に、ソース領域16に対する配線層20が、ソース領域16にコンタクトされた導電性プラグ19上に跨がって被着形成される。
【0089】
更に、配線層20を覆って第1の層間絶縁層31上に第2の層間絶縁層32が形成される。
【0090】
この第2の層間絶縁層32には、ドレイン領域17にコンタクトされた導電性プラグ19上に、コンタクトホール18が貫通穿設され、これに導電性プラグ19が充填される。
【0091】
第2の層間絶縁層32上には、例えば読み出し用ワード線RWLの延長方向に延長して図2のワード線WLに相当する書き込み用ワード線WWLが形成される。
【0092】
また、この書き込み用ワード線WWLを覆って、第2の層間絶縁層32上に、例えば酸化シリコンより成る第3の層間絶縁層33が形成される。この第3の層間絶縁層33においても、ドレイン領域17にコンタクトされた導電性プラグ19上に、コンタクトホール18が貫通穿設され、これに導電性プラグ19が充填される。
【0093】
そして、この第3の層間絶縁層33を貫通する導電プラグ19にコンタクトして、第3の層間絶縁層33上に、例えば図1〜図3で示したように、導電性の例えばTaより成る下地層3を形成し、この下地層3上に、磁気メモリ素子1が形成される。
【0094】
更に、この下地層3とこの上の磁気メモリ素子1を覆って第4の層間絶縁層34が形成され、この上に、書き込み用ワード線WL上を横切って、ビット線BLが形成される。
【0095】
ビット線BL上には、図示しないが表面絶縁層が必要に応じて形成される。
【0096】
上述した第1〜第4の各層間絶縁層や表面絶縁層等は、例えばプラズマCVDによって形成することができる。
【0097】
これら、メモリセル11は、共通の半導体基板2すなわち半導体ウエハ上に、図2で示すように、マトリックス状に配列される。
【0098】
次に、磁場中熱処理して反強磁性層4の規則化すなわち反強磁性層4を所定の向きに磁化し、これによってこの反強磁性層4上に接して形成されこれと反強磁性結合された強磁性層による磁化固定層5の磁化を一方向に固定することができる。
【0099】
この構成による磁気メモリ装置は、ビット線BLと書き込みワード線WL(WWL)とに所要の電流を通電することによって、選択された交叉部のメモリセル11の磁気抵抗効果素子例えばTMR素子1の磁化自由層に、両ビット線BLと書き込みワード線WLによる発生磁界の合成による所要の書き込み磁界を印加して、前述したように、磁化自由層の磁化を反転させて、情報の記録を行う。
【0100】
この情報の読み出しは、選択された読み出しを行うメモリセルに関わるトランジスタ13のゲート電極15すなわち読み出しワード線RWLに所要のオン電圧を印加してトランジスタ13をオン状態とし、ビット線BLとトランジスタ13のソース領域16の配線層20との間に、読み出し電流を通電することによってその読み出しを行う。
【0101】
本発明による磁気メモリ装置の製造は、その磁気メモリ素子については、前述した製造方法を適用することができる。
【0102】
次に、実施例を説明する。この実施例は、前述した図2および図3で示したMRAMのメモリ素子として用いられるが、他の半導体集積回路、電子回路等における磁気メモリ素子に適用できることはいうまでもない。
【0103】
〔実施例1〕
この実施例における磁気メモリ素子は、前述した強磁性体層5/トンネルバリア層6/強磁性体層7の積層による基本構造を有する強磁性トンネル結合部、すなわちMTJ(Magnetic Tunnel Junction)を有するTMR素子とした。
【0104】
この場合、第1の強磁性層5が、積層フェリ構造とされた場合である。
【0105】
また、この場合、スピンバルブで用いられているように、強磁性層5を、反強磁性層4によって固定する磁化固定層とし、常に磁化の向きが一定に設定され、他方の強磁性層7を磁化自由層すなわち情報記憶層として、外部磁場により磁化反転させるようになされている。
【0106】
この実施例においては、図4Aに要部の平面図を示し、図4Bに図4AのA−A’の断面図を示すように、素子の磁気抵抗特性を調べることができるように、図3で示したスイッチング用のトランジスタ等を排除した構成とした。
【0107】
この実施例では、まず、表面に厚さ300nm熱酸化膜による絶縁層12が形成された厚さ0.525mmのSiによる半導体基板2を用意した。
【0108】
この半導体基板2上に、ワード線を構成する金属膜を、全面的に形成し、フォトリソグラフィによるパターンエッチングを行って、一方向に延長するワード線WLを形成した。
このとき、ワード線WLの形成部以外のエッチング部においては、半導体基板2の酸化膜すなわち絶縁膜12が、深さ5nmまでエッチングされた。
【0109】
このワード線WL上に、磁気メモリ素子(TMR素子)1を作製した。このTMR素子1は、順次、下層から下地層3/反強磁性層4/第1の強磁性層の第1の強磁性体層51/導電体層52、第2の強磁性体層53/トンネルバリア層6/第2の強磁性層7/保護層8の積層構造とした。各層の構成は、Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)100−xM1x(3nm)/Ta(5nm)とした。(この積層状態を表す表記において、各元素の添字は原子%で、括弧内のnmの単位で示す数値は、各層の膜厚を示すもので、以下同様の表記による。)
【0110】
この積層膜の一部によってTMR素子1を構成するものであり、このために、積層膜のTMR素子1の形成部上に、フォトレジスト層によるマスク層(図示せず)を形成し、フォトリソグラフィによるパターンエッチングを、ドライエッチングによって行って平面形状が楕円形状をなすTMR素子1を形成した。
この場合のTMR素子1のパターンは、短軸0.8μm、長軸1.6μmの楕円形状とした。
【0111】
この膜構成のうちでAl酸化物のトンネルバリア層以外はDCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。Al酸化物のトンネルバリア層は、まず、金属Al膜をDCスパッタ方式で1nm堆積させて、その後に酸素:アルゴンの流量比を1:1とし、チャンバーガス圧を0.1mTorrとして、ICP(Inductive Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)により金属Al膜をプラズマ酸化させて形成した。酸化時間はICP出力によっても異なるが、この実施例においては、30秒とした。
【0112】
その後に、磁場中熱処理炉で、10〔kOe〕、270℃、4時間の熱処理を行い、反強磁性層4のPtMn規則化熱処理を行って、第1の強磁性層5の磁化を一方向に固定した。
【0113】
この実施例においては、磁化自由層(情報記憶層)を構成する第2の強磁性層7以外のCoFeの組成はCo90Fe10(原子%)とした。そして、第2の強磁性層7は、(Co90Fe10)100−xM1xとし、後述の比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、CoとFeの強磁性遷移金属元素の比率をCo90:Fe10に固定して、M1(B,Si,Al,Ge)の量を1原子%から40原子%まで変化させた。
【0114】
また、上述した基板2上に形成されたTMR素子1は、図4Bに示すように、Al2O3絶縁層30をスパッタリングし、フォトリソグラフィによるエッチングによってTMR素子1上に開口を形成し、この開口を通じて絶縁層30上に、差し渡って、ワード線WLの延長方向と交叉する1方向に延長するビット線BLを、金属膜の成膜およびフォトリソグラフィによるパターンエッチングによって形成する。
【0115】
尚、各ワード線WLおよびビット線BLの各両端には、これらの形成と同時に、特性測定用の端子パッド23および24が形成される。
【0116】
〔実施例2〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)75Si15M110とし、そのM1をB,C,P,Alとした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0117】
〔実施例3〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)80B20,(Co75Fe25)80B20,(Co50Fe50)80B20,(Ni80Fe20)80B20の組成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0118】
〔実施例4〕(本発明に対する参考例)
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)100−xM2xとし、そのM2をTi,Zr,Nb,Taとして、組成比xを0〜40原子%まで変化させた以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0119】
〔実施例5〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)90−xB10M2xとし、そのM2をTi,Zr,Nb,Taとして、組成比xを0〜20原子%まで変化させた以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0120】
〔実施例6〕(本発明に対する参考例)
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)73.5Cu1Nb3Si13.5B9および(Co90Fe10)73.5Cu1Nb3Si16.5B6の組成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0121】
〔実施例7〕
この実施例においては、下記の2つのサンプル(1)、(2)を作製した。これらは、TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、ワード線WLが形成された基板側から
サンプル(1)は、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)80B20(2nm)/Co90Fe10(1nm)/Ta(5nm)
とした。
サンプル(2)は、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Co90Fe10(1nm)/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Ta(5nm)
とした。
これらサンプル(1)および(2)のいずれにおいても、第2の強磁性層7を上記構成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0122】
〔比較例1〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
Co90Fe10、Co75Fe25、Co50Fe50、Ni80Fe20を用いた以外は実施例1と同様の構成とした。
【0123】
〔比較例2〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)100−xM3x(3nm)/Ta(5nm)とした。
この膜構成で、磁化自由層以外のトンネルバリア層より下のCoFe組成はCo90Fe10(原子%)とした。磁化自由層の(Co90Fe10)100−xM3xについては、比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、CoとFeの強磁性遷移金属元素の比率をCo90Fe10(原子%)に固定して、M3(Mg,Zn)の量を1原子%〜40原子%まで変化させた。
【0124】
〔比較例3〕
膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)90−xB10M3x(3nm)/Ta(5nm)
とした。
この膜構成で、磁化自由層以外のトンネルバリア層より下のCoFe組成はCo90Fe10(原子%)とした。磁化自由層の(Co90Fe10)90−xB10M3xについては、比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、Co:Fe=90:10(原子%)に固定して、M3(Mg,Zn)の量を1原子%から40原子%まで変化させた以外は実施例1と同様の構成とした。
【0125】
〔比較例4〕
TMR素子1の膜構成は、
(Co90Fe10)95B5の組成の膜を磁化自由層に用いて、磁化自由層を成膜する際の基板温度を50℃〜200℃とした以外は実施例1と同様の構成とした。
【0126】
〔比較例5〕
TMR素子1の膜構成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/Co90Fe10(2nm)/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Ta(5nm)
のように、第2の強磁性層7を積層構造とした以外は実施例1と同様の構成とした。
【0127】
上述した各実施例および比較例について特性評価を行った。本発明の磁気メモリ素子が磁気メモリ装置のメモリ素子として使用される場合は、電流磁界によって、その磁化自由層が情報記憶層として磁化反転させることによって使用されるが、この特性評価においては、磁気メモリの特性評価を行うために外部磁界による磁化反転によって特性評価を行った。
【0128】
ここで、磁気特性およびTMR比の評価に用いたTMR素子1は、上述したように、短軸0.8μm、長軸1.6μmの楕円形状の素子とした。
【0129】
情報記憶層の磁化反転のための磁界は、情報記憶層の磁化容易軸に対して平行に印加した。この測定のための磁界の大きさは、500〔Oe〕とした。この磁界を情報記憶層の磁化容易軸の一方から見て−500〔Oe〕〜+500〔Oe〕まで掃引すると同時に、ワード線WLの端子23、ビット線BLの端子24に印加するバイアス電圧が100mVとなるように調節して、TMR素子1に、膜面と交叉する方向の通電を行って外部磁界値に対する抵抗値を測定し、TMR比を測定した。
【0130】
TMR比は、第1の強磁性層の磁化固定層と第2の強磁性層の磁化自由層(情報記憶層)の磁化とが、反平行の状態にあって抵抗が高い状態での抵抗値をRmaxとし、磁化固定層と磁化自由層の磁化が平行の状態であって抵抗が低い状態での抵抗値をRminとするときの(Rmax−Rmin)/Rminとする。
測定温度は室温25℃とした。
【0131】
また、保磁力Hcは、この測定法から求められた磁気抵抗R−外部磁界H特性曲線から求めた。結晶構造は、TEM(透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscopy)によった。この場合、TEMの明視野像に結晶粒界が認められず、電子線回折図形においてハローリングが見られるものを非晶質構造とした。
【0132】
バイアス依存測定は、バイアス電圧を100〜1000mVまで100mV刻みに変化させながら、R−Hループの測定をしてTMR比を求めて、バイアス電圧に対してプロットした。
【0133】
以下その結果を記載する。
【0134】
1.HcとTMR比について
実施例1〜7、比較例1〜5についてTMR比と情報記憶層の保磁力についての評価を行った。それぞれの評価結果を示して、本発明の効果について説明する。
【0135】
〔1−1〕.磁化反転を行わしめる磁化自由層が、FMTM(遷移金属)に対して添加元素を含まない構成とした場合:
すなわち、比較例1の、磁化自由層が、
Co90Fe10,Co75Fe25,Co50Fe50,Ni80Fe20による構成とした従来構成である。
この場合、TEMによる観察結果から、これらの材料は結晶質であることが確認された。
【0136】
【表1】
【0137】
TMR素子1における情報記憶層の反転磁界Hcは、素子の寸法、形状、厚さに依存するが、素子1の寸法を、短軸を0.8μm、長軸を1.6μmに固定して、それぞれの磁性材料を情報記憶層を構成する磁化自由層に用いたTMR素子1の磁性材料依存性を比較した。
【0138】
これは、電流磁界を発生させるワード線やビット線の構造にもよるが、TMR素子の磁化自由層の反転磁界が大きくなるほど、書き込み電流は増大する。したがって、反転磁界を低減させることが書き込み電流の低減および消費電力の低減に結びつく。
【0139】
このように、書き込み電流値の大小に影響を与えるHcは、表1に挙げた比較例1の磁性材料で比較すると、いわゆるパーマロイのNi80Fe20が最も小さく、書き込み電流値を抑えることができることが分かるが、このパーマロイは、TMR比が30%程度であって、他の材料に比較して小さい。
【0140】
このため、読み出しの出力電圧もしくは出力電流が不足する。一方、Co75Fe25合金は、TMR比が、これら材料のうちでは最も大きいが、保磁力Hcも大きいことから書き込み電力が大きくなる。すなわち、いずれの材料においても、読み込み特性と、書き込み特性を同時に満たすことは困難であるということが分かる。
【0141】
また、従来の結晶質材料を、情報記憶層を構成する磁化自由層に用いると、特にCoFe合金系の場合、抵抗−磁場曲線の角形性が良好でないことなどに起因して、反転磁界が測定毎に異なり安定しない。
【0142】
〔1−2〕.FMTMに対する3B〜5B族元素単体での添加効果:
実施例1の構成による、FMTMを原子%でCo:Fe=90:10に固定して、これに添加する3B〜5B族元素であるB,Si,Al,Geを原子%で1〜40%まで添加したサンプルと、比較例2の構成で3B〜5B族元素以外の元素であるMgおよびZnを原子%で1〜40%まで添加したサンプルとについての添加量に対する保磁力HcとTMR比との測定結果を、図5Aおよび図5Bに示す。
【0143】
B,Si,Al,Geを添加した構成では、その添加量が多くなるにつれて一旦TMR比が増加し、再び低下する傾向を示す。そして、反転磁界Hcは、Si,B,Al,Geの各添加によって低下していることが確認された。
【0144】
ところが、2A族のMgの添加では、Hcは低下するが、Si,B,Al,Geで確認されたTMR比が上昇する効果が見られない。
また、2B族のZnの添加では、TMR比の上昇の効果も、Hc低減の効果も見られなかった。
【0145】
すなわち、これら2A,2B族元素の添加による構成では、TMR比を大にし、Hcを低くすること、つまり読み出し特性と書き込み特性とが両立せず、磁気メモリ素子における情報記憶層の磁化自由層材料としてふさわしくない。
【0146】
尚、上述した本発明実施例では、3B〜5B族元素として、B,Si,Al,Geを添加した場合の効果について示したが、元素周期律表中で、これらB,Si,Al,Geの近くに位置していて、性質が類似しているC,P,Ga,In,As,Se,Sn,Sb,Teなどや、その他のメタロイド元素や、3Bおよび4B族のメタリック元素に関しても同様の効果を得ることが推測される。
【0147】
このように、B,Si,Al,Geおよび周期律表でのこれらの周辺の元素で性質の似ている3B〜5B族のメタロイドおよびメタリック元素では、TMR比を向上させて、Hcを低下させる効果があるが、これらのうちでもB,Si,P,Al,Ge等が特に望ましい。
【0148】
また、図5AおよびBの結果から、これら元素の添加量が少な過ぎる場合は、TMR比の向上の効果が少なく、Hcの低減効果も少ない。3B〜5B族のメタロイドおよびメタリック元素を添加する場合、前述の効果を発現させようとする場合、少なくとも5原子%以上必要である。また、添加量が多すぎた場合には、Hcは40原子%添加しても低下し続ける添加元素もあるが、磁化量が少なくなり過ぎてTMR比が減少するおそれが生じる。添加量が35%を超えても、Hcの大きさが低下していく効果は見られるが、高いTMR比と両立させるためには、添加量を35%を超えないことが望ましい。したがって、TMR比を向上およびHcを両立させる最も適当な添加元素の添加量は、FMTMに対して1元素を添加する場合には5〜35原子%が望ましい。
【0149】
ここで、作製したサンプルのうちで、本発明の実施例であり、Hcの低減効果が見られた(Co90Fe10)80B20組成の磁化自由層と、本発明に対する比較例であって、Hcの低下効果の少ない(Co90Fe10)97B3組成の磁化自由層の断面のTEM像を観察した結果、微細構造は、(Co90Fe10)80B20については、非晶質層、(Co90Fe10)97B3については微結晶であることがわかった。Hcの低減に関しては微結晶および非晶質層であることによりもたらされていると考えられる。
【0150】
また、後述する磁化判定挙動の項目で述べるように、非晶質であることにより、抵抗−磁場曲線の角形性が向上して磁化反転の挙動が安定化し、磁化反転のばらつきの減少がもたらされる。この点でも、非晶質強磁性材料を磁化自由層に用いることにより、読み出し特性が向上し、磁化自由層として好適な材料であるといえる。
【0151】
〔1−3〕.3B〜5B族2種類以上の添加効果:
本発明のTMR比の上昇とHcの低減効果は3B〜5B族の半金属元素を1種類のみ含んでいる場合のみでなく、2種以上含んでいる場合でも発現される。
【0152】
実施例2の構成では、これらの元素を2種以上含む場合であり、Siを第1添加元素としてその添加量を15原子%とし、第2添加元素としてB,C,P,Alを添加した結果を図6Aおよび図6Bに示した。これらの元素を2種以上含んでいても、上記〔1−2〕.で述べた保磁力Hcの低減効果とTMR比の増加とが認められる。特に、SiとBおよびSiとAlとを同時に添加した場合、Hcの低減効果が大きい。
【0153】
このように、本発明構成による場合のTMR比の増大およびHcの低減効果は、3B〜5B族のメタロイド元素およびメタリック元素の1種もしくは2種含んでいても発現する。
また、3B〜5B族のメタロイド元素およびメタリック元素を3種以上含んでいても同様の効果が発現することが考えられる。
したがって、3B〜5B族の元素に関して特に限定はないが、上述したB,C,Si,P,Alの中から1種もしくは2種以上を選択することが好ましい。
【0154】
〔1−4〕.Bを20原子%添加した場合における強磁性遷移金属元素の組成依存:
非晶質化するための元素が添加された本発明の磁化自由層材料のうちで、強磁性元素であるFe,Co,Niの組成比と、TMR比およびHcの値について、実施例3のBを20原子%添加したサンプルと、比較例1の本発明の添加元素を用いていないサンプルの測定結果に基いて本発明の効果を説明する。
【0155】
実施例3および比較例1の測定結果を併せて図7Aおよび図7Bに示す。本発明の3B〜5B族元素であるBを添加したサンプルにおいて、Co90Fe10,Co75Fe25,Co50Fe50,Ni80Fe20のうちでどの強磁性遷移金属の組成比においても、前記〔1−2〕.の実施例1で示したような、TMR比の上昇およびHcの低下の効果が見られる。
【0156】
したがって、これらの効果は、ここで示したCoFe,NiFeの組成に限定されるわけでなく、どの組成範囲をもつFe,Co,Niに対しても、3B〜5B族の半金属元素をAlを5〜35原子%程度まで添加した合金系の磁化自由層を有する磁気メモリ素子に関してこのような効果が現れる。
【0157】
また、添加元素に関しても、此処で示したBのみならず、3B〜5Bのメタロイドおよびメタリック元素およびAlもしくは後に示す本発明の添加元素を含んでいればよい。
【0158】
〔1−5〕.4A族および5A族元素1種添加効果:
図8Aおよび図8Bに、実施例4の構成のサンプルで、FMTMに対して4Aおよび5A族のいわゆるバルブメタルのうちでTi,Zr,Nb,Taを添加したときの、保磁力HcおよびTMR比の組成依存性を示す。
【0159】
これらの元素を添加することによっても、Hcの低減効果が認められる。このうちFMTM−Zr合金を磁化自由層に用いたものについて、TEM観察を行ったところHcの低減効果が見られる15原子%の添加量のサンプルについては、非晶質層が得られていることが分かった。これに対し3原子%の添加量では、Hcの低減効果が小さい。これは、非晶質化ないし結晶粒微細化効果によるものと考えられる。このようにTa,Zr,NbにおいてHcの低減効果が認められるが、同様にいて4A族と5A族のいわゆるバルブメタルに関しては同様の効果が見られる。また、添加量に関してはこのような効果が見られる限りにおいては特に限定はしないが、図8Aおよび図8Bに示される実験結果からして、良好なTMR比とHcの低減が認められる範囲としては25原子%程度までが好ましい。また、言うまでもなくこれらの添加元素は単独でFMTMに添加する場合のみでなく、少なくとも1種もしくは2種以上が含まれていれば同様の効果が発現される。
【0160】
〔1−6〕.3B〜5B族元素と4Aおよび5A族元素の同時添加効果:
図9Aおよび図9Bに実施例5のサンプルで、FMTMに対してBが10原子%含まれている他にTi,Zr、Nb,Taを含んでいる場合の特性評価結果を示す。実施例1の3B〜5B族元素の添加に比較して程度は小さいが、これらの元素をさらに添加することにより、3B〜5B族元素による高いTMR比を維持しつつ、更に保磁力を低減できる。言うまでもなく、このような効果はここで挙げたTi,Zr、Nb,Taに限られるのではなく、この他にも周期律表で同じ族に属する4A〜5A族元素であるHf,Vでもこのような効果が見られることは容易に推定できる。
【0161】
〔1−7〕.多元系:
実施例1〜5の構成による場合のTMR比およびHcの測定結果で示してきた効果は、上述した3B〜5B族元素および4A〜5A元素を含んでいる必要があるが、これらのほかに少量の微量元素を含んでいてもよい。
【0162】
実施例6と比較例1による構成に因る場合の評価結果を、図10Aおよび図10Bで示す。これらに示されるように、これまで示してきた元素の他にCuを含んでいる系でも、同様にHcの低減とTMR比の向上とが実現できる。
【0163】
〔1−8〕.成膜時の基板温度:
磁化自由層成膜時の基板温度の効果について調べた比較例4の構成のサンプルについての基板温度に対するHcおよびTMR比を、図11Aおよび図11Bに示す。非晶質の形成条件からも基板を加熱しての磁化自由層の成膜は、これまで述べてきたHcの低減とTMR比の向上とに対して悪影響を及ぼしており、室温で成膜した結果が、ここで示している中で最も優れている。したがって、非晶質構造を形成する観点から、磁化自由層成膜時に基板を加熱するのは好ましくなく、少なくとも100℃以下で、むしろ基板を冷却する方が好ましい。
【0164】
〔1−9〕.積層構造:
実施例7および比較例5の磁化自由層を積層構造にした場合の磁化自由層材料とHcおよびTMR比の測定結果を、図12Aおよび図12Bに示す。
【0165】
周期律表で3Bから5B族元素のメタロイドおよびメタリック元素の1種もしくは2種以上添加による非晶質化がなされている層と結晶質である層の積層構造による磁化自由層によっても同様な保磁力低下と高いTMR比の発現がなされている。この場合、原因についてはまだ明らかではないが、非晶質層をトンネルバリア層側に用いるのが好ましい。結晶質層をトンネルバリア層側に隣接して用いた場合には、比較例4における図11で示すように、保磁力の低下が認められない。
【0166】
2.バイアス依存性:
図13Aおよび図13Bに、比較例1のCo90Fe10合金の磁化自由層に使用した場合と、実施例1の(Co90Fe10)80B20合金を磁化自由層に使用した場合のTMR比のバイアス電圧依存性を示す。
【0167】
図13Aはその測定値を示し、図13Bはこの測定値をプロットしてグラフ化した図である。現在のところ原因に関しては、まだ明らかではないが、図のように本発明の磁化自由層を用いた場合にはバイアス依存性が向上し、実動作バイアス電圧での出力特性が向上して、低抵抗状態と高抵抗状態の判別が容易になることから、磁気メモリ素子の読み出し特性が向上する。
【0168】
3.磁化反転挙動:
同様にして図14に、実施例1の(Co90Fe10)80B20合金を磁化自由層に使用した場合の抵抗−外部磁場曲線と、比較例1のCo90Fe10合金の磁化自由層に使用した場合の抵抗−外部磁場曲線とを、それぞれ曲線40と曲線41に示す。上述してきたように、本発明の情報記憶層を用いることにより、TMR比を高く維持しつつ、Hcを低減することが可能である。また、R−Hループの角型性が向上すると共にバルクハウゼンノイズも低減する。これらのことにより、書き込み電流の低減が可能となるばかりでなく、アステロイド曲線の形状も改善されて書き込み特性が向上し書き込みエラーの低減を図ることが可能となる。
【0169】
図15Aおよび図15Bに、20素子のアステロイド曲線の重ね合せの測定結果を示す。図15Aは、(Co90Fe10)80B20を磁化自由層に用いた場合、図15Bは、Co90Fe10を磁化自由層に用いた場合である。これら図15AとBとを比較して明らかなように、従来の結晶質材料であるCo90Fe10を用いている場合は、理想的なアステロイド形状から外れているものが多く、読み出し特性に劣る。しかし、本発明の非晶質強磁性材料を磁化自由層に用いることにより、アステロイド形状が理想的になり、かつ安定する。
【0170】
この効果は、図15に示した材料組成の磁化自由層を用いた場合だけでなく、本発明の範囲である非晶質強磁性材料を磁化自由層の主な部分に用いた場合に共通に見られる。したがって、本発明により、メモリ素子への書き込み特性が大きく向上し、MRAMの書き込みエラーを低減することが可能となる。
【0171】
次に、本発明による磁気メモリ装置MRAMの一例の具体的回路構成を、図16の概略構成を示すブロック図を参照して説明する。このMRAMにおいては、メモリセル11の配列によるセルアレイ部分160と、周辺回路部161とから成る。
【0172】
セルアレイ部分160は、メモリセル11が、行および列にそれぞれ複数個配列されて成る。各メモリ素子は、MTJによるメモリ素子1と、そのセル選択を行うトランジスタ13とを有する。
【0173】
周辺回路部161は、アドレス情報からセルを選択するためのデコーダ162、163、書き込み電流を通電するためのドライバ164、165、読み出し電流を選出するためのセンスアンプ166等を有して成る。
【0174】
そして、周辺回路部161は、セルアレイ部分160に延線されたビット線BL、書き込みワード線WWL、読み出しワード線RWLを有し、ビット線BLがデコーダ162に接続され、BL通じて、各メモリセル11にアクセスする。
【0175】
この磁気メモリ装置MRAMにおける書き込み動作および読み出し動作とそれぞれの構成を説明する。
【0176】
〔書き込み動作〕
メモリセル11に情報を書き込むためには、電流による発生磁界を利用する。この電流を流すための配線がBLとWWLである。BLとWWLは、前述したように、メモリセルを挟んでその上下で交叉するように配置される。BLおよびWWLの両端には書き込み電流を印加する他のドライバ(インバータ)164および165が接続される。ドライバのゲートは、外部からのアドレス入力を変換するデコーダ162および163が接続され、書き込み電流を印加するBLおよびWWLが選択される。
【0177】
ここで、メモリ素子すなわち磁気抵抗メモリ素子の情報記憶層7の磁化反転を行う反転磁界を発生させるBLでは、書き込み電流の方向、すなわち“0”もしくは“1”の情報書き込み電流を、データ線入力によって制御する。一方、この情報書き込みのための磁界反転をアシストするアシスト磁界を発生させるWWLでは、書き込み電流の方向は、一定でもよいが、エレクトロマイグレーションを考慮して、書き込み毎に電流の方向を反転させることもできる。
【0178】
〔読み出し動作〕
このようにして、“0”、“1”の情報の書き込みがなされたメモリセルからの情報の読み出しは、BLおよびRWLを用いる。その読み出しを行うセルの選択は、それぞれのメモリセルに設けられたトランジスタ13によってなされる。トランジスタのゲートはRWLに接続され、ドレインはMTJの一端にそれぞれ接続される。そして、MTJの他端は、BLに接続される。BLおよびRWLは、デコーダに接続されて、読み出しの選択されたBLおよびRWLがアラートされる。このようにして、選択されたセルには、BL→MTJ→トランジスタの経路でセンス電流が流れ、このセンス電流の大きさをセンスアンプ166で検出する。すなわち、記録情報の“0”と“1”の判別がなされる。すなわち、記録情報の読み出しがなされるものである。
【符号の説明】
【0179】
1 磁気抵抗効果素子ないしはメモリ素子、2 基板、3 下地層、4 反強磁性層、5 強磁性層(第1の強磁性層)、6 トンネルバリア層、7 強磁性層(第2の強磁性層)、8 強磁性トンネル結合部(MTJ)、9 保護層、11 メモリ素子、12,30 絶縁層、13 トランジスタ、14 ゲート絶縁層、15 ゲート電極、16 ソース領域、17 ドレイン領域、18 コンタクトホール、19 導電性プラグ、20 配線層、23,24 端子パッド、31〜34 第1〜第4の層間絶縁層51 第1の強磁性体層、52 導電層、53 第2の強磁性体層
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ素子、磁気メモリ装置に関し、特に安定した磁気特性を有する磁気抵抗効果素子、磁気による不揮発性メモリ素子としての磁気メモリ素子、この磁気メモリ素子によって構成される磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器、特に携帯端末などの個人用小型機器の飛躍的な普及に伴い、これを構成するメモリやロジックなどの素子には、高集積化、高速化、低電力化など、一層の高性能化が要請されている。特に不揮発性メモリの高密度・大容量化は、可動部分の存在により本質的に小型化が不可能なハードディスクや光ディスクに置き換える技術として、ますます重要になってきている。
【0003】
不揮発性メモリとしては、半導体を用いたフラッシュメモリや、強誘電体を用いたFRAM(Ferro electric Random Access Memory)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、フラッシュメモリは、書き込み速度がマイクロ秒のオーダーであり、その書き込み速度が遅いという欠点がある。
【0005】
一方、FRAMにおいては、書き換え可能回数が少ないという問題が指摘されている。
【0006】
これらの欠点を有さない不揮発性メモリとして注目されているのが、MRAM(Magnetic Random Access Memory)とよばれる磁気メモリである(例えばWang et al.,IEEE Trans.Magn.33(1997),4498参照。)。
【0007】
このMRAMは、構造が単純であるため高集積化が容易であり、また磁気モーメントの回転により記憶を行うために書き換え可能回数が大である。またアクセス時間についても、かなりの高速化が予想されており、既にナノ秒台で動作可能であることが確認されている。
【0008】
このMRAMに用いられる、磁気メモリ素子、TMR(Tunnel Magnetoresistance)素子は、その基本的構造が、強磁性層/トンネルバリア層/強磁性層の積層構造である。
【0009】
この磁気メモリ素子は、上述した強磁性層間に一定の電流を流した状態で、外部磁場を印加した場合、両強磁性層の磁化の相対角度に応じて磁気抵抗効果が現れる。具体的には、双方の強磁性層の磁化の向きが反平行の場合は抵抵抗値が最大となり、平行の場合は抵抗値が最小となる。磁気メモリ素子としての機能は、外部磁場により反平行と平行の状態を、一方の強磁性層における磁化の反転により作り出すことによってもたらされる。
【0010】
この抵抗の変化率は、それぞれの磁性層のスピン分極率をP1、P2とすると、
2P1P2/(1−P1P2) (1)
で表される。それぞれのスピン分極率が大きいほど抵抗変化率が大きくなる。強磁性層に用いる材料と、この抵抗変化率の関係、特に、Fe,Co,Ni等のFe族の強磁性体元素や、それら3種類の各組み合わせによる合金については、すでに報告がなされている。
【0011】
MRAMに関しては、書き込みについては、その磁気メモリ素子アレイのうちの、選択されたメモリ素子に情報を記憶するために、アレイを縦横に横切るビット書き込み線とワード書き込み線を設け、これらビット書き込み線とワード書き込み線の選択された立体的交叉位置の素子のみを、そのアステロイド特性を使用して選択書き込みする方法が知られている(例えば特開平10−116490号公報参照)。
【0012】
その際の書き込み線には、Cuや、Alのような、半導体装置で通常使用される導体薄膜が使用される。この場合、上述した磁化反転を発生させるための反転磁界が、例えば40〔Oe〕の磁気メモリ素子に、線幅が0.35μmの書き込み線で、上述した磁化反転を生じさせて、その書き込みを行うためには、約10mAの電流が必要であった。この場合において、例えば、書き込み線の厚さが、線幅と同じであるとすると、その際の電流密度は8.0×10−6A/cm2となり、エレクトロンマイグレーションによる断線が懸念される。
【0013】
そこで、このようなエレクトロンマイグレーションの発生、更には、記録電流による発熱の問題や、消費電力低減の観点等からも、この記録電流を低減させる必要がある。
【0014】
この記録電流を減少させる1つの手段として、TMR素子の反転磁界すなわち保磁力を小さくすることが挙げられる。
【0015】
このTMR素子の保磁力は、素子の大きさや、形状および膜構成と材料の選択で決まる。素子の大きさは、MRAMの記録密度の向上を図って微細化させることが望まれるが、この微細化によって素子の保磁力は、上昇する傾向にある。したがって、材料の面からの保磁力の低減も必要とされる。
【0016】
また、磁気メモリ素子の磁気特性が素子ごとにばらついたり、同一素子を繰り返し使用した場合にばらつきが生じると、アステロイド特性を用いた選択書き込みが困難になる。
【0017】
したがって、理想的なアステロイド曲線を描かせるための磁気特性も求められる。理想的なアステロイド曲線を描かせるためには、TMR測定を行った際のR−H(抵抗−磁場)ループにおいてバルクハウゼンノイズ等のノイズが少なく、角型性がよく、保磁力Hcのばらつきが少ないことが必要となる。
【0018】
読み込みに関しては、トンネルバリア層を挟んだ一方の強磁性層と他方の強磁性層の磁気モーメントの向きが反平行であり抵抗値が高い場合を例えば“1”、その逆に各々の磁気モーメントが平行で抵抗値が低い場合を例えば“0”とし、これらの“1”,“0”状態での一定バイアス電圧での差電流や一定バイアス電流での差電圧により読み出しを行う。
【0019】
したがって、素子間の抵抗ばらつきが同じである場合には、TMR比(低抵抗状態の抵抗値Rminと高抵抗状態の抵抗値Rmaxとするときの(Rmax−Rmin)/Rminが高いほど有利であり、高速で集積度が高く、エラーレートの低い磁気メモリ装置が実現される。
【0020】
また、強磁性層/トンネルバリア層/強磁性層の基本構造を有する磁気メモリ素子にはTMR比のバイアス電圧依存性が存在し、バイアス電圧が上昇するにつれてTMR比が減少していくことが知られている。
【0021】
差電流または差電圧で読み出しを行う場合に、多くの場合、TMR比が、バイアス電圧依存性により半減する電圧(Vh)で読み出し信号の最大値をとることが知られている。したがって、バイアス依存性の少ないほうが読み出しMRAMのエラーの低減において有効である。
【0022】
したがって、MRAMに用いられるTMR素子としては、上述の書き込み特性要件と読み出し特性要件とを同時に満たす必要がある。
【0023】
しかし、一般的にCo,Fe,Niの強磁性遷移金属元素のみを成分とする磁性材料で磁化自由層を作製した場合には、前記(1)式で示すP1およびP2で示されるスピン分極率が大きくなるような合金組成を選択した場合には、Hcが大きくなる傾向にある。
【0024】
例えば、Co75Fe25(原子%)合金等を磁化自由層に用いた場合は、スピン分極率が大きく40%以上の高いTMR比が確保できるが保磁力も大きい。代わりに、軟磁性材料として知られるパーマロイと呼称されるNi80Fe20(原子%)合金等を用いた場合には、保磁力は低減させることはできるものの、Co75Fe25(原子%)と比較してスピン分極率が低いためにTMR比が33%程度まで低下してしまう。
【0025】
さらに、Co90Fe10(原子%)を用いると約37%のTMR比が得られて、その保磁力は、上述したCo75Fe25(原子%)合金とNi80Fe20(原子%)合金の中間となるが、R−Hループの角型性が劣り、書き込みを可能とするアステロイド特性が得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、角型性にすぐれ、ノイズの改善が図られ、安定した磁気特性を有する磁気抵抗効果素子、また、これらの特性を有し、ばらつきが改善され、すぐれたアステロイド特性を有する磁気メモリ素子、この磁気メモリ素子によって、書き込み特性および読み出し特性の改善がなされた磁気メモリ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明による磁気抵抗効果素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子である。
【0028】
一方の強磁性層により構成される磁化自由層は、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層から成る。
この磁化自由層は、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む構成による。
【0029】
より好ましくは、磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む構成とする。
【0030】
更に、本発明による磁気抵抗効果素子は、その磁化自由層の上述した主な部分が、トンネルバリア層側に位置して配置された構成とする。
【0031】
そして、本発明による磁気メモリ素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子であり、強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなる構成とする。
この磁気メモリ素子における情報記憶層は、上述した磁気抵抗効果素子における磁化自由層の各構成と同様の構成とする。
【0032】
また、本発明による磁気メモリ装置は、互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、これらワード線とビット線との交叉部間に、上述した本発明による各構成の磁気抵抗効果素子の構成による磁気メモリ素子が配置された構成とするものである。
【発明の効果】
【0033】
以上説明した本発明による磁気センサー等における磁気抵抗素子、磁気メモリ装置における磁気メモリ素子においては、その磁化自由層を非晶質もしくは微結晶による材料の単層あるいはその主な部分とすることによって、更に望ましくは強磁性遷移金属元素Fe,Co,Niの少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上添加されている磁性材料によって、磁化自由層を、その単層として、もしくは主な部分として構成する。
【0034】
この構成によって、磁気抵抗効果素子においては、R−H特性における角形性がすぐれ、ノイズの低減が図られることから、磁気検出器、磁気ヘッド等各種用途の磁気センサーとして用いて、確実にその磁気検出を行うことができる。
【0035】
また、磁気メモリ素子および磁気メモリ装置においては、TMR比を増大させて読み出し信号の増大を図ると共に、書き込み電流を低減する効果が得られる。さらに、読み出しにおいて、TMR比のバイアス依存特性が向上して、低抵抗状態と高抵抗状態の判別が容易となり、読み出し特性が向上する。書き込みにおいては抵抗−外部磁場曲線のノイズが低減されて、アステロイド特性が向上して書き込み特性が向上し書き込みエラーが低減される。すなわち、書き込み特性および読み出し特性の両方を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】A、B それぞれ本発明に係わる磁気抵抗効果素子もしくは磁気メモリ素子の一例の断面図である。
【図2】本発明による磁気メモリ装置の一例の要部の斜視図である。
【図3】本発明による磁気メモリ素子の一例の概略断面図である。
【図4】A 磁気メモリ素子の評価素子の概略平面図である。 B 図4AのA−A線の断面図である。
【図5】A (Co90Fe10)100−xMx(Mは、B,Si,Al,Ge,Mg,Zn)の組成における3B〜5B族添加元素の種類および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)100−xMx(Mは、B,Si,Al,Ge,Mg,Zn)の組成における3B〜5B族添加元素の種類および添加量とTMR比の関係を示す図であり、比較例として2A族のMgと2B族のZnの結果も示す図である。
【図6】A (Co90Fe10)75Si15M10(Mは、B,C,Al,P)の組成として、Siと、B,C,Al,Pを同時に2種添加した場合の磁化自由層の材料組成と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)75Si15M10(Mは、B,C,Al,P)の組成として、SiとB,C,Al,Pを同時に2種添加した場合の磁化自由層の材料組成とTMR比の関係を示す図である。
【図7】A (CoxFeyNiz)80B20組成として磁化自由層の強磁性遷移金属元素の組成依存性(B添加20原子%一定)と保磁力の関係を示す図である。 B (CoxFeyNiz)80B20組成として磁化自由層の強磁性遷移金属元素の組成依存性(B添加20原子%一定)とTMR比の関係を示す図であり、比較例としてBを添加していない場合の結果を示している。
【図8】A (Co90Fe10)100−xMx(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)として、4Aおよび5A族元素を添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)100−xMx(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)として、4Aおよび5A族元素を添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量とTMR比の関係を示す図である。
【図9】A (Co90Fe10)90−xMxB10(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)としてB10原子%と4Aおよび5A族元素を同時に添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量と保磁力の関係を示す図である。 B (Co90Fe10)90−xMxB10(Mは、4Aおよび5A族元素のTi,Zr,Nb,Ta)としてB10原子%と4Aおよび5A族元素を同時に添加した磁化自由層材料の添加元素および添加量とTMR比の関係を示す図である。
【図10】A Cu,Nb,Si,Bを同時にCoFeに添加している磁化自由層を用いた場合の保磁力を示す図である。 B Cu,Nb,Si,Bを同時にCoFeに添加している磁化自由層を用いた場合のTMR比を示す図である。
【図11】A 磁化自由層の成膜時基板温度と保磁力との関係を示す図である。 B 磁化自由層の成膜時基板温度とTMR比との関係を示す図である。
【図12】A 磁化自由層を結晶質材料と非晶質材料との積層構造とした場合の保磁力である。 B 磁化自由層を結晶質材料と非晶質材料との積層構造とした場合のTMR比である。
【図13】A 本発明の磁化自由層によるTMR比のバイアス電圧依存性の測定値である。 B 本発明の磁化自由層によるTMR比のバイアス電圧依存性の測定値のプロットである。
【図14】(Co90Fe10)80B20およびCo90Fe10を磁化自由層に用いた場合のMTJ素子の抵抗−外部磁場曲線である。
【図15】A (Co90Fe10)80B20を磁化自由層に用いた場合のアステロイド曲線である。 B Co90Fe10を磁化自由層に用いた場合のアステロイド曲線である。
【図16】磁気メモリ装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明による磁気抵抗効果素子の実施の形態は、例えば磁気センサーとして用いることができる磁気抵抗効果素子である。
【0038】
また、本発明による磁気メモリ素子は、磁気メモリ装置の各メモリ素子に適用できるメモリ素子である。
【0039】
更に、本発明による磁気メモリ装置は、それぞれ複数のビット書き込み線(以下ビット線もしくはBLという)とワード書き込み線(以下ワード線あるいはWLまたはWWLという)とが、立体的に交叉し、ビット線とワード線間の立体的交叉部に、本発明による磁気メモリ素子が配置された構成を有する。
【0040】
先ず、本発明による磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子は、その基本的構成が同等であることから、これら磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子について説明する。
【0041】
〔磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子〕
本発明による磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子は、少なくとも一対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合の構造を有して成る。
【0042】
図1Aは、この強磁性トンネル結合構造を有するTMR素子による磁気抵抗効果素子ないしは磁気メモリ素子1の一例の概略断面図で、この例では、基板2、例えばSi基板上に、下地層3が形成され、この下地層3を介して反強磁性層4が形成され、この上に、順次強磁性層5(以下第1の強磁性層という)、トンネルバリア層6、強磁性層7(以下第2の強磁性層という)が積層されて成る強磁性トンネル結合部8が形成される。
そして、この強磁性トンネル結合部8上に、保護層9いわゆるトップコート層が形成される。
【0043】
第1の強磁性層5は、その磁化の向きが固定される磁化固定層であり、第2の強磁性層7は、磁化反転がなされる磁化自由層、磁気メモリ素子においては、情報記憶層である。
【0044】
この磁化自由層もしくは情報記憶層を構成する第2の強磁性層7は、少なくとも1種類もしくは2種類以上のFe,Ni,Coの遷移金属(以下FMTMという)に対して、以下に示すような合金元素を添加して、非晶質化もしくは微細結晶化された構成を有する。
【0045】
このように、強磁性層7による磁化自由層および情報記憶層は、これが非晶質化もしくは微細結晶化された構成とされたことによって、FMTMのスピン分極率を維持しながら保磁力を低下させ、軟磁気特性を得てR−Hループにおけるバルクハウゼンノイズ、角型性が改善され、情報記憶層として、反転磁界の繰り返し書き込みにおいてもそのばらつきを低減させて、良好な書き込み特性を得ることができる。また、同時に、高いTMR比を実現し、バイアス依存特性を改善して優れた読み出し特性を得ることができるものである。
【0046】
また、上述した効果すなわち目的を達成させるFMTMに添加する元素としては、次に列記する分類1〜3に、大別分類することができる。
分類1.周期律表で3B〜5B族元素のメタロイドおよびメタリック元素の添加。
分類2.周期律表で4A族と5A族元素の添加。
分類3.上記分類1および2の一方もしくは両方の添加、およびCu,O,Nなどの元素の微量添加。
【0047】
本発明の磁気抵抗効果素子および磁気メモリ素子において、第2の強磁性層7は、スピン分極率を維持したまま保磁力を低下させる目的で、FMTMに上記分類1に示した合金添加成分を含んでいればよい。上述の目的を達成する限りにおいては、FMTMと第2主成分である上記分類1に示した添加成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0048】
上記分類1では、磁化自由層の非晶質化が目的であり、これに属する合金系の、FMTMに1種類の半金属元素を添加する例としては、FMTM−Si合金、FMTM−B合金、FMTM−P合金、FMTM−C合金など、FMTMに周期律表で3B〜5B族元素を添加した合金系が挙げられる。しかしながら、好ましくはFMTM−Si合金やFMTM−B合金である。
【0049】
また、上述のような目的を達成する範囲内において、周期律表で3Bおよび4B族の半金属元素を2種以上含んでいてもよい。この場合に挙げられる合金系としては、FMTM−B−C合金、FMTM−B−P合金、FMTM−B−Ge合金、FMTM−Si−B合金、FMTM−Si−P合金、FMTM−Si−C合金、FMTM−Si−Al合金・・・・等の多数の組み合わせが挙げられる。このうち、好ましくはFMTM−B合金、FMTM−Si−B合金や、FMTM−Si−Al合金である。
【0050】
上記分類2も非晶質形成能もしくは結晶粒微細化の向上の効果を図るものであり、4A族元素と5A族元素(好ましくはTi,Zr,Hf,Nb,Ta)を添加する。この例としては、FMTM−Ti合金、FMTM−Zr合金、FMTM−Hf合金、FMTM−Nb合金、FMTM−Ta合金、FMTM−Zr−Nb合金、FMTM−Ta−Nb合金、FMTM−Ti−Zr合金、FMTM−Zr−Ta合金、FMTM−Zr−Nb−Ta合金、FMTM−Zr−Nb合金・・・・等の組み合わせが挙げられる。しかしながら、このうち好ましくはFMTM−Zr−Nb合金、FMTM−Zr−Ta合金、FMTM−Ta−Nb合金等が挙げられる。
【0051】
上記分類3は、分類1や分類2における半金属元素の効果よりも非晶質形成能もしくは結晶粒微細化の向上を図るものであり、上述した分類1と分類2の添加を行う。この例としては、FMTM−B−Nb合金、FMTM−B−Zr合金、FMTM−Si−Al合金、FMTM−Si−Nb合金、FMTM−Si−Zr合金の3元合金やFMTM−Si−B−Al合金の4元合金、FMTM−Si−B−Nb合金・・・・等の無数の組み合わせが挙げられる。また、FMTMに対しての添加元素の主成分が上記分類1や分類2に属するものであればよく、その他にCu,O,Nなどの分類含んでいてもよい。これらのうち好ましくはFMTM−Si−Al合金、FMTM−Zr−B合金、FMTM−Si−Cu合金、FMTM−Nb−SiB合金、FMTM−Si−B−Cu合金、FMTM−Si−B−Zr−Cu合金、FMTM−Si−B−Nb−Cu合金等が挙げられる。
【0052】
このように、合金元素を加えて、情報記憶層の大きな抵抗変化率を得るためのスピン分極を維持しつつ、保磁力を下げようとする場合において、FMTMに対して、3B〜5B族の半金属元素や4Aおよび5A族元素などの添加元素を増加させ過ぎることによって、強磁性遷移金属元素FMTM量が少なくなり過ぎると、膜特性が強磁性でなくなる。また、ターゲットの抵抗値が大きく成り過ぎてこの磁性層の成膜を、例えばDCマグネトロンスパッタリングによって成膜する場合の成膜が困難になり、良質な膜の成膜がなされないという不都合が生じる場合がある。
【0053】
このような場合には、その原因はまだ明確でないが、磁気抵抗変化率が減少してしまうことなどの不具合があるので、上記分類1の場合の周期律表における3B〜5B族であるメタロイドおよびメタリック元素(好ましくはB,Si,Al,Ge)の添加量は、TMの組成にも依存するが50%以下であることが望ましい。
【0054】
また、添加元素の量が多すぎると、強磁性を示さなくなることもあるので、非晶質もしくは微細結晶の組織構造を得るためには、1種もしくは2種以上用いる場合で、これらの元素が合計で、5〜35原子%の範囲にあることが望ましい。
【0055】
微結晶構造にする場合でも例えばBを添加した場合FeB,Fe2B,Fe3B,Co2B,Co3Bの等の強磁性の析出物が得られる範囲で、5〜35原子%にあることが望ましい。
【0056】
上記分類2の4Aと5A族元素(好ましくはTi,Zr,Hf,Nb,Ta)を加える場合は、多すぎると非晶質構造が得られないことや、強磁性ではなくなるなどの理由から、磁気特性が悪化しTMR比が低下するので、多くても20%程度でそれ以下が望ましい。
【0057】
上記分類1と2の両方を添加する場合においても同様で、余り添加量が多すぎると強磁性を失ってしまったり、所望の非晶質構造や微細結晶組織を得ることが困難となるので、FMTMに対するこれらの添加量は、分類1の3B〜5B族元素の場合と同様で35%程度以下とすることが望ましい。
【0058】
なお、分類1および2の元素がFMTMに対して共に添加されていて、これらが、添加元素のうちの主成分である限りにおいては、Cu,O,Sなどの元素がさらに微量に含まれていてもよい。このことは、その他の添加元素についても同様である。
【0059】
また、上記に挙げた要件を満たしている限りにおいては、磁気工学ハンドブック、川西健次、近角總信、桜井良文著、P298等に掲載されているような公知の非晶質および微結晶の軟磁性材料を使用することができる。
【0060】
これらの非晶質および微結晶構造の磁性材料層によって、第2の強磁性層、すなわち磁化自由層もしくは情報記憶層を構成する場合、その非晶質もしくは微細結晶構造によって保磁力すなわち反転磁界の低減効果とTMR比の維持を発現するために、この磁化自由層もしくは情報記憶層は、この磁性材料による単層構造とするか、あるいはこの磁性材料層によって主な部分を構成することが望ましい。
【0061】
一方、磁化固定層は、例えば図1Aで示すように、第1の強磁性層5と反強磁性的に結合するような反強磁性体層4が配置され、これによって、例えば磁気メモリに対する情報記録のための電流磁界が印加された場合においても磁化固定層において、磁化反転が生じないようにすることができる。
【0062】
この磁化固定層の第1の強磁性層5の構成強磁性材料は、特に限定はないが、Fe,Ni,Coの1種もしくは2種以上からなる合金材料を用いることができる。
【0063】
また、反強磁性層4の構成材料は、Fe,Ni,Pt,Ir,RhなどのMn合金、Coや、Ni酸化物などによって構成することができる。
【0064】
また、図1Bに、その一例の概略断面図を示すように、第1の強磁性層5すなわち磁化固定層を、第1の強磁性体層51、非磁性の導電体層52、第2の強磁性体層53による積層フェリ構造とすることもできる。
【0065】
この場合においても、第1の強磁性体層51は、反強磁性層4と接しており、これらの層間に働く交換相互作用によって、磁化固定層5は強い一方向の磁気異方性を持つ。
【0066】
この場合の導体層52の材料としては、Ru,Cu,Cr,Au,Ag等によって構成することができる。
【0067】
尚、図1Bにおいて、図1Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0068】
そして、図1AおよびBで示す、第1および第2の強磁性層5および7間には、上述したように、トンネルバリア層6が介在されており、このトンネルバリア層の介在によって、第1の強磁性層5すなわち磁化固定層と、第2の強磁性層7の磁化自由層もしくは情報記憶層との磁気的結合を切るとともに、トンネル電流を流すための役割を担う。
【0069】
このトンネルバリア層6の構成材料は、例えばAl,Mg,Si,Li,Ca等の酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の絶縁薄膜層によって構成することができる。
【0070】
〔磁気抵抗効果素子およびメモリ素子の製造方法〕
これら磁気抵抗効果素子もしくは磁気メモリ素子を構成する各層、すなわち各磁性層および導体層は、蒸着法、スパッタリングすなわちスパッタ蒸着法によって形成することができる。
【0071】
そして、トンネルバリア層6の形成は、例えばスパッタリングで形成された金属膜を酸化、もしくは窒化させることにより形成するとか、有機金属と酸素やオゾン、窒素もしくはハロゲンおよびハロゲン化ガスを用いる化学気相成長法(CVD)によって形成することができる。
【0072】
磁化自由層例えば情報記憶層を構成する第2の強磁性層7の作製は、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの気相成長法、または電解ないし無電解めっき法等によることができる。
【0073】
しかしながら、MRAMを構成する場合におけるように、TMR膜における厚さが、数nmから数十nmである場合は一般的に、スパッタリングなどの気相成長法が望ましい。
【0074】
そして、例えば上述した気相成長法による成膜において、基板2を加熱しない状態で行うことによって、その成膜材料の組成、堆積条件によって非晶質膜の成膜を行うことができる。
【0075】
すなわち、第2の強磁性層7による磁化自由層例えば情報記憶層を、非晶質膜構成とする場合、結晶粒界が存在しなくなることから、この強磁性層内における均一性が向上する。したがって、FMTM成分の組成比が同じであっても、非晶質元素の添加により非晶質化することによって保磁力を低下させることができる。
【0076】
この際には、非晶質膜の成膜のために、その成膜時の基板温度を、冷却等によって、100℃以下に保つことが望ましい。
【0077】
また、非晶質からの結晶化により微細な結晶組織を生成させる方法を用いることもできる。この場合、所望の磁気特性を発現させるためには、結晶組織がより微細で均一であることが好ましく、少なくとも2nm以下の粒径であることが望ましい。
【0078】
この場合の熱処理温度としては、材料組成によって異なるが、材料の結晶化温度付近以上の温度であり、析出した微結晶相が再結晶により結晶粒径が増大する温度よりも低いことが望ましい。
【0079】
次に、本発明による磁気メモリ装置の実施の形態について説明する。
【0080】
〔磁気メモリ装置〕
本発明による磁気メモリ装置は、そのメモリセルを構成する磁気メモリ素子が、上述した本発明による磁気メモリ素子1によって構成される。
【0081】
この磁気メモリ装置は、例えば図2に、その一例の要部の概略構成の斜視図を示し、図3に、その1つのメモリセルの概略断面図を示すように、クロスポイント型のMRAMアレイ構造とすることができる。
【0082】
すなわち、このMRAMにおいては、並置配列された複数のワード線WLと、これらワード線WLとそれぞれ立体的に交叉するように並置配列された複数のビット線BLとを有し、これらワード線WLとビット線BLとの間の立体的交叉部に、それぞれ本発明による磁気メモリ素子1が配置されて、これら交叉部においてメモリセル11が構成される。
【0083】
図2においては、磁気メモリ装置における3×3のメモリセルがマトリクス状に配置された部分を示している。
【0084】
図3は、このメモリセルの概略断面図を示す。この場合、例えばシリコン基板より成る半導体基板2上すなわち半導体ウエハ上に、スイッチング用のトランジスタ13が形成される。
【0085】
このトランジスタ13は、絶縁ゲート電界効果型トランジスタ例えばMOSトランジスタより成る。この場合、半導体基板2上にゲート絶縁層14が形成され、この上にゲート電極15が被着された絶縁ゲート部が構成される。
【0086】
また、半導体基板2に、絶縁ゲート部を挟んでその両側にソース領域16とドレイン領域17とが形成される。この構成において、ゲート電極15は、読み出し用のワード線RWLを構成している。
【0087】
このトランジスタ13が形成された半導体基板2上には、ゲート電極15を覆って第1の層間絶縁層31が形成され、この第1の層間絶縁層31の、各ソース領域16およびドレイン領域17上に、層間絶縁層31を貫通してコンタクトホール18が穿設され、各コンタクトホール18に、導電性プラグ19が充填される。
【0088】
そして、第1の層間絶縁層31上に、ソース領域16に対する配線層20が、ソース領域16にコンタクトされた導電性プラグ19上に跨がって被着形成される。
【0089】
更に、配線層20を覆って第1の層間絶縁層31上に第2の層間絶縁層32が形成される。
【0090】
この第2の層間絶縁層32には、ドレイン領域17にコンタクトされた導電性プラグ19上に、コンタクトホール18が貫通穿設され、これに導電性プラグ19が充填される。
【0091】
第2の層間絶縁層32上には、例えば読み出し用ワード線RWLの延長方向に延長して図2のワード線WLに相当する書き込み用ワード線WWLが形成される。
【0092】
また、この書き込み用ワード線WWLを覆って、第2の層間絶縁層32上に、例えば酸化シリコンより成る第3の層間絶縁層33が形成される。この第3の層間絶縁層33においても、ドレイン領域17にコンタクトされた導電性プラグ19上に、コンタクトホール18が貫通穿設され、これに導電性プラグ19が充填される。
【0093】
そして、この第3の層間絶縁層33を貫通する導電プラグ19にコンタクトして、第3の層間絶縁層33上に、例えば図1〜図3で示したように、導電性の例えばTaより成る下地層3を形成し、この下地層3上に、磁気メモリ素子1が形成される。
【0094】
更に、この下地層3とこの上の磁気メモリ素子1を覆って第4の層間絶縁層34が形成され、この上に、書き込み用ワード線WL上を横切って、ビット線BLが形成される。
【0095】
ビット線BL上には、図示しないが表面絶縁層が必要に応じて形成される。
【0096】
上述した第1〜第4の各層間絶縁層や表面絶縁層等は、例えばプラズマCVDによって形成することができる。
【0097】
これら、メモリセル11は、共通の半導体基板2すなわち半導体ウエハ上に、図2で示すように、マトリックス状に配列される。
【0098】
次に、磁場中熱処理して反強磁性層4の規則化すなわち反強磁性層4を所定の向きに磁化し、これによってこの反強磁性層4上に接して形成されこれと反強磁性結合された強磁性層による磁化固定層5の磁化を一方向に固定することができる。
【0099】
この構成による磁気メモリ装置は、ビット線BLと書き込みワード線WL(WWL)とに所要の電流を通電することによって、選択された交叉部のメモリセル11の磁気抵抗効果素子例えばTMR素子1の磁化自由層に、両ビット線BLと書き込みワード線WLによる発生磁界の合成による所要の書き込み磁界を印加して、前述したように、磁化自由層の磁化を反転させて、情報の記録を行う。
【0100】
この情報の読み出しは、選択された読み出しを行うメモリセルに関わるトランジスタ13のゲート電極15すなわち読み出しワード線RWLに所要のオン電圧を印加してトランジスタ13をオン状態とし、ビット線BLとトランジスタ13のソース領域16の配線層20との間に、読み出し電流を通電することによってその読み出しを行う。
【0101】
本発明による磁気メモリ装置の製造は、その磁気メモリ素子については、前述した製造方法を適用することができる。
【0102】
次に、実施例を説明する。この実施例は、前述した図2および図3で示したMRAMのメモリ素子として用いられるが、他の半導体集積回路、電子回路等における磁気メモリ素子に適用できることはいうまでもない。
【0103】
〔実施例1〕
この実施例における磁気メモリ素子は、前述した強磁性体層5/トンネルバリア層6/強磁性体層7の積層による基本構造を有する強磁性トンネル結合部、すなわちMTJ(Magnetic Tunnel Junction)を有するTMR素子とした。
【0104】
この場合、第1の強磁性層5が、積層フェリ構造とされた場合である。
【0105】
また、この場合、スピンバルブで用いられているように、強磁性層5を、反強磁性層4によって固定する磁化固定層とし、常に磁化の向きが一定に設定され、他方の強磁性層7を磁化自由層すなわち情報記憶層として、外部磁場により磁化反転させるようになされている。
【0106】
この実施例においては、図4Aに要部の平面図を示し、図4Bに図4AのA−A’の断面図を示すように、素子の磁気抵抗特性を調べることができるように、図3で示したスイッチング用のトランジスタ等を排除した構成とした。
【0107】
この実施例では、まず、表面に厚さ300nm熱酸化膜による絶縁層12が形成された厚さ0.525mmのSiによる半導体基板2を用意した。
【0108】
この半導体基板2上に、ワード線を構成する金属膜を、全面的に形成し、フォトリソグラフィによるパターンエッチングを行って、一方向に延長するワード線WLを形成した。
このとき、ワード線WLの形成部以外のエッチング部においては、半導体基板2の酸化膜すなわち絶縁膜12が、深さ5nmまでエッチングされた。
【0109】
このワード線WL上に、磁気メモリ素子(TMR素子)1を作製した。このTMR素子1は、順次、下層から下地層3/反強磁性層4/第1の強磁性層の第1の強磁性体層51/導電体層52、第2の強磁性体層53/トンネルバリア層6/第2の強磁性層7/保護層8の積層構造とした。各層の構成は、Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)100−xM1x(3nm)/Ta(5nm)とした。(この積層状態を表す表記において、各元素の添字は原子%で、括弧内のnmの単位で示す数値は、各層の膜厚を示すもので、以下同様の表記による。)
【0110】
この積層膜の一部によってTMR素子1を構成するものであり、このために、積層膜のTMR素子1の形成部上に、フォトレジスト層によるマスク層(図示せず)を形成し、フォトリソグラフィによるパターンエッチングを、ドライエッチングによって行って平面形状が楕円形状をなすTMR素子1を形成した。
この場合のTMR素子1のパターンは、短軸0.8μm、長軸1.6μmの楕円形状とした。
【0111】
この膜構成のうちでAl酸化物のトンネルバリア層以外はDCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。Al酸化物のトンネルバリア層は、まず、金属Al膜をDCスパッタ方式で1nm堆積させて、その後に酸素:アルゴンの流量比を1:1とし、チャンバーガス圧を0.1mTorrとして、ICP(Inductive Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)により金属Al膜をプラズマ酸化させて形成した。酸化時間はICP出力によっても異なるが、この実施例においては、30秒とした。
【0112】
その後に、磁場中熱処理炉で、10〔kOe〕、270℃、4時間の熱処理を行い、反強磁性層4のPtMn規則化熱処理を行って、第1の強磁性層5の磁化を一方向に固定した。
【0113】
この実施例においては、磁化自由層(情報記憶層)を構成する第2の強磁性層7以外のCoFeの組成はCo90Fe10(原子%)とした。そして、第2の強磁性層7は、(Co90Fe10)100−xM1xとし、後述の比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、CoとFeの強磁性遷移金属元素の比率をCo90:Fe10に固定して、M1(B,Si,Al,Ge)の量を1原子%から40原子%まで変化させた。
【0114】
また、上述した基板2上に形成されたTMR素子1は、図4Bに示すように、Al2O3絶縁層30をスパッタリングし、フォトリソグラフィによるエッチングによってTMR素子1上に開口を形成し、この開口を通じて絶縁層30上に、差し渡って、ワード線WLの延長方向と交叉する1方向に延長するビット線BLを、金属膜の成膜およびフォトリソグラフィによるパターンエッチングによって形成する。
【0115】
尚、各ワード線WLおよびビット線BLの各両端には、これらの形成と同時に、特性測定用の端子パッド23および24が形成される。
【0116】
〔実施例2〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)75Si15M110とし、そのM1をB,C,P,Alとした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0117】
〔実施例3〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)80B20,(Co75Fe25)80B20,(Co50Fe50)80B20,(Ni80Fe20)80B20の組成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0118】
〔実施例4〕(本発明に対する参考例)
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)100−xM2xとし、そのM2をTi,Zr,Nb,Taとして、組成比xを0〜40原子%まで変化させた以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0119】
〔実施例5〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)90−xB10M2xとし、そのM2をTi,Zr,Nb,Taとして、組成比xを0〜20原子%まで変化させた以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0120】
〔実施例6〕(本発明に対する参考例)
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
(Co90Fe10)73.5Cu1Nb3Si13.5B9および(Co90Fe10)73.5Cu1Nb3Si16.5B6の組成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0121】
〔実施例7〕
この実施例においては、下記の2つのサンプル(1)、(2)を作製した。これらは、TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、ワード線WLが形成された基板側から
サンプル(1)は、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)80B20(2nm)/Co90Fe10(1nm)/Ta(5nm)
とした。
サンプル(2)は、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Co90Fe10(1nm)/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Ta(5nm)
とした。
これらサンプル(1)および(2)のいずれにおいても、第2の強磁性層7を上記構成とした以外は、実施例1と同様の構成とした。
【0122】
〔比較例1〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
Co90Fe10、Co75Fe25、Co50Fe50、Ni80Fe20を用いた以外は実施例1と同様の構成とした。
【0123】
〔比較例2〕
TMR素子1の膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)100−xM3x(3nm)/Ta(5nm)とした。
この膜構成で、磁化自由層以外のトンネルバリア層より下のCoFe組成はCo90Fe10(原子%)とした。磁化自由層の(Co90Fe10)100−xM3xについては、比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、CoとFeの強磁性遷移金属元素の比率をCo90Fe10(原子%)に固定して、M3(Mg,Zn)の量を1原子%〜40原子%まで変化させた。
【0124】
〔比較例3〕
膜構成において、第2の強磁性層7すなわち磁化自由層(情報記憶層)の組成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/(Co90Fe10)90−xB10M3x(3nm)/Ta(5nm)
とした。
この膜構成で、磁化自由層以外のトンネルバリア層より下のCoFe組成はCo90Fe10(原子%)とした。磁化自由層の(Co90Fe10)90−xB10M3xについては、比較例1のCo90Fe10合金の結果と対比できるように、Co:Fe=90:10(原子%)に固定して、M3(Mg,Zn)の量を1原子%から40原子%まで変化させた以外は実施例1と同様の構成とした。
【0125】
〔比較例4〕
TMR素子1の膜構成は、
(Co90Fe10)95B5の組成の膜を磁化自由層に用いて、磁化自由層を成膜する際の基板温度を50℃〜200℃とした以外は実施例1と同様の構成とした。
【0126】
〔比較例5〕
TMR素子1の膜構成を、
基板/Ta(3nm)/PtMn(30nm)/Co90Fe10(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(2nm)/Al(1nm)の酸化膜/Co90Fe10(2nm)/(Co90Fe10)80B20(1nm)/Ta(5nm)
のように、第2の強磁性層7を積層構造とした以外は実施例1と同様の構成とした。
【0127】
上述した各実施例および比較例について特性評価を行った。本発明の磁気メモリ素子が磁気メモリ装置のメモリ素子として使用される場合は、電流磁界によって、その磁化自由層が情報記憶層として磁化反転させることによって使用されるが、この特性評価においては、磁気メモリの特性評価を行うために外部磁界による磁化反転によって特性評価を行った。
【0128】
ここで、磁気特性およびTMR比の評価に用いたTMR素子1は、上述したように、短軸0.8μm、長軸1.6μmの楕円形状の素子とした。
【0129】
情報記憶層の磁化反転のための磁界は、情報記憶層の磁化容易軸に対して平行に印加した。この測定のための磁界の大きさは、500〔Oe〕とした。この磁界を情報記憶層の磁化容易軸の一方から見て−500〔Oe〕〜+500〔Oe〕まで掃引すると同時に、ワード線WLの端子23、ビット線BLの端子24に印加するバイアス電圧が100mVとなるように調節して、TMR素子1に、膜面と交叉する方向の通電を行って外部磁界値に対する抵抗値を測定し、TMR比を測定した。
【0130】
TMR比は、第1の強磁性層の磁化固定層と第2の強磁性層の磁化自由層(情報記憶層)の磁化とが、反平行の状態にあって抵抗が高い状態での抵抗値をRmaxとし、磁化固定層と磁化自由層の磁化が平行の状態であって抵抗が低い状態での抵抗値をRminとするときの(Rmax−Rmin)/Rminとする。
測定温度は室温25℃とした。
【0131】
また、保磁力Hcは、この測定法から求められた磁気抵抗R−外部磁界H特性曲線から求めた。結晶構造は、TEM(透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscopy)によった。この場合、TEMの明視野像に結晶粒界が認められず、電子線回折図形においてハローリングが見られるものを非晶質構造とした。
【0132】
バイアス依存測定は、バイアス電圧を100〜1000mVまで100mV刻みに変化させながら、R−Hループの測定をしてTMR比を求めて、バイアス電圧に対してプロットした。
【0133】
以下その結果を記載する。
【0134】
1.HcとTMR比について
実施例1〜7、比較例1〜5についてTMR比と情報記憶層の保磁力についての評価を行った。それぞれの評価結果を示して、本発明の効果について説明する。
【0135】
〔1−1〕.磁化反転を行わしめる磁化自由層が、FMTM(遷移金属)に対して添加元素を含まない構成とした場合:
すなわち、比較例1の、磁化自由層が、
Co90Fe10,Co75Fe25,Co50Fe50,Ni80Fe20による構成とした従来構成である。
この場合、TEMによる観察結果から、これらの材料は結晶質であることが確認された。
【0136】
【表1】
【0137】
TMR素子1における情報記憶層の反転磁界Hcは、素子の寸法、形状、厚さに依存するが、素子1の寸法を、短軸を0.8μm、長軸を1.6μmに固定して、それぞれの磁性材料を情報記憶層を構成する磁化自由層に用いたTMR素子1の磁性材料依存性を比較した。
【0138】
これは、電流磁界を発生させるワード線やビット線の構造にもよるが、TMR素子の磁化自由層の反転磁界が大きくなるほど、書き込み電流は増大する。したがって、反転磁界を低減させることが書き込み電流の低減および消費電力の低減に結びつく。
【0139】
このように、書き込み電流値の大小に影響を与えるHcは、表1に挙げた比較例1の磁性材料で比較すると、いわゆるパーマロイのNi80Fe20が最も小さく、書き込み電流値を抑えることができることが分かるが、このパーマロイは、TMR比が30%程度であって、他の材料に比較して小さい。
【0140】
このため、読み出しの出力電圧もしくは出力電流が不足する。一方、Co75Fe25合金は、TMR比が、これら材料のうちでは最も大きいが、保磁力Hcも大きいことから書き込み電力が大きくなる。すなわち、いずれの材料においても、読み込み特性と、書き込み特性を同時に満たすことは困難であるということが分かる。
【0141】
また、従来の結晶質材料を、情報記憶層を構成する磁化自由層に用いると、特にCoFe合金系の場合、抵抗−磁場曲線の角形性が良好でないことなどに起因して、反転磁界が測定毎に異なり安定しない。
【0142】
〔1−2〕.FMTMに対する3B〜5B族元素単体での添加効果:
実施例1の構成による、FMTMを原子%でCo:Fe=90:10に固定して、これに添加する3B〜5B族元素であるB,Si,Al,Geを原子%で1〜40%まで添加したサンプルと、比較例2の構成で3B〜5B族元素以外の元素であるMgおよびZnを原子%で1〜40%まで添加したサンプルとについての添加量に対する保磁力HcとTMR比との測定結果を、図5Aおよび図5Bに示す。
【0143】
B,Si,Al,Geを添加した構成では、その添加量が多くなるにつれて一旦TMR比が増加し、再び低下する傾向を示す。そして、反転磁界Hcは、Si,B,Al,Geの各添加によって低下していることが確認された。
【0144】
ところが、2A族のMgの添加では、Hcは低下するが、Si,B,Al,Geで確認されたTMR比が上昇する効果が見られない。
また、2B族のZnの添加では、TMR比の上昇の効果も、Hc低減の効果も見られなかった。
【0145】
すなわち、これら2A,2B族元素の添加による構成では、TMR比を大にし、Hcを低くすること、つまり読み出し特性と書き込み特性とが両立せず、磁気メモリ素子における情報記憶層の磁化自由層材料としてふさわしくない。
【0146】
尚、上述した本発明実施例では、3B〜5B族元素として、B,Si,Al,Geを添加した場合の効果について示したが、元素周期律表中で、これらB,Si,Al,Geの近くに位置していて、性質が類似しているC,P,Ga,In,As,Se,Sn,Sb,Teなどや、その他のメタロイド元素や、3Bおよび4B族のメタリック元素に関しても同様の効果を得ることが推測される。
【0147】
このように、B,Si,Al,Geおよび周期律表でのこれらの周辺の元素で性質の似ている3B〜5B族のメタロイドおよびメタリック元素では、TMR比を向上させて、Hcを低下させる効果があるが、これらのうちでもB,Si,P,Al,Ge等が特に望ましい。
【0148】
また、図5AおよびBの結果から、これら元素の添加量が少な過ぎる場合は、TMR比の向上の効果が少なく、Hcの低減効果も少ない。3B〜5B族のメタロイドおよびメタリック元素を添加する場合、前述の効果を発現させようとする場合、少なくとも5原子%以上必要である。また、添加量が多すぎた場合には、Hcは40原子%添加しても低下し続ける添加元素もあるが、磁化量が少なくなり過ぎてTMR比が減少するおそれが生じる。添加量が35%を超えても、Hcの大きさが低下していく効果は見られるが、高いTMR比と両立させるためには、添加量を35%を超えないことが望ましい。したがって、TMR比を向上およびHcを両立させる最も適当な添加元素の添加量は、FMTMに対して1元素を添加する場合には5〜35原子%が望ましい。
【0149】
ここで、作製したサンプルのうちで、本発明の実施例であり、Hcの低減効果が見られた(Co90Fe10)80B20組成の磁化自由層と、本発明に対する比較例であって、Hcの低下効果の少ない(Co90Fe10)97B3組成の磁化自由層の断面のTEM像を観察した結果、微細構造は、(Co90Fe10)80B20については、非晶質層、(Co90Fe10)97B3については微結晶であることがわかった。Hcの低減に関しては微結晶および非晶質層であることによりもたらされていると考えられる。
【0150】
また、後述する磁化判定挙動の項目で述べるように、非晶質であることにより、抵抗−磁場曲線の角形性が向上して磁化反転の挙動が安定化し、磁化反転のばらつきの減少がもたらされる。この点でも、非晶質強磁性材料を磁化自由層に用いることにより、読み出し特性が向上し、磁化自由層として好適な材料であるといえる。
【0151】
〔1−3〕.3B〜5B族2種類以上の添加効果:
本発明のTMR比の上昇とHcの低減効果は3B〜5B族の半金属元素を1種類のみ含んでいる場合のみでなく、2種以上含んでいる場合でも発現される。
【0152】
実施例2の構成では、これらの元素を2種以上含む場合であり、Siを第1添加元素としてその添加量を15原子%とし、第2添加元素としてB,C,P,Alを添加した結果を図6Aおよび図6Bに示した。これらの元素を2種以上含んでいても、上記〔1−2〕.で述べた保磁力Hcの低減効果とTMR比の増加とが認められる。特に、SiとBおよびSiとAlとを同時に添加した場合、Hcの低減効果が大きい。
【0153】
このように、本発明構成による場合のTMR比の増大およびHcの低減効果は、3B〜5B族のメタロイド元素およびメタリック元素の1種もしくは2種含んでいても発現する。
また、3B〜5B族のメタロイド元素およびメタリック元素を3種以上含んでいても同様の効果が発現することが考えられる。
したがって、3B〜5B族の元素に関して特に限定はないが、上述したB,C,Si,P,Alの中から1種もしくは2種以上を選択することが好ましい。
【0154】
〔1−4〕.Bを20原子%添加した場合における強磁性遷移金属元素の組成依存:
非晶質化するための元素が添加された本発明の磁化自由層材料のうちで、強磁性元素であるFe,Co,Niの組成比と、TMR比およびHcの値について、実施例3のBを20原子%添加したサンプルと、比較例1の本発明の添加元素を用いていないサンプルの測定結果に基いて本発明の効果を説明する。
【0155】
実施例3および比較例1の測定結果を併せて図7Aおよび図7Bに示す。本発明の3B〜5B族元素であるBを添加したサンプルにおいて、Co90Fe10,Co75Fe25,Co50Fe50,Ni80Fe20のうちでどの強磁性遷移金属の組成比においても、前記〔1−2〕.の実施例1で示したような、TMR比の上昇およびHcの低下の効果が見られる。
【0156】
したがって、これらの効果は、ここで示したCoFe,NiFeの組成に限定されるわけでなく、どの組成範囲をもつFe,Co,Niに対しても、3B〜5B族の半金属元素をAlを5〜35原子%程度まで添加した合金系の磁化自由層を有する磁気メモリ素子に関してこのような効果が現れる。
【0157】
また、添加元素に関しても、此処で示したBのみならず、3B〜5Bのメタロイドおよびメタリック元素およびAlもしくは後に示す本発明の添加元素を含んでいればよい。
【0158】
〔1−5〕.4A族および5A族元素1種添加効果:
図8Aおよび図8Bに、実施例4の構成のサンプルで、FMTMに対して4Aおよび5A族のいわゆるバルブメタルのうちでTi,Zr,Nb,Taを添加したときの、保磁力HcおよびTMR比の組成依存性を示す。
【0159】
これらの元素を添加することによっても、Hcの低減効果が認められる。このうちFMTM−Zr合金を磁化自由層に用いたものについて、TEM観察を行ったところHcの低減効果が見られる15原子%の添加量のサンプルについては、非晶質層が得られていることが分かった。これに対し3原子%の添加量では、Hcの低減効果が小さい。これは、非晶質化ないし結晶粒微細化効果によるものと考えられる。このようにTa,Zr,NbにおいてHcの低減効果が認められるが、同様にいて4A族と5A族のいわゆるバルブメタルに関しては同様の効果が見られる。また、添加量に関してはこのような効果が見られる限りにおいては特に限定はしないが、図8Aおよび図8Bに示される実験結果からして、良好なTMR比とHcの低減が認められる範囲としては25原子%程度までが好ましい。また、言うまでもなくこれらの添加元素は単独でFMTMに添加する場合のみでなく、少なくとも1種もしくは2種以上が含まれていれば同様の効果が発現される。
【0160】
〔1−6〕.3B〜5B族元素と4Aおよび5A族元素の同時添加効果:
図9Aおよび図9Bに実施例5のサンプルで、FMTMに対してBが10原子%含まれている他にTi,Zr、Nb,Taを含んでいる場合の特性評価結果を示す。実施例1の3B〜5B族元素の添加に比較して程度は小さいが、これらの元素をさらに添加することにより、3B〜5B族元素による高いTMR比を維持しつつ、更に保磁力を低減できる。言うまでもなく、このような効果はここで挙げたTi,Zr、Nb,Taに限られるのではなく、この他にも周期律表で同じ族に属する4A〜5A族元素であるHf,Vでもこのような効果が見られることは容易に推定できる。
【0161】
〔1−7〕.多元系:
実施例1〜5の構成による場合のTMR比およびHcの測定結果で示してきた効果は、上述した3B〜5B族元素および4A〜5A元素を含んでいる必要があるが、これらのほかに少量の微量元素を含んでいてもよい。
【0162】
実施例6と比較例1による構成に因る場合の評価結果を、図10Aおよび図10Bで示す。これらに示されるように、これまで示してきた元素の他にCuを含んでいる系でも、同様にHcの低減とTMR比の向上とが実現できる。
【0163】
〔1−8〕.成膜時の基板温度:
磁化自由層成膜時の基板温度の効果について調べた比較例4の構成のサンプルについての基板温度に対するHcおよびTMR比を、図11Aおよび図11Bに示す。非晶質の形成条件からも基板を加熱しての磁化自由層の成膜は、これまで述べてきたHcの低減とTMR比の向上とに対して悪影響を及ぼしており、室温で成膜した結果が、ここで示している中で最も優れている。したがって、非晶質構造を形成する観点から、磁化自由層成膜時に基板を加熱するのは好ましくなく、少なくとも100℃以下で、むしろ基板を冷却する方が好ましい。
【0164】
〔1−9〕.積層構造:
実施例7および比較例5の磁化自由層を積層構造にした場合の磁化自由層材料とHcおよびTMR比の測定結果を、図12Aおよび図12Bに示す。
【0165】
周期律表で3Bから5B族元素のメタロイドおよびメタリック元素の1種もしくは2種以上添加による非晶質化がなされている層と結晶質である層の積層構造による磁化自由層によっても同様な保磁力低下と高いTMR比の発現がなされている。この場合、原因についてはまだ明らかではないが、非晶質層をトンネルバリア層側に用いるのが好ましい。結晶質層をトンネルバリア層側に隣接して用いた場合には、比較例4における図11で示すように、保磁力の低下が認められない。
【0166】
2.バイアス依存性:
図13Aおよび図13Bに、比較例1のCo90Fe10合金の磁化自由層に使用した場合と、実施例1の(Co90Fe10)80B20合金を磁化自由層に使用した場合のTMR比のバイアス電圧依存性を示す。
【0167】
図13Aはその測定値を示し、図13Bはこの測定値をプロットしてグラフ化した図である。現在のところ原因に関しては、まだ明らかではないが、図のように本発明の磁化自由層を用いた場合にはバイアス依存性が向上し、実動作バイアス電圧での出力特性が向上して、低抵抗状態と高抵抗状態の判別が容易になることから、磁気メモリ素子の読み出し特性が向上する。
【0168】
3.磁化反転挙動:
同様にして図14に、実施例1の(Co90Fe10)80B20合金を磁化自由層に使用した場合の抵抗−外部磁場曲線と、比較例1のCo90Fe10合金の磁化自由層に使用した場合の抵抗−外部磁場曲線とを、それぞれ曲線40と曲線41に示す。上述してきたように、本発明の情報記憶層を用いることにより、TMR比を高く維持しつつ、Hcを低減することが可能である。また、R−Hループの角型性が向上すると共にバルクハウゼンノイズも低減する。これらのことにより、書き込み電流の低減が可能となるばかりでなく、アステロイド曲線の形状も改善されて書き込み特性が向上し書き込みエラーの低減を図ることが可能となる。
【0169】
図15Aおよび図15Bに、20素子のアステロイド曲線の重ね合せの測定結果を示す。図15Aは、(Co90Fe10)80B20を磁化自由層に用いた場合、図15Bは、Co90Fe10を磁化自由層に用いた場合である。これら図15AとBとを比較して明らかなように、従来の結晶質材料であるCo90Fe10を用いている場合は、理想的なアステロイド形状から外れているものが多く、読み出し特性に劣る。しかし、本発明の非晶質強磁性材料を磁化自由層に用いることにより、アステロイド形状が理想的になり、かつ安定する。
【0170】
この効果は、図15に示した材料組成の磁化自由層を用いた場合だけでなく、本発明の範囲である非晶質強磁性材料を磁化自由層の主な部分に用いた場合に共通に見られる。したがって、本発明により、メモリ素子への書き込み特性が大きく向上し、MRAMの書き込みエラーを低減することが可能となる。
【0171】
次に、本発明による磁気メモリ装置MRAMの一例の具体的回路構成を、図16の概略構成を示すブロック図を参照して説明する。このMRAMにおいては、メモリセル11の配列によるセルアレイ部分160と、周辺回路部161とから成る。
【0172】
セルアレイ部分160は、メモリセル11が、行および列にそれぞれ複数個配列されて成る。各メモリ素子は、MTJによるメモリ素子1と、そのセル選択を行うトランジスタ13とを有する。
【0173】
周辺回路部161は、アドレス情報からセルを選択するためのデコーダ162、163、書き込み電流を通電するためのドライバ164、165、読み出し電流を選出するためのセンスアンプ166等を有して成る。
【0174】
そして、周辺回路部161は、セルアレイ部分160に延線されたビット線BL、書き込みワード線WWL、読み出しワード線RWLを有し、ビット線BLがデコーダ162に接続され、BL通じて、各メモリセル11にアクセスする。
【0175】
この磁気メモリ装置MRAMにおける書き込み動作および読み出し動作とそれぞれの構成を説明する。
【0176】
〔書き込み動作〕
メモリセル11に情報を書き込むためには、電流による発生磁界を利用する。この電流を流すための配線がBLとWWLである。BLとWWLは、前述したように、メモリセルを挟んでその上下で交叉するように配置される。BLおよびWWLの両端には書き込み電流を印加する他のドライバ(インバータ)164および165が接続される。ドライバのゲートは、外部からのアドレス入力を変換するデコーダ162および163が接続され、書き込み電流を印加するBLおよびWWLが選択される。
【0177】
ここで、メモリ素子すなわち磁気抵抗メモリ素子の情報記憶層7の磁化反転を行う反転磁界を発生させるBLでは、書き込み電流の方向、すなわち“0”もしくは“1”の情報書き込み電流を、データ線入力によって制御する。一方、この情報書き込みのための磁界反転をアシストするアシスト磁界を発生させるWWLでは、書き込み電流の方向は、一定でもよいが、エレクトロマイグレーションを考慮して、書き込み毎に電流の方向を反転させることもできる。
【0178】
〔読み出し動作〕
このようにして、“0”、“1”の情報の書き込みがなされたメモリセルからの情報の読み出しは、BLおよびRWLを用いる。その読み出しを行うセルの選択は、それぞれのメモリセルに設けられたトランジスタ13によってなされる。トランジスタのゲートはRWLに接続され、ドレインはMTJの一端にそれぞれ接続される。そして、MTJの他端は、BLに接続される。BLおよびRWLは、デコーダに接続されて、読み出しの選択されたBLおよびRWLがアラートされる。このようにして、選択されたセルには、BL→MTJ→トランジスタの経路でセンス電流が流れ、このセンス電流の大きさをセンスアンプ166で検出する。すなわち、記録情報の“0”と“1”の判別がなされる。すなわち、記録情報の読み出しがなされるものである。
【符号の説明】
【0179】
1 磁気抵抗効果素子ないしはメモリ素子、2 基板、3 下地層、4 反強磁性層、5 強磁性層(第1の強磁性層)、6 トンネルバリア層、7 強磁性層(第2の強磁性層)、8 強磁性トンネル結合部(MTJ)、9 保護層、11 メモリ素子、12,30 絶縁層、13 トランジスタ、14 ゲート絶縁層、15 ゲート電極、16 ソース領域、17 ドレイン領域、18 コンタクトホール、19 導電性プラグ、20 配線層、23,24 端子パッド、31〜34 第1〜第4の層間絶縁層51 第1の強磁性体層、52 導電層、53 第2の強磁性体層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子であって、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層がCoFeB層である磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子であって、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気メモリ素子。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気メモリ素子。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気メモリ素子。
【請求項9】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層がCoFeB層である磁気メモリ素子。
【請求項10】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気メモリ素子。
【請求項11】
互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、
これらワード線とビット線との交叉部間に、磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子が配置されて成り、
上記磁気メモリ素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子より成り、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気メモリ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気メモリ装置。
【請求項13】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気メモリ装置。
【請求項14】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層がCoFeB層である磁気メモリ装置。
【請求項15】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気メモリ装置。
【請求項1】
少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子であって、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層がCoFeB層である磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子において、
上記磁化自由層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子であって、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気メモリ素子。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気メモリ素子。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気メモリ素子。
【請求項9】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層がCoFeB層である磁気メモリ素子。
【請求項10】
請求項6に記載の磁気メモリ素子において、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気メモリ素子。
【請求項11】
互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、
これらワード線とビット線との交叉部間に、磁気抵抗効果素子による磁気メモリ素子が配置されて成り、
上記磁気メモリ素子は、少なくとも1対の強磁性層の間にトンネルバリア層を挟んだ強磁性トンネル結合を用いた磁気抵抗効果素子より成り、
上記強磁性層の一方により構成される磁化自由層による情報記憶層が、非晶質もしくは微結晶構造を有する材料の単層、あるいは主な部分が非晶質もしくは微結晶構造を有する材料層からなり、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が10原子%〜30原子%のB,C,Al,Si,P,Ga,Ge,As,In,Sn,Sb,Tl,Pb,Biのいずれか1種もしくは2種以上とを含む
磁気メモリ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層が、上記トンネルバリア層よりも上層に配置されている磁気メモリ装置。
【請求項13】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層の主な部分が、上記トンネルバリア層側に位置して配置されている磁気メモリ装置。
【請求項14】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層がCoFeB層である磁気メモリ装置。
【請求項15】
請求項11に記載の磁気メモリ装置において、
上記情報記憶層が、Fe,Co,Niの強磁性元素のうち少なくとも1種もしくは2種以上の成分と、含有量が15原子%〜25原子%のBとを含む磁気メモリ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−283963(P2009−283963A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170518(P2009−170518)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2003−539113(P2003−539113)の分割
【原出願日】平成14年10月11日(2002.10.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2003−539113(P2003−539113)の分割
【原出願日】平成14年10月11日(2002.10.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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